「どうも実に立派だね。だんだんペネタ形になるね。」 「うん。うすい金色だね。永遠の生命を思わせるね。」 「実に僕たちの理想だね。」 雲のみねはだんだんペネタ形になって参りました。
蛙のゴム靴 / 宮沢 賢治
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形而上バスボム
家の掃除をしていたら風呂場が使えなくなった。パイプユニッシュが詰まってしまっては仕方がない。
そういえば駅前に銭湯がある。家からの微妙なアクセスの悪さ(徒歩15分)や微妙な値段の高さ(440円)から4年もの間敬遠し続けていたが、これを機に暖簾をくぐることにした。
数字がズラッと振られた靴ロッカーがまず立ちはだかる。この手の番号には毎回要らぬ思考が働いて選択を鈍らせられるのだが、今日はどうでもいい。
チケットを番台に渡す。渡してしまったがここは番台なのか。渡したけど何も反応が無いがこれでいいのか。分からないことだらけだが「男」と書かれた紺色の奥へ進む。
噂通り、確かに敬老の方を中心に賑わっている。家族連れらしき姿もちらほら見える。
またしても現れる着替えロッカーの番号地獄に四苦八苦するシーンもあったりしたが、ソメイヨシノの開花具合を雑談に持ちかける2人組に心を和ませつつ、後はお湯に浸かるだけという体制を整えた。
「見かけねえツラだなあ」とでも言いたげな爺さんもいたが眼鏡を外せばこっちのもの。指詰め対策のゴム部分がやたら手厚いことを気にしながらドアを開けて風呂場へ。
さっさと身体やらを洗って湯船に飛び込んでから気づいたが、どうもイメージと違う。
銭湯とは、最奥部に大きな大きな湯舟がドカンと一つ横たわっており、そのバックにでっかく凱風快晴が聳えるのがお約束だろう、というステレオタイプを持っていた。
ところがここは五色沼というべきか、薬能風呂から水風呂、電気風呂に至るまで、種々の趣の湯舟が小さく寄せ集めるように口を開けており、富士の絵はどこにもない。
何の変哲もないただ水温の高い浴槽でフワフワしながら、そういえば銭湯とはこれがよくある姿だったかなと思ったその時、何と5歳くらいのちびっこがいきなり大きな声でどこかに語りかけ始めるではないか。
何も無い、空に向かって声を張り上げるからただ驚いていたら、大きな壁を越えて、反対側からも同じようにして声を張っていると思しき女の子の言葉が届く。
ああ、そういえばそうだ、銭湯は何故か天井付近がひとつながりになっているんだよな、と思い出す。ついでにその反対の壁に描かれた白砂青松に佇む富士を見つける。これもやはりあったのか。しかし先は何故見逃したのだろう。
ところで話は戻るが、このような銭湯のステレオタイプを僕は一体どこで獲得したのか、ということが気になったのだった。僕は生まれてこの方、銭湯というものには縁が無く、今日が人生で二度目かそこらというのに。
心当たりに辿り着くのはそう難くはなかった。何せお風呂で血の巡りが良くなっている。古い記憶を引っ張り出すことくらい造作もない。答えは「手塚治虫」である。
もっと言えばブラックジャックの一話に銭湯の話があった。その時の記憶に他ならない。細かいことは思い出せないが、お風呂越しにコミュニケーションをやり取りする話であったことは何となく記憶している。
天井と壁の隙間に石鹸を投げ込んで、男湯に人がいることを女湯へ知らしめるようなシーンがあった。アレのせいでそんなイメージがついてるんだな。
確か風呂場で倒れた急患をブラックジャックが助けた恩から、その銭湯はえらく早い時間から店を開けるようになるんだよな。あれ、逆に遅い時間なんだっけ。血の巡りが良くないのか記憶がぼんやりして曖昧だ。
そういえば何某かの格闘ゲームにも銭湯をバトルフィールドにしたものがあったな。あの隈取を施した力士のキャラは何といったかな。
危うく茹で蛙になるところだった。思っていたよりもお湯の温度が高く、少し休むつもりがすぐのぼせてしまった。
立ち眩みに驚いて足段に腰掛け、眩暈が引くまで待つまでの間に、先ほどのちびっこを見失う。どうせ遠くには行っていないだろう。
却って身体が気怠くなったような感覚と暑さで滲んだ汗を流そうとシャワーを再び頭からざぶざぶと浴び、もう一度シャンプーをし直して風呂場を後にする。
バチーンっとゴム部を鳴らして風呂場のドアを閉めると、先ほどのちびっこがまたも大声で向こう側と会話している。話題に脈絡が無く相手には通じていなさそうだ。「また後で話して」と返事するあたり、向こうが年上らしい。
とりあえず見つけた体重計に乗って現状確認をしたり、事前にコンビニで買っておいた野菜ジュースを飲んだりしつつ、肌の火照りが引くのを待つ。
共用スペースのテレビでは間もなく金曜ロードショーが始まらんとしている。この時期に平成狸合戦ぽんぽことな。来週の風立ちぬは気になるな。
ついに邂逅を果たしたちびっこたちを横目に、さっきから空振りの音ばかり鳴らしている野菜ジュースのパックを底の方から潰していく。そういえばゴミ箱が無い。
先日行った森の中にあるかのような佇まいのカフェの香りを長らく留めていたパーカーも、銭湯にやられて別の香りをじっとりと滲ませるようになった。
あの日以来、友人とは誰とも会っていない。そのせいか、最後に会ったその人の記憶ばかり頭を巡るし、日々の暮らしが不健康になっていっている気がする。
そうした人肌の恋しさがいくばくか紛れただけでも、このイベントは少し良いものだったのかもしれない。
メモ:この文を出力するのに1時間もかかる。これでは「何でも書き残す」というわけにはいかない。
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If you
はじめてその白い鍵盤を押した時の音を今もおぼえている。
最初はC。ひとさし指一本。音はすうっとまっすぐ上にのぼって、天井にことんと当たると、
しん、とゆらぎを残して消えていく。
もう一度それが聞きたくて、だからもう一回白い鍵盤をスイッチを押すみたいに押した。Cの音。
でも、二回目はすうっとまっすぐ上にのぼってはいかず、ぴょこんとはねて、あとはすぐ消えてしまった。
不思議で不思議でしょうがない。うまくいかなくてやきもきした。
どうして。どうして。さっきの音がきこえない。
何度も何度も、スイッチを押すみたいに押してると、背中から手がのびてきて、1オクターブ高いCの音を出す。
ぽーん・・・。まっすぐのぼって、天井にことんと当たった。しん、とゆらぎ。
そう、この音。この音がよかった。
ぱちぱち手を叩いてぱたぱたと足をうごかすと、体がふふふ、とゆれる。お母さんが笑った。
こてんと頭をうしろに倒すと、目を細めたお母さんが、ひとさし指だしてごらん、って言うので、うん、って返事していっぽん指をたてる。
お母さんの手が、手の上をつつんだ。そのまんま、白い鍵盤に指と手が向かう。
ゆっくり押して、放す。ぽーん・・・。音がまっすぐのぼっていく。
わあ、って声を出すと、おぼえててね、ってお母さんが言うから、うん、って返事した。
そしてそのまま、Cを二回。Gを二回。Aを一回。最後にCを一回弾いた。
そこで、もうあとの事は憶えてないけれど。
十七年の記憶の中では、きっとあれが初めてのレッスンだった。
きゅきゅっ、と床と靴底のゴムが鳴ってうるさい。
先週から壊れかけのスピーカーが流す音楽は、それ自体の性能があまり良くなくて高音を出す度にガラスを割っているみたいだった。テンポ120のガラス音。
心臓が慣れない動きでせわしなくジャンプして、肺がさっきからぎゅうぎゅう締め付けられて痛いし、
なにより髪が頬にぴたりと張り付いてこの上なく不快でしょうがない。
足をつりそうにしながら動かして、ターンした時にぴたりと背中に張り付いたシャツがぬるりと動く。
だから汗なんてだいっきらいなんだ。
うへえ、と声も出さずにぼやくと、すかさず見つけてしま���たらしいトレーナーさんからの怒号が飛んでくる。双葉、指先にも手を抜かない!ってなにそれ。日本語としておかしいよ。
返事のかわりに眉間の皺を深くして、やけに指先を伸ばして、かわりにおろそかになったステップが体をぐらりと傾ける。げ。やばい。転ぶ。どんっ、と結構な音。にも関わらず、どこも痛くない。
げほ、っと咳き込みながら肩の熱を見ると、大きな手が私を支えている。顔をあげると、一定のリズムで息を吐くその人と目が合う。汗はそこそこかいてるけど、結構余裕そうだ。もう1時間も踊ってるのに。
体力あるなぁ、って思いながら、ごめん、って一言添えて体勢をたてなおす。
かくっ、といきなり笑った膝を見るに見かねたのか、いっこため息。10分休憩。
やった、と喜ぶ気力はもはやないの��、ふらふら歩いて、べたんと尻餅をついてすわる。あっつい。
スピーカーの音が止まる。テンポ0。ああ、やっとうるさいのがなくなった。
かなりのアイドルを抱え込むプロダクションだ。お金がない訳じゃないだろうに、音割れがひどいスピーカーを使い続けるのは勘弁してほしい。やる気なんてまあ、最初からあってないようなものが、余計にそがれる。
先週そろそろ新しいのが来るってプロデューサーの言葉は信用しちゃいけなかったらしい。
ああ、でも、いつくるかまでは明言してなかったっけ。
タオルをかぶって、はやく落ち着けと肺の痛みを無視しながら息を吐ききる。やっぱ痛い。
「水分、とった方がいーよ」
って目の前に買ったばかりのペットボトルが差し出されたる。いつのまにか買ってきたらしい。
ありがと、って受け取って、ずるずると這うようにして鞄から財布をとりだす。
確か社内の自販機、ペットボトルは一律100円だったはずだ。
「ん」
「え、あ。いいよいいよぉ」
「あー、いいってば。ちゃんとしときたいし。
はやく受け取ってくんないと杏、これ飲めないんだけど」
腕を差し出し続けるのも今は結構つらい。ぺいっとお行儀悪くなげると、お手玉しながらキャッチ。
じゃあ、っておずおずしながら受け取って、手が小さい小銭入れをぱちんとあけて鞄にしまいこむ。
それから名前はよく知らないけど、運動系の部活やってる子がよく持ってるスポドリ入れ?みたいなの出して、水分補給。汗をタオルで軽くおさえて、んー、ってのびしならがそのまま、マジですか。ストレッチはじめた。いや、やる方が絶対いいんだけどさ。その方が筋肉痛になんないらしいし。とはいえ一口やっとの思いで水を飲んで、いまだぜーぜー息をいわせてる杏とは天と地ほどの差も感じる。休憩だけど休憩してない。ぺたんと座って両足を伸ばして、どんどん前に倒れ込んでいって、長い腕が余裕でつま先までのびていって、手のひらが足をつつむ。ここまで柔軟性があれば、もうやんなくていいんじゃないかって思うけど。鏡に映る、高さが近づいた肩はもうあがったりさがったりせず、落ち着いてきてる。
マジですか。そう思いながら、杏はというと後ろに体を倒した。
杏流ストレッチ。ストレッチって名前を変えたただの脱力。
逆さまになったレッスン室の時計の針は無情にも進み続けている。ちっちっちっ。
休憩終了まであと7分。どうやってこの体を起こせばいいんだろうか。
最初のダンスレッスンは一人だった。
今思えばどれくらい動けるのか、って所を見ていたんじゃないか、と思う。
基礎的なストレッチから始まって、メトロノームでテンポを聞いた。それに合わせて膝を手で叩いて、
ステップを3つ教わった。最初の1時間がそんな風に終わったので、お、結構楽勝かも、なんて思ったのはとんだ甘ちゃんだ。
柔軟性、リズム取り、振りを覚えるスピード、再現の正確さ、アクセント。
レッスンを重ねるごとにそんなのを丁寧にたたき込まれたので、ぶっちゃけ2回ぐらい逃げ出そうとしたこともある。あえなく2回ともプロデューサーにみつかって御用になったけど。
4回目のレッスンから合同になった。オーディション以来、事務所で数回顔を見たぐらいの子。
諸星きらり。
契約内容について追加説明がある、
とややだまされ気味に事務所に呼び出されて(だって説明が終わってからこれからレッスンだと言われた)レッスン室にいやいや入ってナーバスになってる杏を見つけた彼女が、ぱあっと顔を明るくしたのを覚えてる。女の子って感じだなぁ、と思った。典型的な一緒がいいーってやつ。
練習なんて大体において一人でやるもんだし、そもそも一人の方が自分のペースでやれるから、杏にとってはそっちの方が気が楽だった。
だから挨拶かわりに抱き上げられても、やーめーろー、と声を出すしかなかったんだけど、彼女はぜんぜん気にしない。それどころか一緒にがんばろーね!ってどこまでも明るい一言。土曜の午前10時からハイテンションな声が上から降ってきて、真っ正面からはとてもじゃないけど受けれそうにないので、それとなく流す。
レッスンが始まってまず驚いたのはその柔らかさ。次いでそういや誰かのレッスンっていうのも、あんまりちゃんと見たことがないなって思いながら流れた曲に合わせて、彼女はもうダンスをしていた。
まばらな、ステップとも呼べないような足を動かしながらいる鏡の中の自分の後ろ、
ドアの外からこちらをみていたプロデューサーと目が合った。
だから、大いに大いにじと目を投げつけながら、おいおい、プロデューサー、と心の中で呼びかけた。
そりゃ、たいそう恨めしげに。
だいぶレベルが違いすぎるんじゃないかなあ。ってのは客観的な意見だった。
だって彼女はもうダンスをしていた。リズムをとって、音に合わせて覚えた振りをこなしていた。
なのに、レッスンは止まる。主に杏へのトレーナーさんからのつっこみ。
だらだらしない。疲れても顔をあげる。動きをなめらかに。柔らかく。しなやかに!
そんなので途中途中とまっちゃうから、だからきっと、彼女も一人でやりたいに決まっている。
だってもっと上のレッスンがきっとできるはずだ。それだけのものを持ってるんだから。
「って、杏は思うんだけど」
そのまま単刀直入に告げると、プロデューサーはじっと私の目を見つめて、それで?と聞き返す。
それで、って。そのままの意味だと言うと、プロデューサーは丁寧に言語化する。
それが二人の合同レッスンをやめられるだけの理由にはならない。
トレーナーさんも仕事だから、二ヶ月分のスケジュールは事前に組んでいる。合同レッスンをやめるとしたら、彼女を教える別のトレーナーさんを見つけ、スケジュールを確認する必要がある。
淡々と言われて、返す言葉もない。
予定になかったことを始めるのは、その分の時間もコストもかかるぐらいはわかっていた。でも。でもさ。
言いかけた杏に、プロデューサーは大丈夫とずいぶん無責任に言う。
どんなレッスンも無駄にはならないんだと。
「休憩終わり!」
ぱんっ、と乾いた破裂音。トレーナーさんのクラップ。それだけで悲しいかな、重ねられたレッスンで杏の体はのろのろと起きるようになってしまったのでした。パブロフの犬。なんて、寝転がってたらただ怒られるだけってのがわかってるだけなんだけど。立って、やっぱりまばらなステップを踏んで、残りの45分のレッスンを終えて、今度こそばたりと倒れた。だるい。あつい。つかれた。やるきでない。でもシャワー浴びたい。30分後に次の子達くるからね、と遠回しにあんまり長居はしないように、って釘をさしてトレーナーさんは出て行った。
「だいじょぶ?」
降ってきた声にひらひらと手を振ってぺたんと床につけた。大丈夫じゃないけど大丈夫アピール。
とにかくつかれて動けそうにもない。まあすこし休んで、とりあえずレッスン室から出とけばなんも言われないだろう。足がさっきから自分の意志とは無関係にけたけた笑ってるけど。まあはいつくばってでればいい。どーせTシャツジャージだし。杏に気にしないでどーぞ、って台詞をくわえて、瞼を閉じる。15分ぐらい全身から力抜いとけば、多少なりとも復活するでしょ。たぶん。
ふー・・・って深く息を吐きながら、きゅっ、と床とゴムがこすれる音がよく聞こえる。
数十秒ぐらい、なんの音もしないなと思っていると、さっきよりずいぶん遠慮がちにゴムと床がこすれて、
どうやら近くにきたらしい彼女が、タオルを顔にかぶせた杏のことを、たぶん見ているようだった。
なんだろう。なんか用なのかな。ああでも、正直それをきくのも今はめんどい。
バレてるかもしれないけど狸寝入りをつづけてると、かさ、とちいさな音がした。それから、またゴムと床がこすれる音がする。
荷物整理をしたらしい彼女は、ほどなくして、おつかれさま、と小さく挨拶してレッスン室からでていった。
十秒、念のため数えてから、タオルを外してそろっと瞼をあける。レッスン室には当然誰もいない。
なんだったんだろ、そう思いながら身じろぎすると、かさりとタオルがなにかにこすれた。
首をかしげながら雑にタオルを振ると、ころんと水色の小さな包みが転がり出てくる。
指でつまんで見つめてみる。どうやら飴、みたいだった。たぶん、彼女がおいていった。
さすがに忘れ物ってわけじゃなさそうだ。くれる、ってことなんだろう。
残り少ないペットボトルの水を飲み干してから、もらった飴を食べた。しょっぱ甘い。
塩飴ってやつかな。
飴は甘いもんでしょって杏思ってるから自分で買ったことは一度もないけど、結構おいしい。
汗かいたせいもあるだろうけど。それにしてもあっつい。ていうかやっぱシャワーあびたい。
蛙みたいな声出しながら、立ち上がる。予想を裏切って体が素直についてきた。
まあ相変わらず足は笑ってるけど、くすくす笑いぐらいにはなってる。
甘いものは偉大だなあ。ひとりぼやいて、それからレッスン室を出た。
「今日はここまで!」
ぱん!とクラップ。終了の合図。お疲れ様です、と挨拶しつつ、
苦手なとこは練習しとくように、と宿題をしっかり渡されてしまったので、出て行ったあとに思わずうへー、と声が出た。隣にいた彼女は、がんばろ、と明るく笑っている。額に流れる汗もなんだかさわやかだ。
あ、そういえば。ぱむ、と最近笑わなくなってきた足を手で叩いて、鞄をごそごそと探る。
あったあった。二三個適当に掴んで、ぺたんと体育座りしてる彼女の横によっと座って差し出した。
「この前は飴ありがと。はい」
「ふえ?」
きょとんとした顔に、ん、とさらにずいっと差し出す。受け取ってくんないと、杏の手がつらい。
彼女は、じゃあ、とおずおずと両手をお皿のようにして恭しく受け取る。そんな大げさな。
じいっと飴を見つめながら、彼女は少しだけ頬をゆるませる。
「これ、どこの飴さんかにぃ?見たことない包み」
それにすっごく可愛いにぃ、とへにゃりと目尻をさげて嬉しそうにするので、つい口が開いた。
「なんか海外、フランスとかのやつ。見た目だけじゃなくて中身も結構おいしいよ。
適当にとっちゃったけど、赤いのがいちごで、黄色のがハニーレモンだったかな」
「ほえー、フランス・・・じゃあじゃあいちごの、食べてみゆ」
かさ、と開いて、ころんと口にいれる。どうかな。一応、杏的にはおいしいって思うやつ、もってきたけど。
かろ、と飴玉が転がる音がして、もにょっとした口が、あ、なんかめっちゃゆるんだ。
それに、ぱあっ、って擬音がついてきそうな顔のなかで、目が飴みたいに丸くなる。
あ、これなんか見たことあるな。既視感。どこでだっけ。
「おっいすぃ!」
おお、テンションたか。
「いちごの味、ちゃーんとして、甘くて。んんーっ、きらり、こんな飴さん初めて食べたっ」
ほっぺに手をあてて、ころころ軽い音がころがってくからかわかんないけど。
でしょ?って相づちが自然と転がりでて、杏ちゃんこういうのどこで見つけゆの?から始まって、
あとはもうそのまんま流れに任せられるくらい、言葉がでてきた。
「コーヒーとか海外の調味料とか売ってるとこあるじゃん?
たまに寄ると、結構いいの置いてあるんだよね。
まあ海外のだとやたら甘いだけのやつもあって当たり外れあるけど」
「向こうのお菓子って、たまーにびっくりすゆ味と色してるよねぇ」
「あ、てかきらり、この前くれたの、あれどこで買ったの?たぶん塩飴?だよね」
「あれ?あれはねー、んと、事務所の近くにあったドラッグストアに売ってたの。
裏の大通りの・・・わかゆ?」
「んー、あー、なんとなく?あっち側あんま行かないからなぁ。
ここに来る時って違う道つかうし」
「じゃあじゃあ、あの、もしよかったらなんだけど。今度帰り、よってかない?」
どうかな?って聞いてくる。正直、適当に地図とかスマホで出して、このへん、とかって教えてくれるのでも、杏はぜんぜんよかったんだけど。でもまあ、知っといたらなんか役に立つことあるかもしんないし。
いいよ、って本当に軽く返したつもりだったのに。
彼女ときたら、やったぁ、ってちいさく手をたたいて喜ぶので。大げさだなぁ、とは思ったけど。
でも結局口には出さずに、次のレッスンっていつだっけかな、とぼんやり考えた。
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「どうも実に立派だね。だんだんペネタ形になるね。」 「うん。うすい金色だね。永遠の生命を思わせるね。」 「実に僕たちの理想だね。」 雲のみねはだんだんペネタ形になって参りました。
蛙のゴム靴 / 宮沢 賢治
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「どうも実に立派だね。だんだんペネタ形になるね。」 「うん。うすい金色だね。永遠の生命を思わせるね。」 「実に僕たちの理想だね。」 雲のみねはだんだんペネタ形になって参りました。
蛙のゴム靴 / 宮沢 賢治
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