歯痒くて、つい
最近、なんだか奥歯がむずむずする。
もしかしなくても私は欲求不満なんだと思う。
ここ最近お互いが忙しくてご無沙汰なのも余計に拍車をかけている気がする。
「…」
なんとなく自分の手の甲に口を付けて、がぶりと歯を立てる。
こうしていると噛んでいる部分がじくじくと痛むけど、痛みとともに歯痒さが緩和されていく気がする。
「すぅ…すぅ…」
微かに聞こえる寝息が聞こえてきて、不意に視線を自分の隣に向けると、
同じベッドの隣で規則正しい寝息を立てて眠るケイさんの姿が目に入った。
ここ最近忙しそうにしていたし、とても疲れていたのだろう。
今日だって、私がそろそろ寝ようかとベッドでゴロゴロしていた時間帯に帰ってきて、軽くシャワーを浴びたらすぐにベッドに入り込んできてはすぐに眠りについてしまった。
「…」
この人はいつも寝る時は上半身に何も身につけずに眠る。
更に今は少し毛布がはだけてしまっているせいで、鍛え上げられて程よく肉付いた身体が惜しげもなく露わになってしまっている。
普段の私であれば毛布を掛け直して終わりなのだけど、今の私にとってはとても目の毒で。
見ないようにしようとは思っているのにどうしても視線がケイさんの肌に吸い寄せられてしまう。
触りたい。
触って、口付けて、噛み付いて、貪り尽くしたいなんてとても言えない。
それに、その肌に噛みつきたいなんて言ってしまったら変に思われるし、もしかしたら距離を置かれてしまうかもしれない。
そんなこと考えているうちに、ふつふつと湧き上がる欲求を紛らわすように無意識に更に強く自分の手の甲を噛んでしまう。
その時
「そんなに強く噛んでは駄目だ。⚫︎⚫︎」
先程まで眠っていたケイさんの腕が伸びてきて、私が噛んでいた方の手を掴んで、グイッと強引に私の口から手を離してきた。
「…ごめん��さい。起こしちゃいました?」
「いや、たまたま目が覚めただけだ…君は、眠れないのか?」
「…まだあんまり眠くなくて」
「そうか。
…何か、悩みごとがあるのだろうか?」
目が覚めたばかりのまだトロンとした目で、
けど、心配そうな目でくっきりと歯の跡がついてしまったの私の手の甲を見つめて、優しく撫でてくる。
「あ、これはっ…」
ケイさんの問いかけに、どう答えればいいか戸惑ってしまい、つい顔が下を向いてしまう。
欲求不満を我慢する為に自分の手を噛んでましたって?
そんなこと言いたくない。恥ずかしくて言えない。
なんとか誤魔化して、この場を納めたい。
けど、どう答えれば…
「⚫︎⚫︎」
不意に名前を呼ばれて、顔を上げると優しく私を見つめるケイさんの綺麗な蒼い瞳が視界に入ってきて、心臓がどきりと脈を打つ。
そんな私をよそにケイさんは私の手を優しく握り、口を開く。
「俺に出来ることがあるならどうか言ってくれないだろうか?
君を悩ませる全てを、俺は自分の出来る限り払拭したいんだ」
とても優しくて、何もかもを受け入れてくれるように包み込む愛に満ちた言葉。
けど、その優しさが、今の私にとっては中毒性の高くて抜け出せない麻薬の様に脳に響く。
「あ、の…」
「…ん?」
「…あの、少しだけ、貴方に触れても良いですか…?」
つい、口が滑ってしまった。
「…え?」
「すぐに終わらせますっ…すぐに終わらせますから、少しだけ触らせてくれませんか…?」
みっともなく、縋り付くようにケイさんを見つめる私。
ケイさんは先程まで眠っていたし、疲れていてもう寝ていたいはずで。
こんなお願いされたって困るはず。
それなのに。
「…おいで、●●」
いつもスターレスで、日常で私にだけ向けてくれる優しい顔で腕を伸ばして受け入れようとしてくれるケイさん。
「ケイさんっ…」
誘われるがまま、私は浅ましくもケイさんに抱きついてしまう。
ケイさんの首筋に顔を埋めると、ふわりと香水と汗が混じったような香りが鼻をくすぐる。
(…いいにおい、クラクラする…)
そのまま耳に吸い付いて、かぷりと耳たぶを甘噛みする。
「あ、んっ…」
ケイさんの口から甘い声を漏れた。
「あっ…ごめんなさっ」
「大丈夫…大丈夫だから、●●…もっとっ…」
辞めて離れようとした私の後頭部をくしゃりと掴んで、より密着させてくる。
「ケイさん…」
誘われるがまま、今度はケイさんの首筋を一舐めしてみた。
「ん、んっ…」
また、ケイさんの甘い声が私の耳をくすぐる。
(ケイさんの声、可愛い、感じてるのかな…?)
(…もっと、もっと聞きたい)
ドロドロにとろけた理性で、思わすケイさんの首筋にガブリと強く噛み付く。
「っ…!」
ケイさんの唇から、痛みに耐える声が漏れる。
悲痛の声が届いているのに、私は自分の欲望に従うまま、柔肌を味わうように自分の顎に力を入れる。
これ以上は駄目だって頭のなかで警告が鳴り響いてるのに身体が止まってくれない。
「●●っ…!!!」
「っ!?」
名前を呼ばれて、ようやく意識が戻って来て、ケイさんの首筋から口を離すことが出来た。
「はっ…はっ…!」
痛みに開放されたケイさんの息遣いが私の耳をくすぐる。
(どうしよう、頭がクラクラする)
まだ興奮で呆けている目でケイさんの身体をじっとりと眺めると、先程まで私が噛みついていた跡が見えた。
(痛そう…)
じくじくと、痛々しく染まった跡に再び唇を近づけて優しく舐めると「ひっ…んっ!」と甘く息を漏らしてふるっ…と身体を震わせるケイさんの艶姿が、余計に私の理性を狂わせてくる。
これ以上は駄目。本当に止まらなくなる。
「ごめんなさっ…!もう辞めますから…」
私の中で微かに残っているギリギリの理性でなんとか身体を動かしてケイさんを押しのけて、ケイさんから離れようとする。
けど
「…●●っ…」
急にケイさんの腕が私の腕を掴み、そのままベッドに倒れ込んで来て、
私はケイさんをベッドに押し倒すように倒れ込んでしまう。
「離してください…これ以上は酷くしそうで怖いっ…!」
退こうとしてもケイさんの手が、私の腕を掴んで離さない。
「…君は、俺をどうしたい?」
ケイさんの綺麗な青色の瞳が優しく、どうしよもなく興奮している私を見上げてくる。
「私は…」
本当は。
愛しているから、貴方の全てが欲しい。
どうしよもなく貴方の全てが欲しくて堪らない。
けど、劣情の熱で呆けた頭ではこれぐらいの事しか考えられなくて。
自分の思っていることが上手く伝えられなくて、余計に奥歯のあたりがむずむずして、どうしよもなくてつい黙り込んでいると、
「⚫︎⚫︎」
するり、とケイさんの腕が私の首に巻き付いてくる。
「君に求められるのならこの上ない喜びだ。だから…」
そう言いながら、はっ…と甘い息遣いがまた私の耳をくすぐる。
「どうか君の気の済むまでこの身体を貪ってほしい…
君が俺を求めてくれるなら、俺はいくらでもこの身体を許そう」
どこまでも優しくて、ひたすらに私を甘やかす言葉と、甘く私を求めるような声が耳から入って来て脳髄まで包み込んで酔わせてきてクラクラする。
「ケイさん…ケイさんっ…!」
熱に浮かされたままケイさんの肌にかぶりつく。
「っ…!…●●っ…!」
痛みに悶えながらも、とても優しい声で私の名前を呼ばれてからはもう完全に理性が飛んでしまっていて、もう止まることなんて出来なかった。
————
「…んっ…」
なんとなく瞼の先が眩しいと感じて、目を開く。
いつの間にか寝室のカーテンが開かれていて、さんさんと朝日が差し込んでくる。
「…ねむ…」
まだぼやぼやとしながらも身体を無理矢理起こす。
「あれ、ケイさん…?」
寝ぼけた間抜けな声で、昨夜まで隣に居たはずの相手の名前を呼ぶと、「●●…?」と掠れた声で私の名前を呼ばれた。
声がした方に目を向けると、ボクサーパンツ姿に適当なシャツをボタンを止めずに羽織り、片手にマグカップを持ったケイさんが立っていた。
「おはよう●●。よく眠れただろうか」
そう問いかけるケイさんのシャツの間から、昨晩私が付けた無数の痛々しく残っている赤く充血した跡と、私の噛み跡が嫌でも目に入った。
「っ…!!!」
昨晩自分がこの人に何をしたのかをを思い出し、全身が一気に熱くなった。
「ご、ご、ごめんなさいっ…!わたしっ…!」
「どうして謝る?」
「いや、だって、昨日…」
「まだ眠気も覚めていないだろう?これを飲んで落ち着くと良い」
オロオロしている私をよそに、宥めるように優しい声でそう言って、温かいコーヒーが入っているマグカップを差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます…」
ケイさんからコーヒーを受け取り、ふっー…と冷ますように息を吹きかけるとコーヒー特有の香ばしい香りが漂ってくる。
そのままコップに口を付けて、こくりと一口コーヒーを飲み込むと、ふわりと身体が暖かくなってきて、少し気持ちが落ち着いて来た。
けど冷静になってきて、今度は罪悪感で心がいっぱいになった。
(わたし、きのう、なんてことを…)
散々この人の優しさに甘えて好き勝手したのに、こうして今もこの人に甘えっきりの自分が情けなくて。
そんなことを考えていたせいか、無意識に顔が暗くなっていた私を見ていたケイさんが口を開く。
「…君は、昨晩のことを後悔しているのか?」
「えっ…」
顔を上げると、少し悲しそうに目尻を下げるケイさんの顔が映った。
「ち、違いますっ!後悔なんて…!」
後悔をしていないどころか、むしろとても満たされた気持ちでいっぱいだった。
…そこまではなんだか浅ましくて、とても恥ずかしくて言えないけども。
「そうか。それならば良かった。
俺にとっても、とても甘美なひと時だったから」
「…え?」
ケイさんの言葉に戸惑う私を見て、ケイさんは安心したような、けど昨夜のことを思い出してなのか、少し顔惚けて目尻を赤くした顔でふわりと笑う。
「俺にとって、昨夜はとても夢みたいなひと時だった…
君が俺を求めて、この身体を愛でてくれて、その証明までこの身に残してくれたのだから」
そう言って愛おしそうに、昨晩私が付けた鎖骨あたりの痛々しく赤く染まっている傷跡を指でなぞるケイさんが、なんだか色っぽくて、私の心臓がどきりと大きく脈打つ。
きっとその言葉は本心から言っている。
そういうところが、本当に、ずるい。かなわない。
「…ケイさんのそういうところ、本当にずるいです…」
「そうだろうか?…俺としては、君の方がずるいと思うのだが」
「…え?」
急に、ケイさんの身体が私に覆い被さるように、こちらに傾いてくる。
ケイさんの手が私の座っている横のシーツに沈んで、ぎしりとベッドが軋む音と同時に、また私の心臓が跳ね上がる。
いつの間にか私が持っていたマグカップはケイさんに奪われて、ベッドサイドテーブルに置かれていた。
「ケイさっ…」
「俺も、本当はずっと、君の身体に触れたかった…
けど君も忙しくしていたし、疲れている君に無理をさせまいと己の醜い欲望を押さえつけていた…
…なのに君から、あんなに熱い気持ちをぶつけられては…
…もう、この気持ちを抑えられそうにない…」
ケイさんの顔を見上げて戸惑う私をよそに、ケイさんはとても優しい手つきで私の頬に手を添えてくる。
「今度はどうか、君の身体に触れることを許してはくれないだろうか…?
この跡が消える前に」
あくまでも、私にすがるような声色に、私に慈悲を乞うような寂しげで優しい顔で見下ろしてくる。
「っ…」
何も言えないでいると、ケイさんの蒼く綺麗な瞳が緩やかに閉じてきて、待ちきれないと言わんばかりに強引にキスをされた。
そのまま優しく身体をベッドに沈められる。
「●●…」
昨夜のように、甘く、
けど、強く私を求めて堪らないような声で名前を呼ばれて、堪らず私もケイさんの背中に腕を伸ばしてしまう。
そのあとのことは、頭が多幸感でいっぱいになりすぎてあまり覚えていない。
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ロストヒューマンの塵
カップリング/ReS。・・・陣&章臣(千秋&奏汰)
参考ストーリー・・・Saga前編・後編
「三年A組守沢千秋! 止まりなさい!」
廊下を駆け抜ける力強い足音をかき消すかのように、遠く突き抜けるような甲高い静止が響き渡る。
おうおう、若人のエネルギーに負けない声量だねぇ。興味本位に保健室のドアを開け、顔を出すと、ちょうど仁王立ちしたあきやんがクソ真面目な早歩きで通り過ぎていくところだった。
「い、いや、これはその……! 緊急事態なんです! 一刻も早く向かわないと手遅れに、いや! もう既に手遅れではあるんだが!」
こっちはこっちで耳慣れた常連の声だった。常連になってもらっちゃ困るんだが、と一年の春先から苦言は呈してきたんだが、ついぞ三年の冬になっても改善することがなかった。思いのほか切羽詰まったような態度の守沢が、ゆっくりと速度を落としながらこちらを振り返る。俺のことには気付いていないのか、その正義感に溢れる琥珀色の瞳は、困ったように揺らめきながらも真っ直ぐにあきやんを捉えている。何故だか知らんが、赤地に白い星の模様が入った大きなバスタオルを牽制のように両手で広げ、じりじりと後退を試みているようだった。
危ねえなぁ、振り向くか立ち止まるか、せめてどっちかにしろよ。
クソ真面目さではあきやんに引けを取らない守沢は、煮え切らない態度で数秒あきやんと対峙した後、くう���、と悩ましげな悲鳴を上げ、ついにバスタオルをぶんぶん振って駆け出した。
「すっ、すまん! 今回限りは見逃してくれ! あいつのレスキューが終わり次第、戻ってきて反省文を書きます!」
「あっ! こら! 待ちなさ――」
あきやんが言い切る前に、守沢は走り去ってしまった。「奏汰ぁぁぁ!」と叫ぶ声が遠くから聞こえて、レスキュー、大きなバスタオル、既に手遅れ、の意味を知る。深海のやつ、またこんな時期に噴水に突っ込んでるのか。そりゃあ一大事だし、守沢が一秒でも早く向かいたい気持ちも分かる。ただでさえこの時期は風邪もインフルエンザも流行るのに、こじらせて肺炎とかになろうもんなら洒落にならん。俺らの仕事なんてのは、できるだけ少ない方がいい。こればかりは楽をしたがって言っているわけでは断じてない。
俺が守沢の行動に納得している間に、深々と息を吐く音が聞こえて顔を上げる。悩ましげに額を押さえつけながら、あきやんがこちらへ向かって歩いてくる。眉間に刻まれたしわはいつも通りといえばそうだが、俺から言わせりゃ、いつもより少し多めに回っております、といった風貌だった。
「全く……反省文は校則違反をした自覚と反省を示すために書くものであって、書くこと自体が違反の免罪符になるわけではないんですよ」
「アハハ。あいつアホ真面目だからなぁ」
苦々しいお小言に対して返事をすると、予想外の反応だったのか、紫色の瞳が大きく見開かれた。
話しかけられたんだと思った俺も、なんだただの独り言だったのか、と少しだけ恥ずかしくなる。
「陣……見ていたんですか」
照れ隠しに眼鏡のテンプルをなんどもいじって、あきやんは視線を反らした。
「あれが真面目なものですか。あの子が私の注意を聞いて廊下を立ち止まったことなど数えるほどしかありませんよ」
「数えるほどはあるのかよ。ますますアホで真面目だな。てかあきやん、守沢のこと結構好きそうなのになぁ~何だぁ? もしかしてまだ根に持ってんの?」
「あなたじゃないんですからそんなことで態度を変えるようなことはありません!」
「えっ。心外だな~俺だってそんなことしないっての……」
「……まあ。印象的だったので、記憶が鮮明なのは事実ですけどね。あんな風に表立って野次を飛ばすような子ではなかったでしょう」
ぱちくり、と二度まばたきをする。
あきやんは俺の心を当然のように見透かして、呆れたように眉尻を下げた。
「何を意外そうにしてるんです。覚えているに決まっているでしょう。生徒の顔と名前が分からないようでは教員失格ですからね」
昔は目立たずとも大変真面目な生徒でしたよ。規則を破ったことなどない、地味ですが模範的な生徒でした。それに生徒会の発足にも一役買ってくれた子ですからね。蓮巳君が署名の件を嬉しそうに報告してくれたことも、昨日のことのように思い出せます。
意外や意外、守沢のことを昔から知っていたのは俺だけではなかったようだった。
守沢の過去を訳知り顔で語ったあきやんは、その直後にハァ~とくたびれたため息をよこした。
「それが今や、廊下を走り放題の問題児のようになってしまっているんですから。困るんですよ。走る理由は理解できますが、周囲の生徒に示しがつかない」
「ハハ。若人と違って、先生は大変だねぇ。規則違反を取り締まらなきゃいけない規則でがんじがらめだ」
「茶化すのはおやめなさい。あなたも教師の端くれでしょう」
「教師じゃなくて養護教諭だも~ん」
「ああ言えばこう言う……昔から変わりませんねあなたは」
「どうかね。変わっちまったもんの方が多いと思うけど? それも悪い方にな」
淡々と事実を言ったつもりが、あきやんはそうは受け取らなかったらしい。
急に黙るもんだから、まるで意地悪でも言って黙らせたみたいだ。居心地悪いな、どうしたもんか、と唇をモゴモゴさせていると、再びバタバタと足音が聞こえてきた。さっきよりも人数が多い。レスキューとやらは成功したのだろうか。しばらく二人分の靴音を聞いていると、廊下の向こうから下足で上履きに履き替えた二人組が姿を現した。一人はさっき守沢が持っていったデカいバスタオルにくるまれているが、くるん、と頭頂部から顔を出した独特の癖毛のおかげで、誰なのかはすぐに分かった。あきやんはまた一つため息をついて、怖そうな顔を作って腕を組んでみせた。けれどそれも長くは続かず、守沢が深海の肩を抱えて心配そうに歩いてくると、心なしか困ったように唇をへの字に曲げた。
「ほら、奏汰、ちゃんとこれで拭いて暖房のある部屋にいろ。着替えなら俺の体操着を貸してやるから」
「うう~……だめですか? もうあと『いっぷん』だけでいいですから……」
「駄目だ駄目だ! 噴水は駄目だ! 代わりにあとで銭湯の水風呂に入れてやるから、な? もう少しだけ我慢してくれないか」
「でも、おへやにいると『かんそう』が……っくしゅん」
「あ~ほらもう、くしゃみしてるじゃないか! だから冬の噴水は駄目だって何度も言うんだぞ! だが……うん、よし分かった。霧吹きを用意してくるから、五分だけ待ってくれ!」
「『きりふき』ですか? それってどういうものですか? 『ふんすい』のかわりになりますか?」
「ああ! 乾燥を防ぐには役立つはずだぞ! 確か手芸部の部室にあったはずだから、もう一っ走りして斎宮に頼み込めば五分で――」
守沢は深海の説得に夢中で、目の前のあきやんに直前まで気付かなかった。ふと顔を上げた瞬間の「あっ」という間抜けな声に、あきやんはものすごくあからさまにため息をついてみせた。
「……佐賀美先生。急患のようですよ」
「へ?」
「そ! そうなんです! 佐賀美先生! すみませんが奏汰をしばらく頼めますか」
「あぁ、そりゃ構わない、っつか……風邪っぴきの面倒は俺の仕事だけど……」
「守沢君」
「はい! あと五分だけお待ち頂けたら反省文を――」
「走るのはおやめなさいと何度言わせるんですか、全く。職員室の観葉植物の前に、霧吹きがありますから、そちらのほうが早く済みますよ。五分もかかりませんから、走らずお行きなさい」
守沢は驚いたように目を丸くしていた。っくしゅん。深海の間の抜けたくしゃみに、はっと我に返ったように肩を上下させる。
「あっ……ありがとうございます! お借りします!」
「声が大き……こら! だから走らずにお行きなさいと言って――」
守沢が駆け出した瞬間、ポケットから何かが落ちてカツンと固い廊下の上を弾んだ。
なんだなんだと目で追って、それが何かに気付いてハッとする。
「おい! 守沢!」
怒鳴るような声になって、隣にいたあきやんと深海が大袈裟に肩を震わせた。
大きくつんのめってからこちらを振り向いた守沢に、右手人差し指で落としたものを指し示す。守沢よりも先に、落ちたものが何だったのか、深海も気付いたようだった。ちあき。少しだけ焦ったような鼻声がバスタオルの隙間から漏れ出た。動き出そうとする深海をそっと制して、落とし物を拾いに行く。数秒して守沢も気付いたのか、顔面蒼白になってこっちに駆け寄ってきた。
「よっこいしょ……っと。うー、腰にくるな、年だなやっぱ……」
片手に拾い上げたソフトビニールのヒーローフィギュアは薄汚れていて、所々に傷がついていた。千切れてしまったのをテープで貼り合わせた形跡もある。かなりの年代物だ。幼少期からずっと大切に持ち歩いているのだろうか。膝に手をあてて上体を起こすと、引き返してきた守沢と目が合った。今となっては珍しいが、その目は初めて保健室で会った時のように、わずかばかり怯えて見えた。
「佐賀美先生」
「はいよ。よかったな、俺が落としたのに気が付いて」
「はい。……すみません。助かりました。ありがとうございました」
「あー……。お前さぁ、もうちっと気を付けろ。前ばっか見てると大事なもんを落っことすぞ」
フィギュアを守沢に手渡す。たまには教師らしく説教でも、というわけでもなかったんだが、それはあきやんの怒声よりも守沢の心に刺さってしまったようで、守沢は歯痒そうに眉尻を下げて目を閉じた。
「はは……すみません。以後気を付けます。ありがとうございます」
握りしめたフィギュアをそうっと大事そうにズボンのポケットにしまう。
けれど、それも束の間、ちらっとバスタオルにくるまった姿を一瞥すると、守沢はさっきよりは控えめという程度の駆け足で職員室へと向かっていった。俺は小さくため息をついた。さっきは茶化しちまったけど、今ではあきやんの気持ちがちょっとだけ分からなくもない。
「ありゃ、またやるな。ほんとさぁ、毎回拾ってやれるわけじゃないんだから。世のため人のためもほどほどにしといてくんないかな~」
「おや。流星レインボーの台詞とはとても思えませんね。ファンが聞いたら泣きますよ」
「おえ~やめてくれ~昔の栄光なんて虚しいだけだってのに……」
「……うふふ」
「ん? どうした? お前さんは早いとこ保健室に入ってくれると助かるんだがな」
「いいえ。あなたもヒーローだったって、ちあきにきいたのをおもいだして。『ほんとう』だったんだなぁって」
守沢のやつ、あることないこと吹き込んでないだろうな。
げげ、と口を歪めたいのをなんとか堪えて、深海を保健室に押し込む。
「ほれ。ベッドは全部空いてるから、好きなとこに寝転がって、布団被って待ってろ。お前さんのくしゃみが悪化したら、あとで守沢が泣くぞ」
「むぅ……それはこまりますね……ほんとうは『だんぼう』のきいた『おへや』はいやなんですけど……」
しぶしぶ、という感じの雰囲気を隠すこともなく、それでも最終的には大人しく保健室のドアをくぐった���海を見て、俺は正直感動を覚えていた。どいつもこいつも言うこと聞かない連中だなぁと思いつつ、深海だけは最後まで誰にもその自由を奪えないのだと思っていた。
――いや。それこそが俺の勘違いで、深海がようやく自由になったのがこの冬、ということなのかもしれない。真冬に噴水に入るのも、守沢を困らせたくない気持ちも、その自己矛盾にぶつぶつ文句を言うのも、今になってようやく――人生で初めて得たものなのかもしれない。
あいつが、他の何もかもを振り落としてまで助けたかったものが、今の深海の姿なのかもしれない。
「……? ぼくの『かお』に、なにかついてますか?」
澄んだ海の浅瀬のような瞳を真っ直ぐに向けて、深海は首を傾げた。
「いいや。なんにも。強いて言うなら、まだ濡れてんだよな~。ちゃんと拭いとけよ、髪」
「はあい……くすくす。『りゅうせいれいんぼぉ』の『ちゅうこく』ですから、ぼくもまもらないといけませんね」
ちあきにしかられてしまいます。
そう言い残して、深海は保健室の奥へと進んで行った。
ハァ~と何度目かのため息をついて、ゆっくりと音を立てずにドアを閉める。沈黙を保ち続けるあきやんに目を向けると、それに気付いてかあきやんもこちらに視線を合わせた。
「つか、なんだよあきやん。守沢の肩持つの? もう脱退済み、ってか、何年も前に卒業したヤツの話なんだからさ。どいつもこいつも……過去の幻想ばっか追っててもらっても困るよ」
「幻想と言い切るには、早計だと思いますけどね。私は」
りゅうせいれいんぼぉ。
独特の口調でそう告げた深海の、柔らかい笑みが頭をよぎる。
途端に胸のどこかがじくじくと鈍い痛みを放って、俺の呼吸は鈍くなる。
幻想だ。そんなものは。
お前が憧れたヒーローたちと違って、俺は誰のことも助けられなかった。大事なものは全部落とした。
だから。
「他人の落とし物について、貴方が語るのは。どうにも、腹が立ちますね」
だから、目の前の大切だった後輩が、こうして追いかけてきたことを、有難くも申し訳なく思う。
「ごめん」
白々しく聞こえたかもしれなかった。
それでもあきやんは、それ以上俺を責めることはしなかった。
「分かってるよ、あきやん」
俺が振り落としてきた全てのものも。
その中にお前が含まれてることも。
それなのに今度は同僚としてもう一度俺の前に現れてくれたことも。
「お前が全部、 拾っといてくれたことも」
俺が俺のせいで失くしたいくつもの欠片たちは、この春に始まった企画によって、ほんのわずかだけれどもこの世によみがえった。やっぱり、分不相応だと思う。ああいうステージや予算ってのは、こんな老いぼれじゃなく、未来のある若人に与えられるべきだ。今でもその考えは変わらない。だけど。
「……私は」
後悔がないって言ったら、それは、嘘になっちまうから。
「あの時、手遅れになる前に。走っていればよかったのかと」
遠く、廊下の向こうをぼんやりと見つめるあきやんの瞳には、規則を破ってばかりの真っ赤なヒーローが映っているのだろう。廊下を走るなと注意するあきやんの毅然とした態度に、その堅苦しい声色に、ごくごく個人的な苦悩が混じっているだなんて、誰が気付くだろう。
「いつも後悔していましたよ。もっと早くに渡せたのに、と」
俺くらいは――俺だからこそ、気付いてやらなきゃいけなかったのに。
「……どうせ受け取らなかったよ。俺のじゃない、って言ってさ」
ああ、本当の本当に、俺は世界一の大馬鹿者だった。
そんな大馬鹿に、いろんな連中がお節介を焼いてくれた。
空にかかる虹のような、一瞬の輝きための、奇跡みたいな一年だった。
お前が背負うことなんかなかったのにな。全部が全部、俺の身勝手のせいなのに、真面目で、面倒見がよくて、俺より俺のことを大事にしてる。俺の後悔の一部を、振りほどいて置き去りにした何もかもを、まだここにあるぞって突き付けてくる。俺が「ゴミだから」って丸めて後ろに捨てたものたちのことを、まるで流れ星が振りまいたきらめきみたいに言う。
それが果たしてそこまで輝かしいものなのかどうかは分からない。
だけど、捨て去ってしまっていいものでもない。
少なくとも俺にとって大事なものだったってことを思い起こさせる。
遅くても早くてもきっと届かなかった。
だから、言う。何度でも。
「まあ。こんなオッサンになってからでしか。駄目だったけどさ」
あれは虹のような輝きだったと。
「ありがとうな。ずっと持っててくれて」
晴れ間がのぞく、たったの一瞬を、辛抱強く待ち続けてくれて。
「あきやん」
呼ぶと、銀のフレームがちかちかと光って、その奥にある紫の瞳をほの白く輝かせた。
まだその目には、手遅れにならないようにとひた走るヒーローの背が見えているのだろうか。でもな、あきやん。あいつだっていろんなものを落とすんだぜ。今日みたいに。だから、見つけたやつが、拾って手渡してやんなきゃいけないんだよな。
「お前の落としたものは、誰かが拾ってくれたか」
そんな当たり前のことも今日まで気付かなくって、ごめんな。
「……さあ。どうでしょう。でもきっと、どこかにいるんでしょうね。私が気付いていないだけで」
そっか、と小さく息をつく。
そうだといい、そうに違いない、と俺は願う。
ヒーローなんて信じちゃいなかったあの頃の俺に、何もかも適当なまま「虹」を名乗らされていた当時の自分に、今だったら言えると思う。
拾ってやれ。
立ち止まらずに駆け抜けていく星々の塵を。
いつかそれがきらめく時を、お前だけは信じ続けてやれ、と。
遠くで守沢が、職員室に向かって直角におじぎをしている姿が見える。きっとすぐに走ってやってくるだろう。大事なものを守り抜くために。あきやんの注意なんて、きれいさっぱり忘れて。
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雑 詠
花鳥誌 令和4年4月号
雑詠巻頭句
坊城俊樹主宰選 評釈
雑詠巻頭句
野暮天と莫連女クリスマス 田中 恵介
野暮天というのは今では死語に近い。ヤボテンは昭和の頃死滅。莫連女、バクレンも然り。これがカップルとなると俄然胡散臭い。ましてや季題がクリスマス。こんなカップルも祝うのか。現今に綺麗事の俳句は多いがね改めてこの新鮮な余韻はどうだ。
歳晩の靖国神社は大きい 田中 恵介
シンプルであって大きい。ことに歳晩の雑踏とは違う神社の巨大さ。それを覆い尽くして有り余る靖国神社という存在の重さと無意味さ。哀しいくらい現今の日本に似ている、いや存在の希薄か。つまり今の日本という張りぼてのような栄華を思わざるを得ない。
歳晩の沙汰聞く皺ばんだ漢 田中 恵介
歳晩にはこの一年の何か全ての決算がある。沙汰が起こりやすいのも当然のこと。この漢はそれらを全て含んだ上での評定を下す。皺くちゃの年季は歳晩に通じるのは当たり前だが、ここは俳諧の無碍の世界ととらえたい。
玄冬やちらちら朱き俥夫の紐 岡田 順子
浅草か。「ちらちら」と言うと女のそれを思うが、こと俥夫のそれは粋でいなせな所で通じる。玄冬はそれと正反対。黒く重くしかつめらしい。これを粋と言っても良い取り合わせが未知数の魅力がある。
ロック座の淑気まみれの昼の闇 岡田 順子
ロック座というストリップ劇場はただ者ではない。エノケン、ビートたけしら芸人を生み、裸は尊いがそれだけの文化だとしたら大間違い。東京下町の粋筋の文化、それを支えた庶民の血だらけの苦労と美意識がみんな詰まっている。だから「淑気」なのである。
夢追うて六区の蜜柑買ふ少女 岡田 順子
この少女浅草の子。祖父の代から住んでいたのだろう。いや夢を追って浅草に出てきたのか。浅草六区にはまだそんな夢があるのか。蜜柑が少し淋しいが美しい。儚いが強靱。そしてこの子の未来に激しく共感できる。
手捻りのぐい飲みで待つ鮟鱇鍋 上嶋 昭子
このぐい飲みで地酒を飲みたいものだ。手捻りの粋な彩色と形。それで地酒を熱燗にして飲むか。鮟鱇鍋も久しく食ってない。あの海底のような滋味ある新鮮なる脂はこの酒しかあるまい。
愛すべき俗物集ひ薬食ひ 上嶋 昭子
愛すべき俗物になるというのはたいへん難しい。私もそうでありたいと思う。俗物とは神聖よりも困難。似非の神聖はけっこう居る。愛の俗物はあまり居ない。鹿でも食うか。こういう輩たちが日本を支えてきてこれからも支える。
色足袋をはいていよいよ籠りけり 上嶋 昭子
色足袋というものを 実は知らない。どのような人生の刹那に履くのか。それは日常か非日常か。籠もるとは冬のこと。而るに日常かと思うがそれにしては色足袋はあまりに華麗。色艶を超越したなにかの世界。
冬の空蒼茫として星生る 続木 一雄
蒼茫は昼でも夜でもない、宇宙そのものの色。星が光るというよりそこに生れし如く。
晩節を汚せ汚せと煖炉燃ゆ 渡辺 美穂
晩節は煖炉の魅力に勝てない。汚すべきである。煖炉は人間の根幹を揺さぶる。
五稜郭兵を鎮める雪しきり 丹羽 雅春
五稜郭の悲話を知るならば当然。鎮魂の雪こそ深くて美しく耀く。
川風の荒びの中に凍てし蝶 渡辺 彰子
「荒び」がなんとも執拗である。蝶はもう凍てるしかないではないか。
焚火の輪焼べ足す煙に広ごれる 内田 たけし
焚火に焼べる毎に人も煙の輪も広がる。これは働く人たちの輪としても豪華。
なまはげの怒号が山へ帰りけり 赤川 誓城
なまはげは叔父さんがやってたんじゃないの、いいえ、山へ帰った鬼だったのよ。
初春の紙垂の如くに波頭 有川 公子
清涼で新鮮な波が来た。波はまだ寒いがそこには神が宿る。白波の正月。
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2021/09/04まで
「ファミリーズ・シークレット」
洋画。秘密をかかえたごく普通の家族がひとりの男の登場によっていろいろと変わっていく話。どうか登場人物が誰一人として不幸になりませんようにと心から願いながら見る映画ははじめてだった…ちゃんとみんな幸せになったので満足だ…。エズラ・ミラーがすごく良い役。
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「チャーリーズエンジェル」
2019年版。クリステン・スチュワートがあああああああああんまりにもかっこよくてかわいくてキュートでクールでスマートでビューティフルなので語彙力を失う。すべての女性はクリステンの前で女になる。なっちゃう。好き。笑顔、変顔、怒った顔、いたずらっぽい顔。抱いて。 映画の内容としてはいい感じのサクサク感だったと思う。エラ・バリンスカのスタイルと顔はずっと見てられるし、ナオミ・スコットはずっとかわいい。言い出したら止まらないんだけど女ボスレーっていうのもすごくよかった。個人的には!ね!チャリエン好きだからひいき目あるかもしれない。 チャリエン好きとしてどうしてもア~てなったのは初代ボスレーの立ち位置で……あんなにしなくたっていいじゃない…ちょっと悲しいよファンとしては…!でもVS男にするには仕方ない要素なのかな?あとケリー・ギャレットの登場は激熱で正直泣きそうになった!!! 映画のチャリエンのオマージュ多くてうれしかったけどドリュー・バリモアがかかわってたらそうだよねそうだよねって感じでうれしい。なんならドリュー、ディランで出てくれてよかったのに!!! あとあと、チャリエンの良さって女3人で強い男1人に立ち向かうとこだと思う。めちゃバランスいい。ジェーンが少年漫画の主人公ばりに何度も立ち向かって敵に打ち勝つとこいい。だってそうでもないと勝てないから!リアリティあるよ!あと無口な殺し屋っていうのも痩せ男オマージュでよかったな… 意外といつまでもオタクの早口とまらなくてわろた。いい映画だよ~~~!!て感じじゃないけどわたしはこれからも5回は見ると思う。クリステン・スチュワートに愛をこめて。チュ………
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「ジョジョ・ラビット」
だいぶ前に見たのにずっと頭の中に残っている。ヒトラー政権まっただ中のドイツにおいて、ずる賢く汚い大人だけではなく純粋無垢な子供も居たということを当たり前だけど知る。これは壮大な深い愛の物語なので、ある意味ほかの部分はもう受け取らなくていい気がする。良い映画。 笑っていいような泣けるような、コメディだけど愛やシリアスさを感じる作品なのでとてもみんなに勧めたい。ナチだのユダヤだの戦争だの嫌いっていう人にもぜひ。スカヨハがほんとーにキュートなんだ。いいお母さんだ。ヨーキーのかわいさは言葉では表せられないのでぜひ見て。
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「スキャンダル」
原題:bombshell アメリカの超有名放送局FOXで実際にあったセクハラ訴訟スキャンダルをハリウッドの三大女優(!!!)達が共演して映画化、もうこの三大女優ってだけでも見る価値があるので特に女性の皆様は見てほしい…スカッとはしないけど。ドキュメンタリー風でカットも楽しい。 こ~んなわかりやすい権力図が現代でもおそらくどこかであって一生なくならないのだと思うと嘆かわしい。女性へのハラスメントだけでなく男性のソーシャルハラスメントもあるのだからうんざり。映画としてはちょっとリアルに寄りすぎて物足りない部分もあるのかも?私はこのくらいでも嫌いじゃない。
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「yesterday」
洋画。めちゃくちゃ見たくてリアタイできなかったもののうちのひとつで、期待しすぎちゃったかもしれない…!ビートルズの楽曲、これでもか~ていうぐらい盛りに盛られた小ネタ、おしゃれな小物たち、エド・シーラン(エド・シーラン!!!)、あと大好きなケイト・マッキノンも、すんごい良くって、こんなハッピーな映画にケチつける俺って異端?(笑)て感じになるかもしれないけど本当にあの終わり方はずっこけたぞ!!!それでええんか…?幸せってとり逃してしまうこともあるじゃない…ぜんぶ回収するなんてそんな馬鹿な…映画じゃないんだから…いや映画だけどさぁ!? ラブ・ストーリーってあんまり見ないからこういう強引な展開に私がついていけてないのか?ギャビン可哀想すぎるよ~そして最後にギャビンの横に急に出てきた女だれやねんと。お前がおるからってギャビンの事はなくなったことにはなれへんのやぞ。ご都合主義すぎてモヤモヤしたよおおおお。 でも本当にビートルズってすげ~…て思うし、ネタが細かすぎてわからないところもあったけど楽しかった!設定も最高にいいなあ。本当に完全に誰も知らないってわけじゃないのもいい。エドの携帯の着信音がShape of youなのは笑かしにきてる。デブラみたいな人間がアーティストをだめにするのね… あと本当におじいちゃんになった彼のことがすごく純粋にうれしくて涙が出そうになった。そうだよどんな人生でもきっと幸せに生きられたんだ。何かを得るから何かを失うんだよ。でもジャックお前はなにも失って無くない!?やばいまたモヤモヤしてきた。レット・イット・ビーが最初スカるの面白い。
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「キャビン」
洋画。若きクリヘムとDetroitのマーカス役の方が出てた。由緒正しきホラーってこうやって作られるのね……!ちゃんと面白いしちゃんとB級だった。細かいネタもわかるともっと面白そう!
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万城目学「悟浄出立」
タイトルになってる作品がすごく好きで何度か読んでいたのだけどそのあとの話はまったく記憶がないのでなぜかこっから先に進んでいなかったのだと思う。後悔するくらいすべて面白かった。人と人とのたましいの繋がり、それぞれの人生の轍がとてもよく描かれている。 一緒に旅をする仲間や友人や家族、または少しだけすれちがった赤の他人との交流。しぐさや会話によって成り立つ感情。こういうのって文字にするととても美しいな。たぶんだれにでもあることなのだと思う。そういう一瞬を残していけるのならば理想的。私のこのなんでもないTwitterも今風の記録だなあ。
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「エノーラ・ホームズの事件簿」
ネトフリ映画。よ、よかった~なにがよかったってヒロインがかわいい~~~。何も考えずにみられるエンタメ映画だし、やっぱりホームズ時代のロンドンって素敵だ。
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「パラサイト 半地下の家族」
韓国映画。改めてまともに見ました、期待以上に面白くて意外と長い上映時間にも関わらずさっくり観れた。いつか観るときのためにネタバレを避けていたのが高じて最後の展開には胸が震えた。韓国の格差社会、わかりやすいほどむなしい。 彼は地下で住むことによってすべてから抜け出せたのだという考察が良い。どうやら韓国は半地下物件=貧困層、月5万くらいで借りられるところらしいのだけどあまり知らなかった。立派な職業技術があるにも関わらずその日暮らしの人間たちが富裕層の暮らしと隣り合わせになったとき、 こういうことは起こりえると思う。私もたまに自分自身を抑えきれないほど他人への劣等感が増すときもある。あと大体富裕層の人たちって基本的には優しい。圧倒的にステージは違うのだけど。「計画をたてなければ計画が壊れることもない」というようなセリフが印象的。あきらめの境地。 個人的にはこの作品の売り方もすごくよかった気がする。ネタバレ禁止、ポスターからする異様な雰囲気、あとポン・ジュノ監督は本当に現代社会の問題とコメディを入り混ぜるのが上手だ。反日表現もあったそうだが、まあお国柄といったところ…。本人もここまでハネると思わなかったんじゃないかな。 象徴的な例の洪水シーンなんだけど、あそこってすごくわかりやすく作られてて私みたいに難しいことが考えられない人間にも見やすい。「US」が比較にあげられてたようだけどあっちは私にはわかりづらかった(バカで)。あともっと怖い話だと思ってたけどめっちゃ笑った。いいコメディ配分だった!
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「永遠に僕のもの」
アルゼンチン・スペイン映画。私が見たかったすべてが割とそこにあって、ストーリーとか演出は置いといてサイコパスフェロモンむんむん美少年がヒゲモジャ美青年に惑わされてどんどんエスカレート…、ていうわけでもないか。カルリートスはもとからだいぶネジが外れていたもの。 とにかく予告から不穏でオタクがにやける演出が多かったので、その部分を期待してみた方はとても満足できると思う。カルリートスは相棒を愛し、自分を愛し、家族を愛したというそれだけのこと。ほかは死のうが壊れようがどうでもいい。からっぽの金庫はカルリートスのようでむなしい。 相棒の股間にジュエリーをのせるあたりって、やっぱりカルリートスの同性愛的な部分をみせたかったんだろうか……それより相棒のほうが同性愛にハマってて(?)私は満足したけど……あの地方ではブロンドだと珍しいんだね。地域の治安の悪さもとことん感じた。総合的にはよかった。
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「デンデラ」
邦画。ババアしか出てこないのでババア好きはどうか見てほしい。でも内容はだいぶ暗いし辛いです。人におすすめできるものではないけど、老いることは罪ではないなと思った。私はね。赤ん坊とかいう人間ではないものから生まれ育って、にんげんになり、植物に落ち着くのは悪くないよ。 たくましく年をとりたい。誰かに見せつけられる、心にきざまれる人間になりたい。女だからって弱く生きていたくはない。復讐ができるほど強くなりたい。40の小娘、と言ってみたい。老いることは罪ではない。でもとてつもなく恐ろしい。この世は地獄。
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「5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~」
タイトル長いな!?ドイツ映画。ドイツ語が耳に新鮮で良かった。ストーリーは史実にもある通り奇跡のような本当の話なのだろうけど、最後がどうにも納得いかない!?身体的ハンデとは、コンプレックスにもなりえるのはわかった。人には言えないと 思うのも納得できる。でも子供を預かったり、ホテルの仕事を失敗してまで認められることではなくない!?上司の態度の急変もなんだかモヤモヤしてしまった。ただただ友人がまぶしい。彼はすばらしかった。現実にいたならもっと良い気分になりそう。いやもちろん!本人もすごいです!
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「残穢」
邦画ホラー。サスペンス要素があってけっこうおもしろい上にこわかったので満足した…。本当かなんてどうでもよくて、伝承というのはそれだけで人を呪い殺すパワーがあるのではないかと強く思った。竹内結子の演技と声色がすごく好きです。とても惜しい女優さんを亡くした。
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「ザ・ファブル」
邦画。邦画なのに(笑)、アクションの幅がちゃんとしててけっこうおもしろかった。なにより岡田君が見てて飽きない。あと向井理とか福士蒼汰とか木村了とかがひたすら顔がいい。木村文乃と山本美月もはちゃめちゃに顔がいい。演技ともかく顔がいい。誰よりかっこいい佐藤浩市がいい。
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「夢売るふたり」
邦画。阿部サダヲと松たか子とかいう天才がぶつかって演技してて本当に本当によかった、ストーリーに説教臭さとかなくてシンプルでああ…ていう終わり方で、男の悪いところ、女の悪いところ、包み隠さず表現してる(ていうか役者がしてくれてる)。個人的に好きだったのは 松たか子が真っ青な顔をしてふつふつと怒りを身体に押し込めるところ(映画のなかではいくつもあるシーン)もうここが良すぎてここのためにお金払ってもいいと思った。あと松たか子のエrってなんかすごい…すごかった。ソロのえrのほうがすごかった。いいの?見ちゃって……でも女って感じで最高。阿部サダヲのはやくイきすぎて「クソッ!ごめん…」てなるとこ笑う。鈴木砂羽がえrrrrrrっろだった。邦画嫌いの皆様にも見てほしい一品。ああでもやっぱりお金で幸せは買えないのかもしれない。
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「ドクター・ドリトル」
洋画。RDJrのことが見たかったけどそういえばいろいろ有名な人が出てらした。声で。あと日本語版は藤原啓治さんだったので…良さ…。CGで動かされる動物たちは本当にリアルですごい。技術ってすごい。ストーリーは8歳児向けなので頭の中からっぽにして見れるよ。
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「グリーンブック」
見返してて改めて良さしか感じない。トニーの人間らしさとドクの潔癖な部分が目立つかと思いきやドクのほうがめちゃくちゃ人間らしくてわざと潔癖になっているだけのただのひとりの人間で、トニーの勝手な陽気さに癒されていく過程がたまらなく尊い。アメリカは広いね。 ターコイズグリーンの鮮やかなキャデラックが本当に本当によくって、ヴィンテージカーに興味のない私でもため息がでるほど美しい車だと思う。もともとキャデラックってけばけばしい車だとおもってたクチなので感動してた勝手に…… 差別的な表現もあるけど本当にマイルドで(それがまたきっつくて)、でもあえてだからこそ「品性」を極めてきたドクが捕まったときの言葉が良いんだよ~~最後のクリスマスのシーンまでずっとずっと面白くて良い映画。さわやかで後味が残らずそれでいて印象深い。みんな見て。
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「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」
みんなが大絶賛したほうのスースク。絶賛される理由がわかるくらいやりたい放題で、血と内蔵成分がたっぷり補給できる。ハーレイが可愛いままちゃんとヴィランで最高だった。キャラクターはどいつもこいつも濃くて、かつちゃんと悪役。KAIJUも良かった。 ジェームズ・ガン監督の作品はどれも良いものなんだろうな。初期だけどスクービー・ドゥーとかも子供のころから何度も見てた。死なないだろうな~と思ってたキャラもばんばん死んじゃうけど悲しみに浸る暇もないのよなあ。このスピード感が好みなのかも。
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