第44回 『台北市動物園』
台北に行ったらメトロで動物園へ
いつ行っても穏やかな暖かい台湾は、のんびりして食事もうまいし、足つぼマッサージも手軽で廉いし、絶好の観光地である。今回は、メトロに乗ってまだ訪問していなかったアジアで指折りの規模である動物園に行ってみた。
動物園駅を下車してエスカレータで降りると、待合せなのか、見物客がたむろしていた。動物園入口までの歩道には、動物たちの足跡がいく種類も点々とレリーフで並んでいた。形がずいぶん違ったり大小それぞれ異なっていたりおもしろい。早く入って足跡の主をみたくなる。一般客は60元、日本円換算約120円で入場券を買って園内に入る。
まず、入口で日本語版の園内地図を選んでもらい、最初に入るパンダ館参観券を一緒にもらった。切符には入場時間が指定されていて、混む時には並んで待たないと見られないこともあるらしい。今回はすぐに入れた。
パンダは中国から2008年12月に、オスの團團とメスの圓圓のつがいを寄贈されたもの。そして2013年7月6日には人工授精でメスの赤ちゃんが生まれている。
立派な建物のなかにパンダはいた。館内は歩きながらゆっくり見られるようなスロープになっていたが、休日だからか家族連れで混んでいた。そして大きなガラス張りの洒落た展示場のなか、パンダは少し離れたところにじっとしていて、客のそばにはなかなか来てくれない、こちらに向いてもくれない。だから、愛らしい姿も見えず、カメラにも撮りにくく、何枚も撮ってみたが、残念ながらいい写真にはならなかった。
アジア屈指の動物園
この動物園はアジア最大だそうで、東京ディズニーランド2個分の面積がある。展示種類も360種、2300点もいるという。休日なので人も多く、せっかく来たのに見たいものが見られないのは残念だから、つい急ぎ足になる。
ところが園内バスが何台も巡回していて、5元出せば子どもも大人も乗れて、奥の方まで連れて行ってくれる。おとぎの国のバスのように車体は可愛らしく飾ら���ていて、休日でお客さんがたくさんいてしばらく並んで待つほど人気だった。
終点で下車すると、コンクリの塀に囲まれた木のうえに静かに寝そべってグリーンイグアナが4匹太陽に当たっていた。怖い顔をしていて背中に並ぶトゲ状の突起物がタテガミのように見える。けれど、よく見てみると草食系でおとなしそうな眼をしている。じっとしてあまり動かなかったけれど、めったにお目にかかれないからしばらく眺めていた。
この近くに両生・爬虫類館があった。カエルは日本でもなじみでかわいらしいけれども、珍しい真ッ黄色のカエルがいて目を見張る。表情もなかなか愛嬌があって、仲間同士活き活きしていてかわいらしくさえある。
この部屋にはヘビやトカゲなどたくさんの種類が展示されていて、見るだけで疲れてしまうほどいた。正直いってそう好きな生きものでないけれど、ガラスの向うにいるからじっとよく見てみると、怖いようでもあるが、なかには愛嬌のある顔をしているものもある。
1点1点丁寧に見るほど長居すべきところとはどうしても思えないから、ちらっと見てはとなりのガラス窓の部屋へと移動して、両生・爬虫類館から出てきた。でもけっこうな時間を費やしていたようだ。
じっくりモウコノウマを眺める
馬はなんども見ているが、いろいろ種類があって、蒙古の馬というのがいるとは聞いていたが、なかなかじかに見ることがなかった。日本のあちこちの動物園にもいるけれどもうまく見られなかったが、ここでゆっくり見ることができた。
競馬馬に比べるとずっと小ぶりで農耕馬のようにどっしりとして、一昔のまえのもの静かな種類の馬のような感じで、親しみやすく馴染める感じがした。
向かいに足を運ぶと、谷間のような景色の向うにアメリカバイソンがゆったり群れをなして歩いている。太い重そうな角を生やして体も大きいが、ウシの仲間の草食性でおとなしい。まさに自然のなかの野生種のように見えるけれど、実のところこのバイソンは野生種がほぼいなくなってしまったそうだ。20世紀はじめには世界で500頭ほどしかいなくなり、目下のところ世界各地の動物園が保護して、絶滅を防いでいる現状であるという。
動物園では、かわいい動物の子どもを増やしたり育てたりして、世界の生きもののバランスを崩さないよう、目に見えない努力を積み重ねているのである。
オリのなかのチンパンジーと記念撮影?
さて、その向かいはチンパンジーのコーナーである。この写真はオリに入って記念撮影と洒落こんでみた?わけではない。チンパンジーがオリから手を出しているようにリアルに造ったブロンズ像なのである。入場者への記念撮影用の園のサービスであるようだ。
「ほんもののチンパンジーと仲良く写っているように見えるでしょう?」
けれども、ほんものはちゃんとオリのなかにいて、静かに物思いにふけっているような気取ったポーズをしていた。なかなか愛嬌があって、下あごに白く生やしたヒゲがなんともお洒落で、ヒトとあまり変わらない知的な表情をしている。
ことばはしゃべらないが記憶力はけっこう確かで、ヒトとのやりとりを覚えているようである。例えばカメラを向けると、得意のポーズをするものもいる。
世界に広く分布し、食生活もヒトと似ていて、甘い果物が好物で菜食もし、昆虫や卵も好み、さらには集団で狩りをして動物の肉も食べるのである。
となりのコーナーではお客さんがケータイで写真を撮っていた。同じヒヒの仲間で、アヌビスヒヒと書いてあった。日本の動物園にはあまり見かけない種のようだが、カメラを前にしてじっとポーズしてサービスする健気なサルである。
「東非ヒヒ」とあり、OliveBaboonと英語で書いてあった。サルの仲間とは姿を見ればわかるが、どんな生き方をしているのか。草原で群れをなして生活し、あまり樹のないところ小石まじりの丘に住み、まれには木に登ったりする。オスは他のオスと戦ってメスを得て性交し子孫を増やす、と簡単な説明がしてあった。
サイもカバもたくさんあちこちに
シロサイが近い場所2か所に別れてたくさんいた。仲間どうしで遊んでいるのか角突き合わせているのか、仲間が何頭もいる動物園は珍しい。オス同士でメスの取り合いでもしているのか。
いくつかの動物園でサイを見てきたが、だいたい1~2頭で、退屈そうに水辺で水を浴びたり、横になって寝ていたりしていた。ここのサイはゆったりではあるがよく活動している。
何頭いるのか調べてないが、別のところにいたシロサイは、仲間から離れて散らかっているフンを検証しているようだ。サイは眼があまりよくないが、聴覚や臭覚はすぐれているので、仲間や家族のようすを散らばったフンから感じ取ってでもいるのだろうか。
こんな巨体のサイも、角が高く売れるというのでヒトに襲われて、悲しいことに絶滅の危機にさらされており、いまや地球上で2000頭ほどになってしまっている。
ここにはカバも数頭いた。カバは河馬と台湾では書くが、日本語でもおなじだ。身体が大きくて丸っこいのに泳ぎがすばらしくうまい。イヌは首だけ出してイヌカキで泳ぐけれど、カバの泳ぎはけっこう潜って泳ぐし、カバカキというのだろうか、子どもたちがその泳ぎを食い入るように眺めていた。水上に上がって顔を出すと、鼻の穴を大きく広げて呼吸をする、そのとき水しぶきが勢いよく飛んでくるのがおもしろい見ものであった。ガラスの囲いでしぶきは飛んで来ないから安心して見物できる。
この池のとなりのコンクリートの庭では、池で泳いでいない親子のカバがゆったりと日を浴びて、エサでも探しているのか散歩していた。
キリンとシマウマが同居して
かなり広いコーナーの遠くにキリンが見えた。その同じ区画にシマウマも一緒にいた。いつも同じコーナーにいるからだろうか、お互い素知らぬ顔でじゃれ合いも遊びもしない。双方草食性でおとなしく、追いかけて襲ったりもせず、興味なさそうな感じだ。ケンカするようでは一緒に飼育できはしないけれど。
そのてまえにシマウマが団体でいた。どうしてこんなにたくさんいるのか。初めて目にする光景である。
何頭もきれいに背中を並べて群れているようすを上から眺めると、じつに壮観である。じっとしてあまり激しく動かないから体の模様が幾重にも重なって、珍しい美しい幾何学的な模様になる。のぞきカラクリメガネとか抽象画とかを見ているような錯覚に陥る。
日本や世界に数多く動物園はあるが、こんなにたくさんシマウマやサイやカバがいるのは珍しい。この台北動物園ならではの見ものかもしれない。台北に足を向けた折りには、ぜひこの動物園に足を運んでみてはいかがか。
動物園で漢字のお勉強
この動物園にはラクダが2種、ヒトコブラクダとフタコブラクダと柵を隔ててほぼ一緒にいて、それらの大き��が違うのがよくわかる。日本人の場合「月の砂漠」の歌のイメージから、ラクダはフタコブに決まっていると思っている人が多いはずだが、フタコブラクダは、荷物を運搬したり人が乗ったり、乳を搾ったり毛織物の材料にしたり、家畜用に育てたもののようだ。
コアラが樹のうえで寝ていた。夜行性の生きものだから昼間は寝ている時間が長い。時々は動くけれど、近くでなでたり触ったりはできないから、長居してもおもしろくはない。かわいいけれども、つぎに行こう。
ゾウ舎だ、ここにはアフリカゾウがいた。こことは別のところにアジアゾウのコーナーもある。アフリカゾウはアジアゾウに比べると気が荒いが、遠くにいるから大きさがあまり実感できず、眺めているだけでは怖いとは思わない。ある動物園のゾウはストレスがたまっていたのか、長い鼻で観客に向けて水鉄砲のように振り撒いていたこともある。
この柵には、ゾウの漢字「象」の変遷が掲示されていた。甲骨文字・金文・小篆・隷書の書体が並んでいた。小学生のお勉強にはちょうどいい。むしろ大人も甲骨文字になると分からない人が大半だろう。漢字だから日本人でもよくわかって勉強になる。
そろそろくたびれてきたので帰り路につこうと歩いていくと、大きな箱があった。これはゾウの引っ越しに使った箱であった。
説明板によると、もと台北市内の北にあった動物園から、いまの動物園に引っ越しした時に使ったものだという。外から見ても感じはつかめるが、なかに入ってみると、いかにゾウが大きいかまざまざと実感できるのがおもしろい。
嫌がる大きなゾウをこの箱に追い込むのはたいへんな苦労があったろう。入れたあとここまで運んでくるのも大仕事であったことだろう。
この動物園はとても広く、ほかにもアジア熱帯雨林区、台湾動物区、子ども動物区、虫の谷、鳥園など1日ではとても全部は見切れないほど充実している。今回はざっと半分ほど見たろうか。なかなかすばらしい動物園であることを確認したので、また来てみたいと思いながら帰途についた。
(磯辺 太郎)
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第29回 『広島市安佐(あさ)動物公園』
ひろびろとした安佐の高台に
広島の街は、山から流れてきた川が運んだ土砂でできた三角州の街です。太田川ほかデルタ6川が流れていて、橋がたくさん架かっています。維新後の日清戦争のころには、明治天皇の行在所(あんざいしょ)があり、広島大本営もあって、帝国議会が開かれたそうです。
広島市安佐動物公園に行くには、広島駅前から広島電鉄のバスに乗って約1時間かかります。朝早くからバスはあり、8時から14時過ぎまでの間は1時間に3~4本あるので便利です。街の北部をゆったりとバスは走り、郊外の高台にある動物園に到着しました。
入口には休日のせいか、国外からの入園者がちらほら見られます。入園料は大人510円、子供と65歳以上の大人170円。
ここには約150種1650点の動物がいて、公園全体では約51ha、動物のいる観覧部分25.6haと、まずまずの規模で、順路をくまなく歩けば3.2kmにもなります。
園内に入ると正面にサルが、やや小さめなヒヒ山にいました。アヌビスヒヒとあり、サバンナヒヒ、ドグエラヒヒとも呼ばれて、アフリカ中央部に広く分布しています。夫婦なのか睦まじく毛づくろいしたり、暑いためかゴロンと無防備にしばらく仰向けに寝ていたりするヒヒもいました。ヒヒにとって動物園は平和な世界なのでしょう。
野生のアヌビスヒヒの群れは強いリーダーに率いられ、秩序ある社会構造をもっています。体長60~80cm 、体重15~30㎏と小柄ながら、ヒョウやチーター、ライオンなどに狙われると、鋭い犬歯をもっていて噛みついて追い払うことも間々あるといいます。同じサルの仲間チンパンジーにも襲われることがあるそうです。
のびのびとした動物公園
ヒヒ山のとなりは水辺になっていて、ペリカンとフラミンゴがいました。ベニイロフラミンゴは鮮やかな色で目立ちます。1本足で立っているもの、2本足で立っているもの、いろいろです。なかには急に暑くなったためか、たくさんのフラミンゴが脚を折って地べたに横たわっていました。珍しいようすなのでカメラにおさめてみました。
そばに動物科学館があり、なかに入ると正面にインドゾウの骨格標本が並んでいました。動物のからだと暮らしについて、楽しみながら学習できるよういろいろな装置があるほか、ビデオや動物に関する図書がいっぱいあります。
カウンターには本園発行の冊子「すづくり」が置いてあり、無料で提供されます。第46巻にもなっています。ここには動物園の最新ニュースや飼育こぼればなし、動物写真コンクール入賞作品展などが掲載されていました。なかなかすばらしい作品があり、見て楽しいし勉強にもなります。飼育員さんや担当獣医さんの汗の結晶です。また、少し古くなりましたが、「すづくり 臨時増刊号 開園20周年記念誌」(1992年3月発行)も販売されています。
広々とした半分砂地で半分が緑地の景色が目に入ってきました。何もいないのかと���を凝らすと、砂地の木陰にぽつんとシマウマが1頭はなれていました。緑地にはなにもいません。だらだら道を降りていくと、数頭のキリンが長い首を傾けてエサを食べていました。
そこは「キリンテラス」になっていて、キリンは一段低いところのエサ場や小屋にいて、いわば入園者とキリンとが同じ目線で「お話」できるような設計になっていました。このキリンテラスは遊歩道と同じ高さで、わざわざ階段を上らなくても入園者は長い首のキリンの目の位置と平行な目線になります。入園者にとってうれしい設計です。
キリン舎のとなりにはシマウマの鉄筋ハウスがあって、たくさんのシマウマが仲よく群れています。その向こうに、さきに見たサバンナテラスの砂地の遊び場が広がっています。砂地と緑地の境目には岩が積み上げられていて、行き来できないようになっています。
この動物公園では、できるだけ柵やオリを目立たなくして、入園者にごく自然な動物のすがたを見せるさまざまな工夫をこらしているといいます。
アフリカゾウの種類には…
キリンの向かいにアフリカゾウがのそのそと歩いていました。2頭しか見えなかったけれど、タカ(オス)、アイ(メス)、メイ(メス)と3頭いると掲示板にありました。
ゾウの種類は、アフリカゾウとアジアゾウの2種だと思っていたら、アフリカゾウには、サバンナゾウとマルミミゾウとに分けられると説明にあります。
タカとメイがはじめいたのですが、ミトコンドリアの遺伝子調査でメイがマルミミゾウで別種であることがわかったため、この2頭のあいだには子供ができないことが判明しました。そこで、群馬サファリパークからメスのサバンナゾウ・アイを2011年11月に迎えたと、ゾウ舎のまえの掲示板に書いてありました。
また、ゾウは人を見分ける能力をもっていて、いつもエサをくれたり世話をしてくれたりする人には甘えたり指示に従ったりするいっぽう、ゾウ狩りをする人を見つけると覚えていて、攻撃的になって襲ったりするそうです。
さらに鼻の先には突起した指のような部分があって、仁丹のような細かいものや豆腐のような壊れやすいものを上手につかむそうです。足の裏の繊細さや低周波の音をとらえるなど、ヒトと違った特殊な才能がいろいろあります。動物園に来たらそういう場面に出遭ってみたいですね。注意して見ていればきっと出遭うことでしょう。
ピーチクパークであそぼうよ!
その先を歩いていくと、いかにも楽しそうな門の入口がありました。子供たちのお気に入り、カラフルな鳥類のインコやクジャクがいます。小さなリスさんやペンギンさん、カメさんがいます。ウサギもヤギもヒツジもいます。乗馬体験のできるポニーもいます。
そしてなにより子供たちがうれしがる、水遊びができる細長い池がありました。靴もクツシタも脱いで素足でバシャバシャ騒ごうよ、お日さまも暖かく、風邪は引かないでしょう。ここで遊んでいると、いくら時間があっても足りません。まだ閉園になるまでたっぷり時間はありますから、だいじょうぶ。一緒に遊んで騒ぐにはちょっと気恥ずかしいので、売店で買ったソフトクリームをなめながら、彼ら彼女らを目で追って、一緒に遊んだつもりで、先に足を運びましょう。
お日さまを浴びて喜ぶミーアチャット
さてどう廻ろうか迷いましたが、クロサイがおもしろい形で寝ているのに出会いました。だいたい昼間は水辺で水浴びしたり、木陰で居眠りしたりするのが習性のようです。
環境破壊や乱獲のため少なくなり、一時期3000頭以下になってしまいましたが、その後少しずつ増え2013年には約5000頭にまでになったそうです。
サイのとなりには、頭に湯上りのタオルを乗せたような、やっぱり横になったものが並んで休んでいました。アフリカスイギュウとあります。遠くにいたので望遠でのぞいてみると、頭の上の白いものは、ツノのようです。怖そうな顔をしていますが、珍しいおもしろい形なのでじっと見てしまいました。
スイギュウは、昼間は水浴びしたり泥浴びしたりしています。薄暗くなってから活動したり食事をしたりします。野生のスイギュウは草原で100頭以上が群れをつくって生息しています。外敵に襲われて、いざというときに、この角で応戦するのだそうです。
さて先に進むと、いかにものびのびとして無防備な格好して寝ているものがいました。ミーアキャットです。2本足でヒトのように背筋を伸ばしてまっすぐに立つ格好がおもしろく、目がくりくりしてかわいらしい顔が印象深く、こんな格好して寝ていると、別のもののようです。1匹くらいは起きて得意の立ち姿を見せてほしいものです。
「うるさいな、いまは貴重なお日さまにあたって、日向ぼっこの真最中なの! かんべんしてよ、寒さに弱いんだからさ!」
野生種はアフリカ南部に生息し、からだも小さくかわいい顔をしているのですが、なんとサソリや爬虫類や鳥類を食べる雑食のけっこう獰猛な生きものなのです。かわいい顔にひかれてペットとして飼われているようですが、狂犬病を仲介するので要注意! です。
エサをもらいに立ち上がるライオン
「いまからライオン舎では、エサやりをしますので、至急お集まりください」
園内放送が流れ、ライオンのエサやりに入園者を誘います。園内ガイドマップを広げて、急な道を急ぎ足で駆け付けると、すでに先客でいっぱいでした。
台のうえに乗った飼育係りのお兄さんが、ライオンの頭部の骨格を手にもって、鋭い牙で肉をかみ砕くようすを、下あごと上あごを嚙み合わせて説明しています。そのあと、
「オリに入って、これからじっさいにエサをあげますから、みなさん、見ていてください。ライオンが立ってエサをくわえます。迫力がありますよ、大きいのがよくわかります」
と、オリに入っていきました。大丈夫かなと心配していると、ライオンが入れないように なっている手前のオリに入り、はしごを上り高いところにある窓から与えるのでした。
ライオンは立ち上がって、大きな肉の塊をくわえると、そそくさとお客の前から遠ざかって奥のほうで咀嚼しています。立ち上がるライオンはさすがに大きく、迫力満点、百獣の王の貫録がありました。めったに見られない姿ですから、動物園に行かれる場合には、ぜひ、その時間にあたるようお勧めします。
「おーい、そんなほうに行かないで、せっかくだから、みんなのまえで食べてくれよ」
と飼育員のお兄さんが呼びかけてくれますが、素知らぬ顔をしてライオンは、観客にはよく見えない居心地がいい奥のほうにくわえていって食べていました。3回ともくわえて行きました。たくさんの観客のまえではご馳走も安心して食えないのでしょう。自分の気に入った場所で食べるのがいちばんと、ライオンはいっているのでしょう。
でも、観客としてはパンダのように、目のまえで堂々と食べてほしかったですね。
ライオン舎のとなりには、トラやヒョウが並んでいましたが、やっぱり寝ているばかりで、残念ながら生きている野生の動物らしい姿には会えませんでした。
花ざかりには動物公園へどうぞ
さて、広い園内には150種の動物がいますから、全部を1日で見切るのは大急ぎになります。ちょっと休んで目を遠くにやれば、さまざまな緑に囲まれて色鮮やかな花々が美しく咲いて微笑んでくれます。
園内の緑あふれる道を散歩する楽しみもいっしょに味わってみてはいかがでしょうか。サクラ、ツツジ、フジなど花の時期には咲き乱れます。そうすれば相乗効果で、より豊かなすがたの動物たちにも会えるかもしれません?
さて散歩のさきには、フタコブラクダが脚を折って憩っていました。背中にお客さんを乗せて周回しなくていいので、エサを食べてゆっくり休養しているのでしょう。家畜にとって、動物園は安心して生きのびられる楽園なのでしょうか。
そのとなりにはマレーバクの親子がいました。子供のバクは池に入っておお喜び。泳ぐというより水のなかをバシャバシャ歩いている感じで、長い鼻の奥にある目がクリッとしてかわいらしく、お腹から腰にかけての白い毛が鮮明です。
親のバクは元気にあちこち散歩しながらエサを探し回って、べつに子供をかまうわけでもありません。さすがに一回り大きく、白い毛の部分が広がっていました。
ここにはツキノワグマもイノシシもタヌキもキツネもいます。おとぎ話の絵本に出てくるのではなく、本物のタヌキがおもしろい顔をじかに見せてくれます。
ほかにもカモシカもブラックバスも、中国から来園したレッサーパンダも、鳥類では真っ白いきれいな大きな羽が印象的なコウノトリもタンチョウヅルもいます。
ここ広島市安佐動物公園では、ゆったりとのびのびとした敷地のなかに、世界各地に生きる動物たちが生き生きしたうれしそうな姿をして、お客さんを迎えてくれるはずです。ことに花の咲きはじめる春の日には、また秋の紅葉の季節のお休みの日には、緑豊かな動物公園で一日過ごすのは、何といっても心楽しい休養日になることでしょう。
ぜひお出かけになって、お好きな生きものたちとじっくり「会話」してみてはいかがでしょうか。目と目で見つめ合ってみると、どんな反応をしてくれるでしょうか。いろいろな「世界」が広がって、こころ豊かな安らぎの時間となることでしょう。
(磯辺 太郎)
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