Tumgik
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コンクリートの防波堤の
コンクリートの防波堤のうえ、夜。ライトの消えた横倒しのスクーターの側に、アキラとツカサが寄りそい座っている。
空は晴れている。月は沈んでいる。星々。海は無い。
アキラ、恥かしくないの。ホモだよ僕ら。暗いけどみんな見てるよ。
誰もいない。
怖いひとたちがきたら。
来たら逃げるんだよ、全速力で。それで済む。逃げきれなかったら、その時は、その時。
馬鹿。
ツカサとアキラは笑う。
ホモなんて言う奴らは怖くない。
アキラがツカサの身体を腕で抱く。
いい夜だろ。
うん。
アキラがツカサの顔の匂いを嗅ぐ。
ツカサがアキラの唇にキスをする。
アキラがツカサのながい髪を撫でる。
また色が薄くなったか。
そうだね、金髪通りこして、白くなってきた。
きれいだ。
ありがと。
きらきら光るな。
染めるなっていわれたから、そうしてるけど。でも。迷うよ。黒くしたらそれはそれで、落ちつかないと思うけど。
染めなくてもいい、って言ったんだよ。
そんなの染めるなって言ってるんじゃん。
アキラがため息をつく。
いま馬鹿だと思ったんだ。
アキラがじっとツカサをみている。
ツカサがアキラを押し倒す。
いてえ、なにすんだよ。
ツカサが笑いながらアキラの顔をいじりまわす。
こら、馬鹿。
馬鹿だもん。
ツカサがアキラの鼻の穴に指をひっかけたまま、頬にキスをする。
やめらよ。
なにを。
ああ。
アキラが勢いよくツカサの両手首を地面のコンクリートに押さえつけ、キスをする。ツカサのなかに深く舌をいれかきまわす。
唇を離す。
あっちで見てる奴がいるぞ。
ツカサが跳ね起きる。
嘘だよ。
ばかやろう。
そうだ、ばかだよ。
アキラが笑う。ツカサが笑う。
アキラがツカサの後ろにまわり、座りなおして身体を抱く。
僕はもっと透明になるよ。いまよりももっと透きとおる。でも途中でからだが保たなくなるんだ。ニュースの通りに。怖いよ。
ああ。
いまは幸せなのにね。
ひともなにもかも動物も植物もみんなみじめに死ぬんだ。きれいに死ぬなんてみんなできない。俺もお前も、弱って死ぬ。
あのね。ほんとはね。僕はアキラより長生きしたかった。親よりも。クラスのみんなが先に死ねばいい。長生きしたい。ちくしょう。
いま俺を殺せば、俺より長生きしたことになるぞ。
ツカサがふりかえる。
そんなこと言ってない。
アキラはツカサをみつめている。
そんな目でさ。見ないでよ、僕だめな子みたいじゃん。ホモで、劣性で、ばかで、死ぬ。なにも、かも。
俺がいるよ。おまえのそばに俺がいる。いつもだ。
抱きしめてよ、震え、止まらなくて、でも、もう、涙でないから、おかしくなっちゃった。僕はさ。アキラのことが。好きだよ。
ツカサの声がかすれた。アキラがツカサを抱きしめる。
他のことなんてどうだっていいじゃねえか。いま俺たちがここにいることは絶対に嘘じゃねえ。俺とお前は愛しあってんだよ。愛だ。神さまでもビビるくらいの愛だ。
ふふふ。ビビるかな。
あいつ淋しがり屋だからな。
くやしがるね。
そうだ。
アキラ、ありがとう。
ツカサ、キスしようぜ。
いいぜ。
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大君の御名の渚、
大君の御名の渚、10人ほどの彼らは、揃いの水着を履いた姿で岩礁のうえを素足で歩く。周りに黒衣の下女たちが四人、二人の軍人が控えている。他に見渡すかぎりの風景に人はいない。
やわらかな金髪の、背の低いエリアスがしゃがみ、大きな渦巻貝の殻の中を嗅ぐ。ディランの名を呼ぶ。これ、不思議な匂いがするよ。海ってすばらしいね、やっぱり教場や図書室だけではわからないことばかりだ。すごく向こうの彼方はどこか別の大陸に行きつくのかな。地図のとおり僕らの国より野蛮な未開の土地がきっとあるのかな。
水遊びに興じている彼らのなかから、長く黒い髪をまっすぐ伸ばした、背が高いディランがエリアスのそばへ歩いていく。いまならお前はそこらの浜にたくさん落ちている海藻だって持ってかえっていきそうなぐらいだね。海に足は浸した? もういまの時間では、すこし冷たいんだよ、やってみて。
ディランに促されてエリアスが岩礁に腰掛けて水面に足指をつける。ディランがエリアスを後ろから海へ突き落とす。怒ってディランの名を呼びつけるエリアス、ディランも他の彼らも一斉に笑う。
時間だ。彼らは下女たちから白いガウンを次々に渡され、素肌のうえから纏う。風邪をひきませんよう、早くお城へ戻りましょう、潮風は楽しみましたか? 波が輝いていましたでしょう。帰ったらお風呂で身支度を整えましょう、そして楽しい夕食ですよ、さあ早く馬車に乗って、乗って。幌馬車の荷台に彼らと下女たちが乗りこみ、軍人ひとりが馭者(ぎょしゃ)となって城へと向かう。それにもうひとりの軍人が馬に乗り併走する。
幌馬車のなか、一様にガウンを着てデッキに腰掛けた彼ら、ディランの身体にエリアスが寄りかかる。ディランが言う。つかれたのか。エリアスがいう。胸がどきどきしているんだ。僕の脈をとってみて。ディランがエリアスの首の、頚動脈のあたりに手をあてる。いつもどおりだ、気のせいだよ。それよりお前の肌、つめたいな。帰ったら湯船であたたまらないといけない。そして食べて、眠るんだ。エリアスがディランをみつめて言う。また、海に行ってみたい。
あんまり夢なんかみちゃいけない。与えられた目の前のいまだけをみつめるんだ。
大浴場、彼らがみな裸になり、そのなかエリアスは海綿に石鹸をこすりつけ身体を洗っている。エリアスは思う。いつか図書室で読んだ、すべての生命は海から発生したと書かれていた。その海にきょう全身を浸したんだ。とても冷たかったけど、不思議だ、うれしい。もし僕が死んだら身体を海に沈めてほしいな、生まれた場所に戻るだけだ、とてもこころが平和になる。先代までの大君(おおぎみ)達が統べるヴァルハラは、戦士が行く館。僕たちはしょせん従者でしかないのだし、ひとりいなくてもきっと気づかずあちらは楽しむさ、僕は死んだら海へ行きたい。だれにもみつからず、ひとりで、そっと海へしのびこむんだ。
エリアスが湯船に浸かっている。そうだ。そうだよ。
室内の運動場、三人の兵士が傷だらけになった裸のエリアスを床に押えつける。その周りを見張る兵隊、給仕や同輩たちが遠巻きに見つめている。教育長が運動場に入ってくる。はあ、こいつが逃げだしたのか。大人しい気性の者ほどなにをしでかすかわからない。所詮出自は異国の者か、気がふれたとか? それでは私たちの教育では及ばない。限界だ。教育長がエリアスの髪をつかみ顔を見る。わたしを見ろ。誰が父だ、言ってみろ。おまえを産んだ邪教の母から寛大にもおまえの命を救ったのは誰だ、お前の父は誰だ。
大君です。エリアスは続ける。わたしに自由をください。海に行く自由をください。我が父に謁見を。直接申しあげますから。わたしは海へ行きたい。
こいつは狂っている。教育はあきらめ、辺境の教会に面倒をみさせるのが適当だ、それともせっかくの好ましい見た目、ここまで成長させたものだ、いづくへか払い下げて処分するか。もうここにいる必要はない。兵隊の向こうに立つディランが叫ぶ。
エリアスは教場で学んだ以上に、きっとご奉公いたします。けっして大君を、皆様を飽きさせません。その唇で、その指さきで、身体の芯で、大君にご奉公いたします。ご存知でしょうか、エリアスはさまざまな本を読みました。様々な書籍から知識を、詩歌を得てきました。いまではなく、時季が経てば彼は十分大君に仕え楽しませることがきるようになります。きっと!
唇、指、身体、知識、詩歌、ほうほう、では証明してみせてもらおう。できなければ、兵士のナイフで唇を削ぎ、手足のすべての指を断ち、昼の市街の広場で身体をすこし裂いて穴から腸をひきずりだしながら、死ぬまで大君へのこれまでの感謝を述べつづけさせよう。さあ、いま叫んだ黒髪のお前、ここに出ろ。ここで証明してみせろ。金髪、やりかたは本でよく知っているだろう? ディラン、エリアスの前に立つ。そして服を脱ぎ、裸になる。
ディランが言う。むずかしく考えるな。ただするだけだ。わかるだろう、このまま俺達の未来で為すべきはずだったことを、ただ、今、すればいいんだ。俺に口付けろ。エリアスが涙をながしながら震えて言う。
ちがう。僕たちはこんな未来のために生きているんじゃない。
ディランがエリアスの頭をつかみ、キスをする。深く、時間をかけて、舌を吸う。ディランが言う。俺を見つめろ。
ディランがエリアスをきつく見つめる。俺はお前が欲しい。エリアスは泣きやみ、うなずく。
エリアスがディランの胸、心臓の上にキスをする。ディランがエリアスの金色の髪を抱く。エリアスは舌を這わせてそのまま乳首を舐る(ねぶる)。声が漏れる。ディランが自分のペニスをしごくその手を、乳首を甘噛みしながらエリアスの手が払い、自分とディランのペニスの尖端を擦りあわせる。クチュクチュと小さく音がする。エリアスがディランの唇に軽くキスをすると、そのままディランの股間に顔をうずめ、ペニスをしゃぶる。ディランが目を閉じる。エリアスがペニスから唇を離し、床にうつぶせになって自分の尻を突き出す。
いい声で鳴いてみせるから、僕に、して。
ディラン、エリアスの尻を掴み、固く張ったペニスを突き刺す。反応し、声を上げるエリアス。ディラン、教育長を見る。彼が言う。もっとやれ。ディラン、何度もエリアスに腰を打ちつける。その度に悲鳴をあげるエリアス。教育長が笑う。なるほどこれが歌か。ディランが腰を動かしたまま、エリアスのうなじにキスをする。エリアスが言う。お願い、抱きしめて。ディランがペニスを引き抜き、エリアスの小さな身体を仰向けに転がす。エリアスのペニスも勃起したまま涎を垂らしている。エリアス、ディランを見つめてうなずく。ディランがまたペニスでエリアスを抉る(えぐる)。エリアス、身体をしならせ声をあげながらディランの身体へと両手を伸ばす。ディランがエリアスを強く抱きしめる。ディランがエリアスの耳元で囁く。もういくよ。いいよ。ディランが声を上げ、エリアスの中で射精する。エリアスも自ら扱いていた(しごいていた)ペニスから精液を噴きださせる。ディランが引きぬく。エリアスの肛門からはみずからの血液と混ざったディランの精液が流れだし、エリアスの腹のうえにとびちったみずからの精液が床へと流れる。ディランが教育長を見る。
教育長は言う。お前たちの身体は大君のものだ、それをお前たちは恥じらいもなく棄てて傷付けあった。大君は割れた杯で酒を飲みほすことは無い。ディランが言う。どうか御慈悲を。エリアスは動かない。
夜、小さな荷台を曳くロバに乗る商人が宮殿の門を潜る。商人が番兵たちと話すと、番兵たちが笑って荷台の中を覗く。鞭打たれぼろぼろになった衣服のふたり、黒い布で目隠しをされ、鎖につながれている。ディランは俯き、エリアスは彼によりかかって座っている。番兵たちが話しかける。「オカマだろう、女の声で喘いでみろ」「汚ない恥知らずが」「羊の味も知ってたのか?」「どっちが雄でどっちが雌だ?」馬車が城を離れる。商人がいう。おまえたち、金(かね)ってものを知っているか。金を稼げば飯が食える。街は金で動いている。お前達も我が主の館が金で買った、金はすばらしい、単純で、それでいてなんでも手に入れることができる。魔法だ。お前たちはこれからたっぷり金を稼げる。うらやましいぐらいだよ、その若さと美貌は欲しくたって金じゃ買えないからな。稼いだ金で幸せを買うんだ。
エリアスはディランに話す。いつかふたりで、海に行こうよ。ディランが応える。そうだ。飯を喰い、生きていれば、また絶対に海にいける。エリアスは言う。そうだね。生きて、ふたりで海を見るまでは、僕たちは死ねない。
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作品の一覧・ご紹介
こんにちは。微温湯(ぬるまゆ)へようこそ。制作者の「ふぁーざー」と申します。拙作をご覧いただきまことにありがとうございます。下記がこのTumblrに収録している作品となります。
一番上にご紹介しているものが最新作、一番下にご紹介しているものがもっとも古く制作した作品という順番です。各タイトルからその作品へリンクされています。 それではどうぞ。 このブログのトップページはこちらから。
『コンクリートの防波堤の』#全年齢 #ゲイ
愛だよ、愛。(この作品はPixivでもごらんいただけます)
【1,287文字】おひさしぶりに書きました。なんで書いたんだろう、またこれも風邪ひいて養生もおわってさあまたがんばろうってときに、なんか書きました。風邪が執筆のトリガー? 2時間でコーヒー1杯飲みおわる程度に書きあげたものです。もっとエロくしてもよかったんだけど、なんか書いてたら変にマジメになっちゃって、エロシーンぜろ。でもBL / ゲイですね。ホモ小説(死語だよねえ)だから即18禁でもないんで全年齢御読みいただけますー。でもまあメロドラマだよねえこんなん、とは思いつつも書いてて気持ちよかった。自己満足大事、書いててつまんないとかヒドいでしょそんなん。 てかさ、 ひさびさにTumblrにログインするのにすったもんだしまして、登録したメアドにログインするまでに2時間以上かかりまして、いま目が真っ赤です多分。なんとかログインできてよかったー。
今度はいつ書くのかしらねー、明日?五年後?もう書かない?
『大君の御名の渚、』#R18
海へ。(この作品はPixivでもごらんいただけます)
【3,580文字】これ書いてたときに、風邪ひきましてね、咳がとまんなかったんですよゲホンゲホンゲホン、それが一週間ぐらい続いて小説どころじゃなくなっちゃって、ああ俺このまま書くのやめちゃうのかなあ、なんて思ってた位なんですが、症状おちついてきてちょっと手直しして、まあいいかなーとおもって公開となりました。これ、以前の「トイレどこなの?……」に比べたらけっこー好きです。人間あきらめちゃいけない、なんていわれても生きるって苦痛に満ちていてほんとうに正視できないくらいで、っていう状況は、ここに書いた以上に世の中にたくさんある。でも、それでも、……っていう生への執着って、もっと書いていきたいです。書いてるときに坂本龍一のアルバムを繰りかえし流していたのをよく憶えています。
それにしてもさー、もうちょっと、美しさ、若さ、えっち、を上手く書けるよーになりたいぜい!
「その冷蔵庫は青い。」#全年齢対象 ゴスロリ娘が銃でバンバーン!! (この作品はPixivでもごらんいただけます) 【2,765文字】まあ、普段しずかなひとを怒らせてそこに適切に(?)銃が置かれると大変だなー、でもせっかくだから撃っちゃえバンバーン! という、そういえばエロどこいった? って代物です。書いててすごく楽しかったけど、皆様はどんなもんなんでしょうね〜。やっぱりエロなきゃだめ? なんでゴスロリかって? いやー好きだからです���、でもなんか記号的に使ってしまったかもなのは残念。機をあらためてゴスはまたモチーフにしたいです。 — 『トイレどこなの?もう広くてぜんぜん』#R18 #ゲイ いくら飲んでも喉が渇くだけだ (この作品はPixivでもごらんいただけます) 【2,176文字】なんか、書いても書いても満たされない、正直苦しかったおぼえがあります。彼らの救いが見つけられなかったうちにも、いちおうお話としては終了している。こんな物語だなんて、と寂しくなりました。なんだか、なんだかね。物語って、いくら趣味だからって、欲望の処理機械でいいんですかね。でも、書いちゃったから公開。 —
『夜、風の強い叢。』#R18 #百合 あなたに会うために、もういちど (この作品はPixivでもごらんいただけます) 【2,113文字】女の子同士ものです。もっとえちい感じにできたらなー、とか書き終えて思ったですが、今後がんばります、押忍。あと、むずかしい言葉つかえばいいってもんじゃないな、と書き終えて思ったですが、今後がんばります、押忍。 暗いところよりは、明るいところのほうがいいよね。マリがんばれ。
『 昼、暗い森の中 』#R18 #BL 夢中になって (この作品はPixivでもごらんいただけます) 【2,493文字】若様と従者、温室を舞台にした一幕を書いてみました。Twitterにてきっかけをいただいた一作です。これ続きも書けるなーと思いますよん。大事にしたい二人です。いや他の物語のみんなも基本大事にしたいんですけどね。ちなみに、雨の日は、風さえつよくなければポンチョって便利ですよ、蒸れないし。mont-bellさんでもカッコいいポンチョ売ってます。 寺山修司先輩曰く『幸福は個人的だが不幸はしばしば社会的なのだった。』 Endy様、その節はありがとうございました。
『夏。居間。昼。大きな葦簀で陽を 』#R18 【988文字】(この作品はPixivでもごらんいただけます)
習作でぱぱっと1時間で書いたものです。エロしか無いです。それがさみしいかも。なごやかなエロだなー。昭和な感じがあたまにあった気がしましたが成果物にはそんな様子無いッスね。
『ベッドの上。彼の背後から』#R18 【726文字】(この作品はPixivでもごらんいただけます)
ただエロをお筆先にまかせて1時間で書いたやつです。はじめて掌編を書いたですが、まあアタマの何かが開いちゃって大変、書くのがすごく面白くなったわけで。エロいのって自分もうれしいみんなもうれしい。win-winッスねまったく素晴らしい。で、これ物語なの?
作品はいまのところ以上です。どうぞこれからも御贔屓に⭐
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その冷蔵庫は青い。
その冷蔵庫は青い。キッチンにある。夜。
リズが冷蔵庫のドアを閉め、ダイニングテーブルの席に足を組んで座る。ブロンドの髪に日本からwebで取り寄せたモノトーンのゴスロリの衣裳をまとい、片手にグロックを持つ。向かい合う位置にあるソファにTシャツに短パン、無精髭のトーマスが座って巻きタバコを吸っている。灰皿にタバコを擦り潰し立ち上がる。
「言葉でだけでならいいだろ」
リズがトーマスを見る。
「なあソコにどんなのが入ってるんだよ、言葉で教えてくれるだけでいいじゃねえか。喋るだけだ、簡単だ、だからって俺はなにもできやしねえ、そうだろ?」
リズがグロックのセーフティを外す。
「なんなんだよお前、なんかしゃべってくれよ、まだ俺なにもしてねえだろ」
リズがゆっくり立ち上がる。
「『まだ』って言った?」
トーマスがしゃべりながらソファに座り込む
「ちがう違う、そうじゃねえ、誤解するな、俺はなにもしねえよ、クリーンだ、わかってくれよ」
リズ、歩きながら話す。
「お前、あたしたちを何度も裏切ってきた。 それで、今日は信用してくれだって? とても強い説得力だ」
リズ、グロックでソファを一発撃つ。トーマスが悲鳴をあげる。
「いい子に座って、逃げずにここで、シスタを待っていろ。わかったら、黙れ」
トーマス、両手で自分の口をおさえてうなずいてみせる。
:
赤いコルベットに向かってスーツ姿のウェンディが地下駐車場を歩く。キーを開け、乗り込む。車のなか携帯電話で話す。
「リズ? まだプレゼントは安全かしら? そうね。彼には静かに待っていてほしいわ。でも傷をつけちゃだめよ。なにをって、もちろんすべて。そのための銃よ、無くてもあなたならなんとかしちゃうだろうけれど。じゃあ、お願いね。お仕事は終わったから、寄り道しなければ30分で着くわ」
ウェンディは携帯電話をハンドバッグに収めると、バックミラーで自分の顔を見る。微笑む。
:
「なあ、俺はたしかに中毒だ」
トーマスが言う。
「いままでさんざんおいしく喰ってきたさ。合衆国のはもちろん、フランスの、ロシアの、イタリアのだってな。日本からだって入ってくるご時世だ。お前たちはその度に止めてくれたが、駄目なんだよ、どうしてもたらふく喰っちまう。病気だっていわれたがやめられないんだ、いまどき携帯電話でいくらでも情報が手に入る。そしたら田舎でも路地裏でもどこへでも行って喰っちまう」
トーマスが微笑む。
「そう思うと、いまお前たちがそうしてくれてんのは、まあ、優しさなんだな」
リズ、グロックをダイニングテーブルに置くと斜めがけしていたポシェットからスチェッキンを取り出しトーマスの足下に連射する。
「黙っていろって、さっき言ったろう?」
両手をあげるトーマス。リズが言う。
「先週だって、あたしが、シスタに頼んでとっておいたやつまで手をだしやがって、その度に『ごめんなさい』で済ますってお前何様なんだ? 今日が『その日』だから、みんな揃ってからにしようってのに、今日もだ。ほんとうにほんとうに殺してやりたいよ、まったく」
トーマスが言う。
「そのドレス、ちょっと変わってるが、かわいいな、似合ってるよ」
「お前にそんなことを教えて欲しいって、あたしは言ったかな?」
スチェッキンの銃口がトーマスの方を向く。
「ちがうよ、感謝を言っているんだよ、わかってくれ」
ソファに座ったトーマスが頭を抱える。
「はやく帰ってきてくれよ」
:
ウェンディのコルベットが、夜の帳に青白い灯りを煌々とさせている花屋の前に止まる。
「ハイ、ジョーイ、用意できてるかしら?」
ジョーイと言われたヒスパニックの若い男が、店の置くから大きな花束を持ってくる。
「メッセージカードは?」
「ご依頼通りですよ、ミズ・マクダネル!」
ウェンディ、ジョーイから手渡された二つ折りのカードを開け、閉じてスーツの胸ポケットへ差し込む。彼には代わりにチップを。
「ありがとう」
ウェンディが花束を助手席に置き、アクセルを踏む。
トンネルに入る。ウェンディ、『きらきら星』を歌う。
:
なんでたったこれしきのことで、俺の女の妹にわけのわからない仕打ちを受けるんだ、上物があるのはわかる、見るだけじゃねえか、なにもいきなり喰うわけじゃねえ、きっと芸術作品並みの素晴らしいモノなんだ、しっかり味わって喰ってやる、やばい高鳴るぜ俺の胸、今日は最高の日だと思ってた、冷蔵庫を開けたらまるでティファニーの包みにだって負けないような小洒落たオフホワイトのボックスがあった、それだけは見た、直後にあのイカれた妹がこれだよ、いつも黙ってなにも話さねえ癖しやがって、なんだあの格好、ダサい寝間着で引きこもってたあの妹、あれ、あんな顔してたんだな、かわいいな
:
トーマスの後頭部にリズの持つグロックの銃口が突き付けられたままでいる。
リズが言う。「そろそろだね」
トーマスは黙っている。瞬間。リズの持つグロックをトーマスが床に叩き落とす。グロックを拾い両手で構え寝たまま銃口をリズに向ける。リズ、仁王立ちしてスチェッキンの銃口をトーマスに向ける。リズが言う「あたしのほうが引き金は軽いよ」「うるせえ! なんなんだよ畜生! たかがケーキじゃねえか馬鹿野郎、なんでそんなにテメエら大事にしたいんだ、わけわかんねえぞ」
ドアベルが鳴る。銃を構えたままのトーマス「鳴ってるぞ」無言のリズ。ドアの鍵が開く。ウェンディが花束を抱えて入ってくる。
「ふたりともどうしたの? トムもリズも、気楽に、気楽に、ねえリズ、こっちに来て?」
「シスタ、ちゃんと見張ってたよ、このロクデナシから」
ウェンディとリズが挨拶のキスを交わす。リズがスチェッキンをテーブルに置く。
「ありがとう。もういいんじゃない? トム、こっちに来て」
トム、涙目で立ち上がりソファにグロックを放り投げる。
「なんなんだよお前の妹、ケーキを喰う喰わないってだけで俺撃たれるとこだったんだぞ」
「つまみ食いしてばっかりでリズがムカついてたとしたら、まあ自然なことよね。それより、はい」
ウェンディ、花束をトーマスに渡す。
「そろそろしたらまともな仕事についてね、スウィーティー」
トーマス、花束にささっていたカードを見る。
『Happy Birthday』
:
素敵なパティスリーからフリーザーに入れてもらって手配したのよ、ホールケーキじゃつまらないかなって、いろんなバリエーションで頼んだの。ほら、きれいでしょ? それぞれに名前があったんだけど、忘れちゃったわ、トムのほうがそういうのたくさん食べてきたから詳しいわよね。
ねえ、もういちどキスさせて。
「ムカつく。今日はあたしもちゃんと食べるんだから。紅茶を淹れるわ」
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トイレどこなの?もう広くてぜんぜん
トイレどこなの?もう広くてぜんぜんわかんない、ねえあなたトイレ、そう、あっちね、まったくなんなのもう暗いしうるさいし、え、なに?お酒?いらないあとで、やだもれちゃう笑ってんじゃねえよあはははは早く早く早く!
レザーのホットパンツ、タンクトップにファーを肩に羽織った青年が、立ったまま彼女たちをずっとみている。「馬鹿じゃねえのあれ、サトシ、あいつら何?」
ソファに座っていたサトシと呼ばれた男が首をかしげる。肌がすけてはっきり判るほど目の粗い黒いメッシュのTシャツにラバーのボトム。「どこかのだれかの友達か、なんかかな?」
「おともだち。誰だよ、恥ずかしいの連れてくんなよ」「コイズミ、あまりいうなよ。イリエさんの知り合いだったらまずい」「関係ねえよ」「船から放り出されるぞ」「怖ええ、そりゃ漏れちまう。サトシなに飲んでんの?」「テキーラ。お前ほどほどにしとけよ、今日もお前の後始末なんてお断りだ」「かたいこというなよ、こんなカクテルぐらいでどうなるもねーし」「量だ」
:
パウダールーム。外の爆音から隔てられたそこでサトシが洗面台に胃液を吐いている。なにも出てこない。コイズミが女の肩を抱きながらパウダールームに入ってくる。「サトシ、まじかよ」笑うコイズミ。「なんかいねえと思ったら」女、下からサトシの顔をのぞき込む。「やだ大丈夫ですかあ、ねえこのひと大丈夫?」その後ろから女の襟首をつかみその体を引きずるコイズミ。「出てけ」ええなに心配してんのになんでひどくない?「うるせえお前ケバいんだよ」コイズミ、女を蹴り出す。コイズミ、しゃがんでサトシに言う。「サトシ、なんだ調子悪いのか」「すこし、休めば落ち着く」「カフェルームでもいこうぜ。あそこなら静かだし、船も明け方にならんと岸に戻らねえ、ここいたって仕方ないだろ」サトシ、洗面台のシンクに向かって吐く。口からはほとんどなにも出てこず嗚���だけしかない。しゃがんだまま頭をかかえるコイズミ。サトシが言う。「ここでしばらくしたら外に出るよ。悪いな」「いいよ、いっしょにいるよ」「ゲイがうつるぞ」「はあ? つまんねーこと言ってんなよ、兄弟分だろ」「悪い」「ミネラルウォーターもってきてやる、待ってろ」
コイズミ、外にでる。外は大音量の音楽がレーザーで彩られ、嬌声のなか大量の泡が宙にまかれている。
:
コイズミ、パウダールームに入ってくる、洗面台に酷く女装した一群が鏡に向かって化粧直しをしている。叫ぶ。「サトシ! どこだ!」奥の個室のドアが叩かれる。コイズミ、女装した一群をすり抜け、個室のドアをノックする。ドアが開き中に入る。サトシがいう。「ドア、閉めてくれるか」
コイズミ、頭を抱えて便器の上に座っているサトシにペットボトルを渡す「大丈夫か」ペットボトルの水を飲むサトシ。「だいぶましだ」「このあとどうする」「しばらくしたら行くさ」コイズミに抱きつくサトシ。「なんだよ」二人、しばらくそのままでいるが、抱きしめていた両手をサトシは離す。「悪い」「俺のこと好きなんだろ?」「ああ」「なら謝んなよ、悪いことじゃねえよ」泣くサトシ。小さく笑い出すコイズミ。「やばい、思いついちまった、やばいわこれ」サトシ、コイズミを見る。「いっしょにオナニーしようぜ、すっきりするだろこれなら」コイズミ、履いているホットパンツのジッパーを下ろし下着を脱ぐ。「ほらお前も脱げよ、できんだろ? ザーメンは便器のなかに出そうぜ、立てよ」
:
コイズミのはおっていたファーが床に落ちている。二人、ボトムを下ろしペニスを同じ方向に勃起させてしごいている。コイズミが言う。「なあ、俺の触ってみるか」サトシ、コイズミのペニスに触る。「熱い」コイズミ、しばらくサトシの右手が自分のペニスを擦っている様子を見つめている。「知ってたよ。なあ、お前は挿れたいほう? その逆かよ」「挿れてほしい」「お前、そんな顔するんだな。みたことねーよ、そんな顔」コイズミ、自分の右手中指を舐めて濡らし、サトシのアナルに挿れる。「はあっ……くぅっ!」「なんか女みてえな? 楽しくなってきた。チンコこんなに立てて、嬉しがってんだ? すげえな」コイズミ、左手でサトシのペニスの先を撫でている。「エロい。しゃぶれよ」サトシ、コイズミの股に顔を寄せ、口の奥までペニスを飲み込み、出し入れを繰り返す。息を漏らすコイズミ。「ケツこっちに見せろ」
サトシ、壁に両手をつき、後ろに臀部を突き出す。コイズミがアナルにペニスを激しく突きさす。サトシが悲鳴をあげる。
「うれしいんだろ? ほら、もっとだ」コイズミが腰を激しく振るたびに声が漏れる。「あああ、すっげえ気持ちいい。サトシどうよ、気持ちいいかよ」コイズミが後ろからサトシのペニスをいじる。「やべえ、マジもういきそう、いくぞオラ」サトシの中で射精がはじまる。コイズミがサトシの背中に覆いかぶさり、サトシのペニスを激しくしごきつづける。サトシが大きく息を吐くと、サトシのペニスからザーメンが噴き出て、便器に大量にかかる。ふたり、床に崩れる。横たわったサトシのアナルからザーメンがこぼれてくる。
「ははっ」笑うコイズミ。「こんなにいいのかよ、なんだよすげえな」サトシ、涙をながしている。「なんだよ、気持ちよかったろ? なに泣いてんだよ」
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夜、風の強い叢。
夜、風の強い叢(くさむら)。小さな少女の身体ひとつがそのなかを歩く。手に持つ所々錆びたランタンが身体とその周りを明るくする。藍鉄(あいてつ)の、粗い麻のスカートに黒のゴム引きコートを被り、夜つゆをふくむ草葉を踏みしめ向かってくるそれは褐色の革靴。
叢のなかに小屋がある。少女は小屋の戸の前に立つ。戸を押し、中に入る。誰も何もない、かつて馬小屋としてあった設え(しつらえ)。戸を閉める。暗い。少女、ランタンを床に置き、懐から小さなパラフィン紙の包みを取り出す。中身の粉を地面にそっとこぼし、マッチを擦り粉に火をつける。爆ぜるような閃光ともに大量の煙が立ち籠め室内を満たす。
少女は両目を閉じおおきく息���すいこみ、吐きだす。空の方向をあおげば玻璃窓がめぐらされた天井、明るく日射しが室内のあらゆる場所に配置された植物たちの輪郭をはっきりとさせる。緑。ボール遊びができるほどの室内の広場の中央に噴水、ところどころに花が咲く。白い雄馬が一頭、噴水の水を飲み終えそのまわりを闊歩している。吹き抜け二階の回廊につづく螺旋階段のうえ、Tシャツに下着を着た金髪の少女が折り紙をしている。そばのスピーカーから音楽が聞こえる。
一階、黒のコートを羽織った少女が両目を開ける。脇には錆び朽ちたランタン、二階のTシャツの少女が立ち上がり階段の柵から身体を乗り出し呼びかける。
「マリ! いつからそこにいたの?」
マリ、二階の少女を正視できない。言葉がうわずる。
「エ、エリ、エリ、エリ」
「おいでよ、そこにいるとピースの後ろ脚に蹴っ飛ばされちゃうから!」
マリ、うなずき、噴水の脇の螺旋階段に向かう、途中で白馬がマリに頬をよせてくる。「ピース」マリ、ピースを頬を撫でる。ピースが息を吐き低くいななく。階段をエリが降りてくる。マリ、はやく、上にあがろう? エリ、マリの手をとり指をからめ引く。ふたり階段を上がってゆく。マリ、階段をあがりきったところに散らばる色紙を指さす。エ、エリ、こ、こ、これは何?
「飛行機を折ろうとしてたの。こちら側から、向こう側まで飛ばそうかなって」エリ、二階回廊の向こう側を指す。「上の階の本は読み飽きちゃった。いくら読んでも人間はいつも戦争をしていました、っていうぐらいしかわかんないの。つまんない、つまんないよ。それって正しくないとおもう。それだけがヒトの真実だあ、みたいにさ」マリ、笑う。そ、そうかもしれない、ね。はは。「そんなことよりわたしたち、楽しいことをするべきだってわかってる。ねえ、そこのソファに座ろう」大きなソファにふたりすわる。蔦の這うおおきな窓の向こうで、ときどき爆発の音が遠くに聴こえる。「ねえマリ、抱きしめたいのは枕じゃないよ。ひとのからだだよ」エリ、マリのコートを剥ぎ、ブーツを脱がせ、スカートのドローコードを解き、白い綿のブラウスと下着だけにする。エリ、マリのブラウスの下から両手を差し込む。歯をみせて笑ってみせるエリ。
「マリの身体はかわいいね」
「そん、な、ことないよ、」
エリ、マリの唇に、鼻に、頬に、はねるように口づける。たくさん口づける。
マリ、エリの頭を抱きしめる。
「マリ、わたしたちはやっぱり死ぬのかな。なんかわからないんだよね。そんなこといつまでも気にし続けるなんて無理だよ」
「エ、エリは、こ、殺させない、しなない」こんな素敵な金色の髪の毛、こんな素敵な長いまつげ、こんな素敵なやわらかいほほ、抱きしめるたび甘い香りのする身体。しなやかな脚、いつもわたしをさわってくれる手、指、見つめてくれるその眼。
マリ、エリの口に指をそえる。エリがその指をなめ、しゃぶる。「その指で、わたしをなぞって」マリ、濡れた指をエリの下着のなかに差し込み、エリの膣の入り口にあてる。「入れて」マリが指をいれるとエリの身体がしなる。「マリにもしてあげる」ふたりが口づける。舌をからめる。長く。エリ、自分の指をしゃぶり唾液にぬらすとマリの下着の脇から膣のなかにさしこむ。マリ、声をもらし、大きく息を吐き出す。エリ、激しく指を膣のなかで擦る。マリがエリにもたれ掛かり、指が前後するたびに鳴く。「だめ、だ、めえ」エリ、指を抜く。「マリ、ソファに手をついて、おしり、突き出して」そのとおりにする。エリ、マリの下着を脚から取り去り、マリの股間にキスをする、舐める。声をあげ身体をよじるマリ。「いっぱい」「なに?」「いっぱいして」「もっと甘えて」「たくさん」
建物の一階に巨大な装甲車が突撃してくる。玻璃の天井を粉々に砕きなにかが突き破り、噴水が爆発する。
少女、そこはかつて馬小屋であったところに横たわっている。ランタンの灯りも小さく、暗い。眼をあける。近くで銃声と男達が何ごとが叫んでいる様子が聴こえる。少女、少しずつ上体を起こす。自分の身体を強く抱きしめる。涙をながしながら、大きく呼吸し、少しずつ息を整えていく。黒のゴム引きコートのボタンを開け、懐から、右手に短銃、左手にナイフを握る。ゆっくりと立ち上がる。少女はやや屈み銃を構えナイフを添えた姿勢のまま、小屋の戸を静かに開ける。外に出る。叢は星空の下。
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昼、暗い森の中
昼、暗い森の中、強く雨が降っている。草の生い茂る獣道を外套を纏った二人が歩く。二人、止まり、背の低いほうが背の高いほうへ何事か叫んでいる。しばらくの後、背の低いほうがそうでないほうの腕を掴み先へと歩きだす。背の高いほうが止まる。低いほうが振り返る。掴んでいた手を放す。高いほうがうなずく。ふたり、歩きだす。
森を抜ける。丁寧に刈り取られた芝生の彼方、屋敷などがみえる。二人、温室の扉のまえに着く。背の低いほうが外套をめくり懐から鍵を取り出す。
天井までガラスの戸でめぐらされた室内。一階には水が巡らされ、蓮などが浮く。扉が開き、二人が室内に入ってくる。背の高いほうが扉を閉め、大きなため息をつく。
「ケープを脱ぎましょうか」
背の低いほうが自らの外套についた水滴を払い、一気に身体から脱ぎ、その外套を背の高いほうへ押し付ける。そのあと癖のついた金色の髪の毛を軽く払い、胸をはって一呼吸する。背の高いほうも受け取った外套を軽く畳んだ後、外套を脱ぐ。背負っていたザックを下ろし、涅色(くりいろ)の短髪を片手で拭うと外套を揃えて置く。
「シャツが汗で濡れたのでは。身体をふくものがあります」
金髪の子供が、片方の掌をひらひらとみせて止める。
「いいよ、それほど濡れてない、気にするな」
涅色の短髪がザックからタオルを取り出し、子供の目の前に掲げる。子供、涅色を一瞥しタオルをひったくる。
自分の白いシャツの胸元を、ボタンを外して開放する。スボンからもシャツの裾を出し、屈んで革の長靴のバックルをすべてはずし、肉厚の靴下を両足から脱ぐ。
冷えた地面のうえに立つ素足の金髪の子供が、空を見上げる。上には雨に叩かれつづける硝子がある。子供が言う。
「いま何時だ」
涅色の短髪が時計を懐から出して言う
「午後3時です」
「予定より一時間早いな」
「この季節、突然の雨は考え得る内ではありますが、このようにも強いとは」
「あと一時間、自由時間だ。そうだろう」
「お屋敷に戻って暖を取ったほうが。まだあたたかい季節とはいえ雨雲がすぐに陽射しを隠して夜にいたします。今日に夕暮れなどありません」
「だからなんだ。家まで迷うような場所にはいない。それよりここで羽根を伸ばしたい。家に帰ったところでお前が茶を淹れてくれるとも思えんしな」
「私はそのような作法は存じませんので、給仕にお申し付けください」
「あいかわらず馬鹿だな」
「はい」
子供が身体をシャツのボタンをすべて開け拭い終わり、タオルを涅色に叩きつける。温室の中心まで歩いて、小さな噴水を囲む縁に腰掛ける。笑って言う。
「おい馬鹿」
「はい」
「軍隊の中で同性愛というのはあるのか」
「はあ」
「あるのか、ないのか」
「私が見たわけではありませんが、士気が低い部隊や長期に渡り作戦を継続するなかで起こり得るとは聴いております」
「おまえの隣人ではいなかったのか」
「はい」
「そんなものか。おまえにわかりやすく言ってやる。わたしは男が好きだ」
しばらく静かにいる。
「冗談ですか」
子供は震えて言う。「そんなわけないだろう!」
涅色が言う。「それでも、仕える身として、変わることは何一つございません」
「おまえのケツの穴を私が狙っているとしてもか」
涅色は何も言わない。子供は話す。
「何度も考えた。どうして女が好きになれないのか。どうしても女がわからない。ときめくのはいつも男に対してだ。女の匂いより、男のそれにこそ魅力を感じる。買った女に突っ込んでもなにも満足がない。どんな目鼻立ちの整った者をあてがわれても、一度たりともだ! 男に対してほどの胸の昂りもない。これは病か、いっときのものか、であればいつ治る、どうしてこんなにも私は苦しむのか」
子供、息があがる。涅色がとなりに座る。子供の背中をさする。
「わたしにもよくわかりませんが、いまは秘密にされていたほうがいいかもしれません。それはこの時代だからこそです。お国がこのような事態でない他の時代であれば、若様の年齢でも公にされていいのかもしれませんが、いまは、若様が成人になるまでは。まだまだ迷いもございましょう。しかし、そのあとはご自由になさいませ。お仕えの命が解かれるまでは、御一緒させていただきます。いつまでも」
子供、泣く。
「香りよい」
涅色、子供の顔を見る。
「香りよい男子は、素敵だと思わないか」
「ローマの薬局には、男性用の香水も用意があったはずです」
子供、涙を両手でぬぐい笑う。
「あそこ、でな」
温室の二階通路の陰、片隅の暗がりを指差す。
「男の裸を夢見て、ひとりでしていた」
子供、そこへ歩きだす。
「出したものは、手で受け止めて、そこの水に流した」噴水を指差す。
「わたしはどこまでも罰をうける身だ」
「なにもかも満ち足りた身分であり、罪人だ」
暗がりの隅へ、子供は足を広げて座る。シャツをはだけ白い裸をみせる。ベルトを外し、ズボンのファスナーを下げ、性器を下着から取り出す。その性器は子供がしごくうちに硬く大きくなっていく。
「来て、くれないのか」
涅色、子供の目の前に立つ。
子供は笑って言う。
「お前のも見せろよ」
涅色、膝をつき子供のそばに顔を寄せ、耳元にささやく。
「軍隊式の、罰をくれてやろう」
涅色、子供の手をはらいその性器をしごく。
「ひゃぁ……あああああっ」
「どうした、感じているんだろう?」
子供、涙を流す。
「もっと、もっとッ」
子供が涅色の唇に口づける。
「もっと」
「しゃぶってやるよ」
涅色、子供の股間に顔をうずめ性器を口に含み、激しく出し入れする。子供はシャツをはだけて身体中で悶える。
涅色が性器から口を離し、どろどろになったそれを右手でさらに追い詰める。涅色は子供の顔を見下ろす。
「出せ。ほら、出せ」
「はああああっ」
子供の勃起したペニスから射精が始まる。精液が子供の腹の上に飛び散る。
子供、身体を震わせながら、ゆっくりと涅色の腕にしがみつく。
「ありがとう」
涅色、子供の金色の髪の毛をなでる。
「いつでも。いつまでも」
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夏。居間。昼。大きな葦簀で陽を
夏。居間。昼。大きな葦簀(よしず)で陽を遮っている。
男と女の若者がふたり。ふたりとも白い半袖ワイシャツ、女はスカート、男はズボンをベルトで留めている。二人、キスをする。
はじめようか、と、ふたりとも一緒に口ずさみ、共に驚く。ちいさく笑い合う。
男から言う。
「見たことある?」
「なにを?」
うつむき黙る男。笑う女。
「あるよ」
そうだったのか。
ちっちゃいころ一緒にお風呂はいったじゃない。
そうじゃなくて。
わたしのだってみたことあるはずだよ。
わすれた。そうだったっけか。
そうだよ。
するよ。
いいよ。
女のシャツのボタンを外していく。女が遅れて、男のシャツのボタンを外していく。誰か来ないかな。大丈夫だよ、きっと。キスをする。強くふたり唇を押し付ける。
「自分で脱ぐね」「うん」
ふたり、服を脱ぎ、裸になる。向かい合う。女、男の性器をみる。
「きみがこんなふうになってるのは見たことなかったな」
男、右手で女の胸を揉む。
「もっとキスして」
舌を絡め合う。
「ゴムないよ」「外に出して。はあはあいって、お猿さんみたい」
男が女の性器のなかに指をいれる。
「いきなりやめてよ」やめない。つよく中を擦る。女、膝から崩れ落ちて倒れる。男の指は止まない。耳元でささやく。「あふれてる」「やだぁ」男の背中に女の両手がまわる。「もういいよお」「だめだ」ここは? 女の身体がのけぞる。きもちいいんだ。「やさしくさわって」なんで? 敏感だから。男、指を抜き、女の股のあいだに顔を埋めてクリトリスを強く吸う。「ふああああっ」男の髪の毛を女が掻きむしる。「やさしくしてってああああ」舌でクリトリスを転がすほど女の身体が暴れる。口を離す「静かにしろよ」「だって」
男、女の股間から顔を離し、ペニスをしごき女の膣の入り口にあてがう。
「いい?」女、うなずく。
一気に全部入れる。
「あっ………はっ………!」
男、女の額に口づける。
「動くよ」女、うなずく。
「あぅ……はっ……うあ……好きぃ……んんっ……ああ!」
男の腰が動きつづける。女の両足が男の身体に絡まる。
もっと
おおきいよぉ
やばい、出る
だめぇ
うあっ
男の性器が女のそれから抜かれ、途端に射精が始まる。女の腹のうえに精液がまかれ、畳へと溢れる。女、男の性器を触る。まだ固い。
女、男の唇に口づける。もっとできる?
いいの?
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ベッドの上。彼の背後から
そのまま、そう、動かないでね。ブリーフなんだ。
ベッドの上。彼の背後からブリーフの中に右手を伸ばす。首筋に口づける。彼は声をもらす。
気持ちいいの? こっちは?
乳首をつまむ。彼は身体をねじる。
気持ちいい?
ブリーフを下ろしはみ出ているペニスを強くしごく。彼のかたの上に顎をのせたまま、続ける。
脱いじゃおうか。
ブリーフを彼に完全に脱がせる。
ひらいて。
彼は股をおおきくひらく。
おっきいね。しゃぶってほしい? だあめ。
ペニスをしごく。左手の手のひらでペニスの先を撫でる。
先っちょ気持ちいいんだ? かわいい声。もっと。
身体を密着させ、しごく右手にちからをこめる。擦る左のてのひらでネチネチとペニスの先からの分泌液が音をたてる。続ける。
「もうだめだよ」
じゃあやめちゃう。ふふふ。だあめ。
二人、口づける。身体を向かい合わせに座る。彼女は彼のペニスを離さない、しごきつづける。長い口づけを離し、彼の口から声が出る。彼女は彼の乳首を音を立てて強くしゃぶる。彼の口から声が出る。
「うああ……ッ」
手を休め、彼の右手を彼女は自分のスカートの中に手で導く。ストッキングや下着のうえから自分の股を触らせる。
あったかい?
そのままで、彼女は右手でペニスをふたたびしごく。彼の手が指が自分のうえで動く。
気持ちいい? わたしは気持ちいいよ。
彼の耳を噛む。左手の人差し指を彼の肛門に滑りこませる。大きな声が出る。
イって?
「だめっ…ああああ」
彼女は身体をよける。彼のペニスから射精がはじまる。激しく彼の身体が波打つ。彼女は彼のペニスをしごきつづける。ベッドのシーツのうえに精液が落ちる。
イッちゃったね。でもわたしまだだよ。
ふたりはキスをする。
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