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Pupil
「ふ、くくっ……ははっ」
「さっきから何なん」
背を丸めながら声をあげて笑うバルバトスをかれこれ数分は見ている気がする。
数分はさすがに言い過ぎだがこの金髪の美男子は先ほどから笑い止んだと思えばまた吹き出すという行動を続けているのだ。
「ふふっいや、悪い。なんか、ツボに入って…くっ、ふふ」
楽しそうなのはいいことだ。
買い出しに出るソロモンにかち合い、手伝いを申し出て承諾されたところまではよかった。
助かるよカスピエルの一言で舞い上がる自分のチョロさは我ながら不安になることもあるが相手がソロモンなのだから仕方がない。
けれど出かける準備に時間をとったのが悪かった。どこかに出ていたらしいブネがアジトに帰還し、話があると言ってソロモンを連れて行ってしまったのだ。
買い出しだけなら頼まれようか?と提案したのは自分だが、まさかそれがバルバトスと一緒になるとは思いもしなかった。
一人じゃ使いもできないと思われた、というよりは単純に一人で運ぶには多い量の買い物が予定されていたからだというのはメモを見て理解した。
ソロモンがもともと誰かに声をかけるつもりだったのならそこに居合わせた自分の運が良かったのは確かだが、結局、王都から少し離れたポータルを出た瞬間から、ずっとバルバトスの笑い声を聞いている気がする。
今日の王都は快晴で、時間もまだ昼を過ぎたばかりだが行くべき店も一つではないしさっさと門を潜りたい。この笑い声はいつ止むのだろうか。
「俺の顔見て笑っとるわけやないよな?」
そういえば、この色男が笑い出したきっかけはポータルを出てすぐに自分と正面から目があった時だった気がする。確か買出しがソロモンとじゃなくて悪いねと謝られたのだ。そして謝ったその口でそのまま笑い出した。
自分が女なら唄いを仕事とする男の美しい声は耳に心地よいものだったのかもしれないが生憎と自分に同性の声を聴いて楽しむ趣味はない。
「ははっ…気付かれたか。ふふ、いやね君の瞳の色が」
適当に思いついただけの言葉を肯定されるとは思ってもいなかった。
確かに自分の目は左右で多少色が違う。橙と黄色の目。どちらも蛇のようで不気味だと言われたのはいつのことだっただろうか。
色違いの目は物珍しいものかもしれないが何も笑うことはないだろう。
「アジトには俺以外にもおるやん、そう珍しくないやろ」
そういえば少し前にアムドゥスキアスがこの目を自分とお揃いだと喜んでくれていたのを思い出す。
気がついたのは確かゼパルで、アジトでの朝食の席だった。宵っ張りの自分と普段は自宅に帰っているゼパルが朝食に揃った珍しい日で、いつもの席が決まっていない者が集まったテーブルでの出来事だ。
そのあとはどうやらお泊まり会をしていたらしい子供たちに囲まれて。そういえばあの日のソロモンたちはどこかの町に出ていて不在だった。この吟遊詩人もソロモンと一緒だったはずだ。
自分の目はアムドゥスキアスの赤と青緑色の美しいオッドアイと比べるようないいものではないが、その時の彼女たちはこの目を言葉を尽くして褒めてくれたので悪い気はしなかった。
自分もアムドゥスキアスに褒める言葉を返したが読書家の彼女の興奮気味の言葉には追いつかず舌を巻いたのだった。
アジトの連中とのやりとりは、女を口説くようにうまくはいかない。
バルバトスが一つ大きな息をついてようやく笑う声も止まったようだ。
結局俺の目の色がどうしたのだろう。
「ここのところ君の瞳のその不思議な色をどう喩えたものかと考えてたんだ」
「ハァ?」
この男はいきなり何を言い出すのか。
こちらを覗き込むように少しだけ傾げられた首と淡い笑みは、見慣れた女たちのものほど近くはないが、身長の分だけ慣れたものより高い位置にあって調子が狂う。
「ふふ、聞きたいかい?」
やっと背を伸ばして歩き出したバルバトスが流れるように口にする高価な宝石の名やら蜜の色、湖に写った夕日などの喩えが自分に向けられたものとは思えず、あぁでも黄金の酒というのは少しだけいい響きだ。
「と、まぁ色々言葉を選んでみていたわけだけど左右の色が違うだけだったとはね。気づいてしまったらおかしくてしょうがなくて」
昼の日差しの中だとよくわかるという言葉に感じたどういう意味だという気持ちはそのまま声に出た。
「うん?あぁそうか。君をみてたのはいつもバーの照明の下だったから」
昼間ほど明るくないし光源も揺れるだろう?褐色かと思ったら明るい黄色にも見えるし、変化の幅の広い不思議な色だなと思ってね。まぁ近くで見てればすぐに気づいたのかもしれないけど。
男はそう言いながらこちらへ顔を向けて今度はにっこりと微笑むのだ。
「……そうやって女口説くんやな」
勉強になるわという言葉は本心だ。自分の魅力を確信している人間は行動の一つひとつに自信が滲む。あるいはそれを感じる自分が卑屈なのだろうか。
自分を魅力的に見せるための技術とは違うそれは、本人の気質によるものだ。
「またまた、今更勉強することなんてないくせに」
「いや、気のある女にもそんなに褒められたことないで、吟遊詩人怖いわぁ」
「ま、本職だからね」
ふふん、とでも聞こえて来そうな顔はやはり自信に溢れたもので。この男に女性を口説いて楽しむ趣味があるのは女性たちからの文句の形で聞いたことがあるが、それはきっと自分が必死に覚えたものとは成り立ちからして違うものだろう。
「しかし、一緒に飲んだことあんまないやろ。そんなに俺のこと見とったん?」
視線を進行方向へ戻しながら思いつくままにそう返せば隣から明確に吹き出す声がした。
「笑うとことちゃうやろ」
もう一度、横を歩く曲がった背中を見る。
「い、まのは君が悪いでしょ。ははっ、それ本気で言ってる?」
「何やの」
口説くような真似を始めたのはこの男が先だし、さっきから何だと言うのだろう。
だって、と呟く男の顔はどう見ても笑いを噛み殺していて。
「一挙一動を観察ーー監視される覚え、あるだろ?」
ようやく発せられた言葉は楽しいものではなかった。
ソロモンの下についてから暫くの間、疑惑の目で見られていたことを知らなかったわけではない。知らなかったわけではないし当然のことであると思ってもいたが、急に気温が下がったかのように感じる身体はそんな自分の立場をすっかり忘れていたことを教えてくる。
悪党として生きてきた者が自分以外にもいるこの軍団は、王と呼ばれる少年の人の良さを差し引いても居心地のいいものだった。
それでも自分は、少年の命を脅かしたことのある自分はただの悪党である彼らと同じと言うわけにもいかないのだ。
「……せやな、今のは俺が悪かったわ」
さすがに足を止めるほどの話題ではない。相手にもそんなつもりはないだろう。
むしろ、やや早足になりながら王都への道を行く。
「まぁ、最近は俺もそんなこと考えて眺めてたわけじゃないけどね」
それこそ、このやり取りで信頼して問題ないことは確認できたようなものだなどと気楽に言ってくれる。
バルバトスがもう一度こちらを向くのを視界の隅に捉えるがその顔を正面から見るような気分ではなかった。
「…俺がとぼけとるだけかもしれんやろ」
隣から今日だけで幾度と聞いた笑い声。
「ソロモンが困るようなことはしないだろ?そんな心配はとっくにしてないよ。」
言葉は、でも君も知る通りうちの軍団にはソロモンを筆頭に人を信じやすい奴が多いからそういう警戒心は持っていてくれた方が助かると続いた。
心配していないとはいい気なものだ。ソロモンを裏切るつもりなどかけらもないが人の考えなど容易く変わるものだというのに。
「ガープが、君のこと褒めていたのは知ってるかい?」
使いは半分終わり、残すは大きな買い物だけだ。
「知らんな」
唐突に提供された話題は、仲間のことではあるが、こんな街中で話すのだから大した話ではないのだろう。
「へえ、仲間の交友関係には詳しそうなのに」
「それとこれとは話が別やろ…」
しかしあの男が誰かを褒めるなどよっぽどのことではないのか。
自分がアジトで仲間たちとよく話しているのはその方が都合がいいからで、ソロモンに出会う前からの習性のようなものだ。
自分が所属する集団の交友関係や軋轢などを把握しておくことは何かと便利がよくて。
最近は話しやすい連中も増えたし子ども達に話しかけられることも増えそこそこ楽しくやっているが根にあるのが他人を利用してやろうという精神なことに変わりはない。
「ま、彼の言葉はわかりにくいからねぇ。でも、君が仲間を嫌いじゃないなら、もっとみんなが君をどう思っているかに目を向けてみるのもいいかもしれないよ」
この色男は何の話をしようとしているのだ。
「それとも、ソロモン以外からの信頼には興味がないかい?」
「考えたこともなかったわ…」
ソロモンが自分を信頼してくれているのは知っている。多分それは彼が言葉にすることを惜しまないからだ。
言葉が全てというわけではないし、どちらかというと自分こそが言葉を都合よく使うことに抵抗のない質ではあるが彼の言葉は信じられる。
それは多分、行動と言葉で示される態度が同じものだからで。人を騙す時の常套手段と言ってしまえばそれまでだがソロモンはそういう奴ではないのだ。
それでは言葉にしない連中は?
この男や、もしかすると他のアジトの面々も自分のことを信頼しているのだろうか。自分が信用に足る人物だと誰かに思われているかどうかなんてあまり考えたことがない。惨めな気持ちになるだけだからだ。
自分がソロモンの役に立ちたいと思っているのは事実だしこのアジトに来てから自分の生活は確かに変わった。でも自分の行動の多くはソロモンに好かれたい一心で自分のためにやっていることだし、それ以外の誰かに好かれようなどと思ったことはない。
「ま、とりあえず今日は頼りにしてるよ。俺たち二人だ、うまくやって少しても費用を抑えられたら嬉しいね」
「いくら顔がいいからって無理に値切ったらあかんよ。今後も使う店なんやから」
「それもそうかな。お任せしよう」
アジトの連中が自分のことをどう思っているのか。
ソロモンと共に戦うということは二人で戦うという意味ではない。そこには当然、他の仲間もいるのだ。
同じ戦場に立つことの多い仲間に対するこいつがいれば大丈夫だという感覚はなんと名付けるのが正しいのだろう。
「あぁ、そういえば。」
荷物を抱えた帰り道、バルバトスが何かを思い出すように呟いた。
「ランプの下で見る君の瞳の色、ちょっとソロモンと似てるよね」
「はぁ!?」
思いもよらない言葉に大きな声が出る。両手に抱える荷物を取り落とさなかったのが奇跡だ。
「茶褐色、左目の方かな。似た色に見える時がある」
行きがけに久々に感じた身体が凍るような気持ちも、陽光のおかげか買い物の間にすっかりなりを潜めていた。思い出させたのはこの男だが、別にもう忘れてもいいと言われているような気がしていたところにこれだ。
「……とりあえず、あんたに嫌われてないのはよーぉわかったわ」
「それは何よりだ」
そう言ってにこりと笑う。
いや、全くこの男から学ぶべきことは多そうだ。
6章前カスピエルとバルバトスがおつかい途中でおしゃべりする話。
初出:2020年2月2日
管理D:12312003
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ソロモンから贈り物を貰うのは…………?俺!俺!俺俺俺!!Ah真夏のジャンボリーレゲエ<砂浜<<Big Wave というカスピエルの魂の叫び、確かに受け取りました
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41フォカロル・フレッケリ
40歳/186cm/海蜂水母の悪魔
¦
人間や対象を「溺れさせる力」を持つ。酒、タバコ、ギャンブル、薬物、権力、女(可愛い子なら性別を問わない様子)など、フォカロルが溺れさせることの出来るものは多岐に渡る。その力を持ってすれば、望んだ対象を極度の「中毒」や「依存」に陥れることなどは容易い。本人も酒や煙草、ギャンブル、かわいい子が好きな悪い男。煙草から出ている煙はカルキア・バルネシという名前の箱水母の悪魔。本人同様強い毒性があり、煙を浴びると数分で死に至る。ウェパルの叔父であり、ウェパルを可愛がっている。ふざけていて軽薄な態度を取る為誤解されやすいタイプだが、実力者。タツノオトシゴの双子の悪魔を保護している。ルカとラウムとカスピエルとは飲み友達で悪友。
基本プロンプト
👞、beautiful eyes,handsome male,ikemen,silver short hair,gray eyes,Chironex fleckeri,seawasp,enamel shoes、gold accessory, sunglasses, cigarettes, white fedora, beautiful decorations, handsome, dandy,flat chest、hair between eyes,white suit and black shirt,white pants
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2019.03 カスピエル
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メギド72一周年おめでとうございます!
三馬鹿だいすき…!
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ソロモン誘拐事件逃走編
の3人組のぐだぐだ感良かったです
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カスピエル
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誰が為
この安い 命を賭けた戦いを 喜ばぬ彼を 王に選んだ
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ドン・フアン・テノーリオ
「ほっぺたどうしたん」
目があった途端、見つかってしまったと言わんばかりの表情になった吟遊詩人に声をかければ色々なことを諦めたようにその場で大きく肩を落とした。
「ははっそれですごすご帰ってきたん?」
ほっぺに真っ赤な花を咲かせてか?と笑い飛ばしてやれば顔をしかめる。いつも柔和に微笑んでいる彼にしては珍しい表情だ。
宵っ張りの酒飲みしか起きていないような時間にアジトに戻ってきたバルバトスはなんと女に振られたところだった。
今夜の広間は俺しかおらず静かだったので、無人だと思って入ってきたのだろう。この色男が誰かに見られたい姿ではなかったはずだ。
「笑いのタネになったならよかったよ…」
俺に声をかけられ、肩を落とした男をカウンターの椅子に誘えば大人しく寄ってきた。グラスを渡した時にこちらを見た顔は恨めしげだったが、まぁ何かを観念したのだろう。
「あんたを振るなんてどんだけいい女やったん?」
いくらか酒を口にしたバルバトスにそう水を向けてやれば今夜の事情を話し始める。
彼の頬に大輪の花を咲かせたのは、意外にも馴染みの女だと言う。
「美人というより可愛らしい子で、いつも俺の話にいい反応をくれるから、久々に会いに行こうと思っただけだったんだけどな…」
「そんなに長いこと放っとったん?」
「いや、頻度が高いと振られた。」
「どういうことやねん」
「ポータルが、便利すぎるんだよなぁ…。」
今までのバルバトスと女性との付き合いといえば、吟遊詩人稼業と並行して行われていたもので、女のところに半年も顔を出さないのは当たり前だったらしい。
つまり、バルバトスの彼女たちは、彼が近隣の村や町で活動する間の蜜月を満喫した後、ひとり彼の戻りを待つようなそういう恋がお好みだったのだろう。
「ふらっと一度会いに来て、またひと月後、なんてのは好みじゃないんだとさ」
もうしばらくすれば軍団はメギドラルへ潜入する予定だ。誰かと会うのも長期間お預けとなる。その前に、という気持ちもバルバトスにはあったのかもしれない。
「何も帰ってこんと口説き倒したらよかったやん。女の機嫌取るのも男の甲斐性やろ」
自分ならどう機嫌をとるかと考えながら半笑いでそう返す。
「頑固なんだよなぁ、あの子」
そう言いながらカウンターに突っ伏すバルバトスはいつになくだらしなくて面白い。
「まぁ、今度ヴァイガルドに戻ったらまた顔を出してみるさ。その時は大喜びで受け入れてくれるかもしれない」
「そん時ダメでも別にって感じやな〜、悪い男」
「君がいうか?今、彼女何人くらいいるんだ?」
「彼女っちゅーわけやないけど…でも最近だいぶ減らしたなぁ。部屋ももろうたし、ガツガツせんでよくなったしな」
宿以外で世話になることが増えたから自由になる金も増えたと呟けば今度は相手の顔がニヤニヤと楽しそうなものになる。
「俺なんか目じゃないくらいの武勇伝がありそうだね」
これは自分も恥ずかしい話の一つぐらい聞かせろという催促だろうか
「最近はおもろい話もあんまないで。あんたと違ってこれで食っとるんやしそうそうやらかさんわ」
さて、笑い話になるようなものとなるとどんな話が向いているだろう。
まぁ、笑えないような刃傷沙汰も経験豊富なこの男なら楽しく聞くのかもしれないが。
とある夜のバルバトスとカスピエル。ナンパ男とジゴロの話。
初出:2020年12月31日
管理ID:14374603
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敵のスキルでバラム以外が眠りこけ、そのあと敵の奥義でバラムが即死し、フォルネウスの覚醒がゲージが満タンになり、カスピエルがトドメをさして酒を飲むという、私にとってメッチャメッチャおいしい戦闘のワンシーンになってしまった
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40.ラウム
28歳/188cm/鴉の悪魔/
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全長数mある巨大な鴉の姿をした悪魔。長老フェニックスや、その従者など一族の多くがマルファスに殺害された事件をきっかけに散り散りとなった一族の生き残りとマルファスを探している青年。己の魔力を鴉として具現化する事が出来る。攻撃手段は鳥葬だが軍人である為、あらゆる武器の扱いが得意。他者に対して冷酷なところがあり、恐ろしく表情筋の動かない男。ほとんど喋らないうえ周囲にいる鴉の方が煩い。海岸で拾ったウェパルのことだけは不思議と可愛がっているようで、美味しいものを食べさせてやりたいと常々思っているが、料理をするという概念がない。ストラスとアンドレアルフスとは幼馴染。ルカ、フォカロル、カスピエルとは旧知の仲で飲み友達。
基本プロンプト
Crow on tall man's shoulder, beautiful male, black very long hair, White military uniform, white coat with black fur,gold eyes,flat chest、black long boots,hair between eyes
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カスピエル
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メギド72/カスピエル・メフィスト・インキュバス
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