Good morning a lovely day.
カーテンの音がして光が差し込んでくる。白いシーツはさらにまぶしく光り、僕は日差しに背を向けて寝返りをうった。
土曜の午前九時。普段なら二度寝を楽しんでいる時間だけれど、今日は先生に任務が入っている。せっかくの休日なのにさあと、昨日の夕餉でボヤいていたのに、こうやって出かける一時間半前には起きるところが、根が真面目な人だなと思う。
寝転んでいる僕の横で、先生はベッドに座って、準備するまでが面倒くさそうにして遠くを見つめていた。
広い背中が目に入る。ゆったりしたシャツで見えないけれど、その下にある盛り上がった背筋や肩、ゴツゴツした背骨の感触を、僕は知っているんだなとふと思う。そして、なんとなしにストレッチにとりかかる先生の姿に声をかけた。
「せっかくの休日なのにお仕事なんて寂しいなあ」
普段なら言わない台詞。そこに少し欲しがりな気持ちを込めた時の、先生の顔が僕は好きだ。
案の定、振り返った先生の顔は眉をしかめて、口をへの字に曲げていて、子供みたいにむすっとしている。
「憂太たまにそうやって誘ってくるのやめなね」
いつも言わないくせにと、不機嫌そうに言う声を聞くとさらに楽しくなってしまう。そう、その声も好きなんだ。抑えきれなくて、とうとう声を出して笑ってしまった。
「あはは。先生のそういう顔見るの楽しくてつい」
「ぜってー泣かす!!!」
夜の僕はきっと後悔するだろうけど、でもそう叫ぶ先生の顔がやっぱり好きだなあと思ってしまうから、僕はもう重症だ。
しばらく続く僕の笑い声に先生はさらにむすむすっと顔をしかめるのだった。
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アドリブ任せで悪いかよ
『アドリブばっか上手くなる笑』のおまけです。
翔太が寝落ちしたあとの冬馬視点。
気持ちよさそうに眠る翔太を放置して、カメラスタッフと一緒にホテルのフィットネスルームに向かう。聞けば北斗はまだそこに居るらしい。
自動ドアに手をかざして中に入れば、設置したマシンの色味に合わせたのか床も壁も黒を基調としたシックな空間が広がっていた。その傍らでトレーナーに手ほどきを受ける北斗を見つける。
「よう北斗。調子どうだ?」
「あれっ、冬馬。今は翔太とディナータイムじゃなかったの?」
「食ってる間に寝落ちしたんだよあいつ」
「翔太らしいね……っと」
黒いTシャツの胸元が汗でさらに色濃くなっている。少しだけ乱れた前髪を指先で払いのけた北斗はマットレスの上で姿勢を整えるとトレーナーに渡されたボトルに口づけた。
「はは、満身創痍だっつーのにいちいち絵になる男だよな、おまえ」
「ありがとう。……やっぱりツアー終盤になるとボロが出てくるね。首も肩も膝も騙し騙し動かしてる」
「職業病ってやつだぜ、俺たちのこれは」
「だね。せっかく来たんだし冬馬もテーピング巻き直してもらえば?」
「そうする」
少し離れた場所にあった革張りソファに腰を下ろして、スウェットのパンツを足首から膝の上まで捲り上げる。すかさずトレーナーが骨の形を確認するように膝に触れた。痛みはないと伝えたが、パフォーマンス中に行うジャンプは膝への負荷が大きいため控えるよう言われてしまう。今日も飛んだもんだから釘を刺してるんだなこの人。
「ジュピターは揃いも揃ってセーブするのが苦手な子たちの集まりだよね。僕は気が気じゃないよ」
「すんません……」
「トレーナーを信頼してのことですよ」
「だったら取り返しがつかなくなる前に、ほんのちょっとでもいいから手の抜き方を覚えてね」
「いや、それはちょっと……」
最もなアドバイスだったが笑って誤魔化す。ある程度のクオリティを保つためにはそれも必要なことなんだろうが、北斗にも言った通り、筋肉や関節の痛みは職業病の一つだと俺は思っている。どんなに気をつけていても痛みが出てくるなら、上手く付き合っていくしかねえ。
俺たちは何十、何百回も繰り返したパフォーマンスでも、ライブに来てくれるファンにとっては特別な一回だからな。身体が悲鳴を上げるギリギリまで全力を見せつけてやりてえって思うのは当然だろ。
「そうだ、湿布一枚もらってもいいっすか。翔太の分なんすけど」
「もちろん。……はい。さっきより強く巻いたけどどうかな」
巻き直してもらったテーピングの感覚を確かめるように軽く膝を曲げる。問題はなさそうだ。
トレーナーに礼を言って立ち上がり、その場でグッと伸びをする。試しに軽くジャンプをしたら「こら!」と叱られてしまった。やっぱ課題は着地の瞬間だな。
「あーそうだ北斗、終わったら俺の部屋に飯食いに来いよ」
ステーキもカルボナーラもサラダだってまだ残ってる。翔太も珍しく食わねえで寝ちまったし、北斗と食えるならそれが一番いい。理由を伝えても時間が時間だからと渋られてしまったが、俺たちの話を聞いていたトレーナーが、身体のためにも肉は食べたほうがいいと力説してくれたおかげで頷いてくれた。
「そういうことならお邪魔しようかな。待ってて、シャワー浴びて来る」
「おう。俺も温め直してもらえるか聞いてみるぜ」
「はは……『僕の分のごはんがない!』って起きた翔太に怒られそうだけど」
「大丈夫だろ、今日はもう起きねえよ」
食ってるときにソッコー寝たからな。ああいう翔太はマジでレアだ。いつもは食って食って食いまくって腹が膨れてから寝るやつなのに。あいつも疲れてたのかもしれねえ。
それからも北斗と飯を食い終わるまでずっとカメラのレンズは向けられていて、北斗が自分の部屋に戻ると同時に撮影は終了した。スタッフに翔太を部屋に運ぼうかと聞かれたが、一秒でも早く仕事から解放されたくて断ってしまった。どうせもう寝てるんだ。ダブルベッドだしな、居ても居なくても変わらねえよ。
一人きり(厳密には二人きりだ)になった部屋には空調の音と翔太の寝息しか聞こえない。ずっと撮影されっぱなしってのは想像以上に気を張る。常にファンサービスしてるっつーか……ファン向けの言動をしがちな自覚はある。
素に見えるけど完全な素じゃねえって状態のバランスが難しくて、俺自身との境目が曖昧になる。天ヶ瀬冬馬っつーアイドルとしての正解がこれなのかもわからねえし、いつかスタッフやカメラの前でやらかしそうで不安だ。せめてツアーが終わるまでは気を抜かねえようにしねえと。
ベッドの上にあぐらをかいて、翔太の身体からベルトを外すついでに着ていたパーカーを脱がしてしまう。スーツケースの中から洗濯済みのスウェットを引っ張り出して、どれだけ動かしても一向に起きる気配がない翔太の首に通した。そこで一旦手を止めて、もらった湿布を翔太の右肩に貼りつけてやる。
本人は太ったと言っていたが元々これくらいの肉つきじゃなかったか? 薄っすらと割れた腹の肉をつまんで、どうせならとうつ伏せる翔太の身体を跨いで膝立ちになり両手で腰を掴んでみた。
……やっぱり変わらなくねえか?
翔太的にはリバウンドした状態なんだろうが、俺からすれば何も変わらない。もう少し肉があってもいいくらいだ。
「んー……」
寝言にもなっていない翔太の声が耳に届いて、自分が今どんな体勢なのか意識してしまった。
「っ、風呂、風呂入るか!」
むき出しの腰を隠すようスウェットの裾を思いきり引っ張ってベッドから飛び退いた。膝がじんと痛んだが自業自得だ。逃げるように洗面所に駆け込んで服を脱ぎ、浴室で熱いシャワーを頭からかぶる。
最悪だ。最悪すぎる。こんなことになるなら素直に運び出してもらえばよかった。あんなの、どうしたって似たような状況が頭に浮かぶだろ。と、俺の脳みそが鮮明な記憶を掘り返そうとしたところでブンブンと頭を左右に振る。
「バカやろう……!」
そこからは無心で頭と身体を洗った。カメラがあればあんな真似は絶対にしなかったのに、なんて後悔しても遅い。気を抜かねえようにって思ったばかりなのによ。
俺の職業はアイドルだ。恋人が居ようが居まいが仕事とプライベートの線引きはきちっとする。それは応援してくれるファンや一緒に仕事をこなすスタッフへの最低限の礼儀だろ。ジュピターがもっと成功するためにも個人的な失態は許されない。
もうこれ以上、恋愛脳なんかには振り回されねえぜ!
「うし!」
覚悟を新たに浴室から出る。ホテル特有のふわふわなバスタオルに身を包み、きれいサッパリ汚れも煩悩も落とした全身を拭き上げていく。自前の歯ブラシに歯磨き粉を乗せて口に咥え、アイロンがかかったパジャマに腕を通した。
またあのベッドに行かなきゃならねえが、翔太は壁際にでも転がして距離をとっておけば問題ないだろ。俺は髪を乾かそうとドライヤーを手にして電源を入れた。
***
翔太が勝手にアップした投稿を消そうかどうか、膨れ上がっていくいいねの数を睨みつけていたら北斗から通知が来た。
『さっき翔太が上げた写真について話があります』
怖すぎだろ。しかも翔太がやったってわかってるのにグループのほうじゃなくて俺に飛ばしてきやがって。これ、見なかったことにして寝ていいか?
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空高く翔る夢 - 蜂のパイロット、マーヴェリックの冒険
Flying high in the sky - The adventures of Maverick, the bee pilot
蜂のパイロット、マーヴェリックは訓練を経て王国のエリートへと成長し、仲間たちと共に敵と戦い、平和を守る。新たな冒険で未来へと繋がる。
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じー………………。
トカゲの見つめる先にいるのは、寄り添う二人。
仲睦まじく言葉を交わし、それはいつまでも尽きることがないようで。
幸せそうな主人の様子を嬉しく思いつつも、ツガイを持たない自分には縁遠く不可思議な光景。
暗く居心地の良い水道から、主人に付いて外へ出てきた自分にも、いつか得られるだろうか。
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さらば、夏の光よ
遠藤周作さんのこの本を読みはじめたのは忘れもしない、2021年の夏、大阪へ向かう新幹線の中だった。
その頃はコロナ禍真っ只中で、儲けなど見えぬほどの価格で高級ホテルに泊まれた。今はもう、外国人観光客で埋め尽くされている大阪のほんの少し高級なホテルに、わたしは泊まり行った。頼んでもいないのに、ベッドが3つもある部屋にアップグレードされていた。
わたしは遠藤周作さんの深い河という本を、人生で影響を受けた一作に選ぶほど愛している。昔から本を作家買いするのが好きで、たしか夏の文庫の中にこの、「さらば、夏の光よ」が紛れていたので、気になって手を取ることにした。内容は深く知らずただの、恋愛小説だと信じて。
読んでみたらそれはそれは、恐ろしい話だった。美しい男女の恋愛の側に纏わり付く醜い男が、自らの醜さも省みずに介入し、遂に何よりも愛する彼女を壊してしまうのだ。
初めてこの本を読んだとき、わたしはこの、自らを省みない醜い男・野呂に対し、彼を毛嫌いした京子と同じような感情を抱いた。何もかも失い途方に暮れたとき、生理的に受け付けない男にしゃしゃり出てこられ、自分の人生を変えられてしまったらどんなに苦しいか。それほどまでに嫌われていることに、どうして気付けないのか。一方的な羞悪な恋愛感情を傷口に刷り込まれた彼女を不憫に思わずにいられなかった。
人が死ぬとか殺されるとか、不意をつかれたり悲しませたりする話はいくらでもある。でもこの話は、ある種予想できる展開でありながら、じわりじわりと心に陰をさして、最後にはむちゃくちゃに掻き乱すような、胸糞の悪さなのだ。遠藤周作さんは不条理を描くのが好きだと思うが、その不条理があまりに身近に、そしてあまりに非道に思えるから、胸糞悪くて仕方ないのだ。
だからわたしはこの本を、もう読まない、売るか捨てるかする、わたしの本棚には置きたくない本として避けておいた。
それからあっという間に、2年の月日が流れていった。というか、2年間の始まりにあったのがこの、「さらば、夏の光よ」だったのだ。
わたしはこの物語に与えられた胸糞の悪さも忘れ、甘い蜜を吸っては中毒に陥り、また甘い蜜が溢れてくるのを待つような日々を送っていた。ただわたしなりに、この甘い蜜をもっと甘美なものにそして、永遠なものにできないか、奮闘していたつもりだった。
結果、わたしの努力も思いもなにもかも、無惨に散り、潰えた。一筋の希望を信じ神に祈り続けてきたけれど、掌を虚しくすり抜けて、色のついた光が混ざり合って見せるだけの幻に戻ってしまったのだった。
思い返しても思い返しても、わたしは何も悪いことはしていない。ただ、蜜が少しでも多く溢れるよう、蜜の甘みが増すよう、自分の限りを尽くしていたつもりだった。それなのに……
失意に暮れたとき思い出したのが、あの日あのホテルのデスクに載せられた、「さらば、夏の光よ」だった。わたしの心をむちゃくちゃな胸糞の悪さで埋め尽くしたあの小説。なんだかそれが、今の自分にぴったりハマるような気がした。
そうしてまた新幹線に乗るタイミングで道中のお供に選び、行きと帰りで読み切った。
不思議なことに、初めて読んだときとまるきり受ける印象が変わったのだ。もちろん胸糞が悪い不条理物語なのは同じだ。しかし、あのときあんなにも感じた野呂への差別的な感情は薄れ、醜き者の運命をひしひしと感じ、涙が止まらなくなった。野呂はわたしだったのだ。
醜くてお人好しで、自分の幸せより他者の幸せを願うふりをして、自らも幸せになろうとする狡猾さ。唯一人の友人が命を失い、何より愛する女性が自ら命を絶ってもなお、自死できぬ弱さ。自分の醜さをわかっていながら、努力して美しくなろうとしない傲慢さ。すべてすべてが、ただわたしだった。
だから2年前のあの、はじまりのあの日、わたしは野呂に苛立ちを覚えたのだろう。自分が未来、どうしたって運命を変えられない不条理に病まされることを予感して。こんなにも、自分の運命に合致してしまう作品があるのか。それがどうして、こんなに胸糞の悪い作品でなきゃいけなかったのか。
幸せな人を羨ましいと思わない。何もかも持ち合わせている人を苦しめたいとも思わない。だけど、少しだけ、ほんの少しだけわたしが醜くなかったら、こんなにも不条理を感じずに生きられたのだろうと思うと、たまらなく悲しくて、���秒でも早くこの世を去りたいと願ってしまう。
こんなとき美しければ、誰かに手を差し伸べてもらえるんだろう。
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Meiko Kaji (梶芽衣子) in Chivalrous Flower’s Life Story: Gambling Heir (侠花列伝 襲名賭博), 1969, directed by Keiichi Ozawa (小沢啓一).
Scanned from Jitsuwa Joho (実話情報), November 1969.
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お気に入り
「食べる?」
「えっ」
彼がその、きらきらと輝く赤い苺のショートケーキを特に気に入ってることは高専の皆が知っていた。いつもホールケーキをうきうきで買って来ては、誰かがちょうだいと言っても、一人で丸ごと食べきることが常だった。
「お気に入りなんじゃ、」
「はい、あーん」
目の前に出されたそれを、あーんという言葉につられたまま食べようとして、頭の中に警告が鳴り響く。
食べて、いいのか?食べたら何か起きてしまうのではないか?何が?
…うーん、あとからケーキを担保に何か無理難題を押し付けられるとかかな?
窺うように見た彼の表情からは、怪しいものは何も読み取れない。長いまつ毛に縁取られた目は、ただ「ほら」とフォークに刺さったお気に入りの一口を食べるようにうながしている。
迷っていても仕方ない。ぱくんとそれを口に飲み込んだ。
美味しい。クリームは濃厚でとろけるようだし、苺も程よい酸味がケーキの甘さを引き立てていて、上品な味を生み出していた。
「おいしい、です」
自然と顔が綻んでしまう。いいなあ、これをいつも一人で食べているんだ、ホールごと。ホール…さすがに要らないけど。
「でしょ」
その様子に満足したように、にまぁっと笑った彼は、まだ皿に残っているホールケーキにフォークを向けて、また自分で食べ出した。
「お気に入りだから食べて欲しくってさ」
「えっ、でもお気に入りだから一人で食べてたんじゃ」
「うん」
「や、やっぱり何か脅し…頼み事とかあるんですか」
「ないよ、何言ってんの」
おそるおそる聞いた言葉にケラケラと笑っている。本当に何も無いのか?拍子抜けだが、安心した。ただの気まぐれに当たっただけか。ついほっとした表情を浮かべてしまったが、彼は心外だなほんと〜と言いつつ、気にする様子もなくケーキの方に夢中になっていった。
ただのラッキーかあ。こんな時に運使って後で災難に見舞われたらどうしよう。まあその時考えればいっか。
乙骨は、食べる前に頭の中で響いた警告などすっかり忘れて、次の授業の内容について頭を巡らせて行った。ああ、糖分が染み渡るなあ。
果たして彼の能天気さは、吉と出るか凶と出るか。
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風と共に旅する猫、ザシムの物語
The story of Zasim, the cat who travels with the wind
猫の行商人ザシムは冒険心を胸に故郷ミルウェイを離れる。新たな街で秘密を探り、真実を解明し、成長と発見の旅を経て再び新たな冒険に旅立つ。
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いつもなら暖かな明かりの灯る、二人の家。
しかしその日は暗く、静まり返っていた。
隠された道の奥、地下室にあったのは…
惨劇の真相を知る者は、いない。
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