誘拐、そしてバレッタの乙女/07/2011
ががう、と獅子が吼えるとキャアと歓声があがる。
猿が皿を回したり、馬が台に飛び乗ったりと、花やしきは世相に反して今日も大盛況だった。
「香織!香織!!」
そんな中、一人の婦人が髪を振り乱して娘の名前を叫んでいる。
大勢の人をかき分けて、少女の興味を引きそうな遊具や食べ物屋を次々に回る。
マリオネットがかたかたと動くと幼い子供たちは嬉しそうにはしゃぎ声をあげる。
甘いお菓子をねだる子供の声、それを諌める大人たちの声、笑い声、呼びこみの声。
それらが、渦のようにうねっている。
婦人の金切り声も、そのうねりに飲み込まれてしまう。
ふ、と婦人の目の端に赤い着物に黒髪の少女の背中がうつる。
はっとして、その赤い着物を追いかける。
「香織!!」
叫ぶように少女の手を引く。
痛い!と振り返った少女は、婦人の娘ではなかった。
すぐさま両親らしき人が少女と婦人の間に割って入る。
最近続発している誘拐事件のことがあるので不信に思ったのだろう。
婦人はすみません、すみませんと謝りながら逃げるようにその場を離れた。
(ああ、香織。香織――)
婦人はバレッタを握りしめた。
先程まで娘がつけていたものだ。
宝石が花を模り、パールの房が垂れ下がる豪奢なそれは乱暴に踏みつけられたのか壊れてしまい装飾の宝石やパールは散っていた。
さらら、さらら。
わずかに、二三房残ったパールの束が揺れて音がなる。
その真っ白なパールの粒に、くっきりと赤黒い血が付いていた。
号外! 令嬢誘拐事件。 三人目ノ犠牲者、遺体デ発見セリ。
「まあ……」
百合子は新聞の見出しをみて思わず息を飲んだ。
最近世間を賑やかせている令嬢誘拐事件の記事は新聞の一面を使って誘拐事件の経緯や概要を扱っていた。
試し刷りの粗い印刷で記事の内容は読みにくかったものの、写真の中の在りし日の少女たちはあどけない顔立ちをしていた。
いずれも年齢は十五、六ごろの慎ましそうなおとなしそうな令嬢ばかりを狙った誘拐事件。
少し前まで――没落しかけていたとはいえ――同じような立場だった百合子は胸を痛めずにはいられない。
編集者として働き始めた百合子はまだ雑用だが女だてらに軍手をはめて真っ黒になりながらインキを敷く作業をしていた。
これでようやくその日食べられるくらいの給金になるのだから、働くということは大変な事だ。
爵位を返上し借財を片付けた後、鏡子婦人に小さな仮住まいを用意してもらったものの、兄は時折ふらりとどこかへ出かけて帰ってこないし、副業はおろか本業の方も手が回らないしで百合子は大忙しだった。
働き始めは編集長の怒鳴り声や、他の社員の早口な喋り方に、大きく戸惑ったものだが今はすっかり慣れてしまった。
平民のような言葉遣いも��くつか覚えている。
時々披露すると兄は眉根を寄せてさめざめと泣くのだが、百合子は今の忙しさがとても心地良かった。
「あっ!」
ぼうっと色々なことに思いを馳せていたら、まとめていた髪がはらりとほどけその一房が輪転機に巻き込まれてしまう。
「いけない!ごめんなさい!機械止めてください!!」
百合子の声に隣で作業していた同僚が慌てて機械を止める。
ぐるぐると巻き込まれてインキだらけになってしまったが、どうにかぎりぎりで顔を巻き込まれずに済んだ。
「ああ、機械止めちゃ号外の売り出しに間に合わないよ!!」
「ええ、すぐ切りますから!」
そう言うと、前掛けのポケットから作業用鋏を取り出す。
逡巡したのは一瞬で、ジャギンと髪の毛を切ると急いで機械を逆回転させて絡みついた髪の毛を取り払う。
「申し訳御座いません!」
百合子はきつく髪の毛を結び直して、再びインキを敷く作業へ戻った。
兄の顔が頭をちらつく、兄には編集者の仕事だと嘘を付いている。
毎日爪の間まで真っ黒にして帰る妹に、疑りの目を向けるが原稿を書いているのだと言い聞かせていた。
(……これは、何て言い訳しよう……)
少女時代の甘い記憶と決別するような気がして、わずかに涙が視界を潤ませる。
けれど、泣くことは許されないのだ。
泣いてしまえば涙でインキの印刷が滲んでしまうから――。
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号外はどうにか夕方の売り出しに間に合ったようだった。
百合子は動かしっぱなしの腕も立ちっ放しの足もへとへとになり、よろよろと出版社を後にした。
あと何日すれば編集者として働けるのだろう……。
一生このままインキを敷く仕事をするのだろうか、辛い仕事だがそうなったらいつかは慣れる日がくるのだろうか。
夕刻の朱に染まる空を見ながら、ふらふらと歩く。
(明日はやっとの休みだわ、何をしようかしら)
色々考えてみる。
洗濯物が溜まっていたかしら、破れた服の裾を繕わなくては、お部屋の掃除もしなくちゃ……。
そうなると、休みなどあってないようなものだ。
とりあえず、お布団で眠りたい。そんな事を考えながら歩いていると――。
「くく、だいぶお疲れのようだな。お姫さん」
その声を聞くと、急に気力のようなものが体の芯から湧いてくる。
くるりと振り返ると、長身の男が立って腕を組みにやにやと笑っていた。
「いいえ、ちっとも?斯波さんもお暇なのね、会社のほうは大丈夫?」
「?! おい、百合子さん。その髪はどうしたんだ!」
「べ、別にどうもしませんわ。ちょっとヘマをして機械に巻き込まれたから切りましたの」
「き、切りましたの、ってあなた――。ああ、もう我慢ならん!
最初はお姫さんの戯れだと思っていましたが、今日という今日は言わせていただく!
無謀なことはやめて、さっさと俺と結婚してくれ!」
「嫌ですこのスットコドッコイ!おととい来なさい!」
「お姫さん!ああ、もう、ああ――もう!どこでそんな言葉を!」
「ごきげんよう!」
ああ、すっきりした。
不思議なことに、百合子は斯波の前では気力を振り絞って立つことができる。
なぜか前を向いて歩き続けようという気持ちが湧いてくるのだった。
それは、斯波が百合子には無理だと決めつけていつ諦めるかという気持ちが透けて見えるせいだろうか。
口では習いたて覚えたての文句を吐きつつも、
働くということがお金を稼ぐということがこんなにも大変なことなのかと心のなかでは斯波を敬服していた。
「分かった、分かりました。――では、せめてその御髪をなんとかさせてくれ!
折角の美しい髪がもったいない!」
「……近所の髪結いの方にお願いしようと思ったのですけど、
ちょうどここでざくざくと切ってもらえばと」
「ざくざく?!俺の知り合いに腕のたつ髪結いがいる!
変なところで切られるとザンギリにされてしまうぞ!」
「でも私、お金が、その……あまり持っていなくて」
「そんなのあなたが気にする必要はありませんよ!」
「いけないわ。斯波さんにばかり頼ってしまうと」
百合子は自分の溜めた給金でなんとかやりくりできる範囲だったので頑なに斯波を拒む。
往来で押し問答を繰り広げる奇妙な二人組に、ちらちらと好奇の目が向けられるがどちらも感情が高ぶると周りなどお構いなしだった。
斯波は我慢ならないとばかりに百合子の腕をつかみ揺さぶる。
「よし、百合子さん。あなたに金儲けの秘訣を教えてやる!
いいか?人は利用しろ!あなたは俺を利用してもいいんだ!」
「り、利用だなんて……」
「あなたはまだ鏡子婦人に借財があるんだろう?
一銭だって節約しなけりゃいけないわけだ」
「それはそうですけど、でも――」
「でもじゃあない。こんなちんたらとやっていると金を返しきる頃にはヨボヨボの老いぼれになってしまうぞ?
ほら、にっこり笑って愛想して”お願いします”というんだ。
女の愛嬌も武器のひとつですからねえ、生まれ持った武器は活用しないと」
「……お願い、します――」
女の武器などと!と思いはしたものの、斯波の言う事も一理あると思い直し引きつった笑みを浮かべて斯波に頭をさげた。
その顔を見て斯波はぐっと吹き出すのを堪えるように言った。
「これは――まだまだ練習が必要だな」
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「ゆ、百合子?どうしたんだい、その――髪は……」
瑞人は百合子が帰宅して開口一番にそう言った。
「どうかしら?モダンでしょう?ダッチ・ボッブというのですって
――お兄様はこの髪型の百合子はお嫌い?」
「いや、僕がどんな百合子であろうと嫌いなわけないだろう。
でも、しかし――お前の髪が――」
だいたい予想通りの反応だった。
壊れた蓄音機のように髪が、髪がと繰り返す。
斯波に連れられたときはどんな髪型になるのかと不安になったが、
この髪ならばまた機械に髪をとられる心配もない。
それに、まとめる手間や手入れが省けてより経済的だと思った。
「あ、そうだわお兄様。
明日の朝一番に洗濯してしまいますから長襦袢やおふんどしなどの汚れ物を出してくださいませね」
「い、いや、自分で洗うよ……」
「あらそう?洗濯板でごしごしと洗うのって結構力いりましてよ?」
「大丈夫だよ、僕だって洗濯ぐらいはできるだろう。
それよりも、ほら――お前のために夕食を作っておいたんだ。
せかせかせずに、座ってお食べよ」
「そうね、ええ。いただきます」
百合子が仕事で遅くなるときは大抵瑞人が夕食をつくっている。
始めの頃はぐちゃぐちゃのご飯や、具のない味噌汁など惨憺たる晩餐だったが、
最近はどうやら手馴れてきたのか以前ほどひどくはない。
「……どうだい?」
「まあ、お兄様。この御飯の炊き具合素晴らしくてよ!」
「そうかい?だいたいコツをつかめてきたよ、赤子泣いても蓋とるな♪という歌があってね……」
うんうんと瑞人の講釈を聞きながら一口味噌汁を飲む。
「げほっ!!」
「百合子?!大丈夫かい?急いで食べなくても良いんだよ?」
「お、お兄様。お味噌汁が辛すぎです……」
「あれ、本当に?――おかしいな、塩辛いほうが疲れがとれると隣の奥さんが教えてくれたんだけど」
「限度というものがあります」
食事だけでなく買い物をするのも瑞人が担当している。
客といえば婦人や下男ばかりの市場で、着流しの男がぶらりと風呂敷を持って市場をうろついているだけでも目立つのだが、瑞人のような風貌では尚更だった。
「もし、そこのご婦人――」
と、声をかけられれば商売人はまず客を二度見するだろう。
しかも、困った顔をした瑞人は無駄に色気があるのだ。その色気にあてられながら「は、はい、なんでしょう」と聞くと、その儚い美貌の男はゆらりと立ち消えてしまいそうな霞の微笑みを浮かべてこう問う。
「持ち金がこればかりしかないのですが、妹に精のつく食べ物をつくってやりたいのです……」
帰る頃には風呂敷いっぱいに野菜や米や味噌が包まれていた。
それだけではなく、やたらと近所の婦人や奥様方が「これ、作りすぎちゃって……」や「田舎の母が毎年送りすぎるので……」などと、次々に料理や酒や米などをもってくる。
「親切な方ばかりだね」
のほほんとばかりに瑞人が言うが、百合子は何だか騙しているようで申し訳なくなった。
そしてお裾分けしてもらった料理の皿には、花を入れて返している。
本来ならばいなり寿司なりちらし寿司なり入れて返すのだろうが、そのお金が捻出できないためだ。
元々華道の家元だった瑞人だからこその思いつきなのだろうが――。
「お兄様、くれぐれも気をつけてくださいね」
「うん、次はもう少し控えめに作ってみるよ」
そういう意味ではないんだけど――と思いながら、隣の奥さんから頂いた煮物をつついた。
夕食を食べ終わり、お腹が膨れてくると猛烈な眠気が百合子を襲う。
百合子が働き始めてはかいがいしく家事を手伝い家に居つくようになった瑞人の顔を見て安心したのもあるかもしれない。
「おや、眠そうだね。ここを片付けて布団を敷いてあげるから少しお待ちよ」
「はい。――いえ、私繕い物が……」
「いいから、いいから」
百合子が立とうと腰をあげるが、上手く力が入らない。
ずっと気を張っていて気がつかなかったが、体中の力が抜けていた。
「あら?どうしたのかしら、膝に力が入らないわ」
「ああ、そのまま座っておいで」
瑞人は手慣れたように食器を桶にとり、近くの井戸で汲み置きしていた水につける。
折りたたみ式の台を濡れた手ぬぐい拭き、さっと箒で畳を掃くとそこに布団を敷いた。
帯を解こうと百合子が苦戦しているのを見て、これまた慣れた手付きで手伝う。
寝間着になった百合子をひょいと抱くと敷いた布団へ寝かせた。
意外に力持ちなのだな、と百合子はうつらうつらとしながら思う。
「お兄様は、お休みにならないの?」
「そうだね、僕はまだやることがあるから――」
「そう、なの――ね――」
最後はほとんどささやきのように小さく掠れた声で瑞人にお休みなさいと言った。
身体が泥のように眠る傍らで、かちゃかちゃと食器を片付ける音、そしてからからと引き戸が開いて瑞人が家を出て行く音が聞こえた。
眠りの奥底の方で、百合子はああ、またどこかへ出かけてしまうのか――と寂しく思った。
けれど、そんな不安を蕩かすように睡魔がゆるゆると百合子を襲う。
この僅かな期間にあった様々な記憶が入り乱れ、駆け足で夢のようにぐるぐるとめぐる。
新しい夜会服、暴漢たちの足音、背の高い傲慢な男、桔梗の香り、父の青い顔、母の悲鳴――。
その夢の最後には何度も何度も同じ男が現れる。
そして男は、悲しい瞳で真実を告げて去っていく。
暗い闇の方へ向かって歩き出すその男を、百合子は必死に走って追いかける。
『その先へ行ってはダメ!私はあなたを――』
けれど、疲れきった百合子の足は上手く回らず、その場に転ぶ。
だから、いつも夢はそこでおしまいだ。夢の続きを見ることはない。
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ぽっかりと目覚める。
むくりと起き上がりぐぐぐと背伸びした。
外はようやく白み始めたばかりで、鳥が何羽か鳴く声が聞こえた。
身体が軽い。すっかりと疲労はどこかへ行ってしまったようだった。
ふと横を見ると瑞人が眠っていた。
ゆめうつつで彼が出かける音を聞いたような気がするが、気のせいだったのだろうか。
いや、金策をしに出かけていたらしい。枕元に金子の入った袋が置かれていた。
百合子は瑞人を起こさないように気を使い、そろりと布団から忍び出る。
出版社の印刷方に回されてからというもの早起きが癖になってしまったようだ。
寝間着を着替え、新しく井戸の水を汲みに出る。
ついでに顔と手と足を洗い、冷たい水をごくごくと飲む。
「ああ、美味しい」
「おや、百合子さん?今日も早いね」
「おはようございます、高遠さんもお早いのね」
「いやいや、僕はね、ただ夜更かしをしていただけなんですよ」
井戸端会議という言葉があるように、井戸へ行くと必ず誰かに会う。
そこでは様々な噂話が飛び交い、今年の野菜の出来具合を聞いたり、流行のファッションを知ったりする。
そうして近所の者と顔なじみになった百合子は、朝早くにはこの高遠という男とよく会った。
すぐ近くに住んでいて、分厚い眼鏡にぼさぼさの髪の毛見た目を気にしない風体により周囲の者からは奇人変人と言われていたが百合子は特に気にすることもなく普通に接していた。
高遠はタバコの匂いをぷうんとさせながら何やら黒く汚れた手と袖を井戸の水で洗った、そして今更気がついたというように百合子の髪を見る。
「あれ?髪を切ったんですか?」
「ええ、気分を変えましたの」
そんな他愛ない世間話をして別れ、水を入れた桶を運んでいると何やら家の前が騒がしい。
嫌な予感がして、小走りにかけるとその予感は的中した。
家の前に一台の自動車が停まっている。此の様な場所に自動車が停まっているのは珍しい光景だ。
「あなたは相変わらずのようですね、義兄さん」
「ああ虫唾が走る。何だいその義兄さんというのは、やめてくれよ」
「百合子さんの幸せを考えたら、協力こそすれ邪険にする必要はないと思いますけどねえ」
「幸せねえ、今は今で十分に兄妹二人で幸せに暮らしているよ。
ほら、今夜もこのように二人川の字になって一緒に寝たのだし」
「な、なんっって破廉恥な!」
「しょうがないじゃないか、家が狭いのだから」
「だから――」
ただでさえ狭い家なのに、存在感も態度も背も大きな斯波と瑞人がお互いを牽制しあうように気を荒立てているので余計に狭く思えた。
ふと見ると、台の上に欠けた茶碗が置いている。
あれは確か瑞人が下手を打って落として欠けた茶碗ではなかったか、
それにお茶ではなく水が入っているところをみると瑞人なりに客人に飲み物を出したのだろうが、あれは完全に嫌がらせである。
「あの、二人とも朝から喧嘩するのはやめてください」
「お姫さん!ああ、やっぱりその髪もあなたに似合うな!
俺の見立て通りだ!」
あれやこれやと雑誌の切り抜きを髪結いに渡して、百合子を差し置いてああでもないこうでもないと口出しすれば斯波の見立て通りにもなるだろう。
瑞人は百合子の髪に手を加えたのが斯波だと分かり面白くない顔を一瞬だけした。
百合子の長い髪を気に入っていた瑞人からしたら恨み骨髄といったところか。
「ああ、百合子おかえり。
朝御飯が出来ているよ。そういう事だから、ね、斯波君」
「おっと、そうそう。俺は百合子さんに仕事の依頼に来たんだ。
あっはっは、やあ、すみませんな義兄さん」
「あら?仕事の依頼ですか?」
「そう、仔細は自動車の中ででもお話しする。
なあに、なんなら朝食も一緒に……」
「いいえ、結構ですわ。でも、お仕事なら急ぎますものね。
お兄様、支度しますから朝御飯はおにぎりにしてくださいな。
斯波さん、自動車が往来の邪魔になってよ、もっと端に寄せてください」
「うん、分かったよ。お前の言うとおりにしようね」
「おっと、これはいかん――では支度が終わるまで自動車で待つとするか」
百合子は二人をとりあえず捌くと、箪笥の中から手帳と万年筆を取り出した。
独自に探偵の理をまとめた手帳だった。
そして出版社でもらった新聞の切り抜きをまとめたものも取り出す。
それらを鞄に入れ、動きやすい洋装に着替えた。
以前の邸から唯一母の形見として持って帰ることのできた手鏡でささっと髪型を整える。
最後に瑞人のお弁当を鞄に詰めると、編み上げたブーツを履く。
「それではお兄様行って参ります」
「ああ、――くれぐれも気をつけて」
心配そうに声をかける瑞人ににこりと微笑み、身を翻す。
そして、斯波の自動車に乗り込んだ。
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<<事件概要>>
令嬢誘拐事件
発生日 4月17日
被害者 田中千鶴子
年齢 ���五歳
発見時 4月19日
場所 山林
死因 絞殺(首をつった状態で発見)
追記 両親は卸問屋を営む。六人兄妹の次女。
要求 17日夕方に身代金要求の手紙。三千七百円の身代金。
受け取りに失敗。以後連絡なし。
特記 最後の目撃情報から女学校の帰宅途中に誘拐されたと思われる。
発生日 4月19日
被害者 山本容子
年齢 十五歳
発見時 4月20日
場所 公園近くの雑木林
死因 殴打されたような痕あり、死因は頸部圧迫による絞殺
追記 両親は酒屋を営む。二人姉妹の長女。
要求 19日夕方に身代金要求の手紙。身代金は三千七百円。
封筒には本人のものと思われる指が入っていた。
受け取り場所に犯人が現れず受け取りに失敗。
特記 最後に目撃されたのは稽古事の舞踊へ通う姿。
教室へ現れなかったため、途中に誘拐されたと思われる。
発生日 4月20日
被害者 新田香代子
年齢 十六歳
発見時 4月21日
場所 川べり
死因 拷問のような痕ああるも直接の死因は絞殺。後に首を切り落とされる。
追記 両親は高利貸しを営む。一人娘。
要求 身代金要求の手紙がくる。三千七百円用意するも以降に連絡なし。
特記 活動写真を見に行くとでかけそのまま帰らず。
発生日 4月22日
被害者 青田香織
年齢 六歳
追記 両親は紡績、貿易商を営む。二人姉妹。
特記 22日昼頃に母親と花やしきへ出かけ、
母親が十数分目を離した時には娘は消えていた。
情報 黒ずくめの格好をした5人組が少女を連れて歩く姿が目撃された。
<<事件概要おわり>>
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「俺の知り合いの貿易商のお嬢さんが行方不明になったんだ。
ほら、今、巷を賑わせているだろ?」
「ええ、令嬢誘拐事件ね」
「そうだ。取引上よく知っている相手でな。
昨日お姫さんと会った後会う用事があったんだが会ってみると あまりに顔色が悪い。
そして急に用事を切り上げて帰ろうとするので問いただしたら娘が帰ってこないというんだ。
ほうぼうに人の手をやって探させているようなんだが、まだ見つからないらしい。
まあ、まだ誘拐と決まったわけでもないんだがな」
「身代金の要求があるとすれば、今日のうちね」
この事件ならば、よく知っている。
百合子は新聞の切り抜きを取り出した。何かの役に立つやもと忙しい合間をぬって色々とまとめていたのが役に立った。
何しろ出版社は色々な人が出入りする。それこそ、記者やら作家やら――。
だから、休憩中の記者からぽろりと話を聞いてしまうことや、伝書鳩の伝聞が漏れ聞こえることはよくあった。
警察から緘口令が出た情報やとても新聞には書けない遺体の状況などもある。
それを作業しながら聞き及んでいたため、下手な記者よりも情報は詳しい。
しばらくして、自動車が停まったのは大きな邸の正門だった。
運転手が門番に二三言喋ると、ぎぎぎと金属音をたてて邸の門が開く。
「まあ、大きな門」
「青田氏は四八歳、青田一族は元々このあたりの庄屋で明治から紡績を始めた。
それが、時代と合致して急成長、青田氏の代から貿易商を始めたそうだ」
「でも、警察はもう呼んでいるのでしょう?私が必要かしら?」
「まあ、実を言うと婦人が相当参っているらしい。
それに婦人とお姫さんの奥方様は元々ご友人だったそうだ」
「そうでしたの。――奥様はさぞお辛いでしょうね……」
推理をしてトリックを解き、犯人を追い詰めることばかりが探偵の仕事ではない。
四六時中警察に護衛され、親族らからは責め立てられ、また自分自身の行動を悔いて泣いているのだろう。
「やれやれ、広い庭だったな。やっと着いたようだ」
長い並木道を自動車で走り抜けて十数分、青田家の邸が現れた。
広大な庭園に噴水、洋風の邸。
百合子が驚きながら建物を見上げる。
すると、邸の窓から一人の少女がこちらを見ていた。
服装や年齢から考えると誘拐された香織の姉の清子だろう。
落ち着いた目付きをしている、目が合い百合子が目礼をするとさっとレースのカーテンを閉めてすうっと部屋の奥へ消えた。
「これは斯波さまお待ちしておりました。――そちらは?」
「俺の知り合いで探偵をしている野宮百合子嬢だ」
「初めまして、野宮百合子と申します。
探偵と言っても状況によりけりで捜査に関わるつもりは御座いませんわ。
ただ、誘拐事件は数回見ておりますので、奥様のお心をお支え出来ればと思いましたの」
明らかに奇異の目を向けられるも、慣れたように付け加えると執事頭はなるほど合点がいったと頷いた。
それと同時に、ふと斯波に不信感を持った。
執事頭の後について廊下を歩きながら、そっと会話する。
「斯波さん、奥様から依頼があったのではなくて?」
「……依頼人は俺ですよ」
どういう意味か、と聞く前に大きな客間に案内された。
そこには警察の人間が数名と、恰幅のよい男性が座っていた。
電話が引かれ、それを囲むよう輪になっている。
その場に不釣合いな二人が現れて、警察の関係者は不信の目を向けて、その内の一人がつかつかと二人に歩み寄った。
黒い制服に身を包み、脇にイギリス式デザインの帽子はさんでいる。
三白眼の黒い瞳がじろりと百合子を見た後に斯波を見上げて鼻で笑う。
「ハッ、あなたが探偵か?」
「いいや、俺はただの付き添いだ。探偵はこちら――」
「野宮百合子です」
「――あなた、が?」
あからさまに侮蔑の濃い声音でそう言うとぱっぱと犬を追い払うように手を振った。
「お遊びじゃないんだ、用がないなら帰ってもらいたい」
「もちろん、お遊びのつもりはないです。
捜査の邪魔はしませんわ。奥様のお側につくだけです」
「聴取ならもうすんでいる」
「聴取するつもりもないわ、ただお側についてお心を和らげてもらいたいだけです」
「ふん、なんだ探偵などというから大仰なと思ったが、それではただの女中ではないか」
「はい、私は目立つ制服でもございませんし、何より身軽なので存分に奥様のお使いをさせていただきます」
警察の制服を着た人間が邸をうろうろしていれば犯人に気づかれるでしょう?という意味を含めてほほえむ。
一見探偵に見えない百合子の容姿は、確かにその点有利といえば有利かもしれない。
そもそも、ほとんど実績のない百合子を怪しむのは当然の事だった。
斯波の紹介とはいえ、令嬢誘拐事件という大きな依頼が来たことに一番驚いたのは百合子自身だったのだ。
不安はあるが、自分に出来る限りの事をなんでもしようと思う。
百合子は深々とお辞儀をして女中の案内で部屋を出る。
途端に斯波がやれやれと深く息を付いた。
「――どうだ。いい加減諦める気になりましたかね」
「やはり、私を諦めさせようと思って連れてきたのね」
「実際手も足も出ないじゃないか、これでよく分かったでしょう」
「私は私が出来ることをやるまでよ」
「全く、どこまでも頑固だな、あなたは――」
呆れたように百合子を見つめた。
その真っ直ぐな視線、初めて出会ったときはその光の強さに怖じ気づいた。
けれど、今の百合子はその目を落ち着いて見返すことができる。
「……はあ、分かった。分かりましたよ。
お姫さんの頑固さは筋金入りだからな」
そう言うとわざとらしくあきらめのため息をついた。
依頼人が斯波なら彼の意向ひとつでこの仕事はなかった事にできるはずだ。
百合子はひとまずほっと胸をなでおろした。
「ただし、俺を助手にすること!それならいいだろう?」
「斯波さんが、助手?」
「ああ、そうだ」
「私の?」
「そう、お姫さんの助手だ」
「ええと、何を手伝ってくださるの?」
「それはまあ……ならず者の手からお姫さんを守ったり、銃弾の盾になったりだな――」
「まあ……。でも、お給金は少ししか出ないわよ?」
「いらん、と言ったら駄々をこねるんだろうな」
「おかしな話、依頼人が助手だなんて」
「今回だけじゃない、今後何かある時は俺を助手で使ってもらいたい」
「……本当は頼ってはいけないと思っていますけど」
「けど?」
「危険手当はつかなくてよ?」
「結構!」
「斯波さん、……よろしくお願いしますね」
そう言うと花がほころぶような笑みを斯波にむける。
その可憐な笑顔に斯波はぎゅんと心臓が縮まり、どくんどくんと高鳴る音が頭に響く。
今にも百合子を抱きしめて接吻したい、いやそれ以上のことも!
「百合子さ――!」
「ん、今のは子供っぽかったかしら?
愛想笑いもなかなか加減が難しいわね……」
びきりと斯波は心臓の止まる音が聞こえた。
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それから婦人の部屋へ案内され、百合子は疲れきった様子の婦人の話し相手をした。
まずは自己紹介をし、母と婦人が友人関係にあったことの話を少しする。
最初は警戒していたようだが、百合子と話をするうちに少しずつうちとけていく。
今は平民へと身をやつしてしまった百合子だが、生まれながら持った気品や教養のある言葉、頭の回転の早さは普通の令嬢とは少し違っていた。
何より、多くの経験は百合子を少しずつだが強い人間にしていた。
「ああ、百合子さんありがとう。少しだけど落ち着いたわ」
「そんな何のお力にもなれませんわ――こんな時だからこそお気をしっかり持ってくださいませ」
「ええ、私がしっかりしなくてはね――私が……」
そう言いながらも婦人は湧き出る泉のように、瞳に涙を浮かべる。
その時突然電話のベルがけたたましい音を立てた。
邸内に緊張がはしる。
ぎゅっと痛いほどに婦人は百合子の手を握った。
冷たくなった指がぶるぶると震えている、浅く呼吸を繰り返す婦人を落ち着かせるようにその手を握り返した。
ほんの数分ほどの沈黙の後、がやがやと部屋の外で人の話し声が聞こえた。
どうなったんだろうと、斯波が外の様子を見に行こうと立ちあがるのと同時にさきほどの警察官が扉を開ける。
「野宮君――君に相談がある」
誘拐犯の犯人は、身代金の金額と受け取り場所を指定する電話をかけてきた。
身代金は五千円、場所は東京駅の構内、そして受け渡し人には青田家の人間を指名したのだ。
婦人、もしくは清子嬢を。
「つまり、私が清子様のかわりに身代金を届ければいいわけですね?」
「ああ」
「俺は断固反対だ!」
「やります」
「お姫さん!」
何を言っているのだと悲鳴のような声をあげる。
確かに年齢も同じころだし、背格好や雰囲気も似ている。
かもじを使って同じ髪型にし、同じ着物を着ればほとんど見分けはつかないはずだ。
「すぐに支度しますわ」
「ありがたい」
女中の部屋を借りて着物を着る。女中たちが手伝ってくれるが着物を着るのは手慣れたものだ。
あっという間に着替え終わると、用意されたかもじをつけて髪留めをする。
とんとんと扉がノックされたので、すぐさまどうぞと声をかけた。
「契約破棄だ!依頼を取り下げる!」
「私が行かなければ誰が行くというの?奥様?それとも清子様?」
「俺は――俺はあなたが危険な目に会うのが嫌なんだ!
どうして、あなたは普通の令嬢のようにじっとしてくれないんだ!
あなたには誰よりも幸せになってほしい、それだけなのに。
どうして自分から危険な事に首をつっこもうとするんだ!!」
「斯波さん……」
爵位を返上したというのに、斯波は相変わらず百合子への求婚を続けた。
どうして、どうして。と斯波は繰り返すが、百合子の方こそどうして彼がこれほどまでに自分に求婚し続けるのかわからない。
「私、自分の幸せくらい自分でつかめるわ」
「俺は、俺があなたを幸せにしたいんだ!
あなたの幸せが、俺の――幸せなんだ!
それなのに、あなたときたら手がぼろぼろになるまで働いて、髪の毛を切って、
あんな小さな家で貧しい物を食べて、今だってそうだ!!」
「……。 私、あなたの気持ちが――ようやく少しだけわかったわ」
どうして百合子に固執するのかは、分からないけれど。
「斯波さん、あなたは私の助手でしょう?
ならず者から私を守ってくださる?雨のように降る銃弾の盾になってくださるのよね?」
「……もちろん」
「ああ、よかった。実は私怖くて少しだけ震えていたの。
でも、斯波さんが私を守ってくれると信じているから、私大丈夫よ」
「あなたは……卑怯な言い方をするんだな」
斯波は百合子を幸せにしたい、という。
百合子もたった一人の男を、幸せにしたいと思った。
「私たち、���だかいつも一方通行ね……」
とんでもないじゃじゃ馬だと斯波は思う。
もっと簡単で阿呆な令嬢だったら、どれだけ楽だったことか。
けれど、そんな百合子は百合子ではない。
斯波は紛れもなく、この頑固でじゃじゃ馬で卑怯な百合子に惹かれているのだ。
商売相手だって、ここまで斯波を困らせたりするものか。
この姫さまだからこそ、斯波をここまで追い詰めることができるのだ。
「ああ、もう、お姫さんに付き合っていると心臓がいくつあっても足りん」
「それじゃあ……」
「あなたは、俺が守る。絶対に」
/-/-/-/-/-/-/
しかし、斯波の決意も虚しく。
あまりにも呆気無く、身代金の受け渡しは滞り無く終わった。
百合子が東京駅の指定された構内で待っていると、
帽子を目深にかぶった男が指示通りの方法で現金入りの鞄を持っていった。
斯波はそこから少し離れたところで、その様子を見守っていた。
青田氏は、現金の受け渡しが上手くいって香織嬢さえ戻れば良いと、
数名の警察官のほかには配備しなかったのだ。
犯人逮捕に躍起になっている警察としては反対意見も出たようだが、何よりこれ以上の犠牲者を出すのも忍びないと最終的には青田氏の判断に任せた。
「本当にお嬢様が帰ってくるといいけど――」
「まあ、身代金は渡したんだ。上手くいくでしょう」
「ええ――」
邸に戻る。
婦人は疲れて休んでいるとのことで、女中に香織嬢の部屋を見せてもらうことになった。
長い廊下を歩く。
「えっと、ここでしたかしら?」
「いえ、そこは空室です。香織お嬢様のお部屋はこちらです」
女中の後に付き、隣の部屋に入る。
何か黴びたような臭いが一瞬鼻についた。
部屋は広く、きちんと片付いていた。
百合子は窓際に近づく。分厚い赤いカーテンを押し広げる。
そこから見える景色は、庭園に噴水そして玄関の入り口あたりだった。
ちょうど青田邸についたときに清子嬢を見たのはこの部屋だったようだ。
「でも、街路樹があってここからでは顔が見えないわ」
どこか簡素な部屋だった。絨毯が敷かれ、天蓋付きの寝台に洋風の箪笥がいくつも並ぶ。
壁にはわざわざ机用の電灯の照明がつけられている。
「何だか寂しい部屋ね――」
この部屋には人形も服も靴も雑誌も――おおよそ少女が喜ぶようなきらきらと光るものが何も無い。
必要最低限の家具しか揃っていないように思えた。
寝台の枕元を手でそっと押す。普通、このくらいの歳の少女ならお人形のひとつやふたつ枕元に飾っていても不思議ではないはずだが。
「あら?斯波さん、そこの電灯を見てくださいます?」
壁につけられた高い位置の照明を軽々と調べる。
「変だな、線が入っていないぞ」
「あなたたち、何をしているの?」
鋭い声に二人は振り返った。
そこに立っていたのは清子だった。
「あなた――そのお着物は私のじゃあないの!」
ものすごい剣幕で百合子を怒鳴りつける。
今後まだ何かの要求があった場合に備えて着物を着たままだったのだ。
「返しなさい!返して!!私のお着物よ!!!」
「清子さん!」
返してと言われてもこの場で裸になるわけにもいかないし――。
斯波もならず者からは百合子を守ると言ったが、相手は令嬢だ。
二人が困り果てていると、女中が間に割って入る。
「清子様!奥様からお部屋を出ないようにとのお言いつけでございましょう?!」
「いやっ!」
「す、すみません。すぐに着替えます!!」
百合子は慌てて香織の部屋を出た。
小走りで女中の部屋に戻り、そそくさと着物を着替えた。
あの様子で、婦人は何も清子に伝えていないのだと分かった。
それからしばらくして、夕方ごろに再び電話が鳴る。
全員が緊張し、このときは百合子と斯波もそろって固唾を飲んで見守った。
『◯×町の空き家へ行け』
それだけ告げると電話はすぐに切れた。
警察がすぐに動く。
指定された空き家で香織嬢は柔らかな毛布にくるまって見つかった。
衣服に乱れはなく、まるで眠っているかのように安らかな死に顔だった。
後頭部に何度も殴打した痕があり、最初の一撃がほとんど致命傷だったようだ。
/-/-/-/-/-/-/
気絶しそうに顔面蒼白になった青田氏に比べ、婦人は覚悟は出来ていたとばかりに強く踏ん張って立っていた。
(私がしっかりしなくては――)
繰り返し言う婦人の姿を思い出す。
百合子は何と声をかけて良いか分からずにいると、婦人は泣きはらした目で百合子に微笑みかけた。
「あなたは、十分にやってくれたわ。百合子さん」
「奥様……」
「本当なら、私が行かなければならなかったのに――」
「そんな、何かのお役に立ちたくて――そう言えば清子お嬢様は大丈夫なのですか?」
百合子は部屋にいるように言いつけられているという清子のことを思い出して聞く。
妹が誘拐され遺体で見つかったのだ、さぞかし衝撃をうけていることだろう。
「ええ、あの子もきっとショックを受けているわ」
清子の話題を出すとこらえきれずに涙をはらはらと流した。
いけないわ、と婦人はハンカチを取り出す。
そこには香織のバレッタがくるまれていた。
「香織お嬢様のバレッタですわね」
「ええ、――いえ、本当は清子のなんだけど、あの子がどうしてもと欲しがったの」
「お手元に戻ってきてよかったですわ、宝石は意思を持つといいますもの」
「そう、そうね――」
婦人は急に真面目な顔になって頷いた。
「そのバレッタ――」
血が付いている。
花やしきで香織が行方が分からなくなったときに拾ったと言っていたが、
なぜ血がついているのだろうか――。
香織は最初の一撃で致命傷になるほどの傷を負った。
ではその時、香織はそのバレッタをつけていたのだ。
「お姫さん、自動車の準備が出来た。後は警察にまかせよう」
「……ええ、でも」
「いいのよ、百合子さん。ありがとう――本当に」
婦人が百合子に微笑む。
どこか、苦しげなその表情。
百合子は何かをいいかけるが、ぐっと耐えて婦人に一礼した。
「全く、後味の悪い」
百合子はもう一度、青田の大きな邸を見上げた。
自動車のエンジンがかかり、ぶるんと音を立てて動き出す。
ゆっくりと車窓の景色が変わる。
最後にもう一度、香織の部屋の窓を見た。
レースのカーテンがひらひらと揺れている、今はもうそこには誰もいない。
香織も――清子も……。
次第に景色は街路樹に移り変わっていく。
(街路樹……)
その言葉をきっかけに、さまざまな鍵がかちりかちりと音をたてて思考の錠前を開いて行く。
前の3件とはあまりに手口の違う今度の誘拐事件。
ああ、全て明らかになった。
――それなのに百合子の心はひとつも晴れなかった。
「斯波さん。――私、今回の事件の犯人が分かってしまったの」
「……は?」
「今、このお邸を離れてしまえばきっともう間に合わないわ。
真実を明らかにしたほうが、良いのかしら――」
「何を迷うことがある、あなたは探偵なんだろう?」
「――そう、そうね。すみません、もう一度邸に戻ってくださる?」
百合子は運転手に告げる。
ぐるりと広い庭を一周して、再び自動車は青田家の邸の前に停まった。
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ひ、ふ、み、よ、いつ……。
清子は手の平のパールを数える。
汚らしい赤黒い染みを一心不乱に拭きとり、大事にハンカチの上に並べる。
ひ、ふ、み、よ、いつ……。
全てのパールが整然と一糸の乱れもなく、まっすぐに並んでいる。
ひとつの粒がころりと横にはみ出ると、清子は慌ててそれを列に戻す。
何かが歪んでいる事が許せない、きちんとあるべき場所にないと、不安で仕方がない。
清子の部屋は異常なまでに整理整頓されていた。
沢山の宝石たちは、色によって分別され、きっちりとしまわれている。
寝台のシーツの上の皺の一筋、自分の髪の毛の一本ですら気になって仕方がない。
鏡に着いたひとつの指紋だって、靴の底につく泥だって許せない。
何かあればすぐに女中を呼んで気が済むまで掃除をさせる。
母親は清子の事を綺麗好きとよく言っていたが、女中たちは極度の潔癖症で神経衰弱だと陰口を叩いていた。
ひ、ふ、み、よ、いつ……。
パールを指でつまんで並べていく。
じりりりりとけたたましい音をたてて電話の鳴るのが聞こえた。
ぴ、と小指が先ほど並べたパールを弾く。
清子はいらいらしてそれを元の位置に戻した。
香織が行方不明になってから、ずっと清子は部屋に閉じ込められている。
――香織。
六歳の妹はそれはそれは両親に愛されていた。
何でも清子の真似をして、あれがほしいこれがほしいと清子の持ち物をねだ��。
母は少しくらいかしてやりなさいと清子に言うが、清子は絶対に嫌だった。
全て、自分のものだ。他人に触られるのなど耐えられない。
(ああ、足りない!足りない!足りない!!)
いくら数えて並べてみても、パールが一つ足りないのだ。
そのことが、清子をひどく不安にさせる。
なんども、香織の部屋を調べてみたがそれでも見つからない。
女中に探させるがひとつも見つからない、その様子をみて母は清子を部屋に閉じ込めた。
それでも、清子は抜けだして何度も香織の部屋を探す。
こんなことになったのも、全て香織のせいだ。
あの子が、清子のバレッタがほしいと泣かなければこんな事にはならなかった。
両親は香織のことを天使だ天使だ、と可愛がったが清子は忌々しい悪魔のようにさえ思う。
「姉さま、私にもそのバレッタをつけさせてくださいな」
「……嫌よ」
「お母様!姉さまがいじわるをするのよ!」
「清子さん、少しぐらい貸してあげなさいな」
「嫌」
「清子さん!あなたはお姉さんなんだから、少しくらいは我慢なさい!!」
本当に嫌だったのだが、清子は渋々バレッタを香織に貸した。
嫌味なほど、そのバレッタは香織によく似合った。
「みてみて、お父様も可愛いと褒めてくださったのよ」
「ではもう良いでしょう?早く返して」
「いやっ。もうちょっと付けておくの!」
「私は、少し貸してあげただけよ」
「ふん、何よ。お姉さまのケチ!!私のほうが似合っているのに!」
「似あってなんかないわ!私のバレッタだもの!!」
「いいえ、皆私に似合っていると言ってくれたわ!
みんな、私が可愛い、可愛いって!!!」
「返してよ!」
清子はかっとなり、香織のバレッタに手をかけた。
香織がもがき、次の瞬間ピンと音をたててパールが散った。
「あっ!」
ぱらぱらぱらと小雨の降るような音がしてパールが絨毯に飛び散る。
「私のせいじゃないわ!お姉さまが壊したのよ!お姉さまが悪いの!!
お母様!お母様!!お姉さまが――」
憎しみのような怒りのようなものがぐらぐらと湧き、それが清子の精神を突き抜ける。
爆発しそうな心臓が、一瞬だけ、わっと騒ぐと清子はドイツ製のくるみ割り人形でもって香織を殴っていた。
泣き喚く声に更にいらだちがつのり、何度も何度もその声が聞こえなくなるまで香織を殴り続けた。
血が壁に絨毯に飛び散り、どくどくと香織の頭から流れでる血の海に清子のバレッタがぷかぷかと浮かぶ。
ひ、ふ、み、よ……。
女中が部屋の中へ入ったときには、清子は散ってしまったパールをひとつひとつ丁寧に拾っているところだった。
/-/-/-/-/-/-/
さて、と。
百合子は青田氏、婦人、警察官、清子そして斯波を集めた部屋で切り出した。
「今回の誘拐事件は、今まで新聞で騒がれていた事件とは全く別の事件です。
まず、誘拐の状況、手口、令嬢の年齢、発見されたときの状況、死因などからそれが分かります」
「と、言うと?」
そう口を挟んだのは警察の男だった。
「前の三件は明らかに同じ犯人による犯行ですわ。
三件とも共通する所があります。
例えば、誘拐されたお嬢さんの年齢、誘拐方法、直接の死因、死体の状況――」
そう言われて斯波はどうだったかな、と考え込む。
「確かに、今回の香織嬢はまだ六歳。他の三人と比べると幼すぎる。
それに前の三人は一人のところを誘拐されているが、今回は婦人と二人のところ。
死因は絞殺、今回は頭部挫傷による失血死。
三人が山林や川べりに打ち捨てられていたのに比べ、空き家で毛布にくるまって見つかった――か」
「他の三人はまるで塵のように辱められて捨てられていたのに、
今回のお嬢様はまるでいたわるように眠るように毛布にくるまれていました」
「それが、何だというんだ――」
「後悔の現れです。少なくとも、お嬢様を空き家に置いた人はとてもお嬢様を愛していた。
だから、死体なのにまるで眠った赤子のように丁寧に扱っていたんです」
寒くないように、寂しくないように、と。
「奥様。花やしきで十数分目を離した――と言いましたよね」
「……ええ」
「新聞でも人々の噂の間でももちきりなのが、この令嬢誘拐事件。
誰もがわが子を誘拐されやしないかと心配しているハズですわ。
そんな中で奥様はお嬢様から目を離された……十数分も」
「それは――それは、あの、お手洗いに……」
「それに、確か目撃情報もあったのですよね?」
「黒ずくめの男が香織嬢らしき少女を連れ去っていたのを見た――というのがあるそうですな」
「ええ、そう。そうですわ」
真昼の花やしき。
親子連れがわいわいと騒がしい――。
「先程申し上げたように今、人々は誘拐だとか人攫いだとかという言葉にはいつも以上に敏感になっていると思うんです。
だからそのようにあからさまに怪しげな格好をした輩などがうろついていたらもっと目撃情報があってもよさそうなものです。
それなのに、目撃情報はたったの一件だけ」
「……」
「そして、香織お嬢様の死因は頭部挫傷による失血死――
奥様にお嬢様のバレッタを見せていただいたときに、あれ?と思ったんです」
百合子はもう一度、バレッタを見せてほしいと婦人に乞う。
「わずかですが、血がこびりついているでしょう?
おそらく香織お嬢様は、誰かに殴られたときにこのバレッタを付けていたんです」
「先ほど百合子さんが言ったとおり、香織嬢の死因は脳挫傷。
すでに血がついているということは、花やしきのどこかで殴り殺された――という事になるな」
「昼日中の花やしきで、黒ずくめの男達が少女を攫い、さらにそのどこかでで殴り殺していた――」
警官の男が眉根を寄せて唸る。
なにもかもちぐはぐに思えた。
「そうなると目撃情報もどこかおかしいな、ということになるんです」
「そうですね、確か少女を連れ歩いているのを見た。と言った。
目撃場所とバレッタを拾ったという場所を鑑みても――この証言は嘘であると分かる。
場所から考えてすでにお嬢様は殴り殺されていた後だと思われる、証言は”抱えられていた”とか”背負われていた”となるべきだ」
「つまり、婦人の証言は嘘だと――?」
「少なくとも、香織お嬢様は花やしきには行っていないと思います」
青田氏が驚いたように婦人を見る。
婦人はぎゅっと手を握りしめてうつむいていた。
「敏子――。なぜ、なぜそんな嘘を――」
喘ぐように言葉を搾り出す。
婦人は意を決したように顔をあげた。
「そう、私……私、嘘を、つきました。
香織は不慮の事故で死んでしまったのです!か、階段から落ちて……。
だから、私、怖くなって、ちょうど今起きている誘拐事件のせいにしてしまおうと――」
「ええ、誘拐事件に見せかけたのはご婦人の知恵でしょう。
けれど頭の傷をみてもあれはどう見ても階段から落ちた怪我ではありませんわ」
「――や、止めて!わ、私が殺したの!娘を……香織を殴り殺したのは私よ!!」
「敏子――」
悲鳴のような泣き声をあげて婦人は崩れ落ちた。
それを支えるように青田氏が抱えた。
すくっと百合子は立つ。
「皆様、香織お嬢様のお部屋に参りましょう」
百合子の言葉にしたがって、全員香織の部屋に着く。
その時、青田氏は呆然と部屋を見渡し――何かを言いかけて口を噤む。
「ここが、香織お嬢様のお部屋ですわよね」
「ええ、そう――です」
こつこつと窓際に寄る。赤いカーテンをさっと開くとそこに夕暮れの庭が広がった。
「このお部屋に入ったときに、つんと黴の臭いがしました。
それに生活感のない家具、寝台、絨毯――」
「この壁照明も線が入っていないようだ」
「女中の方は、隣が空室だと言っていました。
けれど、本当の空室はこちらの方。
お嬢様の本当のお部屋がこそが、隣の空室なのではないでしょうか」
「いいえ、いいえ!」
「奥様、失礼させていただきますわね」
百合子はそのまま隣の部屋へ向かう。
がちゃがちゃとドアノブを回すが、鍵がかかっていて開かない。
「青田さん、鍵を開けてもらえるか?」
斯波がそう言うと、女中に目配せをする。
青田氏もだいたいの事情は飲み込めてきているようだった。
扉が開いて、中の空気が流れる。
鼻をツンとつく刺激臭は、漂白剤か洗剤の香りだった。
ぱちりと照明をつけると、そこには可愛らしい少女の部屋があった。
沢山のぬいぐるみや人形、雑誌や、宝石入れのブリキ缶――。
絨毯は取り払われているが、その布張りの床に赤茶色にのこる血の染みがうっすらと見て取れる。
壁紙にも血しぶきを拭いた痕が点々と残っていた。
百合子はまた窓際に近寄り、白いレースのカーテンを開いた。
隣の部屋は街路樹で目隠しになっていたが、この部屋ならば庭を走る自動車が見える。
そう、邸に来たときに清子をみた窓は、ここだったのだ。
「清子様、このお部屋に入っておられましたよね」
「いいえ、こんな部屋一度も入っていないわ」
つん、と清子はそっぽを向く。
「いろいろな方にお聞きしました。
バレッタは元々は清子様の物だった――と」
「そうよ!それをあの子が盗ったのよ!」
ぎりりと悔しそうに歯ぎしりをする。
「でも、戻ってきたじゃあありませんか」
「いいえ!!壊れている、壊れているでしょう!
パールがなくなってしまったもの!!」
「いくつ足りないのですか?」
「ひとつ、あとひとつよ!!
あと、たったのひとつなのに……」
百合子は洋装のポケットからハンカチを取り出す。
ゆっくりと清子に歩み寄り、そのハンカチを開いた。
「最後のおひとつです。
発見した香織お嬢様の首もとにありましたわ」
「ああ!私のパール!!」
清子はそれをゆっくりとつまみ上げる。
そして、百合子をみてにこりと微笑んだ。
「ああ、これでもう大丈夫。ようやく最後の一粒が見つかったのよ」
ひ、ふ、み、よ、いつ……。
清子は心のそこから安堵したように、真珠を手のひらで包む。
「これはお父様からいただいた大切なバレッタなの。
香織がバラバラにしてしまったから、私すごくすごく悲しかったのよ」
「――ええ、見つかってようございましたわ」
百合子は本当に心のそこからそう言うと、清子の手を包んで微笑んだ。
清子は今までにないほどの、優しげな微笑みを百合子にむけた。
/-/-/-/-/-/-/
「牛鍋――いや、たまには、はま鍋はどうだ?お姫さん」
「いいえ、お兄様が夕ごはんを作って待っているので」
「なんだ、俺の給金で奢ってさし上げようと思ったのに。
――ああ、そこの店の前で止めてくれ」
斯波は急いで自動車からおりると、紙に包まれたものを抱えていた。
なに、ちょっとした手土産ですよ、と笑う。
青田夫妻は百合子に多額の依頼料を渡そうとした。
あまりの大金におそろしくて返そうとするが、斯波は口止め料も入っているのだから受け取れと促した。
そんなものなくても何もしゃべりはしないと百合子は言ったが、それでも引かなかったので恐ろしいほどの大金も手にしてしまっていた。
斯波が謝礼ですと封筒を差し出す、ずっしりとした重みに百合子は目を剥いた。
「こ、こんなに――?!」
「お姫さんを騙して諦めさせようとした非礼も詫びる意味でもな」
「では、助手の斯波さんに半分――」
「もう半分引いている」
「半分引いて、この金額なの?!」
「青田氏のと俺の両方合わせたら引越し費用ぐらいにはなる」
「引越し費用どころかちょっとした家が建つわ……」
「ああ、それはいい案だ!ぜひ、そうしてもらいたい!」
「……おそろしいわ、こんな大金を家に置いておくなんて……」
泥棒にでもはいられはしないかしら、と不安になる。
しかし、あの家をみれば貧乏は火を見るよりも明らかなので泥棒も家を選ぶから安心か……。
そんなことを考えていると、自動車が家の前に停まった。
「ああ、百合子!おかえり、怪我はないかい?」
「ええ、大丈夫よお兄様」
「僕はもう心配で心配で――」
瑞人が百合子を抱きしめながら、頬を引っ張ってみたり髪をすいてみたり体中を触ってみたりと百合子を検分する。
その様子を忌々しげに斯波が睨んでいると、百合子を胸の中に抱きしめながら瑞人も斯波を睨み返す。
「おや、斯波君。いたの?――もう君の用事はすんだだろう?さっさとお帰りよ」
「お、お兄様。斯波さんもお兄様のご飯を食べたいとおっしゃってるの」
「ふうん、僕の料理をねえ――そうそう、今日は牛鍋だよ。
ああ、残念だけど斯波君の分まで材料はないからね」
「やあ、奇遇ですな義兄さん。ちょうどここに上物の牛肉がありましてね」
「だから、その義兄さんというのは……」
「ま、まあまあお二人とも、ね?三人で食べましょうよ」
「この男の箸がつついた鍋など、僕は食べられないね」
「そうですか、ではお姫さん。俺と二人で鍋をつつきあおうじゃないか」
斯波がぱちりと片目をつむってみせると、瑞人の眉間にしわが寄る。
「本当に懲りない男だね、君は」
「妹離れできない義兄さんに言われたくないですな」
二人揃って、ははは、と笑うと再び鋭い目で睨み合う。
(喧嘩するほど仲がいいとは、こういうことを言うのね――)
その後3人は狭い家の中で一つの鍋をつついた。
やれ肉が煮えただの、やれ野菜を食べろだのと二人の鍋奉行は百合子に次々と食材を食べさせる。
百合子がもうお腹がいっぱいだと告げると、だから痩せているのだ!とか血色が悪い!とか言い始めた。
/-/-/-/-/-/-/
百合子は布団に横になった。
そして、今日の斯波の言葉を思い出す。
俺は、俺があなたを幸せにしたいんだ!
あなたの幸せが、俺の――幸せなんだ!
(真島――)
百合子は久しぶりに、その名前を呼んだ。
名を呼べば、不思議と涙が溢れてくる。
何も考えられないほど忙しく働いて、気を紛らわし、ずっと思い出さないようにしていた。
(お前は今どうしているの?)
ゆっくりと眼を閉じる。
この僅かな期間にあった様々な記憶が入り乱れ、駆け足で夢のようにぐるぐるとめぐる。
新しい夜会服、暴漢たちの足音、背の高い傲慢な男、桔梗の香り、父の青い顔、母の悲鳴――。
その夢の最後には何度も何度も同じ男が現れる。
そして男は、悲しい瞳で真実を告げて去っていく。
暗い闇の方へ向かって歩き出すその男を、百合子は必死に走って追いかける。
『その先へ行ってはダメ!私はあなたを――』
不思議だ。
いつもの夢ならば、ここで百合子は足がもつれて転んでしまうのに。
今日の百合子は、そうはならずにずっと男を追いかけている。
もう、令嬢ではない、か弱い姫様でもない。
働くことを知り、自分自身の足で歩き始めているただの百合子だ。
夢のなかですら、言えなかった。
ずっと、言葉にする資格もないと思っていた――けれど今は言える。
『私はあなたを幸せにしたい!
私が、あなたを幸せにするんだから!!』
その言葉を、ようやく百合子は言うことが出来た。
(あなたには――無理ですよ)
真島は暗く笑う。諦めたような笑顔で。
『無理じゃないわ、無理じゃない!
待っててごらんなさい、絶対に、お前を見つけてやるのだから!』
百合子は真島を抱きしめる。
彼は弱々しく微笑むと、すうっと闇の中へ消えていった。
それから、もう二度と真島の夢をみることはなくなった。
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烏頭與附子,亡陽人需要使用野生的生草烏?
一则关于附子(草乌)的神奇故事!
他姓陳今年約八十,他從小認識草藥,中年間有一段時間是專門采草藥供公社與大隊醫療使用。
他的一生都與大山有關與草藥有關,就現在也常去山裏采藥。
他把對草烏的所見所用及他們的認識及書中沒有的方法告訴了我:他那個地方山上很會長草烏。村莊裏的大多都認識草烏,有好幾個人因吃生草烏而死亡(我也去問過幾個他們的親屬,說了一些吃草烏後死亡的事)。
他親眼所見的。他們為什麼會去吃草烏中毒呢。
原因很簡單,很多人都知道草烏是很好的治傷藥。
也見過有人因受嚴重的外傷快不行了,後用草烏而得活,得完全康復。這事流傳開很多人都知道。他們當中很多人都沒文化,都不知草烏的藥性。用草烏的一些細節全然不知。在他們那裏大多人都是在深山老林裏燒木炭或是砍伐的。在野外手足受傷是常見的事。有的人受了一點不重的外傷,或當時有點痛。一看邊上正好長了草烏,隨手拿來。看那小小的草烏,一點都不怕,就一下把草烏吃下去。
因為野生草烏長的不大,吃的太快,一下吃下二個,吃下不多時就說不出話(幾秒或幾十秒),無法叫人來幫,全身無力(土話說是吃醉了,神識開始不清,進入昏迷不醒的狀態之中),繼而全身開始僵直,人發脹,再者身體發紫發黑(死亡之色),此時如果身邊有人知道搶救之法是不會死的,很快就會活過來。
民間治草烏中毒方法非常簡單,就是看見有人服草烏中毒還沒斷氣,身體沒完全硬化。救治者馬上對那患者,全身進行快速猛力的拍打(這打是有分寸的,不能往死裏打這點要明白),也可選用木竹片來打。打法從上往下,頭不要打的太重,四肢可重點打。不久紫黑色就會退去,人會醒過來。用這古老之法多可活人。
這種中毒現象與我們今天書中的記述很不一樣,陳老先生也說了他自己吃草烏中毒的經過。在年青時在山中燒木炭(一去就要十天半月或幾個月不回家隹在山中),有一次砍樹時,腳踝被打傷,一拐一拐還可走。山中無人來幫他。又還要再幹活,心一急看見身過長有草烏,撥來就吃下一個,不多時舌頭變的很厚,不能言。他急忙跑到一山泉邊,拼命喝水漱口,因泉水不大,水搞的很渾,水變成了泥漿水。他不管,一個勁地喝水漱口,不多時草烏中毒消失。他不知泥漿水可解毒。
他們那些人記憶、視力、聽力、體力都非常好(今日之人無法與其相比),在山裏走路非常快,幾乎我都很難跟上。陳老先生身高才1米6多點,體重也就是1百20斤左右,在山中可挑物2一3百多斤,平地可挑4至5百斤。
他還將他少年時見到一件事告訴我:他們家住的地方是高山,周邊有很多大光石頭山,少時一夥小孩會拾一些石頭到山頂,從山頂把石頭滾下山好玩。可是有一天小夥伴滾下的小石頭,正好打在一姑娘(十八歲)的頭上,當下打昏在地。後被人發現抬回家,用門板放在大門外邊。是他的鄰居。姑娘昏迷不醒,頭上流血,臉腫的很大。村人很多來看,都沒辦法。以為會死,所以只放在屋外。此時正好有一外鄉的老者打這經過。一看圍觀的人。一問知是有人受傷快死了。他叫人走開,上前用手放在姑娘的鼻口上,說還有氣。用手看了一下頭,說頭骨裂開好幾塊。此時有人認出他是這一地區出名的治傷醫。請他出手,他說好。他對其家人說,用這藥有毒,用了病人會反應有救,沒反應則無救治,若救治不起你們不要怪罪。家人與村人都說老先生你大膽治,如真治不好也不會半點怪罪(醫生為什麼要這樣說,這怕有人不憑良心,萬一沒治好被人怪。他又何必呢)於是叫人拿來一小匙根,隨身解下藥來,用湯匙裝滿,叫人幫忙把患者嘴搞開,用水緩緩灌下。後對他們說,明日患者會醒來。再來找他。隨後離開這村。次日患者醒來,想要吃的。人們趕快把老先生請來。老先生就用昨日的藥粉再灌満満的兩湯匙。村人叫老先生留下,就住在陳老先生的家。因為與其是遠親,也就是說他外婆家的親戚。就這樣每日兩到三湯匙的藥粉。七天後老先生回家,留下了包好約一個月的藥粉。對他們說按這方法服藥。病不久會好。老先生走後,姑娘按其說每日服藥粉一包,陳老先生與姑娘家是隔壁,常會去看,幾天後姑娘的口與鼻孔,會不斷的有碎骨掉下來,一月後其頭骨完全長密與原來一樣。去幹活身體比以前更壯,更有力。我問她後來怎樣,他說嫁人生了好幾個孩子。我問。這老先生的藥這麼好你知道嗎。他說老先生在他家住的時候對他說,這是草烏曬乾磨成的粉。用時一定要注意,傷重之人可服,先吃半湯匙,吃後口不麻量逐步可增到二至三湯匙。吃了覺嘴會有點麻,藥量逐步減下來。這分寸一定要把握好,輕傷與沒傷的人不能吃這樣多的草烏,吃了會中毒會死人。
草烏治傷很多村民都知道。就是因為分寸沒把握好,致不少人中毒。有人會問那一湯匙的草烏量有多少,百姓家過去用的那種湯匙較現在的大,估計那一湯匙的草烏量可能約有5至10克。
聽了上述之講,發現有的人服一點草烏就送命,有的人吃了很多的草烏卻得到了新的生命。這是為什麼,值得人們好好想一想。民間用生草烏治病的方法還有不少,如果是外用的可治骨刺、骨傷及一切損傷、等等。也可參閱李時珍【本草綱目】草烏篇,內服的也有與一般藥服法不同,略講一點,有人把生草烏的複方入陶瓷罐中加入高度白酒用炭灰火煨煮開,馬上拿出,冷後密封,埋入潔淨的黃土地中,兩天後用(也有七天或更多天的)。說這樣做吸陰氣可退草烏毒,每日按一定量服用,治風濕痛效果都很好,看不少人服用,沒人中毒。在一些資枓上看有人用川草烏煮酒服,治風痛而中毒。其不得法也。
在這裏要鄭重的說,一般人絕對不要輕用草烏。我今日說的是真實的歷史故事。草烏神奇潔白純正的一面人知太少。人們因自身的過失,用草烏不當造成的後果,罪過歸於草烏。是不公正的。草烏是難得的好藥,治傷與治一些頑症都非常的優秀。用生草烏治病,用量要把握好,不要太多,但一定要野生的,人工種的無法替代。目前野生藥源已很少。采藥時最好秋末冬初,或早春。其他時采的品質都不好,內會空,是浪費藥源。草烏如保管不當很會長蟲,長的是小黑色的甲殼蟲。會把草烏吃光。為什麼這蟲吃草烏不中毒。而人吃不好會中毒?草烏中毒之解法可參附子中毒的解救方法。
以上就烏頭的認識及使用談了一點看法。所知只是一點點,不足之處請多指正。在此沒有半點想法,叫人們大力用附子。更不敢叫人們冒著生命危險去用生草烏。我只想告訴人們,藥無好壞上下之分。只是當用則用,不當用則不用。莊子,日:“藥也,其實堇也,桔梗也,雞雍也,豕零也,是時為帝也,何可勝言!”
關于〝堇〞,應為〝蓳〞,也就是烏頭之使用請參見:张仲景在【金匮要略】中的附子单用明方——大烏頭煎!本人之回文。
注:烏頭苗名蓳。陶弘景曰:天雄似附子,細而長,乃至三四寸許,此與烏頭、附子三種,本出建平,故謂之三建。三建湯用烏頭、附子、天雄。
唐.蘇恭(蘇敬)曰:陶弘景以烏頭、附子、天雄三物俱出建平,故名之者,非也,烏頭苗名蓳,蓳音靳,爾雅云芨蓳草是也。今訛蓳為建,遂以建平譯之矣。
三建湯:治元陽素虛,寒邪外攻,手足厥冷,大小便滑數,小便白渾,六脈沉微,除固冷,扶元氣及傷寒陰毒。用烏頭、附子、天雄并炮裂,去皮臍,等分㕮咀。每服四錢,水二盞,薑十五片,煎八分溫服。《肘後方》
三建湯從其本出一物來看,無非即是單獨使用附子之歷史上之前例。所治之症,亦無非即為手淫亡陽證。請參見:三建湯就是獨附湯,就是歷史上單獨使用附子的先例!附子單一藥效的發現,是古中國人驚世駭俗的偉大發明!
此前我僅知外用浸漬草烏能治香港腳、腳臭、腳濕非常有效,內服能治嚴重創傷乃第一次聽聞,不過,據本人長年長期實際使用附子的經驗,非使用草烏,附子內服具有非常優異的消炎、凝血與抗凝血、癒合創口修復組織與抑制蜂窩性組織炎的作用,易言之,提振與或振興陽氣對於開刀或創傷發炎有著類似金創藥物拮抗感染加速癒合的療效,以此思維角度來看,恐怕附子具有療治嚴重創傷的隱藏版功效亦未可知!?無論如何,大家使用劇毒草烏頭尤須格外萬分謹慎!!
《神農本草經》對于附子具癒合金創傷口之運用,注意!非使用草烏。下面另有詳細論述。
张仲景在【金匮要略】中的附子单用明方——大烏頭煎!
大烏頭煎
此方出自張仲景【金匱要略】書中。腹滿寒疝宿食證第十篇,第十六節:“腹痛,脈弦而緊,弦則衛氣不行,即惡寒,緊則不欲食,邪正相博,即為寒疝繞臍痛,若發則自汗出,手足厥泠,其脈沉弦者,大烏頭煎主之。”
大烏頭煎方:
烏頭大者五枚(熬去皮,不嚼咀),右以水三升,煮取一升,去滓,內蜜二升,煎令水氣盡,取二升,強人服七合,不差,明日更服,不可日再服。
對此條文先從文義進行分析:
說的是症狀:特點是,腹滿,惡寒,不欲食,寒疝繞臍痛,若發自汗出(病發痛難忍,為痛汗),手足厥冷。
說的是脈象:脈弦而緊,或脈沉弦。弦、緊、沉皆為陰寒脈象,是應病而變生,何病生何脈,醫者診之,知何脈何病生,此細微之對應變化不可不用心辨之。
說的是邪正與脈之症狀的關係:弦則衛氣不行,衛陽虛也。緊則不欲食,寒入中也,邪正相博。交感之爭。
選方藥,用量大者烏頭五枚,(為什麼不說重量,以枚做為重量單位。大者:多少大,大到什麼標準沒說,可能獨身烏頭。長要5至7公分左右的才能說大,直徑也要三公分左右,每枚重量是,20克,還是30克,還是50沒具體說)炮製方法,生用熬去皮,不嚼咀。
煮藥方法:水三升,煮取一升,去滓,加入蜜二升,煎令水氣盡,取二升,(這裏提示水的用量,就是煮藥的時間)。
服藥方法,強人服七合,不差,明日更服。是不同體質用量的說明(也就是說弱者服量要更少)。
內蜂蜜二升,一是解烏頭之毒素。二是其緩其性,以甘和之。祛邪扶正。防虛虛之變。
將上條文大體分析後,此病的關鍵之因是寒邪侵入人體陰邪凝結所至。
為陰勝陽虛衛氣不行。
寒是病之因。
痛,腹滿,不欲食,自汗出,手足厥冷等現象,或脈弦緊,沉弦皆為病之果。
是病的外在現象。病脈症治,
治之主用辛溫、通陽、通經之方藥,此為治該一類型陰寒凝固之病的思惟方法。
大烏頭煎主之。何謂:“主之”在張仲景的書中常見。
這指明了治病、選方、用藥的方向。凡這類寒病辛溫之法不能變,但你可靈活地選擇這類溫��。
其中說法有學問,有來頭,內含深遂。
此為母方,也為開源之法,運用十分靈活多變,不拘一格,不可拘泥。
要明其深義。臨證方可心中明瞭,明病用方,病變方法變,藥法對應生,
知病,知法,知方,知藥。
用時不亂,應於萬變之中,則百戰不殆!
烏頭乃附子之母,也就是附子的母根,大烏頭煎其實就是單用烏頭,單用附子或霹靂散是用其子根,兩者一用其母,一用其子,皆單用一物,亦即皆是單方,皆能破寒冷積聚,直達病所,古人合稱烏、附,皆用于陰毒陰證,寒毒厥逆。霹靂散與大烏頭煎一樣,皆以蜂蜜制其毒。不過,早年本人幾經實驗,蜂蜜不但解不了烏附之毒。蜂蜜水,甚至反而能加速毒性蔓延,因為水能帶動毒性進入血液迅疾迴圈全身。除了大烏頭煎,玉女散亦以單味川烏為方,見之于《陰證略例》。提盆散則用單味生草烏。
附子〝補命門而救陽虛,除心腹腰膝冷痛,開肢體痹濕痿弱…救寒疝引痛欲死〞《本經逢原》;烏頭〝搜風入骨,濕痹寒疼,主中風,惡風,洗洗出汗〞〝烏頭尖能吐風痰以治癲癇,取其直達病所〞〝烏頭性輕逐風,不似附子性重逐寒〞《本草求真》
烏頭與附子皆有單味科學中藥販售,兩者療效相近,早年本人亦曾加以對照反覆實驗,附子能補火回陽壯陽,烏頭(川烏)則無回陽壯盛老二之功,雖曰能治〝發則白汗出〞。〝白汗者,冷汗也〞《金匱要略直解》。易言之,能起到性致勃發的只有附子。附子可以替代烏頭,烏頭卻不能代替附子。
注:〝寒疝繞臍痛,若發則白汗出〞一般《金匱要略》版本皆言白汗,而非樓主所述的自汗。但白汗也可能是自汗傳抄之誤。〝白汗者,囊(丸)中冷濕,出陰汗也〞《金匱要略廣注校詮》睪丸濕冷出陰汗,或冷汗,恐怕與寢汗(盜汗)、自汗出如流水不斂之亡陽汗亦不盡相同。
眠熟而汗出者,曰盜汗,又名寢汗,不因動作勞力而汗,不分坐臥動靜而汗者,曰自汗。冷汗自出,自汗不止〝汗出如膠之粘,如珠之凝,及淋漓如雨,揩拭不逮者,難治。〞《秘傳證治要訣及類方》即是亡陽汗。
請參見:手淫亡陽論(二)
單用附子不成“方”的迷思。
“藥有陰陽配合……有單行者,有相須者,有相使者,有相畏者,有相惡者,有相反者,有相殺者,凡此七情,合和視之。”《神農本草經》
所謂單行就是只使用單味一種藥,無需其他藥物輔佐,單用一味。
“…..能知以物制氣,一病只須一物之到,而病自已,不煩右臣佐使之煩勞矣。…”明末‧ 吳又可。
“….奇方之說有二,有古之單方之奇方,獨用一物是也…。”金‧張子和。
“….奇方之說有二,有古之單行之奇方者,為獨一物是也;有病近而宜用奇方者…。”金‧劉完素《素問病機氣宜保命集》
附子飲子、霹靂散、獨參湯、金液丹、文蛤散、一物瓜蒂湯、甘草散(湯)《 傷寒論》、一甲煎《溫病條辨》、雪梨漿《溫病條辨》、獨勝散《溫病條辨》、獨聖散《素問病機氣宜保命集》、牛乳飲《溫病條辨》、鐵腳丸《黃帝素問宣明論方》、潤肺散《黃帝素問宣明論方》、大烏頭煎《金匱要略》、獺肝丸《肘後方》、澀精金鎖丹《中藏經》、甘草湯《中藏經》、提盆散(單用生草烏)、玉女散(單用川烏)、運陽散(單用硫磺)《陰證略例》…皆是單方。
〝陰毒證:陰毒,脈沉微欲絕,四肢逆冷,大躁而渴不止(消渴),附子飲子。(附子飲方)
附子一枚,半兩以上者,炮,去皮尖,四破。以水九升,煎至三升(久煎水解毒性),去附子,入瓶,油單緊封沉井底,候極冷,取飲之。仍下硫黃丸甚妙。
陰毒之為病,因汗下藥性冷所變,多在四五日也;或素來陽氣虛冷,始得病便成陰毒;或始因傷風傷冷物,便成陰毒。其病六日內可治,過六日不可治。〞宋.龐安時《傷寒總病論》明末清初.程林《金匱要略直解》亦援引述及。古人對于陽氣素來虛冷歸之于誤汗誤下誤藥,傷于苦寒冷物之咎,殊不知陰毒之為病乃是手淫重創命門,真陽虛空破滅。
注:大躁而渴不止是為消渴,消渴者,水入即消,飲水多而渴不為水止也;以水滅火而火不消烟熄焰也,越喝越渴也。
〝附子味辛大熱,純陽有毒,其性走而不守,通行十二經,無所不至,為補先天命門真火第一藥劑。〞《本草求真》
〝附子味辛氣溫,火性迅發,無所不到,故為回陽救逆第一品藥。即陽氣不足,寒氣內生,大汗、大瀉、大喘、中風、卒倒等症,亦必仗此大氣大力之品,方可挽回。〞《神農本草經讀》
何以古人捨烏頭而用附子?尤其畏懼草烏頭。除了烏頭鹼等之外,草烏所含生物鹼之眾與悍烈更甚川烏,易言之,亦即更不易水解其毒性,制其毒所需時間及手段更加久長棘手。
注:《金匱要略》用烏頭約五方,用天雄一方,用附子約十八方。《傷寒論》用附子二十方。何以《金匱要略》失精用天雄不用烏頭? 天雄亦附子,下元不固者用之也。
〝草烏頭,即烏頭之野生者,有兩岐相合如烏之喙者,名烏喙。乃至毒之物,其汁煎之,名射罔,殺禽獸。非若川烏頭、附子之比。自非風頑急疾不可輕投,此藥止能搜風勝濕,開頑痰,治頑瘡,以毒攻毒而已。《本經》治惡風,洗洗汗出,但能去惡風,而不能回陽散寒可知。
烏附五種主治攸分:
一、附子大壯元陽,雖偏下焦而周身內外無所不至。
二、天雄峻補不減于附,而無頃刻回陽之功。
三、川烏專搜風寒痛痹,卻少溫經之力。
四、側子善行四末不入臟腑。
五、草烏悍烈,僅堪外治。
此烏附之同類異性者〞也。《本經逢源》
〝《本經》名烏頭,《別錄》名烏喙,今時名草烏,乃烏頭之野生者,其性大毒,較之川烏更烈。草烏之毒甚于川烏,蓋川烏由人力種蒔,當時則採;草烏乃野生地上,多歷歲月,故其氣力尤為勇悍。採烏頭搗汁煎之,名曰射罔。獵人以付箭鏃射鳥獸,中者立死,中人亦立死。烏喙雖亦名烏頭,實乃土附子也,性劣有毒,但能搜風勝溼,開頑痰,破堅積,治頑瘡,以毒攻毒,不能如附子益太陽之標陽,助少陽之火熱,而使神機之環轉,用者辨之。李士材曰:大抵寒證用附子,風證用烏頭。〞《本草崇原》
〝烏頭之用,大率亦與附子略同,《本經》附子曰:主風寒,咳逆,邪氣。烏頭曰:中風,惡風,洗洗出汗,咳逆,邪氣。明明一偏于寒,一偏于風;一則沉著而回浮越之陽,一則輕疏而散已潰之陽,于此見附子沉,烏頭浮矣。〞《本經疏証》
〝烏頭,即附子之母,性輕逐風,不似附子性重逐寒。〞《本草求真》
〝烏頭為附子之母,既已旁生新附,是為子食母氣,其力已輕,故烏頭主治溫經散寒,雖與附子大略近似,而溫中之力較為不如。〞民初‧張山雷
值得注意的是:
“凡人火氣內衰,陽氣外馳,急用炮熟附子助火之原,使神機上行而不下殞,環行而不外脫,治之于微,奏功頗易。奈世醫不明醫理,不識病機,必至脈脫厥冷,神去魄存,方謂宜用附子。夫附子治病者也,何能治命?甚至終身行醫,而終身視附子為蛇蠍,每告人曰:附子不可服,服之必發狂,而九竅流血;服之必發火,而癰毒頓生;服之必內爛五臟,今年服之,明年毒發。嗟嗟!以若醫而遇附子之證,何以治之?肯後利輕名而自謝不及乎?肯自居庸淺而荐賢以補救乎?必至今日藥之,明日藥之,神氣已變,然後覆之,斯時雖有仙丹,莫之能救。”《本草崇原》
說出如此精彩論述的張隱庵,評論草烏〝不能如附子益太陽之標陽,助少陽之火熱,而使神機之環轉〞必有其理由。
注:三國時代關雲長所中之毒箭,淬之毒即為烏頭烏喙之射罔也。烏頭毒是神經毒,本就有很優異的麻醉作用,所以中毒箭刮骨未必如想像中的難以忍受。因為某種程度上全身頭臉四肢及創口早已麻痺幾乎失去知覺。中過強烈附子毒之人當可體會一二。
況且,烏頭、附子、天雄具有消炎抗感染,愈合金瘡的絕佳療效。
附子癒合金瘡:
〝附子:味辛,溫。主風寒欬逆,邪氣,溫中金瘡。破癥堅積聚,血瘕,金瘡寒濕踒躄拘攣,膝痛不能行步。〞《神農本草經》
〝烏頭:味辛,溫。主中風,惡風,洗洗出汗。除寒濕痹,欬逆上氣,破積聚寒熱。其汁煎汁,名射罔,殺禽獸。一名奚毒。〞《神農本草經》
〝天雄:味辛,溫。主大風寒濕痹,歷節痛拘攣,緩急。破積聚,邪氣,金瘡。強骨節,輕身健行。〞《神農本草經》
烏頭、附子、天雄本出一物,《神農本草經》于附子、天雄皆論及療治金瘡,何以獨漏烏頭?
金瘡者,中醫指刀箭等金屬器械造成的傷口。金瘡,指刀斧利刃之物所傷,如救治不當,可致感染,中風發痙。金瘡指刀劍等外傷,冷兵器時代常見,和現在的創傷沒什麼區別。
〝金瘡,乃刀斧傷而潰爛。附子具溫熱之氣,以散陰寒,稟陽火之氣,以長肌肉,故能治之。〞《本草崇原》
附子用之于金創外傷〝溫中金瘡者,以中寒得暖而溫,血肉得暖而合也。〞《神農本草經讀》
可見療治外傷主治金瘡,附子、天雄優于烏頭也。
注:〝天雄,補命門火,逐風寒濕,用作麻醉藥。〞《中國藥學大辭典》
天雄即附子長身者也。〝附子種在土中,不生側子,經年獨長大者,故曰雄也。〞《 本草崇原》
〝天雄是附子長身或變形,但不會生子的附子。作用與附子相仿但功力稍遜。〞明‧李士材《本草圖解》
〝天雄細長,獨伙無附,其身大於附子,其尖向下,能補下焦命門陽虛,然辛熱走竄,止屬主治風寒濕痺之品。〞《本草求真》
〝附子初種而成者,為烏頭,形如烏鳥之頭也。其附母根而生,雖相須實不相連者為附子,如子附母也。種而獨生無所附,長三四寸者,名天雄。〞《本草崇原》 易言之,〝附子即烏頭、天雄之種〞也《本經疏証》
注:陶弘景謂:烏喙取汁煎為射罔,獵人以傅箭射禽獸,十步即倒,中人亦死。射罔與亦稱斷腸草之鉤吻為天下兩大至毒。
春秋時代晉獻公之寵妾驪姬下毒嫁禍陷害太子申生〝驪姬置毒胙中,獻公欲饗之,姬止之曰,宜試而後嘗,祭地,地墳。與犬,犬死。與小臣,小臣死。〞所下之毒亦為射罔。
西漢中興皇帝漢宣帝時,戰神霍去病同父異母之弟大司馬大將軍霍光的老婆霍顯串通皇家女醫淳于衍毒殺皇后許平君用的也是草烏頭。皇后吃完藥後曰:我頭岑岑也(眩暈)。草烏頭之大毒,乃至於此,〝似乎〞誠非附子之可比。
〝草烏頭根:此物稟性鋒銳,直抵病所,以毒攻毒,勝於川烏,然毒性至烈,僅堪外治,不可輕服。〞〝草烏頭喙:即草烏頭之兩岐相合者,此物稟性不純,且有大毒,僅堪外治,不宜內服。〞《中國醫學大辭典》
〝天下之物,莫兇于奚毒(草烏古名奚毒),然而良醫橐而藏之,有用也。〞《淮南子》
張仲景時代之古方,所用者皆天產,亦即野生之烏附也。故,經方使用之烏頭,恐怕即是如今的草烏頭。有野生烏頭即有野生附子,當年我使用的是科中川烏,恐怕並未真正見識烏頭之能耐與實力。今生但望有緣一識野生之烏附。亡友若持有草烏頭,請與我聯繫!!
一小塊鼻屎大小的生川附子即令我氣管焚燒幾乎瞬間爆裂窒息奪命,很難想像還有更嗆的!還有,如我所說的〝附子可以替代烏頭,烏頭卻不能代替附子〞,捨草烏而用附子,絕非畏其大毒,而是用之于回陽壯陽有無必要。科中附子也許不行,但生川附(泥附子)之毒與療效絕對夠霸道夠勁爆!
只要非使用棄其有效元素(烏頭鹼等諸多生物鹼),而取其糟粕之去毒精制附子,我們需要用到草烏及野生附子嗎?
何況,日人,和田起十郎云:〝後世修治之法甚煩,去酷烈之本味,棄偏性之毒氣,使鈍弱無能之物,而欲以除毒治病,是猶緣木求魚也。蓋藥之本性在毒,無毒則不成藥,豈能專司修治以減藥之毒耶?〞
無論是附子還是草烏皆然。入咽下腹療疾,無不皆須水解,用其藥性而非毒性。制烏附之毒,天下只有水解一途。別忘了,亡陽之所以亡陽;陽氣出亡,乃是虛弱憊困之微陽漂浮外竄出逃飛越,非沉著降逆之附子不能召引虛火墜入命門也!這也就是何以惟獨附子能壯盛老二及溫養子戶(子宮)達到壯志強志的原因。〝天雄,長陰氣,強志,令人武勇,力作不倦。〞《名醫別錄》天雄即是附子。
注:古方不乏有川烏與草烏同用之記載。李時珍曰:〝(陶)弘景不知烏頭有二,以附子之烏頭(川烏頭)注(註解)射罔之烏頭(草烏頭),遂致諸家疑貳(疑為有兩種)。〞川烏頭與草烏頭在明代以前多統稱為烏頭,至《本草綱目》始明確區分為二,但川烏頭之栽培始見於《本草圖經》,故宋以前所稱之川烏頭,恐怕似亦屬野生之烏頭,即為草烏頭。
附子不夠悍,需仗黃酒助拳助威?請看:論壇上的灵弘是密醫,打著養生幌子詐騙亡陽人!
驪姬下毒:〝乃寘鴆於��,施毒於脯。公至,召申生將胙,驪姬曰:「食自外來,不可不試也。」覆酒於地,地墳,申生恐而出。驪姬與犬,犬死,飲小臣,小臣死之。〞
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