Tumgik
masachuss · 27 days
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Boothにて非公式グッズ販売中です😇😇
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masachuss · 27 days
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やっと入れた・・・
数年前にアカウント作って放置してたら
入れなくなって途方に暮れてたけど
超単純な理由で入れないだけだった・・・
良かった
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masachuss · 27 days
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masachuss · 3 years
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【18】2006年6月6日 17:31・玄関前・大雨。丹加部さん③(レン視点)
丹加部(にかべ)さんの許しも得たので、これ以上面倒を起こさないうちに2人は早足に家へ入っていった。
「やれやれ、最近の若者は皆あんな感じなのでしょうか・・・。何とも悲しいことです」
老人の定番中の定番であるセリフを吐いて残念そうにため息をもらす丹加部さん。
「ごめんなさい。あの娘まだ学園の生活に慣れてなくてちょっとストレスが溜まっているみたいなんです」
「う~む。まぁ、異国の方ですから仕方ない部分もあるのでしょう・・・。しかしもう学園生活も2ヶ月経ちます。レンお嬢様との同居は半年以上ですよ?日本語も特に問題もなく流暢なのですからいつまでも『慣れない』で押し通されては困ります」
《たしかに。同居して約9ヶ月、そろそろこの言い訳も限界か》
「・・・そうですね。アイナにももう少し気をつけるように言っておきます」
「是非とも宜しくお願いします」
主人の孫のゲストだからと言って丹加部さんは決して甘やかさない。このスタンスは昔から良くも悪くも変わっていない。本来、直接西冥とは関係ない相手であってもユアルのようにきちんと礼儀をわきまえる者であれば敬意を払って対応する。
逆にアイナのような礼儀や礼節を軽んじたり面倒だと思う者にとって丹加部さんは死ぬほど相性が悪い。だが、それよりも厄介なのはお祖父様がそんな丹加部さんを
容認しているということだった。
丹加部さんのおかげでウチの使用人たちは皆、鬼のように礼儀正しい者ばかりだ。
「それでいかがでしょう、レンお嬢様?」
「何がですか?」
考えごとをしていたのを悟られないように笑顔を意識して丹加部さんの呼びかけに答える。
「最近、私生活でトラブル等はございますでしょうか?」
《もちろん!!アイナが赤点コースまっしぐらで今からお祖父様に何て説明して良いか分からないのッ!》
・・・なんて言えるはずもなく。
それについてもいずれ真剣に考えないといけない日が来ると思うと頭が痛い。ただでさえ頭痛持ちなのに。アイナの宿題未提出や期末・中間テスト問題は悩み事の1つというか早急に解決策を見つけねばならない大問題だ。
「いえ、お祖父様に報告しないといけないようなトラブルは特にありません」
アイナの悪態が数分前にあったばかりなのに自分でも何をシラジラしいことを言っているのかと重々理解してはいるが、ココはサラッと流しておこうと笑顔を絶やさず
瞬時に判断した。
丹加部さんに嘘をつかないといけない心苦しさはさることながら、それ以上に丹加部さんには私が生まれた頃から性格を知られているのでこちらの嘘が見破られていないかという恐怖の方が勝ってしまう。
「左様でございますか。それならば良いのですが」
丹加部さんはまじまじと私の顔を見ながら含みを持たせる言い回しをして目を細めた。
《大丈夫、大丈夫・・・このままでOK。きっと私は上手くやり過ごせる》
アイナのボロで丹加部さんの心証を悪くしてしまったので、どうにか私がプラスマイナスゼロにしておこうと普段通りの自然な態度を心がけるよう気を引き締める。
「レンお嬢様、いかがでしょう?」
「え?何が?ッッ!!じゃなくてえーと、何がですか?」
「ほほッ・・・・」
アイナのボロによって内心動揺しているのかそれとも挽回しようと気負いすぎたのか、アイナやユアルたちと接するときと同じように普段通りすぎる自然な態度が出てしまい丹加部さんについついタメ囗を利いてしまった。
《抽象的過ぎる問いかけやめてほしい》
丹加部さんの謎の笑いと間が入り、少しの間沈黙が続く。マイナスポイントが入ったことは明白だった。そういえば本邸を出る際に習いごとを全て辞めたせいか日常生活で敬語を使う機会がめっきり減ってしまったと今更ながら痛感する。
《小さい頃は丹加部さんに対してタメ口だったわけだし何と言ってもウチの使用人なんだから、これくらいのミスは大目に見てくれるはずッ!!》
2度と覆らない判定を何とかごまかそうと無意味な言い訳にすがるように必死に脳内でループ再生する。
「ゥオッホンッ!!」
丹加部さんが仕切りなおしと言わんばかりに咳払いをして気まずい雰囲気を吹き飛ばしてくれた。丹加部さんの迫力にアイナみたいに笑顔を引きつらせないように自然に振る舞うのがやっとだ。
《これ以上ボロが出る前に早く本邸に帰ってくれないかな》
「どれだけユアル様の料理の腕が凄くても、勉学に支障をきたしては大問題です。やはり食事は西冥家専属のシェフに任せるのが一番良いのではないでしょうか?」
《何の話かと思えば、またそれか・・・》
丹加部さんが3人での同居生活をあまり快く思っていないのは分かっている。丹加部さんはどうやらメイドを家に常駐させないことが気に入らないみたいだった。3人で同居を始めることになったときお祖父様がメイドを2人程度常駐させるようを条件に加えた。
私は『2人程度なら・・・』と、特に問題無く条件に従おうとしたのだが、それにユアルが反発したことでちょっとした問題に発展してしまった。危うく本邸脱出計画が無くなるところまで追い込まれたときjは、さすがに生きた心地がしなかったのを覚えている。
あのときお祖父様は比較的早い段階でユアルの説得に応じてくれたのだが丹加部さんは最後まで反対の立場を崩さなかった。
長年仕えてきた主の孫娘がいきなり外人を2人も連れてきて同居がしたいと騒ぎだしたのだから、執事として心配するのは至極当然だと思う。しかも、執事やメイドは一切不要ともなれば使用人の代表である丹加部さんにとっては気分が悪いに違いない。
加えてユアルは食事まで自分が用意すると言い出したのだ。それはつまり西冥家に仕える全ての者の存在を否定したと言っても過言ではなかった。さすがにこれにはお祖父様も難色を示していたが結局はユアルとの話し合いの末、要望がほとんど通ってしまった。
『ほとんど』ということは、通らなかった要望があるわけだがユアルの通らなかった要望の代表的なモノとして丹加部さんのこの定期的な訪問が挙げられる。それから料理に関してだと、ユアルが調理することは認められはしたが食材は本邸が用意することと、できあがった料理のサンプルを必ず本邸に提出することが義務づけられた。
そして屋内に使用人を一切入れない代わりとして防犯の観点から屋外の護衛配置と複数台監視カメラによる24時間のセキュリティ、それからまだあといくつかあるが、本邸からのこれら全ての条件は全て丹加部さんがお祖父様に提案したモノだった。
言い方は悪いが長年仕えた者の新参者に対する腹いせのような印象を受けたのは言うまでもない。そんなユアルがお祖父様にたてついてまで出した要望の一つの手料理だが、同居が始まった頃のユアルの手料理はお世辞にも美味しいと言えるレベルではなかった。
人生で結構最悪に近いレベルの料理がでてきたのは正直ビックリした。今後ずっとこのマズイ料理が続くのかと少しショックを受けたものだった。
しかし、あれから数ヶ月経ってみると、ウチの専属シェフとまではいかないにしても何の問題もなく垣根無しに美味しいと言えるレベルにユアルは到達していた。下手にお金を出してお店でたべるよりずっと美味しい・・・と思う。
ほぼ外食も買い食いもしたことがないから比較対象の情報がほとんどない私が言うのもアレだけど。でも、丹加部さんもユアルの手料理を食べればきっと納得してくれると思う。
だからこそ、私は・・・。
「丹加部さん、その件は以前にも話した通りお断りさせて頂きます」
「左様でございますか。ですが、レンお嬢様、ユアル様が家事に不満を漏らすようなことがあれば、いつでもお申しちつけください。我が屋敷の優秀なスタッフが即座にレンお嬢様はじめアイナ様とユアル様の身の回りのお世話をさせて頂きます」
丹加部さんは苦笑いしながらも私の発言によって漂う気まずい雰囲気を上手い具合にフォローしてくれた。
「えぇ、そのときはもちろんお願いします」
《失態の上に、年上に気を遣わせるなんて。今日はダメダメだな。それもこれも全部バカアイナのせいだ》
人のせいにするのは良くないと分かっていても、アイナのあの失態がなければ今日は穏やかな気分で眠れたと思うと、どうにもたまらず負の感情を抑えきれなかった。要するに私はこの状況を挽回できなかったということだ。
《ユアルみたいに少しアイナに厳しく接した方が良いのかな・・・》
そんなことを思っていると、丹加部さんが胸ポケットから携帯を取り出してどこかにかけ始めた。これは丹加部さんが帰るサときのインみたいなもので、つまりこの心臓に悪い定期訪問の終了を意味していた。通話は数秒で終わり丹加部さんは携帯を再び胸ポケットへしまう。
「それではレンお嬢様、私はこれでお屋敷に帰らせて頂きます」
「・・・はい、ご苦労様です」
駐車場に待機していた車の1台が私たちの方に向かってきた。
《ふぅ・・・、っと気を緩めるのはまだ早いか》
今日の失敗パターンから安堵しかけていた自分を戒める。
「もう説明は必要ないと思いますが敷地内に護衛を24時間体制で配置しておりますので何かありましたらすぐに護衛をお使いください」
「えぇ、分かってます」
ココに住み始めて数ヶ月―。
これだけ厳重に護衛を配置しているせいか命を狙われたことなんて1度もない。
実を言うと、24時間のセキュリティ案が出たときユアルはかなり難色を示して反対しようとしていた。しかし、護衛を拒否することは丹加部さんだけでなくお祖父様の心証さえも悪くしそうだったので私は光の速さで護衛の件を了承したのだった。
ユアルは不服そうな表情をしていたが、さすがにあのとき護衛を拒否していたら私は今も本邸に住んでいたと思う。
それだけは絶対にイヤだった。理由はどうあれ本邸を出たかった。
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【17】2006年6月6日 17:22・玄関前・大雨。丹加部さん②(レン視点)
「アイナ様ッ!少々お待ち下さい!!」
丹加部(にかべ)さんがかなり語気を荒げてアイナを呼び止めた。アイナはその声に反応して足を止め『しまった』という引きつり笑顔で振り返る。だが、今更繕ってももう遅い。
《・・・アイナの馬鹿。せっかくあと少しで丹加部さんが好印象のまま私たちのことをお祖父様に報告してくれたのに。それをいとも簡単にぶち壊してくれて、まったくッ》
丹加部さんはゆっくりとアイナの所まで歩み寄ると覗き込むように顔を限界ギリギリまで近づけた。
「アイナ様、よくぞ我が主である永由(ながよし)様が孫、レンお嬢様がお住まいの格式高い西冥家に お 帰 り に な ら れ ま し た ! ! 」
「た、ただいま帰りました・・・です」
数十年間執事と護衛をやった者が身に纏えるオーラというか、丹加部さんの雰囲気は伊達ではなかった。さすがのアイナも丹加部さんが求める答えを強制的に口にしてしまう。
丹加部さんはじっとアイナに睨みを効かせながら数秒間立っていた。何かを確かめているのか、それともアイナの反省の色が見れるまで待っているのか?この数秒間の沈黙の理由は私には分からない。
本邸にいた頃の私はどちらかと言うと聞き分けが良かったので丹加部さんにココまで詰め寄られるほど怒られたことはなかった。小さい頃などはイタズラをして怒られたこともあったがさすがにこんな怖い丹加部さんを見たことはなかったので少し驚いている。
しかし、一見アイナの悪態が丹加部さんを激昂させているこの状況の主な原因は間違いなく私にあった。
数ヶ月前、私のワガママで本邸を離れ山奥の保養所をほぼフルリフォームの上護衛まで割いてもらっており、且つ、端から見るとただの得体の知れない外国人である赤の他人と一緒に住んでいるこの現状。
西冥(さいみょう)家に一番長く仕えてきた丹加部さんの目には私はさぞ非常識な不良娘として映っていることだろう。そんな不安・不満要素だらけな現状においてアイナの悪態が加われば丹加部さんが怒るのはむしろ必然だった。
「アイナ様、宜しいですか?あなたとユアル様はレンお嬢様たっての希望として『西冥家のゲスト』として迎え入れられております!」
「・・・はい」
「で、あるからこそ!私たち執事やメイドも敬意をもってアイナ様とユアル様にお仕えするのです」
『誰であろうと西冥と関係があるのならせめて言動くらいは西冥の名に恥じないようにしなさい』
丹加部さんの説教の要点はそんなところだろう。何だかまるで自分が叱られているような錯覚に陥ってしまい少しテンションが下がる。
「・・・ですから、アイナ様も何事にも礼儀と礼節をもって西冥家の一員として過ごしてもらいたいのです。先程のようなあまりにも西冥家にふさわしくない言動を
繰り返すようですと残念ながら永由様にご報告しなくてはいけなくなりますこと、何卒ご理解いくださいませ」
《これはお祖父様に報告されるのも覚悟した方が良いかもしれない・・・》
そう自分に言い聞かせて覚悟を決めているとユアルが絶妙なタイミングでフォローに入ってきた。
「丹加部さん、申し訳ありません。この娘の教育が行き届いてないのは私にも責任があります。私からもよく言って聞かせますのでどうかココは収めて頂けませんでしょうか?」
ユアルは丹加部さんの両手を取り握りしめると涙ぐみながらアイナを許すように懇願した。ユアルの突飛な行動に丹加部さんも思わず後ずさりしてしまう。
「う、うむッ・・・、まぁ良いでしょうッ。アイナ様、ユアル様の助け舟に感謝してください。何度も申し上げますが西冥家の関係者として礼儀・礼節をお忘れになりませんようお願いします」
「・・・はい、すみません」
ユアルのフォローのおかげで丹加部さんは思いのほか寛大な対応を見せてくれた。とは言っても、お祖父様に報告しないとは一言も言ってないので、今回の件はやはりいずれ何らかのお咎めを受けるモノだと覚悟しておくべきかもしれない。
しかし、丹加部さんがココまで誰かに詰め寄ったのも驚いたが、相手を注意するにせよ1つ1つの所作に執事としての本分をわきまえ、それでいて相手を屈服させる迫力はやはり凄かった。
久々に本邸にいた頃の雰囲気を体験できて懐かしいやら悲しいやら・・・複雑な気持ちになる。アイナも相当マズイと感じているのか、いつものふてくされ顔を一切見せない。その点については個人的に高評価だった。
もしこの場で丹加部さんに更にふざけた態度をとろうものなら、たぶんこの生活は即座に終了していたと思う。
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【16】2006年6月6日 17:15・送迎車・大雨。丹加部さん①(レン視点)
敷地内専用道路である坂道をしばらく上っていると再び送迎車が止まった。どうやら正門に着いたらしい。送迎車はしばらく止まったまま動かなかった。恐らく正門の前で護衛たちが色々と引き継ぎやら重要事項の確認やら、護衛同士にしか分からないやり取りをしているのだろう。
護衛同士がどういうやり取りをしているのか私は知らない。というか、私から部外者へ漏れる可能性もあるので教えてもらえない。
正門で待機している他の護衛が後部座席までやってきて私たちを確認するとお辞儀をした。私もそれに応じて軽く会釈する。その護衛は頭を上げるとスーツの襟についている小さいマイクみたいな機器に向かって何か喋りながら正門へ戻っていった。
護衛は皆、サングラスとスーツ姿に似たような髪型と黒髪なので正直あまり見分けがつかない。それに昔からお祖父様の教育として必要以上に護衛と親しくしないように教え込まれてきたので執事やメイドと違って名前すら知らないことが多い。
そして護衛側も家族の者に必要以上に接するなという教育がされているのか機械的な反応する者が多い。『そもそも護衛なんて必要なのか?』と
思っていたこともあったが、本邸で過去に数回侵入者騒動があったらしい。
いかんせん私が生まれる前だったか生まれてすぐだったか、だいぶ前の話なので噂で聞いた程度だけど・・・。
お祖父様の商売の都合上、自然と敵が多くなってしまうのでお祖父様に言わせると『仰々しいくらいで丁度良い』のだそうだ。ちなみに西冥所有の敷地内に侵入してきた輩は護衛が即座にとっ捕まえて、今のご時世『拷問』という言葉は問題がありそうなので別の言い方をすると・・・『ちょっと過激な質疑応答』を行った後警察につきだすというプロセスをとっているらしい。
実際に見たわけじゃないから詳細は私も知らない・・・。
送迎車が止まり1分経った頃、正門が開き始めた。正門を抜けると、送迎車は後部座席が玄関の正面にくるようにゆっくりと弧を描がくような軌道に入った。
「あ・・・ッ」
玄関に私たちの出迎えをしようと待ってくれている執事の丹加部(にかべ)さんの姿が見えた。
「ウグー、やっと着いたかよーー」
「アイナッ!今日は丹加部さんがいるからドアを開けてくれるまで待ってねッ!それから態度もきちんとしてッ!」
「げーー、ニカベがいるのかよ。ウー・・・」
「アイナ??」
私は雰囲気で態度を改めるようにアイナに釘を刺した。
「・・・わーーったよーー、ウグー。おーーらよっとー」
アイナが気だるそうに起き上がり座席の肘かけを元に戻すと行儀良く座り直した。
「アイナ、顔ッ」
「へーーーい」
私がそう指摘すると不満タラタラなアイナの表情が違和感ありまくりな引きつり笑顔になった。
《まぁ、及第点かな。ギリギリアウトな気もするけど仕方ない・・・》
もう玄関はすぐそこまで迫っており、丹加部さんからは車内の様子も見えているはず。下手な指摘でアイナに癇癪を起こされるよりはいくらかマシだ。
送迎車が玄関に止まる動作に合わせて丹加部(にかべ)さんがお辞儀をしながら私たちを出迎えてくれた。が、年老いているせいか全ての動作が少し遅かった。
「遅い遅い遅いッ!!丹加部、速く速く速くッ!!」
アイナはもうとっくに限界のようだ。
「アイナ、頼むからちょっと黙ってて」
丹加部さんからでは私がちょうど背を向いているのでその隙を見計らってアイナを注意する。護衛が運転席にいる手前大声を出せないのがツライ・・・。下手に失態を晒せばお祖父様の耳に入る・・・。それはつまりこの生活の終了を意味することに等しい。だから、いくら注意してもしすぎることはないのだ。
丹加部さんがドアをゆっくり開ける。
「レンお嬢様、ユアル様、アイナ様、お帰りなさいませ」
長年の執事生活で培った優雅で気品溢れる所作で、仰々しくない完璧なお辞儀を見せる丹加部さん。丹加部さんは私から外へ出るように手を差し伸べエスコートしてくれた。
「ごめんなさい。丹加部さんだって他に色々やることがあるのに・・・」
「いいえ、レンお嬢様。この丹加部、今は執事としての任を解かれ後進の育成を任されている身ではありますが、常駐でなくともこうしてまた西冥家にお仕えできることに至上の喜びを感じております」
丹加部さんはたしか今年で74歳だったと思う。お祖父様の護衛として雇われたのが40年以上前。それからずっとお祖父様の護衛として雇われていたが、護衛以上の素晴らしい働きに感心したお祖父様が護衛兼秘書兼執事として側に置くほど優秀な人だったらしい。
それ以来、丹加部さんは西冥家のことならほぼ全て把握している重鎮となった。お祖父様の都合上、自然と敵が多くなってしまうため暴漢や暗殺未遂という危険な目に何度か遭っているが、その都度、丹加部さんは身を挺してお祖父様を守ったという逸話がいくつもある。
私は直接見たことはないけど身体(からだ)にはそのときに負った傷がたくさんあるとかないとか。去年、本邸でちょっとしたゴタゴタがあった時に私たち3人でこの家に住む条件として定期的に丹加部さんがこの家を訪れ私が近況を伝えるという義務が生じた。
要するにお目付け役ということだ。
丹加部さんは私に続いてユアルを降車させた。
「ユアル様、お帰りなさいませ。さぁお手をどうぞ・・・」
「ただいま帰りました、丹加部さん」
ユアルはスーパーモデルのような長い脚を無駄のない動きでスッと地面につけると丹加部さんに寄りかかりすぎず、かと言って丹加部さんのエスコートを無下にすることもない絶妙な力加減で車を降り首を少し傾けて挨拶をして見せた。
これには丹加部さんも大満足だったのか笑顔のまま何度も頷いている。
《さすがユアル、何というグッジョブ。完璧すぎる》
2人のやりとりはまるで映画のワンシーンを見ているようでユアルの完璧な対応に私もついつい見惚れてしまった。
「アイナ様、お待たせして申し訳ありません。さ、どうぞこちらへ」
「ただいま帰りました」
最後は問題児だ。
《頼むからトラブルを起こさないでくれ・・・》
アイナは丹加部さんのエスコートに応じて特に問題なく降車した。ユアルほど愛想はないが丹加部さんはユアルのときと同様に笑顔で頷いていた。
《アイナ!やればできるじゃんッ!!よしッ!》
思わず心の中でガッツポーズをする。
「ユアルとアイナは先に家に入ってて。私は少し丹加部(にかべ)さんとお話があるから」
降車からココまで良い流れができているのでボロが出ないうちに私はユアルとアイナに先に家へ入るように促した。
「はい、レン。では、丹加部さん、お先に失礼します。もしお許しいただけるのであれば、いつかまたお屋敷の方にご挨拶に伺わせて頂きたいと
永由(ながよし)様にもどうぞ宜しくお伝えください」
西冥永由(ながよし)、お祖父様の名前だ。
「はい、その旨十分お伝えさせていただきますよ。ほっほっほ・・・」
こういう大人な対応のときのユアルは本当に安心感がある。
《できれば、保武原さんの時もこうしてほしかったんだけど。まぁ、ココまでは理想的な流れだし、あとは私が丹加部さんの質問にそつなく答えれば今日という難関は突破だ》
「うぅーー腹減ったーー!っつーか風呂入りてー!!」
「ッ!!??」
《アイナ、最後の最後でやっぱりダメだったか・・・》
私はユアルの完璧すぎる対応に安心しきって少し緊張感を緩めてしまったのかもしれない。
ココでようやく今日は気の緩みが仇となる最悪な日だと理解した。
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【15】2006年6月6日 17:11・送迎車・大雨。帰宅(レン視点)
どこまで行っても田んぼや木々、そして雨雲という単調な景色が続いていた。大雨は一向に降やむ気配がない。
《・・・お?》
いったいどれくらい時間が経ったのか分からないが急に送迎車が減速して傾斜のある道を上り始めた。・・・かと思うと、しばらくして停車する。
窓から外を見ると高さが4メートルくらいありそうな門が自動で開き、開ききった所で固定されている最中だった。この特殊仕様の送迎車は運転席と後部座席を真っ黒なセパレーターで仕切られているが諸々の理由から車内での防音性能は信憑性が疑わしい。
要するに勝手な憶測として、護衛の観点からこちらの会話が運転席に丸聞こえなのではないかと思っているのだが、逆に外からの防音性能はかなり優れていて、ほとんどの音をシャットアウトしてくれるので門が開く音や固定されてい��音も車内まではあまり響かなかった。
《やっと着いた・・・》
この門が私たちの家の敷地への入り口となっており『出入り口門』と呼ばれている。その名の通り、ウチの敷地内への出入り口はココしかない。送迎車がゆっくり門の敷居である門閾(もんいき)に乗り上げる。
ガタンガタンッ―。
この門閾、結構高さがありと時間差で前輪と後輪から段差を越えるときの衝撃がお尻に伝わってくる。特殊仕様なのでこの程度の衝撃で済んでいるのかもしれない。普通乗用車ではもっと揺れがヒドイと思う。
門閾の段差を乗り越える衝撃。これが我が家へ帰ってきたというある種の合図になっていた。
しかし、まだ家までは送迎車で1分程緩やかな坂を上る必要がある。恐らく、運転している護衛たちにはもう家が見えているかもしれないが後部座席にいる私たちには前方の状況がまるで分からない。
窓から地面を見ると山道には不釣り合いな真新しいアスファルトと等間隔おきに設置されたこれまた山道に不釣り合いな照明灯が見えた。お祖父様は何を思ったのか、出入り口門から家まで元々舗装されていなかった山道を車が走りやすいようにわざわざアスファルトで舗装してしまった。さらに、出入り口門から家までのたった数百メートルの距離のために一定間隔おきに360度録画可能な監視カメラつきの照明灯も設置したのだ。
当然、道路の両サイドはさっきの出入り口門と同様の高さである4メートル程度の柵が外部からのあらゆる者の侵入を阻むように続いてた。
しばらく坂を上っていくと後部座席からでも家が見えてきた。正確には家の周りに設置されたかなり高さのある柵だが・・・。
あの柵もお祖父様ならではの拘りがあったらしく害獣が家に入ってこれないように、出入り口門から続く高さ4メートルの柵とは別に長い柵が設けられている。イヤ、柵というよりは『柱』と言った方が良いかもしれない。
一見すると何かの金属で出来ているようなその柱はお祖父様が特注で作らせた特殊素材で出来ておりチェーンソーでも切断不可能らしい。
その特殊素材製の柱は直径約20センチ、長さ30メートルで地面に10メートルほど打ちこんで地面からの高さを20メートルに揃え、子供や小動物も通れない間隔で家を中心にグルリと円形に囲んでいた。
分かりやすく表現するならばオーソドックスなドーム型の鳥かごの天井がないバージョンを思い浮かべると良いのかもしれない。
さらにその外側には出入り口門から続いている4メートルの柵も家を中心に円を描くように配置されており、囲い壁ならぬ仰々しい2重の囲い柵が我が家のトレードマークとなっている。
ウチの家は山奥なので熊やイノシシといった害獣がよく出没するらしいとの情報を得てお祖父様なりに対策を講じてくださった結果がこれだった・・・。そして極めつけは家の裏にある山からの土砂対策として柔軟性と強固さを兼ね備えた特殊な素材のフェンスを柵に張り巡らせている。
まだ一度も土砂崩れが起きてないので効果のほどは定かではないがお祖父様の特注にハズレはないのできっと大丈夫だと思う。その鳥かごの中にある4階建てのコンクリートの建物これが現在私たちが住んでいる家だ。
元々この家はお祖父様がいくつか経営しているうちの何とかという企業の保養施設だったらしく社員であれば誰でも自由に利用できたらしい。去年ちょっとしたゴタゴタがあり、私がお祖父様に無理を言って私とユアルとアイナの3人用の家として用意してもらったのがこの家だった。
正直、今でもあの時のことを思い返すと、よくあんな無茶が通ったものだと肝を冷やすことがある。私としては保養施設の設備のままでも十分だったのだが、お祖父様の配慮で内装やら防災対策として色々な箇所をほぼフルリフォームしてもらえた。
窓ガラスは送迎車顔負けの防弾仕様で家の外壁の至る所に監視カメラを設置。もちろん地震大国日本においての対策も抜かりない。保養施設として建てたときには既に地震の揺れを家に伝えない免震構造を取り入れていたらしい。社員とは言え、他人のためにそこまでやるのかという徹底ぶり。
お祖父様の先見の明というか用心深さには毎回驚かされる。不審者避けや害獣・災害対策としてやりすぎ感が否めないが、ココまでしてくださったお祖父様に意見なんてできるわけもなく・・・。
当時はフルリフォーム工事にかかる期間について不安があったが、幸い近隣の住民が一切いないので昼夜問わず3交代制で4ヶ月かかるリフォーム工事が1ヶ月半程度という異例のスピードで完了したのはラッキーだった。
大人の本気を見せられて少し引いてしまった孫はぎこちない笑顔でお礼を言うのが精一杯たった。
以上のことから1時間20分の通学時間も我慢せざるを得ない状況なのだ。
通学時間の問題はさておき、スピード工事のおかげで思いのほかかなり早く『本邸』を出ることができた。『本邸』というのは私が生まれた頃から去年の9月まで住んでいた実家のことでお祖父様のお屋敷だ。
お屋敷と言ってもかなりモダンな造りにはなっていると思う。今までの説明の中で薄々理解していると思うが、お祖父様はどちらかと言うと古臭いだけの様式美よりも合理的で実用性のある機能美を重視している。
なので、本邸もただデカイだけの木造の屋敷ではなくこの家のように防災フル対策のモダンな・・・えっと、何とかという特殊素材で家の外壁を造った?イヤ、コーティングした??まぁ、そんな感じの防災・防犯対策最新鋭特盛フルコースらしい。
敷地や家の大きさはココの4倍くらいだろうか・・・?本邸の敷地内は移動するだけでも結構な運動になる。しかし、今の家と決定的に異なるのは何と言っても家族よりも人数が多い執事やメイドたちの存在だろう。
どこに行くにも何をするにも気を遣われる落ち着かない家だった。
金銭的には不自由ない暮らしだったけど自由やプライバシーはほぼ存在しなかった。お祖父様は執事やメイドたちをまとめて『使用人』と呼んでおり、お祖父様自身にはメイドと執事を祖母と私にはメイドのみを世話係としてあてがっていた。
私が本邸を離れたかったのは別に使用人たちが嫌いというわけではなく誰にも干渉されない自分だけの空間が欲しかったという身勝手で子供っぽい理由が原因だ。しかし、いかに子供っぽくてもそれがどうしても欲しかった。誰にも干渉されない自由な空間が欲しかった。
そんな私はとある時期から『他人が家の中にいる』と強く感じるようなり、とうとう耐えられなくなってしまった・・・。
使用人たちは本当に優しく、よく働き、気遣ってくれる。でも、他人に変わりなかった。それ以上でも以下でもなく、他人なのだ。
15歳の子供と言っても曲がりなりにも一応多感な時期の乙女としては四六時中、自宅で他人にまとわりつかれたり気を遣われるのはかなりシンドかった。今はユアルがある程度家事をやってくれてはいるが全てをまかなってくれているわけではないので当然自分でやらないといけな部分が出てくる。
初めは面倒だと思っていた雑事も今となっては生活の一部と言えるくらい慣れてきた。少し不便なところもあるが、その代わりプライバシーは圧倒的に守られ尊重されるようになったのは素直に嬉しかっ
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【14】2006年6月6日 16:45・送迎車・大雨。3人の悩み(レン視点)
幾度となく流れていく田んぼ、木々。ココがホントに東京なのか疑いたくなるような懐かしい風景が流れていく。
晴れている日はそれなりに風景を楽しめるが梅雨の時期はどんより空に構えている雨雲のおかげで全ての雰囲気をぶち壊してくれる。しかも今日は朝からずっと大雨だった。
どう考え直しても嫌いだ、梅雨。
ルドベキア女学園は惺璃(さとるり)市の中心から少し外れた所にあり、送迎車に乗って20分ほど車を走らせればただでさえのどかな風景が輪をかけて酷くなる。
「ウ゛~~!」
《・・・・・・はぁ》
アイナが不快な唸り声をあげるほど送迎を嫌う理由として閉鎖的な空間の他に移動時間の問題があった。私の家から学園まで片道40分の往復1時間20分毎日登下校にかかっているのだ。
シビアな表現をするとそれだけ時間を損をしているということになる。これにはアイナだけでなく私やユアルもだいぶまいっていた。アイナや私ならともかくユアルまで根をあげるというのはそれだけ問題の深刻さを物語っている。
以前から送迎について何度かユアルに『別の手段はないか?』とお祖父様に尋ねるようにお願いされたことがあったが、まったく無茶を言ってくれる。そんなことできたらとっくにやってる・・・。ただでさえ、お祖父様にはお世話になっているのにこちらから一方的に要望を出すなんて自殺行為に等しい。
・・・しかし、毎日毎日授業以外に登下校合わせて1時間20分のロスはさすがに厳しいモノがある。これを大学卒業まで続けるとなるとユアルの言う通り、いつかはお祖父様に言わないといけないのかもしれない。
《しかし、それは断じて今じゃないッ。それだけは明確に分かっている!》
単にお祖父様を恐れているというのもあるが先にも言った通り、大変お世話になっていることの方が理由として大きかった。ちなみに大学は高校から更に遠い惺璃市の隣に位置する八恩慈市にあった。
高校で1時間20分の往復なのに大学はいったい何時間になるのか、想像するだけで吐きそうになる。そう考えるとやはり大学生になるまでにこの問題をどうにか解決しなくてはならない。さすがにその頃には賃貸でも良いので近場に住まわしてくれると思うのだが・・・、というかそうじゃないと困る。
「あッ!!」
「どうしました、レン?」
私のとっさの一言に即座に反応するユアル。
「え?あぁ、ごめん。ちょっと思い出したことがあってさ。ねぇ、アイナ?」
「あ゛あ゛あ゛~~~??」
話しかけるなオーラ全開でこちらにゆっくり顔を向けるアイナ。
「そういえば、昼休みに角刈りモッ・・・!!」
《おっと、危なッ》
ココが護衛の目がある車内であることを思い出して私は口をつぐんだ。いくら運転席と後部座席がセパレーターで仕切られているとは言え、防音性能を確かめたわけではないので迂闊に喋るのは危険過ぎる。
私は数秒ほど間を置いてから言い直した。
「えっと、昼休み知世田先生に何か話しかけられてたけど、どういう内容だったの?」
「あら、そんなことがあったんですか?アイナ、どうなの?」
「ウ゛ーー、確かに話かけられたけどー声がカスカス過ぎて何喋ってるのかマジで聞き取れなかったんだよなぁー」
「じゃあ、アイナは適当に返事をしてたってこと?」
「そゆことー。無視するよりはマシだろー?オレも大人になったぜー、ウ゛ーー」
「イヤ、教師を無視とか論外だから・・・」
《うーん、ちょっと気になるけど、たぶん授業中の悪態に対する注意だったのかも》
もうちょっと突っ込んだ話をしたかったが車内でこの手の話をするのはリスクが高すぎるので黙ることにした。昼休み、私がアイナと角刈りモアイの側を通ったときたしかに聞き取れなかったのは事実なので、この件についてはアイナはウソをついてないと思う。
《帰宅して気力が残っていたらアイナにもう一度詳細を聞いてみよう・・・》
そう考えながら、私は窓から陰鬱な帰路の風景をぼんやり眺めていた。
私たちの家はルドベキア女学園から北西へ走らせた所にある。
東京というよりは埼玉の方が圧倒的に近い場所だ。ご近所さんと呼べる民家はなく山の中腹より少し下にポツンと構えている。聞いた話ではお隣さんと呼べる民家まで最短でも数キロはあるらしい。
お察しの通り、私たちの家は世間から隔絶された山奥にあった。
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【13】2006年6月6日 16:24・校門前・大雨。車嫌い(レン視点)
「あ゛ー!!また車乗るのかよぉ~」
校門階段を下りきった所でアイナの車嫌いが始まった。
「アイナってホントに嫌いだよね、車」
「んーー嫌いっつーかぁ、息苦しいんだよなぁー」
「『息苦しい』って・・・。ウチの送迎車広いほうだよ?お祖父様がメーカーに特注で造らせたんだからね?銃社会じゃないのに防弾でダンプとの衝突だってギリギリ耐える特殊仕様なんだよ?ウチの送迎車で息苦しいとか言ってたら普通の乗用車なんて乗れないよ?」
車に疎いのでメーカーの名前をド忘れてしまった。それ以前に興味のないモノってあまり覚えられないような気がする。こうしてる間もメーカーの名前がまったく出てこない。
「んなこと、知らねーよ」
アイナは私の丁寧な説明を面倒くさそうに斬って捨てた。
「まー、生意気」
《いつかアイナを普通乗用車に乗せてあげてウチの特注送迎車の有り難みを分からせてあげよう。うん、そうしよう。分からせてあげたい・・・》
学園側が通学組の保護者に出した条件、それは『送迎の義務化』だった。
かつて入寮が義務だった時代、学園側が建前として掲げていたのが生徒の安全だった。そのことから入寮を拒否する親には『絶対的に自分たちで子供の安全を確保するように』と送迎義務が始まったらしい。
理には適っているかもしれないがどうにも屁理屈が過ぎる気もする。しかし、保護者側からすればバカ高い寮費を払わなくて済み、学園側も生徒に対する責任がなくなるわけで双方にとってWin-Winなメリットがあった。
「レンお嬢様、ユアル様、アイナ様、お疲れ様でした」
黒いスーツにサングラスの男が私たちに声をかけてきた。
「ありがとう、ご苦労様です」
校門の前の道路には、先程までアイナに説明していた送迎車が停めてあった。運転席近くには別の黒スーツでサングラスの男が
わざわざ車を降りて私たちに向かってお辞儀をしていた。
彼らはお祖父様が用意した護衛であり私たちの送迎を担当している運転手でもある。担当と言っても専属ではなく日によってローテーションを組んでいるらしい。
護衛は私とアイナのカバンを預かると1人ずつ傘を回収し雨に濡れないように傘をさしながら後部座席のドアを開けてくれた。
「ふぃー疲れたぁ~~」
何をどう疲れたのか分からないアイナが我先にと送迎車に飛び乗る。
ユアルはアイナに何か言いたげな表情をしていたがココは敢えて我慢しているようだった。というのも、私たちの言動は恐らく護衛たちからお祖父様に筒抜けの可能性があるからだ。
ある意味、学校よりも気が抜けないかもしれない・・・。
ユアルは例えお祖父様が用意した護衛であっても私物を他人に預けることを嫌う性格らしくカバンを大事そうに抱えて車に乗り込んだ。護衛もそのことを分かっているので私とアイナのカバンしか預からなかった。
「それではよろしくお願いします」
「かしこまりました、レンお嬢様」
私は乗り込む前に護衛に挨拶をした。
《これでアイナの愚行が少しでもチャラになりますように・・・》
そう祈りながら。
送迎車の後部座席は『コの字型』になっていてアイナと私はそれぞれ左右の窓側の席、ユアルが残りの席という感じだ。いつの頃からか忘れたが3人の座席位置はだいたいそう決まっている。
アイナが窓側の席を好む理由は知らないが私の場合どうしても乗り物だと窓から流れる景色が観たいのでそうさせてもらっている。
小さい頃は座席の肘かけを収納してソファのように仰向けに寝そべりながら窓から流れる景色を見るのが大好きだった。その頃はまだ車の窓ガラスを内側が見えない仕様にしても特に問題��い時代だった。
こちらの姿は見えないのでよく忍者になったような優越感に浸たりながら対向車や並走する運転席の人物を観察していたものだった。
しかし、数年前からスモークガラスの規制が厳しくなり可視光線透過率なるものが70%以上でないと取り締まられるようになってしまったらしい。
自分で言っててよく分からないが要するに外側から完全に内側が見えない車は処罰対象になったということだ。そのおかげで丸見えとまではいかないが送迎車の中が見えるようになってしまった。
普通乗用車ならまだしも、この特注送迎車にサングラスと黒スーツの男が2人も前列に座っていたら、イヤでも周りから注目されてしまう。年頃の娘にはちょっと恥ずかしい仕打ち仕様になっている・・・。
直接的な因果関係は不明だが5年くらい前に海外で大きなテロ事件が起きてから危機意識の向上やテロ対策として日本でもこういう規制が厳しくなっているような気がする。
「ウ゛ーー!」
『突然、車の前にクリーチャーが現れた!』・・・わけではなく。
不快な雑音の正体はアイナが寝そべった状態で唸っている声だった。どんなに景色が変わろうとも車が進もうとも鳴りやまないアイナの唸り声は正直不快だった。しかも、梅雨という最悪な相乗効果もあって精神を削り取られる感じさえする。
過去に何度か車酔いを心配したこともあったがアイナ本人に言わせると車酔いは一切しておらず、ただただ車の中という閉鎖的な空間が嫌いなだけらしい。
「アイナ、うるさいから少し黙りなさい・・・」
「ウ゛ウ゛ウ゛ーーーーー!!!」
ユアルの注意に反抗するように更に唸り声をあげるアイナ。
「・・・・・・・・・ッ」
少しだけユアルの眉がひくついたのを私は見逃さなかった。
そうこうしている内に送迎車がゆっくりと走りだす。
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【12】2006年6月6日 16:20・校門階段・大雨。寮生組と通学組(レン視点)
授業がすべて終わり、部活に入っていない帰宅部の私たちは校門階段を降りているところだった。
校門階段とは校門から生徒用玄関まで設けられているスロープのような勾配の緩やかな階段のことで100段あるらしい。1段1段の幅が広くだいたい幅10メートルの奥行きは50センチくらいはあるだろうか?
生徒が数人で横になって喋っていても十分余裕があるゆったりスペースがあった。
高校生の入学式、初めてこの階を上ったとき、仰々しい装飾はないものの宮殿に赴くような気持ちになったのを今でも覚えている。
ただし、この校門階段は走ることが禁止されているので時間ギリギリで校門にたどり着いたところで、遅刻は確定しているという絶望的な難所でもある。勝手な推測だけど学園側としては『余裕を持って登校しなさい』みたいな意図があるのかもしれない。
もし仮にデザイン重視でこんな階段を採用したのであれば愚の極みという他ないけど・・・。
今日みたいな雨の日に走ってコンクリートの階段に頭を打とうモノなら一瞬であの世にいけそうだ。あと雪が降ってキンキンに凍った翌日とかはあまりこの階段を上りたくない造りでもある。
校門には警備員用の休憩所兼外来のための案内所があり、そこから不審者が侵入しないように目を光らせると同時に生徒が校門階段を走らないように警戒していた。
校門階段で走ってしまった生徒は注意の上担任に報告されるという徹底ぶりだ。なので、校門階段を走る生徒は基本的にはいない。
個人的にこの階段を上り下りしていてムカつくのは高低差から下からパンツが丸見え確定だということ・・・。特に登校時間、階段を上りながら見上げると同性の望んでもないパンチラ率がヤバかった。自分のも見られていると思うと気分が悪くなる。
中には他を圧倒しようと過激な下着を身につけているバカもチラホラ見受けられるが、そういう主張は完全に間違っていると思う。
『若いときにしかできない』ではなく『思考を根本から組み立て直せ』と言ってやりたい。当然、無意味に過激な下着は校則違反だ。
せめてもの救いは警備員が全員女性だということとパンチラ目的の変態が校門の付近をうろつこうものなら即座に警察へ連絡する徹底ぶりくらいか。まったく、考えれば考えるほど何のためにこの階段を造ったのか理解に苦しむ。
梅雨の土砂降りの中、そんな校門階段を下りていると生徒たちがさしている様々な色の傘がズラリと続いている光景が校門まで続いていた。それはなかなかに壮観で、その鮮やかさにほんの少しだけ癒される。
「良いよな~寮生組はさぁ、登下校の時間がなくてよー・・・」
私の前方の小さい傘からとても憂鬱そうなアイナの声が聞こえた。
アイナの憂鬱そうな声とは対照的に小さい傘は階段を1段下りる度にピョコンピョコンと波打っているのが見ていて微笑ましい。
この学園には寮があり『寮生組』と『通学組』、さらにそこから『部活組』と『帰宅部』も加わり、『寮生組の部活組』、『通学組の帰宅部』といった感じで分類されることが多い。
アイナの言うとおり、寮生組は学園の敷地内で暮らしているので登下校10分あるかないかくらいだろう。余程のことが無い限り遅刻することもないと思う。
「寮生組が羨ましいって・・・アイナ、面識のない他人がわんさかいてしかも先生に管理される生活なんて耐えられるの?テレビなんてほとんど見られないって噂だよ?」
ルドベキア女学園は何と恐ろしいことに、今から十数年くらい前まで中等部と高等部は入寮が義務化されている全寮制だったらしい。学費だけでは飽き足らず寮の費用まで搾り取るなんて悪徳がすぎる。
しかし、時を経て保護者から批判が相次ぎ、時代のニーズに応えるという名目でとあることを条件に学園側は渋々自宅からの通いを承認したらしい。
私は基本的に他人との集団生活が死ぬほど嫌いなので通学が解禁されてホントに良かったと思っている。こんな所で生活するなんて窒息するのと同じだ。
「げッ!?テレビダメなのかよッ?最悪だな・・・」
ピョコン。
「『え?テレビは禁止されているのですか?残念ですね』・・・でしょ?」
「はぁああーうるせーー」
ピョコンピョコン。
「あはははッ」
悪態をついている割に階段を降りるたびにピョコンと小さく波打つ可愛らしい傘がアンバランスさを引き立たせてマヌケな感じに見えて思わず笑ってしまった。
ユアルは角刈りモアイの件以降、アイナの悪態を直そうと隙あらば口調を訂正している。個人的に漫才を見てるみたいで面白いのだがそう楽しんでばかりもいられない。
「でもアイナ、ユアルの言うとおり口調は気をつけてね?誰が聞ているか分からないし、もっと言うと家の者に対しての言葉遣いだけは冗談抜きで注意してよね・・・」
「へーーーい」
ピョコン。
こちらの懇願も虚しく、アイナの生返事具合が心にまったく響いてないと教えてくれている。
「レン、ちょっと良いですか?」
「ん?何?」
視線を右に向けるとユアルが怪訝そうな表情を浮かべていた。
「私の勘違いだったら指摘してほしいんですけど、教師たちの生徒の扱い方というか具体的に寮生組と通学組の生徒で差がありませんか?前から気になっていたのですが寮生組の方が遥かに優遇されているように見えるのですが・・・。私の気のせいでしょうか?」
寮生組の特権はユアルの言う通り登下校以外にもある。
放課後、教師たちに授業をしてもらったり部活動も結構な時間まで打ち込んでいる生徒が多いらしい。その過程において通学組とは明らかに一緒にいる時間が異なるわけだし親密さが増すのは致し方ない。その親密さから通学組の生徒と接する態度が異なるのも、まぁ仕方のないことなのかもしれない。
ちなみに通学組は寮への侵入を禁止されている。何と言っても未成年なのでどんなトラブルを起こすか分からないし、そもそも利用者じゃないんだから、これも仕方ない。
「ユアル・・・」
「はい?」
私は自分の唇に指を置いて見せた。
「それ、絶対先生の前で言っちゃダメだからね?」
「・・・なるほど、了解しました」
ユアルがやれやれといった感じで頷きながらも今の会話ですべてを察してくれたみたいだった。ユアルは物分りが良くて助かる。
この学園で数ヶ月過ごせば誰だってその違和感に気づいてしまうくらい、ユアルの直感は正しくまた教師たちの態度はあまりに露骨だった。もうちょっとヒドイ言葉を使って良いのなら『醜悪』がぴったりだと思うくらいに。
理由はとてもシンプルで学園と言っても私立は要するに企業なのだ・・・。
商売をする上で単価の高い客と低い客を比べたとき、オーナーはどちらを愛おしく思ってしまうだろう?どんなに最悪な客でも売上に直結するのなら、その客を大事にしてしまうのは世の常だと思う。
社会貢献だ人材育成だと綺麗ごとを並べてみても結局学園の運営なんて利益をあげるのが前提なのだから通学組の生徒に比べて寮生組が良客であることに違いはない。
イジメは良くないと言いながらも無意識なのかそれとも学園ぐるみなのかは知らないがたしかに生徒の扱いに差があるのは事実だった。しかし、今ココでそのことについて生徒だけで議論しても無意味だし誰が聞いているのか分からないのでユアルには忠告だけしておいた。
《時間がある時にでも色々話しておこう。アイナはそういう大人の事情を聞いたところで、ただただ面倒臭がるだけだと思うしイイかな・・・》
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【11】2006年6月6日 13:41・教室・大雨。学園のこと(レン視点)
私は弁当を食べながらユアルも気になった言葉を思い返していた。
《この学園にふさわしい生徒・・・か》
ルドベキア女学園―。
ココは初等部から大学までエスカレーター式のいわゆるお嬢様たちが通う学園だ。べつに学園がお嬢様向けと公言しているわけではない。世間で言うところの一般世帯の子だって広く受け入れてはいる。表向きには・・・。
私は祖父母や親の意向のもとお受験戦争を経て入学した。私が学費を払っているわけでも直接確かめたわけでもないから真偽は不明だけど、噂だと学費だけでも一般的な私立高校の数倍はするらしい。
お祖父様に直接聞こうと思えばできるのかもしれないけど学費を聞いたら萎縮してしまってもう普通に学園生活が送れなくなるかもしれない。そんな恐怖もあり未だに自分が通っている学園の学費を知らないまま、ココまで進学してきてしまった。
先日ネットで一般的な私立高校の学費平均を出しているサイトを見たけどそこには3年間で300万程度だと書いてあった。
ルドベキア女学園は初等部から大学までエスカレーター式だ。仮に一般的な私立の学費である年間100万を軸に考えると、年100万×16年間×一般的な私立の数倍。3倍なら4800万、5倍なら8000万、7倍なら1億12���0万と倍率次第では普通に家が買えてしまう金額になる。
あくまでも分かりやすく単純計算しただけだがそんな高額な学費を初等部から大学卒業までの16年という長い期間、親は子供のために
ひたすら払い続けなければならない。そして、これも噂だが初等部から中等部、中等部から高等部と進学するたびに学費も跳ね上がるらしい。さらにその都度、制服やらカバンやらも揃えないといけないのだから自然と金持ちの娘しか集まらなくなるというわけだ。
しかし、そこまで学費がバカ高いわりに学園の知名度は全国的にかなり低かった。
この知名度の低さは大学受験で良い大学に排出する必要がないエスカレーター式によることが最大の原因だと思う。
では何故、全国的にあまり知名度がないこの学園に金持ちは娘を通わせたがるのか?通わせているとどんなメリットがあるのか?という疑問が生まれてくる。
これも都市伝説の域を出ないまことしやかに囁かれている噂だが、その噂によるとこの学園のお偉いさんは政財界の要人と繋がりがあるらしく、学園の大学を卒業した者は自動的に卒業生用のお見合いリストに載り、要人たちから『是非息子の嫁に』とお見合い話がひっきりなしにあるらしいのだ。
要するに金持ち同士がコネクションを深めるためのコミュニティとなっているらしい。バカ高い学費を納め続け大学まで卒業させることこそ財力の証でありその証をもって初めて金持ちのコミュニティに入るための資格を得ることができるというシステムになっているとか・・・。
当然、親がどういう仕事をしているのかも大前提で重要になってくるのだが、そんなバケモノみたいな財力を持っている者たちが集うコミュイティだ。入っただけで金持ちたちからの信用を得られてステータスにもなるのは明白だろう。
一般人はその存在すら認識できない金持ちの金持ちによる金持ちのためのコミュニティ。
それがこの学園に通うメリットらしい・・・。
ただ、政財界との繋がりほしさに娘をこの学園に入れたがる大金持ちの親がいる一方で問題もつきまとう。毎年各学年ごとに数名から多い時には十数名この学園を去っていく者たちの存在、つまりは退学者だ。
その最も大きな理由は先述の通りやはり学費の高さが挙げられる。初等部から大学卒業までの約16年間高額な学費を払い続けるということは、16年間、親が金持ちであり続けなければならないという意味でもある。
私は1度も働いたことがないのでそれがどれほど困難なことか想像するしかないがきっと容易なことではない。16年の間に栄枯盛衰、事業に失敗したり会社が倒産したりと悲しい大人の事情が発生することもあるだろう。
『政財界との繋がり』という甘い汁だけを夢見て自分の身の丈以上の借金をしてまで娘を学園に通わせている家庭もあるとかないとか・・・。
そんな黒い噂の真偽に通じるのか分からないが、この学園では親の財力がそのまま生徒のステータスとして反映されているような気がする。バイトすらしたことがなく、自分が稼いでいるわけでもないのに、ただ親が金持ちというだけで自分より格下を囲ってボスを気取っているクズなんてザラにいる。
初等部の頃はそうでもなかったけど中等部・高等部と成長していくにつれ周りや自分の状況というモノが嫌でも見えてくる。そして何より社会の仕組みを理解してしまうと、もう幼かったあの頃のように他人と気軽に接することができなくなってしまう。
この学園は社会のドロドロした縮図を子供が演じているような場所でもあるのだ。私がさっきアイナに『他人に恩を売られるな』と言ったのはこういうことでもあった。
社会に出たこともない子供が『あそこの家は大企業の社長だから・・・』とか『あそこは弱小企業の役員止まりだ』とか四六時中そんなことを言ってるのを見るとどれほどこの学園が常軌を逸しているのか理解できると思う。
男女共学の高校では色恋沙汰の話がほどよくあったりするのかもしれない。すったもんだがあってギスギスして別れたりなんかして
甘酸っぱい経験になったりそうやって青春の1ページを刻んでいくのだろう。
しかし、この学園にいる男はほとんどオッサンの教師なので色恋沙汰なんてあるわけもない。だからこそ、色恋沙汰の代わりに親の財力ステータスによる社会の縮図ごっこが横行しているのだ。
『色恋沙汰があるわけない』と断言できる理由としては、そういう出会いの場に親が娘を行かせないように徹底的に管理している家庭が多いことが挙げられる。もちろん、親の目をかいくぐって教師とつきあっている生徒もいるかもしれないが、一般の高校ではないので教師たちもリスクを天秤にかけると簡単に手は出せないと思う。
大昔、この学園で教師と金持ちの娘がつきあっているのが発覚してとんでもない事件に発展したとかって話を聞いた記憶がある。
何より親がこの学園に通わせる目的はまだまだ大学卒業の先にあるのだから・・・。一時の気の迷いで娘をキズモノにされては高額な学費を支払っている親はたまったものではない。
少し話が脱線してしまったが、『財力を16年間保つこと』。
シンプルだが最もハードルが高い退学理由の最上位に君臨し続ける問題となっている。
次に多いのが、娘があまりにも優秀すぎて別の学校に転入もしくは受験を希望してしまうケースだ。
この学園は学費が高い分、勉学でもスポーツでもそれなりにしっかりカリキュラムが組まれており、その影響で自分の特化した能力に気づいて進むべき道をこの学園以外に見出してしまう悲しき覚醒者たちが結構いるらしい。
全国的なレベルで見ればそこまでではないが、それでも色んな部活の諸先輩が全国大会で優勝や好成績を収めている事実はあった。
そういう生徒は自分の好きな道へ行きたいと熱望する者が多く、エスカーレーターで上がれる大学進学を蹴ってまで好きな大学で好きなことをもっとつきつめたいとわざわざ推薦を受けたり、大学を受験する者がいる。
それゆえにあと数年間で大学卒業という金持ちコミュニティへの参加資格を目前にして娘を他の学校へやらないといけなくなった親もいるらしい。親としては泣くに泣けない状況だろう・・・。
理解のある寛大すぎる親に土下座して感謝した方が良いレベルだと思う。
ま、その人自身が選んだ人生だから外野が口を出すのは間違っているんだろうけど。
そして最後の理由だが、これは比較的どこの学校でもあると思うけど、学年に数名は必ず存在するどうにも手に負えないトラブルメーカー���ち。アイナがそれに該当するかどうかは今は置いといて・・・。
度をすぎるトラブルが発覚し教師たちの改善要求に応えないでいると、ある日突然退学処分を言い渡されるらしい。もちろん改善要求の中には教師と生徒と親が三つ巴になって徹底的に話をするというステップも含まれている。
トラブルメーカーの中にはどうしたって譲ることのできない未成年の主張というモノを抱えている者が多く、親のエゴでこの学園に入れられたことへの反発、家庭環境、親の財力にもとづいた生徒や教師たちとの人間関係などなど問題も多岐にわたり解決に至らないケースも多い。
そして本人にしか分からない悩みや苦しみがこじれ過ぎた結果、気づけば手に負えないトラブルメーカーに成長し、挙句の果てに他人に迷惑をかけるようになるという感じだ。
親のエゴで言うと、私自身小さい頃はどうしてこの学園に通わないといけないのかという疑問で苦しんだこともあった。だから、そういった悩みもすべてではないが理解できる。かと言って、他人に迷惑をかけるというのは別の話だ。そんなメチャクチャな道理が通るわけがない。
ちょっと私の主観が入っているので別の生徒からしたら部活で汗水流して仲間と青春したり男性教諭とのコイバナとかもっと学園の良いところ(?)が出てくるかもしれないけど、この学園の説明はだいたいこんな感じだろうか。
保武原さんの言っていた『この学園にふさわしい生徒』については・・・私もよく分からない。
そして、そんな私もまた当然金持ちの子、というか『孫』だった。
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【10】2006年6月6日 13:32・教室・大雨。ポミュ腹さん(レン視点)
《はぁ・・・、やっと食事にありつける》
私が振り向き椅子に座ろうとするとおかしな光景が展開されていた。そこには両手を机についてお尻を浮かせて逆立ちをしているというか、アイナだけ宇宙空間の無重力を体験しているというか、そんな天地がひっくり返った状態で静止しているアイナの姿があった。
目の錯覚かもしれないと瞬きを数回繰り返すがどうやら錯覚ではないらしい。
《何をしているんだろう?》
ゆっくり考える暇もなくアイナはそのまま両手を机から離して体を浮かせ宙を舞った。
「「「 お ぉ ~ ~ ~ ! ! ! 」」」
教室にいるクラスメイトが一斉にどよめく。
アイナの体が私の頭上を通り過ぎる様を視線で必死に追っていると、アイナはやがて席に戻る途中の保武原さんの真後ろに静かに着地した。
保武原さんは背後のアイナにまったく気づいていない。
《あッ!》
そこでアイナの目的が分かった私は急いで席を立ちアイナを止めようと動き出した。
「キャアアアアアアアアアア!!!!」
・・・が、もう手遅れだった。保武原さんの悲鳴がクラス中に響き渡る。私が必死に仲裁した努力が音を立てて崩れ粉々になる。
「ポミュ腹ぁ!そんなに怒るなよぉ~!なぁ~~?ポミュ腹ぁ!ポミュ腹ぁぁ!!」
アイナは保武原さんの背後から覆いかぶさるとお腹を力いっぱい揉みしだいていた。『ポミュ腹』というのは保武原(ほむはら)さんの��だ名らしい。
アイナは嬉しそうに縦に横にと保武原さんのお腹をムニムニ、モミモミそしてまたムニムニ・・・。まるで子供が新しいオモチャを買い与えられたようにエンドレスで楽しんでいた。
「アッハハハハハハハハハハ!!」
《えッ??》
今度は真後ろからデカイ笑い声が聞こえ思わず肩をすくめビクつきながら驚いてしまう。
振り返った私は声の主の正体に絶句する。そこにはユアルがこれまで見たことがない笑顔で爆笑している姿があった。
《さっきまでアイナを叱っていた威厳はいったいどこに》
「わ、私はッ!ポミュ腹じゃ・・・ないッ!!ほ む は ら だ!わたしはッ!このッ離れろ!!  ほ む は ら だ !!」
「アハハハハハハハハハハ!!!」
アイナが保武原さんのお腹を揉みしだく。
保武原さんがアイナを振り払おうと抵抗と訂正をする。
ユアルが爆笑する。
そしてまたアイナが保武原さんのお腹を揉みしだく・・・。
まさに地獄の半永久機関が完成した瞬間だった。
《こういうときこそ冷静沈着なユアルの采配に期待したいのに、煽ってどうする》
「アイナ!いい加減にしなさいって!!」
私は弁当そっちのけでアイナを保武原さんから引き離そうと羽交い締めにして引っ張った。しかし、バカ力のおかげでなかなか思うようにいかない。
「クスクス、クスクス・・・クスクス」
気づけばクラスメイトたちに笑いの輪が広がりつつあった。
《ヤバイ、ホントにヤバイッ》
こんな状態で教師に気づかれたりしたら確実にお祖父様連絡コースまっしぐらだ。
どう頑張ってもアイナを引き離せない私は冷静に周りを見渡して、何か使えそうなモノがないか瞬時に探した。すると、あるモノに目が止まり考える間もなく体を動かす。
「アイナー!これちょーだーい?」
アイナの机の中に入っていたパンを全部机の上に並べると、私はジャムパンを手にとって袋を開けた。
「あ!?おい、レン!!何勝手に机あさってんだよ!」
食い意地が張っているアイナはこちらの思惑どおり即座に反応してくれた。ココまでくればあとはもう簡単だ。
「あーーむ!うーん、美味しッ・・・?あれ?ホントに美味しい、何これ」
勢いで食べてしまったが、そういえばこれが私の菓子パン初体験であることをすっかり忘れていた。
ウチには小遣いという制度自体無いので購買部のパンやジュースですら買ったことがない。ウチの学園だからなのか他の高校の購買部でもそうなのか比較対象というか経験が乏しいので判断できないけど、やや甘すぎな点以外なかなかどうして意外とイケる。
想像していたより数倍美味しかった。
「レン、ふざけんなよ!!」
アイナを黙らせることなんてそっちのけで無意識にもう1口食べようとしたとき、アイナが私めがけて飛びかかってきた。私はアイナの突進を紙一重でかわしながらもう1口ジャムパンを頬張る。
「うんうん!ホントに美味しいッ!!・・・・・・あッ!!?」
かわしたのも束の間、アイナの手がトンビのようにジャムパンをかっさらっていった。
「2口も食いやがった!冗談じゃねぇよ!!」
もう少しというかできれば全部食べたかったが結果的にアイナを保武原さんから引き離すことができたので良しとしておこう。
「どうせ貰ったモノなんだからちょっとくらいくれたって良いでしょ?そんなケチくさいこと言うなら、もう家で『充電』させてあげないよ?」
「は?意地汚いだけじゃなくて関係ないモノまで引っ張りだすなよなぁ。これ超人気のジャムパンなんだぞ?変な添加物とか砂糖でごまかしてんじゃなくてマジで果物つかってんだからなッ!」
なるほど、美味しいわけだ。そして、この学園だからこその商品だと確信した。
教室のドアに視線をやると保武原さんが教室の外に逃げていくのが見えた。
《ふぅ・・・何とか無事に逃げることができたみたい》
「アイナ、悪かったって。そういえばホラ!保武原さんは?もう良いの?」
「もう良いよ・・・。どうせポミュ腹を逃がすためにわざとオレのパン食べたんだろ?」
「あれ?やっぱりバレてた?」
「アレでバレてないと思うのは頭悪すぎるだろ・・・」
「何だろう。アイナに言われるとちょっとカチンとくる」
《まったく誰のためにやってあげたと思ってんだか。人の気も知らないで》
私は怒りの矛先をアイナのお団子頭に向けて指で思いきり弾いてやった。
パチンッ!!
「いって。んだよ・・・」
「ふんッ」
気づけばユアルの爆笑も止まり今度こそ事態を収拾することができたと安堵する。
だいぶ取り返しのつかない場面がいくつかあったかもしれないけど教師がしゃしゃり出てくるようなことではないと思う、・・・たぶん。
「よいしょっと」
椅子に座り1口も手をつけてなかった弁当をやっとの思いで食べ始めた。
「私たちの振る舞いは『この学園にふさわしくない』ですか。何とも小難しい難癖のつけ方ですね」
ユアルが弁当を上品に食べながらおもむろにつぶやいた。
「あんまり気にしなくて良いと思うよ?」
それとなくフォローを入れる。
「え??・・・えぇ、私は微塵も気にしてませんよ、レン?」
あまりにも堂々としているユアルの姿を見てさっきのユアルの煽りというかバカ笑いを思い出した。
「ごめん、ユアル。前言撤回。やっぱり、ちょっとは気にした方が良いかも」
「あら?具体的にどういう意味ですか?」
「だから!アイナが悪ノリしたら止めてほしいってことッ」
「あぁ、さっきのアレですか。そうですねぇ。私はあまり爆笑するということが無いんですがたまにツボに入ってしまうことがあって・・・」
「で、笑いが止まらなくなると?」
「フフフ、その通りです」
何ともわざとらしい笑顔を浮かべるユアルにやはりあの爆笑は自然発生的なモノではなく煽っていたんじゃないかという疑念を抱いてしまうが、もうお腹が空いて限界なので何も言い返さずスルーした。
《深く考えるのはやめよう。面倒くさい》
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【9】2006年6月6日 13:20・教室・大雨。保武原さん(レン視点)
「ちょっとあなたたち・・・」
「はい?」
不意に背後から声をかけられ振り向く。
「あ、保武原(ほむはら)さん。何か用?」
「『何か用?』じゃないわよ、西冥(さいみょう)さん・・・。この外人2人の保護者としてきちんと日本のマナーを教えといてほしいんだけど?」
『外人2人』というのはもしかしなくても緑がかった銀髪のユアルと金髪お団子頭のアイナのことだろう。そして『保護者』というのはユアルもアイナも私と同じ『西冥』を名乗っているため私が責任者として認識されているんだと思う。
ユアルとアイナは私の遠縁でありこの学園に留学にやってきた、ということになっているのだ。
《こっちはそれどころじゃないんだけど、さっきの角刈りモアイの件もあるしココは穏便に済ませておくか・・・》
「ごめんね、保武原さん。話の要点がよく分からないんだけど良かったら詳しく教えてくれない?」
「ユアルさんのことよ。みんなが通るのにこんな風に居座られたら邪魔じゃない。どいてよ」
そう言いながら保武原さんはユアルが座っている椅子を軽く蹴った。どうやら通路に椅子を置いて座ってるのが気に食わないらしい。
「あら、それはどうもごめんなさい?」
ユアルはサラッと謝ると少しだけ椅子をひいてアイナの席へ寄せた。しかし、保武原さんの意図とは違ったらしく、保武原さんの眉間にどんどんシワが刻まれていく。
「そうじゃないだろ・・・?」
とうとう口調まで変わってしまった。
「では、保武原さん。私にどうしろと仰っているのですか?」
ユアルがゆっくり立ち上がり威圧するように保武原さんを見下ろした。
保武原さんもアイナと同様に背は前から数えた方が早く、このクラスでは二番目に背が低かった。
そして、あまりこういうことは言いたくないのだが・・・その何というか見た目が個性的というか、全世界に数人くらいはどストライクな男性もいるかもしれないというか・・・。平たく言うとぽっちゃり、イヤ、マスコットキャラクター等身とでも言えば良いのか表現するには難しい体型をしていた。
これ以上はちょっと私の性格が疑われそうなのでやめておくが、つまりはそんな感じのクラスメイトだ。対するユアルはクラスで1番背が高く、モデルよりもモデルっぽい上に出るところは出ているという向かう所敵無しな完璧スタイル。2人の対峙は端から見ると人間と地球外生命体のファーストコンタクトと表現するほかない。
断っておくが悪気も悪意もない。
そう表現せざるを得ないだけだ。
「だから、邪魔だって言ってんだよッ!」
「邪魔って・・・通れるじゃないですか?私はあなたの指摘を受けて、それに従い対処しました。今度はあなたがそれに応える番なんじゃないんですか?少しお腹を引っ込めて通るとかやりようはあるでしょ?さすがにあなたの体型の問題まで私になすりつけないでくださいね?」
《コラコラコラコ��コラッ!!》
ユアルと保武原さんのやり取りを悠長に眺めている場合じゃなかった。私は何とか一触即発な雰囲気を変えようと慌てて2人の間に割って入る。
「あ、あの!保武原さん、ごめんねッ?ほら、ユアルももうちょっと椅子をひいてさッ!はい、2人ともスマイルスマイルッ!・・・ね?」
恐る恐る保武原さんを見ると、そこには唇を思いきり噛みしめ目をカッと見開きプルプルと怒りに震えている姿があった。
《これはもしかしてお手上げというヤツなのでは?》
「アンタたちの振る舞いはこの学園にふさわしくないのよッ!!!」
保武原さんがユアルを見上げるのに疲れたのか今度はアイナに視線を移して大声をあげた。教室にいるクラスメイトの視線が一斉にこちらに集まる。
学園にふさわしくない認定された内の1人であるアイナはケタケタ笑いながら机の中からアンパンを出して楽しそうに頬張り始めた。
《アイナはいったい、いくつパンを貰ったんだろ・・・》
教室にいるクラスメイト全員が私たちを注目しているトラブルが起きてるのに私の目はアンパンに釘づけだった。今はそれどころではない状況なのはよく分かっているが、以前から購買部のパンに興味があるのにも関わらず1度も食べたことがなかった私は、正直アイナが羨ましくてたまらなかった。
「たしか、通行の邪魔という話だったと思うのですが、見事に論点が変わってしまいましたね。まぁ、それは一旦置いといて・・・。なるほど、保武原さんはこの学園にふさわしい生徒をご存知なのですね?でしたら、後学のために是非その方を私に紹介してもらえませんか?」
「あ゛?」
「ですから、この学園にふさわしい生徒というモノを学ばせて頂きたいのです。その方が双方のために良いと思いまして。
・・・まさかとは思いますが、だらしない体型のあなた・・・ではないですよね?」
《しまった!!!っていうかそれが言いたかっただけでしょ、ユアル!》
顔を限界まで上げて腕を組み、保武原さんをこれでもかと見下ろすユアルの態度は到底教えを請う姿には見えない。アンパンなんかに気を取られている場合じゃなかった。これは確実に私の失態だ。
《やりすぎ。ただのやりすぎッ》
私の記憶が正しければ、ユアルはさっきアイナにトラブルを起こさないよう注意してたはずなんだけど。
「プッ!!クックックックックッ・・・」
アイナが時間差で突然吹き出した。しかし、よく見るとユアルの発言で笑ったわけではないらしい。どこか一点を見つめたまま笑っている。
《・・・??》
アイナの視線の先を見てみるとどうやら保武原さんの足元に向かっているようだった。誘導されるように私もアイナの視線の先を追う。
《なッッ!?》
すると視線の先からとんでもないモノが飛び込んできた。
保武原さんはユアルに見下されているのが屈辱だったのか、つま先をこれでもかと限界ギリギリまでピンと立てて対抗していたのだ。
《顔を上げてユアルを見上げている時点で面白いんだから、そんなストイックに笑いを追求して限界を超えなくても良いのに》
ふつふつと笑いがこみ上げてくる。
《マズイ、ダメだ。堪えろ。私まで一緒になって笑ったら、終わる・・・》
しかし、笑うなという方が無理があった。
「何がおかしいのよぉ!!??」
保武原さんがアイナの視線に気づいて机に詰め寄ろうとこちらに向かってきた。
私はそのタイミングでユアルを強引に引き離し椅子に座らせる。さらに保武原さんの視界にユアルとアイナが映らない距離まで近づいて保武原さんをなだめた。
「保武原さん!ホントにごめんね?今度から気をつけるからさ!!この2人にもよ~く言い聞かせておくからッ!本当にごめんなさいッ」
「ふぅ!ふぅふぅ・・・フンッ!」
保武原さんの鼻息が私の脚に勢いよくかかる。相当頭にきているらしい。しかし、私の必死の謝罪が功を奏したのか、興奮していた保武原さんの身長が少しずつ低くなっていくのを私は見逃さなかった。
保武原さんに気取られないように一瞬だけ足元を見ると、かかとはしっかり床についている。どうやら保武原さんの戦闘モードが解けたらしい。
「次回から気をつけてよね・・・」
保武原さんはもっと何か言いたげな雰囲気だったが怒りを抑えて自分の席へ戻ってくれた。
何とかこの場を収めることに成功した私は一仕事終えたような充実感に包まれる。そして緊張が解けたせいか、よく考えたらまだ1口も弁当を食べていないことを思い出した。
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【8】2006年6月6日 13:06・教室・大雨。家訓(レン視点)
「はぁー、ユアルのクソ長い説教終わったー」
《アイナ、また何て余計なことを》
「あら?私は知世田先生の声の件はもう追求しないと言っただけで他の件についてはまだまだ話があるのよ、アイナ?」
「まだ何かあんのかよー・・・」
アイナが椅子の背もたれに全体重をかけながら寄りかかると顔を背けて今度はアンパンを食べ始めた。
「アイナ、今の言動もそうだけどあなたの教師に対する態度は目に余るモノがあるわ」
「やっぱりそういう話なるよね。今日の角刈り・・・じゃなくて知世田先生への態度はさすがにちょっと酷かったと思う。
あれじゃ『目をつけてください』って言ってるようなもんだよ、アイナ」
ココは残念ながら私もユアルに加勢せざるを得ない。
「んだよー!レンはユアルの味方かよッ」
「レンが言ってるのはそういうことじゃないでしょ?仮にこのままアイナの悪態が続いたとして教師たちに目をつけられたらどうなると思っているの?」
「・・・もう既に目をつけられてるかもしれないけどね」
私はそれとなくつぶやいてみた。
「レン、言いたいことがあるなら、オレの目を見て言えよな?」
「エヘヘへ、特に無いよ?」
「アイナ、今は私の話にだけ集中しなさい」
「ケッ・・・」
「話を戻すけど、目をつけられたアイナが教師の間で話題になり尚も悪態が続いた場合、考えられる未来は2つ。1つ目は教師たちのアイナに対するイメージが地の底まで落ちて成績など正当に評価してもらえなくなること」
「望むところだよ、���カヤロウ」
《ロックだなぁ。言葉の使い方あってるのか分からない上に真面目に話をしているユアルの前でこんなこと口に出して言えないけど、ロックだなぁ》
「正当に評価してもらえない程度で済めばまだマシ。アイナがどう評価されようが私やレンには関係ないから。大問題なのは2つ目。悪態続きのアイナに教師たちの注意もむなしく改善が見られない場合、教師たちがレンのお祖父様に直接連絡をする可能性があるということ。
私とレンが危惧しているのはソレよ、アイナ。あなただってそれがどういう意味なのかくらい分かっているでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」
さすがのアイナも黙ってしまった。頭のどこかで気をつけていたとは思うけど最近のアイナの言動はちょっと見過ごすことができないレベルになっていた。特にあの角刈りモアイについては先程のように日に日に悪態がエスカレートしていた。
本人からしたら悪態ギリギリ手前のスリルを楽しんでいたのかもしれないが私やユアルに言わせれば余裕でアウトだった。膨張し続ける風船がいつか破裂するようにいずれ取り返しのつかない問題に発展するのは目に見えていた。
今日はそれを正す良い機会だったのかもしれない。
「わーーったよ!注意すりゃ良いんだろ?」
「『ユアルさん、分かりました。今後注意します』・・・でしょ?」
「ウゼェ」
「まぁまぁユアル、今日はこのくらいで良いじゃない?言葉も少しずつ改善していけば、ね?アイナ?」
「フン!!」
アイナも環境が変わって数ヶ月、色々とストレスが溜まっているのかもしれない。
と、まぁこんな感じで繰り広げられている私たちの会話は部外者から見るとまったく意味不明に思えるかもしれないが、これにはちょっとした深いワケがあった。
「さて、じゃあ今度こそ気を取り直して3人で弁当食べよ?・・・んん??」
「レン?どうしました?」
「イヤ、アイナ。ユアルが作ってくれた弁当は?」
何故、今になって気づいたのか自分でも不思議だが、さっきからアイナは購買部で売ってるパンやらジュースを口にしている。さらに思い返してみるとココ数日アイナは昼食やそれ以外でパンやジュースを当たり前のように飲み食いしていたような気がする。
それの何が問題なのかという話なってくるのだが、そもそも私の家には小遣いという制度がなくお金を持たせてもらっていない。その代わり欲しい物は余程おかしなモノや低俗なモノでなければ購入してもらえる。
去年、『見聞を広げてこれからIT社会に対応するため』という何となくな名目でノートパソコンを購入してもらいネット環境も導入してもらったこともあり、ちゃんとした理由があれば値段など気にせず買ってもらえるのだが、逆に間食用のパンやらお菓子などは一切買って食べたことがなかった。
なので、下校途中に友だちと自由に寄り道や買い食いしたりという経験も今の今までしたことがない。で、そんな小遣い制度がない我が家のルールをかいくぐって、当たり前のようにアイナは菓子パンやらジュースを飲み食いしているという不思議な状況が目の前で起きているのだ。
「弁当?そんな���ノ午前中に食べちまったよ」
「『お弁当ですか?それなら午前中に食べてしまいました』・・・でしょ?」
「うるせーな」
「じゃ、じゃあ、そのパンとかジュースってどうしたの?」
話が変な方向に飛んでいく前にアイナに問い詰める。まさかとは思うけど盗んだりなんてしていたら、それこそ角刈りモアイへの悪態とか比べモノにならないくらいヤバイ。
「んー?貰ったー」
「「 貰 っ た ??」」
私とユアルの声がシンクロする。
「貰ったって、誰から貰ったの・・・?」
「さぁ?知らないヤツだった」
「『 知 ら な い 人 か  ら 貰 っ た 』?それ本当なの、アイナ?」
「な、何だよ・・・?」
私はアイナの顔に自分の顔を目一杯近づけて確認した。
『他人に恩を売られるな』
この言葉はお祖父様の口癖であり、西冥家の家訓でもある。
要するに相手の素性がはっきり分からない場合、ならず者や闇社会の人間である可能性も捨てきれないので、変な恩を売られてしまうと
後々面倒なことになるという意味で、私も年齢を重ねるうちに色々と言葉の真意に気づいてきたところだ。そんな家訓を打ち立ててしまうくらいなので我が家では他人からの施しを一切受けないように教育される。
同居を始めて数ヶ月、私は時折我が家のルールをアイナに教えてきたつもりだしアイナもそれを理解しているはずだった。
「ちょっとアイナッ!知らない人に勝手に恩を売られないでよッ!!」
今度はまたとんでもない問題を持ってきてくれたとさすがに私も声を荒げてしまう。貰ったときの状況は知らないが、学園の生徒に物乞いなんて真似をしてるのがバレたらお祖父様になんて説明すれば良いのか・・・。
《あーー気絶しそう。まだ1口も食べてないけど、弁当どころじゃない・・ ・》
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【7】2006年6月6日 12:50・教室・大雨。お説教(レン視点)
キーンコーンカーンコーン。
「ハイッ!日直ゴウレイッ!!」
「起立ー・・・、礼ー・・・!」
《やっと終わった・・・》
今回はいつもと少し状況が違ってあまりストレスを感じなかったとはいえ、倫理の終了を告げるチャイムはやはり何度聞いても心が救われる。
角刈りモアイは何を思ったのか声がかすれているというのに声量フルパワーで授業をし続けた。そのせいで、先程の日直への指示のときには小人が叫んでいるのかと思うくらい声がカスカスになってしまっていた。
《どうかそのままの声量でいてほしい。・・・是非ともお願いします》
机に広げている教科書やノートを片づけていると廊下で角刈りモアイとアイナが会話している姿が見えた。
《やっぱり怒られてるよなぁ・・・きっと・・・》
苦笑いを浮かべる。
《あぁ、そうだ・・・》
私は昼食の前にトイレをすませておこうと席を立ち教室を出た。
廊下に出て角刈りモアイとアイナの横を通りながら聞き耳を立ててみる。
ほんの少しでも会話の内容を聞こうとしたが、角刈りモアイの声があまりにもかすれているのでまったく聞き取れない。
「え?あ、はい。え?あ、はい・・・」
アイナは分かって返事をしているのかそれともまだ煽っているのか、どちらともつかない態度で角刈りモアイと会話をしている。
私は盗み聞きを諦めてそのままトイレへ向かうことにした。
数分後、トイレから教室に戻るとユアルがアイナの席で説教をしている姿が見えた。ユアルの説教を面倒くさそうに聞き流すアイナの様子が教室の入口からでも見て取れる。
私はカバンから弁当を取り出すとそのままアイナの席に向かった。
アイナの前に座っているクラスメイトは昼休みは学食なので座っても良いという許可を貰っており、お言葉に甘えて座らせてもらっている。最近は今日みたいな土砂降りが続いているので仕方なく教室で食べているが、そもそも昼食は中庭とか屋上で食べていることが多い。
こういうところも梅雨が嫌いなポイントして乗算されていく。単純な加算なんかでは足りない。
ホントに嫌いだ、梅雨。
私はアイナの席の前に座ると弁当を広げながらユアルのありがたいお説教を聞いていた。
「アイナ、あれほど宿題しなさいって昨日の夜言ったでしょ?」
「んーー?そーだっけー・・・?」
何でもアイナとユアルはつきあいが長いらしい。幼馴染みみたいな関係なんだろうか?
「毎回先生に怒られるのが分かっているのにどうして宿題をしないの?」
「うーん、テレビが面白いから?」
アイナはユアルと視線を合わさず答える。
「そう・・・。じゃあ、レンに頼んでテレビを撤去してもらうのが良いみたいね。どうです、レン?」
ユアルが突然私に判断を委ねてきた。
「あ、ユアル、それ困るかも。結構、ニュースとか見てるし・・・」
私は慌ててユアルの案をやんわり却下した。
「レンがそう言うのであれば仕方ないですね。では、アイナだけテレビ視聴禁止というルールを設けたいのですが、いかがですか?」
ユアルは基本的にアイナに対してのみタメ口でそれ以外の人には敬語で接している。
「ってユアルさんが立ちっぱなしで仰ってますよ!アイナ!」
「ほっとけほっとけ」
「・・・・・・・・・」
アイナの言葉を受けてユアルの視線に殺意がこもるのが分かった。高身長から繰り出される殺意のこもった視線というのは当事者でなくても心臓に悪い。ユアルとアイナの間にそこはかとなくマズイ雰囲気が漂い始める。
「つーかさー、大昔の思想家なんか学んでいったい何の足しになんの?」
《おッ!まさか私の疑問を何の恥じらいもなくストレートにぶちまけてくれる猛者が現れるなんてッ!ちょっと感動した。そしてユアルの答えが気になる》
「それを言うならこの学園に通うこと自体やめるべきなんじゃない?他の国がどうかは知らないけど、この国の高校は義務教育ではないんだから通うのが嫌なら退学すれば良いだけの単純な話よ」
《ですよねー。何と辛辣な正論・・・》
「じゃあ、やめたいでーす。勉強したくないでーす」
《ちょッ!アイナ!?》
さらに喧嘩をふっかけにいくアイナに対してユアルは顔の角度を上げてアイナを見下ろしながら言い返す。
「まぁ、この学園の生徒は大学受験や就職なんて『あまり関係のない』ということは念頭に置きつつ・・・。高校生にとって勉強はより良い大学へ行き高給な仕事を得るための手段としてしか価値はないと思うわ。それにさっきも言ったけど高校は義務教育じゃない。繰り返すようだけど辞めたければ辞めればいいのよ。コネさえあれば就職なんてどうとでもなるのはどの世界、どの業種でも同じことでしょ?
《たしかに・・・》
「それに中卒でも立派な人はいるってアイナのだーい好きなテレビでこの前特集されてたこともあったわね。なるほど、人生は千差万別だし中卒でも別に問題はないのかもしれない。優良企業に勤めているからと言って生涯の幸せが約束されるわけではないものね・・・」
「そこまで分かってんなら勉強なんてやる必要ねーだろ」
「いいえ。勉強の価値をコネが上回ると認めた上で、アイナと私はこの学園に通わないといけないと断言するわ」
「は?どーして?」
「どうして?アイナ、レンのお祖父様との『約束』まさか忘れたわけじゃないでしょ?私たちには他の生徒たちと違って通うことがある意味義務化されている。そして通う以上、勉学に励む義務もまた・・・ね?」
「・・・チッ」
ユアル先生の迫力ある効果絶大なお言葉がアイナの胸にグサグサ刺さっているのか、舌打ちしながらアイナは目をつむってジュースを飲み始めた。その表情には不満がこれでもかと滲み出ている。
《右に出る者がいないくらいお手本のようなふてぶてしさ・・・》
「アイナ、この学園に通う者として舌打ちはまずいんじゃない?」
《ユアル、いちいち追い打ちしなくても》
「うるせー」
「ところでアイナ、知世田先生の声がかすれるように仕向けたのはわざとかしら?」
「はー?何のこと?」
《やっぱりユアルは鋭いな》
アイナの目が開いてようやくユアルと視線をあわせた。
が、互いの顔がどんどん険しくなりマズイ雰囲気に拍車がかかる。
「とぼけないで。レンの隣でのつぶやき、ちゃんと聞こえてたわよ?」
《聞こえてたんだ。どんな地獄耳してんだ》
私は弁当の蓋を開けながら驚きのあまりユアルの顔を見上げた。
《というか、このまま険悪なムードを長引かせるのはマズイ。何とかしなくちゃ、えーっと》
「あ、そうだッ!ほら、ユアル!立ちっぱなしもシンドイでしょ?ちょっと待っててね!」
私は急いで自分の席から椅子を運んできた。
「あぁ、レン。ごめんなさい、そんな重い物を持たせてしまって」
「良いから、ほらほらッ!座る座る!」
私はユアルの肩を掴んで半ば強制的にユアルを座らせた。これで少し話題を変えればミッションクリア・・・の、はずだったのだが、私の考えは甘かったらしい。
「そもそもオレが角刈りモアイの声を飛ばしたっていう証拠はあるのかよ?」
アイナが話を蒸し返し反撃に出た。
「なるほど、たしかにそうね。それじゃ知世田先生の声に関してこれ以上の追求はやめるわ」
《ホッ・・・》
ユアルは大人な対応で流してくれた。
でも、たしかにアイナはただ宿題を忘れただけだし、その都度死ぬほど叫んでいたのは角刈りモアイだから結局は自爆した感じも否めないかもしれない。これ以上責めようは無いと言えば無かった。
「じゃ、話はこれで終わりということでみんな揃ったことだし弁当食べようか・・・?って、あれ?」
「ええ、そうですね、レン。」
ユアルはどこから出したのか既に弁当を用意して食べ始めていた。
《いったい、いつの間に?》
呆気にとられた私はしばらくユアルを見つめていた。
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masachuss · 3 years
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ハラヘリヴィーナス 【6】2006年6月6日 12:28・教室・大雨。ユアル(レン視点)
《あれ・・・?》
角刈りモアイが教室を出ていってどれくらい経っただろうか?
私は時計を見ようと顔をあげるとユアルが鬼みたいな形相でこちらを見ているのに気づいた。
ユアルの席は私の席から右斜め方向に少し離れたところにあるのだが、顔半分振り向きこちらを睨んでいる。正確には私ではなく2つ後ろの席のアイナを睨んでいるのだろう、ユアルと視線が合わない。
ただ、あまりの迫力に少しだけ心臓の鼓動が早くなった。このユアルというクラスメイトもまたアイナ同様、私の同居人で家では家事全般を担ってくれている。
アイナとは対照的にクラスで1番背が高いユアルは容姿とスタイルの良さから学年1位と言っても過言ではない美貌の持ち主だ。初めてユアルに会った人は必ずと言って良いほどモデルだと思ってしまうらしい。
まぁ、あれだけスラッと伸びた手足と整った顔が目の前に現れたら、そう勘違いするのも無理もない。しかも出るところはしっかり出ているというチートボディ。
ユアルの前に立つと嫉妬すること自体、愚かな行為だと本能的に理解させられてしまう者が多いと思う。私を含めて・・・。
アイナはアイナで背が低いだけでこちらもユアルに負けず劣らずの可愛さだ。・・・喋らなければという条件つきだけど。で、そのお美しいユアルが鬼の形相でアイナを睨んでいる。表情からは『あとで説教してやる!!』という熱い思いが読み取れた。
ユアルは性格もアイナとは相反する所が多く分かりやすく言うと真面目な優等生だ。
個人的な感情からすると角刈りモアイの声飛びはメチャクチャ面白かったが、もしホントにあれがアイナの計画通りならユアルが怒るのも仕方ない。
何故なら変にトラブルを大きくして職員会議なんかにかけられ、アイナの所業がお祖父様(おじいさま)の耳にでも入ろうものならマズイという一言では到底片付けられない状況に陥ってしまうからだ。
それだけは何としても避けたい。
いや、避けなければならない。
《たぶんユアルもそれを理解しているからこそあんなに怒ってるんだろうな・・・》
少しでも喜んでしまった自分の甘さを今になって恥じる。
結局、角刈りモアイが教室に戻ってきたのは残り時間10分くらいになってからだった。
かすれにかすれた声を振り絞った説明を聞いた限りでは、水を飲んだりノド用の薬用スプレーやのど飴を試したらしいが効果はなかったらしい。
そのおかげでだいぶ授業を削ってくれて個人的には嬉しかった。
それに角刈りモアイの声がいつもと違ってかすれているためまったく威圧感がなく、私は初めて倫理を授業として普通に受けることができたと思った。できれば毎回これくらいの声量でお願いしたいほどスムーズだった。
そうすれば紀元前の妄想家たちの話をもう少し楽しく聞けるかもしれない。
・・・ただやはり残念ながら最悪な科目であることに変わりはないけど。
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