Tumgik
#買い取りチラシ挟まれたから持ち歩いてる人と繋がりたい
ramiiiiipic · 2 years
Photo
Tumblr media
ニブちゃんのハチロクと比較画像3連投📸 Photo by @yurina_roadster 📸 #買い取りチラシ挟まれたから持ち歩いてる人と繋がりたい #toyota #corolla #levin #ae86 #4ag #jdm #oldschool #drift #highway #drive (ドライブ) https://www.instagram.com/p/CkQbL81Sdqu/?igshid=NGJjMDIxMWI=
79 notes · View notes
shukiiflog · 6 months
Text
ある画家の手記if.121  告白 夏祭り
新居の近くには綺麗な池のある広々した公園があって、気が向いたら僕はその公園の池の前のベンチで絵を描いてる。
池の水は溜まりっぱなしじゃなくて公園の外堀の浅い川を巡らせてあって、いつも透明度が高くて綺麗。魚もいる。魚を狙う鳥もくる。 いつも隣のベンチにいてスズメにパン屑をあげてるおじいさんとか、池のまわりをランニングしにくる学生とか、公園に日課で訪れる人たちがいて、僕も通ってるうちに友達が増えた。 静物画を描いてた頃は絵を描くために外に出る必要はなかったから知る由もなかったけど、衆目のある外で堂々と絵を描いてるとちょっと目立つし周囲の興味をひくものらしい。スズメのおじいさんにそう言われた。 そんな公園の友達から、近々この公園で夏祭りが開かれるっていう情報を得た。毎年の恒例行事なんだそうだ。 「直人くんも来てみたらどう?お家は歩いてこれる距離なんでしょう」 「…そうですね。息子と一緒に来ようかな、あの子も夏のお祭りは初めてかもしれないし」 「そういえば息子さんいらっしゃるんですよね、今何歳なんでしたっけ」 なぜか僕が親しくなった相手に香澄のことを話すといつの間にか相手の中で香澄が幼稚園児くらいになってる。 もう成人してますよって言って証拠の写メを見せるときはだいたい絢と香澄のツーショット写真を見せる。 最初に香澄単体の写真を見せて一目惚れとかされたら困るから、となりに香澄とはまた趣の違う華やかで派手な絢もいたら見せられた相手も何がなんだかよくわからなくならないかなとか。実際まあまあそんな感じの効果は上がってる。絢ごめん。 顔立ちだけなら僕と香澄より僕と絢のほうが似てることになるのかもしれないけど、写真を見せても絢のほうを僕の息子だって思う人は意外と少ない。僕も絢もそれぞれ新しい家や家族に馴染んできたのかな。 僕は夏祭りに行ったことは多分ないけど、香澄と行った旅館の初詣でみんな着物着ててお店がたくさん出てた、あんなかんじかな。
前のマンションは立地は住宅街の中だったけど、マンションの方針としてその地域での町内づきあいは一切絶ってあった。今はそういうのが何もない普通の一軒家だから町内の報せとかもご近所から回ってくる。 かいじゅうくんの形のポストに入ってた夏祭りのチラシを取りだして見ながら、簡単に添えられたお祭りのイラストでなんとなくの雰囲気を知る。描かれてる人、みんな着物…浴衣?だ。僕がポストの頭を撫でながらチラシを見てたらちょうど出かけてた香澄が道の向こうから帰ってきた。 最近香澄はよくイキヤのマンションに通ってる。 最初は部屋を貸した身として僕が通って様子を見るべきかなとも思ったけど、結局僕がいつまでも仕事してて行けないでいたら香澄が行ってくれてた。香澄はときどき車出したりもしてた。 二人はけっこう仲良しみたいだ。それは少し、わからないでもない。 イキヤの人間関係はこれまでほとんど画家やそういうことに携わる現場の人間で埋め尽くされてきてる。家庭内にも今は別の画家がいるだけだし。性格や気性を問わず画家同士で穏やかに優しくしあうだけってことにはならない。…その分、誰かに優しくしたい気持ちがずっと行き場をなくしてたりする。 帰ってきた香澄にお祭りのチラシを見せて笑う。 「これ、すぐ近所だし、一緒に行ってみようか」
そんなわけで当日の夕方、まずは自宅まで知り合いの着付け師の子に来てもらった。 浴衣もそこで前もって僕と香澄のぶんを買っておいた、お正月の旅館で知り合った貸衣装をしてたおばあちゃんの呉服屋さん。 あれから何度か仕事でおばあちゃんのお子さんたちにうちに来て手伝ってもらって、ちょっとだけ顔なじみになった。じゅんちゃんとゆなさん。 肖像画の内容にもよるけど、モデルがよく映える服や小道具が欲しいってときもあるから、そういうときに。うちのクローゼットにある服は僕と香澄のを合わせても、お互いに系統が揃ってる上にサイズが大きくてあんまり使えない。 買った浴衣は香澄が白で僕が濃い紫。旅館のときと違って香澄も今回は男性ものの浴衣で、二人とも柄はそんなに派手じゃない。旅先と違って行くのは近所の夏祭りだから、目立つ格好して歩いて妙な虫がついたら払うのに苦労しそうで。 今日は和服だから呼んで来てくれたのはじゅんちゃんだった。浴衣を綺麗に着付けてもらったお礼を昼間に焼いたクッキーと一緒に渡して、二人でお祭りに出かける。布を買って僕が作った簡単な浴衣を出がけに留守番するノエルに適当に着せたらじゅんちゃんに一度脱がされて着付けしなおされてた。
ちょうど陽が沈んだくらいのタイミング。外は昼間に比べたら少し気温も下がってきてる。 となりを歩く香澄の髪にはかいじゅうくんの簪が刺さってる。クリスマスに僕が慧にもらったものだったけど、僕より香澄が使う方が似合っててかわいいからそうしてる。…この方が慧もきっと喜ぶ。 香澄はバレンタイン…本人曰く「誕生日プレゼント」に、まことくんから髪留めをもらって、仕事の日とかによく使ってる。香澄は自分でそういう物はあんまり買わないし僕があげた覚えもなかったから訊いてみた。香澄が友達同士で物を贈りあったりすることにまで口は挟めないけどね。僕が無言でじーっと髪留めを見てたら視線に気づいた香澄は不思議そうに首傾げてた。
公園に入る前から外の道にも普段よりたくさんの人がいて、すでにかなり賑わってた。浴衣姿の人も多い。 はぐれないように手を繋いでたいけどご近所さんも来てそうだから無理かなぁ。 池のまわりをぐるっと夜店が囲むようにどこまでも連なってる。夜店は簡易テントみたいな作りで、高い鉄パイプみたいな骨組みを通してぼんやり光る提灯が頭上に並んで浮かんでる。 香澄と一緒に風を受けてとりあえず見て歩いてるうちにあっという間に空が暗くなって夕方から夜になった。提灯と夜店とところどころの街灯の灯りだけになる。 「あ」 思わず声が出た。飾りみたいにたくさんズラッと並べてあるのの中に、かいじゅうくんがいた。他にもいろんなキャラクター…?色々並んでる。顔だけ… 周りの人たちが買っていく様子を見てると、あれは顔につけるお面らしい。 迷わず買って香澄の頭に装着する。 「…?これって顔につけるんじゃないの?」かいじゅうくんのお面を香澄の頭の斜め上あたりにつける僕に香澄がほわほわ顔緩ませながら訊いてきた。 「香澄の顔が見えなくなったら僕が寂しいからね」 綺麗に装着し終えて満足してたら香澄がさらにほわほわ笑ってた。にっこりしてかいじゅうくんのいないところの髪の毛を梳いて撫でる。 僕はかいじゅうくんと比べたらやけにリアルな描写の般若面を買った。リアルで怖いからあんまり売れてないらしい。僕は首から下げた。背中側に面がくる。般若って女性じゃなかったっけ、とか思うけど、威嚇になる表情ではある。背後の警戒を般若面にお願いする。 二人でかき氷を買って食べ歩く。香澄がオレンジ、僕がブルーのやつ。二人でスプーンですくってお互いの口に運んで食べ比べてみる。どっちも冷たくておいしい。 射的のお店があったから香澄と二人でやってみる。ゴムを飛ばす鉄砲みたいなライフルみたいなやつを使って景品を撃ち落としたらそれをもらえる。 まずやってみた香澄が何発か撃ってお菓子箱を一個撃ち落とした。香澄はこういう体験は初めてだって言うから「コツを掴むのが上手だね」ってにこにこ上機嫌で褒めた。 そのあとに、香澄がちょっとだけ欲しそうに見てたウサギのぬいぐるみを僕が狙う。ルールに則って決められたラインから踏み出さないで鉄砲を構える。着物の袖が邪魔で肩までまくし上げる。たすきがけとかできればよかった。 僕は腕が長いから普通に構えただけでちょっとズルしてる感じになってるのかな。ゴムをつけ直してウサギを何度か撃ったら置かれた位置からずれてバランスを崩してウサギが落ちた。 店の人から受け取ったウサギを香澄に渡したら嬉しそうにしてた。垂れた耳。まだ留学から帰ってきてない絢のことを連想したのかな。 絢は今、まことくんとオーストラリアに留学に行ってる。日本国内ではなんの気兼ねもなく自由に好きなように活動するのが難しいのかもしれないからよかったとも思う、同時に、僕も香澄も心配な気持ちもあった。 だから僕が庭の樹から少し削りだして、二人でお守りを作った。木彫りかいじゅうくんのキーホルダー。 半分くらいのところまで香澄に作ってもらって、僕は最後の仕上げと少し整える程度のほうが絢は喜ぶかな、と、思ったんだけど、あまりに面妖な初期段階が香澄から提出されて僕は思わず難しい顔になった。なにかの形象をあらわしているとおぼしき木片の突起部分を落としていったらネット検索で閲覧に年齢制限がかかるような姿になったのでさらに削って削って磨いていったら最後にかろうじて残ったのはころんと丸っこい鈴みたいな形のかいじゅうくんだった。雛かもしれない。 お祭りはまだ見てまわるけど僕が撃ち落としたウサギは手荷物になるから一旦僕が香澄から預かる。 ヨーヨーがたくさん水に浮かべてあるのを二人で発見。香澄がすくってとった。歩きながら楽しそうに手で弾かせて遊んでるから、預からないで香澄に持たせたままにする。 頭にかいじゅうくん、手に水色のヨーヨー。着物を白にしてよかった。香澄の髪の色がよく映えて綺麗。 夜店の焼き鳥とかクレープとかホットドッグの匂いが漂ってくる。僕らは家で早めの夕食を済ませたから匂いだけ。公園のみんな曰く、お祭りの夜店で売ってる食べ物全般は内臓や消化器系によほど自信がないと食べるのは分の悪い賭けなんだそうだ。たとえよく火が通されたものでも油が怪しかったりするらしい。 みんなに団扇を配ってる人がいたから僕もひとつもらって、首筋をあおいで風を通す。じゅんちゃんに片側に流すみたいな幅の広めの紐を一本絡ませた編み方にされたから、いつもみたいに後ろで縛ってるより暑い。 となりで香澄の歩くスピードが少しだけ落ちた、様子からして下駄で少し足が痛むみたいだった。 僕も下駄は履き慣れないけどいまだに全然痛くならないから油断してたな… 少し人混みから逸れた場所に入って、香澄の前に片膝をつく。 「ここに足乗せてごらん」自分の立てたほうの膝をトントンと示して香澄の片足からそっと下駄を脱がせた。そのまま僕の膝の上に乗った白い足を診てみて、すぐに病院に行く必要があるような怪我はまだないことを確認する。 それでも鼻緒があたる箇所は少し赤くなっちゃってるから今日はこの辺でもう帰ったほうがよさそうだ。片足ずつ僕の膝に乗せさせて、その間に僕は自分のハンカチを歯でいくつかに裂いて破って、香澄の下駄の緒の部分を外して抜いて、そこにひとまずの代替にハンカチを通していく。ハンカチが柔らかいガーゼ生地だからもとの頑丈な緒に比べれば痛くないかもしれない。 一度香澄に履いてもらってから、すぐ脱げないけど締めつけない程度に長さを調節した。 家までならなんとかなりそうだったからそのまま二人で帰ろうとして、帰る途中で二人して見つけてしまった。 すぐそこの、ビニールプールみたいなのの中にたくさん金魚が泳いでる…。 香澄と顔を見合わせる。 「足は痛くない?」 「うん。すごく楽。」 「…じゃあ、あれだけ最後に見て帰ろうか」 足を痛めないように、ゆっくり水槽の前に二人でかがんで元気に泳ぎ回る金魚をじっと見る。 …体が白くて…頭だけ朱いのがいる。小さい… 「あの子香澄に似てる」 指差して香澄に言いながら、お店の人にすすめられるまま金魚をすくう小さな道具をもらった。指先で触って確かめる。薄い紙が貼ってあるのを水につけて金魚をすくうみたいだけど、紙の目がどの向きなのかとか裏表とか、踏まえておいたら少しはたくさんすくえないかな…。 「…ん  香澄どこ行った?」 「あそこ!」 僕が道具を見てて見失った香澄に似てる金魚を香澄がずっと目で追跡しててくれた。香澄が指差す先に腕を伸ばしてひとまず一匹目を無事にすくう。香澄確保。 そのあとも僕は香澄に「どの子がいい?」って訊いて、香澄が選んだ子をすくって、五匹すくったところでとうとう紙が破れた。 金魚をもらっていくかここに放して帰るか訊かれて、もらって帰ることにした。
荷物が増えたし夜も更けてきたから、今度こそ本当に今日はこのあたりで帰ることにする。 特に金魚の入った袋を持ってからは僕も香澄も少しおたおたした。生き物が入ってるし、一緒に入れてもらった水は少ないし、袋は歩いてたらどうしても揺れるしで、このままじゃ帰り道の間に弱って死んじゃうんじゃないかと思って。 楽になったとは言ってたけどやっぱりいつもの香澄の歩くペースよりは遅いから、公園を出てうちまでの道の真ん中あたりにきてからは、香澄に金魚を持ってもらって僕が香澄をおんぶして帰った。 香澄をおんぶしたり抱っこして運ぶのが好き。僕も昔小さな頃によくそうしてもらってた。どこへ連れてかれるのか分からない状態でも安心していられるその人との関係が大事だった。今僕の背中で疲れたのか少しうとうとしてる香澄に、嬉しくてにこにこする。あんな安心感を、香澄にあげられたら。 お祭りはあと二日、今日みたいな感じで続くらしい。時間があれば、次は普通の動きやすい格好で寄ってみようかな。
お祭りの夜は家に帰ったら浴衣を脱いで、香澄とうさぎと一緒にお風呂に入った。 香澄を洗ったあとでうさぎも洗って清潔にした。さっぱりしてから普段着に着替えて急いで一人で車を出して金魚を飼うために必要なものを買いそろえてきた。あんな少ない水と袋に入れたままだと一晩で死んじゃうかもしれない。 ひとまず金魚たちを無事広い水の中にうつしてから眠った。
次の日、元気に泳ぐ金魚たちを見ながら、香澄と相談して何人かに金魚を譲る相談を持ちかけてみることにした。 香澄がイキヤに連絡してみたらイキヤは今のマンションの部屋で飼う形でもらってくれるらしい。僕が情香ちゃんに連絡してみたら、長期間部屋を留守にすることもままあるから少し難しいって言ってた。 五匹。白い体に赤い髪のかすみはうちで飼いたい。けど、かすみは一番体が小さくて餌を食べる順番争いでも弱いみたいだから、ほかの子と一緒に飼ったら競り負けて弱っちゃうかもしれない。誰かもらってくれる人…
まだ陽の落ちきってない夕方に今度は浴衣じゃなくて動きやすいいつもの服で、香澄とまたお祭りに行ってみる。 一度来てるから二人ともあんまり気構えがなくて、お祭りを満喫するというより散歩の延長みたいな感覚で。僕は今年の夏祭りの見納めのつもりであちこちを見回す。 僕の横で香澄は今日もかき氷を買って食べてる。僕もたまにスプーンでもらって食べる。 特に目新しいお店が増えてるわけでもなかったから、香澄にそろそろ帰ろうか、って 声をかけようとした瞬間だった 場にそぐわないすごい勢いで僕らの脇を走り過ぎていった男にぶつかられた香澄が 跳ね飛ばされるみたいに 池に落ちた 「ーーーー 香澄!!」 大きな水飛沫と人が落ちた音に周囲からいくつか悲鳴があがって周辺が騒然とする ここの池は綺麗なほうだけど深くなってるところは深い 香澄が一人で岸までたどり着くのは難しそうで僕も泳げるわけじゃないけど迷わず飛び込もうとしたとき、 カンカンカンと乾いた音がした 鉄パイプの屋台骨を踏みつけて走る音? 考える暇もなく夜店の屋根の上から細い人影が舞うように池に飛び込んだ ーーーいつもの特徴的な裾の長い上着は着てなかったけど見間違いようのないシルエットに 僕は香澄とは逆方向に走り出す 信用なんてしたくもないし信用したからこうするわけでもないけど、泳げない僕がたどたどしく救命ベストとか持って自分も池に飛び込むよりあれのほうが確実に香澄を助けられる ああもう 言いたくないけどあれは死生観とか倫理観とか常識とかそういうのが一切通用しないわりにどういう理屈だかこういう場面では迷いなく人命や人権を最優先したりする、あれの倫理観がとくに意味不明になるのは七ちゃんやイキヤや少数の大事な人間相手なのか 知るかそんなこと、ただおそらくこの場ではあれは香澄を助ける 学生時代からいがみ合ってきたから逆にソリの合わないフィーリングは嫌ってほど把握してる 僕の方が歩幅が広いし絵を描いててかなり体が鍛えられてたから、走ったらすぐに追いついた 香澄を突き飛ばして池に落として逃走しようとしてた男  腕を後ろからガシっと掴んだ、暴れて抵抗してきたから前方の空間に誰もいないのを確認して男の腕を掴んだまま前に回り込んで男の体を一度僕の肩と背に軽く引っかけるように乗せて空中で相手の体を大きくひっくり返すみたいに投げて前方の地面に叩きつけた 本気でやると全身あちこちに骨折や打撲を負わせる悲惨なことになるから、あくまで逃走防止の範疇を超えない程度に抑えた 倒れた男の両手を背中でねじりあげて背に乗っかるみたいに膝を当てて体重をかけて地面に這いつくばらせる 「あのね。こんなくだらないことしてないで僕は池に落ちた息子についてたかったんだ、心配だし、僕があの子を直接的に助けられなくても君にこんな風に構ってるよりは幾分かマシだよ僕の気分がね、でもこの祭りに来てるってことは君も近隣住人の可能性がある、そんな人間を正体不明のまま逃して野放しにするのも気持ちが悪いからね…」 取りおさえたまま今思ってる恨みつらみを男にずらずらストレス発散みたいに言い募ってたら、全身びしょ濡れになった香澄と行屋が池から無事に上がって僕のところまでやってきた。行屋が連れてきたというより香澄が僕のところまで来てくれたみたいだ。 「香澄!怖かったね…息ができなくて苦しい思いはしなかった?」 香澄をぎゅっと抱きしめたら、濡れてるせいかもしれないけど元々低めの体温がいつもよりさらに低い。真冬だったらショック死してたかもしれない… 僕の体温であっためるように抱きしめたままきゅっと閉じた目尻に薄く涙が浮かぶ …こわかった 「…池の水は清潔じゃないし、もう夜だけど今から一緒に病院に行こうね」 香澄から少し体を離して安心させるように微笑みかける。本当は救急車を呼びたかったけどここに呼んだらたくさんのいい好奇の目の的にされそうで、悩んだ末に呼ばなかった。 香澄は行屋のいつものマントみたいなカーディガンみたいなエスニック調の上着をバスタオルがわりにして頭からかぶってる。こっちを見てくる他人の視線から髪や顔や特徴的な部分をすっぽり隠せてる。そのために飛び込んでったときいつものこれは濡れないように着てなかったのか…? 行屋は僕がおさえてた男の背中を容赦なく踏みつけて、いつもジャラジャラ首から下げてるネックレスだかペンダントだか天然石がたくさん連なった長い首飾りの中から日本の仏教の行事で使う仰々しい数珠みたいなやつを一本首から外すと、僕が背���で束ねてた男の両腕を寝違えそうなほど引っぱってそれで縛り上げた 「…そんな繊細な装飾品、僕なら簡単に引きちぎるぞ。こんなものが手錠がわりの拘束になるのか」 あんまり行屋を見たくないので見ないようにしながら言ったら、行屋はとくに気取ったふうでも得意げなふうでもなくあっさり答えた。 「数珠を通してんのはピアノ線だ」 そう簡単には千切れないって言いたいのか ていうかそんな仕掛けあったのかそれ… 本人は歌うような口調で、数珠はいいぜ、海外でも宗教上の理由とか言や結構やべえときでも没収されずに見逃される、とかなんとか嘘か本当かわからないことを言いながら、さらにきつく縛り上げてる …に、しても、こいつが人命救助に加害者の捕獲… 行動に一貫性がある…とうとう気が狂ったのか? 「お前いつから善行に目覚めたんだ」 行屋は造形的にはそれほど大きくない口元を三日月みたいに大きくにんまりさせながら言う。 「飛び込みと捕り物は祭りの華だろうが」 「…」 やっぱりまともな理由じゃなかった。香澄が池に落ちたのも僕が突き飛ばした男を捕まえたのも、祭りにそえる花というか一等祭りを盛り上げる余興というか…そんな感覚なのか…?   いや、理解したくない。ここまで。 行屋もそこでくるっと向きを変えて、薄着一枚でずぶ濡れのまま、まるで寒そうな気配もなく一言の挨拶もなしにまた身軽に夜店の屋根に登って身を翻してテントを飛びこえて、あっという間に姿は見えなくなって、祭りの中から去っていった。
その日はすぐに香澄を病院に連れていって診てもらった。 そんなにたくさん水を飲んでなかったおかげなのか、特に体に異常はなし、外傷もなし。医師は多分大丈夫だろうって言ってたけど、細菌とか諸々の検査をしてもらって、後日検査結果を聞きに来ることになった。 香澄を池に突き飛ばしていった男は僕が警察に引き渡した。お祭りの中で起きた事故だっていうんでお祭りの運営にも事の一部始終の説明を求められた。本人曰く、道を急いでいて不注意で偶然香澄に体がぶつかってしまい、そんなつもりはなかったのに香澄が池に落ちてしまって、深い池だったからそのまま溺死させてしまったらと思って怖くなって逃げた、僕に捕まったとき抵抗して暴れたのもそういうことで、香澄個人を狙った意図的な行動ではない、と。 僕はそれを鵜呑みにはしないし、まるで香澄が落ちたせいみたいな言い草がすごく不快だけど、それ以上個人的に関わるのも嫌だったからあとは警察に任せた。
香澄視点 続き
0 notes
yo4zu3 · 4 years
Text
やさしい光の中で(柴君)
(1)ある日の朝、午前8時32分
 カーテンの隙間から細々とした光だけがチラチラと差し込む。時折その光は強くなって、ちょうど眠っていた俺の目元を直撃する。ああ朝だ。寝不足なのか脳がまだ重たいが、朝日の眩しさに瞼を無理矢理押し上げる。隣にあったはずの温もりは、いつの間にか冷え切った皺くちゃのシーツのみになっていた。ちらりとサイドテーブルに視線を流せば、いつも通り6時半にセットしたはずの目覚まし時計は、あろうことか針が8と9の間を指していた。
「チッ……勝手に止めやがったな」
 独り言のつもりで発した声は、寝起きだということもあり少しだけ掠れていた。それにしても今日はいつもに増して喉が渇いている。眠気眼を擦りながら、キッチンのほうから漂ってくる嗅ぎ慣れた深入りのコーヒーの香りに無意識に喉がこくりと鳴った。
 おろしたてのスウェットをまくり上げぼりぼりと腹を掻きながら寝室からリビングに繋がる扉を開けると、眼鏡をかけた君下は既に着替えてキッチンへと立っていた。ジューという音と共に、焼けたハムの香ばしい匂いが漂っている。時折フライパンを揺すりながら、君下は厚切りにされたそれをトングで掴んでひっくり返す。昨日実家から送ってきた荷物の中に、果たしてそんなハムが入っていたのだろうか。どちらにせよ君下が普段買ってくるスーパーのタイムセール品でないことは一目瞭然だった。
「おう、やっと起きたか」 「おはよう。てか目覚ましちゃんと鳴ってた?」 「ああ、あんな朝っぱらからずっと鳴らしやがって……うるせぇから止めた」
 やっぱりか、そう呟いた俺の言葉は、君下が卵を割り入れた音にかき消される。二つ目が投入され一段と香ばしい音がすると、塩と胡椒をハンドミルで少し引いてガラス製の蓋を被せると君下の瞳がこっちを見た。
「もうすぐできる。先に座ってコーヒーでも飲んどけ」 「ん」
 顎でくい、とダイニングテーブルのほうを指される。チェリーウッドの正方形のテーブルの上には、今朝の新聞とトーストされた食パンが何枚かと大きめのマグが2つ、ゆらゆらと湯気を立てていた。そのうちのオレンジ色のほうを手に取ると、思ったより熱くて一度テーブルへと置きなおした。丁度今淹れたところなのだろう。厚ぼったい取手を持ち直してゆっくりと口を付けながら、新聞と共に乱雑に置かれていた郵便物をなんとなく手に取った。  封筒の中に混ざって一枚だけ葉書が届いていた。君下敦様、と印刷されたそれは送り主の名前に見覚えがあった。正確には差出人の名前自体にはピンと来なかったが、その横にご丁寧にも但し書きで元聖蹟高校生徒会と書いてあったから、恐らくは君下と同じ特進クラスの人間なのだろうと推測が出来た。
「なんだこれ?同窓、会、のお知らせ……?」
 自分宛ての郵便物でもないのに中身を見るのは野暮だと思ったが、久しぶりに見る懐かしい名前に思わず裏を返して文面を読み上げた。続きは声に出さずに視線だけで追っていると、視界の端でコトリ、と白いプレートが置かれる。先程焼いていたハムとサニーサイドアップ、適当に千切られたレタスに半割にされたプチトマトが乗っていた。少しだけ眉間に皺が寄る。
「またプチトマトかよ」 「仕方ねぇだろ。昨日の残りだ。次からは普通のトマトにしてやるよ」
 大体トマトもプチトマトも変わんねぇだろうが、そう文句を言いながらエプロンはつけたままで君下は向かいの椅子に腰かけた。服は着替えたものの、長い前髪に寝ぐせがついて少しだけ跳ねあがっている。
「ていうか同じ高校なのになんで俺には葉書来てねぇんだよ」
 ドライフラワーの飾られた花瓶の横のカトラリー入れからフォークを取り出し、小さな赤にざくり、と突き立てて口へと放り込む。確かにクラスは違ったかもしれないが、こういう公式の知らせは来るか来ないか呼びたいか呼びたくないかは別として全員に送るのが礼儀であろう。もう一粒口に含み、ぶちぶちとかみ砕けば口の中に広がる甘い汁。プチトマトは皮が固くて中身が少ないから好きではない。やっぱりトマトは大きくてジューシーなほうに限るのだ。
「知らねぇよ……あーあれか。もしかして、実家のほうに来てるんじゃねぇの」 「あ?なんでそっちに行くんだよ」 「まあこんだけ人数いりゃあ、手違いってこともあるだろ」 「ったく……ポンコツじゃねぇかこの幹事」
 覚えてもいない元同級生は今頃くしゃみでもしているだろうか。そんなどうでもいいことが頭を過ったが、香ばしく焼き上げられたハムを一口大に切って口に含めばすぐに忘れた。噛むと思ったよりも柔らかく、スモークされているのか口いっぱいに広がる燻製臭はなかなかのものだ。いつも通り卵の焼き加減も完璧だった。
「うまいな、ハム。これ昨日の荷物のか?」 「ああ。中元の残りか知らないけど、すげぇいっぱい送って来てるぞ。明日はソーセージでもいいな」
 上等な肉を目の前に、いつもより君下の瞳はキラキラしているような気がした。高校を卒業して10年経ち、あれから俺も君下も随分大人になった。それでも相変わらず口が悪いところや、美味しいものに素直に目を輝かせるところなんて出会った頃と何一つ変わってなどいなかった。俺はそれが微笑ましくもあり、愛おしいとさえ思う。あとで母にお礼のラインでも入れて、ああ、それとついでに同窓会の葉書がそっちに来ていないかも確認しておこう。惜しむように最後の一切れを噛み締めた君下の皿に、俺の残しておいた最後の一切れをくれてやった。
(2)11年前
 プロ入りして5年が経とうとしていた。希望のチームからの誘いが来ないまま高校生活を終え、大学を5年で卒業して今のチームへと加入した。  過酷な日々だった。  一世代上の高校の先輩・水樹は、プロ入りした途端にその目覚ましい才能を開花させた。怪物という異名が付き、十傑の一人として注目された高校時代など、まだその伝説のほんの序章の一部に過ぎなかった。同じく十傑の平と共に一年目から名門鹿島で起用されると、実に何年振りかのチームの優勝へと大いに貢献した。日本サッカーの新時代としてマスメディアは大々的にこのニュースを取り上げると、自然と増えた聖蹟高校への偵察や取材の数々。新キャプテンになった俺の精神的負担は増してゆくのが目に見えてわかった。
 サッカーを辞めたいと思ったことが1度だけあった。  それは高校最後のインターハイの都大会。前回の選手権の覇者として山の一番上に位置していたはずの俺たちは、都大会決勝で京王河原高校に敗れるという失態を犯した。キャプテンでCFの大柴、司令塔の君下の連携ミスで決定機を何度も逃すと、0-0のままPK戦に突入。不調の君下の代わりに鈴木が蹴るも、向こうのキャプテンである甲斐にゴールを許してゲーム終了、俺たちの最後の夏はあっけなく終わりを迎えた。  試合終了の長いホイッスルがいつまでも耳に残る中、俺はその後どうやって帰宅したのかよく覚えていない。試合を観に来ていた姉の運転で帰ったのは確かだったが、その時他のメンバーたちはどうしたのかだとか、いつから再びボールを蹴ったのかなど、その辺りは曖昧にしか覚えていなかった。ただいつまでも、声を押し殺すようにして啜り泣いている、君下の声が頭から離れなかった。
 傷が癒えるのに時間がかかることは、中学選抜で敗北の味を知ったことにより感覚的に理解していた。君下はいつまでも部活に顔を出さなかった。いつもに増してボサボサの頭を掻き乱しながら、監督は渋い声で俺たちにいつものように練習メニューを告げる。君下のいたポジションには、2年の来須が入った。その意味は、直接的に言われなくともその場にいた部員全員が本能的に理解していたであろう。
『失礼します、監督……』
 皆が帰ったのを確認して教官室に書き慣れない部誌と共に鍵を返しに向かうと、そこには監督の姿が見えなかった。もう出てしまったのだろうか。一度ドアを閉めて、念のため職員室も覗いて行こうと校舎のほうへと向かう途中、どこからか煙草の香りが鼻を掠める。暗闇の中を見上げれば、ほとんどが消灯している窓の並びに一か所だけ灯りの付いた部屋が見受けられる。半分開けられた窓からは、乱れた黒髪と煙草の細い煙が夜の空へと立ち上っていた。
『お前まだ居たのか……皆は帰ったか?』 『はい、監督探してたらこんな時間に』
 部誌を差し出すと悪いな、と一言つけて監督はそれを受け取る。喫煙室の中央に置かれた灰皿は、底が見えないほどの無数の吸い殻が突き刺さり文字通り山となっていた。監督は短くなった煙草を口に咥えると、ゆっくりと吸い込んで零れそうな山の中へと半ば無理やり押し込み火を消した。
『君下は……あいつは辞めたわけじゃねぇだろ』 『お前がそれを俺に聞くのか?』
 監督は伏せられた瞳のまま俺に問い返す。パラパラと読んでいるのかわからないほどの速さで部誌をめくり、白紙のページを最後にぱたりと閉じた。俺もその動きを視線で追っていると、クマの濃く残る目をこちらへと向けてきた。お互いに何も言わなかった。  暫くそうしていると、監督は上着のポケットからクタクタになったソフトケースを取り出して、残りの少ないそれを咥えると安物のライターで火をつけた。監督の眼差しで分かったのは、聖蹟は、アイツはまだサッカープレーヤーとして死んではいないということだった。
 迎えの車も呼ばずに俺は滅多に行かない最寄り駅までの道のりを歩いていた。券売機で270円の片道切符を購入すると、薄明るいホームで帰路とは反対方向へ向かう電車を待つ列に並ぶ。間もなく電車が滑り込んできて、疲れた顔のサラリーマンの中に紛れ込む。少し混みあっていた車内でつり革を握りしめながら、車内アナウンスが目的の駅名を告げるまで瞼を閉じていた。  あいつに会いに行ってどうするつもりだったのだろう。今になって思えば、あの時は何も考えずに電車に飛び乗ったように思える。ガタンゴトンとレールを走る音を聞きながら、本当はあの場所から逃げ出したかっただけなのかもしれない。疲れた身体を引きずって帰り、あの日から何も変わらない敗北の香りが残る部屋に戻りたくないだけなのかもしれない。一人になりたくないだけなのかもしれない。
『次はー△△、出口は左側です』
 目的地を告げるアナウンスで思考が現実へと引き戻された。はっとして、閉まりかけのドアに向かって勢いよく走った。長い脚を伸ばせばガン、と大きな音がしてドアに挟まる。鈍い痛みが走る足を引きずりながら、再び開いたドアの隙間からするりと抜け出した。
 久しぶりに通る道のりは、いくつか電灯が消えかけていて薄暗く、不気味なほど人通りが少なかった。古い商店街の一角にあるキミシタスポーツはまだ空いているだろうか。スマホの画面を確認すれば、午後8時55分を指していた。営業時間はあと5分あるが、あの年中暇な店に客は一人もいないであろう。運が悪ければ既にシャッタは降りているかもしれない。
『本日、休業……だあ?』
 計算は無意味だった。店のシャッターに張り付けられた、チラシの裏紙には妙に整った字でお詫びの文字が並んでいた。どうやらここ数日間はずっとシャッターが降りたままらしいと、通りすがりの中年の主婦が店の前で息を切らす俺に親切に教えてくれた。ついでにこの先の大型スーパーにもスポーツ用品は売ってるわよ、と要らぬ情報を置いてその主婦は去っていった。こうやって君下の店の売り上げが減っていくという、無駄な情報を仕入れたところで今後使う予定が来るのだろうか。店の二階を見上げるも、君下の部屋に灯りはない。
『ったく、あの野郎は部活サボっといて寝てんのか?』
 同じクラスのやつに聞いても、君下のいる特進クラスは夏休み明けから自主登校となっているらしい。大学進学のためのコースは既に3年の1学期には高校3年間の教科書を終えており、あとは各自で予備校に行くなり自習するなりで受験勉強に励んでいるようだ。当然君下以外に強豪運動部に所属している生徒はおらず、クラスでもかなり浮いた存在だというのはなんとなく知っていた。誰もあいつが学校に来なくても、どうせ部活で忙しいぐらいにしか思わないのだ。  仕方ない、引き返すか。そう思い回れ右をしたところで、ある一つの可能性が脳裏に浮かぶ。可能性なんかじゃない。だがなんとなくだが、あいつがそこにいるという確信が、俺の中にあったのだ。
『くそっ……君下のやつ!』
 やっと呼吸が整ったところで、重い鞄を背負うと急いで走り出す。こんな時間に何をやっているのだろう、と走りながら我ながら馬鹿らしくなった。去年散々走り込みをしたせいか、練習後の疲れた身体でもまだ走れる。次の角を右へ曲がって、たしかその2つ先を左――頭の中で去年君下と訪れた、あの古びた神社への道のりを思い出す。そこに君下がいる気がした。
『はぁ……はぁっ……っ!』
 大きな鳥居が近づくにつれて、どこからか聞こえるボールを蹴る音に俺の勘が間違っていない事を悟った。こんなところでなにサボってんだよ、そう言ってやるつもりだったのに、いざ目の前に君下の姿が見えると言葉を失った。  あいつは、聖蹟のユニフォーム姿のままで、泥だらけになりながら一人でドリブルをしていた。  自分で作った小さいゴールと、所々に置かれた大きな石。何度も躓きながらも起き上がり、懸命にボールを追っては前へ進む。パスを出すわけでもなく、リフティングでもない。その傷だらけの足元にボールが吸い寄せられるように、馴染むように何度も何度も同じことを繰り返していた。
『ハッ……馬鹿じゃねぇの』
 お前も俺も。そう呟いた声は己と向き合っている君下に向けられたものではない。  あいつは、君下はもう前を向いて歩きだしていた。沢山の小さな石ころに躓きながら、小さな小さなゴールへと向かってその長い道のりへと一歩を踏み出していた。俺は君下に気付かれることがないように、足音を立てないようにして足早に神社を後にした。  帰りの電車を待つベンチに座って、ぼんやりと思い出すのは泥だらけの君下の背中だった。前を向け喜一、まだやれることはたくさんある。ホームには他に電車を待つ客は誰もいなかった。
(3)夕食、22時半
 気付けば完全に日は落ちていて、コートを照らすスタンドライトだけが暗闇にぼんやりと輝いていた。  思いのほか練習に熱中してしまったようで、辺りを見渡せば先輩選手らはとっくに自主練を切り上げて帰路に着いたようだった。何の挨拶もなしに帰宅してしまったチームメイトの残していったボールがコートの隅に落ちているのを見つけては、上がり切った息を整えながらゆったりと歩いて拾って回った。
 倉庫の鍵がかかったのを確認して誰もいないロッカールームへ戻ると、ご丁寧に電気は消されていた。先週は鍵がかけられていた。思い出すだけで腹が立つが、もうこんなことも何度目になった今ではチームに内緒で作った合鍵をいつも持ち歩くようにしている。ぱちり、スイッチを押せば一瞬遅れて青白い灯りが部屋を照らした。
 大柴は人に妬まれ易い。その容姿と才能も関係はあるが、自分の才能に胡坐をかいて他者を見下しているところがあった。大口を叩くのはいつものことで、慣れた友人やチームメイトであれば軽く受け流せるものの、それ以外の人間にとってみれば不快極まりない行為であることは間違いない。いつしか友人と呼べる存在は随分と減り、クラスや集団では浮いてしまうことが常であった。  今のチームも例外ではない。加入してすぐの公式戦にレギュラーでの起用、シーズン序盤での怪我による離脱、長期のリハビリ生活、そして残せなかった結果。大柴加入初年度のチーム���、最終的に前年度よりも下回った順位でシーズンの幕を閉じることになった。それでも翌年からも大柴はトップに居座り続けた。疑問に思ったチームメイトやサポーターからの非難や、時には心無い中傷を書き込まれることもあった。ゴールを決めれば大喝采だが、それも長くは続かない。家が裕福なことを嗅ぎつけたマスコミにはある事ない事を週刊誌に書き並べられ、誰もいない実家の前に怪しげな車が何台も止まっていることもあった。  だがそんなことは、大柴にとって些細なことだった。俺はサッカーの神様に才能を与えられたのだと、未だにカメラの前でこう言い張ることにしている。実はもう一つ、大柴はサッカーの神様から貰った大切なものがあったが、それを口にしたことはないしこれからも公言する日はやって来ないだろう。
「ただいまぁー」 「お帰り、遅かったな」
 靴を脱いでつま先で並べると、靴箱の上の小さな木製の皿に車のキーを入れる。ココナッツの木から作られたそれは、卒業旅行に二人でハワイに行ったときに買ったもので、6年間大切に使い続けている。玄関までふわりと香る味噌の匂いに、ああやっとここへ帰ってきたのだと実感する。大股で歩きながらジャケットを脱ぎ、どさり、とスポーツバッグと共に床へ投げ出すと、倒れ込むように革張りのソファへとダイブした。
「おい、飯出来てるから先に食え。手洗ったか?」 「洗ってねぇ」 「ったく、何年も言ってんのにちっとも学習しねぇ奴だな。ほら、こっち来い」
 君下は洗い物をしていたのか、泡まみれのスポンジを握ってそれをこちらに見せてくる。この俺の手を食器用洗剤で洗えって言うのか、そう言えばこっちのほうが油が落ちるだとか、訳の分からない理論を並べられた。つまり俺は頑固汚れと同じなのか。
「こんなことで俺が消えてたまるかよ」 「いつもに増して意味わかんねぇな。よし、終わり。味噌汁冷める前にさっさと食え」
 お互いの手を絡めるようにして洗い流していると、背後でピーと電子音がして炊飯が終わったことを知らせる。俺が愛車に乗り込む頃に一通連絡を入れておくと、丁度いい時間に米が炊き上がるらしい。渋滞のときはどうするんだよ、と聞けば、こんな時間じゃそうそう混まねぇよ、と普段車に乗らないくせにまるで交通事情を知っているかのような答えが返ってくる。全体練習は8時頃に終わるから、自主練をして遅くても10時半には自宅に着けるように心掛けていた。君下は普通の会社員で、俺とは違い朝が早いのだ。
「いただきます」 「いただきます」
 向かい合わせの定位置に腰を下ろし、二人そろって手を合わせる。日中はそれぞれ別に食事を摂るも、夕食のこの時間を二人は何よりも大事にしていた。  熱々の味噌汁は俺の好みに合わせてある。最近は急に冷え込んできたから、もくもくと上る白い湯気は一段と白く濃く見えた。上品な白味噌に、具は駅前の豆腐屋の絹ごし豆腐と、わかめといりこだった。出汁を取ったついでにそのまま入れっぱなしにするのは君下家の味だと昔言っていた。
「喜一、ケータイ光ってる」 「ん」
 苦い腸を噛み締めていると、ソファの上に置かれたままのスマホが小さく震えている音がした。途切れ途切れに振動がするので、電話ではないことは確かだった。後ででいい、一度はそう言ったものの、来週の練習試合の日程がまだだったことを思い出して気だるげに重い腰を上げる。最新機種の大きな画面には、見覚えのある一枚の画像と共に母からの短い返信があった。
「あ、やっぱ葉書来てたわ。実家のほうだったか」 「ほらな」 「お前のはここの住所で、なんで俺のだけ実家なんだよ」 「知るかよ。どうせ行くんだろ、直接会った時に聞けばいいじゃねぇか」 「え、行くの?」
 スマホを持ったままどかり、と椅子へと座りなおし、飲みかけの味噌汁に手を伸ばす。ズズ、とわざと少し行儀悪くわかめを啜れば、君下の表情が曇るのがわかった。
「お前、この頃にはもうオフだから休みとれるだろ。俺も有休消化しろって上がうるせぇから、ちょうどこのあたりで連休取ろうと思ってる」 「聞いてねぇ……」 「今言ったからな」
 金平蓮根に箸を付けた君下は、いくらか摘まんで自分の茶碗へと一度置くと、米と共にぱくり、と頬張った。シャクシャクと音を鳴らしながら、ダークブラウンの瞳がこちらを見る。
「佐藤と鈴木も来るって」 「あいつらに会うだけなら別で集まりゃいいだろうが。それにこの前も4人で飲んだじゃねぇか」 「いつの話してんだよタワケが、2年前だぞあれ」 「えっ���んなに前だったか?」 「ああ。それに今年で卒業して10年だとさ。流石に毎年は行かねぇが節目ぐらい行ったって罰は当たんねーよ」
 時の流れとは残酷なものだ。俺は高校を卒業してそれぞれ違う道へと進んでも、相変わらず君下と一緒にいた。だからそんな長い年月が経ったことに気付かなかっただけなのかもしれない。高校を卒業する時点で、俺たちがはじめて出会って既に10年が経っていたのだ。  君下はぬるい味噌汁を啜ると、満足そうに「うまい」と一言呟いた。
*
 今宵はよく月が陰る。  ソファにごろりと寝転がり、カーテンの隙間から満月より少し欠けた月をぼんやりと眺めていた。月に兎がいると最初に言ったのは誰だろうか。どう見ても、あの不思議な斑模様は兎なんかに、それも都合よく餅つきをしているようには見えなかった。昔の人間は妙なことを考える。星屑を繋げてそれらを星座だと呼び、一晩中夜空を眺めては絶え間なく動く星たちを追いかけていた。よほど暇だったのだろう。こんな一時間に何センチほどしか動かないものを見て、何が面白いというのだろうか。
「さみぃ」
 音もなくベランダの窓が開き、身体を縮こませた君下が湯気で温かくなった室内へと戻ってくる。君下は二十歳から煙草を吸っていた。家で吸うときはこうやって、それも洗濯物のない時にだけ、それなりに広いベランダの隅に作った小さな喫煙スペースで煙草を嗜む。別に換気扇さえ回してくれれば部屋で吸ってもらっても構わないと俺は言っているのだが、頑なにそれをしようとしないのは君下のほうだった。現役のスポーツ選手である俺への気遣いなのだろう。こういう些細なところでも、俺は君下に支えられているのだと実感する。
「おい、キスしろ」
 隣に腰を下ろした君下に、腹を見せるように上を向いて唇を突き出した。またか、と言いたげな顔をしたが、間もなく長い前髪が近づいてきてちゅ、と小さな音を立てて口づけが落とされた。一度も吸ったことのない煙草の味を、俺は間接的に知っている。少しだけ大人になったような気がするのがたまらなく心地よい。
 それから少しの間、手を握ったりしてテレビを見ながらソファで寛いだ。この時間にもなればいつもニュースか深夜のバラエティー番組しかなかったが、今日はお互いに見たい番組があるわけでもなかったので適当にチャンネルを回してテレビを消した。  手元のランプシェードの明かりだけ残して電気を消し、寝室の真ん中に位置するキングサイズのベッドに入ると、君下はおやすみとも言わないまま背を向けて肩まで掛け布団を被ってしまった。向かい合わせでは寝付けないのはいつもの事だが、それにしても今日は随分と素っ気ない。明日は金曜日で、俺はオフだが会社員の君下には仕事がある。お互いにもういい歳をした大人なのだ。明日に仕事を控えた夜は事には及ばないようにはしているが、先ほどのことが胸のどこかで引っかかっていた。
「もう寝た?」 「……」 「なあ」 「……」 「敦」 「……なんだよ」
 消え入りそうなほど小さな声で、君下が返事をする。俺は頬杖をついていた腕を崩して布団の中に忍ばせると、背中からその細身の身体を抱き寄せた。抵抗はしなかった。
「こっち向けよ」 「……もう寝る」 「少しだけ」 「明日仕事」 「分かってる」
 わかってねぇよ、そう言いながらもこちらに身体を預けてくる、相変わらず素直じゃないところも君下らしい。ランプシェードのオレンジの灯りが、眠そうな君下の顔をぼんやりと照らしている。長い睫毛に落ちる影を見つめながら、俺は薄く開かれた唇に祈るように静かにキスを落とした。
 こいつとキスをするようになったのはいつからだっただろうか。  サッカーを諦めかけていた俺に道を示してくれたその時から、ただのチームメイトだった男は信頼できる友へと変化した。それでも物足りないと感じていたのは互いに同じだったようで、俺たちは高校を卒業するとすぐに同じ屋根の下で生活を始めた。が、喧嘩の絶えない日々が続いた。いくら昔に比べて関係が良くなったとはいえ、育ちも違えば本来の性格が随分と違う。事情を知る数少ない人間も、だからやめておけと言っただろう、と皆口を揃えてそう言った。幸いだったのは、二人の通う大学が違ったことだった。君下は官僚になるために法学部で勉学に励み、俺はサッカーの為だけに学生生活を捧げた。互いに必要以上に干渉しない日々が続いて、家で顔を合わせるのは、いつも決まって遅めの夜の食卓だった。  本当は今のままの関係で十分に満足している。今こそ目指す道は違うが、俺たちには同じ時を共有していた、かけがえのない長い長い日々がある。手さぐりでお互いを知ろうとし、時にはぶつかり合って忌み嫌っていた時期もある。こうして積み重ねてきた日々の中で、いつの日か俺たちは自然と寄り添いあって、お互いを抱きしめながら眠りにつくようになった。この感情に名前があるとしても、今はまだわからない。少なくとも今の俺にとって君下がいない生活などもう考えられなくなっていた。
「……ン゛、ぐっ……」
 俺に組み敷かれた君下は、弓なりに反った細い腰をぴくり、と跳ねさせた。大判の白いカバーの付いた枕を抱きしめながら、押し殺す声はぐぐもっていてる。決して色気のある行為ではないが、その声にすら俺の下半身は反応してしまう。いつからこうなってしまったのだろう。君下を抱きながらそう考えるのももう何度目の事で、いつも答えの出ないまま、絶頂を迎えそうになり思考はどこかへと吹き飛んでしまう。
「も、俺、でそ、うっ……」 「あ?んな、俺もだ馬鹿っ」 「あっ……喜一」
 君下の腰から右手を外し、枕を上から掴んで引き剥がす。果たしてどんな顔をして俺の名を呼ぶのだと、その顔を拝みたくなった。日に焼けない白い頬は、スポーツのような激しいセックスで紅潮し、額にはうっすらと汗が浮かんでいる。相変わらず眉間には皺が寄ってはいたが、いつもの鋭い目つきが嘘のように、限界まで与えられた快楽にその瞳を潤ませていた。視線が合えば、きゅ、と一瞬君下の蕾が収縮した。「あ、出る」とだけ言って腰のピストンを速めながら、君下のイイところを突き上げる。呼吸の詰まる音と、結合部から聞こえる卑猥な音を聞きながら、頭の中が真っ白になって、そして俺はいつの間にか果てた。全て吐き出し、コンドームの中で自身が小さくなるのを感じる。一瞬遅れてどくどくと音がしそうなほどに爆ぜる君下の姿を、射精後のぼんやりとした意識の中でいつまでも眺めていた。
(4)誰も知らない
 忙しないいつもの日常が続き、あっという間に年も暮れ新しい年がやってきた。  正月は母方の田舎で過ごすと言った君下は、仕事納めが終われば一度家に戻って荷物をまとめると、そこから一週間ほど家を空けていた。久しぶりに会った君下は、少しばかり頬が丸くなって帰ってきたような気がしたが、本人に言うとそんなことはないと若干キレながら否定された。目に見えて肥えたことを気にしているらしい本人には申し訳ないが、俺はその様子に少しだけ安心感を覚えた。祖父の葬儀以来、もう何年も顔を見せていないという家族に会うのは、きっと俺にすら言い知れぬ緊張や、不安も勿論あっただろう。  だがこうやって随分と可愛がられて帰ってきたようで、俺も正月ぐらい実家に顔を出せばよかったかなと少しだけ羨ましくなった。本人に言えば餅つきを手伝わされこき使われただの、田舎はやることがなく退屈だなど愚痴を垂れそうだが、そのお陰なのか山ほど餅を持たせられたらしく、その日の夜は冷蔵庫にあった鶏肉と大根、にんじんを適当に入れて雑煮にして食べることにした。
「お前、俺がいない間何してた?」
 君下が慣れた手つきで具材を切っている間、俺は君下が持ち帰った土産とやらの箱を開けていた。中には土の付いたままの里芋だとか、葉つきの蕪や蓮根などが入っていた。全て君下の田舎で採れたものなのか、形はスーパーでは見かけないような不格好なものばかりだった。
「車ねぇから暇だった」 「どうせ車があったとしても、一日中寝てるか練習かのどっちかだろうが」 「まあ、大体合ってる」
 一通り切り終えたのか包丁の音が聞こえなくなり、程なくして今度は出汁の香りが漂ってきた。同時に香ばしい餅の焼ける香りがして、完成が近いことを悟った俺は一度箱を閉めるとダイニングテーブルへと向かい、箸を二膳出して並べると冷蔵庫から缶ビールを取り出してグラスと共に並べた。
「いただきます」 「いただきます」
 大きめの深い器に入った薄茶色の雑煮を目の前に、二人向かい合って座り手を合わせる。実に一週間ぶりの二人で摂る夕食だった。よくある関東風の味付けに、四角く切られ表面を香ばしく焼かれた大きな餅。シンプルだが今年に入って初めて食べる正月らしい食べ物も、今年初めて飲む酒も、すべて君下と共に大事に味わった。
「あ、そうだ。明日だからな、あれ」
 3個目の餅に齧りついた俺に、そういえばと思い出したかのように君下が声を発した。少し冷めてきたのか噛み切れなかった餅を咥えたまま、肩眉を上げて何の話かと視線だけで問えば、「ほら、同窓会のやつ」と察したように答えが返ってきた。「ちょっと待て」と掌を君下に見せて、餅を掴んでいた箸に力を入れて無理矢理引きちぎると、ぐにぐにと大雑把に噛んでビールで流し込む。うまく流れなかったようで、喉のあたりを引っかかる感触が気持ち悪い。生理的に込み上げてくる涙を瞳に浮かべていると、席を立った君下は冷蔵庫の扉を開けてもう2本ビールを取り出して戻ってきた。
「ほら飲め」 「おま……水だろそこは」 「いいからとりあえず流し込め」
 空になった俺のグラスにビールを注げば、ぶくぶくと泡立つばかりで泡だけで溢れそうになった。だから水にしとけと言ったのだ。チッ、と舌打ちをした君下は、少し申し訳なさそうに残りの缶をそのまま手渡してきた。直接飲むのは好きではないが、今は文句を言ってられない。奪うように取り上げると、ごくごくと大げさに喉を鳴らして一気に飲み干した。
「は~……死ぬかと思った。相変わらずお酌が下手だなお前は」 「うるせぇな。俺はもうされる側だから仕方ねぇだろうが」
 そう悪態をつきながら、君下も自分の缶を開ける。プシュ、と間抜けな音がして、グラスを傾けて丁寧にビールを注いでゆく。泡まで綺麗に注げたそれを見て、満足そうに俺に視線を戻す。
「あ、そうだよ、話反らせやがって……まあとにかく、明日は俺は昼ぐらいに会社に少し顔出してくるから、ついでに親父んとこにも寄って、そのまま会場に向かうつもりだ」 「あ?親父さんも一緒に田舎に行ったんじゃねぇの?」 「そうしようとは思ったんだがな、店の事もあるって断られた。ったく誰に似たんだかな」 「それ、お前が言うなよ」
 君下の言葉になんだかおかしくなってふふ、と小さく笑えば、うるせぇと小さく舌打ちで返された。綺麗に食べ終えた器をテーブルの上で纏めると、君下はそれらを持って流しへと向かった。ビールのグラスを軽く水で濯いでから、そこに半分ぐらい溜めた水をコクコクと喉を鳴らして飲み込んだ。
「俺もう寝るから、あとよろしくな。久々に運転すると疲れるわ」 「おう、お疲れ。おやすみ」
 俺の言葉におやすみ、と小さく呟いた君下は、灯りのついていない寝室へと吸い込まれるようにして消えた。ぱたん、と扉が閉まる音を最後に、乾いた部屋はしんとした静寂に包まれる。手元に残ったのは、ほんの一口分だけ残った温くなったビールの入ったグラスだけだった。  頼まれた洗い物はあとでやるとして、さてこれからどうしようか。君下の読み通り、今日は一日中寝ていたため眠気はしばらくやって来る気配はない。テレビの上の時計を見ると、ちょうど午後九時を回ったところだった。俺はビールの残りも飲まずに立ち上がると、食器棚に並べてあるブランデーの瓶と、隣に飾ってあったバカラのグラスを手にしてソファのほうへとゆっくり歩き出した。
*
 肌寒さを感じて目を覚ました。  最後に時計を見たのはいつだっただろうか。微睡む意識の中、薄く開いた瞳で捉えたのは、ガラス張りのローテーブルの端に置かれた見覚えのあるグラスだった。細かくカットされた見事なつくりの表面は、カーテンから零れる朝日を反射してキラキラと眩しい。中の酒は幾分か残っていたようだったが、蒸発してしまったのだろうか、底のほうにだけ琥珀色が貼り付くように残っているだけだった。  何も着ていなかったはずだが、俺の肩には薄手の毛布が掛かっていた。点けっぱなしだった電気もいつの間にか消され��いて、薄暗い部屋の中、遮光カーテンから漏れる光だけがぼんやりと座っていたソファのあたりを照らしていた。酷い喉の渇きに、水を一口飲もうと立ち上がると頭痛と共に眩暈がした。ズキズキと痛む頭を押さえながらキッチンへ向かい、食器棚から新しいコップを取り出して水を飲む。シンクに山積みになっていたはずの洗い物は、跡形もなく姿を消している。君下は既に家を出た後のようだった。
 それから昼過ぎまでもう一度寝て、起きた頃には朝方よりも随分と温かくなっていた。身体のだるさは取れたが、相変わらず痛む頭痛に舌打ちをしながら、リビングのフローリングの上にマットを敷いてそこで軽めのストレッチをした。大柴はもう若くはない。三十路手前の身体は年々言うことを聞かなくなり、1日休めば取り戻すのに3日はかかる。オフシーズンだからと言って単純に休んでいるわけにはいかなかった。  しばらく柔軟をしたあと、マットを片付け軽く掃除機をかけていると、ジャージの尻ポケットが震えていることに気が付いた。佐藤からの着信だった。���しぶりに見るその名前に、緑のボタンを押してスマホを耳と肩の間に挟んだ。
「おう」 「あーうるせぇよ!掃除機?電話に出る時ぐらい一旦切れって」
 叫ぶ佐藤の声が聞こえるが、何と言っているのか聞き取れず、仕方なくスイッチをオフにした。ちらりと壁に視線を流せば、時計針はもうすぐ3時を指そうとしていた。
「わりぃ。それよりどうした?」 「どうしたじゃねぇよ。多分お前まだ寝てるだろうから、起こして同窓会に連れてこいって君下から頼まれてんだ」 「はあ……ったく、どいつもこいつも」 「まあその調子じゃ大丈夫だな。5時にマンションの下まで車出すから、ちゃんと顔洗って待ってろよ」 「へー」 「じゃあ後でな」
 何も言わずに通話を切り、ソファ目掛けてスマホを投げた。もう一度掃除機の電源を入れると、リビングから寝室へと移動する。普段は掃除機は君下がかけるし、皿洗い以外の大抵の家事はほとんど君下に任せっきりだった。今朝はそれすらも君下にさせてしまった罪悪感が、こうやって自主的にコードレス掃除機をかけている理由なのかもしれない。  ベッドは綺麗に整えてあり、真ん中に乱雑に畳まれたパジャマだけが取り残されていた。寝る以外に立ち入らない寝室は綺麗なままだったが、一応端から一通りかけると掃除機を寝かせてベッドの下へと滑り込ませる。薄型のそれは狭い隙間も難なく通る。何往復かしていると、急に何か大きな紙のようなものを吸い込んだ音がした。
「げっ……何だ?」
 慌てて電源を切り引き抜くと、ヘッドに吸い込まれていたのは長い紐のついた、見慣れない小さな紙袋だった。紺色の袋の表面に、金色の細い英字で書かれた名前には見覚えがあった。俺の覚え違いでなければ、それはジュエリーブランドの名前だった気がする。
「俺のじゃねぇってことは、これ……」
 そこまで口に出して、俺の頭の中には一つの仮説が浮かび上がる。これの持ち主は十中八九君下なのだろう。それにしても、どうしてこんなものがベッドの下に、それも奥のほうへと押しやられているのだろうか。絡まった紐を引き抜いて埃を払うと、中を覗き込む。入っていたのは紙袋の底のサイズよりも一回り小さな白い箱だった。中を確認したかったが、綺麗に巻かれたリボンをうまく外し、元に戻せるほど器用ではない。それに、中身など見なくてもおおよその見当はついた。  俺はどうするか迷ったが、それと電源の切れた掃除機を持ってリビングへと戻った。紙袋をわざと見えるところ、チェリーウッドのダイニングテーブルの上に置くと、シャワーを浴びようとバスルームへと向かった。いつも通りに手短に済ませると、タオルドライである程度水気を取り除いた髪にワックスを馴染ませ、久しぶりに鏡の中の自分と向かい合う。ここ2週間はオフだったというのに、ひどく疲れた顔をしていた。適当に整えて、顎と口周りにシェービングクリームを塗ると伸ばしっぱなしだった髭に剃刀を宛がう。元々体毛は濃いほうではない。すぐに済ませて電気を消して、バスルームを後にした。
「お、来た来た。やっぱりお前は青のユニフォームより、そっちのほうが似合っているな」
 スーツに着替え午後5時5分前に部屋を出て、マンションのエントランスを潜ると、シルバーの普通車に乗った佐藤が窓を開けてこちらに向かって手を振っていた。助手席には既に鈴木が乗っており、懐かしい顔ぶれに少しだけ安堵した。よう、と短く挨拶をして、後部座席のドアを開けると長い背を折りたたんでシートへと腰かけた。  それからは佐藤の運転に揺られながら、他愛もない話をした。最近のそれぞれの仕事がどうだとか、鈴木に彼女が出来ただとか、この前相庭のいるチームと試合しただとか、離れていた2年間を埋めるように絶え間なく話題は切り替わる。その間も車は東京方面へと向かっていた。
「君下とはどうだ?」 「あー……相変わらずだな。付かず離れずって感じか」 「まあよくやってるよな、お前も君下も。あれだけ仲が悪かったのが、今じゃ同棲だろ?みんな嘘みたいに思うだろうな」 「同棲って言い方やめろよ」 「はーいいなぁ、俺この間の彼女に振られてさ。せがまれて高い指輪まで贈ったのに、あれだけでも返して貰いたいぐらいだな」
 指輪という言葉に、俺の顔の筋肉が引きつるのを感じた。グレーのパンツの右ポケットの膨らみを、無意識に指先でなぞる。車は渋滞に引っかかったようで、先ほどからしばらく進んでおらず車内はしん、と静まり返っていた。
「あーやべぇな。受付って何時だっけ」 「たしか6時半……いや、6時になってる」 「げ、あと20分で着くかな」 「だからさっき迂回しろって言ったじゃねぇか」
 このあたりはトラックの通行量も多いが、帰宅ラッシュで神奈川方面に抜ける車もたくさん見かける。そういえば実家に寄るからと、今朝も俺の車で出て行った君下はもう会場に着いたのだろうか。誰かに電話をかけているらしい鈴木の声がして、俺は手持ち無沙汰に窓の外へと視線を投げる。冬の日の入りは早く、太陽はちょうど半分ぐらいを地平線の向こうへと隠した頃だった。真っ赤に焼ける雲の少ない空をぼんやりと眺めて、今夜は星がきれいだろうか、と普段気にもしていないことを考えていた。
(5)真冬のエスケープ
 車は止まりながらもなんとか会場近くの地下駐車場へと止めることができた。幹事と連絡がついて遅れると伝えていたこともあり、特に急ぐこともなく会場までの道のりを歩いて行った。  程なくして着いたのは某有名ホテルだった。入り口の案内板には聖蹟高校×期同窓会とあり、その横に4階と書かれていた。エレベーターを待つ間、着飾った同じ年ぐらいの集団と鉢合わせた。そのうち男の何人かは見覚えのある顔だったが、男たちと親し気に話している女に至っては、全くと言っていいほど面影が見受けられない。常日頃から思ってはいたが、化粧とは恐ろしいものだ。俺や君下よりも交友関係が広い鈴木と佐藤でさえ苦笑いで顔を見合わせていたから、きっとこいつらにでさえ覚えがないのだろうと踏んで、何も言わずに到着した広いエレベーターへと乗り込んだ。
 受付で順番に名前を書いて入り口で泡の入った飲み物を受け取り、広間へと入るとざっと見るだけで100人ほどは来ているようだった。「すげぇな、結構集まったんだな」そう言う佐藤の言葉に振り返りもせずに、俺はあたりをきょろきょろと見渡して君下の姿を探した。
「よう、遅かったな」 「おー君下。途中で渋滞に巻き込まれてな……ちゃんと連れてきたぞ」
 ぽん、と背中を佐藤に叩かれる。その右手は決して強くはなかったが、ふいを突かれた俺は少しだけ前にふらついた。手元のグラスの中で黄金色がゆらりと揺れる。いつの間にか頭痛はなくなっていたが、今は酒を口にする気にはなれずにそのグラスを佐藤へと押し付けた。不審そうにその様子を見ていた君下は、何も言わなかった。  6時半きっかりに、壇上に幹事が現れた。眼鏡をかけて、いかにも真面目そうな元生徒会長は簡単にスピーチを述べると、今はもう引退してしまったという、元校長の挨拶へと移り変わる。何度か表彰状を渡されたことがあったが、曲がった背中にはあまり思い出すものもなかった。俺はシャンパンの代わりに貰ったウーロン茶が入ったグラスをちびちびと舐めながら、隣に立つ君下に気付かれないようにポケットの膨らみの形を確認するかのように、何度も繰り返しなぞっていた。
 俺たちを受け持っていた先生らの挨拶が一通り済むと、それぞれが自由に飲み物を持って会話を楽しんでいた。今日一日、何も食べていなかった俺は、同じく飯を食い損ねたという君下と共に、真ん中に並ぶビュッフェをつまみながら空きっ腹を満たしていた。ここのホテルの料理は美味しいと評判で、他のホテルに比べてビュッフェは高いがその分確かなクオリティがあると姉が言っていた気がする。確かにそれなりの料理が出てくるし、味も悪くはない。君下はローストビーフがお気に召したようで、何度も列に並んではブロックから切り分けられる様子を目を輝かせて眺めていた。
「あー!大柴くん久しぶり、覚えてるかなぁ」
 ウーロン茶のあてにスモークサーモンの乗ったフィンガーフードを摘まんでいると、この会場には珍しく化粧っ気のない、大きな瞳をした女が数人の女子グループと共にこちらへと寄ってきた。
「あ?……あ、お前はあれだ、柄本の」 「もー、橘ですぅー!つくちゃんのことは覚えててくれるのに、同じクラスだった私のこと、全っ然覚えててくれないんだから」
 プンスカと頬を膨らませる橘の姿に、高校時代の懐かしい記憶が蘇る。記憶の中よりも随分と短くなった髪は耳の下で切り揃えられていれ、片側にトレードマークだった三つ編みを揺らしている。確かにこいつが言うように、思い返せば偶然にも3年間、同じクラスだったように思えてくる。本当は名前を忘れた訳ではなかったが、わざと覚えていない振りをした。
「テレビでいつも見てるよー!プロってやっぱり大変みたいだけど、大柴くんのことちゃんと見てるファンもいるからね」 「おーありがとな」
 俺はその言葉に対して素直に礼を言った。というのも、この橘という女の前ではどうも調子が狂わされる。自分は純粋無垢だという瞳をしておいて、妙に人を観察していることと、核心をついてくるのが昔から巧かった。だが悪気はないのが分かっているだけ質が悪い。俺ができるだけ同窓会を避けてきた理由の一つに、この女の言ったことと、こいつ自身が関係している。これには君下も薄々気付いているのだろう。
「あ、そうだ。君下くんも来てるかな?つくちゃんが会いたいって言ってたよ」 「柄本が?そりゃあ本人に言ってやれよ。君下ならあっちで肉食ってると思うけど」 「そうだよね、ありがとう大統領!」
 そう言って大げさに手を振りながら、橘は君下を探しに人の列へと歩き出した。「もーまたさゆり、勝手にどっか行っちゃったよ」と、取り残されたグループの一人がそう言うので、「相変わらずだよね」と笑う他の女たちに混ざって愛想笑いをして、居心地の悪くなったその場を離れようとした。  白いテーブルクロスの上から飲みかけのウーロン茶が入ったグラスを手に取ろとすると、綺麗に塗られたオレンジの爪がついた女にそのグラスを先に掴まれた。思わず視線をウーロン茶からその女へと流すと、女はにこりと綺麗に笑顔を作り、俺のグラスを手渡してきた。
「大柴くん、だよね?今日は飲まないの?」
 黒髪のロングヘアーはいかにも君下が好みそうなタイプの女で、耳下まである長い前髪をセンターで分けて綺麗に内巻きに巻いていた。他の女とは違い、あまりヒラヒラとした装飾物のない、膝上までのシンプルな紺色のドレスに身を包んでいる。見覚えのある色に一瞬喉が詰まるも、「今日は車で来てるから」とその場で適当な言い訳をした。
「あーそうなんだ、残念。私も車で来たんだけど、勤めている会社がこの辺にあって、そこの駐車場に停めてあるから飲んじゃおうかなって」 「へぇ……」
 わざとらしく綺麗な眉を寄せる姿に、最初はナンパされているのかと思った。だが俺のグラスを受け取ると、オレンジの爪はあっさりと手放してしまう。そして先程まで女が飲んでいた赤ワインらしき飲み物をテーブルの上に置き、一歩近づき俺の胸元に手を添えると、背伸びをして俺の耳元で溜息のように囁いた。
「君下くんと、いつから仲良くなったの?」
 酒を帯びた吐息息が耳元にかかり、かっちりと着込んだスーツの下に、ぞわりと鳥肌が立つのを感じた。  こいつは、この女は、も��かしたら君下がこの箱を渡そうとした女なのかもしれない。俺の知らないところで、君下はこの女と親密な関係を持っているのかもしれない。そう考えが纏まると、すとんと俺の中に収まった。そうか。最近感じていた違和感も、何年も寄り付かなかった田舎への急な帰省も、なぜか頑なにこの同窓会に出席したがった理由も、全部辻褄が合う。いつから関係を持っていたのだろうか、知りたくもなかった最悪の状況にたった今、俺は気付いてしまった。  じりじりと距離を詰める女を前に、俺は思考だけでなく身体までもが硬直し、その場を動けないでいた。酒は一滴も口にしていないはずなのに、むかむかと吐き気が込み上げてくる。俺は今、よほど酷い顔をしているのだろう。心配そうに見つめる女の目は笑っているのに、口元の赤が、赤い口紅が視界に焼き付いて離れない。何か言わねば。いつものように、「誰があんなやつと、この俺様が仲良くできるんだよ」と見下すように悪態をつかねば。皆の記憶に生きている、大柴喜一という人間を演じなければ―――……  そう思っているときだった。  俺は誰かに腕を掴まれ、ぐい、と強い力で後ろへと引かれた。呆気にとられたのは俺も女も同じようで、俺が「おい誰だ!スーツが皺になるだろうが」と叫ぶと、「あっ君下くん、」と先程聞いていた声より一オクターブぐらい高い声が女の口から飛び出した。その名前に腕を引かれたほうへと振り返れば、確かにそこには君下が立っていて、スーツごと俺の腕を掴んでいる。俺を見上げる漆黒の瞳は、ここ最近では見ることのなかった苛立ちが滲んで見えるようだった。
「ああ?テメェのスーツなんか知るかボケ。お前が誰とイチャつこうが関係ねぇが、ここがどこか考えてからモノ言いやがれタワケが」 「はあ?誰がこんなブスとイチャつくかバーカ!テメェの女にくれてやる興味なんぞこれっぽっちもねぇ」 「なんだとこの馬鹿が」
 実に数年ぶりの君下のキレ具合に、俺も負けじと抱えていたものを吐き出すかのように怒鳴り散らした。殴りかかろうと俺の胸倉を掴んだ君下に、賑やかだった周囲は一瞬にして静まり返る。人の壁の向こう側で、「おいお前ら!まじでやめとけって」と慌てた様子の佐藤の声が聞こえる。先に俺たちを見つけた鈴木が君下の腕を掴むと、俺の胸倉からその手を引き剥がした。
「とりあえず、やるなら外に行け。お前らももう高校生じゃないんだ、ちょっとは周りの事も考えろよ」 「チッ……」 「大柴も、冷静になれよ。二人とも、今日はもう帰れ。俺たちが収集つけとくから」
 君下はそれ以上何も言わずに、出口のほうへと振り返えると大股で逃げるようにその場を後にした。俺は「悪いな」とだけ声をかけると、曲がったネクタイを直し、小走りで君下の後を追いかける。背後からカツカツとヒールの走る音がしたが、俺は振り返らずにただ小さくなってゆく背中を見逃さないように、その姿だけを追って走った。暫くすると、耳障りな足音はもう聞こえなくなっていた。
 君下がやってきたのは、俺たちが停めたのと同じ地下駐車場だった。ここに着くまでにとっくに追い付いていたものの、俺はこれから冷静に対応する為に、頭を冷やす時間が欲しかった。遠くに見える派手な赤色のスポーツカーは、間違いなく俺が2年前に買い替えたものだった。君下は何杯か酒を飲んでいたので、鍵は持っていなくとも俺が運転をすることになると分かっていた。わざと10メートル後ろをついてゆっくりと近づく。  君下は何も言わずにロックを解除すると、大人しく助手席に腰かけた。ドアは開けたままにネクタイを解き、首元のボタンを一つ外すと、胸ポケットから取り出した煙草を一本口に咥えた。
「俺の前じゃ吸わねぇんじゃなかったのか」 「……気が変わった」
 俺も運転席に乗り込むと、キーを挿してエンジンをかけ、サンバイザーを提げるとレバーを引いて屋根を開けてやった。どうせ吸うならこのほうがいいだろう。それに今夜は星がきれいに見えるかもしれないと、行きがけに見た綺麗な夕日を思い出す。安物のライターがジジ、と音を立てて煙草に火をつけたのを確認して、俺はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。
(6)形も何もないけれど
 煌びやかなネオンが流れてゆく。俺と君下の間に会話はなく、代わりに冬の冷たい夜風だけが二人の間を切るように走り抜ける。煙草の火はとっくに消えて、そのままどこかに吹き飛ばされてしまった。  信号待ちで車が止まると、「さむい」と鼻を啜りながら君下が呟いた。俺は後部座席を振り返り、外したばかりの屋根を元に戻すべく折りたたんだそれを引っ張った。途中で信号が青に変わって、後続車にクラクションを鳴らされる。仕方なく座りなおそうとすると、「おい、貸せ」と君下が言うものだから、最初から自分でやればいいだろうと思いながらも、大人しく手渡してアクセルに足を掛けた。車はまた走り出す。
「ちょっとどこか行こうぜ」
 最初にそう切り出したのは君下だった。暖房も入れて温かくなった車内で、窓に貼り付くように外を見る君下の息が白く曇っていた。その問いかけに返事はしなかったが、俺も最初からあのマンションに向かうつもりはなかった。分岐は横浜方面へと向かっている。君下もそれに気が付いているだろう。  海沿いに車を走らせている間も、相変わらず沈黙が続いた。試しにラジオを付けてはみたが、流れるのは今流行りの恋愛ソングばかりで、今の俺たちにはとてもじゃないが似合わなかった。何も言わずにラジオを消して、それ以来ずっと無音のままだ。それでも、不思議と嫌な沈黙ではないことは確かだった。
 どこまで行こうというのだろうか。気が付けば街灯の数も少なくなり、車の通行量も一気に減った。窓の外に見える、深い色の海を横目に見ながら車を走らせた。穏やかな波にきらきらと反射する、今夜の月は見事な満月だった。  歩けそうな砂浜が見えて、何も聞かないままそこの近くの駐車場に車を停めた。他に車は数台止まっていたが、どこにも人の気配がしなかった。こんな真冬の夜の海に用があるというほうが可笑しいのだ。俺はエンジンを切って、運転席のドアを開けると外へ出た。つんとした冷たい空気と潮の匂いが鼻をついた。君下もそれに続いて車を降りた。  後部座席に積んでいたブランケットを羽織りながら、君下は小走りで俺に追いつくと、その隣に並んで「やっぱ寒い」と鼻を啜る。数段ほどのコンクリートの階段を降りると、革靴のまま砂を踏んだ。ぐにゃり、と不安定な砂の上は歩きにくかったが、それでも裸足になるわけにはいかずにゆっくりと海へ向かって歩き出す。波打ち際まで来れば、濡れて固まった足場は先程より多少歩きやすくなった。はぁ、と息を吐けば白く曇る。海はどこまでも深い色をしていた。
「悪かったな」 「いや、……あれは俺も悪かった」
 居心地の悪そうに謝罪の言葉がぽつり、と零れた。それは何に対して謝ったのか、自分でもよく分からない。君下に女が居た事なのか、指輪を見つけてしまった事なのか、それともそれを秘密にしていた事なのか。あるいは、そのすべてに対して―――俺がお前をあのマンションに縛り付けた10年間を指しているのか、それははっきりとは分からなかった。俺は立ち止まった。俺を追い越した、君下も立ち止まり、振り返る。大きな波が押し寄せて、スーツの裾が濡れる感覚がした。水温よりも冷たく冷え切った心には、今はそんな些細なことは、どうでもよかった。
「全部話してくれるか」 「ああ……もうそろそろ気づかれるかもしれねぇとは腹括ってたからな」
 そう言い終える前に、君下の視線が俺のズボンのポケットに向いていることに気が付いた。何度も触っていたそれの形は、嫌と言うほど覚えている。俺はふん、と鼻で笑ってから、右手を突っ込み白い小さな箱を丁寧に取り出した。君下の目の前に差し出すと、なぜだか手が震えていた。寒さからなのか、それともその箱の重みを知ってしまったからなのか、風邪が吹いて揺れるなか、吹き飛ばされないように握っているのが精一杯だった。
「これ……今朝偶然見つけた。ベッドの下、本当に偶然掃除機に引っかけちまって……でも本当に俺、今までずっと気付かなくて、それで―――それで、あんな女がお前に居たなんて、もっと早く言ってくれりゃ、」 「ちょっと待て、喜一……お前何言ってんだ」 「あ……?何って、今言ったことそのまんまだろうが」
 思い切り眉間に皺を寄せ困惑したような君下の顔に、俺もつられて眉根を寄せる。ここまで来てしらを切るつもりなのかと思うと、怒りを通り越して呆れもした。どうせこうなってしまった以上、俺たちは何事もなく別れられるわけがなかった。昔のように犬猿の仲に戻るのは目に見えていたし、そうなってくれれば救われた方だと俺は思っていた。  苛立っていたいたのは君下もそうだったようで、風で乱れた頭をガシガシと掻くと、煙草を咥えて火を点けようとした。ヂ、ヂヂ、と音がするのに、風のせいでうまく点かない。俺は箱を持っていないもう片方の手を伸ばして、風上から添えると炎はゆらりと立ち上がる。すう、と一息吸って吐き出した紫煙が、漆黒の空へと消えていった。
「そのまんまも何も、あの女、お前狙いで寄ってきたんだろうが」 「お前の女が?」 「誰だよそれ、名前も知らねぇのにか?」
 つまらなさそうに、君下はもう一度煙を吸うと上を向いて吐き出した。どうやら本当にあのオレンジ爪の女の名前すら知らないらしい。だとしたら、俺が持っているこの箱は一体誰からのものなのだ。答え合わせのつもりで話をしていたが、謎は余計に深まる一方だ。
「あ、でもあいつ、俺に何て言ったと思う?君下くんといつから仲良くなったの、って」 「お前の追っかけファンじゃねぇの」 「だとしてもスゲェ怖いわ。明らかにお前の好みそうなタイプの恰好してたじゃん」 「そうか?むしろ俺は、お前好みの女だなと思ったけどな」
 そこまで言って、俺も君下も噴き出してしまった。ククク、と腹の底から込み上げる笑いが止まらない。口にして初めて気が付いたが、俺たちはお互いに女の好みなんてこれっぽっちも知らなかったのだ。二人でいる時の共通の話題と言えば、サッカーの事か明日の朝飯のことぐらいで、食卓に女の名前が出てきたことなんて今の一度もない事に気付いてしまった。どうりでこの10年間、どちらも結婚だとか彼女だとか言い出さないわけだ。俺たちはどこまでも似た者同士だったのだ。
「それ、お前にやろうと思って用意したんだ」
 すっかり苛立ちのなくなった瞳に涙を浮かべながら、君下は軽々しくそう言って笑った。  俺は言葉が出なかった。  こんな小洒落たものを君下が買っている姿なんて想像もできなかったし、こんなリボンのついた箱は俺が受け取っても似合わない。「中は?」と聞くと、「開けてみれば」とだけ返されて、煙が流れないように君下は後ろを向いてしまった。少し迷ったが、その場で紐をほどいて箱を開けて、俺は目を見開いた。紙袋と同じ、夜空のようなプリントの内装に、星のように輝くゴールドの指輪がふたつ、中央に行儀よく並んでいた。思わず君下の後姿に視線を戻す。ちらり、とこちらを振り返る君下の口元は、笑っているように見えた。胸の内から込み上げてくる感情を抑えきれずに、俺は箱を大事に畳むと勢いよくその背中を抱きしめた。
「う゛っ苦しい……喜一、死ぬ……」 「そのまま死んじまえ」 「俺が死んだら困るだろうが」 「自惚れんな。お前こそ俺がいないと寂しいだろう」 「勝手に言ってろタワケが」
 腕の中で君下の頭が振り返る。至近距離で視線が絡み、君下の瞳に星空を見た。俺は吸い込まれるようにして、冷たくなった君下の唇にゆっくりとキスを落とす。二人の間で吐息だけが温かい。乾いた唇は音もなく離れ、もう一度角度を変えて近づけば、今度はちゅ、と音がして君下の唇が薄く開かれた。お互いに舌を出して煙草で苦くなった唾液を分け合った。息があがり苦しくなって、それでもまた酸素を奪うかのように互いの唇を気が済むまで食らい合った。右手の箱は握りしめたままで、中で指輪がふたつカタカタと小さく音を立てて揺れていた。
「もう、帰ろうか」 「ああ……解っちゃいたが、冬の海は寒すぎるな。帰ったら風呂炊くか」 「お、いいな。俺が先だ」 「タワケが。俺が張るんだから俺が先だ」
 いつの間にか膝下まで濡れたスーツを捲り上げ、二人は手を繋いで来た道を歩き出した。青白い砂浜に、二人分の足跡が残る道を辿って歩いた。平常心を取り戻した俺は急に寒さを感じて、君下が羽織っているブランケットの中に潜り込もうとした。君下はそれを「やめろ馬鹿」と言って俺の頭を押さえつける。俺も負けじとグリグリと頭を押し付けてやった。自然と笑いが零れる。  これ��よかったのだ。俺たちには言葉こそないが、それを埋めるだけの共に過ごした長い時間がある。たとえ二人が結ばれたとしても、形に残るものなんて何もない。それでも俺はいいと思っている。こうして隣に立ってくれているだけでいい。嬉しい時も寂しい時も「お前は馬鹿だな」と一緒に笑ってくれるやつが一人だけいれば、それでいいのだ。
「あ、星。喜一、星がすげぇ見える」 「おー綺麗だな」
 ふと気づいたように、君下が空を見上げて興奮気味に声を上げた。  ようやくブランケットに潜り込んで、君下の隣から顔を出せば、そこにはバケツをひっくり返したかのように無数に散らばる星たちが瞬いていた。肩にかかる黒髪から嗅ぎ慣れない潮の香りがして、俺たちがいま海にいるのだと思い知らされる。上を向いて開いた口から、白く曇った息が漏れる。何も言わずにしばらくそれを眺めて、俺たちはすっかり冷えてしまった車内へと腰を下ろした。温度計は摂氏5度を示していた。
7:やさしい光の中で
 星が良く見えた翌朝は決まって快晴になる。君下に言えば、そんな原始的な観測が正しければ、天気予報なんていらねぇよ、と文句を言われそうだが、俺はあながち間違いではないと思っている。現に今日は雲一つない晴れで、あれだけ低かった気温が今日は16度まで上がっていた。乾燥した空気に洗濯物も午前中のうちに乾いてしまった。君下がベランダに料理を運んでいる最中、俺は慣れない手つきで洗濯物をできるだけ綺麗に折りたたんでいた。
「おい、終わったぞ。お前のは全部チェストでいいのか?」 「下着と靴下だけ二番目の引き出しに入れといてくれ。あとはどこでもいい」 「へい」
 あれから真っすぐマンションへと向かった車は、時速50キロ程度を保ちながらおよそ2時間かけて都内にたどり着いた。疲れ切っていたのか、君下は何度かこくり、こくりと首を落とし、ついにはそのまま眠りに落ちてしまった。俺は片手だけでハンドルを握りながら、できるだけ眠りを妨げないように、信号待ちで止まることのないようにゆっくりとしたスピードで車を走らせた。車内には、聞き慣れない名のミュージシャンが話すラジオの音だけが延々と聞こえていた。  眠った君下を抱えたままエントランスをくぐり、すぐに開いたエレベーターに乗って部屋のドアを開けるまで、他の住人の誰にも出会うことはなかった。鍵を開けて玄関で靴を脱がせ、濡れたパンツと上着だけを剥ぎ取ってベッドに横たわらせる。俺もこのまま寝てしまおうか。ハンガーに上着を掛けると一度はベッドに腰かけたものの、どうも眠れる気がしない。少しだけ君下の寝顔を眺めた後、俺はバスルームの電気を点けた。
「飲み物はワインでいいか?」 「おう。白がいい」 「言われなくとも白しか用意してねぇよ」
 そう言って君下は冷蔵庫から冷えた白ワインのボトルとグラスを2つ持ってやって来た。日当たりのいいテラスからは、東京の高いビル群が遠くに見えた。東向きの物件にこだわって良かったと、当時日当たりなんてどうでもいいと言った君下の隣に腰かけて密かに思う。今日は風も少なく、テラスで日光浴をするのには丁度いい気候だった。
「乾杯」 「ん」
 かちん、と一方的にグラスを傾けて君下のグラスに当てて音を鳴らした。黄金色の液体を揺らしながら、口元に寄せればリンゴのような甘い香りがほのかい漂う。僅かにとろみのある液体を口に含めば、心地よいほのかな酸味と上品な舌触りに思わず眉が上がるのが分かった。
「これ、どこの」 「フランスだったかな。会社の先輩からの貰い物だけど、かなりのワイン好きの人で現地で箱買いしてきたらしいぞ」 「へぇ、美味いな」
 流れるような書体でコンドリューと書かれたそのボトルを手に取り、裏面を見ればインポーターのラベルもなかった。聞いたことのある名前に、確か希少価値の高い品種だったように思う。読めない文字をざっと流し読みし、ボトルをテーブルに戻すともう一口口に含む。安物の白ワインだったら炭酸で割って飲もうかと思っていたが、これはこのまま飲んだ方が良さそうだ。詰め物をされたオリーブのピンチョスを摘まみながら、雲一つない空へと視線を投げた。
「そう言えば、鈴木からメール来てたぞ……昨日の同窓会の話」
 紫煙を吐き出した君下は、思い出したかのように鈴木の名を口にした。小一時間前に風呂に入ったばかりの髪はまだ濡れているようで、時折風が吹いてはぴたり、と額に貼り付いた。それを手で避けながら、テーブルの上のスマホを操作して件のメールを探しているようだ。俺は残り物の鱈と君下の田舎から貰ってきたジャガイモで作ったブランダードを、薄切りのバゲットに塗り付けて齧ると、「何だって」と先程の言葉の続きを促した。
「あの後女が泣いてるのを佐藤が慰めて、そのまま付き合うことになったらしい、ってさ」 「はあ?それって俺たちと全然関係なくねぇ?というか、一体何だったんだよあの女は……」
 昨夜のことを思い出すだけで鳥肌が立つ。あの真っ赤なリップが脳裏に焼き付いて離れない。それに、俺たちが聞きたかったのはそんな話ではない。喧嘩を起こしそうになったあの場がどうなったとか、そんなことよりもどうでもいい話を先に報告してきた鈴木にも悪意を感じる。多分、いや確実に、このハプニングを鈴木は面白がっているのだろう。
「あいつ、お前と同じクラスだった冴木って女だそうだ。佐藤が聞いた話だと、やっぱりお前のファンだったらしいぞ」 「……全っ然覚えてねぇ」 「だろうな。見ろよこの写真、これじゃあ詐欺も同然だな」
 そう言って見せられた一枚の写真を見て、俺は食べかけのグリッシーニに巻き付けた、パルマの生ハムを落としそうになった。写真は卒アルを撮ったもののようで、少しピントがずれていたがなんとなく顔は確認できた。冴木綾乃……字面を見てもピンと来なかったが、そこに映っているふっくらとした丸顔に腫れぼったい一重瞼の女には見覚えがあった。
「うわ……そういやいた気がするな」 「それで?これのどこが俺の女だって言うんだよ」 「し、失礼しました……」 「そりゃあ今の彼氏の佐藤に失礼だろうが。それに別にブスではないしな」
 いや、どこからどう見てもこれはない。俺としてはそう思ったが、確かに昨日会った女は素直に抱けると思った。人は歳を重ねると変わるらしい。俺も君下も何か変わったのだろか。ふとそう思ったが、まだ青い高校生だった俺に言わせれば、俺たちが同じ屋根の下で10年も暮らしているということがほとんど奇跡に近いだろう。人の事はそう簡単に悪く言えないと、自分の体験を以って痛いほど知った。  君下は短くなった煙草を灰皿に押し付けると火を消して、何も巻かないままのグリッシーニをポリポリと齧り始める。俺は空になったグラスを置くと、コルクを抜いて黄金色を注いだ。
「あー、そうだ。この間田舎に帰っただろう、正月に。その時にばあちゃんに、お前の話をした」 「……なんか言ってたか」
 聞き捨てならない言葉に、だらしなく木製の折りたたみチェアに座っていた俺の背筋が少しだけ伸びる。  その事は俺にも違和感があった。急に田舎に顔出してくるから、と俺の車を借りて出て行った君下は、戻ってきても1週間の日々を「退屈だった」としか言わなかったのだ。なぜこのタイミングなのだろうか。嫌な切り出し方に少しだけ緊張感が走る。君下がグリッシーニを食べ終えるのを待っているほんの少しの時間が、俺には気が遠くなるほど長い時間が経ったような気さえした。
「別に。敦は結婚はしないのかって聞かれたから答えただけだ。ただ同じ家に住んでいて、これからも一緒にいることになるだろうから、申し訳ないけど嫁は貰わないかもしれないって言っといた」 「……それで、おばあさんは何て」 「良く分からねぇこと言ってたぜ。まあ俺がそれで幸せなら、それでいいんじゃないかとは言ってくれたけど……やっぱ少し寂しそうではあったかな」
 そう言って遠くの空を見つめるように、君下は視線を空へ投げた。真冬とは言え太陽の光は眩しくて、自然と目元は細まった。テーブルの上に投げ出された右手には、光を反射してきらきらと輝く金色が嵌められている。昨夜君下が眠った後、停車中の誰も見ていない車内で俺が勝手に付けたのだ。細い指にシンプルなデザインはよく映えた。俺が見ていることに気が付いたのか、君下はそっとテーブルから手を離すと、新しいソフトケースから煙草を一本取りだした。
「まあこれで良かったのかもな。親父にも会ってきたし、俺はもう縛られるものがなくなった」 「えっ、まさか……昨日実家寄ったのってその為なのか」 「まあな……本当は早いうちに言っておくべきだったんだが、どうも切り出せなくてな。親父もばあちゃんも、母さんを亡くして寂しい思いをしたのは痛いほど分かってたし、まあ俺もそうだったしな……それで俺が結婚しないって言うのは、なんだか家族を裏切ってしまうような気がして。もう随分前にこうなることは分かってたのにな。気づいたら年だけ重ねてて、それで……」
 君下は、ゆっくりと言葉を紡ぐと一筋だけ涙を流した。俺はそれを、君下の左手を握りしめて、黙って聞いてやることしかできなかった。昼間から飲む飲みなれないワインにアルコールが回っていたのだろうか。それでもこれは君下の本音だった。  暫くそうして無言で手を握っていると、ジャンボジェット機が俺たちの上空をゆっくりと通過した。耳を塞ぎたくなるようなごうごうと風を切り裂く大きな音に隠れるように、俺は聞こえるか聞こえないかの声量で「愛してる」、と一言呟く。君下は口元だけを読んだのか、「俺も」、と聞こえない声で囁いた。飛行機の陰になって和らいだ光の中で、俺たちは最初で最後の言葉を口にした。影が過ぎ去ると、陽射しは先程よりも一層強く感じられた。水が入ったグラスの中で、溶けた氷がカラン、と立てたか細い音だけが耳に残った。
1 note · View note
konyokoudou-sk · 6 years
Text
一日一はや慕Weekly 2017年11月8日~11月14日
734. 11月8日(1)
慕「そんなに私のお腹がいいの?」 は「かわいいというか…なんて言えばいいのかな…」 慕「愛おしい?」 は「そう、それだよ…はぁ…スベスベしてて気持ちいい…」ペロッ 慕「んっ…」 は「気持ち悪かったらごめんね」 慕「はやりちゃんなら…いいよ?」
735. 11月8日(2)
は「慕ちゃんって、いい女だね」 慕「ずっと付き合ってて、今になってそれを言う?」 は「なかなか言う機会なかったから…」 慕「そうかな」 は「忙しい私の代わりに、ご飯作ってくれて家事もしてくれて…」 慕「はやりちゃんのためだから当たり前だよ」
736. 11月8日(3)
慕「はやりちゃん、今日はノーブラ?」 は「わかっちゃった?」 慕「こう、おっぱいの形でわかっちゃうんだよ」 は「うーん、せっかくだからサプライズで不意打ちしようと思ったのに」 慕「ノーブラで?」 は「いきなり背後からしてあげたら喜ぶかなって」
737. 11月8日(4)
九月一日 夏休みを終えて 久しぶりに学校に登校してみると 不思議とはやりんの姿が 色っぽく見えた閑無ちゃん 「(はやりのやつ、また胸でも大きくなったのか)」 夏休み中にも練習に遊びにと はやりんに会う機会があったが その時は色っぽさはそこまで感じなかった
だが今のはやりんは 制服からにじみ出る所作 身体のラインといい 他者をまなざす目 すべてにエロスを感じ取ることができた 「閑無ちゃん?」 「あ、ああ…おはよう」 はやりんに話しかけられて 胸の鼓動の高鳴りを感じずには居られなかった 「休み明けだから調子悪い?」
「そんなことないけど…」 思わず身振りを交えて 否定してしまった そうしなければこの高鳴りを消せないから 閑無ちゃんは急激なはやりんの変化に 戸惑い一度は沈黙するが その困惑をそのまま言葉として絞り出した 「はやりこそ、どうしちゃったんだよ…女にでもなったのかよ」
「そうだよ」 疑問にためらい無く答えたはやりんに 心がざわめく閑無ちゃん 「お、男子かよ…。はやりなら…いくらでも…その…モテるだろうし」 内面の嫉妬心を押しとどめられず 言葉にすることで自分を沈静させようとするが それは次のはやりんの一言に裏切られることになる
「慕ちゃん、だよ」 「慕…?」 予想外の人物の名前が出て もはや考えることすらままならなくなった 「夏休みのある日にね、慕ちゃんと初めてエッチしたんだ」 道理ではやりんと慕ちゃんが 仲が良いと思っていた はやりんの言葉を聞くまで ただの仲良しの範疇だと思い込んでた
でもそれも今思えば どんどん身体でのスキンシップが増えてた それも性的なものも交えた 閑無ちゃんはその変化を目の当たりにしていながら そういう意味だとは気づかなかった 「お前ら…そこまで仲良かったのかよ」 「全然違うよ。私は女として慕ちゃんのことが好きなんだ」
はやりんの告白に頭が真っ白になっていく いやわからなくなっていった 今目の前に立っている女の子に 抱いている感情も何もかも 「あはは…」 もう笑うしか無かった 石飛閑無には理解できなかった はやりんと慕ちゃんの間に流れてる愛も 自分の心の底に潜む思慕の感情も
「はやりちゃんおはよう」 「慕ちゃん!」 噂をすればなんとやら 慕ちゃんが登校してきて駆け寄るはやりん 二人の会話を見てもはや彼女たちを 素直な目で見れない自分に気づく閑無ちゃん そしてその光景から目を背けるように 廊下を駆け出していた 「なんなんだよ…あいつら」
誰も居ない場所に逃げ出して うずくまって泣いていた 理由は自分でも自覚できなかった 「なんなんだよ…なんなんだよ…」 二人への恨み節を呟きながら 自分の心が空っぽになっていくのを感じていた 石飛閑無が自分のその感情を 喪失感と自覚するには当分先のことだった
738. 11月9日
慕ちゃんがはやりんに ナイショでローソクプレイ用に 注文していたキャンドルが届いた 「これ何?」 「秘密」 「意地悪」 もちろんセックスに使われるなんて はやりんは知る由もない 「アロマキャンドルかな」 「ふぅーん」 慕ちゃんの言葉にとりあえず納得するはやりん
「知らなかった…慕ちゃんがそういう趣味なんて…」 一人でブツブツ呟いてるはやりんに くすっと笑う慕ちゃん まぁ『そういう趣味』なんて 気づくはずもないよねと 含み笑いの意味合いもあったが 「(とりあえずサプライズだから、本番まではやりちゃんには秘密にしとこっと)」
透明な蝋がはやりんの肌を伝って 灼いていく妄想に浸っていると 好奇心に満ちたはやりんからの一言が飛んでくる 「どんな香りかな~、やってみたい」 「それは今夜のお楽しみだよ」 「お預け~?じゃあどんな感じか教えてよ」 「甘い甘い匂いがする、それだけかな」
可能な限り楽しみを削がず 実態をぼかした説明をする慕ちゃん 「とりあえず寝るときに使うから、今夜はグッスリと眠れるよ」 「きっと綺麗だろうなぁ…」 キャンドルの正体を知らずに 無邪気なことを言うはやりんを見て 彼女に聞こえないように今夜が楽しみと 慕ちゃんは呟いた
慕ちゃんにとって 待望の夜も更けて いよいよ眠りにつこうとする二人 「あ、キャンドル付けよっか」 「わーい」 最大限にリラックスしたいのか 二人ともネグリジェ一枚だけしか 身につけていない 慕ちゃんにとってはそれもまた都合が良かった 「じゃあ始めよっか」
ゆっくりとキャンドルに火をともし 蝋が溶けるのを待っている間 はやりんをその気にさせようとする慕ちゃん 「するの?」 「うん」 遠慮無くネグリジェの上から はやりんの肢体に触れていく 「んっ…」 そのまま覆い被さって口を塞いで エッチな気分を高めていく
蝋の溶ける匂いでさらに 気分が高揚してもうしなければ すっかり気が済まなくなっていた 「エッチな慕ちゃん…」 「はやりちゃんはそれ以上だよ」 はやりんのゆったりしたネグリジェの肩紐を そっと降ろして生まれたままの姿に剥いていく 「すべすべでもちもち…」
これから蝋に覆われていく はやりんの柔肌を惜しむように 愛おしげに撫でる慕ちゃん 「何笑ってるの…」 そろそろ頃合いだと思い 溶けた蝋をはやりんのお腹に ゆっくり垂らす慕ちゃん 「あつっ…」 眉をひそめて怯えたような顔の はやりんを他所にさらに蝋を広げていく
「まさか…アロマキャンドルじゃなくて?」 「そう、ローソクプレイ用のキャンドルだよ」 突然のサプライズに 不意を突かれた格好になったが それも込みで楽しむことにしたはやりん 「火傷しちゃう…」 「低い温度で溶けるやつだから大丈夫だよ」 そして蝋を腹部から胸に移す
「はやぁっ…」 「はやりちゃんの敏感なおっぱいにアツアツな蝋が乗って…まるでケーキみたい」 そしてさらにはやりんの身体に蝋を走らせる はやりんという名の白いホールケーキを ローソクでデコレーションするように 「生クリームとイチゴも乗っけないといけないかな」
「はぐっ…」 蝋の乾いたころを見計らって はやりんの乳頭をガブリと噛みつく慕ちゃん 「もっと食べてよ」 「うーんまだ甘さが十分じゃないみたい」 味に納得がいかない慕ちゃんは さらに蝋をはやりんの身体に落としていく 「もうちょっといじめてみないと、ね?」
慕ちゃんのいかにも サドっ気のある表情にたじろぐはやりん だが表面の怯えに反して 身体の方は快感が迸っていることを 慕ちゃんは見逃さなかった 「(楽しみだなぁ…はやりちゃんがいじめられて喜んでる顔を見るの)」 こうして二人の夜はさらに更けていくのだった
そしてすべてが終わったころには すっかり日が昇っていた はやりんの身体には すっかり乾いた蝋がこびり付いていた 「もぅ…慕ちゃんが『そういう趣味』だなんて…」 明らかにキャンドルの届いた時に 言っていたそれとは違う響きがあった 「びっくりしてもらおうと思って、ね」
「そういう方向でびっくりさせなくてもいいのに…いたっ…」 ローソクの跡を剥がす途上で 産毛を巻き込んだらしく呻くはやりん 「乾いたのもこれはこれで…」 「うだうだ言ってないで剥がしてよ…」 一晩中して眠たげな頭で 黙々とローソクを剥がしていく慕ちゃん
「シミになったらどうするの…」 「でも楽しかったでしょ」 頭をポカポカ叩いてくるはやりんに あえて抵抗しない慕ちゃん 「(今度はもうちょっと本数増やしてやってみよっか。あとアロマも足そっか。その方がはやりちゃんも喜ぶし)」 次のプレイの構想 いや妄想に浸る慕ちゃん
739. 11月10日
満員御礼で大盛り上がりの はやりんのライブ 「いぇ~い、みんな盛り上がってる?今日のライブは特別ゲストも呼んであるから楽しんでね」 ピンクのサイリウムを振り上げながら テンションをさらに上げていくファンたちを尻目に ステージの端っこの方を眼差すはやりん
「あっ?」 そして何かを見つけたらしく ゆっくりと駆け寄っていくはやりん ステージの端から出てきた人物も はやりんの方へと寄っていく 「慕ちゃん?」 「はやりちゃん?」 お互いにマイクを手にして 向かい合う二人 じっと見つめ合う二人を 固唾を呑んで見守るファンたち
「せーの、いぇい?」 背中を合わせて指さすポーズを取る二人の息が 合ってるのを見て盛り上がっていくステージ 「みんな知ってると思うけど、今回の特別ゲストは私のとっても大切な人、白築慕ちゃんです?」 はやりんの声でファンたちは 沸き立つように声を張り上げた
――はやりーん! ――世界一かわいいよ! ――白築プロもかわいいぞ! ファンからの歓迎の声を聞いて 緊張をほぐす慕ちゃん はやりんが事あるごとに慕ちゃんとの ノロケをあちこちで言っていたこともあって はやりんのファンの間でも 慕ちゃんの人気と認知度は高くなっていた
はやりんに促されて 咳払いをしながら ファンに語りかける慕ちゃん 「皆さん、私のはやりちゃんのライブに集まっていただいてありがとう」 言い様によっては不遜にも聞こえかねない 発言であるが特に抗議の声は聞こえてこなった上に 拍手を貰って思わず照れる慕ちゃん
「さぁ、そろそろ新曲行っちゃうよ?初お披露目のデュエット曲!」 はやりんの手慣れたMCを聞いて 敵わないやと嘆息しつつ 覚悟を決める慕ちゃん このライブのために何ヶ月もはやりんと 一緒に歌の練習をしても解けない緊張 「(はやりちゃんにはやっぱり敵わないや…)」
目の前のはやりんのファンの期待を 裏切るまいと思うあまり 緊張に沈んでしまいそうになる慕ちゃん 一瞬だけ自分の方を向いたはやりんの目は 大丈夫だよと語りかけるようだった 「(私がリードしてあげる)」 すっかり緊張から解き放たれて しっかりと前を見つめる慕ちゃん
「(はやりちゃんがしっかりと私のことを見てくれるなら!)」 マイクをしっかり握り直す慕ちゃん 「私と慕ちゃんの歩みをそのまま曲にしたものだよ」 「うん、今に至るまでいろんなことがあったね」 脳裏に蘇るのは島根での出会いと思い出 そしてはやりちゃんへの愛
それらを絞り出して声を出す 「それでは行きましょう、『二人の歩み』」 はやりんらしいポップな旋律に合わせて 練習通りに歌っていく 最高潮に沸き返るステージ 隣で微笑みながら 一緒に歌っているはやりん 歌っているのが不思議と楽しくて しょうが無くなる慕ちゃん
気づけば最後までよどみなく デュエットを歌いきっていた ――ありがとう ――ひゅーっ ファンからの大歓声に 崩れ落ちそうになりながら ありがとうの一言を涙ながらに言って はやりんと一緒にステージを降りていく慕ちゃん 「慕ちゃん、頑張ったね」 「うん」
740. 11月11日(1)
慕「はやりちゃんすごい…弾けるのはピアノだけと思ってた」 は「牌のお姉さんになるからには、全部の楽器を完璧にこなすよ☆」 慕「(あれ、別に使ってるところ見たことないような)」 は「この曲はこれ」 慕「ベースになるとこういう感じになるんだ」 は「他にもね」
741. 11月11日(2)
慕「このポッキーを胸に挟んでみて」 は「おっぱいがチョコでべとつくよ?」 慕「汚れたところは後で舐めてあげるから」 は「しょうがないなぁ…ほれっ」 慕「わぁ…流石はやりちゃん…すごくおっぱいが強調されてる」 は「早く食べて?」 慕「はっ、はいっ…///」
742. 11月11日(3)
「香水?」 「新しく買ったんだ」 ピンク色の香水瓶を 慕ちゃんにちらりと見せるはやりん もちろん校則では 無用な化粧は禁止されてるので 誰も居ない空き教室で こっそりと使う 「けっこう��そう」 「仕事のついでで買ってきたから高かったかも」 「いいなぁ…」
だが実はこの香水瓶の中身は 香水などではなく『惚れ薬』なのだ 「(惚れ薬をこっそり作ってみたんだ。レシピはネットで調べて)」 材料も本当に高い香水を 一つ買えるほどには高かった この惚れ薬で友達以上恋人未満のまま 進んでない慕ちゃんとの関係を一歩進めたいと思ってた
「ねぇ、慕ちゃん。この香水使ってみる?」 「え?いいの?」 何も知らない慕ちゃんは 感嘆に首を縦に振ってくれた 校内なのでほんのちょっとだけ 顔にスプレーする カモフラージュも兼ねて入れた バラの香りが鼻腔を仄かにくすぐる 「(確か効果はすぐにでも出るはず…)」
しかしいくら待っても効果など出ない 「(おかしいなぁ…レシピ通りに材料を配合したはずなのに…)」 惚れ薬を作るときにも 計量ミスなどしてないはずなのに どうして慕ちゃんの様子に変化が見られないのか 「はやりちゃん…これ、香水じゃないよね」 「気づいてたの?」
気づくそぶりなど見せなかった慕ちゃんに 唐突に見破られて動揺するはやりん 「気づくも何も、これお母さんが作ってネットにレシピをばらまいた惚れ薬なんだよ」 まさかの真実を突きつけられて 流石に罪悪感が沸いたはやりん 「ごめんね…イタズラするつもりじゃなかったんだ」
「実はね、私ずっと慕ちゃんのことが好きだったんだ。友達じゃなくて恋人として…。でも慕ちゃんは私のこと友達としてしか見てくれなくて…。惚れ薬でも使ったら振り向いてくれるかなって」 罪悪感と償いの感情も手伝って 自分の思いを吐き出すはやりん 「私なんか気持ち悪いよね」
「身勝手な感情で慕ちゃんを傷つけて…。これじゃ…」 一方はやりんの告白を聞いて 引くどころか驚きもせず むしろ納得した表情を浮かべる慕ちゃん 「あ、道理で薬が効かないって思った」 「どういうこと?」 「この薬にはね、ある秘密があって」 はやりんに耳打ちする慕ちゃん
「使う相手がすでに恋に落ちてたらもう効かないんだよ」 「え…」 「つまり、私もはやりちゃんのことが好きだから。もう効かないんだよ」 片思いと思ったら両思いだったことを 告げられて今度は歓喜にむせび泣くはやりん 「あはは…なんだ…慕ちゃんも私のこと…」
「でもびっくりしたよ。お母さんが開発した薬を使ってくるなんて」 「ううう…」 とはいえ慕ちゃんへの思いが 一方通行で無かったことを知っただけでも はやりんにとっては十分だった 「あのね…こんなことがあったけど、慕ちゃんは私に失望してない?」 「してないよ」
「むしろお母さんの作ったあの薬を作れるなんて。流石はやりちゃんだよ。私じゃ作れなかったから」 いつしかはやりんは 慕ちゃんの胸のなかで泣いていた 思いが通じ合った感動と 色んなモノが混ざり合って だがその瞬間先生が 空き教室に入ってきて 「なんだこの匂いは…」
「ビン…瑞原、白築。まさか隠れて化粧でもしていたな」 「ごめんなさいっ」 「あはは…」 惚れ薬の匂いを香水と勘違いされた 二人は見事に反省文コースと相成りました ちなみに既婚者で奧さんと 仲良しな先生には惚れ薬の効果はなかったそうです めでたしめでたし
743. 11月12日
「むむむ」 慕ちゃんが何枚かの スーパーのチラシを見て 考え込んでいる 「Aは卵が特売…Bは国産牛がお値打ち…Cは…」 熱心に何を買うかを考えて 悩んでる慕ちゃんが 面白くてつい横から見てしまうはやりん 「ああもうわからない…はやりちゃん決めて」 「え…」
判断を丸投げされて 必死に考えてみるはやりんだが 「わからない…たかだか数十円節約できるだけなのにそこまでケチケチしなくても~」 「何言ってるのはやりちゃん。一円を笑う者は一円に泣く。それが主婦の世界だよ」 すっかり主婦モードになった 慕ちゃんに気圧されるはやりん
気を取り直して二人して チラシに首引きになりながら 一生懸命考えてみると つい楽しくなってしまう 「うーん、じゃあAではこれで」 「あ、悪くない」 モノの値段だけ見るのではなく 何を食べたいかや食材の賞味期限まで 含めて考えて答えを出していくのが楽しいのだ
「多分これが最善だと思います」 「はやりちゃんよくできました」 30分ほど時間を掛けて やっと買い物リストを仕上げた二人は 今夜の夕食を頭に浮かべながら スーパーに行くことにした もちろんちょっとしたデート感覚で 「たまにはこういう買い物もいいよね」 「うん」
先ほどの買い物リストをカゴに入れて そして空いた手を二人で繋ぎながら るんるん気分で一番近いスーパーへ歩く 「こうしてみると麻雀プロと牌のお姉さんってわからないね」 「いかにも主婦二人だもんね」 生活感がありすぎる今の自分たちの姿に 不思議と笑ってしまう二人だった
744. 11月13日(1)
慕「はわぁ…」 は「ど…どうかな?」 慕「ほっそりとしたわりにこの柔らかさ…たまらない…」 は「良かったぁ…」 慕「それに頭の収まる窪みが自然にできてて寝心地最高…」 は「その上私も一緒に楽しめる」 慕「そう!それ!」 は「えへへ…これ食べる?」 慕「うん」
745. 11月13日(2)
慕「はやりちゃんの正体はただの甘えん坊さんだよね」 は「バレた!?」 慕「とっくにバレてるよ。しかも私に引っ付いて離れてくれない。ホントにアイドル?」 は「アイドルだよ!?」 慕「みんなのものじゃなくていいの?」 は「今は慕ちゃんのものだから」
746. 11月13日(3)
「たまにはこういうのもいいね」 「慕ちゃんもたまには休めばいいんだよ」 いつも晩飯は家で食べてるだけに 二人で外食しかもチェーン店で というのもなかなか乙なモノだ 「はやりちゃん牛丼?」 「慕ちゃんも牛丼?」 トートロジーめいたやりとりに 思わず笑顔がこぼれる二人
お揃いで牛丼を注文して 出されたお茶も飲みきらないうちに 二人分の牛丼がやってくる 「はやりちゃん大盛り!?」 「大盛りじゃないとガツガツした食感味わえないし…」 明らかに数人前の分量なので 食べきれるか心配になる慕ちゃん 「そんなに食べて…おっぱいになるか」
アイドルとは思えないはやりんの 食べっぷりに笑ってしまう慕ちゃん 「何その目」 「ガツガツ食べるはやりちゃんもかわいいなぁって」 「褒めてないでしょ…それ…」 大盛り一皿食べても満足して無さそうな はやりんのためにさらにもう一皿 牛丼を注文する慕ちゃん
747. 11月14日(1)
は「埼玉☆」 慕「え、はやりちゃん島根出身でしょ」 は「何言ってるの、チームが埼玉だから一応私も埼玉だよ☆」 慕「でも住んでるのは神奈川だよね」 は「そうだけどそこには触れないで!?」 慕「いつも私の家から大宮に通ってるのに…」 は「通勤生活は辛いよ☆」
748. 11月14日(2)
は「綺麗…」 慕「でも高いね」 は「結婚指輪にはいいかな」 慕「…。これを一ついただけますか。キャッシュで」 は「えっ」 慕「欲しかったんでしょ結婚指輪」 は「今欲しいわけじゃ…でも嬉しい」 慕「はやりちゃんの指には似合ってるから」 は「そう言われると嬉しい…」
749. 11月14日(3)
「慕ちゃんはさ~、そんな時でもぐっすり眠っちゃってさ」 スヤスヤと寝入ってる慕ちゃんには 当然はやりんの声は聞こえない 最近原因はわからないが ベッドに入っても寝付けないはやりん 「(眠ろうと思ってもなかなか眠れないんだよね…。精神的におかしいわけでもないのに)」
こうして寝付けない日には 慕ちゃんの寝顔を観察するなどして 眠気が来るのを待つ 「私の苦労も知らないで眠ってる慕ちゃんには、こうだ」 慕ちゃんのプニプニしたほっぺを ギュっと抓ってみても起きない そしてイタズラはエスカレートして パジャマの下の部分をズリ降ろす
さらに慕ちゃんの陰部に軽く触ってみると じんわりと水気を感じる 「ははーん、慕ちゃんの見てる夢はいやらしいのかな?」 そのまま彼女が起きないのをいいことに 今度は上半身の方も脱がしてしまい その身体を貪り続けるはやりん 「ん…んんっ…」 「夢のなかでも感じてる?」
慕ちゃんの身体を堪能しすぎて 眠気とはほど遠い興奮状態のはやりん 眠り姫である慕ちゃんの方も 肉体の方に引きづられて 快感に悶えるような顔をする はやりんが慕ちゃんの性感帯を 起きない程度に弄ってると 「ひゃめっ…はや…」 慕ちゃんの口から寝言が漏れ出した
寝言から察するに慕ちゃんは 夢の中でも快感を貪っているのか 「慕ちゃんばかり気持ちいいこと楽しんで」 理不尽な怒りを慕ちゃんの身体に ぶつけてるうちはやりんも眠たくなり 裸の彼女を放置したまま眠りについた そしてはやりんは起きた後で 慕ちゃんにお説教されましたとさ
0 notes
minecism · 7 years
Text
【ライヴレビュー】祝春一番2017
 遅くなりましたが今年もゴールデンウィーク5月4日~6日の3日間に渡り大阪の服部緑地野外音楽堂で行われました<祝春一番コンサート2017>を見てきました。2013年から5年連続で有志スタッフとして参加。21歳の時に初めて春一番事務所に行き、もう今年間もなく26歳になろう��しております。
 社会人1年目で忙しかった2014年は書けなかったですが、観客として見た2012年から例年ライヴレビューを書いています。2012年、2013年、2015年、2016年と並べて読んでいきますと、春一番というイベントの変化(1971年スタートである長い歴史の中では本当に“直近”ではありますが)、また自分の春一番の見方、ライター・評論家として分析力・筆力の上がり下がり、上京を含めた自分の周りの環境の変化も時系列で追えるものになってきました。楽しい。
 ●2012年
「いっちゃんええ音楽を届ける春一番」
●2013年
・春一番で見た美しい風景①~スタッフ・事務所・裏方編~
・春一番で見た美しい風景②番外編 音楽ジャーナリズムを文献調査~センチメンタル・シティ・ロマンス事件を通して
・春一番で見た美しい風景③~供養編~
●2015年
・開催前【コラム】30回目の祝春一番、GWにホンモノの風を吹かせる
・開催後【ライヴレビュー】祝春一番2015
●2016年
【ライヴレビュー】祝春一番2016
 なので今年も所業、ライフワークとしてライヴレビュー書いていきます。6年目の定点観測だ。“春一番を広める!”というような大義はございません。70年代から現在まで継続している稀有な音楽イベントの“現場で鳴っている音楽をしっかり解釈して記録する”という、音楽の文章において大切な役割でありながらも、最近希薄化しているような気がする行為を自分は丁寧にやっていきたい。その行為の結果は後からついてくると思います。決して譲れないぜこの美学 ナニモノにも媚びず己を磨くんですよ。足跡からも学ぶぜ謙虚にですよ。ってそりゃRHYMESTER、関係ねぇ。
 それでは参りましょう。つきましてはもう春一番というものがどんなコンサートなのかという部分は再三書いておりますので、上記これまでのライヴレビューや公式HPをご確認くださいませ。
祝春一番2017公式HP
---------------------------------------
Tumblr media
 昨年祝春一番2016年のライヴレビューで私は最終段落にて「年々それほど大きく変わらぬラインナップに伝統化や70年代の追体験的見方をされることもあるが、風太は勝手に言わせておけばええ、こっちはこっちでおもろいことやったんねんと誇りをもって春一番を作り続ける。」という書き方をした。その上で演者の気合いの入ったステージだったり、ここでしか体感出来ない春一番の独特の空気感が大きな魅力として一貫していて、その魅力が体現されている様々な模様を毎年切り取ってレポートしてきたし、変わらない姿勢の素晴らしさを伝えてきた。そんな中での今年。これまでの姿勢は崩すことはなく、加えて70年代からずっと日本のロック・ブルース・フォークを鳴らしてきた春一番の音楽を、2017年現在にどう伝えるのかということに意識を置いている場面が多く伺えた。その点は大きな進化と言っていいだろう。そんな今年ならではの素晴らしい風景を中心に書き連ねていく。
Tumblr media
<今年の春一番のシンボル>
 毎年野音のステージ上にはその年のテーマに応じた木造の大道具が設置される。今や春一番のステージにはなくてはならないイラストレーター諸戸美和子による演者全員分をレタリングした「めくり」は定番となっているが、ステージセットとして過去には2階建ての居酒屋風のセットが組まれたり(演奏中のバンドのすぐ頭上で出演終わりの演者が2階に上がって打ち上げしているという奇怪な光景が生まれていた)、2015年には高田渡10周忌に際して生前愛用していた3輪車が吊るされていたり、毎年様々な趣向を凝らしている。今年は羽が3枚付いた大型の風車がステージに登場した。これはTHE END(4日出演)の演奏中遠藤ミチロウが雄叫びを上げる後ろで、また有山じゅんじ(6日出演)が「ぐるぐる」を演奏するタイミングなどでスタッフがよじ登り回転させるダイナミックな可動演出がなされ歓声が沸いていたが、それ以外にある明確な意味をこの風車に持たせていたのだ。各日中盤でその羽は外され、外枠の円の中に鳥の足跡を逆さまにしたような風車の骨組みで構成された、ピースマークが現れた。そうすると遡ってわかるのは3枚の風車の羽は原子力発電所のシンボルマークを示していたこと。羽が外されること(=脱原発)によって平和が訪れるというストーリーの演出は主催者福岡風太が度々口にする70年代からの春一番の基本理念、「反戦・反核・反差別」を体現するメッセージだ。羽に塗られた色も1日おきに描き加えられ3日間通して来た観客も毎日気を向かせる。逆に見れば今一度この理念を明確に打ち出さなければいけない方向に世の中が向かっているかもしれない。誰しもがハッとするような見事な今年の春一番のシンボルとなっていた。
Tumblr media
<加川良の曲を受け継ぐgnkosaiBAND、たくさんの演者たち>
 またそんな変化に加えて開催1か月前の4月5日にかねてから闘病中だった加川良が亡くなったことは大きな衝撃だった。春一番初回の71年から出演し続け、また昨年まではいつも通りの自由な佇まいで元気に歌っていたのに。また久々に『みらい』という素晴らしいオリジナルアルバムを完成させたばかりなのに。という悲しみが癒えないままに迎えた今年のゴールデンウィーク。福岡風太は初日4日のトップバッターを加川の息子gnkosai(Vo,Dr,ポエトリーリーディング)が率いるgnkosaiBANDに任せた。春一番は演者のタイムテーブルを発表せず、また11時の客入れ開場と同時に演奏が始まる。席も全て自由席だ。その中の1曲目、ゆったりしたビートで始まりドラムを叩きながらgnkosaiが歌いだした。<北の果てから南の街へ ほっつき歩いて…>一瞬加川良が歌っているかと思った。この「ラブソング」は加川の代表曲の一つ。加川を思わせる声でこの曲が始まったことに、入場門には早く中で見たいと観客が押し寄せる。加川良の不在を受け入れる覚悟をしながら、席に着きじっと耳を傾ける観客の光景が忘れられない。ステージ最後には「加川良 with gnkosaiBANDでした」と言って今年の春一番の幕開けを告げた。ここ数年でもう常連の演者となったgnkosaiだが、春一番で父との共演はなかった。加川自身が恥ずかしがって同日出演になることすら恥ずかしがるように避けている様子もあった。しかし今年初共演にして一気に加川良の存在を自らの音に乗せて観客一人一人の中に昇華してしまうようなステージだった。(前述のアルバム『みらい』では全面的にドラムとして参加、親子共演が音源で聴くことが出来る。)
 また3日間の開催中、加川良の曲をカバーしたのはgnkosaiだけではない。以下に列挙しておく。
---------------------------------------
・gnkosaiBAND「ラブソング」
・金佑龍「教訓I」(ワンフレーズ)
・MOJO CLUB Special「こんばんわお月さん」
 ※三宅伸治がこの曲演奏時に使ったストラトギターは本曲収録作品『アウト・オブ・マインド』(1974年)に参加しており、一昨年亡くなった石田長生のものだという粋な気遣いを見せた。
・小谷美紗子「教訓I」
・有山じゅんじ「コスモス」
・ハンバートハンバート「伝道」「あした天気になあれ」(メドレー)
---------------------------------------
 一番の代表曲といえるだろう「教訓Ⅰ」を歌ったのは小谷美紗子(5日出演)、グランドピアノ弾き語り一発、<命は一つ 人生は一回>で始まるこの曲が再び反戦歌として機能し始めている2017年の野音の空に小谷の声が突き抜けていく心地がまたよかった。また裏話だが今回誰がどの加川良の曲をカバーをするのか主催側に演者から問い合わせがあり「この人はこの曲レパートリーにあるのでやるかもしれません…/昨日はゲンキバンドが「ラブソング」やり���した」としか答えることが出来ずに探り合っていたということもここに記しておこう。ハンバートハンバート(6日出演)は春一番のステージで加川良とよくコラボしていた「夜明け」から始まり、加川の曲「伝道」~「あした天気になあれ」とメドレーで繋ぐ。誰もが特にMCで思い出を語り感傷に浸るわけではなく、それぞれのレパートリーとして演奏する。それは加川が晩年ザ・ブルーハーツ「青空」や泉谷しげる「春夏秋冬」を本当に自分の曲のように気に入り歌っていたことと同じのように。それは福岡風太が度々「俺たちは懐メロやないよ/カヨー曲とはちゃう」と口にしてきたかのように。加川良の曲がそれぞれ残ったものに引き継がれ、新たな価値観でもって演奏される様が痛快だった。
youtube
<自分の道を記録し、新たな動きを見せるベテラン勢>
 少しライヴの本筋から外れてしまうが、福岡風太は春一番を作品だと言う。自身のアウトプットとして春一番という野外コンサートを作り続けてきたことがそのまま足跡になっているが、彼の世代は紛れもなく日本のロック・フォーク・ブルースを最初に定義し生み出してきた世代だ。春一番に関連のある人物の中でも近年各々がその足跡を残す動きをしていることは注視しておく必要があるだろう。昨年は春一番の会場にも姿を見せていたベルウッド・レコードの三浦光紀は2012年の創設40周年頃から「三浦光紀の仕事」としてトークイベントや本の出版、またリイシューを手掛けるなどの活動を活発化させており、45周年となる今年は10月に記念コンサートも予定されている。その三浦のアシスタントからキャリアをスタートさせ、シュガー・ベイブ(及び山下達郎、大貫妙子)や福岡風太も長らくロードマネジャーを務めていたセンチメンタル・シティ・ロマンス、またフリッパーズ・ギター、L⇔Rなどを手掛けた音楽プロデューサー牧村憲一はいわゆる90年代渋谷系までの足跡も含めてハイペースで書籍の執筆や自身の体験を語るイベントなども行っている。またより春一番との関連が深いところで言えば毎年入口付近で雑誌“雲遊天下”や関連本・CDの物販を出しているビレッジプレスの村元武は大阪労音に参加し、URCでの“フォークリポート”に参加していた60年代から、80年代まで関西の音楽・演劇・お笑い・映画などカルチャー全般に大きな影響を残した“プレイガイドジャーナル”の創刊から会社を離れるまでの回顧録を昨年と今年に分けて2部作に渡って発表している。2冊とも必読。(「プレイガイドジャーナルへの道 1968~1973」「プレイガイドジャーナルよ1971~1985」)。また長年ミュージシャンや芸人などを撮り続けてきた写真家・糸川燿史は御年83歳で病気とも闘いながら、すでに話芸に達しているほどの流暢で柔和な喋りでもって今なお写真展やトークイベントで自身の経験を伝えている。現在大阪・北浜で行われている90年代の「マンスリーよしもと」で撮られた写真展「糸川燿史写真展・大阪 芸人ストリート」が行われている。今週末までの開催なので関西方面の方は是非行っていただきたい。(私も行きたくてしょうがない…)
 上記はいわば裏方的な活動をしてきた方たちが自分の口で、あるいは文章・イベントで形に残す活動だったが、一方で演者の中でも久々に新しいアルバム作品に取り組む動きが出てきており、春一番のステージでも新鮮な姿が感じられた。初回からザ・ディランⅡとして春一番の顔的役割を果たしている大塚まさじは現在約17年ぶりのスタジオアルバムに取り組んでいる最中だ。一緒にバンド月夜のカルテットで活動していた島田和夫(ex憂歌団)が2012年に自死で亡くなったことから発起。新たな曲作りに踏み出し、ようやく今年はアルバムという形になる過渡でのステージだったがアルバムに収録されるだろう「いのち」から、代表曲「男らしいってわかるかい」まで披露、99年の西岡恭蔵の自死を始め様々な仲間に先立たれ残ったものとして、いつだってラストの覚悟、ただ最後まで歌い・生きるということでは不変で例年通りの図太いステージだった。そんな大塚と好対照なのは春一番を1年間の活動報告と捉え、毎年バンドの体制や曲を変え続けている中川五郎。彼も久々にオリジナルアルバムとして下北沢ラカーニャでのライヴ録音2枚組の大作『どうぞ裸になってください』を先日リリースしたばかり。それを受けて今年は、録音メンバーの沢知恵とハンバートハンバートの佐藤良成を迎えたどうぞ裸にトリオでの出演だった。長いキャリアの中でも「一台のリアカーが立ち向かう」、「風に吹かれ続けている」など、正しく現代のプロテストフォークと言える楽曲の制作に取り組み続けており、常に衝撃と説得力でもって響いてくる。昨年のセンチメンタル・シティ・ロマンス中野督夫らとのバンドTo Tell The Truthでのステージでも披露し、安倍晋三の東京五輪誘致スピーチに曲を付けた「Sports For Tomorrow」も、昨年は会場中をそのアイロニーのセンスに爆笑と“やったれ!”、“ええぞ!!”の野次に包まれていたが、一年経ちより現政権が暴走する現状にこの曲は全く笑えない。“世界有数 安全な都市 東京”なんてどの口が言うのかという怒りを込めた合唱が会場で起こっていた。アコギをかき鳴らしながら、無理矢理に音を歪ませ、暴れ倒すステージング。今なおフレッシュな中川五郎の凄味が存分に感じられた。
youtube
<初のトリを任された金佑龍>
 一方で前述の初日トップバッターgnkosaiBANDしかり、今年の春一番ではベテラン勢の息子~孫世代にいつになく大役を与え、その期待を見事に果たしていたところも素晴らしかった。金佑龍(4日出演)はバンドcutman-booche時代から春一番には出演していたが初のトリを任された。これまでバンドやオカザキエミ(moqmoq)をサポートに迎えた形での出演が多かったが、今年は客席中央に設けられたへそステージで、一人弾き語りで臨んだ。日が陰り、西日が昼間っから酒の入った客席を容赦なく照り付ける中の出番。自分の曲は酒に合うからと言ってステージから会場後方のドリンク売店のイカ松商店に「お金僕出すんで、この曲の間だけお酒半額にしてくれませんかー!?ハッピーアワー!!」とお願いし、場景にばっちりな「暁の前に」を歌い始める。ヒップなラプソディーを歌う今年の彼の姿には、デビュー当時から度々引き合いに出されていたG・ラヴの近年ルーツに回帰しつつある動きとますます重なる。人たらしな性格も含め客の心を見事に掴んでいた。最後に演奏したのはすでに彼のレパートリーとして欠かせないフィッシュマンズのカバー「ナイトクルージング」。最後のMCで「「生活の柄」とか歌った方がいいんかもしれないですけど、自分のルーツはやっぱりここやから。いい曲だから聴いてほしい」と、福岡風太の養子になりたいとまで言うほどに春一番を愛しているウリョンだからこそ、トリの大役に敬意を払って自分のやりたい曲をやって締める姿が印象的だった。
youtube
<今年のニューカマーにしてMVP、アフターアワーズ>
 また孫世代として今年初出演だったアフターアワーズ(6日出演)は間違いなく今年のMVPだろう。昨年結成されたばかりだというショーウエムラ(Ba,Vo)、ドナ・タミハル(G)、上野エルキュール鉄平(Dr,Vo)による3人組。このバンド名は春一番とも縁が深い上野の父がやっている梅田のバーの名前から。上野については幼少期から春一番に連れてこられていたという。メンバー3人ともが有志スタッフとして以前から参加しており、今年満を持して福岡風太に直談判し、ライヴに来てもらい認められ念願の抜擢となった背景がある。アフターアワーズの結成と春一番にかける思いについては、ショーウエムラのブログを見ていただきたい。 
ショーウエムラのジョーホー:祝春一番2017 
 
youtube
福岡風太にアフターアワーズの出演について後日聴くと「聴いたらわかるもん。ハルイチの客も納得さすて」とのことでした。そんな最終日6日は予報の通り開演直後から雨に見舞われていたが、彼らの出番直前に突如雨が上がり雲の切れ間が見えた、天は彼らに味方した!福岡風太から「ぶちかませ!アフターアワーズ!!」と紹介され勢いよく飛び出す。言葉を吐き捨てていくボーカルと、手グセ感が強くもメロディアスなベースライン、たどたどしい立ち振る舞いのショーはTheピーズやキャロル、甲本ヒロトを。若干23歳にしてパブロックやロカビリーなどに影響を受けたスイングするギターを、全力で暴れながら弾きこなすタミハルはストレイ・キャッツや国内で言えば台風クラブ。粗削りに見えて、的確に必要十分のビートをついてくる上野鉄平は初期LOST IN TIMEを、とそれぞれが思うロックの理想形の要素を端々に残しながら、とことんシンプルで初めに衝動ありきで仕上げたロックンロールに胸がすく。中盤上野が幼少期からの春一番との関わりをMCで話、友達について歌いますと言って始めた「あべのぼるへ」。言わずもがな長年福岡風太と共に春一番を支えた名物音楽プロデューサーあべのぼる(2010年死去)について歌っている。遠藤ミチロウの「大阪の荒野」、AZUMIの「河内音頭あべのぼる一代記不常識」で歌われ、またハンバートハンバートがあべの楽曲「オーイオイ」「何も考えない」をカバーしているなど、今なお春一番の演者の楽曲の中で生き続けているが、間違いなく彼らがあべの遺伝子を継承する���後のミュージシャンだろう。そんな春一番の客に一目置かれる場面を作りつつ、ラストは「バイバイ」、「16」と前のめりでまくし立てる歌で観客をアジりながら終了。正式音源もなく、3曲入りのデモ音源のみ。しかし終了後から物販にはそれを求める客が殺到彼らが持ってきた50枚以上が全て売れてしまった。大阪のひねたチンピラバンドが最初に音楽シーンに名を刻んだ瞬間だ。
Tumblr media
 しかしここで終わらないのが春一番。このアフターアワーズとしてのステージはフリに過ぎず、彼ら3人に用意されたのは3日間のフィナーレを飾るバンド、THE WINDとしての舞台だった。出演者発表の早くから名前が出ていたTHE WINDだが当日までメンバーが誰で何者なのか明かさぬままを本番を迎えていた。その正体は福岡風太がドラムを叩くバンド。だからTHE WIND(風)。その風太を支えるバンドメンバーとしてアフターアワーズを招集したのだ。福岡風太がドラムに座り大歓声の中、ゲストボーカルとしてまずリトルキヨシを呼び込んで高田渡「生活の柄」、ROBOWの阪井誠一郎が歌うザ・ディラン「プカプカ」とラストにふさわしいスタンダードナンバーが演奏される。そして最後は会場にいる演者全員をステージにあげボブ・ディランの「I Shall Be Released」を歌い繋いでいく。間奏では豊田勇造、AZUMI、ヤスムロコウイチの間に挟まって、タミハルもギターバトルに参戦し、対等に渡り合っていた。さらにボロアコースティックギターを持ってきて振り下ろして叩き割るパフォーマンスもやってのけ、周りのお膳立てもある中でしっかり魅せる役割を果たした。当のドラムを叩いていた福岡風太は早々に疲れてステージ横に退散してしまっていたが、最後は中央に立ち中川五郎と1つのマイクで歌い、ぐだぐだへろへろのジャンプで曲を終わらせ、生き残され組やなぁ俺らとつぶやきつつ「解散!」の一言で今年の祝春一番は終焉した。
<まだまだある、名場面>
 これまで書いてきた以外にもたくさんの美しい風景があった。かまやつひろし追悼で「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」を歌った金子マリpresents 5th element will。へそステージに上がり「雑居ビルの4階、でたらめな酒場…」と徐々に喋りのグルーヴを作っていき、笑いをかっさらい、酒をぐっと飲んで「春一番2017へよぉこそー!」と怒鳴るとこれ以上にない観客一体の歓声が上がる出演者の中で唯一の芸人、ナオユキ。今年は本編中の出演がなく3日間とも開場前に客が並ぶ野音前で演奏していたが、最終日には転換の間に風太から「こいつら歌わしたって」と本編に出演させる粋な計らいで本編に登場したブルースデュオ歌屋BOOTEE。今年のぐぶつは2日目のトップバッターで登場し、そのまま豊田勇造→アチャコ&ミキまで出ずっぱりで音楽の闇鍋状態をバックでしっかり支えていた。AZUMIはイタコ的に先日亡くなったチャック・ベリーを自分に降臨させるギター一本での長尺フリースタイル・ブルース「アズミ説法」を展開。関西弁のチャック・ベリーがAZUMI自身に薫陶説きながら「ジョニー・B・グッド」を日本語で歌う。盛り上がる内に上がった雄叫びはあべのぼるを降臨させる。働くなちゅうとんねん!!!金なんかあるとこから盗ったらええねんあほんだら!!!歌え!!!アズミ!!!…AZUMIに影響を与えた故人に向けたレクイエムは酒臭い夕方の会場の空気をぐっと引き締めていた。ステージ以外の場面でも、会場入り口のチラシ置き場にはつぶれた銭湯からもらってきた下駄箱が活用されていていい味を出していたり、珍しくイベントグッズとして出演者が載ったトートバッグを売っていたり(余談ですが300枚作り、スタッフ��んなで「誰が買うねん」と言ってたものの、初日から凄い勢いで売れすぎてしまって、各日の数量を制限することとなりました)。2日目のトリ小川美潮Rhythm &meでは珍しく福岡風太自身が会場最前列で身体を揺らして踊っていたりetc…書き尽くせない光景を見ることができた。
 3日間通して伝えるべきもの、残すべきものが明確に観客に伝わるような演出、出演順、会場運営がなされていて、巷の寄せ集めフェスとは全く違うことを例年以上に感じることが出来た。今年はMBSちちんぷいぷいの取材も入って15分に渡って番組内で特集されたり、またそもそもここ数年60~70年代の日本の音楽が聴きなおされシティポップとして再解釈されていることもあるのか徐々に若い観客も増えてきたように、春一番の良さが外に向かって知れ渡っているように感じる。1971年の初回開始から46年、回数にて32回。まだまだ春一番は進化を続けるとしておき、また来年に期待しよう。終了後数日経って福岡風太のものを訪れた。その時に言ってくれた言葉を記して本稿を締めよう。
「今年こんだけおもろかってんから、来年もっとおもろせなあかん。大変やで」
1 note · View note