Tumgik
t-natsuko · 1 year
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2023.1 うたの日
いつもよりあどけない顔をしたきみの帰省土産のほのかな苦さ(2023.1.10)
もういないはずの隣家の番犬の小屋にいまだに目を向ける冬(2023.1.11)
私にもまだやれることがあるはずと信じて折込チラシをめくる(2023.1.13)
手には針 雑巾を縫うわたくしの内側に火はくすぶっている(2023.1.14)
黒々とした松原を駆け抜ける夜行バスから放つ羽衣(2023.1.15)
やれることをやろうと思う スーパーで半額値引きの弁当を買う(2023.1.17)
打たれても打たれてもなほ鯛焼きの尻尾のにぶさに救はれてゐる(2023.1.19)
わたくしがいなくとも日々は回るのだ使いかけの麺つゆは冷えこむ(2023.1.21)
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t-natsuko · 1 year
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2022.12 うたの日
冬のバス停で缶コーヒーを持つきみの指先に透ける朝焼け(2022.12.1)
結論をはじめに述べる人ばかりいて迷子になる面接会場(2022.12.2)
おんぼろの石油ストーブでふくふくと黒豆を煮る師走の日暮れ(2022.12.3)
こぶの中わずかに愛をたくわえた駱駝の睫毛にひかる朝露(2022.12.4)
制服のスカートの裾にひるがえる 落款めく校章の刺繍は(2022.12.5)
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t-natsuko · 1 year
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2022.11 うたの日
朝食に茹で卵をひとつだけ食べ博士は月の研究をする(2022.11.1) 学び舎にこだます声の明るさに創立記念の日は照らされる(2022.11.2) 焦ることないと自分に言い聞かせオリーブの実を塩漬けにする(2022.11.10) 温かいココアの中に寂しいと言えずに留守番した夜を溶かす(2022.11.12) お互いの茶碗がシンクの水切りに重なり朝日に照らされている(2022.11.22) 駅で落ち合うつもりだろう時間差で帰るふたりを見送る残業(2022.11.23) 花束の茎はきれいに切り揃えられてわずかに根を懐かしむ(2022.11.27) わたくしの余白が広がる部屋隅の積ん読の塔をまた高くして(2022.11.28) 街灯にいちょう並木は淡く照り今年の秋の終わりがせまる(2022.11.29) 近づいてどこまで許されるのでしょう畳の縁を踏まずに歩く(2022.11.30)
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t-natsuko · 2 years
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2022.10 うたの日
かろうじて君を思い出にできた日の長月の風がうなじを撫でる(2022.10.1)
史学科を目指しているというきみが細やかに綴る学級日誌(2022.10.4)
曖昧なままのわたくし秋雨に晴雨兼用の傘をひらいて(2022.10.6)
かりそめの寝床はしずか 早朝に野鳥の鋭い鳴き声を聴く(2022.10.10)
我慢強いことも長所と思う夜に根菜スープをことこと煮込む(2022.10.11)
落っこちた満月のような梨の実が手の中で鈍く光を放つ(2022.10.12)
先延ばしにしたまま仰ぐ曇天を突き刺すがごとき青竹の群れ(2022.10.13)おとの日
鑑定士の眼差しで母は冗談に紛れた本音をじょうずに掴む(2022.10.14)
こだわりのスパイスカレーの複雑な味 また少しおとなに近づく(2022.10.17)
鮮やかな樹々の彩り 秋冬のボーダーラインが可視化されゆく(2022.10.19)
ご自由に武器をお選びくださいと言われてヌンチャクを選ぶ手練れ(2022.10.22)
築五十年の戸建ての祖父がタワーマンションのチラシで作るごみ箱(2022.10.27)
壁に突き刺した画鋲の跡を撫でこの部屋に住む次の人を待つ(2022.10.31)
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t-natsuko · 2 years
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2022.9 うたの日
日焼けした肌が制服によく映えてモザイクめいた朝の教室(2022.9.1) 追熟をさせるかぼちゃに染み込んだ真夏の温度と夕焼けの色(2022.9.3) 地下鉄の改修工事がいつまでも終わらない街に台風がくる(2022.9.7) 騙されたふりをしている夕暮れにトロンボーンの柔らかな音(2022.9.11) 後悔をするわたくしを慰める焼き立て胡桃パンのほろ苦さ(2022.9.13) 白菊を両腕で抱え坂道をゆく学生とすれ違う秋(2022.9.15) だんだんと皆が帰ってゆく空の濃い秋色の月を眺める(2022.9.16) 台風の前夜にちいさな鉢植えが室内で新しい芽を伸ばす(2022.9.18) 美樹ちゃんはもうこどもではないらしく私一人でおまじないをする(2022.9.18) 切るように混ぜると知ったばら寿司の椎茸の甘辛さを味わう(2022.9.19) 鴨肉を食むわたくしをも肉であるサークル・オブ・ライフのただ中で(2022.9.21) 秋分の日の月を煮詰めたような杏子色のカーディガンのぬくもり(2022.9.23) 窓ぎわの目覚まし時計が一日の産声としてかろやかに鳴る(2022.9.25)
宅配を待ち侘びてひとり遊びがますます上手になるわたしたち(2022.9.26) 擦り切れた単語帳を手に居眠りをしている少女の透明な夢(2022.9.28) かろうじて君を思い出にできた日の長月の風がうなじを撫でる(2022.9.30)
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t-natsuko · 2 years
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2022.8 うたの日
おっぱいが膨らみ始めたころ知った打ち捨てられる傘もあること(2022.8.1)
ワンピースの中で泳ぐ肉体を息継ぎのようにおさめるパンツ(2022.8.2)次席
掴んでも離してしまう 逆上がりさえできないまま大人になった(2022.8.3)
スコールが降りしきる池の水紋をオオトカゲたちはじっと見ている(2022.8.4)
もう少ししたら行くからそれまでは電波が届かない星にいさせて(2022.8.5)
祖母の過去と土曜の昼のラジオとを織り交ぜつつお好み焼きを焼く(2022.8.6)
もう会わないと決めて手帳を閉じたあと電車の窓から花火を見ていた(2022.8.7)
わたくしの道は険しく一人きりパチパチと火の爆ぜる音を聞く(2022.8.8)
水陸を合わせて映す眼鏡橋ふたりで世界をつくってみたい(2022.8.9)
涙を煮詰めたかのごとき薄氷の塩辛蜻蛉がついついと飛ぶ(2022.8.10)
歴史とは繰り返すもの若き日の母の蔵書を受け継ぐ私(2022.8.11)
明日もまた私が私であるために少し長めのシャワーを浴びる(2022.8.23)
自転車のスピードを上げて君もまた夏の終わりに近づいてゆく(2022.8.24)
揉まれれば揉まれるほどにやわらかな蚊帳生地ふきんのようになりたい(2022.8.25)
学び舎を飛び出し泳いでゆく君はきっと誰かのスイミーである(2022.8.26)
反撃の用意はいつでも出来ている粗挽き胡椒の香り華やか(2022.8.27)
わたくしの内側にある言の葉の倉庫の鍵は冴え冴えとして(2022.8.28)
笛だけは手放さずに荒野を進む はるか遠くに羊らの群れ(2022.8.29)
ほな、という一瞬間でかろやかに君は覚悟を決めてしまえる(2022.8.30)
巻き戻せないと知りつつ浮舟と探す宇治川が始まる場所を(2022.8.31)
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t-natsuko · 2 years
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2022.7 うたの日
返信用葉書におめでとうと書く卒アルの寄せ書きと同じ字で(2022.7.1)
無難さを信じて生きてもいいですか昼食に選ぶツナマヨおにぎり(2022.7.2)
命たちの涙で生まれた海原に今日もどこかで広がる波紋(2022.7.3)
真夜中のFMラジオは電波の海 瓶に入ったメールが流れる(2022.7.4)
曇のち快晴みたいに勝ち上がり球児らの最後の夏がはじまる(2022.7.5)
玄関のセンサーライトと柴犬が速さを競う(おかえりなさい)(2022.7.6)
“ほんとうのじぶん”の姿を囁かれ星占いに揺らぐ実存(2022.7.7)
那覇の案内人が歌うゆいまーる 雲もわたしもぐるりと巡る(2022.7.8)
紺色のタオルケットにくるまって私も夜の換羽を終える(2022.7.9)
繰り返し読む本、聴く歌、観る映画 わたしがわたしに近づいてゆく(2022.7.10)
丁寧に綴じられたきみの切取線の在り処を時たま確かめている(2022.7.11)
嬉しいと言葉にするとき削がれゆく光を掬えるスプーンがほしい(2022.7.12)
線路沿いの帰路に味わう金曜の夜風に溶け出すカレーの旨味(2022.7.14)
窓の外の嵐を見ながら喋らない九官鳥と暮らしています(2022.7.17)
手のひらの上で豆腐を賽の目に切るわたくしが覚えた手加減(2022.7.18)
触れてみる クール便で届いたマンゴーの果肉を夏の温度計として(2022.7.20)
少しだけ背伸びした子の筆箱に光る銀色のシャープペンシル(2022.7.21)
紛らわしい名前でごめん呼ぶたびにあなたに過去を思い出させて(2022.7.22)
シルクロードを飛んで来たか古寂びた鳥の香炉は亜細亜の薫り(2022.7.23)
社内での調整役をまかされて伝書鳩めくわたくしである(2022.7.24)
誰もいないこの夏に閉じ込めてやると言わんばかりに夕立が降る(2022.7.25)
わたくしの化石を未来の考古学者に託すから暴いてみせて(2022.7.27)
旅を終え異国の銅貨を入れるとき小さな噴水めく貯金箱(2022.7.28)
山頂でただ深呼吸をしておいで きみの中に方位磁針はある(2022.7.30)
転んじゃう前にあなたが手をひいてくれるから膝はいつもなめらか(2022.7.31)
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t-natsuko · 2 years
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2022年4月〜6月 自選
六月と夏の約束をするように青梅と氷砂糖を仕込む
味噌汁の���噌をとくとき淡く光る私の中の祖母の欠片は 
蓮の葉の上でたゆたう水滴へ世界はそっと収斂される
EXIT ONLYのドアは弁膜のように我らをやんわり阻む
世界史の教科書に引く水色のマーカーでできる海のさざ波
#短歌 #tanka
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t-natsuko · 2 years
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2022.6 うたの日
晴れた日に赤い帽子で散歩する子らを見守るつつじの紅さ(2022.6.1)
蓮の葉の上でたゆたう水滴へ世界はそっと収斂される(2022.6.2) 
心臓に触れたい あなたの左側は窓辺のひかりのような優しさ(2022.6.3)
虫の音とまとめる私に虫博士の子はマツムシだと教えてくれる(2022.6.4)
校庭のトンビはくるくる輪を描きラジオ体操第一を舞う(2022.6.5)
六月と夏の約束をするように青梅と氷砂糖を仕込む(2022.6.6) 
にせものの海に抱かれた浅蜊たちの吐く砂はきっと孤独の破片(2022.6.7)
校内のロッカーにリタ・ヘイワースを匿う 脱獄する日は近い(2022.6.8)
閉館の音楽は子守歌となり書架から漏れる密やかな息(2022.6.9) 
摺硝子製の心の脆弱さ わたくしだけが真夜中だった(2022.6.10)
土地の記憶としての異称を渦巻きの殻にたくわえ蝸牛は歩む(2022.6.11)
試される 君の手描きの最寄り駅からの地図の目印は猫(2022.6.12)
ご自宅用ですかと聞かれてキャンドルは少しおすまし顔をしている(2022.6.13)
寂しさと付き合うすべを語りたい過去のわたしに糸電話して(2022.6.14)
ネムノキの鼓動の響きを体内の時計で感じて私も眠る(2022.6.15)
世界史の教科書に引く水色のマーカーでできる海のさざ波(2022.6.16)
旋風を舞う鳥たちの故郷のしるべとなる潜水船の灯は(2022.6.17)
故郷の祖父が作った甘酒のやさしい甘みを思い出す夜(2022.6.18)
突然のあらしに備える感情の水位を保つための涙だ(2022.6.19)
喉奥にあるちっぽけな苦しみはホットケーキに包んで捨てる(2022.6.20)
夏至の夜にひかりは溢れ妖精とすれ違う気がする帰り道(2022.6.21)
エラいのに仕事しよってえらいやんと偉い人らがえらい褒めよる(2022.6.22) 
疑問符の曲線をいつか直線へ変えるための退屈な日々だ(2022.6.23)
尾が欲しい 両手で荷物を抱えても君をそっと撫でられるくらいの(2022.6.24) 
息を吸い吐くをただ繰り返す日の仄暗い部屋に飛行機の音(2022.6.25)
6Bの鉛筆の芯で文字を書く教室の子らの頬は柔らか(2022.6.26)
CMを真似て愛の所在を問うきみの背後に覚悟の二文字(2022.6.27)
ふるさとの海は彼方へ 陶器屋で小石のような醤油皿を買う(2022.6.28)
おとうとと父は歪な空白を将棋盤にして年始のみ指す(2022.6.29)
くっきりと濃い夏陰の中にいて街の輪郭の確かさを知る(2022.6.30)
#tanka #短歌
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t-natsuko · 2 years
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2022.4-5 うたの日
わたくしの悲しみ全てを包み込み木蓮の花はゆらゆらと散る(2022.4.11)
子ども会に座敷童子がいるようでお菓子の包みが一つ足りない(2022.5.12)
先生に教わればこのため息も因数分解できるでしょうか(2022.5.13)
平城京跡を散歩する犬は尾を振り何度も空を見上げる(2022.5.14)
折り紙で桔梗を折る子は初めての恋をした日を隠して笑う(2022.5.15)
味噌汁の味噌を溶くとき淡く光る私の中の祖母の欠片は(2022.5.17) 次席
さみしさと西瓜の種を飲み込んでお腹の中で育てたあの日(2022.5.18)
臆病な恋人でごめん君からの電話を切るのはいつでも私(2022.5.20)
夕飯をグリーンカレーと決めてから私の今年の夏は始まる(2022.5.21)
藤色のハンカチのしわを丁寧に伸ばして明日のお守りとする(2022.5.22)
EXIT ONLYのドアは弁膜のように我らをやんわり阻む(2022.5.23) 次席
靴下を大事な場面で裏返しのまま履く君だからすきです(2022.5.25)
汗をかき剣道着のまま面談をする生徒がとる夢への構え(2022.5.26)
ランドセルに合言葉を詰めこんで裏路地探検隊は行くのだ(2022.5.27)うたの日 おとの日
遥かなる海の記憶を閉じ込めて淡水魚たちは孤独に泳ぐ(2022.5.28)
黙食を促す校内放送と箸の音だけが響く教室(2022.5.29)
手の届く世界をいくらか広げたく度入りの眼鏡を初めて掛ける(2022.5.30)
ストレスで生まれたはずの口内炎の痛みが新たなストレスを生む(2022.5.31)
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t-natsuko · 2 years
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2021年
コウモリが飛んだら夕飯だからねと言う母を背にサンダルを履く(東京歌壇 8月15日 東直子選 特選)
室内で組み立てられた灰色のソファはボトルシップのようだ (NHK短歌 2021年12月号 大賞)
立ったまま眠る私は満員の電車の中の小さなキリン (NHK短歌 2022年2月号 佳作)
服を脱ぎ裸眼で入る湯の向こう塊たちが蠢いている (NHK短歌 2022年4月号 佳作)
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t-natsuko · 4 years
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近況を語らぬままに湯に浸かるスラリと伸びた背のなめらかさ
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t-natsuko · 5 years
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t-natsuko · 5 years
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何者かになろうとして何者にもなれぬ我はいったい何者
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t-natsuko · 5 years
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大勢の中の君の背遠く見え就職祝いを渡せずに春
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t-natsuko · 5 years
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t-natsuko · 6 years
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