Tumgik
illwithmidnight · 1 year
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夜を飲み物だと思い込んで、毎晩、ただひたすらにコップの中に注ぐ(注…あくまで“注ぎ込もうとしている素振り”だが)少女がいる。少女は、知らなかったでしょ?と上にルビが振って読み取れるような得意げな口調で、毎日同じセリフを繰り返す。「これに星を溶かすと炭酸になって、その次に月を混ぜると今度はアルコールに、その上に濃藍を足すと、まるでただの水になっちゃうの。でもこの飲み物のいちばん面白いところは、四季が移り変わるたびに味そのものすら変わっていっちゃうところよ」。少女は西洋映画に出てくる魔性の存在よろしくそれはそれはさぞかしたのしげに笑っていたけれど、なんだか、かき氷のシロップが持つ「視覚のもたらす情報に騙られ味覚に幻をみる」思い込みの原理に、ひどく似ているな。と、僕はあの子の、焦点の合わない目をみて思う。
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illwithmidnight · 1 year
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安いプラスチック製でラベリングされた、恋とか愛ってやつをレンジで温め直す作業をする。溶けても、破れても、中身が漏れても、決して動じずに卵が孵化する瞬間を待つ「夏休みの自由研究」みたいな、あの痛々しい無邪気さで見蕩れている。主導権とかどうでもいいけど、折角節をつけて抜き取った君の情操観を、完全に溶けきらなかった脂紛の浮きばむこの情で濁せば、支配欲くらい満たされるかなって。
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illwithmidnight · 1 year
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きっと、彼女の寝息には、ドラクエのメタルドラゴンみたいに「魔物の仲間を呼ぶ」ような術が宿っているのだ。僕のためのやわらかい憂鬱が、すぐそこまで迫っている。
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illwithmidnight · 1 year
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異様だった。視界が、被写界深度による酷いリンチに遭ったみたいに、やけに長い時間ぼやけていることも。君が、俺の上に跨ったまま、一向にうんともすんとも微動だにしないことも。まるで終点のような、行き止まりの静けさをただよう。沈黙には基本的に二つの種類があって、それは時間を溶かせるか、溶かせられないか、というところに宿るのだけれど、これは紛れもない後者だ。それでも隔たりの意味で重なりあった「肌」と呼ばれる隙間からは爛れるような熱が芽吹いていたので、試しに、酔ってんの?と聞いた。返ってきた言葉は結局、「どうして」のみじかい一言だけだった。「どうして。」一文字一句の発音に齟齬を生むことは断じて許さないかのように、はみ出さないように、敷かれたレールの上を沿って、目の前の相手がこぼしたやるせなさを掬い上げる。…どうして。って?神妙なキスをこさえるみたいに尋ねてみても、相変わらず返事はない。サーモグラフィでひとたび覗けば真っ赤っかに映るであろう目の前の温度も、依然として変動しない。にしても、あつい。家一つくらいたやすく燃やせそうなこの体温は、君のどこから来ているんだろう。
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illwithmidnight · 1 year
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— 大体はタンパク質と水なのに、どうして君が好きなんだろう。
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illwithmidnight · 2 years
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「たやすみなさい」
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