Tumgik
#這う猫
chiharukihara · 8 months
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CRAWLING CAT 2023
oil on canvas 910×727㎜/F30
Chiharu KIHARA
86 notes · View notes
aiart-blog · 1 month
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Cat lingerie
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カワイイ彼女に猫ランジェリーを着せて部屋をウロウロさせたいという欲望を余すこと無く具現化した画像になります。
因みにこのランジェリーはπの大きさやカットアウトされた部分から見える谷間も最も重要なんですが、引き締まったお腹や程よく鍛えられた腹筋も注目すべきポイントだと思うんですよね‼
こんな子が四つん這いになってにゃあにゃあと言いながら笑顔で近寄ってきたらどうします?抱き締めちゃうでしょ?
構って🎵構って🎵とスリスリもしてくるのです❣撫で撫でしちゃうでしょ?
ご褒美に小皿にミルクを注いでペロペロと飲ませるのってどうですか⁉なんか変な性癖に目覚めちゃいそうですね。…うん、ヤバい。
という訳で。 今回はこれくらいにしておこうと思います。
English) The desire to fully embody the image of wanting to dress up my cute girlfriend in cat lingerie and have her wander around the room has been realized without reservation.
By the way, in this lingerie, the size of π and the cleavage visible from the cutout parts are the most important, but I also think that the toned abdomen and moderately trained abs should be points to focus on!
What would you do if a girl like this got down on all fours, saying "meow meow" with a smile and approached you? You'd hug her tightly, right?
She'd also rub against you, asking for attention! You'd probably end up petting her, right?
How about rewarding her by pouring some milk into a small dish and letting her lick it up? That might awaken some strange fetishes… Yeah, that's dangerous.
So, yeah. Let's stop here for now.
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rosysnow · 8 days
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柔らかな熱
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 体育祭なんて、誰ひとり楽しいと思っていないのだから、とっとと廃止すればいいのに。
 痩せた脚のせいで徒競走で転んで、ひとり手洗い場でハンカチで膝の血をぬぐっていた。ああ、またかっこ悪かった。しかもこの中学の全校生徒、先生たち、保護者たちの前で。
 冷たい水分が擦り傷に響く。思わず顔を顰めていると、「城木くん、だっせえ」という声がして振り返った。いつもの何人かのクラスメイトがいて、僕はぎゅっとハンカチを握る。
 その中のひとりの手が蛇口に伸びて、きしむような音を立てて水音が止まった。
「向こうつまんねえから、つきあえ」
 前髪の隙間から目だけ動かして、そう言ったクラスメイトを見る。
 こちらを見る目は、嗤ってすらいない。本当に、ただ怒っている。くそつまらない体育祭にいらついている。僕がうざいとか、そんな感情すらない。ゴミ箱や便器に向けるような、汚物を嫌悪する目──
 背中を押されて、囲まれて、静まり返った校舎に入った。「かったるいよなー」とか「親は来るなっつったのに」とか、うんざりした言葉と足音が廊下に響く。
 一年二組。僕たちの教室にたどりつくと、「また転べよ」と肩を突き飛ばされて、前のめりになった僕は転ばず立てそうだったけど、わざと床に膝について座りこんだ。
 擦り傷が痛覚に刺さる。笑い声がぐるぐる降ってくる。
「マジ城木だせえ」
 がつっと肩胛骨のあたりを蹴られて、脇腹も鋭く爪先でえぐられる。小さくうめいて、上履きの臭いが染みついた冷たい床に顔を伏せてうずくまった。頭、背中、腰にいくつも嘔吐のように足が飛んで、まだ治っていない軆じゅうの痣を踏み躙る。
 目をつぶって、唇を噛んで、こぶしを握って、頭蓋骨に直接響く攻撃に耐える。上履きの臭い硬いゴムの靴底が、全身を強く穿って、本当に軆に穴が開くんじゃないかと恐怖がこみあげる。
 虚ろになる頭に、校庭の次の競技の放送がぼんやり聞こえる。熱中症に厳重注意の日射しが、教室に白くあふれている。
 いつまで吐き捨てられていたのだろう。気づくと、教室に取り残されていた。
 ぐらぐらして取り留めのない声をつぶやいて、ゆっくり起き上がった。体操服をめくってみると、内出血がべったり広がっていた。少しカッターで切れ目を入れれば、血管から破裂しているその血がほとばしるのかもしれない。
 ため息をついて、自分の席にまで這いずっていくと、椅子によじのぼって座った。背もたれに寄りかかろうとすると、腫れた感触がずきっと脊髄を刺した。だからつくえに顔を伏せて、丸くなって、乾いていく瞳で日がかたむくのを見つめて教室で過ごした。
 緩やかに赤く焼けていく空の下で閉会式が行われたあと、生徒はいったん教室に集まって、参加賞のノートと鉛筆、そして紅白饅頭が配られる。
 勝ったのは紅組だった。得点に一番貢献したクラスには、賞品が贈られる。もちろんそれは僕のクラスではなかったし、それどころか僕は先生に不在を知られていたらしく、「城木くんにはこれはあげられません」と参加賞をもらえなかった。
 だって、みんなが、僕を。
 言いたくても、絶対いつも言えなくて、僕はうつむいて「はい」とだけ言った。先生は教壇で今度作文を書くこととかを話して、すぐ解散を言い渡した。すぐに日は落ちて、怪我した脚を引いてひとりでたどる帰り道は、もう暗かった。
 住んでいるマンションのそばにまで着いて、明日回収の生ゴミが積まれたゴミ捨て場の前を横切ろうとしたときだった。不意に泣き声が聞こえた。子供の泣き声に聞こえた。あたりを見まわし、その声はすぐ足元からだと気づいてびくっとする。
 でも、そこにいたのは子供ではなかった。口をきつく縛られたビニールぶくろを破って、頭だけ出している焦げ茶の猫だった。
 ほっとしてから、しゃがみこんでみた。飼われていた猫だろうか。ほとんど警戒しなくて、頭を撫でると嬉しそうに鳴いた。ふくろに入れて、口を縛って、生ゴミと一緒に置いておくなんて──
「ひどいね」と小さく言っても、緑色の瞳は無垢に開かれている。僕は猫をがさがさとふくろから出してあげた。そして立ち上がろうとして、振り返って、また身をかがめてしまう。
 猫が哀しそうに鳴いた。ペットは飼ったことがないから、猫のつらい鳴き声がこんなに泣いている子供の声に似ているのは、初めて知った。
 ふかふかした軆を抱きあげてみると、連れて帰りたくなったけど、マンションだからもちろんペットは禁止だ。どうしよう、と動くに動けず、ただその猫の頭を撫でていた。とりあえず生ゴミの臭いから離れて、マンションに隣接している公園に行った。
 街燈だけ灯って、誰もいない。ブランコで猫の顔を覗きこんだり、胸に抱きしめたりしてると、猫のほうも僕に慣れてきて鳴き声が落ち着いてきた。僕でも知っている、「にゃあ」という鳴き声だ。
 このまま、あのゴミ捨て場に置いておくわけにはいかない。心を決めると、猫を抱いたままマンションに入って家に帰った。
 鍵をまわしてドアを開けると、おかあさんの声がした。電話をしているみたいだ。「日曜日も私たちのところには帰ってこれないの⁉」──怒鳴っている相手は、おとうさんだとすぐ分かった。
 おとうさんは一度、僕を知らない女の人に会わせたことがある。いつも家にいないのは仕事だと思っていたのは、それで崩れた。
 おかあさんに気づかれないように、自分の部屋に駆けこんだ。猫はベッドの上に下ろして、部屋をあさって悩んで、口が大きく開くリュックを広げて服を詰めて、寝床みたいにした。ベッドの上を歩いていた猫を抱くと、そこに移させる。
 大きくない猫だったから、さいわい大きさが足りないこともなくて、そこに丸くなってくれた。牛乳なら飲むかな、と部屋を出て、キッチンに行くとリビングのおかあさんが僕をちらりとした。でも「おかえり」を言う前に、「切らないでよ!」とケータイ相手にヒステリックに怒鳴る。
 僕はコーンフレークの食べるときの皿と牛乳、魚肉ソーセージを素早く抱えて部屋に戻った。
 服を着替えると、その夜はずっとその猫を見つめていた。冷房でちょっと部屋を冷ました。猫は牛乳でお腹がいっぱいになったようで、魚肉ソーセージは残して眠りについてしまった。
 おかあさんは遅くまで叫んでいて、僕はその声が怖くて小さくなる。うつらうつらしてくると堅いフローリングに横たわって、すぐそばで猫の寝顔を見ていた。
 翌日は、代休で学校は休みだった。このままおかあさんに気づかれず猫を飼えたら一番だけど、そんなのうまくいかないのは分かっている。おかあさんが出かけて家が空っぽになった隙に、猫を抱いて外に出た。
 九月の白日は、まだまだ暑い。でも、猫の体温は優しいから心地いい。
 ひとまず向かったゴミ捨て場は、空っぽになっていた。この猫がゴミと思われて、収集車のあの回転する圧迫につぶされていたかもしれないと思うとぞっとした。
 この猫の飼い主は探さないほうがいいのだろう。あんまり僕も会いたくない。だとしたら、新しい飼い主か。どこに連れていけばいいのだろう。
 たたずんで猫と見合って悩んで、そういえば、駅までの道にある動物病院が迷い犬を預かっている張り紙をたまに出しているのを思い出した。よく分からないので、僕はそこに行ってみることにした。
 猫は僕の腕に抱かれて、おとなしくしている。いつも抱かれていたから、慣れているのだろうか。いつも抱いているような飼い主だったのに、あんなふうに捨てたのか。何で愛したはずのものにそんなことができるのか、どうしても分からなかった。
 動物病院の前に着いても、嫌な顔をされたらどうしようとドアを開けられずに躊躇っていた。そうしていると、後ろからビーグル犬を連れた女の人がやってきて、入口のドアを開けて犬を先に中に入らせ、「どうぞ」と僕のことも自然と招き入れた。
 僕は挙動不審になりそうになっても、動物のにおいがする病院の中にぎこちなく入った。
 その瞬間だった。
「せぴあ!」
 突然そんな声がして、おろおろする間もなく、高校生くらいの女の子が僕に駆け寄ってきた。猫はするりと僕の腕を抜け出して床に降り、その子の足元にすりよる。女の子は待合室の床に座りこんで、いきなり大声で泣き出して、ビーグル犬も、その飼い主の女の人も、顔を出した白衣の男の獣医さんも、もちろん僕もぽかんとした。
「ほたるちゃん」
 そう呼ばれた女の子は、獣医さんを振り返って「先生、せぴあ見つかったよお」と大粒の涙をぼろぼろこぼす。すると、獣医さんもほっとした表情を見せて、突っ立っている僕を見た。
「君が見つけてくれたのかい?」
「え、……あ、はい」
「どこにいたんですか⁉ 私、昨日の夜からずっと探してて、」
「夜……は、僕が部屋に連れていってました。すみません」
「どうやって連れていったんですか? この子、家猫で外には出ないのに──」
「えっ……と、……ご、ゴミ捨て場に、いたので。マンションの」
「……え」
「ふくろに入れられてて、そのままじゃ、ゴミと一緒連れていかれるかもしれないと思って」
 待合室が静かになって、奥から犬の鳴き声だけが響いた。女の子は猫を抱き上げて、「あのくそ親父」と苦々しくつぶやいた。
 それから立ち上がって僕を見て、「ありがとうございます」と頭を下げた。
「たぶん、それをやったのは父です。ご迷惑かけてすみません」
「あ、いえ。連れて帰ります、か」
「はい。もちろん」
「大丈夫、ですか」
「……父は普段、家にいないので。ふらっと帰ってきて、この子がいたからそんなことしたんだと思います。昨日、私が留守にしてたのが悪いんです」
「ほたるちゃん、またそんなことがないとは限らないだろう。ここで一時的に預かってもいいんだよ」
 獣医さんはビーグル犬の前にかがんで、その喉を撫でてやりながら言う。
「でも」
「来年、高校を卒業したら家を出るって話してたじゃないか。それからまた、せぴあちゃんと暮らすほうが安全じゃないかな」
 女の子はうつむいて押し黙った。僕はその横顔を見つめて、ずうずうしいかとも思ったが、「そっちのほうが」と言った。
 女の子は僕を見て、「少し考えてから」とせぴあというらしいその猫を抱いてソファに座った。「ゆっくり考えなさい」と言った獣医さんは、ビーグル犬を抱き上げて女の人と診察室に入っていった。
 僕はどうしたらいいのか迷い、ここで去るのも冷たい気がして、何となく女の子の隣に隙間を作って座った。女の子は僕に顔を向けて、「この子がいないと」と泣きそうな顔で咲った。
「私、家でひとりぼっちなの」
「……ひとり」
「おとうさんはそんなだし、おかあさんとは血がつながってないし。妹はおとうさん同じだけど、おかあさんに懐いてるから」
「………、そっ、か」
「私なんか、存在してないみたいなの。この子だけ、私にあったかくて、話聞いてくれて、優しいの」
 僕はうなずいて、視線を下げた。ふと、彼女がこんな残暑に長袖に着ているのに気づいた。
 ちょっと考えたあと、「でも預けたほうがいいと思う」と僕はつぶやいた。何か言おうとした彼女に、勇気を出して先に言ってみた。
「僕が話を聞く」
「えっ」
「あったかい、とかはできなくても。僕が君の話を聞くよ。またその子と暮らせるまでのあいだ。僕でいいなら」
「………、」
「変な、意味とかはなくて。その猫がまた同じ目に遭うのは、僕も怖いし。次も僕が助けられるかなんて分からないし」
「……いいの?」
「うん。あっ、でもすごいこととか、意見とかは言えない。聞くだけしか、できないと思う。それでよければ」
 彼女は僕を見つめて、ふと柔らかに咲うと「優しいね」と言った。慣れない言葉に狼狽えて、僕は首をかしげた。彼女はせぴあを抱きしめて、涙の痕がある頬を焦げ茶の毛並みに当ててから、「分かった」と目を閉じてうなずいた。
 そうして、せぴあは動物病院でしばらく保護してもらうことになった。
 僕は学校が終わると、ほたるさんというその人と待ち合わせて、晴れの日は公園で、雨の日は図書館の軒下で、いろいろ話して過ごした。僕は僕のことをあんまり話さなくて、ほたるさんが空を眺めながら自分のことを話してくれた。
 ほたるさんの歳は十九歳。ほとんど記憶にない二歳のとき、本当のおかあさんは出ていった。おとうさんはまもなく再婚した。おとうさんはリストラ以降働かなくなった。義理のおかあさんと妹は結束しておとうさんを疎み、まとめてほたるさんの存在も疎んでいる。家族に嫌われているうち、いつのまにか人間関係に混乱するようになった。自然と作れていた友達との距離が測れなくなった。
 もしかして今のうざかったかな。ううん、逆に冷たかったかも。でもどうしよう、目を見て確かめられない。あれ? 人の目の見るのってこんなに怖かった……?
 眉を顰めてうつむきがちになって、やがて周りにはひとりも友達はいなくなっていた。明らかなイジメはない。強いて言えば仲間外れ、無視、孤立。
 笑い声が恐ろしい。その場にいて申し訳ない。消されていなくなりたい。中学を卒業し、ベッドでふとんをかぶって一年引きこもった。
 おとうさんは部屋に怒鳴りこんでくる。おかあさんと妹は蔑んだ目を向けてくる。
 ここにいても救われない。この家庭は居場所にならない。どこかへ逃げなきゃ!
 気づけば、手首がいっぱい泣きじゃくって、赤く染まっていた。このまま病んでしまわないために、自分ですべて調べて、通信制高校に通うようになった。友達は相変わらずできない。けれど、通信制高校ならそれでもわりと浮かない。
 淡々と単独行動で登校し、ついに今度の三月にほたるさんは高校を卒業する。
「ずっと明日が地獄だった」
 晴れた冬の日、薄く白くなるようになった吐息と、ほたるさんは公園のベンチに腰かけた。僕も隣に座った。
「でも、やっと春から自由なんだ」
「うん」
「楽になれるといいな。家さえ離れたら幸せになるってものでもないだろうけど」
「そうかな」
「分かんないけど。切ったりするのは治ってほしいな」
「今でも切るの?」
「いらいらするとね。吐きたくなるの。食べ物吐く人と一緒だよ。血を出してつらさも流す」
「……そっか」
 僕は自分の無傷の蒼い手首を見る。それに気づいたほたるさんは、「真似しちゃダメだよ」と微笑んだ。僕は小さくこくんとする。
「ずっと、切ることしか手段がなかったけど。せぴあ拾ってから、あの子が気持ちを癒してくれるの。抱っこしたらあったかいことで、すごくほっとする」
「せぴあ、あったかいよね」
「うん。あの子がそばにいるあいだに、人間として立ち直れたらいいな」
 冷えこむ指先を握りしめて、そうだな、と思った。せぴあがほたるさんに生涯寄り添ってくれたら安心だけど、そうはいかない。あるいは、せぴあのように思える人間とほたるさんが出逢えたらいいのに。
 それを言いたくてもうまく言葉にまとまるか悩んでいると、「ふふ」とほたるさんはおかしそうに咲った。
「何か、いつもだけど。私の話ばっかりだね」
「えっ。あ──いや、ほたるさんの話を聞くって約束したから」
「君のことは訊いちゃいけないの?」
「……僕、は」
 イジメられてるから。さくっと言ってしまうのは簡単なのだけど、そのひと言で終わらせるのが妙に苦しい。
「あんまり、おもしろくないよ」
「私の話もおもしろくないでしょ」
「そんなことないよ」
「私は、君の話も聞きたいけどなあ」
「僕の話……」
「無理は言わないけどね」
 僕は顔を伏せて考えた。学校や家庭での光景が、またたいて頭の中を走り抜ける。
 蹴る。怒鳴りあう。罵る。放り出す。貶める。
 僕は学校では生きている価値がない。僕は家庭では存在している価値がない。けれど、それを言葉にしたら、声が空中を引っかいて何かの痕痕になるのだろうか。そう思った僕は、ゆっくり口を開き、「嫌な話だけど」とぽつりぽつりと学校や家のことをほたるさんに話していた。
 ほたるさんの地獄は、春になれば終わる。僕の明日にはまだ地獄が来る。クラス替えまでだろうか。卒業までだろうか。死ぬまでだろうか。死ぬまで僕は「みんな」の中に溶け込めず、孤立して心を粉々にしていくのだろうか──
 ふと、ほたるさんが僕の頭に冬が染みこんだ冷たい手を置いた。僕はほたるさんを見た。
「泣かないんだね」
「……え」
「泣いてもいいんだよ」
 目を開いた。色づく息が震えた。
 何、で。何で、そんなこと。
 だって僕は、苦しくていいのに。みんな僕に怒りを捨てていくけど。哀しくていい。僕がいなければ離婚できるけど。痛くてもいい。心も軆もぼろぼろだけど。全部全部、慣れてしまったから。
 でも、優しくはしないで──
 僕の頭を撫でて、ほたるさんの袖の陰が見えた。
「かっこ悪いとか、気にしなくていいんだよ」
 優しい声に、視界が滲んだ。そのまま、熱い雫が頬を伝っていた。ついで、どんどんあふれてくる。ほたるさんは袖を引っ張って、その手を僕の手に重ねた。僕の手もほたるさんの手も冷えている。
「この手でせぴあを抱いて、助けてくれたでしょう? 君が拾いあげてくれたから、今、あの子は生きてるんだよ」
「………っ、」
「君がここにいるから、春になったら、せぴあはまた私と暮らせるんだよ」
「……そんな、の」
「君には、そんな温かさがここにあるんだよ」
 何も持たないほたるさんの手が、僕の何も持たない手を握った。すると、ゆっくりと微熱が生まれてくる。
 ここに、ある。僕も、ここにいる証拠を持っているのだろうか。
 ひとつでいい。小さくていい。ここにいる証明。
 せぴあを拾ったあの日、当たり前にもらえる参加賞ももらえなかった。でも僕も、生きている参加賞を持っているのだろうか。訊きたくても、もう嗚咽で声が出なくて、ただ手を握りしめていた。その手をほたるさんが包んで握ってくれていた。
 春になり、ほたるさんはせぴあと一緒に町を出ていった。僕は春風に桜が舞う中でそれを見送り、ほたるさんと最後に交わした握手で、手の中に残る柔らかな熱を握った。
 数日後、新しいクラスで学校がまた始まる。今度はクラスメイトにきちんと挨拶してみよう。死ぬ気になって。どうせ本当に死ぬわけじゃない。なのに何にビビるっていうんだよ。きっと、何も怖いことなんてないんだ。
 ほたるさんとせぴあみたいに、僕も新しい毎日をつかもう。伸ばせば誰かに届くこの手で、きっとつかむ。だって、この陽射しの下、僕も確かにこの世界を生きているひとりなのだから。
 FIN
【SPECIAL THANKS】 参加賞/それでも世界が続くなら 『彼女の歌はきっと死なない』収録
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fukurabi9 · 8 months
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  1198 女の夜這い
ちなみに、この地区の島に、夜這いは、女がする事になっている島があるそうだ。 夜這いの作法は、ノーパンが原則だとの事。そんな島で生まれ育っていればよかった、と誰も思うだろう。 ノーパンを方言ではマルバイと言う。 女の夜這いはマルバイだー! あるボス的存在の女で、顔やプロポーションも十人並み。 その女は、島一番の人気者の男を自分が夜這をかける、と周りに案に振れ回っていたそうだ。 番長的存在だから、当然と考えていたのだろう。 ところが、ある女が、その番長には負けじとこっそり夜這いをかけてしまったのだ。 童貞、略奪だ! さあ、その事がばれて大変だ。 番長は、手下も動員し、事あるごとにその女をいびり、虐めぬいたのである。 とうとうその女は、島にいられなく、こっそり出ていったそうだ。 以後、親兄弟にも連絡が取れず、生涯行方不明だったという。 しかし、その番長は、いじめの代名詞として、島中知れ渡り、最後まで、結婚出来なかったそうだ。 虐めをすると、結婚出来ない、と言う教訓として、今でも語り継がれ、虐めの事をその女の名前で呼んでいるとの事。 おい! スケバンごっこで、番町やってる女いないか。 あなたの噂は男達に知れ渡り、一生結婚なぞ出来なくなるぞ。 虐めは、よせよ。 虐めは、結婚の敵! それにしても、ノーパン女の夜這い、来て欲しい・・ 特に村はずれの一軒家で、チョンガー生活男がコチョコチョ台所に立ち、洗濯にトイレや風呂掃除、膝を抱いて寝ていると、つくずく思うもの。 しからば、念じに念じ、念じ続ければ、お夜這いさんが来てくれるのでは、と・・・ 戸の隙間をつくり、真っ暗闇にし、待ち続けると気配がしたので、うす目で見ると、野良猫のお夜這いさん。 翌日枕元に小石を用意し、思い切り命中、以後ピタリと来なくなった。 諦める訳にはいかない、お夜這いさんを待ち続けて、一ヶ月半。 待望の、本物のお夜這いさんが来たのだ! 来た・来た・来たぞー! 台風通過後、どんよりと曇った闇夜の三時、うす目で見ると、昼間すれ違い時、笑顔で話しかけて来た、歳は三十前後で二年前より島に住み着いている、艶やかな一人身の女である。 逃げられるとまずいので、いびきをかく。 部屋の隅で闇に目を慣らせた後、いよいよ動き出した。 夏掛けの裾から潜り込み、しなやかなる指先の動き、当然パンツいっちょうはなんなく剥ぎ取られ、息子は直立不動の万全なる体勢。 なま暖かい風は下半身から全身を覆う。 大波、小波、漕ぐ舟は極楽の境地、奥歯が小きざみに舞い上がる。 あまりの腰の激しい使いに、全身の筋肉が収縮し炸裂、思いっきり突き上げた。 夏掛けがポロリ、と落ちた瞬間。 ギャー  ギ、ギャーーー 歯っ欠け婆バーだ!!! 閃光が全身を走り、生まれて初めて、夢で失神してしもーた。 南無・ 南無・・南無・・・・
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littlesallywalker · 1 year
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日記
ぽっくりと寝ていた。
何も覚えていない、訳でもない。
うれしいというよりか窮地をぬけだせた昨夜。
それでも記憶はうすい。淋しいな。この感情電車は。
不安で甘えたがりが発動してしまったけど手をくんだり解いたり、
魚座さんのやりとりのその母性というもののおかげかもしれません。
ありがとうございました、このことは忘れずいるよう励みますね。
こちらこそ次は順番だってそれはきっとおぼえているので、
皺だらけだって時には包んだり耐衝撃になれるかとおもう。
マントルから這いあがり何いってるか自分でもさっぱりですが今も。
でも君のこと、前よりかすこしわかってきたかもしれないです。
だめなところから順番に、君はよく言うからしらずしらずに。
用、ここからは大得意な分野事、どんとこいで22:00起床。
ぼんやりしているからまた散歩してそれは朝にまわそうかな。
糸でんわ作ってみてください。めちゃくちゃに。長~いの。
魚座さんのこと好きな人はすべて好きのひとかとおもいます。
そんなことないのでしょうか。せちがらい。
「おわり」じゃあないですよ。
特別扱いをされるとき、周辺がそこにあると嫉妬がうまれて、
ぼくはその嫉妬に多くくるしんできたような気がする。
特別扱い風にさせていただいてきたのだと思うたぶん。
「どうして(水瓶座)くんばっかり」というの。
寵愛っていうか。時には息子のように。時にはペットのように。
えてして亡くした彼はそれでも腕組みしてくれた、
いずれこんなおじさんが居てねって話したい。
話せるくらいまでの糸でんわはどれくらい?
夜にこしかけてた中途半端な夢は電話のベルでさまされた。
歩道橋の天使っていうのは小学生のときRCサクセションっ子で、
「エンジェル」という曲から発動した幻覚なのかもしれないけど、
ぼくはまぼろしとつきあっていて、けど見る幻覚はぐろいものより、
ブリーフ一枚のいのししが駆けよってくるとか寓話のようらしく、
困って話すとかかりつけてもゲラゲラ笑われます。深刻なんだけど。
魔術がつかえたとしてもそれは青白い、黒魔術の彼岸みたいだと。
なんだか雑魚くて、飽和するときには飛び出し絵本状態なのですが。
ついでに「多摩蘭坂」の歌詞に「キスしておくれよ窓から」って、
子どもながらに「どうやって?」とも思いながらそれはついで、
フィッシュマンズの「窓はあけておくんだよ~」につながり、
そうか窓でちゅうする人いるんだって何か納得?しました。
カーテンのない平屋でのこと、甘い夢をも見た気がする。
夜が明けるといのししは直立しそれは化けたたぬきで、
猫みたいともいわれるけどたぬきみたいとも言われる。
すべて薄明のなかで。戸口でちゅうしていたら、
ビニールテープを投げられたことがありました。
酔っぱらいの方で持ち歩いているのがすごいです。
いっぽうその割に交渉事では目がトラに変わります。
自分自身がまぼろしなのかもとおもうくらいけたたましくなる。
あまり交渉事なんて好きではなくつつましい生活のはずなんだけど。
先日レコードCDをまあまあ売りました。22箱。
そうそう、整理をするなか、たまはさんだるCDとLP、
しおしおLP、ナゴム時代のベストは持ってると覚えていて。
けどそういえば「汽車には誰も乗っていない」がでてきた。
ラストシングルよね、ひっさびさに今それで聴いています。
ほかに関連でおすすめとかありますか。
ちょっとだけあやとりを教わりたいです。
この町に、布売りのおねいさんがいて一度だけお会いした。
お会いしたというかInstagramでたまたま見知りあって、
買い物帰りに寄ってみた。気づかぬように。
縫い���教われるって、ちょうど冊子のころ。
ふとあやとりってしたことないなと思ってプリン作りたい。
あやとりの基本のなかにプリンがあるらしいですね。
ご自宅がそのままお店になっている形で和やか、
今日配達いって大丈夫そうならまたいこう。
緊張はほぼとけてきて文が破綻しているな。
うれしい証拠だけどまだすこし低山があるので気をつけよう。
大人用おしゃぶりはいい感じです、リラックスできている。
次はおむつかな。おむつして、にゃん達とたまにけんかして。
ひとをね、たまにわすれてしまうんです。
無口になったぼくはふさわしく暮らしてる。
次ねむるとまた何もかも忘れるのかな。すこし寝よう。
真夜中の操車場はいいですよ、エンジェルベイビーたちの宿木。
鬼ころしとおしゃぶりいったりきたりしながらはまずいですかね。
めがねは重たい。今度めがね交換してください。夢で。
わたしは色々終わり人間なので多分写真撮りの爺さんとかになって、
誰も知らず孤独死してる。おわり。
youtube
あしたは珍しく外食でもしようかね。
何たべたいですか。送っておいてください。
(はやくかえってきてください)
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poddyshobbies · 11 months
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クマゼミにまつわる2つのこと ~ 2023.7.3
その1
クマゼミが鳴きはじめてますが、たぶん周りに他のクマゼミにおらず一匹だけ。声もよく出ておらずですぐに鳴き止む。毎年のことですが今年は早いのやら遅いのやら、はたまた例年と変わらずなのか?
YouTube(17秒)
youtube
その2
とは言うものの、ぼちぼち土の中から這い出してきてます。が、飛び立つ前に命を落とすセミもいます。たぶん、家の壁に這い上がってとまってる所を捕まったのでしょう。クマゼミの苦しむ声と羽音が聞こえてきました。
【視聴注意】YouTube(1分48秒)
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母猫は仕留めるでなく、子猫を促して触らせます。はじめは怖がっていた子猫も徐々に慣れてきました。もちろん食べません。
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どうすることもできず蝉の断末魔がイヤになって買い物に出ました。
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子猫が蝉を触っている間、母猫は近くでくつろいでました。その母猫は足を怪我してます。骨折だと思いますが曲がったままでくっつ��てるようです。
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野良ですが、子猫の毛並みに似たオス猫がいるので父猫のはずです。えさを与えている人を見かけることはありませんが、代替わりをしながら昔から野良がいます。何ともなできごとでした。
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nekohunsou · 1 year
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🛸 👾Abduction❣️Acrylic painting Hey guys! Thank you so so much for your always kind words this year ! This is my favorite piece ♡♡I really love vibrant colors so acrylic paint is my favorite ♡ Next year, I will exhibit in overseas! I really hope you continue like my art ...♡♡ Happy holidays! こんにちは!早いものでもう年末ですね。正直今年も時間に追われ続けいっぱいいっぱいでした😅 そんな中でも宝物の絵がたくさん描けてよかったー!お気に入りの絵や見てみたいモチーフやテーマなどございましたら是非コメントやDMにお寄せくださいませ♡ ステキなクリスマスをお過ごしくださいー! ■お知らせ■ 12/23-25の会期にて台湾での展示に小作品2点出展させていただいております。後ほどインスタにも作品画像をアップさせていただきますね。 来年はこちらのイベント以外にも海外展示の予定がございますので引き続きお気に留めていただけましたら幸いです♡ 【A4聯展 "Petit et mignon" 12/23-25 Start!】 我一直想保留在我身邊的 "KAWAII かわいい"。 住在自己心裡,永遠不會離開的。 由12位當代藝術家組成的群展,將於本週末12/23-25 在A4畫廊首次展出。 除了展出的作品外,限量版的藝術家商品和作品集也將被在現場出售。 這些漂亮而充滿溫情的作品非常適合聖誕季節。 請到展覽現場來看看他們。 .☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:* A4聯展 "Petit et mignon" 12/23(Fri)-12/25(Sun) 12:00-20:00 A4畫廊 台北市南港區市民大道八段99號 台北流行音樂中心 南基地2樓F2020(天橋上的沙龍內) ⁂Artist oyasumi mog 駒澤零 Ren Komasawa ワタナベリョウ Ryo Watanabe イノウエマサル Masaru Inoue 河染波留可 Haruka Kawazome 冨岡想 Sou Tomioka やのや Yanoya 猫扮装 Neko hunsou 菓 Konomi 芦屋しぐま Siguma Ashiya はたえみの #animedrawing#animeart#mangaart#mangadrawing#comicdrawing#comicart #kawaiiart#イラストグラム #カラフル#ゆめかわいい#ファンシー#パステル#メルヘン#comicart#ファンタジーイラスト #fantasyart #fantasyillustration #fantasypainting #oilpainting #アナログイラスト #アナログ絵#アクリル絵の具 #acrylicpainting #acrylart #acrylicpaint #アクリル画 #アクリルガッシュ #お絵描き#unicorndrawing #unicornart #ユニコーン https://www.instagram.com/p/CmfrtokPnJx/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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esc-templime · 2 years
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Escapism
HOSHIMIYA TOTO + TEMPLIME vocal by HOSHIMIYA TOTO produced, arranged by KBSNK(TEMPLIME) written(except tr.2&3) by KBSNK
written(tr.2&3) by KBSNK & 星宮とと recorded, mixed, mastered by KBS Studio
designed by totonee
Escapism
Lyrics & Melody : KBSNK
旅立ちは一人きり
蓮の葉と相容��ない夢の果てにいた
マニュアル通り 今変わる合図
暮らしの理想を葬る魔法
プログラムリンクの模様のない脳内
花びらで入れる街角に階段なんてない
渇ききる直前の迷える細胞
哀楽の二人跳び 明日を待つ媒染剤
深い眠りから這い出すように
快楽/不安幅跳び
蓮の葉と相容れない夢の果てにいた
マニュアル通り 色を変える合図
手繰り寄せ道石 惑いの臨海で会った
或いは春は西へ 絡む六感に問う
はにかんでふわり跳び
誰もいない停留所
闇を駆けていく真夏の遠い記憶
旅立ちは一人きり
蓮の葉と相容れない夢の果てにいた
マニュアル通り 今変わる合図
Umino Nioi
Lyrics & Melody : KBSNK + Hoshimiya Toto
ぼやけた視界は未来が綺麗だったころ
心地よくて少し眠った
繋がれたシールドは向こうまで伸びている
君はビールが好きだったなって
なんとなく色々思い出すよ
息苦しくなってベッドから這い出る
柔らかい肌が触れ合った
あったかい砂浜すり付けるの
涙の味に似ていた
懐かしい君は海の匂い
最近街は賑わってるかい
僕らは何も聴こえない場所で
みんな元気でね
いつか僕らの部屋に来てね
変わってくカタチを追いかけて繋いで
時間・酸素忘れられるように願って
浮遊するくじら 放物線上に
荒い曖昧な青を塗り足していくように
8年前 5km先 無限大
(交差していく)
すれ違いや悪習は無くしたい
(忘れられますように)
一瞬前煌めいた願いは
(交差していく)
悪意ない僕らの時代を
(始めよう今すぐ)
Candy Heart
Lyrics : KBSNK
Melody : KBSNK + Hoshimiya Toto
いつの間に冷気 脳内新天地
すぐ季節巡り 何も感じない
湿度計みたいに観測だけしていたい
動かなくてもお腹だけ空くの
通りかかった黒猫は早足に家路へ
生きるうちに少しだけ上手くなる
人の真似しておどけたりしてる
生きるうちに少しだけ強くなる
でも飴細工ハート割れないように
持っている
張り詰めたわけじゃなく
ただそこにある空気
生み出せないのに
文句垂れる消費者のまま
緻密な計画一度壊してみたい
衝動を物陰で噛み砕いてる
いっそ昔食らった恥ずかしい痕も
広げて見せよう
生きるうちに少しだけ上手くなる
人の真似しておどけたりしてる
生きるうちに少しだけ偉くなる
でも飴細工ハート割れないように持っている
Lonely Girl
Lyrics & Melody : KBSNK
ロンリーガール 吸い込んでくれ
枯れ果てた空気 十二分
リメンバーもう憂いないノーベンバー
ロンリー 簡単そうにラブストーリー
要らん抗争も掻き分けたフィーリング
タイプCで安心です
Don’t tell her 眠ってくれ
たまに幽体離脱
終わんないでほしいな
何処でも関係ない
誰のためにミリ単位
オートクチュール羽根広げんだ
大型練習試合 一人シューティング
誰のためでもない放浪中
いいなぁ 変わんねぇ
たぶんね all I need is to feel love
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4komasusume · 2 years
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夢見るままに待ちいたり。クトゥルフ4コマが熱いーーぽんとごたんだ『ギャルとクトゥルフ』 ぱんだにあ『ねこのクトゥルフ』
 『クトゥルフ』
 果たして本当にこの発音でいいのかわからない。私はこの名を何度口にしたか、この名を口にするたびに私の中で何かが崩れていく。今この文章を書いている私は昨日の私と同じなのだろうか?だが書かねばならない。あの異形のものとの日々を。私が見た全てのものをこの手記に残す事にした。
 なんちゃってコズミック・ホラー風で初めてみました。今回は『クトゥルフ』をモチーフにした2作品を紹介します。
 ぽんとごたんださんの『ギャルとクトゥルフ』とぱんだにあさんの『ねこのクトゥルフ』です。
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ギャルとクトゥルフ(1) (星海社コミックス)
posted with AmaQuick at 2022.07.23
ぽんとごたんだ(著) 講談社 (2021-10-08)
Amazon.co.jpで詳細を見る
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ねこのクトゥルフ (ビームコミックス)
posted with AmaQuick at 2022.07.23
ぱんだにあ(著) KADOKAWA (2022-07-12)
Amazon.co.jpで詳細を見る
 今ではかなり知名度を得ているクトゥルフですが一応説明しておきます。クトゥルフはアメリカの幻想作家ハワード・フィリップス・ラブクラフトにより創造されたキャラクターです。海底都市ルルイエで眠りについていて時折覚醒するのですが、この時クトゥルフと同調した人間は精神がぶっ壊れます。完全に目覚めると人間は滅びるという邪神です。ラブクラフトの死後、弟子であるダーレスを中心にクトゥルフを含めたキャラクターと世界は広がりを見せ「クトゥルフ神話」として確立していきます。日本には1950年代に江戸川乱歩が連載していたコラムで紹介されたのが本格的な上陸のようです。その後の日本での広がりはクトゥルフ神話について多数の著作を持つ森瀬繚さんのインタビューが参考になります。
クトゥルー神話って日本でどう広まったの?『デモンベイン』が安心感を与え、現代怪奇としての『クトゥルフ神話TRPG』がニコニコ動画にマッチし、『ニャル子さん』がブーストさせた【インタビュー:森瀬繚】
 日本ではホラー、伝奇ジャンルのクトゥルフ神話に加え、もう一つ萌えとコメディ路線をいくクトゥルフ神話が生まれました。大きな影響力を持ったのが、逢空万太さんのライトノベル「這いよれ!ニャル子さん」とアニメですね。詳しくはこちらを参考にしてください ラヴクラフト最大の誤算。 今回紹介する2作品もニャル子さんが広く一般に認知させたジャンルに連なる作品だと思います。ラブクラフトが提唱したコズミック・ホラー(宇宙的恐怖)において、クトゥルフ神話の神々に対し人間は理解も対話もできないし接触すれば精神が崩壊する存在でした。ニャル子さんではコミュニケーションがとれます。クトゥルフ神話の神々に人格を与えているのです。人格を与えることで異質だけど人の理解の範疇にある存在にできる。俄然キャラクターとして動かしやすくなったのです。
 軽くですがクトゥルフとクトゥルフ神話について説明しました。では作品の紹介にいきます。
『ギャルとクトゥルフ』現在2巻まで発売されています。
 新人アイドル稲葉ふたばがペットタレント戦略を取ろうとペットショップに行きますが、予算が足りずに萎えていたところに一人の男が差し出したイカともタコとも見える緑色の生き物をもらいます。これこそクトゥルフです。ふたばが背を向けているとクトゥルフは世にもおぞましい姿に変化して彼女に襲いかかるのですが…。
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 なんか受け入れちゃいました。この変化を成長期と捉える残念な思考にくーぴんと名付けられたクトゥルフも毒気を抜かれ、ふたばとの生活を受け入れます。クトゥルフの影響を受けないふたばとクトゥルフがトラブルメーカーになり、ドタバタを起こしていくコメディ作品であるのが、最初のエピソードを読むことでわかります。
 クトゥルフ神話をネタにしているので読者に知識があればあるほど、笑いの深淵を覗くことができます。
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 くーぴんが「ボェ〜」と鳴き声を出しています。これ��クトゥルフは人の神経を逆なでるオーボエのような声を発するという設定から来ています。鳴き声を聞いた人が苦しんでいるのはネットスラングでいうSAN値チェックに失敗した状態です。(余談ですがSAN値チェックは公式TRPGクトゥルフの呼び声にはないのです。4コマめの人たちはルール的には正気度ロールに失敗したというのが正解です。詳しくはこちらでSAN値 )
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 ふたばがペットアイドルとしてデビューするためにTwitterにくーぴんとの写真をあげた時の人々の反応。3コマめは3分割されて様々な反応を見せています。一番左のコマの人たちだけ歓喜の雄叫びをあげていますが、この姿を見て思い浮かべるのは「ダゴン秘密教団」と「深きものども」たち。ラブクラフトの短編小説「ダゴン」と「インスマスの影」のネタです。ちなみにクトゥルフの姿を直視した人間は発狂してしまいます。
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 ふたばはこのフードを被った人からオフ会に誘われます。彼のTwitterアカウントが「DEEP@」です。深きものの英語名であるディープワンから。
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 オフ会終わりに大量の魚をお土産に持たせてくれるのは、深きものどもと契約すると魚や金を得ることができるというネタ。
 このようにクトゥルフ神話の元ネタを知っていると作中に散りばめられたネタの数々にニヤリとでき笑いの深淵を覗くことができるのです。
 先にクトゥルフ神話の「這いよれ!ニャル子さん」で説明したクトゥルフの神々に人格を付与することで、キャラクターとして動かしやすくなる。これを『ギャルとクトゥルフ』でも用いています。一見すると何を考えているかわからないくーぴんですが、怒り、嫉妬、喜びなど感情が見て取れます。
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 このシーンではダイレクトに「寂しい」とふたばに訴えかけ、クトゥルフに可愛さを感じることができるのです。
 さらにクトゥルフ以上に人間くさいキャラクターが登場します。
 ハスターです。風の神々のトップに立つ存在で元ネタでもクトゥルフとは敵対関係にあります。『ギャルとクトゥルフ』でもふたばの元にいるクトゥルフを監視するために姿を変えて人間界に潜伏します。
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 その姿がハムスター。ハスターがハムスター。いくら凄んでもハムスター。可愛いです。結局ハスターも人間に飼われる立場を満更でもない気持ちになっていきます。元々クトゥルフと敵対しているため人間に協力的である神なので、人に近い人格がハスターには付与されているのでしょうか。
 『ギャルとクトゥルフ』はコメディ作品だから成立するクトゥルフたちのマスコットキャラクター化に成功しています。そして人格を付与することで異種族交流作品に仕上げているのです。とはいえ作品全体に謎はあります。ふたばにクトゥルフを譲った存在と何故ふたばは邪神たちの影響を受けないのか。その謎を知っていそうなキャラが登場します。
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 彼は「I am CUPIN」という言葉を残します。果たしてクトゥルフによるパニックの真相を知っているのか。これからの展開が楽しみです。
『ねこのクトゥルフ』
 猫キャラクターの4コマといえばぱんだにあさん。今回はクトゥルフ神話の神々を猫にしました。
 作品はクトゥルフ神話をモチーフにした不条理4コマと言えましょうか。ただこの不条理もクトゥルフ神話をネタにしているのが大きいです。コズミック・ホラーにユーモアを加えたのが『ねことクトゥルフ』と言えます。
 元々ウルというねこを飼っていた少年がクトゥルフを新たに飼いはじめてから次々とクトゥルフ神話の神々ねこと邂逅していき、奇妙で冒涜的な世界に足を踏み入れていきます。
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 ぱんだにあさんがクトゥルフの神々をどうねこ化しているか見てみましょう。実際の神々の解説とのリンクを貼っておくので比べてみてください。
クトゥルフ
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 名状しがたき声で鳴くがしいて言えばにゃあとも聞こえる。頭足類に顎鬚のような触腕と蝙蝠の羽をつけている緑色のねこ。寝起きの悪さは恐怖そのもの。肉球の代わりに吸盤が付いていて匂いを嗅ぐと三日間人事不省になるエグさ。ちゅる〜というねこ用おやつが大好きであげると機嫌が良くなる。
 ハスター
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 黄色い長毛種に見えるが実は触手。死体安置所を這い回る芋虫の音のような鳴き声をするけどしいていえばにゃあと聞こえる。少年に非常に懐くが、クトゥルフとの仲は最悪。出会ってそのまま大喧嘩をして危うく地球が滅びそうになるが、ねこ用おやつのちゅる〜で仲直り。ちゅる〜最強。
 ヨグ=ソトース
 虹色の毛玉を持つねこで狭いところが大好き。あらゆる可愛さが同時に存在する最強ねこ。虹色の毛玉は数多のねこを浮かび上がらせる。あとで出てくるシュブ=二グラスとも仲良し。
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 ニャルラトホテプ
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 漆黒のねこ。喋る時だけ浮かぶ白い口が印象的。少年に色々アドバイスをしてくれる。ていうかしゃべるんだ。飼い主は星の智慧教会の神父ナイ。この男も漆黒でしゃべるときだけ浮かぶ白い口はニャルラトホテプとそっくり。どこか人をバカにしたようなところもある。なんか面倒くさい人。
 シュブ=二グラス
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 グレーの体に可愛い顔をしたねこ。地属性を持ち地母神として崇められていた色々な神の妻であり母なねこ。ゆえにクトゥルフとハスターから絶大な好意を向けられるモテモテねこ。あらゆるものと子供を作ることができるので、あっという間に子猫だらけに。
 ティンダロスの猟犬
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 「角」を好み不浄を好む犬…だと思う存在。4本足で歩行するし息遣いも犬っぽいから多分犬。狙った獲物は逃さないが、球体に覆われているところには行くことができない。
 アザトース
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 町を覆うほどの巨大なねこ。周りには従者ねこがいてアザトースの無聊を慰められ眠り続ける。世界はアザトースの見ている夢なのでアザトースが目覚めれば世界は消える困ったちゃん。
 クトゥルフ神話の神々の特徴とエピソードを絶妙な具合でねこにして描いています。『ねこのクトゥルフ』はクトゥルフ神話とラブクラフトが提唱したコズミック・ホラーの知識があればあるほど作品世界を楽しめることができます。自分が最初にクトゥルフ神話に触れた30年前のブームの時には成立しなかった作品���と思います。クトゥルフ神話というものが娯楽の中に浸透している今だからこそこの『ねこののクトゥルフ』は世に生まれたのではないでしょうか。
 ネタバレになるので書けませんが、ストーリーの締め方が非常に秀逸です。なぜクトゥルフたちがねこなのか、なぜ少年の元に集まったのか。真実を知った時は声を上げてしまいました。各4コマエピソードが重なり合い、全体のストーリーを仕上げる。読み終わった後のカタルシスは格別です。
ぱんだにあ作品ではすいーとポテトさんが紹介した記事もありますのでこちらも読んでみてください。
モンスターのイメージとネコあるあるネタの巧みな接続――ぱんだにあ『ねこもんすたー』
 今回はクトゥルフ神話とそれをモチーフにした4コマを取り上げました。30年以上前にクトゥルフ神話を知った時にここまでメジャーな存在になるとは思いませんでした。メジャーになったからこそ、説明なくクトゥルフを扱った作品が次々と生まれるのでしょうね。これからも色々なクトゥルフが生まれてくることを期待しています。
(量産型砂ネズミ)
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画像出典 星海社 『ギャルとクトゥルフ』電子版 1巻P7,P8,P11,P13,P37,P40 2巻P10 1巻P112 
KADOKAWA『ねこのクトゥルフ』電子版 P7,P6,P17,P32,P43,P63,P97,P107 
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pureegrosburst04 · 10 days
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メンチース09「アチシらは最近過去を観るSF機材で歴史を学んどる」
富豪05「“””アイツ”””は格が違う。⬇︎のトドメではしっかりとサイレンサー付きのハンドガンを使ってる」
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富豪05「お前が前に俺達に採用されなかった理由、わかってきたか?(女の子から守る為なんて口が裂けても言えない😅)」
超鬼難ドンガッチャ00「いいや、全く…」
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超鬼難ドンガッチャ00「何だこれ内容みつけずれえ😡💢」
メンチース09「ならこのステータスの””””ブラックボックス””””の意味を考えてみい、アンタが半径5キロの建物🏫にいる悪人を数時間以上の莫大な時間を要して命懸けでひーこら❤️‍🩹🥵💔潰す為相手しとる間に、””””霊猫蒼海””””は立派な名前貰う惑星🪐レベルの宇宙要塞を果てなき遠く離れた己の拠点から眺めながらスイッチ一つ押す🔘😌だけで全て跡形なく消せるんよ」
富豪05「わかったろ?”””霧島04(ラスボス)”””だけは別格なんだ。こいつは子供の頃から異質だった お前には敵以外の大切な生命を巻き込みたくない…そんな優しさが無意識の内にあるから同じような大人に成長していった人々からくだらない物だと思われだして、威力以外の…①携帯性、②実用性、③汎用性、④安定した使い勝手の良い方に移られ忘れられていくんだよ 文字通り二つの意味の空手ってのは未知の装備が転がってる世界で全てを左に蹴落とせる」
メンチース09「“”””ベレッタPX4ストーム””””と違ってそんな⬆︎①〜④のない武器じゃ通用せえへんよ、確かにチャカぶっ放して敵をスタイリッシュに倒す様はかっこええ。だが手段選ばん何でも犠牲に出来る裏ストボスにとったら重さとデカさがあまりにも過ぎたグレネードランチャーをマシにした究極下位互換なんや……」
富豪05「何が”バントラインスペシャル(笑)”だよ、ウドで作った食えねえ竹が好きなのか?」
超鬼難ドンガッチャ00「何だよっ、何だよ……ワイアットアープはカッコいいじゃねえかよ……俺は見捨てねえ」
富豪05「そうだな(黄金の真実)、俺たちはお前のそういう所が嫌いにはなれなかったよ。初めの頃は速攻で格落ちしてやがるwって見下してた」
メンチース09「でも”””アイツ”””よりは…幸せになって欲しいんよ」
超鬼難ドンガッチャ00「アイツは完全に死んだんだろ?……もう俺じゃ超えられねえよ」
メンチース09「確かに、その発言は前向きに捉えて欲しい誤解や…確かにそうなんよ。でもアイツは今でも元気で生きてる悪寒がするんよ」
〜過去の暗黒時代〜
???「君は、人を殺すためなんかに…こんな、こんな結末を望む為に。地に這いつくばって強く乗り越えて来たんだね…」???「こんなのウソだよね…あの子は底抜けに明るいのび太君みたいな男の子で、からかいなんかじゃない私達の最後の謝罪を。受け入れてくれるんだ……」
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無印04(10歳)「人は真っ白な子供時代は夢だけをみて生きている。だが複雑な人間関係から理不尽な仕打ちを受ける度に内なる悲しみを間接的に世の中に共有して貰いたくなり描く創作物に影響が出る。それは同情を果たした感動と救いに繋がるが、文化的な神秘要素が削られて原始的な大作になってしまう 自由に生きて自らカッコいいだけのシリアスを無意識に手放さない、常に目標と趣味の為に何も背負わされないそれが純粋硬派柱だ。綺麗で爽やかなジェノサイダーの強い杭が打たれるとは限らねえ 俺にはどんな罪を重ねようと自分を正しいと信じる力がある 人生は望む努力をして生きる程失われない思い出を得られる 時と比例する幸せなんてものは自然と手に入るもんさ(赤き真実)」
ゲイムギョウ界のヒロイン様全員「……………😨😨😨😨😨😨😨」
のんきに見える無印04(10歳)の、心の底を叩いてみると…とても{{{{{おぞましい音}}}}}がする
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香氣04「出典元はどう考えてもこのブログではありません ドラマ陸王と同じ、これが世の中だ。俺も含めて人間の一部は愚かだから雑談もしたことない他人の宝物を穢して台無しにするまで気付かない。雑談もしたことない他人の俺に対してモテないとかキモオタとか扱ってきた挙句、これだ……キャラクターに口無し。上記の無印04が言ってるのは初めの頃に欲しかった願望が妥協の積み重ねで変質していく、これが大人に成長する悲しみ。色々な体験をして眩しいだけな霧島狩魔はもう虚無だ でも自分の非を理解した俺にはこいつみたいに文句を言う資格はない クリエイターの通る道だと分かったから好きにして欲しい」
女性は言ってもわからないんだな、神を理解できないから性を尊重する形を取る絶対悪がわからない。だから霧島04は自分がわかるようにDQNの究極上位互換として振る舞った、結果ゴミクズ扱いの逆ギレ ブログ主の我慢が切れるまで怒らせるだけだから結局はまた見放されて笑われる。矛盾が生まれたのは自分達のせいだろ ここまで言っても意味不明な逆ギレを繰り返すのが女性だ どうせ内なる神が居ないから俺はホモかゲイなんだろ?
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kiriri1011 · 15 days
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Triad Love(R18)
 草のベッドで真ん中に寝かされた女の胸に、ふたりの男が群がっている。  彼らは白く柔らかな乳房を獣の兄弟のように分かち合い、ちゅく、ちゅく、と舌を絡ませて乳首をねぶり、ときには力強く吸いつくことを繰り返す。
「は、あ……あぁ…………」
 恋人たちから夢中で求められるタヴの優しい喘ぎ声が森の静寂に響く。  彼女はアスタリオンとハルシンの異なる舌遣いに翻弄されながらも、どこか親愛と慈しみを込めたまなざしをふたりに向けていた。  タヴの乳房にむしゃぶりつくふたりの姿は無垢な獣じみていて、その舌と唇は彼女の愛情を求めるためだけに動いている。  タヴはすっかり男たちも仲良くなったものだと思う。自分の身体を通し、ふたりのまったく外見も性質も異なる男たちを結びつけたことを功勲のように誇って、彼女の口元は甘い微笑を浮かべた。
「ねえ、ふたりとも、いつまでそうしてるつもり……?」
 一方で、かなり長いことこの状態が続くことにタヴは素直な疑問を投じた。  「私はべつにかまわないけど」とつけ足しつつも、男たちの求めはきりがなく、終わりも見えない。挿入のように疲れる行為ではないし、彼らが熱心に奉仕している姿は見ていてかわいげがある。だが、これは果たして3人で楽しんでいるといえるのだろうか。
「だそうだぞ、ハルシン。聞いているか?」
「ああ、聞こえていた」
 アスタリオンはハルシンに耳打ちするように言う。胸の先に彼らの息がかかり、タヴは柔らかく柳眉をしかめた。
「俺はまだ飽きていないぞ。まだ続けてもいい」
 ハルシンはそう言って、じゅうぅ、とひときわ強くタヴの乳首に吸いついた。
「そうか。じゃあ片方だけだと収まりが悪いな、俺も付き合おう」
 と言ってアスタリオンも彼女の反応を試すように舌先で小刻みに刺激し始める。  この期に及んで責め方を変えてきたふたりの飽くなき執着にタヴは呆れを隠し切れない。
「……月が出てきたら終わりにして」
 鼻にかかったため息をこぼしてタヴは夜空を見上げた。  今夜の三日月には気まぐれで、緩やかな風に流されてくる雲の陰に何度も隠れていた。  次に姿を現したときこそ終わりにさせよう。  移り変わる空の景色に自分の心を委ねて、タヴは諦めたようにアスタリオンとハルシンの髪をなでる。  ふたりの男は恋人にかまわれて、ことさら嬉しそうに舌の動きを速めるのだった。
「タヴ、こっちはやるからお前は根元を舐めろ」
「ちょっと、楽なほうとったでしょ」
「どこがそう見えるんだ。ハルシンのが大きすぎて目に入ったか?」
 ハルシンは、半ば言い合いのようにしながら自分の性器に舌を這わせる男女を見て苦笑した。  勃起して嵩を増した彼のものをふたりがかりで愛撫するタヴとアスタリオンの共同作業は芳しいとは言えず、たびたび言葉に棘を持たせてはハルシン越しに軽く睨み合う始末だ。
「ほら、手がお留守だぞ、ダーリン」
「もう! 指図しないで!!」
 アスタリオンがタヴの手首をとってハルシンの怒張の根元に近づける。  さすがにこれにはタヴも怒ったようで、きっと眦を吊り上げて恋人を見た。  普段は阿吽の呼吸で協力している姿が目立つふたりだが、ハルシンの喜ばせ方に関しては自分の技術に多少自信を持っているせいでぶつかっているらしい。  アスタリオンは執拗な蛇のように動く舌で鈴口を責め、唾液をたっぷり絡ませてくる。  対してタヴは太い筋の張った裏側を猫の毛づくろいのようにねっとり舐めあげ、重量感のある睾丸を絶えず揉んでいた。  ふたりの異なる愛撫は予測が立たず、ハルシンは情熱的な刺激を感じて熱い吐息を何度となくこぼした。互いの仕事に文句を言いながらも、それぞれの動き方は実に興味深い。  一見険悪だが、これはこれで仲が良いと言えるのかもしれない。ハルシンは微笑ましさに目元を和らげながら、股間に顔を寄せる恋人たちに手を伸ばし、いとおしげにその頭をなでさすった。
「それで……ふたりのうちどっちが俺の愛を受け止めてくれるか、訊いてもいいか?」
 ハルシンは息を切り詰めながら訊ねた。  揃って舌を這わせながら、タヴとアスタリオンは少し考えるように互いを見つめた後――、
「そっちが選んでくれる?」
「上手だと思ったほうに決めてくれ」
 ゆっくりと口をひらき、赤い舌を妖しくうねらせながら黒髪と銀髪の美しいエルフの男女はハルシンを誘惑する。  ふたりのそっくりな仕草を見て、胸にこみ上げるものがあったハルシンはまた苦笑を浮かべたが、その笑みにはやや余裕のなさが漂った。
「贅沢な問いかけだな……」
 そうつぶやいて、彼は自分の長大なペニスの前で行儀よく口を開けて待つふたりの顎を優しくなでた。  ハルシンの愛情は分け隔てなくふたりの恋人に注がれている。だが、彼ら自身は今夜の勝者に与えられる祝福を相手に譲る気など一切ないらしい。  ふたりから同時に愛され、求められる喜びを肌に感じて、ハルシンは目を閉じ、息を止め、下半身の力を解き放つ。  迸る白い飛沫――その先にいたのは、
 タヴは息を荒げるアスタリオンの頬をいたわるようになでて、唇の端にキスをする。  優しい愛撫に力なく喉の奥を震わせ、アスタリオンは呻いた。
「うう……っ、くぅっ」
「一度抜くか?」
「そのほうがよさそうね」
 今にも力尽きそうな様子を見て、彼の後ろからハルシンも声をかける。
「いい……っ、この、ままで……」
「だったらせめて力を抜けば?」
 一番下で草むらに寝転がり、アスタリオンの腕に抱かれているタヴも思わしげにつぶやいた。
「いま俺が力を抜いたらお前が潰されるんだぞ、タヴ。俺とハルシンのふたり分だ」
「それより自分の心配をしたらどう?」
 度を越して大柄なハルシンに覆いかぶさるように挿入されたアスタリオンは真っ赤な頬で歯を食いしばり、タヴの上で首を横に振った。  一番華奢な恋人を心配して踏ん張っているさまは男らしいが、タヴはそういう自己犠牲をあまり美しいとは思わないタイプの女だ。  アスタリオンを真ん中に迎えて、タヴとハルシンのふたりがかりで愛そうとしたものの、却って負担のほうが大きいらしい。  彼を抱くハルシンも興奮より身体を心配する理性のほうが勝ったようで、アスタリオンの肩越しにタヴに呼びかける。
「よし、組み合わせを変えよう。俺がタヴに抱かれるから、アスタリオンはタヴを、……」
「お前らこれを一からやり直す気か!?」
「声張ると力が入るわよ、アスタリオン」
 叫んだ拍子にぎゅっと身体に力がこもって、深々と刺さったハルシンの逸物をより奥に咥え込んでしまい、自滅に追い込まれたアスタリオンは赤い瞳に生理的な涙を浮かべながら、ふたりに容赦を求めるように弱々しくつぶやいた。
「たすけてくれぇ………………」
「だから言ったじゃない」
 タヴはいよいよ呆れを隠さずにため息をついた。  ハルシンはもう笑うしかないといったような声を立て、ゆっくりとアスタリオンから自分のそれを抜いていく。
「はっ……う、あぁ……っ!」
 自分の中をずるずると這うように出ていく大きな存在にアスタリオンは悲痛に喘いだ。  そのときタヴの秘所に挿入されたアスタリオン自身が安心したように緩んで、彼女の中に吐精する。  彼の身体はそれで糸が切れたように恋人の胸に崩れ落ちていく。  タヴは彼の頭を抱き締めると、くるくると波打つ銀の髪を母親のように口づけた。  脱力したアスタリオンを介抱するタヴの姿に、ハルシンも唇の端を引き上げて穏やかに笑う。  優しく睦み合うふたりの男女の姿はどこか神聖さすら感じるもので、ハルシンは不思議とそれをいつまでも眺めていたいと思って、目を細めた。
「ハルシン、こっちに来て」
 だが、視線に気付いたタヴは少し悪戯っぽく口元を綻ばせた。  胸に甘えてくるアスタリオンを抱きながら、彼女は白い手を揺らしてハルシンを招く。
「手でしてあげる」
「タヴ、お前も疲れてるだろう」
「そのままにしておけるの?」
 勃起したままのそれを凝視されてハルシンは居住まいが悪くなったが、彼女は「いいから、来なさい」と頑として続けた。  この場の年長者らしく振る舞おうとしたのがばれたらしい。  まるで子どもを諭すような口調に、ハルシンは参ってしまった。
「もうひとりかまうぐらいなんてことないわ」
 毅然とそう言って、何かを扱き上げるような手の仕草を見せてくるので、もはや彼女に敵うまいとハルシンは苦笑した。  この世に完璧な平等などないのかもしれない。だが、それを現実に叶えようとする姿勢を皆が持ち寄れば、この世界はもう少し様相を変えるのかもしれない、などと古参のドルイドは自分に手を伸ばすタヴの姿を見て、場違いにも何かを覚えていた。
 そうすればきっと、一夜の夢は、夢で終わらないだろう。
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shukiiflog · 26 days
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ある画家の手記if2 - 2 雪村泉視点
目が覚めたとき身体はなんとも無いか訊ねられ私は首をひねりましたが、お話しを聞くと、夜間に泣きわめき取り乱して、かと思うと呆然と動かなくなったりと奇行を繰り返していたそうです。
身に覚えは ありました 香澄が 私は何度もあの子を上手く抱きしめられずにいましたから …。稔さんは特に叱ることもなく朝食の席に私を案内してくださり、その話はそれっきりでした。 ああ、そういえばお名前の字は稔さん宛のお手紙が届いたので知ることができました。中里稔さん。 あれから、今でも…拾ってくださってから毎日、私に何をさせるでもなく衣食住を提供してくださっています。 どこか懐かしい家と食事 服は、家を出るときからここへ拾われるまで身につけていたものはギリシャ神話の彫刻にでも出てきそうな薄く透ける布のワンピースで、スカート部分は全円にドレープのついた裾の長い、布をふんだんにつかったものでしたが、この一週間ほどは稔さんが服を貸してくださって、とても身軽な装いをしています。 夜間のありさまも一度触れたきりですが…ほとんど毎晩のように…ご迷惑をおかけしているはずです どうして私を 助けてくださったのでしょう 私に商品価値を見出せる要素など無いことくらい知っています 恩を返せるあてもございません だからすぐに、見返りを求めて手を差し伸べてくださったわけではないことはわかりました 稔さんがお優しいからだ、そう思えばいい でも、それなら私はここに居て 助けられた身で、どれほど勝手に振る舞ってよいものかと 未だに何一つ役に立つことはしておりませんし かといってこの脚で出て行くことさえしてよいものかわからない、本当に何の苦も無いようでいらっしゃるから  …ときどき、人懐こい方なのかと感じることもある ここらには近隣の住民も居ないからお寂しいのか、稔さんに伴侶も恋人も居ないというのはにわかに信じがたいもののそういった人の影は見受けられません。私などではなくここにもっと馴染む相応しい方をお迎えする考えは無いのでしょうか そっとこちらを見詰める姿が不意に幼いあの子に重なるような気がして思わず立ち上がると、部屋から出て歩み寄り稔さんの頭を撫でました。可愛らしいです。あからさまに主張するほどの幼さはもう示せないからか、言わないところが、逆に健気で。 伴侶や恋人というよりも、やはりペットか、何か触れあうことで癒される存在が相応しいのでしょうか。 それにつけても、私などでは犬猫にはかなうはずもございません 香澄のことを思い出したからかその日は 酷く苦しいおもいをしました。
「ところであんたは、感じてねえのか。自分に稔は不釣り合いだってことに?」 稔さんにパーティの同伴として連れられ…同伴者にはおこがましいほど美しい衣装を着せていただいて、私などがこのような…稔さんは主役にしてやるなどとおっしゃっていましたがやはり滑稽だったのでしょう、会場に入ってから今に至るまで値踏みされるような視線も言葉も多く投げかけられましたが直接的に指摘をされないまま、生殺しの有様でしたので、ようやく不釣り合いとはっきり言われたことにほっといたしました。 「はい、あの…勿論存じ上げております」 初めましてのご挨拶もそうそうに、でしたのでお名前もうかがっておりませんが、佇まいが会場の他の方々にも見劣りしない雰囲気を放っておられますので、付き添いなどとは違いれっきとした招待客の方なのだろうと類推させていただきました。稔さんのご友人でしょうか。なんにせよ、この場で私はあの方に連れられてきたのですから、失礼のないようにしなくては。 「あの方には助けていただいて…未だに私が何のあてもありませんのをこうして連れ出してくださったのです」 「そんで今日はなんの成果をあげたんだい、充分ちやほやされて肌艶いいじゃねえか。のらりくらりしてるようでいて稔は自分一人で生活していける、あの家は稔のもので稔の作った彫刻を収入源に動いてる、あんたを絞ればその1%でも収益が上がるか?毎日誰の飯食ってんだ?過去にあの家に居て、自立して出てった連中は多いぜ、稔といるとよく人材が育つんだよ。あんたは伸び代あんのか?あんたの人生に展望はあんのか?」 大きな目を睨むように眇めてこちらを見ていらっしゃる。まっすぐに見詰め返して、ああ、そうだ、笑わなくては。もっとちゃんと、ご不快のないように 「いえ…私には何も。愛玩のようなものなのでしょうか…あまりによくしていただいてはかり知れません…」 緊張しても主旨を取りこぼすことは無いはずです、私が何のお役にも立てず何の先の展望もないことは、事実ですから。間違いようがありません。 「ここまで役立たずどころか家の中を勝手に這いまわるあんたをどうして稔が家に置いてんのか、そんなご大層なドレスまで着せて連れ歩くのか、聞いてみたことはねえのか?」 「…ございません」 「なんで訊かねえ?」 ……なんで…そういえば、あの家はほんとうに稔さんのお家で間違い無いのですね。彫刻を作ってらっしゃることも、私だけでなく他にもあの方を頼りにしている方がいらっしゃることも、初めて知りました 私は 稔さんに判断を委ねてばかりで 助けられたからと言い訳に身を預けて今まで、あの方のことを何も 何も考えていなかった… 「そうですね、うかがうべきでした。はやく出ていかなくてはならないのに必要以上のものをいただいてしまって…すみません、失礼します」 気付いたら、もうこれ以上この場には居られません もとより私の居るべき場所では無かったのでしょう はやく、出て行かなくては この衣装もはやく、脱がなくては 私が身につけるには不相応なものなのだから 恩を返すあてすら無いなら、せめて一刻も早くこのギャンブルを終わらせましょう あの方がしてくださることが全部泡になってしまう前に、 胸元でキラキラと装飾が光って走るごとに責め立てられるようで 外そうと手を掛けるところで先に手首を掴まれた 「――――っ」振り払えないほどの力、けれど突如その手は離され 目の前を覆い隠すように人影が現れたかと思うと、 覚えのある香りが 、…稔さん 「……」 「……、…」 抱きしめられ ている。 っ離れなくては 咄嗟にそう思い手で押しのけようとすると更に強く抱きしめられ 手をついた胸元から力強い鼓動が伝わって、急に生々しい感覚に恐ろしくなるような力の抜けるような、…目の回るような感覚がいたしました  うまく息が吸えない こんなに、しっかりとした、たくましいというのでしょうか、強く抱きしめられたことはありません 触れあう距離に居た相手は千風ばかりで、その彼は線の細いひとでしたから 「さっき詰られたことなら忘れていい、俺に聞きたいことがあるなら言ってくれ。 動けずにいると稔さんの声がすぐ耳もとでそう囁きました 覆い隠すような感覚は錯覚ではなく、背の高いこのひとに頭上からすっぽり抱き込まれているせいでした ききたいこと…なんて もう、時期を逸してしまったのでは? 私は何も訊かないせいで結果的に自分に都合よく貴方を消費していたのでしょう もう戻ることはできないのだと、告げるうちに稔さんが「愛している」と 私に そう言って 交わされた視線に余計に息が詰まる いけません どうして…そんなこと うれしいです、信じられない いけません、私など 釣り合わないのですから やめて 私は誰かに愛されていいものじゃ無いんです
連れ帰られた稔さんの家ですぐにドレスを脱ぎました あの家を出る時に着てきたワンピースは寝室の隅に掛けてあり、それを身につけるとすぐに玄関へ向かいましたが、稔さんにドアを塞がれてしまいました。 「通してください…」 ここで私を、見逃すだけでいい それで最後になる、愛していると言ってくれた…そんな感情を残していくわけにはいきません、コールした損失を一刻も早く無に帰すためには 手放してもう二度と、何も与えてたまるかと 思ってもらわなくては 貴方自身の手で捨ててくれなくては 「……それは漫然とここからただ倒れるまで歩いて死ぬことを意味する。どこかで死ぬくらいなら俺にここで殺されてくれ」 ……! 突然の告白に顔が熱くなるのを感じ慌てて俯くと、稔さんも目の前で扉に凭れ座ってしまった 赤い顔を隠しようが無くなってしまいぎゅっと目を瞑る …あの浜辺 あの時私はこの人に看取られるなら死も悪くないなどと浮ついた頭で考えた 軽く首を振って悪い考えをはらう この人の手を汚させるなどとんでもない そんな消えない楔を残すことなど まだ何もないうちに跡形もなく消え去るために私は今すぐ出ていこうとしているのに 「俺とここに居てくれ 愛してる、泉」 「……」 それでも…それでもこんなにも  出て行こうとする私の行動が逆に、この人を傷付けているのがわかる どうすれば 思い至らぬうちはそれでもよかった、私の勝手な行動で傷付けて申しわけありませんとすぐにでも謝って、その腕の中に戻ることもできたでしょう 切実に訴えてくださる貴方をどうして抱きしめずにいられるでしょうか けれど今は そんな恥知らずな真似は… 「私は 罪人です」 ぐっと 両手を握りしめて言いました。知らせるしか無いのかもしれません ここまできたら お世話になったのだから 私が何をしてあの浜辺に至ったのかを そして何も知らせぬままのうのうと居座ったことを 「これ以上は貴方を蝕みたくない」 正直にそう告げて そうしたら、貴方もきっとわかってくださるでしょう… ここまで、とほんとうにそう思ったら、身体から力が抜けてくずおれそうになってしまった。いけない、これからがしばらく動けなくてはならないのに… 少しの沈黙があって 「ーーーーおそらくお前より俺は罪人だ。俺と居て穢されるのは泉のほうだ。それでも俺はお前を穢してでもそばにいることを望む」 稔さんが…仰ったことは、思いもよらないことでした このひとが…一体何の罪を犯したというのか、私には見当もつかなかったのです 腕を引かれ、倒れそうだった身体は無抵抗に脱力し床に座り込みました 稔さんの脚の間におさまり、間近にある顔を呆然と見上げ 考える。 嘘…なのかもしれない。よっぽど罪人…だというのは。 けれどもし本当だったとするなら罪人だと明かすことは 困難な決断だったはずです…いいえ、それは嘘であっても、でしょうか 罪の自覚と愛の自覚があるなら…相手を想っているならば手放すほうが賢明で、容易になります それでも傍に、なんて 無様を晒すようなものだ。 恥をかなぐり捨ててまで気持ちを貫くには…差し出した自己の傷に対して、得るものが少なすぎますもの 「お前も 望んでくれないか 血塗れで共に生きることを」 見詰め返されもう一度 乞われて 私は 自分が差し出されたものに見合うなどとはやはり思えませんが でも だからこそ、それすらも奪うことはもう できませんでした 「……」 少し、腕を伸ばして 稔さんの頬を両手で引き寄せて、そっと額に口付けた。…ペットのお返事です せめてこの先 もしも 貴方の罪が私よりうんと重く大きくて、不幸になることを選ばざるを得なくなったとしても どんなにか私の想像を超えた残酷な悪に手を染めていても 凄惨な過去を送っていても、共に堕ちて苦しむ覚悟をいたしましょう。 貴方が救った命をもってこの時ここで善なる貴方の存在を私がずっと証明します それが何の役に立つわけでもないけれど
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niyuuhdf · 1 month
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行屋虚彦 プロフィール
行屋虚彦 キャラ設定メモ
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画家。 中学にはほとんど通わず、師である山雪のアトリエでいつも油絵を描いている。(油に限らずなんでも描く。カガリのドローイングの真似をしたりも) すでに画家として売れて���り、軌道に乗りつつある。 直人を超える早筆で多作。 自身の色覚障害を忌々しく思っており、それを才能だとは認めない。 母似の近寄りがたい面立ちをしているが、中身は普通の多感な15歳。
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作者から割り振った疾患・病名:感覚過敏、軽度の識字障害(他にも発達障害傾向がちらほら)、視覚認知に拠りすぎた脳、市販薬依存症(幼少期から偏頭痛の鎮痛剤を濫用・多量摂取していた)、900℃(アイロンの熱は200℃までらしいが)の火で焦がされた激痛を痛みのマックスと捉えている、オトガイ未発達、体質全般(行屋家の遺伝的要素でもある)。
本名:行屋虚彦(Ikiya Utsuhiko) PN:hollow あだ名:イキヤ
?小学校→?中学校→? 高校中退、もしくは高校進学せず中卒、絵の仕事で稼いで生きてる
手記本公式年齢:13,14,15歳 直人パート手記本登場時で15歳 ?年(平成?年)11月22日生まれ 蠍座 身長164〜168㎝ 体重49kg B型
家族構成: 実父:行屋疾彦 実母:耀屋七 (実娘:行屋瞳)
人間関係: 師:山雪穣、名廊直人 画家仲間:カガリ、ユーコ、花 アトリエ仲間:景一、ユーコ、繭、花 主治医:近所のにーちゃん:新屋敷佐
髪の色:黒 目の色:黒(虹彩の模様:?) 趣味:? イメージ:? モチーフ:シーラカンス、カラス、死神、妖精に拐われた人間の子(チェンジリング)、オオミズアオ、背骨・脊髄(ムカデ?)、行灯(幽霊の出ずるところ)(アンドンクラゲ→海の中で遭遇したときの死の予兆)、 誰にも傷つけられないから孤独な心
体質: ・常に過緊張・過覚醒状態。 ・弛緩できない。(薬で弛緩する) ・薄く細いが筋肉が尋常でなく強く怪力。 ・いつでもごく自然に「火事場の馬鹿力」を発揮する死の淵に立つ精神状態。怪力。 ・非常に痩せやすい。が、痩せ衰えて骨のようになっても「火事場の馬鹿力」に足る筋肉は落ちない。 ・体幹・腹筋が鋼鉄のように強い。 ・皮膚は柔らかくかつしなやか。健康状態にもよるが基本的には強い。状態がよければトキさんと同じくらいの強さになる。 ・日焼けでサンバーンを起こし、火脹れまみれになりやすい。が、放置しても火脹れを無理やり潰しても痛むだけですぐに皮が剥けて回復する。細菌感染などを起こさない。強い。 ・喉が弱く、退化している。 ・全感覚過敏。極寒でごまかしている。 ・肌を虫が這う感覚。蟻走感、コークバク、あるいはシャンビリ。 ・腑を他人からくすぐられて弄ばれ刺激される幻触覚の病。
外見: ・洗濯されすぎて色褪せた、古着の黒い細身のパーカーをよく着ている。(フードの膨らみの部分で猫背隠し&視覚が苦しいときに気休めにフードを深く被って視界を真っ暗にするため) ・両耳に黒曜石(天然ガラス)のピアス。(小学校低学年のとき、冷泉さんがくれた。「二度と他人に同じ真似を強いることのないように 情動に飲まれそうになったらこのピアスに触れて思い出せ」) ・右胸から肩にかけてアイロンでひどく焦がされた火傷の痕がくっきりとある。(本人は、人体の上にあまりにも無機質なアイロンの型取りがあるさまを、他者から見ると不気味で気持ち悪いだろうと冷静に思っており、迂闊に見せない) ・目の下にはいつもクマがある。(母親をずっと緊張して気にかけて生活していて、不眠症。) (ベッドでしっかり横になって寝るのが苦手で、よく床に座って壁に背をつけた姿勢で少しだけ仮眠をとれている) (身体から力を抜いてリラックスしたりくつろいだり弛緩することを恐れている) ・独特の上斜視のような三白眼の目つきは、生来は母親と同じ大きく見開かれた四白眼。幼少期の顔立ちは四白眼である。幼い頃からの、面前DVや頭痛や市販薬の乱用やトラウマやPTSDなど複合的な身体的・精神的ダメージによって眼瞼下垂が進んだ姿。加齢とともにさらに瞼を持ち上げていられなくなっていき、常に眩しそうな・苦痛に耐えるような・疲れ果てたような、かなりの伏目の目つきになっていく。 (イキヤ(とトキさんも)の目元の表情、「満ち足りることを知らない常に餓えきった」ようなものを宿してる 初期コンセプト) ・病的に痩せきった骨と筋の目立つ薄い身体。体幹は強い。 ・肌は蒼白い。 ・顎が小さく細く弱い。口が開きやすくて、喉が乾燥したり炎症したりしやすい ・が、常に緊張状態で口を開けるのを恐れてもおり、口の中の肉をいつも噛んでしっかり閉じている。 ・喉がとても弱い。使えば痛み、熱く熱をもつ。少し話し込んだだけで声が掠れて裏返りだす。あまりにも他人との会話や発声を必要としなかった+話して言葉にすると自分の視覚がバレるため黙っていたため、喉が退化した。 ・人目のある場所では全身に緊張が駆け巡っていておそろしく姿勢がいい。一人きりの時間だけ、身体の苦しみを庇うように自然と猫背になりがち。 ・腹筋(体幹)がとにかく強い。腹とか腰とか薄くて細いけど、げっそり肋から下が削れて抉れてたりはしなくて、木刀で横薙ぎに腹にフルスイングして打ち込んでもびくともしないみたいな。 ・手は引っ掻いて怪我しないように深爪ぎみに爪を切る。痩せきった老人かあるいは生命力みなぎる飢えて痩せきった猛獣のよう。指がまっすぐでなく歪んでいるのは筆を持ったりして酷使しすぎたせい。痩せかたと筋や骨や血管は幼い頃からどこか老人のような手をしている。 ・感覚過敏。極寒でごまかしている。 ・肌を虫が這う感覚。コークバク、あるいはシャンビリ。 ・思春期を過ぎてイライラが落ち着いてからは、感覚過敏について開き直り受容し、感触フェチになる。不必要なものでも感触が好きなものは買う。布ものや紙などなんでも。 ・酒を飲めない? 幼い頃に大人から飲まされた酒で急性アルコール中毒で倒れて死にかけて以来、酒を飲んだことがない。
内面:?
エピソード:オオミズアオ標本、オオミズアオ もう死ぬ、って時に殺して標本にした
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lunahoshisolar · 2 months
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弦巻マキと私が怪談をする理由
「モカちゃんだよね?帰国子女でイギリス育ちって、マジ?」
転入初日の転校生の私の周りはきっとそういうセリフで溢れかえるのであろう。宮舞モカは、脳内で同じ景色のイメージを繰り返した。「モカ」という、自身の本名で弄られることもあるかもしれないが、その時は、「モカちゃん、モカ好きだったり?」と意地悪く聞かれてもこう答えるつもりだ、「まあ、実は」。
キャラ付けは、唐突な理由であったとしても、やぶさかではないのだ。
宮舞モカはいわゆる「陰キャ」だ。陰気なキャラ、陰の気を纏うキャラ、陰気な雰囲気なキャラ、陰険不粋支離滅裂……自分をそのように定義してきたのはモカ自身であった。
もしモカの守る強い自我が壊れるとするなら、陰を圧する程の陽気を身に纏った「陽キャ」によるものである、とはモカにとっては自明の理であった。陽の気を圧倒する陰の気で武装すればモカの自我は守られる。だから、モカは「陽キャ」に対抗できるだけの陰の気を使い、陰気に陰で人目につかないところで論理を講じれば良いだけだった。
それがモカの考え得る「最適の生存戦略」であった。モカは生き残らねばならなかった。
情報収集のためにモカは引っ越したばかりの土地で一人散策をした。
一人行動が肝で、これは「学校で一人で行動していても猫好きな自分は気質が猫的であるから」と上手く納得してもらうために、考えた設定だった。
母がイギリスで可愛がってた野良の黒猫は、その為に「モカの唯一の親友なのだ」とモカは母にわがままを言い、日本に連れ帰ってきてもらった。モカの唐突な強い自我に驚いて母親はもちろん、快諾した。
しかしもちろん、これは嘘だった。イギリスの話を聞かれたら、猫といたから寂しくなくて、友達が居ないんだとか、居なくても平気とか、自分の話を避けたくて作った設定だったのだ。別に猫が居たから友達を作らなかったんじゃなくて、アニメの話をする友達をネットでだけ作って、引きこもりを家族に心配させないためだけに家にいる趣味を作っていたら、こうなってしまったのである。
音楽を聴くのが好きだったわけじゃあない。黙っている言い訳が欲しかったのだ。ヘッドホンをつけて、下を向いていたい。しかし、そうやって快適に無挙動でいるために世界観を領域的に展開する完璧な選曲のプレイリストは、気付けば独自色が強く、自我を感じずに居られぬ趣味の様相を放ってしまった。ここまで蓄えた知識を、使わない陰キャではない。ネットDJを、始めた。ショート動画を投稿して、猫ミームに乗せた自分のニッチな趣味の、わかる人にはわかる感じがある、そういう音源を加速させたりノイズを入れたりした、ヤバい感じ、普通じゃない感じの音源がコメント欄で、「ヤバい」と賑わうのが、モカは爽快であった。
モカは承認欲求を醸造した。
一挙手一投足がキャラ立てしていなければならなかった。
それでないと全て夢が晴れてモカは現実が見える。嘘は少し真実が入っていて美化されていれば、趣味がいい表現方法になる。もしモカが、ただ単に英語を喋れるアニメオタクとバレてしまってはいけない。それをモカ自身も気づきたくないしモカが気付かなければ突っ込まれることもないだろう、だって陰キャだから。
そうやって、自我の強さを隠せぬまま、モカは新しい町の一角で寂れたカフェに入った。しかし、思ったより中が小綺麗であり、そこに予想外で慄いてから、顔涼しく自我論理を整理して気分を落ち着かせていた。ちなみにもちろん、モカを注文した。
気分が落ち着いてからモカは思い出す。時間差でジワジワ襲ってくる本当の問題はそのカフェモカを持ってきたのが金髪の少女だった事であり、しかも……
「(えっ……同じ制服なんだが……?)」
……モカのこれから通う、学校の制服を着ていた事であったのだ。
宮舞モカは、いわゆるハーフ、ではない。純日本人の「純ジャパ」であるから、「帰国子女」属性だった。
これはこれから通う学校で既に外国情緒枠が埋まっていて、しかもそれを外見で即捕捉出来てしまう「パッシブスキル」としての「外国情緒」枠である。宮舞モカ、彼女のように、「アクティブスキル」として、使う武器として、コマンドを押さないと発射されない「外国情緒」じゃない。ここまで来ると下位互換で呪いに近いのだ。「英語出来るマウント」で、押し通すしかないのだ。
しかしそれにはこのブロンドの少女が、英語ができるのかできないのかを判断しなきゃいけない。この日本で私以外に英語ができる人がそんなにいるわけないから、私が話しかけて判断しなきゃいけない。
ーーハードルが高すぎる……。それじゃあ、外見を。
「パッシブスキル」を盛るしか。それしかないのである。アニメ属性として、「海外育ちはエロくて無意識だ」なんてものがあるのだ。こいつは、使わない手は無いので、日本で「ドM」の象徴のチョーカーとか、日本育ちでは珍しい「谷間の露出」、そういう私が英国でもやってない格好を日本国でやることにした。
幸い髪も切って、インナーカラーを入れて(アニメでも流行ってる)、そうすれば、大人しくて怖く無いけど外国人的でかっこいい「私」が生まれ、金髪の子にも客だったのがバレず済む。今日起こったことは転生モノの小説の、転生前に突然起こるトラックの接触事故だったのだ。金のトラックに私は事故って、今、神の恩寵により理想の自分自身に生まれ変わったのだ。そういう流れで私の事前知識系チート人生が始まる。
……はずだったのだ。その少女は、私のクラスに居た。そして、帰国子女設定を盛り過ぎたせいで、陰キャ隠しのための「大人しいクール系」設定が化学反応を起こして、「日本語が苦手」だと先生に思われてしまった私は、クラスで唯一英語が出来るその少女の隣の席を任命されてしまった。そしてその少女にマシンガントークで英語で話され、私の「一目置かれる黒猫少女」という夢の学園生活は終わりを告げた。
ーー絶対今浮いてんじゃん。
ーー絶対怖がられたな。
もうキャラ変更が容易に出来なくて、脳内の自由が、アイデンティティの可変性が私からは消え去っていったと感じていた。思ってた流れではなく無意識に、「興味のなさそうな生返事をする無気力系無言威圧主人公」に私はなっていたのであった。
「日本語は、どれくらい出来る?今言ってること、わかるかなー?この後の授業とか、先生に相談する?あ、英語で言い直そう!えーっとねー」
「あ、えっと、弦巻、さん……だっけ、私、日本語出来るから……気を遣わないで、ね」
「うっわー!日本語ペラペラじゃーん!やばー!心配したの恥ずかしすぎる!みんな、モカちゃん日本語めっちゃうまい!」
ーー何故……
何故全てが、悪い方向へ行くんだ?「英語めっちゃペラペラ」の想定はしたが、「日本語めっちゃペラペラ」は想定せず、日本語のうまさで弄られるのも想定せずにいた。
「あはは……私、アニメ好きの陰キャですので〜……ははは……」
もうクソ喰らえで私は、自ら白旗を上げ、セルフハンディキャップという完全なる防御技を繰り出すに至った。セルフハンディキャップとは、自分自身の自我を守るために敢えて自分を「最初からできない奴」と定義して、自分や他人からの失望に先制して���を刺す行為だ。
「マジで!?私、バンドやっててさー!アニソンめっちゃ弾いてるよー!ギュンギュンって、ムスタングでね!エレキギターなんだ!」と弦巻マキは金髪を振り乱して陽キャに語った。早口語りもこいつがやれば可愛く済むようだ。もう脳内にさえ私の居場所は無い。
「そうなんだ……なんか、すごいね、弦巻さん……私なんか、一人でネットでーー」
「あ、弦巻さんじゃなくってマキでいいよマキマキとかマッキーとか」
心が完全にポキリと折れた。三つの選択肢、多すぎる。私には何もわかることができない。
今、自分が猫だったら奇声をあげて飛び上がってそこら中にあるものにぶつかりまくり部屋を出ていた。本当に人間でよかったと思うし、もう黒猫女子なんてクソ喰らえと感じていた。人間万歳だ。
「じゃあ、マキ、さん、は……えと、沢山あるんだねえ、好きなこと……」
嫌味のつもりで言った。早口でうざい、と言うつもりで。弦巻マキは笑顔で頷いて、私は消えたかった。私が昔言われたことは、彼女にとっては褒め言葉に感じるのだ。私はやっぱり普通じゃ無いのだ。やはり私は新しい自我を創り出し、その中で完璧にキャラになり切って生きなきゃいけないのだ。
宮舞モカの肉体とキャラという棺桶に生きるアンデッドだ、私は。スクールカースト外の最下層で、人々に生かしてもらわなきゃいけない、精神的インプレゾンビなんだ。建物の中に生きている血肉の気配と音だけで駆けつけて必死に這い上がる腐乱死体だ。頭の中で一番大きな雑音の「弦巻マキ」に、本能で追い縋るしか私は出来なくなってしまっていた。
そんな風に、私は彼女の父親が営む「喫茶マキ」の常連になっていた。
放課後、隅っこで、店を手伝う弦巻マキの淹れたモカを飲み干し、おかわりを気付いて淹れてくれる弦巻マキとの無言の交流を「特別さ」の演出のために知らぬ顔で用意した。幸い、ノマドにオタク陰キャをさせてくれるだけの物質的優位性を私は確保出来ていて(スマホ、タブレット、ノートパソコン、ファイルのクラウド連携等)、私はずっと殻に篭ることができた。猫が懐く時のように、距離を置きながら空間を共有した。庇護欲に頼りたかったからだ。でも、弦巻マキは私を庇護しなかった。
「モカちゃ〜ん、今日も、閉店まで居てくれたね」
弦巻マキは笑顔で身を乗り出しながら、向かいに座る。これは、毎日の日課になった。彼女は、私が彼女のために閉店間際まで店にいると思っているらしい。そのポジティブな陽キャ思考の恩恵で私はほとんどの文脈を自分で作ること無しに受け身に築かれた、対等なる友情を享受した。
「うん……マキちゃんが居るから……えへへ……迷惑かなぁ……」
迷惑なわけがない。弦巻マキは、思っていたよりも、静かな時間を好むタイプだったからだ。
学校では明るく音楽や友達の話をし、ギターを練習して、時には歌ってから、家に帰る。父親のためと思われた喫茶店での手伝いは、むしろ自分のために行なっているようだった。コーヒーを淹れ、掃除をしながら、完全に「ここにいない」、空想の世界に旅立った虚な目をした弦巻マキを、そのうち地蔵のように意思なく座る宮舞モカに対して頻繁に見せるようになったからである。
そして、毎日毎日閉店後に自分の向かいに座る時、私に対して「何か」確認するような目線を向けることが増えていたのだ。
それが何かわからない。しかし、私にそれに同意する以外やることは無い。私は意思無く、彼女の意味のある目線に同意するように目を合わせ続けた。
……今思えば、猫同士がお互いの存在を確認し合う時にそうするようにだ。
「迷惑なわけないよ、私って……、学校での時が、全部の私じゃないし。それを見てる人がいると、ちょっと救われる、自分は普通じゃなくても居場所がありそうだから……なんちゃって。重いかも!」
どきり、とした、普通じゃない弦巻マキと言われると私もそうだと言われた気がした。
だから、私はそう言い、続けた。先に言って、認めちゃえばいいと思っていた。
「わかるよ。私も普通じゃない部分あるし、シャーロック・ホームズだってさ、普通じゃない……そう言う人が、普通じゃない視点だから普通じゃない事件を任されて」
シャーロック・ホームズが特段好きなわけじゃなかったが、その英国で一番愛された虚構の人物になれば、虚構の中に住む自分が愛せるきっかけになると思った。私は、自分を構成するもの全てが、消費され得る要素に格納されてなければ、安心して生きることは出来なくなった。
そして、シャーロック・ホームズを引用する私を弦巻マキはとても愛していた。引用する度に拡がる瞳孔を私は決して見逃しはしなかったし、それは私を安心させた。
「モカちゃん、詩人だよー!モカちゃんってシャーロック・ホームズ大好きだよね。流石、イギリスの帰国子女って感じ!私と違って、すっごい、頭いい感じする、教養っていうの?かな〜、うんうん」
また私は、安心した。私が持つものが弦巻マキに無い要素ならば、彼女は完全なる存在であるために私を必要とし続けるだろうと考える。
私が彼女を完全にする、ピースでなくてはならない。弦巻マキを構成する欠けたピースは、私が全て推理して突き止めねばならない。そして、それを全て合わせて、答え合わせをするのだ。今この時のように。犯人は、必ず全てを自白しなければならない。弦巻マキの罪は、私が一番知ることになる。
「それでさ、アーサー・コナン・ドイルって、すごいオカルティストだったっていうのもモカちゃん勿論知ってると思うんだけどさあ」
何?
「うん、そうだね、オカルトエンドの話とかあるしね」
心臓が早鐘を打つ。この入り方はなんだ?
「うんうんうん、そうそう!未知を探求して証明する人が、証明出来ない現象に対してこの世界以上の存在を認知して知覚してしまう、その在り方がすっごくいいと思うんだ!私の持論だけど……」
「わかるよ。私も、この世界がなんだよって思うし、さ……この世界の原理なんて、ぶっちゃけ超自然の前ではゴミカスに過ぎないしね、あはは」
「そうだよ!!」
えっ?弦巻マキは興奮している。私はこれが何かわかっていないが、彼女の呼吸、空気感、リズムを体の方が既にわかってしまっていた。
毎日毎日擦り合わされた充満された空気の密室で、私たちは重なり過ぎていた。
だから、口を突いて、彼女の求める事が体全体で勝手に出てきてしまっていた。私は言った。
「なんていうか、目に見えるものなんか全部虚で、全部幻想なんだよね。全部意味なんてないよね」
……弦巻マキの頬が紅潮してゆく。私は弦巻マキの何かのスイッチを押してしまったようだった。
金髪のエメラルドの瞳の、繊細で柔らかいマキ、頬の肉が幼さを感じさせる。
彼女の前で私は、彼女の肺を満たし続ける「空気」で居続けるしかない。彼女は大きく息を吸い言った。
「それって、本当そうだよねー!私も、たまに逃げ出したくなるの、私っていう存在から。でもね、私という存在って本当は儚くて……本当はすぐ消えちゃう、霧に映し出された幻想で、まやかしなんだって思うと救われるの。だから、この社会を生き抜くために私たちは、ぶっちゃけ非日常の真実に向き合い続けねばならない」
弦巻マキの本気の時だけ使うテナーの声が、私の鼓膜を揺らす。平衡感覚がおかしくなりそうであった。もし、私が猫だったなら、よぼよぼと足腰が不確定に揺れたであろう。
「モカちゃんって、猫ちゃんとしか仲良くないじゃん?特に黒猫って、不幸の象徴としてヨーロッパで狩られ続けたけど、私、それってモカちゃんがワトソンくんをすごく可愛がってる理由なんじゃないか?ってずっと思ってたの。自分を重ねるって言うのかな!?そして、それが今わかった、やっぱりそうだったんだ!すごいすごい!モカちゃんやっぱり詩人だ!詩は、オカルティストが暗号を隠す一番愛された手段だから!モカちゃんは、生き方がタロットカードでグノーシス的なのだ!」
金切り声を上げて、マキは大喜びした。マキの唐突なラップバトルに、私は加勢した。
「そうだよ!全ての生きとし生けるものの行為は霊的実現で、生命の樹を上に辿る知恵の道なのだ!」
もう弦巻マキは、ギターさえ必要としていない。ギュエェー!とギター顔負けのリフを喉から搾り出し、弦巻マキはのけぞり膝をついたのだ。ギターのムスタングは、彼女が社会的顔を保つための、彼女の身代わりで、ガワだったのだと思い知った。
もう彼女を止められる人はどこにも居ない。
マキは続けた。止まったらきっと、息が出来なくなって絶命する。
「私静電気すごい起こる体質でさぁ〜!たまに、静電気でビビッて髪の毛逆だっちゃってアンテナみたいになるんだ!妖気、感じてんのかな〜?人間はみんな体に電気が通ってるんだけど、霊もプラズマとか電気的エネルギーだって説があって、実際埃っぽいとこで出やすいらしいんだよね。だからモカちゃんもいつも埃っぽいの?」
「エッ、うんそうだよ当たり前じゃん!やっぱりその方がインスピレーション湧くから!チャンネル合うっていうのかな!すごいよね!」
はあー、と弦巻マキがため息をついた。これは私でも解るが絶対恍惚の吐息である。
「実はさ、モカちゃんといる時の方が静電気酷くなるんだよね」
前情報を元に弦巻マキの頭頂部に目をやると、やはり、毛が二本アンテナのように逆立っている。
嫌な予感がする。私はホラーは大の苦手なのだ。深夜に怖い話やスレを読み漁るのは自傷としてのホラー鑑賞なのに。
「これから毎日、うちで夜まで怖い話しよ!」
私は、完全に諦めた。
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respectjaco · 3 months
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シュレディンガーの猫
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人生とは不確かなもので、 その時点になってみないと 分からないことなんか無限にある。 裕福な家庭に生まれながら 後に不遇な半生を送った人も、 逆に逆境から這い上がり 後に幸福な半生を勝ち取った人も 少なからずは居るだろう。 姓名判断に拠ると私の運命は凶運で 前半生は悪運に苛まれやすいが、 晩年期は大吉運で金運にも恵まれ、 豊かで恵まれたものになるらしい。 私はここまで不幸続きで、 途中経過はどうやら当たっている。 馬鹿が勝手に名付けた 大嫌いな恥ずかしい名前だが、 そんなことなら長生きしなきゃ 全然割りに合わない。
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【蛇足】 ポケットメイトを再販してほしい!w
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bearbench-tokaido · 3 months
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二篇 下 その三
北八は、周りのものがさっさと寝てしまうと、 「こりゃ、小便がもりそうだ。」 と、たって、裏口にいく。 それを追いかけるように、弥次郎兵衛も、 「俺も一緒に行こう。」 と、二人で裏口から外にでると、弥次郎兵衛は、 「あの巡礼の女は、二階に上がりやがった。 今夜、いい思いをしようかと思っていたのに。」
北八もそれに答えて、 「さっきから女の親父が話しているうち、そっと手を握ったり、尻をつねったりしてふざけていたんだが、弥次さん、お前にはわからなかっただろう。」 「ふん、嘘をつくな。」 と、弥次郎兵衛は、北八の言うことにとりあわない。 「嘘じゃない。その証拠に今夜あの娘と一晩過ごしてやる。」 と、答える。 「ふん、まったく手早い男だ。」 と、二人は部屋に戻り、裏口を締める。
安宿に泊まったのも話の種にはなるだろうが、隙間風を防ぐ屏風もないし、破れた壁からもれる風の音がピューピューとなっている。 そこにごろりと横になっている人々。 ふと、遠くから鐘の音が響いてきた。 その音に促されるように、北八はむっくり起き上がると、あたりを見回して、みな旅疲れに、いびきを掛け合っているのを確認する。
よしよしと北八は、灯りがなくて真っ暗闇なのを探りまわして、やっと、二階に上がるはしごにを探し当て、ゆっくり上がってみれば、天井は竹のすのこにござを敷いてあるだけで、歩くとミシリミシリと音がする。
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<侮り> この音に亭主の親父が目を差まし、 「なんだ。なんだ。」 と、寝ぼけ眼で、うろうろしている。 そこへ、二階の婆が、 「なんだか知らないが、突拍子もない。みんな起きなさろ、起きなさろ。」 と、大きな声をあげる。
この音に他の客も起きてきて、 「なにやら、大きな音がしたようだ。まあ、とにかく灯りをつけましょう。 真っ暗で、なにがなんだか、わからない。」 北八の方は、腰を押さえながらあたりを見回してみた。 ないやら、箱のようなものの中にいる。
北八は、どこだにいるのか解らないが、足が、ころころとひっかかるので、探って見るとどうやら仏さまの後光のようである。 さては、仏壇の中へ落ちたのかと、苦しさの中におかしさ半分。 明かりが点る前に、ここから駆け出ようとしたのだが、その前に、亭主の親父が灯りを灯してしまった。 「なんだか、仏さまの中へ落ちたようだが。」 と、仏壇の戸を開けば、思いがけなくも北八が這い出たので、胆をつぶして、 「おや、お前さんは、こんな所で何をしている。」 と、胸のあたりをおさえて言う。
北八は、とっさに、膝に草わらじをつけて四つん這いで行く身延山詣での乞食の真似をして、 「もしもし、身延様へはどう参ります。」 と、仏壇から這い出たので、とっさに洒落たのだが、亭主の親父は、笑いもしない。 いや、親父は、怒った様子で、 「馬鹿か、お前さんは。 それにしても、あんたは、どうっやてそんなことろ入ったんだ。」 と、北八に言いかかるに、 「いやなに、私は、小便に起きたところが、つい間違って。」 「なんだ。間違えただ。ってことは、仏さまの中へ小便をしたのか。」 と、仏壇の中をのぞき、下と左右を見ていると、上の方から風がふいてくる。親父は、天井の方をみて、 「ありゃりゃ、あんた、天井の部屋から落ちたんだな。」 と、親父は解ったという顔でニヤニヤしている。
北八は、しどろもどろで、 「あ、いや、あの猫に追われて落ちました。」 「あん、あんた鼠じゃあるまいし、猫に追われたとは、なんのことだ。 さあ、どうして、上に上がったのか説明してもらおう。」 「いや、わしはふんどしを鼠に持ってかれたから、もしかすると二階にでもあるのだろうかと、それをさがしに・・・。」 と、言いわけをしているうちに、上から婆が降りて来た。 「いやいや、そうじゃない。 私ももう六十になりますが、何を考えておるのか、私のふところへ這いこんできたんだ。 どこの国にこんなふざけたことをする人がいるんだろう。」
それをきいて、親父が、 「ありゃま、あんた、気が違ったのか。 わし共は二十年からこっち、そんなことはしてないのに、あに皺くちゃ婆の所に這い込むとは、いや、あんたはどういう人だ。」 北八は、これまでかと観念して、 「いや、許してください。これ弥次さん、寝たふりしてないで、起きてくれ。」 と、揺り起こされて、弥次郎兵衛はおかしさをかくし、 「どうも、今時の若い者は、後先の事を考えないもので、私に免じて許してやってください。」
他の客も口添えして、ようやく宿の親父の怒りもおさまり、北八も手持ちの浴衣一枚を天井のつくろう費用ともども差し出し、やとのことで、事が丸く収まると、ほどなく夜が明けて、弥次郎兵衛と北八は早々にこのやす宿を立ち出た。
つづく。
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