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夕日

むかしは踊ってばかりの国の良さがわからなくて、当時の恋人にライブに連れてかれたりしてもぜんぜん楽しめずに帰っていた。それが最近少しずつ好きになってきた。特にきっかけがあるわけでは無い。少しずつ、胸に沁み渡るように分かってきた。

追憶を背負うという言葉はわたしのなかにいまも深く染み付いている。人間とは白いシャツのようなものだと思う。あるいはタブラ=ラサというのかもしれないけれど、とにかく、身の回りのいろいろな「あなた」にいろいろな色を貰って、カラフルになっていく。綺麗な色ばかりでは無い。ときには汚い色もあるけど、できる限りは自分の過去を背負っていけることが出来たらいいと思う。

嫌いになるまで好きになることができたのはほんとうに幸運なことのように感じる。惜別を覚えないほどに一緒に過ごせた時間も、夕日にぜんぶ飲み込まれて消えていくのかもしれない。

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ポルノグラフィティの『アポロ』の、腕時計の歌詞は聴くたびにどきりとさせられる。それって僕のより、はやく進むってほんとうかい？ただ壊れてる……　はやく、遠くに向かってわたしたちは進歩してきたけれど、それってほんとうに正しかったのか？「壊れながら」人類の歴史は進んできたともいえるし、人類がこれだけ進歩しても愛のかたちが変わらないように、時の流れも変わらないとも言える。

『ハンチバック』を読んだ。「壊れながら」生きている一人の女性が主人公だ。脊椎の障がいを患った彼女はただ歩くにしても自分の身体を「壊し」ながら生きていかざるをえない。正常な姿勢を取れず、動くたびにそこら中に青痣をつくって、背骨がきしみをあげる。自分を壊すことでしか生きられない彼女はいつしか「他者」を壊すことを欲望するようになる。彼女にとって、もっとも身近な他者となり得る胎児の中絶を欲望するようになる。

『ハンチバック』はいわゆる当事者小説だから、わたしが上の歌詞と小説を重ね合わせるのは失礼なことかもしれない。けれど、あらゆる社会、あらゆる人間は巨大な歴史のなかの構造に規定されていて、誰もが壊れながら生きているとも、言えるかもしれない。壊れながら回転し続ける世界と、壊れ続けるあなたたち。あるいはわたしたちは、誰かを傷つけることでしか生きていけないとも言えるかもしれない。傷つけて、傷ついて、壊した先にあるのは約束された蜜流れる楽園だろうか？『ハンチバック』では最後のほうに旧約聖書が引用されていた。殺戮の先に約束されたカナンの楽園の再現に必死になる虐殺者たちは、自らもまた虐殺された経験がそうさせるとしたら罪深い話である。

『その日、すなわちゴグがイスラエルの地に攻め入る日に、わが怒りは現れる。

わたしはみなぎる雨と、ひょうと、火と、硫黄とを、彼とその軍隊および彼と共におる多くの民の上に降らせる。

主なる神は言われる、見よ、これは来る、必ず成就する。これはわたしが言った日である。』

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寂しくない　エコキュートも呼んでるし今日から猫もお家に来るし

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扉

わかり合えないのなら全ての口を噤み深く深く穴へ落ちていこうと思っていたけど、世界にはわかり合えなくても愛し合える美しい人もいるのだということが、最近分かりました。私たちはしゃべり続けます。そこには痛みだけがあって、私たちは痛みを知りながら死んでいくのだということが、最近分かりました。私たちは風が吹きすさぶ中で、しっかりと地面を踏みしめて立っています。痛みを口に出してはいけないのでしょうか？巻き上げられた言葉たちの中で、浮かび上がってきたのは貴方の残骸だけでした。これから私は秘密の儀式を執りおこなうんです。少しだけ痛みを囲うことができるように、少し知ることができるように、私は暗い部屋に入りました。煌きのように、最も永続しえない痛みは私の横で今日も息をしてくれています。わからないのは何も私だけではないという言葉を、爪を這わせて何度も何度も刻みます。気付くのが遅すぎたみたいね、責め句が何度も何度も反響します。まるで私たちが天国の雲に手が届かない証明みたいじゃない？叫びが私の中を暴れ回ります。いま夢から覚めたところなの、貴方は確かにそう言いました。ねえ、私のなにも信じられないまま投げつけた言葉や感じてきた絶望は全部、貴方の人生のワンシーンたり得るでしょうか？それでも私たちは愛し続けます。(2022-2)

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生き続ける

息をし続けていたら肺がダメになっていく感覚があった。呼吸が早くなっていって、世界の汚さに我慢できなくなる。こんな世界でわたしは生き続けなければいけないのか？だんだん視界は眩んでいき、ぼやけた世界にあなたの顔だけが浮かび上がる。でもそんな自分だって汚いよな、何を棚に上げてるんだよと思うと、気の迷いだったかのように早鐘は落ちつき、元通りの快適な世界だ。

こういうことは何度かあったけれど、その度にこれが最後なのかもと思いながら、楽しんですらいたかもしれない。今日は久しぶりに"そう"なった。空っぽに何も入っていないことが僕の救いだとあなたは言った。ようやくあの時の言葉の意味が分かりそう。

さようならあなたへ、私たちの不安をかたどる8月のぬるい風。だんだん冷たく、澄んでいく空気は私たちだけの痛みを溶かしていく。彼方にはあまりにもちっぽけな失望だけが待つ。

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咳

咳が止まらない。どこで貰った咳なのかはもう分からないくらい続いている。とくにそれ以外で体調不良があるわけではないけれど、咳がずっと続いている。

だんだん春めいてきた4月は余寒といえばそんな気もしてくるし、もう夏が近づいてきているといわれればそんな気もしてくる。少しずつ夜は短くなって、世の中が忙しなくなってくるころだ。

子供のころは三学期がやけに短いなといつも思っていた。終わりのない苦行のようにつづく一学期、二学���に対して、あっという間もなく春に近づいてくる三学期は楽しみだった。思えば三学期は勉強することも多くなかった。少々感染症に弱い身体で、インフルエンザに毎年かかっていたことも影響しているのかもしれない。

変わっていく自分に対していらだつことができるのは若さの特権なのか、それとも成熟と緩やかな老いの前兆を感じとった本能の抵抗なのか。一つわかるのは、私はいままでもそしてこれからも変わり続け、そのたびに世界の見え方もちょっとずつ変わっていくという大仰じみた教訓だけだ。咳をするときに隣で聞いてくれる人がいるということ以上の救いはない。少しずつ生活をやれるように、願いを込めて。

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ペリドット

あなたのことを本当に愛していました。それだけが全部だったんです。それだけが本当に全部で、まばゆく光る何もかもがあなたの前では嘘でした。罪はだんだんと重なり続けるもの。道はだんだん狭まっていき、残像が消えていって、あとは黄緑色のペリドットとあなたのいた痕跡だけがわずかな灰となって地面に転がっています。私はいっしょに寝転がろうと腰をおろしただけなのにそれだけでもう身体の節々が痛んで、せり上がる罪悪感に耐えきれずその場から逃げ出します。

あなたの寝顔をなでようとしていつも虚空を切っていたあの日を思い出します。自分のつらさにかこつけて、あなたのつらそうな顔を見ないふりをしていたのは私でした。世界にあなたがもし一人だけだったらあなたはつらくなかったのでしょうか。あなたが身代わりに私を殺してさえくれれば、あなたの気は晴れたのでしょうか？あの日から、神は少しずつ私をみはなしていって、暗がりではあなたの絶望が少しずつ溶け出していくようでした。少しつらかったかな？何をといかけてもあなたの返事は決してないままなのです。

「セックスをしないと出られない部屋に入りましょう。」平然なまま痛みを押しつける世界はいつまでも終わらない雨を待ったままでした。とっておきの花束をあげるねといって取り出したあなたの花束はどうにもくしゃくしゃで、それが面白くていつまでも笑い転げていました。執拗な記憶がだんだんと追い詰めてきて、それでも私は何もできないままだったのです。遠ざかっていくあなたを私は決して振り返らまいとして歩いて行きました。

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生きられて、どうか生きられて良かったと私のために言って。世界がだんだんと背丈を低くしていき赤銅色の空が私たちを押しつぶすような時その息苦しさを抱え込んだまま私は痛んだ脚を持ち上げて、私は。家々が暗闇のなかまるでミニチュアのように浮かび上がり、下卑た光を放ちながら眼前に迫ります。私はどうか衆目のなかで死なせて、そう思いました。低劣な連中の前でだんだん衣服がはだけていき、その内に掻きむしった胸から鮮血が舞って、私の内面までも全部がぶちまけられて、それでもお前たちは私のことなんて何一つ分からないの。そうでしょう？そうやって低く低くしなだれていく世界で私はおしのように黙るだけで、お前たちはくだらないことをいつも喋っている。光れ！何に対して？痛め！どうして私だけがいつも痛いの？死ね！私はもう何回も死んでいる！そんな呪詛を吐くたびに傷ついていく私の心、それでも美しい私の心、だんだん剥落していく心はだんだん不感症になっていって、もうドス黒く変色しきる寸前の私の心！あなたがもう一度助けに来てくれる日をおこがましくも待ち続けることすらできなくて、自分で自分を傷つけ続ける日々に私はもう耐えられなくて、それで私は言葉を喋れなくなりました。さようなら。

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disappearing

電車に乗っていたら、街がビュンビュン流れて行ってそれがとても綺麗で、終点なんてないまま景色が続いていくような気がしていました。貴方とはどんどんはなれていって、私はすでに、色づきが変わり続ける景色からしたらまるで異邦人のような気分でいました。ああ、これが希望なのか。私は直感しました。流れていく時間のなかで、貴方に背負われていくこと、これこそが希望なのでしょう。今こそ私は確信を持って言えます。子供の時代は終わったのだ、と。途中の停車場で私は降りて、そこがどこかも知れないままに運賃を払いました。美しい青空とうららかな陽気は、今が夏なのか春なのかも分からなくさせます。噴水に腰掛け、水面に指をぽちゃんと浸け、真に正しい季節の到来を祈り、私は静かに目を閉じました。

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電車に乗っていたら、街がビュンビュン流れて行ってそれがとても綺麗で、終点なんてないまま景色が続いていくような気がしていました。貴方とはどんどんはなれていって、私はすでに、色づきが変わり続ける景色からしたらまるで異邦人のような気分でいました。ああ、これが希望なのか。私は直感しました。流れていく時間のなかで、貴方に背負われていくこと、これこそが希望なのでしょう。今こそ私は確信を持って言えます。子供の時代は終わったのだ、と。途中の停車場で私は降りて、そこがどこかも知れないままに運賃を払いました。美しい青空とうららかな陽気は、今が夏なのか春なのかも分からなくさせます。噴水に腰掛け、水面に指をぽちゃんと浸け、真に正しい季節の到来を祈り、私は静かに目を閉じました。

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ゆっくりと、世界は変わっていくんだと知っていく。願っても叶わない想いばかりが積み上がって今にも崩れそうなところまできている。空を見て。星はこぼれ 満ちて、月は頬を照らして、それでも君は私を見つけられない。瞬きの瞬間でさえ少しずつ変わっていくこと。身の回り、私はこれからどうしていこうか。笑って、流れに乗せて、苦しくても耐えて、頑張って行けると思う？仕事、仕事、勉強、勉強、勉強、君、きみ。今でも愛していると言っても、信じてくれる？私はどうしても、何もかもに対して疎外感から逃れられずにいる。それでも、私は私しかいないのだと自己暗示している時間が一番楽で、一番空い。久しぶりに都会に出て、私の思い描く未来の想像をしてみる。都会。私はここで生きていくとより、自分を殺してしまう気がする。私はあの子たちにはなれなかった。手を繋いで歩いていく、揺れる布が軽やかな髪の長い女の子。ヘッドフォンの音が全員に聞こえるくらい、大きくしてみる。私はあの子にはなれない。なれないんだよな。

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#Spotify

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枕元から起き上がったあなたの横顔に差す薄暗い過去は、今日だってどうしようもなく私を拒絶しているのに、それでもあなたの媚態は抗い難い陶酔となって、私の身を苛みます。私はあなたが好きなのを認めざるを得ない。あなたの美しい顔が好き。男性には珍しい大きな目、妖艶に聳える鼻筋、真一文字に結ばれた口許、ふっと笑った表情はまた別の物語を映し、また消えは映し、コマ撮りが止まることはありません。チャーミングに、不器用に、コミカルに揺れ動く目元は、あなたの恐れ知らずで不器用な内面のようで、あなたの視線にすべる光は蝶々のように軽やかで、私はその全てを捉えたくなってしまいます。執拗な口づけも、物欲しそうにねだる顔も、たまらず声をあげるのも、全部好き。3時間休憩5000円の安宿で誰も触れない2人だけの国を再現する自分たちの矮小さも、安直な快楽に没頭するくだらなさも、全く気にならないほどです。とにかく私はあなたが好きで、それだけで十分でしょう？春雷さえも聞こえない、閉ざされた意味の中で私たちは口づけし合う。

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明朗に語りあげる世界。例えば夜が深く朝焼けに死を待つまでの間、その時間帯にだけ現れるという天使。

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わかり合えないのなら全ての口を噤み深く深く穴へ落ちていこうと思っていたけど、世界にはわかり合えなくても愛し合える美しい人もいるのだということが、最近分かりました。