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nagachika · 2 days
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この世をば 下 を読んだ
永井路子の三部作の2作目。一条から道長に内覧の宣旨が出るところからその没するところまで。ということで実は第3作目の道長の高階系の息子の能信(よしのぶ)を主人公としていた「望みしは何ぞ」とかなり重複がある。
ということでこのシリーズの特徴はそのままで小説というよりは歴史解説なのだけど、上巻とも似てやはりこの2作目では道長や倫子の心中の描写が行われることが多くそれなりに小説として読める。本作での道長の評価は「幸運児」「鋭い政策や覇気はないが平衡感覚の優れた平凡政治家」というもので、自らの幸運に慄きつつも栄華への道を姉(栓子)や妻(倫子)に支えられながら進んだという感じ。「千年の黙」での描かれ方とはかなり異なる。とはいえ出てくるエピソードはまったく同じなので「あーまたこの話か」と思いつつ読む。
一方本書ではじめて出てきた話として九州への刀伊の賊の侵攻という話が合った。道隆の次男坊の隆家が大宰権帥になっていた時のこととのことで、そうすると「千年の黙」で隆家に付き添って太宰に向かった阿手木の夫が戦死したのはこの時なのかもしれない。Wikipediaにも刀伊の入寇という項目として存在している。こんなことがあったのかー。
タイトルのとおりクライマックスは道長の娘3人が后(中宮、皇太后、太皇太后)に並ぶという(先の三条帝の妻娍子が皇后としているので四后並立の状態だが)歴史上類をみない栄華にある道長が例の歌を詠むところだが、そこは割とあっさりしている。それからまもなくこの完璧な布陣も崩れ始めてしまうので、まさに月はすでに欠け始めていたのだなというところ。諸行無常。子に先立たれる親としての道長の悲しみは言うまでもないが本書ではこういう肉親への愛情についての描写がとみに多い気がする。読んでてしんみりしてしまう。が一方で現代の感覚でみるとやはり摂関政治とその維持のための後宮政治というのは馬鹿らしいなという思いもふつふつと湧く。これが「望みしは何ぞ」に繋がるわけか、とおもうとやはり順番通り読むほうがよさそうなシリーズではあった。
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nagachika · 5 days
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この世をば 上 を読んだ
永井路子の三部作の2作目。なんだかんだいって借りてきた。やはり大河の影響かこの巻が今いちばん借り出されているみたい。
時期としては道長が倫子に縁付くあたりのまだ若い頃から兄の道隆、道兼が相次いで亡くなって、姉詮子(東三条院)が息子の一条天皇を説得して道長に内覧の権利を与えるという宣旨をとりつけたところまで。丁度いま大河でやってるあたりまで。
最近王朝ものの、特にこのあたりの時代の話を複数読みまくっているので印象がごっちゃになるけど、本作では倫子と明子の性格が対照的に描かれていて、またそれが他の作品とも違っていてこのあたりはあまり資料もないし人それぞれの解釈だなという感じ。本シリーズは歴史書としての性格が強いというのがこれまでの印象ではあるけど、この2巻では特に倫子の心の動きの説明など人間味の部分をうまくえがかれていて小説としてもなかなか読めるなという感じであった。ところどころで「この○○は後にこうなる」「○○という書物にこのような記述がある」みたいなメタな解説が入るのは変わりないし、ちょいちょい「為政者というのは今も昔もこんなもの」と軽い現代の政治批判ぽいものが混じるのも今作は多いが。
あと実資が「意地悪批評家」と評されて繰り返し登場していてこれもおもしろい。彼の日記「少右記」が当時のことを知る一級の資料であるからその登場が多いのも当然ではあるのだけど、その性格もまたほかの作品やドラマとはまたちょっと微妙に違っていておもしろい。なおこの「少右記」の現代語訳も借りているので後に読むつもり。そうするとまた違った印象があるかも。
ということでこの後の展開ももう知り抜いているのだけど下巻も読もう。
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nagachika · 9 days
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星合う夜の失せもの探し を読んだ
副題「秋葉図書館の四季」。森谷明子さんの「れんげ野原のまんなかで」「花野に眠る」に続く秋葉図書館シリーズの最新作。2023年に出ていたのを知らなかった。
今居文子は語り手のポジションから下がったものの、能勢と日野と共に探偵役の司書トリオの一角として登場し続けていて、やはり謎を言い当てるの役割は能勢のものだけど、それぞれこれまでの短編の登場人物やその周辺の人物が語り手として、また謎解きも主にその語り手たちによって行なわれる「日常の謎」系短編集。
あとがきによると今回のテーマは「どこにいたの?」だそうで、確かに最終話「人日」を除くどの短編も「あの時になぜその人はそこに居なかったのか?」が謎の周辺にちらつく。ブックカフェのオーナーが亡くなった時から姿をみせない猫(「良夜」)、佐由留くんの父親が幼いころに山で遭難した時に保護してくれた叔母さんはなぜ山小屋に居ない時があったのか(「事始」)、前巻で図書館に家出を計画してた進少年の同級生光彦は塾をさぼった日なにをしていたのか(「聖樹」)、バスツアーを急にキャンセルした須藤くんの先輩はどこに行っていたのか(「春嵐」)、秋葉家の大刀自(秋葉のおじいさんの母親)は大旦那が虫垂炎で倒れた夜どこに行っていたのか(「星合」)。しかし秋葉図書館の館長を語り手として開館前後の蔵書寄贈にまつわる「人日」はそのテーマに沿っている部分がみあたらないように思う。このエピソードは文子が大学生で司書になる前の前日潭でもあり、ほとんどの語り手が胸になにかしらわだかまりや悩みをかかえているのに比べると館長の悩みがわりと現実的なもの(はじめての図書館の運営への不安)であることもあって少々肌触りの異なるエピソードだった。
日常の謎の本体については、そもそもそれは謎なのかというちょっとした疑問というものも多くて本書をミステリと分類していいのかという気もするけどこのシリーズはそんな色が以前がからあったので、よりその方向性を推し進めたのかなという感じで悪くない。また(「人日」を除いて)図書館がメインの舞台というわけでもないものの、作中にさまざまな本が登場してくることもあって、それらの本を読んでみたくなるというのは変わらない。なによりこのシリーズを最初に読んだ時と同じく「小説がうまい」「読みやすい」という印象が本作にも通じる。森谷作品のなかでも「千年の黙」シリーズに続いて手元に置いておきたいシリーズだ。あちらも続きを書いて欲しいな……。
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nagachika · 11 days
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虚構推理 21 を読んだ。
実際はかなり前に読んだけどなかなか書けてなかった。月がかわるまえには書いておこう。
飛島家の殺人の完結と、MK(メカ琴子)シリーズ3つめにして完結?のMK飛翔に、新しいエピソード廃墟に出会うの導入まで。
飛島家の殺人は、実は真の謎は「なぜ祖母がヴェールを被りつづけているのか」だと思っていたのでそれがそのとおりである意味予想的中。ただ怪異が絡んでいたのだと思ってたけどこの案件には怪異がまったく関係してなかったということでその意味でイレギュラーな事件。まあそのぶん純粋なパズラーとしておもしろい。
MK飛翔は六花さんがメカ琴子を作り続けていた理由が判明する。うーむそういうオチがあったのか。ただのギャグ回なんだと思ってた(それも正しい)。
新エピソードはまだほんの導入だけで九郎先輩の同級生が登場。まあこの人が黒いんだろうな。
安定しているのでまた続きという感じだけど今回の新エピソードは若干引きが弱い気がする。
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nagachika · 21 days
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宙に参る 4 を読んだ。
リイド社の期待のコミック。
ソラの生い立ちや幼少期のエピソードから彼女が養父の伊能に預けられて航宙のための学校に通い企業に務め、最終的に産まれ故郷に戻って母がわりだったリンジンを看取る話と、そこでリンジンの「底」に出会ったという過去の話と、そもそもリンジンを最初に開発したエンジニアという大昔(?)のエピソードがメインで今回ほぼ過去の話。
リンジンはネットワークを形成しておりその全体にまたがるかたちでひとつの人格を形成している、という感じか。宙域に広く分布しているため時差の問題で複数に分割されているらしいけど。これと類似で複数の身体を操っている医師などもソラを調べている又肩さんの派閥に現れてこちらもどうやら「底」について探っているのかなという感じが伺える。
基本的には亡夫の実家への里帰りの道中の四方山話ではあるのだがこういった要素が今後どう深掘られていくのか、続きが楽しみな作品。
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nagachika · 22 days
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知られざる縄文ライフ を読んだ
「知られざる弥生ライフ」に続いて電子図書館で。今度の副題は「え? 貝塚ってごみ捨て場じゃなかったんですか!?」
いやーこう想像力豊かに語られすぎてて特に根��なさそうだなーという部分がちらほらあって心配になっちゃったけど、それでも縄文時代の犬と人の密接な関係についての記述が良くて、その後注意してみると挿絵にもいつもたいてい家族に犬がついてきていて印象に残った。骨折を治療された跡のある犬とか犬の骨格が全身残っていることが多い(埋葬された?)とか人と一緒に埋葬されていることもあるとか。
巻末に縄文グッズのカタログがあるあたり情報雑誌っぽいノリ。
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nagachika · 23 days
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王朝序曲 誰か言う「千家花ならぬはなし」と 下 を読んだ
上巻に引き続き王朝シリーズの最初の1篇。RubyKaigi 2024 への飛行機やコインランドリーでの洗濯待ちのあいだに読めた。藤原冬嗣を語り手として桓武から平城、嵯峨への帝の変遷とその意味を描く。「葛野盛衰記」がファンタジー色が強いのにくらべると歴史をそのまま描いたという雰囲気が強いけども、冬嗣の兄・真夏へや義弟の安世への眼差しとか嵯峨帝の人柄なんかは筆者の解釈による演出がされているのであろう。
本書の主張としては、桓武父帝から女好きなところは受け継いだもののその苛烈な支配欲や政への情熱は持たなず文雅に傾倒し怨念を避けるため死を賜わるようなことを嫌った嵯峨帝とそれに代わって行政を一手に引き受けた冬嗣との思惑によりそれから長く表立った死刑というものが行なわれない平安時代の幕が明け、その一方で冬嗣が律令にない蔵人所という役所を作ったことをもって律令制を実質廃し(律令制に基いた官僚機構自体はなんと明治まで続いたそうだけど)新しい政治構造を作り上げたとしている。このあたり背景は違うけど「葛野盛衰記」でも「怨霊」というものを恐れさせることで死をもって政をしない都を作り、それを平氏が壊したというのをストーリーの影の主題としていたのと合致している。こうして(密かな呪詛や毒を盛るというような陰謀はあっただろうとしても)死刑のない後宮政治による平安時代がはじまり、その終焉に繋がる院政への転換を先に読んだ望みしは何ぞの能信が(意図せず)導いたということでシリーズ全体が「葛野盛衰記」の裏書きになっているというのでおもしろい。
なお冬嗣が(WIkipedia をみると嵯峨帝が置いたとなってるけど)作った蔵人所は要するにそれまで律令に基いて尚侍が帝の身の回りの世話をすると同時にその詔を参議に取り次ぐ連絡官としての役割を持ち、それゆえに政策に口を出す権力を持っていたのを代替してしまうという形で、結果的に女官の政治中枢からの排除に繋がっていたのではないかというのを考えると、その後に後宮政治により一部の女性(皇后/中宮や国母たる皇太后)が強い政治力を持つに至るかわりに、女御たちには皇子を産むことへの強いプレッシャーが与えられるようになったというのと合わせると貴族女性の力/社会進出というものは一歩進んで二歩さがるというものだったのだなと思った。というか元の尚侍ってそんな偉かったんだ。
前は小説としてはいまいち……と書いてたけどここまで読んで一応楽しめてるので最後にシリーズ 2作目の「この世をば」も読もう。一応これが今の大河の「光る君へ」と同時代の話だし。
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nagachika · 23 days
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RubyKaigi 2024 に参加してきた
5年ぶりの RubyKaigi に沖縄/那覇へ。
やはり書ききれないと思うので順不同で。
やはりなんといってもぺんさんのキーノートには圧倒された。ひとりで TRICK を開催し 6つも弩級の作品を作り上げているのももちろんすごいのだけれども、それぞれの作品に今回の RubyKaigi のトークで紹介されるテクニックやトピックを盛り込み、そのセッションへの導入にするという構成の緻密さ、そしてこの発表が(表面上)主題としている「奇妙なプログラミング」作品が「表層的な表現」と「プログラムとして実行可能な論理構造」を持っているという重層的な構造を持っているというその特性そのものを「表面的にはアートとしてのプログラミングの紹介をしつつ、その実は RubyKaigi 2024 へのイントロとしての役目を果たしている」というこのキーノート自体の重層的な構造に織り交ぜているというこのメタ構造がすごい。後できいたところではキーノートの打診はCFPが close になった後のことだそうで、それからあれらの作品は作られたとのこと。もちろん各発表のことを意識して作ったとのことで、その労力はたいへんなもの。最高のキーノートでした。感動して鳥肌がたった。
金子さんはSAC2での少佐のいうところの「聖域に入っている」状態でずっとアドレナリンが途切れてなさそうだった。他のパーサー関連の発表ではIELRの発表をきいた。パーサーまわり(というか Lrama 勢力というか)全体として目指すべきところが明確でやるべきこともわかっていてそれをやる人もいて着実に歩みを進めているというので将来は安泰ですなという感じであった。アクション部を記述する新言語を作るという話になったらだいぶおもしろそうなので注目していきたい。Prism との比較でいうと今現在 parser.gem を使ってますとか prism を使ってますという gem などがなんで ripper じゃないの? というところを取材してみたい気はする。数年前になんでみんな fiddle じゃなくて ffi 使ってるのっていう時期があったけど(今もまだそうかもしれない)、使われてるのにはそれなりに理由があって fiddle はそのギャップを埋めるために目先のユーザビリティのための機能追加などをしてきたという経緯があるので、そういうエンドユーザーへの目配りというのも必要そう。
Day 0 は 2019 に続いて ESM さんのクルーザーにお邪魔しておひさしぶりの人達と会話するなど。あいにくの雨だったけどああいう立食パーティー形式にしては珍しく食べものがなくなってなくてしっかり食事できたしおいしかった。
WASM/WASI 関連の発表は 2つ katei さんと udzra さんのをきいて、だいぶ WASM 周りの環境が整ってたんだなというのを知った。まだあんま実用的に使えないな〜と思ってたのだけどネットワークももう使えるみたいなのでそろそろ真面目に使えるところがないかやってみたい。もちろん gem install が使えるようになるのも期待。
Shopify 勢の memory leak 修正や Object Shapes の解説や YJIT の最適化まわりの話はこれまでコミットとしては読んではいたけど理解が追い付いてないところを答え合わせとしてきいて、いろいろ確認や納得ができたのでよかった。YJIT まわりとか雰囲気で読んでるからなぁ。
KJ と Samuel と byroot とはいろんなところであいさつして、いつも backport の手伝いありがとうとか、PR のレビューお願いとか、backport リクエストあったらいつでも呼んでねとか頑張って話してた。会社から English speaker な同僚がいなくなって英語をもう 6, 7 年くらい喋ってなかったのでだいぶ苦しかったがたぶんなんとかニュアンスは伝わったんじゃなかろうか。
Official Party と After Party ではできるだけいろんな卓を巡って知らない人たちと話して、committer としてコンテンツになれるように努力した(無料でチケットいただいてるのでね)。trunk changes 読んでます、というひともいれば今回はじめての RubyKaigi です、という人もいて、Ruby じゃなくて Google Cloud の話とか LLM の話とかしたりもしたけどまあそれも一興。RubyKaigi のホスタピリティを高める一助になれてれば良いのだが。
After Party で 12,3 年ぶりくらいに conceal_rs さんにお会いして会話をしたのが印象的で、もうわれわれもいい歳になってきて後進に仕事を引き継ぐってことを考えるころなのかも、という話題になった。 ruby まわりで自分がやっていることというとブランチメンテナと ruby trunk changes で、ruby trunk changes については誰かに託すというのはちょっと考えてない。そこであらためて言語化したのだけど、自分はコミットを継続的に読むことはお勧めしたいけど若い人に ruby trunk changes のような活動をすることはあんまり積極的に勧められない。正直なところ労力に対して得られるものとか、その時間を別のことに振り分けられた時に得られるものとかのことを考えると、割の良い投資ではないと思うので。じゃあなんでやってるのと言われると困ってしまうのだけど、これはもうやり始めてしまって習慣になってしまってるから、としか言いようがない。ちなみにブランチメンテナとしては今回 kokubun さんが 3.3 のメンテナになり自分は引き続き 3.2 をメンテする(つまりこれまで最新の安定版をメンテしてたけど 1つ古い世代のをメンテする)ことになっている。引き続き自分もメンテナは続けるけど、こちらはプロセスの改善などもやっていって他にも引き継いでくれる人が出てくるといいなと思うしきっと出てくると思う。20024年に ruby を残さないといけないですからね。
会場で kakutani さんをみかけるとなんかホッとする。自分のなかでは kakutani さんはなんかこう、Rubyist のあつまりを体現している人なんですよね。実家に帰ってきたような安心感。
あと観光まわりだと、Day 4 に美ら海水族館とエメラルドビーチに、Day 5 にはおきみゅー(沖縄県立博物館・美術館)と千日という喫茶店にぜんざいを食べに。あーあと会期中は会場近くの「花はな商店 本店」という沖縄そば屋さんに 2回も朝食を食べに行った。あそこのそばは海海苔が練り込まれててツルツルでめちゃおいしかった。あと海ぶどう丼ともずくかな。もずくは沖縄で食べると本土で食べるのとでは別格でおいしい。やっぱ鮮度かな?
Kaigi Effect 的にはなにかな。まず WASM/WASI まわりは触ろうと思う。Lrama も実務的(ruby trunk change 的な意味で)にも役立つし読みやすい構造してそうなので中をみてみるかなぁ。YJIT と Fiber Scheduler まわりの理解も深めたいけど。
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nagachika · 29 days
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葛野盛衰記 を読んだ
森谷明子さんの作品。葛野と描いて「かどの」と読む。「森に棲む声」と同様の和風ファンタジーの系譜だけどこちらは日本の歴史を下敷きにしていて、桓武天皇が山部皇子だった頃から子の平城帝(安殿)、嵯峨帝までの期間を山背の国の秦氏と多治比氏(兄国と弟国)の相克と京の都の根源である松原/糺の森を中心に描く1部と、時代が下って平家の興亡(忠盛→清盛→宗盛の時代を頼盛の視点から描く第2部からなる。ということで第1部はかなり「王朝序曲」と被っているし第2部は平家物語異曲という感じ。通底しているのは京の都(平安京)の繁栄を影から支えた秦氏の影響力であり糺の森の魔性ということになろうか。そのあたりはファンタジーっぽさもある。
第1部では桓武の妻となる伽耶と、子を持てなかった彼女が親がわりとして育てた耀(あかる)と真宗の双子があえて言えば主人公か。この双子の兄妹の別れと再会が一応のストーリーの骨子になっていると考えると異母兄妹の再会の物語であった「森に棲む声」と似ていなくもない。真宗はWikipediaにも載っている葛原親王の母親 多治比真宗 なので史実上の人物でもある。知らなかったけど。この葛原親王は臣籍降下して平の姓を賜わり、後の平家の祖となるので、これが第2部に繋がっているというわけ。
第2部はいわゆる平家物語。清盛が白河院の落胤というのは知らない話(説)だったけど。ここにも秦氏の血をひいた女人が登場し、そのひとりはなんと義経の母常盤。これはおもしろい。彼女らの血族は都の人間が怨念を恐れるようにすることで政争で血の流れない都を長く保つというものだったようだけど、平氏ら武家の怨霊を恐れず果断なふるまいで都を破壊されてその復讐として裏から手をまわして清盛を破滅させたというふうな話になってる。
しかし、政の中心地という意味でいうと平城京、長岡京(弟国)から遷都した平安京のはじまりと、ある意味その終焉である幕府の台頭(の予兆)までということでこの話は平安京のライフタイムを描いているんだな、というところでタイトルの「葛野盛衰記」がなるほどピッタリだなと気がつく次第。
それにつけても森谷さん小説がうまい。人を書くのも人ならざるもの(「おとぎばなし」や「土地」)をメインテーマにして書くのもうまい。
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nagachika · 29 days
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占い師 星子 3 を読んだ。
お仕事マンガ3巻目。代わり映えのしないエピソードだなと思ったけど若干主人公と母親の関係性についての屈託が描かれて続きとなった。業界話がメインとはいってもこういうストーリーも多少はないとね。
今回はコールドリーディング、ホロスコープ、姓名判断、トランプ占いといったラインナップ。神ノ山先生と似たような大学の社会心理学の教授がコールドリーディングやサトル プリディクションについて教えてくれる回は要するに初回の神ノ山先生との邂逅の焼きなおしになってる。新キャラの登場かなと思ったけどひとまずこの回の登場だけっぽいな。
星子の彼氏とのなれそめも語られるけど特段のフックになりそうなエピソードもなく、彼の描写は妙にひっかかるんだけどこれは作者さんの癖なのかもな。今のところ善良な彼氏。
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nagachika · 1 month
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王朝序曲 誰か言う「千家花ならぬはなし」と 上 を読んだ
「望しは何ぞ」の王朝シリーズの最初の1篇の上巻を読んだ。小説風に書かれているけど急に現代(といっても1980年代とかだけど)の話に触れたり、登場人物のその語りの時点より後の史実について述べたりというのがあって歴史の本をちょっと物語風にしてみたという感じ。前回同じシリーズを読んだのでわかるけど、兄弟の弟を語りてにして、兄弟の微妙な緊張感とか、目だけで長文の語りをするとか、思案するときに顎を撫でがちとか、とにかく同じようなフレーズや演出が多くて正直小説としてはつたない感じ。
本作は桓武天皇の治世、長岡京への遷都とその失敗から平安京(というのはのちの呼び名)への再度の遷都といったあたりで、親王の安殿(のちの平城帝)との確執や薬子の乱で有名な東宮宣旨の藤原薬子と安殿の関係とかが主。薬子の乱は知識としては知ってるけど、なるほどこういうスキャンダルが下地としてはあったんだなというか、そんなことなの?と思うので実際にはいろいろ思惑があったのでしょうな。
一応順番に読もう、ということでシリーズ最初の作品から手を出したけど、道長が出てくる2つ目からのほうが良かったかもな。
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nagachika · 1 month
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輝く日の宮 を読んだ
丸谷才一氏作。
今年の大河「光る君へ」にからめて「千年の黙」「白の祝宴」を再読した流れで王朝ものを続けて読んでいるがこれは「千年の黙」の解説で取り上げられていたけどまだ読んでいなかった作品。源氏物語の失なわれた帖があったのではないかという説を題材とした小説としてはこちらのほうが先達らしい、ということで読みはじめたのだけど、冒頭は本作全体通しての主人公の杉安佐子が高校生のころに手紙を交換していた学友に手慰みに書いた短編小説というのがいきなり引用され、大人になったあとでそれにまつわるエピソードを思いかえすという導入から、芭蕉論へと繋がっていき、全体の 1/3 まで読んでもまだ源氏物語がの源の字も出てこないのであれれと思った。そのあたりでパネルディスカッションみたいな場面で源氏物語には「かかやくひのみや」の帖があったのではないかという論を展開して喧喧諤諤の議論を戦��せるところからが源氏物語の成立についての論説を語り出す主題となるわけだが、解説にもあるように本作はまずこの作品自体の構成が独特でありこの構成それ自体が源氏物語の特性や成立を模倣したものという体になっている。全体的に文体が旧かな遣いになっているのは通底しているけども、私小説風だったり劇中劇のように登場人物の内面を舞台で急に時間が停止してスポットライトを浴びて語り出すという演出をそのまま文字に起したような描写であったりと章ごとに異なるメタな描写の手法が使われていて印象をがらっと変えてきたりといそがしい。なんとも不思議な小説を読んだという感じだ。
なお本作でも「輝く日の宮」の帖を取り除いたのは道長であるという説で語られているがその理由は「千年の黙」とはやや異なる。本作における道長は藤の式部のよき理解者でスポンサーあると同時にメンターでもあるという描かれかたで、(少なくとも外からみると)ひたすらに為政者であった「千年の黙」とは趣きが異なる。そしてこの説を指示すると、かかやくひのみやの帖はもとよりなし、というのはそれはそれで正解なのだろうという気もする。うまい作りである。
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nagachika · 2 months
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望みしは何ぞ 王朝-優雅なる野望 を読んだ
「千年の黙」「白の祝宴」を再読していたり今大河ドラマで紫式部の時代のことをやってたりすることもあって、王朝物をまた読んでみようかなということで、歴史小説らしいこの作品を手に取ってみた。
道長の高松系の息子である能信を語り手として据えて、道長が摂政になった後の九条流(道長家)の没落と院政に繋がっていく後三条および白川までの時代のできごとを史実にそって並べていくという体で、小説というよりは歴史の勉強を読みやすく語り口調にしてみましたという印象。小説としての巧さというのはないですがたくさん出てくる登場人物でだれがだれかわからんってなるのを多少は柔らげてくれるので読みやすくて良いか。
しかしまあ、後宮政治というのはだめですね。どの后がご懐妊だとか産まれたのが皇子か女皇子かどうかというのでいい大人が一喜一憂して、しょうもないというかなんというか。現在も皇室に向けられる眼にそういう色調がないとも言えないしもうこの仕組みはご破算にしちまいましょう! という気にならなくもない。
なおこの作品3部作の3つめらしいので、この前の2つも読むかどうか。2作目のほうがドラマの時代にはあってそうだけども。他にも読む予定の本が多いのでまたいずれ、かな。
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nagachika · 2 months
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深山に棲む声 を読んだ
森谷明子さん作品。しかし読んでるうちにそのことは忘れていた。「千年の黙」などの王朝作品ともれんげ畑や諒子点景のようなミステリともまた違って文体が異なるというわけではなくテーマや雰囲気ががらりと変わった和風ファンタジー作。
「深山」と呼ばれる険しい山にまつわる4つの話が語られたうえで、それらをまとめるかたちで「黄金長者」というエピソードでその関連を埋めるという体裁で、先の4つの話は過去のエピソードであると同時にそれを元にしたおとぎ話でもあるということで登場人物の名前がすべてカタカナ表記になっているものが、「黄金長者」では漢字表記になってるなどメタミステリ的なしくみもあり。先の4つの話も時系列通りではなくて、主にオシオの名前と山に棲む義足の女(婆)という存在で繋がって読み手はその時系列を自然と理解するのだけど、そこにひとつトリックがあって最後にあっと驚くことになる。
解説を読んで気がついたのだけど本書の一番最初、巻頭言として引用されているのがロシア民話のバーバ・ヤーガの一節で、最初の4話のタイトルやそのモチーフは実はバーバ・ヤーガに因んでいるとも言える。最初西の都という存在や大納言という役職などからこの話は中世日本を舞台として、 深山というのは日本アルプスのあたりのことかなと思って読んでたのだけど、深山を中心として東西南北に虎/龍/鳳/霊亀の国があるという配置などからどうやら架空の世界のファンタジーなんだなというのが霊亀の国の話あたりでわかってくる。このへんも今読んでいるのはなんなんだろう? というじんわりした混乱を招いてて不思議な読後感に繋がっていく。
全体通すと要するにボーイミーツガール(ただし異父兄妹だが)の話だったのかなという感じで、最終的になんの話だったんだろう? という気がするけど、解説にあったようにこの作品の主役は「物語」つまり寝物語として語られるおとぎ話の成立という現象それ自体がメインテーマだったのかなというのによく納得した。
こんな作品も書かれていたとは森谷作品まだまだ奥が深い。次また別の作品も読む予定。
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nagachika · 2 months
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知られざる弥生ライフ を読んだ
「え?弥生土器なのに縄文がついたものがあるって本当ですか」という副題がついている。
なんか電子図書館で新刊を眺めてて縄文時代のものと一緒に軽い読み物っぽいのが並んでたので予約して借りた。実際軽い読みものというかカラフルな写真やイラストが豊富なムック形式。弥生時代の基本的な情報から各地の遺跡の紹介といった内容。特にすごく新しい話というのもないけど、竪穴式住居の上から見た形が縄文時代は円から楕円形が一般的だったのが次第に矩形になっていったというのが、ほーなるほどとは思った。工具の発達に伴ない弥生時代に入ると木材を丸太のままでなく板材にしたりして利用することが増えてきたので、板材をたてかけて作るようになってそれをやりやすくするためかもとかいう説。弥生時代も進むと2本の柱に梁を渡す構造ができてきて建築様式も変化していく。このへんも深掘りするとおもしろそう。
縄文時代版も順番待ちなのでそのうち読む。
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nagachika · 2 months
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ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル 完全版 を読んだ。
2021年に発売された(そんな前だっけ……) ダンジョン飯ワールドガイド 冒険者バイブル は持っていてそれに加筆修正されたものということで、完全版商法かぁとちょっと思ったものの、どうも新しい書き下ろしマンガも多少あるらしく気になったので購入。
各人物の紹介のところもそれぞれがコミック完結後にどう過ごしたのかということが追記されていて、結構変更箇所や追加されたコンテンツは多い。服飾についての設定資料や各人種の耳の特性についてなんていう細かいものまであってこれだけでもおいしい。
しかしやはり後日談的なマンガの追加が良くて、ヤアドは「明日にも塵になるかも」とかいいつつ悪食王の側近として政治手腕を発揮してたり、カブルーが宰相として補佐してたりとなかなか。マルシルも宮廷魔術師として奮闘して、外交官としてメリニに残ったパッタドルと仲良くなってそう。あとシュローとファリンの関係にも一応の決着を付けたというのもこれは作品本編にあってもいいくらいのエピソードでしたね。
というわけで完全版でも満足はしたので許す。
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nagachika · 2 months
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2024-04-19 マーダーミステリー会に行ってきた
しばらく間があいたマーダーミステリー会にまた子と参加してきた。
前回1月にマダミス初めてですっていってた方も参加されてて、それからすっかりはまってもう6回目とのことで追い抜かれてしまった。
今回は冬幻社さんの「5人の銀行強盗」とグループSNEさんのミニシリーズ「死体と温泉」の2本立。それぞれ 60分/75分程度と初心者向けで時間短めベーシックなメカニクス、しかもそれぞれ似たシステムなので 2本まとめてできたという感じだけど、議論時間が短いのはそれはそれで大変。個人的な評価としては一勝一敗という感じか? 短いながらちゃんとミステリしていて2つとも良作だった。読みが当たっても外れてもエンディングで楽しめるのが良いよね。子もはじめてやりたかったムーブができて良かったらしい。それに共演者のみなさんも良い感じの方々で楽しかった。
しかし翌日すごくお腹がすいて、これは頭を使ったからだろうかと言い合っていた。短時間とはいえ 2本マダミスをするとやっぱり脳が疲れる。
それから今週のゲムマでグループSNEさんがまた2人用GMレスのシナリオを先行販売するとのことで、ゲムマには行けないけど発売されたら買ってみよう。
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