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#魔術士の黒い手袋
misasmemorandum · 2 months
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『日本近代文学入門 12人の文豪と名作の真実』 堀啓子
Twitterで見て読んでみることにした。日本の近代文学の成立を12人ーー厳密に言うと11人の小説家と1人の噺家の作品を通して語るもの。ノートに取ったものを下に
1)異端の文体が生まれたときーー耳から目へのバトン
三遊亭円朝『階段牡丹灯籠』をdictationしたのが初の口語体の作品と言えるかも、と。
二葉亭四迷『浮雲』 この人の名前は「くたばってしまえ」から来てるそうだ。
2)「女が書くこと」の換金性ーー痩せ世帯の大黒柱とセレブお嬢さま
樋口一葉『十三夜』 この人の家はとても貧しく、一家の大黒柱にならなければならなかった。先生(男性)とスキャンダルがあったりした。この頃は文学も師弟制度をとっていた。身長はたったの140cm。
田辺花圃『藪の鶯』 セレブだけど実際はぎりぎりの生活でこの人の本が売れて生活が楽になった。この作品は1888年のもので女性が稿料得た最初の近代小説だそうだ。知らなかった。
おまけ。大塚楠緒子(くすおこ):漱石が絶賛した
3)洋の東西から得た種本ーー模倣からオリジナルへ
尾崎紅葉『金色夜叉」』 漱石と同い年の1867年生まれ。英語が堪能で、この作品の元ネタは "Weaker Than a Woman" と言うアメリカの人気小説。途中から変えている。翻案の作品は当たり前にあったのだが、盗作/剽窃の線引きが難しい。(これって昨今のTVドラマの、漫画を原作としながら好き勝手な内容に変えるのと似てるなと思った。)尾崎は36歳で胃がんで亡くなる。
登場人物の名前の付け方で、「名詮(みょうせん)自性」と言うのがあって、これは、名前に人の性質や特徴を表させること。
泉鏡花『高野聖』 潔癖症で心配性。紅葉に師事する。
4)ジャーナリズムにおけるスタンスーー小説のための新聞か、新聞のための小説か
夏目漱石『虞美人草』 虞美人草とはポピーやひなげしのこと
黒岩涙香『巌窟王』 モンテ・クリスト伯のこと。私は巌窟王で知っていたな。子ども世界文学とかで。黒岩は新聞記者で日刊紙の普及に貢献した。三面記事というものを作った人。また、競技カルタの試合形式ルールを考案。英語ミステリーの翻訳多数。人名を和風にしたり、当時の読者に理解しやすいように説明を入れたりした。
5)実体験の大胆な暴露と繊細な追懐ーー自然主義と反自然主義
ヨーロッパの自然主義は「ありのままの現実を直視して、理想化せずに描写する」ことなのだが、日本のものは「人生の全部を書くこと」で、後の私小説につながる。
田山花袋『布団』 すごい大柄で豪快に見えるが、美文家。
森鴎外『雁』 未読なのでいつか読む
6)妖婦と悪魔をイメージした正反対の親友ーー芸術か生活か
菊池寛『真珠夫人』 四国高松生まれ。士族の家だが若い頃困窮。生活あってこその芸術
芥川龍之介『朱樹の言葉』 アンブローズの『悪魔の辞書』のような作品。
楽しく読みました。
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gren-dddd01 · 5 months
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( 片手に長尺の得物を携えた背を東へ見送ってから取り出した氷砂糖は一つの道標。指先に飛び付いて来るのは宵闇を抱える背。それを西へ送り、ひとつ落とした気合入れの息。脳を連れては北へと歩みを進める。
道のりは複数。入用の時の打開策も、目をくらます為の術も、万一の際、背を歩く今回の相棒を逃がす為の経路も下調べの内。さて。核は何処だろうか。と。
今回の依頼は双方からの壊滅要請。除去、掃除、強制撤退。言い換えれば言葉も少なくはない。然し肝心な目的が描かれていない。邪魔だから消してくれ、と。それだけ。取引はスムーズなものだった。報酬も嵩むものだった。地位、名誉、金、権力、その他諸々。それらを片手に易々と握る奴らは相当互いが憎かったらしい。
好意の反対は嫌悪、然し表裏一体。本当の背中合わせは無関心。それが祟ったのだろう。聞き出せばぼろぼろと情報が落ちてきた。顔、本名、組の構成と常に傍に居る内部SPの情報、愛用する煙草の銘柄や直近で何の策に手を付けたか、愛用する銃は何丁か。そんなところまで。
ぐるりと回した脳はその時に叩き込んだ記憶を頼りに進んでいく。きっと、この辺り。核が拠点に居ないのは当たり前の話、小規模ならともかく、ここまで大きな部だ、大将が城に居るわけもない。探ったのは通路が通せそうな場当たり。それでいて大通りが近く、かつ、一本挟んで裏の路地に直結出来る、場所。
ふと、東の方角から何やら喧騒が聞こえて。遠い銃声が反響して空が呻る。__死神のお出ましか。緩やかに上がった口角、それが愉しげなものに変わったのは数分後。
中核まで行った頃だろうか、と思案していた所で近くのビルの灯りが全て消えた__否、カーテンを閉めたのか。分かりやす過ぎる。ここに居るぞと手を上げているようなものだ、と。一気に距離を縮めた其処。
中からは思った通り鉄砲玉が現れた。遊ぶ様に、振り翳された腕を潜り、背後を取り一発。振り向く前に殴り飛ばしてから後頭部。よろめいた肋骨を思い切り蹴り飛ばせば重鈍い感覚。2本は行ったか。暫くは立てねえだろう。
それからは案外早い展開だった。数発で伸びる雑魚から、数分の闘いになる者。それでも手応えは弱い。核の傍に付いているヤツがこんな雑魚だとアタマも堪ったモンじゃねえだろうな、なんて。嗚呼、だから俺らに依頼が来たのか。納得。アサヒカワの土地の獄を脱した数々は中王区の都合により公にはなっていないものの、掻い潜った生死線の匂いは直感的に判るらしい。直接の闘いで互角ならば、人を使う他ないわけで。金で解決出来るのならば手も汚す心配もない。実に簡単な動機。
ふと、己を無視して一目散に逃げ出そうと__否、向かおうと、する男が一人。顔には焦りが張り付いて、その顔には覚えがある。見付けた。潜り込んでる密告犯は此奴。元より双方同士の当たり戦だった故、潜り込んでいた手玉だったろうがほんの少し時刻の早まった騒ぎに戦慄したんだろう。判っていて此方も二人を送り込んだのだから。男の正体はきっと西、丞武の送った方のビルの、頭領に付く地位、それの一個下。他を蹴散らしながら男を捕まえて容赦無く叩き潰す。息の根は止めぬ程度に、口は聞ける程度に。
アタリはビンゴ。察しはいい方だった。自分が向かえないのだと判ると直ぐに口を開いた。其れを入り口の方に控える脳へと発信。用無しは意識を暫く落とさせておく。打つよりも喋った方が早いと繋げた声線はきちんと届いたらしい。結果的に問題はない。
同時刻、己の端末に立ったピンはきっと有馬の情報。
外に繋がる道は幾数もあった筈だが、可笑しな事に全員が律儀に己のいる方に回ってくる。それに気付いたのは進んだ先、逃げ惑う奴が扉に手を掛けて、一向に開かずに此方に脚を変えたから。アイツの仕掛けた罠だろう、全ての扉の鍵は燐童の手の中。思わず口角も緩む。駆除したいものが彼方から寄ってくるのは都合がいい、文字通り袋の鼠。
思考を軽く回しながらの飛び蹴りは慣れたもので、蹲る台を踏み付けながらその後ろに直下に拳を落とす。立ち上がる前に捻じ上げた腕��関節の外れる音は存外間抜けな響き。己の服にも紅が程良く乗ったところで後ろの方から晴れやかな顔で向かって来る、この袋の首謀者。正直纏まりがいい、そう思った。バランスが全て。東西の2人は言わずもがな楽しんでいるだろうし、立てた作戦の核である脳に手出しはさせずに頭を狩るミッションは自分も昂る。全てを調和した関係性。最初は此処迄、…なんて考えるのは辞めた。
辿り着いた先の頭領は全てを悟ったらしい、命乞いよりも先に逃げ出した先、追い掛けたのは風の吹きしきる屋上。まさか身投げでも、そう思った瞬間に意図は悟った。同じ高さ、それに近い標高を示すビルは東に一つ。そして其処から伸びるプロペラと、飛び立つ機体。此処で空に逃げようなんて。然し確実に、核だけを回収し、逃げるには空からが一番早い。生憎飛び道具は何もない。一か八か、フェンスを登り其処から回収しようと低空になった瞬間、飛び移れば、と思い金属へと手を掛けた先、派手な音と共に火花を散らし機能を失い落ちていく機体。右を見遣れば得物を担く人影がひとつ。相変わらずいい仕事をしやがる。ガシャン、と掛けた脚を外して細めた瞳で見渡した、黒煙を纏う空。
これで東の頭の逃げ場はない。首根を掴み引き摺り込んだフェンス際、無理矢理押し付けて聞き出した全ての情報は燐童へ。中身のない蜂の巣ほど面白くないものはない。蜜をしっかりとこそげ取った後のガワは、そっと手を離して、瞬くままに、真っ逆さま。____東の組は此れで潰れたも同然。情報は全て己の手の中。
次は西の、と、思った所で端末に入る連絡。どうやら菓子は貰えなかったらしい。悪戯は成功しただろうか。二つ分の足音を鉄板で出来た階段に響かせながら出た外、向かうは其方、手の鳴る方へ。
暗闇の中に鳴り響く奇怪な替え歌は随分と御機嫌のようだ。塀にいた頃からの常の処世術。手をかけた人間は眼で値踏み。装備や服に記された階級を見極めてから懐を漁る。これがきっと此奴にも備わっているのか、それとも鼻が効いたのか。響く金属音はナイフの刃の音だけではなく、軽い音。目線が捉えたものは数個の鍵。その中に見えるのは確かに情報の中にあった紋様。頭領だけしか持ち得ないそれを彼が持っているという意味は確かに此処に有る。隠れ蓑が探れないとは思っていたが、馬鹿正直に拠点内部に鎮座してたとは。___西の組も、共に制圧。
適当に止まっていたバンを拝借。全ての情報は確りと参謀の手の中に。武器庫は一通り漁って担ぎ入れ、手当たり次第の金目の物は積んだ。きっとこの後入るであろう捜査を可能な限り撹乱する手筈も整え、足は付かぬように、きっちりと身を晦ます。
緋色に塗れた二人を回収しつつ自陣へと帰還。全てを金に換えるには骨が折れる。資産洗浄を一気にするのもリスクが高い。追々、暮らしながらにしようと思案しながらの帰路。アドレナリンは収まりそうにない、久々に動かした身体と頭。消耗した参謀を担ぎながら、再び陽気な唄を口遊む彼に渡したのは労いの為に与えた氷砂糖の袋の残り。狙撃者を運び込むのは任せて、入り込んだ。ドロドロの服はきっと総取っ替えだ。空の先に見据えた夜明けは思うよりも明るく、目が自然と細まる。無事全員帰還。報酬の概念は最早無く、有る物全てを総取り。暫くは街に降りる時に騒がしいだろうが、人を隠すには人の中。人口が少ないわけではない、きっとゆっくり、暮らせるだろうと。
ぐ、と伸ばした背。大きく放った欠伸。此の儘、この先も。緩やかに過ごせれば、なんて。到底穏やかとは言えない惨状を纏いながら呑気な思案。____目を覚ました二人と共に風呂の争奪戦になるのは数分後の話。)
___________All-Hallows Eve- All Souls Day.
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deisticpaper · 1 year
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蜃気楼の境界 編(五六七)
蜃気楼の境界 編(一二三四)から
「渦とチェリー新聞」寄稿小説
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蜃気楼の境界 編(五)
界縫
 正嘉元年紅葉舞い、青い炎地割れから立ち昇る。音大きく山崩れ水湧き出し、神社仏閣ことごとく倒壊す。鎌倉は中下馬橋の燃える家屋と黒い煙かき分けて家族の手を引きなんとか生き延びた六角義綱という男、後日殺生も構わぬ暮露と成り果て武士を襲えば刀を得、民を襲えば銭を得て、やがて辿り着いた河川で暮露同士語らうわけでもなく集まり暮らす。或る夜、幾度目のことか絶食にふらつき目を血走らせ六角義綱、血に汚れた刀片手に道行く一人の者を殺めようとするが、嗚咽を漏らし立ち竦みそのまま胸からあの日の紅葉のごとき血を流し膝から崩れ落ちる。道行くその者、男に扮した歩き巫女だが手には妖しげな小刀、その去る様を地べたから見届けんとした六角義綱のすぐ背後、甚目寺南大門に後ろを向けて立つ闇霙(あんえい)と名乗る男あり。みぞれ降りだして、人とも呼び難いなりの六角義綱を一瞥し、闇霙、口開かず問いかける、そなたの闇は斯様な俗識さえ飼えぬのか。六角義綱、正嘉地震から甚目寺までの道中で妻を殺され、涙つたい、儂には女は切れん、と息絶える。その一通りを見ていた青年、六角源内、父を殺した女を浅井千代能と突き止めて敵討ちを企てるが、知られていたか検非違使に捕らえられ夷島に流され、以後誰とも交流を持たずに僻地の小屋で巻物を記したという。それから七五九年の時が経ち、二〇一六年、仟燕色馨を内に潜める二重人格の高校生市川忍とその同級生渡邉咲が、慧探偵事務所を相手に朔密教門前また内部にて些細な一悶着あった、その同日晩、奇妙な殺人事件が起こる。場所は百人町四丁目の平素な住宅区域、被害者女性、五藤珊瑚(三〇)の遺言は、残酷な苦を前に千年二千年なんて。戸塚警察署に直ちに捜査本部が設置され、その捜査とは別に警部補の高橋定蔵、市川忍の前に立つ。何故おれなんかに事情徴収を、と忍。事件当日、校門の監視カメラに映っていたきみが何か普段と違うものを見てなかったかと思ってね、若き警部補が爽やかに答え、それで市川忍、脳裏の人格に声を送る、一顛末あった日だ厄介だね。対し仟燕色馨、おそらくこの警部補、謎多き朔密教を疑っている、ならばこの事件あの探偵にも捜査の手が伸��る、ところで気づいているか探偵事務所の探偵に見張られている。
 小料理屋点々とある裏通りの角に螺旋階段へ繋がるアーチ状の古い門を持つ築古スナックビルの入り口で刈り上げマッシュショートにゆるめパーマの少年のような青年がただ立っていると突然背後から強面の男がどこに突っ立っとんじゃと怒鳴ってきたので青年は冴え冴えとした眼差しで振り返り、幻を見てたんじゃないですか、俺はずっとこの位置でスマホを見てました、俺の輪郭と色、背後の風景と俺のいる光景をもっと目に焼きつけてください。男は動転し不愉快な目の前にいる青年を忘れないようじっと食い入って見る。だが、その光景はすでに幻で、スマホを見ていた青年はもういない。走り去っていたのだ。朝のホームルーム直前にその青年、六角凍夏(むすみとうか)が現れ席につく。振り返り、後ろの席の渡邉咲に聞く、きみ、部活入ってるの。隣席美術部員中河原津久見が聞き耳を立てている。渡邉咲は初めて話しかけてきた六角凍夏が先々で勧誘しているのを知っていて、文芸部でしょ、と冷えた目を送ると、文化琳三部だよ、と。咲が琳三って何という顔で惑うと、清山琳三ね、俺らの界隈で知らぬ者はいないよ、とくるが、咲はどこの界隈の話なのと内心いよいよ戸惑う。だが、聞き耳を立てていた中河原津久見はピクシブなどで目にする虚無僧キャラねと気づくが話に加わらない。きみ、机の上の本、和楽器好きでしょ、清山琳三は気鋭の尺八奏者。私、渡邉咲、と口にしながら、尺八ね。放課後、六角凍夏は一人、文芸部部室の小さな教室に入って電気をつけるとドアを閉め、密室と成る。中央辺りの机に、鞄から取り出した古びた筒を置く。目を閉じる。刹那、周囲にぼろぼろの布団が幾枚とどさっと落ちてき動きだす。それは天明四年鳥山石燕刊行妖怪画集「百器徒然袋」に見られる暮露暮露団(ぼろぼろとん)だが現実に現れたわけではなく、六角凍夏の想像力は小さな空間で全能となり百器徒然袋の界隈と接続し、今回ならばそこに記された妖怪があたかも姿を見せたかのような気分になったのだ。密室に、江戸の布団の香りが充満する。ときに、異界からの香りが漂ってくることもある。翌、静かな夜、百人町四丁目にて更なる殺人事件が起こる。被害者は志那成斗美(四〇)遺言は、潔く煮ろうか。魔の香りも、又、此処に。
蜃気楼の境界 編(六)
五鬼
 出入りする者らの残り香も錯綜の果てに幻影さえ浮かべる夜の街。串揚げ並ぶコの字カウンター中程で束感ショートの若い警部補が驚きのあと声を潜め通話を切ると手話で勘定を頼み、さっぱりとした面立ちの探偵仲本慧に目をやり、五鬼事件だがまだ続いていたと輝きの瞳隠せないながらも声を落とし去っていく。百人町四丁目連続殺人事件の犯人佐々木幻弐が第二被害者志那成斗美の最期の正当防衛で刺され意識不明のまま病院で死亡したという話、監視カメラから犯行も明確、第一被害者五藤珊瑚への犯行とも繋がり既に報道もされた直後の第三事件発覚。カウンターに残された探偵仲本慧、ビールを追加し面白い事件だが依頼がきてないから何もできないね、と奥に座る長髪黒はオールバックの男に突然話しかける。その男、串揚げを齧りながらチラと目線を合わせる。慧、ビールを飲み干し、隣に座っていいかなと距離を詰め、そっと名刺を置き、歓楽街案内人の市川敬済だね仕事柄我々は抜け目ない、聞き耳を立ててたね、という。黙す市川敬済に、優秀な探偵の知り合いは二人と必要ないかなと強い声で独り言のように笑みを送る。店内、音楽なく、静かに食す客、座敷からの賑わい。この辺りで、青島ビールが飲める良いバーを探してる客がいたなそういえば、と市川敬済、懐から名刺を取りだし横に並べる。直後、和柄のマフラーをしたギャル僡逢里が現れた為、仲本慧、名刺を拾い、勘定を済まし去っていく。お知り合いさんなの、と尋ねつつ座る僡逢里に、池袋の二青龍で今は探偵の男だ知ってるか、と尋ね返す。誰よ、テリトリー渋谷だったし、今日はいないの。暗に警部補のことを口にする。僡逢里の耳元で、まだ続いてるらしい千代女のママ心配だな。食事の注文をしながら僡逢里、出勤前に縛られたい、と呟く。夜十一時、一人になった市川敬済の前を男女が横切る。片方の男が枯淡の趣ある着物姿でありながら凍風をただ浴びるがごとく静かであったため変に気にかかるが、気にするのをやめて電話をかける。あら敬済さん、と通話先、青藍に杉の木が描かれた着物の女、さっきまで警部補さんがいらしてたのよ、お店は営業してません、今朝三人目の不幸がありまして五鬼も残すところ二人なの。語るは浅井千代女である。
 遥か彼方より朗々と木曽節が諏訪太鼓と絡まり聞こえる、それは五年前の、冬の宵、一人の女、吉祥寺の麻雀ラウンジ千代女の開店準備中、六人の女達を前に、肩に雪積もり震えている。浅井千代女が側に近づき、貴女の血に刻まれし鬼の禍、憎しと思うなら、受け継がれし技術でお金に変えて楽園を造るのよ、弐宮苺(にきゅういちご)の源氏名を授けるわ、そちらの西クロシヤ(五〇)引退で貴女の席があるの。語りかけてきた浅井千代女を取り囲む五人の女達、五鬼を見る。はい、と涙流し、生まれて初めての愉しい月日流れ、今、浅井千代女の周りに残る五鬼はその弐宮苺(三〇)と柵虹那奈(さくにじなな、四〇)だけだ。今朝殺害された紫矢弥衣潞(しややいろ、五〇)の遺言は、一路ゆくは三人迄。殺害現場で弐宮苺は両拳固く握りしめて言う。千代女さまを死なせはいたしません、次はこの私が千代女さまの匂いを身につけ犯人を誘いだし返り討ちにしてやります、これまで通り千代女さまは、五鬼にはできない私達鬼の禍の力を強める祈祷にどうか専念してください。浅井千代女の頬に涙が伝う。紫矢弥衣潞の形見の側に六歳の娘が一人。この災い突如訪れ、犯人の心当たりなく、志那成斗美が相打ちにし病院で死亡したという佐々木幻弐が何者なのかも分からない。不気味であったが浅井千代女は思う、そもそも私達がこの現世において得体知られていない存在なの、それに。相手は私達より強い、と震える。市川敬済に連絡を入れる。丑三つ時に市川敬済が女と帰宅、玄関騒がしく、津軽塗の黒地に白い桜が控えめに描かれた高さ一尺程のテーブルに女が横たわる音がする。自室でスマホを触っていた高校一年生の市川忍、悠里と帰ってきたのかあの女嫌いだな、と不機嫌になる。脳裏から仟燕色馨の声、きみの父だが今着信があり通話している。女といるのに別の女と喋ってるのそりゃあ母も出ていくよ。連続殺人の件だ探偵仲本慧の名前も出ている。いつも大人達は都合で何か企んでいて不快だよ。翌日、暑し。ホームルームの前に近寄ってきた同級生渡邉咲が、低血圧以外の何物でもないローテンションでいつもより元気な声で市川忍に話しかける。事件は解決してなかったのよ、貴方のお知り合いの探偵、仟燕色馨の出番じゃない?
蜃気楼の境界 編(七)
境迷
 昼か、はた、ゆめの夜半にか、北原白秋「邪宗門」の一節に紛れ込んでいた六角凍夏は国語教師茨城潔に当てられて、地獄変の屏風の由来を申し上げましたから、芥川龍之介「邪宗門」冒頭付近をちらと見、朗読し始めるが、正義なく勝つ者の、勝利を無意味にする方法は、いまはただ一つ、直ちに教師が、むすみその「邪宗門」は高橋和巳だ、遮ってクラス騒然となる。六角、先生、界をまたぐは文学の真髄ですと逸らす。教室の窓から体育館でのバスケの授業を眺めていた市川忍に、脳裏から仟燕色馨の声、百人町四丁目連続殺人事件、慧探偵事務所の手にかかれば一日で解決する探偵はあの少女が呟く数字で結論を読みとるからだ朔密教での一件はそういう話だっただろう。それじゃあカジョウシキカ勝ち目が。否あの少女がいかなる原理で数字を読むか今わかった。その時、教室の背後から長い竹がぐんと伸び先端に括られた裂け目が口のごとき大きな提灯、生徒らの頭上でゆらゆら揺れる。「百器徒然袋」にある不落不落(ぶらぶら)を空想した六角凍夏の机の中に古びた筒。不落不落を唯一感じとった仟燕色馨、市川忍の瞳を借り生徒らを見回す。何者だ。その脳裏の声へ、何故だろう急に寒気がする。界か少女は先の「邪宗門」のごとく数多の界から特定している市川忍クンきみはこの連続殺人事件どう思う。昨夜の父の通話を聞くに麻雀ラウンジ千代女のスタッフが四度狙われるから張り込めばだけど犯人佐々木幻弐死んでも事件は続いたし組織か警察もそう考えるだろうから現場に近づけるかどうか。吊り下がる口のごとく裂けた提灯に教師も生徒も誰も気づかず授業続く。休み時間スマホで調べた麻雀ラウンジに通話。まだ朝だ、出ないよ、休業中だった筈だし。仟燕色馨は通話先を黙し耳に入れ続ける。浅井千代女らは、魔かそれに接する例えば鬼か、ならば逞しき彼女らが手を焼く犯人も、人ではないと推理できよう恐らく一人の犯行による。驚き市川忍、犯人が死んだというのに犯行は一人だって。きみは我が師仟燕白霞のサロンで幼少時千代女と会っていたことを忘れたか父と古く親しい女性は皆その筋だろう。側に、一人の同級生が近づいていたことに突然気づき、晴れてゆく霞、市川忍は動揺する。渡邉咲が、不思議そうに見ている。
 柵虹那奈、と雀牌散らばりし休業続く麻雀ラウンジで浅井千代女が呼びかける。はい千代女さま。志那成斗美あの人の槍槓はいつだって可憐で美しかったわ、五藤珊瑚あの子の国士ができそうな配牌から清一色に染める気概にはいつも胸を打たれていたわ、紫矢弥衣潞あの方の徹底して振り込まない鬼の打ち筋には幾度も助けられたわ、三人とも亡くしてしまった、弐宮苺は私達を守ると意気込んでいるけどあの子を死なせたくないの。ラウンジを出て一人、浅井千代女は市川敬済から聞いた池袋北口の慧探偵事務所へ出向く。雑居ビル、銀行かと見紛うばかりの清潔な窓口が四つあり小柄の女性職員田中真凪にチェックシート渡され番号札を機械から取り座る。呼ばれると先の職員の姉、同じく小柄な三番窓口女性職員田中凪月が青森訛りで対応するがシート見てすぐ内線で通話し真凪を呼び千代女を奥へ案内させる。無人の応接間は中国人趣味濃厚で六堡茶を口にしながら十分程待つと仲本慧現れ、異様な話は耳にしている我が慧探偵事務所に未解決なしさ安心して、笑顔に厭らしさはない、依頼費は高くつくけどね。千代女は私達に似てるわと思う、職員は皆日本人名だが大陸の血を感じる、理由あってここに集い共同体と成っている、市川敬済とは昔SMサロン燕(えん)で業深き運営者は仟燕白霞に紹介された、世俗の裏側で通信し合うルートで辿り着いた此処は信用できる。受け応えを記録する仲本慧に着信が入り中国語で喋りだす。六堡茶を喉へ。探偵職員二名曰く、監視対象の市川忍が早退し校門前で謎の探偵仟燕色馨と通話していたという。仟燕色馨が仲本慧に仕掛けた誤情報だが、千代女を上海汽車メーカーの黒い車に乗せ吉祥寺の麻雀ラウンジへ。市川敬済はその謎の探偵にも件の連続殺人事件を探らせているのかなぜ子の市川忍が連絡を、空は雲一つない、SMサロン燕は五年前の二〇一一年に閉鎖し今は仟燕家のみその調査は容易ではないが必要かすぐ崔凪邸へ行くべきか。麻雀ラウンジのドア、鍵開き、僅かな灯火の雀卓で盲牌していた柵虹那奈、差し込む外光より、冷気識る。現れるは、病室で死に顔さえも確認した、佐々木幻弐である。上海汽車メーカーの黒い車は崔凪邸に着く。少女崔凪は、使用人二人と土笛づくりをして遊んでいる。
by _underline
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「渦とチェリー」チャンネル
【音版 渦とチェリー新聞】第27号 へ続く
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仟燕色馨シリーズ 全人物名リスト
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taichish · 3 years
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2010年代ホラー映画ベスト
★惜しくもランク外
『透明人間』(2019/リー・ワネル監督)
コメント:盟友ジェームズ・ワンの大ファンを自称する私ですが、リー・ワネルの監督としての手腕にも大変感心する。本当に上手い。しかし、『アップグレード』もそうだったけどちょいちょい陳腐な画ヅラや展開があるのが残念。いや、しかし職人監督としてはむしろそれがいいのかも。
『ババドック 暗闇の魔物』(2014/ジェニファー・ケント監督)
オーストラリアの女性監督、長編デビュー作。2作目の『ナイチンゲール』もめちゃくちゃ面白そうなんだけどまだ観られていない。女性監督であることがキモでもある本作。シングルマザーの抱えるストレスを具現化するかのごとく現れる魔物、ババドックとの闘いが描かれる。ラストの決着が好き。勝つ負けるではなく、諫めるのである。
★入りそうで入らない
『ミッドサマー』(2019/アリ・アスター監督)
日本でも異例のヒットをした本作だが、個人的には全く良いと思えず。『ウィッカーマン』の方が100倍面白い。
『ドント・ブリーズ』(2016/フェデ・アルバレス監督)
嫌いじゃないが好きでもない。しかし満席近い劇場で観客全員が息を止めて観ていたあの空間は、唯一無二の素晴らしい映画体験だった。フェデ・アルバレスはむしろこの次に撮った『ドラゴン・タトゥーの女』続編『蜘蛛の巣を掴む女』が素晴らしかったので、監督としての手腕は買っている。次作以降にも期待している。
『イット・フォローズ』(2014/デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督)
観念的過ぎる。アートに寄りすぎている。やはりジャンル映画としてのホラーを愛している人が作るホラーが好きなのだ。青春映画と絡めていてエモいんだが、だったら監督の前作『アメリカン・スリープオーバー』で十分だ。ジョン・カーペンター『ハロウィン』からの影響があるんだろうなあ、とか好きなところもあるが、もっと怖くていいし。この監督もむしろこの次の作品『アンダー・ザ・シルバーレイク』が大好き。
『来る』(2018/中島哲也監督)
アマプラで配信された時もちょっと話題になったり、支持する人が多いらしい本作。自分も嫌いではないんだが、ホラーというよりこれはもうサイキックバトル映画だろ。『妖怪大戦争』とか『ゲゲゲの鬼太郎』みたいな方がジャンルとしては近い。何より全然怖くないのがホラー映画と呼ぶには致命的。一番怖かったのは黒木華の笑顔。
『哭声/コクソン』(2016/ナ・ホンジン監督)
これは大好きなんだが、ホラーとしてはどうか。オカルティックミステリーって感じか。最終的にはオカルトですらない感じもあったし。ファン・ジョンミンの祈祷シーンが最高。
『ゲット・アウト』(2017/ジョーダン・ピール監督)
これも大好きだけど、ホラーというよりスリラーね。なんというか、自分の中で「ホラー映画」ってやっぱり心霊ホラーじゃないとしっくりこない言葉なんだよな。もしくはスプラッターかな。ゾンビ映画ですらホラーに入れていいか微妙なところ。
『アス』(2019/ジョーダン・ピール監督)
これはダメ。つまらなかったな。やっぱり観念的過ぎてジャンル映画の面白さが十分じゃないのと、ジョーダン・ピール、売れっ子になっちゃって忙しかったのか、脚本のツメが甘すぎる。
『クワイエット・プレイス』(2018/ジョン・クラシンスキー監督)
ホラーというかSFサバイバルものよね。音に反応して殺しに来るヤツがあんなんじゃなくてもっと面白い設定だったらもっと好きだったのにな。陳腐だわ。
『キャビン』(2011/ドリュー・ゴダード監督)
コメディだよね。リチャード・ジェンキンスは最高。
『ドクター・スリープ』(2019/マイク・フラナガン監督)
マイク・フラナガンとの相性悪いんだよな。全然ホラーの監督としては評価できない。つまらない。でもこれは映画として��別に嫌いじゃなかった。が、これも『来る』と同じでサイキックバトル映画だよね。ホラーじゃない。
★10位『ダゲレオタイプの女』(2016/黒沢清監督)
銀獅子賞受賞監督、黒沢清氏の近作で最もストレートなホラー映画。フランス映画でも黒沢演出がバッチリハマることを証明した一作。てかむしろ日本で撮るよりピッタリハマってる感じがする。上品さとジャンル的な面白さのバランスが絶妙。結末だけ陳腐で残念だった。
★9位『ヴィジット』(2015/M・ナイト・シャマラン監督)
おいおい、早速心霊ホラーとちゃうやんけ、って感じですがシャマランは別です。唯一無二。怖がるべきなのか笑っていいのかよく分からなくなる。でも主人公たちの立場になったらメチャクチャ怖いよな。夜中目覚ましたらババアがゲロ吐きながら暗い廊下を歩いてるなんてさ。
★8位『残穢 -住んではいけない部屋-』(2016/中村義洋監督)
中村義洋監督の映画はどれも安定して面白い。本作もその見事な手腕で複雑で長い原作小説をできるだけ魅力を損ねることなく忠実に映画化している。これもまた『ヴィジット』と同じで、ただ漫然と見ていて怖いというよりは、自分事としてとらえると怖いのだ。ホラーを楽しめるかどうかはそこにかかっている。もし同じことが自分の身に降りかかったら。それをどれだけリアルに想像できるかどうか。そこがホラー向きの人間かどうかの境目だ。
★7位『死霊館 エンフィールド事件』(2016/ジェームズ・ワン監督)
やはりジェームズ・ワンはすごい。傑作だった1作目に続いてどんな続編になるのかと観てみたら、ちゃんと同じくらい面白いじゃないか。前作より更に非現実的な、若干ファンタジックな恐怖演出が増えている。ジェームズ・ワン的恐怖世界がエスカレートしているわけだが、不思議と説得力があるのだ。そしてやはり自分事としてとらえられる。もしかしたら現実にあり得るのかもしれないと思える。本作の白眉はパトリック・ウィルソンが子供たちの前でプレスリーの物真似で一曲披露するところ。クライマックス前のブレイクシーン。全体の展開の流れの作り方が超上手い。僕はジェームズ・ワンはゆくゆくスピルバーグみたいな巨匠にすらなれるポテンシャルがある。
★6位『インシディアス』(2010/ジェームズ・ワン監督)
僕が初めて観たジェームズ・ワン作品である。だから正直、思い出補正的な要素も入っているかもしれない。しかしやはり久しぶりに見返してもこれは素晴らしい映画なのだ。ジェームズ・ワン作品に欠かせない作曲家ジョセフ・ビシャラの功績も大きい。伝統的なように聞こえて実は全く新しい、エポックメイキング且つ現状唯一無二なホラー音楽家である。どうやってこの人を見つけてきたんだろうか。
★5位『霊的ボリシェヴィキ』(2017/高橋洋監督)
高橋洋ワールドについていけない人もいると思うが、中で語られる怪談の一本一本がしっかり面白いのでそこを頼りに観ていけば問題ない。ワンシチュエーションで語りのみという実験的な姿勢が素晴らしい。脚本力が光る。
★4位『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017/アンディ・ムスキエティ監督)
「全然怖くない。笑えるよ」とか言う人が多い映画だが、これこそ自分事としてとらえらずホラーを存分に楽しめていない可哀相な人々の戯言だ。自分が彼らと同じくらいの子供だったとして、同じ体験をしたらどう感じる?ということをリアルに想像できるか否かがこの映画を楽しめる人と楽しめない人とを分ける。想像力の逞しい人にはしっかり怖い映画になっているはずだ。その怖がらせ方の手数の多さ、豊富さにも感心したし、何よりこの映画自体がホラー映画とは何か、という批評にもなっている。幼少時代に植え付けられたトラウマを克服することで人は大人になる。いや幼少時代に限らない。大人になってもトラウマは生まれる。それを乗り越えていくことで人は成長できる。ホラーは人間の健全な発育に必要なのです。
★3位『死霊館』(2013/ジェームズ・ワン監督)
ジェームズ・ワンが好きすぎる。やはり1作目が至高だ。ジェットコースター的なホラー映画の面白さが凝縮された傑作。恐怖描写のつるべ打ちに息つく間もない。後に『アクアマン』を監督することになるのも納得で、ジェームズ・ワンはヒーロー映画のような王道エンターテインメントを作るのが死ぬほど上手い。ホラー映画というジャンルの中でもそれを見事にやってのけている。
★2位『鬼談百景』(2016/中村義洋監督、安里麻里監督、大畑創監督、内藤瑛亮監督、岩澤宏樹監督、白石晃士監督)
『残穢』と合わせて作られたオムニバス。小学生の時によく見ていた『怪談 新耳袋』シリーズの面白さを思い出す素晴らしい短編集。短編で、因果も何もはっきりとは示されないまま終わるからこそ、後に引く怖さがある。
★1位『ヘレディタリー/継承』(2018/アリ・アスター監督)
これは嫉妬した。面白すぎる。唯一の欠点は犬だ。あの家に犬がいることを途中から忘れるくらい要らない。最後の方にもう一回だけ出てきてすぐ死ぬけど、途中まったく機能していない。犬いらない。でもそれ以外は完ぺきな映画だ。芸術的で悪趣味で不快で楽しい。
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hananien · 3 years
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【SPN】庭師と騎士
警告:R18※性描写、差別的描写
ペアリング:サム/ディーン、オリキャラ/ディーン
登場人物:ディーン・ウィンチェスター、サム・ウィンチェスター、ボビー・シンガー・ルーファス・ターナー、ケビン・トラン、チャーリー・ブラッドベリー、クラウス神父(モデル:クラウリー)
文字数:約16000字
設定: 修道院の囚われ庭師ディーン(20)と宿を頼みに来た騎士サム(24)。年齢逆転、中世AU。
言い訳: 映画「天使たちのビッチナイト」に影響を受けました。ボソボソと書いてましたがちょっと行き詰まり、詰まってまで書くほどのものじゃないので一旦停止します。
 自分のことなら肋骨の二本や三本が折れていたとしても気づかないふりをしていられるが、部下たちを休ませる必要があった。
 王国騎士の象徴である深紅のマントは彼ら自身の血に染められ、疲労と傷の痛みとで意識がもうろうとしている者も数名いた。何よりも空腹だった。狩りをしようにも、矢がなく、矢を作るためにキャンプを張る体力もない。  一度腰を下ろせばそこが墓地になるかもしれなかった。  辺境の村を救うために命じられた出征だった。王はどこまで知っていたのか……。おそらくは何も知らなかったのに違いない。そうだと信じたかった。辺境の村はすでに隣国に占領されていた。彼らは罠にかけられたのだった。  待ち構えていた敵兵に大勢の仲間の命と馬を奪われ、サムは惨めな敗走を余儀なくされた。  森の中を、王城とは微妙にずれた方向へ進んでいるのに、サムに率いられた騎士たちは何もいわなかった。彼らもまた、サムと同じ疑いを胸に抱いていたのだ。全ては王に仕組まれたのではないかと。  誰一人口には出さなかったが、森の中をさ迷うサムに行き先を尋ねる者もいなかった。  なけなしの食糧を持たせて斥候に出していたケビンが、隊のもとに戻ってきた。彼は森の中に修道院を発見した。サムはその修道院に避難するべきか迷った。森は王国の領内だ。もしも王が裏切っていた場合、修道院にまで手を回されていたら彼らは殺される。  だが、このままでは夜を越せない者もいるかもしれなかった。サムは未だ六人の騎士を率いていて、王国よりサムに忠実な彼らを何としても生かさなければならない。  サムはケビンに案内を命じた。
 ディーンは自分の名前を気に入っていたが、今ではその名前を呼ぶ者はほとんどいなかった。  修道院では誰もがディーンのことを「あれ」とか「そこの」とか表現する。もしくは彼自身の職業である「庭師」とか。彼自身に、直接呼びかける者はいない。なぜなら彼は耳が聞こえないし、口も利けないから。  ディーンは今年で二十歳になる……らしい。彼は子供のころに両親を盗賊に殺されて、もともと身を寄せる予定だったこの修道院に引き取られた。ただし支払うべき寄付金も盗賊に奪われたので、修道士としてではなく庭師として働いて暮らしている。  夜中、ディーンはフラフラになりながら修道院を出て、納屋に帰り着いた。家畜小屋の横の納屋が彼の住処だ。神父が彼に酒を飲ませたので、藁の下に敷いた板のわずかな段差にも躓いてしまった。  そのまま藁の中にうずくまって、眠ってしまおうと思った時だ。納屋の戸の下の隙間から、赤い炎の色と複数の人影がちらついて見えた。  ディーンは、静かに身を起こした。少し胸やけはするが、幻覚を見るほど酔ってはいない。ディーンがいる納屋は、修道院の庭の中にある。修道士たちをオオカミやクマから守る塀の、内側だ。修道士たちは夜中にうろついたりしないから、この人影は外部からの――塀の外、森からの――侵入者たちのものだ。  門番の爺さんは何をしていたのか。もちろん、寝ているんだろう、夜更かしするには年を取りすぎている。今までも修道院が盗賊被害には遭ったことはあるが、こんな夜中じゃなかった。オオカミにとってはボロを着ていようが聖職者のローブを着ていようが肉は肉。強襲も山菜取りも日差しの入る間にやるのが最善だ。  では何者か。ディーンはそっと戸を開けて姿を見ようとした。ところが戸に手をかける間もなく、外から勢いよく開けられて転がり出てしまう。うつ伏せに倒れた鼻先に松明の火を受けてきらめく刃のきっさきを見て、そういえば、神父に持たされたロウソクが小屋の中で灯しっぱなしだったなと気づく。  「こそこそと覗き見をしていたな」 ざらついて低い声がディーンを脅した。ディーンはその一声だけで、彼がとても疲れて、痛みを堪えているのがわかった。  「やめろ、ルーファス! 何をしている」  若い男の声がした。ディーンを脅している男は剣のきっさきを外に向けた。「こいつが、俺たちを見張っていた。きっと刺客だ。俺たちがここに来るのを知っていて、殺そうとしてたんだ」  刺客、という言葉に、側にいた男たちが反応した。いったい何人いるんだ。すっかりと敵意を向けられて、ディーンはひるんだ。  「馬鹿な、彼を見ろ。丸腰だ。それに刺客なら小屋の中でロウソクなんて灯して待っているわけがない」 若い声の男が手を握って、ディーンを立たせた。俯いていると首から上が視界にも入らない。とても背の高い男だった。  「すまない、怖がらせてしまった。我々は……森で迷ってしまって、怪我を負った者もいる。宿と手当てが必要で、どうかここを頼らせてもらいたいと思って訪ねた」  背の高さのわりに、威圧的なところのない声だった。ディーンが頷くのを見て、男は続けた。  「君は――君は、修道士か?」 ディーンは首をかしげる。「そうか、でも、ここの人間だ。そうだろ? 神父に会わせてもらえるかい?」 ディーンはまた、首をかしげる。  「なんだ、こいつ、ぼんやりして」 さっき脅してきた男――闇夜に溶け込むような黒い肌をした――が、胡乱そうに顔をゆがめて吐き捨てる。「おお、酒臭いぞ。おおかた雑用係が、くすねた赤ワインをこっそり飲んでいたんだろう」  「いや、もしかして――君、耳が聞こえないの?」 若い男が自分の耳辺りを指さしてそういったので、ディーンは頷いた。それから彼は自分の口を指さして、声が出ないことをアピールする。  男の肩が一段下がったように見えて、ディーンは胸が重くなった。相手が自分を役立たずと判断して失望したのがわかるとき、いつもそうなる。  彼らは盗賊には見えなかった。何に見えるかって、それは一目でわかった。彼らは深紅の騎士だ。王国の誇り高い戦士たち。  幼いころに憧れた存在に囲まれて、これまで以上に自分が矮小な存在に思えた。  「聞こえないし、しゃべれもしないんじゃ、役に立たない。行こう、ケビンに神父を探させればいい」 疲れた男の声。  抗議のため息が松明の明かりの外から聞こえた。「また僕一人? 構いませんけどね、僕だって交渉するには疲れ過ぎて……」  「一番若いしまともに歩いてるじゃないか! 俺なんか見ろ、腕が折れて肩も外れてる、それに多分、日が上る前に止血しないと死ぬ!」  ディーンは初めて彼らの悲惨な状態に気が付いた。  松明を持っているのは一番背の高い、若い声の男で、彼はどうやら肋骨が折れているようだった。肩が下がっているのはそのせいかもしれなかった。ルーファスと呼ばれた、やや年配の黒い肌の男は、無事なところは剣を握った右腕だけというありさまだった。左半身が黒ずんでいて、それが全て彼自身の血であるのなら一晩もたないというのも納得だ。女性もいた。兜から零れた髪が松明の炎とそっくりの色に輝いて見えた。しかしその顔は血と泥で汚れていて、別の騎士が彼女の左足が地面に付かないように支えていた。その騎士自身も、兜の外された頭に傷を受けているのか、額から流れた血で耳が濡れている。  六人――いや、七人だろうか。みんな満身創痍だ。最強の騎士たちが、どうしてこんなに傷ついて、夜中に森の中をゆく羽目に。  ディーンは松明を持った男の腕を引っ張った。折れた肋骨に響いたのか、呻きながら彼は腕を振り払おうとする。  「待って、彼、案内してくれるんじゃない? 中に、神父様のところに」 女性の騎士がそういった。ディーンはそれを聞こえないが、何となく表情で理解した振りをして頷き、ますます騎士の腕を引っ張った。  騎士はそれきりディーンの誘導に素直についてきた。彼が歩き出すとみんなも黙って歩き出す。どうやらこの背の高い男が、この一団のリーダーであるらしかった。  修道院の正面扉の鍵はいつでも開いているが、神父の居室はたいていの場合――とりわけ夜はそうだ――鍵がかかっている。ディーンはいつも自分が来たことを示す独特のリズムでノックをした。  「……なんだ?」 すぐに扉の向こうで、眠りから起こされて不機嫌そうな声が聞こえてほっとする。もう一度ノックすると、今度は苛立たし気に寝台から降りる音がした。「なんだ、ディーン、忘れ物でもしたのか……」  戸を開いた神父は、ディーンと彼の後ろに立つ騎士たちの姿を見て、ぎょっとして仰け反った。いつも偉そうにしている神父のそんな顔を見られてディーンは少しおかしかった。  ディーンは背の高い男が事情を説明できるように脇にのいた。  「夜半にこのような不意の訪問をして申し訳ない。緊急の事態ですのでどうかお許し頂きたい。私は王国騎士のサミュエル・ウィンチェスター。彼は同じく騎士のルーファス。彼は重傷を負っていて一刻も早い治療が必要です。他にも手当と休息が必要な者たちがいる」  神父は、突然現れた傷だらけの騎士たちと、さっき別れたばかりの庭師を代わる代わる、忙しなく視線を動かして見て、それから普段着のような体面をするりと羽織った。深刻そうに頷き、それから騎士たちを安心させるようにほほ笑む。「騎士の皆様、もう安全です。すぐに治癒師を呼びます。食堂がいいでしょう、治療は厨房で行います。おい」 目線でディーンは呼びかけられ、あわてて神父のひざ元に跪いて彼の唇を読むふりをする。  「治癒師を、起こして、食堂に、連れてきなさい。わかったか?」  ディーンは三回頷��て、立ち上がると治癒師のいる棟へ駆け出す。  「ご親切に感謝する」 男のやわらかい礼が聞こえる。「……彼はディーンという名なのか? あとでもう一度会いたい、ずいぶんと怖がらせてしまったのに、我々の窮状を理解して中へ案内してくれた……」  ディーンはその声を立ち止まって聞いていたかったが、”聞こえない”のに盗み聞きなどできるはずがなかった。
 明け方にルーファスは熱を出し、治癒師は回復まで数日はかかるだろうといった。サムは騎士たちと目を合わせた。今はまだ、森の深いところにあるこの修道院には何の知らせも来ていないようだが、いずれは王国から兵士が遣わされ、この当たりで姿を消した騎士たち――”反逆者たち”と呼ばれるかもしれない――がいることを知らされるだろう。俗世から離れているとはいえ修道院には多くの貴族や裕福な商家の息子が、いずれはまた世俗へ戻ることを前提にここで生活している。彼らの耳に王宮での噂が届いていないことはまずあり得なく、彼らがどちらの派閥を支持しているかはサムにはわからない。もっとも王が追っている失踪騎士を庇おうなどという不届きな者が、たくさんいては困るのだった。  出征の命令が罠であったのなら、彼らは尾けられていたはずだった。サムの死体を探しに捜索がしかれるのは間違いない。この修道院もいずれ見つかるだろう。長く留まるのは良策ではない。  かといって昏睡状態のルーファスを担いで森に戻るわけにもいかず、止む無くサムたちはしばらくの滞在を請うことになった。  修道院長のクラウス神父は快く応じてくれたが、用意されたのは厨房の下の地下室で、そこはかとなく歓迎とは真逆の意図を読み取れる程度には不快だった。彼には腹に一物ありそうな感じがした。サムの予感はしばしば王の占い師をも勝るが、騎士たちを不安させるような予感は口には出せなかった。  厨房の火の前で休ませているルーファスと、彼に付き添っているボビーを除く、五人の騎士が地下に立ち尽くし、ひとまず寝られる場所を求めて目をさ迷わせている。探すまでもない狭い空間だった。横になれるのは三人、あとの二人は壁に寄せた空き箱の上で膝を枕に眠るしかないだろう。  「お腹がすいた」 疲れて表情もないチャーリーが言った。「立ったままでもいいから寝たい。でもその前に、生の人参でもいいから食べたいわ」  「僕も同感。もちろんできれば生じゃなくて、熱々のシチューに煮込まれた人参がいいけど」  ガースの言葉に、チャーリーとケビンが深い溜息をついた。  地下室の入口からボビーの声が下りてきた。「おい、今から食べ物がそっちに行くぞ」  まるでパンに足が生えているかのように言い方にサムが階段の上に入口を見上げると、ほっそりした足首が現れた。  足首の持ち主は片手に重ねた平皿の上にゴブレットとワイン瓶を乗せ、革の手袋をはめたもう片方の手には湯気のたつ小鍋を下げて階段を下りてきた。  家畜小屋の隣にいた青年、ディーンだった。神父が彼を使いによこしたのだろう。  「シチューだ!」 ガースが喜びの声を上げた。チャーリーとケビンも控え目な歓声を上げる。みんなの目がおいしそうな匂いを発する小鍋に向かっているのに対し、サムは青年の足首から目が離せないでいた。  彼はなぜ裸足なんだろう。何かの罰か? 神父は修道士や雑用係に体罰を与えるような指導をしているのか? サムは薄暗い地下室にあってほの白く光って見える足首から視線を引きはがし、もっと上に目をやった。まだ夜着のままの薄着、庭でルーファスが引き倒したせいで薄汚れている。細いが力のありそうなしっかりとした肩から腕。まっすぐに伸びた首の上には信じられないほど繊細な美貌が乗っていた。  サムは青年から皿を受け取ってやろうと手を伸ばした。ところがサムが皿に手をかけたとたん、びっくりした彼はバランスを崩して階段を一段踏みそこねた。  転びそうになった彼を、サムは慌てて抱き止めた。耳元に、彼の声にならない悲鳴のような、驚きの吐息を感じる。そうだ、彼は耳が聞こえないのだった。話すことが出来ないのはわかるが、声を出すこともできないとは。  「急に触っちゃだめよ、サム!」 床に落ちた皿を拾いながらチャーリーがいう。「彼は耳が聞こえないんでしょ、彼に見えないところから現れたらびっくりするじゃない」  「ディーンだっけ? いや、救世主だ、なんておいしそうなシチュー、スープか? これで僕らは生き延びられる」 ガースが恭しく小鍋を受け取り、空き箱の上に並べた皿にさっさと盛り付けていく。階段の一番下でサムに抱き止められたままのディーンは、自分の仕事を取られたように見えたのか焦って体をよじったが、サムはどうしてか離しがたくて、すぐには解放してやれなかった。  まったく、どうして裸足なんだ?
 修道士たちが詩を読みながら朝食を終えるのを交代で横になりながら過ごして待ち、穴倉のような地下室から出て騎士たちは食堂で体を伸ばした。一晩中ルーファスの看病をしていたボビーにも休めと命じて、サムが代わりに厨房の隅に居座ることにした。  厨房番の修道士は彼らがまるでそこに居ないかのように振る舞う。サムも彼らの日課を邪魔する意思はないのでただ黙って石窯の火と、マントでくるんだ藁の上に寝かせた熟練の騎士の寝顔を見るだけだ。  ルーファスは気難しく人の好き嫌いが激しい男だが、サムが幼い頃から”ウィンチェスター家”に仕えていた忠臣だ。もし彼がこのまま目覚めなかったら……。自分が王宮でもっとうまく立ち回れていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。  若き王の父と――つまり前王とサムの父親が従弟同士だったために、サムにも王位継承権があった。実際、前王が危篤の際には若すぎる王太子を不安視する者たちからサムを王にと推す声も上がった。不穏な声が派閥化する前にサムは自ら継承権を放棄し、領地の大半を王に返還して王宮に留まり一騎士としての振る舞いに徹した。  その無欲さと節制した態度が逆に信奉者を集めることとなり、サムが最も望まないもの――”ウィンチェスター派”の存在が宮殿内に囁かれるようになった。国王派――この場合は年若き王をいいように操ろうとする老練な大臣たちという意味だ――が敵意と警戒心を募らせるのも無理はないとサムが理解するくらいには、噂は公然と囁かれた。何とか火消しに回ったが、疑いを持つ者にとっては、それが有罪の証に見えただろう。  自分のせいで部下たちを失い、また失いつつあるのかと思うと、サムはたまらないむなしさに襲われた。  ペタペタと石の床を踏む足音が聞こえ顔を上げる。ディーンが水差しを持って厨房にやってきた。彼は石窯の横に置かれた桶の中に水を入れる。サムは声もかけずに暗がりから彼の横顔をぼうっと眺めた。声をかけたところで、彼には聞こえないが――  床で寝ているルーファスが呻きながら寝返りを打った。動きに気づいたディーンが彼のほうを見て、その奥にいるサムにも気づいた。  「やあ」 サムは聞こえないとわかりつつ声をかけた。まるきり無駄ではないだろう。神父の唇を読んで指示を受けていたようだから、言葉を知らないわけではないようだ。  彼が自分の唇を読めるように火の前に近づく。  「あー、僕は、サムだ。サム、王国の騎士。サムだ。君はディーン、ディーンだね? そう呼んでいいかい?」  ディーンは目を丸く見開いて頷いた。零れそうなほど大きな目だ。狼を前にしたうさぎみたいに警戒している。  「怖がらないでいい。昨夜はありがとう。乱暴なことをしてすまなかった。怪我はないか?」  強ばった顔で頷かれる。彼は自らの喉を指して話せないことをアピールした。サムは手を上げてわかっていることを示す。  「ごめん――君の仕事の邪魔をするつもりはないんだ。ただ、何か困ってることがあるなら――」 じっと見つめられたまま首を振られる。「――ない?」 今度は頷かれる。「――……そうか、わかった。邪魔をしてごめん」  ディーンは一度瞬きをしてサムを見つめた。彼は本当に美しい青年だった。薄汚れてはいるし、お世辞にも清潔な香りがするとは言い難かったが、王宮でもお目にかかったことのないほど端正な顔立ちをしている。こんな森の奥深くの修道院で雑用係をしているのが信じられないくらいだ。耳と口が不自由なことがその理由に間違いないだろうが、それにしても――。  水差しの水を全て桶に注いでしまうと、ディーンはしばし躊躇った後、サムを指さして、それから自分の胸をさすった。  彼が動くのを眺めるだけでぼうっとしてしまう自分をサムは自覚した。ディーンは何かを伝えたいのだ。もう一度同じ仕草をした。  「君の? 僕の、胸?」 ディーンは、今度は地下に繋がる階段のほうを指さして、その場で転ぶ真似をした。そしてまたサムの胸のあたりを指さす。  理解されてないとわかるとディーンの行動は早かった。彼はルーファスをまたいでサムの前にしゃがみ込み、彼の胸に直接触れた。  サムは戦闘中以外に初めて、自分の心臓の音を聞いた。  ディーンの瞳の色は鮮やかな新緑だった。夜にはわからなかったが、髪の色も暗い金髪だ。厨房に差し込む埃っぽい日差しを浴びてキラキラと輝いている。  呆然と瞳を見つめていると、やっとその目が自分を心配していることに気が付いた。  「……ああ、そっか。僕が骨折してること、君は気づいてるんだね」 ”骨折”という言葉に彼が頷いたので、サムは納得した。さっき階段から落ちかけた彼を抱き止めたから、痛みが悪化していないか心配してくれたのだろう。サムは、彼が理解されるのが困難と知りながら、わざわざその心配を伝えようとしてくれたことに、非常な喜びを感じた。  「大丈夫だよ、自分で包帯を巻いた。よくあることなんだ、小さいころは馬に乗るたびに落馬して骨を折ってた。僕は治りが早いんだ。治るたびに背が伸びる」  少し早口で言ってしまったから、ディーンが読み取ってくれたかはわからなかった。だが照れくさくて笑ったサムにつられるように、ディーンも笑顔になった。  まさに魂を吸い取られるような美しさだった。魔術にかかったように目が逸らせない。完璧な頬の稜線に触れたくなって、サムは思わず手を伸ばした。  厨房の入口で大きな音がした。ボビーが戸にかかっていたモップを倒した音のようだった。  「やれやれ、どこもかしこも、掃除道具と本ばかりだ。一生ここにいても退屈しないぞ」  「ボビー?」  「ああ、水が一杯ほしくてな。ルーファスの調子はどうだ?」  サムが立ち上がる前に、ディーンは驚くほどの素早さで裏戸から出て行ってしまった。
 キラキラしてる。  ディーンは昔からキラキラしたものに弱かった。  木漏れ日を浴びながら一時の昼寝は何物にも得難い喜びだ。太陽は全てを輝かせる。泥だまりの水だってきらめく。生まれたばかりの子ヤギの瞳、朝露に濡れた花と重たげな羽を開く蝶。礼拝堂でかしずいた修道士の手から下がるロザリオ。水差しから桶に水を注ぐときの小気味よい飛沫。  彼はそういったものを愛していた。キラキラしたものを。つまりは美しいもの。彼が持ち得なかったもの。  サムという騎士はディーンが今までに見た何よりも輝いていた。  あまりにもまぶしくて直視しているのが辛くなったほどだ。彼の瞳の色に見入っていたせいで、厨房で大きな音に反応してしまった。幸いサムは音を立てた騎士のほうに目がいってディーンの反応には気づかなかったようだ。  もう一度彼の目を見て彼に触れてみたかったが、近づくのが恐ろしくもあった。
 ディーン何某という男の子がこの世に生を受けたとき、彼は両親にとても祝福された子供だった。彼は美しい子だと言われて育った。親というのは自分の子が世界で一番美しく愛らしいと信じるものだから仕方ない。おかげでディーンは両親が殺され、修道院に引き取られる八つか九つの頃まで、自分が怪物だと知らずに生きてこられた。  修道院長のクラウス神父は親と寄付金を失った彼を憐れみ深く受け入れてくれたが、幼い孤児を見る目に嫌悪感が宿っているのをディーンは見逃さなかった。  「お前は醜い、ディーン。稀に見る醜さだ」と神父は、気の毒だが率直に言わざるを得ないといった。「その幼さでその醜さ、成長すれば見る者が怖気をふるう怪物のごとき醜悪な存在となるだろう。無視できない悪評を招く。もし怪物を飼っていると噂が立てば、修道院の名が傷つき、私と修道士たちは教会を追われるだろう。お前も森に戻るしかなくなる」 しかしと神父は続けた。「拾った怪物が不具となれば話は違う。耳も聞こえなければ口もきけないただの醜い哀れな子供を保護したとなれば、教皇も納得なさるだろう。いいかね、ディーン。お前をそう呼ぶのは今日この日から私だけだ。他の者たちの話に耳を傾けてはいけないし、口を聞いてもいけない。おまえは不具だ。不具でなければ、ここを追い出される。ただの唾棄すべき怪物だ。わかったかね? 本当にわかっているなら、誓いを立てるのだ」  「神様に嘘をつけとおっしゃるのですか?」  まろやかな頬を打たれてディーンは床に這いつくばった���礼拝堂の高窓から差し込む明かりを背負って神父は怒りをあらわにした。  「何という身勝手な物言いだ、すでに悪魔がその身に宿っている! お前の言葉は毒、お前の耳は地獄に通じている! 盗賊どもがお前を見逃したのも、生かしておいたほうが悪が世に蔓延るとわかっていたからに違いない。そんな者を神聖な修道院で養おうとは、愚かな考えだった。今すぐに出ていきなさい」  ディーンは、恐ろしくて泣いてすがった。修道院を追い出されたら行くところがない。森へ放り出されたら一晩のうちに狼の餌食になって死んでしまうだろう。生き延びられたとしても、神父ですら嫌悪するほど醜い自分が、他に受け入れてくれる場所があるはずもない。  ディーンは誓った。何度も誓って神父に許しを請うた。「話しません、聞きません。修道院のみなさまのご迷惑になることは決してしません。お願いです。追い出さないでください」  「お前を信じよう。我が子よ」 打たれた頬をやさしく撫でられ、跪いてディーンを起こした神父に、ディーンは一生返せぬ恩を負った。
 ぼんやりと昔を思い出しながら草をむしっていたディーンの手元に影が落ちた。  「やあ、ディーン……だめだ、こっちを向いてもらってからじゃないと」 後ろでサムがぼやくのが聞こえた。  ディーンは手についた草を払って、振り向いた。太陽は真上にあり、彼は太陽よりも背が高いことがわかって、ディーンはまた草むしりに戻った。  「あの、えっと……。ディーン? ディーン」  正面に回り込まれて、ディーンは仕方なく目線を上げた。屈んだサムはディーンと目が合うと、白い歯をこぼして笑った。  ああ、やっぱりキラキラしてる。  ディーンは困った。
 サムは困っていた。どうにもこの雑用係の庭師が気になって仕方ない。  厨房から風のように消えた彼を追って修道院の中庭を探していると、ネズの木の下で草をむしっている背中を見つけた。話しかけようとして彼が聞こえないことを改めて思い出す。聞こえない相手と会話がしたいと思うなんてどうかしてる。  それなのに気づけば彼の前に腰を下ろして、身振り手振りを交えながら話しかけていた。仕事中のディーンは、あまり興味のない顔と時々サムに向けてくれる。それだけでなぜか心が満たされた。  ネズの実を採って指の中で転がしていると、その実をディーンが取ろうとした。修道院の土地で採れる実は全て神が修道士に恵まれた貴重なもの――それがたとえ一粒の未熟な実でも――だからサムは素直に彼に渡してやればよかった。だがサムは反射的に手をひっこめた。ディーンの反応がみたかったのだ。彼は騎士にからかわれて恥じ入るような男か、それとも立ち向かってくるか? 答えはすぐにわかった。彼は明らかにむっとした顔でサムを見上げ、身を乗り出し手を伸ばしてきた。  サムはさらに後ろに下がり、ディーンは膝で土を蹴って追いすがる。怒りのせいか日差しを長く浴びすぎたせいか――おそらくそのどちらも原因だ――額まで紅潮した顔をまっすぐに向けられて、サムは胸の奥底に歓喜が生まれるのを感じた。  「ハハハ……! ああ……」 するりと言葉がこぼれ出てきた。「ああ、君はなんて美しいんだ!」  ディーンがサムの手を取ったのと、サムがディーンの腕を掴んだのと、どちらが早かったかわからかない。サムはディーンに飛びつかれたと思ったし、ディーンはサムに引き倒されたと思ったかもしれない。どっちにしろ、結果的に彼らはネズの根のくぼみに入ってキスをした。  長いキスをした。サムはディーンの髪の中に手を入れた。やわらかい髪は土のにおいがした。彼の唾液はみずみずしい草の味がした。耳を指で挟んで引っ張ると、ん、ん、と喉を鳴らす音が聞こえた。とても小さな音だったが初めて聞いた彼の”声”だった。もっと聞きたくて、サムは色んなところを触った。耳、うなじ、肩、胸、直接肌に触れたくて、腹に手を伸ばしたところでディーンが抵抗した。  初めは抵抗だとわからなかった。嫌なことは嫌と言ってくれる相手としか寝たことがなかったからだ。ところが強く手首を掴まれて我に返った。  「ごめん!」 サムは慌てて手を離した。「ご、ごめん、本当にごめん! こんなこと……こんなことするべきじゃなかった。僕は……だめだ、どうかしてる」 額を抱えてネズの根に尻を押し付け、できるだけディーンから離れようとした。「僕はどうかしてる。いつもはもっと……何というか……こんなにがっついてなくて、それに君は男で修道院に住んでるし――ま、まあ、そういう問題じゃないけど――ディーン――本当にごめん――ディーン?」  ディーンは泣いていた。静かに一筋の涙を頬に流してサムを見ていた。  「待って!」  またも彼の身の軽さを証明する動きを見届けることになった。納屋のほうに走っていく彼の姿を、今度はとても追う気にはなれなかった。
 夜、クラウス神父の部屋でディーンは跪いていた。  「神父様、私は罪を犯しました。二日ぶりの告解です」  「続けて」  「私は罪を犯しました……」 ディーンはごくりとつばを飲み込んだ。「私は、自らの毒で、ある人を……ある人を、侵してしまったかもしれません」  暖炉の前に置かれたイスに座り、本を読んでいた神父は、鼻にかけていた眼鏡を外してディーンを見た。  「それは由々しきことだ、ディーン。お前の毒はとても強い。いったい誰を毒に侵したのだ。修道士か?」  「いいえ、騎士です」  「騎士! 昨日ここに侵入してきたばかりの、あの狼藉者どものことか? ディーン、おお、ディーン。お前の中の悪魔はいつになったら消えるのだろう」 神父は叩きつけるように本を閉じ、立ち上がった。「新顔とくれば誘惑せずにはおれないのか? どうやって、毒を仕込んだ。どの騎士だ」  「一番背のたかい騎士です。クラウス神父。彼の唇を吸いました。その時、もしかしたら声を出してしまったかもしれません。ほんの少しですが、とても近くにいたので聞こえたかもしれません」  「なんてことだ」  「あと、彼の上に乗ったときに胸を強く圧迫してしまったように思います。骨折がひどくなっていなければいいのですが、あとで治癒師にみてもらうことはできますか?」  「ディーン……」 神父は長い溜息をついた。「ディーン。お前の悪魔は強くなっている。聖餐のワインを飲ませても、毒を薄めることはできなかった。お前と唯一こうして言葉を交わし、お前の毒を一身に受けている私の体はもうボロボロだ」  「そんな」  「これ以上ひどくなれば、告解を聞くことも困難になるかもしれない」  ディーンはうろたえた。「神父様が許しを与えて下さらなければおれは……本物の怪物になってしまいます」  「そうだ。だから私は耐えているのだ。だが今日はこれが限界だ。日に日にお前の毒は強くなっていくからな」 神父はローブを脱いで寝台に横たわった。「頼む、やってくれ、ディーン」  ディーンは頷いて寝台に片膝を乗せると、神父の下衣を下ろして屈み込んだ。現れたペニスを手にとって丁寧に舐め始める。  「私の中からお前の毒を吸い取り、全て飲み込むのだ。一滴でも零せば修道院に毒が広がってしまう。お前のためにもそれは防がなくてはならない」  「はい、神父様」  「黙りなさい! 黙って、もっと強く吸うんだ!」 神父は厳しく叱責したが、不出来な子に向けて優しくアドバイスをくれた。「口の中に、全部入れてしまったほうがいい。強く全体を頬の内側でこすりながら吸ったほうが、毒が出てくるのも早いだろう」  心の中でだけ頷いて、ディーンはいわれた通り吸い続けた。もう何度もやっていることなのに、一度としてうまくやれたことがない。いつも最後には、神父の手を煩わせてしまう。彼は自分のために毒で苦しんでいるのにだ。  今回も毒が出る前に疲れて吸う力が弱まってしまい、神父に手伝ってもらうことになった。  「歯を立てたら地獄行きだからな。お前を地獄に堕としたくはない」 神父は忠告してから、両手でディーンの頭を抱えて上下にゆすった。昨夜はワインを飲んだあとにこれをやったからしばらく目眩が治まらなかった。今日はしらふだし、神父がこうやって手を借してくれるとすぐに終わるのでディーンはほっとした。  硬く張りつめたペニスから熱い液体が出てきた。ディーンは舌を使って慎重に喉の奥に送り、飲み込んでいった。飲み込むときにどうしても少し声が出てしまうが、神父がそれを咎めたことはなかった。ディーンが努力して抑えているのを知っているのだろう。  注意深く全て飲み込んで、それでも以前、もう出ないと思って口を離した瞬間に吹き出てきたことがあったので、もう一度根本から絞るように吸っていき、本当に終わったと確信してからペニスを解放した。神父の体は汗ばんでいて、四肢はぐったりと投げ出されていた。  ディーンはテーブルに置かれた水差しの水を自分の上着にしみこませ、神父の顔をぬぐった。まどろみから覚めたような穏やかな顔で、神父はディーンを見つめた。  「これで私の毒はお前に戻った。私は救われたが、お前は違う。許しを得るために、また私を毒に侵さねばならない。哀れな醜い我が子よ」  そういって背を向け、神父は眠りに入った。その背中をしばし見つめて、ディーンは今夜彼から与えられなかった神の許しが得られるよう、心の中祈った。
 修道士たちが寝静まった夜、一人の騎士が目を覚ました。  「うーん、とうとう地獄に落ちたか……どうりで犬の腐ったような臭いがするはずだ」  「ルーファス!」 ボビーの声でサムは目を覚ました。地下は狭すぎるが、サムがいなければ全員が横になれるとわかったから厨房の隅で寝ていたのだ。  「ルーファス! このアホンダラ、いつまで寝てるつもりだった!」 ボビーが歓喜の声を上げて長い付き合いの騎士を起こしてやっていた。サムはゴブレットに水を注いで彼らのもとへ運んだ。  「サミュエル」   「ルーファス。よく戻ってきた」  皮肉っぽい騎士は眉を上げた。「大げさだな。ちょっと寝てただけだ」 ボビーの手からゴブレットを取り、一口飲んで元気よく咳き込んだあと、周囲を見回す。「それより、ここはどこだ、なんでお前らまで床に寝てる?」  「厨房だよ。他の皆はこの地下で寝てる。修道院長はあまり僕らを歓迎していないみたいだ。いきなり殺されないだけマシだけどね」  「なんてこった。のん気にしすぎだ。食糧をいただいてさっさと出発しよう」  「馬鹿言ってないで寝てろ。死にかけたんだぞ」 起き上がろうとするルーファスをボビーが押し戻す。しかしその腕を掴んで傷ついた騎士は強引に起きようとする。  「おい、寝てろって」  「うるさい、腹が減って寝るどころじゃない!」  サムとボビーは顔を見合わせた。
 三人の騎士は食堂に移動した。一本のロウソクを囲んで、鍋に入れっぱなしのシチューをルーファスが食べるのを見守る。  「で、どうする」 まずそうな顔でルーファスはいう。もっともルーファスは何を食べてもこういう顔だから別にシチューが腐っているわけではない。例外が強い酒を飲む時くらいで、一度密造酒を売って儲けていた商売上手な盗賊団を摘発した時には大喜びだった(酒類は国庫に押収されると知ってからも喜んでいたからサムは心配だった)。  修道院にある酒といえば聖体のワインくらいだろう。ブドウ園を持っている裕福な修道院もあるが、この清貧を絵にしたような辺境の修道院ではワインは貴重品のはずだ。ルーファスが酒に手を出せない環境でよかった。しかし――サムは思い出した。そんな貴重なワインの匂いを、あのみすぼらしい身なりの、納屋で寝ている青年は纏わせていたのだった。  「どうするって?」  ボビーが聞き返す。ルーファスは舌打ちしそうな顔になってスプーンを振った。「これからどこへ行くかってことだよ! 王都に戻って裏切者だか敗走者だかの烙印を押されて処刑されるのはごめんだぜ」  「おい、ルーファス!」  「いいんだ、ボビー。はっきりさせなきゃならないことだ」 サムはロウソクの火を見つめながらいった。「誤魔化してもしょうがない。我々は罠にかけられた。仕掛けたのは王だ。もう王都には戻れない――戻れば僕だけでなく、全員が殺される」  「もとからお前さんの居ない所で生き延びようとは思っていないさ。だが俺とルーファスはともかく……」  「若くて将来有望で王都に恋人がいる私でも同じように思ってるわよ」 チャーリーが食堂に来た。ルーファスの隣に座って平皿に移したシチューを覗き込む。「それおいしい?」  「土まみれのカブよりはな」  「なあ、今の話だが、俺はこう思ってる」 ボビーがいった。「この状況になって初めて言えることだが、王国は腐ってる。王に信念がないせいだ。私欲にまみれた大臣どもが好き放題している。民は仕える主を選べないが、俺たちは違う。もとから誰に忠義を尽くすべきか知っている。もう選んでいる。もうすでに、自分の望む王の下にいる」  「その話、なんだか素敵に聞こえる。続けて」 チャーリーがいう。  「いや、まったく素敵じゃ��い。むしろ危険だ」 サムはいったが、彼の言葉を取り合う者はいなかった。  ゴブレットの水を飲み干してルーファスが頷いた。「サムを王にするって? それはいい。そうしよう。四年前にあの棒みたいなガキに冠を乗せる前にそうしとけばよかったんだ。野生馬を捕まえて藁で編んだ鞍に乗り、折れた剣を振りかざして、七人の騎士で玉座を奪還する!」 そしてまた顔をしかめながらシチューを食べ始める。「俺はそれでもいいよ。少なくとも戦って死ねる」  ボビーがうなった。「これは死ぬ話じゃない。最後まで聞け、ルーファス」  「そうよ、死ぬのは怖くないけど賢く生きたっていい」 チャーリーが細い指でテーブルを叩く。「ねえ、私に案がある。ここの修道院長に相談するのよ。彼から教皇に仲裁を頼んでもらうの。時間を稼いで仲間を集める。探せば腐った大臣の中にもまだウジ虫が沸いてないヤツもいるかもしれない。血を流さなくても王を変える手はある。アダムだって冠の重さから解放されさえすればいい子に戻るわよ」  「それよりウィンチェスター領に戻ってしばらく潜伏すべきだ。あそこの領民は王よりもサムに従う。俺たちを王兵に差し出したりしない」  「だから、それからどうするのかって話よ。潜伏もいいけど結局王と対決するしかないじゃない、このまま森で朽ち果てるか北の隣国に情報を売って保護してもらって本物の売国奴になる他には!」  「ちょっと落ち着け、二人とも。修道士たちが起きてくる。それから僕の計画も聞け」  「ろくな計画じゃない」  「ルーファス! ぼやくな」  「そうよルーファス、死にかけたくせに。黙ってさっさと食べなさいよ」  サムはため息を吐きそうになるのを堪えて皆に宣言した。「王都には僕一人で行く」  「ほらな」とスプーンを放ってルーファスが特大のため息を吐いた。「ろくな計画じゃない」
 行商売りの見習い少年と仲良くなったことがあった。同年代の子と遊ぶのは初めてだったから嬉しくて、ディーンは思わず自分の秘密をもらしてしまった。自分の口で見の上を語る彼に、少年はそんなのはおかしいといった。  「君は神父に騙されているんだよ。君は醜くなんかない、夏の蝶の羽のように美しいよ」  「神様の家で嘘をついちゃいけないよ」  「嘘なんかじゃない。ホントにホントだよ。僕は師匠について色んな場所へ行くけれど、どんなお貴族様の家でだって君みたいな綺麗な人を見たことがないよ」  ディーンは嬉しかった。少年の優しさに感謝した。次の日の朝、出発するはずの行商売りが見習いがいなくなったと騒ぎ出し、修道士たちが探すと、裏の枯れ井戸の底で見つかった。  井戸は淵が朽ちていて、遺体を引き上げることもできなかった。神父は木の板で封印をした。ひと夏の友人は永遠に枯れ井戸の中に閉じ込められた。  修道院は巨大な棺桶だ。  ディーンは二度と友人を作らなかった。
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2020年の選挙を救ったシャドウキャンペーンの秘密の歴史
11月3日の選挙直後に奇妙なことが起こった。何もない。
国は混乱に備えていた。自由党グループは、国中の何百もの抗議を計画して、通りに行くことを誓った。右翼民兵は戦いに身を投じていた。選挙日の前の世論調査では、アメリカ人の75%が暴力について懸念を表明しました。
代わりに、不気味な静けさが降りてきました。トランプ大統領が譲歩を拒否したので、反応は大衆行動ではなくコオロギでした。メディア組織が11月7日にジョーバイデンのレースを呼びかけたとき、人々がトランプの追放をもたらした民主的なプロセスを祝うために米国中の都市を襲ったので、代わりに歓喜が起こりました。
Reactions Throughout the U.S. After Biden Wins Presidential Race in Unprecedented Election共有
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トランプが結果を逆転させようとした中で、2番目の奇妙なことが起こりました。企業のアメリカが彼をオンにしました。何百人もの主要なビジネスリーダーは、その多くがトランプの立候補を支持し、彼の政策を支持しており、彼に譲歩を求めた。大統領にとって、何かがおかしいと感じた。トランプ氏は12月2日、「すべてが非常に奇妙でした。選挙後数日以内に、多くの主要な州がまだ数えられているにもかかわらず、勝者に油を注ぐための組織的な努力を目の当たりにしました。」
ある意味、トランプは正しかった。
舞台裏で陰謀が繰り広げられ、抗議行動を抑制し、CEOからの抵抗を調整した。両方の驚きは、左翼活動家とビジネスの巨人の間の非公式の同盟の結果でした。協定は、選挙日に発表された全米商工会議所とAFL-CIOの��潔であまり知られていない共同声明で正式化されました。双方は、それを一種の暗黙の交渉と見なすようになり、夏の大規模な、時には破壊的な人種的正義の抗議に触発され、労働力が資本の力と一緒になって平和を維持し、トランプの民主主義への攻撃に反対した。 。
ビジネスと労働の間の握手は、選挙を保護するための広大な党派横断キャンペーンの1つの要素にすぎませんでした。投票に勝つことではなく、自由で公正、信頼でき、腐敗しないことを保証するための並外れた影の努力です。一年以上の間、彼らが無慈悲なパンデミックと自主的に傾倒した大統領からの同時攻撃を受けたとき、緩く組織された工作員の連合はアメリカの機関を支えるためにスクランブルをかけました。この活動の多くは左側で行われましたが、バイデンキャンペーンとは別のものであり、イデオロギーの境界を越え、無党派で保守的な俳優による重要な貢献がありました。影の運動家が必死に止めようとしたシナリオは、トランプの勝利ではありませんでした。それは非常に悲惨な選挙だったので、結果はまったく識別できませんでした、
彼らの仕事は選挙のあらゆる側面に影響を与えました。彼らは州に投票システムと法律を変更させ、公的および私的資金で数億ドルを確保するのを助けました。彼らは有権者抑圧訴訟をかわし、投票労働者の軍隊を募集し、何百万人もの人々に初めて郵送で投票させた。彼らはソーシャルメディア企業に偽情報に対してより厳しい方針を取るよう圧力をかけ、バイラルスミアと戦うためにデータ主導の戦略を使用することに成功しました。彼らは、アメリカ人が投票数が数日または数週間にわたってどのように展開するかを理解するのを助け、トランプの陰謀説と勝利の誤った主張がより多くの牽引力を得るのを防ぐ全国的な啓発キャンペーンを実行しました。選挙日の後、彼らはトランプが結果を覆すことができないことを確認するためにすべての圧力ポイントを監視しました。
トランプと彼の同盟国は選挙を台無しにするために彼ら自身のキャンペーンを実行していたからです。大統領は何ヶ月もかけて、郵便投票は民主党の陰謀であり、選挙は「不正」であると主張した。州レベルの彼の手下はそれらの使用を阻止しようとしましたが、彼の弁護士は投票をより困難にするために何十もの偽の訴訟を提起しました。これは共和党の抑圧的な戦術の遺産の強化です。選挙の前に、トランプは正当な投票数をブロックすることを計画しました。そして、彼は11月3日以降の数か月間、敗訴した選挙を盗もうとして、訴訟や陰謀説、州や地方の役人への圧力、そして最終的には致命的な暴力に終わった1月6日の集会に支持者の軍隊を召喚しました。国会議事堂で。
民主主義運動家たちは警戒しながら見守っていた。「毎週、国が解き放たれる本当に危険な瞬間を経験することなく、この選挙をやめようと奮闘しているように感じました」と、超党派の選挙保護の調整を助けたトランプ支持者である元共和党代表ザック・ワンプは言います評議会。「振り返ってみると、これはかなりうまくいったと言えますが、9月と10月にそれが当てはまるかどうかはまったくわかりませんでした。」
11月7日にレースが呼び出された後のフィラデルフィアのバイデンファン ミシェル・グスタフソンfor TIME
これは、2020年の選挙を救うための陰謀の裏話であり、グループの内部活動へのアクセス、これまでに見たことのない文書、および政治的スペクトル全体からの数十人の関係者へのインタビューに基づいています。これは、前例のない、創造的で断固としたキャンペーンの物語であり、その成功は、国がどれほど災害に近づいたかも明らかにしています。「選挙の適切な結果を妨害するすべての試みは打ち負かされました」と、無党派の法の支配擁護団体であるProtectDemocracyの共同創設者であるIanBassinは言います。「しかし、それが偶然に起こったのではないことを国が理解することは非常に重要です。システムは魔法のように機能しませんでした。民主主義は自己実行的ではありません。」
だからこそ、参加者は2020年の選挙の秘密の歴史を伝えたいのです。それは妄想的な熱の夢のように聞こえますが、業界やイデオロギーにまたがる強力な人々の資金が豊富な陰謀団が舞台裏で協力して認識に影響を与え、ルールを変更します。と法律、メディア報道を操縦し、情報の流れを制御します。彼らは選挙を不正に行っていませんでした。彼らはそれを強化していました。そして彼らは、アメリカの民主主義が持続することを確実にするために、国民がシステムの脆弱性を理解する必要があると信じています。
建築家
2019年の秋のいつか、マイクポドホルツァーは選挙が災害に向かっていると確信し、それを保護することを決意しました。
これは彼の通常の権限ではありませんでした。ほぼ四半世紀の間、米国最大の組合連合であるAFL-CIOの会長の上級顧問であるポドホルツァーは、その支持された候補者が選挙に勝つのを助けるために最新の戦術とデータを整理してきました。控えめでプロフェ���ショナルな彼は、ケーブルニュースに登場するような髪の毛が生えた「政治戦略家」ではありません。民主主義のインサイダーの間では、彼はここ数十年の政治技術における最大の進歩の背後にある魔法使いとして知られています。彼が2000年代初頭に集めたリベラルな戦略家のグループは、政治運動に科学的方法を適用する秘密の会社であるアナリスト研究所の設立につながりました。彼はまた、主要なプログレッシブデータ会社であるCatalistの設立にも関わっていました。
ポドホルツァーは、「政治戦略」についてのワシントンでの終わりのないおしゃべりは、変化が実際にどのように行われるかとはほとんど関係がないと信じています。「私の基本的な政治観は、それを考えすぎたり、一般的なフレームワーク全体を飲み込んだりしなければ、すべてがかなり明白だということです」と彼はかつて書いた。「その後、執拗にあなたの仮定を特定し、それらに挑戦してください。」Podhorzerは、そのアプローチをすべてに適用します。DC郊外で、今は大人の息子のリトルリーグチームを指導したとき、彼はほとんどのピッチでスイングしないように男の子を訓練しました。これは、彼らと相手の両親の両方を激怒させたが、チームに勝った一連のチャンピオンシップ。
2016年のトランプの選挙は、かつてAFL-CIOを支配していたブルーカラーの白人有権者の間での彼の異常な強さのおかげで、ポドホルツァーに有権者の行動についての彼の仮定に疑問を投げかけました。彼は毎週数を計算するメモを小さな同盟国に回覧し、DCで戦略セッションを主催し始めましたが、選挙自体について心配し始めたとき、彼は妄想的に見えたくありませんでした。彼が2019年10月のニュースレターで懸念を紹介したのは、数か月の調査の後でした。大統領自身が選挙を妨害しようとした状況では、データ、分析、投票の通常のツールでは不十分でした。「私たちの計画のほとんどは、選挙日を通して私たちを連れて行きます」と彼は言いました。「しかし、私たちは2つの最も可能性の高い結果に備えていません」-トランプは負けて譲歩を拒否し、そしてトランプは、主要な州の投票プロセスを破壊することによって選挙人団に勝ちました(人気投票を失ったにもかかわらず)。「私たちは、この選挙を体系的に「レッドチーム」にする必要があります。そうすることで、私たちが直面するであろう最悪の事態を予測し、計画することができます。」
これらの用語で考えているのはポドホルツァーだけではないことが判明しました。彼は力を合わせたいと熱望している他の人たちから聞き始めました。「レジスタンス」組織の連合であるファイトバックテーブルは、選挙の争いの可能性についてシナリオプランニングを開始し、地方および全国レベルのリベラルな活動家を彼らが民主主義防衛連合と呼んでいるものに集めました。選挙権と公民権団体は警鐘を鳴らしていた。元選出された役人のグループは、トランプが悪用するのではないかと恐れている緊急権力を調査していました。Protect Democracyは、超党派の選挙危機タスクフォースを結成していました。「大声で言うと、人々は同意したことがわかりました」とポドホルツァーは言います。「そしてそれは勢いを増し始めました。」
彼は何ヶ月もシナリオを熟考し、専門家と話をしました。トランプを危険な独裁者と見なしたリベラル派を見つけるのは難しいことではありませんでしたが、ポドホルツァーはヒステリーを避けるように注意しました。彼が知りたかったのは、アメリカの民主主義がどのように死にかけているのかではなく、それがどのように生き続けられるのかということでした。米国と民主主義への理解を失った国々との主な違いは、アメリカの分散型選挙制度は一挙に装備することができなかったということでした。それはそれを支える機会を提供しました。
同盟
3月3日、ポドホルツァーは「2020年選挙への脅威」というタイトルの3ページの機密メモを起草しました。「トランプは、これは公正な選挙ではないこと、そして彼自身の再選以外は「偽物」で不正なものとして拒否することを明らかにした」と彼は書いた。「11月3日、メディアが別の方法で報道した場合、彼は右翼の情報システムを使用して彼の物語を確立し、支持者に抗議するよう促します。」このメモは、有権者への攻撃、選挙管理への攻撃、トランプの政敵への攻撃、そして「選挙の結果を逆転させるための努力」という4つのカテゴリーの課題を示しました。
その後、COVID-19は予備選挙シーズンの最盛期に噴火しました。通常の投票方法は、投票所に通常スタッフを配置する有権者やほとんどの高齢のボランティアにとってもはや安全ではありませんでした。しかし、郵便投票に対するトランプの十字軍によって激化した政治的意見の不一致により、一部の州では不在者投票を容易にし、管轄区域はそれらの投票を適時に数えることができませんでした。混沌が続いた。オハイオ州は、プライマリーへの直接投票を停止し、投票率はごくわずかになりました。ウィスコンシン州の民主党の黒人人口が非常に多いミルウォーキーでの投票所労働者の不足により、182か所から5か所の投票所が残った。ニューヨークでは開票に1か月以上かかった。
突然、11月のメルトダウンの可能性が明らかになりました。DC郊外の彼のアパートで、ポドホルツァーは彼の台所のテーブルで彼のラップトップから働き始め、進歩的な宇宙全体の彼の連絡先のネットワークで1日何時間も連続したズーム会議を開催しました。プランドペアレントフッドやグリーンピースのような制度的左翼。IndivisibleやMoveOnなどのレジスタンスグループ。プログレッシブデータオタクとストラテジスト、ドナーと財団の代表者、州レベルの草の根組織者、人種平等活動家など。
4月、Podhorzerは毎週2時間半のZoomのホストを開始しました。それは、広告が機能していたものからメッセージング、法的戦略に至るまで、すべてについての一連の5分間の迅速なプレゼンテーションを中心に構成されていました。招待制の集会はすぐに数百人を魅了し、困難な進歩的運動のための珍しい共有知識の基盤を作りました。「左についてゴミを話す危険を冒して、良い情報共有はあまりありません」と、世論調査でテストされたメッセージングガイダンスがグループのアプローチを形作ったPodhorzerの親友であるAnatShenker-Osorioは言います。「ここでは発明されていない症候群がたくさんあります。そこでは、人々がそれを思い付かなかった場合、人々は良い考えを考えません。」
会合は、重複する目標を共有したが、通常は協調して機能しなかった、左側にいる一連の工作員の銀河中心となった。このグループには名前もリーダーも階層もありませんでしたが、異種のアクターの同期を維持していました。「ポッドは、移動インフラストラクチャのさまざまな部分の通信と調整を維持する上で重要な舞台裏の役割を果たしました」と、働く家族達の党のナショナルディレクターであるモーリスミッチェルは述べています。「あなたには訴訟スペース、組織スペース、Wに焦点を合わせた政治家がいて、彼らの戦略は常に一致しているわけではありません。彼はこのエコシステムが連携することを許可しました。」
選挙を守るには、前例のない規模の努力が必要です。2020年が進むにつれ、議会、シリコンバレー、そして国の州議会議事堂にまで拡大しました。それは夏の人種的正義の抗議からエネルギーを引き出し、その指導者の多くは自由同盟の重要な部分でした。そして最終的には通路を越えて、民主主義への攻撃に愕然としたトランプに懐疑的な共和党員の世界に到達しました。
投票の保護
最初の課題は、パンデミックの真っ只中にある、アメリカの不安定な選挙インフラストラクチャの見直しでした。選挙を管理する何千人もの地元の、ほとんど無党派の役人にとって、最も緊急の必要性はお金でした。彼らはマスク、手袋、手指消毒剤などの保護具を必要としていました。彼らは、不在者投票ができることを人々に知らせるはがきの代金を支払う必要がありました。州によっては、すべての有権者に投票用紙を郵送する必要がありました。投票用紙を処理するには、追加のスタッフとスキャナーが必要でした。
3月、活動家は議会にCOVID救済金を選挙管理に振り向けるよう訴えた。市民と人権に関するリーダーシップ会議が主導し、150以上の組織が、20億ドルの選挙資金を求める議会のすべての議員に宛てた書簡に署名しました。それは幾分成功しました。その月の後半に可決されたCARES法には、州の選挙管理者への4億ドルの助成金が含まれていました。しかし、救援資金の次のトランシェはその数に追加されませんでした。それは十分ではありませんでした。
民間の慈善活動が違反に踏み込んだ。さまざまな財団が選挙管理資金に数千万ドルを寄付しました。チャンザッカーバーグイニシアチブは3億ドルをチップしました。「2,500人の地方選挙職員が彼らのニーズを満たすために慈善助成金を申請することを余儀なくされたのは連邦レベルでの失敗でした」とホームインスティテュートで無党派の全国投票を率いる元デンバー選挙職員であるアンバーマクレイノルズは言います。
マクレイノルズの2年前の組織は、適応に苦労している国の情報センターになりました。研究所は、両当事者から国務長官に、使用するベンダーからドロップボックスの配置方法まで、すべてに関する技術的なアドバイスを提供しました。地方公務員は選挙情報の最も信頼できる情報源ですが、報道官を雇う余裕のある人はほとんどいないため、研究所はコミュニケーションツールキットを配布しました。ポドホルツァーのグループへのプレゼンテーションで、マクレイノルズは投票所の列を短くし、選挙危機を防ぐための不在者投票の重要性を詳しく述べました。
研究所の仕事は37の州とDCが郵便投票を強化するのを助けました。しかし、人々が利用しなければ、それはあまり価値がありません。課題の一部はロジスティックでした。州ごとに、投票をいつどのように要求して返送するかについて異なるルールがあります。投票者参加センターは、通常の年には戸別訪問を展開する地元のグループが投票を行うのを支援していましたが、代わりに4月と5月にフォーカスグループを実施して、人々が郵送で投票できるようにする方法を見つけました。8月と9月に、主要州の1,500万人に投票用紙を送付し、そのうち460万人が投票用紙を返却しました。郵送やデジタル広告で、グループは人々に選挙日を待たないように促した。「私たちが17年間行ってきたすべての作業は、民主主義を人々の玄関口にもたらすこの瞬間のために構築されました」と、センターのCEOであるTomLopachは述べています。
努力は、いくつかのコミュニティで高まった懐疑論を克服しなければなりませんでした。多くの黒人有権者は、フランチャイズを直接行使することを好むか、メールを信用しませんでした。国の公民権団体は地元の組織と協力して、これが自分の投票が確実にカウントされるようにするための最良の方法であるということを知らせました。たとえば、フィラデルフィアでは、支持者がマスク、手指消毒剤、情報パンフレットを含む「投票安全キット」を配布しました。「これは安全で信頼性が高く、信頼できるというメッセージを発信する必要がありました」と、All Voting IsLocalのHannahFried氏は言います。
同時に、民主党の弁護士は、選挙前の訴訟の歴史的な流れと戦いました。パンデミックは、法廷での当事者の通常の絡み合いを激化させた。しかし、弁護士は他の何かにも気づきました。ブレナンセンターの投票権専門家であるウェンディ・ワイザー氏は、「トランプキャンペーンによって提起された、郵便投票に疑問を投げかけるためのより広範なキャンペーンを伴う訴訟は、斬新な主張を行い、裁判所がこれまで受け入れたことのない理論を使用していた」と述べています。 NYUの正義のために。「彼らは、法的結果を達成するのではなく、メッセージを送信するように設計された訴訟のように読んでいます。」
結局、2020年には有権者のほぼ半数が郵送で投票しました。これは事実上、人々の投票方法に革命をもたらしました。約4分の1が期日前投票を行いました。投票者の4分の1だけが、従来の方法で投票を行います。選挙日に直接投票します。
偽情報の防御
虚偽の情報を広める悪意のある人物は目新しいことではありません。何十年もの間、選挙は選挙が再スケジュールされたと主張する匿名の電話から候補者の家族についての厄介な塗抹標本を広めるチラシまで、キャンペーンはすべてに取り組んできました。しかし、トランプの嘘と陰謀説、ソーシャルメディアのバイラルな力、そして外国のメドラーの関与は、偽情報を2020年の投票に対するより広く、より深い脅威にしました。
カタリストを共同設立したベテ��ンの進歩的な工作員であるローラ・クインは、数年前にこの問題の研究を始めました。彼女は、オンラインで偽情報を追跡し、それと戦う方法を見つけようとした、これまで公に議論されたことのない名前のない秘密のプロジェクトを操縦しました。1つのコンポーネントは、他の方法では気付かれずに広がる可能性のある危険な嘘を追跡していました。次に、研究者は、情報源を追跡して公開するために、キャンペーン担当者またはメディアに情報を提供しました。
しかし、クインの研究からの最も重要なポイントは、有毒なコンテンツを扱うことはそれを悪化させるだけだったということでした。「攻撃されたときの本能は、押し戻して、「これは真実ではない」と言って声をかけることです」とクインは言います。「しかし、エンゲージメントが増えるほど、プラットフォームはそれを後押しします。アルゴリズムはそれを次のように読み取ります。 'ああ、これは人気があります。人々はそれをもっと望んでいます。」
解決策は、偽情報を広めるコンテンツやアカウントを削除することと、そもそもそれをより積極的に取り締まることの両方によって、プラットフォームにルールを適用するよう圧力をかけることであると彼女は結論付けました。「プラットフォームには特定の種類の悪意のある動作に対するポリシーがありますが、それらを強制していません」と彼女は言います。
クインの研究は、ソーシャルメディアプラットフォームをより厳しい方向に向かわせることを提唱する支持者に弾薬を与えました。2019年11月、マーク・ザッカーバーグは9人の公民権指導者を自宅での夕食会に招待しました。そこでは、すでにチェックされずに広がっている選挙関連の虚偽の危険性について警告しました。出席した市民と人権に関するリーダーシップ会議の社長兼最高経営責任者(CEO)であるバニタグプタは、次のように述べています。夕食はツイッターのCEO、ジャック・ドーシーらとも会った。(グプタはバイデン大統領から司法次官に指名されました。)「苦労しましたが、彼らが問題を理解するようになりました。十分でしたか?おそらくそうではありません。思ったより遅かったですか?はい。
言葉を広める
悪い情報と戦うだけでなく、急速に変化する選挙プロセスを説明する必要がありました。トランプ氏の発言にもかかわらず、郵送による投票は詐欺の影響を受けにくく、一部の州が選挙の夜に開票を終えなければ正常であるということを有権者が理解することが重要でした。
民主党の元下院の指導者であるディック・ゲッパートは、強力なロビイストになり、1つの連合を率いた。「私たちは、主に一般市民へのメッセージだけでなく、国務長官、司法長官、知事などの地方公務員との話し合いを目的とした、元選出された公務員、内閣秘書、軍の指導者などの本当に超党派のグループを作りたかったのです。嵐の目-私たちが助けたいと彼らに知らせるために」と、民間部門で彼の連絡先を働いて努力の後ろに2000万ドルを置いたジェファードは言います。
元GOP下院議員であるWampは、無党派の改革グループであるIssue Oneを通じて、共和党を結集させました。「私たちは、自由で公正な選挙を構成するものの周りに、超党派の統一要素をもたらすべきだと考えました」とワンプ氏は言います。選挙の完全性に関する国民議会の22人の民主党員と22人の共和党員は、少なくとも週に1回ズームで会合した。彼らは6つの州で広告を掲載し、声明を発表し、記事を書き、潜在的な問題について地方公務員に警告しました。「これが正直であるという考えに基づいて評議会で奉仕することに同意したトランプ支持者が熱狂的でした」とWampは言います。これは、トランプが勝ったときにリベラル派を説得するためにも同じくらい重要になるだろうと彼は彼らに言った。「どちらの方法でも、私たちは一緒に固執するつもりです。」
Voting Rights LabとIntoActionは、州固有のミームとグラフィックを作成し、電子メール、テキスト、Twitter、Facebook、Instagram、TikTokで広め、すべての投票をカウントするように促しました。合わせて、10億回以上視聴されました。Protect Democracyの選挙タスクフォースは、政治的スペクトル全体で著名な専門家とのレポートを発行し、メディアブリーフィングを開催しました。その結果、潜在的な選挙問題が広く報道され、トランプの虚偽の主張が事実確認されました。組織の追跡調査では、メッセージが聞かれていることがわかりました。選挙の夜に勝者を知ることを期待していなかった一般市民の割合は、10月下旬までに70%を超えるまで徐々に増加しました。過半数はまた、長期のカウントは問題の兆候ではないと信じていました。「私たちはトランプが何をしようとしているのかを正確に知っていました。彼は、民主党が郵送で投票し、共和党が直接投票したという事実を利用して、自分が先を行っているように見せ、勝利を主張し、郵送による投票は不正であると述べ、彼らを捨てさせようとした」とプロテクトは言う民主党の盆地。事前に国民の期待を設定することは、それらの嘘を弱めるのに役立ちました。
アンバー・マクレイノルズ、ザック・ワンプ、モーリス・ミッチェル レイチェル・ウールフfor TIME; Erik Schelzig-AP / Shutterstock; Holly Pickett—ニューヨークタイムズ/ Redux
同盟は、Podhorzer'sZoomsで発表されたShenker-Osorioの研究から共通のテーマを採用しました。調査によると、投票が重要であると思わない場合や、投票が面倒になることを恐れている場合は、参加する可能性がはるかに低くなります。選挙シーズンを通して、ポドホルツァーのグループのメンバーは、有権者の脅迫の事件を最小限に抑え、トランプが譲歩を拒否すると予想されることについてのリベラルなヒステリーの高まりを抑えました。彼らは、彼らを関与させることによって虚偽の主張を増幅したり、不正なゲームを提案することによって人々を投票から遠ざけたりしたくありませんでした。「あなたが言うとき、 『これらの詐欺の主張は偽物です』、人々が聞くのは 『詐欺』です」とシェンカー・オソリオは言います。「私たちが選挙前の調査で見たのは、トランプの力を再確認したり、権威主義者として彼をキャストしたりすると、人々の投票意欲が低下したということでした。」
一方、ポドホルツァーは、世論調査がトランプの支持を過小評価していることを知っているすべての人に警告していた。選挙日の前にポドホルツァーと話をした主要なネットワークの政治ユニットのメンバーによると、彼が選挙を呼ぶメディア組織と共有したデータは、投票が行われたときに何が起こっていたかを理解するのに「非常に役立ちました」。ほとんどのアナリストは、主要な戦場に「青方偏移」があることを認識していました。これは、郵送投票の集計によって引き起こされた民主党への投票の急増ですが、選挙日にトランプがどれほど優れているかを理解していませんでした。 。「不在者投票の規模と州ごとの差異を文書化できることが不可欠でした」とアナリストは言います。
人々の力
5月のジョージフロイドの殺害によって引き起こされた人種的正義の反乱は、主に政治運動ではありませんでした。それを導くのを助けた主催者は、それが政治家によって採用されることを許さずに選挙のためにその勢いを利用したかった。それらの主催者の多くは、民主主義防衛連合と提携した激戦州の活動家から、黒人生活運動で主導的な役割を果たしている組織まで、ポドホルツァーのネットワークの一部でした。
人々の声が確実に聞こえるようにする最善の方法は、投票する能力を保護することであると彼らは決定しました。「私たちは、伝統的な選挙保護地域を補完するだけでなく、警察への通報に依存しないプログラムについて考え始めました」と、働く家族達の党の全国組織ディレクターであるネリーニスタンプは言います。彼らは、従来の世論調査ウォッチャーとは異なり、エスカレーション解除技術の訓練を受けた「選挙擁護者」の力を生み出しました。期日前投票中および選挙日に、彼らは都市部の有権者の列を「投票への喜び」の努力で囲み、投票をストリートパーティーに変えました。黒人の主催者はまた、投票所が彼らのコミュニティで開かれたままであることを確実にするために何千人もの投票所労働者を募集しました。
夏の蜂起は、人々の力が大きな影響を与える可能性があることを示していました。トランプが選挙を盗もうとした場合、活動家はデモを再演する準備を始めた。「トランプが選挙に干渉した場合、アメリカ人は広範な抗議を計画している」とロイターは10月に報告した。そのような多くの話の1つである。Women'sMarchからSierraClub、Color of Change、Democrats.comからDemocratic Socialists of Americaまで、150を超えるリベラルなグループが「ProtecttheResults」連合に参加しました。グループの現在は機能していないウェブサイトには、400の選挙後のデモンストレーションがリストされた地図があり、11月4日からテキストメッセージでアクティブになります。
ストレンジベッドフェロー
選挙日の約1週間前に、ポドホルツァーは予期しないメッセージを受け取りました。全米商工会議所が話したかったのです。
AFL-CIOと商工会議所には長い敵意の歴史があります。どちらの組織も明らかに党派的ではありませんが、影響力のあるビジネスロビーは、国の組合が数億ドルを民主党に注ぎ込んでいるように、共和党のキャンペーンに数億ドルを注ぎ込んでいます。一方は労働であり、他方は経営者であり、権力と資源をめぐる永遠の闘争に閉じ込められています。
しかし、舞台裏では、経済界は選挙とその余波がどのように展開するかについての独自の不安な議論に従事していました。夏の人種的正義の抗議は、事業主にも信号を送りました:経済を混乱させる市民の混乱の可能性。商工会議所の副大統領兼最高政策責任者であるニール・ブラッドリーは、次のように述べています。これらの懸念により、商工会議所は、ワシントンを拠点とするCEOのグループであるビジネス円卓会議、および製造業者、卸売業者、小売業者の協会との選挙前声明を発表し、投票が数えられるにつれて忍耐と自信を求めました。
しかし、ブラッドリーはより広く、より超党派的なメッセージを送りたかったのです。彼は仲介者を通じてポドホルツァーに連絡を取り、両方の男性は名前を挙げなかった。彼らのありそうもない同盟が強力であることに同意して、彼らは公正で平和な選挙への彼らの組織の共通のコミットメントを誓約する共同声明について議論し始めました。彼らは慎重に言葉を選び、最大の影響を与えるために声明の発表を予定しました。それが完成するにつれ、クリスチャンの指導者たちは参加への関心を示し、その範囲をさらに広げました。
この声明は、選挙日に、商工会議所のCEOであるトーマスドノヒュー、AFL-CIOのリチャードトルムカ会長、および全米福音派協会と全米アフリカ系アメリカ人聖職者ネットワークの長の名前で発表されました。「選挙管理人には、適用法に従ってすべての投票を数えるためのスペースと時間を与えることが不可欠です」と述べています。「私たちは、メディア、候補者、そしてアメリカの人々に、通常よりも時間がかかるとしても、私たちのシステムへのプロセスと信頼に忍耐を行使するよう呼びかけます。」グループはさらに、「投票の上下で望ましい結果に常に同意するとは限らないが、暴力、脅迫、または国家としての弱体化をもたらすその他の戦術なしにアメリカの民主的プロセスを進めることを求めて団結している」と付け加えた。
見せて、立って
選挙の夜は、多くの民主党員が絶望したことから始まりました。トランプは選挙前の世論調査に先んじて走り、フロリダ、オハイオ、テキサスを簡単に勝ち取り、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアを呼び寄せることができなかった。しかし、私がその夜彼に話しかけたとき、ポドホルツァーは動揺していませんでした。リターンは彼のモデリングと正確に一致していました。彼は何週間もの間、トランプの投票率が急上昇していると警告していた。数字がドリブルしたとき、彼はすべての票が数えられている限り、トランプは負けるだろうと言うことができました。
午後11時のズームコールのために集まった自由同盟。数百人が参加しました。多くの人がびっくりしていました。「私とその瞬間のチームにとって、私たちがすでに知っていたことが真実であると地に足をつけるのを助けることは本当に重要でした」と民主主義防衛連合のディレクターであるアンジェラ・ピープルズは言います。ポドホルツァーは、勝利が手元にあることをグループに示すためのデータを提示しました。
彼が話している間、フォックスニュースはアリゾナにバイデンを呼んでみんなを驚かせた。啓���キャンペーンはうまくいきました。テレビのアンカーは、注意を促し、投票数を正確に組み立てるために後ろ向きに曲がっていました。次に、問題は次に何をすべきかということになりました。
その後の会話は、抗議戦略を担当する活動家が率いる難しい会話でした。「私たちは、大勢の人を通りに移動させるのに適切な時期がいつであるかを意識したかったのです」とピープルズは言います。彼らが力を発揮することを熱望していたのと同じくらい、すぐに動員することは裏目に出て人々を危険にさらす可能性がありました。激しい衝突に発展した抗議は、トランプが夏の間持っていたように連邦捜査官または軍隊を送る口実を与えるでしょう。そして、同盟はトランプと戦い続けることによってトランプの不満を高めるのではなく、人々が話したメッセージを送りたかったのです。
それで、言葉は出ました:立ちなさい。Protect the Resultsは、「今日、全国の動員ネットワーク全体を活性化するのではなく、必要に応じて活性化する準備ができている」と発表しました。Twitterで、憤慨した進歩主義者たちは何が起こっているのか疑問に思いました。なぜ誰もトランプのクーデターを止めようとしなかったのですか?すべての抗議はどこにありましたか?
ポドホルツァーは、活動家たちの抑制を認めています。「彼らは水曜日に街頭に出る準備をするのにとても多くの時間を費やしました。しかし、彼らはそれをしました」と彼は言います。「水曜日から金曜日まで、誰もが予想していたようなアンティファ対プラウドボーイズの事件は1件もありませんでした。そしてそれが実現しなかったとき、私はトランプキャンペーンがバックアップ計画を持っていたとは思わない。」
活動家たちは、週末のお祝いに向けて、プロテクト・ザ・リザルトの抗議行動の方向を変えました。「私たちの自信を持って彼らの偽情報に対抗し、祝う準備をしてください」と、11月6日金曜日にリベラル同盟に提示されたメッセージガイダンスShenker-Osorioを読んでください。雰囲気:自信があり、前向きで、統一されています。受動的ではなく、不安です。」候補者ではなく、有権者が物語の主人公になるでしょう。
祝賀会の予定日は、11月7日に行われた選挙と偶然に一致しました。フィラデルフィアの街で踊っている活動家は、トランプキャンペーンの記者会見の試みでビヨンセを爆破しました。トランパーズの次のコンファブは、市内中心部の外にあるフォーシーズンズトータルランドスケープに予定されていましたが、活動家は偶然ではないと信じています。「フィラデルフィアの人々はフィラデルフィアの通りを所有していました」と、働く家族達の党のミッチェルは鳴きます。「私たちは、民主主義の楽しいお祝いと彼らのピエロのショーを対比することによって、彼らをばかげているように見せました。」
投票は数えられていた。トランプは負けていた。しかし、戦いは終わっていませんでした。
勝利への5つのステップ
ポドホルツァーのプレゼンテーションでは、投票に勝つことは選挙に勝つための最初のステップにすぎませんでした。その後、カウントを獲得し、認定を獲得し、選挙人団を獲得し、移行を獲得しました。これは通常は手続きですが、トランプが混乱の機会と見なすと彼は知っていました。地元の共和党員に対するトランプの圧力が危険なほど働きに近づき、自由主義的で保守的な民主化推進勢力がそれに対抗するために加わったミシガン州ほど、それが明白な場所はありません。
デトロイトでの選挙の夜の午後10時頃、大量のテキストがArt ReyesIIIの電話を照らしました。多数の共和党選挙監視員がTCFセンターに到着し、そこで投票が集計されていました。彼らは開票台を混雑させ、マスクの着用を拒否し、ほとんどが黒人労働者をやじていた。We the PeopleMichiganを率いるフリント出身のReyesはこれを期待していました。何ヶ月もの間、保守的なグループは都市の不正投票について疑惑を投げかけていました。「言葉は、 『彼らは選挙を盗むつもりです。デトロイトでは、投票が行われるずっと前に詐欺が発生するでしょう」とレイエスは言います。
トランプ支持者は、11月4日にデトロイトのTCFセンターで投票数を混乱させようとしています エレインクロミー—ゲッティイメージズ
彼はアリーナに行き、彼のネットワークに言葉を送りました。45分以内に、数十の援軍が到着しました。彼らが内部の共和党のオブザーバーにカウンターウェイトを提供するためにアリーナに入ったとき、レイエスは彼らの携帯電話番号を削除し、それらを大規模なテキストチェーンに追加しました。デトロイトウィルブリーズの人種平等活動家は、フェムズフォーデムズの郊外の女性や地元の選出された役人と一緒に働きました。レイエスは午前3時に出発し、テキストチェーンを障害者活動家に引き渡しました。
彼らが選挙認証プロセスのステップを計画したとき、活動家は人々の決定権を前景にし、彼らの声を聞くことを要求し、黒人デトロイトの権利を剥奪することの人種的影響に注意を喚起する戦略に落ち着きました。彼らはウェイン郡の選挙運動委員会の11月17日の認証会議にメッセージの証言を殺到した。トランプのツイートにもかかわらず、共和党の理事会メンバーはデトロイトの投票を証明した。
選挙管理委員会は1つの圧力ポイントでした。もう1つは、共和党が管理する立法府で、トランプは選挙の無効を宣言し、自分の選挙人を任命できると信じていました。そのため、大統領は11月20日、ミシガン州議会の共和党指導者であるリー・チャットフィールド下院議長とマイク・シャーキー上院議長をワシントンに招待した。
それは危険な瞬間でした。チャットフィールドとシャーキーがトランプの入札を行うことに同意した場合、他の州の共和党員も同様にいじめられる可能性があります。「私は物事��おかしくなるのではないかと心配していました」と元ミシガン州共和党の事務局長であるジェフ・ティマーは反トランプ活動家になりました。Norm Eisenは、それを選挙全体の「最も恐ろしい瞬間」と表現しています。
民主主義の擁護者たちは、全面的な報道を開始した。Protect Democracyの地元の連絡先は、議員の個人的および政治的動機を調査しました。Issue Oneは、ランシングでテレビ広告を掲載しました。商工会議所のブラッドリーは、プロセスを綿密に監視していました。元共和党議員のワンプは、元同僚のマイク・ロジャースに電話をかけた。マイク・ロジャースは、有権者の意志を尊重するよう当局に促すデトロイト新聞の論説を書いた。ミシガン州の元知事3人、共和党のジョン・エングラー、リック・スナイダー、民主党のジェニファー・グランホルムは、ミシガン州の選挙人票をホワイトハウスからの圧力から解放するよう共同で求めた。元ビジネス円卓会議の責任者であるエングラーは、影響力のあるドナーや、議員に個人的に圧力をかけることができる共和党の長老​​政治家に電話をかけた。
民主化推進勢力は、共和党全国委員会の議長であるロナ・マクダニエルと、元教育長官で億万長者のGOPドナーのメンバーであるベッツィ・デヴォスの同盟国によって支配されているミシガン州のトランピッドGOPに反対しました。11月18日の彼のチームとの電話で、バッシンは彼の側の圧力がトランプが提供できるものに匹敵しないことを発散した。「もちろん、彼は彼らに何かを提供しようとします」とバッサンは考えたことを思い出します。「宇宙軍の長!どこへでも大使!にんじんを提供することでそれと競争することはできません。スティックが必要です。」
トランプが個人的な好意と引き換えに何かを提供した場合、それは賄賂を構成する可能性が高い、とバッシンは推論した。彼はミシガン大学の法学教授であるリチャード・プリムスに電話をかけて、プリムスが同意し、公に議論するかどうかを確認した。プリムス氏は、会議自体は不適切だと考え、州の司法長官である民主党員は調査せざるを得ないだろうと警告するポリティコの論説に取り掛かったと述べた。記事が11月19日に投稿されたとき、司法長官のコミュニケーションディレクターはそれをツイートしました。Protect Democracyはすぐに、議員が翌日トランプとの会合に弁護士を連れてくることを計画しているという知らせを受けました。
レイエスの活動家は、フライトスケジュールをスキャンし、シャーキーのDCへの旅の両端で空港に群がり、議員が精査されていることを強調しました。会談後、二人は大統領に彼らの構成員にCOVID救済を提供するよう圧力をかけ、選挙プロセスに何の役割も見られないと彼に知らせた。それから彼らはペンシルバニアアベニューのトランプホテルに飲みに行きました。ストリートアーティストは、THE WORLD IS WATCHINGという言葉とともに、彼らのイメージを建物の外に投影しました。
それは最後の一歩を残しました:2人の民主党員と2人の共和党員で構成された州の選挙運動委員会。DeVos家の政治的非営利団体に雇われたトランパーである1人の共和党員は、認証に投票することを期待されていませんでした。取締役会の他の共和党員は、アーロン・ヴァン・ランゲヴェルデというあまり知られていない弁護士でした。彼は自分が何をしようとしているのかについての合図を送らず、全員を追い詰めた。
会議が始まると、レイエスの活動家たちはライブストリームを氾濫させ、Twitterにハッシュタグ#alleyesonmiを付けました。一桁の出席に慣れているボードは、突然数千人の聴衆に直面しました。数時間の証言の中で、活動家たちは、公務員を叱るのではなく、有権者の希望を尊重し、民主主義を肯定するというメッセージを強調した。Van Langeveldeは、前例に従うことをすぐに合図しました。投票は3-0でした。他の共和党員は棄権した。
その後、ドミノが倒れた。ペンシルベニア州、ウィスコンシン州、およびその他の州が選挙人を認定しました。アリゾナ州とジョージア州の共和党幹部は、トランプのいじめに立ち向かった。そして選挙人団は12月14日に予定通りに投票した。
私たちがどのように閉じるか
ポドホルツァーの心に最後のマイルストーンが1つありました。1月6日。議会が選挙人団を集計するために会合する日に、トランプは集会のために彼の支持者をワシントンDCに召喚しました。
驚いたことに、彼の呼びかけに答えた何千人もの人々は、事実上反対デモ参加者に会いませんでした。安全を確保し、騒乱のせいにされないようにするために、残された活動家は「対抗活動を激しく思いとどまらせた」と、ポドホルツァーは1月6日の朝、指を交差させた絵文字で私にテキストメッセージを送った。
Incited by the President, Trump Supporters Violently Storm the Capitol共有
動画を再生します
トランプはその日の午後、議員やマイク・ペンス副大統領が州の選挙人票を拒否する可能性があるという嘘を売り、群衆に話しかけた。彼は彼らに国会議事堂に行って「地獄のように戦う」ように言いました。それから彼は彼らが建物を略奪したのでホワイトハウスに戻った。議員たちが命をかけて逃げ出し、彼自身の支持者が撃たれて踏みにじられたとき、トランプは暴動を「非常に特別」だと賞賛した。
それは民主主義に対する彼の最後の攻撃でした、そして再び、それは失敗しました。立ち上がることによって、民主主義運動家は敵を追い出しました。「正直なところ、私たちは歯の皮で勝ちました。それは人々が一緒に座る重要なポイントです」と民主主義防衛連合の人々は言います。「有権者が決定し、民主主義が勝ったと言う衝動があります。しかし、この選挙サイクルが民主主義の強さを示していると考えるのは間違いです。それは民主主義がいかに脆弱であるかを示しています。」
選挙を保護するための同盟のメンバーは、別々の道を進んでいます。ファイトバックテーブルは存続しているものの、民主主義防衛連合は解散しました。民主主義を保護し、良い政府の支持者たちは議会の差し迫った改革に注意を向けました。左翼活動家は、新たに権限を与えられた民主党員に、彼らをそこに置いた有権者を覚えておくよう圧力をかけている一方、公民権団体は、投票に対するさらなる攻撃を警戒している。ビジネスリーダーは1月6日の攻撃を非難し、バイデンの勝利を証明することを拒否した議員にはもはや寄付しないと言う人もいます。ポドホルツァーと彼の同盟国は、まだズーム戦略セッションを開催しており、有権者の意見を測定し、新しいメッセージを作成しています。そしてトランプはフロリダにいて、2度目の弾劾に直面しています。
私が11月と12月にこの記事を報告していたとき、私はトランプの陰謀を阻止したことで誰が信用を得るべきかについて異なる主張を聞いた。自由主義者は、ボトムアップの人々の力の���割、特に有色人種や地元の草の根活動家の貢献を見逃してはならないと主張した。他の人々は、ヴァン・ランゲヴェルデやジョージア州務長官のブラッド・ラフェンスパーガーのような共和党幹部の英雄的行動を強調しました。真実は、どちらも他がなければ成功しなかった可能性が高いということです。「私たちがどれほど近づいたか、これがどれほど壊れやすいかは驚くべきことです」と、元ミシガン州共和党の事務局長であるティマーは言います。「ワイリーE.コヨーテが崖から逃げるようなものです。見下ろさなければ、倒れることはありません。私たちの民主主義は、私たち全員が信じて見下していなければ生き残れません。」
結局、民主主義が勝ちました。人々の意志が勝った。しかし、振り返ってみると、これがアメリカ合衆国で選挙を行うのにかかったものであるというのはクレイジーです。
– LESLIE DICKSTEIN、MARIAH ESPADA、SIMMONESHAHによるレポート
訂正が追加されました、2月5日:この物語の元のバージョンは、ノーム・エイセンの組織の名前を間違えました。これは有権者保護プログラムであり、有権者保護プロジェクトではありません。この物語の元のバージョンはまた、ミシガン共和党でのジェフ・ティマーの以前の立場を誤解していました。彼は会長ではなく事務局長でした。
これは、TIMEの2021年2月15日号に掲載されています。
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38nakao · 4 years
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20のときにやりたかったこと
2020.08.10(月)晴れ!
 山の日だけど川に行く。スイカを持って行く。なぜってスイカ割りをするからさ、当たり前だろう。今年の夏の目標、その弐。壱に花火をやってしまった。今のところ参は決めてない。
 この前の花火と違うのは、梅雨明けしてくれたからちゃんと晴れてくれたこと! 流石にスイカ割りは雨だと出来ない。ついてるネ、ノッてるネ。
 15時に駅前に集合、そこから近くのスーパーに調達。本を読んだりシャワーをゆったり浴びていたらぎりぎりになってしまった。慌てて虫除けスプレー、消毒ジェル、レジャーシート、ごみ袋、タッパーを準備。よくよく考えたら割れたスイカをそのまま食べられないから包丁、タオルでぐるぐる巻きにして、まな板と一緒にリュックに入れる。あとフィルムカメラと、コンデジ、水筒、本日淹れたてのお茶と共に。咄嗟に保冷剤を保冷バックに入れて、ぜんぶリュックに詰め込んだ。スイカ割りをするには、銃刀法を犯さなければならない。
 駅に向かう途中で、デジカメにバッテリー入れ忘れたことに気がついた。折角充電したのにい。馬鹿。
 よく遊ぶ大学の友人H氏と、去年の花見以来に会う大学の知人K氏。在学時は馴染みのいい顔見知りくらいだったけど、今更じわじわ仲良くなっていけそうで、とても嬉しい。
 近くといっても駅から川まで20分はあるから「しんどい」と思われたらどうしようと少し気がかりだったけど、全くの無用。絵を描くひと、ないしは表現が好きなひと=散歩好き、わたしの方程式がここでも当てはまった。美大生は金なしだからギャラリーや美術館をはしごするくらいは、足腰はある。気がする。
 花見以来の知人、Kちゃんは初めてここに来たみたいで、意外と駅前が栄えているのに感動していた。サイゼもトリキもドトールもタピオカもあるんだぜ、えへん。
 東急ストアに姫スイカ? だかなんだか大きさが控えめのやつが売っていることは事前に確認済みだったので、そこに寄る。そしたら、意外にも「もう少し大きいのが良い」と言われたのが驚きだった。
「おっきいのは食べきれないし、ちっさいので良いよね」
 となると思っていたから。「スイカ割りなんだし、大きい方が良い」と遊ぶ子どもみたいに言う。大きいやつのが高くて、企画者のくせに尻込みしたわたしが情けない。結局、東急ストアはそれよりおっきいのがなくて、川から少し遠ざかるけど西友まで歩いてちょっと黒っぽい、さっきよりかはおっきいスイカを買った。
 ビールが目に止まっちゃったら、もう買うしかないっしょ。サッポロポテト バーベQあじと、たぶんカルビーの素材を活かしたかんじのパステルがかったコバルトブルーのパッケージのポテトチップス。直感で保冷剤と保冷バック持って来てよかった。元々スイカ余った時に備えてだったんだけど、こんな序盤に活躍してくれるとは!
 あれこれ談話しながら川へ。この前土砂降り花火大会したさいころ川。今のわたしにとって一番身近で、一番長くて、一番ゆったり落ち着いている川。看板近くで虫除けスプレーをシュッシュした。わたしが風下から友だちにかけちゃって、別の友だちが飛沫虫除けした。すまん。
 さいころ川は、野球グラウンドとサッカーゴールがある。花火のときは21時過ぎだで、河川敷でナイターしてるのはもちろんいなかったんだけど、今日のさいころ川はまだ16時くらいだから、大人みたいなひとがサッカーしてれば、夏休みのキッズが野球の練習をしている。少し遠くの方に赤い消防車が3台停まってる。たぶんこのひとたちも何かの練習をしてるんだろうなあ。
 社会人の娯楽と消防士の本気に挟まれるところで、レジャーシートを出した。風が少し強かったけど、ここは河原。石くらいいくらでもある。スイカを真ん中にセッティング。友人に持って来てもらったバットと目隠しを用意。
 順番はじゃんけんで決めた。粉砕したら終わりのサドンデス。わたしは一番最後だった。
 ぐるぐるバットって、本当に目が回るんだよ。バラエティ番組は大げさだなあと思ってたけど、大人になると、運動してないと三半規管が弱るのか、5回転もすれば前後不覚のうえに、世界が歪む。あばばばば。
 右右右ー!とか少し左、もっと前ー! と叫ぶ。声の情報だけを信じて進む。これが中々に勇気がいる。テニスの王子様で、五感を奪う能力があるプレイヤーがいるけど、やり過ぎだよなあ。視覚を奪われただけでも怖いよ。
 けど我々も野性がまだ残っているもんだ。2回目にもなれば、世界がぐらぐらの状態でも声の発信源で粗方を掴めるようになってきた。少年ジャンプのキャラクターの気分。
 1番手Kちゃんが1周目のチャレンジで見事当て、2番手Hさんが2周目で少しひびを入れ、わたしが2周目でど真ん中にミートして粉砕した。意外と感触がなく、友人の歓声が聞こえるけど、スイカの下にある石に当たった手応えしかなく目隠しをとって初めて赤い断面が見えて、遅れて雄叫びをあげた。
 外で食べるスイカ、おいしい。外で飲むビール、おいしい。発泡酒だったけど。川で食べるサッポロポテト バーベQあじ、最高。これは実質、バーベキューだ。でかい機材用意しなくても、こんなんでいいよ、どうせメインは友だちといることなんだし。
 後ろからたまに転がってくるサッカーボールを眺めつつ、前から流れる川を臨む。日もいい感じに陰り、吹いてくる風を邪魔するものもない。すごく良いコンディション。サイコー。何で今までやらなかったんだろう。
 少しは余るかと思ったけど、押し付けあうこともなくスイカを食べきった。優秀な友だちだ。スイカの水分のおかげで、水筒のお茶はあまり飲まなくて済んだ。川の近くの小さい神社にトイレもあったし、自販機の横にゴミ箱もあったし、すべてがわたしたちのために在るんじゃないかってくらい、ちょうど良い。
 2時間くらい河原であぐらかいて喋ってた。また駅前に戻っても18時あたり、まだ夕日で外が眩しい。
Tumblr media Tumblr media Tumblr media
 折角だから、串カツ屋さんでまた飲んで食う。
 わたしが大学時代にやりたかったことを、今更やっている。この自粛で、少しの暇と寂しさを持て余しているのを利用して。
 別におばさんになってもおばあちゃんになっても出来る。誘えばいいだけ。でもねえ、今いる友だちとこんなこと出来るのは、この先ないかもしれないから。地元みんなバラバラだし、結婚や転職、いろんな未来があるだろうから。わたしだって、ひょんなことから東京を発つかもしれない。
 遊びの優先順位が今とずっと同じとは限らない。でも、新しくまた友だちは出来るだろうから。そんなに寂しくないよ、今はまだ。
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0shoyamane0 · 4 years
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「喫茶店にて」についての断片(この文章はいづれ改稿されて紙に印刷される)
「喫茶店にて」という萩原朔太郎の短い文章がある。文字数にして千字にも満たない。非常に好きな文章なのでこれまで事あるごとに読み返してきた。そのたびにこの文章に関する文章や、慎ましい冊子を作りたいと思っていた。けれど作り始めないまま数ヶ月が過ぎた。そのためようやくこうして書き始めることができたことがひとまず、嬉しい。アリストテレスはやり始めた時点で全体の半分は済んだ、という言葉を残したらしいが強く同意できる。ところで、この「喫茶店にて」という文章について大まかに説明しておこう。商人の町・大阪から上京した友人に萩原は東京(都会)らしい場所をみせてやろうと銀座の有名な喫茶店に連れていく。友人はそこで暇そうに寛いでいる人々をみてとても不思議がる。萩原は忙しく働くことは俗悪だとするニーチェの言葉を引用しながら、昔の江戸時代ほどののんびりはなくとも、せめてパリやロンドンくらいのレベルまで有閑を享受できる心の余裕を日本も持ってほしいと願う。それが成熟し伝統を持つ都市、生活だという。この文章をはじめて読んだのは修士論文の発表が終わって間もなくのことだった。自分はすでに博士課程に進学することが決まっていて、毎日映画を見たりレコードを買ったり、本を読んで一日を過ごしていた。つまり呑気に悠々とした生活を送っていた。同じ頃、同い年の友人たちの中には仕事が嫌になってやつれていく人が増えていた。そうした時期とも重なりこの文章は強く自分に影響を与えた。萩原朔太郎の文章はほとんど読んだことはない。高校生のころ国語便覧で萩原はマンドリン奏者でもあったという記述を覚えているくらいでそれ以外の印象はない。それどころかこの「喫茶店にて」の文章を読んだあとでさえ、彼の他の文章は読んでいない。何をしていたかといえば、それも具体的には思い出せない。音楽を聞いたり、本を読んだり、映画を見たりしてのんびりと生活していたことしか、思い出すことができない。
のんびりと過ごしていたい、といえば思い出すことがある。それは子供のころから今に至るまで、出入り口というものに関心を持っていること。部屋に入る人や、部屋から出ていく人、部屋にいる人たちを特定の場所から眺めていると妙に落ち着くのだ。一時期はホテルのドアマンになりたいと真剣に考えていたこともある。そんなとき、テレビのプログラムで家電品の特集をしているのを観た。その番組の出演者が空気洗浄機について以下のようなことを言っていた。空気清浄機は部屋の出入口付近に置くのが最も効果的である、なぜならドアの開閉による風で部屋の空気の循環をよくするから。それを観て自分は笑った。自分は空気洗浄機になりたかったのだと同居人に冗談を言ってやろうかとさえ思った。そして口を開く寸前に、自分は青ざめた。空気洗浄機の足を引っ張っているのではないかという思いが頭をかすめた為である。これには案外、見逃せない問題があった。仮に空気清浄機の代わりに自分がそこに居座るのであれば、空気清浄機に代わる仕事ができれば問題ない。けれど自分には空気中の花粉やホコリを濾過することはおろか、だまって仕事を続けるということ(考えるまでもなくそれは大変な能力である)さえままならない。空気清浄機のみならずすべての機械というものに対して申し訳ない気持ちになった。いっそ、死のうと思った。けれどその頃合いになって先哲の金言が思い起こされた。およそ、人間の本分は生産ではなく消費である。自分は縄に首を掛けるのを止めた。そうかそうか。何もかも消費をしてしまえばいいのだ。脂っこいものを食ってがぶがぶ水を飲み、美しい早春の一日に部屋でごろごろ寛いでやればよいのだ。電気もつけっぱなしで煙草のけむりで部屋を真っ黒にしてやればよいのだ。これで機械という奴らとの差別化ができた、とようやく自分の居場所を見つける事ができた。ほくほく顔で出入り口に居座ってやろうとしたら足の小指に激痛が走った。何かにぶつけてしまった。見ると立派な空気清浄機がそこにはあった。衝撃が思いの外に強かったのかゴロゴロという異音が鳴りはじめ、とうとう黒い煙を吐き出した。どういうわけかコンセントのあたりからはパチパチと火花が散っている。これは火事になる、と慌てて消火器を持ってきて吹きかけた。空気清浄機の周辺が真っ白になり、すべて落ち着いた。まったく……余計な手間を掛けさせる奴だと思ったと同時に、頭の中で何かが壊れた音がした。ラララ。そうである。空気清浄機は電気を消費し、場所を占有し、故障の果てに黒煙を吐いた。自分及び人間としての存在理由であった部屋を汚すという行為さえ機械に奪われ、それどころかその後始末までさせられた。この空気清浄機は自分よりも資源を消費している。しばらく呆然としていた私の左手には、いつの間にだろう、大きなトンカチが握られていた。日本の元号は変わり、世界は度重なる分断を越えようとしている時代の中、自分だけがラッダイト運動の時代に取り残されている。時代は繰り返す。けれど皮肉なことにそれは違う姿をしているから気付くことが出来ない。いっそ空気中のホコリのように自分のことも濾過してくれれば、と目の前の故障した空気洗浄機に祈った。その時部屋の扉が開いて肩にぶつかった。激痛。扉を開けた若い女性は慌てて私に謝ったが、その顔は明らかに迷惑そうにしていた。しかし自分にとって、それは却って救いであった。
近所のホームセンターに行ったはなし。十一月になるというのに少し自転車を漕げば汗ばんだ。毎年のように今年は異常気象だ、という年配者の話をいい加減無視できない、と考えていたら目の前を走る自転車が急停車し危うく衝���しそうになった。老婆だった。老婆の自転車のハンドルには鍋つかみのような防寒具が取り付けられており、前後のカゴには相当な量の野菜や惣菜が入っていた。夫婦で食べるとしても多いだろうと思うほどの量。一人であればなおさら。ホームセンターの前に自転車を停め、店に入ったところで何を買いに来たか忘れる。棚を眺めていたら思い出すだろうと歩いていたら程なくして電球のソケットを買いに来たことを思い出す。電球のコーナーは美しい。大小さまざま色彩もさまざまな電球や蛍光灯が輝き、ただでさえ明るい店内でその売り場をより一層明るくしている。ろくに調べていないので自分の求めているものがあるのかは探してみなければわからない。一般的な電球を取り付けることができ、スイッチで電源のオンオフができる(できれば)電池式のソケット。そんなもの何のために必要なのかと言われても困る。なんとなくそんな代物が欲しくなっただけで、使い道は手に入れたあとに思い付くだろうから。二十分ほど念入りに探したところでそれに見合う商品がないことが分かった。最も近いものは天井から吊るすタイプのソケットであったがそれは実物を見ても欲しくならなかった。そうとわかれば急に家に帰りたくなり店を出た。自転車の鍵を開けたとき隣に鍋つかみのついた自転車が止まった。老婆だった。けれど先ほど急停車した老婆とはちがう老婆だった。いや、よくみると極めて老婆のような老いた男だった。この老人も先の老婆と同様に前後のカゴに買い物袋を入れていた。けれど外から見える品物は酒やスナック菓子ばかりだった。老人は買い物袋そのままに、自転車に鍵もかけずホームセンターに入っていった。私は羽織っていたカーディガンを自転車の前カゴに入れ、少し遠回りして帰った。
一見不安定に見える状態が実はもっとも安定した状態である、という現象は比喩でなく実際に起こりうる。物理の世界でも対人交流においても同様である。ヤジロベエの原理のように実は一つの支点を軸に調整をしているだけに過ぎないことは少なくない。二〇一八年の内閣府の調査では所属コミュニティの多い人ほど日々の生活が充実しているという結果だったらしい(内閣府調査 平成二九年版 子供・若者白書「特集 若者にとっての人とのつながり」)。と同様の内容を、喫茶店で年下の友人相手に自慢げに話していたら隣のテーブルの声がやたらと聞こえくることに気付いた。隣のテーブルには大学生だろうか、若い四人の女がああでもないこうでもないと話している。そしてそのうちの一人の声が明らかに必要以上のボリュームなのである。店内の他の客はそれとはなしにそのテーブルに対して迷惑そうにしていることもわかった。聞きたくもない話が明瞭に頭に流れ込んでいる。その話というのは声の大きな女が好意を寄せていた男に女ができた。その女は極めてきれいな顔立ちをしており、スタイルも抜群であるが性格の悪さについては誰もが知るところで、きっとその男もすぐに見放すだろう、ということ。そして気になったのはその会話の中で何度も「美人は三日で飽きる」という言葉が使われていることだった。トイレから帰るときにその女たちの顔を見たが、みな例外なく不健康に太っていて肌が荒れていることに驚いた。声だけを聞いていたときはもっと溌剌とした容姿を想像していたがそれは若さによるものだった。そしてその若さも彼女らは次第に失っていくのか、と他人事のように思っていたら、向かいに座っていた友人にズボンのチャックが開いていることを指摘された。居心地が良くないので違う喫茶店に行こうと友人を誘い、友人もその方がいいといって店を出た。次の店までアーケイドを歩きながら友人が言ってきた。いわく、今やっと「美人は三日で飽きる」という言葉の意味が分かったという。というのも友人はこの言葉についてこれまでずっと疑問を持っていた。なぜなら美人は何日たっても素晴らしいから。毎日違う側面を見せてくれて、この世界に存在する様々なものに彩りを与え続けてくれるという経験をしていたからである。友人は「美人は三日で飽きる」というのは美人でない人間に対する救済なのだと言った。嫉妬や当て付けではなく救済。この言葉が広く敷衍して、もはやクリシェと化しているのはつまり「南無阿弥陀仏」と変わらない普遍性を持っているからなのだ。君もついに空也上人の領域までたどり着いたんだねと、私は友人に笑い掛けたがその実、その友人の統合力に感心していた。そしてその話を私は今、自慢げにここに書いている。
映画館で眠ることやコンサートの最中に眠ることを贅沢なことだと思い込むようになったのは高校生くらいだった。その頃は不思議なことに誘われる催し中は決まってひどい睡魔に襲われた。理由はわからない。夜更かしをすることもまれだったし、体も健康だった。ただ眠たくなる。始めの頃は演者や誘ってくれた友人たちに申し訳ない気持ちで可能な限り眠らないよう努めていたが、次第に諦めていった。むしろ開演から早めに眠りに落ちてそしてできるだけ早く目を覚ますことを目指し始めた。一度眠ってしまえばあとは意識清明になっていたからである。それから数年経ち、今では眠くなることはほぼなくなった。最近、とあるライブに行った。広��のヲルガン座で行われた��リーダムというイベント。東京からのゲスト、ノラオンナさんを招いたイベントだった。ウクレレの弾き語りと、うた。MCは無し。アルバムと同じ構成で四〇分ほど休みなく続くライブ。そのはじめ、彼女は控えめに、寝てしまうかもしれません、と客に言った。けれど心地よくなって寝るというのはとてもいいことなので、とも言った。ただ、いびきだけはかかないでください、とも。自分はその言葉に、数年前の心地まで軽くなるのを感じた。ライブは物語性に富み、非常に素晴らしかった。私は寝なかったし、一度も眠くならなかった。
月曜日に限って美術館に行きたくなる。そんな時期がある程度続いたことがあった。月曜日、街にある美術館のほぼ全ては休館日であり、その近くにある図書館も当然休みだった。明日は必ず、という気持ちで火曜日を迎えると、きまってもう衝動は消えてしまって、外出さえも億劫になる。水曜から金曜までは美術館のことなど一瞬も頭に浮かぶことなく過ごし、土曜日に少し思い出し、運が良ければ日曜日に美術館まで行く。けれど人が多くてすぐに出てしまう。おそらく、決まった仕事をしていない人間にとって、それも普段は美術に対して強い関心を持っていない人間にとって、月曜日ほど美術館に適した一日はない。仕事をしていないからといって、社会から隔絶されているわけではない。月曜日の朝には社会が何かしらの動きを始めたような気配だけはしっかりと感じることができる。そしてその気配が妙な圧力をこちらにかけてきて、せめてもの罪滅ぼしに何かをしようと考える。できれば文化的な行動が喜ばしいな、と勝手に自分で判断し脳の中で選択肢を絞る。そして弾き出される計算結果は決まって「美術館に行く」というもの。しかし美術館は休み。またか、と思う。そして気が付いたら日が暮れている。けれど最後のあがきとして一、二時間ほど自転車で街をうろつく。そうして何かをした気持ちになって家に帰る。最近は月曜日以外も美術館に行きたいと思うようになった。けれどあまり行ってはいない。本棚にあるつげ義春の「無能の人」の背表紙が妙に目立って見える。
透明の黒電話。
七万円の使いみち。金座街にある古本屋の店先には安部公房全集がある。
タクシードライバー。
ヴラマンクの雪の絵について。
先程、萩原朔太郎の文章はほとんど読んだことがない、と書いたがひとつ思い出した文章がある。頭のなかでなぜか太宰治の文章だと勝手な処理がされていたが、いま確認してみたら萩原朔太郎のものだった。僕の孤独癖について、という文章である。その中の「人間は元来社交動物に出来てるのだ。人は孤独で居れば居るほど、夜毎に宴会の夢を見るようになり、日毎に群衆の中を歩きたくなる。それ故に孤独者は常に最も饒舌の者である」という文章はまるで──。
複雑なものを複雑なまま楽しむことについて。
ノンアルコールビールについて。酒を飲むこと、というよりも酔うことが嫌になった。これまでもそういった時期はあったが、今回も一時的なものかもしれない。けれどこれまでと異なるのはノンアルコールビールというものに関心を持ち始めたことである。
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hirusoratamago · 4 years
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【QN】ある館の惨劇
 片田舎で依頼をこなした、その帰り道。  この辺りはまだ地方領主が収めている地域で、領主同士の小競り合いが頻発していた。  それに巻き込まれた領民はいい迷惑だ。慎ましくも回っていた経済が滞り、領主の無茶な要求が食糧さえも減らしていく。  珍しくタイミングの悪い時に依頼を受けてしまったと、パティリッタは浮かない顔で森深い峠を貫く旧道を歩いていた。
「捨てるわけにもなぁ」  革の背負い袋の中には、不足した報酬を補うためにと差し出されたパンとチーズ、干し肉、野菜が詰まっている。  肩にのしかかる重さは見過ごせないほどで、おかげで空を飛べない。  ただでさえ食糧事情の悪い中で用意してもらった報酬だから断りきれなかったし、食べるものを捨てていくというのは農家の娘としては絶対に取れない選択肢だ。  村に滞在し続ければ領主の争いに巻き込まれかねないし、結局考えた末に、しばらく歩いてリーンを目指すことに決めた。  2,3日この食料を消費しつつ過ごせば、この"荷物"も軽くなるだろうという見立てだ。
 この道はもう、殆ど利用されていないようだ。  雑草が生い茂り、嘗ての道は荒れ果てている。  鳥の声がした。同じ空を羽ばたく者として大抵の鳥の声は聞き分けられるはずなのに、その声は記憶にない。 「うげっ」  思わず空を仰げば、黒く分厚い雨雲が広がり始めているのが見えた。  その速度は早く、近いうちにとんでもない雨が降ってくるのが肌でわかった。
「うわ、うわ! 待って待って待って」  小雨から土砂降りに変わるまで、どれほどの時間もなかったはずだ。  慌てて雨具を身に着けたところでこの勢いでは気休めにもならない。  次の宿場まではまだ随分と距離がある。何処か雨宿りできる場所を探すべきだと判断した。  曲がりなりにも街道として使われていた道だ、何かしら建物はあるはずだと周囲を見渡してみると、木々の合間に一軒の館を見つけることができた。  泥濘み始めた地面をせっせと走り、館���玄関口に転がり込む。すっかり濡れ鼠になった衣服が纏わり付いて気持ちが悪い。
 改めて館を眺めてみた。立派な作りをしている。前庭も手入れが行き届いていて美しい。  だが、それが却って不審さを増していた。
 ――こんな場所に、こんな館は不釣り合いだ、と。思わずはいられなかったのだ。
 獅子を模したドアノッカーを掴み、館の住人に来客を知らせるべく扉に打ち付けた。  しばらく待ってみるが、応答はない。 「どなたかいらっしゃいませんかー!?」  もう一度ノッカーで扉を叩いて、今度は声も上げて見たが、やはり同じだった。  雨脚は弱まるところを知らず、こうして玄関口に居るだけでも雨粒が背中を叩きつけている。  季節は晩秋、雨の冷たさに身が震えてきた。  無作法だとはわかっていたが、このままここで雨に晒され続けるのも耐えられない。思い切って、ドアを開けようとしてみた。 「……あれ」  ドアは、引くだけでいとも簡単に開いた。  こうなると、無作法を働く範囲も思わず広がってしまうというものだ。  とりあえず中に入り、玄関ホールで家人が気づいてくれるのを待とうと考えた。
 館の中へ足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。背負い袋を床におろし、一息ついた。  玄関ホールはやけに薄暗い。扉を締めてしまえばいきなり夜になってしまったかのようだ。 「……?」  暗闇に目が慣れるにつれ、ホールの中央に何かが転がっていることに気づいた。 「えっ」  それが人間だと気づくのに、少し時間が必要だった。 「ちょっ、大丈夫で――」  慌てて声をかけて跪き命の有無を確かめようとする。 「ひっ」  すぐに答えは出た。あまりにもわかりやすい証拠が揃っていたためだ。    その人間には、首が無かった。   服装からして、この館のメイドだろう。悪臭を考えるに、この死体は腐りかけだ。  切断された首は辺りには見当たらない。  玄関扉に向かってうつ伏せに倒れ、背中には大きく切り裂かれた痕。  何かから逃げようとして、背中を一撃。それで死んだか、その後続く首の切断で死んだか、考えても意味がない。  喉まで出かかった悲鳴をなんとか我慢して、立ち上がる。本能が"ここに居ては危険だ"と警鐘を鳴らしていた。  逃げると決めるのに一瞬で十分だった。踵を返し、扉に手をかけようとした。
 ――何かが、脚を掴んだ。    咄嗟に振り向き、そして。 「――んぎやゃあぁあぁぁぁあぁぁぁああぁッッッ!!!???」  パティリッタは今度こそあらん限りの絶叫をホールに響かせた。
「ふざっ、ふざけっ、離せこのっ!!!」  脚を掴んだ何か、首のないメイドの死体の手を思い切り蹴りつけて慌てて距離をとった。弓矢を構える。  全力で弦を引き絞り、意味があるかはわからないが心臓に向けて矢を立て続けに三本撃ち込んだ。  幸いにもそれで相手は動きを止めて、また糸の切れた人形のように倒れ伏す。
 死んだ相手を殺したと言っていいものか、そもそも本当に完全に死んだのか、そんな物を確認する余裕はなかった。  雨宿りの代金が己の命など冗談ではない。報酬の食糧などどうでもいい。大雨の中飛ぶのだって覚悟した。  玄関扉に手をかけ、開こうとする。 「な、なんでぇ!?」  扉が開かない。  よく見れば、扉と床にまたがるように魔法陣が浮かび上がっているのに気づいた。魔術的な仕組みで自動的な施錠をされてしまったらしい。  思い切り体当りした。びくともしない。  鍵をこじ開けようとした。だがそもそも、鍵穴や閂が見当たらない。 「開ーけーてー! 出ーしーてー!! いやだー!!! ふざけんなー!!!」  泣きたいやら怒りたいやら、よくわからない感情に任せて扉を攻撃し続けるが、傷一つつかなかった。 「ぜぇ、えぇ……くそぅ……」  息切れを起こしてへたり込んだ。疲労感が高ぶる感情を鎮めて行く中、理解する。  どうにかしてこの魔法陣を解除しない限り、絶対に出られない。
「考えろ考えろ……。逃げるために何をすればいいか……、整理して……」  どんなに絶望的な状況に陥っても、絶対に諦めない性分であることに今回も感謝する。  こういう状況は初めてではない。今回も乗り切れる、なんとかなるはずだと言い聞かせた。  改めて魔法陣を確認した。これが脱出を妨げる原因なのだ。何かを読み取り、解錠の足がかりを見つけなければならない。  指でなぞり、浮かんでいる呪文を一つずつ精査した。 「銀……。匙……。……鳥」  魔術知識なんてない自分には、この三文字を読み取るので精一杯だった。  だが、少なくとも手がかりは得た。
 立ち上がり、もう一度ホールを見渡した。  首なしメイドの死体はもう動かない。後は、館の奥に続く通路が一本見えるだけ。 「あー……やだやだやだ……!!」  悪態をつきながら足を進めると、左右に伸びる廊下に出た。  花瓶に活けられた花はまだ甘い香りを放っているが、それ以上に充満した腐臭が鼻孔を刺す。  目の前には扉が一つ。まずは、この扉の先から調べることにした。
 扉の先は、どうやら食堂のようだった。  食卓である長机が真ん中に置いてあり、左の壁には大きな絵画。向こう側には火の入っていない暖炉。部屋の隅に置かれた立派な柱時計。  生き物の気配は感じられず、静寂の中に時計のカチコチという音だけがやけに響いている。  まず、絵画に目が行った。油絵だ。  幸せそうに微笑む壮年の男女、小さな男の子。その足元でじゃれつく子犬の絵。  この館の住民なのだろうと察しが付いた。そしてもう、誰も生きてはいないのだろう。   続いて、食卓に残ったスープ皿に目をやった。 「うえぇぇっ……!」  内容物はとっくに腐って異臭を放っている。しかし異様なのは、その具材だ。  それはどう見ても人の指だった。  視界に入れないように視線を咄嗟に床に移すと、そこで何かが輝いたように見えた。 「……これ!」  そこに落ちていたのは、銀のスプーンだ。    銀の匙。もしかすると、これがあの魔法陣の解錠の鍵になるのではないかと頬を緩めた。  しかし、丹念に調べてみるとこのスプーンは外れであることがわかり、肩を落とす。  持ち手に描かれた細工は花の絵柄だったのだ。 「……待てよ」  ここが食堂ということは、すぐ近くには調理場が設けられているはずだ。  ならば、そこを探せば目的の物が見つかるかもしれない。  スプーンは手持ちに加えて、逸る気持ちを抑えられずに調理場へと足を運んだ。
 予想通り、食堂を抜けた先の廊下の目の前に調理場への扉があった。 「うわっ! ……最悪っ」  扉を開けて中へ入れば無数のハエが出迎える。食糧が腐っているのだろう。  鍋もいくつか竈に並んでいるが、とても覗いてみる気にはなれない。  それより、入り口すぐに設置された食器棚だ。開いてみれば、やはりそこには銀製の食器が収められていた。  些か不用心な気もするが、厳重に保管されていたら探索も面倒になっていたに違いない。防犯意識の低いこの館の住人に感謝しながら棚を漁った。 「……あった!」  銀のスプーンが一つだけ見つかった。だが、これも外れのようだ。  意匠は星を象っている。思わず投げ捨てそうになったが、堪えた。  まだ何処かに落ちていないかと探してみるが、見つからない。 「うん……?」  代わりに、メモの切れ端を見つけることができた。
 "朝食は8時半。   10時にはお茶を。   昼食・夕食は事前に予定を伺っておく。
  毎日3時、お坊ちゃんにおやつをお出しすること。"
 使用人のメモ書きらしい。特に注意して見るべきところはなさそうだった。  ため息一つついて、メモを放り出す。まだ、探索は続けなければならないようだ。  廊下に出て、並んだ扉を数えると2つある。  一番可能性のある調理場が期待はずれだった以上、虱潰しに探す必要があった。
 最も近い扉を開いて入ると、小部屋に最低限の生活用品が詰め込まれた場所に出た。  クローゼットを開けば男物の服が並んでいる。下男の部屋らしい。  特に発見もなく、次の扉へと手をかけた。こちらもやはり使用人の部屋らしいと推察ができた。  小物などを見る限り、ここは女性が使っていたらしい。  あの、首なしメイドだろうか。 「っ……!」  部屋には死臭が漂っていた。出どころはすぐにわかる。クローゼットの中からだ。 「うあー……!」  心底開きたくない。だが、あの中に求めるものが眠っている可能性を否定できない。 「くそー!!」  思わずしゃがみこんで感情の波に揺さぶられること数分、覚悟を決めて、クローゼットに手をかけた。 「――っ」  中から飛び出してきたのは、首のない死体。
 ――やはり動いている!
「だぁぁぁーーーっ!!!」  もう大声を上げないとやってられなかった。  即座に距離を取り、やたらめったら矢を撃ち込んだ。倒れ伏しても追撃した。  都合7本の矢を叩き込んだところで、死体の様子を確認する。動かない。  矢を回収し、それからクローゼットの中身を乱暴に改めた。女物の服しか見つからなかった。    徒労である。クローゼットの扉を乱暴に閉めると、部屋を飛び出した。  すぐ傍には上り階段が設けられていた。何かを引きずりながら上り下りした痕が残っている。 「……先にあっちにしよ」  最終的に2階も調べる羽目になりそうだが、危険が少なそうな箇所から回りたいの��誰だって同じだと思った。  食堂前の廊下を横切り、反対側へと抜ける。  獣臭さが充満した廊下だ。それに何か、動く気配がする。  選択を誤った気がするが、2階に上がったところで同じだと思い直した。    まずは目の前の扉を開く。  調度品が整った部屋だが、使用された形跡は少ない。おそらくここは客室だ。  不審な点もなく、内側から鍵もかけられる。必要であれば躰を休めることができそうだが、ありえないと首を横に振った。  こんな化け物だらけの屋敷で一寝入りなど、正気の沙汰ではない。  すぐに踵を返して廊下に戻り、更に先を調べようとした時だった。
 ――扉を激しく打ち開き、どろどろに腐った肉体を引きずりながら犬が飛び出してきた!   「ひぇあぁぁぁーーーっ!!!???」  素っ頓狂な悲鳴を上げつつも、躰は反射的に矢を番えた。  しかし放った矢がゾンビ犬を外れ、廊下の向こう側へと消えていく。 「ちょっ!? えぇぇぇぇっ!!!」  二の矢を番える暇もなく、ゾンビ犬が飛びかかる。  慌てて横に飛び退いて、距離を取ろうと走るもすぐに追いつかれた。  人間のゾンビはあれだけ鈍いのに、犬はどうして生前と変わらぬすばしっこさを保っているのか、考えたところで答えは出ないし意味がない。  大事なのは、距離を取れないこの相手にどう矢を撃ち込むかだ。 「ほわぁー!?」  幸い攻撃は読みやすく、当たることはないだろう。ならば、と足を止め、パティリッタはゾンビ犬が飛びかかるのを待つ。 「っ! これでっ!!」  予想通り、当たりもしない飛びかかりを華麗に躱したその振り向きざま、矢を放った。  放たれた矢がゾンビ犬を捉え、床へ縫い付ける。後はこっちのものだ。 「……いよっし!」  動かなくなるまで矢を撃ち込み、目論見がうまく行ったとパティリッタはぴょんと飛び跳ねてみせた。    ゾンビ犬が飛び出してきた部屋を調べてみる。  獣臭の充満した部屋のベッドの上には、首輪が一つ落ちていた。 「……ラシー、ド……うーん、ということは……」  あのゾンビ犬は、この館の飼い犬か。絵画に描かれていたあの子犬なのだろう。  思わず感傷に浸りかけて、我に返った。
 廊下に残った扉は一つ。最後の扉の先は、納戸のようだ。  いくつか薬が置いてあっただけで、めぼしい成果は無かった。  こうなると、やはり2階を探索するしかない。 「なんでスプーン探すのにこんなに歩きまわらなきゃいけないんだぁ……」
 慎重に階段を登り、2階へ足を踏み入れた。  まずは今まで通り、手近な扉から開いて入る。ここは書斎のようだった。  暗闇に目が慣れた今、書斎机に何かが座っているのにすぐ気づいた。  本来頭があるべき場所に何もないことも。  服装を見るに、この館の主人だろう。この死体も動き出すかもしれないと警戒して近づいてみるが、その気配は無かった。 「うげぇ……」  その理由も判明した。この死体は異常に損壊している。  指もなく、全身至るところが切り裂かれてズタズタだ。明確な悪意、殺意を持っていなければこうはならない。 「ほんっともう、やだ。なんでこんなことに……」  この屋敷に潜んでいるかもしれない化け物は、殺して首を刈るだけではなく、このようななぶり殺しも行う残忍な存在なのだと強く認識した。  部屋を探索してみると、机の上にはルドが散らばっていた。これは、頂いておいた。  更に本棚には、この館の主人の日記帳が収められていた。中身を検める。
 その中身は、父親としての苦悩が綴られていた。  息子が不死者の呪いに侵され、異形の化け物と化したこと。  殺すのは簡単だが、その決断ができなかったこと。  自身の妻も気が触れてしまったのかもしれないこと。  更に読み進めていけば、気になる記述があった。 「結界は……入り口のあれですよね。ここ、地下室があるの……?」  この館には地下室がある。その座敷牢に異形の化け物と化した息子を幽閉したらしい。  しかし、それらしい入り口は今までの探索で見つかってはいない。別に、探す必要がなければそれでいいのだが。 「最悪なのはそのまま地下室探索コースですよねぇ……。絶対やだ」    書斎を後にし、次の扉に手をかけてみたが鍵がかかっていた。 「ひょわぁぁぁっ!?」  仕方なく廊下の端にある扉へ向かおうとしたところ、足元を何かが駆け抜けた。  なんのことはないただのネズミだったのだが、今のパティリッタにとっては全てが恐怖だ。 「あーもー! もー! くそー!」  悪態をつきながら扉を開く。小さな寝台、散らばった玩具が目に入る。  ここは子供部屋のようだ。日記の内容を考えるに、化け物になる前は息子が使用していたのだろう。  めぼしいものは見当たらない。おもちゃ箱の中に小さなピアノが入っているぐらいで、後はボロボロだ。  ピアノは、まだ音が出そうだった。 「……待てよ……」  弾いたところで何があるわけでもないと考えたが、思い直す。  本当に些細な思いつきだった。それこそただの洒落で、馬鹿げた話だと自分でも思うほどのものだ。
 3つ、音を鳴らした。この館で飼われていた犬の名を弾いた。 「うわ……マジですか」  ピアノの背面が開き、何かが床に落ちた。それは小さな鍵だった。 「我ながら馬鹿な事考えたなぁと思ったのに……。これ、さっきの部屋に……」  その予想は当たった。鍵のかかっていた扉に、鍵は合致したのだ。
 その部屋はダブルベッドが中央に置かれていた。この館の夫妻の寝室だろう。  ベッドの上に、人が横たわっている。今まで見てきた光景を鑑みるに、その人物、いや、死体がどうなっているかはすぐにわかった。  当然首はない。服装から察するに、この死体はこの館の夫人だ。  しかし、今まで見てきたどの死体よりも状態がいい。躰は全くの無傷だ。  その理由はなんとなく察した。化け物となってもなお息子に愛情を注いだ母親を、おそらく息子は最も苦しませずに殺害したのだ。  逆に館の主人は、幽閉した恨みをぶつけたのだろう。 「……まだ、いるんだろうなぁ」  あれだけ大騒ぎしながらの探索でその化け物に出会っていないのは奇跡的でもあるが、この先、確実に出会う予感がしていた。  スプーンは、見つかっていないのだ。残された探索領域は一つ。地下室しかない。    もう少し部屋を探索していると、クローゼットの横にメモが落ちていた。  食材の種類や文量が細かく記載されており、どうやらお菓子のレシピらしいことがわかる。 「あれ……?」  よく見ると、メモの端に殴り書きがしてあった。 「夫の友人の建築家にお願いし、『5分前』に独りでに開くようにして頂いた……?」  これは恐らく、地下室の開閉のことだと思い当たる。 「……そうだ、子供のおやつの時間だ。このメモの内容からしてそうとしか思えません」  では、5分前とは。 「おやつの時間は……そうか。わかりましたよ……!」  地下室の謎は解けた。パティリッタは、急ぎ食堂へと向かう。
「5分前……鍵は、この時計……!」  食堂の隅に据え付けられた時計の前に戻ってきたパティリッタは、その時計の針を弄り始めた。 「おやつは3時……その、5分前……!」  2時55分。時計の針を指し示す。 「ぴぃっ!?」  背後で物音がして、心臓が縮み上がった。  慌てて振り向けば、食堂の床石のタイルが持ち上がり、地下への階段が姿を現していた。  なんとも形容しがたい異様な空気が肌を刺す。  恐らくこの先が、この屋敷で最も危険な場所だ。本当にどうしてこの館に足を踏み入れたのか、後悔の念が強まる。 「……行くしか無い……あぁ……いやだぁ……! 行くしか無いぃ……」  しばらく泣きべそをかいて階段の前で立ち尽くした。これが夢であったらどんなにいいか。  ひんやりとした空気も、腐臭も、時計の針の音も、全てが現実だと思い知らせてくる。  涙を拭いながら、階段を降りていく。
 降りた先は、石造りの通路だった。  異様な雰囲気に包まれた通路は、激しい寒気すら覚える。躰が雨に濡れたからではない。
 ――死を間近に感じた悪寒。
 一歩一歩、少しずつ歩みを進めた。通路の端までなんとかやってきた。そこには、鉄格子があった。 「……! うぅぅ~……!!」  また泣きそうになった。鉄格子は、飴細工のように捻じ曲げられいた。    破壊されたそれをくぐり、牢の中へ入る。 「~~~っ!!!」  その中の光景を見て思わず地団駄を踏んだ。  棚に首が、並んでいる。誰のものか考えなくともわかる。  合計4つ、この館の人間の犠牲者全員分だ。  調べられそうなのはその首が置かれた棚ぐらいしかない。    一つ目は男性の首だ。必死に恐怖に耐えているかのような表情を作っていた。これは、下男だろう。  二つ目も男性の首だ。苦痛に歪みきった表情は、死ぬまでにさぞ手酷い仕打ちを受けたに違いなかった。これがこの館の主人か。  三つ目は女性の首だ。閉じた瞳から涙の跡が残っている。夫人の首だろう。  四つ目も女性の首。絶望に沈みきった表情。メイドのものだろう。 「……これ……」  メイドの髪の毛に何かが絡んでいる。銀色に光るそれをゆっくりと引き抜いた。  鳥の意匠が施された銀のスプーン。 「こ、これだぁ……!!」  これこそが魔法陣を解錠する鍵だと、懐にしまい込んでパティリッタは表情を明るくした。  しかしそれも、一瞬で恐怖に変わる。    ――何かが、階段を降りてきている。   「あぁ……」  それが何か、もうとっくに知っていた。逃げ場は、無かった。弓を構えた。 「なんで、こういう目にばっかりあうんだろうなぁ……」  粘着質な足音を立てながら、その異形は姿を現した。  "元々は"人間だったのであろう、しかし体中の筋肉は出鱈目に隆起し、顔があったであろう部分は崩れ、悪夢というものが具現化すればおおよそこのようなものになるのではないかと思わせた。  理性の光など見当たらない。穴という穴から液体を垂れ流し、うつろな瞳でこちらを見ている。  ゆっくりと、近づいてくる。 「……くそぉ……」  歯の根が合わずがたがたと音を立てる中、辛うじて声を絞り出す。 「死んで……たまるかぁ……!!」  先手必勝とばかりに矢を射掛けた。顔らしき部分にあっさりと突き刺さる。  それでも歩みは止まらない。続けて矢を放つ。まだ止まらない。  接近を許したところで、全力で脇を走り抜けた。異形の伸ばした手は空を切る。  対処さえ間違えなければ勝てるはず。そう信じて異形を射抜き続けた。
「ふ、不死身とか言うんじゃないでしょうねぇ!? ふざけんな反則でしょぉ!?」    ――死なない。    今まで見てきたゾンビとは格が違う。10本は矢を突き立てたはずなのに、異形は未だに動いている。 「し、死なない化け物なんているもんですか! なんとかなる! なんとかなるんだぁっ!! こっちくんなーっ!!!」  矢が尽きたら。そんな事を考えたら戦えなくなる。  パティリッタは無心で矢を射掛け続けた。頭が急所であろうことを信じて、そこへ矢を突き立て続けた。 「くそぅっ! くそぅっ!」  5本、4本。 「止まれー! 止まれほんとに止まれー!」  3本、2本。 「頼むからー! 死にたくないからー!!」  1本。 「あああぁぁぁぁっ!!!」  0。  最後の矢が、異形の頭部に突き刺さった。    ――動きが、止まった。
「あ、あぁ……?」  頭部がハリネズミの様相を呈した異形が倒れ伏す。 「あぁぁぁもう嫌だぁぁぁ!!!」  死んだわけではない。既に躰が再生を始めていた。しかし、逃げる隙は生まれた。  すぐにねじ曲がった鉄格子をくぐり抜けて階上へ飛び出し、一目散に入り口へ駆ける。  後ろからうめき声が迫ってくる。猶予はない。 「ぎゃああああもう来たあああぁぁぁぁ!!!」  玄関ホールへたどり着いたと同時に、後ろの扉をぶち破って再び異形が現れる。  無秩序に膨張を続けた躰は、もはや人間であった名残を残していない。  異形が歪な腕を、伸ばしてくる。 「スプーンスプーン! はやくはやくはやくぅ!!!」  もう手持ちのスプーンから鍵を選ぶ余裕すらない。3本纏めて取り出して扉に叩きつけた。  肩を、異形の手が叩く。 「うぅぅぐぅぅぅ~ッッッ!!!」  もう涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。  後ろを振り返れば死ぬ。もうパティリッタは目の前の扉を睨みつけるばかりだ。  叩きつけたスプーンの内1本が輝き、魔法陣が共鳴する。 「ぎゃー! あー!! わーっ!! あ゛ーーーッッッ!!!」  かちゃり、と音がした。  と同時に、パティリッタは全く意味を成さない叫び声を上げながら思い切り扉を押し開いて外へと転がり出た。
 いつしか雨は止んでいた。  雲間から覗いた夕日が、躰に纏わり付いた忌まわしい物を取り払っていく。 「あ、あぁ……」  西日が屋敷の中へと差し込み、異形を照らした。異形の躰から紫紺の煙が上がる。  もがき苦しみながら、それでもなお近づいてくる。走って逃げたいが、遂に腰が抜けてしまった。  ぬかるんだ地面を必死の思いで這いずって距離を取りながら、どうかこれで異形が死ぬようにと女神に祈った。
 異形の躰が崩れていく。その躰が完全に崩れる間際。 「……あ……」    ――パティリッタは、確かに無邪気に笑う少年の姿を見た。    翌日、パティリッタは宿場につくなり官憲にことのあらましを説明した。  館は役人の手によって検められ、あれこれと詮議を受ける羽目になった。  事情聴取の名目で留置所に三日間放り込まれたが、あの屋敷に閉じ込められた時を思えば何百倍もマシだった。  館の住人は、縁のあった司祭によって弔われるらしい。  それが何かの救いになるのか、パティリッタにとってはもはやどうでも良かった。  ただ、最後に幻視したあの少年の無邪気な笑顔を思い出せば、きっと救われるのだろうとは考えた。 「……帰りましょう、リーンに。あたしの日常に……」
「……もう、懲り懲りだぁー!!」  リーンへの帰途は、晴れ渡っていた。
 ――ある館の、惨劇。
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buriedbornes · 4 years
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第39話 『白き山脈にて (3) - “ショゴス"』 In the white mountains chapter 3 - “Shoggoth”
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爆音が響いた。
視界が高速でぶれて、何を見ているのかわからない。
炎、黒煙、タール、石壁、そうしたものが矢のように視界を走り、やがて一点に留まる。
そこには、先程までこの世の全てを巻き込み押し潰さんと蠕動していた巨体が、炎に包まれ、燻り、焦げた姿だった。
内側から捲れるように波打っていたタール状の物体は、今はもう動かない。
表面に遺された眼球も、その全てが焦点を失い、増えも減りもしなくなっていた。
本当に、ただの一瞬であった。
死体は目にも留まらぬ速さで動き、そして自身の何十倍もあろう怪物を、いとも容易く屠ってしまったのである。
開いた口が塞がらないというよりも、最初はむしろ、何が起こったのかもすぐには理解が追いつかなかった。
およそ人間の為せる業ではない。
これが、屍術師達の戦いなのか。
敬意や感謝よりも、畏怖が心を支配する。
横に居座るライツに目線を向ける事もできず、荷物の袋に腰掛けたまま、私は項垂れてしまった。
「いいだろう、ジョゼフ。調査を続けよう」
「黒幕がいるパターンですかねこれは」
「予断は持つな。念には念を、だ」
ライツは淡々と指示を続けている。
自分がとても場違いな場にいる感覚が、一層強くなった。
こんな現実離れした戦いを前に、ただの狩人に何ができるというのか。
山を越えるまでの道程において、私でもできる事があるように思えていた。
だが、それはほとんど、その場限りの幻想だったのかもしれない。
未知の都市に降り立った以上、ここから先、私にできる事はもう何もないはずだ。
これ以上ここにいても、仕方がないのではないか?
とは言え、ではここから、独りで村に帰るなどという気にも当然なれなかった。
私は事実上、村を裏切り、捨てた身なのだ。
行く先などない。
思い返してみれば、約束の金も後金がまだだった。
彼らの戦いを見届けねば。
それが自分にできる、ここでの最後の仕事だろう。
気持ちを切り替え、再び幻像に目を向ける。
そこで私は、またしても思わず声を上げてしまった。
視界を覆う、暗い虹色のタール…
それが、前方、左右の進路を塞ぎ、四方八方から迫ってきている。
振り返る視界が、後方にも同様の接近を確認している。
「すげぇ数だな!」
再び幻像の中の腕に炎が灯る。
しかし、右方向から素早く伸びてきた粘液の触手が下腕へと絡みつき、燃え上がる腕全体を包み込む。
すかさず左からも粘液が迫り、視界がみるみるうちに粘液に囲まれていき、やがて暗転する。
「あぁ…!」
思わず、私は落胆の声を漏らした。
「…いいぞ、戻ってこい」
眉間にシワを寄せてライツが腕組みをした。
すると突然、それまでずっと私の右後方で眠ったように椅子に深くもたれたままだったジョゼフが顔を振り上げて、大きく息をついて叫んだ。
「ぶはァ!ありゃあ無理だわ、分が悪いぜさすがに」
ジョゼフはため息をついて、手の甲で額を拭った。
見れば、いつの間にか、彼は汗だくであった。
さらにジョゼフは続けた。
「だから言ったろ、黒幕がいるパターンだってアレは」
「まぁ、そうだろうな… 指示を出しているのか、操っているのか、はわからんが…」
ライツは再び黙考を始める。
私はまだ、心臓が跳ねるほど高鳴っていた。
まるで、死ぬ瞬間を目撃するかのようだった。
死体なのだから死んだというのも変な話だが、ただ、仲間達も、ああして飲み込まれ絶命していったのは間違いないように思えた。
そう思うと、嘔吐を催しそうになる。
私は思わず、胸の前で十字を切っていた。
急に、背後から声がした。
「次はどれを使いますか」
目前の幻像に集中しすぎて、斜め後方から同じように観察していた女性の存在を忘れていた。
アリーセは手近な死体袋を抱え、縦に積まれていたそれらを横に広げ始めている。
ライツは少しの間無言だったが、やがて鼻先に当てた手を膝に降ろし、真っ直ぐアリーセを見て告げた。
「情報が足りないな。一旦、偵察に切り替えよう」
それを受けてアリーセは頷くと、ひときわ小ぶりな袋を探り当てて、地面の図形の中央に運び込んだ。
そしてジョゼフをちらりと見ると、再びライツに向き直った。
「偵察だけなら、私がやりましょうか」
「オイオイ、俺はまだ行けるぜ」
ジョゼフが口をはさむが、アリーセは目線をライツから離さない。
「黒幕がいるなら、彼は温存しておいた方が良いでしょう。今回は、時間がかかりそうですよ」
ライツは真っ直ぐアリーセを見つめ返す。
ジョゼフは「まぁそうだけどよ…」とブツブツ言いながら、足を組んで膝の上に肘をつき、明後日の方を向いてしまう。
「わかった、偵察は君に任せるよ」
ライツの答えを聞いて、アリーセはほんの少し微笑んだように見えた。
しかし、すぐにその表情を潜め、彼女はジョゼフの座っていた椅子に足早に歩み寄った。
ジョゼフは椅子に大きくもたれかかってひとつ伸びをすると、そのまま勢い良く立ち上がって、気怠そうにアリーセと椅子を代わった。
胡座をかいていたジョゼフと違い、アリーセは両手を膝に添え、背筋を伸ばしたまま目を瞑った。
「良いですよ」
アリーセの合図を受け、ライツが呪文を始める。
最初の時と同じように図形が、そして死体袋が発光し、やがてライツの呪文と共にその光が止む。
今度は、袋が独りでに開いた。
小ぶりな袋を目にして、私は嫌な予感がしていた。
子供の死体なのではないかと想像していたのだ。
だが、私の想像は全く予期しない方向で裏切られた。
袋から突き出された顔は、兎のそれだった。
片耳が削げたそれは、軽やかに飛び出し、二足で器用に着地する。
それは、二本足で立つ兎だった。
そしてやはりそれもまた、毛皮のあちこちが剥がれ、ピンク色の肌が露出し、あるいはまたその肌も剥げ落ち、内側の筋肉まで露呈していた。
「度々で申し訳ないが、道案内をお願いします」
ライツが、私に対して軽い会釈をした。
「お願いします」
アリーセの声も、今度はやまびこのように耳の奥に響いた。
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兎は、最初の死体とは全く異なる性質を持っているように見えた。
木陰や岩肌などに身を寄せると、一瞬視界が暗転した後、かなり離れた地点に唐突に顔を出すといった芸当ができたのだ。
そのために、ジョゼフを案内した時とは案内の勝手が異なった。
連続した視界の移動ではないため、彼女がどこに立っているのかわからなくなる瞬間があった。
しかしそれも、改めて目印となるものを視界に入れてもらう事で、確認し直す事ができた。
彼女の受け答えは簡潔で粛々としていたが、ライツの無感動さ、感情の起伏のなさから来る淡々とした姿勢とは異なり、いわゆる生真面目さのようなものが感じられた。
ライツは黙々と目的を達成する事に従事しており、いわば職人のようだった。
アリーセは、まるで軍人だった。
屍術団という組織の性質は知る由もないが、戦うための組織という印象からは、ある意味では彼女のような人間が一番それらしく思えた。
兎は間もなく、都市の入り口へと足を踏み入れた。
最初の死体に対して、半分ほどの時間で到達できた事になるのか。
兎は高い身体能力こそ有しないものの、迂回が必要な地形を全くといっていいほど無視した登攀が可能だったからだ。
最初の死体が喰われた回廊の入り口に立つと、既にその奥からは、風音に紛れて、あの忌まわしい鳴き声が遠く響いてきているのがわかる。
「マントを使います」
「わかった」
アリーセとライツの簡単な会話の後、死体の視界が一瞬、何かの布によって隠された。
すぐに視界は晴れたが、それまでとどことなく視界が違って見えた。
まるで、磨りガラスのようなものを一枚隔ててものを見ているかのような、不明瞭な見え方に変じていた。
私が興味深そうに幻像に見入っていると、兎はそのまま回廊をスタスタと直進していった。
「こ、この先には、あいつらが…」
幻像を指差しながらライツを見やるが、ライツは落ち着き払っていた。
「構わない、このまま進めばわかる」
死体は躊躇いなく回廊を進んでいき、間もなくあの悍ましき粘液の集団が視界に入った。
足元には、先程は見られなかった人骨が1つ、横たわっていた。
さすがの私でも、それが何なのかはすぐに判断がついた。
兎は構わず、そのまま直進する。
粘液の集団は、それぞれが這いずりながら、捕食されるべき哀れな被害者を探しているように見えた。
その巨体が回廊を塞ぎ、脇の方にほんの少し、人がふたりほど行き交える程度の隙間だけが空いていた。
兎はそちらに目線をやると、足音を立てないようにそっと脇の空間へ歩み寄っていく。
その間にも、無数の眼球が周囲を凝視し、勿論兎のいるべき方向にも視線を向けているように見えた。
だが、兎が手を伸ばせば触れられるほどの距離まで接近しても、どの眼球も反応する様子はなかった。
まるで、見えていないかのように。
もはや、何が起きても、何をしでかしても、驚きはしない。
おそらく、何かの特殊な力を用いて、姿を消しているのか、という事まで、想像がついた。
「マントを使う」と言っていたが、それがこの力なのか。
詳しくはわからなかったが、もはや取り立てて驚いたり質問したりするのも野暮なような気がして、特に何も発言せずに過ごした。
兎はそうして怪物達の間隙を縫い、集団がたむろする領域を抜けて、回廊のさらに奥へと向かっていった。
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再びの静寂が訪れてから、しばらくの時間が経った。
鳴き声も遠ざかり、今や都市を覆う吹雪の風音さえも聞こえなくなっていた。
果てしなく続くと思われていた回廊にも、ようやく終点が見えてきたと思われる。
正面に、左右の壁面と同様の壁が立ち塞がっているのが見えてきた。
その下方には、壁面に対しては狭小な扉が開かれていた。
扉の縁や蝶番には、見覚えのあるタール状の粘液がこびりついているのがすぐに確認できた。
足音を殺し、扉の中へと忍び込む。
中は農家の納屋ほどの大きさの部屋で、書棚や薬瓶棚が敷き詰められていた。
その奥の壁に面した机に突っ伏した人影を認めて私は息を呑んだ。
人がいる!
ライツも、アリーセも、背後のジョゼフも、無言である。
兎は静かに人影に近づき、覗き込む。
枯れ木を思わせる色と質感の肌。
抜け落ちた髪の毛が、机の上に広がっていた。
落ち窪んだ眼孔に、眼球はなかった。
大きく開かれたままの口の奥から、干からびた舌が突き出ていた。
「死、んでる… んですかね、これは」
私は、予想しなかったものを目の当たりにし呆然としていた。
だが、術士達にとっては、全く異なる印象を受けたらしい。
ライツは大きなため息をつき、明らかな落胆の色が顔に出ていた。
背後のジョゼフが、突然笑い出した。
「あっはっは… 外れでしたね。まぁ、こんな事だろうと思っていましたよ」
「それでも調査しないわけにはいかないだろうが」
反論したアリーセの声には、苛立ちと怒りが滲んでいた。
「アリーセの言う通りだ。可能性は全て探るのが方針だ、当たり外れじゃあない」
ライツはふたりを諌め、そして鼻先に指を当て、独り言のように続けた。
「ここにある書物だけでも持ち帰りたいところだが、道中の連中が邪魔だな。この量では、往復にかかる時間も馬鹿にならない。直接乗り込めるのが理想だが…」
やがて、ライツは平手で膝を打ち、ジョゼフに振り返って言った。
「やるぞ、ジョゼフ」
「どこまでやりますか?」
「この部屋以外、全てだ」
ジョゼフがにやりと笑った。
私は、その笑みを目にして、なぜか背筋に怖気が走るのを感じた。
そしてライツは立ち上がり、幻像の中を覗き込みながら言った。
「奴らは確かに怪物だが… 我々もまた、怪物なのだ」
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~つづく~
※今回のショートストーリーは、ohNussy自筆です。
白き山脈にて (4) - “焦土" (準備中)
「ショートストーリー」は、Buriedbornesの本編で語られる事のない物語を補完するためのゲーム外コンテンツです。「ショートストーリー」で、よりBuriedbornesの世界を楽しんでいただけましたら幸いです。
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misasmemorandum · 4 months
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『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』 ウィンストン・ブラック 大貫俊夫 監訳
中世(5Cから15C)に関する迷信について一次資料を出しながら検証する。
1)中世は暗黒時代だった:中世をはローマ帝国以降ルネサンス前の文化/文明のない暗黒時代と誤解されている。5〜8Cは確かに知的面は衰退したが、11〜15Cは人口増加により都市化し、交易が活発化、芸術的な創造性が復興し、リテラシーが拡大された。
中世ヨーロッパのほとんどの住民は、まさに後期ローマ帝国時代に侵攻内し定住した蛮族の末裔だった...。フランク族、アングロ=サクソン族、ロンバルド族、(スペインやプロヴァンス地方の)西ゴート族などは、みなすみやかにキリスト教に改宗し、ローマ法や統治の基本構造をある程度受容し、ヨーロッパの諸国家や文化的諸地域として今に続く諸王国を創建した。(pp44−45)
2)中世の人々は地球は平らだと思っていた。BC6以降から地球は球形だと言うのが西洋文明の共通認識だった
3)農民は風呂に入ったことがなく、腐った肉を食べていた。入浴は前に読んだ本の通り。腐った肉を食べるために必要なスパイスの方が肉よりよっぽど高価
4)人々は紀元千年を恐れていた。一部の人がそうだっただけ。
5)中世の戦争は馬に乗った騎士が戦っている。ゲームの影響による錯覚。中世の戦争にあっては、むしろ希少要素。ほとんどが歩兵だった。
6)中世の教会は化学を抑圧していた。ローマ帝国と中世における「科学」とはアリストテレスによるギリシア自然哲学。異教のものになるけど。これは、当時のカトリック教会を攻撃しようとした近世/近代の著述家たちによる創作。現代の科学とは異なるが、当時の科学はあった。
7)1212年、何千人もの子どもたちが十字軍遠征に出立し、そして死んだ。こう言われてるのは、当時のカトリック教会の腐敗していたと、当時の親たちが薄情だったと、十字軍がいかに無秩序だったかと攻撃したいから。近代の著述家による創作。1870年の神学教授や20Cの十字軍史家など。これを主張することによって、中世の人々は、神の力、キリスト教徒のエルサレム奪回を確信し、十字軍に行こうとしない大人をけしかけた。近代の人々は、カトリックが支配する中世ならではの悪、野蛮、蒙昧、残酷の象徴、中世カトリック聖職者(子どもたちを送り出した)とイスラム教徒(子どもたちを奴隷にした)の双方を非難出来るから。
8)ヨハンナという名の女教皇がいた。「女教皇に関する一連の言及はオリジナルの手稿には存在せず、十四世紀や十五世紀に複写した写字生が付け加えた」ものだそうだ。ヨハンナがいたとされる855年、896年、1099年は教皇周りが混乱していた。896年の1年間に教皇が3人いたりしたそうだ。一人は6日くらいで死亡した。何故女性教皇がいたと伝説が生まれたかと言うと、「おそらくローマ住民が、異教の神像を誤解して女性の教皇の表象だと思い込み、作り上げだ(pp262−263)」からだろうと著者は言う。後世の写字生が書き加えているのを見つけたのはすごいと思うけど、これは疑問が残るよね。
9)中世の医学は迷信にすぎなかった。がれのす(130−210)の体液理論を基礎にして、*当時の*理論があった。
10)中世の人々は魔女を信じ、火あぶりにした。15Cより前に魔女として処刑されたのは1324年アイルランドに一人だけ。性的で悪魔と結託した魔女はルネサンスと近世の産物。ほとんどの魔女狩りは啓蒙時代と言われる17Cにプロテスタントの地域で起こって、世俗の指導者により行われた。
11)ペスト医師のマスクと「バラのまわりを輪になって」は黒死病から生まれた。クチバシをつけたペスト医師の絵は17Cから。1619年るい13世の侍医が15cmのクチバシを使っていた。中には香料や香草が入っている。この他に「瘴気」、毒性のある腐敗した空気を防ぐために、ブーツ、ロングコート、帽子、手袋を使う。この「バラの〜」は知らなかった。
最後に、間違った歴史認識をする「くせ」のようなものを翻訳者があとがきに書いている。
①短慮軽率型:一つ、あるいは数少ない資料に記された内容を時代全体に敷衍すること。
②優劣比較型:異なる時代、異なる地域と比較して優劣を決めてかかること。
③人身御供型:歴史的な出来事の原因・責任を、何かしらの先入観に基づき、何か一つの主体に押しつけること。
肝に銘じないとね。
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sorairono-neko · 4 years
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きみにふれてみたい、だからきみの愛を待ってる
「全部、スケートで返すから」  勇利のそのひとことで、ヴィクトルと彼はつながりあった。これまでの、どこか線を引いたものとはちがう、それよりも一段色を濃くした関係を持ったのである。少なくとも勇利はヴィクトルに一歩近づき、見えない壁のようなものをひとつ取り払ったのだ。  だがヴィクトルは、それで安心はしていなかった。まだこれは入り口なのだ。思っていたよりも勇利は、難解でつかめない性質をしているようである。バンケットの夜、ヴィクトルに近づいてきたり、笑いかけてきたり、抱きついてきたりした彼とはちがう。もっと奥が深く、謎を抱えている。いちばん不思議なのは、こんなにへだたりをとることにこだわるのに、時にはあの夜のように大胆にヴィクトルを求めるということだ。  できればあれくらい勇利と近づきたい。普段からずっと。無邪気な笑顔を向けられ、寄り添われ、ヴィクトル、と甘ったるい声で呼ばれたい。貴方が好きで貴方が必要だという視線をそそがれたい。貴方だけを見ている、という情熱を示してもらいたい。  もちろん、いまの勇利にそれがないとは言わない。確かにあの勇利といま目の前にいる子は同じ人物だと信じることができるほどには、勇利はヴィクトルに好意をあらわしている。ただ、それを覆い隠すふるまいがそれ以上に目立つのである。  あの夜くらい勇利と仲よくなりたい。あの夜以上に。信頼しあって、師弟として濃密に愛しあって、ひとつの目標のために互いに手をたずさえて難局にあたる。そういう間柄になりたい。勇利がこころをひらいてくれたことは、そのための兆しとも言える。  しかしヴィクトルにはもう理解していた。勇利はそんな簡単な若者ではない。「全部スケートで返す」という言葉ですべてが解決するほどわかりやすくはない。たとえばいま、ヴィクトルが当たり前のように勇利の肩を抱き寄せたら、彼は驚いてなにごとかという顔をするだろう。一緒に寝ようと言ったって、やはり戸惑った態度になるにきまっている。そういう意味では、ふたりの関係はまだまだ熟しておらず、初々しいままだった。  勇利は、普段にいきなりさわったらびっくりする子だ。ヴィクトルはまずはそのことをしっかりとこころに刻みつけた。これで仲よくなれたと思って親密に行動したら、きっとまた問題が起こる。もしかしたら眉をひそめるかもしれない。警戒されてしまうかもしれない。勇利は「ヴィクトルはヴィクトルでいて欲しい」と言ったが、それは「ぼくに対して好き放題にふるまってもいい」という意味ではないだろう。そのことは忘れないようにしなければ。  こちらから近づくのは、たぶん、よくない。ヴィクトルはそのことを頭においておくことにした。バンケットのおり、当たり前のようにくっついてきたからと、そのつもりでしばらくいろいろしていたけれど、勇利の反応はかんばしくなかった。ああいうことはいまはやめておいたほうがよさそうだ。勇利はたぶん、酒が入ったときだけは陽気になるが、普段はおかたい、馴れ馴れしい態度を敬遠するようなたちなのだ。いつもそうしてまじめにしているからこそ、おさえつけられたものが酔ったときはおもてに出るのかもしれない。  とにかく、いまは良好な関係を築き、それを深めていく時期だ。せっかく勇利が信頼を見せてくれたのだから、それを大切にはぐくんでいきたい。ヴィクトルのほうから強引なことをするのはよしたほうがいい。勇利は踏みこまれるのが嫌いなのだから。きっとこころだけの話ではない。あまりに近づきすぎたら、勇利が話した「ぐいぐい来る女の子」のように、いやがられて突き飛ばされるかもしれない。  まあ、あの無視された日々は、ある意味突き飛ばされたようなものだけど……。ヴィクトルは思い出して溜息をついた。すこし笑ってしまう。無視なんて初めてされた。あからさまに目をそらされた経験なんてない。  あんなにきらきらした純粋な目で見られたのも初めて、ダンスバトルをしたのも初めて、コーチになってと言われたのも初めて、無視されたのも初めて……。勇利はヴィクトルにいろいろな「初めて」をもたらす。 「こんなに仲よくなりたいと思ったのも、慎重に行動するのも初めて」  つぶやいてヴィクトルは笑ってしまった。 「なんですか?」  勇利が振り返る。ロシア語だったので伝わらなかったらしい。 「なんでもなーいよ」  ヴィクトルは笑顔でかぶりを振った。 「そうですか」  勇利がうなずく。彼は岩のふちにもたれ、ぼんやりした。ふたりはいま一緒に温泉に入っているのだ。  こうして裸の付き合いはできるんだけどな……。ヴィクトルはちらと横目で勇利を見た。ヴィクトルにとって、それほど親しくない相手の前で服をすべて脱ぎ、同じ湯につかる、というのは初めての体験だった。だが、そういうことをすれば、なんとなく親近感がわいた。勝生家の温泉に来る常連客たちと湯をともにしたら、あっという間に仲よくなれた。なるほど、日本人というのはこうして親しくなるものなんだな、と感心したものである。  しかしそれが勇利にはいっさい通用しないのだった。勇利はヴィクトルと温泉に入って���、さほど親しみを感じていないようだ。温泉を経営している家の息子だからだろうか。人と一緒に湯に入る、というのは彼にとって当たり前のことで、いちいち仲よくなるとかならないとか考えるようなことではないの��もしれない。そういえば、昔から友人が少ないと聞いた。この温泉にやってくる同級生もいただろうに、それでも友達ができないということは、つまり勇利は温泉でのつながりに特別なものを見出していないということだろう。もっとも、彼の場合、練習が忙しくて、同級生が来るときもずっと家を空けていた可能性もあるが。  とにかく温泉で仲よくなるのはだめみたいだ。ヴィクトルはふうっと息をついた。いまだって、「なんでもないよ」と言われて、あっさり勇利は引き下がった。「何か言ったでしょう?」「いまのロシア語ですか?」と話を続ける気はないようである。俺、興味持たれてないのかな、と可笑しくなる。会話を発展させるということをしない勇利なのだ。いつも自分の世界だけで生きているようなところがある。芸術家には大切な部分ではあるのだけれど、いまはもうすこしうちとけて欲しい。  勇利は、ヴィクトルが自分の体験を話したら、同じように彼自身のことも話してくれた。そんなふうにすこしずつ近づくしかないようだ。 「俺ね、温泉って入ったことなかったんだ」  ヴィクトルは笑顔で語りかけた。 「こんなにひろいお風呂初めてさ。最初入ったときは感動したな。こんな場所をひとりじめ! って浮かれちゃったよ。勇利は自分の家のお風呂だから慣れてる?」 「そうですね」  勇利はこっくりうなずいた。 「もちろん温泉は好きだけど、日常だから……。あの、すみません」 「何が?」 「ひろいお風呂がいいんですよね。ぼく、もしかして邪魔だったかな。あっちのお風呂に行くので、ヴィクトルはひとりでここを……」 「ちょっと待った!」  ヴィクトルはとっさに勇利の手をつかもうとし、いけないいけない、と思い直して腕をひっこめた。不用意にさわるのはよくない。 「そういうことじゃない。そういうことじゃないんだ」  どうやらこの話題は失敗だったらしい。 「ここにいてくれ、勇利」 「でも、ヴィクトル貸し切りが好きなんでしょ?」 「いや、好きとかそういうことじゃない。ひろくていいなというだけだ。勇利の家のお風呂ってすてきだねという話だ」 「はあ……そうなんですか……」  勇利はきょとんとしている。いけない。俺はどうも勇利に「よくわからないことを言うやつ」と思われたようだぞ。べつによいのだが、いろいろ考えたうえでの行動を不可解そうに眺められるとなんとなくさびしい。 「えーっと」  ヴィクトルは無意識のうちに勇利の肩を抱き寄せようとし、おっと、と自分をいましめた。しかし、ここで勇利の手をつかんだり、バレエのまねごとをしたりしたことはある。そのときは勇利はとくにいやがったりはしなかった。ならばいまも構わないのではないだろうか。……いや、だが、あのころより魔法がとけてきている感じがある。この前は「あぁん!?」などと言われてしまったし。すこし遠慮がなくなってきている。それは歓迎なのだが、まだ親密になったというほどでもないから、接触に関しては以前より後退しているかもしれない。  勇利って難しいな。 「そういえば、勇利のパーパに、この温泉は効く、って言われたんだけど、何に効くんだい?」  ヴィクトルは結局、さして悪くはないが特別よくもない、ごく普通の話をすることにした。 「ああ……、まあ、疲労回復とか、打ち身とか、そういうのです。女性は肌にもいいと言ってますね」 「肌か……」  ヴィクトルは勇利の身体をちらと見た。 「勇利、綺麗だよね」 「え? 何がですか?」 「だから肌だよ」 「そうかな」  勇利は自分の身体を見下ろした。 「長いあいだデトロイトにいたから、そんなに効いてないと思うけど……。でも、もう一ヶ月くらい経つからあらわれてきたのかもしれません」 「ちいさなころからつちかわれた肌質というものなんじゃないかな」 「さあ……ぼくにはわかりませんけど……」  勇利は首をかしげた。ヴィクトルは、「綺麗だよ。ほら、このあたりとか」などと言いつつ勇利の素肌にふれようとし、おっと、とまた手をひっこめた。あぶないあぶない。どうも不用意にさわろうとしてしまう。誰にでもというわけではない。勇利だけだ。なぜだろう? バンケットのとき、愛情いっぱいに抱きつかれたから、それが感染してしまっているのだろうか。 「そうかなあ……」  勇利は納得しかねる様子だ。自分の腕を眺めたり、胸にふれたりしている。ヴィクトルはそんな彼をじっと見ていた。 「ヴィクトルのほうが綺麗ですよ」  唐突に顔を上げて勇利は言った。ヴィクトルはびっくりした。 「温泉に入ってるとか関係なく、ヴィクトルは綺麗」  勇利は率直に言い、かすかにほほえんだ。 「ヴィクトルがいちばん綺麗なんです」  確かなことだというような勇利の口ぶりだった。 「言われ慣れてると思うけど」  そうだ。確かに言われ慣れている。称賛の言葉なんて珍しくもない。しかし……。  勇利が言うと、なぜか特別に聞こえた。彼の褒め言葉は、いままでヴィクトルが聞いてきたものとはちがう響きを持っていた。 「ヴィクトルは綺麗で、かっこいい」  勇利は続けた。 「ヴィクトルくらいかっこよかったら、どんな感じがするものなんだろう……」  彼は口元に手を当て、考え深そうにつぶやいた。それからまたヴィクトルを見てちょっと笑った。 「どんな感じがしますか?」 「どんなって……」 「鏡見るたび、俺ってかっこいいな、とか思うの?」 「いや、べつに……」 「そっか……、いつものことだもんね。いちいち毎回感動することでもないか。ヴィクトルにとってはそのかっこよさが当たり前だから……」  勇利は言葉を切り、それからいつもより明るい声で言った。 「かっこいいのが当たり前って、かっこいい」  彼は笑った。 「なに言ってるのかわからなくなってきた」  ヴィクトルも何を言われているのかよくわからなかった。ただ、勇利のいまの話し方は、親しい感じでよいなと思った。海で勇利と語らったときも、彼はあまり丁寧な言いまわしをしなかった。そっちのほうがいい、とヴィクトルは考えた。たとえば礼を述べられるなら、サンキューよりサンクスと言われるような。親密な表現をして欲しかった。勇利は教科書通りの英語を話すのかと思っていたが、海外スケーターの友人と電話しているのをちらっと聞いた限りでは、ちゃんと砕けた話し方も理解しているようである。それならヴィクトルにもそうしてもらいたい。  いや、しかし、待とう。何かをしてくれ、と勇利に対し要求するのはよそう。勇利はヴィクトルに、ヴィクトルはヴィクトルでいてほしい、と言った。ヴィクトルも勇利にはありのままでいてもらいたいのだ。ふたりの間柄について、ああしろこうしろと口にしたくない。 「ヴィクトルは寝起きでもかっこいいんですか?」  勇利が尋ねた。ヴィクトルは笑って「どうかな」と答えた。 「会ったことあるだろう?」 「あるけど、ぼくの言う寝起きって、本当に起きた瞬間のこと。ベッドで起き上がったときのことです」  一緒に寝ればその瞬間がわかるよ。ヴィクトルはそう言おうとして思いとどまった。代わりにもう一度「どうかな」とほほえんだ。 「ぼくの予想では、ヴィクトルは起きた瞬間からかっこいいです」 「勇利、どこ行く?」  勇利が玄関のほうへ向かっていたので、ヴィクトルは不思議に思って尋ねてみた。 「おつかいです」 「おつかい」 「ちょっとそこのコンビニまで」 「ふうん……」  ヴィクトルは勇利を見ていた。勇利もきょとんとしてヴィクトルを見ていた。勇利はゆっくりと言った。 「……一緒に行く?」 「行く行くー!」  すでに日は暮れ落ちている。雨が続いたあとの晴れた晩で、緑の匂いが風に濃かった。甘いような、むせ返るこの匂い。生々しいほどの自然を感じる。ふたりは、街路灯がほのかに照らす道を連れ立って歩いた。 「なに買う?」 「えっと、買い忘れたらしい卵……、それから牛乳……、真利姉ちゃんの要望でスナック菓子……、あとは好きなの買っていいって」 「好きなの」 「おやつですね。ヴィクトルなに食べたい?」 「アイスかな!」 「アイスね」  勇利はにこっと笑った。このところ気がついたことがある。勇利は、普段はなんとなくぼんやりして表情があまりないが、ヴィクトルのことになると笑ったりする。ヴィクトルはそのことがくすぐったくて仕方ない。たぶん当人は気がついていないだろう。 「このあたりは夜になると静かだね」 「そうですね。ロシアはもっと賑やか?」 「俺の住んでるあたりは、賑やかというほどでもないけど、でもこんなに人通りがなくなったりはしないかな。夏は白夜で、いろんな催しがあるよ」 「ああ、白夜」  勇利は星空に目を向けた。 「きっと綺麗でしょうね……」  彼の夢見るような視線に、ヴィクトルはなんとはなし見蕩れてしまった。きみも綺麗だよ。そう言おうとして、とりあえず口をつぐんだ。なんだ、この口説き文句みたいな言葉は? そういえば前にも言ってしまった。温泉で。でもあのときといまとでは、ちょっと意味合いがちがう。 「白夜かぁ……」  勇利がつぶやいた。こうしておとなしやかな様子で歩いている物静かな彼は、あのバンケットのとき踊り狂っていた彼と同じ人物とは思えない。とても穏やかで神秘的だ。こういうところがよくわからないし、魅力的だなと思う。 「勇利もいつかサンクトペテルブルクにおいでよ」  ヴィクトルは誘った。 「案内するよ。いろんなところへ連れていってあげる」 「ヴィクトルの生まれた街ですね」  勇利はほほえんだ。 「行きたいなあ……」  しかし、行きたい、と言いながら、彼は生涯かなうことのないねがいを口にしているようなふぜいだった。月明かりを頬に受け、瞳に星を映し、どこかさびしそうに笑っている。胸が痛くなるような横顔だ。 「おいでよ。必ずおいでよ」  勇利にそんな顔をさせたくなくて、ヴィクトルはつい力をこめ、熱心に誘ってしまった。 「俺の家に泊めてあげるよ。俺が勇利のところにお世話になってるみたいに」  勇利はきょとんとしてヴィクトルを見た。そして彼はくすっと笑った。 「いいね、それ」  いいね、それ。いいね、それ、だって。  ヴィクトルは、本当にいつか勇利が自分の街に来るような気がした。 「温泉はないけどね」  ヴィクトルはうれしくなって、そんなはしゃいだ話し方をした。 「知ってる」  勇利がまたくすっと笑った。 「知ってる? なんで?」 「え? だって……」  彼は一瞬だけ、からかうようにヴィクトルを見た。 「貴方、温泉に入ったのはうちが初めてだって言ってましたから……」  そこで勇利は歩道から明るい駐車場へと入り、コンビニエンスストアの扉を押し開けた。ヴィクトルはちょっと立ち止まり、それから急いであとを追った。勇利はもうカゴに卵と牛乳を入れており、真利のスナック菓子を選んでいるところだった。 「ヴィクトル、欲しいもの持ってきて」 「…………」 「ヴィクトル?」 「え? なに?」 「アイス、欲しいんでしょ?」 「欲しい」 「ぼくのも取ってきてください」  勇利は袋を見くらべながら言った。 「かき氷」 「カキゴーリ」 「シャーベットアイスですよ。それならカロリーが低いから」 「そうだね」  ヴィクトルはアイスクリームのたくさん入った冷凍庫の前へ行った。自分が欲しいものと、それから勇利の欲しがった「かき氷」を取ろうとした。 「……勇利」 「何ですか」 「赤いのと青いのとある。どっち食べる?」 「ああ……、うーん、どっちでも。ヴィクトル選んでください」 「赤いのはなに?」 「いちごかな」 「青いのは?」 「ソーダ」  ヴィクトルは、青いかき氷を食べている勇利を想像してみた。みずみずしくていいなと思った。次に、赤いかき氷を食べている彼を思い浮かべた。かわいらしくていいなと思った。  ヴィクトルは目当てのものを手にし、勇利のもとへ戻ろうとした。雑誌の並んでいる棚の前を通った。その表紙はかなり過激だ。 「ねえ、勇利」 「はい」  勇利がカゴにスナック菓子を入れながらこちらへ歩いてきた。 「勇利はこういうの、見たりするのかい?」 「こういうのって?」  勇利は顔を上げた。ヴィクトルが成人向け雑誌をまっすぐ指さしていることに気がつくと、彼はぎょっとして急いで寄ってきた。 「勇利のそういう話を聞かないなと思って」 「そんな話はいいですから!」  勇利はまっかになった。声をひそめているが、かなり怒っている様子である。 「なんで? 大事なことじゃないか。男の子なんだし。日本人ってまじめそうなわりに、こういうところでは大胆だよね。勇利もそう?」 「もう帰りましょう」 「いっさい興味がないということはないだろ? 勇利っておとなしそうだけど、そのあたり、どうなんだい?」 「ノーコメントです!」 「また?」  ヴィクトルは陽気に笑った。 「そうやってすぐごまかす」 「こういうところでする話じゃないでしょ!」 「じゃあ、家に帰ったらゆっくり聞かせてくれる?」 「ヴィクトル!」  勇利はレジにカゴを置き、振り返った。 「いい加減にして!」  ヴィクトルはきょとんとした。それから楽しくなって彼のところへ行った。カゴの中にアイスクリームとかき氷を入れる。 「もう、ほんと、怒るよ!」  ヴィクトルはほほえんだ。勇利は会計のあいだも帰り道でも、つんと澄ましてヴィクトルのほうを見もしなかった。 「勇利、悪かったよ」 「ほんとに悪かったと思ってるの?」 「思ってるとも」 「どうだか……」  勇利が横目でじろりとヴィクトルをにらんだ。その突き放すような目つきがかわいかった。 「で、どうなんだい?」 「何が?」 「ああいうの、勇利、見てるのかい?」 「ヴィクトル!」 「勇利」 「なに!」 「カキゴーリとニシゴーリって、似てるね」  勇利が目をまるくした。彼はぱちりと瞬き、それからくすくすと笑い出した。 「ね?」 「そうだね」  勇利は愉快そうにうなずいた。 「似てるね」  それから、彼は思い出したように何度も笑いながら、夜道をゆっくりと歩いた。ヴィクトルは勇利の隣にいた。風に乗って勇利の匂いが漂った。ヴィクトルの手が、勇利の手にふれそうだった。  手をつないだら勇利はどんな顔をするだろう。ヴィクトルはふとそんな好奇心をおぼえた。怒るだろうか? 平然としているだろうか? 照れるだろうか? しかしヴィクトルはそうはしなかった。あとすこしで勇利にふれられる、というところをのんびりと歩いていた。だめだ。いまはまだ……。 「ああ、風が湿ってる。梅雨ももうすぐ明けるかな。明けたら夏ですね。ものすごく暑い……」 「勇利」 「ん?」 「もしまたおつかいを頼まれたら、俺を誘ってね」  勇利はヴィクトルのほうへ首をまわし、大きな目でヴィクトルを見た。黒い瞳の中に月明かりが瞬いて、綺麗だった。 「うん」  ヴィクトルは、リンクにいるとき以外も、なるべく勇利と一緒に過ごすことにした。勇利がどこかへ行こうとすれば行き先を尋ね、ついていってよいかと訊いた。家に飾ってある賞状やトロフィーをひとつひとつ見て、これは何のときのものか、いくつで取ったのか、と興味を示した。勇利がたまに洗濯を手伝っていたら、「俺も」と言ってふたりで物干し竿をいっぱいにした。そうしていると、勇利とのあいだにすこしずつ会話が増えてきた。 「ヴィクトルって」  勇利は白いシャツをひろげながら尋ねた。 「自分の家では、洗濯とかしてたの?」 「いや」  ヴィクトルはかぶりを振った。 「クラブに持っていくとどうにでもなるんだ」 「へえ……」  勇利は意外そうに眉を上げた。 「そうなんだ。手伝いの人とかがいるのかと思った」 「考えたこともあるけど、自分の家に人が入るのがいやでね。信頼できる会社もあるんだが、なんとなく気持ちが向かなかった」 「じゃあ、ごはんは?」 「クラブに栄養士がいるからね」  なるほど、と勇利は感心した。彼は新しいシャツを取り、皺を伸ばした。その無邪気な仕事ぶりにヴィクトルはほほえんだ。 「勇利は? デトロイトではどうしてた?」 「ごはん? ピチットくんと当番制かな。あ、ピチットくんっていうのは友達のスケーターなんだけど。タイの。ヴィクトル知ってるかなあ……。当番制っていっても、結局一緒につくることが多かったけどね。どっちも得意じゃないから、協力しあうしかないというか……」 「勇利と一緒につくるのは楽しそうだ」 「何が?」 「いろいろ」 「ヴィクトル、それ、陰に干さないとだめなやつ。こないだ真利姉ちゃんに怒られた」 「失礼」  勇利はヴィクトルを眺めて笑った。 「ヴィクトルが日本らしいこんな庭で洗濯物干してるなんて、ちょっと衝撃だね」 「そうかい?」  相変わらず勇利は、自分のことではたいていぼんやりしているけれど、ヴィクトルのことでは笑うのだった。 「じゃあ写真撮って」 「え?」 「SNSにアップしよう。洗濯物を干すヴィクトル・ニキフォロフ」 「いいの? こんなのヴィクトルじゃない、とか言われるんじゃない? ヴィクトルはなんていうか……、革張りのソファに座ってワイングラスをまわしてるような……」  ヴィクトルは噴き出した。 「いまさら何を言ってるんだ。俺はこれまで、いろんな写真を出してるよ」 「そうだけど、こんな家庭的なのはまだないでしょ」 「勇利はどう?」  ヴィクトルは勇利の顔をのぞきこんだ。 「何が?」 「家のことなんかしてる俺、ヴィクトル・ニキフォロフじゃないって思う?」 「…………」  勇利はヴィクトルを見てにっこり笑った。 「ヴィクトルはいつでもヴィクトルだよ」  そのとき、真利が縁側へやってきて、「おーい、これも」と声をかけた。 「はーい」  勇利が振り返って駆けていく。ひらひらと彼のシャツの裾がひるがえる。髪がさらさらしていて、ヴィクトルは、その艶やかな黒髪を撫でてみたいと思った。でもだめだ。自分からふれるのはよくない。ずいぶん親密になったつもりだけれど……まだ。 「ねえ勇利」 「んー?」  勇利は大きなカゴに入った洗濯物をこちらへ運んでくる。ヴィクトルの使っている敷布だ。 「もし俺が、きみに──」  きみにふれたら、きみは近づきすぎだと驚くのだろうか? いやな気持ちになるんだろうか? ただ仲がよいしるしだということを示したとしても……。なにしろきみは、人に踏みこまれるのを極端にいやがるから──。 「あ、ヴィクトル」  勇利がふと気がついたというように顔を上げた。 「ぼくちょっと行ってくる」 「え?」 「そろそろ表にビールが届いてる時間なんだ。中に入れなくちゃ。手伝ってくるよ」 「…………」 「これ、よろしく!」  勇利がカゴをヴィクトルに持たせた。彼はちょっと走ると、ふいに振り返って楽しそうに言った。 「洗濯物抱えてるヴィクトル、おもしろい!」  長谷津は夏を迎えた。ヴィクトルにとっては初めての日本の夏だ。もう、信じられないくらい暑い。連日、彼はへたばっていた。せめて昼間はリンクへ行きたいけれど、一般開放の時間だ。遊びに行こうか、と勇利に提案したら、「ヴィクトルが行ったら騒ぎになっちゃうんじゃない?」と笑われた。 「みんなもう俺のことなんて慣れてるだろ」 「それはそうかもしれないけど、やっぱりすべってるとなると話がちがうと思うな。ぼくだって、ヴィクトルがリンクに遊びに来てるなら見たいもん」 「勇利は俺のすべってるところなんて毎日見てるだろう」 「それとこれとはちがうんだよ。慣れてても話がちがうっていうのはそういうこと」  わかってないな、と勇利は笑った。勇利はやはり、ヴィクトルのことになるとよく笑う。好かれている──とは思う。だが、いまだに勇利は、彼のほうから積極的に近づいてきて何かをしようと言うことはない。なんでもヴィクトルが誘うのだ。言えば素直に応じはするが、勇利から親しみを示して欲しいなとヴィクトルはぼんやり考えている。 「ゆうりー」  炎天下では外での体力作りもできないので、昼間は勇利はのんびりくつろぐか昼寝をするかという時間にあてている。勇利の部屋をのぞいてみたが、彼はいなかった。 「勇利?」  ヴィクトルは一階へ下り、縁側へ行ってみた。勇利が畳の上に寝転がり、扇風機をまわして眠っていた。寝てるのか。起こしては悪いと思い、ヴィクトルは黙って腰を下ろした。ちゃぶ台の上に、すこしだけ麦茶の残ったグラスと、空になったアイスクリームの容器がある。いや、アイスクリームではない。たぶんシャーベット──かき氷だ。  ヴィクトルはぼんやりと頬杖をつき、勇利の寝姿を眺めた。暑いとはいえ、何か身体にかけたほうがよいのではないだろうか。しかし、そうしたらかえって汗をかいてよくないだろうか。  ヴィクトルは勇利のそばへ寄っていった。前髪が流れてあどけない額がのぞいている。試合のときの勇利はおでこが見えているが、あの凛々しさはいまはかけらもない。子どもみたいにすやすや眠っている。口元がもごもご動くのは、夢の中で何か食べているのだろうか。  いまだにヴィクトルは、勇利に自分からふれていなかった。踏みこまない、ときめたままにふるまっている。気持ちはずいぶん通じあってきたと思う。勇利がゆるせる境界線というものもわきまえられた。もっとも、それは日によって変化するので、絶対とは言えないけれど。  いまヴィクトルが親しげにさわったら、勇利はどんな顔をするだろう。まだそこまではされたくないだろうか。接触されるのはいやだろうか。ヴィクトルとしては、親愛の情を勇利に示すなら、彼をかるく抱擁したり、手を握ったりは当たり前になりたいのだが、勇利はどうだろう。 「…………」  ヴィクトルはそっと手を上げた。勇利の頬にふれようと伸べる。さわりたい……。氷の上では���としているのに、そこから降り���と、どうしてこうおさなげな様子になるのだろうか。頬も、ふっくらしているというほどではないのに、確かにヴィクトルとは何かがちがう。研ぎ澄まされている、とはとても言えない。大人の男のようではない。だから余計にふれてみたくなる。  ヴィクトルは勇利のほっぺたを撫でようとした。髪にふれ、耳たぶをつまみたかった。こめかみに浮いている汗を指先ですくいたかった。やわらかそうなくちびるを押してみたかった。  だが、手を止めた。  勇利が寝返りを打ち、「ん……?」とつぶやいて目をさました。 「ヴィクトル……?」 「やあ、おはよう」  ヴィクトルは手を握りこみ、身体の後ろへ引いてほほえみかけた。 「何してるの……?」 「勇利の寝顔を見てた」 「変な顔してた……?」 「いや、ぜんぜん」 「わかった。ほっぺたに畳の跡がついてるからおもしろかったんでしょ。もう……」  勇利は目をこすりながら起き上がり、きょろきょろとあたりを見まわした。 「なに?」 「眼鏡……」 「きみの後ろにある」 「ん」  勇利は両手で眼鏡をかけた。ヴィクトルはなんとなくちゃぶ台の上を見、「ひとりでかき氷食べたの?」と尋ねた。 「ヴィクトルも欲しかった?」  勇利が笑った。 「でもそれ、ぼくのだよ」 「かき氷へのこだわりがすごい」 「そうじゃなくて。だってそれ、ヴィクトルがぼくに選んでくれたやつだもん」 「え?」 「先月……? かな? 一緒に夜コンビニ行ったでしょ。そのとき、ヴィクトルにぼくのかき氷も取ってって頼んだんだよ」 「……ああ、あれか」  ヴィクトルは驚いた。 「そう。だからあれはぼくの。ヴィクトルがぼくに取ってくれたソーダ」 「まだ食べてなかったのか」 「うん」  勇利はそばに落ちていたタオルで汗をぬぐった。 「なんかもったいなくて」 「もったいない?」 「だって、ヴィクトルがぼくのために選んでくれたから」  勇利は白い歯を見せた。 「食べちゃうのが惜しくなったんだよね」 「…………」 「だから名前書いて、奥のほうに隠してたんだけど、真利姉ちゃんに発見されて、霜だらけになってるし、食べないなら食べるって言われて、仕方なく」  ヴィクトルは言葉もなかった。勇利は、ヴィクトルが取って渡した、という、たったそれだけのものを、こんなにも大切にしていたのだ。 「……美味しかった?」  ヴィクトルは尋ねた。 「うん。つめたくて」  勇利はあくびをひとつした。 「はあ、よく寝たなあ……。汗だくだ。温泉入ろうかな……」  勇利はタオルとグラス、それにかき氷の容器を取り上げ、部屋から出ていった。ヴィクトルはひとり取り残された。  おそらく勇利は、ヴィクトルからふれても、きっと怒ったりいやがったりはしないだろう。もう、それくらいには信頼してくれているし、好意も寄せてくれている。しかしヴィクトルは、やはり、彼のほうから近づいてきてくれるのを待つことにした。こころはこんなにひらいてくれるのだ。いつか──いつか、身体のほうでも、彼から自然に接されたい。当たり前みたいにくっつかれたり、すり寄られたり、もたれかかられたりしたい。  中四国九州大会が近づいていた。この予選に出なければならないのは、勇利が昨季の全日本選手権で失敗したからだが、ヴィクトルは、ある意味ではこれはよかったと思っていた。いきなりグランプリシリーズに出るよりは、もうすこし前に目標があったほうがよい。  勇利も試合が近いからか、近頃はいつも以上に練習に熱が入っている。あまりに熱中しすぎて、ヴィクトルが注意しなければならないほどだ。もともと稽古の好きな勇利だが、このところは、もっと、もっと、ととにかくリンクにいることを求めるのである。あからさまに禁止すれば精神的に悪い影響が出そうだし、だからといって好きなだけやらせるわけにもいかないし、操縦が難しいところだった。  もっとも、本気になってこころも身体も試合用になってゆくのはよいことだ。ヴィクトルはそういう意味では安心していた。  ある日、ヴィクトルは夜半にふっと目がさめた。どうして起きてしまったのかわからない。喉が渇いたわけでも、手洗いへ行きたいわけでもなかった。ヴィクトルは考えこんだ。  起き上がって館内着を身につけ、廊下へ出る。家の中はしんと静まり返っている。ヴィクトルはゆっくりと歩いた。階段を下りてとっつきの部屋が居間だ。そこからちいさな音が漏れていた。ヴィクトルは思いきって襖を開けた。  勇利がいて、彼は真剣にテレビをみつめていた。映っているのは勇利自身である。試合の映像だ。見覚えのある衣装を着ている。昨季のフリースケーティングだった。  勇利はヴィクトルが入ってきたことに気づいたはずだが、顔を上げもしなかったし、何も言わなかった。ヴィクトルは襖を閉めて勇利の隣に腰を下ろした。ヴィクトルも画面を見た。国際大会ではない。どうやら、全日本選手権のようだ。  全日本選手権……。  この試合で、勇利はすべてにおいて失敗をした。ヴィクトルもこの映像は何度か見た。技術は悪くないのに、何かにとらわれたような、なんとももどかしいすべりだった。おまえはもっとできるだろう、と言いたくなる。ここをこうして、こっちをああして、こういうところに気をつけて、と片っ端から注意したい。実際、勇利にそれを伝えたこともあった。しかし何よりいちばんしてやりたいのは、ぎゅっと抱きしめて、「大丈夫だ。きみはちゃんとできる」と声をかけることだった。  ヴィクトルは横目で勇利の様子をうかがった。勇利は真剣な表情をしているが、とくに悲観的には見えない。だが、極上の心理状態とは言えない気がした。きっと彼は、試合が近づくことでやる気にみち、それと同時に不安が生じ、昨季の最後の試合がどんなふうだったか確かめたくなったのだろう。どうも自分をいじめすぎるな、とヴィクトルは思った。どうせなら、絶好調だった時期の試合を見ればよいものを。たとえば、グランプリファイナル出場をきめたときの演技だとか、パーソナルベストを更新したときの競技だとか。なのに勇利は、苦しい、つらいときのものを選ぶのである。まあ、グランプリファイナルを見てないだけましなのかな……。ヴィクトルはそう考えた。 「どうしてこれを見てるんだい?」  ヴィクトルは静かに尋ねた。 「とくに意味はないよ」  勇利は淡々と答えた。 「ただ、急に見たくなって」 「こんな夜中に?」 「うん」 「眠った?」 「寝たよ」  うそだろうな、となんとはなしヴィクトルは見当をつけた。 「どうして悪い試合を見るんだ」 「だから、見たくなったからだよ」 「グランプリファイナルじゃないだけいいけどね」  あのときはすべてを失敗したわけではなかったけれど、国際大会で惨敗した、初めてのグランプリファイナルで、という思いは、相当に彼を苦しめただろう。 「それはさっき見た」 「見たのか!」  ヴィクトルはあきれかえった。勇利が前を向いたまま口元にひとさし指を当てる。 「しっ、静かに。みんな寝てるんだよ」 「勇利、きみね……」  こんなもの見るな。憂鬱になるばかりだぞ。ヴィクトルはそう言って消してやろうかと思ったが、でもこれがいま勇利のいちばんやりたいことなのだろう、と結局は理解を示した。勇利はよくわからない精神構造を持っている。だめだ、と頭ごなしにきめつけていたのでは、彼とともには歩けない。ヴィクトルは、勇利について、よくわからないなあ、と首をかしげるたび、こういう選手なのだ、受け容れよう、と思ってきた。だから今夜もそうするしかない。 「……いまならこんな失敗しないって思うのに」  勇利は、テレビから発されるひかりだけをおもてに受けてつぶやいた。 「でも、本番になったとき、本当に失敗しないかどうかはわからないんだ……」  ぽつんと落ちた言葉に、ヴィクトルはどう答えればよいのかと迷った。 「失敗しないさ」  結局、ありきたりだけれど、いちばん大切なことを口にした。 「しないよ」 「どうしてそう思うの?」 「どうして? 当たり前だろ? 俺は毎日勇利と一緒に練習してる。勇利がどれだけできるか、勇利と同じくらい──いや、勇利よりよくわきまえている。自分の知識に照らしあわせれば、勇利はちゃんとできるという答えが出るよ」 「それ、ぼくの精神的な部分も考えあわせた結果?」 「そうだよ」 「…………」  勇利はしばらく黙りこんでいたが、そのうち、口元にかすかな笑みを浮かべた。 「……ありがとう」  彼は物穏やかに礼を述べた。 「たぶん、実際本番になったらかなり緊張すると思うんだけど、そう言ってもらえるとうれしいよ」 「緊張してもできるさ」 「……うん」  勇利はこくんとちいさくうなずいた。彼はずっと自分の演技を見ていた。何度も転び、悔しそうに立ち上がる数ヶ月前の自分を見ていた。  ヴィクトルはふいに、勇利を抱き寄せたい気がした。こんなことをして自分を追いこむな。俺ができると言っているんだから俺を信じろ。そうささやいて髪を撫でてやりたかった。しかし、それを勇利が望んでいるか、よくわからなかった。彼は傷つきやすく繊細だが、たとえかなしんでいたとしても、どうかほうっておいてくれ、と言っているようなところがある。なぐさめなんかいらない、ぼくはひとりでいたいんだ、という気配を感じるのである。ヴィクトルが抱き寄せ、優しくすることで、かえって彼の精神をみだしてしまうかもしれなかった。  ヴィクトルは悩んだ末、そっと手を上げ、勇利の肩を引き寄せようとした。勇利はまだ熱心に画面を見ている。勇利。ひとりで見るな。次からは俺を呼ぶんだ。きみの何もかもに俺は付き合うよ。だからひとりぼっちでがんばるな。俺はおまえのコーチだろ。抱きしめてそう言いたかった。  しかし、耐えた。勇利の肩にふれる直前、ヴィクトルは手をひっこめた。さわりたいな、と思った。勇利のぬくもりを感じて、ヴィクトルのことも親しく理解してもらって、もっと近々と彼に話しかけたかった。だが、できなかった。自分がそうしたいと思っているだけで、勇利はちがうかもしれないのだ。利己的な考えで勇利をなぐさめたつもりになるのは愚かというものだ。  勇利のほうから甘えて、寄りかかってきてくれたらいいのに……。ヴィクトルは手を握りしめて膝に置いた。  やがて勇利は満足したのか、ふうと息をつき、映像を止めてヴィクトルを振り返った。 「もう寝るよ」 「……ああ」  ふたりは連れ立って二階へ上がり、ヴィクトルの部屋の前で向かいあった。 「一緒に見てくれてありがとう」 「いや……」 「ヴィクトルってすごいね」  勇利はほほえんだ。窓ガラスを通してあわい色の月光を浴びる彼は不思議に神秘的で、笑い方もひどく優しかった。 「どうして一緒に見てもらいたいと思ってたこと、わかったの?」 「え?」 「おやすみなさい」  勇利はヴィクトルに背を向けた。ヴィクトルは閉まった扉をじっと見ていた。勇利は、甘えたいのか甘えたくないのか、よくわからない子だ。  すこし汗をかいたので、ヴィクトルはその夜二度目の温泉に入っていた。ひとりで露天風呂につかりながら、彼はついさっきのことを思い出していた。  そのとき、ヴィクトルは店の食事処で夕食をしたためていた。そこに勇利が通りかかったため、常連客たちが彼を呼び止め、一緒に食事するよう勧めた。勇利は遠慮していたが、結局押し切られて、台所から自分の夕飯を持ってきた。そのとき彼は、空いている席がほかにあるのに、わざわざヴィクトルの隣まで来て、窮屈なところへ座った。ヴィクトルはすこし驚いた。思わず勇利をみつめてしまった。しかし勇利は気にしていないようで、常連客たちの話に控えめに応じていた。ヴィクトルがいつまでも見ているので、彼は不思議そうに顔を上げた。 「なに?」 「いや……」  食事が終わっても、勇利はなかなか席を立たなかった。それは客たちにいろいろと話しかけられているからなのだが、ヴィクトルはなんとなく妙な気持ちになった。これまでちっともなつかなかった猫が、そっとそばに寄ってきたような気分だった。撫でたら警戒してどこかへ行ってしまうだろうか? それとも、撫でてよいからこんなに近くへ来たのだろうか? ヴィクトルはひどく悩んだ。結局ヴィクトルは何もしなかった。あれは何だったのだろう。 「まあ、意味なんてないんだろうけど」  ヴィクトルは風呂から上がり、二階へ行った。自室にあかりがついている。妙だ。消さなかっただろうか、と思いながら中へ入った彼は、その場に立ちすくんだ。  ヴィクトルのベッドで、勇利が寝ていた。  そばにはノート型のパーソナルコンピュータがある。動画がひらいたままになっていた。きっと、何か意見を聞きたいと思ってやってきたのだろう。待っているあいだに眠りこんでしまったのだ。彼の姿勢は、ベッドに座ったまま、眠気に耐えきれずころんと寝てしまった、という感じだった。ヴィクトルは驚きからさめるとほほえんだ。 「気持ちよさそうに寝るね」  起こさないよう、そっとベッドに腰を下ろした。勇利のあどけない顔。呼吸で身体がすこしずつ上下している。深く眠っているようだ。赤ちゃんみたいだな、とヴィクトルは可笑しかった。  いつの間に、こんなに安心した顔を見せるようになったのだろう。以前はもっと緊張していた。自分がみっともないことをするのではないかと、ひどく用心していたのである。なのにいまは、ヴィクトルの部屋で、ヴィクトルのベッドで、こんなふうに無防備に眠りこんでしまっている。ヴィクトルと一緒にいれば安心、とでもいうように……。 「かわいい」  ヴィクトルは声に出してつぶやき、ほほえんだ。 「そんなにかわいいことをされると、撫でたくなるぞ」  勇利……、もう俺のこと、こころの底から信頼してるだろう? ヴィクトルはうれしくなった。ああ、こんなに無垢なところをさらけ出す彼の髪をかき上げ、そのまま梳き、よしよしとかわいがることができたらどんなにいいだろう。俺はおまえをかわいく思っているよとそぶりで伝えられたらどんなにか楽しいだろう。ヴィクトルのことが好きで、そっけなくて、用心深くて、警戒心が強く、困難な性質をした、かわいい勇利。  あとひと息なのだ。きっとあとすこしで勇利のほうから歩み寄ってくれる。我慢に我慢を重ね、無理に近づかず、さわることも耐えたヴィクトルに勇利のほうから寄り添ってくれる。利己的にならず、勇利が勇利の好きなときに近づいてくれるよう忍耐しきったヴィクトルを信じ、こころを完全にひらいてくれるのだ。  あとひと息……。 「勇利……」  ヴィクトルは勇利の寝顔をみつめた。しかし、そんな日が本当に来るのだろうか、という気持ちもあった。勇利が他人に自分から寄っていくなんて、そんなことがあるだろうか。この、踏みこまれることが嫌いな、人との接し方がへたな勇利が。勝生勇利が誰かに自分からぴったりとくっつき、ぬくもりをわかちあうなんて、どうもありそうにない話ではないか。  今日はじゅうぶんにがんばったので、すこし早めに練習を終え、ヴィクトルは私室でくつろいでいた。夕食後、勇利は部屋に閉じこもり、何かひとりで楽しんでいた。おそらくヴィクトルの動画でも見ているのだろう。勇利はいつもそうだ。  夜も十時を過ぎたころ、勇利の部屋の扉がひらいた。お風呂かな、だったら俺も入ろうかな、と思っていたら、勇利が障子の向こうから声をかけてきた。 「ヴィクトル、ぼくコンビニ行くんだけど、ヴィクトルも行く?」  ヴィクトルはぱっと立ち上がった。 「行く行くー!」  誘ってくれた。勇利が。初めて。ヴィクトルは浮かれながら勇利と家を出た。  雨上がりのしっとりとした大気の中、ふたりは連れ立って夜道を歩いた。 「雲が晴れてきたね」  勇利はおぼろな月を見上げて言った。 「明日はまた暑いかな」 「そうだね。日本の夏、びっくりだよ」 「ぼくも久しぶり。デトロイトも暑かったけどね。日本は独特だよね。湿度が高いから」 「勇利、初めて俺を誘ってくれたね」 「え?」 「コンビニ行こうって」 「そうだっけ?」  勇利は不思議そうな顔をした。 「そうかな……、そうかも。前にヴィクトルが言ってたから」 「え?」 「またおつかい頼まれたら誘って、って」 「…………」 「今日はおつかいじゃなくて、ただぼくが行きたいだけなんだけど、ヴィクトルも行くかなーと思って」  ヴィクトルはがっかりした。勇利が自分で誘いたくて誘ってくれたわけではないのだ。近づいてくれたのかと思ったのだが、ただヴィクトルの要望に応えただけのことらしい。つまらない。 「ヴィクトル、どうしたの?」 「なんでもない。勇利は何を買いたいんだい」 「かき氷」 「また?」 「うん、また」  勇利はくすっと笑った。 「ヴィクトルが選んでくれる?」 「…………」 「今度はすぐ食べるよ。同じことしてたら真利姉ちゃんに怒られるからね……」  好かれていると思うんだ。好かれていると思うんだ……。ヴィクトルは呪文のようにそう考えた。しかし、最後のところで近づいてきてくれない。そもそも、勇利にそれを求めることがまちがっているのだろうか。彼はそういう発想などない、誰にもふれない性質なのだろうか。きっとそうだ。考えにないことなら、いくら待っていたって起こるはずがない。勇利から接触してくれるなんて。 「今日は赤いのにしたら?」 「ヴィクトルがそう言うなら」  ヴィクトルは、勇利って罪な子だなあと思った。貴方がそう言うなら、なんて口説き文句ではないか。なのにちっとも接近してこない。かけひきでもしているかのようだ。俺をためしてるのか、という気がしないでもない。魔性のカツ丼ってこういう意味なのか?  店に入ると、勇利はすぐに大きな冷凍庫の前に行った。 「ヴィクトルもアイス食べるでしょ? どれ?」 「うーん……」 「あ、新しい味出てる」 「じゃあそれ」  ふたりは支払いを済ませて店を出た。勇利はのんびり歩きながら言った。 「帰ったら一緒に食べる?」 「そうだね……」  ヴィクトルは上の空だ。勇利は気づかないよ���である。 「ヴィクトル、ほんとにアイス、あれでよかったの?」 「いいよ」 「ヴィクトルって日本のお菓子好きだよね」 「ああ」 「ぼく赤いかき氷食べたら、べろが赤くなっちゃうかもなあ……」 「勇利」 「なに?」 「勇利って……」  自分から人にさわったことあるのかい? そう尋ねようとしてヴィクトルは口をつぐんだ。おかしな質問だ。 「どうしたの?」 「いや……」 「あ、ヴィクトル、見て」  ふいに勇利がヴィクトルに身体を寄せてきた。ヴィクトルは驚いた。それと同時に勇利はヴィクトルの腕を取り、そっと静かに手を添えた。 「あそこに川あるでしょ」  勇利が右手を示した。ヴィクトルは返事ができなかった。 「あの川ね、ぼくが学生のころ……」  勇利は何か話している。しかしヴィクトルの耳には入らなかった。勇利がヴィクトルの腕に手をからませた。当たり前みたいに……。 「……でね、ぼくはそのときヴィクトルのことを考えてたんだけど、もう突然大きな水音がしたからなにごとかと思ったんだよね」  勇利が笑った。笑いながら、すり、とヴィクトルにすり寄った。無意識にしか思えない、自然な行動だった。 「ヴィクトルと歩いてて、いま急に思い出した。おもしろいでしょ?」 「…………」  話が終わっても、勇利はヴィクトルから離れなかった。相変わらずヴィクトルの腕に手をかけ、くっついている。自転車のベルが鳴ったので、彼はヴィクトルのほうへ身体を寄せた。自転車が通り過ぎてもそのままだった。 「どうしたの?」  勇利が不思議そうにヴィクトルを見上げた。眼鏡のレンズの向こうで大きな目が瞬き、あたたかそうな色の瞳がきらきらと輝いている。勇利にふれられているところが熱かった。 「……いや、ぼうっとしてた」 「ヴィクトルでもぼうっとするんだ」  勇利は笑うとヴィクトルの肩に頬を寄せ、かるく身をぶつけた。 「……うん、するよ」 「へー」  勇利がかるくうなずいた。 「ぼくはわりとひんぱんにするけどね」 「そう……」  ふたりは家まで腕を組んで歩いた。その夜、ヴィクトルはどうしてだかなかなか寝つけなかった。  翌日、日が落ちてから、勇利がはしゃいだ様子でヴィクトルのもとへやってきた。 「ヴィクトル! 近所の人が花火くれたよ。一緒にする?」 「するするー!」  ヴィクトルは思わず勇利に思いきり抱きついた。勇利は「わっ」と声を上げたけれど、笑って、「暑いよー」と優しくとがめただけだった。浜辺で花火をした。ちいさなふくろにすこし入っていただけだったので、すぐに終わってしまったけれど、たいへん楽しかった。 「最後は線香花火だね」  ぱちぱちとはじけるほのかなかよわい火花を、ふたりで静かにみつめた。ヴィクトルは勇利にくっついた。 「なんでそうくっついてくるの。暑いってば」  勇利が笑った。 「そうかな」 「そうだよ」 「勇利の髪、黒くて綺麗だね」  ヴィクトルは勇利の髪に目を閉じてキスした。勇利はまた笑って、「花火見てよー」と言った。 「勇利って綺麗だよ」  ソファの肘置きにクッションを置き、それをまくらにして、ヴィクトルはくつろいでいた。しばらく何か家のことをして立ち働いていた勇利が居間へやってきた。勇利、座るかな、場所を空けたほうがいいかな、と思ったところで、勇利は身をかがめ、ヴィクトルの腹の上にのってきて、胸元におとがいをのせた。 「なに見てるの」 「企画資料。俺を呼んでこういうことをしたいっていう説明だよ」 「催し物?」 「そうだね」 「おもしろい?」 「まあまあ」 「そう……」  勇利はしばらく静かにしていたが、そのうちヴィクトルが持っている資料に手を伸ばし、それを揺らしたりつついたりするようになった。ヴィクトルはほほえんだ。 「いたずらしない」 「うん」  ヴィクトルは勇利の背中に資料を立てるようにし、それを手で支えて続きを見た。勇利はじっとヴィクトルをみつめていたが、身体を伸ばし、ヴィクトルのおとがいにそっと接吻した。 「勇利」 「ん?」 「いたずらは……」 「これいたずらなの?」 「…………」  ヴィクトルはそれでもしばらくは我慢して、文字を目で追っていた。勇利はそのあいだもヴィクトルの首やおとがいにくちびるをふれさせ、ヴィクトルの匂いを吸いこみ、「ああ、あったかい」とご満悦だった。ヴィクトルはちっとも文章が頭に入ってこないことに気がついた。 「勇利」 「満足」  勇利がもぞもぞと動いてヴィクトルの上から退こうとした。ヴィクトルは資料を投げやり、彼を抱きしめて頬ずりした。 「ちょっと、ヴィクトル、離してよ」 「そっちから来ておいてなんだ」 「もういいの」 「俺はよくない」 「勝手なんだから」 「どっちが?」  ヴィクトルは身体を入れ替え、勇利をソファにあおのかせると、のしかかっていって熱心に接吻した。勇利が、ん、ん、とかわいい声を上げる。  まったくもう。最初はぜんぜん俺に近づいてこなかったくせに。初めて俺の腕を取ったときの胸のときめき、忘れてないぞ。いまもこうされると同じだけ喜んでるんだからね、俺は。わかってるのかな?  勇利はあの夏の夜から、ヴィクトルに自分からさわってくるようになった。しかしたびたびというわけではない。思い出したように、ふいに、すっとふれてくるのである。本当にさりげ��く。当たり前のように。一緒に歩いていて急にすり寄ってきた勇利が、ヴィクトルの手の中に彼の手をすべりこませると、ヴィクトルは気持ちが転倒し、ひどく感覚が甘くなって、もう勇利にさわったり抱きついたり髪を撫でたりと、いろいろなことをしてしまうのだ。それで勇利は「ヴィクトルは接触過多」と言うのだから……。 「ヴィクトルがこんなに仲よくしてくれるようになるなんて、思ってなかったなあ……」  勇利がぼんやりつぶやいたのでヴィクトルは驚いた。 「俺は最初から勇利に友好的だっただろ?」  こちらのせりふなのだが、と思いながら抗議すると、勇利はかすかにほほえんだ。 「だってヴィクトル、家に人が入るのはいやって言ってたでしょ」 「え?」  なんのことかよくわからなかった。そんな話をしただろうか? 「ほら、家のことを手伝ってくれる人はいないのかって訊いたとき……」 「……ああ」 「だからぼくをここに住まわせてくれるってヴィクトルが言ったの、すごくびっくりしたし、うれしかった」  勇利は部屋を見まわした。ふたりがいるのは、もう、長谷津ではなかった。 「そもそも、サンクトペテルブルクの街をヴィクトルとふたりで歩けるなんて、そんなのも夢物語だと思ってたし」  勇利はうっとりと言ってまぶたを閉じた。 「ヴィクトル、いつかおいでって言ってくれたけど……、本当になるなんて思ってなかった」 「…………」 「ぼく……」  勇利はささやいた。 「いま、とてもしあわせだよ……」  ヴィクトルは無言で勇利を抱きしめた。勇利が「苦しいよー」と笑う。彼はいまでも、ヴィクトルのことだと特別によく笑う。 「ヴィクトルって親しみやすいし優しいけど、ぼくにはとても近づけない、特別なひとだと思ってたなあ……」 「そうか……」  勇利がぱちりと目をひらいた。彼は可笑しそうに言った。 「でも、長谷津のときも時間が経てばそうだったけど、こうしてふたりで過ごすと、もっといろいろなことがわかって、ヴィクトルってぼくにとてもちかしいひとなんじゃないかって思ったよ」 「本当かい?」 「うん」 「たとえば俺のどんなことがわかった?」 「うーん、わりと適当に返事して、あとで『聞いてない』って言うところとか」  ヴィクトルはくすっと笑った。 「やすみのときは寝坊が大好きで、髪もとかさずにぼーっとしてるのが楽しいとか」 「あはは」 「ごはんは自分でつくったことないって言いながら、ぼくがこれやってって言ったらまじめに取り組むこととか」 「勇利を怒らせたら大変だからね」 「ぼくがやっといてって言ったことはやらないくせに、ほかのめんどうなことをさっさとやっちゃってることとか」 「そんなことしてる?」 「そんな、いろいろだよ……」  勇利はヴィクトルの肩に頬をこすりつけ、「そういうの、知らなかったんだから」と目をほそめた。  勇利、俺も知らなかったよ。きみがこんなにあまえっこなところがあるなんてね……。 「それから、意外とあまえんぼう!」  勇利ははしゃいだ声を上げた。 「それはきみだろ?」 「なに言ってんの?」 「きみだ」 「ぼくは普通です」  勇利は拗ねたように言って、キスをねだるみたいにすり寄った。ヴィクトルは、それだよそれ、と思いながらかるくくちづけした。さっきまで「満足した」とか言っていたのにこれだ。かわいい。どうせすぐにまた「くっつきすぎ」などと抗議するのだろう。何が理由で気持ちが切り替わるのかよくわからない。 「ああ、あと」  勇利は首をもたげてうれしそうに笑った。 「貴方は、起きたらやたらとくっついてきて、べたべたするのが好き。ヴィクトルは起きた瞬間からかっこいいんだろうと思ってたぼくは何なんだろうね? こんなのだからあのとき答えを教えてくれなかったの? ヴィクトルは、ぼくのことで何か新しくわかったことある?」 「それはたくさんあるけど、それでもやっぱりおまえは永遠の謎だよ。たとえば、あまえんぼうスイッチはどこにある?」 「そんなものはありません」
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siim-tv · 3 years
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【コスチューム】魔術士の黒い手袋
目次 ▼【グラクロ】【コスチューム】魔術士の黒い手袋の基本情報 ▼【グラクロ】【コスチューム】魔術士の黒い手袋のステータス ▼【グラクロ】【コスチューム】魔術士の黒い手袋の着用可能キャラ ▼【グラクロ】【コスチューム】魔術士の黒い手袋の評価 【コスチューム】魔術士の黒い手袋の基本情報 部位 武器 レアリティ UR 入手方法 神器ショップ 価格 セット¥2080 【コスチューム】魔術士の黒い手袋のステータス 攻撃力+180 貫通率+1% クリティカル確率+4% 【コスチューム】魔術士の黒い手袋の着用可能キャラ 【不死の生還者】バン 【コスチューム】魔術士の黒い手袋の評価 フェスバンのコスチューム 新登場したフェス限定バンの新しいコスチューム。今後着用できるコスチュームはどんどん出てくるだろうが、今はまだ少ないため買っておいてもいいだろう。 後日個別販売あり 今回…
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Latin//Alphabet// ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZabcdefghijklmnopqrstuvwxyz0123456789 !"“”#$%&'‘’()*+,-./:;<=>?@[\]^_`{|}~ Latin//Accent// ¡¢£€¤¥¦§¨©ª«¬®¯°±²³´µ¶·¸¹º»¼½¾¿ÀÁÂÃÄÅÆÇÈÉÊËÌÍÎÏÐÑÒÓÔÕÖ×ØÙÚÛÜÝÞßàáâãäåæçèéêëìíîïðñòóôõö÷øùúûüýþÿ Latin//Extension 1// ĀāĂ㥹ĆćĈĉĊċČčĎďĐđĒēĔĕĖėĘęĚěĜĝĞğĠġĢģĤĥĦħĨĩĪīĬĭĮįİıIJijĴĵĶķĸĹĺĻļĽľĿŀŁłŃńŅņŇňʼnŊŋŌōŎŏŐőŒœŔŕŖŗŘřŚśŜŝŞşŠšŢţŤťŦŧŨũŪūŬŭŮůŰűŲųŴŵŶŷŸŹźŻżŽžſfffiflffifflſtst Latin//Extension 2// ƀƁƂƃƄƅƆƇƈƉƊƋƌƍƎƏƐƑƒƓƔƕƖƗƘƙƚƛƜƝƞƟƠơƢƣƤƥƦƧƨƩƪƫƬƭƮƯưƱƲƳƴƵƶƷƸƹƺƻƼƽƾƿǀǁǂǃDŽDždžLJLjljNJNjnjǍǎǏǐǑǒǓǔǕǖǗǘǙǚǛǜǝǞǟǠǡǢǣǤǥǦǧǨǩǪǫǬǭǮǯǰDZDzdzǴǵǶǷǸǹǺǻǼǽǾǿ Symbols//Web// –—‚„†‡‰‹›•…′″‾⁄℘ℑℜ™ℵ←↑→↓↔↵⇐⇑⇒⇓⇔∀∂∃∅∇∈∉∋∏∑−∗√∝∞∠∧∨∩∪∫∴∼≅≈≠≡≤≥⊂⊃⊄⊆⊇⊕⊗⊥⋅⌈⌉⌊⌋〈〉◊♠♣♥♦ Symbols//Dingbat// ✁✂✃✄✆✇✈✉✌✍✎✏✐✑✒✓✔✕✖✗✘✙✚✛✜✝✞✟✠✡✢✣✤✥✦✧✩✪✫✬✭✮✯✰✱✲✳✴✵✶✷✸✹✺✻✼✽✾✿❀❁❂❃❄❅❆❇❈❉❊❋❍❏❐❑❒❖❘❙❚❛❜❝❞❡❢❣❤❥❦❧❨❩❪❫❬❭❮❯❰❱❲❳❴❵❶❷❸❹❺❻❼❽❾❿➀➁➂➃➄➅➆➇➈➉➊➋➌➍➎➏➐➑➒➓➔➘➙➚➛➜➝➞➟➠➡➢➣➤➥➦➧➨➩➪➫➬➭➮➯➱➲➳➴➵➶➷➸➹➺➻➼➽➾ Japanese//かな// あいうえおかがきぎくぐけげこごさざしじすずせぜそぞただちぢつづてでとどなにぬねのはばぱひびぴふぶぷへべぺほぼぽまみむめもやゆよらりるれろわゐゑをんぁぃぅぇぉっゃゅょゎゔ゛゜ゝゞアイウエオカガキギクグケゲコゴサザシジスズセゼソゾタダチヂツヅテデトドナニヌネノハバパヒビピフブプヘベペ��ボポマミムメモヤユヨラリルレロワヰヱヲンァィゥェォッャュョヮヴヵヶヷヸヹヺヽヾ Japanese//小学一年// 一右雨円王音下火花貝学気九休玉金空月犬見五口校左三山子四糸字耳七車手十出女小上森人水正生青夕石赤千川先早草足村大男竹中虫町天田土二日入年白八百文木本名目立力林六 Japanese//小学二年// 引羽雲園遠何科夏家歌画回会海絵外角楽活間丸岩顔汽記帰弓牛魚京強教近兄形計元言原戸古午後語工公広交光考行高黄合谷国黒今才細作算止市矢姉思紙寺自時室社弱首秋週春書少場色食心新親図数西声星晴切雪船線前組走多太体台地池知茶昼長鳥朝直通弟店点電刀冬当東答頭同道読内南肉馬売買麦半番父風分聞米歩母方北毎妹万明鳴毛門夜野友用曜来里理話 Japanese//小学三年// 悪安暗医委意育員院飲運泳駅央横屋温化荷開界階寒感漢館岸起期客究急級宮球去橋業曲局銀区苦具君係軽血決研県庫湖向幸港号根祭皿仕死使始指歯詩次事持式実写者主守取酒受州拾終習集住重宿所暑助昭消商章勝乗植申身神真深進世整昔全相送想息速族他打対待代第題炭短談着注柱丁帳調追定庭笛鉄転都度投豆島湯登等動童農波配倍箱畑発反坂板皮悲美鼻筆氷表秒病品負部服福物平返勉放味命面問役薬由油有遊予羊洋葉陽様落流旅両緑礼列練路和 Japanese//小学四年// 愛案以衣位囲胃印英栄塩億加果貨課芽改械害街各覚完官管関観願希季紀喜旗器機議求泣救給挙漁共協鏡競極訓軍郡径型景芸欠結建健験固功好候航康告差菜最材昨札刷殺察参産散残士氏史司試児治辞失借種周祝順初松笑唱焼象照賞臣信成省清静席積折節説浅戦選然争倉巣束側続卒孫帯隊達単置仲貯兆腸低底停的典伝徒努灯堂働特得毒熱念敗梅博飯飛費必票標不夫付府副粉兵別辺変便包法望牧末満未脈民無約勇要養浴利陸良料量輪類令冷例歴連老労録 Japanese//小学五〜六年// 圧移因永営衛易益液演応往桜恩可仮価河過賀快解格確額刊幹慣眼基寄規技義逆久旧居許境均禁句群経潔件券険検限現減故個護効厚耕鉱構興講混査再災妻採際在財罪雑酸賛支志枝師資飼示似識質舎謝授修述術準序招承証条状常情織職制性政勢精製税責績接設舌絶銭祖素総造像増則測属率損退貸態団断築張提程適敵統銅導徳独任燃能破犯判版比肥非備俵評貧布婦富武復複仏編弁保墓報豊防貿暴務夢迷綿輸余預容略留領異遺域宇映延沿我灰拡革閣割株干巻看簡危机貴揮疑吸供胸郷勤筋系敬警劇激穴絹権憲源厳己呼誤后孝皇紅降鋼刻穀骨困砂座済裁策冊蚕至私姿視詞誌磁射捨尺若樹収宗就衆従縦縮熟純処署諸除将傷障城蒸針仁垂推寸盛聖誠宣専泉洗染善奏窓創装層操蔵臓存尊宅担探誕段暖値宙忠著庁頂潮賃痛展討党糖届難乳認納脳派拝背肺俳班晩否批秘腹奮並陛閉片補暮宝訪亡忘棒枚幕密盟模訳郵優幼欲翌乱卵覧裏律臨朗論 Japanese//中学// 亜哀挨曖扱宛嵐依威為畏尉萎偉椅彙違維慰緯壱逸芋咽姻淫陰隠韻唄鬱畝浦詠影鋭疫悦越謁閲炎怨宴援煙猿鉛縁艶汚凹押旺欧殴翁奥憶臆虞乙俺卸穏佳苛架華菓渦嫁暇禍靴寡箇稼蚊牙瓦雅餓介戒怪拐悔皆塊楷潰壊懐諧劾崖涯慨蓋該概骸垣柿核殻郭較隔獲嚇穫岳顎掛括喝渇葛滑褐轄且釜鎌刈甘汗缶肝冠陥乾勘患貫喚堪換敢棺款閑勧寛歓監緩憾還環韓艦鑑含玩頑企伎忌奇祈軌既飢鬼亀幾棋棄毀畿輝騎宜偽欺儀戯擬犠菊吉喫詰却脚虐及丘朽臼糾嗅窮巨拒拠虚距御凶叫狂享況峡挟狭恐恭脅矯響驚仰暁凝巾斤菌琴僅緊錦謹襟吟駆惧愚偶遇隅串屈掘窟繰勲薫刑茎契恵啓掲渓蛍傾携継詣慶憬稽憩鶏迎鯨隙撃桁傑肩倹兼剣拳軒圏堅嫌献遣賢謙鍵繭顕懸幻玄弦舷股虎孤弧枯雇誇鼓錮顧互呉娯悟碁勾孔巧甲江坑抗攻更拘肯侯恒洪荒郊貢控梗喉慌硬絞項溝綱酵稿衡購乞拷剛傲豪克酷獄駒込頃昆恨婚痕紺魂墾懇沙唆詐鎖挫采砕宰栽彩斎債催塞歳載剤削柵索酢搾錯咲刹拶撮擦桟惨傘斬暫旨伺刺祉肢施恣脂紫嗣雌摯賜諮侍慈餌璽軸叱疾執湿嫉漆芝赦斜煮遮邪蛇酌釈爵寂朱狩殊珠腫趣寿呪需儒囚舟秀臭袖羞愁酬醜蹴襲汁充柔渋銃獣叔淑粛塾俊瞬旬巡盾准殉循潤遵庶緒如叙徐升召匠床抄肖尚昇沼宵症祥称渉紹訟掌晶焦硝粧詔奨詳彰憧衝償礁鐘丈冗浄剰畳壌嬢錠譲醸拭殖飾触嘱辱尻伸芯辛侵津唇娠振浸紳診寝慎審震薪刃尽迅甚陣尋腎須吹炊帥粋衰酔遂睡穂随髄枢崇据杉裾瀬是姓征斉牲凄逝婿誓請醒斥析脊隻惜戚跡籍拙窃摂仙占扇栓旋煎羨腺詮践箋潜遷薦繊鮮禅漸膳繕狙阻租措粗疎訴塑遡礎双壮荘捜挿桑掃曹曽爽喪痩葬僧遭槽踪燥霜騒藻憎贈即促捉俗賊遜汰妥唾堕惰駄耐怠胎泰堆袋逮替滞戴滝択沢卓拓託濯諾濁但脱奪棚誰丹旦胆淡嘆端綻鍛弾壇恥致遅痴稚緻畜逐蓄秩窒嫡抽衷酎鋳駐弔挑彫眺釣貼超跳徴嘲澄聴懲勅捗沈珍朕陳鎮椎墜塚漬坪爪鶴呈廷抵邸亭貞帝訂逓偵堤艇締諦泥摘滴溺迭哲徹撤添塡殿斗吐妬途渡塗賭奴怒到逃倒凍唐桃透悼盗陶塔搭棟痘筒稲踏謄藤闘騰洞胴瞳峠匿督篤凸突屯豚頓貪鈍曇丼那謎鍋軟尼弐匂虹尿妊忍寧捻粘悩濃把覇婆罵杯排廃輩培陪媒賠伯拍泊迫剝舶薄漠縛爆箸肌鉢髪伐抜罰閥氾帆汎伴畔般販斑搬煩頒範繁藩蛮盤妃彼披卑疲被扉碑罷避尾眉微膝肘匹泌姫漂苗描猫浜賓頻敏瓶扶怖附訃赴浮符普腐敷膚賦譜侮舞封伏幅覆払沸紛雰噴墳憤丙併柄塀幣弊蔽餅壁璧癖蔑偏遍哺捕舗募慕簿芳邦奉抱泡胞俸倣峰砲崩蜂飽褒縫乏忙坊妨房肪某冒剖紡傍帽貌膨謀頰朴睦僕墨撲没勃堀奔翻凡盆麻摩磨魔昧埋膜枕又抹慢漫魅岬蜜妙眠矛霧娘冥銘滅免麺茂妄盲耗猛網黙紋冶弥厄躍闇喩愉諭癒唯幽悠湧猶裕雄誘憂融与誉妖庸揚揺溶腰瘍踊窯擁謡抑沃翼拉裸羅雷頼絡酪辣濫藍欄吏痢履璃離慄柳竜粒隆硫侶虜慮了涼猟陵僚寮療瞭糧厘倫隣瑠涙累塁励戻鈴零霊隷齢麗暦劣烈裂恋廉錬呂炉賂露弄郎浪廊楼漏籠麓賄脇惑枠湾腕 Japanese//記号//  ・ー~、。〃〄々〆〇〈〉《》「」『』【】〒〓〔〕〖〗〘〙〜〝〞〟〠〡〢〣〤〥〦〧〨〩〰〳〴〵〶 Greek & Coptic//Standard// ʹ͵ͺͻͼͽ;΄΅Ά·ΈΉΊΌΎΏΐΑΒΓΔΕΖΗΘΙΚΛΜΝΞΟΠΡΣΤΥΦΧΨΩΪΫάέήίΰαβγδεζηθικλμνξοπρςστυφχψωϊϋόύώϐϑϒϓϔϕϖϚϜϞϠϢϣϤϥϦϧϨϩϪϫϬϭϮϯϰϱϲϳϴϵ϶ϷϸϹϺϻϼϽϾϿ Cyrillic//Standard// ЀЁЂЃЄЅІЇЈЉЊЋЌЍЎЏАБВГДЕЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯабвгдежзийклмнопрстуфхцчшщъыьэюяѐёђѓєѕіїјљњћќѝўџѢѣѤѥѦѧѨѩѪѫѬѭѰѱѲѳѴѵѶѷѸѹҌҍҐґҒғҖҗҘҙҚқҜҝҠҡҢңҤҥҪҫҬҭҮүҰұҲҳҴҵҶҷҸҹҺһҼҽҾҿӀӁӂӇӈӏӐӑӒӓӔӕӖӗӘәӚӛӜӝӞӟӠӡӢӣӤӥӦӧӨөӪӫӬӭӮӯӰӱӲӳӴӵӶӷӸӹӾӿ Thai//Standard// กขฃคฅฆงจฉชซฌญฎฏฐฑฒณดตถทธนบปผฝพฟภมยรฤลฦวศษสหฬอฮฯะัาำิีึืฺุู฿เแโใไๅๆ็่้๊๋์ํ๎๏๐๑๒๓๔๕๖๗๘๙๚๛
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momijiyama1649 · 5 years
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ざこば・鶴瓶らくごのご お題一覧 1992年    1 過労死・つくし・小錦の脂肪    2 一年生・時短・ニューハーフ    3 レントゲン・混浴・アニマル    4 ゴールデンウイーク・JFK・セクハラ    5 暴走族・かさぶた・バーコード    6 タイガース・母の日・入れ墨    7 目借り時・風呂桶・よだれ    8 しびれ・歯抜け・未���の娘    9 ヘルニア・目ばちこ・フォークボール    10 造幣局・社員割引・オリンピック    11 父の日・猥褻・丁髷    12 ピエロ・ナメクジ・深爪    13 ミスユニバース・特許・虫さされ    14 魔法使いサリー・祇園祭・円形脱毛症    15 サザエさん・ジャンケン・バーゲンセール    16 ト音記号・北方領土・干瓢    17 妊婦体操・蚊帳・ビヤガーデン    18 身代わり・車だん吉・プラネタリウム    19 床づれ・追っかけ・男の涙    20 海月・肩パット・鶏冠    21 放送禁止用語・お年寄り・ピンポンパン    22 おかま・芋掘り・大人げない    23 復活・憧れ・食い逃げ    24 蒲鉾・風は旅人・半尻    25 泉ピン子・ヘルメット・クリーニング    26 美人姉妹・河童・合格    27 スカート捲り・ケツカッチン・秋の虫    28 チンパンジー・フォークダンス・いなりずし    29 稲刈り・小麦粉・フランス人    30 日本シリーズ・鶴瓶・落葉    31 クロスカウンター・学園祭・タクシー    32 付け睫毛・褌ペアー誕生・ツアーコンダクター    33 泣きみそ・ボーナス一括払い・ぎゅうぎゅう詰め    34 静電気・孝行娘・ホノルルマラソン    35 暴れん坊将軍・モスラ・久留米餅 1993年    36 栗きんとん・鶴・朝丸    37 成人式・ヤクルトミルミル・まんまんちゃんあん    38 夫婦善哉・歯磨き粉・夜更かし    39 金の鯱・オーディション・チャリティーオークション    40 ひ孫・いかりや長介・掃除機    41 北京原人・お味噌汁・雪祭り    42 視力検査・フレアースカート・美術館めぐり    43 矢鴨・植毛・うまいもんはうまい    44 卒業式・美人・転た寝    45 らくごのご・浅蜊の酒蒸し・ハットリ君    46 コレラ・さぶいぼ・お花見    47 パンツ泥棒・オキシドール・上岡龍太郎    48 番台・ボランティア・健忘症    49 長嶋監督・割引債・厄年    50 指パッチン・葉桜・ポールマッカートニー    51 同級生・竹輪・ホモ    52 破れた靴下・海上コンテナ・日本庭園    53 シルバーシート・十二単衣・筍    54 ぶんぷく茶釜・結納・横山ノック    55 睡眠不足・紫陽花・厄介者    56 平成教育委員会・有給休暇・馬耳東風    57 生欠伸・枕・短気は損気    58 雨蛙・脱税・右肩脱臼    59 鮪・教育実習・嘘つき    60 天の川・女子短期大学・冷やし中華    61 東京特許許可局・落雷・蚊とり線香    62 真夜中の屁・プロポーズ・水戸黄門諸国漫遊    63 五条坂陶器祭・空中庭園・雷    64 目玉親父・恐竜・熱帯夜    65 深夜徘徊・パンツ・宮参り    66 美少女戦士セーラームーン・盆踊り・素麺つゆ    67 水浴び・丸坊主・早口言葉    68 桃栗三年柿八年・中耳炎・網タイツ    69 釣瓶落とし・サゲ・一卵性双生児    70 台風の目・幸・ラグビー    71 年下の男の子・宝くじ・松茸狩り    72 関西弁・肉まんあんまん・盗塁王    73 新婚初夜・サボテン・高みの見物    74 パナコランで肩こらん・秋鯖・知恵    75 禁煙・お茶どすがな・銀幕    76 ラクロス・姥捨山・就職浪人    77 掛軸・瀬戸大橋・二回目    78 海外留学・逆児・マスターズトーナメント    79 バットマン・戴帽式・フライングスポーツシューター    80 法螺貝・コロッケ・ウルグアイラウンド    81 明治大正昭和平成・武士道・チゲ鍋 1994年    82 アイルトンセナ・正月特番・蟹鋤    83 豚キムチ・過疎対策・安物買いの銭失い    84 合格祈願・パーソナルコンピューター・年女    85 一途・血便・太鼓橋    86 告白・ラーメン定食・鬼は外、福は内    87 カラー軍手・放火・卸売市場    88 パピヨン・所得税減税・幕間    89 二十四・Jリーグ・大雪    90 動物苛め・下市温泉秋津荘・ボンタンアメ    91 雪見酒・アメダス・六十歳    92 座蒲団・蛸焼・引越し    93 米寿の祝・外人さん・コチョコチョ    94 談合・太極拳・花便り    95 猫の盛り・二日酔・タイ米    96 赤切符・キューピー・入社式    97 リストラ・龍神伝説・空巣    98 人間喞筒・版画・単身赴任    99 コッペン・定年退職・ハンドボール    100 百回記念・扇子・唐辛子    101 ビクターの手拭い・カーネーション・鉄腕アトム    102 自転車泥棒・見猿言わ猿聞か猿・トマト    103 紫陽花寺・豚骨スープ・阪神優勝    104 三角定規・黒帯・泥棒根性    105 横浜銀蝿・他人のふり・安産祈願    106 月下美人・フィラデルフィア・大山椒魚    107 鯨・親知らず・ピンクの蝿叩き    108 蛍狩・玉子丼・ウィンブルドン    109 西部劇・トップレス・レバー    110 流し素麺・目高の交尾・向日葵    111 河童の皿・コロンビア・内定通知    112 防災頭巾・電気按摩・双子    113 河内音頭・跡取り息子・蛸焼パーティ    114 骨髄バンク・銀杏並木・芋名月    115 秋桜・ぁ結婚式・電動の車椅子    116 運動会・松茸御飯・石焼芋    117 サンデーズサンのカキフライ・休日出勤・ウーパールーパー    118 浮石・カクテル・彼氏募集中    119 涙の解剖実習・就職難・釣瓶落し    120 ノーベル賞・めちゃ旨・台風1号    121 大草原・食い込みパンツ・歯科技工士    122 助けてドラえもん・米沢牛・寿貧乏    123 祭・借金・パンチ佐藤引退    124 山乃芋・泥鰌掬い・吊し柿    125 不合格通知・九州場所・ピラミッドパワー    126 紅葉渋滞・再チャレンジ・日本の伝統    127 臨時収入・邪魔者・大掃除    128 アラファト議長・正月映画封切り・ピンクのモーツァルト 1995年    129 御節・達磨ストーブ・再就職    130 晴着・新春シャンソンショー・瞼の母    131 家政婦・卒業論文・酔っ払い    132 姦し娘・如月・使い捨て懐炉    133 立春・インドネシア・大正琴全国大会    134 卒業旅行・招待状・引っ手繰り    135 モンブラン・和製英語・和風吸血鬼    136 確定申告・侘助・青春時代    137 点字ブロック・新入社員・玉筋魚の新子    138 祭と女で三十年・櫻咲く・御神酒徳利    139 茶髪・緊張と緩和・来なかったお父さん    140 痔・恋女房・月の法善寺横丁    141 ひばり館・阿亀鸚哥・染み    142 初めてのチュー・豆御飯・鶴瓶の女たらし    143 アデランス・いてまえだへん(いてまえ打線)・クラス替え    144 長男の嫁・足痺れ・銅鑼焼    145 新知事・つるや食堂・南無阿弥陀仏    146 もぐりん・五月病・石楠花の花    147 音痴・赤いちゃんちゃんこ・野崎詣り    148 酒は百薬の長・お地蔵さん・可愛いベイビー    149 山菜取り・絶好調・ポラロイドカメラ    150 お父さんありがとう・舟歌・一日一善    151 出発進行・夢をかたちに・ピンセット    152 ホタテマン・深夜放送・FMラジオ    153 アトピッ子・結婚披露宴の二次会・おさげ    154 初産・紫陽花の花・川藤出さんかい    155 ビーチバレー・轆轤首・上方芸能    156 ワイキキデート・鹿煎餅・一家団欒    157 但空・高所恐怖症・合唱コンクール    158 中村監督・水着の跡・進め落語少年    159 通信教育・遠距離恋愛・ダイエット    160 華麗なる変身・遠赤ブレスレット・夏の火遊び    161 親子二代・垢擦り・筏下り    162 鮪漁船・新築祝・入れ歯    163 泣き虫、笑い虫・甚兵衛鮫・新妻参上    164 オペラ座の怪人・トルネード・ハイオクガソリン    165 小手面胴・裏のお婆ちゃん・ガングリオン    166 栗拾い・天国と地獄・芋雑炊    167 夜汽車・鳩饅頭・スシ食いねぇ!    168 長便所・大ファン・腓返り    169 美人勢揃い・雨戸・大江健三郎    170 親守・巻き舌・結婚おめでとう    171 乳首・ポン酢・ファッションショー    172 仮装パーティー・ぎっくり腰・夜更し    173 ギブス・当選発表・ちゃった祭    174 超氷河期・平等院・猪鹿蝶    175 コーラス・靴泥棒・胃拡張    176 誕生日・闘病生活・心機一転    177 毒蜘蛛・国際結婚・世間体 1996年    178 シナ婆ちゃん・有給休暇・免停    179 三姉妹・バリ・総辞職    180 家庭菜園・ピンクレディーメドレー・国家試験    181 ほっけ・欠陥商品・黒タイツ    182 内股・シャッターチャンス・金剛登山    183 嘘つき娘・再出発・神学部    184 金柑・恋の奴隷・ミッキーマウス    185 露天風呂・部員募集・ぞろ目    186 でんでん太鼓・ちゃんこ鍋・脳腫瘍    187 夢心地・旅の母・ペアウオッチ    188 (不明につき空欄)    189 福寿草・和気藹々・社交ダンス    190 奢り・貧乏・男便所    191 八十四歳・奥さんパワー・初心忘るべからず    192 お花見・無駄毛・プラチナ    193 粒揃い・高野山・十分の一    194 おぃ鬼太郎・シュークリーム・小室哲哉    195 くさい足・オリーブ・いやいや    196 ダイエットテープ・北京故宮展・細雪    197 若い季節・自動両替機・糞ころがし    198 おやじのパソコン・なみはや国体・紙婚式    199 降灰袋・ハンブルグ・乳首マッサージ    200 雪見酒・臭い足・貧乏・タイ米・コチョコチョ・雷・明治大正昭和平成・上岡龍太郎・お茶どすがな・トップレス(総集編、10題リレー落語)    201 夫婦喧嘩・川下り・取越し苦労    202 横綱・占い研究部・日本のへそ    203 マオカラー・海の日・息継ぎ    204 カモメール・モアイ・子供の事情    205 ありがとさん・文武両道・梅雨明け    206 団扇・ボーナス定期・芸の道    207 宅配・入道雲・草叢    208 回転木馬・大文字・献血    209 寝茣蓙・メロンパン・初孫    210 方向音痴・家鴨・非売品    211 年金生活・女子高生・ロングブーツ    212 エキストラ・デカンショ祭・トイレトレーニング    213 行けず後家・オーロラ・瓜二つ    214 金婚式・月光仮面・ロックンローラー    215 孫・有頂天・狸    216 雪女・携帯電話・交代制勤務    217 赤いバスローブ・スイミング・おでこ    218 参勤交代・ケーブルカー・七人兄弟    219 秋雨前線・腹八分・シルバーシート    220 関東煮・年賀葉書・学童保育    221 バンコク・七五三・鼻血    222 ホルモン焼き・男襦袢・学園祭
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%96%E3%81%93%E3%81%B0%E3%83%BB%E9%B6%B4%E7%93%B6%E3%82%89%E3%81%8F%E3%81%94%E3%81%AE%E3%81%94
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xf-2 · 5 years
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989年に北京で起きた出来事について、中国政府による公式行事はない。……とはいえ、そう断定することは事実としては正確かもしれないが、あまりに中立的すぎる。
実際はどうかといえば、天安門広場での出来事は毎年、忠実に、受け止められている。「忘却」と呼ぶのがふさわしいかもしれない、大々的な国家的取り組みによって。
6月4日に向かって、世界最大の検閲システムはフル回転態勢に入る。自動アルゴリズムと数万人の検閲官がインターネットを徹底的に調べてまわり、天安門事件に関するありとあらゆる言及を削除しまくる。どれほど間接的にぼかした表現でも、容赦はない。
検閲逃れの手口があまりに挑発的過ぎるとみなされれば、禁錮刑もあり得る。今年4月には、「八酒六四」というラベルの中国酒・白酒を販売しようとして2016年に逮捕された香港の男性4人が最長3年半の禁錮刑判決(一部は執行猶予つき)を受けた。
こういう画像をツイッターに投稿するだけで、拘束される可能性がある。そもそもほとんどの中国人は、ツイッターの利用を禁止されているのだが。
数カ月前には私自身、中国当局がいかに徹底的に天安門事件について市民の行動を取り締まるか、目の当たりにした。市民が一切、天安門事件を公に話題にしたり、見える形で追悼しようとしたりしないよう、当局はとことん手を尽くす。
中国では4月の清明節に帰省し、先祖や家族の墓を掃除するのがならわしだ。この時期に合わせてBBCは、事件犠牲者の遺族に取材の手はずを整えていた。1989年6月初め、人民解放軍の第一陣が天安門広場に入った直後、この高齢女性の息子は広場の北側で頭を撃たれて亡くなった。
張先玲(チャン・シャンリン)さん(81)は毎年そうしてきたように、19歳で死亡した息子、王楠(ワン・ナン)さんの遺骨が納められている小さくて静かな墓地に花を持参するつもりだった。墓地は、北京市内の頤和園の近くにある。
しかし私たちが到着すると、家族の墓の周りには警備兵がびっしり張り付いて警戒に当たっていた。
そして私たちは制服警官に職務質問され、旅券や記者証を調べられ、個人情報の記録をとられた。
さらに、張さんは警察の同行つきで墓地を離れ、報道陣との接触は認められなかった。
王楠さんの死はあの日の出来事のごく一部に過ぎない。BBCのアーカイブには当時の記録が多数残されており、それは見る者の胸を打つ。
映像記録は一コマ一コマ全てが、撮影した人の勇気の証しだ。燃え盛るたくさんの車両を背に黒い影となった兵士たちが、武器を水平に構えて群衆に向かっていく様子が映っている。
そして映像には、パニック状態のデモ参加者たちが、何度も撃たれて血まみれになった仲間を、必死になって自転車や徒歩で病院に運ぼうとする様子も映っている。
その中で私にとって特に印象的なのは、ひとつの短い場面だ。
「もう撃たないでと懇願したが」
夜が明けてもなお、市内では散発的な銃声が聞こえていた。見るからにショック状態にあるイギリス人観光客のマーガレット・ホルトさんは、20世紀の決定的な歴史的瞬間のひとつに、たまたま巻き込まれてしまったのだ。
「1人の兵士がやたらめったら銃を撃ちまくっていて、群衆に向かって無差別に発砲していた。3人の若い女子学生が、この兵士の前にひざまずいて、もう撃たないでと懇願していた」と、ホルトさんは語りながら、両手を合わせて拝む仕草をした。
「なのに兵士は、3人を撃ち殺した」
記録映像の中で、ホルトさんは続ける。「お年寄りが、道を渡ろうと手を上げた。すると同じ兵士は、このお年寄りも撃った」。
50代後半か60代前半のホルトさんは、天安門広場から数百メートルしか離れていない建物の中で、絵の勉強をしていた。その建物の窓の向こうで、この兵士がそれからどうなったかを、ホルトさんは語り続ける。
「銃の弾倉が空になったので、兵士は弾をこめ直そうとした。すると、大勢が一気に押し寄せて取り囲み、兵士を木から吊るした」
わずか24秒間の描写だ。
しかし、あっという間に語り終えた内容だからこそ、平和的抗議集会がどれほど残酷な形で鎮圧されたのか、そして暴力を浴びせられた群衆がどれほど怒り狂っていたのかが、短い描写からくっきりと浮かび上がる。
そしてだからこそ、なぜ中国当局が今なおこれほど躍起(やっき)になって、事件の話題を封じ込めようとするのか、その理由の一端がうかがえる。
変化の風
1989年の春から夏にかけて、北京を初め中国各地の都市を揺さぶった何十もの民主化要求デモは、ありがちなことだが、ごくごくありきたりな出来事がきっかけで始まった。
中国共産党の総書記にまでなりながら、政治経済改革を主張して失脚した胡耀邦氏が、この年の4月に急死した。それが引き金となったのだ。
学生を中心に、前総書記の死を悼む声が巷にあふれ、それがたちまち、胡氏の名誉回復を求める大規模な街頭デモにつながった。学生を中心にした抗議行動は、胡氏の遺志を尊重し功績を称える手段として、報道の自由や集会の自由、汚職打倒など、幅広い改革を要求した。
北京では最大100万人が天安門広場に流れ込み、たくさんの旗をはためかせ、色とりどりの横断幕を掲げ、テントを立て、首都の政治的心臓にある巨大な公共の場を占領した。
当時は東欧でもすでに変化の風が吹き始めていた。そしてこれも奇遇だったが、抗議が展開されている最中の5月半ば、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長が30年来初の中ソ首脳会談のために北京を訪れたのだ。
中国の指導部にとって、そしてそのお膝元で抗議を続ける市民にとって、とてつもない歴史的瞬間の瀬戸際で国は揺れ動いているように思えた時期だった。そして中国共産党は、何が最善の対応なのかを決めかねて、割れていた。
最終的に勝ったのは、党内の強硬派だった。
6月3日の深夜から翌朝にかけて、本格的な武力攻撃が広場で展開された。戦車と兵士の隊列が進軍し、抗議集会に実弾を浴びせ続けた。
天安門広場に至る道路では、各所の交差点で市民が軍の隊列を止めようと立ちはだかり、一斉射撃によってなぎ倒された。
中には、上に書いた観光客の目撃談にもあるように、素手で反撃した人たちもいる。デモ参加者の投げる火炎瓶で、数台の装甲車が炎上したという情報もある。
今となっては、政府による隠ぺいと検閲のため、あの夜に何人が死亡したのか知るのは不可能だ。死傷者の公式人数は一度も公表されたことがない。
現場にいた外国人記者の多くは、市内の病院を訪れて取材している。その様々な話を総合すると、死者数は数百人から2000~3000人という数字が浮かび上がる。
一方で、事件の渦中に書かれた当時の外交文書は、「少なくとも1万人」という遥かに高い数字を挙げている。
犠牲者の人数には諸説あるが、議論の余地がないことがひとつある。国を守るための軍隊が、自国の首都において侵略軍となった瞬間は決定的な転機だった。そして、あの瞬間に訪れた変化は今も、言葉にならない無数の形で、現代の中国を決定づけている。
「タンクマン」
30年間続いてきた中国の検閲の威力を何よりも表すのが、「タンクマン」かもしれない。戦車の前に立ちはだかった男性のことだ。
武力弾圧の翌日、6月5日に戦車の隊列が天安門広場を離れようとしていた。犠牲者が特に集中した長安街を通って。
この時に撮影された映像には、たった1人の男性が先頭の戦車の前に立つ姿が映っている。男性は、戦車が迂回しようとするたびに自分も横に動いてその進路を阻んだ。
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白いシャツと黒いズボン姿で2つの買い物袋を提げたこの男性は、やがて戦車によじ登り、砲塔から戦車内をのぞき込み、兵士に抗議しようとする。
専制的な抑圧と、それに立ちはだかる、決して枯れることのない反骨精神。両者が真正面から相対する図式だった。中国の外の世界にとってはこのあまりに象徴的な映像が、天安門広場とその周辺で起きたことを何よりも象徴するものとなった。
戦車の指揮官が、国際メディアの長距離レンズが一部始終を撮影していると承知していたはずもない。それだけに、指揮官は一定の自制心を発揮したではないかという指摘もある。
国外では「タンクマン」、「戦車の男」と呼ばれるようになった男性は、撃たれもせず、ひき殺されもしなかった。しかしやがては、はがいじめにされ、強制的に戦車の前から排除された。男性がその後どうなったのかは、いまだに明らかになっていない。
しかし中国においては、男性が戦車に立ちはだかるこの映像は、世間の意識の上から消し去られた。
非人道的な犯罪
現在の天安門広場は、1989年の映像記録と比べてもあまり変わっていないように見える。
毛沢東総書記の肖像画は、今も広場の中心に誇らしく掲げられている。しみひとつなく穏やかにほほ笑むその顔は、自分に卵と塗料を投げつけた3人を責め続けているようにも見える。3人は「反革命」の罪に問われ、20年もの禁錮刑を受ける羽目になった。
しかし、広場を出れば、国としての中国はこの30年でとてつもなく変化した。
中国がますます経済的に豊かになり、政治力をつければつけるほど、過去の暗い出来事をひた隠しにしてきた中国政府のやり方が、究極的には勝つのだろうかと、そんな気にさせられる。この記事を含め、隠ぺいされた暗い過去はそれでも大事なのだと、大量の報道がどれほど主張し続けようとも。
鮑彤(バオ・トン)氏は、1989年の政治動乱の最前線にいた、中国共産党の元高官だ。
しかし、天安門広場で抗議する市民を支持した結果、逮捕され、7年間を独房で過ごした。今では中国で最も著名な反政府活動家の1人だ。
鮑氏は言う。「30年もの間、中国の指導者全員が、6月4日の非人道的な犯罪を進んで支持してきた。このことは気がかりだ」。
今の中国があるのは、あの時に民主化運動を鎮圧したおかげだという考えについて、鮑氏はこう言う。「(中国共産党は天安門事件を)貴重な教訓とみなしている。国の台頭を可能にした魔法の技だったかのように。今の成功は、鎮圧のおかげだと認識している」のだと。
「中国共産党は、(天安門事件を)人が話題にするのを認めるべきだ。被害者、目撃者、外国人、当時あの場所にいた記者たちに。全員がそれぞれ知っていることを発言す��のを認め、真実を割り出すのを許すべきだ」
この望みがいかにむなしいものかを証明するかのように、常時監視され尾行されている鮑氏は我々が訪問した後、外国メディアの取材を今後一切受けてはならないと当局の警告を受けた。
しかし、あの時の民主化運動の要求に政府が耳を傾けていたなら、中国の未来は豊かなものになっただけでなく、今よりもバランスのとれた公平なものになっていたはずだと、鮑氏は確信している。
「巨大なグレートファイアウォールなどない、特権階級のない中国が見える。億万長者は残念ながら今より少ないかもしれないが、少なくとも貧しい出稼ぎ労働者は大都市から追い出されることもなく、自由に暮らすことができていただろう。中国は外国の技術を盗む必要もなかったはずだ」
何はなくとも権力を
30年前の天安門広場には、真の変化がついにやってきたと大勢が信じた期待感があふれていた。しかし実際にはそれとは裏腹に、結果的には中国の政治改革を何十年も後退させてしまったかもしれない。それが何よりも皮肉だ。
あからさまな革命を求めていた学生は、ほとんどいなかった。学生たちは内部対立を繰り広げ、自分たちも独裁的な傾向を見せていた。彼らは優秀なリーダーにはならなかっただろう。
それでも中国共産党の強硬派は、学生たちが求めた限定的な法治主義と民主的改革を受け入れようものなら、自分たちの絶対的な独裁体制が終わってしまうと恐れた。
民主化要求の抗議が起こらなかったら、改革派の幹部たちを沈黙、粛清、投獄しなかったら、果たして中国は台湾や韓国など、当時すでに独裁体制から徐々に手続きを踏んで民主化へと移行しつつあった他のアジア諸国と似た道をたどったのだろうか。
中国ではこのようなことを考えることもできない。上の世代は記憶することを禁止され、若い世代は知ることさえ許されない。
代わりに、当時の決定が今も厳然と国を支配している。党が全権を掌握し続けるし、その威力を国民運動が揺るがそうとするなど、そんな事態はもう二度と許さないのだという、30年前の決定が。
そして、あれから30年たった今、中国の一大「忘却」事業は、相変わらず強力にまい進を続けている。
(英語記事 Tiananmen 30 years on - China's great act of 'forgettance')
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