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#victuuri
Hey, I'm not sure if you only rec/find victuuri fics so if you do, pls just ignore this. But I'm looking for a fic where otabek is asexual and I believe yurio is not sure or sth abt his sexuality or gender identity. IIRC, they discussed this when yurio visited otabek in almaty or sth and otabek is very patient in explaining. Theres also something abt zucchini. Not sure if this was tagged as Otabek/Yuri or with an & and also not sure if it's completed. Your help will be very much appreciated. Tnx

Hey nonnie~ this blog is dedicated to finding any yoi fic regardless of ship/tags/warnings or whatever so you’re good! I’m not gonna pass judgment or police fandom experience so anyone can request anything and I (with the help of my lovely followers/the yoi community) will just try my best to find it. :)

Having said that, I believe you’re looking for Kingdom Locked Up by soliloqui [M, 42K] *WIP. It’s actually a Yuri-centric fic and slowburn/endgame Yuuri/Victor/Yuri but yes, Otabek is aromantic and I vividly remember the discussion you described.

“What?!” he snaps eventually, and at least the piggy has the decency to look sheepish when he’s caught out.

Yuuri takes a quick breath and mumbles, “I guess I hadn’t realized you had been such a big part of Viktor’s life, before,” and oh.

“Don’t fool yourself, piggy.” Yuri looks away, busying himself with getting a soda even though he has absolutely no reason to have to hide. He’s feeling bitter, not sad. “From the looks of it, I was easy enough to cut out of it.”

The moment is broken, and Yuri is proud to say he manages to stay miffed at least until the savory sent of miso soup is wafting through the apartment a few hours later and Yuuri calls him to table.

(It might not start with fondness, but familiarity is probably the next best thing.)

4 notes · See All

Tagged by @into-september

Top 3 Ships

That I’ve Written: I don’t really write fanfic. I’m a heavy consumer of fanfic but I lose interest in my own writing very quickly so I’ve never finished anything.

That I’ve Read: Oof. So many. I guess my top 3 right now are…

Truten (Dragon Ball Z). I will read this ship any time but is extremely rare because few people write DBZ fic about the future. We only got that brief little snippet at the end of DBZ, post-Buu.

Adrienette/MariChat/Ladrien/LadyNoir (Miraculous). Any iteration of this couple is fine with me. I’m not married to any one side of the love square. I just think they’re sweet.

Viktor/Yuuri (Yuri!!! On Ice). I haven’t really read anything in this fandom lately, but I used to read a lot about this ship. My AO3 bookmarks are 2/3 YOI fics about these two dorks.

My current fandom obsession is the mobile otome game Obey Me, but I don’t really have a favourite ship yet. It’s a little too early for me to make that call. I am starting to be interested in Solomon/Asmo and Diavolo/Lucifer though. We’ll see how the fandom develops.

Lipstick or Chapstick? Chapstick, I guess? I don’t really wear anything regularly.

Last song: “Empire” by Shakira. I had my iPod on shuffle. That’s right. I still use an iPod.

Last movie: I’m more of a TV show person than a movie person. The longer form just appeals to me more. I guess the last movie I watch was Resurrection F because it came up in my YouTube recommendations and I hadn’t watched it since it came out. It really reignited my love of Whis.

Reading: Every Obey Me fic that comes out. There’s a really good one being written right now called “It’s a Sin” by TheMirr that I recommend. As for books, I recently re-read The Little Prince because it is super lovely and it is my favourite book of all time.

Tag Nine People You’d Like to Get to Know Better: I don’t know how many people genuinely read my posts who haven’t already done this, so I just let people decide for themselves if they want to do this.

6 notes · See All
bikterText

Fic Help!

There’s this fic I’ve been trying to find where Yuuri coaches Minami instead of the canon shenanigans. I only remember the specific detail of Yuuri skating figures to “All the Stars” by SZA while the rink is empty…

2 notes · See All

 勇利と初めて結ばれた夜は、夢のように幸福だった。それは勇利がロシアへやってきたその日のことで、ヴィクトルはもう幾日も前から浮かれはしゃいでおり、自分の生徒が来ると周囲に教えてまわり、そしてとうとう当日が訪れたら、どうしようもないほど歓喜してしまった。勇利はいつものように笑って、「ヴィクトル」とだけ言った。ヴィクトルはたまらず勇利を抱きしめた。一日じゅう高揚しきって勇利と過ごし、夜になってもどうしても離れられなかった。
「一緒に寝よう」
 そう提案すると、普段その手の誘いを断る勇利は快くうなずき、「いいよ」と返事をした。
「意味、わかってる?」
 ヴィクトルは真剣に確かめた。勇利はヴィクトルをじっとみつめ、それから赤くなって目をそらした。
「……わかってるよ」
 勇利と離れていたあいだは苦しく、せつなく、さびしかったので、ヴィクトルはもうそれ以上待てなかった。まったく余裕がなかった。一緒に寝ようと提案したときも、おそらくみっともない顔をしていたのではないかと思う。にもかかわらず勇利はそれを了承し、ヴィクトルのベッドで裸になった。感じたことのない感激をヴィクトルは知り、その夜は初めての幸福で胸がいっぱいだった。
 それ以来、勇利とは寝ていない。
「ただいま。日本は暑いね」
 勇利は玄関先に荷物を置くなり、汗をぬぐって言った。真利が答えた。
「ここ二、三日だよ。でもまた気温下がるみたいだけどね。どうもこのところは安定しなくて。まあ、梅雨が明けたあとの暑さを考えたらましなのかもしれないけど。しっかし、久しぶりって気がしないわね。あんたがロシアへ行ってからまだひと月……ふた月ほどじゃない」
「いろいろあるんだよ。ショーとかさ。あとヴィクトルが日本が恋しい恋しいって」
「なんだそりゃ」
 真利はたたきに立っているヴィクトルを見下ろし、にやっと笑った。
「あんたはしばらくぶりだね。元気にしてた?」
 久しぶりの長谷津はあたたかく、優しく、なつかしかった。長谷津の空気はヴィクトルを包みこみ、ヴィクトルは、故郷に帰ってきたという気がした。ロシアに戻ったときに感じた感慨とはまたちがう、どこかじわっとにじむような感覚だった。
「ショーの打ち合わせと……、あとぼくたちのプログラムづくりだね。リンクはいままで通り朝晩しか使えないんだ。でも営業時間外ならいくらでもって言ってくれたよ」
 勇利が荷物整理をしながら説明した。
「そうか」
 ヴィクトルは勇利の部屋の戸口に立ち、柱にもたれてうなずいた。勇利が手を止めた。
「ヴィクトルも自分の荷物片づけたら?」
「ああ……」
 ヴィクトルはすぐ隣の自室へと足を運んだ。何も変わっていなかった。以前のままだ。
「晩ごはんは好きなもの出してくれるって。あと、お父さんがヴィクトルのためにお酒用意してるらしいよ。ふとんは干して風に当てといたって真利姉ちゃんが言ってた」
 勇利の声が聞こえた。ヴィクトルはベッドに仰向けになり、ぼんやりと天井をみつめた。
 長谷津は変わらない。勝生家のぬくもりも。この場所も同じ。
 自分と勇利は、以前と変わっただろうか?
「片づけしてない」
 勇利が、自分のぶんは整頓し終わったのか、笑いながらヴィクトルの部屋へ入ってきた。
「しょうがないなあ……」
「勇利は働き者だね」
「そうでもないけど。ぼくは持ち運ぶものが少ないからね。ヴィクトルみたいに大荷物じゃないの」
 勇利はヴィクトルのトランクを倒し、鍵を撫でながらほほえんだ。
「手伝ってあげようか?」
 ヴィクトルは、うつむいてトランクを見る勇利の首筋を眺めた。あの肌の感触を知っている。手でもふれたしくちびるでもふれた。勇利は喉をのけぞらせて目を閉じ、眉根を寄せ、口をひらいて、あえかな吐息を──。
「あっ」
 勇利が声を上げた。
「どうかした?」
「ぼくスマホどこやっただろう。記憶にない」
「電車の時刻を確認してたじゃないか」
「そこからさきの記憶がないんだよ。落としたりしてないだろうな……」
 勇利は急いで自室へ戻っていった。しばらくすると、「あったぁ」という安堵の声が届いた。
「ヴィクトル、聞こえてる?」
 勇利は廊下を戻ってきた。
「あったよ!」
 無邪気そうに報告し、手に持った携帯電話をかるく振る。つぶらな黒い瞳が輝いて、ヴィクトルはぼうっとした。かわいいな、と思った。
「嫁に出す気で見送ったってのにさあ」
 夕食のとき、当たり前のように酒盛りに参加したミナコがビールを飲みながら言った。
「こんなに早く帰ってきちゃって。なに? 実家に帰らせていただきますってこと?」
「最初から六月に一度戻りますって言ってたでしょ」
 勇利が抗議した。
「旦那同伴で帰ってきてんだから、まあ心配してないけど」
「何が旦那なんだか……」
 勇利は箸を置いて立ち上がると、「お父さん、言ってたお酒は?」と台所のほうへ行った。
「おっ、気が利くじゃない」
「ミナコ先生のためじゃないですから。ヴィクトルのだから」
「はいはい、そうやっていちゃついてればいいわよ。言っとくけどこっちはあんたのおしめだって替えてやったんだからね」
「どうもありがとうございます」
 勇利は大きな瓶を抱えて戻ってくると、伏せてあったグラスをひっくり返し、ヴィクトルの前に置いた。
「ついであげるね」
「……ありがとう」
 ヴィクトルは勇利の目をのぞきこんだ。勇利はかすかに口元をほころばせてヴィクトルを見返した。ヴィクトルは口をひらいた。
「……勇利は飲んじゃだめだよ」
「わかってるよ」
 勇利は笑い出した。ミナコがからかった。
「あんたたちさ、ロシアのリンクでもそうやってべたべたしてるわけ?」
 久しぶりにカツ丼を食べた。勇利はそれは断って、ヴィクトルの隣で魚の煮付けや冷や奴などを口に運んでいた。上品な食べ方をする。勇利はしとやかで丁寧だ。そう……人間の本能の部分が発露するあのときにだって、彼は深窓の令嬢のように清楚で控えめだった。気恥ずかしそうに目を伏せて、くちびるに指を当て、涙に濡れた瞳で物静かにヴィクトルをみつめ、ヴィクトルが顔を近づけるとまぶたを閉じた。だが、素肌は熱く、ヴィクトルをおぼれさせた。ヴィクトルの背中に添えられた手は雄弁で、その何か訴えるがごとき手つきに、ヴィクトルは──。
「あんまり進んでないわね」
 ミナコがヴィクトルのグラスを見て言った。
「よわくなったの?」
「いや、ちょっと考えごとをしてただけさ。美味しいよ」
 ヴィクトルは勇利の父が選んでくれたという酒をぐいと飲んだ。美味しいのは本当だ。
「ねえねえ、あんた勇利を口説くときどうやってんの? なんて言うの? 世界一もてる男はさ……。『きみに酔ってしまったようだ』とかそんなの? あははは」
「ちょっとミナコ先生」
 真利に言いつけられて新しい料理を持ってきた勇利が、ヴィクトルの隣に座りながらミナコのことをにらんだ。
「ヴィクトルに変なこと言わないでください」
「普通のことよ。普通」
「ヴィクトルが困ってる」
「そぉ? 言いたくてたまらないんじゃないの? 俺の勇利はねえ、とか語りが始まりそうよ」
「ごめんね、ヴィクトル」
 勇利はヴィクトルに笑いかけた。
「ミナコ先生もう酔ってるみたい。気にしないでね」
「ああもう、はいはい。嫁よめ」
「なにそれ」
「人妻然としおって」
「そんなんじゃない」
 ふたりの言いあいを聞きながら、ヴィクトルはグラスの中身を飲み干した。
「それくらいにしたら?」
 勇利が提案した。
「明日、朝からリンク行くでしょ?」
「ああ」
「久しぶりだよね」
 勇利は豆料理を器用に箸でつまんだ。
「絶対遅刻しないから」
 いたずらっぽく言う彼をヴィクトルはたまらない気持ちでみつめた。笑うくちびるがすこしだけ荒れている。気をつけてやらなければ。──あの夜、勇利のくちびるはどうだっただろう? つやを帯びていただろうか。かさついていただろうか。思い出せない。勇利に夢中で、我を忘れて、何も──。おぼえているのは、充足感と幸福感、そしていとしいという涙が出るような気持ち──。
「おやすみなさい」
 夜寝るとき、勇利はヴィクトルの部屋の前でほほえんで挨拶した。
「おやすみ……」
 ヴィクトルがつぶやくと、勇利は自室へ引き取った。しばらく、彼のたてる物音がうすい襖を通して届いていたが、まもなく電灯の紐を引く音が聞こえ、静かになった。
 ヴィクトルはベッドに横たわり、暗い天井を見上げていた。初めてここへ来た夜、笑顔で「一緒に寝よう」と言ったようには、もうその言葉を口にできなかった。たった一夜を過ごしたために、ふたりの間柄は変化し、「一緒に寝よう」には新しい意味がふくまれるようになってしまった。どんな言い方をしたとしても、一度「意味わかってる?」と尋ねた以上、勇利は考えこむことだろう。ヴィクトルはどういうつもりなのか。単純に仲よく眠りたいのか、それとも──。
 間柄が変わったのなら、その通り、「それとも」というつもりで彼に接すればよい。それはわかっている。だがヴィクトルは、どうしてもそうできないのだった。
 勇利と抱きあったあの夜──。
 ヴィクトルはほとんど感激していた。興奮したし、しあわせだった。初めて知る感情や快感がたくさんあった。いや、それしかなかったといってもよい。ヴィクトルは、新しい世界を知ったのだ。それは勇利が「Be my coach」と言ってきたときに似た感覚だった。勇利はいつもヴィクトルに新鮮なものをもたらしてくれる。勇利は、ヴィクトルのかけがえのない愛だった。
 ヴィクトルの幸福は幾日も続き、しかし日が経つにつれ、彼は苦しみをおぼえた。勇利にもうさわってはいけないのではないかという気がしてきたのだ。それは勇利が拒絶を示しているとか、そういう行為を嫌悪しているとかいったことが理由ではなく、ヴィクトルのこころが原因だった。勇利に興味をなくしたのではない。ただ──、勇利が神聖に思えてならなかったのだ。
 まぶたを閉じれば、勇利のうつくしい裸身がありありと浮かぶ。彼のきよらかな涙、息をこらえる可憐なくちびる、うるおいを帯びた黒い瞳などがヴィクトルのこころを占領する。性的な行為をしているというのに、勇利は清廉で、純真で、みずみずしかった。そんな彼に自分は何をしたのか──。
 勇利にまたあんなことをしてもよいものかというためらいが生じた。大切にしたかった。守りたかった。勇利は、素朴で優しく、綺麗なのだ。ふれるのがおそろしいほどに。
 以来、ヴィクトルは常に悩まされてきた。勇利には生涯指一本ふれられぬという考えと、彼を押し倒し、ふらちなおこないをして手に入れてしまいたいという思いとで苦しんだ。だが結局、何もできなかった。勇利はヴィクトルの態度をなんとも思っていないようで、いつも通り、やわらかく、理不尽なことを言い、それでいてかわいかった。ヴィクトルに何かしてもらいたがってもいないようで、夜寝るときも、「じゃあおやすみ」とすみやかに自室へ入っていく。ヴィクトルは、結局勇利はあの行為をよい思い出にはしていないのではないかと思った。そう考えると、ますます何もできなかった。
 勇利は忘れたがっているのかもしれない。ヴィクトルは高貴なものにふれられないという思いから何もしないのだけれど、勇利としては、寝床をともにしようとしないヴィクトルに安心しているのかもしれない……。
「おはよう」
 リンクでふたりの姿を見た優子は、うれしそうに挨拶し、まぶしげに目をほそめた。
「ここに勇利くんとヴィクトルがいるのって本当に久しぶり」
「そうだね。半年ぶりくらいかな?」
 勇利がヴィクトルを見た。ヴィクトルは「そうだね」とうなずいた。
「私、なんかうれしい。泣きそう」
 ヴィクトルはリンクを見渡した。ヴィクトルもうれしかった。なつかしい氷の匂いだ。初めてここへ来たとき、これが勇利が昔からすべってきたリンクなのかと思った。自分がコーチをしたいと望んだ選手のリンク。ここであの「離れずにそばにいて」は演じられ、ヴィクトルを誘ったのだ。
「なつかしいな……」
 ヴィクトルはつぶやいた。勇利が「すべる?」と尋ねた。
「いや、勇利のすべっているところが見たい」
「コーチらしい言い分だね。何をすべる?」
「『離れずにそばにいて』」
 ヴィクトルはすぐに答えた。
「俺のためにすべってくれ」
「……いいよ」
 勇利の演技は、情熱的で叙情的、甘くせつなく、そして何よりも音楽的だった。あのときの勇利は、スケートにもう一度向きあうため、幼いころヴィクトルのまねをしていた自分を思い出してすべったらしい。いまもヴィクトルのことを想ってすべっているのは同じだ。あの動画とどこがちがうだろう? 何がちがうだろう? ヴィクトルのこころをとらえて離さないのは変わらない。でも、まちがいなく、何か変化がある。それがどういうことなのか、ヴィクトルには説明できない。だが確かに、そこには勇利の愛があった。
「どうだった?」
 勇利がリンクサイドへ戻ってきて、フェンスの上に手を置いた。ヴィクトルは身を乗り出してその手を握った。勇利が笑って握り返した。
「ぼく、よかったでしょ?」
「ああ……すごく」
 ヴィクトルは勇利の目をみつめた。勇利が息をはずませながらほほえむ。ヴィクトルは勇利に愛されているという自信があった。勇利の瞳は熱っぽく、きらきらと輝いていた。夜に一緒に寝ないからといって、勇利を疑ったことは一度もない。彼とは愛しあっている。
「ロシアでの暮らし、どう?」
 休憩中、優子が勇利に話しかけた。ヴィクトルは飲み物を飲みながらそれを聞くともなしに聞いていた。
「楽しいよ。優しい人ばっかりだし」
「ヴィクトルとは上手くやってる?」
「うん」
「ほんと? ふたりで暮らすようになったら変わったとか、そういうことない? そんな話よく聞くからね」
 冗談めかした物言いに勇利は笑った。
「ヴィクトルがいちばん優しいよ」
 勇利はヴィクトルの隣に座り、そっと指をからませて視線を合わせた。
「ね、ヴィクトル」
「…………」
「心配したつもりがあてられちゃった」
 優子がうれしそうに言った。
 勇利はヴィクトルを愛している。ふたりは愛しあっている。何も問題はない。性行為が一回きりだからといって何なのだ。それまでは一度もしていなかったのだ。していないというのなら同じことではないか。
 だがそう考えながらも、たった一度でもしてしまったなら、もうもとへは戻れないのだとヴィクトルは思った。それほど強烈な体験をした。ヴィクトルはただ勇利を愛しているのではない。くるおしく愛しているのである。



 いくつかのアイスショーをこなし、最終公演も無事終わった。ヴィクトルと勇利はいつも一緒にいて、久しぶりに会ったスケーターたちにからかわれるほど仲睦まじかった。
「もう君たちふたりだけでやればいいんじゃないか?」
 すでに引退しているアメリカの先輩スケーターに冷やかされ、勇利は気恥ずかしそうに笑っていた。
「ヴィクトルとユーリがリンクへ出ると、ふたりの世界が一瞬でできあがって、見ているこっちが赤面する」
「そんなことありません」
「そうなんだよ。当てつけられてる者が言ってるんだから確かなんだ。それとも何かい? ふたりは愛しあってないとでもいうのか?」
 その質問にヴィクトルは緊張した。もちろん愛しあっている。ヴィクトルはそう信じている。だが勇利がどう答えるのかと思うとどきどきした。
「そんなことは……ありませんけど……」
 勇利はうつむきこみ、頬をまっかにしてぼそぼそと答えた。
「ほらみろ」
 先輩スケーターは楽しそうに笑った。
 みんなとの食事を終え、ホテルへ戻ると、勇利は携帯電話を操作しながらヴィクトルに尋ねた。
「帰りの新幹線、明後日にしてあるけど大丈夫だよね? クリスたちもまだ帰国しないっていうし、帰る前にゆっくりごはん一緒に食べようって言われてるんだ。ヴィクトルも声かけられたでしょ?」
「ああ……」
「明日はお昼まで寝て……午後はどうしようか。そういえばクリス、案内してとか言ってたなあ。あれ本気かな? ピチットくんはまちがいなく言ってきそう。まあ、連絡待ちでいいか」
 勇利は携帯電話を置くと、「お風呂さきに入る?」と訊いた。ヴィクトルは、一緒に入ろうか、と言おうとした。悪ふざけ半分、本気半分で、これまで、遠征先でよく言った言葉だった。
「……ああ、そうしようかな」
 だが言えなかった。ヴィクトルは着替えを手に取ると、急いで浴室へ入った。鏡の中をのぞきこむ。不安そうな顔の男がいた。勇利の愛は信じている。自分も勇利を愛している。それなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう?
 手早く入浴を済ませて戻ると、勇利はテレビでニュースを見ていた。今日のアイスショーの映像が流れていて、映っているのはヴィクトルだった。勇利は画面の中のヴィクトルをうっとりとみつめていた。
「上がったよ、勇利」
「うん」
 勇利はヴィクトルを見た。彼は、画面をみつめていたのと同じ、陶酔したような視線をヴィクトルに向けた。
「入る。さきにやすんでていいよ」
 ヴィクトルはベッドにもぐりこんだ。しかし、とうてい寝つけなかった。公演は今日で最後だったし、明日は寝坊してもよいのだ。そして勇利が隣にいる。
 ヴィクトルはふとんの中で目をひらいていた。やがて勇利が戻ってき、彼は衣服などを整理し始めた。その物音をヴィクトルはじっと聞いていた。勇利はテレビを消すと、ふたりのベッドのあいだにある通路に立った。そしてヴィクトルの顔をのぞきこんだ。ヴィクトルはそのときにはまぶたを閉じていたが、勇利を見たいような、そうしてはいけないような、不思議な感覚を味わった。勇利がつぶやいた。
「おやすみ……、ヴィクトル」
 勇利は自分のベッドに入った。ヴィクトルはがっかりした。がっかりして、ようやく、自分が何かを期待していたことに気がついた。
 勇利が明かりを消す。部屋は暗闇に沈んだが、寝息は聞こえてこなかった。
「……勇利、起きてるかい」
 ヴィクトルは静かに言った。
「起きてるよ」
 勇利が答えた。
「眠れそう?」
「わからない……。今日の公演、すごくよかったね」
「ああ……」
「終幕のとき、ヴィクトル、ずっとぼくと手をつないでいてくれたでしょ?」
「……そうだね」
「あれ、うれしかった」
 ヴィクトルは胸が痛くなった。何か言わなければと思ったが、何も思い浮かばなかった。
「それから、ふたりでデュエットしてるとき、キスするふりをしたでしょ?」
「…………」
「あれも」
 勇利がくすっと笑った。ヴィクトルは黙っていた。確かにした。観客は沸いて、ほかの出演者たちからも冷やかされた。勇利は笑っていた。もし──もし本当にしたとしても、勇利は笑ってくれただろうか?
「楽しかったね」
「そうだね」
「また来年もしたいね」
「ああ……」
「ヴィクトル……」
 ヴィクトルは耳をそばだてた。勇利が何を言うのか気になった。しかし勇利は長いあいだ口を閉ざしていた。
「勇利?」
「…………」
「寝たのかい?」
「……ヴィクトル」
「なんだい?」
「……うれしかったんだよ」
「うん」
「本当だよ」
 ヴィクトルは勇利のほうへ顔を向けた。すべての照明を消しているため、勇利の表情はわからなかった。だが、勇利がじっと自分をみつめているような気がした。
「……おやすみなさい」
 勇利がつぶやいた。
「おやすみ……」
 ヴィクトルはその夜、なかなか寝つけなかった。勇利にふれたかった。あの清楚な匂いを吸いこみ、なめらかな素肌を撫で、やわらかい中に沈みたかった。



 翌日は、ヴィクトル、勇利、クリストフ、ピチットの四人で行動したけれど、目立って仕方ないと言って勇利はふくれていた。
「ぼくひとりならこんなことにならないのに、三人がそんなだから注目を浴びるんだよ」
「勇利、それはちがう。俺たちのほうが悪いように言うのはまちがいだ。おかしいのはきみなんだ。なぜ氷から降りたら一般的な感じになる? どんな魔術を使っているんだ? それとも忍術か? きみはやっぱりニンジャなんだろう」
「変な言いがかりをつけないで」
 ふたりの仲のよい言いあいを、クリストフとピチットは笑いながら眺めていた。
「ほんと、人がいてもお構いなしにいちゃつくよね」
「こっちの身にもなって欲しい」
 観光するというより、ただ街を歩き、目についた店に入るだけなのだが、それでもヴィクトルはじゅうぶんに楽しかった。日が傾いたころ、すこし疲れたのでカフェでお茶を飲んだ。ケーキをたいらげてしまうと、ピチットが向かいの店を指さし、「あそこおもしろそう。勇利、行こうよ」と誘った。
「うん。ちょっと見てくるね」
 勇利はヴィクトルたちに手を振り、ピチットと連れ立って出ていった。ヴィクトルはガラス越しに、雑貨店で笑いあう勇利とピチットをぼんやり眺めた。
「ヴィクトル」
 クリストフが静かに呼んだ。
「なんだい」
「勇利と何かあった?」
 ヴィクトルはクリストフを見た。クリストフはなごやかな目をしている。
「……何かって?」
「あったんだね」
「べつに……」
「ヴィクトルなら、勇利がロシアに来たら早々にセックスして、自分のものにしちゃうと思ったんだけど」
 クリストフは考え深そうに言った。
「でも、どうもそういう感じじゃないんだよね。親密は親密なんだけど、どこかよそよそしいっていうか、考えてたのとちがうっていうか……」
 ヴィクトルはしらんぷりをしようかと思ったのだが、心配そうなクリストフの顔を見て思い直した。
「……セックスならしたよ」
「なんだ。よかった。じゃあ俺の勘違いってわけ?」
「一度きりだけどね」
 クリストフが探るようにヴィクトルを見た。彼はゆっくりと尋ねた。
「……いつ?」
「勇利がロシアへ来た日」
 クリストフは驚いたようだった。
「……何ヶ月前の話?」
「せいぜい二ヶ月……三ヶ月だろう」
「せいぜい、ね」
 クリストフがゆるゆるとかぶりを振った。
「その一回でいやがられたとか?」
「いや」
「じゃあヴィクトルがいやだった」
「まさか」
「いやとは思わなくても、興味をなくした。……あり得ないな」
「そう、あり得ない」
 ヴィクトルはほほえんだ。
「それでいいの?」
「よくない」
「だったらどうして……」
「できないんだよ」
 ヴィクトルは自嘲気味に笑い、白状した。
「さわれないんだ」
「…………」
「どうしても……」
 クリストフはまじまじとヴィクトルをみつめ、それからやれやれというように笑った。
「そんなに……?」
「ああ」
「意外だった」
「俺もだよ。いや、意外というか、そんな余裕もないけど」
「勇利は何も言わないの?」
「彼は天使さ」
「大丈夫かな……」
「何が?」
 勇利が振り返り、ヴィクトルに向かって手を振った。何かおもしろいものでもみつけたのだろう。ヴィクトルは口元をほころばせ、うれしそうに手を振り返した。
 翌日、空港までクリストフたちを見送りに行った。飛行機はクリストフがさきで、彼はヴィクトルに励ますようなうなずきをひとつ残して去っていった。ヴィクトルは勇利とピチットとしばらく談笑し、途中、手洗いに立った。用を済ませ、勇利たちのソファへ近づいていくと、なぜかピチットが真剣な顔をしているのが目に入った。何の話をしているのだろう。ヴィクトルは首をかしげた。
「勇利」
「なに?」
「ヴィクトルとセックスしてる?」
 ヴィクトルは瞬いた。勇利は驚き、赤くなり、それから視線をそらした。
「べつに……」
「したことはしたんでしょ? わかるよ」
 勇利は何も言わなかった。
「だけど、どうも踏みこんだ感じがしないんだよね。仲がいいのは伝わるんだけど。うん……すっごく愛しあってるのは。でも、なんていうか……セックスしたふたりっていう親密さが足りない。なんで?」
「…………」
 勇利は長いあいだ黙っていた。彼はゆっくりと顔を上げると、かすかにほほえんで優しく答えた。
「ヴィクトルは大人だから、ぼくみたいな子ども、相手にしないよ」
 ヴィクトルは目をみひらいた。何を言われたのかよくわからなかった。いや、言葉は理解できたが、意味が不明だった。子どもだから相手にしないってなんだ。どういうことだ……。
 帰りの新幹線の中で、ヴィクトルは寝たふりをした。勇利はおとなしい様子で音楽を聴いたり、窓から外を眺めたりしていた。
 子どもは相手にしない。子どもは相手にしない……。なんだそれは。
 話したくなかったから適当にごまかしたのかもしれない。だが、ヴィクトルはその考えには納得できなかった。そうではない。そうではないのだ。きっと……。
 俺が相手にしてないんじゃない。それはおまえのほうだろう。おまえにとってどうでもいいことだったんだ。だから俺が一緒に寝ようと言わなくても平気そうにしている。なければそれでいいという顔をしている。ヴィクトルはそうなるのが自然に思えて、求めたから勇利を抱いたのに、勇利は……。
 だんだん腹が立ってきた。勇利に対してではない。たぶん、自分に対してだ。俺は勇利が好きなんだ。愛してるんだ。セックスだってしたい。しまくりたい。なのになんでこんなことで悩んでいるんだ?
 ふれたい、ふれられない、という矛盾した思いは、いつもヴィクトルのこころのうちにある。いまは、発作のように片方の感情が高ぶっていた。勇利にさわりたい。勇利を抱きたい。あのときの清麗な勇利をもう一度腕の中に……。
 帰りついたのは夕方だった。勇利はトランクを持って自室へ行き、ヴィクトルは荷物を自分の部屋にほうりこむと、勇利のところへ続いて入った。
「どうしたの?」
 勇利が不思議そうに訊いた。
「すぐ温泉入る? おなかすいたよね。新幹線の中で何か食べればよかった。ヴィクトル寝てばっかりいるから……」
 ヴィクトルは勇利の手首を握った。勇利はヴィクトルを見上げ、おびえたような顔をした。
「俺がこわい?」
 ヴィクトルは静かな口ぶりで尋ねた。
「こ……こわくない」
「本当に?」
「うん……。ヴィクトル、なに?」
「愛してるんだ」
 ヴィクトルははっきりと言った。勇利は瞬き、困ったように笑ってうなずいた。
「ぼくもだよ」
「…………」
 ヴィクトルは想いをこめて勇利をみつめた。勇利の頬が赤くなった。彼はどぎまぎと視線をそらし、ヴィクトルは彼のおとがいに手を添えて上向かせた。
「夜まで待てない」
「……えっと」
「意味、わかる?」
「わかる……ような気がするけど……」
 勇利はかぼそい声で答えた。
「ぼくの思ってる意味でいいのか……」
「どう思ってる?」
「……恥ずかしいよ。もしちがったら」
「たぶん合ってる」
「たぶんでしょ。ばかだと思われたくないし……」
「絶対合ってる」
「ヴィクトル……」
 勇利は顔を上げ、ヴィクトルをけなげにみつめて、泣きそうになりながら言った。
「ぼくは、そうなるのが自然だと思ったからそうしたんだよ。でもヴィクトルはまちがいに気づいたんだ。だから、きっと、もう……」
 ヴィクトルは勇利を抱きしめ、キスをした。勇利が身体をかたくし、それからおずおずとヴィクトルの背に手をまわした。ヴィクトルはちいさなベッドに勇利を押し倒した。



「ヴィクトルが何も言わないから……」
 ヴィクトルは勇利の熱を帯びた肌を優しく撫でながら、彼のやわらかな声に耳を傾けた。
「もういいんだと思って……」
 勇利はぼんやりと、ほの青い天井を見ていた。
「ぼく、初めてだったし、子どもだし……。ヴィクトルは大人だから、ぼくじゃだめだったんだなって……」
 ヴィクトルはかぶりを振り、勇利の髪に鼻先をうずめた。
「しつこくしてめんどうなやつだと思われたくないから……、せめて、これ以上は子どもだとあきれられないよう……騒がないようにしようって」
 勇利に、つらい、さびしい思いをさせてしまった。ヴィクトルは胸が痛かった。
「ごめん……」
 勇利は笑った。
「愛されてるのはわかってたから大丈夫。こういうのなくても愛しあってるし、っていう気持ちはあったよ」
「俺は勇利とセックスすることばかり考えてたっていうのに」
「でも何もしなかったじゃない……」
「そうだが、それとこれとは別なんだ!」
「変なヴィクトル」
 変人として認定されてしまった。ヴィクトルは承服できかねたが、自分の気持ちを上手く説明できそうになかった。
「それに、あの……、」
 勇利が急に頬をうす赤くし、うつむいてつぶやいた。
「一度きりでも、すごく、その……うれしかったし……、思い出すだけでしあわせだなって思えたから……」
 ヴィクトルはそのひとことで有頂天になった。たまらず勇利を抱きしめ、「勇利、いままでのぶんを取り戻す。もう一回……」と求めようとしたとき、部屋の戸が三度叩かれた。
「帰ってくるなり部屋に閉じこもって何してるか知らないけど、おふたりさん、晩ごはんは何時にします?」
 真利の声が聞こえた。勇利は飛び起きて服を着始めた。ヴィクトルは溜息をついたが、すぐに勇利が身をかがめ、くちびるを寄せてきてささやいた。
「今夜……、」
「…………」
「部屋へ行くから」
 その甘さと誘惑を秘めたひそやかな声に、ヴィクトルは頭を抱えてまくらにつっぷした。勇利は清廉だ。深窓の令嬢のようにしとやかだ。だが、そうだった。彼は魔性だったのだ。

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 その少年は、最初から居心地が悪そうだった。いかにも子どもっぽい彼は、きっと世界選手権に出場するのは初めての経験だったのだろう。シニアに上がったばかりなのかもしれない。誰か知り合いに誘われて、どうすればよいかわからず、なんとなくついてきてしまった、といった様子だ。本来なら断りたかったのかもしれない。そういう顔つきだった。
 場所は中華料理の店で、円卓は大きかった。中央が回転するそれから、みんなそれぞれ料理をとっているが、彼だけは、最初に取り分けたぶんから何も足していなかった。うつむいて、大勢が思い思いにしゃべったり、ときおりひとつの話題に集中したりするのに耳を傾けている。いや──聞いているのだろうか? ひたすら時間が過ぎるのをねがっているのかもしれない。ヴィクトルは人と話すのも陽気に騒ぐのも好きだが、そういうことが苦手なたぐいの者がいることくらいは理解している。きっと彼はそんなたちなのだろう。知り合いがいない、慣れていない、年若い、というのも理由かもしれない。こういう初々しい少年も、いくらかすればふてぶてしいほどに成熟するという例をヴィクトルはいくつも知っているが、この子はちがうのではないか、という気がした。根拠があるわけではない。なんとなくそう予感したのである。
 シーズンの集大成、いちばん大きな試合が終わったということで、場の雰囲気はくだけており、なごやかだった。成績がよかった者も悪かった者も、いまはほっと安堵している。誰が提案したのか、参加できる選手は集まって食事をしようということになり、この場を持ったが、あの少年のような子どもなら気後れするだろう。彼を誘った者がこの中にいるのだろうとヴィクトルは想像しているけれど、いったいそれは誰なのだろう。彼の気持ちをほぐしてやればいいのにとぼんやり思った。できることならヴィクトルが話しかけてやりたいのだが、残念なことに席が遠い。会話が聞こえないほどではないけれど、みんなが騒々しいこともあり、彼と話すとなるとそれなりに声を張り上げなければならない。そうすると、なにごとかとまわりは黙りこんでしまうだろう。ヴィクトルは構わないが、あの気弱そうな少年は、そんなことは望んでいなさそうだった。
 食事は進み、だんだんと話題が色っぽいことへ移っていった。どこの選手とどこの選手はいい仲だとか、いままでどんな相手と付き合ったかとか、キスをしたのは何歳のときだとか、初体験はいつどこでだったかとか、そんなことがそれぞれの口から語られた。少々品はないけれど、ご愛敬といった程度だ。仲間内で盛り上がるにはいい話題だろう。年頃の男女にはごく自然な話だった。みんな、誰かの経験談に笑ったり、適当な指摘をしたり、冷やかしたりして楽しんでいた。ヴィクトルは飲み物をどうしようかと考えながらそれを聞くともなしに聞いていた。そのとき、誰かが声を上げた。
「ユーリは?」
 ヴィクトルは、ユーリ? と首をかしげた。発言した選手がまっすぐに見ているのは、ヴィクトルがさっきから気にしていたあの子どもっぽい選手だった。
「ユーリもそういう経験あるんだろ? いつ?」
 ユーリと呼ばれたあの子はまっかになった。ヴィクトルは、いや、あの子にはそういうのはまだないだろう、と勝手にきめつけた。しかし訊いている者はからかっているわけではないようである。彼は明るくて陽気な、意地の悪いところなどない選手なのだ。おそらく、ただ純粋に気になったのだろう。もしかしたら、ユーリという名の彼は見た目より大人なのかもしれない。東洋人の年齢はよくわからない。
「あ、あの……」
 みんなの視線が集中したことで、ユーリは困惑したようにうつむいた。
「そういうのは……ないよ」
 彼は言いづらそうに短く答えると、それきり黙りこんで箸を握りしめた。
「ない? 一度も?」
 別の選手が目を大きくした。
「セックスしたことないのか?」
 少年が返事をする前に、「ちょっと! 下品な物言いしないでよ!」と女子選手が苦情を述べた。本気で怒っているわけではない。じゃれあいのようなものだ。
「無理もないわよ。だってまだ十五、六でしょ?」
「ばかだな。ユーリはもっと上だよ。なあ?」
「あ、うん……」
「それにいまどき、十五、六にもなれば……」
「やめなさいってば」
「キスは?」
 また別の選手が尋ねた。
「キスくらいはあるだろ? いくらなんでも」
「…………」
 ユーリは目を伏せて黙っている。
「ないのか?」
「……ないよ」
「うそ。本当に?」
 さっきの女子選手もこれには驚いたようで、瞬いて訊き返した。
「ぼくは……そういうのは……べつに……何も……」
「誰かと交際したことないの?」
「…………」
「いままで? 一度も?」
「…………」
「付き合いたいと思ったことはないの?」
「……とくに……そういうことは……」
「どうして?」
「どうしてって……」
「好きなひといないの?」
「……練習があるので」
「それとこれとは別じゃない! ここにいるみんなも練習はあるもの」
「…………」
「キスもセックスもしたいと思わないの?」
 ユーリは口元を引き結び、それ以上は何も言いたくなさそうだった。気が弱そうだと思った彼に、意外にも頑固な一面を見、ヴィクトルはすこしおもしろいと感じた。
「そんなにかわいいのに」
 別の女子選手が笑いながら言った。
「あなたならおねがいしたいくらいだけど。このあとふたりでゆっくり話さない?」
「ちょっと、もう、がっついてみっともないわね。ユーリがびっくりしてるじゃない」
「だっていろいろ教えてあげたくなるじゃないの」
「あなたはだめよ。何人とっかえひっかえしてるのよ」
「失礼ねえ。まだ両手の指の数くらいよ」
「なあユーリ、本当なのか? 確かに君は子どもっぽいけど、いい歳をして何も経験してないなんて、俺には信じられないんだけど──」
 ユーリに関する話は終わりそうにない。ヴィクトルは彼がかわいそうになってきた。こういう話題が好きな者なら構わないが、どう見ても彼はそういったたちをしていなかった。
「そういえば俺の知り合いにね──」
 ヴィクトルは口をひらき、ゆっくりと話し始めた。みんながさっとヴィクトルを見た。ヴィクトルはたったひとことで人を引きつけることができるのだ。ユーリという少年もはっとしたようにヴィクトルを見た。
「付き合い始めたばかりの男がいて……運動選手だけどスケートじゃない。そいつがね──」
 ヴィクトルは適当なことを言って話題を変えた。事実だろうがつくり話だろうがなんでもいいのだ。みんなは陽気にはしゃぎたいだけで、真実など追い求めてはいないのである。あの子も、いい加減なことを言ってはぐらかせばよかったのにな、とヴィクトルは考えた。それができないきちんとした性質なのだろう。きっとまじめなのだ。見た感じもそういったふうだ。
 話はまたいろいろな方向へひろがってゆき、ヴィクトルはあいづちを打ったりしながら、ちらとユーリのほうを見た。ユーリは憂鬱そうな顔をしてぼんやりしていた。
 そのとき、「遅れてごめん」と友人のひとりがやってきて、みんなが「遅いよ!」と笑いながら文句を言った。ヴィクトルの隣に椅子をひっぱってきたクリストフは、「コーチに捕まっちゃって。お説教」と愉快そうに白状した。彼はすぐに食事に参加しながら、ユーリに明るく話しかけた。
「ユーリ、楽しんでる?」
「うん」
 このときだけ一瞬、ユーリの表情がゆるみ、微笑が浮かんだ。ヴィクトルはびっくりした。
「彼と知り合い?」
 ヴィクトルはクリストフにささやいた。
「そうだよ。ジュニア時代からの友達なんだ」
「へえ……」
「ユーリ、困ってなかった?」
 クリストフは料理を取り分けながら尋ねた。
「彼、ワールド初めてだから、ひとりぼっちじゃさびしいだろうと思ってこの食事に誘ったんだけど、俺のほうが遅れちゃって……。ほかの選手をまったく知らないってわけじゃないんだけど、俺がいちばん仲がいいからね。心配してたんだ」
「まあ、なんていうか……」
 ヴィクトルは小声でさっきのことを話した。みんな自分たちの話に熱中しているので聞かれる心配はない。ユーリも隣の席の選手に話しかけられ、言葉少なに返事をしている。
「ああ、それはかわいそうに」
 クリストフが同情したように言った。
「ユーリは繊細で純真な子なんだ。たぶんそういう話題は得意じゃないと思う」
「未経験って本当だろうか」
 つぶやいてから、ヴィクトルは、品がなかったな、と反省した。面白半分に知りたかったわけではなく、ただ純粋に彼のことが気になったのだ。
「本当だと思うよ」
 クリストフはあっさり答えた。
「そういう話をしたことがあるのかい?」
「ちがうけど、そうだと思う」
「彼、いくつなんだ?」
「二十歳になったばかりじゃないかな」
「十代じゃないんだ」
 ヴィクトルはまた驚いた。
「そうだよ……見えないだろう?」
「ああ」
 あれで二十歳というのも不思議だし、二十歳にもなってこれまで何も経験していないというのもよくわからなかった。しかし、そういう者もいるだろう。きっと彼はスケートに夢中なのだ。ヴィクトルだって、いちばん大切なものは何かと訊かれたらスケートだと答える。
「純朴な子なんだろうね」
「それはもう」
「まっかになっちゃって、初々しかったよ」
「きっと困っただろうな。ヴィクトル、助けてあげればよかったのに」
「一応助けたんだよ。まあ、ただ話題を変えただけだけど」
「そうなの?」
 クリストフは笑い、なぜかうれしそうにうなずいた。
「だったらユーリは君に感謝してるだろうね」
「どうかな。そんなあからさまにしたつもりはないし、感謝してもらいたくてしたことでもない」
「いや、きっと喜んでるよ」
 クリストフは、やけに確信を持っているような口ぶりだった。
「なんで断言できる?」
 ヴィクトルは可笑しかった。
「まあ彼もそのうちそういう体験をするだろうけど……」
 クリストフはからかうようにヴィクトルを見た。
「案外、相手は君かもしれないよ」



「連盟の人と話してたら遅くなっちゃって」
 勇利が店に入ったとき、テーブルはすでに選手たちでいっぱいで、たくさんの料理が所狭しと並んでいた。
「勇利、ここ、ここ!」
 ピチットが勇利を呼び、隣に招いた。勇利はありがとうと言って席に着き、さりげなくあたりをひと渡り眺めた。ヴィクトルは離れたところにクリストフと並んで座っており、勇利ににっこりと笑いかけた。
「勇利も好きに食べなよ」
 ピチットが勧めた。勇利は中央のテーブルをまわし、よさそうなものをいくつか選んで自分の皿に取った。さまざまな選手がいるので、みんな思い思いに話しているのかと思っていたが、いまはどうやらひとつの話題で盛り上がっているようである。
「なあ、ユーリはどうだ?」
 近くにいる選手に突然話しかけられ、勇利は箸を丁寧に取り扱いながら「何が?」と訊き返した。
「初体験いつだった?」
 口に入れたばかりの食べ物を噴き出しそうになった。勇利はよく噛んでどうにかのみこみ、そのあいだにどう答えようか考えた。しかし上手い返事が思い浮かばない。
「……初体験って?」
 ようやくそれだけ言った。
「それよりさきにキスは?」
 脇から女子選手が身を乗り出した。
「ユーリ、初キスはいくつのとき?」
「…………」
 こういう状況が前にもあったぞ、と勇利は思った。あれは何年前だろう? シニアに来てさほど経っていなかったころだ。どこの国での試合だったか忘れたが、店は今日と同じく中華料理店だった。まったく、試合後に大勢で集まるとろくなことがない!
 勇利は、どうでもいいでしょ、と返答しようかと思った。しかしみんなその話題を楽しんでいるようだ。
「いいじゃない」
 ピチットが助けるように言った。
「誰としたか白状しろって言ってるわけじゃないんだからさ」
「……二十三歳のとき」
 勇利はぼそりと答えた。あまりもったいぶってもかえって恥ずかしい思いをする。
「最近じゃん!」
 誰かが驚いたように声を上げた。
「ユーリって身持ちがいいのね」
「べつに……」
「でもさ、それってあれのこと?」
 ピチットが思い出したように横から言った。
「リンクでしたやつ?」
 みんながはっとしたように勇利に目を向けた。
「コーチと」
 勇利は答えなかった。ヴィクトルのほうを見られなかった。
「あれはだめだよ」
 ピチットが笑顔でとがめた。
「あれはちがうでしょ」
 彼の言葉に、そうだそうだ、あれはちがう、とみんなが声をそろえた。ほうっておいて欲しい。何がちがうのだ。あれだってキスだ。初めてキスしたのだ。勇利は。あのときに。
「セカンドキスはいつ?」
 女子選手の声が飛んだ。勇利は溜息をついた。
「……同じ」
「え?」
「二十三のときだよ」
 なぁんだ、とみんなが笑った。勇利は食べることに専念しているふりをしたが、そんなことではゆるしてもらえなかった。
「遅いのね」
「でもそれはそれで特別感があっていいかも。スケートひとすじで来たユーリが激しい愛を知った、っていう」
「そういうことにいっさい興味なかったのに、大人になって初めてキスするわけね……」
 女子選手たちがきゃあきゃあ喜んでいる。何なんだ、と勇利は思った。みんな勝手に盛り上がって……。
「じゃあ初体験は?」
 さっきの質問を忘れていなかったらしい男子選手にいきなり訊かれた。勇利は今度は深い溜息をついた。
「まだってことはないよな?」
「……そんなのどうでもいいでしょ」
「でもみんな言ったんだ。あとはユーリだけ」
 本当だろうか。あやしいものだ。勇利に話をさせるために適当なことを言っているのではないか。そういった話題がまったくない勇利だから、みんなおもしろがっているのだ。
「そういうことは大勢の前でしゃべるようなことじゃないと思う」
 勇利はそっけなくはねつけた。ピチットがまた「いいじゃない」と言った。
「相手を教えろって言ってるわけじゃないんだから」
「ピチットくん、さっきからね、名前を言わなきゃいいってものじゃ……」
「まあまあ」
「何がまあまあだよ。ぼくのことはほっといて」
「まあまあまあまあ」
 本当のことを言わなくてもよいのだ。ばか正直に真実を伝える必要はない。でも……。
 勇利はちらとヴィクトルを見た。ヴィクトルはおもしろそうに勇利を眺めている。そういう話はするな、という表情はしていない。かえって、「話さないの?」とでも言いたげである。ヴィクトルまでぼくで遊んでる!
「二十四だよ」
 腹が立った勇利は本当のことを言った。
「最近じゃない!」
「えっ、じゃあいまのユーリは体験したて?」
 なぜか場が沸き立った。体験したてってなんだ、と勇利はあきれ、同時に頬が熱くなった。やっぱり言わなきゃよかったかな……。
「よかった? よかった?」
「感想は?」
「それから何回もやってる?」
「なんでそんなことまで言わなきゃいけないんだよ!」
 勇利は憤慨したがみんな聞いていない。
「いつ? どんな状況で? ユーリが誘ったの? ……そんなわけないか」
「それはその日、デートで会ったときからもう予感があったの? それとも、突然言われてびっくりしたとか……」
「口説かれてすぐ応じた? それともじらした?」
 訊きおぼえのある声だったので目を向けると、クリストフが愉快そうに質問に参加していた。
「勇利は思わせぶりなところがあるからね。相手は相当苦労したんじゃない?」
「思わせぶりなところなんかないよ!」
 勇利はふくれてクリストフをにらみつけた。クリスは友達甲斐がない。ちょっとは助けたらどうなんだよ!
「いや、勇利は魔性だよ。きっと気を持たせるだけ持たせておあずけとか、愛してるっていう目でみつめておいてスケートの話しかしないとか、そんなことをずっと続けてたんだろう」
 ヴィクトルが噴き出した。彼は可笑しそうに肩を揺らして笑っている。勇利はますます腹を立てた。ヴィクトル、貴方もだよ! なに笑ってるんだよ! 助けてよ!
「普通だよ」
 勇利は端的に答えた。
「勇利の普通は普通じゃないからな」
 ヴィクトルが冷やかすように言った。
「ちょっとヴィクトル! ヴィクトルが言ったら、そうなんだってみんな信じるじゃん! やめてよ!」
「実際そうだからね」
「ちがう!」
「ふうん?」
 ヴィクトルは意味がありそうな目つきで勇利をみつめた。
「勇利、普通のつもりなんだ……」
「な、何なの……」
 勇利はたじろいだ。ぼくのどこが普通じゃないっていうんだ、と疑問に思った。
「いまも関係は続いてるの?」
 誰かが訊いた。だからなんでそうぼくのことが知りたいんだ、と勇利はあきれた。
「それは……まあそんなところだけど……」
「じゃあいまユーリは恋人がいるんだ」
 念を押されて、えっ、と戸惑った。恋人?
「……いや、恋人じゃないけど……」
「ちがうの!?」
 全員がびっくりした。あ、あ、と勇利は慌てた。
「あの、その、ちがうというか……」
「じゃあ遊びなの!?」
 誤解されてしまった。
「あ、遊びじゃないよ」
 勇利はしどろもどろになった。
「そういうんじゃないけど……恋人っていうのは……ちょっと……」
 恋人になろうとか言われたことないしな……。えっちなことは、まあ、その……してるけど……。
「勇利はその相手をもてあそんでるのか?」
 ヴィクトルが頬杖をつき、笑いながらからかうように言った。勇利はむっとした。
「そんなんじゃないよ」
「本当かな」
「本当だよ。なんでそんなこと言うの?」
「勇利が思わせぶりだからさ」
 完全におもしろがってる……。勇利は箸が折れそうなほど握りしめた。
「きみは魔性だからね」
 ヴィクトルが笑った。
「気に入った男を誘って、さんざん夢中にさせたあげく、ぽいっと捨てるような悪女だ」
「ちょっと! 人聞き悪い!」
「『エロス』のイメージね!」
 女子選手が騒いだ。
「現実でもやるの?」
「やるよ。平気でやるね、この子は」
「まあこわい」
「あのね!」
「それが勇利の魅力と言えば魅力だからね。それでも男はおぼれてしまうんだろうな」
 ヴィクトルがきめつけると、凄腕だとか手管を教えてもらいたいだとか女子選手たちに言われた。勇利は承服できかねた。そんなことをしたことはないし、いつだって誠実にしているつもりだ。
「でも、興味のない相手なら誘ったりしないよな。ユーリ、その人のセックスってそんなにいいのかい?」
「な、なに言って……」
 勇利は赤くなった。なんでそんな恥ずかしいことを答えなきゃいけないんだ。ヴィクトルの前で……。勇利はちらとヴィクトルを見た。すぐに目をそらした。
「それは、まあ、そう、そうだね……えっと、えっと、……うん……」
「いいんだ」
「ノーコメントで」
「勇利、それ『いい』って言ってるようなものだよ」
「ピチットくん黙ってて」
「最高なの?」
 女子選手に訊かれた。
「え? 何が……?」
「もっとこうして欲しいとか、これはいやだとか、そういうのはないの?」
 こうして欲しいってなんだ……。勇利は困った。
「べつに……。とくに何も思わないけど」
「満足してるんだ」
「いつもこれ以上はないなって思ってるよ」
 答えてから、ぼくは何を言ってるんだ……と気恥ずかしくなった。みんな、わあうらやましい、と騒いでいる。
「ほかに知らないの?」
「え?」
「その相手だけ? したことあるのって……」
 勇利は怒ったように言った。
「そのひとしか知らないし、知りたくないよ」
 みんながぱちぱちと瞬き、それからほほえんだ。勇利ははっとした。怒ってしまった……。
「あの、もういい? みんなこんなことまで話したの? そうじゃないよね? ぼくだけなんか……」
「ユーリはそんな感じしないから新鮮で」
「そんな感じってどんな感じだよ。もういいじゃん。ほっといて。言いふらすことじゃない。ぼくとそのひとの問題なんだから、ふたりだけがわかってればいいの」
「えっちな言い方ねえ」
「何が!?」
「でも付き合ってないんだよな」
 誰かが言った。勇利は黙った。
「やっぱりもてあそんでるのか? セックスがいいから?」
 勇利はむっとした。ヴィクトルが視界の端で笑いをこらえている。何がおもしろいんだよ、と思った。
「ぼくは愛してるひととじゃなきゃそんなことはしません」



「なんで助けてくれないんだよ!」
 店からの帰り、勇利は小声でヴィクトルに抗議した。
「いや、みんなに迫られてる勇利がかわいくて」
 ヴィクトルはくすくす笑いながら言った。
「恥ずかしかったよ!」
「いいじゃないか。ひみつのところは何も話してない」
「でも恥ずかしかった」
 勇利は言い張って拗ねた。
「あのときは助けてくれたのに」
「あのときって?」
「ぼくが同じ状況で同じこと訊かれたとき」
 勇利は溜息をついた。
「ヴィクトルはおぼえてないだろうけど」
「ああ、あれか」
「忘れてるくせに。話を合わせなくてもいいんだよ」
「おぼえてるさ。練習に夢中だからキスもしたことがないと勇利は言って、まわりを驚かせていた」
 勇利は目をみひらいてヴィクトルを見た。
「……ほんとにおぼえてるの?」
「かわいい子だなと思って見てた」
「それはうそだね」
 勇利はようやく笑った。
「本当さ。勇利って清楚な感じだから、かえってみんなそういうことが気になるのかもしれないね」
 ヴィクトルは、すこし先を行く選手たちの後ろ姿を眺めながら言った。
「……そんな清楚な勇利が、ベッドの上ではあんな顔をすると知ったら……」
「ちょっと!」
 勇利は慌てた。
「みんなどう思うのかな……」
「ヴィクトル!」
「まあ……、俺以外が知ることは、一生ないけどね」
「ばか!」
 勇利はまっかになってヴィクトルの腕を引いた。
「大丈夫。みんなには聞こえないよ」
「でもやだよ! そういうこと言わないで」
「わかったよ」
 ヴィクトルはくすっと笑った。
「そんなふうだからみんなに詮索されるんだぞ」
「なんだよ、もう」
 勇利は頬をふくらませた。
「勇利」
「なに?」
「キスしようか」
「は!?」
「急にしたくなった」
 ヴィクトルが顔を寄せてきた。勇利は、通行人や先のほうにいる選手たちにせわしなく視線を走らせ、うろたえてヴィクトルを押し戻した。
「だ、だめだよ」
「大丈夫だよ。暗いし」
「いやだよ」
「ほら、こっち向いて」
「やだってば! 見られたらどうするんだよ!」
「問題ない」
「だめ──」
 そのとき、前のほうにいるとばかり思っていたクリストフが、ふたりを追い抜きざま声をかけてきた。
「勇利」
 勇利ははっと顔を上げた。クリストフはうそぶくようにつぶやいた。
「みんな、ヴィクトルだってわかってると思うよ」
「え?」
「君が抱かれてる相手」
「え!?」
「ヴィクトル」
 クリストフがヴィクトルににやっと笑いかけた。
「俺の言う通りだったでしょ」
 彼は選手たちの集団に交じり、誰かと話し始めた。勇利はわけがわからなかった。わかってるってなに? 言う通りってなに?
「どういうこと?」
 ヴィクトルは笑っている。
「なに? 何なの? ちょっと。え? え? あの……」
 勇利はすっかりとりみだし、ヴィクトルとクリストフを交互に見て、ヴィクトルに助けを求めた。ヴィクトルは勇利にくちびるを寄せた。
「勇利……、俺も、愛してるきみとしか、そんなことはしないよ」

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Hi!
I’m part of the fandom charity auction Fandom Trumps Hate on Tumblr, with one auction for one fanfic. Here are the notes:

Type of fanwork: Fanfiction
Fandom(s): Yuri!!! On Ice
Highest rating: E (Explicit)
Length/scope: 10 - 20k words
Especially interested in: Victuuri, LeoJi, Phichimetti
Unwilling to address: Victuuri with anyone else than each other, rape/non-con/dub-con, unhappy ending, heavy angst
Minimum Bid: $5

My auction is currently at $10. Bidding ends on Friday at 8PM EST and all the money goes to one if the events chosen charities. If you have something you’ve longed to see written for the YOI fandom within the requirements above, and you think I could pull it of - maybe you could bid on it?

Here’s how you do it:
Step 1: Check the bidding spreadsheet to find out what the current high
bid is. (Note: It may take up to five minutes for a bid to appear.)

Step 2: Fill out the seller’s bidding form with a bid that is higher than the current
high bid. If you want to make it harder for someone to outbid you, bid
higher! You will NOT be notified if someone outbids you, so please
bookmark this page and check frequently. You will only be notified if you
are the high bidder after the auctions end.

Hugs
Linisen

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 勇利はヴィクトルの前で、ゆっくりと服を脱いだ。毎日脱衣所でしている行為だけれど、入浴のためにそうするのとは、まるで気持ちがちがった。きっと当たり前のことなのだろうが、勇利は不思議だった。同じ行動なのに、こうして明かりを落とした部屋で、別の目的のために肌をさらすというのは、気恥ずかしいような、うれしいような、せつないような、胸のときめく感じだった。
「そのままおいで」
 勇利が振り返ると、ヴィクトルはベッドに上がって勇利を手招いた。勇利は下着姿でヴィクトルのふとんにもぐりこみ、彼の腕の中で全裸にされた。
 最後の夜だった。いや、ヴィクトルはそのつもりではないだろうし、また、勇利の思った通りになったとしても、彼がここへ二度と帰らないということはないだろう。マッカチンもいるし、荷物の整理もある。だが、もうこれまでのように親密にはふるまってはくれまい。ふたりの関係は変わってしまう。それならば、今夜が最後の夜と言って差し支えなかった。
 いつも通り練習をし、いつも通り食事を済ませ、いつも通り温泉へつかったあと、勇利は、いつも通りおやすみなさいとは言わなかった。
「ヴィクトルと一緒に寝たいな」
 初めてだった。これまでヴィクトルと同じベッドで寝たことは一度もない。また、ヴィクトルがしばしば誘ってきたように、ただ並んで眠りたいというわけでもなかった。
「ヴィクトルと一緒に寝たい」
 勇利はまっすぐにヴィクトルをみつめてささやいた。ヴィクトルはどういう意味だと訊いたりはしなかったし、冗談と受け取って笑ったりもしなかったし、明日にはバルセロナへ出発するのだからそういうことはよくないと諭したりもしなかった。彼はじっと黒い目を見返し、勇利の手を取って、「いいよ」と自分の部屋へ導いたのだ。
 自分から誘っておきながら、勇利はこういったことをまるで知らなかった。調べようとしたこともなかった。ただ、なんとなく、ヴィクトルとなら大丈夫という気がしていた。そしてその予感は正しかった。
 ヴィクトルは優しく丁寧に勇利の身体を取り扱い、くちびるを押し当てて愛情深く愛した。勇利はもちろん初めての行為だったのだが、戸惑うゆとりも、恥ずかしがったりうろたえたりする余裕もなかった。ただ彼は、ヴィクトルをみつめ、ヴィクトルのすること、ヴィクトルの瞳、ヴィクトルのささやき、ヴィクトルの吐息、指遣いや目つき、彼のあたたかさなどを夢中で感じていた。絶対に忘れない、と思った。ヴィクトルのことは忘れない。この夜を忘れない。勇利の無茶なねがいを笑わず、いやな顔もせず受け容れ、いつくしんでくれたことを。こうして全身で抱きしめてくれたことを。彼のぬくもりを。ヴィクトル・ニキフォロフという男のすべてを。
 息をはずませるヴィクトルの両頬を勇利はてのひらで包み、「ヴィクトル」とちいさく呼んだ。ヴィクトルはほほえみ、くちびるに接吻したあと、勇利と額をこつんと合わせた。
「大丈夫かい?」
「うん」
 ヴィクトルは勇利のつむりを撫で、隣にごろりと転がると、「おいで」と腕をまくらにして抱き寄せてくれた。勇利は素直に彼に寄り添い、ゆっくりと呼吸をした。
 こういうとき、普通は何か言葉を交わすものなのだろうか? きっとそうだろう。睦言などがあるのだ。だが、勇利には必要なかった。ヴィクトルが話すのなら、彼の大好きな声を聞きたい気がしたけれど、何も言ってくれなくてもちっとも構わなかった。ヴィクトルには熱心に愛してもらった。それだけでもう胸がいっぱいだった。
 ああ、これで終わるのだな、と思った。ヴィクトルと過ごした八ヶ月が終わる。勇利はグランプリファイナルでヴィクトルと別れ、引退し、ヴィクトルはきっと選手に復帰する。それが勇利の考えた筋書きだった。
 ヴィクトルと過ごした八ヶ月間は、最高だった。こんなに楽しく、優しく、いとしく、夢中で暮らした日々はなかった。これからさきもないだろう。もうあんな毎日は二度と望めない。だが、それでもよかった。この八ヶ月間の思い出、そして今夜与えられた情熱があれば生きていけると思った。
 スケートだけではない。ヴィクトルにはありとあらゆることを教えられた。新しい笑い方、怒り方、泣き方、せつなさ、うれしさ、胸のときめかしさ……。愛を、教えてもらった。
 一生ぶん、ヴィクトルのことを愛した。
 勇利は生涯、誰とももうキスをしないだろう。こうして肌でふれあうこともない。勇利にはヴィクトルだけだ。彼以外なんて、考えることもできなかった。
「眠れそうかい?」
 ヴィクトルが優しく尋ねた。勇利はこっくりとうなずいた。
「もっとこっちへおいで」
 ヴィクトルが勇利を引き寄せ、むき出しの肩をふとんで覆ってくれた。彼は勇利の手をぎゅっと握った。
「勇利」
 こんなに愛情深くヴィクトルは呼んでくれる。やわらかく、甘く……。しかし、彼から離れなければならない。勇利は胸が痛かった。大丈夫だ。大丈夫。こうして抱きしめてもらったから。
「勇利……、泣いてるのかい?」
 ヴィクトルが心配そうに尋ねた。
「どこか痛くした? つらかった?」
 勇利は嗚咽がこみ上げそうで、それを一生懸命にこらえた。
「どこが痛い? 撫でてあげるよ」
「ううん、ちがうんだ……」
 勇利はどうにかほほえみ、ヴィクトルを見上げてつぶやいた。
「うれしいの」
「…………」
「うれしいんだよ……ヴィクトル」
 勇利はヴィクトルの胸に顔をうずめた。
「うれしいんだ、ぼくは……」
「勇利……」
「それだけ……」
 ヴィクトルが力強い腕で勇利を抱きしめた。勇利は微笑しながら透明な涙をこぼし、これでいいのだと思った。
 これでいいのだ。これで……。
 ヴィクトルとの最後の夜。
 勇利は、しあわせだった。



 あれは別れの儀式だったのだ、とヴィクトルは思った。あまりに感傷的で断定的かもしれない。勇利はそんなふうに、後ろ向きな気持ちではいなかっただろう。しかしヴィクトルにとっては、結局そういうことなのだった。いくら言葉を尽くしてみても、愛があるからと言い訳してみても、結果は変わらない。勇利はヴィクトルと濃密な八ヶ月間を過ごし、その八ヶ月目の親密な最後の夜にヴィクトルのベッドに入ってき、そこで確かな愛を交わして、バルセロナで別れを告げた。彼の中ではもうきまっていたのだ。計画的犯行だった。
 なんて勝手なのだろうとヴィクトルは思った。「終わりにしよう」と言われたときからヴィクトルは怒っていた。勇利との未来を夢見、彼とならと思いきわめたのに、そんなふうに夢中になっていたのはヴィクトルだけで、勇利はあっさり手を離せるくらいの想いだったのだ。
 何が初めてつなぎとめたいと思ったひとだ。何がロシアじゅうに愛を見せつけるだ。勇利は、結局……。
 あの夜、一緒に寝たいと言われたとき、ヴィクトルは驚いた。だが勇利の目を見ればすぐにこころはきまった。彼の感情を受け容れようと思った。勇利はいつだって、まるで命懸けのような顔をして練習していたが、それと同じ決意にみちた瞳で、あのとき、ヴィクトルをみつめた。勇利を信じ、勇利の望むようにしてやりたかった。彼が何の迷いもないように、心残りなく試合にのぞめるように、なんでもしてやりたかった。勇利の気高い決断と、それをヴィクトルに伝えた勇気を褒めてやりたかったし、彼の想いを感じ、同じだけ愛を返してやりたかった。
 なのに勇利は、ヴィクトルとはちがうところを見ていた。終わりを見ていたのだ。なんてひどいのだろう。あんなに自分勝手で視野の狭い者には会ったことがない。自分だけの気持ちで何もかもわかっているみたいにふるまって。
 すべて勇利の思い通りになるのだろうか? 彼は満足そうに「これでいいんだ」と言うのだろうか。それが彼の愛なのか。
「そう上手くいくと思うなよ、勝生勇利」



 グランプリファイナルが閉幕し、明日はいよいよ帰国だった。すぐに全日本選手権があるので、勇利は集中する必要があった。昨季はひどい成績だったから、それを乗り越えなければならない。現役を続けるからといって、そして気持ちが晴れ晴れとし、つい先日までとはすっかり変わったからといって浮かれてはいられない。
「勇利」
 その夜、寝ようというころになって、ヴィクトルが気軽な調子で言い出した。
「俺たちの今後の関係についてなんだけど」
 勇利はすぐにうなずいてベッドに腰を下ろした。ヴィクトルが向かいの窓辺に座る。
「うん、これから大変だよね」
 ヴィクトルはコーチを続けると言ってくれた。選手に戻るけれど勇利のコーチもやめないと。そのことに勇利はわくわくしていた。
「ヴィクトルの負担が大きいのはわかってる。もちろんぼくも努力するよ。ヴィクトルに迷惑をかけないようにする。いままでは甘えすぎてたからね。もっと自覚を持つよ。ヴィクトルはプレイヤーコーチっていうことになるのかな……。あれって、選手とコーチが同じチームの場合にいうんだっけ? ぼくとヴィクトルはチームはちがうよね。じゃあそう言わないのかなあ」
 のんきにそんなことで悩む勇利に、ヴィクトルはにっこり笑ってかぶりを振った。
「勇利、そういうことはどうでもいい」
「え、そう?」
 勇利はどきっとした。ヴィクトルは笑っているけれど、彼からなんとなく不穏なものを感じる。気のせいだろうか?
「あ、じゃあ、もしかしてぼくがひとりで日本へ戻ることを心配してるとか?」
 ヴィクトルはロシアナショナルで復帰するというので、当然そういうことになる。勇利は頼りないから彼は気にしているのかもしれない。
「心配? フリーの世界記録を持っていて、グランプリファイナルで銀メダルを獲った選手が、ライバルもいないらしい国内で試合をするのに、いったいどんな心配をするというんだ? もちろん勇利は優勝するよねえ。大差をつけるんだろうね。百点くらいは差が出るのかな?」
 ヴィクトルは相変わらずにこにこしながら言った。勇利はなんとなくおののいた。
「ヴィクトル……どうしたの?」
「何が?」
「何か怒ってる?」
「そう見えるのかい?」
「えっと、なんとなく……」
「なぜ俺が怒るんだ?」
「それは、その……」
 勇利はためらった。答える声がちいさくなる。
「……ぼくが引退すると言ったから」
「俺は怒ってはいない」
 ヴィクトルはじろりと勇利をにらんだ。
「勝生勇利に怒っても意味はないと知ったからね。もうそのことについてあれこれ言ったりしないよ。勇利を相手に、時間の無駄だ」
「なんかあなどられてる?」
「ただ勇利は、俺がコーチをやめると思って、いろいろ計画していたよね」
「計画って……そんなことしてないよ」
「本当に?」
「うん」
「そのための行動を何ひとつしなかった?」
 勇利は考えこんだ。金メダルを獲るためにたくさん練習はしたけれど、それ以外に何か特別なことをしたという意識はない。
「……してないと思うけど」
 ヴィクトルは眉を上げて言った。
「勇利は俺と、これからどんな関係でいたい?」
 突然の質問に勇利は戸惑った。
「え? それは……コーチと生徒だけど……」
 そこで急に不安になった。
「コーチでいてくれるんだよね?」
 やっぱりやめたいとかそういうことだろうか? そんなのは困る。
「いるよ」
 ヴィクトルはうなずいた。勇利はほっとした。
「勇利はそれ以外を俺に求めてはいない?」
「それ以外?」
 勇利は首をかしげた。
「俺に望むことはないの?」
「…………」
 ヴィクトルに望むこと。ヴィクトルはヴィクトルでいて欲しい。コーチをして欲しい。……ほかにはちょっと思い浮かばない。
「……ないよ」
「勇利、訊くけど」
「なに?」
「俺たち、セックスしたよね」
 勇利はいきなり顔をそむけ、ベッドにつっぷした。あっという間に頬が赤くなり、耳までまっかになった。忘れていた! いや、忘れていたわけではない。あれは大切な思い出だし、生涯における最大の喜びのひとつである。しかし、自分の中にぴたりとおさまって、すべて納得していたので、万事問題はないという気持ちだったのだ。
 そうだ。ぼくたちはそういうことをした。裸で抱きあった。ぼくはヴィクトルと。ヴィクトルと……。
 ──あああああ! もぉおぉぉお! こんなことになるなんて! どうしよう!
 その勇利の気持ちをくみとったかのようにヴィクトルが言った。
「まさかこんなことになるなんて思わなかっただろうね。俺とはもう会うこともないと考えたから抱いて欲しいと言ったんだよね」
「そ、それは……」
「俺とセックスして、俺とデートをして、自分の中で整理をつけていったんだよね」
「あ、あの……」
「もう最後。これで終わり。そうやって決定した事柄がくつがえされてるわけだけど、勇利、どうするんだい?」
 ああ、もう……。勇利はぎゅっと目を閉じた。確かに、これで最後と思いきわめてしたことだった。こうして師弟関係が続くことになってしまえば、まったく困った事態である。恥ずかしいし、言い訳もできない。
 どうしよう……。
 勇利とヴィクトルはあのとき抱きあい、肌を重ねて、勇利は身体の奥深くまでをヴィクトルに明け渡した。勇利はもう二度とふれられぬはずのぬくもりにおぼれ、ヴィクトルの情熱的な愛を確かに受け取ったのだ。
「…………」
 勇利はがばっと身体を起こした。赤い顔をヴィクトルに向ける。勇利はヴィクトルを上目遣いでうかがい、それからぎゅうっと両手を握りあわせて頭を下げた。
「忘れてください!」
「…………」
「あ、あのことは……忘れてください……」
 勇利はささやいた。
「あの、お怒りはごもっともですけど、ぼくは中途半端な気持ちでああいうことをしたわけではなく、いえ、言い訳なんですが、でもとにかくヴィクトルとはずっといい師弟でいたいんです!」
「…………」
「ヴィクトルには……悪かったというか……ええ、申し訳ないと思いますけど……」
「…………」
「それで……いままで通り……変わらぬご指導ご鞭撻をいただければと……」
「…………」
「いままで通り……いままで通り……」
「…………」
 ヴィクトルは何も言わない。勇利はおずおずとヴィクトルを見た。ヴィクトルは勇利をじっとみつめていた。
「……それで?」
「え?」
「俺が忘れて、勇利も忘れるのかい?」
「えっ、いえ、ぼくは……おぼえてますけど……」
「おぼえてる!」
「あっ、何か不都合が……」
 いやかな、と不安になった。ヴィクトルにとってあの夜は失態で、なくしてしまいたい出来事なのだろうか。
「勇利って本当に勝手だよね」
 ヴィクトルがあきれたように言った。
「引退すると言ったり忘れてくれと言ったり、もう、俺の気持ちなんかぜんぜん考えてないだろ?」
「えっと……」
 勇利はおそるおそる尋ねた。
「……ぼくも忘れたほうがいいの?」
「そういうことを言ってるんじゃないんだよ、俺は!」
 怒られてしまった。勇利は、なんでヴィクトル怒ってるんだろ、と首をかしげた。よくわからない。
「勇利」
 ヴィクトルが勇利の手を取った。そのままぐっと押され、勇利はベッドにあおのいた。ヴィクトルが膝をついてのしかかってくる。
「さぞかしうつくしかっただろうね」
「え?」
「勇利が引退して俺が復帰して、それで終わりになっていたら」
 勇利はぱちくりと瞬いた。
「勇利は長谷津へひとりで帰るわけだ。何もかもやりきった、心残りはない、というすっきりした態度でね。最初はちょっとさびしいと感じるだろう。ついこのあいだまでいた俺がいない。リンクでもひとり、温泉でもひとり。リンクの行き帰りにアイスクリームを買ったり肉まんを買ったりして分けあうこともない。何か楽しいことがあっても俺に話せない。俺がくだらないことではしゃぐこともない。襖一枚をへだてたところにあった気配は感じられない。勇利はさびしい。さびしいけれど、穏やかな気持ちなんだ。これでよかったんだ。ヴィクトルはいまごろ練習に励んでる。彼のスケートがもうすぐ見られる。それがうれしくてたまらない。──そうだね?」
「あ、あの……」
「勇利は長谷津で何かスケートにたずさわる仕事を続けるんだろう。俺の暮らしていた部屋を見てちょっと涙ぐんだり、なつかしいとほほえんだりしながら。完全に俺のファンになって俺を応援する。俺の試合を熱心にテレビでみつめ、俺の新しいプログラムをまねしたりして勝手にわくわくする」
「勝手にって」
「俺が金メダルを獲れば、あのひとはぼくのコーチだったんだ、なんてせつなく感じたりする。それは誇りだ。いまそばにいないからといってかなしくなんかない。けれど、どうしようもなくさびしくなったら指輪にキスをする。勇利は俺がテレビに出ると、指輪をはめているかどうかさりげなく確認してしまう。はめていたら、いい加減外せばいいのにとくすぐったくほほえんで、もしなかったら、ああ、とうとう外したのかとせつなくなり、でも当然だ、これでいいんだと勝手に納得するんだ」
「勝手にって」
「俺を遠くから想い、時にひどいひとりぼっちの気分になると、けれどあの夜ヴィクトルはぼくにふれてくれた、確かに愛してくれた、と思い出してせつない幸福に勝手にひたる」
「また勝手に……」
 抗議しながら勇利は頬を赤くした。
「俺が日本に行くと、勇利も仕事上、会うこともあるかもしれない。ショーに出演すればきっとそうなる。なにしろ勇利は日本の宝石だからね。ショーがあれば呼ばれるさ。勇利はそのときだけは指輪を外す。いつまでも未練がましくはめていたらヴィクトルに悪い。ヴィクトルだって、そんなものをいつまでつけているんだとうんざりする。そう考えてね。俺たちは再会し、大人らしく笑顔で快活に話して、丁寧な対応をする。俺たちは気軽に世間話をし、近況報告をして笑いあう。勇利は俺のプログラムへの賛辞を率直に述べる。どれだけ俺のスケートがよかったか、夢中になったか、並べ立てることだろう。そして最後に、応援していると付け加える。俺たちはいい仕事をし、じゃあまたいつかと笑顔で手を振って別れる。俺は新しいプログラムを考え、勇利は次のシーズンを心待ちにして長谷津で過ごす。ヴィクトルはますますかっこよくなってたな、やっぱり大好きだな、あのひとがコーチだったなんて信じられない、でも彼は確かにぼくにさわったんだ。そう思いながらまた指輪をはめ、それにキスをする」
 ヴィクトルは勇利をにらみつけた。
「うつくしい、平穏な、お互い苦しむことのなさそうな結末だ」
「…………」
「勇利はそうしたかったんだろう。そうなると思っていたんだろう」
「そう……したかったわけじゃ……」
「でもそういうことを考えていた。俺と最後に愛を分かち合うために、一緒に寝た」
 勇利は何も言えなくなった。気まずそうに目をそらし、それからちらとヴィクトルを見、また視線をそらした。
「……絶対に、そんなくだらない物語を完結させてなんかやらないからな」
 ヴィクトルは子どものように言い張った。
「でもヴィクトル──」
「引退しないんだからそんな未来は来ない。そう言いたいんだろ? そうじゃない。勇利が引退しないのはいまだけだ。何年か経てばそうなる。俺だってそうだ。結局は、みんな、一生現役でいることはできない。そうだろう」
「は、はい……」
 ヴィクトルはゆっくりとした口ぶりで話しているが、奇妙な迫力が彼にはあった。
「きっといずれ、同じことが起こる。きみは現役を退くと言い出し、俺を置いて長谷津へ帰る。ひとりで。俺の言い分なんて聞きもしないで」
「そ、そんなことはないよ」
 勇利は気おされ、てのひらを上に向けて両手を顔のそばへ置いて、まるで降参しているかのような姿勢でヴィクトルを見上げた。
「そういうことは、ちゃんと、ヴィクトルと話しあって、それで」
「いま話しあえなかった者が、そのときになって話しあえるとは思えない」
「そんなことないってば。今回のことでぼくもひとつ学んだから、次は……」
「勇利の言うことなんか信用できない。おまえは平気で俺を捨てるんだ。自分がやりたいと思ったことをお構いなしでやるんだ。もう知ってる。俺こそ学んだんだよ、勇利」
 ヴィクトルは相変わらず静かに話している。しかし勇利はどうにも抵抗できないものを感じていた。ヴィクトルは何か決心している。それが何かはわからない。
「勇利」
 ヴィクトルは勇利の目をのぞきこんだ。
「あのとき、どうして一緒に寝ようと言い出した?」
「えっ、そ、それは」
「いくら親しくても、別れにのぞみ、セックスまでしたいと思うなんて、それは一般的な関係じゃないよね?」
「そ、そうだけど、あれはなんていうか、セッ……とかそういう感じじゃなくて、ぼくはヴィクトルのことを全部おぼえておきたかったっていうか、知っておきたかったっていうか、ぼくはヴィクトルが……」
「俺のことが好き」
 ヴィクトルが唐突にほほえんだ。勇利はどきっとしたが、その通りなのでこっくりとうなずいた。
「だからあのとき、最後にふれあおうとした。そうだね?」
「は、はい……」
「勇利にはそれが必要だった。まちがってないね?」
「はい……」
「つまり、俺をそんなふうに愛しているし、これからさきも俺が必要だということだよね?」
「えっ?」
 勇利はびっくりした。そうは考えていなかった。とにかく勇利はあのとき、ヴィクトルの全部を自分に刻みつけてもらいたいと、そのことだけをねがっていたのだ。それがセックスというかたちになったに過ぎない。
「そうだね?」
 しかしヴィクトルは有無を言わさず決断を迫ってくる。勇利は混乱した。
「そ、そうじゃないよ。ぼくは……」
「一度俺を求めたんだ。これからも求めるだろう。そうだろ、勇利」
「いえ、あの……」
「別れるわけでもないのにあんなふうにベッドにもぐりこんできた。俺が必要ってことだろ?」
「あのときはもう終わりだと思っていて、つまり別れるものだと思っていて」
「だが別れなかった」
「…………」
「思い出は理由にはならない」
「それは結果論です」
「結果論でも結果は結果だ」
「ヴィ、ヴィクトル」
「俺はあの夜を忘れない。きみも忘れない。俺たちは愛しあっている。お互いが必要だ。だったら、俺たちが今後どんなふうに仲よくするかは、もうわかりきってるんじゃないか?」
「だって……」
「そうだろう、勇利。単純な話だ。わかりやすい。何も迷うところなんてない、あっさりしたなりゆきだ」
「ヴィクトル、あの、貴方はもしかして」
「なんだい?」
「こ……、」
 勇利は口元を手で押さえてささやいた。
「これからも、ぼくたち、あんなふうにする関係になるっていう、そういう……そういう気持ちが……」
 ヴィクトルはにっこり笑った。
「にぶい勇利にしてはよくできたね。いい子だ」
 勇利はまっかになった。
「できるわけないだろ!」
「なぜ?」
「だってぼくたち、そういう関係じゃない!」
「そういう関係だよ」
「ぼくたちは師弟で──」
「きみはただのコーチとセックスするのか」
「だからあのときは!」
「俺をもてあそんだのか?」
「ちょっと、ぼくはまじめに話してるんだよ!」
「俺もまじめに話している。わかったよ。そういう関係じゃないというならそれでも構わない。でもこれからそうなればいいだろう。俺たちはもう一歩を踏み出している」
「あれは最初の一歩じゃなくて、最後のつもりで──だから──」
「ちょっときみ、黙って」
 ヴィクトルがふいに勇利の両手首をつかみ、ぐっとふとんに押しつけた。負けるものかと押し返そうとしたら、彼にキスされて勇利はびっくりした。
「んっ、んんん! ん!」
「…………」
「んーんーんーんー! んんんん!」
 ヴィクトルはしばらくむぐむぐと勇利のくちびるをついばみ、長くキスしてからようやく離れた。勇利はぷはっと息をついた。
「何するんだよ!」
「勇利こそ何なんだ。俺を誘惑しておいて、俺がキスしたら文句を言うのか」
「誘惑なんかしてないよ!」
「したよ。俺は勇利にまいってしまって、勇利のためならなんでもしたい、望むようにしてあげたいと思ってしまったんだ」
「ぼくはそんなふうには──」
「そしてその魔法はいまもとけていない」
 ヴィクトルが急に声をひそめ、まじめに言った。勇利はどきっとして赤くなり、口をつぐんだ。
「勇利があのときどういうつもりだったかわかっている。さきの関係を期待してああしたわけじゃないことも。だからいまのおまえの気持ちもわかる。俺は勇利のためならなんでもしてあげたい」
「だったら──」
 ヴィクトルは勇利を見据え、きっぱりと言った。
「だが、自分のために何もしないわけじゃない」
 勇利は大きく瞬いた。
「ヴィ、ヴィクトル……」
「あんなの、ぜんぜん俺らしくなかった。勇利は俺は俺でいて欲しいって言ったね。ああ、そうするよ。勇利にとっていいようにしていたら、捨てられそうになるってわかったからね。もう遠慮なんかしない。勇利があのとき俺を求めた気持ちはわかっているけど、俺は、勇利が俺を愛していることも知っている」
 ヴィクトルの手がスウェットの裾から入ってきた。勇利は仰天した。
「ヴィクトル!」
「勇利、一緒に寝たい」
「ちょっと!」
「勇利だって俺のねがいを聞いてくれるよね」
「待って──」
 慌てる勇利などものともせず、ヴィクトルは優雅にほほえんで口元を上げた。
「手加減はしないよ。それが俺の愛だからね」
「ヴィクトル──」
「いやなら本気で抵抗してごらん」
 ヴィクトルはじたばたと暴れる勇利にささやいた。
「それならやめる」
「…………」
「──でも」
 彼はどこかうれしそうににっこり笑った。
「勇利はそうしないって、俺は知ってるよ」
「……ずるい」



 ロシアへ移り住んでから、ヴィクトルにはベッドを一緒にしようとたびたび言われている。けれど勇利は断固としてそれは断っていた。するとそのたびに過去のことを持ち出されて責められる。
「あのとき、勇利は自分から俺のところへ来てくれたよね」
「バルセロナでも、されるがままになってたし、愛してるって言ってくれたよね」
「そこまで俺のことを想ってるのになんでいやがる?」
 それに言い返せる言葉はない。すべてヴィクトルの言うとおりだと思う。わかっているのだ。でも、勇利はもともとそんなつもりはなかったし、ヴィクトルのことはこころから愛しているけれど、日常的にそんなことをする関係になんて、とてもなれない。
 だって、だって──。
 だって、恥ずかしいではないか。
「勇利、じゃあベッドをずっと一緒にはしなくてもいいから、今夜はふたりで寝よう」
「何もしない?」
「なに言ってるんだ? 何もしないわけないだろう。何かするから言ってるんだよ」
「そう言われてぼくがいいよって返事すると思う!?」
「だって勇利、そういう気持ちがあるからあの夜俺のところへ来てくれたんだろ?」
「いい加減にして! だからそれは──」
「最後だからとか関係ないんだよ。理由じゃなく、そのとき俺たちがおこなった行為について俺は言ってるんだ」
「もう知らない!」
 あの一夜のせいでこれからもずっとこういうことを言われ続けるのだろうか。まったく困る。ヴィクトルはしつこい。あんなことするんじゃなかった。──とは、思わないけれど。
「まあいいけどね」
 ヴィクトルは勇利が拒んでも、機嫌よく笑って言うのだ。
「勇利はワールド五連覇しないと引退できないからね。それまでに、もう日本へ帰ります、貴方のことこれからもファンとして応援してます、さよなら、なんて言えないくらいには愛させるから」
 なんて自信……。勇利はあきれてしまった。それにしても信用がない。そんなにヴィクトルにとってバルセロナの夜は衝撃だったのだろうか。
 勇利はそっぽを向いてつぶやいた。
「もう、それくらいの愛はとっくにありますけど」
「え!?」

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Title: Five Times Viktor And Yuri Eat Retirement Cake And One Time They Actually Retire
Rating: T
Zine Promo: Holidays!!! On Ice
Word Count: 4,007
Summary: After having a little more wedding cake left over than either of them really intended, Yuri and Viktor decide to do something more… unique… than to just save it until their first anniversary

Or: Yuri and Viktor decide to use their wedding cake leftovers as a means of deciding when to retire

Link: https://archiveofourown.org/works/22873582

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SO FOR ANYONE THAT MISSED IT, OR SAW IT BUT DIDNT KNOW WHAT WAS HAPPENING, YURI ON ICE IS TRENDING ON TWITTER IN JAPAN TONIGHT. BUT BEFORE YOU GET EXCITED, AFTER A LITTLE BIT OF DIGGING I FOUND OUT TWO THINGS: 1. PART OF THE YOI S1 SOUNDTRACK WAS PLAYED AT A DINNER EVENT IN JAPAN AND JAPANESE TWITTER GOT EXCITED, LEADING TO PANDEMONIUM FOR NON-JAPANESE SPEAKERS RETWEETING WITHOUT KNOWING THE REASON 2. YOI S1 HAS BEEN RELEASED ON A JAPANESE STREAMING SERVICE AND PEOPLE WERE SPREADING THE WORD ABOUT IT

SO SORRY GUYS, NO NEWS ABOUT ICEAD*

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