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#酒場玄うますぎ問題
kennak · 9 months
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「(極限状態で)取るに足りない一言で腹が立つようになってしまってね。奥さんが面会に来てくれて、『久しぶりにご飯を食べに行ってお酒飲んだ』と聞いただけで腹が立つんですよ。『おまえ、コロナになったら面会に来てくれへんようになるやないか!』って」  当時の日々は、これまでの人生からぶつっと切り離された存在と思えるほど、本当に自分に起きたこととは思えないトラウマ的な経験だった。  2020年8月、6度目の請求でようやく保釈を勝ち取った。無罪主張は維持していた。ただ住居玄関への監視カメラ設置や預金口座の支払い停止措置など、厳しい条件を飲まされた。かくして248日間もの長期勾留を耐え切った。今は、理由をこう分析する。  「大学卒業後、大手不動産会社に新入社員で入った時の方がきつかったですね。拘置所はご飯食べられますもん。当時は数字取らなかったらご飯食べさせてもらえんかったですから」  「あとは(戦えた理由の一つとしてあるのは)経済力ですね。普通のサラリーマンの方だったら、家族も心配だし、(検事の取り調べで)折れちゃいますでしょう」。山岸さんは刑事弁護のプロや元検事、元裁判官の弁護士を集め、一流の弁護団を結成していた。  ▽検察控訴せず完全無罪  「検察なめんなよ。命賭けてるんだよ、俺達は。あなたたちみたいに金を賭けてるんじゃねえんだ。てんびんの重さが違うんだ、こっちは」。案件を山岸さんに持ちかけ逮捕された元部下に、取り調べの男性検事が言い放った言葉だ。だがその言葉と裏腹に、検察の捜査はストーリーありきのずさん極まりないものだった、と指摘する。  「検察はそもそも、証拠をまともに見ていないんですよ。例えば、検察から証拠開示された電子メールなどを約20人の弁護団員で全て分析するのに1年ほどかかってるんですよ。一方、検察は関係各所へのガサ入れ(家宅捜索)で証拠押収してから2カ月足らずで僕を逮捕していますから、証拠を吟味していないんです。弁護団の分析からは、僕の認識と違う客観証拠が一点たりともなかった。にもかかわらず検察は(僕が横領に関わったとのストーリーで)関係者の供述をねじ曲げて起訴したんです」  2021年10月、懲役3年の求刑に対し、大阪地裁は無罪を言い渡した。検察は控訴せず、文字通りの完全無罪だった。日本ではほぼ100%負ける特捜事件の公判で勝利したのだ。判決は、検事の取り調べが元部下に虚偽の供述をするよう追い込んだ可能性にも触れていた。 判決確定後、山岸さんは「公益を代表する国の機関がこれほどの過ちを犯したんだから、事件の調査や検証がなされるはずだ」と期待していた。しかしそんな動きが起こる気配はみじんもなかった。  「今回の冤罪で私の受けた被害は、単純計算で70億円超です。われわれ民間企業がそんな大きな失敗をしでかしたら、普通は第三者委員会を開いて検証するでしょ? ところが検察はやらない。これだけの冤罪事件をなかったことにするのは許せない。厚生労働次官だった村木厚子さんが逮捕された冤罪事件の後に僕の事件が起こってるわけで、このまま放っておいたら『またやりよるで』と思ったんです」  そこで山岸さんは2022年3月、国に対し被害の一部である7億7千万円の賠償を求めて損害賠償請求訴訟を起こした他、元部下らを威圧的に取り調べた男性検事2人を証人威迫容疑などで刑事告発した。検察庁はこの2人を不起訴としたが、山岸さんはさらに付審判請求を行い、2人のうち1人については特別公務員暴行陵虐罪で起訴するよう裁判所に求めた。大阪地裁は請求を棄却し起訴を認めなかったものの、「机をたたき、怒鳴り、時には威迫しながら、長時間一方的に責め立て続けた検察官の言動は、陵虐行為に当たる」と認定した。  「村木さんの事件後、検察上層部は『あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢となってはならない』とする『検察の理念』を作りましたね。でも、現場の人は正反対のことばっかりしている。われわれ民間企業なら、たとえ経営者が素晴らしいお題目ばっかり唱えても、末端の従業員に守らせなかったら、経営者失格ですよ」と舌鋒するどく批判する。  ▽「巨大化した個人商店」を反省  山岸さんは今、京都で規模は小さいが同じ不動産デベロッパーの会社を立ち上げ、再起を図っている。プレサンスコーポレーションで手腕を振るっていた時分は、第三者委員会の報告書でも指摘されたように「巨大化した個人商店」だった。トップがワンマンで即断即決して会社を急成長させたが、いつのまにか誰にも相談できない体制になっていたと反省した。今では部下に「こら」と叱りつけるのもやめたという。  これらの得がたい経験は2023年4月、著書『負けへんで!東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋)で詳細にまとめて世に問うた。人権団体の講演会や刑事司法のシンポジウムなどでも、自身の体験を精力的に話すようにしている。  「時間の許す限り協力はしていきたいと思っています。ただ、手応えはないですね。一般の国民が人ごとだと思ってますからね。世論は動かないし、国会議員も動かない。それでも、やらなあかんのじゃないか。(検察が)変わるとまでは思わないけど、少しでもくぎを刺すことができれば。二度とこういうことが起きないように」
冤罪の被害額は70億円、248日間の独房暮らし 「それでも検察は謝罪も検証もしないのか!」東証1部上場企業創業者の怒り(47NEWS) - Yahoo!ニュース
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yoshratempel · 1 year
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実家の小さな庭に出て煙草を一本吸い、それから庭や玄関の植物に水をやる。やり方が完全に合ってるかどうかわからない。けど多分あってるであろうやり方で水をやった。ここの描写にこんなに文字数を使う必要は正直言ってない。
玄関に出る前は台所で焼飯を作って食べる。
にんにく、玉ねぎ、人参、豚バラ、塩、塩こしょう、黒こしょう、醤油、キャノーラ油、ラー油、昨日か一昨日使った青ねぎの残り、冷蔵庫の刻みねぎ、胡麻。
庭の家の土台の通気孔的な空間に蜜蜂が巣を作っているらしくかなりの数の蜜蜂が窓の辺りに飛び交っていてやや異様な光景。駆除、と一瞬考えたけれど群をなしているのは危険な害虫などではなく蜜蜂な訳だし放っておいてもいいと考える。人間同士の共存や非戦を類推する。
狭い敷地で、学生生活を送るには恥ずかしく思ったりしたのだけれど、ミニマルな目線で見ると植物や虫、地面など何というか広い世界、情報量の多い庭世界、とは言えど、町内や校区から眺めてみて狭い敷地の小さくて外観のボロい家という客観的事実は変わらず書き手を憂鬱にさせる。小さい家と尊大な父親と気力を欠いて反抗心の乏しい息子。繰り返し書いているのだが別の街での大学生活を終え実家に帰省している。
部屋に戻り木村カエラの武道館ライブの続きを観る前にこの文章を書いている。PCのSpotifyから自分の選んだハイセンスな音楽を流しながら。今流れているのは電化マイルス。ブラック・ミュージックを聞くのがハイセンスというのはしかしどういう算段なんだろうか、でも実際お洒落であるし、音楽的に栄養価が高い感じがする。自分と同世代やちょっと上の世代のユースがはまっていたヒップ・ホップもやはり黒人音楽であって、今こうやって電化マイルスを聞きまくっている自分の現況への伏線であった。
注いで時間の少し経った緑茶(ペットボトル)はマズい。ちゃんと味が劣化する。当たり前だけどそういうのちゃんと認識すべきだ。気付かない時が自分は時々ある。注いでから少し時間が経った緑茶(ペットボトル)はマズい。しっかりと味が劣化するのだ。飲まないでおこう。認識せねばならない。
文字を書いたり読んだりする時だけに訪れる感覚の変化、推移。人間、じっくり文字を書いたり読んだりしない局面も時にはある。この現代社会。じっくり文字を書いたり読んだりしない局面も時にはあるのである。
庭の、敷地狭いながらも情報量の多いミニマルな庭世界。植物、虫、地面、それから台所で自分が料理し、胃袋に投げ込んだ食材・調味料たち。調理器具類。水、ガス、空調。親の労働とサラリー。この家や庭の外側の世界で行われる労働の賜物。図鑑。水道を作ったりガスを家庭に引いてきたり、エアコンを開発、改良したり、食材を発見したり狩ったり飼ったり屠ったり、出荷したり、運送したり、流通させたり、スーパーで売ったり、僕この手の話苦手なんすよね(^_^;)
虫を図鑑まで移送したり、植物の中で食べられるものを育て、育て方を改良し、刈り取り、出荷し、運送し、流通させ、スーパーで売る。
食べられない植物も一応図鑑に移送する。
肉や植物の料理の仕方を発明し、改良する。
水やガスを家庭まで引いてきて、改良する。
調味料を発見し、交易し、生産・流通・販売・購入・消費する。
庭の地面は砂漠やカリフォルニアみたいに乾いていて、もしここを耕そうという気持ちで庭の地面を見てみたとしたならば、かなりがっかりしただろうと思う。この乾いた地面、庭の乾いた地面がどこか別の遠くの場所の地面のアナロジーだとしたらという映画的論理の飛躍に映画鑑賞者的な興奮をしてしまう。
この庭の乾いた地面と同じく乾いたどこか遠い国の遠い場所の地面では今この時何が起こっているのだろう。そこに人間はいるんだろうか。
人間がいたとすれば、人間は、複数いるならば人間��ちは何をやっているのだろうか。
今この瞬間にせよ、もう少し長い時間感覚で人間たちは、うちの庭みたいに乾いた地面の上で人間たちは今この瞬間、あるいはもう少し長い時間感覚でどのような営みを送っているのだろう。あるいは人間の性質ゆえに戦い、あるいは年齢や性別に基づく序列を形成したり、家族、町を作り、政治体系を形成し、暮らしているのかも知れない。自分はメシと庭の水やりを終えたのち自室に戻りSpotifyでハイセンスな音楽を再生し聞きながらこの文章を書いてます。ギャラは発生してない。趣味で自主的に文章を書いている。文学部にいたし、時々文章を読んだり書いたりするのが好きだから。ギャラは現時点では発生してないが村上春樹とかロッキンオンとか映画とかその他諸々ありがたい現代的な視点から見てありがたいイコンや話法を参考にし下敷きにして書いている文章なので、その文学的価値を認めて誰かギャラを払ってくれても良い。払ってもらえる場合は、ケチな額よりも派手な値段の方がいい。と自分は思う。
デカいマンションやテレビの中の芸能界、バブル景気や高度経済成長期の残骸が生んだ経済的な価値観。金はないよりある方がいい。ないならないで極限みたいな貧困状態でなければ別にいい。ブックオフでCD買っても、晩酌発泡酒でも、別にいい。とは言え少し気力が削がれる気がしなくもない。ブックオフでCD買うことや晩酌を発泡酒で済ますことが、自分の何かを騙している感じがしなくはない。
極限的な貧困状態でなければいいと書いたが、人間の本質は極限的な貧困状態にあるのかもと最近ちょっと思う。自分はお笑いや笑うこと自体が好きなんでよく笑っている。テレビや本や歌や映画や自分の頭の中とか。そうすると貧しさや弱さ、暗さから一時的に目を逸らすことができる。「お笑い」というのは笑うしかない、笑えないほどしんどく、タフで過酷な状況、笑いがないと、笑いでもないとやっていけない状況に対する救い、救援物資のようなものだと自分は考えている。偉そうに言わなくてもそうなのかも知れない。その辺自分は時々よくわからんでズレてしまう。昔、何かのお笑いの芸で初めて笑った時以来。タフな状況にいる人々のための救援物資。
極限的な貧困状態。将来設計。社会問題とそれを自分の問題としてしまう想像力。他者や社会の問題に使う想像力とは言わば免疫の低下であって、引きこもりには引きこもらせておき、いじめられっ子にはいじめられさせておき、援助交際、レ◯プ、セクハラなど女性に関するセックスの諸問題も放っておけば精神衛生はもっとずっと綺麗に保たれたままなのである。
極限的な貧困状態、将来設計、社会問題と精神衛生。企業ロゴ、テレビ的幸福、テレビ的コモンセンス。排除されるマイノリティ。天才テレビくんたち。マンション建設によって奪われる心の豊かさ的なお話。ヒューマン・ビヘイビア、ミヒャエル・エンデ、金八先生、カッコいい仕事とダサい仕事。映画。
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manganjiiji · 4 months
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2024のお慶び
早速年賀状に間違えて堂々と2004と書いてしまった(イラストの中に描いてしまったので訂正しようがなし)。ココロ、いつまでゼロ年代。
日記ではあけましておめでとうございます!の記事ですね、今年もよろしくお願いします。この日記、いつまで続くんだ…笑。今日から博文館の懐中日記をうきうきと書き始めました!
博文館新社 博文館 日記 2024年 B7 懐中日記 No.50 (2024年 1月始まり) https://amzn.asia/d/g2cGwrz
赤森さんも引き続き今年も懐中日記とのことなのでお揃い。書く場所が無地なのでなんでも書けるのがよいです。私は箇条書き風にしました。朝から夜までの行動記録という感じ。意外にTwitterにも書かずtumblrにも書かずなことってあるな、と思った。まあそりゃいちいち書かないし今日は地震があって夜はツイートをしませんでしたので、特にだね。そういえば今日は朝夢を見なかった。だいたいいつも見た夢の内容や光景に夕方くらいまで引きずられているので、夢を忘れていると快適。
15時まで寝て体力が回復したため(なんと昨日大晦日は銀座ライオンビヤホールで酒を飲んだ。酒と言っても、ジンソーダとカシオレだけ。でも全然具合も悪くならず、酔いも1時間で終わったので、今日に影響することはなかった)、ジーパンとセーターに着替えて駅前のスーパーへ。ドラッグストアが空いていなかったので、もう1つの駅前のココカラファインまで行って、なかなか元日から歩くことができた。嬉しい。5300歩くらい歩いた。ただ風呂には入っていない。夜20時過ぎにどうしても寒い感じがして布団に入り、23:30まで寝ていた。具合はいいがこうして見ると結構寝すぎである。思い立って朝から何人かの友人にはあけおめLINEを送った。年賀状を1枚投函した(昨日やっと描き始めた)。色々なことが変わって、着実な日々を過ごせているなあと思った。ふと、このマンションの部屋は今の自分の身分相応な感じがして好きだな、と思った。6畳1Kで家賃5万。かなり都心に近いのだが、古いくらいで特に問題なく、土地柄とても家賃が安い。ユニットバスだが日当たりがよく、寒くない(夏は危険なほど暑い)。住人も普通だし周りは住宅街で治安が良い、駅まで10分以内。この家賃でこの条件の良さは破格だ。ベランダなどはないが、そういうところも私の身の丈に合っている気がして気に入っている。あと10年くらいこの部屋に住みたい。都立大に入学することになってもここから通うと思う。しかし多摩はやや遠いな…。(なにもかも皮算用)
もう今日は本当に嫌なことが寝起きにあり、それで夢の内容は飛んだのかもしれない。ただ、その嫌なことももうここに書くほどでもないか、と感じる。博文館の懐中日記に一日の行動記録をつけ、あんスタの公式手帳(なんか高いのに買った)にあんスタ関連の予定を全部書き込みイベントを走る計画を明確にし(様々なキャンペーンの期限も書いた)、かなり頭の中が整理された。あとは今月の予定を手帳に書けばいいのだが、さすがに夜遅くなったのでやめた。今日も年賀状を1枚書いた。12月に大量に本を買ったのに、まだ全然手をつけていない。部屋の中に本と段箱が積み上がっていて、結構カオティックだが、暫く誰も家に来る予定がないので気楽。机の上さえ片付いていればそこまで精神的にはものの散乱は悪くないことに気づいた。今日は水炊きを作ろうかと思ったが、下腹が便秘?で痛すぎて断念。米を炊いたので、白いご飯とシジミのインスタント味噌汁を飲んで夕飯とした。昼には最後の「いなりあげもち」を食べてしまった。さよなら、いなりあげもち。おいしい時間をありがとう。
脈絡なく、特に今日はなんの思考も思想も書かずに日記が終わりそうだ。ごちゃごちゃ考える日ではなく、どちらかというと体を動かした日だった。一日に1ページくらいは本を読み、1時間は英語の勉強をしたいものだ。あとは風呂に入れればいいなあと思う。風呂のハードルはとても高い。疲れるから。でも頭を洗わなくてよくて、湯船に浸かるだけなら意外とできる。冬は積極的に湯船に浸かっていきたい。大家さんがくれたと思われる(25日に家に帰ってきたら玄関の新聞受けにクリスマスプレゼントとして挟まれていた)ゆずとバブがあるので、使いたい。薄い生地のワンピースを洗う用の洗濯ネットが欲しいんだった。セリアが営業開始したら買おう。
今まではあれやろうこれやろう、を全部どこかに書いていた気がするが、見てわかるもの(対応すべきものが目の前にあるもの)は書かなくていいし、短期的に対応すべきものと中期的に、長期的に、とそれぞれ書く場所を変える(付箋メモ、手帳、スマホのメモ)ようになったのは、なかなか自分も、人生手慣れてきたな、という感じだ。基本的には手帳(スケジュール帳)に集約しているが、その体力がない時の「一時保存の場」を作る、とりあえずどこかに書く、ができるようになった。重要なものは目につく場所にその物自体を置いて忘れないようにするとか。(しかしこれはどんどん他のものも置いていって前の方のものを忘れる場合があるので注意)。一人暮らしも、まあ慣れたというか、やっと落ち着いてきたかなという感じだ。今?遅くない?と思うが、今です。なにもかも周りの人より10年遅いくらいなのはもう仕方ないとして、体は老いていくのが悔しいと思う。でも、見た目が結構若いほうだし、まあ、痩せればもうちょっと健康になるだろうから、かなり恵まれている方だと思う。そこでとくに悲観的になる必要はない。代謝もいいし、風邪は引かないし。ただちょっとフルタイムで働く体力はない。が、それは年齢関係なくないし、障害者なのでと開き直れるのでまあ問題なし。明るく楽しく生きる才能があってすげーなと思う。先のことに対しては楽天的だが、人間関係に対してはナイーヴ過ぎると思う。傷ついたり防衛したり警戒したり思い直したりが忙しい。今年は人間関係上の思考の悪い癖を徐々に取り払っていけるといいな〜。
今日は元気に動けたが、明日は分からない。明日も元気だと嬉しいが…。小説を書く気は起こらないけど、それは健康が上手くいってからの話なのかもしれない。マイナスきいろとオリジナルBLを、カクヨムとムーンライトノベルスで連載していきたいと思っている。やばい、マイナスきいろの資料的なものどこにやったっけ…。オリジナルBLはあのファイル、というのが思い浮かぶが、マイナスきいろの資料まとめファイルがどれなのか全然思い出せない。できれば明日探したい。
うわ、もう3:40になっている。まだ3時くらいかと思った。夜寝てしまったからまだ眠れるほど疲れていない。英語はリスニングをpodcastで少しした。単語帳も開ければよかったな〜と思う。12月一切英語をやっていないが、10・11の2ヶ月で結構やったので、どうにか1月ののこり20日で感覚を思い出したい。英検はたぶん1/21だと思う。一次試験を突破したいが、ライティングとリスニングの対策をかなり頑張らないと無理だと思う。体力と仕事優先で行くので、またあんスタと勉強が疎かになりそうだ。まあ、それは体力が回復し、仕事に慣れるまでは仕方ないのかもしれない。
2024.1.1
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cookingarden · 4 months
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ヴィム・ヴェンダース監督 『PERFECT・DAYS』
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最後に流れるニーナ・シモンの「Feelig Good」に息を飲んだ。いったいこれは・・・聞き覚えのあるこの歌が、世界に満ち溢れている。自分もまさにそのなかにいる。感動というより、圧倒的な覚醒感に心が震えた。
ルーチン
『PERFECT DAYS』にこれといったドラマはない。東京の下町で清掃員を務める平山の日常が描かれる。平山の毎日は実にシンプルだ。
笹箒で道を履く音で目覚める。布団を畳み歯を磨く。いつもの持ち物をポケットに収めドアを閉める。アパート脇の自販機で飲み物を買う。クルマのドアを閉める。清掃道具の詰まった軽四を走らせる。カセットテープを選ぶ。『朝日の当たる家』が流れる。
平山が向かうのは、東京の下町に点在する公衆トイレだ。
仕事場に着くと、掃除用具を下げてトイレに向かう。ドアノブを磨き、丁重に便座を拭く。利用者が来ると手を止め外で待つ。昼休みになると、いつもの境内のベンチで昼食をとる。揺れる木漏れ日にカメラを向け、ときに小さな若木を採集する。
仕事を終えると銭湯に行く。その足で地下通路の居酒屋でくつろぐ。アパートに帰るとポケットのものを玄関に揃え、布団を敷いて灯りを付ける。幸田文の『木』を開く。数ページを読んだら灯りを消し眠りに就く。一日が終わる。
映画は平山の一日を追い、振り出しに戻るように再び次の日の平山を描く。そしてまた次の日も。
繰り返されるルーチンのなかで、ときに問題も起きる。相棒は仕事をサボり、余命いくばくの男に、「スナックのママをよろしく」と告げられたりもする。突然現れた妹の一人娘は嬉しそうに平山の部屋に転がり込む。トイレ掃除を手伝うという。ときに起こる起伏もまた、周期の異なるルーチンのように平山の日常に差し込まれている。
別の世界
映画に描かれる平山の日常は、多くの人の日常とさほど変わらない。私たちもまた、同じ時刻に目覚め職場に向かう。厄介な問題を抱えることもある。晩酌もすれば銭湯にも行く。スナックに立ち寄れば、職場では聞くことがない打ち明け話しに耳を傾けたりもする。
それにも関わらず、平山の日常が自分のそれとはまるで別の世界に見える。
彼の日常が自分と決定的に異なるのは、繰り返されるルーチンへの率直な態度だ。平山はルーチンに決して文句を言わない。それどころか、同じ繰り返しのひとつひとつを受け入れ、楽しんでいるように見える。
しかし、平山はただ受け身なわけではない。彼の表情に迷いはなく、行いは自然で落ち着きがある。仕事をこなす姿はむしろ洗練されている。周りを自分のものにしている。平山のルーチンには輝きがある。なぜ、平山はこうも日常と交われるのだろう。
饒舌
私たちはルーチンを嫌う。同じことの繰り返しをつまらないと思う。そう思いながらもルーチンをこなしているのは、繰り返しを意識しなくても済む方法を身につけているからだ。時間があればスマホを眺める。人を待つときも、電車に乗っても、食事のときでさえ。そして、トイレに入ってもスマホを手放すことはない。
私たちは平山ほど無口ではない。よく喋る。饒舌ではないまでも、さまざまなメッセージを受け止める。というより言葉を消費することに忙しい。その点、平山は口数が少ない。相棒が話しかけても滅多に口を開かない。たまにガラケーに電話がかかっても、「うん」「ああ」で話は終わる。平山にスマホは似合わない。
平山の部屋にはモノが少ない。あるのは古本と苗木くらいだ。言葉の数とモノの多さは比例しているのだろう。私たちは周囲の者ともっと多くの言葉を交わす。お金でモノを求めるにはそれなりに言葉がいる。そうして世界は広がり複雑になる。そうするうちに、平山の日常が別世界になってくる。
滑る世界
しかし、世界を広げたところで、他人やモノとの関係が深まるとは限らない。平山が運転する軽四も、掃除をするトイレも、見上げる境内の木も、東京に無数にある似たもののひとつに過ぎない。その同じものを私たちもまた目にし、手にし、使い、過ごす。しかし、平山が木漏れ日に目を細めるようには外界と交わらない。
私たちの日常風景は、滑るように過ぎて行く。歩く側から通行人や植え込みが現れては消える。
しかし、平山のそれは異なる。木立から見れば、平山は言葉を交わすことができる、数少ない通行人の一人だろう。木立に小さな熱が生まれる。葉を透過する光が、微かに輝きを増す。
私たちも平山と同じ世界を生きている。東京の下町を行き交う数多の生活者の一人だ。路地から見上げる先にはスカイツリーが立ち、銀座線の改札を出れば地下商店街を通り過ぎる。夜闇を照らす自動販売機はいたるところにある。掃除の行き届いた公衆トイレもある。しかし、そうした日常に気持ちを止めることはまれだ。
それに比べ平山を取り囲む外界の、なんと満ち足りていることだろうか。同じ世界がなぜこうも違って見え、異なる関係で結ばれているのだろうか?
罪滅ぼし
おそらく平山には暗い過去があるのだろう。妹に「お父さんの見舞いにでも行ったら」と言われた平山は、立ちながら嗚咽を漏らす。弱り果てた父親だけが非日常のように断絶し、向こう側にいる。本来なら最も近いはずの関係に平山は近づけないでいる。そのことが却って、平山に日常との親密な交わりを促しているように見える。
関係の断絶から生まれる親密な世界。これはひとつの罪滅ぼしかもしれない。不幸なことかもしれない。私たちが平山とは正反対の世界にいるとしたら、私たちは親密な関係のせいで日常から断絶していることになる。はたしてどちらが不幸なのだろうか。どちらが幸せなのだろうか。
ひとつだけ確かなことがある。完全な関係も、完全な親密も、完全な幸せも不幸も存在しないことだ。矛盾する二つが同時にある。その矛盾を純粋に受け入れるとき、人は虚飾を離れ自分に忠実に生きることができる。そのとき世界はなぜか親密で美しい。何故もなく、ただ受け入れ慈しむだけの完全な日々が訪れる。
完全な日々
鳥が飛ぶ… 太陽の輝き… そよ風が流れる… 夜が明け、一日がはじまる… ああ、生きている。 なんという自由、ずっとこの時を待っていた。 ああ、生きている。
木漏れ日の向こうに木立がある。その向こうには太陽がある。
世界のなかに日本がある。日本のなかに東京がある。東京に平山が暮らしている。その平山を木漏れ日が包んでいる。
ニーナ・シモンの歌声が、至高の生きる喜びを伝えていた。平山が見ている木漏れ日が歌になっている。できることなら、こんな東京がいつまでも続いていてほしい。この「TOKYO物語」が生きながらえてほしい。
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takashimatsui1960 · 4 months
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2023-12-16
早暁思いついて、昨夕刊のシネマ評に出ていた『枯れ葉』を観に行くことに決める。ユーロスペース@渋谷だし、短い映画だし、帰りに買い物をすれば特に問題はない。米を研いでおく。どうしても出さなければならない年賀状2枚は明日書く。新聞の折込チラシには、もう蒲鉾や酒が並んでいる。
ユーロスペースはどうも相性が悪い。この前行った時は開場までずいぶん待ち、今日は発券がさっさとできず、入場したらころんだ。腕を擦りむく。しかもフライヤーは入手できず。もっとも日本版ポスターのデザインはよろしくないので、それを縮小するであろうフライヤーもそれほど魅力はない。道玄坂工事中。やっと少し渋谷駅の地下のしくみを覚えた。
13時すぎに帰宅。
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modernheavy · 10 months
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漫画感想:『ハロー、イノセント』37話 / 酒井まゆ
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『ハロー、イノセント』第37話 / 酒井まゆ
りぼん2023年7月号
(※ネタバレあり)
降りしきる雪のなか、行方のわからなくなった結以《ゆい》を必死に探す雪灯《ゆきと》。
飯島に電話して結以の実家の住所を聞き出す。
飯島、「なぜ俺が結以ちゃんの実家の住所を調べたことあるのを知って…」ってうろたえてたけれど、たまたまっていうか、飯島なら知ってるかもしれないと望みをかけたんだと思う。
飯島、自白。正直でよろしい。
結以の実家に向かった雪灯は玄関で結以の母親と対面する。
心配するそぶりも見せない結以の母親から雪灯は衝撃の言葉を聞かされる。
「あの子は私の目を盗んで 義理の父親に取り入るような人間なのよ」
そこで雪灯は結以のこれまでの数々のにおわせてきた言葉の真意を知る。
実の親に信じてもらえなかった結以の苦しみを知った雪灯は声をふるわせ、母親に感情をぶつける。
「結以にはあんたしかいなかったのに!!」
初対面の人に感情をぶつけるなんて雪灯には珍しい行動だけどそれだけ憤りを隠せなかったしそれだけ結以のことを大切に思ってるってことだよね。
「絶対見つける」と母親に啖呵を切ったものの、さすがに居場所までは見当がつかない雪灯。
とりあえずと乗った電車で、偶然に窓からとぼとぼと歩く結以の姿を発見する。
雪の降りしきる中、冬の冷たい川の中にじゃぶじゃぶと入っていく結以。
いやいやなにしてんのー!?😱
そこへ間一髪助けに入った雪灯!!
「もうここでいーかなって」ってダメだよ! 雪灯と幸せになる未来を考えてよ!
結以の母親は再婚後幸せそうだった。
しかしその幸せの裏で養父の湊が結以にしていたことは……。
ワンシーンで結以が養父に何をされていたのかをにおわせるのはさすがベテラン作家の技ですね。
そのことを母親に打ち明けるも信じてもらえないどころか嘘つき呼ばわりされてしまった結以。
「あの時から私は お母さんの『子供』じゃなくて『敵』になったんだ」
泣きながらこう話す結以に胸がギュッとなりました。
今まで誰にも言えなかった心の澱を雪灯には打ち明けられたんだね。
自分がいなくなればみんな幸せになれるという結以の思考の根底にはこういった根深い思い込みがあったんですね。
でも結以、ダメだよ。何度だって言うけれど結以も幸せになっていいんだよ。
泣きじゃくる結以を抱きしめながら雪灯はある提案をします。
「一緒に逃げようか」
いやいや、逃げてどうなるの!? 名桜《なお》はどうするのよ!? ばあちゃん亡くしたばかりで雪灯までいなくなったら名桜悲しむよ!?
でもこういう時、人が選ぶのは一番大切な人なんだろうなとも思ったり。
さて、2人は本当に逃げることを選ぶんでしょうか。
案外結以が言いそうだな、「名桜ちゃんはどうするんだ」「現実的じゃない」って。
個人的には2人で問題を解決する方を選んで欲しい。時には周りの力を借りながら。
養父がやったことの証拠があれば一番いいんですけどね。
案外結以の母親が証拠持ってるんじゃないかって思うのは楽観的すぎかな。
結以のスマホに送られてきた知らない番号からのSMSの送り主は実は結以の母親なんじゃないかと思ってる。
ところで余談ですが、前作の『群青リフレクション』も終盤は雪の降りしきるシーンでしたが、たまたまですかね?
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zootwo · 1 year
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蛇が22時を食べてしまった 朝からこっそりと髪のなかに隠れていて、22時が来るとミサイルのように髪から飛び出し、それからコンドームのように22時を飲み込んだ。蛇の腹のなかでひたすらに暴れる22時、けれど食べられた時間は出られない。もともと時間とは流れているものではない。行為に干渉されることで永遠から識別される。大河から削り取られた水飛沫のように登場したのちに、ゆっくりと忘れられ消えていく。食べられる方が幸せだったのかそれとも生まれも消されもしないほうが幸せだったのか分からないけども、問題は蛇が時間を消化しないことである。「出られない」とはそういうことだ。蛇の飲み込んだものは消えない。蛇の腹にはまた別の永遠が用意されていて、もう二度と殺すことができない。時間はその中で生き続けてしまう。死ぬ機会を奪われた時間のことを、私達は忘れることができない。次の日の朝起きたときも、玄関で急いで靴を脱ぐときも、映画館で息を止めるときも、外国でお酒を飲むときも、山頂で街の光を見下ろすときも、お風呂から出てストーブの前に立つときも、その22時のことを忘れることができない。たとえ私達が死んで肉体が塵となっても、私達の中から22時が忘れられることはない。死が終わってしまったあとにも、それから新しい生が始まっても、ずっとだ。蛇には呪われない方がいい。変に寝すぎてしまった日には、塩で頭を洗うといい。
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sankayounokoi · 2 years
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03
「きょもには関係ない」
目も合わさずに拒絶するような言葉がその喉から放たれるのは何度目だろうか。
「関係ないって…そんな言い方しなくたって!」 「だってそうだろ!?まだ2年のきょもに何が分かるってんだよ!」
就活に疲れ果てた樹はたまに、いつもの全てを分かっているような顔を投げ捨てて取り乱すことがあった。
「帰る」  「え、」  「俺今日は帰るわ、じゃ」
当時の俺にはどうしたらいいのか分からなくて、いや、きっと無意識に分かろうとしていなかったんだ。 言ってくれなきゃわからない、と言い訳して、気付こうとしていなかった。
「京本この後時間ある? ちょっと付き合って欲しいんだけど」 「うん、いいよ」
それに比べて北斗は本当に就活生なのか疑ってしまうほどに落ち着いていた。 愚痴を溢すことはあっても人に当たることはない。 樹よりももっとずっと人の感情に敏感で、だからこそこうして自分を制することが出来ているのだと思う。
あの日から北斗は変わっていった。
 今までは隠してくれていた気持ちを全面に出してきて反応に困ることがある。 前と同じセリフを口にしても意味が違って聞こえてしまう。
「あなた、また睡眠取ってないでしょ」 「そんなことないよ」 「嘘言うなって、クマ、できてんぞ」
眉間にシワを寄せて目の下をなぞる親指から、 早く気持ちが変わればいい、 と思ってるのが嫌でも伝わってくる。 そしてその指に俺は変わらないよ、と心で唱えるだけで、最近は口に出来なくなってきてしまった。 何故かはわからない、多分罪悪感かな。
「明日3限からだろ、うち泊まって行けよ」 「う〜ん」 「京本が好きな酒あるよ」 「まじで!行く!」
気持ちに応える気なんてないのに、こうやって北斗の好意に甘えてはやく北斗が俺に愛想尽かせばいい、なんて思って人頼み。 通い慣れた部屋に入れば気は緩む一方で、北斗に乗せられてどんどんと酒が進んでいった。
お互いに頬を赤くしてばかを言って騒いで隣から壁を蹴られたりして ”嫌われてしまうかも”と不安にならない気楽な時間は、俺をどんどんと大きくしていった。
「北斗そういえば就活どうなったの? 最近あんま聞かないけど…」 「ああ、まあそれなりに、な」 「またそれ?俺一応心配してるんだけど?」 「俺のことはいいんだよ、あなただってそろそろ準備始めなきゃなんじゃないの」 「あ〜、まあねぇ」
2度目の3年生は北斗という監視の目もあったせいか、見舞いに通いながらもしっかりと単位を確保している。 このままいけば問題なく就職活動へと入れるだろう。
「就活かあ」  「どういうとこ行きたいとか考えてるの」 「なーんにも!働きたくねぇ!」
馬鹿言うんじゃないよ、と笑われて笑い返して、だいぶ慣れてきた酒を胃に流し込んで雑魚寝して、 本当は俺が寝た後も北斗は起きていて 1人で色々と考えてることを知っていて、知らぬふりをして朝を迎える。願わくばこのまま変わらなければいい。
カンカン、と外の錆びれた階段を誰かが降りる音で目が覚めた。本当に壁が薄くて暮らしにくい部屋だと思う。就職したら引っ越さないかなこいつ。
樹は俺と付き合いだして少しした頃に一人暮らしを始めた、実家から通っていたのに突然だった。 理由を聞いても教えてくれはしなかったけど、かっこいいでしょ?とたまに言っていたからしょうもない理由なのだと思う。
その部屋は大学生にしては広くて綺麗な部屋だった。1DKと言うらしい、大学までも遠くなくてバストイレ別。多少騒いだ所で文句も言われなくて、他人の生活音で目を覚ますこともなかった。
泊まるといつも俺が先に起きていて、寝起きの悪い樹を起こすのに毎回苦労していた。授業が遅い日は2人で二度寝したり、遅刻しそうになって汗だくになって大学まで走ったり、毎日楽しかった。
俺が寝落ちてから運んでくれたのだと思う、床に座っていたはずなのにソファに寝ていてご丁寧に布団がかかっていた。家主である北斗はテーブルに突っ伏して寝ていて、何でベッドで寝なかったのか謎だった。 寝ぼけてPCをいじってデータが飛んだ、とか言い出されても困るからスリープにしてあげようと思って
チラリと視界に入った画面。
見るつもりはなかった、だたちょっと見えてしまった。 何度も見た憎い文字列に俺は息をすることを忘れてしまった。
「ん…、ってぇ、あれ、寝ちまったの…、京本?」 「っ、北斗…これ…」 「あー…」 「受けたの、ここ」 「あー、えっと、悪い、ちゃんと話そうとは思ってた」
画面には”採用”の文字が映し出されていた、そう、あの日樹も見せてくれたあの会社からの内定通知だった。
「まさか、入社するとか言わないよね」 「…」 「ねえって」
北斗は樹がどこの企業に入社したかを知っている。当時の樹の状況も全て だからこそ何故この会社を受けたのか分からなかった、こんなの自殺行為だ。
「なんとか言えよ」 「…」  「北斗っ!」
俯いて何も言わない北斗にどんどんと声が荒くなる、まだ早朝のこの時間では隣の人はきっと寝ていて、もしかすると起こしてしまったかもしれないが、そんなこと今は気にしてられない。
「入社、するつもりだ」  「なに、言って…」 「俺はこの会社に入社する」 「お前っ、何言ってるのか分かってるの」  「分かってる」 「分かってない!」
分かってるわけない。この世にブラック企業だと分かってその会社を志望するやつなんかいない、そのせいで樹はあんな目に遭ったのに。
「許さない」  「何が」  「お前があのクソ会社に入社するなんて、絶対許さない」 「京本に許してもらうことじゃない」 「っ、それでも!俺は認めないからなっ」  「認めてくれなくてもいい、俺はこの会社に決めたんだ」
他にも会社なんて腐るほどあるのにどうしてよりによってこの会社なんだよ。 真っ直ぐにこちらを見て決めたと言うそれは、固い意志を感じずにはいられなくて、どうにかしたい気持ちが手のひらに爪を突き刺していった。
「頼むよ、辞めるって言ってくれよっ。」 「辞めない」 「北斗、俺のこと好きなんだろ? 俺のためだと思って、な?」 「好きだけど、辞めない」
何を言っても全く揺らがない声が随分と近くで聞こえた。こんなにも狡いことを言っているのに狼狽えることもせずに好きだと真っ直ぐに言う声
「ごめん」
その言葉は重く俺にのしかかって、震える肩を止めることも出来なかった。
それから何度も何度も、会う度に考え直して欲しいとしつこく話したけれど、結局一度も首が縦に動くことはなく、あっという間に入社式の日となってしまった。
「ほんとに行くの」 「あなたも随分としつこいのね、もう今日入社式だよ?」 「だって…」
入社する前から何度も何度も会社に呼び出されて、既に北斗は会社の人達の名前を覚え切ってる。真新しい革靴はすこし擦れた跡すらあって、それを見るたびに息が詰まって視界が暗くなる。
「ほら、約束してくれたじゃない。お祈りしてくれるんでしょ?」 「っ、」
入社式の日程が決まったと聞いた日、俺は前日から北斗の家に泊まって見送ることを約束した。 ”いってらっしゃい”と言うために、 行って帰ってきてと願いをこめるために。あの頃できなかった、俺の贖罪。
「北斗、絶対に帰ってきて、俺の元に」 「ん、誓います。他でもない、俺の好きな人である貴方に」
その言葉には応えられない。それなのに北斗の好きを利用するようなことを何度も言って繋ぎ止めようとする。俺はなんて狡い人間なのだろう。
「っ、いってらっしゃい」  「いってきます」
樹とは似ても似つかない大きな背中が、玄関から外へと出ていき扉によって見えなくなっていくのを最後まで見つめた。ついていきたかった、止めたかった、もうこれ以上誰かを失いたくなかった。
落ち着かない。 北斗が家を出てからまだ2時間程度しか経っていない。何度スマホを見ても連絡の一つも入っていない。当たり前だ、いくら既に何度も行っているとはいっても新入社員。スマホを触る隙なんて一切ないだろう。
樹は初めの頃どうだっただろう。あの頃もやっぱり今と同じで入社式までに何度も入社準備だとかいって会社に行って、真っ黒なメモを持って帰ってきていた。 ようやく就活が終わったのに大してゆっくり出来ずに社会人になってどんどんと樹の顔は変わっていった。
大人らしくなったと言えば聞こえはいいが、要するに痩せていった。 朝早くに会社に行って夜遅くに帰ってきて、たまの休みになる着信音。休める日なんて一つもなかった。
樹の家に通ってうまくもない料理をして待っていても、帰宅したら真っ直ぐベッドに倒れ込んでしまうから、冷蔵庫に眠るご飯。 どんどんと家に行くのも連絡すらも減っていってしまって、あの日は連絡しないまま何日目だったのか。
見てもいないテレビの音が流れる部屋でどこを見つめるわけでもなく目を開けていると、視界の端でスマホの画面が光ったのが見えた、何かの通知だ。
北斗かもしれない、昼休憩とか何か、きっと。
そう思って見たがそこに書かれていたのは”会社説明会開催のご案内”というメールタイトルだった。そう、今度は俺が就活の番だった。こんなの手につくわけがない、あの日の後悔が押し寄せるこんな状況で自分の将来なんてどうでもよかった。
「ん…」
いつの間にか眠ってしまったらしい。 こんなにも心配なのに眠りこけてしまうなんて、こんなんだから樹のことも支えられなかったんだ。しっかりしなければ。時間を確認するためにスマホを見ると、北斗からの連絡が入っていた。
<今日飲みに行くらしいから帰るの遅くなる> <あなたどうせ家に居るんでしょ?> <遅くならないうちに帰んな> <家ついたらちゃんと連絡するから>
休憩時間か何かがあったのだろうか、立て続けに入っていた連絡に一旦安堵した。さすがに初日から馬車馬のように働かされることは無いらしい。
<わかった>とだけ返信をして俺は家へ帰った。 いつもの場所に鍵を隠して。
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myonbl · 2 years
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2021年12月27日(月)
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今朝はよく冷えた、起床時の気温が-1℃! 玄関に出てみると、車が真っ白! テレビでは近畿地方の大雪と交通への影響が報じられている。私の職場は今日が<仕事納め>だが、同僚諸氏には出勤に苦労されているのではなかろうか。かく言うわたしは有休とってすでに冬休み、同僚の皆さん、よいお年をお迎えください。
5時30分起床。
日誌書く。
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ネギタマうどん+ヨーグルト+豆乳。
洗濯1回。
ツレアイが2男のおにぎりを用意する。彼女は昼までの勤務なので私の弁当作りはお休み。
車の雪を払い落としてから、ツレアイを職場まで送る。
1/6(木)の「人権論」「環境論」のレジュメ作成、これで年内の仕事は終了。
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北海道さんだかん燻製工房は京都大丸へ出店中、正月用に骨付きハムを購入する。レジのシステムが変わったのでいろんなキャッシュレス決済が可能、PayPayで支払いを済ませた。
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3男のランチ、私は内科受診のためにパス。
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京都南病院の予約は14時、15分前に受付を済ませ、iPhoneで『「利他」とは何か (集英社新書) Kindle版』を読み始める。第1章の途中まで、なかなか面白い。
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診察室に呼ばれ、いつも通り主治医に毎朝の血圧測定の結果を報告。事件はその後に起こった。シャツを膜って胸と背中を触診、その後血圧測定となったが・・・、上の血圧が195! えっとなって再度測定、今度は220! 主治医も看護師も驚いて「気分は悪くないですか?」。特に自覚症状はないが、数値を見てかなり動揺してしまった。時間があるので心電図と胸部レントゲンを撮ることにしてしばらく待合室で待機、看護師が血圧計を持ってきて再度測定してみると、今度は150-90、高めではあるが病院であればおかしくない数値。その後、心電図・レントゲン撮影を済ませて再び診察室へ。いつもより入念に結果をチェックしたドクターからは、「何も問題ありませんね。次回は血液検査をしましょう」。
なぜ異常なほど血圧が上昇したのか、原因は(多分)私の服装であろう。診察室では主治医が聴診器を使うために、シャツ1枚になって胸と背中を見てもらう。それまで着ていたセーターでは脱着が面倒なので、Tシャツの上にダウンを羽織って出かけて行ったのだ。いくら徒歩2分とは言え、今日の寒さでは体が敏感に反応したのだろう。自覚症状は無かったが、もう少し慎重にせねばならない。ということで、次回の予約は2/7(月)14時である。
昼過ぎに戻ったツレアイは、緊急電話当番を交代してもらったとのことで、あちこち買い物に走る。
夕飯前に、軽くウォーキングして歩数稼ぎ。
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豚バラ肉と白菜のクタクタ煮・さんだかん燻製工房の骨付きハムと焼きソーセージ・頂き物薩摩揚げ、1週間ぶりに燗酒を頂いた。
程よく酔いが回って早めの睡魔到来、おやすみなさい。
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今日も余裕で3つのリング完成、水分は1,600ml。
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petapeta · 3 years
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「次室士官心得」 (練習艦隊作成、昭和14年5月) 第1 艦内生活一般心得 1、次室士官は、一艦の軍規・風紀の根源たることを自覚し、青年の特徴元気と熱、純  真さを忘れずに大いにやれ。 2、士官としての品位を常に保ち、高潔なる自己の修養はもちろん、厳正なる態度・動  作に心掛け、功利打���を脱却して清廉潔白なる気品を養うことは、武人のもっとも  大切なる修業なり。 3 宏量大度、精神爽快なるべし。狭量は軍隊の一致を破り、陰欝は士気を沮喪せし  む。忙しい艦務の中に伸び伸びした気分を忘れるな。細心なるはもちろん必要なる  も、「コセコセ」することは禁物なり。 4 礼儀正しく、敬礼���厳格にせよ。次室士官は「自分は海軍士官の最下位で、何に  も知らぬのである」と心得、譲る心がけが必要だ。親しき仲にも礼儀を守り、上の   人の顔を立てよ。よからあしかれ、とにかく「ケプガン(次室士官室の長)を立てよ。 5 旺盛なる責任観念の中に常に生きよ。これは士官としての最大要素の一つだ。命令を下し、もしくはこれを伝達す  る場合はは、必ずその遂行を見届け、ここに初めてその責任を果したるものと心得べし。 5 犠牲的精神を発揮せよ、大いに縁の下の力持ちとなれ。 6 次室士官時代はこれからが本当の勉強時代、一人前になり、わがことなれりと思うは大の間違いなり。 7、次室士官時代はこれからが本当の勉強時代、一人前にをり、わがことなれりと思うは大の間違いなり。公私を誤  りたるくそ勉強は、われらの欲せざるところなれども、学術方面に技術方面に、修練しなければならぬところ多し。  いそがしく艦務に追われてこれをないがしろにするときは、悔いを釆すときあり。忙しいあいだにこそ、緊張裡に修  業はできるものなり。寸暇の利用につとむべし。   つねに研究問題を持て。平素において、つねに一個の研究問題を自分にて定め、これにたいし成果の捕捉につと  め、一纏めとなりたるところにてこれを記しおき、ひとつひとつ種々の問題にたいしてかくのごとくしおき、後となり   てふたたびこれにつきて研究し、気づきたることを追加訂正し、保存しおく習慣をつくれば、物事にたいする思考力  の養成となるのみならず、思わざる参考資料をつくり得るものなり。 8、少し艦務に習熟し、己が力量に自信を持つころとなると、先輩の思慮円熟をるが、かえって愚と見ゆるとき来るこ  とあるべし、これすなわち、慢心の危機にのぞみたるなり。この慢心を断絶せず、増長に任じ人を侮り、自ら軽ん   ずるときは、技術・学芸ともに退歩し、ついには陋劣の小人たるに終わるべし。 9、おずおずしていては、何もできない。図々しいのも不可なるも、さりとて、おずおずするのはなお見苦しい。信ずる  ところをはきはき行なって行くのは、われわれにとり、もっとも必要である。 10、何事にも骨惜L誤をしてはならない。乗艦当時はさほどでもないが、少し馴れて来ると、とかく骨惜しみをするよう  になる。当直にも、分隊事務にも、骨惜しみをしてはならない。いかなるときでも、進んでやる心がけか必要だ。身  体を汚すのを忌避するようでは、もうおしまいである。 11、青年士官は、バネ仕掛けのように、働かなくてはならない。上官に呼ばれたときには、すぐ駆け足で近づき、敬  礼、命を受け終わらば一礼し、ただちにその実行に着手するごとくあるべし。 12、上官の命は、気持よく笑顔をもって受け、即刻実行せよ。いかなる困難があろうと、せっかくの上陸ができなか   ろうと、命を果たし、「や、御苦労」と言われたときの愉快きはなんと言えぬ。 13、不関旗(他船と行動をともにせず、または、行動をともにできないことを意味する信号旗。転じてそっぽを向くこと  をいう)を揚げるな。一生懸命にやったことについて、きびしく叱られたり、平常からわだかまりがあったりして、不  関旗を揚げるというようなことが間々ありがちだが、これれは慎むべきことだ。自惚があまり強過ぎるからである。  不平を言う前に已れをかえりみよ。わが慢心増長の鼻を挫け、叱られるうちが花だ。叱って下さる人もなくなった   ら、もう見放されたのだ。叱られたなら、無条件に有難いと思って間違いはない。どうでも良いと思うなら、だれが  余計な憎まれ口を叩かんやである。意見があったら、陰で「ぷつぷつ」いわずに、順序をへて意見具申をなせ。こ  れが用いらるるといなとは別問題。用いられなくとも、不平をいわず、命令には絶対服従すべきことはいうまでもな  し。 14、昼間は諸作業の監督巡視、事務は夜間に行なうくらいにすべし。事務のいそがしいときでも、午前午後かならず  1回は、受け特ちの部を巡視すべし。 15、「事件即決」の「モツトー」をもって、物事の処理に心がくべし。「明日やろう」と思うていると、結局、何もやらずに  沢山の仕事を残し、仕事に追われるようになる。要するに、仕事を「リード」せよ。 16、なすべき仕事をたくさん背負いながら、いそがしい、いそがしいといわず片づければ、案外、容易にできるもので   ある。 17、物事は入念にやれ。委任されたる仕事を「ラフ」(ぞんぎい〕にやるのは、その人を侮辱するものである。ついに    は信用を失い、人が仕事をまかせぬようになる。また、青年士官の仕事は、むずかしくて出来ないというようなも   のはない。努力してやれば、たいていのことはできる。 18、「シーマンライク」(船乗りらしい)の修養を必要とす。動作は「スマート」なれ。1分1秒の差が、結果に大影響を    あたえること多し。 19、海軍は、頭の鋭敏な人を要するとともに、忠実にして努力精励の人を望む。一般海軍常識に通ずることが肝要、   かかることは一朝一夕にはできぬ。常々から心がけおけ。 20 要領がよいという言葉もよく聞くが、あまりよい言葉ではない。人前で働き、陰でずべる類いの人に対する尊称    である。吾人はまして裏表があってはならぬ。つねに正々堂々とやらねばならぬ。 21、毎日各室に回覧する書類(板挟み)は、かならず目を通し捺印せよ。行動作業や当直や人事に関するもので、    直接必要なる事項が沢山ある。必要なことは手帖に抜き書きしておけ。これをよく見ておらぬために、当直勤務   を間違っていたり、大切な書類の提出期目を誤ったりすることがある。 22、手帖、「パイプ」は、つねに持っておれ。これを自分にもっとも便利よきごとく工夫するとよい。 23、上官に提出する書類は、かならず自分で直接差し出すようにせよ。上官の机の上に放置し、はなはだしいのは   従兵をして持参させるような不心得のものが間々ある。これは上官に対し失礼であるばかりでなく、場合により   ては質問されるかも知れず、訂正きれるかも知れぬ。この点、疎にしてはならない。 24、提出書類は早目に完成して提出せよ。提出期口ぎりぎり一ぱい、あるいは催促さるごときは恥であり、また間違   いを生ずるもとである。艦長・副長・分隊長らの捺印を乞うとき、無断で捺印してはいけない。また、捺印を乞う    事項について質問されても、まごつかぬよう準備調査して行くことが必要。捺印を乞うべき場所を開いておくか、   または紙を挾むかして分かりやすく準備し、「艦長、何に御印をいただきます」と申し出て、もし艦長から、「捺して   行け」と言われたときは、自分で捺して、「御印をいただきました」ととどけて引き下がる。印箱の蓋を開け放しに   して出ることのないように、小さいことだが注意しなければならぬ。 25、軍艦旗の揚げ降ろしには、かならず上甲板に出て拝せよ。 26、何につけても、分相応ということを忘れるな。次室士官は次室士官として、候補生は候補生として。少尉、中尉、   各分あり。 27、煙草盆の折り椅子には腰をおろすな。次室士官は腰かけである。 28、煙草盆のところで腰かけているとき、上官が来られたならば立って敬礼せよ。 29、機動艇はもちろん、汽車、電車の中、講話場において、上級者が来られたならば、ただちに立って席を譲れ。知   らぬ顔しているのはもっとも不可。 30、出入港の際は、かならず受け持ちの場所におるようにせよ。出港用意の号音に驚いて飛び出すようでは心がけ   が悪い。 31、諸整列があらかじめ分かっているとき、次室士官は、下士官兵より先にその場所にあるごとくせ。 32、何か変わったことが起こったとき、あるいは何となく変わったことが起こったらしいと思われるときは、昼夜を問わ   ず第1番に飛び出してみよ。 33、艦内で種々の競技が行なわれたり、または演芸会など催される際、士官はなるべく出て見ること。下士官兵が    一生懸命にやっているときに、士官は勝手に遊んでおるというようなことでは面白くない。 34、短艇に乗るときは、上の人より遅れぬように、早くから乗っておること。もし遅れて乗るような場合には、「失礼い   たしました」と上の人に断わらねばならぬ。自分の用意が遅れて定期(軍艦と陸上の間を往復し、定時にそれら   を発着する汽艇のこと)を待たすごときは、もってのほである。かかるときは断然やめて次ぎを待つべし。    短艇より上がる場合には、上長を先にするこというまでもなし。同じ次室士官内でも、先任者を先にせよ。 35、舷門は一艦の玄開口なり。その出入りに際しては、服装をととのえ、番兵の職権を尊重せよ。雨天でないとき、   雨衣や引回しを着たまま出入りしたり、答礼を欠くもの往々あり、注意せよ。 第2 次室の生活について 1、我をはるな。自分の主張が間遠っていると気づけば、片意地をはらす、あっさりとあらためよ。  我をはる人が1人でもおると、次室の空気は破壊される。 2、朝起きたならば、ただちに挨拶せよ。これが室内に明るき空気を漂わす第一誘因だ。3、次室  にはそれぞれ特有の気風かある。よきも悪きもある。悪い点のみ見て、憤慨してのみいては   ならない。神様の集まりではないから、悪い点もあるであろう。かかるときは、確固たる信念と決心をもって自己を修め、自然に同僚を善化せよ。 4、上下の区別を、はっきりとせよ、親しき仲にも礼儀をまもれ。自分のことばかり考え、他人のことをかえりみないよ  うな精神は、団体生活には禁物。自分の仕事をよくやると同時に、他人の仕事にも理解を持ち便宜をあたえよ。 5、同じ「クラス」のものが、3人も4人も同じ艦に乗り組んだならば、その中の先任者を立てよ。「クラス」のものが、次  室内で党をつくるのはよろしくない。全員の和衷協力はもっとも肝要なり。利己主義は唾棄すべし。 6、健康にはとくに留意し、若気にまかせての不摂生は禁物。健全なる身体なくては、充分をる御奉公で出来ず。忠  孝の道にそむく。 7、当直割りのことで文句をいうな。定められた通り、どしどしやれ。病気等で困っている人のためには、進んで当直を  代わってやるぺきだ。 8、食事に関して、人に不愉快な感じを抱かしむるごとき言語を慎め。たとえば、人が黙って食事をしておるとき、調理  がまずいといって割烹を呼びつけ、責めるがごときは遠慮せよ。また、会話などには、精練きれた話題を選べ。 9、次室内に、1人しかめ面をして、ふてくされているものがあると、次室全体に暗い影ができる。1人愉快で朗らかな  人がいると、次室内が明るくなる。 10、病気に羅ったときは、すぐ先任者に知らせておけ。休業になったら(病気という程度ではないが(身体の具合い   が悪いので、その作業を休むこと)先任者にとどけるとともに、分隊長にとどけ、副長にお願いして、職務に関する  ことは、他の次室士官に頼んでおけ。 11、次室内のごとく多数の人がいるところでは、どうしても乱雑になりがちである。重要な書類が見えなくなったとか  帽子がないとかいってわめきたてることのないように、つねに心がけなければならぬ。自分がやり放しにして、従  兵を怒鳴ったり、他人に不愉快の思いをきせることは慎むべきである。 12、暑いとき、公室内で仕事をするのに、上衣をとるくらいは差し支えないが、シャツまで脱いで裸になるごときは、   はをはだしき不作法である。 13、食事のときは、かならず軍装を着すべし。事業服のまま食卓についてはならぬ。いそがしいときには、上衣だけ  でも軍装に着換えて食卓につくことになっている。 14、次室士官はいそがしいので一律にはいかないが、原則としては、一同が食卓について次室長(ケプガソ)がはじ  めて箸をとるべきものである。食卓について、従兵が自分のところへ先に給仕しても、先任の人から給仕せしむる  ごとく命すべきだ。古参の人が待っているのに、自分からはじめるのは礼儀でない。 15、入浴も先任順をまもること。水泳とか武技など行をったときは別だが、その他の場合は遠慮すべきものだ。 16 古参の人が、「ソファー」に寝転んでいるのを見て、それを真似してはいけない。休むときても、腰をかけたまま、  居眠りをするぐらいの程度にするがよい。 17、次室内における言語においても気品を失うな。他の人に不快な念を生ぜしむべき行為、風態をなさず、また下士  官兵考課表等に関することを軽々しく口にするな。ふしだらなことも、人秘に関することも、従兵を介して兵員室に  伝わりがちのものである。士官の威信もなにも、あったものでない。 18、趣味として碁や将棋は悪くないが、これに熱中すると、とかく、尻が重くなりやすい。趣味と公務は、はっきり区別  をつけて、けっして公務を疎にするようなことがあってはならぬ。 19、お互いに、他の立場を考えてやれ。自分のいそがしい最中に、仕事のない人が寝ているのを見ると、非難した   いような感情が起こるものだが、度量を宏く持って、それぞれの人の立場に理解と同情を持つこ��が肝要。 20、従兵は従僕にあらず。当直、その他の教練作業にも出て、士官の食事の給仕や、身辺の世話までするのであ   るからということを、よく承知しておらねばならぬ。あまり無理な用事は、言いつけないようにせよ。自分の身辺の  ことは、なるべく自分で処理せよ、従兵が手助けしてくれたら、その分だけ公務に精励すべきである。釣床を釣っ  てくれ、食事の給仕をしてくれるのを有難いと思うのは束の間、生徒・候補生時代のことを忘れてしまって、傲然と  従兵を呼んで、ちょっと新聞をとるにも、自分のものを探すにもこれを使うごときは、わがみずからの品位を下げゆ  く所以である。また、従兵を「ボーイ」と呼ぶな。21、夜遅くまで、酒を飲んで騒いだり、大声で従兵を怒鳴ったりす  ることは慎め。 21、課業時のほかに、かならず出て行くべきものに、銃器手入れ、武器手入れに、受け持ち短艇の揚げ卸しがある 第3 転勤より着任まで 1、転勤命令に接したならば、なるべく早く赴任せよ。1日も早く新勤務につくことが肝   要。退艦したならば、ただちに最短距離をもって赴任せよ、道草を食うな。 2、「立つ鳥は後を濁さず」仕事は全部片づけておき、申し継ぎは万遺漏なくやれ。申し  継ぐべき後任者の来ないときは、明細に中し継ぎを記註しおき、これを確実に託し   おけ。 3、退艦の際は、適宜のとき、司令官に伺候し、艦長・副長以下各室をまわり挨拶せよ4、新たに着任すべき艦の役務、所在、主要職員の名は、前もって心得おけ。 5、退艦・着任は、普通の場合、通常礼装なり。 6、荷物は早目に発送し、着任してもなお荷物が到着せぬ、というようなことのないようにせよ。手荷物として送れば、早目に着く。 7、着任せば、ただちに荷物の整理をなせ。 8、着任すべき艦の名を記入したる名刺を、あらかじめ数枚用意しおき、着任予定日時を艦長に打電しおくがよい。 9、着任すべき艦の所在に赴任したるとき、その艦がおらぬとき、たとえば急に出動した後に赴任したようなと時は、  所在鎮守府、要港部等に出頭して、その指示を受けよ。さらにまた、その地より他に旅行するを要するときは、証  明書をもらって行け。 10、着任したならば、当直将校に名刺を差し出し、「ただいま着任いたしました」ととどけること。当(副)将校は副長に   副長は艦長のところに案内して下さるのが普通である。副長から艦長のところへつれて行かれ、それから次室  長が案内して各室に挨拶に行く。艦の都合のよいとき、乗員一同に対して、副長から紹介される。艦内配置は、   副長、あるいは艦長から申し渡される。 11、各室を一巡したならば、着物を着換えて、ひとわたり艦内を巡って艦内の大体を大体を見よ。 12、配置の申し継ぎは、実地にあたって、納得の行くごとく確実綿密に行なえ。いったん、引き継いだ以上、全責任  は自己に移るのだ。とくに人事の取り扱いは、引き継いだ当時が一番危険、ひと通り当たってみることが肝要だ。  なかんずく叙勲の計算は、なるべく早く���っておけ。 13、着任した日はもちろんのこと、1週間は、毎夜巡検に随行するごとく心得よ。乗艦早々から、「上陸をお願い致し  ます」などは、もってのほかである。 14、転勤せば、なるべく早く、前艦の艦長、副長、機関長、分隊長およびそれぞれ各室に、乗艦中の御厚意を謝す   る礼状を出すことを忘れてはならぬ。 第4 乗艦後ただちになすべき事項 1、ただちに部署・内規を借り受け、熟読して速やかに艦内一般に通暁せよ。 2、総員起床前より上甲板に出で、他の副直将校の艦務遂行ぶりを見学せよ。2、3日、当直ぶりを注意して見てお   れば、その艦の当直勤務の大要は分かる。しかして、練習艦隊にて修得せるところを基礎とし、その艦にもっとも  適合せる当直をなすことができる。 3、艦内旅行は、なるぺく速やかに、寸暇を利用して乗艦後すぐになせ。 4、乗艦して1ヵ月が経過したならば、隅々まで知悉し、分離員はもちろん、他分隊といえども、主たる下士官の氏名  は、承知するごとく心がけよ。 第5上陸について 1、上陸は控え目にせよ。吾人が艦内にあるということが、職責を尽くすということの大部である。職務を捨ておいて   上陸することは、もってのほかである。状況により、一律にはいえぬが、分隊長がおられぬときは、分隊士が残る  ようにせよ。 2、上陸するのがあたかも権利であるかのように、「副長、上陸します」というべきでない。「副長、上陸をお願いしま   す」といえ。 3、若いときには、上陸するよりも艦内の方が面白い、というようにならなけれぱならない。また、上陸するときは、自  分の仕事を終わって、さっぱりした気分で、のびのびと大いに浩然の気を養え。 4、上陸は、別科後よりお願いし、最終定期にて帰艦するようにせよ。出港前夜は、かならず艦内にて寝るようにせよ。上陸する場合には、副長と己れの従属する士官の許可をえ、同室者に願い、当直将校にお願いして行くのが慣例  である。この場合、「上陸をお願い致します」というのが普通、同僚に対しては単に、「願います」という。この「願い  ます」という言葉は、簡にして意味深長、なかなか重宝なものである。すなわち、この場合には、上陸を願うのと、  上陸後の留守中のことをよろしく頼む、という両様の意味をふくんでいる。用意のよい人は、さらに関係ある准士   官、あるいは分隊先任下士官に知らせて出て行く。帰艦したならば、出る時と同様にとどければよい。たたし、夜   遅く帰艦して、上官の寝てしまった後は、この限りでない。士宮室にある札を裏返すようになっている艦では、か   ならず自分でこれを返すことを忘れぬごとく注意せよ。 6、病気等で休んでいたとき、癒ったからとてすぐ上陸するごときは、分別がたらぬ。休んだ後なら、仕事もたまってお  ろう、遠慮ということが大切だ。 7、休暇から帰ったとき、帰艦の旨をとどけたら、第1に留守中の自分の仕事および艦内の状況にひと通り目を通せ。  着物を着換え、受け持ちの場所を回って見て、不左中の書類をひと通り目を通す心がけが必要である。 8、休暇をいただくとき、その前後に日曜、または公暇日をつけて、規定時日以上に休暇するというがごときは、もっと  も青年士官らしくない。 9、職務の前には、上陸も休暇もない、というのが士官たる態度である。転勤した場合、前所轄から休暇の移牒があ  ることがあるけれども、新所轄の職務の関係ではいただけないことが多い。副長から、移牒休暇で帰れといわる   れば、いただいてもよいけれども、自分から申し出るごときことは、けっしてあってはならぬ。 第6部下指導について 1、つねに至誠を基礎とし、熱と意気をもって国家保護の大任を担当する干城の築造者たることを心がけよ。「功は部下に譲り、部下の過ちは  自から負うは、西郷南洲翁が教えしところなり。「先憂後楽」とは味わうべき言であって、部下統御の機微なる心理も、かかるところにある統御者たるわれわれ士官は、つねにこの心がけが必要である。石炭  積みなど苦しい作業のときには、士官は最後に帰るようつとめ、寒い  ときに海水を浴びながら作業したる者には、風呂や衛生酒を世話してやれ。部下につとめて接近して下情に通せよ。しかし、部下を狎れしむるは、もっとも不可、注意すべきである。 2、何事も「ショート・サーキット」(短絡という英語から転じて、経由すべきところを省略して、命令を下し、または報告する海軍用語)を慎め。い  ちじは便利の上うたが、非常なる悪結果を齋らす。たとえば、分隊士を抜きにして分隊長が、直接先任下士官に命じたとしたら、分隊士たる者いかなる感を生ずるか。これは一例だか、かならず順序をへて命  を受け、または下すということが必要なり。 3、「率先躬行」部下を率い、次室士官は部下の模範たることが必要だ。物事をなすにもつねに衆に先じ、難事と見ば、 真っ先にこれに当たり、けっして人後におくれざる覚悟あるべし。また、自分ができないからといって、部下に強制  しないのはよくない。部下の機嫌をとるがごときは絶対禁物である。 4、兵員の悪きところあらば、その場で遠慮なく叱咤せよ。温情主義は絶対禁物。しかし、叱責するときは、場所と相  手とを見でなせ。正直小心の若い兵員を厳酷な言葉で叱りつけるとか、また、下士官を兵員の前で叱責するなど  は、百害あって一利なしと知れ。 5、世の中は、なんでも「ワソグランス」(一目見)で評価してはならぬ。だれにも長所あり、短所あり。長所さえ見てい  れば、どんな人でも悪く見えない。また、これだけの雅量が必要である。 6、部下を持っても、そうである。まずその箆所を探すに先だち、長所を見出すにつとめることが肝要。賞を先にし罰を  後にするは、古来の名訓なり。分隊事務は、部下統御の根底である。叙勲、善行章(海軍の兵籍に人ってから3  年間、品行方正・勤務精励な兵にたいし善行章一線があたえられ、その後、3年ごとに同様一線あてをくわえる。  勇敢な行為などがあった場合、特別善行章が付与される)等はとくに慎重にやれ。また、一身上のことまで、立ち  入って面倒を見てやるように心がけよ。分隊員の入院患者は、ときどき見舞ってやるという親切が必要だ。 第7 その他一般 1、服装は端正なれ。汚れ作業を行なう場合のほかは、とくに清潔端正なるものを用いよ。帽子がまがっていたり、「  カラー」が不揃いのまま飛び出していたり、靴下がだらりと下がっていたり、いちじるしく雛の寄った服を着けている  と、いかにもだらしなく見える。その人の人格を疑いたくなる。 2、靴下をつけずに靴を穿いたり、「ズボン」の後の「ビジヨウ」がつけてなかったり、あるいはだらりとしていたり、下着  をつけず素肌に夏服・事業服をつけたりするな。 3 平服をつくるもの一概に非難すべきではいが、必要なる制服が充分に整っておらぬのに平服などつくるのは本末  顛倒である。制服その他、御奉公に必要をる服装属具等なにひとつ欠くるところなく揃えてなお余裕あらば、平服  をつくるという程度にせよ。平服をつくるならば、落ちついて上品な上等のものを選べ。無闇に派手な、流行の尖   端でもいきそうな服を着ている青年士官を見ると、歯の浮くような気がする。「ネクタイ」や帽子、靴、「ワイシャツ」  「カラー」「カフス」の釦まで、各人の好みによることではあろうが、まず上品で調和を得るをもって第1とすべきであ  る。 4、靴下もあまりケパケパしいのは下品である。服と靴とに調和する色合いのものを用いよ。縞の靴下等は、なるべく  はかぬこと、事業服に縞の靴下等はもってのほかだ。 5、いちばん目立って見えるのは、「カラー」と「カフス」の汚れである、注意せよ。また、「カフス」の下から、シャツの   出ているのもおかしいものである。 6、羅針艦橋の右舷階梯は、副長以上の使用さるべきものなり。艦橋に上がったら、敬礼を忘れるな。 7 陸上において飲食するときは、かならず一流のところに入れ。どこの軍港においても、士官の出入りするところと、  下士官兵の出入りするところは確然たる区別がある。もし、2流以下のところに出入りして飲食、または酒の上で  上官たるの態度を失し、体面を汚すようなことがあったら、一般士官の体面に関する重大をることだ。 8、クラスのためには、全力を尽くし一致団結せよ。 9、汽車は2等(戦前には1、2、3等の区分があった)に乗れ。金銭に対しては恬淡なれ。節約はもちろんだが、吝薔  に陥らぬよう注意肝心。 10、常に慎独を「モットー」として、進みたきものである。是非弁別の判断に迷い、自分を忘却せるかのごとき振舞い  は、吾人の組せざるところである。
hiramayoihi.com/Yh_ronbun_dainiji_seinenshikankyouikugen.htm
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yunarinofficial · 3 years
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自己紹介
こんちゃ!おはようございます。ゆなりんです。
YouTubeやTwitterなどからお越しの皆様、いつも有難うございます。
そして初めましての貴方、まずははじめまして。ゆなりんという名前で活動しているものです。主にYouTubeでゲーム実況や歌ってみたなどを載せていますのでもし良かったらリンクから飛んで動画観てみてください!
ということで告知はこれくらいにして、早速本題の自己紹介を書きたいと思います。
ゆなりん(♀)
好き
オカルト
映画
ゲーム
料理/お酒
動物
黒色
サントラ
苦手
ブロッコリー、カリフラワー、ししゃも
ピンク色
日光
運動
ということでまずは好きなものと苦手なものを箇条書きにしたので、次により詳しく書いていきたいと思います。
ここから長くなるのでお時間ある時に是非読んでみて下さい。
好きなもの1つ目
オカルト!
何を隠そう、私は小さい頃から心霊映像やホラー映画をこよなく愛するオカルトオタクです。
オカルトと一括りに言ってもジャンルなどが様々で結構ホラー好きの間でも「このジャンルはいけるけど、このジャンルは苦手…」みたいな会話をしたりします。
そんな中で私はかなり色々なジャンルに触れてきて、耐性もあるので基本的にはオールオッケー。
…と言いたいところですが、唯一虫だけはNGです。NGと言っても虫が出ている映画を観たらトイレに行けなくなる!とか、虫の画像を見るだけでも無理!とかではないです…ただ好みじゃないです(笑)
唯一と言いましたが、後のジャンルは基本いけます。心霊、悪魔、怪談、サイコホラー、ゾンビ、スプラッタから都市伝説まで!夢のハッピーセットですね。
なぜオカルトが好きになったのかはまた後々話したいと思いますのでとりあえずオカルトの話はここら辺で。ビビりな皆さんはここで目を開けて次の文を読んでください。
好きなもの2つ目
映画!
これもまた、小さい頃から慣れ親しんだものです。
そしてこれもまた、一括りに全ジャンルが好き!というわけではなく…恋愛映画だけはあまり好まない傾向にあります。
何故恋愛映画が好みじゃないのか!理由はただ1つ!振られる側を想うとしんどくなるから!
何故か恋愛映画って2番手の方が優しくて、感情豊かで、面白くて、かっこいい/可愛い気がする。
映画は起承転結を練り込まなきゃいけないので、やっぱり "最初は苦手だったけどだんだん好きに…" みたいなストーリーになっちゃうんでしょうね。
しかし私は騙されない!主役の子が悲しい時慰めてくれたのは2番手だったぞ!主役の子を笑わせてくれたのは2番手だったぞ!
…はい、ちょっと話が逸れましたね。要するに恋愛映画以外は観ます。
特に好きなのはやはりホラー、そしてコメディ。SFなんかも結構観ているのでその辺は後々映画紹介などをしていきたいと思います。
はい、次!
好きなもの3つ目
ゲーム!
いやぁ、この世にゲームを生み出してくれた方有難うございます。
小学生の夏休み。私を楽しませてくれたのは牧場物語とボクの夏休みでした。ぼくぼく。
基本的に外に出ることが苦手だったので(理由は後で)、家で遊ぶしかなかったんですよね。折り紙とか、読書とか、お絵描きとか…。
その中でも特に楽しかったのがゲーム!
今でも時間がある時は基本ゲームをしています。YouTubeでもゲーム実況を上げるほどです。
今となってはホラーゲームばかりやっている私ですが、一応プロセカやマイクラ、APEXなどのゲームもやっています。
そんな私が初めて触れたホラーゲーム。それがドリームキャストのBIOHAZARD CODE:Veronica。襲ってくるゾンビが本当に怖くて、最初に火の中から出てくるゾンビ見ただけで電源切りましたね。普通に元々は怖がりだったので。
次に触れたのがDSのナナシノゲエム。これ、あまり有名じゃない��たいなのですが結構怖いホラーゲーム。プレイすると7日後に死ぬゲームがテーマです。
ゲーム紹介はブログで紹介するというよりは、YouTubeで実際に実況していくつもりなので是非登録してね!
好きなもの4つ目
料理!お酒!
この2つは私のTwitterを見てくれている人はわかると思いますが、料理をするのとお酒を飲むのがすこぶる好きです。
結構その日の気分によって食べたいものを作る、という感じなのであまり得意料理みたいなものはないと思うのですが、強いて言うならイタリアンが得意かな?
白ワインが好きなので、カルボナーラとかカプレーゼとかチキンソテーとか結構な頻度で作っちゃいます。
日本酒も好きなのですが、日本酒は結構料理する必要のないもの(刺身とか)が合うのであまり料理しないかも。最近カツオのユッケが異常に美味しいということに気付いたので作っています。
ビール以外は基本飲みます。こう、改めて自分のこと紹介していると「好きなものの中で〇〇以外なら基本いける」みたいなのが多いですね、私。全部を好んでいけたら楽しさ倍増なんだろうけど、なーんかダメ…。苦いですよね。焼酎はいけます。
もしお酒と料理が好きな人がいたら、是非私のTwitterまでお越しください。色んな飯テロしてます。
好きなもの5つ目
動物!
特に猫。ねこちゃんは何であんなに可愛いのでしょう…。まぁどちらかと言えば猫派、というだけで犬も好きだしウサギもハムスターもチンチラも鳥も馬も羊も動物は基本好きです。嫌いな動物いないです。狼とかかっこいいですよね。
察しているかもしれませんが、お家では猫ちゃんと暮らしています。茶トラのオスでめる。めるたんって呼んでます。
Tumblr media
茶トラのオスは結構ヤンチャで甘えたがりの子が多いのですが、めるたんも本当に甘えたがりで夜は一緒に寝るし、出かける時は玄関までお見送り、帰ってきたら玄関まで駆けてきてくれます。可愛い。
Twitterでもよくめるたんの画像を投稿していますが、こちらのブログでもたまにめるたんの近況報告なんかをしていく予定です。
最近はYouTubeでチンチラのASMR聴いたりしてます。あの、ご飯をカリカリ食べてる動画です。もうめちゃくちゃ可愛い。もっふもふ。両手で掴んで食べてるのがまた愛くるしいんです…。
皆さんは動物お好きですか?苦手な動物とかいますか?
好きなもの6つ目
黒色!
はい、唐突の色です。好きな色は黒です。結構黄色とかそういう蛍光色が苦手なので(電気とかも苦手)、黒色みたいな暗めの色落ち着きますね〜。
スマホのホーム画面とかも結構暗めの画像にしてます。ちなみに今はバイオハザード8の画像を使ってます。
深海とかも好きなので暗めの青とかも好み。女の子っぽい色が逆にあまり得意じゃないかもしれません。
ただ、メイクする時は赤とか結構ぱっきりした色を使います。
好きなもの7つ目
サントラ!
私元々音フェチと言っていいのか分かりませんが、音が好きな方で雨音とか雪を踏む音とか電車の音とか…環境音が好きなんですよ。
ただ、あまりガヤガヤした人混みの音とかは得意じゃなくて、そういうところに行く時はイヤホンで音楽を聴くんです。
で、そういう時に聴く音楽がサントラです。
ゲームのサントラとか、映画のサントラとか、大好きです。サントラって、その音楽が流れていたシーンやその瞬間の自分の気持ちだったりを思い出せるから好き。
ゲームのサントラで言うと、有名なUNDERTALEというゲームのサントラが大好きで結構聴いてます。
UNDERTALE自体が良い作品なんですが、そのボス戦の音楽から日常の音楽まで全部脳に馴染む。テンション上げたいとき、落ちつきたいとき、その場にあった音楽が全部詰まってて私は好きです。
このシーンはこのキャラがこんなセリフを言って…って浸るのも好き。
そんなこんなで私がイヤホンをしている時は大体サントラを聴いています。
と、ここまで長々と好きなものを語らせていただきました。まだまだ語り足りないですが、この後苦手なものも紹介するつもりなのでこの辺で終わらせておきましょう。
質問があったら是非コメントしてください!
苦手なもの
苦手なものを語るってのもよく分からないのでここからはテンポ良く紹介していきます。
まず虫。女性で虫をわざわざ好きって言ってる人あんまりいないと思いますけど、普通に苦手です。
アリと蝶々とハエが特に苦手です。アリは噛むし、蝶々は近付いてくる。ハエは羽音がうるさすぎる。
ブロッコリー(以下略)
食感がモシャモシャしてるものが苦手です。子持ちししゃもは勿論、子持ちエビも苦手。数の子も苦手。
いくらはモシャモシャしないので好きです。
私、趣味で苦手を克服するのが好きなのですが、このモシャモシャ系の食べ物は何回トライしてもダメです…ごめんなさい…。
むしろ食べやすい食べ方があったら教えてください。
ピンク色
黒色が好きって書いたところで既に書きましたが、女の子らしい色が苦手なのでピンク色のものとかバッグとか持ってないです。
可愛いな〜とは思いますが、私に似合うと思えなくて…黒色の方が引き締まってて好きですね。
可愛い子がピンク色のワンピースとか着てるのを見るのは好きです。似合ってます。
日光
紫外線アレルギーってご存知でしょうか?
小さい頃に日焼けしたら湿疹が出てしまい、診察したところ「紫外線アレルギーですね〜」と…
根っからの引きこもりじゃん!と言われたりもしますが、日焼け止めを塗っていたり、日傘をさしていれば日光に当たることはないので 別に引きこもりではないです(笑)
ただ、そのアレルギーがあるのであまり小さい頃は外に出ることはなく、そのままそれが染み付いてしまったので、今の歳でも積極的に「海に行きたい!」とか「山に行きたい!」とかは思わなくなりました。虫もいるし
屋内で過ごすのが好きなので、休日に外出しても水族館とかゲーセンとかに行くことが多いです。
運動
これはもう苦手!というか運動音痴!
小さい頃から50m10秒台だったり、普通に運動出来ない方だったのに何を血迷ったか中学はバスケ部に入ってしまいました。
小学校の体育の授業でやったバスケが楽しかったんです…ただそれだけの理由で舐めて入ってしまいました…
貧血も相まって、毎回走り込みをした後はトイレに駆け込んで戻す私…何故バスケ部に入った!(笑)
でもこんな私にも唯一得意なことが。それはフリースロー!何故なら "10本打って外した数×10周走り込み" という罰ゲームを課されていたから。
「走り込みだけは避けたい…!」というので10本中9本入れることが出来ました。罰は人を突き動かしますねぇ…。
この経験が功を奏して(?)アメリカの高校に通っていた時フリースロー対決で学年1位になったこともあります。訳が分からん。
と、いうことでここまで好きなものと苦手なものを紹介させていただきました。同じ!という人も、逆だ!という人もいると思います。
自己紹介ってこんなじっくりと文字にして書く機会がないので結構楽しく書けたかなと思います。
…ここまで読んでる人います??凄い。
では、最後に今現状で抱えている悩みを少し書きたいと思います。
唐突に悩み相談。
喉について
半年ほど前、人と話すと急に咳が出るようになり、それがどんどん悪化して話せなくなりました。声を出そうとすると掠れて喉が締まってしまうんです。
呪怨の声みたいな、あんな感じのアアアア゛って声しか出ない状態から何とかリハビリをして小声で話せるように…そこから更に薬とリハビリで何とか少しは話せるようにまで回復しました。
ただ、前のように普通に話せるわけではなく、たまに吃音のような感じでクッと喉が締まって言葉が止まってしまう時があります。
以前は歌を歌うことも大好きだったのですが、すぐ喉が詰まってしまうので上手く歌えなくなってしまい、今歌うことはお休みしています。
そんなこんなで、話せるようにはなったけど聴いてると少し喉が詰まって��るような感じの声になってしまいました。
正直ショックですが、話せなかった期間が長かったのでそれに比べたらマシ!と思うようにしています。
乱視みたいな感じで調子良い日と悪い日があるので調子が良い日はお風呂で歌ったりもしてます。嬉しい。
もし同じような症状で悩んでいる人がいたら、気持ち分かってあげられると思います。周りはあまり気にしていなくても自分では気になってしまう…だってどう頑張っても詰まるんだもん!
YouTubeの実況中も聞き苦しい声になっていたらすみません。頑張ります!
まとめ
拙く長い文章を読んでいただき有難うございました。自己紹介でした。もしこのブログを読んで私に興味持ってくれる人がいたら嬉しいです。
オカルト好きな方や、ゲーム好きな方と語り合いたいのでもし良ければコメントお願いします!
YouTubeでも実況や配信しているのでそちらも宜しくお願いします!
これからブログで色々なことを発信していきたいと思っているので是非ファンになってください!(笑)
有難うございました〜!
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guragura000 · 4 years
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自殺未遂
何度も死のうとしている。
これからその話をする。
自殺未遂は私の人生の一部である。一本の線の上にボツボツと真っ黒な丸���描くように、その記憶は存在している。
だけど誰にも話せない。タブーだからだ。重たくて悲しくて忌み嫌われる話題だからだ。皆それぞれ苦労しているから、人の悲しみを背負う余裕なんてないのだ。
だから私は嘘をつく。その時代を語る時、何もなかったふりをする。引かれたり、陰口を言われたり、そういう人だとレッテルを貼られたりするのが怖いから。誰かの重荷になるのが怖いから。
一人で抱える秘密は、重たい。自分のしたことが、当時の感情が、ずっしりと肩にのしかかる。
私は楽になるために、自白しようと思う。黙って平気な顔をしているのに、もう疲れてしまった。これからは場を選んで、私は私の人生を正直に語ってゆきたい。
十六歳の時、初めての自殺未遂をした。
五年間の不登校生活を脱し高校に進学したものの、面白いくらい馴染めなかった。天真爛漫に女子高生を満喫する宇宙人のようなクラスメイトと、同じ空気を吸い続けることは不可能だと悟ったのだ。その結果、私は三ヶ月で中退した。
自信を失い家に引きこもる。どんよりと暗い台所でパソコンをいじり続ける。将来が怖くて、自分が情けなくて、見えない何かにぺしゃんこに潰されてしまいそうだった。家庭は荒れ、母は一日中家にいる私に「普通の暮らしがしたい」と呟いた。自分が親を苦しめている。かといって、この先どこに行っても上手くやっていける気がしない。悶々としているうちに十キロ痩せ、生理が止まった。肋が浮いた胸で死のうと決めた。冬だった。
夜。親が寝静まるのを待ちそっと家を出る。雨が降っているのにも関わらず月が照っている。青い光が濁った視界を切り裂き、この世の終わりみたいに美しい。近所の河原まで歩き、濡れた土手を下り、キンキンに冷えた真冬の水に全身を浸す。凍傷になれば数分で死に至ることができると聞いた。このままもう少しだけ耐えればいい。
寒い!私の体は震える。寒い!あっという間に歯の根が合わなくなる。頭のてっぺんから爪先までギリギリと痛みが駆け抜け、三秒と持たずに陸へ這い上がった。寒い、寒いと呟きながら、体を擦り擦り帰路を辿る。ずっしりと水を含んだジャージが未来のように重たい。
風呂場で音を立てぬよう泥を洗い流す。白いタイルが砂利に汚されてゆく。私は死ぬことすらできない。妙な落胆が頭を埋めつくした。入水自殺は無事、失敗。
二度目の自殺未遂は十七歳の時だ。
その頃私は再入学した高校での人間関係と、精神不安定な母との軋轢に悩まされていた。学校に行けば複雑な家庭で育った友人達の、無視合戦や泥沼恋愛に巻き込まれる。あの子が嫌いだから無視をするだのしないだの、彼氏を奪っただの浮気をしているだの、親が殴ってくるだの実はスカトロ好きのゲイだだの、裏のコンビニで喫煙しているだの先生への舌打ちだの⋯⋯。距離感に不器用な子達が多く、いつもどこかしらで誰かが傷つけ合っていた。教室には無気力と混乱が煙幕のように立ち込め、普通に勉強し真面目でいることが難しく感じられた。
家に帰れば母が宗教のマインドコントロールを引きずり「地獄に落ちるかもしれない」などと泣きついてくる。以前意地悪な信者の婆さんに、子どもが不登校になったのは前世の因縁が影響していて、きちんと祈らないと地獄に落ちる、と吹き込まれたのをまだ信じているのだ。そうでない時は「きちんと家事をしなくちゃ」と呪いさながらに繰り返し、髪を振り乱して床を磨いている。毎日手の込んだフランス料理が出てくるし、近所の人が買い物先までつけてくるとうわ言を言っている。どう考えても母は頭がおかしい。なのに父は「お母さんは大丈夫だ」の一点張りで、そのくせ彼女の相手を私に丸投げするのだ。
胸糞の悪い映画さながらの日々であった。現実の歯車がミシミシと音を立てて狂ってゆく。いつの間にやら天井のシミが人の顔をして私を見つめてくる。暗がりにうずくまる家具が腐り果てた死体に見えてくる。階段を昇っていると後ろから得体の知れない化け物が追いかけてくるような気がする。親が私の部屋にカメラを仕掛け、居間で監視しているのではないかと心配になる。ホラー映画を見ている最中のような不気味な感覚が付きまとい、それから逃れたくて酒を買い吐くまで酔い潰れ手首を切り刻む。ついには幻聴が聞こえ始め、もう一人の自分から「お前なんか死んだ方がいい」と四六時中罵られるようになった。
登下校のために電車を待つ。自分が電車に飛び込む幻が見える。車体にすり潰されズタズタになる自分の四肢。飛び込む。粉々になる。飛び込む。足元が真っ赤に染まる。そんな映像が何度も何度も巻き戻される。駅のホームは、どこまでも続く線路は、私にとって黄泉への入口であった。ここから線路に倒れ込むだけで天国に行ける。気の狂った現実から楽になれる。しかし実行しようとすると私の足は震え、手には冷や汗が滲んだ。私は高校を卒業するまでの四年間、映像に重なれぬまま一人電車を待ち続けた。飛び込み自殺も無事、失敗。
三度目の自殺未遂は二十四歳、私は大学四年生だった。
大学に入学してすぐ、執拗な幻聴に耐えかね精神科を受診した。セロクエルを服用し始めた瞬間、意地悪な声は掻き消えた。久しぶりの静寂に手足がふにゃふにゃと溶け出しそうになるくらい、ほっとする。しかし。副作用で猛烈に眠い。人が傍にいると一睡もできないたちの私が、満員の講義室でよだれを垂らして眠りこけてしまう。合う薬を模索する中サインバルタで躁転し、一ヶ月ほど過活動に勤しんだりしつつも、どうにか普通の顔を装いキャンパスにへばりついていた。
三年経っても服薬や通院への嫌悪感は拭えなかった。生き生きと大人に近づいていく友人と、薬なしでは生活できない自分とを見比べ、常に劣等感を感じていた。特に冬に体調が悪くなり、課題が重なると疲れ果てて寝込んでしまう。人混みに出ると頭がザワザワとして不安になるため、酒盛りもアルバイトもサークル活動もできない。鬱屈とした毎日が続き闘病に嫌気がさした私は、四年の秋に通院を中断してしまう。精神薬が抜けた影響で揺り返しが起こったこと、卒業制作に追われていたこと、就職活動に行き詰まっていたこと、それらを誰にも相談できなかったことが積み重なり、私は鬱へと転がり落ちてゆく。
卒業制作の絵本を拵える一方で遺品を整理した。洋服を売り、物を捨て、遺書を書き、ネット通販でヘリウムガスを手に入れた。どうして卒制に遅れそうな友達の面倒を見ながら遺品整理をしているのか分からない。自分が真っ二つに割れてしまっている。混乱しながらもよたよたと気力で突き進む。なけなしの努力も虚しく、卒業制作の提出を逃してしまった。両親に高額な学費を負担させていた負い目もあり、留年するぐらいなら死のうとこりずに決意した。
クローゼットに眠っていたヘリウムガス缶が起爆した。私は人の頭ほどの大きさのそれを担いで、ありったけの精神薬と一緒に車に積み込んだ。それから山へ向かった。死ぬのなら山がいい。夜なら誰であれ深くまで足を踏み入れないし、展望台であれば車が一台停まっていたところで不審に思われない。車内で死ねば腐っていたとしても車ごと処分できる。
展望台の駐車場に車を突っ込み、無我夢中でガス缶にチューブを繋ぎポリ袋の空気を抜く。本気で死にたいのなら袋の酸素濃度を極限まで減らさなければならない。真空状態に近い状態のポリ袋を被り、そこにガスを流し込めば、酸素不足で苦しまずに死に至ることができるのだ。大量の薬を水なしで飲み下し、袋を被り、うつらうつらしながら缶のコックをひねる。シューッと気体が満ちる音、ツンとした臭い。視界が白く透き通ってゆく。死ぬ時、人の意識は暗転ではなくホワイトアウトするのだ。寒い。手足がキンと冷たい。心臓が耳の奥にある。ハツカネズミと同じ速度でトクトクと脈動している。ふとシャンプーを切らしていたことを思い出し、買わなくちゃと考える。遠のいてゆく意識の中、日用品の心配をしている自分が滑稽で、でも、もういいや。と呟く。肺が詰まる感覚と共に、私は意識を失う。
気がつくと後部座席に転がっている。目覚めてしまった。昏倒した私は暴れ、自分でポリ袋をはぎ取ったらしい。無意識の私は生きたがっている。本当に死ぬつもりなら、こうならぬように手首を後ろできつく縛るべきだったのだ。私は自分が目覚めると、知っていた。嫌な臭いがする。股間が冷たい。どうやら漏らしたようだ。フロントガラスに薄らと雪が積もっている。空っぽの薬のシートがバラバラと散乱している。指先が傷だらけだ。チューブをセットする際、夢中になるあまり切ったことに気がつかなかったようだ。手の感覚がない。鈍く頭痛がする。目の前がぼやけてよく見えない。麻痺が残ったらどうしよう。恐ろしさにぶるぶると震える。さっきまで何もかもどうでも良いと思っていたはずなのに、急に体のことが心配になる。
後始末をする。白い視界で運転をする。缶は大学のゴミ捨て場に捨てる。帰宅し、後部座席を雑巾で拭き、薬のシートをかき集めて処分する。ふらふらのままベッドに倒れ込み、失神する。
その後私は、卒業制作の締切を逃したことで教授と両親から怒られる。翌日、何事もなかったふりをして大学へ行き、卒制の再提出の交渉する。病院に保護してもらえばよかったのだがその発想もなく、ぼろ切れのようなメンタルで卒業制作展の受付に立つ。ガス自殺も無事、失敗。
四度目は二十六歳の時だ。
何とか大学卒業にこぎつけた私は、入社試験がないという安易な理由でホテルに就職し一人暮らしを始めた。手始めに新入社員研修で三日間自衛隊に入隊させられた。それが終わると八時間ほぼぶっ続けで宴会場を走り回る日々が待っていた。典型的な古き良き体育会系の職場であった。
朝十時に出社し夜の十一時に退社する。夜露に湿ったコンクリートの匂いをかぎながら浮腫んだ足をズルズルと引きずり、アパートの玄関にぐしゃりと倒れ込む。ほとんど意識のないままシャワーを浴びレトルト食品を貪り寝床に倒れ泥のように眠る。翌日、朝六時に起床し筋肉痛に膝を軋ませよれよれと出社する。不安定なシフトと不慣れな肉体労働で病状は悪化し、働いて二年目の夏、まずいことに躁転してしまった。私は臨機応変を求められる場面でパニックを起こすようになり、三十分トイレにこもって泣く、エレベーターで支離滅裂な言葉を叫ぶなどの奇行を繰り返す、モンスター社員と化してしまった。人事に持て余され部署をたらい回しにされる。私の世話をしていた先輩が一人、ストレスのあまり退社していった。
躁とは恐ろしいもので人を巻き込む。プライベートもめちゃくちゃになった。男友達が性的���脱症状の餌食となった。五年続いた彼氏と別れた。よき理解者だった友と言い争うようになり、立ち直れぬほどこっぴどく傷つけ合った。携帯電話をハイヒールで踏みつけバキバキに破壊し、コンビニのゴミ箱に投げ捨てる。出鱈目なエネルギーが毛穴という毛穴からテポドンの如く噴出していた。手足や口がばね仕掛けになり、己の意思を無視して動いているようで気味が悪かった。
寝る前はそれらの所業を思い返し罪悪感で窒息しそうになる。人に迷惑をかけていることは自覚していたが、自分ではどうにもできなかった。どこに頼ればいいのか分からない、生きているだけで迷惑をかけてしまう。思い詰め寝床から出られなくなり、勤務先に泣きながら休養の電話をかけるようになった。
会社を休んだ日は正常な思考が働かなくなる。近所のマンションに侵入し飛び降りようか悩む。落ちたら死ねる高さの建物を、砂漠でオアシスを探すジプシーさながらに彷徨い歩いた。自分がアパートの窓から落下してゆく幻を見るようになった。だが、無理だった。できなかった。あんなに人に迷惑をかけておきながら、私の足は恥ずかしくも地べたに根を張り微動だにしないのだった。
アパートの部屋はムッと蒸し暑い。家賃を払えなければ追い出される、ここにいるだけで税金をむしり取られる、息をするのにも金がかかる。明日の食い扶持を稼ぐことができない、それなのに腹は減るし喉も乾く、こんなに汗が滴り落ちる、憎らしいほど生きている。何も考えたくなくて、感じたくなくて、精神薬をウイスキーで流し込み昏倒した。
翌日の朝六時、朦朧と覚醒する。会社に体調不良で休む旨を伝え、再び精神薬とウイスキーで失神する。目覚めて電話して失神、目覚めて電話して失神。夢と現を行き来しながら、手元に転がっていたカッターで身体中を切り刻み、吐瀉し、意識を失う。そんな生活が七日間続いた。
一週間目の早朝に意識を取り戻した私は、このままでは死ぬと悟った。にわかに生存本能のスイッチがオンになる。軽くなった内臓を引っさげ這うように病院へと駆け込み、看護師に声をかける。
「あのう。一週間ほど薬と酒以外何も食べていません」
「そう。それじゃあ辛いでしょう。ベッドに寝ておいで」
優しく誘導され、白いシーツに倒れ込む。消毒液の香る毛布を抱きしめていると、ぞろぞろと数名の看護師と医師がやってきて取り囲まれた。若い男性医師に質問される。
「切ったの?」
「切りました」
「どこを?」
「身体中⋯⋯」
「ごめんね。少し見させて」
服をめくられる。私の腹を確認した彼は、
「ああ。これは入院だな」
と呟いた。私は妙に冷めた頭で聞く。
「今すぐですか」
「うん、すぐ。準備できるかな」
「はい。日用品を持ってきます」
私はびっくりするほどまともに帰宅し、もろもろを鞄に詰め込んで病院にトンボ帰りした。閉鎖病棟に入る。病室のベッドの周りに荷物を並べながら、私よりももっと辛い人間がいるはずなのにこれくらいで入院だなんておかしな話だ、とくるくる考えた。一度狂うと現実を測る尺度までもが狂うようだ。
二週間入院する。名も知らぬ睡眠薬と精神安定剤を処方され、飲む。夜、病室の窓から街を眺め、この先どうなるのかと不安になる。私の主治医は「君はいつかこうなると思ってたよ」と笑った。以前から通院をサポートする人間がいないのを心配していたのだろう。
退院後、人事からパート降格を言い渡され会社を辞めた。後に勤めた職場でも上手くいかず、一人暮らしを断念し実家に戻った。飛び降り自殺、餓死自殺、無事、失敗。
五度目は二十九歳の時だ。
四つめの転職先が幸いにも人と関わらぬ仕事であったため、二年ほど通い続けることができた。落ち込むことはあるものの病状も安定していた。しかしそのタイミングで主治医が代わった。新たな主治医は物腰柔らかな男性だったが、私は病状を相談することができなかった。前の医師は言葉を引き出すのが上手く、その環境に甘えきっていたのだ。
時給千円で四時間働き、月収は六万から八万。いい歳をして脛をかじっているのが忍びなく、実家に家賃を一、二万入れていたので、自由になる金は五万から七万。地元に友人がいないため交際費はかからない、年金は全額免除の申請をした、それでもカツカツだ。大きな買い物は当然できない。小さくとも出費があると貯金残高がチラつき、小一時間は今月のやりくりで頭がいっぱいになる。こんな額しか稼げずに、この先どうなってしまうのだろう。親が死んだらどうすればいいのだろう。同じ年代の人達は順調にキャリアを積んでいるだろう。資格も学歴もないのにズルズルとパート勤務を続けて、まともな企業に転職できるのだろうか。先行きが見えず、暇な時間は一人で悶々と考え込んでしまう。
何度目かの落ち込みがやってきた時、私は愚かにも再び通院を自己中断してしまう。病気を隠し続けること、精神疾患をオープンにすれば低所得をやむなくされることがプレッシャーだった。私も「普通の生活」を手に入れてみたかったのだ。案の定病状は悪化し、練炭を購入するも思い留まり返品。ふらりと立ち寄ったホームセンターで首吊りの紐を買い、クローゼットにしまう。私は鬱になると時限爆弾を買い込む習性があるらしい。覚えておかなければならない。
その職場を退職した後、さらに三度の転職をする。ある職場は椅子に座っているだけで涙が出るようになり退社した。別の職場は人手不足の影響で仕事内容が変わり、人事と揉めた挙句退社した。最後の転職先にも馴染めず八方塞がりになった私は、家族と会社に何も告げずに家を飛び出し、三日間帰らなかった。雪の降る中、車中泊をして、寒すぎると眠れないことを知った。家族は私を探し回り、ラインの通知は「帰っておいで」のメッセージで埋め尽くされた。漫画喫茶のジャンクな食事で口が荒れ、睡眠不足で小間切れにうたた寝をするようになった頃、音を上げてふらふらと帰宅した。勤務先に電話をかけると人事に静かな声で叱られた。情けなかった。私は退社を申し出た。気がつけば一年で四度も職を代わっていた。
無職になった。気分の浮き沈みが激しくコントロールできない。父の「この先どうするんだ」の言葉に「私にも分からないよ!」と怒鳴り返し、部屋のものをめちゃくちゃに壊して暴れた。仕事を辞める度に無力感に襲われ、ハローワークに行くことが恐ろしくてたまらなくなる。履歴書を書けばぐちゃぐちゃの職歴欄に現実を突きつけられる。自分はどこにも適応できないのではないか、この先まともに生きてゆくことはできないのではないか、誰かに迷惑をかけ続けるのではないか。思い詰め、寝室の柱に時限爆弾をぶら下げた。クローゼットの紐で首を吊ったのだ。
紐がめり込み喉仏がゴキゴキと軋む。舌が押しつぶされグエッと声が出る。三秒ぶら下がっただけなのに目の前に火花が散り、苦しくてたまらなくなる。何度か試したが思い切れず、紐を握り締め泣きじゃくる。学校に行く、仕事をする、たったそれだけのことができない、人間としての義務を果たせない、税金も払えない、親の負担になっている、役立たずなのにここまで生き延びている。生きられない。死ねない。どこにも行けない。私はどうすればいいのだろう。釘がくい込んだ柱が私の重みでひび割れている。
泣きながら襖を開けると、ペットの兎が小さな足を踏ん張り私を見上げていた。黒くて可愛らしい目だった。私は自分勝手な絶望でこの子を捨てようとした。撫でようとすると、彼はきゅっと身を縮めた。可愛い、愛する子。どんな私でいても拒否せず撫でさせてくれる、大切な子。私の身勝手さで彼が粗末にされることだけはあってはならない、絶対に。ごめんね、ごめんね。柔らかな毛並みを撫でながら、何度も謝った。
この出来事をきっかけに通院を再開し、障害者手帳を取得する。医療費控除も障害者年金も申請した。精神疾患を持つ人々が社会復帰を目指すための施設、デイケアにも通い始めた。どん底まで落ちて、自分一人ではどうにもならないと悟ったのだ。今まさに社会復帰支援を通し、誰かに頼り、悩みを相談する方法を勉強している最中だ。
病院通いが本格化してからというもの、私は「まとも」を諦めた。私の指す「まとも」とは、周りが満足する状態まで自分を持ってゆくことであった。人生のイベントが喜びと結びつくものだと実感できぬまま、漠然としたゴールを目指して走り続けた。ただそれをこなすことが人間の義務なのだと思い込んでいた。
自殺未遂を繰り返しながら、それを誰にも打ち明けず、悟らせず、発見されずに生きてきた。約二十年もの間、母の精神不安定、学校生活や社会生活の不自由さ、病気との付き合いに苦しみ、それら全てから解放されたいと願っていた。
今、なぜ私が生きているか。苦痛を克服したからではない。死ねなかったから生きている。死ぬほど苦しく、何度もこの世からいなくなろうとしたが、失敗し続けた。だから私は生きている。何をやっても死ねないのなら、どうにか生き延びる方法を探らなければならない。だから薬を飲み、障害者となり、誰かの世話になり、こうしてしぶとくも息をしている。
高校の同級生は精神障害の果てに自ら命を絶った。彼は先に行ってしまった。自殺を推奨するわけではないが、彼は死ぬことができたから、今ここにいない。一歩タイミングが違えば私もそうなっていたかもしれない。彼は今、天国で穏やかに暮らしていることだろう。望むものを全て手に入れて。そうであってほしい。彼はたくさん苦しんだのだから。
私は強くなんてない。辛くなる度、たくさんの自分を殺した。命を絶つことのできる場所全てに、私の死体が引っかかっていた。ガードレールに。家の軒に。柱に。駅のホームの崖っぷちに。近所の河原に。陸橋に。あのアパートに。一人暮らしの二階の部屋から見下ろした地面に。電線に。道路を走る車の前に⋯⋯。怖かった。震えるほど寂しかった。誰かに苦しんでいる私を見つけてもらいたかった。心配され、慰められ、抱きしめられてみたかった。一度目の自殺未遂の時、誰かに生きていてほしいと声をかけてもらえたら、もしくは誰かに死にたくないと泣きつくことができたら、私はこんなにも自分を痛めつけなくて済んだのかもしれない。けれど時間は戻ってこない。この先はこれらの記憶を受け止め、癒す作業が待っているのだろう。
きっとまた何かの拍子に、生き延びたことを後悔するだろう。あの暗闇がやってきて、私を容赦なく覆い隠すだろう。あの時死んでいればよかったと、脳裏でうずくまり呟くだろう。それが私の病で、これからももう一人の自分と戦い続けるだろう。
思い出話にしてはあまりに重い。医療機関に寄りかかりながら、この世に適応する人間達には打ち明けられぬ人生を、ともすれば誰とも心を分かち合えぬ孤独を、蛇の尾のように引きずる。刹那の光と闇に揉まれ、暗い水底をゆったりと泳ぐ。静かに、誰にも知られず、時には仲間と共に、穏やかに。
海は広く、私は小さい。けれど生きている。まだ生きている。
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innocent-3 · 4 years
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「獅子身中の虫鈴木貞一」より
…皇道派の連中は概して陰性な者が多かった。真崎(甚三郎)、柳川(平助)、小畑(敏四郎)、鈴木(率道)、秦(真次)などは蛇の肌に触るようなつめたい感じがした。荒木(貞夫)は秘書官と酒のみ競争するような茶目気があり、比較的陽気なところがあった。青年将校の信望を集めたのも、一つはそのせいであったと思われる。…
 皇道派の変わり種として、いま一人の珍しい人物を紹介しておこう。鈴木貞一である。第二十二期だから鈴木率道と同期だ。支那駐在から任満ちて参謀本部に戻ったが、肝心の支那班で「彼は支那班に置くような者ではない。もっとしかるべきところに」といって収容しない。他の部課でも「ああ、こちらにはいらないよ」とみな敬して遠ざける。頭脳もよし手腕力量ともに凡庸ではないが、どういうものか同期生から好まれない。同期生といえば同胞よりも親しい。血をすすりあった盟友だ。それから排斥されるんだから、よほどの大器に違いない。それを聞いた軍事課長の永田鉄山が「それじゃ、俺のところにもらおう」という。軍事課の者が「ゲテモノ食いもたいがいにしなさい。彼を抱えこんでは課長が食われますよ」と散々忠告したが「まさか」といって採った。
 駑馬も騎手が良ければ駛る。いわんや鈴木は千里の馬だ。騎手は古今の名手���来ているから、正に天馬天をいくごとく見えた。「鈴木はいいだろう」と永田は鼻をうごめかしていた。鈴木も永田の知遇に感じたか、御奉公第一と勤めているうち世の中が変わって来た。荒木が陸相としてその一党を率いて乗り込んで来た。永田と意気投合していた小磯(国昭)は軍務局長から次官に棚上げされた。荒木の髭の塵を払わねば立身出世かなわぬ雲行になった。永田は新軍務局長山岡重厚が素人だから、従来より一倍骨を折ってこれを補佐しているが、山岡は事務などはどうでもよい。永田の言動を厳重監視するのが役目である。
 永田は人からはゲテモノ食いなど冷やかされるが、どんな者でも一芸一能に秀でている者ならばりっぱに使いこなす。鈴木など好例であるが、その他の軍事課員も一癖も二癖もある。腕に覚えのある侍どもだ。大臣がかわろうが局長が動こうが、俺は俺の道をいくという構えでジタバタする者はない。それぐらいの面魂は持っているのである。ところで、某日、筆者が山岡を訪れた。その頃はすっかり仲よしになっていた。
「おい、珍しい物を見せようか」
 山岡は応接室から自室に引き返して持って来たのは汚い鞘に納められた短刀である。
「拝見します」
 と抜いてみるとさびついている。銘はない。むろん筆者にはわからない。「何ですか」ときくと「俺にもよくわからないが、関もので兼房あたりではないかと思う。物は大したものではないが、まあ窓をあけるぐらいの価値はあろう」と卓子の上に載せ、「問題はこれを持って来た者だ。誰と思う」わかりませんと答えると「貞一だよ、鈴木貞一だよ」と言って笑う。「彼が北京とか天津とかの古物屋のガラクタの中にあったのを発見して、掘出物ではなかろうかといって持って来たんだ。彼は平素刀などひねくりまわしているのかい」と愉快そうに笑う。山岡は皮肉屋である。彼には鈴木がどういう意味でこんなものを持参したかを知っているのだ。それを筆者に言わせて拍手しようという魂胆だ。山岡が刀剣以外には何の趣味も道楽もない木強漢であることは部内周知の事実だ。酒を持ちこんでも菓子折を持参しても何の効顕もない。もし、刀剣を持ちこめば相好をくずして喜ぶ。この点はまことに弱い。持ちこむといっても贈物ではない。鑑定だ。贈物となれば少なくとも山岡の所持している以上のものでないと喜ばないだろう。現に長光とか国安とか稀代の国宝級のものを持っている。それに匹敵する物は、まず手に入るものではない。そこで鈴木はこの山岡最大の弱点をついたのである。
 山岡が積極的に悪口を言わなくなれば、皇道派の連中は大抵信用する。面と向かっても罵倒するし、陰での批判など痛烈無比だ。皇道派とは因縁のない板垣征四郎を呼ぶに、まともに言ったことはない。「板(パン)」である。「板」がまた支那人にだまされてウンと金をとられた。「彼は板じゃなくて白(パイ)だよ。白痴だよ」という。金をとられたという事件の内容は忘れたが、おおむねこの類だ。彼の口に上らなかったのは武藤、荒木、真崎の三守護神くらいだが、それでも荒木については善意の悪口はのべていた。鈴木はその後も、長いもの短いもの幾口かを持ち込んでいた。山岡は役所でもろくな仕事はしていないんだから、役所に抱えて行って局長室に投げこんでおけばよいのを、わざわざ自宅に持参するところに彼の狙いがあった。かくて、皇道派のメンバーの一人の如く振舞うようになってから、永田に対する態度は次第に冷ややかになった。つめたくなるばかりではすまない。皇道派に永田の悪口を注進する。
 鈴木はしばらく新聞班長をしたことがある。上着の内ポケットがいやに硬直している。「機密費でもしこたま入れてるのかい」というと、「ばかを言え、これだ」と取り出したのは短刀だ。見ると月山貞一の作である。「僕と同名だし、なかなかいいできだろう」と得意である。 月山は帝室技芸員か何かになって、晩年は知られたが、日清戦争頃までは鍛刀の依頼者も少なく、やむなく古刀の擬物を打っていたと伝えられる。擬物でもすぐ発見されるようなものでなかったから、その技術は高い水準にあったらしい。それにしても贋物作りをするような人物は感心できない。それはそれとしても、何のために新聞班長が懐ろに短刀を呑んでいなければならないか。それほど彼の身辺は危険だったのか。真に護身用なら赤の他人に誇示するようなことはないはずである。また、手をのばせば届くところに、日本刀を仕込んだ軍刀を置いている。どこから見ても不必要だ。それを見せるキザな態度に筆者は、しばらく胸の悪くなるのを覚えた。
 斎藤内閣のとき、何かの要件で鈴木は高橋(是清)蔵相を訪れた。大いに気おって蘊蓄を傾けて老蔵相を説き、ことに陸軍予算のみならず、国家予算全体についても話したらしい。高橋は鈴木の階級も何も知らず、おそらくポストも知らなかったろうが、ともかく数字をならべて説くところがなかなか堂に入っている。感心して鈴木が出て行ったあとで、次官か秘書官かに「今来てしゃべって行った兵隊はあれは主計か」と尋ねたそうだ。この話が陸軍に伝わり鈴木の耳にも入った。「君は主計に間違えられたそうだね」というと怒るかと思いのほか、満悦である。大蔵大臣に主計と間違えられるほど、俺は数字にも明るいんだと誇りたいんだ。渋谷美竹町の彼の自邸は、佐官級としては過ぎたりっぱなものであった。応接室も広く、周囲に飾られている物はみな中国のものだ。新聞記者が行くと、なかなかの御馳走を出す。ウィスキーなんか本場物を幾種類か出し、時には上等の中国の酒を振舞う。酒好きの記者はしばしば鈴木邸を夜襲したらしい。そういうことをするのが弘報宣伝だと心得ていたのだ。
 さて、世の中はまた変わった。荒木が引っこみ林(銑十郎)が出て来た。その直後のことである。筆者は毎朝犬の運動のため、渋谷、駒場方面から方角違いの中野、杉並、八王子近くまで自転車で走りまわっていた。その途中に知りあいの家があれば、遠慮なく叩き起こす。仲には「どんなことでもきくから朝起こすのだけは勘弁してくれ」と泣きつく者もいた。家を出るのは薄暗い頃だから、運のわるい者はほんとうに夜半のつもりでいる。渋谷方面では永田も被害者の一人だ。しかし、その頃は旅団長をしていて、夜ふかしは少ないはずだから、帰途に垣根の外から「永田さん」と呼ぶ。美しい夫人が縁側に三つ指つくときは、まだ起きていない証拠だから素通りする。ところで、その朝は筆者の行ったのが少し遅くなってはいたが、珍しく庭に出て楊子をくわえている。そして先方から声をかけた。
「オイ、ニュースがあるぞ、こっちに入れ」
 永田がそんなことをいうのは稀有だ。「何ですか」と犬をつれて庭に入って縁に腰かけるとこういうのだ。
「鈴木貞一が来たんだよ。御近所まで参りましたからといってね」
「鈴木は美竹町ですぐ近所じゃありませんか。今まで訪ねなかったんですか」
「来るものか、そして省内の事情や何かをききもしないのにいろいろしゃべって行ったよ」
「閣下が軍務局長にでもなると見たんですね。ほんとうにそんな気配が感ぜられますか」
「いろいろの情報や脈引きに来る者はあるよ、だが御免だよ、毎朝馬に乗って軍隊のことばかり考えていればよい旅団長は、めったにやめるわけにはいかないよ、ことにこんな御時世ではね」
 林が就任すると間もなく、永田軍務局長説が出た。筆者は渡辺(錠太郎)から、林はつっかえ棒なしでは乗りきれない。永田は迷惑だろうが軍務局長になってもらわねばなるまい。林もその気でいる。しかし、実現するまでは新聞に書いてくれるなよ、書けば彼らが騒ぎ出すからと堅く差し止めされていた。しかし、部内でも永田出馬説がでるし、他の新聞にも書き立てている。そういう際だったので永田の真意を打診したのだが、やはり永田は出ないと言っている。けれども渡辺が強引に林を説得しているから、所詮出なければならなくなるだろう。渡辺のことは伏せておいたが、結局引っぱり出されるだろうことを話した。永田は「困る、困る」を連発して、憂鬱そうだった。
 昭和九年三月の異動で、永田は軍務局長となった。鈴木貞一は永田の下で羽ぶりをきかせたかったらしかったが、こんどは永田もそうはしない。陸大主事に追った。小畑幹事の下だからうまく行くはずだが、林陸相出現以来の鈴木の豹変振りが皇道派を痛く刺戟した。彼は何をするかわからぬという疑惑がある。俊敏な小畑がそれを見損ずることはない。新聞班長時代には千客万来だった鈴木邸にも、雀が門前に巣をかけるようになった。だが、それぐらいのことで尻尾をまくような鈴木ではない。小畑にはつとめて媚態を呈するとともに、新聞班長時代に開拓した政界という新分野に鎌首を突っこんで行った。侯爵井上三郎は砲兵大佐で現役を退き貴族院にいる。現役時代から接近している。西園寺公の秘書原田熊雄は以前から食い込んでいる。原田から近衛、木戸の方につながる。
 五・一五事件のあとではあり、政治家はみな陸軍のことを知りたがっている。それには鈴木は最もよい情報屋である。原田日記にも鈴木の名はところどころに出ているが、林が陸相辞任騒ぎをおこしたときでも、鈴木は原田に荒木、真崎らの動向を伝え、こういう風に西園寺公に報告してくれなど注文している。政友会の方では、五・一五事件が政治家のだらしなさに対する警告だったことなど忘れ、また軍部をのさばらせることが、いかなる結果を招来するかも慮らず、いたずらに政権をとりたい野心から、しきりに軍部の機嫌をとる。森恪などその第一人者だった。鈴木は森恪の存在を重視しないはずはなく、ここを窓口として政友会に近づく。かくて政界で流行児になった。現役軍人としているのもよし、退いて政界にいづるも不可なしと、彼の地盤は漸次強固になる。ここらの手腕は実に鮮やかなものであった。
 永田軍務局長時代であるが、小磯は第五師団長として広島にいた。筆者は満州からの帰途にはいつも小磯を訪問することにしていた。広島は急行列車が不便で、夜半でなければ通過しない。小磯は起きて待っている。大きな玄関を入ると上り口にりっぱな果物籠が置いてある。小磯は出迎えに出た夫人を顧みて「籠はまだ捨ててないじゃないか」となじっている。夫人は困ったという顔つきで笑っている。どうしたのかときいてみると
「その籠にはふれるな、けがらわしいんだ。名刺かなにかはさんであるだろう、それを見ればわかる」
という。電灯の光でのぞいてみると鈴木貞一の名刺だ。
「鈴木が広島を通過したが、次官の関係でお伺いできないから、閣下に宜しく伝えてくれといって、多分駅にいた憲兵にでも頼んだんだろう、俺の留守中に届けられているんだ。胸糞が悪いから捨ててしまえと言って置いたのに、まだそこに置いている」
 なるほどそれでわかった。その頃は小磯が中央部に出て、航空本部長になるかという噂がたっていた。その先物を買ったのだろうが、小磯としては次官、関東軍参謀長時代の鈴木の仕打ちには我慢ならぬものを感じていたのだ。
「捨てるのはもったいない。名刺さえ捨てておけば中身は上等な果物ばかりです。一つ食いましょう」
 と名刺を土間に捨てて、籠を持って応接室に入った。小磯は機嫌がわるい。
「そんなものを食うより、今夜は虎の肉を食おう。山下亀三郎が朝鮮か満州かで仕留めたと言って、虎の肉を送って来ているんだ。この方がさっぱりしとっていいよ」
 とさっそくすき焼きにして食ったが、肉が堅くてだめだった。それよりこの方がいいと、メロンや何かを食った。先物を買ってまた一儲けしようと考えたのだろうが、小磯は中央にもどらず、朝鮮軍司令官になった。果物は贈り損をしたわけだが、彼にもたまには目算違いがあった。…
(高宮太平『昭和の将帥』、1973年、190-197頁)
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ichinichi-okure · 4 years
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2020.7.1wed_tokyo
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7時、ガタガタと古い窓の音がしたような気がして目が覚めたけど実際どうだったんだろう。
天気予報で風が強いと言っていたからなんとなくそんな気がしたのかな。うちの古くて思い窓はちょっとの風でもガタガタと鳴る。ヒビが入っていて重くて曇りガラスでその向こうは雨。まさに寺尾聡。
トイレに行って顔を洗う。手は石鹸で念入りに。水を一杯飲む。 カードリーディングのセッティング。テーブルに布を引いて好きな石を並べる。丸い蝋燭を灯してからホワイトセージを炊く。座って深呼吸。この一連の作業が祈りの儀式のようでとても好き。 連絡をくれた人たちのためにオラクルカードを引く。7月のメッセージだったり、今年の下半期へのメッセージだったり、もっと明確なことへのメッセージだったり、みんな何か言葉を待っている。今回は大天使のカードと龍神のカードが人気だった。人のために引くとき、自分のときには引いたことがないカードが出る。それがほんとうに不思議だし面白い。今回も見たことがないカードが続出で魂が震えた。不思議すぎる。ひとりひとり引くたびにホワイトセージを炊いて浄化する。どんどん煙たくなってくる。時々水を飲む。 誰も希望しなかった日本の神様カードで全体へのメッセージを引いてみた。
泣澤女神(なきさわめのかみ) 溜め込んでいる感情を外に出してあげましょう。笑いたいときには笑い、泣きたいとには泣く。深いところにある悲しみや痛みを和らげて安らぎを迎えましょう。家族の絆も深まるときです。そして今までのやり方を根本的に変えるときがきています。一日も無駄にしないつもりで過ごしてください。新しく生まれ変われるとき。
出かける準備でパタパタしている藤本にカードを引いてみるか聞いてみた。いつもは断るのに珍しく引いてみるというので藤本へのメッセージを引いてみた。大天使のカード。まさに、のカードが出て朝から大笑い。必要なメッセージが本当に出るから不思議。
藤本を見送りに玄関まで。仕事の後に映画に行く約束、忘れていないか確認。 洗��機を回して、お米を2合炊く。 ホワイトセージを炊いて今度はタロットカードを引く。毎朝引いてパーラーのインスタグラムに公開している。アップしてそのまま放置なので見てくれている人がいるのか謎だけど春分の日から毎朝欠かさず引いている。ちゃんと先生について学びたいけど誰に学ぶのか、その前に受講費をどうするかが問題で、今は3冊の本を頼りにカードを読んでいる。
洗濯を干して、お昼用のおにぎり2つ、小さなタッパーにゆで卵とミニトマト、水筒に黒豆茶。 出勤。 職場は1ヶ月前くらいからとても暇になってのんびりとしている。やることがないときは色々考え事をする。頭の中はいつも忙しい。 昼休憩にあいちゃんから日記を書かないかと連絡がきた。明日の日記とのこと。途端に明日の過ごし片を意識し始めた。 次の休憩のときにあいちゃんから書いて欲しい日記の日付を間違えていたと連絡が来た。 今日の日記を書くことになった。明日へのプレッシャーは急になくなった。人間の心理って面白いな。今日は今日で今のところ何の変哲もない一日な気がする。
仕事が終わって急ぎ足でピカデリーへ。 藤本と待ち合わせ。 映画の日だから1000円かと思いきや1200円だった。知らぬ間に値上がりしていた。 「ストーリーオブマイライフ」若草物語の映画。席につこうとしたら知樹となっちゃんがいてびっくりした。 ああ驚いた。 予告の間にくるみパンを食べる。 とても素晴らい映画だった。中盤ぐらいから涙が止まらなくなってしまった。朝引いた泣澤女神のカードのことを思い出した。私の中のいろんな感情、イライラ、嫉妬、誰かを好きな気持ち、消化されてこなかった何か、ベスが叶えられなかった人生、姉妹、まわりの人々みんなの幸せ、それぞれの人生、いろんなことが巡る。 結婚するとか、子どもをもつとか、家、車、財産、仕事。人生の幸せっていったいなんなんだろう。説明できない感情が溢れてきて終わっても涙が止まらなかった。
映画館を出るころにはかなりの大雨、風も強い。せっかくだからどこかお店に行こうとなるけど今の新宿、この時間いつもなら開いてるだろうお店はほぼ閉まっていて、なんとなく思い出横丁まで行ってみる。かろうじて岐阜屋が開いていた。みんなびしょ濡れ。 私は初めてだったけど、藤本おすすめの店。 玉子とキクラゲの炒め物、固い焼きそば、ねぎラーメン、ビール2本、ジンジャーエール2本、紹興酒2杯。小一時間ほど。 映画の話から都知事選の話まで 私は都知事選は必ず行く。もののけ姫も観に行く。千と千尋の神隠しも観に行く。ただゲド戦記だけはどうしようか迷っている。もう一度ナウシカを観てもいいような気もする。 好きな映画の話と、選挙の話。ぜんぜん違うようで同じ世界のことなのが不思議で、それを同時に話せる友人というのはすごくいいなと思った。 藤本は「前前前世から」という歌詞を「全全全世界」だとずっと思っていたことが判明。衝撃すぎてみんなで大笑い。思いがけないことってなんて刺激的なんだろう。雨は止んでいた。 総武線最終三鷹行きに乗って帰宅。
-プロフィール- アグネス(42) 東京 接客業、アグネスパーラー @agnesayano https://agnesparlor.blogspot.com
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sorairono-neko · 4 years
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何があったと思う?
 勇利は机に向かい、調べた言葉を慎重な態度でノートに書き記した。何度も雑誌の文章を見、携帯電話で単語を確認し、翻訳機能を使い、どうにか日本語をつくっていった。勇利がひろげているのはヴィクトルの載っている雑誌で、そこには彼のインタビューが掲載されていた。すべてロシア語なので、自分で訳す必要があった。 「できた」  勇利は顔を輝かせ、訳し上げた文章を読み直してみた。見たところ、意味の通らない箇所はないようだった。そうか、ヴィクトルはこんなことを言ったのか、と思うと胸があたたかくなった。それを自分できちんと訳せたこともうれしかった。しかし、まちがいがないとは限らない。誰かロシアの人に確かめてみたい。でも、ヴィクトル本人に尋ねるのはどうだろう? それはなんだか気恥ずかしいような……。  とりあえず満足して、勇利はノートを閉じると、テーブルの上を片付け、もたれていた大きなクッションから身体を起こした。時計を見、そろそろやすまなくちゃ、と思った。寝る前に、一度だけヴィクトルの動画を見ようかな。いつのどのプログラムにしよう。迷うだけで十分も二十分も経ってしまいそうだ──。  そのとき、呼び鈴が鳴り、勇利はびくっと肩を上下させた。こんな時間に誰だろう? 訪問するには非常識と言える時刻である。強盗とか──いや、強盗は呼び鈴なんか鳴らさないか。だけど、ひとり暮らしは気をつけろとヴィクトルに何度も言われたし……。勇利はあたりを見まわし、武器になりそうなものはないかと探してみた。また呼び鈴が鳴った。勇利は慌てて近くにあったものをつかむと、玄関まで急いで行った。 「ど、どなたですか?」  英語で尋ねたけれど、相手がロシア人では通じないだろう。ロシア語でなんていうんだろう、と悩んだとき、「カツキ、私だ」とギオルギーの声が聞こえた。勇利はびっくりした。 「こんな時間にどうしたの?」  急いで扉を開けると、ギオルギーがふらつきながら入ってきた。 「遅くにすまないな。ただ、彼をどうにかしなければならなかった」 「ヴィクトル!」  勇利は目をまるくした。ギオルギーの肩に腕をまわし、支えられているのはヴィクトルだった。 「どうしたの?」 「それが──、カツキ、何を持っている?」 「え? あ」  勇利は赤くなって、手にしていたものを慌てて床に置いた。水の入った瓶だった。こんなものしかみつけられなかったのだ。 「ちょっとした集まりがあって、食事をした。酒も出たのだが、ヴィクトルが酔ってしまった」 「ヴィクトル、お酒強いのに」  勇利はヴィクトルのおもてをのぞきこんだ。赤い顔で目を閉じている彼は、どこか笑っているようである。 「ああ、さほど飲んではいなかったと思う。疲れていたのかもしれん。店を出るまではしっかりしていたのだが、だんだんと眠そうになっていった。どうしたと尋ねたら、勇利のところに帰る、と言い出してな……」 「え、なんで?」  勇利はきょとんとしたが、自宅よりここのほうが近かったのだろうとすぐに納得した。それ以外に理由は思いつかない。 「それからはほとんど寝ているような状態だ。何を訊いても、勇利のところ、勇利のところ、とくり返している。かろうじて住所は言えたのでここまで連れてきたのだが……」 「そう……」  勇利が、ヴィクトル、と呼びかけると、彼は目を閉じたまま、「ゆうりぃ」と手を伸べて抱きついてきた。 「わわっ」 「すまんな。本当に連れていっていいものかと迷ったが、まあカツキなら問題ないだろうと判断した」 「そりゃあ困らないけど……どうして?」  意味深そうなふくみが感じられ、勇利はギオルギーを見た。ギオルギーは笑って答えた。 「だって、ふたりは恋愛関係にあるのだろう?」 「え? は?」 「では私はこれで。遅くに悪かったな」 「あの、ちょっと──」  扉が閉まった。勇利はあぜんとしていたが、わざわざ追いかけていって、「ぼくとヴィクトルはそんな関係じゃありません」と訂正するのも妙だ。 「まあいいか……」  勇利はヴィクトルを連れて部屋へ行こうとした。それにしても重い。 「ヴィクトル、ちゃんと歩いてよ」 「ゆうりー」 「はいはい、勇利ですよ」 「ふふ……」  ヴィクトルはしあわせそうに笑っている。彼は勇利に頬をすり寄せ、「勇利……」とつぶやいた。勇利はくすっと笑い声を漏らした。 「もう、しょうがないなあ……」  ギオルギーの言う通り、疲れているのだろう。このところはいろいろな仕事があったようだし、ヤコフと長く話しあったりもしていた。ヴィクトルはロシアの英雄だ。彼はひとことも言わないけれど、勇利には想像もつかないような重圧やめんどうなことがたくさんあるのだろう。 「こっちだよ」  勇利はヴィクトルを支えながらよろよろと歩いた。ほとんど寝ているようなときに、「勇利のところへ行きたい」と言ってくれたのはうれしかった。ゆっくり寝かせてあげよう。ヴィクトルの家にあるような──見たことはないが──寝心地のよい大きなベッドはないけれど。 「重いよ、ヴィクトル……」  勇利は笑いながら苦情を言った。 「ね、聞いてる?」 「うん……」 「ほんとに寝ちゃってるの?」  ここまで、寝惚けながらも一応は自分の足で歩いてきたようなのだが、もう限界なのかもしれない。 「あとすこしだからがんばって」 「勇利……」 「そう、ぼくだよ」  廊下からどうにか部屋にたどり着き、勇利はふうっと息をついた。ベッドはすぐそこだけれど、さきに服を脱がせるべきだろうか? 横になってしまうと大変そうだ。でも、このままだと倒れるかもしれないし……。 「ヴィクトル、立てる?」 「うん……」 「ちょっとだけ我慢してね」  勇利はヴィクトルと向かいあい、肩口に寄りかからせたまま、どうにかコートを脱がせた。上質の、そのあたりにほうり出しておいてはいけないようなものだ。きちんとハンガーにかけたいけれど、いまは無理だった。仕方なく床に落としておく。 「ほら、ヴィクトル……」 「勇利……」 「うん、あとちょっとだから」 「勇利……」 「ん?」  ふいにヴィクトルがおもてを上げた。青い瞳がゆっくりと瞬き、じっと勇利をみつめた。 「起きた?」 「勇利……」  ヴィクトルがつぶやいた。うん、とうなずこうとした勇利は、次の瞬間、驚いて目をみひらいた。ヴィクトルが勇利のくちびるをさっと奪ったのである。 「んん……!?」  ちょ、ちょっと。何やってんの。えぇ!? 「……ゆうり……」  くちびるが離れ、ヴィクトルが溜息のような声でまた呼んだ。勇利はそのふくみもった色っぽさにぞくぞくした。 「ヴィクトル、あの、そんなに押したら……」 「勇利。……ゆうり……」 「あ──」  支えきれなかった。ヴィクトルがぐっと勇利に重みを加え、持ちこたえられなかった勇利は、そのまま仰向けにベッドに倒れこんだ。ヴィクトルがのしかかってきた。 「えっ、あの、ヴィクトル……」 「ゆうり」  ヴィクトルの匂いがした。勇利は彼に深く抱きこまれた。  目ざめると、見慣れない天井と壁が見えた。ふとんはあたたかかったけれどいつもの上質なものではなく、いる場所は全体的になんとなく窮屈で、そんな環境では不快になるはずが、とてもよい匂いがして、ヴィクトルはいい気持ちになった。口元に笑みをたたえ、寝返りを打ってもうひと眠りしようとして、彼はふと疑問をおぼえた。ここはどこだ? 自分はゆうべどうしただろう?  何か致命的な問題を起こしたのではないかという気がして、はっとまぶたがひらいた。ヴィクトルは、どんなに酔っても記憶をなくしたことはない。失態を犯したこともない。ゆうべもずっとよい気分でいた。ただ──ここは自分の家ではない。確か店を出てギオルギーと歩き、酔って気持ちが高揚して、好きな子の名前を──。 「あ、起きた?」  足音が聞こえ、顔の上に影が落ちた。目を上げると勇利がこちらをのぞきこんでおり、彼は食べ物の美味しそうな匂いをまとっていた。 「朝ごはんもうできるよ。身支度を整えたら? そっちで顔を洗えるから。シャワーを浴びたいなら浴びていいよ。ただ、悪いけど着替えは貸せないんだ。ぼくの服、合わないから着られないでしょ? そもそも、ダサいとかいって拒否されそうだし……。帰るまで我慢して。タオルは、シャワーを浴びるなら大きいのを、顔だけならちいさいのを使って。出してあるからすぐわかると思う」  ヴィクトルはわけがわからないながらも、無言で身体を起こした。肩のあたりから上掛けがすべり落ち、勇利は目をそらした。 「あの……、服はそこにあるから」  彼はちょっと赤くなって行ってしまった。ヴィクトルは勇利の指さしたほうを見た。壁際に、ヴィクトルがゆうべ着ていた服がかかっていた。ヴィクトルはベッドから足を下ろしてぎょっとした。全裸だ。下着もつけていない。  ヴィクトルは考えこんだ。これは自宅では普通のことだ。ヴィクトルは何も身につけずに眠る。しかし、勇利のところでそんなことをするのはあり得なかった。ただ泊まりに来ただけなら、「いつも通りでいいよね!」と要求することはあるかもしれないけれど、ゆうべのような緊急事態でそうするとは思えなかった。いや──緊急事態とはなんだろう? 昨日自分はどうしたのだったか。酔って記憶をなくすことはないけれど、もしかしたら初めてそれを経験しているのかもしれない。ギオルギーに勇利の名を口にしたのはおぼえている。会いたいとか行きたいとか言ったことも。それで──それで──いや、そんなことよりも。  俺は勇利に何かしたのか!?  そのことがいちばんの気がかりだった。ヴィクトルは勇利のベッドに寝ていた。見たところ、ほかに寝られそうな場所は手狭な勇利の部屋にはない。勇利が徹夜で何かしていたのでない限り、彼も同じベッドで眠ったのだろう。そして──自分は何をした?  さっぱり思い出せなかった。思い出せないが、何もしていないという自信はなかった。ヴィクトルは勇利を深く愛しており、彼と進んだ関係になりたかった。つまり、彼とセックスがしたかった。その希望を口に出したことはないけれど、ずっと望んでいた。そうする絶好の機会がめぐってきて、指一本ふれないなんていうことがあるだろうか。おまけに、自分はいま裸だ。  すぐそばにあるくずかごの中を急いで見た。それらしいものは入っていなかった。しかしヴィクトルはスキンを持ち歩いていないし、勇利だって備えているとは思えない。いくつかまるめたティッシュペーパーが捨てられているけれど、いかにも汚れたものを拭いた感じで、「そういうもの」をぬぐったふうではない。けれど、身体はタオルで綺麗にできるし、シャワーで洗い流すこともできる。  ヴィクトルの全身から血の気が引いた。自分はとんでもないことをしたのかもしれない。勇利はごく普通の様子だけれど、彼の態度なんて信用できない。勇利は、そぶりと思っていることが時にまったく一致しない、めったにない性質をしているのだ。 「ヴィクトル? どうしたの?」  勇利が食卓のほうから不思議そうに問いかけた。 「まだ眠いの? ごはんいらない?」 「いや……」 「今日は休み? ぼくは練習に行かなくちゃいけないから、えっと、どうしようかな……」 「すぐ支度するよ」  ヴィクトルはほとんど上の空で立ち上がり、そしてうろたえた。下着はどこにあるのだ? 「ゆ、勇利」  尋ねるのはためらわれたが、ほかに方法がない。ヴィクトルは緊張しながら質問した。 「俺の……下着はどこにあるんだろう」 「あ、あの……」  勇利がまた赤くなってそっぽを向いた。 「服のところに……一緒に……」 「ありがとう」  かけてあるシャツをすこしめくると、ハンガーに上手く下着もひっかかっていた。ヴィクトルは勇利に申し訳なくなった。 「あの、下着は替える? ぼくのでいいならだけど……、あ、もちろん新しいのを出すよ。ただ、大きさが合うかな?」 「いや、いいよ。ありがとう」  そんなことはどう��もよかった。ヴィクトルは完全にほかのことに気を取られていた。 「ヴィクトル、飲み物はどうする? 紅茶? コーヒー?」 「勇利と同じので」 「ぼくはミルクなんだけど……」 「じゃあそれでいい」  なんでもよかった。勇利と朝を迎え、一緒に朝食をとれるというせっかくの時間なのに──ヴィクトルが夢に見ていたなりゆきなのに、しあわせにひたるゆとりはまるでなかった。  身ごしらえを済ませて食卓につくと、勇利が目玉焼きとウィンナーののった皿を前に置いてくれた。 「ちょうどできたよ。何もなくてごめん」 「いや、じゅうぶんだ。こっちこそ……」  悪かった、と言おうとして、何を謝罪しているのだろうと思った。突然押しかけてきたこと? ベッドを占領したこと? それとも──勇利の身体を──。 「いただきます」  勇利が行儀よく手を合わせた。ヴィクトルもそれに倣ったが、やはり彼は上の空で、ほとんどとりみだしていた。どうしよう。何か言わなければ。どういうことなのか知るべきだ。しかし、どのように質問するのがよいのかわからない。ゆうべ、俺ときみ、セックスした? ──そんなふうに簡単には訊けない。何かが終わってしまうかもしれないのだ。 「パンが焼きたてみたいだね」  ヴィクトルはどうでもよいことを言った。自分はばかじゃないだろうかと思った。 「うん。さっき、近くで買ってきたんだ。ちょうど切らしてて」 「勇利はどうするつもりだったの?」 「ぼくひとりでも買いに行くつもりだったよ」  勇利は切ったバゲットにバターを塗って上品にかじっている。ヴィクトルは何も考えずクロワッサンを口に入れた。あたたかくて、ふわっとしていて、美味しかったけれど、味わってはいられなかった。 「勇利、その、俺は……」 「ゆうべはびっくりしたよ」  勇利が笑いながら言った。 「突然来るんだもん。ヴィクトル、おぼえてる?」 「一応は……。ギオルギーと一緒だったと思うんだけど」 「そう。彼に、勇利のとこに行くって言い張ったみたいだね? それで連れてきたらしいよ。なんでぼく? 何か用事があった?」 「いや……そういうわけじゃないんだが……」 「ヴィクトルがわけわかんないのなんていつものことだけどね。まあ、ぼくんちのほうが近かったのかな」  近いことはその通りだけれど、自分はただ勇利に会いたかったのだろう。ヴィクトルはゆうべの自身の感情をそう分析した。 「俺、ひどく酔っぱらってた?」  ヴィクトルはおそるおそる尋ねた。 「おぼえてないならそうなんじゃないの?」  勇利は笑っている。 「いや……なんていうか……酒で記憶をなくすことはないんだが……」 「そうだろうね。ギオルギーが帰ったあと、ぼくはどうにかヴィクトルを引きずって部屋に入ったんだけど……」 「…………」 「ぼくがコートを脱がせると、ヴィクトルはぼくに抱きついてきて……」  ヴィクトルはつばをのみこんだ。 「それで……」 「……それで?」  勇利は明るく言った。 「ベッドに倒れこんで、そのまま寝ちゃったよ」 「…………」 「記憶がないのはそのせいだと思う。すぐ寝たんだからね」  ヴィクトルは探るように勇利の顔をみつめた。本当だろうか? 本当に寝たのだろうか? 何かしたのではないか? そんなに飲んだつもりはないけれど、もしかしたら知らないうちに泥酔していたのかもしれない。 「……それで勇利はどうしたの?」 「ぼくもすぐにやすんだよ」  勇利はあっさり言った。 「しょうがないから同じベッドでね。狭かった」  勇利は苦情を述べるようにヴィクトルをにらみ、それからほほえんだ。ヴィクトルはまだ勇利の言うことを信じきれずにいた。 「……俺、自分で脱いだ?」 「えっ、ああ、それ……」  勇利は気恥ずかしそうに目をそらした。 「……うん。ベッドに倒れこんでしばらくしたら、いきなりもぞもぞ脱ぎ始めた。ぼくは服を拾い集めてかけておいたんだ。ヴィクトルさ、人んちでも脱ぐの? どうかと思う」 「それは……悪かったよ」  まったく申し訳なかった。──脱ぐ以外に何もしていないのだろうか? 「……それだけ?」 「それだけって?」 「俺は脱いで、そのまま寝たの?」 「うん」  勇利はこっくりうなずいた。 「そもそも、脱ぎながら寝てたからね。寝惚けてるのによくやるなあと感心したよ。全裸のヴィクトルの横で寝るのは気が引けるから、せめて下着だけはって思ったけど、ヴィクトル脱いじゃったから。穿かせるのもなんかね……。そうしてもまた脱ぎそうだったし」  言い終えてヴィクトルを見ると、勇利は、「バゲットはいいの?」と勧めた。ヴィクトルは礼を言って食べた。食事のあと、勇利は残ったパンを片づけたり、流しに向かって洗い物をしたりと立ち働いた。ヴィクトルは注意深く彼の様子を観察した。どこかつらそうにしていたり、動きがにぶかったりといったことはとくになかった。すこしだけほっとした。強引なことはしなかったようである。しかし、まったく何もしなかったかどうかはまだわからない。 「ぼく、そろそろリンクへ行くけど……」 「俺ももう出るよ。今日は一日休みだから……」 「わかった。自主練をするし、何かあったらヤコフコーチやトレーナーに訊くよ」 「ああ、ヤコフには話してある」 「あの……」  勇利がちょっと頬を赤くした。 「途中まで一緒に行く?」 「……ああ」  ふたりが歩いて行けるのはほんのひと区画だけで、すぐに別れることになった。肩を並べているあいだ、勇利はひとことも話さなかった。いつもこんな感じだっただろうかとヴィクトルは思い悩んだ。そう……、普段は自分が話しているかもしれない。勇利は特別に饒舌ということはないのだ。だからおかしいのは自分のほうだということになる。理由はわかっているけれど。 「じゃあ、ここで」  勇利がクラブへ向かう曲がり角で手を振った。 「明日は練習に行くから」 「わかった」  歩き出してから、ヴィクトルはふと振り返った。勇利はいつものきびきびした足取りで、背筋を伸ばしていた。ヴィクトルは溜息をつきながら自宅へ帰り、とりあえず入浴した。湯につかっているあいだ、考えるのは勇利のことばかりだった。何かしたのだろうか。しなかったのだろうか。どちらだろう。もちろん、いずれはそうなりたかったのだ。だがそれは「いずれ」であって、昨日のことではない。おぼえていないのも腹が立つけれど、性急な始め方をしたことにもいらだちがつのる。こんなはずではなかった……。  しかし、何かしたとは限らないのだ。判断をくだすのはまだ早い。勇利が普段のままだったのだから、彼の言う通り、ヴィクトルはただ眠ってしまっただけなのかもしれない。勇利は確かに見た感じと考えていることに差のある子だけれど、意に反することをされれば怒るだろう。そのあたりははっきりしている。はっきりしすぎているくらいだ。何かあったのなら、あんなふうにとりつくろったりはしないはずだ。  でも──でも、勇利はわからないしな……。ヴィクトルは考えをまとめきれなかった。もし何かあったとして、セックスをした翌日に元気にスケートなどしてよいものだろうか。初体験のすぐあとは安静にしていたほうがよいのではないだろうか。  夕方、ヴィクトルはいてもたってもいられず、ヤコフに連絡を入れてみた。「勇利は元気?」という唐突な質問をしたが、ヤコフは不思議がることもなく、こんな返事をよこした。 「午前中で切り上げて帰ったぞ」 「え!?」  ヴィクトルは青ざめた。やっぱり、と思った。やっぱり勇利、体調が悪いんだ。俺がいろいろしたから……。 「ハイ、勇利? 大丈夫かい?」  ヴィクトルは急いで勇利に電話をかけた。 「どうしてる? どんな具合? つらいの? 医者を呼ぼうか?」  呼ぶなら何科の医者だ、とヴィクトルは混乱した。 「とにかくすぐ行くよ」 「ヴィクトル……」  勇利はよわよわしい声で言った。 「来なくていいよ……」 「何を言うんだ。俺のせいなのに」 「確かにヴィクトルのせいだけど……」 「責任は取る」 「おおげさだよ……」  勇利がくすっと笑った。 「すこし寝てれば大丈夫だから」 「だめだよ。どこが痛いんだ? 何か欲しいものは?」 「眠りたいだけだよ」 「勇利、強がらなくていい」 「強がってないよ」 「きみが心配なんだ。看病させてくれ」 「ヴィクトル……、何か勘違いしてない……?」  勇利がいぶかしげに言った。 「ぼく、眠いだけだよ」 「うそだ。俺に心配かけないようにそんな……」 「あのね、病気じゃないんだよ」 「病気ではないかもしれないけど、でも……」 「ゆうべ、ヴィクトルがベッドの真ん中にいたから、なかなか眠れなくて、そのせいで睡眠不足なだけだよ。眠いのにすべるのはあぶないから帰ることにしたんだ。わかった?」 「うそは言わなくていい」 「なんでうそなの? 意味わかんないんだけど」 「とにかく行くから」 「来ないで」  勇利はきっぱりと言った。 「ぼくは寝てたんだ。いまからも寝るの」 「勇利……」 「じゃあね。心配してくれてありがとう。明日はちゃんと行くよ。おやすみ」  勇利はひとつあくびをすると、ぷっつりと通話を切ってしまった。ヴィクトルは部屋の中をうろうろした。我慢できず、日が落ちた道を走って勇利のアパートまで行ってみたけれど、彼の部屋の窓は真っ暗だった。訪問しようかと思ったが、本当にただの睡眠不足なら、寝ているのを起こすのは悪い。 「勇利……」  ヴィクトルは心配しながらも結局家に帰り、翌日、いつもより早い時間にリンクへ行った。すると勇利はもう来ていて、ヴィクトルを見るなり、「ヴィクトル」と笑顔で寄ってきた。 「勇利、もういいのかい?」 「もういいも何も、ただ眠かっただけなんだよ。言ったでしょ? 昨日たっぷり寝たから絶好調。今日は一日、みっちりすべるから、ヴィクトルにはしっかり付き合ってもらうよ」 「もちろんだよ」  勇利は本当に身体の具合はよさそうで、前に見たときよりスケーティングがみがかれていた。ヴィクトルはほっとしたけれど、最初の問題が解決していない。自分と勇利はセックスをしたのか。したうえで、勇利は一日やすんだことで体調がよくなったのか。  ヴィクトルは数日、悶々と考えこんだ。いつまで経っても勇利にあの夜の真相が訊けなかった。彼の態度を見ていると、何もなかったのだろうという気がしてくる。だが、なんでもない、というそのそぶりが、かえって、やっぱり自分は勇利を抱いたのだ、という証拠のようにも思えるのである。  ヴィクトルが勇利を求め、自制しきれなかったのだと想像するのは簡単だった。勇利はどうするだろう? かなしむだろうか? 憤るだろうか? 彼はヴィクトルにコーチをやめられたくないのだ。一緒に競技生活を続けて欲しいと宣言した勇利はこのうえなく真剣だった。だとしたら──口をつぐんでしまうのではないだろうか。ヴィクトルがおぼえていないのなら、自分さえ黙っていればこの関係を続けられると、なかったことにするのではないだろうか。この考えが正しいとしたら、ヴィクトルが無理に勇利に話させると──。  終わりにはしない。終わりにはしないぞ! ヴィクトルはひとりで焦り、そうこころに誓った。勇利がなんと言おうと終わりにはしない。しかし、無理やり真相を聞き出すのはやめたほうがよい。  ヴィクトルは、慎重に勇利の態度を観察した。彼は怒っている様子はなく、ヴィクトルを避けもせず、普段通りに過ごしていた。──普段通り? いや、そうだろうか? 「じゃあ、また明日」  勇利の練習が終わり、ヴィクトルが取材のために残らなければならないときは別々に帰ることになる。勇利は荷物を背負ってヴィクトルのところに挨拶に来た。 「ああ、気をつけて」  ほほえんで背を向けた勇利に、ヴィクトルはふと気がついて声をかけた。 「勇利」 「ん?」 「何かついてるよ。ほら」 「あ」  ヴィクトルは勇利のそばに寄り、艶やかな黒髪から糸くずを取り除くと、それを彼に見せた。勇利は顔を上げてヴィクトルを見た。なんだかずいぶんと距離が近い。ヴィクトルは、近づきすぎたと思った。いつものことだけれど、あの夜以来、勇利とのあいだについてはいろいろと考えてしまう。ちょっと慌てた。 「……ありがとう」  勇利は飛びのくでもなく、ぎくしゃくするでもなく、すんなりと礼を述べた。そして──。 「……えへっ」  彼は照れくさそうに笑うと、「じゃあね!」と手を振って駆けていった。ヴィクトルはぽかんとした。  勇利、なんで照れた!? どうして恥じらう!? 俺が近づいたことでなぜそんな顔をするんだ!?  最高にかわいかったけれど、いままでにない反応だったので、ヴィクトルはどぎまぎしてしまった。勇利はヴィクトルのことが好きで、いろいろなところで恥ずかしがったり、頬を赤く染めたりしてきたけれど、最初の慣れていないころを別にすれば、こんなふうになにげない、日常のひとこまではにかむことはまずなかった。ヴィクトルがスケートをしているとか、何か特別なことを語りあっているときとかならわかる。しかしいまのは──ただ糸くずを取るために近づいただけではないか。  なんで? 何かあるのか? 俺たちは親密なのか? いや、もともと親密だが、なんというか──性的な関係ができているのか!?  ヴィクトルは、ずっと疑問に感じていることをまた疑った。やっぱりしてしまったのだと思った。あの夜、勇利を抱いてしまったのだ。その出来事が勇利を恥じらわせるのだ。裸で抱きあった相手がこんなに近く……などと思っているのだ。そうにきまっている。  数日後には、こんなこともあった。 「ヴィクトル、ヴィクトル」  休憩中、勇利がうれしそうに携帯電話を持って寄ってきた。 「これ見て」 「なんだい?」 「諸岡アナが、温泉オンアイスの写真、まだ残ってたっていって送ってくれたんだ。ほら、ヴィクトルが長谷津観光大使とかいって紋付き袴着てるやつ」 「ああ……」  勇利はヴィクトルの隣に座り、すっと身体をくっつけてきた。ヴィクトルはどきっとした。 「これとか。ヴィクトルすごくうれしそうだよね」 「……ああ」 「もしかしてこういうの着るの初めてだった? ぼくらの試合そっちのけでさ……」 「そうだね」 「あ、ぼくのエロス衣装もあるよ。なんかこのころ着慣れてない感じでおもしろい」  いろいろな写真を見せながら、勇利はヴィクトルの腕に腕をからませてきた。ヴィクトルはのぼせ上がりそうになった。勇利、なんでそんなにくっつく!? 自分からそういうこと、しなかっただろう!? 「ね、なつかしいでしょ」 「そう……、そうだね」 「この写真、いる?」 「ああ……」 「じゃああげる。長谷津観光大使だけだからね」 「勇利のはくれないのか」 「うん、あげない」  勇利はヴィクトルに寄り添ったままにっこり笑った。ヴィクトルはめまいをこらえた。いったいどうなっているのだ。勇利はなぜこんなに親しげなのだ? そういう……そういう仲だからか? やはりそうなのか? 「どうしたの?」 「いや……」 「変なヴィクトル。まあヴィクトルが変なのはいつものことだけど」  それからも勇利はヴィクトルに平気でくっついてくるし、ふいのことで頬を染めるし、とにかくいままでとは態度がちがうのだった。ヴィクトルはどんどん確信を深めていった。勇利としたのだと思った。勇利とセックスしたのだ。抱いたのだ、あの夜。  そのうちにヴィクトルは、勇利はもしや待っているのでは、という気がしてきた。そうだ。待っているのだ。二度目を。勇利はあの夜のことを忘れる心積もりなどないのだ。あのことについて口にしないのは、ただ彼が慎み深いからだ。勇利の性質を考えてみれば、「ゆうべのセックスだけど」なんて簡単に話題にするはずがない。彼にとっては秘するものなのだ。だが、秘しても、なかったことにはならない。勇利の中でそれは大切なことで、ヴィクトルとのつながりで、だから、控えめながらもそぶりにあらわしている。そういうことなのだ。次はいつにいらしてくれますかと勇利は尋ねているのだ。  ヴィクトルは、いままでの自分の弱気を恥じ、その迷いぶりにいらだちをおぼえた。何をぐずぐずしていたのだろう。もっと早く勇利を抱きしめ、安心させてやらなければならなかったのに。自分はばかだ。大ばかだ。  勇利、責任は取るぞ! 「今日、帰りに勇利のところへ寄っていいかい?」  ヴィクトルは興奮ぎみに勇利に尋ねた。勇利は不思議そうにヴィクトルを見て、「もちろんいいよ」と答えた。 「晩ごはんはどうする? 食べて帰る? それとも……」 「何か買っていこう」  ヴィクトルは一刻も早く勇利とふたりきりになりたくて仕方がなかった。彼の提案に勇利は素直にうなずいた。  夕食の席は楽しかった。ヴィクトルはこころの憂いを取り払い、勇利と愛しあうことしかもう考えていなかった。この数日を無駄にした気持ちだった。率直になっていればよかったのだ。自分は勇利をこころから愛しているのだから、何も思い悩む必要などなかった。終わりになんてなるはずがない。そうだ。 「勇利、話があるんだ」  食事のあと、ヴィクトルは大きなクッションにもたれ、おむすびのぬいぐるみを抱いている勇利に切り出した。 「なに、改まって……」  勇利はガラスの器に入ったラズベリーをつまみながらヴィクトルを見た。 「勇利、この前、俺はここに泊まったよね」 「ヴィクトルが酔っぱらった夜?」 「そうだ」 「うん。それがどうかした? ……そういえばあれからヴィクトルはなんか様子が変だね。ヴィクトルが変なのはいつものことだと思って気にしてなかったけど、なんていうか、ヴィクトルのいつもの変な感じとはちがったなあ」 「勇利」  ヴィクトルは勇利の手を取った。勇利はきょとんとしてヴィクトルを見た。 「……なに?」 「責任は取る」 「え?」 「いや、義務感で言うんじゃない。もともとそういう気持ちだったんだ。俺は勇利を愛してるんだ」 「なに? 突然……」  勇利はぱちぱちと瞬いた。 「あの夜は本当に悪かった。突然あんなことになって、俺も酔ってたし……。じつはおぼえていない。でも、勇利を想う気持ちは本物だよ」 「…………」  勇利はヴィクトルを不思議そうに見ていた。 「ちゃんと勇利を愛したいんだ」 「…………」 「前のときがきちんとしていなかったわけじゃない。おぼえてないけど、俺は真剣に、このうえなくまじめに勇利を愛しているから、そのままの気持ちでおまえにふれたはずだ。でも、今度こそ、俺は……」 「……ヴィクトル、なに言ってるの?」 「今夜を二度目にするよ」  ヴィクトルは情熱的にささやいた。 「二度目って、なんの?」 「だから」  ヴィクトルは勇利に顔を近づけた。 「セックスだよ」  勇利は目をみひらいた。 「俺は正直、おぼえていないのが悔しいんだ。勇利の姿を記憶にとどめていない。俺は勇利のすべてを知りたいのに。初めておまえにふれたときのことを──勇利?」  勇利は顔をそむけ、ちいさくふるえている。おぼえていないとはっきり言われたのがかなしいのだろうか? ヴィクトルはうろたえた。 「勇利、待ってくれ。でも本当なんだ。勇利への気持ちはうそ偽りのないこころからの──」 「……ヴィクトル」  勇利がヴィクトルのほうを向いた。彼はこらえきれないというように笑っていた。 「あの夜、何があったと思ってるの?」 「え?」 「ヴィクトルがいま言ったようなことが、本当にあったと思ってるの?」  ヴィクトルは混乱した。何なのだ。何を言っているのだ、勇利は。ちがうのか。あの夜、ヴィクトルは勇利を抱いたのではなかったのか。では勇利の態度は何なのだ。親密に、ヴィクトルに対して頬を染めていた彼は──。 「……何があったんだ」  ヴィクトルはつぶやいた。勇利は一度まぶたを閉じ、それからくすっと笑って流し目でヴィクトルを見た。 「……何があったと思う?」  ヴィクトルは我慢ができなくなった。からかわれたとか、あの夜のことがわからないとか、そういうことではなく、ただ、純粋な気持ちとして、目の前にいる勇利のかわいらしさと、色っぽい挑発にまいってしまった。ヴィクトルは無言で、すぐそばのベッドに勇利を連れこんだ。 「あっ、ちょっと、ヴィクトル──」  さっきまで笑ったり余裕ぶったりしていた勇利が、慌てたような声を上げた。のしかかるヴィクトルを彼は押し戻そうとしたけれど、ヴィクトルはゆっくりとした物言いで言い聞かせた。 「俺を部屋に上げたらこういうことになるんだよ、勇利。あの夜しなかったのなら、いま学んでくれ」 「ああ、もう……」  勇利が吐息をついた。ヴィクトルは満足しごくの様子でにこにこしていた。 「強引なんだよ……」 「よかった?」 「知らない!」  勇利は頬をふくらませて憤っているけれど、本気で腹を立てているというより、照れ隠しといったふうだった。ヴィクトルは裸の彼を抱き寄せた。 「俺はよかったよ」 「それはおめでとうございます」 「怒ってるの?」 「知りません」  ヴィクトルは勇利のくちびるにキスをした。勇利がかるく返してくれた。 「……ねえ勇利」 「なに」 「このところ、勇利がすごくそばに寄ってきたり、恥ずかしそうにしてたりして、俺はかなりどきどきしてたんだけど……」 「え?」 「あれはどうして?」 「…………」 「なんだったんだ?」  勇利は瞬き、考えこみ、「ぼく、そんなだった?」と純粋そうに尋ねた。 「そんなだったよ。うれしかったけど、戸惑った。前の勇利ならしなかっただろうと思うね。なぜ?」 「えっと……、そういうふうにしたつもりはないけど、もしそうなってたのなら……」  勇利はまじめに思案していた。 「……浮かれてたのかもね」 「浮かれてた?」 「うん」  勇利は、あのはにかんだかわいらしい笑みを浮かべた。 「ヴィクトルが仕事のあと、ぼくに会いたいって言ってくれたのがうれしかったんだ」 「……それだけ?」 「それだけというか……」  勇利はさらに頬を赤くした。 「……あの夜、ヴィクトル、キスしてきたから」 「え?」 「キスされたんだよ。ヴィクトルはおぼえてないらしいけどね。それで……」  恥ずかしくて……と勇利がつぶやいた。 「あと、裸のヴィクトルに抱きしめられたし……そういうのがいろいろ重なって……変な態度になったんだと思う」 「ああ……」  そんなことだったのか。そうだったのか……。吐息をつくヴィクトルに、勇利がくすくす笑った。 「えっちなことしたせいだと思ったの?」 「そうだ」 「ふふ……」 「笑いごとじゃない。ずいぶん考えたんだよ。したのかな、しなかったのかな。もししてたらどうしよう。うれしいけど、おぼえていない。勇利は翌日具合が悪そうだった。俺のせいだ……。たくさんね」 「気にしなくていいのに」 「勇利とそういう関係になりたいのに、奇妙なことになってしまった。どう進めるべきか迷ったよ。勇利のことだから、まちがえたらすぐ日本に帰ってしまいそうだし……」 「なにそれ。ぼく、そういう人格だと思われてるの?」  勇利は、可笑しい可笑しい、と声を上げて笑っている。俺がどれだけ悩んだかも知らないで、とヴィクトルは溜息をついた。もっとも、ヴィクトルがおぼえていないのは勇利のせいではない。 「そっか。そんなに考えてくれたんだ」  勇利は口元に笑みを漂わせてヴィクトルを見た。 「ぼくがヴィクトルのキスを思い出したり、寄り添ったぬくもりを思い出したりしてキャーキャーいってるとき、ヴィクトルは……」 「キャーキャー言ってたのか?」 「言ってたよ」 「うれしくて?」 「そう」 「言ってたのか……」 「うん……」  どちらからともなく顔を寄せあい、ふたりはきよらかなくちづけを交わした。勇利のまつげがふるえ、ゆっくりとまぶたがひらくのを、ヴィクトルはじっと見ていた。しあわせだった。 「……勇利」  ヴィクトルは勇利に身体を重ねた。 「もう一度……」 「ん……」  ヴィクトルが熱心に愛撫を始めると、勇利はヴィクトルの頬にふれ、夢見るようにほほえんでささやいた。 「……ね、ヴィクトル」 「なんだい?」 「もし……、いま言ったことがうそだったら……どうする?」 「え?」 「あの夜……」  勇利がいたずらっぽく笑った。 「本当は、してたとしたらどう思う?」  ヴィクトルは瞬いた。 「あのとき……、ヴィクトルとぼくが……」  ヴィクトルは混乱した。 「……してないんだろう?」 「どうかなあ」  勇利は楽しそうに笑っている。 「してないと言ったじゃないか」 「うん」 「…………」  ヴィクトルはすこし考えた。 「俺をからかってるんだろう?」 「どうだろう……」 「……本当はしたのか?」 「さあ」  勇利ははぐらかした。 「どう思う?」  彼はヴィクトルの髪にそっとふれた。 「ヴィクトルが、したんだ、と思えるような態度だったんでしょ? ぼく……」 「…………」 「あの夜……」  勇利は熱っぽい吐息を漏らした。 「何があったんだと思う……?」 「……おまえって子は!」  ヴィクトルは勇利にのしかかった。 「俺をまどわせてそんなことばかり言ってると、後悔することになるぞ!」  勇利ははしゃぎ声を上げ、このうえなくうれしそうにキャーキャー笑った。
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yukinko22 · 5 years
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怪しいインビテーション・フロム彼方  夏休みに、知らない人に誘われて、知らない人たち5人と、知らない国の知らない場所を旅することになった。twitterで、今まで全く交流がなかった人から突然誘われたのだ。なぜ誘われたのかもわからないし、なぜ、自分がその誘いに応じたのかもわからない。  当時の私は、激務で有名な会社の、最も激務と噂される部署で働いていた。会社の机で眠り、近くのジムでシャワーを浴び、充血した目でエクセルを叩く。正月もゴールデンウィークもなかった。ウイグル旅行の誘いが届いたのは、そんな折だった。  メッセージが目に入るやいなや、発作的に行きたいと返事をしてしまったが、後になって疑念が湧いてきた。メッセージの主は、いったいどんな人なんだろう。私は当時、人と絡まない孤高のスタイルでtwitterをしていたのでDMがきたこと自体初めてだった。  とにかく、行くと言ってしまったのだから、休みをとらなければならない。その時点で夏休みを取得する予定はなかった。取得できるのかもわかっていなかった。 どうしてウイグルなんかに行くんですか  休暇取得を申し出る私に対し、職場のみんなはやさしかった。みんな忙しいのに、「仕事は引き取るから」「ゆっくり休んで」と言ってくれた。しかし、旅行の詳細を聞くと、同僚たちの善良な笑顔はさっと曇った。  彼らは問う。 「どうして、ハワイでもセブ島でもなく、ウイグルなのか」 「どうして、親しい友人や家族と行かないのか」  もっともな疑問だ。私は、どうして、気が合うかわからない人々と、楽しいかわからない場所に行こうとしているのだろう。自分にもわからない。どちらかといえば、こちらが問い返したいくらいだ。 「どうして私は、知らない人とウイグルに行くのでしょう?」  私は、夏休みまでに仕上げなければいけない書類の山を見つめた。 羽田からウルムチへ  早朝の羽田空港国際ターミナルで、私は疲れ果てていた。休暇を目前にひかえる中で押し寄せる仕事の波に飲み込まれ、家に帰れない日々が続いていたからだ。最終日も仕事が終わらず、徹夜で職場から直接空港に向かう羽目になった。  今回の旅行メンバーは、男性3人・女性3人。私以外は、大学時代のサークルを中心としたつながりのようだった。それだけ聞くと、「あいのり」や「テラスハウス」のような、青春の匂いただよう若い男女の旅行なのだが、グループからはそれをかき消す不穏なバイブスが満ち満ちていた。  なかでも完全におかしいのは、グループの中に「尊師」と「レーニン」を称する人物がいることだ。通常、「尊師」というのは、オウム真理教教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)を意味し、「レーニン」というのは、ロシア社会民主労働党の指導者であり、ソビエト連邦を建国した人物であるウラジミール・イリイチ・レーニンを意味する。  テロ、あるいは革命という形で、国家体制の転覆をめざした宗教的・政治的指導者が、なぜ一同に会しているのだろう。空港前で集合しているだけで、破壊活動防止法(通称・破防法)の適用対象団体となってしまいそうだ。  ともあれ、この時点で、今回の旅行が恋と友情の甘酸っぱい青春旅行になる可能性は限りなくゼロだ。麻原彰晃とウラジミール・レーニンが旅を通じて友情を深め、それがいつしか愛に変わる……。そんな突飛な話は、両者の思想的相違点を考慮すればおよそ考えられないだろう。  私は、国家転覆を試みる宗教家でもなければ、社会主義の革命的指導者でもない。どうしてこの旅に誘われたのだろう。ぷくぷくとふくらむ疑問と不安を乗せて、飛行機は羽田を旅立とうとしていた。 尊師とレーニン  羽田からウルムチへの長い移動中に分かったことがある。尊師は、工学の修士号を持つ知識人であり、特定の宗教とのつながりはないということだ。「尊師」というのは、極めて不謹慎なあだ名にすぎない。  では、旅の同行者にふさわしい安全な人物かというと、そんなことは決してなかった。尊師は、無邪気な下ネタをガンガン投下してくるという反社会的な性質を有していた。  例えば、北京の空港でのことだ。 「マーン・コーヒーだ!見てください!マーン・コーヒーですよ」  尊師は、北京空港内のオシャレなカフェチェーンを指差し、目をキラキラ輝かせて写真を撮りはじめた。そのとき、私は「どこにでもあるチェーン店になぜ興奮しているのだろう」と不思議だったのだが、後になって、それが低レベルすぎる下ネタであることに気がついた。もっと早く気づいてしかるべきだったのだが、工学の修士号を持つ知識人が、そんな知性ひかえめのジョークを言うとは思わなかったのだ。  他の同行者もまた、尊師の被害を受けていた。 尊師 「ちんマ!? ちんマ!?」 同行者「ちんマってなんですか?」 尊師 「ちんマというのは、ちんちんマッサージのことです」 同行者「……」  それ以来、その人は、尊師には何も質問しないと決めたという。  尊師が、大きな身体のうるさいお兄さんである一方、レーニンは、小柄でツインテール姿の、無口でちょっぴりエッチな美少女だった。  ちなみに、ちょっぴりエッチというのは、彼女が尊師の下ネタをときどき拾ってあげていたのを私が面白おかしく書き立てているだけだ。実際には、彼女は、渾身の下ネタをたびたびスルーされ、ときにはうるさいと一喝される尊師を気遣っていたのだと思う。  なので、正確には「レーニンは、小柄でツインテール姿の、無口で心優しい美少女」ということになる。それでいてソ連のコミンテルンを率いる革命的指導者であり思想家だなんて、今すぐアニメの主人公になれそうだ。  それにしても、尊師もレーニンも、私の凡庸な日常生活には絶対にあらわれないタイプのキャラクターだ。二人とも、普段は善良な労働者として社会に潜伏しているらしいので、本当は自分のまわりにもいるのかもしれないが、それを知るすべはない。 「ずいぶん遠いところにきちゃったなあ……」  あまりの非日常感にめまいがした。まだ、目的地にさえついていない。 謎の秘密結社・うどん部   新疆ウイグル自治区は、中国の最西部に位置しており、国境を接して南にはインドがあり、西にはカザフスタン・キルギス・タジキスタン・パキスタンが連なる。古くからシルクロードの要衝として栄え、ウイグル人・カザフ人などの多民族が住む、ムスリムが多い中央アジア文化圏だ。  今回の旅程は、新疆ウイグル自治区の玄関口であるウルムチを経由し、前半は電車でトルファン、カシュガルを巡り、後半は車でパキスタンとの国境であるタシュクルガンまで足を伸ばすというものだ。  羽田からウルムチまでの移動にまる一日かかるため、実質的な旅のスタートは二日めのトルファンからになる。隣の国のはずなのに、移動の体感的にはヨーロッパと同じくらい遠い。  私たちがトルファンに到着して最初に向かったのは、ウイグル料理店だった。 「やはり我々うどん部としては、まずはラグメンの調査からですよね」  旅行の主催者である女性は、ニコニコしながらそう言った。ラグメンとは、中央アジア全域で食べられている麺類で、うどんのような麺に、トマト味のソースがかかった食べ物だ。  なんでも、今回の旅行は「某大うどん部」という、大学のうどん愛好家サークルの卒業生を中心としたメンバーで構成されているらしい。旅の目的のひとつも、ラグメンを食べることで古代中国で生まれたうどんの起源を探ることにあるのだという。 「うどん部……?」  私は思わず考え込んでしまった。特にうどん好きというわけでもない自分が誘われた理由がわからないと感じたこともあるが、一番の理由は、今回のメンバーが「うどん部」という言葉がもつ牧歌的かつ平和的な響きからはおよそかけ離れた集団のように思えたからだ。  先程言及した「尊師」と「レーニン」が名前からして不穏なのはもちろんだが、他のメンバーたちの話題もとにかく不穏だった。 「前進チャンネル」の話 中核派Youtuberが、警視庁公安部のキャンピングカーを紹介したり、不当逮捕された同志の奪還を訴えたりしている番組の話。 北朝鮮脱北ノウハウの話 中国と北朝鮮の国境地帯に住んでいたことがあるうどん部員による、脱北ノウハウの話。北朝鮮脱北者が、国境近辺に住む中国人民を襲い、金品と身分証を奪いとることで中国人として生きようとするが、中国語が話せないことからバレてしまい、強制送還されるという救いのない事件が多発しているらしい。 スターリンに乾杯した話 「ヨシ」という名前のうどん部員が、スターリンの故郷であるジョージアを訪ねたところ、「ヨシ」は同志スターリンの名前だと歓迎され、「ヨシフ・スターリンに乾杯」と密造酒をすすめられた話。  一言でいうと、うどんは関係ない。  うどんは関係ない上に、思想的にかたよっている。うどんを愛する心に右も左もないと思うのだが、一体どういうサークル勧誘をすればこんなことになるのだろう。世界がもし100人のうどん愛好家の村だったら、中核派は0名、教祖も0名、スターリンの故郷を訪ねた人も0名になるのが普通だ。  今回の旅行メンバーはたった6人なのに、公安にマークされそうな発言をする人しかいない。思想・良心の自由が限りなく認められたコミュニティであるともいえるが、うどんを隠れ蓑とした何らかの過激な団体である可能性も捨てきれない。謎の秘密結社・うどん部だ。 「こうした旅行は、よく企画されるんですか?」  私は、うどん部の背景を探るべく、おそるおそる尋ねた。 「主催者さんは、旧ソ連圏に関する仕事をしているんです。その関係で、旧ソ連の珍しいエリアへの旅行をよく企画しますよ」 「でも、どういうわけか、たまに、その旅行に行った人たちが仕事や学校を辞めてしまうんですよ」 「この前の旅行では、社会主義国家によくある、労働を賛えるモニュメントをめぐっていたら、一緒に旅行していた学生の友人が『労働意欲が湧いてきた。学校はやめるぞ』と言って、突然中退してしまったんです」 「僕も仕事を辞めたしね」  社会主義国家を旅することで、反社会性が養われてしまうとは……。 「旧ソ連圏への旅行は、うどんとは関係あるんですか?」 「うどんとは関係ありません。ただ、うどん部員には、真っ赤な血が流れているんです」  これまでの話をまとめると、「うどん部」とは、うどんの絆で連帯し、ときに資本主義社会から人をドロップアウトさせる赤い集団ということになる。なにがなんだか、全くわからない。  主催者の女性は、旧ソ連圏に関する仕事をしているだけあって、中央アジア文化に詳しかった。彼女は、うどん部員らしい話題として、シルクロードにおける麺の広がりについて話をしてくれた。 「トルクメン人も、カザフ人も、ウズベク人も、友人たちは口を揃えてラグメンはウイグルが一番美味しいというんですよ」  全中央アジアの人民が認めるウイグルラグメンは、たしかにおいしかった。もちもちした手延べ麺の感触と、オイリーなソースに絡まるたっぷり野菜のバランスがよく、濃い味なのにいくらでも食べられてしまう。  特に、ニンニクでパンチを効かせたラグメンは癖になるおいしさで、そのジャンクかつ中毒性が高い味わいから、勝手に「ウイグルの二郎」と命名されていた。  内装も異国情緒が爆発していた。天井から階段までいたるところがタイルやステンドグラスで彩られている。細やかな幾何学模様を見ていると、確かに中央アジア文化圏に来たのだということを実感する。  中央アジアを旅行するたびに思うのだけれど、彼らの、あらゆる場所を「美」で埋め尽くそうとする情熱はすごい。衣服やクッションの細かな刺繍、木彫りのアラベスク、色とりどりのランタン……。よくみると、料理に使うボウルまで鮮やかな矢絣模様がついている。  私は、ステンドグラスが貼られた天井を見つめた。 「遠い場所に場所にきたんだ」  そう思ったが、どういうわけか実感がなかった。足元だけが、なんだかふわふわしている気がした。 砂漠は空中浮遊する尊師の夢をみるか  午後から本格的な観光がスタートした。最初に訪れたのは、交河城址という遺跡だ。紀元前2世紀頃に作られ、14世紀まで実際に街として使われてい要塞都市だ。地平線が見えそうなほど広い。  地面の上にレンガを重ねるのではなく地面を掘って街を作ったところに特徴があるらしいのだが、これだけの土地を彫り抜くなんて、想像もつかない労力だ。中国の圧倒的なマンパワーを感じる。  遺跡が広すぎる一方で観光客があまりいないため、とても静かだ。どこまでも続く風化した街並みを歩き、静謐な空気に触れ、かつては賑わっていたであろう都市の姿を想う……そんな触れ込みの場所なのだけれど、正直言って、そうしたロマンチックな思い出は一切残っていない。  なぜなら、悠久の大地を包む静寂を切り裂くように、尊師がマシンガントークを繰り広げていたからだ。麻原彰晃がおしゃべりだったのかは知らないが、少なくともウイグルの尊師は非常におしゃべりで、一人で優に5、6人分は話していた。観光中、常にニコニコ動画の弾幕が飛んでいるような状況であり、センチメンタルな旅情の入り込む隙はない。  尊師の話は、基本的にどれも「興味深いがどうでも良く、とにかく怪しい」内容で統一されている。 ・中国の深センで売られている「Android搭載のiPhone」の話 ・中国貴州省の山奥に住むラブドール仙人の話 ・中国の内陸部では旅行カバンの代わりに尿素袋が使われているという話 ・中國の伪日本製品に書かれている怪レい日本语が好きだという話……。  気がつくと、夕暮れ時になっていた。  乾いた大地は茜色に染められて、民族音楽の弾き語りが響く。旅行者としてのセンチメンタリズムが刺激され、私はこの地の長い歴史に思いを馳せる。しかし、次の瞬間には、そんなセンチメンタリズムを切り裂くように尊師の怪しい話が炸裂し、安易な旅情に回復不可能な一撃を加える。  たちまち、私の心の中で放映されていた「NHK特集 シルクロード」の映像は乱れ、テーマソングを奏でる喜多郎は、へなへなと地面にへたり込む。   砂漠で果敢にも空中浮遊を試み転落する尊師、唐突に尊師マーチを歌い始める尊師、中国の怪しいガジェット情報に詳しい尊師……。  トルファンでの私の思い出は、尊師色に染め上げられていった。 遊牧民が住む砂漠の街で不慮のノマドワーカーになる  まさかウイグルで徹夜をすることになるとは思わなかった。  観光を終えてホテルに戻った私を待っていたのは、職場から送られてくる容赦ないメールの数々だった。 「夏休み中恐縮ですが、添付の資料につき18時までにご確認お願いします」 「確認が終わるのは何時頃になるでしょうか」 「こちらも限界です、連絡ください」  休暇を申し出たときの「ゆっくり休んでください」はなんだったのか。そもそも、今日、日本は日曜だし明日は月曜で祝日のはずだ。私が旅行にでかけたのは土曜日なので、まだ夏休みは始まってさえいない。どうしてこんな惨状になっているのだろう。  ひとつ断っておきたいのは、私の職場の同僚たちは、基本的に優しく善良な人たちであるということだ。本当に仕事が回らなくなり、やむを得ずメールをしてきたのだろう。  今回の夏休みは「正月がなかったのはあまりにも気の毒だから」と上司が、わざわざチームに根回しをしてくれてようやく取得に至ったものだ。上司のただひとつの誤算は「現場に人が足りていない」という根本的な問題は、根回しでは決して解決しないということだ。  私はその夜、ホテル近くの雑貨店でレッドブルとコーヒーを買い込み、目を真っ赤にしてキーボードを叩き続けた。  空が白み、まばゆい朝日がきらきらと射しこむ時間になっても、私の仕事は終わらなかった。他の人々には私を置いて観光に行ってもらい、一人で仕事を続けた。そんな私を気遣って、尊師が食事を買ってきてくれた。  ようやく仕事が終わったのは、太陽が高くのぼり、熱された大地が蜃気楼で揺れるころだった。 鳥の声しかしない場所  午後、観光に出ていた他のメンバーと合流し、タクシーで訪れたトルファン郊外はのどかな場所だった。乾いた土地に葡萄溝やバラ園が広がっていて、木陰で商売をするスイカ売りやぶどう売りが、こちらにおいでと手招きをする。  ぶどうはいつも無料だった。一房分を買おうとするのだが、安すぎてお金を受け取ってもらえないのだ。口に含むと、雨の降らない土地で育つ果物特有の凝縮された甘みを感じる。  観光名所とされている遺跡にはだれもおらず、車の音も人の声もしない。絶え間なく響く鳥の声を聞き、強い光が地面に落とす影を見ていると、数時間前まで仕事に追われていたのが、遠い昔の記憶のように思えてくる。  静かな場所だった。太陽が眩しくて、あたまがぼんやりした。  ふと見ると、道端でビニール袋に入れられた羊の頭蓋骨が風化していた。その後も、私たちは、農地の側溝や休憩所のトイレ等、そこかしこで羊の頭蓋骨を見つけることとなる。この土地で暮らす人々には、お弁当がわりに羊の頭を持ってくる風習があるのだろうか。  私は、以前、イランのホームステイ先で「イランでは朝ごはんに羊の脳みそのスープを飲む」「日本でいうと、みそ汁的な存在」と言われたことを思い出した。「羊の頭がみそ汁の具として扱わている地域があるなら、お弁当がわりに羊の頭をぶらさげる人々がいても不思議はない」と思う。  私は、強い日差しから逃れ、木陰に座ってこの土地で暮らしてきた人々のことを思った。日本にはまだ神話の神様さえいなかった遠い昔に、砂漠のオアシスで暮らし、羊を飼い、ときには西瓜で喉を潤していたかもしれない人々のこと。彼らの聞いていた鳥の声と、私たちが聞いている鳥の声は同じだろうか。  夏の光にまみれてきらきらする西瓜の皮と、そばに落ちる暗い影を眺めていると無気力が押し寄せてきて、労働の意義も経済成長の意味もわからなくなった。  私はふと、今回の旅行について話したときの、同僚たちの反応を思い出した。 「どうしてウイグルなんかに行くんですか」  彼らの疑問は、要するに「その夏休みの使い方に、確かな価値はあるのか」という点に集約できる。たまの休みなのだから、確実に楽しく、気分良く過ごせる場所に行くべきだ。彼らはそういっていたのだろう。  同僚たちの疑問に対し、そのとき私は答えることができなかった。  職場の同僚たちは「この先、生き延びるにはどうすればいいか」という話をよくしていた。真夜中から始まる飲み会で、明け方の6時や7時まで話す人もいた。生き延びるとはなんだろう。  生産性が自分の人生を覆い尽くし、人間性がわかりやすい価値で塗りつぶされていくのを受け入れること。「使える」人とだけつるみ、評価されること。夏休みはハワイに行くこと。  生き延びるとは、きっとそういうことだった。  忙しいことには慣れていた。仕事に慣れてしばらくたったあるとき、もう必要がないからという理由で、少しずつ集めていたアンティークの食器や学生時代に好きだった小説を捨てた。重要なのは、「役割」を果たすことであり、社会の共通言語で話すことだと考えた。  でも、私は突然、久しぶりの夏休みを、確実に楽しい場所ではなく、楽しいかよくわからない場所で過ごしてみたくなったのだ。知らない人に誘われて、どういうわけか、そういう気持ちになったのだ。  農家のおばさんからもらって持て余していたぶどうを一粒、口に含んだ。日本のものとは全く違う、知らない味がした。 星降る夜行列車に乗って  疲れからか、やたらと物憂げな気持ちになっていたところに、尊師の「バ〜ニラ、バニラ高収入〜!」という歌声が響いてきて、現実にひきもどされた。そろそろ、この街を離れる時間だ。  それにしても、すっかり考え込んでしまった。私は、「うどん部の旅行に参加した人は社会からドロップアウトしがちである」という話を思い出した。  葡萄溝の木陰で、やたらとメランコリックな気持ちになったのも、この旅行の危険な効果だろうか。このままでは、謎の秘密結社・うどん部の陰謀の思う壺だ。  夜行列車で過ごした夜は、楽しかった。  トルファンのぶどうで作った珍しい白酒をたくさん飲んで、加熱する仕掛けが施されたインスタントの火鍋をつついた。  普段は飲まない強いお酒にはしゃぎすぎて寝てしまい、気がつくと真夜中だった。  夜行列車の窓から空を見上げると、満天の星空だった。肌寒い寝台で、毛布をだきしめながら、流れていく星空を見つめた。まばたきも、呼吸もできなかった。体中の神経が粟立ち、スパークした。  私は、冷凍されていた自分の人生が、急激に自分の身体に戻ってくるのを感じた。  もしかして、私は、生き延びることから遠ざかっているのだろうか。  このときの私はまだ、自分がその数カ月後、仕事を辞める運命にあることを知らなった。 (カシュガル編につづく) 補足とおしらせ  ウイグル旅行記は、長くなってしまったので数回に分けて書きます。今後の予定はこんな感じです。 ・ カシュガルで公安警察から"重点旅客"として熱烈歓迎されてしまった話 ・ ウイグルの果てでゾロアスター教の遺跡を探し、廃墟の温泉に入った話 ・ 突如の軍事パレード開始により限界帰国チャレンジを強いられた話 旅の写真は、twitter(@eli_elilema)にもあげているので、よかったら見てみてください。 �� 尊師はとても良い人でした。
https://note.mu/elielilema/n/nb8baf42077cd
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