「視力1.0」でも突然失明することはある…健康診断ではわからない「失明原因トップ5」の恐ろしさ - ライブドアニュース
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以下引用
目の健康を保つには、何が大切なのか。眼科医の平松類さんは「失明原因のトップ5である緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、網脈絡膜萎縮は、末期になるまで視力が落ちることはない。視力検査で失明の危険性はわからないため、必ず『眼底検査』を受けてほしい」という――。
※本稿は、平松類『眼科医が警告する視力を失わないために今すぐやめるべき39のこと』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■いたずらに「眼圧」を上げるような行動は控えたほうがいい
会社の健康診断などで眼科検診に行くと、視力検査と一緒に必ず「眼圧」の測定も行われると思います。しかし、その意味合いをいまいち理解していない人がほとんどではないでしょうか。
眼圧測定とは、空気を軽く当てて「眼球の圧力」を測ることで「眼球の硬さ」を調べるものです。
なぜこの検査が重要かというと、眼圧が高い、つまり眼球が硬いと、失明原因の1位である緑内障のリスクが高くなることがわかっているからです。近年では眼圧の高さと近視の進みやすさの相関も指摘されています。
ここから言えるのは、「眼圧が高くなるような行動」は、できるだけ避けたほうがいいということです。日常生活のなかにも、知らないうちに眼圧を上げてしまう行動がけっこう潜んでいます。
その筆頭が、「水の一気飲み」です。水分補給は目の健康にとっても重要ですが、汗をかいたり、脱水症になったりしたときを除いて、一般的に水の一気飲みはよくありません。
体に水分が入ると、血液中の水分量が増えます。ごく単純にいえば血管を流れる液体の量が増えるため、血管に圧がかかります。これは大半の臓器にとっては大した問題ではないのですが、ごく微細な毛細血管が張り巡らされている眼球には、過度な圧力をかけてしまうのです。
■水の一気飲みはNG、マメな水分補給を
いたずらに眼圧を上げないよう、「水分補給は少量ずつ」が鉄則です。
例えば500ミリリットルの水を一気に飲むと、平均で3~4、最大で7ほども眼圧が上がることがわかっています。
眼圧の正常値は10~20ですから、その30~40パーセント、最大で70パーセントほども眼圧が上がるというのは、いわば収縮時血圧(最高血圧)が正常値の130から一気に170くらいまで上がるようなものです。
1回に飲む量は、200ミリリットル程度が適当です。もちろん1回の摂取量を抑えたせいで水分不足になっては本末転倒ですから、1時間に1回くらいを目安に「マメな水分補給」を心がけていきましょう。
■「過度な運動」は目をいじめる行為
「水の一気飲み」に加えて、気をつけたいのが運動習慣です。
運動のすべてが悪いわけではありません。「筋トレ」の場合、自重トレーニング程度ならば問題ないのですが、重すぎるウエートを用いた筋トレだと「いきむ」たびに眼圧が上昇するという研究があります。
意外なところでは、「ヨガ」も要注意です。
さまざまなポーズをとることで、ほどよく体全体がストレッチされ、呼吸を繰り返す有酸素運動でもあるヨガが概して体にいいことは確かです。ただし、唯一、目の健康を考えるうえで懸念されるのは「頭が心臓よりも下になるポーズ」です。
頭が心臓より下になると、当然ながら、頭に血が上ります。すると眼球にも圧力がかかってしまうのです。ヨガをやめる必要はありませんが、目の健康を思うのなら、頭が下になるポーズは避けたいところです。
逆に、目にいい運動もあります。体に酸素をふんだんに取り入れ、巡らせる「有酸素運動」(ウオーキングや軽いジョギング)は、必然的に目への酸素供給にもなり、目の健康維持に寄与します。
目安は「週3回、1回あたり30分以上、合計で週に90分ほど」、運動の強度は「ゼエハアと息が上がらず、会話できる程度」。これくらいの有酸素運動が緑内障などの防止になるという研究データもあります。
■「ストレス」も眼圧を上げる一大要因
眼圧には自律神経も関係しています。
ストレスを感じると、緊張状態を司(つかさど)る交感神経が優位になるのですが、このとき体中の血管が収縮します。眼球も例外ではありません。交感神経が優位になると眼球の毛細���管が収縮するし、そこで眼圧が上昇するのです。
現に、緑内障に処方される目薬は、交感神経を鎮める効果のある成分が使われています。交感神経を鎮めることで眼圧を低下させ、緑内障を軽減する狙いがあるわけです。
ストレスには、仕事やプライベートでの人間関係のストレスもありますし、騒音や急激な冷えといった環境的なストレスもあります。冬場は眼圧が高くなるという研究報告もあるほどです。
すべてのストレスを取り除くのは難しいものですが、自然に触れに行く、自宅でのんびりする、ゆったり入浴するなど、適宜、自分に合ったリラックス習慣を取り入れましょう。
■眼圧を上昇させる「睡眠姿勢」に要注意
みなさんのなかに、「睡眠時はうつぶせ」という人はいるでしょうか。
問題は、うつぶせになったときの顔の角度です。心臓より眼球が下にならない顔の角度ならば、ギリギリセーフです。
しかし、心臓より眼球が下になる顔の角度で寝ると、眼球の中の水晶体というレンズが本来の位置から少しだけ下に落ちることになり、眼球から余分な水分を排出する箇所がふさがれてしまいます。そして余計な水分が排出されないことで、眼圧が上昇してしまうのです。
年に数回ならばいいのですが、毎日、ランチ後にデスクに突っ伏して仮眠を取るなどの行為は、眼球にとっては最悪の習慣です。
同じ理由で、マッサージ店や整骨院によくある「顔のところに穴が開いているうつぶせ用のベッド」や、理髪店の「顔を下に向けるシャンプー椅子」も好ましくないのですが、それほど高頻度でなければ、あまり心配はありません。
また、横向きで寝るのはいいのですが、枕の硬さ(柔らかいほうが目に圧力がかかりやすい)や顔の角度によっては、眼球が枕に押し付けられるような感じになってしまいます。これはよくありません。目にかかる圧力上昇は、眼圧の上昇を意味するからです。
まとめると、睡眠時の姿勢は「あおむけ」がベストです。とはいえ眠りやすい姿勢は人それぞれでしょう。今後は目の健康のために、とにかく「顔が下向きになる」「眼球が枕に押し付けられる」ことだけは避けるよう、意識してみてください。
ただ、これらの生活上の注意は可能であればというレベルですので、無理せず取り組んでいただければと思います。
■視力は「いい・悪い」で判断してはいけない
これもありがちな誤解なのですが、視力(メガネやコンタクトレンズによる矯正のない「裸眼視力」)がいいから検診を受けなくても大丈夫、とはいえません。
そもそも一般的には何をもって「視力がいい」と思われているのでしょう。0.8や0.9まで見えれば「視力がいい」のでしょうか?
専門的には「視力」とは相対的な指標です。現時点で「いい・悪い」という話ではなく、「以前と比較してどうか?」という変化こそが重要です。
例えば、一般的には視力0.9は「視力がいい」ほうに入るのかもしれませんが、昨年は1.0だったところから0.9に下がったのなら、それは「大丈夫」とは言い切れません。視力が下がった場合は近視の進行も考えられますし、何らかの病気になっている可能性もあります。
■失明原因トップ5の病気は「末期まで1.0くらい見える」
「視力がいいから検診を受けなくても大丈夫」とはいえない理由は、これだけではありません。失明原因のトップ5である「緑内障」「糖尿病網膜症」「網膜色素変性症」「加齢黄斑変性」「網脈絡膜萎縮」は、実はかなり進行するまで1.0くらいは見えていることが珍しくないのです。
1位の緑内障の場合、いよいよ重度になり一人では歩けないくらいにまでなって初めて、1.0から視力が下がってくるケースがよく見られます。
2位の糖尿病網膜症も同様です。糖尿病により、ものの色や形をハッキリ捉える黄斑の中心部「中心窩」がむくむと早期に視力が低下する場合がありますが、そのむくみが起こらなければ、末期までは視力1.0くらいが維持されます。
3位の網膜色素変性症は、暗いところでものが見えなくなったり(夜盲)、視野が狭くなったりする遺伝性・進行性の疾患です。こうした症状が出てもなお、明るいところや、視力が届く範囲ではハッキリとものが見えるので、視力検査値としては「悪くなっている」わけではなく、1.0くらいは余裕で見えるケースが多いのです。
4位の加齢黄斑変性は少し例外で、早期から視力が下がるケースのほうが多く見られます。とはいえガクンと視力が下がるのは、だいぶ黄斑変性が進行した末に、合併症により網膜中心部に発生した新生血管から出血したときです。
そして5位の網脈絡膜萎縮もまた、早期からゆっくり視力が下がっていきますが、やはりガクンと下がるのは、かなり進行した後です。
■定期健診には「本当に必要な検査」が含まれていない
このようにたどる経過はそれぞれ違うものの、基本的には、末期になるまでは1.0くらいの視力が続きます。1.0というと、一般的には自信をもって「私は目がいい」といえる数値だと思いますが、ご覧のとおり、「大丈夫」といえる根拠にはなりえないのです。
企業や地方自治体の定期健診の眼科項目は「視力検査」「眼圧検査」だけで終わってしまう場合がほとんどでしょう。しかし前項で見たように、たとえ視力が1.0以上あっても失明の危険のある病気にかかっている可能性は消せないため、視力検査にはあまり意味がありません。視力検査が役立つのは白内障の診断です。
また、かつては「眼圧が上がると緑内障リスクが高くなる」のは確かだったのですが、日本人は神経が弱いため、緑内障患者の8割は眼圧が低いのに緑内症になっていることがわかっています。したがって、緑内障の診断に必須とされてきた眼圧テストの意味も、薄れてしまいました。
今後、罹患するリスク判定も含め、失明原因トップ5の疾患の診断には、眼底カメラで眼底の血管、網膜、視神経などをチェックする「眼底検査」が欠かせません。
追加料金が必要になる場合もありますが、これらの疾患の早期発見、早期治療のために、今後の眼科項目では、ぜひ「眼底検査」のオプションをつけることをおすすめします。
■「片目だけの悪化」は自覚しづらい
失明原因トップ5の疾患の早期発見、早期治療には眼科検診(特に眼底検査)が欠かせないと述べたことには、あと二つほど理由があります。まず一つめは、一般の方の「見えている」は、実は「片方しかちゃんと見えていない」可能性がゼロではないからです。
日常生活のなかで「片目ずつ何かを見る」という場面は、ほとんどありません。誰もがたいていは両目を開いて、ものを見ています。とはいえ両目が等しく、ちゃんと見えていないと生活できないわけではありません。
試しに片目をつぶって歩いてみてください。あまりふらつくことなく、真っ直ぐ歩けるはずです。つまり両目で見ているようでも、極端なことをいえば、仮に片目を失明していても生活には大して支障が出ないのです。
そのため、意外と多いのが、片目の視力の急激な低下にずっと気づけないというケースです。不調を感じなければ眼科を受診することもなく、病気の発見が遅れてしまいます。そういう患者さんが一定数いるのです。
眼科検診では、必ず片目ずつ検査を行います。片方の目は健康でも、もう片方の目は不健康という自覚しづらい事態もたちどころに明らかにし、早期に手を打つことができるというわけです。
■「緩やかな悪化」は自覚しづらい
そしてもう一つ、目の疾患の早期発見、早期治療に眼科検診が欠かせないと述べた理由は、人は「緩やかな変化(悪化)」を自覚しづらいからです。例えば、もし、昨日は1.0だった視力が、今日は0.2になっていたら、視力検査を受けずとも、誰だってすぐに異変に気づけるでしょう。
しかし、白内障では徐々に視力が低下していきます。しかも、ちょっとくらい視力が落ちたところで、急に日常生活が送れなくなるわけではありません。それなりに何とか補正しつつ、生活を送ることができてしまうのです。
緑内障も同様です。両目の視野が半分くらいになっても、見えていない分を脳が補正してくれることで、何ら支障なく暮らせてしまいます。視野はたしかに半分になっているのですが、脳が情報を補い、「見えているように」認識するのです。
まったく人間の脳の補正力とはすごいものだと感心してしまいますが、そのために何も手を打たないまま日常生活を送っている間に、病気が進行してしまうというケースは決して少なくありません。
さらに、目の不調を単なる「疲れ」と捉える人も多いようです。
本当は病気による不調なのに、「今日は目が疲れる」「最近、目が疲れやすい」「ここのところ、ずっと目が疲れている」とすべてを疲れのせいにして、徐々に病状が進行していることに気づけないケースもあります。こうして早期発見のタイミングを逃してしまうのです。
上記すべてに共通しているのは、自分の体のことは自分が一番わかっているというのは錯覚である、ということです。こう言ってはなんですが、「自分が支障を感じていないから大丈夫」という感覚は、実はほとんどアテにならないのです。
■人生100年時代には目の健康は欠かせない
食料事情の改善、医学・医療技術の発達などにより、人間の寿命はどんどん延びてきました。そして寿命が延びたことで、体のさまざまな臓器や器官は、より長期にわたって働かねばいけなくなりました。特に、目は過酷な状況に置かれています。
寿命が延びたことで使用期間が延びただけでなく、例えば本を読むようになった、車に乗るようになった、デジタルデバイスを使うようになった……といった人間の生活の変化により、目はどんどん酷使されるようになってきたからです。それだけに、私たちはいっそう目の健康に気を使わなくてはいけない時代になっていると思います。
目の病気には、死に直結するようなものはありません。しかし、どの目の病気も、悪化するほどに生活の質は大きく損なわれます。
しかも目の病気は総じて神経のダメージであり、一度ダメージを受けた神経を元通りにするのは、ほぼ不可能です。となると、ダメージを受けていない神経を守り、残っている機能をできるだけ保全することが重要になってきます。病気の進行を食い止めたり遅らせたりするためには、検診による早期発見が欠かせません。
人生100年時代だからこそ、年に一度の眼科検診で専門医による客観的な診断を受けることが、いつまでも、より快適に暮らしていけることにつながるのです。
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平松 類(ひらまつ・るい)
眼科医 医学博士
愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。「あさイチ」、「ジョブチューン」、「バイキング」、「林修の今でしょ! 講座」、「主治医が見つかる診療所」、「生島ヒロシのおはよう一直線」、「読売新聞」、「日本経済新聞」、「毎日新聞」、「週刊文春」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「女性セブン」などでコメント・出演・執筆等を行う。Yahoo!ニュースの眼科医としては唯一の公式コメンテーター。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」は20万人以上の登録者数で、最新情報を発信中。著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』(時事通信出版局)、『自分でできる!人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。
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(眼科医 医学博士 平松 類)
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TEDにて
オリバー・サックス:幻覚が解き明かす人間のマインド
(詳しくご覧になりたい場合は上記リンクからどうぞ)
神経科医であり、作家でもあるオリバー・サックスが、シャルル・ボネ症候群 ‐ 視覚障害者に生じる正常人が経験する幻覚症状の一種 ‐について語ります。
自身の患者が体験した幻覚を心温まる細部に渡って描写しながら、あまり社会には知られていないこの現象の生態学へと案内します。現在では、特定の脳細胞が引き起こしていることがわかっています。
人は目だけではなく脳でも見ています。想像は脳で見るものです。想像が描き出す心象は馴染みがあるでしょう。どんな人だって想像はしますから。
しかし、幻覚もあります。幻覚は全く異なるもので我々の創造ではありません。抑制もできません。幻覚は外から現れて現実と区別がつきにくい。
その幻覚について話をします。
私の患者が体験した特殊な幻視を紹介します。数か月前に電話がありました。私が働く老人ホームからです。入居中の90代の女性が、幻覚を見ているので気が狂ったのではないかと。または、高齢のために脳卒中かアルツハイマーではないかと。
それで診に来てほしいと頼まれました。ロザリーおばあさんです。診に行ったら彼女が正気なのは、明らかでした。頭ははっきりしていて理解力もある。でも非常に当惑していました。
幻覚が現れるからです。事前に聞いていませんでしたが、彼女は盲目だったのです。彼女は5年前に加齢黄斑変性症のため失明したのですが、数日前から幻覚を見るようになりました。
“何が見える?”と聞くと
“東洋風の服を着た人たちが、階段を上り下りしている。私の方を見て微笑んでいる男。口の脇から大きな歯が出ているの。動物も見える。白い建物。わた雪が降っている。雪かき用ハーネスをつけた馬が見える。��して、ある晩、シーンが変わったの。猫や犬が寄ってきてある程度近づいたら立ち止まる。そして、また変わる。階段を上り下りしている。たくさんの子ども。バラ色や青の明るい服を着ている。東洋の服のよう”
その人たちが現れる前に床に広がるピンクと青の四角い模様が、天井に上がる幻覚が見えることも。
“夢のような感じ?”と尋ねると
“いいえ、夢ではなく映画のよう。色もついていて動きがある。でも無声映画のように音がない”
やや退屈な映画だと“東洋風の服をまとった人たちは、上り下りを繰り返すばかりで行動が限られている”
ユーモアのある女性なんです。幻覚だとわかっていても怖がっていた。95年の人生で幻覚を見たことがなかったから。その幻覚は彼女の思考や感覚、行動と無関係だというのにやって来ては消えていくようです。
コントロールすることはできず、彼女には幻覚の中の人物や場所はどれも見覚えがない。しかも人も動物も彼女に気がついていないようだった。彼女は状況が把握できず、狂ってしまったかと心配していました。
私は入念に診察しました。陽気なおばあさんで異常はなし。体調良好、幻覚を引き起こす薬も飲んでいません。盲目ということだけ。それで言ったんです。
“察しがつきました。視力低下や失明によって起きる特殊な幻視があるんです”
“これはシャルル、ボネという男性が、18世紀に初めて記述した症状です。あなたはシャルルボネ症候群です。脳も精神も正常、シャルルボネ症候群ですよ”
それを聞いて彼女は安心し、深刻な問題ではないことにホッとした。そして、むしろ好奇の目で“シャルルボネって誰?彼にも幻覚が見えたの?”と。
さらには“看護師のみんなに私はシャルルボネ症候群だと言ってちょうだい”
“狂ってもボケてもいない。シャルルボネ症候群なだけ”彼女の言うとおりにしました。
これは、よくあるケースです。主として老人ホームで仕事をするので高齢者が相手です。聴覚、視覚障害者も多く聴覚障害者の約1割は、音楽性幻聴が聴こえます。視覚障害者の約1割は、幻視を見ます。全盲ではなく弱視も含まれます。
18世紀に話を移しますが、この幻覚症状があったのは、シャルルボネではなく彼の祖父でした。祖父は高齢の裁判官でした。白内障の手術を受け視力は相当悪かった。1759年、彼は自分の幻覚症状を孫に話したのです。
まず彼が話したのは、宙に浮くハンカチです。大判で青地にオレンジの丸が4つ。祖父は幻覚だと認識していました。宙に浮くハンカチはありませんから。そして宙に浮く大きな車輪を見た。
でも、時々、幻覚か否か自信がなかった、幻覚が身の回りのものと調和しているからです。ある日、孫娘が来ていた時“男前の若い衆は誰かね?”と聞きました。
“まぁ、お祖父様。そんな人いないわ”そうするとその男たちは姿を消しました。幻覚ではよくあることです。パッと現れ、パッと消える。徐々に現れたり消えたりしません。むしろ突然起きるのです。
シャルルボネの祖父には、何百もの人影や形、風景が見えました。バスローブ姿でパイプを吸う男も見えました。それは彼自身だったのです。見覚えのあるのは、それだけでした。ある時、パリの街を歩いていたら目に入った本物の工事現場の足場が、帰宅すると15cmのミニチュアとなって書斎の机にのっていました。映像を繰返し見ることは、反復視と呼ばれます。
シャルルボネの祖父やロザリーに起こっている現象をロザリーに説明しました。視力を失うと脳の視覚部分に入る情報が無くなるためそこが活動過多になります。
そして自発的に作用してしまい幻覚を見始めるのです。時に内容も非常に複雑化します。
別の患者の体験です。その女性は弱視で彼女に見えるものは厄介でした。ある時、彼女はレストランで縞模様のシャツを着た男を見た。男は彼女の方を振り向き6人に分離して彼女の方へと歩き始めたのです。
そして、6人はスーっと1人に戻りました。ある時、彼女は夫が運転する車に乗っていたら道が4つに分かれました。そして彼女も4つに分かれて進む感覚を覚えました。
動きのある幻覚も見えました。その多くは車に関連したものでした。時々彼女はボンネットに座っている10代の男の子が見えました。車にくっつき道を曲がるたびに優雅に動くのです。そして、車が止まると男の子は、30m真上に急上昇して姿を消してしまうのです。
こんな幻覚を見る患者もいました。その女性は目には問題ないけれど脳の視覚部分に問題がありました。後頭皮質にある小さな腫瘍です。とりわけ、彼女にはアニメ映像が見えました、
そのアニメは透けて見えるもので画面のように視野の半分を占めています。よく見るのはカエルのカーミットでした、私はセサミストリートは見ませんが、彼女は、こう主張するんです。
“なぜ?カーミットが出てくる理由がわからない。フロイト的な意味が知りたい。なぜカーミットなの?何の意味もなさないのに”
アニメは我慢できてもしつこく出てくるイメージや顔の幻覚に彼女もロザリーも困っていました。多くの場合、巨大な歯や目をしたデフォルメされた顔が見えるからです。彼女は怖がっていました。彼らには何が起きていたのでしょう。
医者である私は患者の症状を見極め安心させるのが仕事です。狂ったのではないと伝えるのは特にそうです。
先ほども言いましたが、視覚障害者の1割がこの症状を持っています。しかし、症状を訴えるのは、そのうちの1%以下。精神障害だと思われるのが怖いからです。病院に行っても誤診される可能性だってあります。
特に、幻覚の概念は、気が狂ってるとみられがちです、しかし、精神病性幻覚はかなり違います。精神病性の幻視や幻聴の場合、声をかけてくる。責められる。誘惑してくる。侮辱される、馬鹿にされる。巻き込まれてしまいます。
シャルルボネ症候群において声をかけられることはありません。自分とは無関係の映画を見るようなもの。そのように、捉えられています。
側頭葉てんかん。という稀なケースがあります。この症状は、過去に遡る感覚や以前訪れた場所へ戻るような感覚が生じることがあります。ある交差点に立っている焼き栗の香りがする。車の音。五感で感じ取れます。
彼女を待っていた忘れもしない1982年、あの火曜の夜、側頭葉に関わる幻覚はすべての感覚に関係しています。感覚があり馴染みがあり場所や時間もはっきりしていて話に筋が通っていて芝居のよう。
シャルルボネはかなり違います。
シャルルボネ症候群には、様々なレベルがあります。幾何学模様の幻覚やロザリーが見たピンクや青の四角。人や特に顔の出てくるとても精緻な幻覚もあります。デフォルメされた顔が現れるのは、シャルルボネ症候群で最も一般的です。
2つ目によくあるのはアニメ。
これは、どういうことか、面白いことに過去数年の間に幻覚症状の最中にfMRIを使用して脳機能の画像化が可能になりました。実際に幻覚が現れているときに異なる脳の視覚部分が、活発化することが特定されました。
単純な幾何学模様が現れるときは、一次視覚野が活発化します。脳は、この領域でへりや模様を知覚します。一次視覚野で画像を作りだすのではありません。
画像が作りだされるとき。高次の視覚野が、側頭葉と作用します。特に、側頭葉の一部は、紡錘状回と呼ばれています。紡錘状回がダメージを受けると顔を認識できなくなることがあります。
しかし、紡錘状回が異常に働くと顔の幻覚を見ることがあります。これが、患者に起きていることだったのです。この脳回の前方には、歯と目を思い描く領域があります。巨大な歯と目の幻覚が見えるときは、脳回のその部分が活発化しています。
脳の別の部分は、アニメが見えるときに活発になります。アニメを見たり描いたり、アニメの幻覚発生時に活動しています。特異性があって興味深いんです。脳の他の部分では具体的に建物。風景の認識や幻覚に関連する部分があります。
1970年頃、脳の決まった部分のみならず特定の細胞があることがわかりました。1970年頃、顔細胞が発見されました。今では何百種類もの細胞が発見されています。非常に特有な細胞です。
ですから、もしかしたら車細胞だけではなくアストンマーチン細胞があるかも。今朝アストンマーチンを見たので話したかったんだ。既にどこかにあるはずだよ。
下側頭葉皮質と呼ばれるこのレベルでは、視覚画像や断片しか処理されません。他の感覚が加わってくるのは、もっと高次の領域です。
そして記憶や感情と関連しています。シャルルボネ症候群では、このレベルまでは達しません。
下側頭葉皮質において何千も何百万ものイメージや断片的な作り事が、決まった細胞や細胞の小さな固まりに神経符号化される部分で生じます。
通常、これはどれも知覚や想像の一体化した流れの一部なのです。人間は意識していません。
視覚障害者である場合に限りこの過程が中断されます。そして、正常な知覚を得る代わりに下側頭葉皮質では、その視覚細胞から無秩序で発作的な刺激や放出が行われているのです。
そして突然、顔や車が見えたり色々なものが見えるのです。頭はまとめようとしたり一貫性をもたせようと頑張りますが、完璧には働きません。
この幻覚が初めて発表されたとき。夢のように解釈できると思われていました。でも、患者さんは言う“こんな人たち知らない、関連づけ出来ないわ”
“カーミットなんて私にとって何の意味も持たない”夢のように考えてもダメなんです。
さぁ、私の話はこんなところです。要は、この幻覚症状はよくある事なんです。世界の盲人数を考えてください。このような幻覚症状を持つ盲人は何十万といるに違いない。
でも怖くて言えないんです。ですから、このような事実は患者、医者、世間のためにもっと知られるべきなんです。
最後に、これは、脳の働きを洞察するには非常に興味深く貴重な情報だと思っています。
250年前にシャルルボネは、このような幻覚症状を思いながら脳の機械仕掛けから心の劇作品がいかに作り出されるのだろうと考えました。
250年経った現在、私たちは真相を究明し始めたと思うのです。
どうもありがとう。
最高だ、どうもありがとう。
洞察力が深くて患者さんへの共感が感じられました。そのような経験をご自身もされたことは?
聞かれるだろうと思いましたよ。けっこう見ます。実は私も視覚障害者です。片目は失明してもう片方も良好ではありません。幾何学模様の幻覚が見えます。
他のは見えません。
不安にかられませんか?どんなことが起きているのか分っておられるから。
耳鳴りよりは、ましです、耳鳴りは無視してますけど幻覚には時折興味が湧くのでノートにたくさん絵を描いています。
fMRIも使用して視覚野の機能も見ました。六角形や複雑な模様は、眼性片頭痛でも見ることがあるのですが、これは普通なのでしょうかね、
そして、古代に描かれている洞窟壁画や装飾デザインは、幻覚をヒントに作られたのか?
興味があります。
非常に興味深い貴重な講話でした、
どうもありがとうございました。
2018年現在では、サピエンスは20万年前からアフリカで進化し、紀元前3万年に集団が形成され、氷河のまだ残るヨーロッパへ進出。紀元前2万年くらいにネアンデルタール人との生存競争に勝ち残ります。
そして、約1万2千年前のギョベクリ・テペの神殿遺跡(トルコ)から古代シュメール人の可能性もあり得るかもしれないので、今後の「T型オベリスク」など発掘作業の進展具合で判明するかもしれません。
メソポタミアのシュメール文明よりも古いことは、年代測定で確認されています。古代エジプトは、約5千年前の紀元前3000年に人類最初の王朝が誕生しています。
(個人的なアイデア)
オリバー・サックスが、幻覚は外から現れて現実と区別がつきにくい!と言ってるように・・・
もしかして幻覚も「ブラックホールと観測者問題2023」で考察した「死の瞬間」に見るとされる走馬灯に似ている?
「死の瞬間」に、その激烈な感情を自動的に沸き起こす人間の走馬灯システムが超大質量ブラックホールにアップロードされるための起動スイッチかも?というアイデアを拡張して
同じメカニズムのスイッチが入るために、超大質量ブラックホールにアップロード、ダウンロードできている?
ひょっとしたら、幻覚ももしかして・・・このメカニズムで一時的にアップロード、ダウンロードされている?
超大質量ブラックホールに「死の瞬間」の人の記憶がタイヒミューラー理論で量子エンタングルメントにより記録されているとしたら?
つまり、アカシックレコードに記録されているとしたら?
人の死の際に走馬灯。つまり、走馬灯がよぎると言うデータが、死の直前に夢を見ている。もしくは記憶を再生して、何十倍ものスピードで記憶を再生していると言う解釈から
盲目になると・・・シャルルボネ症候群から・・・出てくるこの幻覚も「死の瞬間」のように脳が誤認識してしまうため・・・
このメカニズムで一時的にアップロード、ダウンロードされている?とも考えられるかもしれない可能性もあります。
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