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#蒼羽もぐ汰
sakiby2 · 1 year
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#蒼羽もぐ汰 #aoba moguta
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7110jp · 2 years
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sukebanfactory · 1 year
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ミオリネ・レンブラン / 蒼羽もぐ汰【 @kupoooooooo 】さん
Miorine Gundam Witch
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tama-b09-zzz · 1 year
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歯痒くて、つい
最近、なんだか奥歯がむずむずする。
もしかしなくても私は欲求不満なんだと思う。
ここ最近お互いが忙しくてご無沙汰なのも余計に拍車をかけている気がする。
「…」
なんとなく自分の手の甲に口を付けて、がぶりと歯を立てる。
こうしていると噛んでいる部分がじくじくと痛むけど、痛みとともに歯痒さが緩和されていく気がする。
「すぅ…すぅ…」
微かに聞こえる寝息が聞こえてきて、不意に視線を自分の隣に向けると、
同じベッドの隣で規則正しい寝息を立てて眠るケイさんの姿が目に入った。
ここ最近忙しそうにしていたし、とても疲れていたのだろう。
今日だって、私がそろそろ寝ようかとベッドでゴロゴロしていた時間帯に帰ってきて、軽くシャワーを浴びたらすぐにベッドに入り込んできてはすぐに眠りについてしまった。
「…」
この人はいつも寝る時は上半身に何も身につけずに眠る。
更に今は少し毛布がはだけてしまっているせいで、鍛え上げられて程よく肉付いた身体が惜しげもなく露わになってしまっている。
普段の私であれば毛布を掛け直して終わりなのだけど、今の私にとってはとても目の毒で。
見ないようにしようとは思っているのにどうしても視線がケイさんの肌に吸い寄せられてしまう。
触りたい。
触って、口付けて、噛み付いて、貪り尽くしたいなんてとても言えない。
それに、その肌に噛みつきたいなんて言ってしまったら変に思われるし、もしかしたら距離を置かれてしまうかもしれない。
そんなこと考えているうちに、ふつふつと湧き上がる欲求を紛らわすように無意識に更に強く自分の手の甲を噛んでしまう。
その時
「そんなに強く噛んでは駄目だ。⚫︎⚫︎」
先程まで眠っていたケイさんの腕が伸びてきて、私が噛んでいた方の手を掴んで、グイッと強引に私の口から手を離してきた。
「…ごめん��さい。起こしちゃいました?」
「いや、たまたま目が覚めただけだ…君は、眠れないのか?」
「…まだあんまり眠くなくて」
「そうか。
…何か、悩みごとがあるのだろうか?」
目が覚めたばかりのまだトロンとした目で、
けど、心配そうな目でくっきりと歯の跡がついてしまったの私の手の甲を見つめて、優しく撫でてくる。
「あ、これはっ…」
ケイさんの問いかけに、どう答えればいいか戸惑ってしまい、つい顔が下を向いてしまう。
欲求不満を我慢する為に自分の手を噛んでましたって?
そんなこと言いたくない。恥ずかしくて言えない。
なんとか誤魔化して、この場を納めたい。
けど、どう答えれば…
「⚫︎⚫︎」
不意に名前を呼ばれて、顔を上げると優しく私を見つめるケイさんの綺麗な蒼い瞳が視界に入ってきて、心臓がどきりと脈を打つ。
そんな私をよそにケイさんは私の手を優しく握り、口を開く。
「俺に出来ることがあるならどうか言ってくれないだろうか?
君を悩ませる全てを、俺は自分の出来る限り払拭したいんだ」
とても優しくて、何もかもを受け入れてくれるように包み込む愛に満ちた言葉。
けど、その優しさが、今の私にとっては中毒性の高くて抜け出せない麻薬の様に脳に響く。
「あ、の…」
「…ん?」
「…あの、少しだけ、貴方に触れても良いですか…?」
つい、口が滑ってしまった。
「…え?」
「すぐに終わらせますっ…すぐに終わらせますから、少しだけ触らせてくれませんか…?」
みっともなく、縋り付くようにケイさんを見つめる私。
ケイさんは先程まで眠っていたし、疲れていてもう寝ていたいはずで。
こんなお願いされたって困るはず。
それなのに。
「…おいで、●●」
いつもスターレスで、日常で私にだけ向けてくれる優しい顔で腕を伸ばして受け入れようとしてくれるケイさん。
「ケイさんっ…」
誘われるがまま、私は浅ましくもケイさんに抱きついてしまう。
ケイさんの首筋に顔を埋めると、ふわりと香水と汗が混じったような香りが鼻をくすぐる。
(…いいにおい、クラクラする…)
そのまま耳に吸い付いて、かぷりと耳たぶを甘噛みする。
「あ、んっ…」
ケイさんの口から甘い声を漏れた。
「あっ…ごめんなさっ」
「大丈夫…大丈夫だから、●●…もっとっ…」
辞めて離れようとした私の後頭部をくしゃりと掴んで、より密着させてくる。
「ケイさん…」
誘われるがまま、今度はケイさんの首筋を一舐めしてみた。
「ん、んっ…」
また、ケイさんの甘い声が私の耳をくすぐる。
(ケイさんの声、可愛い、感じてるのかな…?)
(…もっと、もっと聞きたい)
ドロドロにとろけた理性で、思わすケイさんの首筋にガブリと強く噛み付く。
「っ…!」
ケイさんの唇から、痛みに耐える声が漏れる。
悲痛の声が届いているのに、私は自分の欲望に従うまま、柔肌を味わうように自分の顎に力を入れる。
これ以上は駄目だって頭のなかで警告が鳴り響いてるのに身体が止まってくれない。
「●●っ…!!!」
「っ!?」
名前を呼ばれて、ようやく意識が戻って来て、ケイさんの首筋から口を離すことが出来た。
「はっ…はっ…!」
痛みに開放されたケイさんの息遣いが私の耳をくすぐる。
(どうしよう、頭がクラクラする)
まだ興奮で呆けている目でケイさんの身体をじっとりと眺めると、先程まで私が噛みついていた跡が見えた。
(痛そう…)
じくじくと、痛々しく染まった跡に再び唇を近づけて優しく舐めると「ひっ…んっ!」と甘く息を漏らしてふるっ…と身体を震わせるケイさんの艶姿が、余計に私の理性を狂わせてくる。
これ以上は駄目。本当に止まらなくなる。
「ごめんなさっ…!もう辞めますから…」
私の中で微かに残っているギリギリの理性でなんとか身体を動かしてケイさんを押しのけて、ケイさんから離れようとする。
けど
「…●●っ…」
急にケイさんの腕が私の腕を掴み、そのままベッドに倒れ込んで来て、
私はケイさんをベッドに押し倒すように倒れ込んでしまう。
「離してください…これ以上は酷くしそうで怖いっ…!」
退こうとしてもケイさんの手が、私の腕を掴んで離さない。
「…君は、俺をどうしたい?」
ケイさんの綺麗な青色の瞳が優しく、どうしよもなく興奮している私を見上げてくる。
「私は…」
本当は。
愛しているから、貴方の全てが欲しい。
どうしよもなく貴方の全てが欲しくて堪らない。
けど、劣情の熱で呆けた頭ではこれぐらいの事しか考えられなくて。
自分の思っていることが上手く伝えられなくて、余計に奥歯のあたりがむずむずして、どうしよもなくてつい黙り込んでいると、
「⚫︎⚫︎」
するり、とケイさんの腕が私の首に巻き付いてくる。
「君に求められるのならこの上ない喜びだ。だから…」
そう言いながら、はっ…と甘い息遣いがまた私の耳をくすぐる。
「どうか君の気の済むまでこの身体を貪ってほしい…
君が俺を求めてくれるなら、俺はいくらでもこの身体を許そう」
どこまでも優しくて、ひたすらに私を甘やかす言葉と、甘く私を求めるような声が耳から入って来て脳髄まで包み込んで酔わせてきてクラクラする。
「ケイさん…ケイさんっ…!」
熱に浮かされたままケイさんの肌にかぶりつく。
「っ…!…●●っ…!」
痛みに悶えながらも、とても優しい声で私の名前を呼ばれてからはもう完全に理性が飛んでしまっていて、もう止まることなんて出来なかった。
————
「…んっ…」
なんとなく瞼の先が眩しいと感じて、目を開く。
いつの間にか寝室のカーテンが開かれていて、さんさんと朝日が差し込んでくる。
「…ねむ…」
まだぼやぼやとしながらも身体を無理矢理起こす。
「あれ、ケイさん…?」
寝ぼけた間抜けな声で、昨夜まで隣に居たはずの相手の名前を呼ぶと、「●●…?」と掠れた声で私の名前を呼ばれた。
声がした方に目を向けると、ボクサーパンツ姿に適当なシャツをボタンを止めずに羽織り、片手にマグカップを持ったケイさんが立っていた。
「おはよう●●。よく眠れただろうか」
そう問いかけるケイさんのシャツの間から、昨晩私が付けた無数の痛々しく残っている赤く充血した跡と、私の噛み跡が嫌でも目に入った。
「っ…!!!」
昨晩自分がこの人に何をしたのかをを思い出し、全身が一気に熱くなった。
「ご、ご、ごめんなさいっ…!わたしっ…!」
「どうして謝る?」
「いや、だって、昨日…」
「まだ眠気も覚めていないだろう?これを飲んで落ち着くと良い」
オロオロしている私をよそに、宥めるように優しい声でそう言って、温かいコーヒーが入っているマグカップを差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます…」
ケイさんからコーヒーを受け取り、ふっー…と冷ますように息を吹きかけるとコーヒー特有の香ばしい香りが漂ってくる。
そのままコップに口を付けて、こくりと一口コーヒーを飲み込むと、ふわりと身体が暖かくなってきて、少し気持ちが落ち着いて来た。
けど冷静になってきて、今度は罪悪感で心がいっぱいになった。
(わたし、きのう、なんてことを…)
散々この人の優しさに甘えて好き勝手したのに、こうして今もこの人に甘えっきりの自分が情けなくて。
そんなことを考えていたせいか、無意識に顔が暗くなっていた私を見ていたケイさんが口を開く。
「…君は、昨晩のことを後悔しているのか?」
「えっ…」
顔を上げると、少し悲しそうに目尻を下げるケイさんの顔が映った。
「ち、違いますっ!後悔なんて…!」
後悔をしていないどころか、むしろとても満たされた気持ちでいっぱいだった。
…そこまではなんだか浅ましくて、とても恥ずかしくて言えないけども。
「そうか。それならば良かった。
俺にとっても、とても甘美なひと時だったから」
「…え?」
ケイさんの言葉に戸惑う私を見て、ケイさんは安心したような、けど昨夜のことを思い出してなのか、少し顔惚けて目尻を赤くした顔でふわりと笑う。
「俺にとって、昨夜はとても夢みたいなひと時だった…
君が俺を求めて、この身体を愛でてくれて、その証明までこの身に残してくれたのだから」
そう言って愛おしそうに、昨晩私が付けた鎖骨あたりの痛々しく赤く染まっている傷跡を指でなぞるケイさんが、なんだか色っぽくて、私の心臓がどきりと大きく脈打つ。
きっとその言葉は本心から言っている。
そういうところが、本当に、ずるい。かなわない。
「…ケイさんのそういうところ、本当にずるいです…」
「そうだろうか?…俺としては、君の方がずるいと思うのだが」
「…え?」
急に、ケイさんの身体が私に覆い被さるように、こちらに傾いてくる。
ケイさんの手が私の座っている横のシーツに沈んで、ぎしりとベッドが軋む音と同時に、また私の心臓が跳ね上がる。
いつの間にか私が持っていたマグカップはケイさんに奪われて、ベッドサイドテーブルに置かれていた。
「ケイさっ…」
「俺も、本当はずっと、君の身体に触れたかった…
けど君も忙しくしていたし、疲れている君に無理をさせまいと己の醜い欲望を押さえつけていた…
…なのに君から、あんなに熱い気持ちをぶつけられては…
…もう、この気持ちを抑えられそうにない…」
ケイさんの顔を見上げて戸惑う私をよそに、ケイさんはとても優しい手つきで私の頬に手を添えてくる。
「今度はどうか、君の身体に触れることを許してはくれないだろうか…?
この跡が消える前に」
あくまでも、私にすがるような声色に、私に慈悲を乞うような寂しげで優しい顔で見下ろしてくる。
「っ…」
何も言えないでいると、ケイさんの蒼く綺麗な瞳が緩やかに閉じてきて、待ちきれないと言わんばかりに強引にキスをされた。
そのまま優しく身体をベッドに沈められる。
「●●…」
昨夜のように、甘く、
けど、強く私を求めて堪らないような声で名前を呼ばれて、堪らず私もケイさんの背中に腕を伸ばしてしまう。
そのあとのことは、頭が多幸感でいっぱいになりすぎてあまり覚えていない。
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eyes8honpo · 2 years
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ロストヒューマンの塵
カップリング/ReS。・・・陣&章臣(千秋&奏汰)
参考ストーリー・・・Saga前編・後編
「三年A組守沢千秋! 止まりなさい!」  廊下を駆け抜ける力強い足音をかき消すかのように、遠く突き抜けるような甲高い静止が響き渡る。  おうおう、若人のエネルギーに負けない声量だねぇ。興味本位に保健室のドアを開け、顔を出すと、ちょうど仁王立ちしたあきやんがクソ真面目な早歩きで通り過ぎていくところだった。 「い、いや、これはその……! 緊急事態なんです! 一刻も早く向かわないと手遅れに、いや! もう既に手遅れではあるんだが!」  こっちはこっちで耳慣れた常連の声だった。常連になってもらっちゃ困るんだが、と一年の春先から苦言は呈してきたんだが、ついぞ三年の冬になっても改善することがなかった。思いのほか切羽詰まったような態度の守沢が、ゆっくりと速度を落としながらこちらを振り返る。俺のことには気付いていないのか、その正義感に溢れる琥珀色の瞳は、困ったように揺らめきながらも真っ直ぐにあきやんを捉えている。何故だか知らんが、赤地に白い星の模様が入った大きなバスタオルを牽制のように両手で広げ、じりじりと後退を試みているようだった。  危ねえなぁ、振り向くか立ち止まるか、せめてどっちかにしろよ。  クソ真面目さではあきやんに引けを取らない守沢は、煮え切らない態度で数秒あきやんと対峙した後、くう���、と悩ましげな悲鳴を上げ、ついにバスタオルをぶんぶん振って駆け出した。 「すっ、すまん! 今回限りは見逃してくれ! あいつのレスキューが終わり次第、戻ってきて反省文を書きます!」 「あっ! こら! 待ちなさ――」  あきやんが言い切る前に、守沢は走り去ってしまった。「奏汰ぁぁぁ!」と叫ぶ声が遠くから聞こえて、レスキュー、大きなバスタオル、既に手遅れ、の意味を知る。深海のやつ、またこんな時期に噴水に突っ込んでるのか。そりゃあ一大事だし、守沢が一秒でも早く向かいたい気持ちも分かる。ただでさえこの時期は風邪もインフルエンザも流行るのに、こじらせて肺炎とかになろうもんなら洒落にならん。俺らの仕事なんてのは、できるだけ少ない方がいい。こればかりは楽をしたがって言っているわけでは断じてない。  俺が守沢の行動に納得している間に、深々と息を吐く音が聞こえて顔を上げる。悩ましげに額を押さえつけながら、あきやんがこちらへ向かって歩いてくる。眉間に刻まれたしわはいつも通りといえばそうだが、俺から言わせりゃ、いつもより少し多めに回っております、といった風貌だった。
「全く……反省文は校則違反をした自覚と反省を示すために書くものであって、書くこと自体が違反の免罪符になるわけではないんですよ」 「アハハ。あいつアホ真面目だからなぁ」  苦々しいお小言に対して返事をすると、予想外の反応だったのか、紫色の瞳が大きく見開かれた。  話しかけられたんだと思った俺も、なんだただの独り言だったのか、と少しだけ恥ずかしくなる。 「陣……見ていたんですか」  照れ隠しに眼鏡のテンプルをなんどもいじって、あきやんは視線を反らした。 「あれが真面目なものですか。あの子が私の注意を聞いて廊下を立ち止まったことなど数えるほどしかありませんよ」 「数えるほどはあるのかよ。ますますアホで真面目だな。てかあきやん、守沢のこと結構好きそうなのになぁ~何だぁ? もしかしてまだ根に持ってんの?」 「あなたじゃないんですからそんなことで態度を変えるようなことはありません!」 「えっ。心外だな~俺だってそんなことしないっての……」 「……まあ。印象的だったので、記憶が鮮明なのは事実ですけどね。あんな風に表立って野次を飛ばすような子ではなかったでしょう」  ぱちくり、と二度まばたきをする。  あきやんは俺の心を当然のように見透かして、呆れたように眉尻を下げた。 「何を意外そうにしてるんです。覚えているに決まっているでしょう。生徒の顔と名前が分からないようでは教員失格ですからね」  昔は目立たずとも大変真面目な生徒でしたよ。規則を破ったことなどない、地味ですが模範的な生徒でした。それに生徒会の発足にも一役買ってくれた子ですからね。蓮巳君が署名の件を嬉しそうに報告してくれたことも、昨日のことのように思い出せます。  意外や意外、守沢のことを昔から知っていたのは俺だけではなかったようだった。  守沢の過去を訳知り顔で語ったあきやんは、その直後にハァ~とくたびれたため息をよこした。 「それが今や、廊下を走り放題の問題児のようになってしまっているんですから。困るんですよ。走る理由は理解できますが、周囲の生徒に示しがつかない」 「ハハ。若人と違って、先生は大変だねぇ。規則違反を取り締まらなきゃいけない規則でがんじがらめだ」 「茶化すのはおやめなさい。あなたも教師の端くれでしょう」 「教師じゃなくて養護教諭だも~ん」 「ああ言えばこう言う……昔から変わりませんねあなたは」 「どうかね。変わっちまったもんの方が多いと思うけど? それも悪い方にな」  淡々と事実を言ったつもりが、あきやんはそうは受け取らなかったらしい。  急に黙るもんだから、まるで意地悪でも言って黙らせたみたいだ。居心地悪いな、どうしたもんか、と唇をモゴモゴさせていると、再びバタバタと足音が聞こえてきた。さっきよりも人数が多い。レスキューとやらは成功したのだろうか。しばらく二人分の靴音を聞いていると、廊下の向こうから下足で上履きに履き替えた二人組が姿を現した。一人はさっき守沢が持っていったデカいバスタオルにくるまれているが、くるん、と頭頂部から顔を出した独特の癖毛のおかげで、誰なのかはすぐに分かった。あきやんはまた一つため息をついて、怖そうな顔を作って腕を組んでみせた。けれどそれも長くは続かず、守沢が深海の肩を抱えて心配そうに歩いてくると、心なしか困ったように唇をへの字に曲げた。
「ほら、奏汰、ちゃんとこれで拭いて暖房のある部屋にいろ。着替えなら俺の体操着を貸してやるから」 「うう~……だめですか? もうあと『いっぷん』だけでいいですから……」 「駄目だ駄目だ! 噴水は駄目だ! 代わりにあとで銭湯の水風呂に入れてやるから、な? もう少しだけ我慢してくれないか」 「でも、おへやにいると『かんそう』が……っくしゅん」 「あ~ほらもう、くしゃみしてるじゃないか! だから冬の噴水は駄目だって何度も言うんだぞ! だが……うん、よし分かった。霧吹きを用意してくるから、五分だけ待ってくれ!」 「『きりふき』ですか? それってどういうものですか? 『ふんすい』のかわりになりますか?」 「ああ! 乾燥を防ぐには役立つはずだぞ! 確か手芸部の部室にあったはずだから、もう一っ走りして斎宮に頼み込めば五分で――」  守沢は深海の説得に夢中で、目の前のあきやんに直前まで気付かなかった。ふと顔を上げた瞬間の「あっ」という間抜けな声に、あきやんはものすごくあからさまにため息をついてみせた。 「……佐賀美先生。急患のようですよ」 「へ?」 「そ! そうなんです! 佐賀美先生! すみませんが奏汰をしばらく頼めますか」 「あぁ、そりゃ構わない、っつか……風邪っぴきの面倒は俺の仕事だけど……」 「守沢君」 「はい! あと五分だけお待ち頂けたら反省文を――」 「走るのはおやめなさいと何度言わせるんですか、全く。職員室の観葉植物の前に、霧吹きがありますから、そちらのほうが早く済みますよ。五分もかかりませんから、走らずお行きなさい」  守沢は驚いたように目を丸くしていた。っくしゅん。深海の間の抜けたくしゃみに、はっと我に返ったように肩を上下させる。 「あっ……ありがとうございます! お借りします!」 「声が大き……こら! だから走らずにお行きなさいと言って――」  守沢が駆け出した瞬間、ポケットから何かが落ちてカツンと固い廊下の上を弾んだ。  なんだなんだと目で追って、それが何かに気付いてハッとする。 「おい! 守沢!」  怒鳴るような声になって、隣にいたあきやんと深海が大袈裟に肩を震わせた。  大きくつんのめってからこちらを振り向いた守沢に、右手人差し指で落としたものを指し示す。守沢よりも先に、落ちたものが何だったのか、深海も気付いたようだった。ちあき。少しだけ焦ったような鼻声がバスタオルの隙間から漏れ出た。動き出そうとする深海をそっと制して、落とし物を拾いに行く。数秒して守沢も気付いたのか、顔面蒼白になってこっちに駆け寄ってきた。 「よっこいしょ……っと。うー、腰にくるな、年だなやっぱ……」  片手に拾い上げたソフトビニールのヒーローフィギュアは薄汚れていて、所々に傷がついていた。千切れてしまったのをテープで貼り合わせた形跡もある。かなりの年代物だ。幼少期からずっと大切に持ち歩いているのだろうか。膝に手をあてて上体を起こすと、引き返してきた守沢と目が合った。今となっては珍しいが、その目は初めて保健室で会った時のように、わずかばかり怯えて見えた。 「佐賀美先生」 「はいよ。よかったな、俺が落としたのに気が付いて」 「はい。……すみません。助かりました。ありがとうございました」 「あー……。お前さぁ、もうちっと気を付けろ。前ばっか見てると大事なもんを落っことすぞ」  フィギュアを守沢に手渡す。たまには教師らしく説教でも、というわけでもなかったんだが、それはあきやんの怒声よりも守沢の心に刺さってしまったようで、守沢は歯痒そうに眉尻を下げて目を閉じた。 「はは……すみません。以後気を付けます。ありがとうございます」  握りしめたフィギュアをそうっと大事そうにズボンのポケットにしまう。  けれど、それも束の間、ちらっとバスタオルにくるまった姿を一瞥すると、守沢はさっきよりは控えめという程度の駆け足で職員室へと向かっていった。俺は小さくため息をついた。さっきは茶化しちまったけど、今ではあきやんの気持ちがちょっとだけ分からなくもない。
「ありゃ、またやるな。ほんとさぁ、毎回拾ってやれるわけじゃないんだから。世のため人のためもほどほどにしといてくんないかな~」 「おや。流星レインボーの台詞とはとても思えませんね。ファンが聞いたら泣きますよ」 「おえ~やめてくれ~昔の栄光なんて虚しいだけだってのに……」 「……うふふ」 「ん? どうした? お前さんは早いとこ保健室に入ってくれると助かるんだがな」 「いいえ。あなたもヒーローだったって、ちあきにきいたのをおもいだして。『ほんとう』だったんだなぁって」  守沢のやつ、あることないこと吹き込んでないだろうな。  げげ、と口を歪めたいのをなんとか堪えて、深海を保健室に押し込む。 「ほれ。ベッドは全部空いてるから、好きなとこに寝転がって、布団被って待ってろ。お前さんのくしゃみが悪化したら、あとで守沢が泣くぞ」 「むぅ……それはこまりますね……ほんとうは『だんぼう』のきいた『おへや』はいやなんですけど……」  しぶしぶ、という感じの雰囲気を隠すこともなく、それでも最終的には大人しく保健室のドアをくぐった���海を見て、俺は正直感動を覚えていた。どいつもこいつも言うこと聞かない連中だなぁと思いつつ、深海だけは最後まで誰にもその自由を奪えないのだと思っていた。 ――いや。それこそが俺の勘違いで、深海がようやく自由になったのがこの冬、ということなのかもしれない。真冬に噴水に入るのも、守沢を困らせたくない気持ちも、その自己矛盾にぶつぶつ文句を言うのも、今になってようやく――人生で初めて得たものなのかもしれない。  あいつが、他の何もかもを振り落としてまで助けたかったものが、今の深海の姿なのかもしれない。 「……? ぼくの『かお』に、なにかついてますか?」  澄んだ海の浅瀬のような瞳を真っ直ぐに向けて、深海は首を傾げた。 「いいや。なんにも。強いて言うなら、まだ濡れてんだよな~。ちゃんと拭いとけよ、髪」 「はあい……くすくす。『りゅうせいれいんぼぉ』の『ちゅうこく』ですから、ぼくもまもらないといけませんね」  ちあきにしかられてしまいます。  そう言い残して、深海は保健室の奥へと進んで行った。  ハァ~と何度目かのため息をついて、ゆっくりと音を立てずにドアを閉める。沈黙を保ち続けるあきやんに目を向けると、それに気付いてかあきやんもこちらに視線を合わせた。 「つか、なんだよあきやん。守沢の肩持つの? もう脱退済み、ってか、何年も前に卒業したヤツの話なんだからさ。どいつもこいつも……過去の幻想ばっか追っててもらっても困るよ」 「幻想と言い切るには、早計だと思いますけどね。私は」  りゅうせいれいんぼぉ。  独特の口調でそう告げた深海の、柔らかい笑みが頭をよぎる。  途端に胸のどこかがじくじくと鈍い痛みを放って、俺の呼吸は鈍くなる。  幻想だ。そんなものは。  お前が憧れたヒーローたちと違って、俺は誰のことも助けられなかった。大事なものは全部落とした。  だから。 「他人の落とし物について、貴方が語るのは。どうにも、腹が立ちますね」  だから、目の前の大切だった後輩が、こうして追いかけてきたことを、有難くも申し訳なく思う。 「ごめん」  白々しく聞こえたかもしれなかった。  それでもあきやんは、それ以上俺を責めることはしなかった。 「分かってるよ、あきやん」  俺が振り落としてきた全てのものも。  その中にお前が含まれてることも。  それなのに今度は同僚としてもう一度俺の前に現れてくれたことも。 「お前が全部、 拾っといてくれたことも」  俺が俺のせいで失くしたいくつもの欠片たちは、この春に始まった企画によって、ほんのわずかだけれどもこの世によみがえった。やっぱり、分不相応だと思う。ああいうステージや予算ってのは、こんな老いぼれじゃなく、未来のある若人に与えられるべきだ。今でもその考えは変わらない。だけど。 「……私は」  後悔がないって言ったら、それは、嘘になっちまうから。 「あの時、手遅れになる前に。走っていればよかったのかと」  遠く、廊下の向こうをぼんやりと見つめるあきやんの瞳には、規則を破ってばかりの真っ赤なヒーローが映っているのだろう。廊下を走るなと注意するあきやんの毅然とした態度に、その堅苦しい声色に、ごくごく個人的な苦悩が混じっているだなんて、誰が気付くだろう。 「いつも後悔していましたよ。もっと早くに渡せたのに、と」  俺くらいは――俺だからこそ、気付いてやらなきゃいけなかったのに。 「……どうせ受け取らなかったよ。俺のじゃない、って言ってさ」  ああ、本当の本当に、俺は世界一の大馬鹿者だった。  そんな大馬鹿に、いろんな連中がお節介を焼いてくれた。  空にかかる虹のような、一瞬の輝きための、奇跡みたいな一年だった。  お前が背負うことなんかなかったのにな。全部が全部、俺の身勝手のせいなのに、真面目で、面倒見がよくて、俺より俺のことを大事にしてる。俺の後悔の一部を、振りほどいて置き去りにした何もかもを、まだここにあるぞって突き付けてくる。俺が「ゴミだから」って丸めて後ろに捨てたものたちのことを、まるで流れ星が振りまいたきらめきみたいに言う。  それが果たしてそこまで輝かしいものなのかどうかは分からない。  だけど、捨て去ってしまっていいものでもない。  少なくとも俺にとって大事なものだったってことを思い起こさせる。  遅くても早くてもきっと届かなかった。  だから、言う。何度でも。 「まあ。こんなオッサンになってからでしか。駄目だったけどさ」  あれは虹のような輝きだったと。 「ありがとうな。ずっと持っててくれて」  晴れ間がのぞく、たったの一瞬を、辛抱強く待ち続けてくれて。  「あきやん」  呼ぶと、銀のフレームがちかちかと光って、その奥にある紫の瞳をほの白く輝かせた。  まだその目には、手遅れにならないようにとひた走るヒーローの背が見えているのだろうか。でもな、あきやん。あいつだっていろんなものを落とすんだぜ。今日みたいに。だから、見つけたやつが、拾って手渡してやんなきゃいけないんだよな。 「お前の落としたものは、誰かが拾ってくれたか」  そんな当たり前のことも今日まで気付かなくって、ごめんな。 「……さあ。どうでしょう。でもきっと、どこかにいるんでしょうね。私が気付いていないだけで」  そっか、と小さく息をつく。  そうだといい、そうに違いない、と俺は願う。  ヒーローなんて信じちゃいなかったあの頃の俺に、何もかも適当なまま「虹」を名乗らされていた当時の自分に、今だったら言えると思う。  拾ってやれ。  立ち止まらずに駆け抜けていく星々の塵を。  いつかそれがきらめく時を、お前だけは信じ続けてやれ、と。  遠くで守沢が、職員室に向かって直角におじぎをしている姿が見える。きっとすぐに走ってやってくるだろう。大事なものを守り抜くために。あきやんの注意なんて、きれいさっぱり忘れて。
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terarin08 · 3 years
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『蒼羽もぐ汰さん』
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kachoushi · 2 years
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雑 詠
花鳥誌 令和4年4月号
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雑詠巻頭句
坊城俊樹主宰選 評釈
雑詠巻頭句
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野暮天と莫連女クリスマス 田中 恵介
野暮天というのは今では死語に近い。ヤボテンは昭和の頃死滅。莫連女、バクレンも然り。これがカップルとなると俄然胡散臭い。ましてや季題がクリスマス。こんなカップルも祝うのか。現今に綺麗事の俳句は多いがね改めてこの新鮮な余韻はどうだ。
歳晩の靖国神社は大きい 田中 恵介
シンプルであって大きい。ことに歳晩の雑踏とは違う神社の巨大さ。それを覆い尽くして有り余る靖国神社という存在の重さと無意味さ。哀しいくらい現今の日本に似ている、いや存在の希薄か。つまり今の日本という張りぼてのような栄華を思わざるを得ない。
歳晩の沙汰聞く皺ばんだ漢 田中 恵介
歳晩にはこの一年の何か全ての決算がある。沙汰が起こりやすいのも当然のこと。この漢はそれらを全て含んだ上での評定を下す。皺くちゃの年季は歳晩に通じるのは当たり前だが、ここは俳諧の無碍の世界ととらえたい。
玄冬やちらちら朱き俥夫の紐 岡田 順子
浅草か。「ちらちら」と言うと女のそれを思うが、こと俥夫のそれは粋でいなせな所で通じる。玄冬はそれと正反対。黒く重くしかつめらしい。これを粋と言っても良い取り合わせが未知数の魅力がある。
ロック座の淑気まみれの昼の闇 岡田 順子
ロック座というストリップ劇場はただ者ではない。エノケン、ビートたけしら芸人を生み、裸は尊いがそれだけの文化だとしたら大間違い。東京下町の粋筋の文化、それを支えた庶民の血だらけの苦労と美意識がみんな詰まっている。だから「淑気」なのである。
夢追うて六区の蜜柑買ふ少女 岡田 順子
この少女浅草の子。祖父の代から住んでいたのだろう。いや夢を追って浅草に出てきたのか。浅草六区にはまだそんな夢があるのか。蜜柑が少し淋しいが美しい。儚いが強靱。そしてこの子の未来に激しく共感できる。
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手捻りのぐい飲みで待つ鮟鱇鍋 上嶋 昭子
このぐい飲みで地酒を飲みたいものだ。手捻りの粋な彩色と形。それで地酒を熱燗にして飲むか。鮟鱇鍋も久しく食ってない。あの海底のような滋味ある新鮮なる脂はこの酒しかあるまい。
愛すべき俗物集ひ薬食ひ 上嶋 昭子
愛すべき俗物になるというのはたいへん難しい。私もそうでありたいと思う。俗物とは神聖よりも困難。似非の神聖はけっこう居る。愛の俗物はあまり居ない。鹿でも食うか。こういう輩たちが日本を支えてきてこれからも支える。
色足袋をはいていよいよ籠りけり 上嶋 昭子
色足袋というものを 実は知らない。どのような人生の刹那に履くのか。それは日常か非日常か。籠もるとは冬のこと。而るに日常かと思うがそれにしては色足袋はあまりに華麗。色艶を超越したなにかの世界。
冬の空蒼茫として星生る 続木 一雄
蒼茫は昼でも夜でもない、宇宙そのものの色。星が光るというよりそこに生れし如く。
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晩節を汚せ汚せと煖炉燃ゆ 渡辺 美穂
晩節は煖炉の魅力に勝てない。汚すべきである。煖炉は人間の根幹を揺さぶる。
五稜郭兵を鎮める雪しきり 丹羽 雅春
五稜郭の悲話を知るならば当然。鎮魂の雪こそ深くて美しく耀く。
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川風の荒びの中に凍てし蝶 渡辺 彰子
「荒び」がなんとも執拗である。蝶はもう凍てるしかないではないか。
焚火の輪焼べ足す煙に広ごれる 内田 たけし
焚火に焼べる毎に人も煙の輪も広がる。これは働く人たちの輪としても豪華。
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なまはげの怒号が山へ帰りけり 赤川 誓城
なまはげは叔父さんがやってたんじゃないの、いいえ、山へ帰った鬼だったのよ。
初春の紙垂の如くに波頭 有川 公子
清涼で新鮮な波が来た。波はまだ寒いがそこには神が宿る。白波の正月。
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mitayondakiita · 3 years
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2021/09/04まで
「ファミリーズ・シークレット」
洋画。秘密をかかえたごく普通の家族がひとりの男の登場によっていろいろと変わっていく話。どうか登場人物が誰一人として不幸になりませんようにと心から願いながら見る映画ははじめてだった…ちゃんとみんな幸せになったので満足だ…。エズラ・ミラーがすごく良い役。
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「チャーリーズエンジェル」
2019年版。クリステン・スチュワートがあああああああああんまりにもかっこよくてかわいくてキュートでクールでスマートでビューティフルなので語彙力を失う。すべての女性はクリステンの前で女になる。なっちゃう。好き。笑顔、変顔、怒った顔、いたずらっぽい顔。抱いて。 映画の内容としてはいい感じのサクサク感だったと思う。エラ・バリンスカのスタイルと顔はずっと見てられるし、ナオミ・スコットはずっとかわいい。言い出したら止まらないんだけど女ボスレーっていうのもすごくよかった。個人的には!ね!チャリエン好きだからひいき目あるかもしれない。 チャリエン好きとしてどうしてもア~てなったのは初代ボスレーの立ち位置で……あんなにしなくたっていいじゃない…ちょっと悲しいよファンとしては…!でもVS男にするには仕方ない要素なのかな?あとケリー・ギャレットの登場は激熱で正直泣きそうになった!!! 映画のチャリエンのオマージュ多くてうれしかったけどドリュー・バリモアがかかわってたらそうだよねそうだよねって感じでうれしい。なんならドリュー、ディランで出てくれてよかったのに!!! あとあと、チャリエンの良さって女3人で強い男1人に立ち向かうとこだと思う。めちゃバランスいい。ジェーンが少年漫画の主人公ばりに何度も立ち向かって敵に打ち勝つとこいい。だってそうでもないと勝てないから!リアリティあるよ!あと無口な殺し屋っていうのも痩せ男オマージュでよかったな… 意外といつまでもオタクの早口とまらなくてわろた。いい映画だよ~~~!!て感じじゃないけどわたしはこれからも5回は見ると思う。クリステン・スチュワートに愛をこめて。チュ………
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「ジョジョ・ラビット」
だいぶ前に見たのにずっと頭の中に残っている。ヒトラー政権まっただ中のドイツにおいて、ずる賢く汚い大人だけではなく純粋無垢な子供も居たということを当たり前だけど知る。これは壮大な深い愛の物語なので、ある意味ほかの部分はもう受け取らなくていい気がする。良い映画。 笑っていいような泣けるような、コメディだけど愛やシリアスさを感じる作品なのでとてもみんなに勧めたい。ナチだのユダヤだの戦争だの嫌いっていう人にもぜひ。スカヨハがほんとーにキュートなんだ。いいお母さんだ。ヨーキーのかわいさは言葉では表せられないのでぜひ見て。
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「スキャンダル」
原題:bombshell アメリカの超有名放送局FOXで実際にあったセクハラ訴訟スキャンダルをハリウッドの三大女優(!!!)達が共演して映画化、もうこの三大女優ってだけでも見る価値があるので特に女性の皆様は見てほしい…スカッとはしないけど。ドキュメンタリー風でカットも楽しい。 こ~んなわかりやすい権力図が現代でもおそらくどこかであって一生なくならないのだと思うと嘆かわしい。女性へのハラスメントだけでなく男性のソーシャルハラスメントもあるのだからうんざり。映画としてはちょっとリアルに寄りすぎて物足りない部分もあるのかも?私はこのくらいでも嫌いじゃない。
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「yesterday」
洋画。めちゃくちゃ見たくてリアタイできなかったもののうちのひとつで、期待しすぎちゃったかもしれない…!ビートルズの楽曲、これでもか~ていうぐらい盛りに盛られた小ネタ、おしゃれな小物たち、エド・シーラン(エド・シーラン!!!)、あと大好きなケイト・マッキノンも、すんごい良くって、こんなハッピーな映画にケチつける俺って異端?(笑)て感じになるかもしれないけど本当にあの終わり方はずっこけたぞ!!!それでええんか…?幸せってとり逃してしまうこともあるじゃない…ぜんぶ回収するなんてそんな馬鹿な…映画じゃないんだから…いや映画だけどさぁ!? ラブ・ストーリーってあんまり見ないからこういう強引な展開に私がついていけてないのか?ギャビン可哀想すぎるよ~そして最後にギャビンの横に急に出てきた女だれやねんと。お前がおるからってギャビンの事はなくなったことにはなれへんのやぞ。ご都合主義すぎてモヤモヤしたよおおおお。 でも本当にビートルズってすげ~…て思うし、ネタが細かすぎてわからないところもあったけど楽しかった!設定も最高にいいなあ。本当に完全に誰も知らないってわけじゃないのもいい。エドの携帯の着信音がShape of youなのは笑かしにきてる。デブラみたいな人間がアーティストをだめにするのね… あと本当におじいちゃんになった彼のことがすごく純粋にうれしくて涙が出そうになった。そうだよどんな人生でもきっと幸せに生きられたんだ。何かを得るから何かを失うんだよ。でもジャックお前はなにも失って無くない!?やばいまたモヤモヤしてきた。レット・イット・ビーが最初スカるの面白い。
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「キャビン」
洋画。若きクリヘムとDetroitのマーカス役の方が出てた。由緒正しきホラーってこうやって作られるのね……!ちゃんと面白いしちゃんとB級だった。細かいネタもわかるともっと面白そう!
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万城目学「悟浄出立」
タイトルになってる作品がすごく好きで何度か読んでいたのだけどそのあとの話はまったく記憶がないのでなぜかこっから先に進んでいなかったのだと思う。後悔するくらいすべて面白かった。人と人とのたましいの繋がり、それぞれの人生の轍がとてもよく描かれている。 一緒に旅をする仲間や友人や家族、または少しだけすれちがった赤の他人との交流。しぐさや会話によって成り立つ感情。こういうのって文字にするととても美しいな。たぶんだれにでもあることなのだと思う。そういう一瞬を残していけるのならば理想的。私のこのなんでもないTwitterも今風の記録だなあ。
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「エノーラ・ホームズの事件簿」
ネトフリ映画。よ、よかった~なにがよかったってヒロインがかわいい~~~。何も考えずにみられるエンタメ映画だし、やっぱりホームズ時代のロンドンって素敵だ。
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「パラサイト 半地下の家族」
韓国映画。改めてまともに見ました、期待以上に面白くて意外と長い上映時間にも関わらずさっくり観れた。いつか観るときのためにネタバレを避けていたのが高じて最後の展開には胸が震えた。韓国の格差社会、わかりやすいほどむなしい。 彼は地下で住むことによってすべてから抜け出せたのだという考察が良い。どうやら韓国は半地下物件=貧困層、月5万くらいで借りられるところらしいのだけどあまり知らなかった。立派な職業技術があるにも関わらずその日暮らしの人間たちが富裕層の暮らしと隣り合わせになったとき、 こういうことは起こりえると思う。私もたまに自分自身を抑えきれないほど他人への劣等感が増すときもある。あと大体富裕層の人たちって基本的には優しい。圧倒的にステージは違うのだけど。「計画をたてなければ計画が壊れることもない」というようなセリフが印象的。あきらめの境地。 個人的にはこの作品の売り方もすごくよかった気がする。ネタバレ禁止、ポスターからする異様な雰囲気、あとポン・ジュノ監督は本当に現代社会の問題とコメディを入り混ぜるのが上手だ。反日表現もあったそうだが、まあお国柄といったところ…。本人もここまでハネると思わなかったんじゃないかな。 象徴的な例の洪水シーンなんだけど、あそこってすごくわかりやすく作られてて私みたいに難しいことが考えられない人間にも見やすい。「US」が比較にあげられてたようだけどあっちは私にはわかりづらかった(バカで)。あともっと怖い話だと思ってたけどめっちゃ笑った。いいコメディ配分だった!
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「永遠に僕のもの」
アルゼンチン・スペイン映画。私が見たかったすべてが割とそこにあって、ストーリーとか演出は置いといてサイコパスフェロモンむんむん美少年がヒゲモジャ美青年に惑わされてどんどんエスカレート…、ていうわけでもないか。カルリートスはもとからだいぶネジが外れていたもの。 とにかく予告から不穏でオタクがにやける演出が多かったので、その部分を期待してみた方はとても満足できると思う。カルリートスは相棒を愛し、自分を愛し、家族を愛したというそれだけのこと。ほかは死のうが壊れようがどうでもいい。からっぽの金庫はカルリートスのようでむなしい。 相棒の股間にジュエリーをのせるあたりって、やっぱりカルリートスの同性愛的な部分をみせたかったんだろうか……それより相棒のほうが同性愛にハマってて(?)私は満足したけど……あの地方ではブロンドだと珍しいんだね。地域の治安の悪さもとことん感じた。総合的にはよかった。
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「デンデラ」
邦画。ババアしか出てこないのでババア好きはどうか見てほしい。でも内容はだいぶ暗いし辛いです。人におすすめできるものではないけど、老いることは罪ではないなと思った。私はね。赤ん坊とかいう人間ではないものから生まれ育って、にんげんになり、植物に落ち着くのは悪くないよ。 たくましく年をとりたい。誰かに見せつけられる、心にきざまれる人間になりたい。女だからって弱く生きていたくはない。復讐ができるほど強くなりたい。40の小娘、と言ってみたい。老いることは罪ではない。でもとてつもなく恐ろしい。この世は地獄。
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「5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~」
タイトル長いな!?ドイツ映画。ドイツ語が耳に新鮮で良かった。ストーリーは史実にもある通り奇跡のような本当の話なのだろうけど、最後がどうにも納得いかない!?身体的ハンデとは、コンプレックスにもなりえるのはわかった。人には言えないと 思うのも納得できる。でも子供を預かったり、ホテルの仕事を失敗してまで認められることではなくない!?上司の態度の急変もなんだかモヤモヤしてしまった。ただただ友人がまぶしい。彼はすばらしかった。現実にいたならもっと良い気分になりそう。いやもちろん!本人もすごいです!
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「残穢」
邦画ホラー。サスペンス要素があってけっこうおもしろい上にこわかったので満足した…。本当かなんてどうでもよくて、伝承というのはそれだけで人を呪い殺すパワーがあるのではないかと強く思った。竹内結子の演技と声色がすごく好きです。とても惜しい女優さんを亡くした。
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「ザ・ファブル」
邦画。邦画なのに(笑)、アクションの幅がちゃんとしててけっこうおもしろかった。なにより岡田君が見てて飽きない。あと向井理とか福士蒼汰とか木村了とかがひたすら顔がいい。木村文乃と山本美月もはちゃめちゃに顔がいい。演技ともかく顔がいい。誰よりかっこいい佐藤浩市がいい。
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「夢売るふたり」
邦画。阿部サダヲと松たか子とかいう天才がぶつかって演技してて本当に本当によかった、ストーリーに説教臭さとかなくてシンプルでああ…ていう終わり方で、男の悪いところ、女の悪いところ、包み隠さず表現してる(ていうか役者がしてくれてる)。個人的に好きだったのは 松たか子が真っ青な顔をしてふつふつと怒りを身体に押し込めるところ(映画のなかではいくつもあるシーン)もうここが良すぎてここのためにお金払ってもいいと思った。あと松たか子のエrってなんかすごい…すごかった。ソロのえrのほうがすごかった。いいの?見ちゃって……でも女って感じで最高。阿部サダヲのはやくイきすぎて「クソッ!ごめん…」てなるとこ笑う。鈴木砂羽がえrrrrrrっろだった。邦画嫌いの皆様にも見てほしい一品。ああでもやっぱりお金で幸せは買えないのかもしれない。
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「ドクター・ドリトル」
洋画。RDJrのことが見たかったけどそういえばいろいろ有名な人が出てらした。声で。あと日本語版は藤原啓治さんだったので…良さ…。CGで動かされる動物たちは本当にリアルですごい。技術ってすごい。ストーリーは8歳児向けなので頭の中からっぽにして見れるよ。
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「グリーンブック」
見返してて改めて良さしか感じない。トニーの人間らしさとドクの潔癖な部分が目立つかと思いきやドクのほうがめちゃくちゃ人間らしくてわざと潔癖になっているだけのただのひとりの人間で、トニーの勝手な陽気さに癒されていく過程がたまらなく尊い。アメリカは広いね。 ターコイズグリーンの鮮やかなキャデラックが本当に本当によくって、ヴィンテージカーに興味のない私でもため息がでるほど美しい車だと思う。もともとキャデラックってけばけばしい車だとおもってたクチなので感動してた勝手に…… 差別的な表現もあるけど本当にマイルドで(それがまたきっつくて)、でもあえてだからこそ「品性」を極めてきたドクが捕まったときの言葉が良いんだよ~~最後のクリスマスのシーンまでずっとずっと面白くて良い映画。さわやかで後味が残らずそれでいて印象深い。みんな見て。
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「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」
みんなが大絶賛したほうのスースク。絶賛される理由がわかるくらいやりたい放題で、血と内蔵成分がたっぷり補給できる。ハーレイが可愛いままちゃんとヴィランで最高だった。キャラクターはどいつもこいつも濃くて、かつちゃんと悪役。KAIJUも良かった。 ジェームズ・ガン監督の作品はどれも良いものなんだろうな。初期だけどスクービー・ドゥーとかも子供のころから何度も見てた。死なないだろうな~と思ってたキャラもばんばん死んじゃうけど悲しみに浸る暇もないのよなあ。このスピード感が好みなのかも。
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game92us · 3 years
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PC版「World of Tanks」の公式コスプレイヤーに蒼羽もぐ汰氏,アッキー・スネーク@オキサバ氏を起用
PC版「World of Tanks」の公式コスプレイヤーに蒼羽もぐ汰氏,アッキー・スネーク@オキサバ氏を起用 Source: 4Gamer.net(オンラインゲーム) PC版「World of Tanks」の公式コスプレイヤーに蒼羽もぐ汰氏,アッキー・スネーク@オキサバ氏を起用
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mashiroyami · 4 years
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Page 112 : 変移
 育て屋に小さな稲妻の如く起こったポッポの死からおよそ一週間が経ち、粟立った動揺も薄らいできた頃。  アランは今の生活に慣れつつあった。表情は相変わらず堅かったが、乏しかった体力は少しずつ戻り、静かに息をするように過ごしている。漠然とした焦燥は鳴りをひそめ、ザナトアやポケモン達との時間を穏やかに生きていた。  エーフィはザナトアの助手と称しても過言ではなく、彼女に付きっきりでのびのびと暮らし、ふとした隙間を縫ってはブラッキーに駆け寄り何やら話しかけている。対するブラッキーは眠っている時間こそ長いが、時折アランやエーフィに連れられるように外の空気を吸い込んでは、微笑みを浮かべていた。誰にでも懐くフカマルはどこへでも走り回るが、ブラッキーには幾度も威嚇されている。しかしここ最近はブラッキーの方も慣れてきたのか諦めたのか、フカマルに連れ回される様子を見かける。以前リコリスで幼い子供に付きまとわれた頃と姿が重なる。気難しい性格ではあるが、どうにも彼にはそういった、不思議と慕われる性質があるようだった。  一大行事の秋期祭が催される前日。朝は生憎の天気であり、雨が山々を怠く濡らしていた。ラジオから流れてくる天気予報では、昼過ぎには止みやがて晴れ間が見えてくるとのことだが、晴天の吉日と指定された祭日直前としては重い雲行きであった。  薄手のレースカーテンを開けて露わになった窓硝子を、薄い雨水が這っている。透明に描かれる雨の紋様を部屋の中から、フカマルの指がなぞっている。その背後で荷物の準備を一通り終えたアランは、リビングの奥の廊下へと向かう。  木を水で濡らしたような深い色を湛えた廊下の壁には部屋からはみ出た棚が並び、現役時代の資料や本が整然と詰め込まれている。そのおかげで廊下は丁度人ひとり分の幅しかなく、アランとザナトアがすれ違う時にはアランが壁に背中を張り付けてできるだけ道を作り、ザナトアが通り過ぎるのを待つのが通例であった。  ザナトアの私室は廊下を左角に曲がった突き当たりにある。  扉を開けたままにした部屋を覗きこむと、赤紫の上品なスカーフを首に巻いて、灰色のゆったりとしたロングスカートにオフホワイトのシャツを合わせ――襟元を飾る小さなフリルが邪魔のない小洒落た雰囲気を醸し出している――シルク地のような軟らかな黒い生地の上着を羽織っていた。何度も洗って生地が薄くなり、いくつも糸がほつれても放っている普段着とは随分雰囲気が異なって、よそいきを意識している。その服で、小さなスーツケースに細かい荷物を詰めていた。 「服、良いですね」 「ん?」  声をかけられたザナトアは振り返り、顔を顰める。 「そんな世辞はいらないよ」 「お世辞じゃないですよ。スカーフ、似合ってます」  ザナトアは鼻を鳴らす。 「一応、ちゃんとした祭だからね」 「本番は、明日ですよ」 「解ってるさ。むしろ明日はこんなひらひらした服なんて着てられないよ」 「挨拶回りがあるんですっけ」 「そう。面倒臭いもんさね」  大きな溜息と共に、刺々しく呟く。ここ数日、ザナトアはその愚痴を繰り返しアランに零していた。野生ポケモンの保護に必要な経費を市税から貰っているため、定期的に現状や成果を報告する義務があり、役所へ向かい各資料を提出するだの議員に顔を見せるだの云々、そういったこまごまとした仕事が待っているのだという。仕方の無いことではあると理解しているが、気の重さも隠そうともせず、アランはいつも引き攣り気味に苦笑していた。  まあまあ、とアランは軽く宥めながら、ザナトアの傍に歩み寄る。 「荷造り、手伝いましょうか」 「いいよ。もう終わったところだ。後は閉めるだけ」 「閉めますよ」  言いながら、辛うじて抱え込めるような大きさのスーツケースに手をかけ、ファスナーを閉じる。 「あと持つ物はありますか」 「いや、それだけ。あとはリビングにあるリュックに、ポケモン達の飯やらが入ってる」 「分かりました」  持ち手を右手に、アランは鞄を持ち上げる。悪いねえ、と言いつつ、ザナトアが先行してリビングルームに戻っていくと、アランのポケモン達はソファの傍に並んで休んでおり、窓硝子で遊んでいたフカマルはエーフィと話し込んでいた。 「野生のポケモン達は、どうやって連れていくんですか?」  ここにいるポケモン達はモンスターボールに戻せば簡単に町に連れて行ける。しかし、レースに出場する予定のポケモン達は全員が野生であり、ボールという家が無い。 「あの子達は飛んでいくよ、当たり前だろ。こら、上等な服なんだからね、触るな」  おめかしをしたザナトアの洋服に興味津々といったように寄ってきたフカマルがすぐに手を引っ込める。なんにでも手を出したがる彼だが、その細かな鮫肌は彼の意図無しに容易に傷つけることもある。しゅんと項垂れる頭をザナトアは軽く撫でる。  アランとザナトアは後に丘の麓へやってくる往来のバスを使ってキリの中心地へと向かい、選手達は別行動で空路を使う。雨模様であるが、豪雨ならまだしも、しとしとと秋雨らしい勢いであればなんの問題も無いそうで、ヒノヤコマをはじめとする兄貴分が群れを引っ張る。彼等とザナトアの間にはモンスターボールとは違う信頼の糸で繋がっている。湖の傍で落ち合い、簡単にコースの確認をして慣らしてから本番の日を迎える。  出かけるまでにやんだらいいと二人で話していた雨だったが、雨脚が強くなることこそ無いが、やむ気配も無かった。バスの時間も近付いてくる頃には諦めの空気が漂い、おもむろにそれぞれ立ち上がった。 「そうだ」いよいよ出発するという直前に、ザナトアは声をあげた。「あんたに渡したいものがある」  目を瞬かせるアランの前で、ザナトアはリビングの端に鎮座している棚の引き出しから、薄い封筒を取り出した。  差し出されたアランは、緊張した面持ちで封筒を受け取った。白字ではあるが、中身はぼやけていて見えない。真顔で見つめられながら中を覗き込むと、紙幣の端が覗いた。確認してすぐにアランは顔を上げる。 「労働に対価がつくのは当然さね」 「こんなに貰えません」  僅かに狼狽えると、ザナトアは笑う。 「あんたとエーフィの労働に対しては妥当だと思うがね」 「そんなつもりじゃ……」 「貰えるもんは貰っときな。あたしはいつ心変わりするかわかんないよ」  アランは目線を足下に流す。二叉の尾を揺らす獣はゆったりとくつろいでいる。 「嫌なら返しなよ。老人は貧乏なのさ」  ザナトアは右手を差し出す。返すべきかアランは迷いを見せると、すぐに手は下ろされる。 「冗談だよ。それともなんだ、嬉しくないのか?」  少しだけアランは黙って、首を振った。 「嬉しいです」 「正直でいい」  くくっと含み笑いを漏らす。 「あんたは解りづらいね。町に下るんだから、ポケモン達に褒美でもなんでも買ってやったらいいさ。祭は出店もよく並んで、なに、楽しいものだよ」 「……はい」  アランは元の通り封をして、指先で強く封筒を握りしめた。  やまない雨の中、各傘を差し、アランは自分のボストンバッグとポケモン達の世話に必要な道具や餌を詰めたリュックを背負う。ザナトアのスーツケースはエーフィがサイコキネシスで運ぶが、出来る限り濡れないように器用にアランの傘の下で位置を保つ。殆ど手持ち無沙汰のザナトアは、ゆっくりとではあるが、使い込んだ脚で長い丘の階段を下っていく。  水たまりがあちこちに広がり、足下は滑りやすくなっていた。降りていく景色はいつもより灰色がかっており、晴れた日は太陽を照り返して高らかに黄金を放つ小麦畑も、今ばかりはくすんだ色を広げていた。  傘を少しずらして雨雲を仰げば、小さな群れが羽ばたき、横切ろうとしていた。  古い車内はいつも他に客がいないほど閑散たるものだが、この日ばかりは他に数人先客がいた。顔見知りなのだろう、ザナトアがぎこちなく挨拶している隣で、アランは隠れるように目を逸らし、そそくさと座席についた。  見慣れつつあった車窓からの景色に、アランの清閑な横顔が映る。仄暗い瞳はしんと外を眺め、黙り込んでいるうちに見えてきた湖面は、僅かに波が立ち、どこか淀んでいた。 「本当に晴れるんでしょうか」 「晴れるよ」  アランが呟くと、隣からザナトアは即答した。疑いようがないという確信に満ち足りていたが、どこか諦観を含んだ口調だった。 「あたしはずうっとこの町にいるけど、気持ち悪いほどに毎年、晴れるんだよ」  祭の本番は明日だが、数週間前から準備を整えていたキリでは、既に湖畔の自然公園にカラフルなマーケットが並び、食べ物や雑貨が売られていた。伝書ポッポらしき、脚に筒を巻き付けたポッポが雨の中忙しなく空を往来し、地上では傘を指した人々が浮き足だった様子で訪れている。とはいえ、店じまいしているものが殆どであり、閑散とした雰囲気も同時に漂っていた。明日になれば揃って店を出し、楽しむ客で辺りは一層賑わうことだろう。  レースのスタート地点である湖畔からそう遠くない区画にあらかじめ宿をとっていた。毎年使っているとザナトアが話すその宿は、他に馴染んで白壁をしているが、色味や看板の雰囲気は古びており、歴史を外装から物語っていた。受付で簡単な挨拶をする様子も熟れている。いつもより上品な格好をして、お出かけをしている時の声音で話す。ザナトアもザナトアで、この祭を楽しみにしているのかもしれなかった。  チェックインを済ませ、通された部屋に入る。  いつもと違う、丁寧にシーツの張られたベッド。二つ並んだベッドでザナトアは入り口から見て奥を、アランは手前を使うこととなった。 「あんたは、休んでおくかい?」  挨拶回りを控えているのだろうザナトアは、休憩もほどほどにさっさと出かけようとしていた。連れ出してきた若者の方が顔に疲労が滲んでいる。彼女はあのポッポの事件以来、毎晩を卵屋で過ごしていた。元々眠りが浅い日々が続いていたが、満足な休息をとれていなかったところに、山道を下るバスの激しい振動が堪えたようである。  言葉に甘えるように、力無くアランは頷いた。スペアキーを部屋に残し、ザナトアは雨中へと戻っていった。  アランは背中からベッドに沈み込む。日に焼けたようにくすんだ雰囲気はあるものの、清潔案のある壁紙が貼られた天井をしんと眺めているところに、違う音が傍で沈む。エーフィがベッド上に乗って、アランの視界を遮った。蒼白のまま��すかに笑み、細い指でライラックの体毛をなぞる。一仕事を済ませた獣は、雨水を吸い込んですっかり濡れていた。 「ちょっと待って」  重い身体を起こし、使い古した薄いタオルを鞄から取り出してしなやかな身体を拭いてくなり、アランの手の動きに委ねる。一通り全身を満遍なく拭き終えたら、自然な順序のように二つのモンスターボールを出した。  アランの引き連れる三匹が勢揃いし、色の悪かったアランの頬に僅かに血色が戻る。  すっかり定位置となった膝元にアメモースがちょこんと座る。 「やっぱり、私達も、外、出ようか」  口元に浮かべるだけの笑みで提案すると、エーフィはいの一番に嬉々として頷いた。 「フカマルに似たね」  からかうように言うと、とうのエーフィは首を傾げた。アメモースはふわりふわりと触角を揺らし、ブラッキーは静かに目を閉じて身震いした。  後ろで小さく結った髪を結び直し、アランはポケモン達を引き連れて外へと出る。祭の前日とはいえ、雨模様。人通りは少ない。左腕でアメモースを抱え、右手で傘を持つ。折角つい先程丁寧に拭いたのに、エーフィはむしろ喜んで秋雨の中に躍り出た。強力な念力を操る才能に恵まれているが故に頼られるばかりだが、責務から解放され、謳歌するようにエーフィは笑った。対するブラッキーは夜に浮かぶ月のように平静な面持ちで、黙ってアランの傍に立つ。角張ったようなぎこちない動きで歩き始め、アランはじっと観察する視線をさりげなく寄越していたが、すぐになんでもなかったように滑らかに隆々と歩く。  宿は少し路地に入ったところを入り口としており、ゆるやかな坂を下り、白い壁の並ぶ石畳の道をまっすぐ進んで広い道に出れば、車の往来も目立つ。左に進めば駅を中心として賑やかな町並みとなり、右に進めば湖に面する。  少しだけ立ち止まったが、導かれるように揃って湖の方へと足先を向けた。  道すがら、祭に向けた最後の準備で玄関先に立つ人々とすれ違った。  建物の入り口にそれぞれかけられたランプから、きらきらと光を反射し雨風にゆれる長い金色の飾りが垂れている。金に限らず、白や赤、青に黄、透いた色まで、様々な顔ぶれである。よく見ればランプもそれぞれで意匠が異なり、角張ったカンテラ型のものもあるが、花をモチーフにした丸く柔らかなデザインも多い。花の種類もそれぞれであり、道を彩る花壇と合わせ、湿った雨中でも華やかであったが、ランプに各自ぶら下がる羽の装飾は雨に濡れて乱れたり縮こまったりしていた。豊作と  とはいえ、生憎の天候では外に出ている人もそう多くはない。白壁が並ぶ町を飾る様はさながらキャンバスに鮮やかな絵を描いているかのようだが、華やかな様相も、雨に包まれれば幾分褪せる。  不揃いな足並みで道を辿る先でのことだった。  雨音に満ちた町には少々不釣り合いに浮く、明るい子供の声がして、俯いていたアランの顔が上向き、立ち止まる。  浮き上がるような真っ赤なレインコートを着た、幼い男児が勢い良く深い水溜まりを踏みつけて、彼の背丈ほどまで飛沫があがった。驚くどころか一際大きな歓声があがって、楽しそうに何度も踏みつけている。拙いダンスをしているかのようだ。  アランが注目しているのは、はしゃぐ少年ではない。その後ろから彼を追いかけてきた、男性の方だ。少年に見覚えは無いが、男には既視感を抱いているだろう。数日前、町に下りてエクトルと密かに会った際に訪れた、喫茶店の店番をしていたアシザワだった。  たっぷりとした水溜まりで遊ぶ少年に、危ないだろ、と笑いながら近付いた。激しく跳びはねる飛沫など気にも留めない様子だ。少年はアシザワがやってくるとようやく興奮がやんだように動きを止めて破顔した。丁寧にコーヒーを淹れていた大きな手が少年に差し伸べられ、それより一回りも二回りも小さな幼い手と繋がった。アシザワの背後から、またアランにとっては初対面の女性がやってくる。優しく微笑む、ほっそりとした女性だった。赤毛のショートカットは、こざっぱりな印象を与える。雨が滴りてらてらと光るエナメル地の赤いフードの下で笑う少年も、同色のふんわりとした巻き毛をしている。  アランのいる場所からは少し距離が離れていて、彼等はアランに気付く気配が無かった。まるで気配を消すようにアランは静かに息をして、小さな家族が横切って角に消えるまでまじまじと見つめる。彼女から声をかけようとはしなかった。  束の間訪れた偶然が本当に消えていっただろう頃合いを見計らって、アランは再び歩き出した。疑問符を顔に浮かべ���主を見上げていた獣達もすぐさま追いかける。  吸い込まれていった横道にアランはさりげなく視線を遣ったが、またどこかの道を曲がっていったのか、でこぼことした三人の背中も、あの甲高い声も、小さな幸福を慈しむ春のような空気も、まるごと消えていた。  薄い睫毛が下を向く。少年が踊っていた深い水溜まりに静かに踏み込んだ。目も眩むような小さな波紋が無限に瞬く水面で、いつのまにか既に薄汚れた靴に沿って水玉が跳んだ。躊躇無く踏み抜いていく。一切の雨水も沁みてはいかなかった。  道なりを進み、道路沿いに固められた堤防で止まり、濡れて汚れた白色のコンクリートに構わず、アランは手を乗せた。  波紋が幾重にも湖一面で弾け、風は弱いけれど僅かに波を作っていた。水は黒ずみ、雨で起こされた汚濁が水面までやってきている。  霧雨のような連続的な音。すぐ傍で傘の布地を叩く水音。 全てが水の中に埋もれていくような気配がする。 「……昔ね」  ぽつり、とアランは言う。たもとに並ぶ従者、そして抱きかかえる仲間に向けてか、或いは独り言のように、話し始める。 「ウォルタにいた時、それも、まだずっと小さかった頃、強い土砂降りが降ったの。ウォルタは、海に面していて川がいくつも通った町だから、少し強い雨がしばらく降っただけでも増水して、洪水も起こって、道があっという間に浸水してしまうような町だった。水害と隣り合わせの町だったんだ。その日も、強い雨がずっと降っていた。あの夏はよく夕立が降ったし、ちょうど雨が続いていた頃だった。外がうるさくて、ちょっと怖かったけど、同時になんだかわくわくしてた。いつもと違う雨音に」  故郷を語るのは彼女にしては珍しい。  此度、キリに来てからは勿論、旅を振り返ってもそう多くは語ってこなかった。特に、彼女自身の思い出については。彼女は故郷を愛してはいるが、血生臭い衝撃が過去をまるごと上塗りするだけの暴力性を伴っており、ひとたびその悪夢に呑み込まれると、我慢ならずに身体は拒否反応を起こしていた。  エーフィは堤防に上がり、間近から主人の顔を見やる。表情は至って冷静で、濁る湖面から目を離そうとしない。 「たくさんの川がウォルタには流れているけど、その一つ一つに名前がつけられていて、その中にレト川って川があったんだ。小さくもないけど、大きいわけでもない。幅は、どのくらいだったかな。十メートルくらいになるのかな。深さもそんなになくて、夏になると、橋から跳び込んで遊ぶ子供もいたな。私とセルドもよくそうして遊んだ。勿論、山の川に比べれば町の川は澄んではいないんだけど、泳いで遊べる程度にはきれいだったんだ。跳び込むの、最初は怖いんだけどね、慣れるとそんなこともなくなって。子供って、楽しいこと何度も繰り返すでしょ。ずっと水遊びしてたな。懐かしい」  懐古に浸りながらも、笑むことも、寂しげに憂うこともなく、淡々とアランは話す。 「それで、さっきのね、夏の土砂降りの日、レト川が氾濫したの。私の住んでた、おばさん達の家は遠かったし高台になっていたから大丈夫だったけど、低い場所の周囲の建物はけっこう浸かっちゃって。そんな大変な日に、セルドが、こっそり外に出て行ったの。気になったんだって。いつのまにかいなくなってることに気付いて、なんだか直感したんだよね。きっと、外に行ってるって。川がどうなっているかを見に行ったんだって。そう思ったらいてもたってもいられなくて、急いで探しにいったんだ」  あれはちょっと怖かったな、と続ける。 「川の近くがどうなってるかなんて想像がつかなかったけど、すごい雨だったから、子供心でもある程度察しは付いてたんだと思う。近付きすぎたら大変なことになるかもしれないって。けっこう、必死で探したなあ。長靴の中まで水が入ってきて身体は重たかったけど、見つけるまでは帰れないって。結局、すごい勢いになったレト川の近くで、突っ立ってるセルドを見つけて、ようやく見つけて私も、怒るより安心して、急いで駆け寄ったら、あっちも気付いて、こうやって、二人とも近付いていって」アランは傘を肩と顎で挟み込むように引っかけ、アメモースを抱いたまま両手の人差し指を近付ける。「で、そこにあった大きな水溜まりに、二人して足をとられて、転んじゃったの」すてん、と指先が曲がる。  そこでふと、アランの口許が僅かに緩んだ。 「もともと随分濡れちゃったけど、いよいよ頭からどぶにでも突っ込んだみたいに、びしょびしょで、二人とも涙目になりながら、手を繋いで帰ったっていう、そういう話。おばさんたち、怒ったり笑ったり、忙しい日だった。……よく覚えてる。間近で見た、いつもと違う川。とても澄んでいたのに、土色に濁って、水嵩は何倍にもなって。土砂降りの音と、水流の音が混ざって、あれは怖かったけど、それでもどこかどきどきしてた。……この湖を見てると、色々思い出す。濁っているからかな。雨の勢いは違うのに。それとも、さっきの、あの子を見たせいかな」  偶然見かけた姿。水溜まりにはしゃいで、てらてらと光る小さな赤いレインコート。無邪気な男児を挟んで繋がれた手。曇りの無い家族という形。和やかな空気。灰色に包まれた町が彩られる中、とりわけ彩色豊かにアランの目の前に現れた。  彼女の足は暫く止まり、一つの家族をじっと見つめていた。 「……あの日も」  目を細め、呟く。 「酷い雨だった」  町を閉じ込める霧雨は絶えない。  傘を握り直し、返事を求めぬ話は途切れる。  雨に打たれる湖を見るのは、アランにとって初めてだった。よく晴れていれば遠い向こう岸の町並みや山の稜線まではっきり見えるのだが、今は白い靄に隠されてぼやけてしまっている。  青く、白く、そして黒々とした光景に、アランは身を乗り出し、波発つ水面を目に焼き付けた。 「あ」  アランは声をあげる。  見覚えのある姿が、湖上を飛翔している。一匹ではない。十数匹の群衆である。あの朱い体毛と金色の翼は、ほんの小さくとも鮮烈なまでに湖上に軌跡を描く。引き連れる翼はまたそれぞれの動きをしているが、雨に負けることなく、整然とした隊列を組んでいた。  ザナトアがもう現地での訓練を開始したのだろうか。この雨の中で。  エーフィも、ブラッキーも、アメモースも、アランも、場所を変えても尚美しく逞しく飛び続ける群衆から目を離せなかった。  エーフィが甲高い声をあげた。彼女は群衆を呼んでいた。あるいは応援するように。アランはちらと牽制するような目線を送ったが、しかしすぐに戻した。  気付いたのか。  それまで直線に走っていたヒノヤコマが途中できったゆるやかなカーブを、誰もが慌てることなくなぞるように追いかける。雨水を吸い込んでいるであろう翼はその重みを感じさせず軽やかに羽ばたき、灰色の景色を横切る。そして、少しずつだが、その姿が大きくなってくる。アラン達のいる湖畔へ向かっているのだ。  誰もが固唾を呑んで彼等を見つめる。  正しく述べれば、彼等はアラン達のいる地点より離れた地点の岸までやってきて、留まることなく堤防沿いを飛翔した。やや高度を下げ、翼の動きは最小限に。それぞれで体格も羽ばたきも異なるし、縦に伸びる様は速度の違いを表した。先頭は当然のようにリーダー格であるヒノヤコマ、やや後方にピジョンが並び、スバメやマメパト、ポッポ等小さなポケモンが並び、間にハトーボーが挟まり中継、しんがりを務めるのはもう一匹の雄のピジョンである。全く異なる種族の成す群れの統率は簡単ではないだろうが、彼等は整然としたバランスで隊列を乱さず、まるで一匹の生き物のように飛ぶ。  彼等は明らかにアラン達に気付いているようだ。炎タイプを併せ持ち、天候条件としては弱ってもおかしくはないであろうヒノヤコマが、気合いの一声を上げ、つられて他のポケモン達も一斉に鳴いた。それはアラン達の頭上を飛んでいこうとする瞬きの出来事であった。それぞれの羽ばたきがアラン達の上空で強かにはためいた。アランは首を動かす。声が出てこなかった。彼等はただ見守る他無く、傘を下ろし、飛翔する生命の力強さに惹かれるように身体ごと姿を追った。声は近づき、そして、頭上の空を掠めていって、息を呑む間もなく、瞬く間に通り過ぎていった。共にぐるりと首を動かして、遠のいていく羽音がいつまでも鼓膜を震わせているように、じっと後ろ姿を目で追い続けた。  呆然としていたアランが、いつの間にか傘を離して開いていた掌を、空に向けてかざした。 「やんでる」  ぽつん、ぽつりと、余韻のような雨粒が時折肌を、町を、湖上をほんのかすかに叩いたけれど、そればかりで、空気が弛緩していき、湿った濃厚な雨の匂いのみが充満する。  僅かに騒いだ湖は、変わらず深く藍と墨色を広げているばかりだ。  栗色の瞳は、アメモースを一瞥する。彼の瞳は湖よりもずっと深く純粋な黒を持つが、輝きは秘めることを忘れ、じっと、鳥ポケモンたちの群衆を、その目にも解らなくなる最後まで凝視していた。  アランは、語りかけることなく、抱く腕に頭に埋めるように、彼を背中から包むように抱きしめた。アメモースは、覚束ない声をあげ、影になったアランを振り返ろうとする。長くなった前髪に顔は隠れているけれど、ただ、彼女はそうすることしかできないように、窺い知れない秘めたる心ごとまとめて、アメモースを抱く腕に力を込めた。
 夕陽の沈む頃には完全に雨は止み、厚い雨雲は通り過ぎてちぎれていき、燃え上がるような壮大な黄昏が湖上を彩り、町民や観光客の境無く、多くの人間を感嘆させた。  綿雲の黒い影と、太陽の朱が強烈なコントラストを作り、その背後は鮮烈な黄金から夜の闇へ色を重ねる。夜が近付き生き生きと羽ばたくヤミカラス達が湖を横断する。  光が町を焼き尽くす、まさに夕焼けと称するに相応しい情景である。  雨がやんで、祭の前夜に賑わいを見せ始めた自然公園でアランは湖畔のベンチに腰掛けている。ちょうど座りながら夕陽の沈む一部始終を眺めていられる特等席だが、夕方になるよりずっと前から陣取っていたおかげで独占している。贅沢を噛みしめているようには見えない無感動な表情ではあったが、栗色の双眸もまた強烈な光をじっと反射させ、輝かせ、燃え上がっていた。奥にあるのは光が届かぬほどの深みだったとしても、それを隠すだけの輝かしい瞳であった。  数刻前、ザナトアと合流したが、老婆は今は離れた場所でヒノヤコマ達に囲まれ、なにやら話し込んでいるようだった。一匹一匹撫でながら、身体の具合を直接触って確認している。スカーフはとうにしまっていて、皮を剥いだ分だけ普段の姿に戻っていた。  アランの背後で東の空は薄い群青に染まりかけて、小さな一等星が瞬いている。それを見つけたフカマルはベンチの背もたれから後方へ身を乗り出し、ぎゃ、と指さし、隣に立つエーフィが声を上げ、アランの足下でずぶ濡れの芝生に横になるブラッキーは、無関心のように顔を埋めたまま動かなかった。  膝に乗せたアメモースの背中に、アランは話しかけた。 「祭が終わったら、ザナトアさんに飛行練習の相談をしてみようか」  なんでもないことのように呟くアランの肩は少し硬かったけれど、いつか訪れる瞬間であることは解っていただろう。  言葉を交わすことができずとも、生き物は時に雄弁なまでに意志を語る。目線で、声音で、身体で。 「……あのね」柔らかな声で語りかける。「私、好きだったんだ。アメモースの飛んでいく姿」  多くの言葉は不要だというように、静かに息をつく。 「きっと、また飛べるようになる」 アメモースは逡巡してから、そっと頷いた。  アランは、納得するように同じ動きをして、また前を向いた。  ザナトアはオボンと呼ばれる木の実をみじん切りにしたものを選手達に与えている。林の一角に生っている木の実で、特別手をかけているわけではないが、秋が深くなってくるとたわわに実る。濃密なみずみずしさ故に過剰に食べると下痢を起こすこともありザナトアはたまにしか与えないが、疲労や体力の回復を促すのには最適なのだという。天然に実る薬の味は好評で、忙しなく啄む様子が微笑ましい。  アランは静寂に耳を澄ませるように瞼を閉じる。  何かが上手くいっている。  消失した存在が大きくて、噛み合わなかった歯車がゆっくりとだが修正されて、新しい歯車とも合わさって、世界は安らかに過ぎている。  そんな日々を彼女は夢見ていたはずだ。どこかのびのびと生きていける、傷を癒やせる場所を求めていたはずだった。アメモースは飛べないまま、失われたものはどうしても戻ってこないままで、ポッポの死は謎に埋もれているままだけれど、時間と新たな出会��と、深めていく関係性が喪失を着実に埋めていく。  次に瞳が顔を出した時には、夕陽は湖面に沈んでいた。  アランはザナトアに一声かけて、アメモースを抱いたまま、散歩に出かけることにした。  エーフィとブラッキーの、少なくともいずれかがアランの傍につくことが通例となっていて、今回はエーフィのみ立ち上がった。  静かな夜になろうとしていた。  広い自然公園の一部は明日の祭のため準備が進められている出店や人々の声で賑わっているが、離れていくと、ザナトアと同様明日のレースに向けて調整をしているトレーナーや、家族連れ、若いカップルなど、点々とその姿は見えるものの、雨上がりとあってさほど賑わいも無く、やがて誰も居ない場所まで歩を進めていた。遠い喧噪とはまるで無縁の世界だ。草原の騒ぐ音や、ざわめく湖面の水音、濡れた芝生を踏みしめる音だけが鳴る沈黙を全身で浴びる。  夏を過ぎてしまうと、黄昏時から夜へ転じるのは随分と早くなってしまう。ゆっくりと歩いている間に、足下すら満足に見られないほど辺りは暗闇に満ちていた。  おもむろに立ち止まり、アランは湖を前に、目を見開く。 「すごい」  湖に星が映って、ささやかなきらめきで埋め尽くされる。  あまりにも広々とした湖なので、視界を遮るものが殆ど無い。晴天だった。秋の星が、ちりばめられているというよりも敷き詰められている。夜空に煌めく一つ一つが、目を凝らせば息づいているように僅かに瞬いている。視界を全て埋め尽くす。流星の一つが過ったとしても何一つおかしくはない。宇宙に放り込まれたように浸り、ほんの少し言葉零すことすら躊躇われる時間が暫く続いた。  夜空に決して手は届かない。思い出と同じだ。過去には戻れない。決して届かない。誰の手も一切届かない絶対的な空間だからこそ、時に美しい。  ――エーフィの、声が、した。  まるで尋ねるような、小さな囁きに呼ばれたようにアランはエーフィに視線を移した、その瞬間、ひとつの水滴が、シルクのように短く滑らかな体毛を湿らせた。  ほろほろと、アランの瞳から涙が溢れてくる。  夜の闇に遮られているけれど、感情の機微を読み取るエーフィには、その涙はお見通しだろう。  闇に隠れたまま、アランは涙を流し続けた。凍りついた表情で。  それはまるで、氷が瞳から溶けていくように。 「……」  その涙に漸く気が付いたとでも言うように、アランは頬を伝う熱を指先でなぞった。白い指の腹で、雫が滲む。  彼女の口から温かな息が吐かれて、指が光る。 「私、今、考えてた、」  澄み渡った世界に浸る凍り付いたような静寂を、一つの悲鳴が叩き割った。それが彼女らの耳に届いてしまったのは、やはり静寂によるものだろう。  冷えた背筋で振り返る。 星光に僅かに照らされた草原をずっとまっすぐ歩いていた。聞き違いと流してもおかしくないだろうが、アランの耳はその僅かな違和を掴んでしまった。ただごとではないと直感する短い絶叫を。  涙を忘れ、彼女は走っていた。  緊迫した心臓は時間が経つほどに烈しく脈を刻む。内なる衝動をとても抑えきれない。  夜の散歩は彼女の想像よりも長い距離を稼いでいたようだが、その黒い視界にはあまりにも目立つ蹲る黄色い輪の輝きを捉えて、それが何かを察するまでには、時間を要しなかっただろう。  足を止め、凄まじい勢いで吹き出す汗が、急な走行によるものか緊張による冷や汗によるものか判別がつかない。恐らくはどちらもだった。絶句し、音を立てぬように近付いた。相手は元来慎重な性格であった。物音には誰よりも敏感だった。近付いてくる足音に気付かぬほど鈍い生き物ではない。だが、ここ最近様子が異なっていることは、彼女も知るところであった。  闇に同化する足がヤミカラスを地面に抑え付けている。野生なのか、周囲にトレーナーの姿は無い。僅かな光に照らされた先で、羽が必死に藻掻こうとしているが、完全に上を取られており、既に喉は裂かれており声は出ない。  鋭い歯はその身体に噛み付き、情など一切見せない様子で的確に抉っている。  光る輪が揺れる。  静かだが、激しい動きを的確に夜に印す。  途方に暮れる栗色の瞳はしかし揺るがない。焼き付けようとしているように光の動きを見つめた。夜に照るあの光。暗闇を暗闇としない、月の分身は、炎の代わりになって彼女の暗闇に寄り添い続けた。その光が、獣の動きで弱者を貪る。  硬直している主とは裏腹に、懐から電光石火で彼に跳び込む存在があった。彼と双璧を成す獣は鈍い音を立て相手を突き飛ばした。  息絶え絶えのヤミカラスは地に伏し、その傍にエーフィが駆け寄る。遅れて、向こう側から慌てた様子のフカマルが短い足で必死に走ってきた。  しかし、突き放されたブラッキーに電光石火一つでは多少のダメージを与えることは叶っても、気絶させるほどの威力には到底及ばない。ゆっくりと身体をもたげ、低い唸り声を鳴らし、エーフィを睨み付ける。対するエーフィもヤミカラスから離れ、ブラッキーに相対する。厳しい睨み合いは、彼等に訪れたことのない緊迫を生んだ。二匹とも瞬時に距離を詰める技を会得している。間合いなどあってないようなものである。  二対の獣の間に走る緊張した罅が、明らかとなる。 「やめて!」  懇願する叫びには、悲痛が込められていた。  ブラッキーの耳がぴくりと動く。真っ赤な視線が主に向いた時、怨念ともとれるような禍々しい眼光にアランは息を詰める。それは始まりの記憶とも、二度目の記憶とも重なるだろう。我を忘れ血走った獣の赤い眼。決して忘れるはずのない、彼女を縫い付ける殺戮の眼差し。  歯を食いしばり、ブラッキーは足先をアランに向ける。思わず彼女の足が後方へ下がったところを、すかさずエーフィが飛びかかった。  二度目の電光石火。が、同じ技を持ち素早さを高め、何より夜の化身であるブラッキーは、その動きを見切れぬほど鈍い生き物ではなかった。  闇夜にもそれとわかる漆黒の波動が彼を中心に波状に放射される。悪の波動。エーフィには効果的であり、いとも簡単に彼女を宙へ跳ね返し、高い悲鳴があがる。ブラッキーの放つ禍々しい様子に立ち尽くしたフカマルも、為す術無く攻撃を受け、地面を勢いよく転がっていった。間もなくその余波はアラン達にも襲いかかる。生身の人間であるアランがその技を見切り避けられるはずもなく、躊躇無くアメモースごと吹き飛ばした。その瞬間に弾けた、深くどす黒い衝撃。悲鳴をあげる間も無く、低い呻き声が零れた。  腕からアメモースは転がり落ち、地面に倒れ込む。アランは暫く起き上がることすら満足にできず、歪んだ顔で草原からブラッキーを見た。黒い草叢の隙間から窺える、一匹、無数に散らばる星空を背に孤高に立つ獣が、アランを見ている。  直後、彼は空に向かって吠えた。  ひりひりと風は絶叫に震撼する。  困惑に歪んだ彼等を置き去りにして、ブラッキーは走り出した。踵を返したと思えば、脱兎の如く湖から離れていく。 「ブラッキー! 待って!!」  アランが呼ぼうとも全く立ち止まる素振りを見せず、光の輪はやがて黒に塗りつぶされてしまった。  呆然と彼等は残された。  沈黙が永遠に続くかのように、誰もが絶句し状況を飲み込めずにいた。  騒ぎを感じ取ったのか、遅れてやってきたザナトアは、ばらばらに散らばって各々倒れ込んでいる光景に言葉を失う。 「何があったんだい!」  怒りとも混乱ともとれる勢いでザナトアは強い足取りで、まずは一番近くにいたフカマルのもとへ向かう。独特の鱗で覆われたフカマルだが、戦闘訓練を行っておらず非常に打たれ弱い。たった一度の悪の波動を受け、その場で気を失っていた。その短い手の先にある、光に照らされ既に息絶えた存在を認めた瞬間、息を詰めた。 「アラン!」  今度はアランの傍へやってくる。近くでアメモースは蠢き、アランは強力な一撃による痛みを堪えるように、ゆっくりと起き上がる。 「ブラッキーが」  攻撃が直接当たった腹部を抑えながら、辛うじて声が出る。勢いよく咳き込み、呼吸を落ち着かせると、もう一度口を開く。 「ブラッキー、が、ヤミカラスを……!」 「あんたのブラッキーが?」  アランは頷く。 「何故、そんなことが」 「私にも、それは」  アランは震える声を零しながら、首を振る。  勿論、野生ならば弱肉強食は自然の掟だ。ブラッキーという種族とて例外ではない。しかし、彼は野生とは対極に、人に育てられ続けてきたポケモンである。無闇に周囲を攻撃するほど好戦的な性格でもない。あの時、彼は明らかに自我を失っているように見えた。  動揺しきったアランを前に、ザナトアはこれ以上の詮索は無意味だと悟った。それより重要なことがある。ブラッキーを連れ戻さなければならない。 「それで、ブラッキーはどこに行ったんだ」 「分かりません……さっき、向こう側へ走って行ってそのままどこかへ」  ザナトアは一度その場を離れ老眼をこらすが、ブラッキーの気配は全く無い。深い暗闇であるほどあの光の輪は引き立つ。しかしその片鱗すら見当たらない。  背後で、柵にぶつかる音がしてザナトアが振り向く。よろめくアランが息を切らし、柵に寄りかかる。 「追いかけなきゃ……!」 「落ち着きな。夜はブラッキーの独壇場だよ。これほど澄んだ夜で血が騒いだのかもしれない。そうなれば、簡単にはいかない」 「でも、止めないと! もっと被害が出るかもしれない!」 「アラン」 「ザナトアさん」  いつになく動揺したアランは、俯いてザナトアを見られないようだった。 「ポッポを殺したのも、多分」  続けようとしたが、その先を断言するのには躊躇いを見せた。  抉られた首には、誰もが既視感を抱くだろう。あの日の夜、部屋にはいつもより風が吹き込んでいた。万が一にもと黒の団である可能性も彼女は考慮していたが、より近しい、信頼している存在まで疑念が至らなかった。誰も状況を理解できていないだろう。時に激情が垣間見えるが、基は冷静なブラッキーのことである。今までこのような暴走は一度として無かった。しかし、ブラッキーは、明らかに様子が異なっていた。アランはずっと気付いていた。気付いていたが、解らなかった。  闇夜に塗り潰されて判別がつかないが、彼女の顔は蒼白になっていることだろう。一刻も早く、と急く言葉とは裏腹に、足は僅かに震え、竦んでいるようだった。 「今はそんなことを言ってる場合じゃない。しゃんとしな!」  アランははっと顔を上げ、険しい老婆の視線に射止められる。 「動揺するなという方が無理だろうが、トレーナーの揺らぎはポケモンに伝わる」  いいかい、ザナトアは顔を近付ける。 「いくら素早いといえど、そう遠くは行けないだろう。悔しいがあたしはそう身軽には動けない。この付近でフカマルとアメモースと待っていよう。もしかしたら戻ってくるかもしれない。それに人がいるところなら、噂が流れてくるかもしれないからね。ここらを聞いて回ろう。あんたは市内をエーフィと探しな。……場所が悪いね。あっちだったら、ヨルノズク達がいるんだが……仕方が無いさね」  大丈夫、とザナトアはアランの両腕を握る。 「必ず見つけられる。見つけて、ボールに戻すことだけを考えるんだ。何故こうなったかは、一度置け」  老いを感じさせない強力な眼力を、アランは真正面から受け止めた。 「行けるね?」  問われ、アランはまだ隠せない困惑を振り払うように唇を引き締め、黙って頷いた。  ザナトアは力強くアランの身体を叩き、激励する。  捜索は夜通し続いた。  しかしブラッキーは一向に姿を見せず、光の影を誰も見つけることはできなかった。喉が嗄れても尚ブラッキーを呼び続けたアランだったが、努力は虚しく空を切る。エーフィも懸命に鋭敏な感覚を研ぎ澄ませ縦横無尽に町を駆け回り、ザナトアも出来る限り情報収集に励んだが、足取りを掴むには困難を極めた。  殆ど眠れぬ夜を過ごし、朝日が一帯を照らす。穏やかな水面が小さなきらめきを放つ。晴天の吉日と水神が指定したこの日は、まるで誰かに仕組まれていたように雲一つ無い朝から始まる。  キリが沸き立つ、秋を彩る祭の一日が幕を開けた。 < index >
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sukebanfactory · 2 years
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蒼羽もぐ汰さん(@kupoooooooo)
Lycocris Recoil cute cosplay
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zunkopic · 5 years
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RT @ankoomori: <再告知❗> 仙台アニメフェスに大森杏子ブース参加しますーっ!19日(土)、20日(日)の2日間で、両日とも大森レイヤーが変わるよ!!😆✨ 19日(土):蒼羽もぐ汰さん(@kupoooooooo) 20日(日):もえもえさん(@nyaako_ronya) ◎会場:夢メッセみやぎ ◎時間:10時〜17時 ぜひ遊びにきてねぇ💕 https://t.co/gjyQNf84vn (via Twitter http://twitter.com/t_zunko/status/1185380345517993984)
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plumayu1 · 5 years
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sora_nanami _ 20190506 Melty撮影会 2部 蒼羽もぐ汰さん(@kupoooooooo ) #Melty撮影会 #Melty大撮影会 https://t.co/wJmXN6wC5X
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terarin08 · 4 years
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『蒼羽もぐ汰さん』
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tv-video · 7 years
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仮面ライダーフォーゼ 第28話
仮面ライダーフォーゼ 第28話「星・嵐・再・起」 ■内容・ストーリー 超新星の力を手にしたキャンサーノヴァの猛攻撃。大苦戦のフォーゼ。だが、タチバナはメテオの変身を承認してくれない…… そしてキャンサーは流星から魂リングを抜き、「教室で待っている」と言い残して去るのだった。 流星の元に病院から連絡がかかってくる。「二郎の容態が悪化した」というのだ! 今すぐにでも行きたい。でも魂を握られている以上、鬼島に会いに行かなくてはならない。 どうすれば…悩む流星。その通話を弦太朗が聞いていて――― ■キャスト 如月弦太朗 : 福士蒼汰 歌星賢吾 : 高橋龍輝 城島ユウキ : 清水富美加 朔田流星 : 吉沢亮 風城美羽 : 坂田梨香子 大文字隼 : 冨森ジャスティン 野座間友子 : 志保 JK : 土屋シオン 大杉忠太 : 田中卓志 我望光明 : 鶴見辰吾  仮面ライダーフォーゼ 第28話 …
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robatani · 7 years
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剣と魔法少女(その2)
 口入屋のロウナはやり手の女で、おれのような腕を持て余した技自慢の者達に仕事を斡旋する傍ら酒場付の宿を経営してそう言った輩を宿泊させている。元騎士や仕事にあぶれた傭兵どもには荒事を、学者や才能に恵まれない魔術師、雇い主を失った元官吏等には頭脳仕事を。それぞれに合った仕事を斡旋しロウナがおれたちに稼がせた金は酒代やら宿賃やらで巡り巡っておれたちの懐からすり抜けてロウナの懐に帰っていくという寸法で、ある意味詐欺じゃないかとも思える。だが、料理はうまいし部屋も粗末ながら心地よいしで誰も不幸になってはいないため、何だかんだで長い付き合いであるしロウナの店は実際繁盛している。おれも彼女の元で仕事を貰いながら、普段は店の用心棒をしてなんとか食いつないでいる。  襤褸を外套代わりに着せたサフィ――名家の令嬢じみた無難な方の服になっている――といつもの何倍も疲れた顔のおれがロウナの宿、金鶏亭へとたどり着いたのは夜近くのことだった。恥ずかしながら道に迷っていたのが一つ。ライヤボードの裏道は場所によっては異界に通じていると噂される位入り組んでいて、実際入ったまま出て来なくなる奴も多い。目立つサフィをどうやって連れて行こうかで右往左往していたのがもう一つ。結局行き倒れから襤褸を入手してサフィに着せた結果、面倒には巻き込まれず宿までは行けたが人目を引いたのは間違いない。サフィはサフィで行き倒れを見てわけがわからぬという顔で怯え、襤褸を剥ぎ取るおれの姿を野蛮人を見るかの如き形相で見つめ、襤褸を着るのもいやがる始末。なだめすかして脅してやっとのこと身に着けてもらったが、それでも布のすえた臭いが気になるのか時折顔をしかめている。相当恵まれた所で生活していたらしい。そういえば魔法少女云々以外の彼女のことについて全く聞いていなかった、そもそも魔法少女という概念すら魔術師の一種ではないかという推測の域を出ていない。レェロの仕事の件もどうしようもなくなってしまったが、まあ、そういった雑事は宿で一息ついてからだ――ロウナが行き場所のない(ように見える)少女(その実魔術師らしきなにか)に優しいといいんだが。
 一階の酒場の扉を開けると珍しく客は一人もいなく、黒髪を結い上げた南方風の四十女が奥の椅子に座って帳簿を付けている最中だった。これがロウナ、金鶏亭の女主人でありおれの命綱である。ロウナはおれをちらりと見てから物珍しいものを見るかのようにサフィをじろじろと眺め、話しかけてきた。 「お帰り、ケイウェン……とあらまあ。その小さい連れは何事かい」 「仕事の最中に少々な。後で詳しく話す。悪い子じゃない」 「そうかい。身なりもいいしてっきりあんたが何処からか浚って来たかと思ったが」 「冗談もほどほどにしてくれ」 「ああ、冗談だよ――で、レェロの仕事の方はどうだったんだい」 「無理だ。「手がしっかり握っている」」  ――盗賊ギルドが関わっている、と隠語で伝えた所、ロウナの快活そうな口元がへの字に歪み、眉の間に幾つもの皺が寄った。 「レェロも大概稼いでいたからねえ……とはいえ御愁傷様だ」  ロウナは損をどう埋めようかといった様子、おれの方は「で、今回の仕事は無理だったからしばらく飯代はツケにしておいてくれないか」というのをどうやって切り出そうかと考えはじめ、気まずい沈黙があたりに流れる。そんな沈黙を破ったのはサフィだった。 「やっぱり芋一個なの、ケイウェン」  それはまるでおれを心配するかのよう���、言外に「あたしの分はいいから先に食べて」と言いたそうな気配を漂わせていた。わざとであったら大した女優だし、天然だとすれば泣かせる話である。 「芋一個だろうなあ。おれは一日くらい飯が無くても大丈夫だが、サフィ」  サフィに乗っかるようにおれも続ける。サフィはそういう遊びなのね、という風に納得したのかおれの声を遮って、 「ケイウェンが食べないならあたしも我慢するわ。助けてもらったのだもの」  純真そのものの目でこちらを見上げ、素早くウィンクした。意外としたたかな所もあるらしい。はたから見たら健気で世間知らずな少女が胡乱な男にだまされている図にしか見えないのが問題だが――背に腹は代えられず、実際問題背と腹が空腹でくっ付きそうな塩梅なのだ。  客がいないのをいいことにそんなくさい芝居を延々と続けていた結果。 「もう、ケイウェンあんたは……娘っ子を騙して新しい手口を見つけて」  ロウナが折れた。中々無い風景におれは心の中で快哉を叫び、勢い余って腹が鳴った。 「芋にスープをつけとくよ。どうせ客もいないから仕込んだ料理はパアだ。……そっちの嬢ちゃんもこんな男になんで関わってるんだか。身なりもよさそうだし……ケイウェン、まさか本当に浚ったんじゃないだろうね」  立ち上がり炉の方へ向かいながらロウナは真顔で聞く。側にあった椅子に腰かけ、そりゃあ真っ先に疑われるだろうしどう説明したものかと考えあぐねていると、 「ケイウェンに助けられたのよ! 悪い男の人たちに売られそうになっていた所を抱きかかえて救ってもらったの!」  サフィの助け舟。大きく見れば嘘ではないがそのように説明されるとと違うと言いたくなるこそばゆさがある。 「へえ、ケイウェンがね。こいつが金にならないことをやるなんて初めてだよ。まるで金にならない話は受けない誓いを立てているような男なんだから」 「金にならない依頼を寄越したばっかりのあんたに言われたくない――」 「今回はレェロの説明不足が悪い。こちらも被害者さ」  ああだこうだ言いあってる間に温まったスープの香りが漂ってきた。香草をふんだんに使った南方風のピリッとした味付けで、魚のあらでだしを取った安くて食べ応えのあるロウナ特製のスープであった。酒に大層あうが今日は酒を飲んでいる余裕が懐にはない。しばらくして蒸した芋と共になみなみと盛られたスープが運ばれてきて――。 「おい、ロウナ、どういうことだ」  サフィの方も芋とスープの椀が運ばれてきていたが、それに加えて蜂蜜で漬けた木の実や果物、チーズの入った椀が付いていた。明らかに贔屓である。 「うちの店は新顔には優しくするんだよ」 「こちらに厄介になってからこの方優しくされたことないというのに」 「そりゃああんたはライヤボード生まれの古株で、私よりもこの都市に長くいるだろう」 「おばさん、この木の実美味しいわ」 「そりゃあ秘蔵のレシピだからね。まったくお嬢ちゃん、器量がいいんだから気を付けなよ。ケイウェンが来たからいいものだけど、あんたは売られる寸前だったんだから――それにケイウェンだって下心がないとは限らないだろうに」  酷い言われようであった。 「ありがとうございます。でも、大丈夫。ケイウェンはいい人だし、あたしも魔法少女としてケイウェンを手伝うことに……あいたっ」  余計なことを言うなと机の下でサフィの足を踏む。普通あまり知らない人の前で自分の素性を話したりするか? 「魔法……なんだって?」  疑問符を浮かべた顔でロウナがこちらを向く。実は、で適当な話をでっち上げて切り出す予定が面倒なことになってきた。 「詳しく話すと長い話なんだが」  おれはゆっくりと周囲を見渡してからロウナに囁きかける。 「この嬢ちゃんは魔術師――本人いわく魔法少女――らしい。それも、もしかしたら二つ名持ち並みの「本物」かもしれん。現におれはこいつが魔術を使っている所を二度三度見た。おれのボロ鎧を変え、変身し、よくよく考えれば何重にも防護呪文のかかっているだろう「ギルド」内を遠見でやすやすと覗き見た」 「そんな、この界隈じゃ奇術以上のことが出来る魔術師なんて中々見ないけれどねえ」  サフィを横目で見ながらロウナは考え込んでいる。恐らく彼女の中では得体のしれない少女を養う面倒くささと、腕の良い魔術師がタダで転がり込んでくるメリットが天秤に掛けられてゆらゆらしていることだろう。 「ケイウェン、今日は店じまいだ。片付けが終わったら上からイード先生を呼んでくるよ。詳しい話は私の部屋で続けようじゃないか」  しばらくの後、ロウナの中の天秤が結果を出したようで、そう言い残し去って行った。
 イード先生ことイードニクセは三流と二流の間を行ったり来たりしているような腕前の魔術師で、指から火花を出したり物を動かしたり物の色を変えたりといったささやかな術を見世物にしながら暮らしている男だ。それでも魔術の理論やら様々なことについては詳しく、また鑑定や探知の呪文、錬金術に関してはこんなところでくすぶっているのが嘘のような腕前を見せる。普段は酒場で芸を見せ、路上で芸を見せ、ときおりロウナの手元に転がってくる奇妙な品々に関して鑑定をしたりしている。そして奴はおれの幼馴染であり、夢破れてライヤボードに戻ってきたときにロウナの宿にに口を利いてくれた頭が痛くなるほどのお節介焼きでもある。  ロウナの店じまいを手伝い、時間が過ぎること一刻半。サフィが甲斐甲斐しく皿洗い係を引き受けてくれたおかげでいつものおれの仕事は半分ですんだ。ロウナの部屋は様々な場所から拾ってきたり買い集めてきた一見バラバラな家具や絵画、置物等で溢れており、それらが不思議な調和を生み出している。適当な椅子にもたれかかりなけなしの金で買った酸っぱい葡萄酒をちびりちびりとやって天井の染みをぼう、と数えていると、部屋の外から必要以上に堂々とした鼻歌と足音が聞こえて来た。 「やあやあ、君達。この魔術師イードニクセに何用かな」  扉の方を見れば、大道芸人特有の大げさな身振りと言動が染みつききったインチキ野郎がゆっくりと入ってくる。麦藁色の豊かな髪を腰まで伸ばした涼しげな灰色の目の色男。それっぽい紋様が刺繍されたローブととんがり帽子は芸人仲間から安く買い取ったもので、本物といったら使いこまれた長い木の杖位。おれには意味のわからぬ文字と紋様ともわからぬ意匠が刻み込まれた手製の杖で、本人いわく三度の雷に打たれても生きていた樹から作った逸品だとのことだが、それがどれほど凄いことかはおれにはとんとわからない。イードニクセは目ざとくサフィの姿を見つけると、 「これはこれは、このような安宿には珍しいお客だ。お目にかかれて光栄です、小さなご婦人」  騎士のように跪いてからサフィの片手を取り口付けをする。女とつくものなら牝牛まで丁寧に扱う女好きであり、仰々しいことが大層好きな性質の幼馴染を、おれは思わずいつもの調子でブン殴るところだった。居城を安宿呼ばわりされたロウナはロウナで何ともいえない表情を向けている。イードニクセ本人は他人事のように受け流し、サフィの掌の上に幾つもの花を幻で作りだしていた。サフィは頬を赤らめながらわあ、ともきゃあ、ともつかない声でその幻に驚いている。素人目にも明らかにお前の方が凄いことをやらかしていたんだが、とふと思う。 「イード。こんなちっこいのにまで丁寧なことで」  呆れ声のおれ。 「紳士の嗜みというものだよ、ケイウェン」 「何が紳士だ。この気取り屋の奇術師が」 「小生がこうなのは昔からの付き合いで知ってるだろうに。何故今日はまたそんなに冷たいのかね」  おれの視界の端では、まだサフィが幻の花々と戯れていた。それを見ながら言い返す。 「まともな酒を一滴も飲んでいないのが一つ、仕事にしくじった苛立ちが一つ、そしてあんたに用があるからだ」 「そういえば、マダム・ロウナも用があると言っていたか。確か魔術絡みの話だとかなんとか」  おれはうなずく。 「何度も聞いた話だと思うんだが、改めて聞く。魔術というのは何の準備もなしにぽんと出来るものなのか」  イードニクセは何度も聞かれただろう質問にやれやれといった様子で答えた。 「魔術というのは一定の身振りと呪文、適切な道具を必要とするものなのだよ。普通の人が思っているほど万能ではないし、制限も多い。実際私も常にいくつか道具を持ち歩いている。付き合いの長い君なら小生が杖を側に持っていない時が殆どないのを知ってるだろう」 「ああ。第三の腕だとかなんだとか言っていたな」 「そう、それだ。この世の理に干渉するための霊的な腕が杖だ。意志を集め、燃え盛る炎のように羽ばたかせ、あるべき道を示し……」  熱中しはじめたイードニクセを現実に引き戻すようにおれは声を大きくする。魔術師のふわふわとした詩的な話を聞いているほど今は暇な気分ではなかった。 「話は戻るが、イード。初めて会った奴の心の底の望みを暴いて、それを形に変えることが出来るとしたらどれくらいの腕前が必要だ? もしくは、ちらりと見ただけの奴が何処にいるか遠見で見抜くとか。身振り手振りもなしに豪奢な衣装に一瞬で変身するとか」  イードニクセの気取った表情が真面目なものに変わった。 「何を考えてるか知らないがね、ケイウェン。「魔術の女王」の白い太ももにかけて、そんなことが出来るのは、「二つ名」持ちの魔術師位だし、それでも準備は必要だ。準備なしで出来るのは念視や読心に限れば「鏡眼」のオールーンや「盲目見者」アルビッセ位だろう。最後の変身術は嗜みで学んでいる魔術師も多いが普通は精々服の柄を変えたり意匠を付け加える程度が限界だ。何もなしに物質を変化させたり幻を纏うことは難しいのだよ。お伽噺の仙女や「女王」そのひとならば何でも即興で出来るだろうが――」  おれとイードニクセの間に沈黙が流れる。 「じゃあ、無理なんだな」  出てきた名前は一つを除き全く聞いたことのない物だったが、恐らく引き合いに出す位なのだからその界隈では有名な魔術師なのだろう。 「ああ、小生の知識にある限りかなりの手練れでない限り無理だとも。何ならばここにある一番良い酒をかけても良い」  おれは舌なめずりした。最初に出会った時のサフィの服と大きな蒼玉を思い出す。 「ロウナ! 今の言葉聞いたか! 一番いい酒を用意しておいてくれ。支払はイード大先生にだ!」 「ちょっとどうしたんだい、ケイウェン。さっきからイード先生に変なことを聞いていたと思えば今度は酒だなんて……」  何を言っているんだお前、という表情のイードニクセとロウナを無視しておれは続ける。笑いだしたくなった。サフィの姿が幸運の小妖精像に見える。今すぐ抱きつきキスさえしたいくらいだ。何せ彼女は世界最高の魔術師である不老不死の「魔術の女王」、半神めいたそのひとに匹敵する才能を持つ魔術師かもしれない上に、世間を知らぬ小娘と来た。そして世間を知らぬ小娘の魔術師は、おれの仕事を手伝うと約束してくれた。  人生最大の大当たりだ。 「来いよ、サフィ! おれ達に不思議を見せてくれ!」  花と戯れていたサフィは呼ばれて驚いた顔をする。おれは続ける。 「――魔術だ! めいっぱいの奇跡だ!」  サフィは少しためらった表情になったがおれら三人の顔を順繰りに見て意を決したようにこくりと頷く。立ち上がり首元のチョーカーを握りしめる。  途端にサフィの身体から青く煌めく光が放たれ、それと同時に妙なる音楽が何処からともなく鳴り響く。眩しさで目がくらむ中光と一体化した少女の露わな肢体を目にしてしまいおれは何故かどぎまぎした。しばらくして光が収まるとそこには最初にあった時と同じ、レースと羽根と宝石に包まれた奇妙な衣装に青玉の鳥が付いたロッドを握りしめた、どこかこの世ならざる愛らしさをたたえた格好のサフィがいた。サフィは劇場の踊り子のようにポーズを取る。イードニクセの出した幻の花々が一斉に咲き乱れ、どこからともなく色とりどりの小鳥の群れが現れて歌声を奏でる。そして、初めて会った時と同じように口上を述べた。 「凍える願いに寄り添う青い鳥、魔法少女ウィッシュ・サファイア煌めいて登場!」  おれは自慢げな顔で二人を見る。その口上はやっぱり必要なのかとか、最初にあった時よりも変身が派手だったような気がするとか聞きたいことは沢山あるが、めいっぱいの奇跡を注文した結果、十分に答えてくれたから野暮なことは聞きっこなしにしよう。今は。 「ケイウェン……あの宝石達は本物なのかい……? 盗品じゃないだろうね……」 「知らん。多分あいつのもんだろう」  やっとのことで言葉を口にしたロウナはどこか心配した様子で扉や窓の方をきょろきょろと見ている。  一方イードニクセは今まで知っている術の中でどれがいちばん近いか一人でぶつぶつ考え始めていた。 「変身術は多々あるがまるで衣装を召喚したかのようだ……それとも元々あった服を変成させたのか幻を被せたのか……「三枚外套」の呪文に近いような気もするが派手な演出は「リネスアレトミの早変わり」に近い……しかも詠唱なしで! ケイウェン! 後生だ! あの小さいご婦人を暫く触っても構わんか! 魔力の探知をしたい!」  奴が女と同じ位に呪文が好きだということを忘れていたことに舌打ちをする。 「どさくさに紛れて何を頼もうとしてるんだ、イード! この呪文馬鹿の女好きが――」 「いいわよ、魔法使いのお兄さん」 「サフィ!」  サフィとイードニクセの間におれは割って入った。何故だかわからんがそうしなければいけない義務感に駆られたのだった。別に保護者面したかった訳ではない。 「イードニクセ、この娘っ子はおれのもんだ。おれが駄目だと言ったら駄目だ!」 「貴君の好みが年下だとは知らなかったなあ」 「そうじゃない、仕事上の契約の問題だ」  サフィに聞こえないようにイードニクセに耳打ちする。イードニクセはふむ、契約ねえ、ふむと妙ににやついた顔でこちらを見てきたので文句あるかと睨みつけた。 「いっとくが閨での奉仕とかその類は契約に入ってないからな。おれもそこまで墜ちちゃいないし第一あんたも知ってのとおりこちらは昔から年上好みだ。胸も膨らんでない少女に食指は動かん」 「聞いていないことまでどうもありがとう。気が変わったら教えてくれたまえよ」  笑いをこらえながら返してきた。そりゃあどういたしまして。 「ケイウェン、この子は瓶の中の魔神や妖精じゃないだろうね。私はてっきり魔術師の所から逃げ出してきた筋のいい見習い辺りかと思っていたよ――」  今見た物が信じられないという風にサフィを見つめているロウナ。 「どれでも構わないさ。サフィのことはあまり知らんが魔術を使える。おれはサフィの命の恩人でサフィはおれの仕事を今後手伝ってくれると約束したんだ。文句あるか」 「構うも構わないも……全くケイウェン、どうせあんたはこの子にライヤボードでどうやって働いているかなんて教えてないんだろう?」  何故か呆れ声のロウナ。さっきは腕のいい魔術師が手に入ると思っていただろうにこの態度である。おれは人類のの気まぐれな同情心と心配癖を心から呪った。 「こいつと同じくらいの子はライヤボード内でもせっせと働いているじゃないか」 「そうじゃない、そうじゃないんだ。私が言ってるのはあんたの仕事のことだよ」 「大丈夫よおばさん。ケイウェンは説明をしてくれたわ。街の面倒事をどうにかして、平和を守るお仕事。ごろつきを改心させたり、喧嘩している人を仲直りさせたり……」  サフィの説明に、ロウナは苦い顔になった。 「どうやら子供に分かりやすく粉になるまで噛み砕いて教えたようだね――どうせ流血沙汰や何や、この街の面倒くささは言わなかったんだろう」 「なあ、ロウナ。見ただろう。サフィは見た通りの娘っ子じゃなくて魔術師――」 「魔法少女!」  サフィが自信たっぷりに口をはさむ。おれは苦笑いを浮かべた。その称号がやけに気に入っているようだ。もしかしたら知らないだけでそういう二つ名の魔術師なのかもしれない。だとすると失礼なことをしているかもしれない。 「まあ、そういう類の生き物なんだ。ちょっとやそっとのことじゃやられやしないさ」  あのごろつき三兄弟ももしかしたらサフィ一人で蛙の群れにでも変えられていたかもしれない。そう思うと助けたといって恩を売りつけられたのは幸運中の幸運だ。 「そういう問題じゃないよ――そりゃあ身の安全の方も心配しているけどね。私がいってるのは心の問題だよ。幾ら魔術に優れているといったってこの子はまだ十二、三歳くらいじゃないか」 「それ位なら箱入り娘でもそろそろ世の中の厳しさを知るにはいい年頃だろう」 「お黙り、ケイウェン!」  ロウナが声を荒げた。サフィは心配したようにおろおろとおれとロウナの顔を見比べている。そんなサフィにロウナは近づき、 「サフィだったね。私はライヤボートに来てまだ十年少しだがこの街の厳しさはよく知ってるつもりだよ。あんたみたいな純粋そうな女の子がここのごろつきすれすれの剣士に騙されていいようにされるのが見ていられないんだ。例えそれが魔術師であれ「魔法少女」であれ、ね。ライヤボードに来る前の昔の私を見ているようで心配なんだよ」 「ごろつきすれすれだの騙すだのいいようにするだの酷いじゃないか。それにロウナ、あんたにすれていないときがあったなんて初耳だぞ――」  反論しようとするおれを完全に無視してロウナはサフィの肩を掴み、じっと彼女の目をみて言い聞かせている。憮然としているおれの様子を見てイードニクセが笑いをこらえていた。 「ライヤボードでの平和ってのは、盗賊ギルドやその他の面倒事の長い手がこっちに伸びてこないということさ。ケイウェンの言っていた面倒事というのは大体若い嬢ちゃんには見せられない類の事件だし、血が流れないことの方が珍しいくらいだ。分かったかい――」  サフィはロウナの話を真剣な顔で傾聴していたが、ふいに口を開いた。 「でも。あたし、ケイウェンに助けてもらったし。それにこの街に暗いことが多いならばそれを払うくらいに明るい光を灯すのが魔法少女の役目。最初は何でここに来ちゃったのかわからなかったけれど……多分、あたしがこの街に必要だからなんだと思うの。だから、ここに居させて! なんでも手伝うから!」  初めて聞く意志の強い声だった。自分が世界にとって必要だなんて甘い思い込みに幼いころの自分を思い出して苦くなる。曇りのない剣。白馬に乗った騎士の鎧は輝いて――。だがサフィは本気のようで、しっかりとロウナを曇りのない蒼玉のような目で見ている。ロウナはじっとそれを見返していたが、やがてどうしようもないという風にため息を吐いた。どうやら折れたか諦めたか、それとも呆れたのかもしれない。 「それに、帰り方もわからないし……」 「あんた、どこから来たんだい」  何のことかさっぱりだとロウナは聞く。 「前にいた所は「美羽根町」という所だったわ」 「ミハネチョウ。奇妙な響きの場所だね――南生まれだが私はさっぱりだよ。二人とも聞いたことはあるかい」  おれもイードニクセも首を横に振る。 「知らんなあ、西でも東でもなさそうだし」 「ハラドの海を越え極北の地に至るまでそんな名前は聞いたことない、マダム・ロウナ」  ロウナはしばらく考えた後じろじろとサフィの服を見た。 「……まあ、この世のどこかにある場所なんだろうね。ぽんといきなりこの世にあらわれた訳じゃないだろうし。まずはその派手な服をどうにかすることから始めようじゃないか、サフィ嬢ちゃん。そんな蒼玉を持っていたらこのライヤボードじゃあ一日も生きていられないよ」 「でも、この恰好じゃないと大きな魔法は使えない――」  言い返すサフィに有無を言わせぬ調子でロウナは続けた。おれは意外なサフィの弱点に世の中上手い話だらけじゃないと内心苦い顔になった。彼女の言う大きくない魔法がどの程度までにもよるが。 「それじゃあどうにかする方法が見つかるまで「大きな魔法」とやらは無しさね。こっちも「ギルド」や口うるさい警吏どもに目を付けられたくはないんだよ。それにあんたはケイウェン並みに変なことに巻き込まれる相をしているからね。死体になっての再会なんて考えるだけでもぞっとするよ」 「ロウナ、あんた占いまで出来たのか」 「経験だよケイウェン。この仕事をやってれば嫌でもわかるようになるさ」  そういうものなのか、と思う。ロウナから見たらおれがサフィ並みに変なことに巻き込まれる面をしているというのは納得いかなかったが、ライヤボードに来るまでも来てからも色々と辛酸をなめつつしぶとくやって来たであろうロウナの言葉にはある種の説得力があった。 「ロウナさん、あたしは何をすればいいの」 「皿洗いは出来るようだね。料理と掃除は出来るかい、嬢ちゃん」 「手伝う位ならば……教えてちょうだい!」  そこにイードニクセが首を突っ込んで来る。妙に腹立たしいことに奴はいいことを思いついたと言いたげな笑顔を浮かべていた。 「もしよろしければ小さなご婦人、この魔術師イードニクセの手伝いをしてもらえるかな。文字は読めて書けるかい?」 「うん! 書くのはちょっと慣らさないといけないけど文字は普通に読めたから大丈夫」 「よし、素晴らしい。給金は出すし術も少しは教えられる……君の知っていない術があれば、の話だが」 「おい、二人とも。サフィはおれの手伝いをだな……」  サフィを取られそうになっておれは慌てて会話の中に飛び込む。その様子を見たサフィはおれの袖を少し引っ張って囁きかけてきた。 「大丈夫。ケイウェンの手伝いも全部やってみせるわ。だってあたしは魔法少女だもの」  誇らしげなその声。脳味噌花畑な少女の言い分なのにおれはなんだか理由もなく嬉しくなってしまった。とうとう花畑が感染したか。 「それじゃあまずはその服だね」  ぽん、と音がしてサフィの服が令嬢然としたものに戻る。あの派手なふわふわとした衣装とこちらの服のどちらが元の服かだんだんわからなくなっているおれがいた。 「駄目駄目、それじゃまだ目立ちすぎるよ。ふーむ、背は小さいから、私の上着を縫い直して腰で縛ればそこそこ見れる格好になるだろうね。古着屋に頼む余裕はこっちにもないし……ああ、寝る場所も私と一緒だよ。この部屋の奥だ。丁度壊れていないソファがあるからそこで寝な。あの男衆二人と寝かせるのは危ないからね」 「おれは年上趣味だって言ってるだろう」 「失礼だがマダム、小生は花の愛で方を嗜んでいる男のつもりだ」  おれとイードニクセの声が重なった。 「魔がさすということもあるだろう? 下手に手を出したあんたら二人が赤カブにされて転がっているのは見たくないからね」  笑うロウナ。意味がわからぬといった顔のサフィ。全くもって酷い話である。  そんなこんなで夜が更けていき、金鶏亭には新しい住人――幼い看板娘――が増え、おれは人間ひょんなことから幸運が舞い込んでくるもんだと人生の不思議さにしみじみとしていた。最もその幸運はロウナの監視の下でささやかなものになりさがっていたが、そのうちサフィがライヤボードに慣れれば仕事の助手にすることも出来るだろう。派手な衣装の問題もそのうち何か解決策が見つかるさ――おれは何時にもなく楽天的かつ陽気な気分になっていた。  イードニクセに賭けの分の酒を奢ってもらうのを、どたばたの中で忘れていたということに気付いたのは自分の部屋に戻ってからだった。
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