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#Victuuri
2 notes · See All
kiaronnaAnswer
Hi! Can you write Viktuuri in a secret relationship? With kiss prompt 12 (secretive kiss in a corner) thank you!!!

[prompts are open but apparently I write at the speed of a finger-typer so my apologies]

Look, canon Viktuuri kiss in public like. a lot 

at one point they had technically kissed more in public than they had in private

So. Let’s say. In this AU, teen Viktor has a boy he really likes break up with him because he can’t handle the fame. And this is fine! Viktor understands. Viktor can barely handle the fame, sometimes, he can’t ask that of someone else. But while he continues to post on social media, and chat with fans, and gives the general impression that his life is an open book, he swears to himself that his next relationship is not gonna be threatened by his fame.

And sure, Yuuri made him fall in love in a crowded room, and Yuuri posted a video online with millions of views, but Yuuri also screeches when he appears and keeps staring at him, terrified, like he’s a Prada bag several seasons out of style on a runway. Viktor gets it, he does. So he kisses Yuuri for the first time very quietly, in the privacy of their Yu-topia haven. Desperate and clinging. And he doesn’t tell the press anything.

“Hahahaha,” he says, when a reporter jams a mic in his face and asks about his boyfriend. “Boyfriend? We’ll see.”

If Yuuri keeps pushing him into corners with curtains, and kissing him behind open menus, and holding his hand under the table, Viktor’s definitely not complaining.

And then, after the GPF, when they’re going out to dinner and Viktor, against his deepest inner desires, puts gloves on over his ring…  well, there’s a little balcony overlooking a private garden on the back end of the restaurant. Yuuri drags him there, kisses him warmly, pulls off his glove and runs a thoughtful thumb over the ring.

“I’m so happy,” he confesses. “Even if we never tell anyone, even if I’m embarrassing sometimes, I’m so happy you’re with me. I don’t know how much longer this’ll last, but do you think… could I at least tell Phichit if–”

“WHAT,” Viktor squawks.

“Okay,” Yuuri says, ducking his head, cheeks pink. “Ok, I don’t have to tell Phichit, he is a social media prince, I just… thought…”

“Yuuri,” Viktor says, grabbing him by the shoulders, “you’re my fiance.”

It’s clear from his glazed stare that his brain is rebooting.

“Can I tell people??” Viktor asks, desperate. “You’d be okay with that? It’s not too much? I know you hate people crowding you. Can I tell– everyone?”

“Hell yes,” Yuuri blurts, going bright pink. He squeaks after, and buries his face in shaking hands, but he’s laughing. And he doesn’t take it back.

Viktor may or may not have been practicing his ring flashing.

80 notes · See All

 その日はすこし早めに取材が終わったので、ヴィクトルはいろいろなものを眺めながら街を歩いていた。考えているのは、次は勇利をここへ連れてこようとか、あれは勇利に似合うとか、いきなりこれを買って帰ったら勇利は怒るだろうなとか、勇利のことばかりだった。今日の彼は、ヴィクトルが前もって言っておいた項目に従って練習をしているはずだ。もうすこし仕事が早く終わればリンクへ行くこともできたのにとヴィクトルは溜息をついた。思ったよりは早かったけれど、いまからコーチをするには遅すぎるという頃合だった。
 まあいい……こうして次に勇利とデートするときの計画を考えられる時間は貴重だ。ヴィクトルは新しくできた店の前で立ち止まり、窓越しに店内を観察して、どのような雰囲気かを調べた。静かでよさそうなところだ。
 そのとき、向かいからやってきた女性が足を止め、「ヴィクトルじゃない」と声をかけた。ヴィクトルは顔を上げ、笑みを浮かべて挨拶した。
「やあ。久しぶりじゃないか。元気かい?」
 以前からの仕事上の知り合いで、気さくで気持ちのよい女性だ。このところは会うこともなかったけれど、昔のままの明るさだった。
「まあね。楽しくやってるわ。ヴィクトルは去年はほとんど日本にいたんですってね? かわいい男の子を連れて帰ってきたってニュースになってたわよ。たぶらかしてさらってきたんでしょう」
「とんでもない。たぶらかされたのは俺のほうさ。もうあの子にめろめろなんだ」
 彼女は可笑しそうに笑った。
「今日は一緒じゃないの?」
「俺は仕事だったんだ。勇利はリンクで練習。そばにいられなくてさびしいよ」
「ずいぶんご執心ね。今度ぜひ紹介してよ。どんなにかわいい子か、ひと目見てみたいわ。ニュース映像ではひかえめでおとなしそうな子に思えたけど……」
「実際もひかえめでおとなしいよ。地味だし目立たない。でもね、それが氷の上に立つとぱっと変わるんだ。もう輝くほどのうつくしさで……」
「あー、いいわ。訊くんじゃなかった。ヴィクトル、なんだか雰囲気がちがうんじゃない? 前はもっと落ち着いてた」
「勇利の前では落ち着いてなんかいられないんだ。いいかい、あの子はね……」
「どんな会話でも好きな子につなげようとするのやめて」
 ふたりはそれからしばらく共通の知り合いについて話し、五分ほどで別れの挨拶をした。ヴィクトルは、勇利のことを自慢し足りなかったけれど、彼女は約束があるらしく、時間を気にしていたのであきらめた。そのあと、またひとりでゆっくりと店を見てまわり、家に帰ると、すでに勇利が帰宅していた。
「おかえり。早かったんだね」
「ああ、予定よりね。もっと早かったらリンクに行けたんだけど」
 勇利はにこっと笑った。ヴィクトルは胸がきゅんとなった。ああかわいい。俺の勇利はかわいい……。
「ごはんはまだつくってない。買い物だけしてきたよ」
「じゃあ一緒につくろう。もう先日のような失敗はしない」
 ヴィクトルは数日前、鍋の底のあたりを焦がしてしまったのだった。勇利は楽しそうに笑い、「ぼくも野菜はもうちょっとちいさく切るよ」と誓った。彼は彼で昨日失敗し、野菜の火の通りが悪くて、芯のほうが硬かったのだ。ヴィクトルは、ああ、勇利と暮らしてるって感じがするな、と感激した。目を閉じて静かに喜んでいると、「何してるの?」と勇利がふしぎそうにした。
「勇利との生活についてじーんとしてる」
「意味がわからない」
 今日はとくに目立った失敗はなかった。勇利は適切な大きさに野菜を切ったし、ヴィクトルも鍋の中身を底のほうからかきまぜてしっかりと全体的に温めた。そうしてできあがった夕食は美味しく、勇利と向かいあって食べるのがヴィクトルにはひどくしあわせだった。
「今日の練習はどうだった?」
 ヴィクトルは上機嫌で尋ねた。
「ヴィクトルに言われたとおりのことをしたよ。まじめに」
「俺が言った以上のこともしたんじゃないだろうね」
「してないよ。いい子にしてたよ」
「勇利は油断するとすぐ長く練習するからな」
「ぼくは模範生だよ」
「よくもそんなことが言える」
 ヴィクトルはからかうように言ってくすくす笑った。勇利もにこっと笑った。
「ヴィクトルは? 取材どうだった?」
「ああ、勇利のことをたくさんしゃべってきた」
「ヴィクトルの取材でしょ? なんでぼくのことしゃべるの?」
「俺は勇利のコーチなんだから勇利のことをしゃべって当然だ」
「よくわからないんだけど……」
「道理じゃないか。真理だ」
「たぶん取材先の人が望んでるのはそういうことじゃないと思う」
 勇利はくすっと笑った。その笑い方がたまらなく上品でかわいらしかったので、ヴィクトルはまぶたをほそめた。勇利、なんてかわいいんだ。なんてかわいいんだ……。
「……ヴィクトル」
 勇利がパンをちぎって呼んだ。
「なんだい?」
 ヴィクトルはうっとりと勇利をみつめながら、可憐な俺の勇利はどんなことを言いだすのだろうと、すべての気持ちを集中させて耳を傾けた。
「今日、デートしてたよね」
「え?」
 すべての気持ちを集中させていたにもかかわらず、ヴィクトルは何を言われたのかよくわからなくて、ぽかんとしてしまった。勇利は英語とはちがう言語でしゃべったのではないかと彼は疑った。デート? なんだ?
「ほら、新しくできた店の前で……」
「店の前?」
「店の前」という意味はわかったけれど、相変わらず、「デート」とはなんだろうと悩んでいた。俺の知ってるデートとはちがうんだろうか? 俺の知識にある「デート」は勇利と出歩くことなんだが……、ほかにも意味があるのか?
「女の人といたでしょ」
「え? ああ」
 知り合いと話していたのは事実なので、ヴィクトルはうなずいた。勇利もうんとうなずいた。
「あの人さ……」
 勇利がすこしテーブルに身を乗り出した。彼は真剣にヴィクトルをみつめ、チョコレート色の瞳をまじめにきらめかせた。
「ぼくより見ていたい?」
「え!?」
 ヴィクトルはびっくりした。質問の意味がしばらく理解できなかった。勇利より見ていたい相手なんているわけがない。訊くまでもないことだ。ヴィクトルは聞き間違えたのかと思ってちょっと考えたけれど、やはりどう思案しても「ぼくよりみつめていたい相手がいるの?」と尋ねられているとしか思えなかった。そう判断した瞬間、ヴィクトルは鋭い勢いで叫んだ。
「そんなわけないさ!」
 ヴィクトルの剣幕に勇利は目をまるくし、それから頬をばら色に染めてふふっと笑った。
「そっか」
「そうだよ!」
「そう……」
「当たり前だよ!」
 ヴィクトルは熱心に、ほとんどむきになって宣言した。
「勇利だけだよ!」
 勇利はさらに赤くなり、ちょっと目を伏せてうなずいた。
「わかりました」
「本当にわかってる!?」
「わかってる……大きな声で言わないで」
 勇利はつぶやくように言い、上目遣いでヴィクトルをちらと見た。甘えるような大きな瞳に、ヴィクトルはほとんど殴られたような衝撃を受けた。なんてかわゆいんだ……。
「ヴィクトル、どうしたの?」
「いや……」
「大丈夫?」
「いや……」
「大丈夫じゃないの?」
「ああ……」
「大変だ」
「いいんだ……大丈夫じゃないのが正常なんだ……」
「どういうこと?」
 勇利は、相変わらずヴィクトルはわけがわからないことを言う、という目をしたけれど、ヴィクトルとしては自然の摂理を口にしているつもりだった。勇利といて平然となんてしていられるだろうか? 彼といるとヴィクトルはいつもめちゃめちゃにされてしまう。それがなんともここちよい。
 ヴィクトルは勇利をみつめた。勇利はヴィクトルの視線に気がつき、にこっと笑った。ヴィクトルは胸を押さえて倒れこみそうになった。
「ヴィクトル、具合が悪いなら洗い物はぼくがするから……」
「いや、いい。一緒にする」
「ごちそうさまでした」と挨拶したふたりは立ち上がって流しに食器を運んだ。
「そういえば、食器洗い機を買いたいって言ってたのはどうしたの? べつに買ってもらいたいわけじゃないけど、ヴィクトルって思いついたらすぐ買うからちょっとふしぎだった」
「あれはやめた。俺は勇利と並んで食器を洗うのが好きなんだ」
 いちゃいちゃできるから、とヴィクトルは思った。
「そっか」
 勇利はあっさり答え、仕事に専念した。ふたりはしばらく、ヴィクトルが食器を洗い、勇利がそれを水で流してゆくという作業に没頭した。
 ヴィクトルは勇利の横顔がかわいらしくて浮かれていたけれど、そのうち、とんでもないことに気がついて青ざめた。
 俺はさっき、「デート」というのを否定し損ねたのではないか!?
 思い返してみると確かにそうだった。ヴィクトルはただ「知り合いと話していた」ことを肯定したに過ぎないのだけれど、勇利からすれば「デート」を認めたことになっているのではないだろうか。冗談ではない。たわいない立ち話をそんなふうに思ってもらっては困る。ヴィクトルはすぐにそのことを持ち出してちがうと言おうとしたが、その瞬間、ひどくためらった。いまになってそんなことを言うなんて、かえってあやしまれるのではないか? もう終わった話についてしつこく言及するのは、後ろめたいことがあるからだと思われるかもしれない。勇利は気にしていないようだし、このまま黙っているほうがよいのか。しかし勇利は、表向きは平気そうにしていても、内心ではひとつのことをくり返し考えているということがままある。本当は、「ヴィクトルは女の人とデートしてたんだ……」と思いつめているかもしれない。もしそうだとしたら……。
 ヴィクトルはおそるおそる横目で勇利の様子をうかがった。勇利は口元に笑みを浮かべ、手際よく食器を洗い流していた。思いつめているどころか、むしろ機嫌がよいように見える。だが、本当にそうだろうか? 勇利はよくわからない。
 ああ、どうするのが正解なんだ!?
「ゆ、勇利……」
 ヴィクトルはどきどきしながら声をかけた。
「なに?」
 勇利がヴィクトルのほうに顔を向けた。
「その……」
「?」
「……袖が落ちてきている。水で濡れそうだよ」
 ヴィクトルは勇利の手元を指さした。勇利は「あ」と口をひらいた。彼はヴィクトルを見上げると身を寄せるようにして言った。
「ヴィクトル、上げて」
「え?」
「もう洗い終わったでしょ? 上げて」
「あ、ああ……」
 ヴィクトルは最後の食器を勇利のほうへ置き、手をすすいでぬぐってから、彼の背後に立って左右の袖をまくり上げた。抱きしめるような姿勢になってまたどきどきした。
「これでいいかい?」
「うん」
 勇利はヴィクトルを振り返ってにこっと笑った。
「ありがとう」
「いや……」
 かわいい……。ヴィクトルはふらふらしながら居間のソファへ行き、そこにどさっと座った。かわいい……勇利……どうしよう……彼は何を考えているんだ……。
 そのあとふたりでテレビを見たけれど、結局ヴィクトルは「あれはデートではない」ということを説明できなかった。時間が経てば経つほどその話をするのが不自然に思えて、どうしても切り出せなかったのだ。
 勇利はむしろヴィクトルに甘えるように寄り添ってにこにこしていた。しかしそれはヴィクトルの願望だったかもしれない。



 ああ、勇利に勘違いされていたらどうしよう……内心では怒り狂っていたら……ある日突然「ぼく日本へ帰る」なんて言われたら……。ヴィクトルは悩みに悩んでいた。しかし、勇利はといえばまったくいつもどおりで、そっけない態度などかけらもなかった。
「ヴィクトル、どうしたの? 最近元気ない」
「いや、そんなことはない……」
 勇利は平然としている、と思っても、ヴィクトルは安心できなかった。怒っているどころか、普段より甘い雰囲気があるという気さえしたけれど、そういうときが勇利はあぶないのだ。やっぱりいまからでも説明したほうがいいのでは……いやそっちのほうが言い訳みたいで疑われるかもしれない……。ヴィクトルは苦しんだ。
 悪いことは続くもので、そんなおり、元リンクメイトがクラブを訪ねてきた。そのときヴィクトルは休憩中で、勇利は地元のテレビ局の取材を受けていた。
「ヴィクトル、久しぶり」
 職員たちに挨拶したあと、彼女は食堂でくつろいでいるヴィクトルをみつけて近づいてきた。
「やあ。君も元気そうだ」
「引退してから太っちゃったのよ」
 彼女はヴィクトルの向かいに座って笑った。
「太るのは悪くないよ」
 ヴィクトルは熱心に言った。
「俺の勇利も油断したらすぐに肥えちゃうんだ。ぷにぷにしてかわいいんだよ。こぶたちゃんなんだ。愛情のこもった愛称だろう?」
「あんなにほっそりしてるのに? さっきカフェスペースで見たわ。取材を受けてたみたい。かわいい子じゃない? ヴィクトルがさらってくるだけあるわよね。毎日いちゃついてるの? もうちょっとスケートを続ければよかった。そうしたらあなたたちの熱愛ぶりをそばでくわしく観察できたのに」
 勇利と愛しあっていることを祝福してもらえたのがうれしくて、ヴィクトルは得意げに、勇利がどれほどかわゆいか、どれだけうつくしいか、どんなに凛としているか、そしてどれほどよくわからない性格かということを勢いこんで語った。途中でヤコフが通りかかって、「いつまでやすんどるんだ!」と怒るほどだった。彼女は「今度はふたりそろってるときに遊びに来るわ」と手を振って帰っていった。ヴィクトルは午後の練習では上機嫌だった。
「今日のお昼からの練習さ」
 勇利は夕食のとき、そのことを持ち出してヴィクトルをじっと見た。
「ヴィクトル、すごく楽しそうだったよね」
「え? ああ! そうなんだよ!」
 ヴィクトルは元リンクメイトに、勇利についてたくさん話したことを思い出し、うきうきしてうなずいた。
「昼休みに知り合いが訪ねてきて──」
「デートしたから機嫌がよかったの?」
「え?」
 ヴィクトルはぽかんとした。この言葉を聞くのは二度目だ。デート。なぜデートなんて言われるのか。
「取材のあと、食堂の前を通ったら、おおはしゃぎで女の人と話してるヴィクトルがいたから」
 ヴィクトルはあぜんとした。あれは勇利の考えているようなことではぜんぜんない。おおはしゃぎしていたのは、勇利への愛を語っていたからだ。
「ちがう!」
 ヴィクトルは、いまこそ否定するときだと身を乗り出して叫んだ。
「勇利、俺は──」
「ヴィクトル」
 勇利が静かにヴィクトルをみつめた。ヴィクトルはものが言えなくなった。勇利の黒い瞳は神秘的で、深い輝きがシリウスのようだった。この目にみつめられて口を利ける者なんているだろうか? 勇利はいつもの眼鏡をかけており、ありふれた印象だったけれど、ヴィクトルは秘められたうつくしさを感じた。勇利は目をそらすことが難しいほど綺麗だ。
「ぼくより見ていたい?」
 勇利が物穏やかな口ぶりで尋ねた。
「あのとき話してた人のこと、ぼくより見ていたい?」
 ヴィクトルはすぐにかぶりを振った。そんなことがあるわけがなかった。勇利以外にみつめたい相手なんて……。
「ぼくから目を離したくない?」
 ヴィクトルは大きくうなずいた。やはり口を利くことができなかった。
「本当に?」
 もう一度うなずいた。
「……そっか」
 勇利がにこっと笑った。
「そう。ふうん」
 彼はうれしそうに頬をばら色に染めた。ヴィクトルはようやく話すことができるようになり、急いで付け足した。
「当たり前だよ、そんなの」
「そう」
「当たり前だよ……」
 勇利はそれからはにこにこ笑っており、もう二度とその話は持ち出さなかった。ヴィクトルはほっとしたけれど、そのうち、だんだんと不審な気持ちがふくらんできた。
 勇利はなぜ落ち着いてるんだ!?
 確かにヴィクトルは勇利だけを見ていたいと言った。それはうそではない。しかし、結局また「デート」だとかいうことは取り消せなかったし、そうなるとこれは二度目の事件だ。勇利は気にならないのだろうか。「ヴィクトルは女性と楽しそうにしていた」と思いこんでいるのに、どうして、不機嫌になるどころか、かえってうれしそうなのだろう。
 こんなことなら、いっそのこと、怒り狂って欲しかった。あれは誰なのだと癇癪を起こして責め立ててくれれば、ヴィクトルだってちゃんと説明をして、あんなのはなんでもないことなんだ、俺は勇利を愛しているんだ、おまえだけなんだと愛を語ることができるのに。こんなふうに静かに受け容れられたのでは、なんとも言いようがないではないか。
 勇利は俺のことなんて本当はどうでもいいのでは……。そんなことを考え、ヴィクトルはひどく落ちこんだ。しかしすぐに、いや、そんなはずはないとかぶりを振った。いつだったか、ロシアの観客に愛嬌を振りまいてたとき、勇利にネクタイをひっぱられて叱られたぞ。あれは「ぼくだけにして!」ってことだ。そうだ。そうにきまってる。……あのときはよかったな……ぞくぞくした……勇利のセクシーな目つき……あんなの誘われてるみたいなものだ……。
 ヴィクトルは溜息をついた。勇利を怒らせたくはないけれど、こうなってしまった以上、怒ってもらわなければ不安だ。しかしだからといって、「怒ってくれ」と頼むわけにもいかない。勇利は気にしていないのだ。いや……やはり内心では、何か思うところがあるのだろうか? こころに秘めているだけなのだろうか。ああ、勇利がわからない……。
 ヴィクトルは美味しそうにサラダを頬張っている勇利を見て、もう一度溜息をついた。
「どうしたの? 最近ヴィクトルって何かずっと考えこんでるよね」
「なんでもないんだ……」
 なんでもないわけがなかった。ヴィクトルはそれから数日、溜息のつきどおしだった。いったいどうすればよいのか……勇利は誤解しているのか、していないのか。しているのなら、なぜにこにこしているのか。ヴィクトルのことをどう思っているのか……。
「はあ……」
 ヴィクトルは買い物に来た店の中でりんごを選びながら、憂うつそうな顔で立っていた。
「盛大な溜息ね。ユーリ・カツキが来て、彼と楽しく暮らしてるんだと思ってたのに」
 脇から声をかけられてヴィクトルは驚いた。振り返ると、顔見知りの女性記者が笑っていた。
「喧嘩でもしてるの? 記事を書くから話を聞かせてよ」
「そういうのじゃないんだ」
 ヴィクトルはかぶりを振った。
「でもあなたに溜息つかせるなんて、かわいい生徒さんしかいないでしょ。あんなにまじめそうな人がロシアの皇帝を振りまわすなんてすごいわね。じつは魔性なのね」
「そうなんだ」
 ヴィクトルはもっともだというように大きくうなずいた。
「もう、勇利は本当に悪魔的だよ。天使みたいな顔をしてるけど、悪魔なんだ。でも悪魔っていうのはそういうものなのかもしれないね。見るからに悪いやつじゃ、悪魔とは言えない。知らないうちに完全にめろめろにしてしまうからこそ悪魔的なんだよ。そう……俺はめろめろなんだ……勇利がそばにいないと夜も明けない……。こんなに夢中になってるのに、勇利はといえば、おとなしそうににこにこしてるだけでそれ以上はないんだ。ひどいだろ? でもそれが勇利の魅力なんだ。ああ勇利……俺の天使……」
「落ちこんでたんじゃなかったの?」
 彼女はあきれながら、自分のカートにぶどうを取った。
「俺を落ちこませるのもうっとりさせるのも勇利なんだ」
「にこにこしてるだけでそうできるわけね。ヴィクトル、彼とセックスしてないの?」
 ヴィクトルはなにげなく向こう側の棚を見た。そしてどきっとした。ヴィクトルの視線を追った彼女が「あら」と声を上げた。そこには、家で待っているはずの勇利がいて、彼はふたりのことを静かな目でみつめていた。
「勇利!」
 ヴィクトルが手を上げると、勇利はすぐにほほえんでそばまで来た。
「牛乳がないから一緒に買ってきてって伝えようと思って」
「スマホに連絡をくれればよかったのに」
「はいこれ」
 勇利が何かを差し出した。ヴィクトルはきょとんとした。ヴィクトルの携帯電話だった。
「こんにちは」
 勇利は記者に挨拶した。彼女も笑顔で挨拶を返し、それから、勇利を熱烈な目でみつめているヴィクトルにくすっと笑った。
「お邪魔みたいだから行くわ。またね、おふたりさん」
 勇利はぺこっと日本式にお辞儀をし、ヴィクトルは勇利をじっと見ていた。
「買い物しよ」
 勇利が大きな目でヴィクトルを見上げた。ヴィクトルはうなずいた。
「楽しそうに話してたね」
 勇利がカートにりんごを足しながら静かに言った。ヴィクトルははっとした。勇利、やっぱり誤解してるのか!? そんなんじゃないぞ!
「勇利、俺は──」
「ヴィクトル、どこ行くつもり? そっちの売り場には買うものはないんだよ。まだ店の構造をおぼえてないみたいだね」
 歩きながら勢いこんだヴィクトルに、勇利が可笑しそうに言った。
「こっちだよ牛乳は……」
 彼は買い物についての話ばかりをし、ヴィクトルはやきもき、そわそわした。勇利、いま何を考えてるんだ!?
 買い物袋をひとつずつ抱え、家に向かうあいだも、勇利は平凡な話しかしなかった。ヴィクトルはよほど自分から言ってやろうかと思った。しかしなんと言えばよいのだ。
「ヴィクトル……」
 勇利がゆっくりとヴィクトルを呼んだ。
「なんだい」
「ヴィクトルはぼくから目を離してないんだよね?」
「もちろんだよ。ほかに何を見るっていうんだ?」
「…………」
 勇利はヴィクトルをみつめた。ヴィクトルが見返すと、彼はうれしそうににこっと笑って頬を紅潮させた。
「そっか」
「…………」
 勇利はにこにこしながら家路をたどった。ヴィクトルは瞬いた。え? 終わり? 終わりなのか? 話はこれで終わり? 勇利、俺に何か言いたいことはないのか!?
「ただいまぁ」
 勇利が扉を開けて奥へ顔を向けた。
「マッカチン、帰ったよー」
「勇利!」
 突然声を上げたヴィクトルに、勇利はびくっとして振り返った。
「えっ、な、なに?」
「勇利、どうしておまえはそうなんだ!?」
「な、何が?」
「なんで怒らない!」
 勇利はぽかんとした。ヴィクトルは荷物を持ったまま、同じように紙袋を抱えたままの勇利に迫った。
「この前から、俺が女性と一緒にいても怒らない! もちろんあんなことに意味なんてない! 彼女たちはごく普通の友人だ! でも勇利はデートだと思ったんじゃないのか!?」
「ヴィクトル、どうして怒ってるの?」
「なぜ俺に何も言わない!」
 ヴィクトルはむきになった。
「誤解したなら言うべきじゃないのか!? なんでむしろにこにこしてうれしそうなんだ!? 俺のことなんてどうでもいいのか!? 勇利は激怒すべきだろ!?」
「げ、激怒……?」
「勇利は!」
 ヴィクトルは叫んだ。
「『ぼくだけ見ててよ! ぼくだけにして! 絶対にぼくから目を離さないで! しっかりぼくだけ見てて! 約束したじゃない! ぷんぷん!』って言うところだろ!?」
「…………」
「どうして平気そうなんだ? なんでうれしそうにしてる? しあわせそうにしか見えない! なぜなんだ? 俺に言うことはないのか!?」
「…………」
「勇利……」
 ぽかんとしていた勇利は、ゆっくりと顔をそらし、口元を右手で覆った。ヴィクトルはじっと彼をみつめた。勇利の頬がほんのりと、りんご色に染まっていった。
「そ、そうだったんだけど……」
 彼はぽつんと言った。
「え?」
「そういうことだったんだけど……」
「……何が?」
 ヴィクトルはわけがわからず、ふしぎそうに勇利のおもてをのぞきこんだ。勇利はほっぺたをうすあかくして説明した。
「そういうことがあるたび、ヴィクトルに『ぼくより見ていたい?』って訊いたの、そうだったんだけど……」
「……そうって?」
「だから……」
 勇利はまっかになった。
「ぼくだけ見ててよ! ぼくだけにして! 絶対にぼくから目を離さないで! しっかりぼくだけ見てて! 約束したじゃない! ぷんぷん!」
「…………」
「……っていう意味だったんだけど……」
 沈黙が降りた。ヴィクトルは目をみひらいて勇利をみつめ、勇利は気恥ずかしそうに赤くなってまつげを伏せていた。
「……でも勇利はそれ以上言わなかった」
「だって……ヴィクトルが、ぼくしか眼中にないって……」
 勇利は上目遣いでヴィクトルを見た。
「ぼく以外目に入らないって言うから……」
「…………」
「うれしくて……」
 ヴィクトルはゆっくりと瞬いた。
「…………」
「…………」
「…………」
「……あの……」
 ヴィクトルがいつまで経っても何も言わないからか、勇利は心配そうな表情になった。
「……ちがうの?」
「え……」
「そういうことじゃないの……?」
 勇利は不安そうに尋ねた。
「おまえ以外目に入らないっていう意味じゃなかったの……?」
 勇利の言うことは完全に正しいのだけれど、ヴィクトルは、自分のたったひとことに勇利がそれほどまでに安心していたと知って、かなりの衝撃を受け、たいへん喜んでいた。だからすぐに言葉が出てこなかった。その態度を勇利は何か勘違いして受け取ったらしい。彼の目つきが鋭くなった。
「……ちがうんだ」
「あっ、いや……」
 勇利は上がり口に、静かに荷物を置いた。彼はじろっとヴィクトルをにらむと、腰に手を当てて言った。
「ぼくだけ見ててよ! ぼくだけにして! 絶対にぼくから目を離さないで! しっかりぼくだけ見ててよ! 約束したじゃない!」
 ぷんぷん怒りだした勇利に飛び上がり、ヴィクトルは荷物をほうり出すようにして勇利を夢中で抱きしめた。
「勇利だけ見てるよ! もちろんそういうことだよ! おまえしか目に入らないよ!」
「うそ!」
「うそじゃない! うそなんかじゃないぞ!」
 ヴィクトルはむきになった。
「勇利以外見てるわけないだろ!? 俺の目は勇利しか認識しないんだぞ!」
「返事にずいぶん時間がかかってたようだけど!」
「おまえがあまりに可憐すぎて、言葉が出てこなかったんだ! 俺の勇利! いつかみたいに色っぽく叱ってくるのもすごくいいけど、ぷんぷん怒るのもかわいいよ!」
「人を怒らせといてなにそのいいぐさ!」
「ごめん! 愛してる!」
 ヴィクトルは勇利にキスをした。くちびるを離すと、大きなチョコレート色の瞳が、拗ねたようにヴィクトルをみつめていた。
「愛してる……」
「…………」
「セックスしよう」
「なんでいきなりそういう話になるんだよ!?」
 勇利はまたヴィクトルをにらみ、ぷんぷん怒った。



「……勇利、本当に、ぜんぜん怒ってなかったのかい?」
「どうして怒るの? ぼく毎晩ベッドに入ってから、『おまえしか目に入らないだって……』『おまえ以外眼中にないだって……』『もう! ヴィクトルってば!』って浮かれて眠れなかったんだけど」
「…………」
「あ……、余計なこと言っちゃった」
 勇利が赤くなって気恥ずかしそうに目をそらした。
「いまのことは一秒で忘れて」
 ヴィクトルはまくらにつっぷした。今夜は「『いまのことは一秒で忘れて』だと!?」「まったく俺の勇利はかわいいな!」と浮かれて眠れないことを確信した。

1 notes · See All


if you have to stay home because of the world coronavirus situation, and are looking for fics to read, these are some of my favorite fics.

NEXT LEVEL: Nights After Dreams https://archiveofourown.org/works/10974756/chapters/24436476 

The silver medal was hard fought and won, but now the stakes are higher than ever. Five gold medals loom on the horizon, but more importantly, the “life and love” within the gold rings. Yuri and Viktor’s relationship grows as they get back on the competition road, and new complications rise with them. (Proper follow-up to the TV series; not AU, no crack ships, no weird shit.) 

The Next Level https://archiveofourown.org/works/10599636/chapters/23434005

The skating season continues (as skating seasons are wont to do), while Victor and Yuuri negotiate the shifts in their relationship, their careers, and their home rink. Sometimes, things even go as planned.

‘Cause I’m a Taker, 'Cause I’m a Giver, It’s Only Nature https://archiveofourown.org/works/9173269/chapters/20825470 

This is a story that runs during the main canon of Yuri!!! On Ice, from episode four and beyond until a month after Worlds. Primarily though, this is a story about sex, dating, love, and marriage—yes, in that order.

The Real Podium Family https://archiveofourown.org/works/13589265/chapters/42656192

Follow Yuuri and Viktor as they go through competitions, starting from Viktor’s comeback to the end of the Olympic season.

Gains and Losses https://archiveofourown.org/chapters/31243875?show_comments=true

From the Cup of China to the Worlds the following season and the unexpected departure from Russia; two young men discover their feelings. Eighteen months of love and laughter, fear and worry… gains and losses.

Winter Song https://archiveofourown.org/works/8596987/chapters/19715377

The set of Yuuri’s mouth softened into a private smile as Victor squeezed his knee beneath the table. His hands were bare, free from the gloves he so often wore when they were together on the rink, and the heat of his palm burned straight through the denim of Yuuri’s jeans. He slipped his own hand beneath the table and found Victor’s. Hidden from sight, their fingers began to flirt and play. A secret conversation all their own that needed no words.

Yuuri was aware that at some point—a moment in time he couldn’t quite place—Victor had become his boyfriend.

There wasn’t a single instant when it happened. It was a slow awareness, as if Victor had silently been asking the question for months now, and Yuuri had been giving him the answer a little more with each passing day.

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「この試合ではぼくのことは気にしないで。練習のときも気遣ってくれなくていいし、それ以外でも話しかけてこないで。キスクラも来てくれなくてけっこうです」
 勇利はきっぱりと言った。ヴィクトルがコーチになってから初めての、ふたり一緒に出場する試合だった。この日が来たらそのようにしようと、勇利は以前から決心していたのだ。
「なんだって?」
 ヴィクトルは心外だというように目をみひらいた。
「どうしてそんなことを言うんだ? 俺、勇利のコーチだよね? 試合に来ているのに生徒に付き添わないなんて、勇利は、そんな間の抜けたコーチに俺をしたいのか?」
「間の抜けたコーチなんかじゃないよ。それがヴィクトルコーチの神髄なんだと思う」
「何が神髄だ。理解しがたいなりゆきだ。だいたい、ホテルの部屋が別々なのだって俺は納得してないっていうのに、勇利はこのうえそんなことを……」
 ヴィクトルは不満でいっぱいという口ぶりで勇利を責めた。部屋を別にするというのは、勇利が決断し、決行したことだった。ヴィクトルはホテルへ着くなり部屋へ荷物をほうりこむと、勇利のところへ意見しに来て、「試合ではぼくのことは気にしないで」などと言い放たれ、まったく承服しかねるという態度だった。
「ぼくは完璧な選手のヴィクトルと、同じ氷の上に立ちたいんだよ」
 勇利ははっきりと言い、ふてくされてベッドに座っているヴィクトルの前で胸を張った。
「そのためには、これは必要なことなんだ」
「言葉を返すようだけどね、俺は勇利のコーチをしながらだって、完璧な選手として演技ができるんだよ」
「ぼくの気持ちの問題なんだ」
 勇利は重々しくうなずきながら説明した。
「ヴィクトルはぼくを気にしすぎてるんじゃないか? ──そんなふうに思いながらヴィクトルと競うのはいやだ。それに、いくらヴィクトルがそう言ったって、やっぱり何か影響はあるはずだよ。ヴィクトルはぼくに時間をかけすぎる」
「勇利に時間をかけることが俺のこころを安定させるんだ」
「そんなわけない。ヴィクトルには、ヴィクトルだけの時間が必要だよ」
「俺のことなのになぜ勇利が決定してるんだ。俺が大丈夫だと言ったら大丈夫なんだ」
「ヴィクトルはぼくに甘いからそういうことを言うんだよ。本当はそんなことないんだ。ヴィクトルは集中すべきなんだ」
「だからどうして勇利がきめてるんだ!」
 ヴィクトルはあきれたように眉を上げ、両手を持ち上げて溜息をついた。
「おまえは本当に、一度言いだしたら聞かないな」
「そうだよ。わかってるならもう言わないで」
「でも勇利、コーチがいないと不安定になるじゃないか」
 ヴィクトルがずけずけと言ってのけた。勇利は慌て、急いでかぶりを振った。
「い、いつかのロシア大会のことなら、あれは突然のことだったからで、どんなときでもあんなふうになるっていうわけじゃないよ」
「本当かな」
 ヴィクトルが疑わしそうに勇利を見た。
「本当だよ!」
 勇利はむきになった。
「今回のことは前からこころぎめしてたし、ぼくも覚悟はできてる。大丈夫だよ!」
「試合においてコーチというのは重要だよ。技術面もそうだけど、おもに精神的なことでね。味方がいるという絶対的な安心感があるのと、ひとりで過ごさなければならないという孤独な状態とではまったく心構えがちがう」
「平気だってば!」
 勇利は力強く言った。
「ぼくはいままでヴィクトルとしてきたことを信じてるし、ヴィクトルが教えてくれたことは確かにぼくの中にある。それをすべて出しきって、勝つことしか考えてないんだ」
 勇利は腰に両手を当て、身をかがめてぐいとヴィクトルに顔を近づけた。
「そう、ヴィクトル・ニキフォロフにね!」
 ヴィクトルが瞬いて勇利をみつめた。
「ぼくはコーチとつくり上げたスケートで、完璧なヴィクトル・ニキフォロフに勝ちたいんだ。勝てると思ってる。ぼくのコーチの手腕は絶対だよ」
「…………」
「だから……、うん……、大丈夫……。ぼくはヴィクトルに勝つんだ……あこがれのヴィクトルに……もし勝ったら……」
 勇利は両手の指を組み合わせ、胸のあたりでぎゅっと握って、うっとりとつぶやいた。
「……ぼくのこと、きちんとしたスケーターだって認めてくれるかな?」
 ヴィクトルはやれやれと溜息をつき、かぶりを振りながら言った。
「いまだってじゅうぶん認めてると思うけどね……」
「そんなことないよ! ヴィクトルはぼくのことなんて知らないから」
「知らないわけないだろ」
「眼中にないんだよ……無名のスケーターだって思ってる……名前もおぼえてない……」
「勇利の認識は理解できない」
 ヴィクトルはあきれきった口ぶりで言い、片目をすがめて勇利を眺めた。勇利は「ヴィクトルに勝つんだ……今度こそ……同じ氷の上に立って……」と頬を紅潮させた。
「こういう状態の勇利には、何を言っても無駄だからな……」
 ヴィクトルが肩をすくめた。
「なんといっても、頑固だから」
「わかった? ヴィクトル。今回の試合では、とにかくそういうことだから。ぼくのことは気にしないでね」
「それはつまり……」
 ヴィクトルは立ち上がり、勇利に額をくっつけるようにして近づいた。
「俺は完全に選手としてふるまうっていうことだね」
「そうだよ。コーチとしての仕事は考えなくていいんだ。いつもの、完璧な皇帝でいてくれればそれで……」
「勇利に対してもそういうことだね」
「う、うん……?」
 勇利に対してもそういうこと、という意味が勇利にはわからなかった。わからなかったけれど、ヴィクトルが選手としての自分を自覚しているならそのほかのことはあまり気にならなかったので、彼は大きくうなずいた。
「そうだよ! とにかくぼくは完全な選手としてのヴィクトルと戦いたいから!」
「わかったよ」
 ヴィクトルは口元を上げた。
「勇利がそう言うなら。仕方がないな……」
「本当?」
 勇利はうれしくなってヴィクトルに向かい手を差し伸べた。
「ありがとうヴィクトル! ぼく、ヴィクトル・ニキフォロフに勝つために一生懸命がんばるよ!」
 彼はそのままヴィクトルに抱きつこうとして、はっと我に返った。いけないいけない。コーチとしてふるまわなくてよいと言ったそばから、自分がヴィクトルコーチに抱きつこうとしているではないか。なんという自覚のなさ。こんなことでは……、だめだめ……。
 勇利はあきらかに不自然なしぐさで腕を引き、咳払いをしてとりすました。
「で、では、帰っていただけますか? ぼくたち、お互いのことよく知らないのですし、試合で戦う相手と仲よくおしゃべりなんてできませんから」
 勇利のとりつくろった態度にヴィクトルは可笑しそうな顔をしたけれど、何もからかうようなことは言わなかった。彼は笑いをかみころしながら、「きみの気持ちを考えて、では失礼しようかな」とうなずいた。
「じゃあ勇利、またね」
「『また』ってなんですか? 試合が終わるまで貴方とはお話もできません」
「そうかな」
「そうです」
「そうかな」
 ヴィクトルはくすくす笑いつつ歩きだした。勇利は扉のところに立ち、彼を見送って、ひろい背中を横目でちらと見た。完全に扉が閉まると、勇利は急に興奮して両手をこぶしにした。
「がんばるぞ!」
 どこからか、噴き出す声が聞こえた。



 コーチはそばにいなかったけれど、公式練習ではよい時間を過ごせた。焦りや不安はなかったし、自分のすべきこともわきまえていた。コーチと話しあったことや注意されたこと、試合前に気をつけるべきことなど、ひとつひとつの助言を思い出してそのとおりにすると、驚くほど落ち着いた、心静かな気持ちになった。
 大丈夫。ちゃんとできてる。考えこまないこと。自信を持つ。ヴィクトルはぼくならできるって言ってくれた。ぼくもそう思う。できる。できる……。
 勇利は時間いっぱいまでリンクにいた。そうしないと落ち着かないからだ。練習を終え、身支度を整えていると、さきにリンクから出ていたヴィクトルが通りすぎていった。ホテルへ戻るのかな、と勇利はさりげなく目で追った。戦う相手なので、彼を見ていると闘志が湧いてくる。しかし同時に、やはりヴィクトルはあこがれてあこがれてあこがれ抜いている、勇利が夢中な選手だった。
 ……かっこいい……。
 勇利は頬を上気させ、そっと吐息をついた。すごくかっこいい。すてき……。勝ちたい。勝つぞ! 勝って……ヴィクトルに認めてもらって……スケーターとして……そう……。
「きみ」
 勇利が静かに決心をしていると、横合いから声をかけられた。ヴィクトルのことで勇利は頭がいっぱいだった。勝ちたい……金メダルが欲しい……ヴィクトルが出ている試合で!
「きみ」
 そのあとは──ヴィクトルと──ヴィクトルと──もしかしたら仲よく──。
「勇利!」
「はい!」
 勇利は飛び上がって返事をした。彼が思いにふけっているあいだに、ヴィクトルはすぐ目の前までやってきており、勇利の瞳をのぞきこんで顔を近づけていた。
「いい練習はできたかい?」
「え、あ、あの……」
 勇利の頬はまっかになった。さっきまでかるがると四回転フリップを跳んでいた──勇利はまだまだ成功率が低い──崇高で皇帝然としたヴィクトルがそこにいるのだ。勇利はうろたえきってしまった。
「は、はい……」
「そう、それはよかった」
 ヴィクトルはにっこり笑った。勇利はぽーっとなった。ヴィクトルに話しかけられた……すごい……。勇利は完全に舞い上がっていたが、興奮するあまり逃げ出したくもなった。しかしどうにかこらえた。いまの勇利は、コーチのおかげで、結果を出せるきちんとしたスケーターになっているのだ。堂々としていなければならない。もちろんまだヴィクトル・ニキフォロフと同じ表彰台に立ったことはないけれど──そうなれるところまできているのだ。コーチがそんな勇利にしてくれた。みっともないふるまいだけはすまい。
「あ、あの、ヴィクトルは……」
 勇利はふるえる声で尋ね返した。そのたったひとことに、どれだけの勇気をふるったか知れない。
「俺かい?」
 ヴィクトルは眉を上げて片目を閉じた。
「俺ももちろんいい時間だったさ。なにしろ、同じリンクにかわいい男の子がいたからね!」
 勇利はぼうっとしながらヴィクトルの後ろ姿を見送った。ヴィクトルはクリストフと一緒に歩きながら、何か笑い声をたてていた。
「いきなり口説き始めるのやめなよ」
「俺は愛情表現ははっきりするたちなんだ」
「何しに来たわけ?」
「まだ試合は始まってないからね。俺には必要な時間なんだ。なにしろ俺はとんでもないことを言われたんだから……」
 話し声が遠ざかり、勇利はよくわからないまま突っ立っていた。かわいい男の子って誰だろう……ヴィクトルは誰かを口説いたのかな……ヤコフコーチと話してるところしか見なかったけど……。
「勇利、なにぼーっとしてるの? 帰ろうよ」
 ピチットが勇利の肩をぽんと叩いた。勇利はぱっと振り返り、ピチットの腕をつかんでぐらぐらと揺すぶった。
「ピチットくん、聞いて! ヴィクトルに話しかけられた!」
「え?」
「ヴィクトルに話しかけられたんだよ! ぼくが! すごい!」
「勇利……、なに言ってるの?」
 ピチットは理解不能という顔つきだった。勇利はにこにこしながらホテルへ戻った。部屋でシャワーを浴び、ヴィクトル、かっこよかったな、すてきだったな、あのひとと同じ氷の上で戦えるんだ、と興奮を新たにした。勝つぞ。金メダルが欲しい! 大丈夫! だってぼくのコーチはヴィクトルだから!
 静かにこぶしを握って気持ちを高ぶらせていると、携帯電話が音をたてた。メッセージが入ったらしい。
『勇利、部屋にいるかい?』
 ヴィクトルからだった。勇利はむっとした。話しかけないでって言ってるじゃん! ヴィクトルにはヴィクトルの時間を持って欲しいって! 自分に集中して欲しいって! 生徒のことなんか気にかけなくていいんだよ!
 勇利は返事をしないことにして、会ったらひとこと言ってやらなきゃ、とぶつぶつ言った。もう、ヴィクトルはぜんぜん人の話を聞いてなくて困る。どうしてなの? まったく……。
 そのとき、部屋の呼び鈴が鳴った。勇利は不機嫌な足取りで扉に近づき、いきなり開け放った。ヴィクトルが立っていた。勇利は驚き、反射的に文句を言おうとした。
「ちょっとヴィクトル! 言ったでしょ! ぼくのことは……」
「きみ、時間はあるかい?」
 ヴィクトルが落ち着き払って尋ねた。勇利はぱちりと瞬いた。ヴィクトルは、選手ならホテルで過ごすとき誰もがしているような砕けたジャージ姿で、いかにも練習を終えてシャワーを浴びたばかりというかっこうだった。勇利はどきっとした。
「じ、じかん……」
 混乱してぼんやりと言ったら、ヴィクトルはほほえんで大きくうなずいた。
「そう、時間だ」
「じ、時間……時間は……」
「夕食を食べに行かないか」
 ヴィクトルは洗練された口ぶりで誘った。勇利はまっかになった。
「えっ、あの……ど、どうして……」
「どうしてって、きみと行きたいからさ」
「ぼくと……?」
「きみと」
「よ、よくわからないんですけど……」
 勇利は無意識に口元に手を当てたり、髪を払ったりしながらもじもじした。
「ぼくたち、そんなに親しくないし……」
「親しくない」
「話したこともほとんどないのに……」
「話したことがほとんどない」
 ヴィクトルは一瞬、笑いだしそうな表情をした。しかしすぐに納得したように二、三度うなずき、口元を引き締めて優しく言った。
「話したことがあまりないからこそ、この機会にぜひ親密になりたいと思ったんだけど」
「えっ、し、しんみつ……」
「だってきみのスケートってすてきだ」
 ヴィクトルは透きとおった青い目で勇利をじっとみつめた。勇利はくらっとした。ヴィクトルが、ぼくを……ぼくを見てる……これって現実?
「いやかい?」
 勇利はうろたえた。彼はしどろもどろになった。
「い、いやだなんてそんな、あの、あのあのあの……」
「じゃあ行こう」
「あっ、待ってください、ぼくこんなかっこう……」
「ジャージじゃないか。普通だよ」
 ヴィクトルが、おかしなことを言うというように笑った。勇利は自分でも何を言っているのかよくわからなかった。
「さあおいで。残念ながら外へ行くことはできないけど、このホテルのレストランはなかなかいいよ。行ったことはあるかい?」
「あ、ありません……」
 勇利はヴィクトルについていきながら、自分は現実にいなくて、どこか別の世界、別の次元へ迷いこんでしまったのではないかとあやぶんだ。ヴィクトルがいる。本当にいる。勇利に話しかけている。笑いかけている。大勢に向かってなんとなくしゃべっているのではない。勇利を勇利と認識して、勇利に対して行動をしているのだ。
「すこし混んでるね。でも、窓際が空いてるな。もっとも、窓際じゃなくてもいいが。きみを見るのに夢中で景色なんて見ている時間はないから。ああ、でもきみは夜景が好きかな?」
 レストランで席についても、勇利は夜景を眺めるどころではなかった。彼はずっとヴィクトルを見ていた。ヴィクトルをじっと見ていた。そのくせ、ヴィクトルが視線に気がついてほほえみ、目が合うと、さっとうつむいてしまうのだ。
「さあ、なんでも好きなものを頼んで。美味しいものをたくさん食べよう」
「ぼくはあの、試合前だし、そもそも普段からあまり脂肪食は食べないので、べつに、その、なんでも……なんでも……」
 ヴィクトルが妙な顔をした。勇利ははっとした。日本語で話してしまった。
「す、すみません!」
 勇利は慌てて英語で謝った。頭がちっとも働かない。えっと……英語は……どうやって話すんだったかな? 文法の組み立ては……。
「大丈夫です。ちゃんと……ぼくは……英語を話せるんです。ええ……、ご存じないと思いますが……」
「ご存じない」
 ヴィクトルがつぶやき、可笑しそうに笑いをかみころした。勇利は慌てた。やっぱりすこし変だったかな? また日本語だった? 英語で話したと思ったけど。
「そう、英語が得意なんだね」
 ヴィクトルはまぶたをほそめて勇利をみつめた。勇利は急いで目を伏せた。
「得意というほどでは……、いまも、なんだか……、自分でも何を言っているのかわからないし……」
「そんなことはない。綺麗でなめらかな英語だよ。俺はちょっと癖があるだろう? 表現も単調になりがちなんだ。単純な言いまわしばかりで変化に乏しいんだね。それに引き比べて、きみはデトロイトにいたから、さすがにその土地の人みたいな話し方をたくさん知ってるね」
「ど、どうして」
 勇利は驚いて瞬いた。ヴィクトルがほほえみ、「何が?」と尋ねた。
「どうして……、ぼくがデトロイトにいたと知ってるんですか……?」
「…………」
 ヴィクトルはぱっと横を向いて口元をふるわせた。どうしたのだろうと勇利はふしぎだった。まるで笑いをこらえているかのような表情だ。勇利が瞬いていると、ヴィクトルは視線を戻した。
「それは、有名な話だからね。べつに隠してないだろう?」
「でも、そんなこと……」
 調べないとわからないのでは……、ヴィクトルはぼくに興味なんてないだろうし……。勇利はそう言いさして、興味もないのにどうしてぼくを食事に誘ったんだろうといまさらながらに考えた。えっと……、スケートがすてきだと言われたような気がするけど……、あれはきっと幻聴だろうし……妄想だろうし……。
「本人からも聞いたからね」
「え? 本人?」
「いや、こっちの話さ」
 ヴィクトルは楽しそうに目をほそめ、給仕人を呼んだ。勇利は慌てた。豪華な食事を注文されては大変だ。しかしヴィクトルは、勇利がこういうときいかにも口にしそうな、ひかえめで栄養をよく考えているものを頼んだ。勇利はぽかんとした。
「合ってたかな?」
「は……、はい……」
 勇利はぼうっとしてうなずいた。
「合っています……」
「そうか。それはよかった」
「どうしてわかるんですか……?」
 勇利のぼんやりした質問に、水を飲もうとしていたヴィクトルは思わずといったように噎せた。
「だ、大丈夫ですか?」
「いや……、何度そういう態度を取られても、慣れないものだね」
「え……?」
「こっちの話さ」
 ヴィクトルはにこっと笑った。勇利はあいまいにうなずいた。
 食事のあいだじゅう、勇利は緊張していた。食べ物の味もわからない──喉も通らないくらいだったけれど、ヴィクトルに見蕩れていると無意識のうちに食べてしまうのだった。口をもぐもぐと動かしながら、そっとヴィクトルをうかがうと、目が合って、彼がまたにこっとした。勇利は赤くなってさっとおもてを伏せた。ヴィクトルがくすくす笑った。
「思い出すな。最初のころのことを」
「最初のころのこと?」
「こっちの話さ……」
 勇利は口も利けなかったが、ヴィクトルは愉快な話題を提供し、勇利からもたくみに話を引き出した。勇利は彼の質問にぽつぽつと答えながら、ヴィクトルは話すのもじょうずで洗練されている、とまたぽーっとなった。
「試合、楽しみだね」
 食後のお茶を飲んでいるとき、ヴィクトルが優雅にカップを持ち上げて言った。
「ぼくは緊張しています」
「緊張したらおなかがすくんだったね」
「どうして知っているんですか?」
 ヴィクトルが笑った。勇利はやはり、なぜ彼が笑うのかわからなかった。
「早くきみのうつくしいスケートが見たいよ」
 ヴィクトルは勇利をじっとみつめた。期待のこもった目だった。──気のせいだろうか?
「俺はね……、きみとスケートをするためにこの世界へ戻ってきたんだよ……」
「えっ!」
 勇利は心底からびっくりして顔を上げた。
「……うそでしょう?」
 彼はヴィクトルにおもてをわずかに近づけてささやいた。ヴィクトルはにこっと笑った。
「本当さ」
「うそ」
「なぜ疑う? 俺はきみとスケートがしたいんだ」
「信じられません」
「どうしてそんなこと言う?」
「だって……、ヴィクトルは、ぼくの……ぼくのあこがれのひとで……ぼくは……ぼくはヴィクトルに……あこがれて……あこがれて……あこがれて……」
 勇利はまっかになって両手で口元を覆った。ヴィクトルは楽しそうに笑った。
「この試合の表彰台では……、俺の隣にきみに立ってもらいたいね。もちろん俺がいちばん高いところだ」
 ぽーっとなっていた勇利は我に返り、むっとして口をとがらせた。
「ぼくだって、いちばん高いところに行きたいです」
「でもそこに立てるのはひとりだけだからね。それは俺だと思わないか?」
「そ、それは……」
「俺にあこがれてるんだろう? 金メダルを獲ってもらいたいとは思わない?」
「お、おも……」
 勇利は困ってしまった。ヴィクトルに金メダルを獲ってもらいたい。だけれど、勇利だってそれが欲しかった。どうしても欲しかった。
「思いますけど!」
「そうだろう?」
「でも……、でもぼくだって、負けません。だってぼく……、ぼくのコーチはすごいんですから」
「そうなのかい?」
「そうです!」
 勇利は力強く、大きくうなずいた。
「ものすごくかっこよくて……優しいし……ぼくがジャンプ跳んでって言ったら何回でも跳んでくれるし……一緒にいて楽しいし……安心するし……頼りになるし……」
「なるほど」
「教え方はへただけど……」
「へた!?」
「はい……、でもあの……それもコーチらしいっていうか……宇宙語でしゃべるから……わからないけど……わからなくてもわかるっていうか……」
「きみもずいぶんな異星人だからね」
「え?」
「いや。それで?」
「それで、それで、あの……ぼくを……」
 勇利はかーっと赤くなって頬に手を当て、うつむいた。
「ぼくをその……信じて……信じてくれてて……ぼくが勝つっていつでも……いつでも信じてくれてるから……!」
 勇利はぽっぽっと頬を紅潮させ、ひたすらに照れた。ヴィクトルはおもしろそうに勇利を眺め、くすくす笑ってから、得意顔でうなずいた。
「へえ、きみのコーチはそういう感じなんだね」
「そ、そうです。そんなコーチに教えてもらったんだから、ぼくだってちゃんとしてます」
「でもそんなに信じてるきみのコーチは、公式練習のときそばにいなかったみたいだよ。悪いコーチだね?」
 からかうようなヴィクトルの口ぶりに、勇利はかっとなった。彼はむきになって言い返した。
「それはぼくがそばにいなくていいって言ったからです!」
「そうなのかい? だけど、生徒がそう言ったからって本当にそばにいないなんて……」
「ぼくは頑固なんです!」
 勇利はますます本気になった。
「よくコーチに言われるんです! 勇利みたいに言うことを聞かない子はいないよって! だからぼくのせいなんです! コーチはぼくの気持ちを考えてくれるすてきなひとなんです! 彼のこと悪く言わないで!」
 ヴィクトルは目をまるくして話を聞いていたが、勇利が口を閉じてぐっとくちびるをとがらせると、盛大に噴き出し、うつむいて肩を揺らした。勇利はびっくりした。笑われるようなこと言ったかな……。
「か、かわいい……」
「え?」
「いや……、こっちのことさ」
 ヴィクトルはしばらく笑っており、勇利はぱちぱちと瞬いて彼をみつめていた。やがてヴィクトルは顔を上げると、「そう、悪口を言って申し訳なかったね」と楽しそうに謝った。
「いえ、その……、ぼくも大きな声を出してしまって……ごめんなさい。でもとにかく、ぼくはとても偉大でスケートの上手い最高のひとにコーチをしてもらっているので、貴方にだって負けるわけにはいかないんです」
「そうか」
 ヴィクトルはうれしそうに幾度もうなずき、それから勇利の瞳をのぞきこんだ。熱烈な目にじっと見られた勇利は、赤くなってどぎまぎした。
「な、なんでしょう……?」
「俺にあこがれてると言ったね」
「え? ええ……」
 勇利はどきどきする胸をそっと押さえた。
「でもずいぶん、コーチのことも好きみたいだね?」
「大好きです」
 勇利はきっぱりと言い、子どものように真剣にこくっとうなずいた。ヴィクトルが声を上げて笑った。彼は勇利に顔を近づけてささやいた。
「俺とどっちが?」
「え!? えと……、あの、そのぉ……」




 六分間練習のおり、勇利の胸には決意がみなぎっていた。すべての力をもってこの試合にのぞむぞという気持ちだった。指先はつめたく、しかし頬は熱く、胸がどきどきしていた。よくないことに、勇利はグループの一番滑走だった。
『一番滑走? いいね。だって、練習した直後にすべることができるんだよ。最高じゃないか?』
 勇利は以前に言われた言葉を思い出し、自分を落ち着かせようとした。しかし同時に、そりゃあ貴方は何番滑走でも平気だろうけどね、という思いが湧き上がった。ぼくはちがうんです! 一番は苦手なの!
 勇利は不安になり、彼のあのときのような明るい笑顔を見たくて、無意識のうちにリンクサイドを探した。けれどそこに勇利の望むコーチの姿はなく、彼はますます不安になった。
 大丈夫。ぼくは偉大なスケーターの生徒なんだ。彼が誇りに思うようなスケートをする。ぼくはできる。だって彼はぼくを信じてくれてるもの……。
 動悸がして呼吸がみだれた。視界がぐらぐら揺れそうだった。勇利はふらつきつつフェンスから離れようとした。そのときだった。
「きみ!」
 練習を終えてリンクから上がったヴィクトルが、ジャージに腕を通しながらやってきた。彼は瞳をきらきらさせながら言った。
「この試合で俺が金メダルを獲ったら、結婚してくれるかい?」
「え!?」
 勇利はびっくりして口をひらいた。あぜんとした。このひとは何を言ってるんだ!?
「出会ったばかりでそんなことを言うのは感心しません!」
 勇利は叫んだ。
「それにぼく、コーチと結婚の約束をしていますので!」
 ヴィクトルは噴き出し、楽しそうに大笑いした。勇利は憤慨しながらスタートポジションへ向かった。
 もう、本当に全部出しきってやるんだから。あんなことを言ってからかうなんて、ぼくをスケーターとして甘く見てる証拠だ。ちゃんとできるんだって証明してやる! ぼくの中にはヴィクトルがいるんだから……ぼくとヴィクトルのスケート……そう……もしちゃんとしたスケーターだってわかってもらえたら……。
 ヴィクトルと仲よくなれるかな?



「だから、練習のときも滑走前も来てくれないコーチなんてだめなんだよ」
 ヴィクトル・ニキフォロフは胸に金メダルを輝かせ、表彰台のいちばん上から勇利を見て笑顔で言った。
「彼のことを悪く言わないでください」
 勇利はつんとしておとがいを上げた。
「俺だったらそんなことはしないなあ……。ほら、今回だって、ショートもフリーも、きみのそばにいたのは俺だしね」
「ぼくが来なくていいと言ったんです」
「きみ、本当にコーチと結婚するの?」
 勇利は赤くなってうつむいた。
「こ、この試合は……金メダルではなかったので……」
「金メダル獲ったら結婚するのかい?」
「ほうっておいてください」
「俺にしといたほうがいいんじゃないかな」
「からかわないでください!」
 言いあっている勇利とヴィクトルを見、勇利の反対側にいたクリストフがわけがわからないという顔をした。
「君たち、なんの話をしてるの?」
 勇利が何か言うより早く、ヴィクトルがにやっと笑って答えた。
「おかしいだろう? これが勇利の変わってるところさ」
「ぼくは普通です」



 部屋でぐったりとベッドにつっぷしていると呼び鈴が鳴った。勇利はふらふらと立ち上がり、扉を開けて首をもたげた。スーツ姿のヴィクトルが立っていた。
「あ……」
 勇利の目に涙があふれた。ヴィクトルだ。ヴィクトル。ヴィクトル……。
「うわーんヴィクトル、負けちゃった!」
 勇利はヴィクトルに抱きつき、彼の胸で思いきり泣いた。ヴィクトルは笑いながら入ってきて、「よしよし」と勇利の髪を撫でた。
「わかってるよ、勇利。全部わかってる。おまえはいい子だ」
「すべてを出しきったんだけど……そうできたと思ったんだけど……」
「そう、勇利に何も悪いところはなかったさ。今回はただ、相手のほうが上まわっていたというだけだ」
「つ、強かった……」
「そうだね。勇利にはミスとも言えないちいさなほころびがあったけれど、相手にはそれがなかった。それだけのことだ」
「悔しいよぅ!」
 勇利は泣きじゃくりながら叫んだ。
「負けたことが?」
「ミスとも言えないちいさなほころびを出しちゃったことが! ぼくに力がないからなんだ……」
「そんなことはない。よかったよ。コーチとして俺は鼻が高いよ。ほら、泣かないで……」
「ヴィクトル……ぼくヴィクトルに……ヴィクトルに金メダルをかけたくて……」
「うん、そうだね」
「ぼくは……ぼくはヴィクトルに……」
 勇利はヴィクトルに思いきりしがみついた。ヴィクトルは勇利を甘やかし、黒髪に優しくキスした。勇利がくすんと鼻を鳴らしながらもすこし立ち直ってくると、ヴィクトルはベッドに座るよううながし、みずからも隣に腰を下ろした。
「どうしてヴィクトル・ニキフォロフはあんなに強いんだろう……」
「それは、同じ氷の上にかわいい男の子がいたからじゃないか?」
「強くてうれしいけど……」
「勇利のあこがれの相手だからね」
「そう……」
 勇利はこくこくうなずき、涙に濡れたきらきらひかるチョコレート色の瞳でヴィクトルをみつめた。
「ヴィクトル、すごくかっこよかったんだよ。ぼく、見蕩れちゃった……。ジャンプはすべて完璧で、入り方も降りたあともものすごく複雑な動きをしてるんだよ。見た? すごいよね。それに、それに、スピンのポジションは全部うつくしくて、あと、あと……」
「勇利のポジションのほうがうつくしいよ」
 ヴィクトルはくすっと笑って言った。
「だいたい……、確かにヴィクトル・ニキフォロフはスケートは上手いけど、勇利にやたらと近づいてたじゃないか。信用ならないな。誘惑なんてされてないだろうね」
 勇利はむっとして口をとがらせた。
「あれはちょっとからかわれただけだよ」
「そうかな」
 ヴィクトルは、彼こそからかうように口元を上げてにやっと笑った。
「彼は本気なんじゃないか? 勇利、気をつけたほうがいい。彼はおまえを気に入ってる。きっと手が早いよ」
「ヴィクトルはそんなことしない。彼のこと悪く言わないでよ」
 勇利の抗議にヴィクトルは噴き出し、いつまでも楽しそうに笑っていた。勇利はきょとんとした。笑われるようなこと言ったかな?
 ヴィクトルはようやく笑いをおさめると、ひとつうなずいて謝った。
「わかった。悪かった。俺はやきもちを焼いたのかもしれないね……」
「やきもち?」
「勇利……」
 ヴィクトルは勇利を熱心にみつめ、耳元で優しくささやいた。
「俺がいなくてさびしかったかい?」
「…………」
 そのはかりしれない熱っぽい瞳、きわだって甘い声に、勇利はぽーっとなってしまった。
「そ、それはあの……」
 勇利はわけがわからなくなり、まっかな顔でこくんとうなずいた。
「う、うん……」
「そうか」
 ヴィクトルはうれしそうに勇利を抱きしめ、髪とまぶたにキスしてから、にっこり笑って尋ねた。
「それで、おまえはどっちと結婚するつもりなんだ?」

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More than anything, Yuuri wants to impress his cosplay role model Viktor Nikiforov. But after a horrible start to a convention weekend, he panics and backs out at the last second to meet his idol. Normally this would be fine, except Yuuri discovers too late that there’s a little Viktor related secret inside the con vlog his best friend filmed over the course of the weekend for him…

It’s fine, he thinks. Embarrassing, but not the end of the world. And it’s not like Viktor himself will ever see the con vlog, so why worry?

(Except then Viktor does see it.)

Welcome to “you’re the closest to heaven that I’ll ever be,” the YOI Cosplay AU! There will only be this cover art for the fic, so if you want updates follow either my twitter or subscribe on the AO3 page for the fic~!

rosereleasestheart
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Unsteady i-iii - digital - 02/20

For the last couple of months, I’ve created a series of illustrations of Victuuri, inspired by this beautiful dance music video of Unsteady by X Ambassadors. It’s such a beautiful piece of music and such an incredibly intense and touching choreography, I just had to explore it in depth. It’s been a lot of fun, and very educational. The whole series consists of 9 illustrations, these are the first three.

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