Tumgik
35q · 1 year
Text
20230412 本日亡くなった
20230329
 投稿を見返すと2年前の年初だった。夜勤の送迎のために運転してくれていた父親が、会話の途中に「今年のイルミネーションは綺麗だな。」と呟いた時の衝撃を今でも思い出せる。その時はどのように応答したか忘れてしまったが、いま私が見ている世界はこんなにも綺麗だと思い知らせてやりたいのだ。昨日今日は就職に係る手続きのために南下して、桜並木はいつ綻ぶか分からないほど色付いていた。信濃川を染め上げる朝陽が生を実感させるから、流麗な心音が全身に響いた。反射して瞳に飛び込む煌めきのすべてが、私を鼓舞しているのだと感じた。観桜も心嬉しいものだよ。感性をぶつけたいその瞼は、もう世界を映すことは無いのだろう。3月の初め、私の誕生日を越えて直ぐに父親が倒れた。脳卒中だった。職業柄の悪しき生活スタイルと過労が祟って、糖尿病と高血圧を抱えていた。以前に一度搬送されたことがあった。医師から「次は無いと思いなさい。」と通告されたと聞いた。終に今日まで一度も意識が戻ることはなかった。数日前に母が電話を取った。「家族で集まって来てください。」この列車が止まったら、直ぐに大学病院に向かうことになっている。厄災を引き摺る医療現場は親族であれど大人数での面会は難しいようで、医師の言葉の意味を全員が理解した。良い父親だった。心の奥底から出る言葉だ。良い父親だった。父親としての役割をこなして、そう、自分の理論や感情を語らない人だった。対立を避け、自ら悪者になるような人だった。父親と奥深い会話をした記憶がない。ライフステージごとにどのような過去があったのか、どのような困難にぶつかり乗り越えてきたのか、気付けば職場の名前すら知らなかった。それでも、そのような態度こそが現在の私の性格に多分に影響を与えていて、私は自身の性格を好きだから美化して繕う。印象深く残っている記憶は、[削除]ああ、愉快な記憶を掘り起こしていたら、次の次にこの列車は止まり現実と対峙しなければならない。夕刻の車内は十分に席を埋めているのに、ぽろぽろと静かに涙を流していた。今から会いに行きますね、もう少しだけ、あともう少しだけ心臓を動かしていてください。最期なのだと覚悟を決めて降車しますから、待っていてください。
38 notes · View notes
35q · 1 year
Text
20230329
 投稿を見返すと2年前の年初だった。夜勤の送迎のために運転してくれていた父親が、会話の途中に「今年のイルミネーションは綺麗だな。」と呟いた時の衝撃を今でも思い出せる。その時はどのように応答したか忘れてしまったが、いま私が見ている世界はこんなにも綺麗だと思い知らせてやりたいのだ。昨日今日は就職に係る手続きのために南下して、桜並木はいつ綻ぶか分からないほど色付いていた。信濃川を染め上げる朝陽が生を実感させるから、流麗な心音が全身に響いた。反射して瞳に飛び込む煌めきのすべてが、私を鼓舞しているのだと感じた。観桜も心嬉しいものだよ。感性をぶつけたいその瞼は、もう世界を映すことは無いのだろう。3月の初め、私の誕生日を越えて直ぐに父親が倒れた。脳卒中だった。職業柄の悪しき生活スタイルと過労が祟って、糖尿病と高血圧を抱えていた。以前に一度搬送されたことがあった。医師から「次は無いと思いなさい。」と通告されたと聞いた。終に今日まで一度も意識が戻ることはなかった。数日前に母が電話を取った。「家族で集まって来てください。」この列車が止まったら、直ぐに大学病院に向かうことになっている。厄災を引き摺る医療現場は親族であれど大人数での面会は難しいようで、医師の言葉の意味を全員が理解した。良い父親だった。心の奥底から出る言葉だ。良い父親だった。父親としての役割をこなして、そう、自分の理論や感情を語らない人だった。対立を避け、自ら悪者になるような人だった。父親と奥深い会話をした記憶がない。ライフステージごとにどのような過去があったのか、どのような困難にぶつかり乗り越えてきたのか、気付けば職場の名前すら知らなかった。それでも、そのような態度こそが現在の私の性格に多分に影響を与えていて、私は自身の性格を好きだから美化して繕う。印象深く残っている記憶は、[削除]ああ、愉快な記憶を掘り起こしていたら、次の次にこの列車は止まり現実と対峙しなければならない。夕刻の車内は十分に席を埋めているのに、ぽろぽろと静かに涙を流していた。今から会いに行きますね、もう少しだけ、あともう少しだけ心臓を動かしていてください。最期なのだと覚悟を決めて降車しますから、待っていてください。
38 notes · View notes
35q · 1 year
Text
20210106
桜が満開に咲いていた最中、幼少の頃のわたしが父に「お花見に行きたい。」と願うと「花見の楽しさが分からない。桜なんて綺麗では無いじゃないか。」と一蹴された。わたしの「綺麗」の概念はその時点で瓦解したような思いがある。寡黙な父はそれ以上、桜の話はしなかった。綺麗なものとは何を指すのだろうと、幼少のわたしは悩んだ。公園で吹く、風に揺られたシャボン玉。河原で見つけた円い石。凪いだ空気に浮かんだ満天の星空。ホテルの玄関のてらてらと反射した大理石。嫋やかな指で弾かれたビー玉がぶつかった様子。徹夜して眼を擦りながらカーテンを開いた時の朝焼け。溶けたアイスクリームに連なる蟻の行列。無造作に食い散らかされた猫の死骸。死に化粧を施された祖母の、眠ったような優しい顔。ほかには、ほかには、
めっきり寒くなり路雪に脚を取られるようにもなった近頃、車を運転していた父が「今年のイルミネーションは綺麗だな。」と唐突に呟いた。父から「綺麗」という言葉を耳にしたのは記憶を辿るとあれ以来だと気付き、わたしは非常に驚いた。わたしが見慣れて煩わしく思うほどの駅前のツリーは、父にとっては言葉にするほど綺麗に映ったらしい。見慣れることが直接に感受性に影響を与える訳ではないことを承知しても、わたしも何時か綺麗だと魅入っているものを綺麗だと感じられなくなってしまうのだろうか。 父は人混みが嫌いなので、花見の喧騒を避けるための言い訳だったのかもしれない。桜という特定の植物が嫌いなだけかもしれない。しかし父が桜花を綺麗だと思わない、ということを度々思い出す。恋は3年で冷める、愛は4年で終わるという言説を「綺麗」という言葉にぶつけて考える。
27 notes · View notes
35q · 1 year
Text
20230325
 研究室の同期たちの卒業式当日の写真がアルバムに載せられていたので眺めていたら、行かない選択をしたことは間違っていなかったと本心から思えた。私には相応しくない。嫉妬でも羨望でもなく、心からの気持ちだ。あなたの感情なんてもう理解したくないけれど、最後に愛想笑いすることになるのは私のほうだっただろう。思い返せば敵意を剥き出しにして尖っていた1年次、精神を患い被害妄想に襲われていた2年次、向精神薬で狂っていた3年次、投薬のおかげで性格が柔らかくなり自己も他者も許せるようになった4年次。途中2年ほどの記憶は強力な睡眠薬を飲んでいたせいでぽっかり空白になっていて、それでも今は精神状態が穏和になり前を向けるようになったことが嬉しい。先日、同期の中でずっと親しくしてくれた友人と会い、近況報告から在学4年間の回顧と将来の展望を語り合った。別れ際に「次はお互い社会人として成長した実感を伴って会おうね。」と言えるようになった自分に驚いた。未来を見詰めて歩みを進めたくて、その契機は私にとって式典への参加や同期との離別ではなかった。前へ前へ、努力して日々を過ごしながら良い歳の重ね方をしていきたい。
 高校卒業と同時期にTumblrを始めた記憶があるから、もう4年になるのだ。月日が流れるのは早いものだと皆が口を揃えて言うが、私にとっては長い4年間だったように感じる。決して多くはない出会いと、それに匹敵するほど悔しい別れがあった。それでも大学を4年間で卒業できたこと、今ここに生きていて、生きようと思えたことがただただ嬉しい。
(公開 ¦ 20230329)
2 notes · View notes
35q · 1 year
Text
20221220
雪が降り始めました。荒れ野原をファンデーションのように染め上げる、雪国の美しい白を存分に享受しているこの頃です。
――――――――――――――――――――――
口下手な塗装屋は一晩のうち 答えと言わんばかりの真白
予報士も称えるだろう カーテンを引けば花弁雪が飛び込む
しんしんと音なく世界を破壊する 雪よ きみにも秘め事のひとつ
雪原は罪過をすべて許すから神隠し遭うように攫って
雪道で指先の色を失くしても轍を縫っていけばすぐだよ
胸中の渦巻く煙が喉を絞め不香の花は幾度も散る
間違いと伝えてほしい 鼓動から漏れる吐息の不確かな白
嗅覚が麻痺するほどの酷寒は滅びが美だと説きつけてくる
首縊りするため選ぶマフラーも機能性より見映えなのかよ
――――――――――――――――――――――
22 notes · View notes
35q · 1 year
Text
20221206
 愛用しているカッターの錆が気になり、どうしても直ぐに使用したいが替え刃が手元にないから困っていると相談したら、「喫煙者ならばライターがあるから火炎殺菌すればいいじゃないか」と答えをもらった。火加減がむずかしく、煤けたように黒ずんでしまった刃を見詰めて、これで腕は切れないか、と自傷の気を削がれた。危うげな天秤がすこしだけ穏和に振れた、その時の感情のままに数日を過ごしている。雪国におり降雪量はまだそれほどでもないが、耳がちぎれんばかりの寒気が街の底から天井まで張り詰めている。大学の帰途で残雪が白猫の死骸に見えて、何処かでも秋暮れまで必死に繋いでいた生命が途切れていることを想像した。「なんだか冬に亡くなることは定められた丁寧な死に思えるね」これは誰が囁いていた言葉だったろう。時を巻き戻すと11月は心身共に最悪と言うべき毎日だった。10月の多忙な日々の疲労に押し負けてしまったのだろうか。かねてから好く作用してくれていた抗鬱剤が叛逆を起こしたように副作用ばかり強まり、霧が晴れず鬱々として過ごしていた。わたしの街は日照時間が日本一短いと言われている。冬季はずうと、やわい心を押しつぶす灰色の雲がかかっていて、白黒の世界は精神にすごぶる悪い。日本海側に住んだ経験がある方は、空が低くて重い感覚がうまく伝わってくれるだろうか。太平洋側の都市まで足を伸ばすと、空が高くて羨ましくなる。洋食屋の待ち時間だったので久しぶりに筆を執り、食後に可愛らしいまるみのプリンと珈琲を楽しんだからそろそろ筆を擱く。常喫はhi-liteのメンソールだが、身体に染み渡る冷気との相性が好きで冬になるとアイスブラストを好んで吸っている。まだしばらく大学に籠らないといけないから、ひとまずはコンビニの角まで。
15 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20221008
 この街は痛すぎる。どこを見渡しても苦しい記憶に襲われて、逃げるように自転車を走らせる夜を、いったい何度重ねただろう。心臓を抉る記憶が蝙蝠のように街中を飛び回っている。数日前に第一志望の企業から内定を頂いた。大学の専攻とは全く関係のない業種だが、適性があると思い志望した。就職活動を一旦終わらせて、大学生活で残すのは残り数日間の実習と卒業論文の執筆だけだと考えれば、卒業という分岐点が見えてくる。入社後の数年間は本社で経験を積む必要があると採用担当の方から告げられ、県外に引越しをする心づもりである。はやく、はやく知らない街に行きたい。記憶が灯らない暗い街に行きたい。誰にも認知されず、目線すら合わない心地の好い場所で過ごしたい。個を認識されることに強い抵抗を覚えるから、何人たりとも交流を持ちたくない。他者によって自身が変容することが、これ以上受け入れられないのだ。世界を壊されたくない拒絶心は、診断が下りている社交不安障害から派生した回避性パーソナリティ障害のひとつの症状と推測するが、根治するつもりはない。孤独のなにが恐ろしいのだろうと疑問を抱くのは、わたしが若すぎるからなのだろうか。このままでいい、わたしの世界をわたし自身で完結させたい。誰もわたしを覚えないでいてほしい。
19 notes · View notes
35q · 2 years
Text
染まるまで
 indigo la End『あの街レコード』収録の「染まるまで」を愛している。―「友達にはなりたくなかった 変わった告白だった 君はその日から彼女になった 案外悪くないな」の歌い出しから、哀愁漂う夕焼けが心象風景の一面に広がってゆく。わたし自身にも印象深い夕景の記憶があって、眼下の街を焼き尽くすかのような夕焼け空を、この曲を聴く度に想起する。追憶に耽ける行為は、なんと甘美な時間であろうか。―「思い出してはポツリと消えて 目を閉じれば浮かび上がる 溢れるくらい何度も思い出す あなたの横顔が夕焼けに染まるまで」夕焼けは、くたびれた会社員や献立を考える主婦らを照らし、市街を茜色に輝かせ、わたしたちを包み込む。隣で佇むあなたの横顔もゆるやかに染まっていくのに、どうしてこんなにも胸が痛むのだろう。意識してしまった隔絶を沈みゆく夕焼けが後押しして、あなたとの関係性に終止符を打てと迫るかのような。―「やっぱりここで待つことにしたよ 君が染まるまで やっぱりここで待つことにしたよ 僕も染まるまで」時間と場所と光景を共有したのだから、同じ感情を抱きたいとの願いは叶わないのだろうか。あなたもわたしも同じ色に染められて、夕焼けの下でひとつになりたいのに。あの日の夕焼けは二度と訪れないけれど、ふたりで眺めた夕焼けを脳裏に浮かべて、いつまでも待っていたい。あなたとわたしが染まるまで。
23 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20220909
 非公開に設定した前回の投稿を読み返すと真夏の匂いが噎せ返るように薫って、大学生最後となる八月があっという間に過ぎ去ったことに初めて気付く。ペットボトルに集った水滴がアスファルトにぽたぽた落ちて蒸発するように、1日1日が儚く溶けてしまった。3日目のワンデイコンタクトを付けっぱなしのまま、カレンダーを九月まで巻いて現実世界に馴染ませ、2週間ぶりの精神科に向かおうとしている。前回の通院で、以前の病院で処方されたことのある、副作用に金縛りと悪夢が報告されている睡眠導入剤が出された。例に洩れず入眠時の金縛りを楽しみつつも、夢見は好く、ひとつの夜に様々な世界を眺めることができていた。喧騒のような睡眠で脳の休息が取れているのか疑問だが、夢世界の満足度を選んで良い薬だと評価している。決して現実が順調に推移しているわけではないのだが、処方薬との関係性に上手く折り合いを付けられるようになった。それなしで生活を送ることができなかった2年前を見詰めようとしても、度数が合わない眼鏡を掛けているようで、ぼやけて焦点が定まらない。かつての大切な記憶さえ忘れてしまったのだろうかと過去を夏に閉じ込めた。
 記憶というものは、一体必要なのだろうか。今のわたしを形づくるものはかつての経験と言えど、思い浮かぶのは大切かどうかまるで分からない記憶ばかりで居心地が悪い。最近は夢と現実が混濁していて、どちらが現か判別のつかないことも多い。流れる雲に身を委ねると、それが本当の自分だったのか不安にもなる。幸いはてなブログやTumblrを見渡すとわたしが記したのであろう記憶の欠片が散らばっているが、ここも本当か疑わしく、装飾して投稿しようと意識しているから真として読むには質が悪い。一切の有為法は夢幻泡影の如くと日々を繰り返し、人生の根幹となる記憶を苦しさから故意に破棄した報いなのだろう。これからの生でまた確かな記憶を積み重ねることができるだろうか。深層心理では心を埋めつくす出来事や衝撃的な出会いを切に熱望しているはずなのだが、地平線の如き空虚な日常に胡座をかいている。鮮明な記憶として残る日々がいつか訪れますよう。今はまだ祈るだけの...
24 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20220809
 好意が不意に霧散して、冷たくどす黒い感情に侵食されていく感覚はなんど体験しても慣れない。絶対の好意などないのに、それを絶対のものであると確信して愛を伝える行為は、その時は確かに本当の愛には違いないのだが、時間の経過とともに嘘になってしまうことも間違いではなくて、好意を言葉にするという行為自体が紛い物なのだ。好きだったよ。あの時のわたしは間違いなく、あなたのことが好きだった。それでも、別れてからお互いが過ごした別々の時間や抱いた感情やその時々の選択は、その場で隣に居ないと共有することは叶わなくて、それら全てが総体となって現在のわたしたちが対峙しているのだから、もう取り返しのつかないことなんだよ。あなたは昔、告白は呪いだとわたしに教えてくれたね。告白することで一生の中の忘れられない出来事のひとつにになるからって。でも今は、忘却こそが呪いだとあなたに教えてあげる。記憶に留まらない一瞬の感情、いつのまにか忘れてしまった声色、思い出そうとしても思い出せない顔の輪郭、付き合っていたその時でさえ分かってあげられなかったという後悔までもあなたはいつか忘れてしまう。どんなに思い出したくても、どんなに忘れたくないと願っても忘れてしまうのだ。忘却は呪いでもあるし、人間が人間であるために壊れないよう搭載された機能だとも言えるけど、それでも絶対に忘却には抗えないの。いちばん始めに、好意が憎悪に変わると気付く瞬間が嫌いだという話をしたね。きっとそれは、好きになった過程とか、あの時に掛けてくれた言葉が嬉しかったなとか、あなたの優しい微笑みに見惚れていたなとか、そういうことが少しずつ忘れていってしまうからなんじゃないかな。そしてわたしたちは、仕方がないとはいえ定期的な記憶と感情の再修復を怠っていたの。さらに言うとね、これはわたしも悪いのだけれど上書きするような新たな好意をつくろうとしなかったの。今回のわたしたちの敗因は忘却を軽んじたことだった。もしこの先あなたが、どこか知らない場所でわたしの知らない誰かと付き合うことになったら、覚えておいて欲しいんだ。忘却は抗いようのないものだと認めながら、大切な記憶は言葉でも写真でもなんでもいいんだけれど形あるものに残しておくか、もっと大切な思い出で上書きすること。それじゃあ、またねじゃないね。さようなら、お元気で。
32 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20220804
 わたしが会話の中でどれだけの言葉を言うまいと口を噤んだか、貴方は想像することもなかったでしょう。わたしが吐いたたったひとつの言葉が、何時までも苦しませて止まないわたしの呪いに変わってしまうことを貴方は知らない。他者から言われた言葉だけではなくて、わたし自身が放つ言葉も同じなのだ。言葉を大切にするという信念は、言葉に畏れを抱くことと同義であり、言葉の持つ力を極限まで信じ抜いているからこそ丁重に扱っているのに、どうしてこうも無下にすることができるのだろうか。
 貴方と会話をしていた最中に、「的確な返答をしてくれるから驚いている。君はきっと本当に頭が良いんだろう。」と言われた。問いを投げ掛けられた時に、どのように返答するかという選択肢が瞬時にいくつも現れて、そこから最適解と考えるものを選び取って返すのが通常の会話の過程だと思っている。おそらくわたしはその場面での選択肢を他者と比較して多く持ち合わせていている。それを選び抜く過程にも、共感的な返答はどれかだとか、逆に相手の人生観を見定めるような、言わば少し困らせる返答はどれかだとかを考えている。
 貴方と会話していて、きっと貴方は想像と選択の幅が少ないのだと思えてしまった。そして、わたしの様々な過程を踏んで放たれたひとつの返答ばかりに一喜一憂しているのだと思えた。選ばれなかった選択肢の数々や、その思考に付随した無数の言葉の集積がわたしの背景にあることなんて、僅かでも想像してくれやしないのだと思えた。
 以前から、わたしの自我の基盤にある価値観、つまりわたしをわたしたらしめる信念が言葉であることは申し上げてきたはずなのに、理解しようと歩み寄るような態度も見せてくれませんでしたね。人間を盲信的に信じることは出来ないし、いつ裏切られるか、裏切られたと自分勝手に捉えてしまうことになるか分からない。言葉は不変でずっとわたしの傍らに居てくれる。わたしの心傷を癒し、わたしを鼓舞してくれる。言葉だけはわたしを裏切ることがないのだという、信仰対象が言葉そのものなのだ。それを蔑ろにされたと感じてしまったから、酷く悲しかった。
18 notes · View notes
35q · 2 years
Text
亡くなったあの子に宛てて
 出会った時のこと、まだ鮮明に思い出せる。2日にわたって遊んで、初日はたくさんわたしのことを褒めてくれたね。2日目は一面が宇宙のような部屋でたくさんの綺麗な景色をみたね。ふたりが好きな音楽をかけながら、差し出したら美味しいと吸ってくれた煙草とか、かっこよく撮ってくれた写真とか、プレゼントだと贈ってくれたお揃いのネックレスとか、全部が素敵な思い出にするね。
 「死んで数ヶ月経ったら大抵の人には忘れられてるくらいの存在何じゃないかなとはおもっている」と2021年の大晦日にツイートしていたけど、そんなことないよ。「死んだらフォロワーが増えるんだよ」って、生きてまたツイートしてよ。仙台のイルミネーションを見に行く約束も、加茂水族館に海月を見に行く約束も、お互いが落ち着いたら秋に再会する約束も、全部守ることができなくてごめんね。スキーが得意って自慢していたから、一緒に滑りたかったな。好意を寄せてくれていてありがとうね。わたしの好意を返す機会が無くなったのがとても悔しい。もっと一緒に色々なところに連れていきたかった。一緒じゃないと意味がないんだよ。 
 生きている者としてずっとずっと覚えています。さようなら、安らかにお眠り下さい。5月31日でした。ご冥福をお祈りします。
23 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20220605
 今日は大切なおんなの子と会った。朝起きて寝惚けながら手袋無しで髪を染めたから手が真っ黒になってしまって、それを隠すように右手の3本に真っ黒のネイルを塗った。改札で待っていると不意に後ろから肩を叩かれて、あなたが来てくれたのだとわかった。出会ってすぐにわたしが決めていた喫茶店へ向かった。丸い机の隣同士に座って、あなたがわたしのネイルを塗り直してくれたのが嬉しかった。穏やかな空間にふたりでいれる、ただそれだけのことが心地好く感じられるのは、素直に心を許しているからなのだろう。あなたがわたしのイヤリングをあどけなく触るので、まだ傷が付いていない両耳にイヤリングを付けてあげた。店内はレトロな雰囲気で、やさしく光るネオンライトや可愛らしいピンクのフラミンゴに囲まれて心が休まる。駅前の中心に位置しているのにも関わらず、窓外の忙しく往来する人間の雑踏や自動車の音は少しも聞こえずに、まるでこの空間は天上とさえ感じられる。階段を登った先に構えているのだが、踏板の端に出迎えるように植物が配置されており、店内にも至る所にも多肉植物らが飾られている。あなたはジェノベーゼのセット、わたしはチーズケーキのセットを注文した。ふたりで分け合いながら食べ進めるのが楽しかった。あなたは煙草を吸わないので、わたしが無邪気に勧めると少し嫌がりながらも甘くて美味しいと言ってくれたのが嬉しかった。煙草の灰の落とし方に慣れていない仕草もかわいらしかった。ご馳走様をして、今度はまた別の喫茶店へと向かった。バスに乗り10分程、最寄りの停留所で降りて少し歩いた先に見えたのはこれもまたレトロな喫茶店だった。年中蔦に囲まれている外観は秋になると紅葉して橙に染まるのだが、初夏の現在は呑み込まれてしまいそうな深緑の怪物のように思えた。店内は明るく落ち着いていて、あなたはアップルパイのセット、わたしはチーズスフレのセットを注文した。あなたは少しずつ「あーん」にも慣れて、わたしが差し出したスフレを綺麗に食べられるようになってかわいらしかった。最近のわたしたちは短歌をつくることが共通の趣味なので、「雫」と題を決めて短歌を詠みあったり、推敲し合ったりした。この喫茶店は禁煙なので、ご馳走様をして、わたしのわがままで喫煙可能な3件目の喫茶店に向かった。先ほどの喫茶店からほど近くにあり、歩いてすぐに目的地を見つけた。この店の珈琲は、そのままでも美味しいしガムシロップを1個入れると更に美味しくて好きなんだ、とわたしが言うと、深く共感してくれたことが嬉しかった。あなたにたくさんの煙草を吸わせてしまって、申し訳ないながらとても嬉しくなった。ここでは、ずっと煙草を吸いながらぼんやりした気持ちでいた。3度目のご馳走様をして、わたしがスターバックス新作のメロンフラペチーノを飲みたいと騒いだので着いてきてくれた。スタバの店内でも「ストロー」を題に短歌を詠みあった。ストローで詠むのは難しかったし、もちろんメロンフラペチーノはとても美味しかった。ここまで書いてきて総摂取カロリーが心配になった。もう4度目のご馳走様をして、駅ナカを歩いていると偶然アクセサリーショップに目が留まった。今日のわたしは両耳にたくさんのピアスやイヤリングで武装していたけど、最近は決まったセットで外出しており新しいものが欲しいと思ったのだ。長考の結果、淑やかな蝶、両面に架かる長短の円錐、三連の銀石の3つを選ぶと、他のデザインを見ている隙にわたしのために買ってきてくれた。店を出てすぐ近くの席に座り、早速わたしの両耳に蝶のイヤリングを付け、似合うと褒めてくれて嬉しかった。お別れまでもう少し時間があり、2人とも満腹だったので軽く食べられそうな居酒屋を探し歩いたが、軒並み満員や休業日で悲しくなった。夜遅くまで営業している喫茶店に入ることにした。4件目の喫茶店では、あなたはチョコバナナミルコル、わたしはパパダイキリ、そしてふたりで分け合うためのチョコチップクッキーとミントミルクのお酒のセットを注文した。ここでは別件が重なってしまったからあなたの目を見て話をすることができずに、お酒が甘かったことだけしかよく覚えていない。閉店時間が以前より早まっていたのを知らずにわたしたち以外のお客様は帰っていて、5度目のご馳走様をしたあとそそくさと退店することになった。あなたが乗る電車まで時間があったから、駅に向かう途中に在る喫煙所に寄って、あなたが隣に居るのにわたしだけがほろよいを飲んで白煙を吐いていた。今日は1日を通して感情が凪いでいて楽しかった。楽しかったけれど、本当に話したかったことがあったような気もする。また落ち着いたら会えたらいいな、でも今日はこれでいいんだっけ、そんな戸惑った気持ちでお別れをした。何を書いているか分からなくなっちゃった。あなたは本心で話をしてくれていましたか?わたしたちこのままで良いの、きっと大学を卒業しても出会うことができる関係で居れそうだから、と言ってくれたことを大切にしまっておきますね。“My mojito in La Bodeguita. My daiquiri in El Floridita”と残る片方を飲んだから、彼の言葉を借りてThe best way to find out if you can trust somebody is to trust them.ということで...
16 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20220531
 アルバイトを辞めた。大学1年次の11月から始めたから2年半と少し働いていた。シフトは22時から6時の夜勤で、大学に通いながら週4日出勤していた時期もあった。よくここまで続いたものだと思う。コロナ禍で大学の対面講義が無くなり、友人が少ないから外出することもなかったわたしにとって、貴重な他人との交流の場だった。思い返すとたくさんの人間に出会い、助けられた。オーナーの方針で大半が学生バイトであり、年齢が近いため気軽に遊びに誘ってもらったり相談に乗ってもらったりした。初期のメンバーは人間味の溢れる先輩が何人もいた。失恋した時にわたしの退勤を深夜から待っていて、「穢れを祓うため」と滝に連れて行ってくれたことが嬉しかった。「年イチのイベント日だから」と退勤のままにパチンコ屋に並び、連れ打ちをしたことが楽しかった。膝まで雪が積もった夜には休憩時間に車を貸してくれて、車内に散乱した灰皿の青い照明が懐かしい。大学2年次になると、大学の唯一とも言える友人がわたしの紹介でアルバイトを始めてくれて、共通の話題ができて嬉しかった。あっという間に3年次は過ぎていった。先輩が1人、また1人と卒業していき、いつの間にかわたしが学生バイトの最年長になっていた。仲良くなれた後輩もいた。後輩が卒業する時に、先述した友人と3人で焼肉屋に行き、職場の様々を語り合った夜は大切な記憶のひとつになった。今春で4年次になり、試験に集中するという理由で区切りを付けるために辞めようと決意した。思いがけないほどにお客様とも仲良くなれて、Tumblrで以前書いたように一緒に飲みに行く仲になった方、わ��しの髪色が変われば来店するなり褒めてくれてくれる方、分かってるだろうと「いつもの」と親しげに注文してくれる方がいた。夜勤は固定のお客様が多く、だからこそ親しくなれたのだと思う。お客様も季節とともに顔ぶれが移り変わった。時折、「就職/転勤でここに来るのは最後なんです」と報告してくれる方が居て、こうやって別れが訪れるのだと寂しくなったこともあった。たくさんの出会いと別れを繰り返し、別れの挨拶が遂にわたしの番になった。今までありがとうございました。苦しさより楽しさの方が大きかったと本心で伝えられるから、この感情をつくるために関わってくれた全員に感謝している。
33 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20220419
 自転車に乗り、眠たげな甘い空気に流されて夜桜を見に行った。枝いっぱいの桜花は夜風に揺られてもこもこと動いていて可愛らしい。街灯に照らされて水溜まりみたいにぽつんと浮かぶまんまるの空間が愛おしく思える。桜祭りの幟が立っていたが灯篭は少なく、月も出ていないため薄暗い。時折不気味さを醸し出すサクラは妖艶な美女のようで、思わず口を噤んでしまう。美しい女性を前にした時に底知れぬ無力感に苛まれるのは昔からの悪癖で、目の前の光景に対しても同じ感情で覆い尽くされた。もっと美を柔らかに、距離を置きながらも優しく、受容できるようになりたいと思った。
14 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20220305
 誕生日を迎えて21歳になった。20歳の思い出は片手で数えるほどしか思い出せない。誕生日に夜行バスで秋田から神奈川まで好きな人に会いにいったこと。夏から秋にかけて、地元で開催された大規模なファッションイベントの運営を務めたこと。薬物にのめり込んで堕落的な日々を過ごしたこと。おかげで薬理学に少しばかり詳しくなったこと。サークルは既に引退して大学生活も惰性で過ごしてしまったから、貴重な20歳の1年間を不意にしてしまったと少しだけ後悔の念を抱いている。時は無情で後戻りは出来ないし、21歳のわたしは何をしたいのかだとか、何をするべきだとか、なにも思いつかない。今春に4回生になり本格的に就活が始まると分かっていても身が入らない。これからどうやって生きようか、その思いばかりが回っている。この1年で新たに仲良くなった人間は思い浮かばなくて、大学1年次に親しくなった友人と3年次の暮れになった今でも仲良くしている。本当に、数少ない友人の彼には助けられた。大学近くの一室を借りていて、その部屋は常時鍵が開いているから寝ている時も家主が出払っている時だって自由に部屋を使って良いと言うのだ。居場所の持たないわたしにとって願ってもない話で、何時も感謝している。性格が良く金銭感覚も一致しているので、一緒に居て安心出来るし気を遣う必要が無いから心地が好い。大学を卒業しても親しく付き合っていきたいと思える友人が出来て良かった。心からそう思う。文章や詩は、うまく書けなくなった。平穏無事な生活を送っていて人間との関わりが酷く希薄になったので、良くも悪くも心が動かされることが無いことが原因なのだと思う。美しい文章に昇華する思い出もないままの穏やかな生活は心地好いのだけれど、少し寂しくもある。それでも今は、わたしを騒々しい世界に連れ去ってくれる存在は求めていない。もう他人に自分の生活を掻き乱されるのは懲り懲りだから、今だけは穏やかな一日一日を過ごせることを祈って。そしてこの平穏が際限なく続いてくれることを夢見て。さて21歳、1日目の今日が始まる。起きてすぐに親しい友人から祝言の連絡が届いて、誕生日を覚えてくれていたことが嬉しかった。ひとりで行きつけの喫茶店に赴いて自分へのお祝いにパンケーキを食べたあと、Peaceを燻らす心地の好い空間で息を吸う。まだ手を伸ばすことはせず、甘くて濃厚なこの煙のように生きていけたらいい。
38 notes · View notes
35q · 2 years
Text
20220101
したたかに生きています。今年もTumblrにたくさんの宝石を残したいな。
20 notes · View notes