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#上浮穴郡
amiens2014 · 2 years
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岩屋寺/愛媛県久万高原町【四国八十八箇所霊場第45番札所】車遍路には最大の難所
岩屋寺とは 海岸山岩屋寺(かいがんざん…
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masayokeizuka · 6 months
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watagumo舎
愛媛県上浮穴郡久万高原町下畑野川甲680
本日から3日間「わたしの街」展openします。
2023年11月3日 (金)-19日
11:00~17:00
金・土・日・祝
「わたしの街」展
経塚真代 【立体造形】
北原裕子 【陶オブジェ】
松村真依子 【絵画】
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kichino-tundra · 1 year
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虐殺の国②
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【注意】この作品には差別・虐殺などの描写があります。
第一章 権力構造、または歴史的背景
第二節 歴史の幽霊
 ダニエルは黒い霊柩馬車から父の遺体の納められた棺が運び出されるのを、真新しい墓石のすぐそばで眺めていた。
 ダニエルの父親はサフラン市警の警部であった。数日前の朝、彼はうっすらと笑顔を浮かべた顔で「行ってきます」と言って家を出た。そしてそれきり帰ってこなかった。どうやら何らかの捜査のために珍しく現場に出ていたらしいのだが、まだ解決していない事件の詳細についてダニエルらが知ることは何も無かった。
 母や妹のすすり泣き、それから墓地を囲む赤や黄色の葉を持つ樹の枝に隠れているであろう小鳥の愛らしい鳴き声のみが辺りを満たしていた。
 ダニエルと、一番下の弟であるジョンは泣いていなかった。ジョンはダニエルやその妹であるルシアとは年が離れており、まだ5歳と幼い。彼はダニエルの服の裾を掴んで辺りをきょろきょろと見回していた。
 ダニエルはジョンの小さな手を取って服から手を離させた。
「男ならしゃんとしなさい」
 ダニエルはささやき声でジョンを優しく叱った。小さな手を空中に放り出されたジョンは、自分のズボンの裾をぎゅっと掴み、顎を引いて墓をじっと睨みつけた。拒絶されたのだと思って拗ねてしまったのかもしれない。ダニエルはそれを見てこっそり笑った。棺は墓石の前にぽっかり開いた穴のすぐ側まで運ばれてきて、中に納められた。
 ユーゴニア人口のおよそ八割を占めるアンドロ教徒の間では、棺は死者の国への門であると考えられている。死者は門をくぐると死者の国の王であり原初の人であるアンドロという男に迎えられる。アンドロは死者の皮を剥いで新しい皮に取り替えてやる。死者は、次の人生ではその新しい姿で生きることになるのだ。
 来世の身支度をアンドロに整えてもらった死者は、死ぬ前に生きた分の年月だけ「死者の国」を旅する。死者の国では時間は逆方向に流れるので、時が過ぎればすぎるほど、死者は若返ってゆくという。逆転する時間の旅を終えると、死者は再び地上へと生まれてくると信じられていた。
◇◇◇
 壁のようにそびえる建物は空を覆い隠さんとしている。その下に広がる道路は馬車と人々でごった返していた。
  ダニエルがサフランの街の雑踏を歩いていると、彼のすぐ側を自動車が通り過ぎた。彼はなんとはなしにその姿を眼で追った。屋根のない黒い車に乗る数人の男女の着ているスーツやドレスは、質の良い布でできているのが素人目にも分かった。
 ダニエルは交差点で道を曲がり、様々な店が軒を連ねる区画を歩いていった。彼は視界を流れてゆく店の外観をぼんやりと眺めた。そうしていると、女性用の毛皮のコートが飾られたショーウインドウと、喫茶店のレンガ造りの壁に挟まれた路地に、誰かが座り込んでいるのがちらりと見えた。ダニエルは立ち止まってそちらを見た。薄暗い路地に敷かれた新聞紙の上で男が項垂れていた。ドラコの男だった。ダニエルはしばしの間、冷淡な目で男を見つめた。人影に気づいたその男が顔を上げようとするのを横目に見ながら、彼は心なしか早足でその場を立ち去った。
「ダニエル!」
 再び街中を歩いていると、ダニエルを呼び止める声がした。振り返ると、恰幅の良いドラコの男が彼に向けて軽く手を振っていた。
「ムーンライトさん」
 彼は自分を呼び止めた男――ムーンライトに歩み寄った。
 ムーンライトはダニエルの通う大学の近くに建つレストランの店主である。彼は以前、ダニエルの友人に家を下宿先として提供していた。二人が知り合ったのもその友人がきっかけであった。
「お父さんのことは残念だったね。私も近頃は知り合いが立て続けに亡くなって悲しいよ。イマニュエルも一昨年に亡くなったから……」
 ムーンライトはため息をついた。
「ルフェリの伯父さんですよね。とても残念でした。彼が亡くなってあいつは大学を辞めてしまったし」
「イマニュエルとは同級生でね。昔はよく、もう一人の友人と一緒につるんだものだった。危篤の知らせを聞いて帰る直前、ルフェリはひどく動揺してほとんど喋らなかったよ。イマニュエルはあの子を自分の子供と差別せず大事にしていたから、懐いていたんだろうな。君も大事な人が亡くなって辛いだろう。何かあれば相談に乗るからな」
「ありがとうございます。実は……」
 ダニエルは石畳を横目に見やった。
「大学を辞めて仕事を探そうかと思っているんです。今日は手続きの準備のために大学へ顔を出すつもりで」
 ムーンライトは身を乗り出した。
「本当か?お母さんには相談したのか」
「それはもちろんしましたよ。お互い納得した上です」
 ムーンライトはしばしの沈黙の後、ため息をついた。
「そうか……。君は家族思いだな」
「そうでしょうか」
 ダニエルは表情を曇らせながら俯いた。
「仕事のあてはあるのか?」
「いえ、まだ」
「なら、俺の知り合いが――さっき言ったもう一人の友人というのがそいつなんだが、確か以前人手が足りてないと言っていた。良かったら紹介しようか?」
◇◇◇
 人工的な明かりが食卓の上に並べられた料理の表面を照らしている。ダニエルはムーンライトの自宅で、彼と向かい合って座っていた。人手を欲しているという友人に宛てた手紙の返事が来たため、ムーンライトの家で夕食がてら詳しい話をしようという話になったのだ。
 口の中のものを飲み込んだムーンライトが話し始めた。
「俺の大学時代の友人――ラースロー・ライムライトというんだが、そいつは炭鉱の所長をやっていてね。炭鉱警察/coal-mining policeの警官を募集しているのだそうだ」
「警察?」
 ダニエルはぽつりと口にした。
「炭鉱警察というのは、炭鉱とその周辺の街を管轄する警察組織だそうだ。銃を持つような仕事だから、体力のある男は大歓迎だと言っていた。ダニエルは上背もあるしスポーツも得意だからきっと大丈夫だろう。給料は月300オロだ」
「300オロ?」
「なかなか好待遇だろう?これから家族を養っていかなくちゃならない君には良い仕事だと思うんだが。ただ、家族と離れて暮らすことになってしまうが」
「それは構いません。是非お願いしたいです」
「分かった。明日また手紙を出しておくよ」
「ところで、場所はどこなんですか?」
「エーデルワイス州のアルストロメリア郡というところだ」
「そこって」ダニエルはやけに耳になじむ単語に首をかしげ、それから何かに思い当たったようにムーンライトの顔を見た。「ルフェリの故郷ですよね」
 ムーンライトに別れの挨拶をしたダニエルは、夜の街を歩いて自宅へ向かった。自宅のドアの前に立った彼は、既に眠っているかもしれない家族に配慮してゆっくりと扉を開けた。
「ただいま」
 彼は小さな声でそう言った。返事は返って来なかった。やはり皆眠っているようだった。だがダニエルは自分の部屋に向かう途中で立ち止まった。電灯の光が居間から漏れ出ていたからだ。ダニエルは一人首をかしげ、居間につながるドアを開けた。
「ルシア?どうしたんだ、こんな時間に」
「に、兄さん」
 妹のルシアがテーブルに本やノートを広げて座っていた。彼女の隣にはほとんどうつらうつらとしているジョンが座っている。ルシアはダニエルを見て本とノートを慌てて閉じた。
「勉強か?珍しいな。どうしたんだ」
「ええっと、ちょっと苦手な科目があって、テストが不安で……。でももう寝る」
「そうか。おいジョン、お前ベッドで寝ろ」
「んん」
 ダニエルは舟をこいでいるジョンを優しくゆすった。ダニエルは椅子から降りたジョンの手を引いて廊下に繋がる扉に手をかけた。
「ルシア、おやすみ」
「うん。おやすみ」
 ダニエルは居間のドアを閉めた。ダニエルが自室の前に立っても、ルシアが居間を去る気配は無かった。
 寝支度が済むとダニエルはベッドに入った。彼がサイドチェストのランプを消すと、タールのような暗闇が部屋を満たした。隣のベッドにいるジョンの幼い顔が、月の光によって幽かに浮かび上がっている。
 暗闇の中で子供の目に月光がきらりと反射して、隣のダニエルを見た。
「兄ちゃん寝た?」
 ジョンがダニエルに声をかけた。
「起きてるよ」
 ダニエルは目を開けて、ジョンのほうに顔を向けた。
「そっか」
「眠れないなら背中ぽんぽんしてやろうか、昔みたいに……」
 それを聞いてジョンは唇を尖らせた。ダニエルは笑い声を漏らして、天井に目をやった。
「どうしたんだ。何かあった?」
「そういうわけじゃないよ」
 しばらく沈黙が落ちたあと、ダニエルが静かに口を開いた。
「なあジョン、お前勉強は好きか」
「嫌いだよ。知ってるでしょ」
「そうだな」
 ダニエルはジョンの顔を見た。
「それでも、お前は大きくなったら大学に行けよ」
 そのとき、寝室の外からほんの僅かに廊下の軋む音が聞こえたが、ダニエルは気づかなかった。
「うん」
 ジョンが小さく返事をした。ダニエルはジョンのほうに手を伸ばした。そしてジョンの頭をぐしゃぐしゃと雑に撫でまわした。ジョンがやめてよとクスクス笑ったので、ダニエルも笑った。
◇◇◇
 汽車が到着したらしく、人がどっと吐き出されるように流れ出てきて、まるで駅という鉄骨製の怪物が大きなため息をついているようだった。
「じゃあ、行ってくる」
 大きな鞄を肩にかけたダニエルは改札の前で振り向き、家族の顔を見た。今日、ダニエルはサフランの街を去って、エーデルワイスに行く。家族とはしばしの別れになる。
「体に気を付けてね」
 母は心配そうにしていた。ダニエルは彼女を安心させようとするかのように、笑って頷いた。
「頑張ってね、兄さん」
 ルシアは明るい声で言った。
「ああ、お前も母さんのこと支えてやってくれ」
「うん……」
 彼女は少し表情を曇らせた。彼がどうしたんだと声をかける前に、ルシアの隣にいたジョンがダニエルのほうへ一歩踏み出した。
「兄ちゃん、いってらっしゃい!」
 ジョンは朝散々泣き腫らしたので、目がまだ少し赤かった。
「ああ、行ってきます」
 ダニエルはしゃがみこみ、ジョンと抱擁を交わした。
◇◇◇
 秋の透明で冷たい空気が肺を満たしたので、ダニエルは自分でも気づかぬうちに深呼吸をしていた。
 彼が列車を降りたのは、クローバーという名前の駅だった。客を乗せる列車以外にも石炭を出荷する貨物列車が運行するこの駅の正面には、山際の緩やかな斜面に沿って炭鉱街が広がっていた。そして街と山とに挟まれるようにして、青く霞んで見える大きな工場のような建物や鉄骨製の建造物、煙突がそびえ立っていた。
「ダニエル」
 ふと彼の名を呼ぶ声がした。ダニエルは駅舎の正面に佇む男に目を向けた。
「ルフェリ!久しぶりだなぁ」
 彼は男の元へと歩み寄った。
 ルフェリ・ホワイトアウトは猫のように大きな左右色違いの眼をした男だった。顔立ちはユーゴニア先住種族であるガタのそれだったが、混血である彼は一本の角を持ち、その手は鱗に覆われている。白いたてがみはドラコの男がするように長く伸ばして、三つ編みにしていた。大学を辞めた後エーデルワイス州民兵隊に入った彼は、少年のような顔立ちをしている割にしなやかな筋肉を纏う前腕をシャツの袖からのぞかせていた。今は丁度休暇の最中らしく、こうやってダニエルを出迎えに来てくれたのだった。
「お父さんのことは残念だったな。お前、俺の分まで勉強して立派な生物学者になってやると言ってくれたのに」
「約束を果たせなくて悪かったよ」
 ダニエルは肩をすくめて、困ったように笑った。
「別に責めたくて言ったんじゃないさ。ただ悲しいと思っただけで」
 ダニエルはルフェリが兵士になったのを、手紙のやり取りの中で知った。各州の保有する民兵隊/militiaは、州内の治安維持を担う軍隊である。ルフェリは現在一等兵――エーデルワイス州民兵においては伍長の下の階級――であった。士官学校を出て士官として入隊するのならまだしも、裕福な家の出である彼が兵卒になった理由を、ダニエルは詳しくは聞いていない。
「このあとすぐ署に顔を出すんだったな。頑張れよ」
 ダニエルはその言葉に笑顔を返した。
「ああ。また一緒に飯でも食おう」
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g-shimizu-blog · 5 years
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大川峰(1500m付近) 何回も登ってきたけど、久万町内の灯りが見えたのは初めて。 その奥には松山の灯りも見えてたけど、雲がかかって白くなってます。 流れ星もよく見えてよかったです。 上浮穴郡久万高原町 #愛媛県 #上浮穴郡久万高原町 #久万高原町 #久万 #くままち #星空 #星雲 #大川峰 #四国山脈 #海賊フォト #ファインダー越しの私の世界 #nikond750 #sigma15mmfisheye #nikon #fisheye #sigma #lightroom (ハイランドパークみかわ) https://www.instagram.com/p/B1AkKZMFseH/?igshid=3v4gu2x8899w
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lets-take-a-break · 4 years
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国民宿舎 古岩屋荘 FURUIWAYASOU
愛媛県上浮穴郡久万高原町 Kumakogen-cho, Kamiukena-gun, Ehime, Japan
2013/05
無欲透明の優しいお湯。露天風呂はありません。
国民宿舎なので、布団の上げ下ろしは各自、バスタオル無し等は仕方ありませんね。
エレベーターが無い為、足腰弱い方にはお薦め出来ません。
低張性アルカリ性冷鉱泉
日帰り入浴可能
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amiens2014 · 2 years
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高野展望台/愛媛県久万高原町【遍路道】岩屋寺から浄瑠璃寺に続く遍路道に個人が設置した民泊施設
高野展望台とは 高野展望台(たかのてんぼうだい)は、愛媛県上浮穴郡久万高原町菅生(えひめけんかみうけなぐんくまこうげんちょうすごう)にある展望台だ。 個人が運営しており、民泊施設もある。 展望台から見下ろす町内は素晴らしい景色。 満点の星空や雲海にイチョウの森と、ここでしか味わえない自然を満喫することができます。 2018年~民泊も始めました! 日常の忙しさを忘れ、大自然の中でリフレッシュしてみませんか? 高野展望台|まんてんスポット|久万高原町観光協会 から引用 久万高原町 高野展望台 愛媛県上浮穴郡久万高原町菅生2−2909 090-4472-0143 (more…)
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masayokeizuka · 6 months
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わたぐも舎は、明日10日(金)から12日(日)までopenします。
2023年11月3日 (金)-19日
11:00~17:00
金・土・日・祝
「わたしの街」展
経塚真代 【立体造形】
北原裕子 【陶オブジェ】
松村真依子 【絵画】
watagumo舎
愛媛県上浮穴郡久万高原町下畑野川甲680
09028263680(店舗用・営業時間のみ)
11時-17時
企画展期間中の金・土・日
※展示作品は最終日まで飾らせていただきます。
watagumo舎の駐車場は3台まで停められます。 少し歩きますが農業 市場 (研修所) アグリピアさんの駐車場にも停めて頂けます。 (出来るだ け建物から離れてお停めください。)
watagumo舎の更に上にある幽谷上人さんの霊廟にも6台くらい停め て頂けますのでそちらもどうぞ。
分からない場合はスタッフがご案内致します。
山の中とはいえ、ご近所さんの迷惑にならないようご協力お願い致し ます
何か分からないことがございましたらDMにてお問い合わせください。
秋の久万高原町、 始まった紅葉を楽しみながら、 お越しくださいませ。
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cupiporo · 3 years
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・ 本日22時よりわたぐも舎さん@watagumosya のオンラインショップにマトリョーシカを掲載していただけるそうです😊 以下、わたぐも舎さんの投稿を転載させていただきます🙇‍♀️ *********** cupiporo さんの @cupiporo 風とうさぎマトリョーシカ トナカイマトリョーシカ たんぽぽマトリョーシカ(羊) 北極マトリョーシカ(シロクマ) 本日2月1日 22時にonlineshopにUP致します。 onlineshopにはHPから飛べます♪ cupiporo とはアイヌ語で“月明かり”といういう意味。 “月明かりの下で読む絵本のような物語のある作品”を作られてます。 それぞれの表情、ディテールの細かなところ、物語の気配を感じながら 楽しんで下さい^^ #watagumo舎 #わたぐも舎 #愛媛県 #愛媛県上浮穴郡 #久万高原町 https://www.instagram.com/p/CKvzZ6AsbmV/?igshid=17dqm7y27kyt0
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sorairono-neko · 4 years
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ぼくのこと、ここに置いてくれる? 行くところないんだ。
 長谷津の勇利の家は、古いし、ぎしぎしいうし、部屋は狭いしで、ヴィクトルにとって初めて体験する場所だった。けれどヴィクトルはこの家が好きだった。古風な雰囲気がすてきだし、あたたかみがあるし、人々の「生活」というものが染みついている気がした。それは「他人の生活」の印象ではなく、親しみやすい、こころが落ち着く感じだった。勇利はこの家で育ったのだ、と思えば、ますますヴィクトルはここが好きになった。冬になり、隙間風が入りこんでくることが多くなっても、そ���気持ちは変わらなかった。 「ヴィクトルのサンクトペテルブルクの家は豪華であたたかいんだろうね」  初めて毛布を出したとき、勇利は申し訳なさそうに言った。 「ここじゃ寒すぎない?」 「俺は寒いのには慣れているから平気だよ。ロシアにくらべたらこんなのは暖房と温泉がいっぺんにあるようなものさ」  ヴィクトルの言葉に笑ってから、勇利はベッドの端にちょこんと腰掛けた。 「でも、ロシアは家の中はあったかいでしょ? 試合で何度か行ったけど、外は寒くても、建物に入るとすごく暖房が行き届いてたよ」 「まあ、そうじゃないと大変なことになるからね。けど、だからといって、日本でも同じだけのものを俺が要求しているなんて思わないでくれ。さっきも言ったように慣れてるからそれほど寒いとは感じないし、ここはすてきな家だよ。俺はこういうの大好きだよ」 「そっか」  勇利はかすかにほほえんだ。ああかわいいな、とヴィクトルは胸のときめきを抑えるのが大変だった。ヴィクトルにとって勇利は愛すべき生徒だが、それとは別に、彼にはいつもヴィクトルはまいってしまっているのだった。去年のバンケットのときからだったけれど、こうして一緒に過ごすようになって、その気持ちは深まる一方だ。 「ヴィクトルは、いま、家はどうしてるの?」 「どうしてるって?」 「誰もいないの? 家って住まないと傷むっていうけど、大丈夫なのかな? もしかして……誰か……」  ヴィクトルはどきっとした。勇利は何か余計なことを考えてはいないだろうか。ヴィクトルが家をまかせるような相手がいると。そういえば、西郡やミナコが、酔っぱらったときに、「ヴィクトルは世界一もてる」「恋人だらけ」「身のまわりのことをやってくれる女性が山ほどいる」などと吹きこんでいた。勇利は笑って聞き流していたから大丈夫だと思っていたのだが、もしかしたら信じているのかもしれない。冗談ではない。女性をはべらせているなどというでたらめはさっさと打ち消しておかなければ。勇利にそういう誤解をされるなんて我慢がならない。 「うちは無人だよ!」  ヴィクトルは力強く言った。 「鍵をかけてそのままさ。傷むとか、そんなことは考えたこともないな。もし何かあれば手を入れればいいんだし、勇利のところへ来るにあたって、そういうことはまったく頭になかった。それより早く日本に来たくて、そのことばっかりだったよ」 「ふうん、そうなんだ……」  勇利はにこっと笑ったが、ヴィクトルは、これではまだ足りない気がした。もっと──何か、勇利を安心させることを言わなければ。 「そもそも俺、自分の家に他人が入ることがいやなんだ」  ヴィクトルは熱心に説明した。 「考えただけでぞっとするね。俺の家に入ったことがあるのは、俺とマッカチン、それにヤコフくらいだよ。あとは業者とかそんなところさ。誰かを招くなんて想像したこともない」 「そっか」  勇利がにっこり笑った。 「そうそう。そうなんだよ」  ヴィクトルは真剣にうなずいた。 「俺の家には誰も入れるつもりはないよ。絶対にね」 「ヴィクトルとマッカチンだけのお城だね」 「そうさ!」  勇利が納得してくれたようなので、ヴィクトルはこころの底から安堵して息をついた。西郡やミナコに余計なことを言わないように注意しておかなければと、このときヴィクトルはまじめに決心した。  シーズンが終わったら、勇利はロシアへ来る。たくさんの話しあいの結果、そういうことになった。それが動かしがたい事実として決定すると、ヴィクトルは有頂天になり、浮かれてしまった。勇利が来る。勇利が俺の町に! サンクトペテルブルクは曇り空が多く、どんよりとした印象だけれど、勇利がやってくればきっと花が咲いたように華やかに、明るくなるだろう。ヴィクトルの世界は輝くにちがいない。勇利と通りを歩き、勇利と買い物に行き、勇利といろんなところへ出かけるのだ。なんて楽しみなことだろう。勇利が長谷津を教えてくれたように、勇利にサンクトペテルブルクを教えようとヴィクトルは張り切った。そして、勝生家でよくしてもらったみたいに勇利によくしてあげよう。ヴィクトルの家が自分の家だと思ってもらえるような努力をしよう。  しかし、そんなヴィクトルのこころぎめなど知らぬというように、勇利は地図や間取り図を示して笑顔で言った。 「ぼくはここに住もうと思ってるんだ」 「は?」  それはリンクの近くのちいさなアパートで、確かに便利そうではあるけれど、それ以上のことは何もない、何の変哲もない住居だった。 「ちょうどひと部屋だけ空いてて。家賃もそれほど高くないし、悪くないと思うんだよね。ちょっと狭いかなあっていう気はするけど、ぼく家で過ごすことそんなにないし、あんまりひろすぎても落ち着かないしね」  そんなことはどうでもいい。ヴィクトルは、勇利はいやではないのだろうかとうろたえた。家賃が安くても、面積が気にならなくても、そこにはヴィクトルがいないではないか! 「勇利……」 「ん、なに?」 「それでいいのか? だって……」 「うん。住んでみないとわからないところもあるけど、そんなこと言い出したらどこでもそうだしね。デトロイトへ移り住むときもわりとおおざっぱにきめていったし、ぼくはそういうの気にしないよ」 「そうじゃなくて!」  ヴィクトルは焦りながら熱心に言った。 「そこには俺がいないよ?」 「え?」 「だから……、俺はてっきり……勇利は俺の家に……」 「えー、そんなこと」  勇利はかぶりを振った。 「だめだよ。だめだめ」 「えっ……」  だ、だめなんだ……。ヴィクトルはぼうぜんとした。勇利の物言いは、そんなことしていいわけない、といった感じだった。勇利がロシアへやってくるにあたり、住処の候補として思い浮かべたものの中に、ヴィクトルの家は数えられてもいなかったのだ。これはヴィクトルにとってかなり衝撃的だった。だってヴィクトルは勇利の家に世話になったのだ。すこしくらい、ぼくもヴィクトルのところに行けるかな、と夢想してくれてもよいではないか。勇利のことだから、ずうずうしいとか慎みがないとか、そんなふうに遠慮する可能性はあるけれど、まったく考えもしないなんて、そんなことが……。 「ないない。ヴィクトルと一緒に住むなんてない。あり得ない」 「そ、そこまで言わなくても……」  ヴィクトルはますます落ちこんだ。 「大丈夫。ヴィクトルの邪魔はしないよ」  勇利は優しくほほえんだ。 「ちゃんとそういう線引きはするから、安心して」 「いや……邪魔とか安心とか……」 「ヴィクトルには自分のいいように、いい環境で暮らしてもらいたいんだ」  勇利は落ち着き払って言った。 「だからヴィクトルの家に押しかけたりしないよ」 「押しかけるとか……」  俺はおまえに来てもらいたいんだ……。ヴィクトルはそう言いたかったけれど、勇利の態度には、「引退します」と宣言したときのような、おごそかな、きっぱりとしたものがありありとあらわれており、何を言っても無駄という様子だった。 「もしかして心配してたの?」  勇利は笑った。 「勇利が一緒に住みたいって言ってきたらどうしようって? 憂鬱にさせてごめん。ぼくのことは気にしないで。コーチをしてくれるだけでじゅうぶんだよ」  俺はそれじゃじゅうぶんじゃないんだ! ヴィクトルはわめき散らしたかったが、素直に口に出すことができなかった。勇利がせっかくロシアへ来る気になっているのに、余計なことを言ったら臍を曲げてしまうのではないかと、それが心配だった。いつ「終わりにしよう」とそっけなく突き放されるかわからない。勝生勇利はおそろしい。 「そういうわけだから安心して。ロシアへ行くの楽しみだな。春でも寒いのかな」 「ああ……」  ヴィクトルは勇利の言うことをまったく聞いていなかった。勇利とは一緒に暮らせないのか……。そのことが重くこころにのしかかり、せっかく彼がロシアへ来てくれるというなりゆきになったのに、ひどく苦しく、さびしく感じた。  勇利の言っていたアパートを買い取ってやろうか、俺もそこへ引っ越そうか、などと真剣に思案していたヴィクトルだが、そんなことをすれば勇利があきれて、やっぱり「終わりにしよう」と言い出す気がしてできなかった。ひと足先にロシアへ戻った彼はすっかり落ちこんでおり、ヤコフに「おまえ……ついこの前までは人生はばら色とかなんとか言っておったのに……」といぶかしげにされ、ユーリには「ヴィクトルが静かだと気持ち悪い」と言われた。しかしヴィクトルはそれどころではなかった。  落ち着け。勇利のこのさきすべてがきまってしまったわけではない。もしかしたら彼がヴィクトルがいないのはいやだと言い出すかもしれないし、そうでなくてもアパートに何か不都合が起きるかもしれない。何も起こらなかったとしても、とにかく勇利を口説いて「ヴィクトルと一緒に住みたい」と思えるようにすればよいのだ。そうだ、毎日彼を招いて食事をごちそうするのはどうだろう? ヴィクトルの家から帰りたくない、と思わせることに成功すれば、ひとつの屋根の下で暮らすのだって夢ではない。あきらめるのはまだ早い。努力をするのだ。  やがて勇利がやってき、ヴィクトルはそのときばかりはうっとりとした気持ちになった。勇利は前よりも綺麗になり、さらに可憐になっていた。以前は眼鏡をかけているときは野暮ったく、平凡で、まったく目立たなかったのに、いまはそんなことは関係なく、ひどくかわいらしく見えた。ヴィクトルは勇利に、ニット帽をかぶらせ、マスクをさせる必要性を感じた。しかし、ユーリにこっそりと「勇利はますますうつくしくなったと思わないか」と言ってみたところ、彼は薄気味悪そうにヴィクトルを見やり、「いや前と同じだろ……」と答えるだけだった。 「同じ? ユリオの目は節穴なのか?」 「ヴィクトルの目がどうかしてんじゃねえのか。ただのブタじゃねえか。気色の悪い……」  勇利が「どうしたの?」と後ろから尋ねたのでヴィクトルは振り返った。みずみずしい、楚々とした愛らしさは、世界じゅうの人から愛されそうだった。ヴィクトルは、勇利を誰にも渡してはならないという気持ちになった。そうなると、もともと勇利と一緒に住めないことが憂鬱だったのに、ますますいやなこころもちになった。勇利がロシアへ来てくれてうれしいのに、それと同じだけ不満をおぼえるというおかしな状況だった。  それはともかく、勇利と過ごす時間は楽しかった。ヴィクトルは勇利をリンクへ連れてゆき、久しぶりに彼のスケートを直接目にした。姿かたち同様、すべりにもみがきがかかっていて、ヴィクトルはこころを奪われるとともに誇らしくなった。あの子は俺の生徒なんだ、と思った。 「勇利、よかったよ」 「本当?」 「ああ。俺がいなくてもがんばってたんだね。えらいよ」 「ヴィクトルが恥ずかしい思いしないようにと思って……」  勇利ははにかみながら、彼の実力がいかほどのものかとリンクサイドで見守っていたクラブのコーチ陣や生徒たちに目を向けた。なんてけなげでかわいらしいのだろうとヴィクトルは感激した。 「勇利は俺の自慢の生徒だ」 「あの……」  勇利がためらった。 「なんだい?」 「……ヴィクトルがすべってるところも、見たい……」 「もちろんだよ!」  勇利の視線を浴びてすべることは、最高に気持ちがよかった。誰に見られるよりもうれしい。これがこれから毎日続くのだと思うと胸が躍った。  しかし、練習を終えて着替えているときはまた気分が落ちこんだ。ふたりは同じ家に帰るわけではない。 「勇利……」 「なに?」  勇利がヴィクトルを見た。知らないうちに、無意識に呼びかけてしまった。ヴィクトルは急いで提案した。 「食事に行かないか。一緒に」 「いまから?」 「そうだ」 「でもぼくこんなかっこうだし……」  勇利は動きやすそうな服装を見下ろした。 「構わない。高級レストランへは連れていかないよ。俺のかっこうだって同じようなものだ」 「うーん……、だけど、今日はやめておくよ」  勇利は困ったように断った。 「着いたばかりだし、時差もあって、早めにやすもうかなと思ってたんだ」 「そうか……」  ヴィクトルはがっかりした。しかし勇利の言う通りだ。彼は疲れているだろう。へこたれずにヴィクトルは誘った。 「じゃあ明日はどうだい?」 「明日かぁ……」 「明日は着替えを持っておいで。俺もそうするよ。そしてふたりで食事をしよう」 「うーん……」  勇利は考えこんだ。ヴィクトルはどきどきしながら返事を待った。勇利がほほえんだ。 「うん、わかった」 「本当かい?」 「着替えだね。持ってくるよ。あの、スーツじゃないとだめなの?」 「いや、なんでもいいよ。気軽な店にしようと思う」  ヴィクトルは頭の中にあるレストランの一覧表から、勇利が緊張せずに入れるような店を急いで選び出した。 「この近くでね。歩いていける。味も悪くないよ」 「もちろん美味しいものがいいにきまってるけど、ぼくはなんでもいいよ」  勇利はあっさり言った。 「ヴィクトルと一緒なら」  ヴィクトルは有頂天になった。断ったあとにこういうことを言ってくるのだから憎い子だ。俺をもてあそんでいるのか、とヴィクトルはうきうきしながら思った。 「じゃあ、明日」  勇利はクラブの建物の前でヴィクトルに手を振った。 「楽しみにしてるよ」  ヴィクトルは声をはずませた。 「デートだね」 「あははっ」  勇利はもう一度手を振って帰っていった。ヴィクトルは、いま、適当にあしらわれた? とがっかりした。頬をあからめるとかして欲しかったんだが……。  まあいい。明日は勇利と食事だ。ヴィクトルはいい気分で帰途についた。  約束通り、練習後にレストランへ寄り、勇利と楽しく食事をした。離れていたあいだのことやスケートのこと、長谷津のみんなのことなど、話は尽きなかった。夕食のあともヴィクトルは勇利を帰したくはなく、飲みに行こうと誘った。勇利は迷うそぶりを見せたが、「もっと話したい」とヴィクトルが言うと、「ぼくも」と了承してくれた。 「勇利」  ほの暗い店の、窓のほうへ向けてつくられた席で、勇利の横顔をちらと見た。勇利は目の前にひろがる異国の上品な夜景にうっとりし、しとやかな笑みを浮かべていた。 「これをきみにあげたいんだけど……」  ヴィクトルは、リボンをかけた白いちいさな箱を差し出した。テーブルの上に置かれたそれを勇利は見、それからヴィクトルの目を見た。 「これは?」 「きみへの贈り物だよ」 「本当に?」  勇利がうれしそうにまぶたをほそめた。その微笑があまりにかわいらしく、ヴィクトルはいますぐ抱きしめたいと思った。 「開けてみていい?」 「いいとも」  答えてから、ヴィクトルはかなり緊張した。受け取ってもらえなかったらどうしよう? 勇利の様子から判断すれば、おそらく──。いや、しかし、やってみる価値はある。言わなければだめだ。このままでは……。 「なんだろう……」  勇利はしなやかな指でリボンの端をつまみ、するっとほどいて箱の上部を持ち上げた。それは簡単にひらき、中から出てきたのは、ふわふわしたペーパークッションにうずもれた銀色の鍵だった。 「え……」  勇利は瞬き、それから慎重な態度で顔を上げた。 「ヴィクトル、これって……」 「俺の家の鍵なんだ」  ヴィクトルは急いで言った。 「勇利には持っていてもらいたいなと思って」 「…………」  勇利は難しい顔をして黙りこんでしまった。ヴィクトルはさらに急いだ。 「重苦しく考える必要はないんだ。勇利の好きに使ってくれればいい。それを持っているからといって勇利を縛るつもりはないし、俺の家で何かしろと強制するつもりもない」  ヴィクトルは、勇利がとにかく深刻にならないよう、言葉を用心深く選んだ。 「なんていうか、ただ持っていてもらいたいというか、それによって何かが起こると期待しているわけじゃないんだよ」  しまった。ちょっと生々しい言葉だっただろうか? 勇利がどう受け止めるか心配でヴィクトルはどきどきした。 「俺の気持ちっていう……それだけの……」 「ごめんなさい」  勇利は箱を閉じ、吐息をついてそれをヴィクトルに返した。 「これ、いただけません」  ヴィクトルは目をつぶった。やっぱり……。溜息が漏れた。そうなるだろうと思ってはいた。勇利がヴィクトルとの同居を選択しなかった時点で、もちろんこういうなりゆきになるのだ。 「なぜ?」  それでもヴィクトルは粘り強く尋ねた。 「勇利に負担をかけるつもりはないよ。ただ……」 「負担だと思うわけじゃないよ。ぼくがそれを持っていられないというだけのことなんだ」 「どうしていやなんだ? 勇利、何か身構えてる?」 「そうじゃないよ。なんていうか……申し訳ないから」  申し訳ない? なんのことだろう。ヴィクトルのファンに対して、という意味だろうか。 「勇利──」 「ヴィクトル、気を遣わないで」  勇利はほほえんだ。 「ぼくは大丈夫だから。心配いらないよ」 「勇利……」  勇利はこの件についてあまり話したくなさそうだ。しつこくしたら怒り出すかもしれない。ヴィクトルは仕方なく、少ない情報でよく考えてみた。勇利はヴィクトルの家の鍵を受け取ることを申し訳ないと言う。ヴィクトルが気を遣っていると思っている。つまり、こうだろうか。異国の地で不安な勇利を気遣い、ヴィクトルがおまもりのような気持ちでこれを差し出したのだという解釈をくだしているのだろうか。 「勇利、あのね──」 「本当にごめんなさい」  勇利はゆっくりとかぶりを振った。 「でも、うれしかったよ。ありがとう」  彼はほほえんで率直なまなざしを示した。迷惑そうではない。うれしいなら受け取ってくれればいいのにとヴィクトルは思った。 「俺のことが嫌いというわけじゃないんだね?」 「そんなことあるわけないじゃない」  勇利は驚いたように瞬き、それから笑い出した。 「ヴィクトルの優しさに、ぼくの敬愛と好意は増すばかりなんだ」 「…………」 「ヴィクトルはぼくの王子様だよ」  王子様の家には入れないということだろうか。勇利の中には、いつまでもヴィクトルは神様だという気持ちが根付いているのだろう。  無理やり持たせても仕方がない。ヴィクトルはいったん鍵は引き取ることにした。いますぐなんでも上手くいくわけではない。勇利の目にあふれる愛情は確かで、疑いの余地はない。ゆっくりと事を進めよう。 「ヴィクトルってほんとに優しいよね……」 「そういうわけじゃないけど」 「ううん、そうだよ」  勇利はにっこり笑った。ヴィクトルはテーブルの上にある彼の手をそっと握った。勇利は拒絶せず、じっとヴィクトルの目をみつめた。  けっして酔わせようと思ったわけではない。勇利がおかわりをするのを止めなかったのは、ただ彼と長く一緒にいたかったからと、夢中になって話し続けており、彼が何杯飲んだかを数えていなかったためだ。気がつくと勇利はまっかな頬でヴィクトルにもたれかかっており、ヴィクトルはようやく、失敗したのだと理解した。 「勇利、大丈夫かい?」  肩を抱き寄せて尋ねると、勇利はとろんとした目つきでヴィクトルを見、「んー」と返事をした。 「具合は悪くない?」 「んー」  だいぶ酔っているようだ。だが、いつかのように踊り出すほどではない。ヴィクトルはほっとしつつも、さてどうしたものかと考えこんだ。勇利の部屋は知っている。送っていける。しかし、彼をひとりにするのは心配だった。それならヴィクトルの家に連れ帰るしかないけれど、それもいささかためらわれた。まるでヴィクトルが企んで飲ませ、酔わせて好きにしようとしているみたいではないか。そんなつもりはなかったのだ。 「勇利、立てるかい?」 「うん……」  勇利は立ち上がり、ヴィクトルに抱きつくようにして寄り添った。ヴィクトルはどきどきした。勇利のよい匂いがした。練習のあとなので汗の匂いも混じっているが、長谷津で慣れ親しんだ、優しい、なつかしい匂いだった。 「あぶないな。俺の家に来る?」 「ん……」 「いいんだね?」 「うん……」  勇利はわけもわからず返答しているようだ。ヴィクトルは反省した。酩酊している勇利に「いいのか」なんて尋ねて責任を押しつけている。ひどい男だ、自分は。やはり彼のアパートに送っていったほうがよいだろうか。いや、それはだめだ。こんな状態でほうっておけない。  ぐずぐずと思い悩んだあげく、結局タクシーで自宅まで勇利を連れ帰り、抱いていって寝室のベッドに横たえた。 「勇利、起きてるかい?」 「ん……」 「水、飲む?」 「いらなぁい……」  勇利はほとんど夢の中にいるようだ。ヴィクトルは彼をせつなくみつめ、ふっと息をついた。 「何もしないよ」  身をかがめて耳元にささやく。 「きみにめろめろでも、紳士のつもりなんだ」  ヴィクトルは苦笑を浮かべた。勇利はすやすやとやすらかな寝息をたてている。口の端を吸いこむようにして、すこしほほえんでいるようだ。何かよい夢でも見ているのだろうか。 「ヴィクトル……」 「なんだい?」 「…………」  寝言らしい。ヴィクトルは勇利の眼鏡に手を伸べ、そっとはずしてやった。服を脱がせてよいものかと迷ったけれど、このままでは寝づらいだろう。ヴィクトルは勇利の上着やシャツを丁寧に脱がせ、代わりに自分の簡単な部屋着を着せた。それは勇利には大きくて、首元がよく見え、なんだか目の毒のような感じだった。 「何もしない、何もしない」  呪文のようにくり返し、勇利の身体を掛布で覆う。どうしても可憐なくちびるや首のあたりに視線が向いてしまうから、そんな作業もひと苦労だった。マッカチンがやってきて勇利を眺めたので、ヴィクトルはそっと撫でてやった。 「明日遊んでもらおうね」  シャワーを浴び、バスローブ姿で水を飲みながら寝室へ戻った。勇利は相変わらずすやすやと眠りこんでいる。ヴィクトルは水の入った瓶をまくらべへ起き、ベッドにもぐりこんで溜息を漏らした。  何もしないぞ。  マッカチンがいてよかった。ヴィクトルは勇利の匂いとぬくもりを背中で意識しながら眠りについた。  翌朝目ざめても、勇利はまだ深く寝入っていた。よく寝るな、時差ボケが残ってるのかな、と思いつつヴィクトルは起き上がり、自然に勇利にキスしようとしてぎょっとした。俺は何をしているんだ。 「やれやれ……」  今日は練習は休みなので、寝かせておいても問題はない。しかしヴィクトルは仕事がある。取材のために出かけなければ。勇利の朝食を支度する時間くらいはあるので、店がひらくのを待ってマッカチンをともない、外へ出た。近くのパン屋で勇利の好きそうな、チキンなどの挟んであるパンを買った。それから、卵や牛乳、ヨーグルトや果物を購入した。いつもはどこかの店やクラブの食堂で食べているから、こんなことはめったにしない。勇利に食事をごちそうして家にいたいと思わせる、などと計画を立てていたので、すこしは練習したのだけれど、せっせと台所でつくった朝食は、あまり美味しそうには見えなかった。 「……まあ、仕方ない」  ヴィクトルはがっかりしてつぶやいた。 「努力はみとめてもらえるだろう」  そろそろ出かけなければ、と着替えながら、でもあれを食べて「こんなまずいごはんをつくるひととは暮らしたくない」と思われたらと不安になった。やっぱり出来合いのものだけを出すべきだろうか。いや、しかし、それではパンのみということになる。そんなそっけない朝食はよくない。どうしよう……時間がない。くそ、もう行かなければ。 「マッカチン、勇利を頼むよ」  ヴィクトルは溜息をつきつつ家を出た。  やたらと上質なベッドの中で目がさめた。勇利はしばらくぼんやりし、視界に勢いよくマッカチンが入ってきたことで、自分がどこにいるかに思い至った。 「ああ……失敗した……」  ヴィクトルに迷惑をかけてしまったようだ。さいわい、いつかのように記憶がすっかりなくなっていることはなく、自分がゆうべ何をしていたのか、どうやってここへ連れてこられたのか、それを明確に思い出すことができた。 「最悪だ……」  勇利は室内を見まわした。いかにも私的な、ヴィクトルのためという空間だった。ヴィクトルとマッカチン以外、きっと誰も入ったことがない。なのに自分が泥酔したせいで……。勇利は溜息をついた。ヴィクトルはなんと思っただろう? 優しいひとだから嫌悪感を抱いてはいないかもしれないけれど、その優しさに甘えるのは思い上がりだ。 「あぁあ……」  しかも着ているのはヴィクトルの衣服だった。まったく、自分は何をしているのだろう。もう泣きたい。  謝らなくちゃ、と部屋を出た勇利は、人の気配がないことに気がついた。なんだかよい匂いがするので食堂へ行くと、テーブルの上に朝食の支度がしてあり、上品な型押し模様のついた便せんがのっていた。  おはよう勇利。  きみが起きるまでいられなくてごめん。仕事があるので出かけるよ。  食事はテーブルの上にあるものを好きに食べてくれ。全部食べてもこぶたにはならないから大丈夫。あたためてね。コーヒーでも紅茶でも好みのものを淹れて。ミルクは冷蔵庫にあるよ。ヨーグルトもね。使った食器は流しに置いておいてくれればいい。  もし帰るのなら、鍵は自動だからそのまま出てくれ。もちろん、俺が戻るまでいてくれても構わない。むしろ大歓迎だよ。夕方には戻れると思う。  きみの服は寝室の椅子に置いてあるけど、洗っていないんだ。俺の服はどれでも好きなのを着ていいから、思うようにしてくれ。服だけじゃなく、家の中のもの、なんでも自由に使っていい。自分の家だと思ってくつろいで。マッカチンにはもうごはんをあげてある。欲しがっても騙されちゃだめだ。  それじゃあ行ってくるよ。  愛する勇利へ  きみのヴィクトルより 「……ふっ」  まるで恋人へ宛てたような書き置きに、勇利は笑ってしまった。 「愛する勇利へ、だって」  肩をふるわせながら手紙を置く。 「きみのヴィクトルより、だってさ」  迷ったけれど、せっかく用意してくれたものに手をつけないのは失礼だろう。勇利は卵料理をあたため、冷蔵庫から出したミルクをグラスに注ぎ、ヨーグルトと果物を合わせた器を並べて朝食にした。レタスやチキンを挟んであるパンは、買ってきたばかりなのか、とてもやわらかかった。卵料理はかたくていまひとつ美味しいと思えない。勇利はまた笑った。ヴィクトルでも朝ごはんつくるんだ……。しかもあまりじ��うずじゃない。勇利はずっと笑いながら食事をした。そばに来たマッカチンが甘えるように勇利を見た。 「だめだよ。もうもらったんでしょ? マッカチン、ヴィクトルはあんまり料理が上手くないね。ぼくだって人のことは言えないけどね。それでもこうしてつくってくれるんだ。ヴィクトルはどうしようもなく優しいね。本当は、彼、きっと、こんなこと……」  そこで勇利は食べる手を止め、ふうっと息をついた。ヴィクトルに悪いことをしてしまった。  勇利は使った皿を洗い、丁寧に片づけをした。しかし、必要以上にものには手をふれなかった。借りていたヴィクトルの服も洗濯するべきだったが、それは自分の家でしようと思った。とにかく、他人がさわった感じが残らないようにと、細心の注意を払った。 「マッカチン、ぼく帰るよ」  勇利はマッカチンのつむりを撫でた。 「ごめんね。もうちょっと一緒にいてあげたいんだけど」  自分の服に着替え、ヴィクトルの服はかばんにつめこんだ。やり残したことはないかとひとつひとつ考え、大丈夫だとうなずいて靴を履く。ここには、これからさき、もう来られないだろうけれど、探険なんてしなかった。じろじろ見るのは失礼だ。 「じゃあね」  勇利はすぐにヴィクトルの家を出た。ポケットには、ヴィクトルがくれた置き手紙が丁寧にたたまれ、おさまっていた。  ヴィクトルは、勇利が待っているのではないか、おかえりと迎えてくれるのではないかと思って期待をこめて帰ってきたのだが、家には明かりがついていなかったし、扉を開けたときも人の気配はなく、しんとしていた。やっぱりそうだよな、とヴィクトルは落ちこんだ。  やってきたマッカチンに話しかけつつ、食堂へ行ってテーブルを見た。勇利はすべてすっかり食べてしまったようで、食器は綺麗に洗ってあった。食べてくれただけでもヴィクトルはうれしかった。  置き手紙があった。勇利の持ち物の手帳の切れ端だ。丁寧な文字でこう書いてあった。  ヴィクトル、おかえり。  ゆうべは迷惑かけてごめんなさい。反省しています。今後はこんなこと、ないようにします。本当にごめんなさい。  朝ごはん、ありがとう。美味しかったです。  それから、服も借りちゃってごめん。洗って返します。……普通に洗っていいんだよね? ヴィクトルの服は高級なのばっかりだからこわい。手洗いします。  では。またリンクでね。  ぼくの王子様へ  貴方の忠実なる生徒より  勇利がいないことがヴィクトルはさびしかったけれど、最後のひとことでしあわせになった。 「何が忠実だ」  ヴィクトルは手紙にキスをした。 「俺の言うことなんか聞かないくせにね」  それからもヴィクトルは、折にふれ、勇利に鍵を持ってもらおうと努力をした。ジュースを買ってきてあげる、と言えば、紙パックのジュースと一緒に鍵を渡そうとした。勇利と手をつなぐときはてのひらに鍵を忍ばせ、鍵と一緒に彼の手を包んだ。勇利がすべり終わったあと、「勇利、ちょっとおいで」とまじめな顔で呼び、どんな注意をされるのだろうと身構えている彼に「とてもよかったよ。着氷のあとに妙に力が入っていたからそこさえ気をつければ言うことなしだ。ごほうびにこれをあげよう」と鍵を握らせたりもした。だが、すべてだめだった。そのたびに勇利は笑い、「なんで渡してくるの」とヴィクトルにそれを返した。時には「そんなに気軽に出してきちゃいけない」と説教をされることもあった。ヴィクトルは心外だった。渡すべき相手にしか渡していないというのに。  一緒に暮らさなくてもよいのだ。──いまはまだ。受け取ってくれるだけでいい。だが勇利はそれをよしとしなかった。それならとヴィクトルがただ家に誘っても、それさえも断った。「勇利が俺の家にいたがるように」と思って立てた計画は、ことごとくついえてしまった。まず勇利がヴィクトルの家に近づきたがらないのだから話にならない。  何がいやなのだろうと考えてみると、最初に勇利を家に泊めたことしか思い当たらなかった。勇利はきっと、迷惑をかけた、もうあんなことはしてはならないと自分を戒めているのだろう。ヴィクトルのことをいやがっているという感じはしない。ただ、長谷津にいたころより態度が厳しくなっているかもしれない。ヴィクトルに対する態度ではなく、自分を制御する態度ということである。  もっと甘えてくれていいのに、とヴィクトルは不満だった。異国の地ではさびしいと言い、ぼくに構ってとわがままを述べ、ヴィクトルの家に上がりこみ、ここに住むからめんどうを見てと求めたって、彼ならちっとも構わないのだ。ヴィクトルは勇利の言う通りにするだろう。なんでもしてあげる、望みを言ってごらん、と甘やかすにちがいない。自立心の強い勇利はそれがいやなのかもしれないが、それにしてもヴィクトルからへだたりを取りすぎだと思う。ヴィクトルはおもしろくなかった。  このところ、勇利はギオルギーと仲がいい。そのことをヴィクトルは気にしていた。勇利に友人ができるのはもちろんよいことだ。しかし、あのふたりはたいして話が合うまいと思っていたのである。ギオルギーは思いこみは激しいけれど、実直な、きちんとした男だ。ただ、話題といえば惚れた女のことばかりで、勇利にはいちばん苦手な相手ではないだろうかという気がしていた。勇利も愛にあふれているのだけれど、ギオルギーとはあきらかに型がちがう。それなのに、練習のあとは何か簡単に言葉を交わしたり、確認をしたりしているのだ。 「最近、勇利と仲がいいみたいだね」  どうしても気になったので、ヴィクトルはギオルギーがひとりでいるときを見計らい、さりげなく話しかけた。リンクサイドで自分の滑走の動画を見ていたギオルギーは顔を上げ、「ああ」とあっさりうなずいた。 「そんなにふたりの気が合うとは知らなかったよ」 「べつに気が合っているわけではないが……、カツキは話していても物静かで楽な相手だな」  勇利は確かに控えめで清楚だ。だが、「物静か」と言い切ってしまうのは多少抵抗がある。ヴィクトルはバンケットで大騒ぎした勇利を思い出し、ふっと胸があたたかくなった。しかしその安寧は、ギオルギーの次の言葉で吹き飛んでしまった。 「寮は物音にうるさい者も多いが、あれなら誰にも文句は言われないだろう。問題はなさそうだ。彼自身も過ごしやすいと言っているし、互いにとってよかった」 「なんだって!?」  聞きまちがいかと思った。寮? いったいいつ勇利が寮に行ったというのだ。意味がわからない。 「勇利は寮を訪問しているのか!?」  ものすごい��幕で質問してしまい、まわりの注目を浴びたヴィクトルは咳払いをした。 「もちろん……、友人の家に遊びに行くくらいは当然のことなんだが」  いいのだ。それくらいは。友達は多くいたほうがよい。しかし、友人づくりを苦手としている勇利が、と思うと違和感をおぼえた。 「遊びに行っているわけではないぞ」  ギオルギーは不思議そうに言った。ヴィクトルはさらに心中穏やかではなくなった。 「どういうことだ」 「なんだ、彼に聞いていないのか?」 「何を!?」 「住んでいる部屋がだめになってしまったそうだ」 「だめに……?」 「ああ。空き巣が入ったらしい」 「勇利の部屋に!?」 「いや、同じアパートのほかの部屋らしいが、鍵は壊されるし、荒らされるし、ひと部屋では済まなかったということだ。さすがに気味が悪いだろうとヤコフコーチが彼に声をかけた。その結果、新しい部屋がきまるまで寮へ入ることになった」 「それをなんで君が知っている!?」  そういう相談は俺にすべきじゃないのかとヴィクトルは抗議した。 「そんな話、まったく聞いていない」 「ちゃんと報道されていたぞ。ヤコフコーチもニュースを見てカツキを心配したのだ」 「それは……」  確かにニュースは近頃見ていなかった。だがそういう問題ではない。 「私も以前は寮に住んでいたから、カツキもいろいろ訊きたいことがあるのだろう。私はそれに答えているだけだ。不安もあるだろうからな。そうそう、このあいだ、私の大切な女性に、親切で頼りになると言われたのだ。愛する彼女……」 「そんなことより」  ギオルギーの新しい彼女の話などどうでもよい。 「寮へ入ることを勧めたのはヤコフなんだろう?」 「そうだ。カツキはべつにもとの部屋でいいと言っていたようだが」 「よくない!」 「そうだろうな。私もあまりいいことだとは思わん。ヤコフコーチも同意見だろう」 「それならなんでヤコフは俺に言わなかったんだ!?」  ギオルギーは興味なさげにかぶりを振った。 「さあな。私もカツキに、どうせならヴィクトルにどうかしてもらってはと提案したが、そういう話にはならなかった。彼のやり方に口を挟むつもりはないからそれ以上は言わなかったが」 「意味がわからない!」  ヴィクトルは憤慨しながらヤコフがいるはずのスタッフルームへ向かった。勇利に問いただしたいが、彼はいまバレエの時間である。 「ヤコフ!」  扉を開けるなりわめいたヴィクトルに、ヤコフがめんどうくさそうな視線を向けた。 「なんだ、騒々しい」 「いったいどういうことだ!」  ヤコフは、何がだ、とは言わなかった。彼は「聞いたのか」と溜息をついた。 「聞いたとも! なんで勇利は俺のところへ来ない!?」  ヴィクトルは、重厚な椅子にゆったりと座っているヤコフのそばでまくしたてた。ソファを示されたがのんびり腰を下ろす気になれない。 「言っておくが、わしも提案した。もとの部屋で構わんというようなことを言うから、クラブの管理者としてそれは容認できないと。コーチに相談すべきだと勧めた」 「勇利はなんて!?」 「『ヴィクトルに迷惑はかけられない』そうだ」 「迷惑!?」 「ヴィクトルは優しいから、これを聞いたら部屋へ来いと言うにきまっている。それは困る。だから言わないで欲しい。そう懇願してきた」 「…………」 「わしとしてはおまえのところへ行ってもらいたいが、おどして言うことを聞かせるわけにもいかん。いかにも頑固そうな、手のつけられん態度だったしな。それで仕方なく、寮へ入れるように手続きしてやった。もっとも、寮は若い連中が多い。カツキも、自分のような立場の人間が占領していては悪いと思ったのか、すぐに新しい部屋を探すと言っておったが」  ヴィクトルは来たときと同じ勢いで部屋を出た。そろそろ勇利が戻ってくる時間だ。みっちりと叱ってやらなきゃ、と決心していた。  ところが勇利は、ヴィクトルの剣幕におそれをなした様子もなく、汗を拭きながら平然と言い返した。 「ああ、うん、寮にいるけど。それがどうかした?」 「どうかしたじゃないだろう!」  ヴィクトルはむきになった。 「そういうことは俺にいちばんに報告すべきじゃないのか!?」 「ヴィクトル、声が大きいよ……」 「聞けば、俺には黙っていてくれとヤコフに頼んだそうじゃないか。どういうことだ!」 「ヴィクトル、こっちへ……」  リンクメイトたちがじろじろ見るのを避けるように、勇利はヴィクトルの手を引いて廊下のすみへ行った。 「確かにそう頼んだよ。でもヴィクトルは、ぼくが困ってるって知ったら家においでって言うでしょ?」 「当たり前だ! 何がいけない!?」 「いけなくはないよ。ありがたいと思う。でも……」  勇利はふっと息をついた。 「ヴィクトルに迷惑はかけられないよ」  まただ。迷惑をかけられない。いったいどういうことなのだ。 「俺はそんなの迷惑だとは思わない」 「ヴィクトルは優しいからそう言うけど」 「優しいとかそういうことじゃない。俺が何度勇利に鍵を差し出したと思ってる? 冗談だとでも思っているのか?」 「あれこそ親切でしょ」  勇利はゆるゆるとかぶりを振った。 「大丈夫。心配しないで。なんとか部屋もみつかりそうだし」 「そんなの探さなくていい!」 「ヴィクトルのところには行かないよ。安心して……」  来ないから安心できないんだ! ヴィクトルはもっと言ってやろうかと思ったが、勇利の口元はしっかりと引き結ばれ、何を言われても動じない、といった印象だった。勇利も大人なのだし、彼の意思を尊重しなければならない。守ってやるからおいでと甘やかすのは失礼なのだろう。ヴィクトルはそうしたいけれど。 「……わかった」  ヴィクトルは溜息をついた。 「勇利のきめたことなら反対はしない……。でも、そういうことはちゃんと俺に言って欲しい」  勇利がゆっくりと目を上げてヴィクトルを見た。 「勇利にひみつをつくられるのはかなしいよ。俺のためを思ったのだとしてもだよ」  勇利はようやくやわらかな目つきになると、うん、とこっくりうなずいた。 「ごめんなさい」 「これからはちゃんと話してくれるね?」 「はい……。ぼくも意地になってた。よくない態度だったと思う」 「俺も頭ごなしに叱りつけてすまない。ただ勇利のことが心配なんだ」 「ありがとう」  勇利はとろけるような微笑を浮かべて熱心にヴィクトルをみつめた。ヴィクトルの胸がぎゅうっと引き絞られた。ああ、いますぐこの子をさらっていけたら。そう思った。  ヴィクトルは相変わらず、せっせと勇利を食事に誘ってはデートをくり返していた。勇利自身の意見は知らないが、ヴィクトルとしてはこれはデート以外の���にものでもなかった。  勇利は、ヴィクトルが家に招こうとしてもけっしてうなずかないけれど、外で食事をしようという誘いには素直に応じた。ヴィクトルは、なぜ外で食べるのはよくて家はだめなのだろうと思案し、もしかして勇利はヴィクトルの家を訪問したが最後、何かいやらしいことをされると心配しているのではないかと思いつき、言い訳をしたくなった。ちがうのだ。そんなことをしようと思っているのではないのだ。もちろん、将来、そうなれたらと考えてはいるが、何もいますぐ強引に、という気持ちではいない。勇利さえよければ──いますぐでもいいけれど。ヴィクトルはそうしていろいろと悩み、溜息をついたあげく、勇利を一度だけ家に泊めたとき何もしなかったことを思い出し、それを知っている勇利が警戒するのもおかしな話だと気がついて、自分の考えはまちがっていると悟った。どうも勇利のことになると気がはやって妙なことを考えてしまう。 「勇利、食事に行こうか」 「うん、いいよ」  その日もヴィクトルは勇利を夕食に誘い、おおいに楽しい時間を過ごした。ヴィクトルの家に来ないからといって、勇利がヴィクトルにつめたいわけではない。一緒にいるときは優しく笑うし、目つきはヴィクトルへの愛を語っている。いったい何がだめなのだろうとヴィクトルは答えの出ない問題についてまた思案した。勇利とはもう一生一緒に住めないのではないかと、気弱な不安が頭をよぎったりもした。 「明日はひどい雨らしいよ」  ヴィクトルはレストランの大きな窓から空を見上げて言った。重そうな雲が低くたれこめ、どんよりとしており、いかにも嵐が来そうな様相だった。もっとも、サンクトペテルブルクはたいてい曇っている。 「ずっと湿った空気だったね」  勇利はうなずいた。 「明日が休みでよかった」 「家に閉じこもってじっとしてることだね」 「そうする」 「俺の動画でも見るんだろう」 「たぶんね」  勇利はほほえんだ。 「今夜は大丈夫かな」 「明日の昼過ぎから大降りだそうだよ」 「そっか」 「この町じゃ、日本みたいに晴れ渡ることはめったにないから、勇利はおもしろくないだろうね」 「そんなことないよ。どこでも、その国その国の事情といいところがあるよ。ここはヴィクトルの生まれ育った町だし、そう思って見ると親しみが湧く。情緒的ですてきなところだしね」  ヴィクトルは黙って勇利の手を握った。勇利は微笑してされるがままになっていた。 「勇利……」 「ん?」  一緒に暮らしたい。その言葉をヴィクトルはのみこんだ。 「綺麗だ」  勇利は笑い出した。 「本当だ」  勇利はまだ笑っている。 「うそじゃないぞ」 「ありがとう」  勇利はヴィクトルの手を見た。 「離してくれないと食事ができないよ」 「離したくない」 「そう?」 「ああ」  勇利は何も言わず、チョコレートのような色の甘そうな瞳でヴィクトルをみつめた。ヴィクトルは胸がどきどきして、結局手を離してしまった。だが、食事が終わるまでずっと勇利を求めていた。終わってからも求めていた。帰りたくなかった。しかし、ヴィクトルの目には、勇利は帰りたそうに見えた。 「ぼくんち、寄ってく?」  通りに出てそう問いかけられたとき、ヴィクトルの心臓は一度止まってしまった。もちろんそんなはずはないのだが、それくらいどきっとしたし、我を忘れてしまった。 「この近くなんだ。新しく借りた部屋」 「……いいのかい?」 「いいよ。狭くて殺風景なところだけど、ヴィクトルさえよかったら……」 「行く」  ヴィクトルが勢いこんでうなずくと、「ヴィクトル、鼻息が荒い」と勇利が笑った。 「そうかい?」  そうだろうな、と思った。 「うそうそ。でも期待しないでよ。何もないんだから」  何もなくてもいい。勇利がいるだけでヴィクトルには天国だ。ヴィクトルは有頂天になって勇利についていった。それにしても妙だ。ヴィクトルの家に来るのはいやで、自分の部屋へ招くのはよいのだろうか。勇利の思考回路はわからない。 「ここだよ」  路地の奥にあるその細長い建物は、いかにも古く、さびしく、うらぶれてアパートらしくなかった。 「この最上階なんだ。びっくりした? クラブの近くでぼくの支払える家賃でってなると、あんまり候補がなくて」  急な狭い階段を勇利は上がっていった。 「でも、ひみつ基地みたいでわくわくしない?」  勇利の言うことはわからないでもないが、しかしあまりに古ぼけているのではないだろうか。味わいはあるが、便利で住みやすいとは言えないようである。 「ここ。入って」  部屋もやはり狭かった。ベッドとちいさなテーブルセット、それにおもちゃのような本棚しかない。 「紅茶でも淹れるね。座ってて」 「勇利、ここ、快適なのかい?」  ヴィクトルは部屋を見まわした。 「うん。おもしろいよ」 「おもしろいね……」 「まあ、ぼくはあまり部屋にはいないから、居心地は気にしないんだ」  勇利の淹れた紅茶をヴィクトルはゆっくりと飲んだ。なくなってしまうと帰らなければならなくなる。それはせつなかった。 「ヴィクトルはこんな部屋、住んだことないでしょ」  勇利がいたずらっぽく言った。かわいい笑顔で、ヴィクトルは胸がうずいた。 「ないね」  勇利はうんうんとうなずいてくすくす笑っている。ヴィクトルは口をひらいた。 「勇利とだったら、どんなところでも住むけどね」  勇利がぱちりと瞬いた。 「ここだってそうだよ。すてきだね。確かにひみつ基地だ。勇利と身を寄せあってここで暮らしたいな」  勇利がほほえんだ。冗談だと思っているらしい。 「引っ越してこようかな」  ヴィクトルはつぶやいた。勇利がまた瞬いた。 「同じ部屋に勇利の息吹が感じられるというのはすてきだ。狭いと距離がより近くなって、さらに胸がときめく」  勇利は何も言わなかった。彼は不思議そうな顔でヴィクトルをじっと見ていた。ヴィクトルはたまらなくなった。この可憐な、世界にたったひとりのうつくしい子を愛していると思った。 「勇利……」  ヴィクトルは手を差し伸べ、向かいにいる勇利の頬にふれた。勇利はじっとしていた。 「きみと一緒に暮らしたいな……」  勇利のくちびるが何か言いたげに動いた。ヴィクトルは顔を寄せ、彼のくちびるに接吻した。勇利がはっと息をのんだ。 「──愛してる」  ヴィクトルは勇利のまじりけのない瞳をまっすぐにみつめた。チョコレート色の中に何かがきらめき、流れ星のようにすっと線を引いて、うつくしい余韻を残した。 「ごめん。帰るよ」  ヴィクトルは立ち上がった。 「ヴィクトル」 「紅茶、美味しかった。ありがとう。またね」  ヴィクトルは階段を二段飛ばしに駆け下りると、古めかしい建物を飛び出すようにあとにして、路地に立ち尽くした。  キスしてしまった。勇利に。  翌日は、予報通りの空模様だった。ヴィクトルは激しい雨音を聞きながら、勇利はいまごろどうしているだろうと考えた。ヴィクトルにキスされたことを怒っているだろうか? 気に病んでいるだろうか。それとも、まったく気にしていないだろうか。怒られるのも、嫌悪を持たれるのもいやだけれど、気にしてくれないのもさびしい。ヴィクトルは家の中をうろうろと歩きまわり、勇利のことばかり思案した。かわいい勇利。可憐な勇利。うつくしい勇利。勇利の音楽的なスケート。ヴィクトルのスケートを愛している勇利。ヴィクトルを愛している勇利。しかし家には来てくれない勇利。なのに自分の部屋には招いてくれる勇利。勇利にキスをしたヴィクトル。ヴィクトルの家にはもうずっと訪れてはくれないのだろうか。いや、それよりさきに、部屋に呼んでくれなくなるかもしれない。キスをされるなんて危険きわまりないから、ふたりきりになるのはいやだと思っているかもしれない。  いつの間にか夜になり、雨はますます激しくなってきた。ヴィクトルは溜息をつき、窓辺に立ってカーテンをそっと手で払った。表の通りを見下ろしたとき、はっとなった。街路灯のよわよわしいひかりが、トランクをごろごろ転がしてきた青年の姿を照らした。彼は防水用のウィンドブレーカーを着て、その上から重そうなバックパックを背負っていた。 「……勇利」  ヴィクトルはつぶやいた。勇利だ。ヴィクトルが見間違えるはずがない。勇利だ。  彼は通りを渡ると、迷いもなくヴィクトルの家の前庭に入ってき、小径に沿って庭を勢いよくを突っ切った。勇利の姿がヴィクトルのいる窓から見えなくなり、すぐあとに呼び鈴が大きく鳴った。ヴィクトルは駆け出し、マッカチンがついてきた。 「勇利!」  勇利は、フードの先からぽたぽたと雨しずくをこぼしながらにっこり笑った。 「こんばんは」 「勇利、どうしたんだ──いや、そんなことどうでもいい!」  勇利が来た! どんなに誘ってもヴィクトルの家へ入ることを承知しなかった勇利が。酔ってどうしようもなくなり、ヴィクトルが連れ帰ったとき以外足を踏み入れることを拒んだ勇利が。 「入ってくれ。寒かっただろう。びしょ濡れだ」 「中は濡れてないんだ。上着、ここで脱ぐね。それから、バックパックを拭くタオルを貸してもらえるとうれしいんだけど」 「ちょっと待って!」  ヴィクトルは飛ぶように走ってタオルの置いてある棚まで行き、何枚もそれをつかんで勇利のところへ戻った。ヴィクトルのあとを浮かれたようにマッカチンが追った。 「はい、これ」 「ありがとう。……ヴィクトル、こんなにいらないよ」  勇利が陽気に笑った。ヴィクトルは胸が痛いくらいどきどきした。 「上着を貸してくれ。かけておけばすぐに乾くよ。バックパックも、拭いて置いておけばいい」 「あ、悪いんだけど、このトランクも……」 「もちろんさ。こっちのすみへどうぞ。お風呂に入る?」 「ううん。冷えてないよ。一生懸命歩いてきたから暑いくらいなんだ」 「でも何かあたたかいものを用意するよ。紅茶? コーヒー? ミルク?」 「何もいらないよ」  ヴィクトルは急いで勇利を居間へ案内した。信じられなかった。勇利がいる。夢ではない。 「いきなり来てごめん」  勇利はソファではなく、ふかふかした敷物の上にぺたんと座りこんだ。ヴィクトルもすぐ前に座った。 「ぜんぜん構わない。ぜんぜん」  ヴィクトルは勢いこんで言った。勇利がほほえんだ。彼は改まったそぶりで口をひらいた。 「ヴィクトル、あのね」 「うん」 「ぼくのこと、ここに置いてくれる?」  ヴィクトルは目をみひらいた。 「ぼく、行くところないんだ」  勇利は可笑しそうに笑った。 「あのね、あの部屋、雨漏りがすごくて」  ヴィクトルは瞬いた。 「最初は食器を置いてしのいでたんだけど、もうあっちこっちで漏り始めて、器の数は足りないし、家の中にいても雨が降ってるみたいな感じで」 「…………」 「っていうのはちょっとおおげさだけど、でも、天井のあちこちに水が染み出してるし、とてものんびり過ごせないんだよね」 「…………」 「次こういうことがあったらちゃんと報告しろってヴィクトル言ってくれたし……」  勇利は目を伏せ、それから上目遣いでヴィクトルを見た。 「つまり、ここに住んでいいっていう意味でしょ?」 「…………」 「何度も鍵をくれようとしたし……」 「…………」 「あれ、ぼく、ヴィクトルはコーチとしての義務感でそうしてくれてるんだと思ってたんだけど、ちがったみたい」 「…………」 「だって、ゆうべ、ヴィクトル……」  勇利は頬を赤くし、そっとみずからのくちびるに指先でふれた。ヴィクトルは胸がいっぱいで何も言えなかった。 「……あれ? そうじゃなかった?」  勇利が不思議そうに顔を傾けた。 「もしかして、ぼくが最初に考えてたのが正しいの?」 「…………」 「やっぱり、責任感で渡そうとしただけだった? 報告しろっていうのも、言葉の通り? ただ報告すればよかっただけ? ぼく、来ちゃいけなかった?」  ヴィクトルはなおも口が利けなかった。勇利は困ったように頬に手を当てた。 「ぼく、まちがえた? はずかし──」  ヴィクトルは両手を差し伸べ、勇利を胸に抱きしめた。勇利がぱちくりと瞬いた。 「……まちがってない」  ヴィクトルはささやいた。 「合ってる」 「…………」 「合ってるよ……」  勇利がヴィクトルを見た。ヴィクトルはチョコレート色の瞳と視線を合わせ、まぶたをほそめると、首をかたげてくちびるを重ねた。勇利がヴィクトルの背中に手をまわし、そっと目を閉じた。 「なんでなかなか俺の家に来てくれなかったんだい?」  ヴィクトルは、うっとりと胸にもたれかかっている勇利に抗議するように言った。万事望み通りになり、喜びでうきうきしてしまうと、そんなふうに文句を述べるゆとりができた。 「ひどいじゃないか。俺をもてあそんだのか? そうだろう。俺が何度も鍵を渡そうとしたり、家においでと誘ったりするのを見て笑ってたんだ」 「だからそれは義務感からの行動だと思ったんだってば……」  勇利は片目を開け、あきれたようにヴィクトルを見た。 「なぜそんなふうに思う? あんなに熱心だったのに。俺が勇利を愛してるのなんてあきらかだろう? なのに家には行きたくないとか、鍵を渡してくるなんて恥知らずだとか」 「言ってないよ」 「それくらいの気持ちだったんだろ」 「あのね、ぼくばっかり責めないでくれる? ヴィクトルはいまは気を変えたみたいだけど、もとはといえばヴィクトルのせいじゃないか。ぼくと暮らしたくなかったでしょ」 「なんてことを言うんだ」  ヴィクトルはますますむっとした。 「そんなわけないだろう。冗談じゃない。誰がそんなことを言った?」 「ヴィクトル」 「そうだろう。誰も言わない。きみの想像だ。……なんだって?」 「ヴィクトルが言った」  勇利はヴィクトルの胸から身体を起こし、自分は悪くないというように言い張った。 「ヴィクトルがそう言ったんだよ」 「なに言ってるんだ?」  ヴィクトルは眉根を寄せた。 「ヴィクトル、また忘れたんだね」  勇利は笑った。 「そんなことは言っていない」  ヴィクトルは断定的に宣言した。 「言うわけないだろう? なんで勇利と暮らすのをいやがらなければならないんだ。わけがわからない。こんなに望んで、夜も眠れなかったっていうのに」  ヴィクトルは勇利と額をこつんと重ね、こらしめるようににらんだ。 「何を勘違いしているのか知らないが、そんなあり得ないことを──」 「他人に入りこまれたくないって」  勇利がそらんじるようにつぶやいた。 「え?」 「誰も家に入れるつもりはないって」 「なに?」 「誰かが入ると思うとぞっとするって」 「……何が?」 「ここはヴィクトルとマッカチンだけのお城。そうだったでしょ?」 「…………」  そんなことは言ってない。言っていない、……はずだ。言っていない……。しかし、記憶の底に何かひっかかるものがあった。 『ヴィクトルは、いま、家はどうしてるの?』 『俺、自分の家に他人が入ることがいやなんだ。俺の家には誰も入れるつもりはないよ。絶対にね』 『ヴィクトルとマッカチンだけのお城だね』  あれか……!  ヴィクトルは動揺した。すっかり忘れていた。そもそもあれは、勇利を拒絶したいという意味での発言ではなかった。かえって勇利への愛情を表現したつもりになっていたのだ。あのころはここでふたりで暮らせるなんて、考えてもいなかったから。 「ち、ちがうんだ、勇利」  ヴィクトルはうろたえながら言い訳を始めた。 「あれはそういう意味じゃない。そうじゃないんだ」 「そう言われたらぼくだって遠慮するよね。ああ、ぼくには入りこめない場所なんだなって。わがまま言ってヴィクトルにめんどうだと思われたくないもの」 「ちがうんだ」 「ヴィクトルは人を自分の家に入れたくない。なのに鍵を渡そうとするから、このひとは残酷だなあと思ったよ。ぼくをためしてるのかと思った。これで大喜びで受け取ったりしたら、自覚のないやつだってきめつけられるのかなって」 「ちがう! そういうつもりじゃなかった」 「酔っぱらってヴィクトルのお��話になったときは本当にまいったよ。嫌われたかと思った。できるだけ家のものにさわらないようにしてすぐに帰ったけど、あのとき、ヴィクトル、本当はいらついてなかった?」 「そんなわけないだろう! 俺は家に帰ったら勇利がいるかもしれないと思ってわくわくしてたんだぞ!」 「それは初めて知った」  勇利はくすっと笑った。 「勇利、よく聞いて」  ヴィクトルは真剣に言いつのった。 「確かに言った。他人は入れないとね。でもそれはちがうんだ。勇利に誤解されたくなくて。俺はあのときまで、本当に家には誰も入れていなかったんだ」 「これからさきも入れたくないんじゃないの?」 「黙って聞いてくれ。確かに入れたくない。入れたくないが、いいんだ。勇利はいいんだ。俺はただ、勇利が俺のことをもてると思ってるみたいだったから、誰でも家に入れると断定されたくなかっただけなんだ」  ヴィクトルは一生懸命に説明した。 「勇利なら別だ。勇利は来ていいんだよ」 「そう?」 「そうなんだ。むしろ来て欲しいんだ。いて欲しいんだ。勇利がいなくちゃだめなんだよ、俺は」 「そう?」 「そうなんだ。そうなんだ」 「ふうん」 「勇利が別に部屋を借りると言ってきて、俺がどれだけがっかりしたと思う。もう毎日毎日しおれてたんだよ。ヤコフたちに訊いてみてくれ。勇利がロシアへ来るのはうれしい。最高だ。でも一緒に住めないなんてひどい。そんなの聞いてない。俺は衝撃のあまりぐったりしていた。ふらふらだった」 「そうなの?」 「どうすればいいのか考えていた。勇利は言い出したら聞かないから、とりあえずは受け容れるしかない。勇利の気に入らないことをして、また終わりにするなんて言われたらたまらないからね。でもあきらめたわけじゃなかった。どうにかして勇利の気持ちを変えようと思っていた。将来はふたりで暮らすんだときめてた」 「そうなの?」 「勇利をここへ迎えようと必死なのに、勇利はぜんぜん俺を相手にしてくれないし、勝手に寮へ行ったりするし、さらに部屋を借りたりするし、さすがの俺もくじけそうだった」 「前向きなヴィクトルが」 「おまえが頑固だからだ」 「ヴィクトルが誰も入れたくないって言うからだよ」  勇利はじっとヴィクトルの目を見た。 「ぼくだってヴィクトルのところに来られたらなあと思ってたよ。でも、あんな拒絶の言葉を聞いたんじゃ、絶対そんなこと言えないじゃないか。手がかかる邪魔者だなんて思われたくないからね」 「それは……、それは、悪かったけど……でもあれはずっと前の……」 「部屋へ入られるのは困る、って宣言してるひとに、ところで一緒に住んでいい、なんて訊けないよ」 「それはそうだけど……」 「ぼくだって……」  勇利はふと目を伏せ、吐息のような声でささやいた。 「さびしかったんだからね……」  そのひとことでヴィクトルはもう何もかもをゆるせる気がした。 「本当だよ」  勇利が念を押した。 「本当にさびしかったんだから」 「ごめん」  勇利はほほえんだ。 「……でも、食事に誘ってくれたのはうれしかったよ」 「……勇利」 「酔ったぼくを家に連れてきてくれたのも」 「勇利!」  ヴィクトルは夢中で勇利を抱きしめた。 「勇利、俺の勇利。おまえは、俺が自然で豊かな生活をいとなむために不可欠な存在だ」  ヴィクトルは勇利の耳元に熱烈にささやいた。 「勇利、愛してる」  勇利が純粋そうな目でヴィクトルをじっと見た。 「おまえなしじゃだめなんだ。ぜんぜんだめだ」 「…………」 「いつも、勇利と会っているあいだは元気なのに、帰ってきてからは冷蔵庫の奥でひからびたチーズみたいになっていた」  その物言いに、勇利がかすかに笑った。 「かわいそうだろう?」 「……うん」 「ヴィクトル・ニキフォロフじゃないみたいだろう」 「ん……」 「俺を元気にできるのは誰なのか、どういう行為なのか、勇利、知っている?」 「…………」 「わかるだろう?」 「ふたりでひみつ基地に行って、雨漏りのする部屋で過ごしてみる?」  ヴィクトルは笑い出し、勇利に頬ずりをした。 「確かにそれは楽しそうだ」 「ぼくの最初のアパートで、泥棒が来るかもしれないって思いながら暮らすとか」 「スリルがあるね……」  ヴィクトルは勇利のくちびるを親指でなぞった。 「選んだ部屋がことごとくそんなことになるなんて、ぼく、運がないのかなあ」 「今度の部屋は最高だ」 「本当?」 「本当さ。なにしろ、ずっときみの王子様がいるからね。さっそく勇利の部屋のものを買いにいこう。でも買わなくていいものもある」 「なに?」 「ベッドはいらないよね。俺のがあるから」  ヴィクトルがきめつけると、勇利はおおげさにあきれた顔をした。 「話すことがまずそれなの?」 「そうだ」 「えっちなんだから……」 「そうだ。俺はえっちだ。覚悟しておいてくれ。おまえはえっちな男と住むことになるんだ。これがどういうことかわかるよね?」 「えっちなんだから」  勇利はヴィクトルをにらんだ。 「でも勇利を泊めた夜は何もしなかっただろう?」 「分別があるね」 「えっちだけど紳士だよ」 「えっち紳士」  勇利はくすくす笑い、ヴィクトルの肩に頬を寄せた。 「……べつに、何かされても、よかったけど」 「え?」  勇利はぱっと立ち上がると、「上着は乾いたかな」と言いながら玄関のほうへ行ってしまった。 「勇利、ちょっと待って。どういう意味だ? きみね……」 「あ、乾いてる。ヴィクトル、これどこに置いたらいい? トランクも。ぼくの部屋は?」 「勇利!」  ヴィクトルは勇利の腕をつかみ、真剣に言った。 「今夜から一緒に寝るぞ」 「ぼくが試合でクワドフリップ跳ぶのを見ているときみたいな顔で言わないでください」 「そんな顔してた? というかきみ、試合中に俺の顔を見ている余裕があるのか?」 「試合中は見てないよ。でも、どこのテレビ局も、ぼくがクワドフリップ跳ぶときはヴィクトルの顔を映すんだよ。あとでスロー再生見たら絶対ヴィクトルを挟んでくるんだから。ヴィクトル、すごく挑戦的だよ」 「そうかな。初めて知った。勇利、返事は? もしかしてかわそうとしてる? 俺は断られているのか」 「ヴィクトル……、分別があるね」  勇利はほほえんだ。ヴィクトルは分別をかなぐり捨てて、勇利を寝室へ連れていった。 「ぼくの荷物」 「そんなの明日にしろ」  ヴィクトルは勇利をベッドに押し倒すと、服を一枚一枚脱がせていった。勇利はとくに文句も言わず、されるがままになっていた。 「ヴィクトル……ぼく……」 「さあ、もう何も言わないで。愛してるんだ……」  ヴィクトルは勇利を抱きしめた。勇利のしなやかな肢体はいともたやすく腕の中におさまって、すんなりとヴィクトルのもののようになった。ヴィクトルは勇利のおとがいを持ち上げた。くちびるを重ねると、甘えるように勇利が抱きついてきた。ヴィクトルは夢中になって熱烈なキスをした。 「……待って。ひとことだけ、いい?」 「こわいことじゃないだろうね」 「ちがうよ。それが終わったら本当にもう何も言わないから」  勇利はヴィクトルのくちびるをかるくついばんだ。ヴィクトルは身構えた。 「じつはあの卵料理、いまひとつだったんだ。ヴィクトルでも変な料理つくるんだぁって思った。発見。ちょっとうれしい。以上」 「勇利、それ、いま言わなきゃいけないこと? 『ヴィクトルでもセックスへたくそなんだぁ』とは絶対言わせないからね」
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zaregoto1914 · 5 years
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土呂久鉱害事件に関する覚書
(2002年1月22日成稿)
土呂久鉱害事件に関する覚書
 宮崎県高千穂町の土呂久鉱山における亜砒酸製造に伴う慢性砒素中毒症は、大正期から戦後に至る長期にわたって継続した鉱害であったにもかかわらず、被害地域が僻遠の山村であったため長らくその存在が知られず、鉱山の閉山から10年近くたってから地元の教師の告発によって実態が初めて認知された特異な公害である。慢性砒素中毒症が4大公害病に続く指定公害病でありながら、現在あまり顧みられることが少ないことも考慮し、本稿では土呂久鉱害の経過を追うことで、近代日本社会の「闇」の一端に切り込みたい。
(1)土呂久鉱山の成立(1920-1933)  宮崎県岩戸村(現・��千穂町)の土呂久鉱山は、貞享年間(1684-1687)に銀山としてスタートしたものの、近代に入ってからは事実上休山状態であった。しかし、1920年、当時佐伯近郊の木浦鉱山で亜砒酸製造を行っていた鉱山師の宮城正一が土呂久鉱山から亜砒鉄鉱を採掘し、土呂久で亜砒酸の精錬を開始したことで一変した。日本の亜砒酸生産は第1次世界大戦期にドイツに代わる形で急成長し、主にアメリカに輸出されて綿花栽培の害虫駆除剤の原料などに使われていた。ところで、宮城が港町で交通の利便な佐伯から山間の土呂久へ移ったのには理由があった。地方紙『佐伯新聞』1917年4月29日付に次のような記事がある。
「懸案となり居りし当町字灘鳥越にある亜砒酸製造所の煙毒問題は今回所主宮城正一が農民に対して損害賠償をなし且つ製造所を移転する事となり、兎も角も一段落を告げるに至った」
 宮城は煙害により地元住民から補償と立ち退きを要求されていたのである。つまり宮城は佐伯を追われ、亜砒酸製造が甚大な鉱害をもたらすことを知りながら土呂久へ移転したのであった。
 亜砒酸は昇華点の193℃を境にして固体から気体へ、気体から固体へ変化する。この性質を利用し、亜砒鉄鋼を焙焼して砒素分を亜砒酸ガスとして流出させ、ガスを昇華点以下の空間に導き固体に戻して亜砒酸の結晶を採取する。当時、亜砒酸生産量全国一の足尾銅山では、銅の精錬の際に煙に含まれる亜砒酸をコットレル集塵器で回収する方法が採られていたが、土呂久にはそのような設備はなく、煙突に藁の覆いを被せるだけで、砒素を空気中に撒き散らし放題であった。そのため早くも1923年には亜砒酸による農業被害が地元で問題にあった。5月に行われた土呂久の部落自治組織「和合会」総会は鉱山側に「完全ナル設備ヲナシ事業ヲナサレン事」を要求することを決した。これに対し、宮城に代わって経営者となっていた川田平三郎は、1ヵ月50円の「交付金」を和合会に支払うことに応じたが、その見返りとして鉱山へ操業に必要な材料を提供することを求めた。鉱山側は要求を逆手にとったのである。
 その後鉱害は甚だしくなり、特に牛馬の奇病が相次いだ。1925年、和合会は岩戸村長の甲斐徳次郎に対策を要求し、甲斐は西臼杵郡畜産組合の獣医である池田実と鈴木日恵に奇病で死んだ牛の解剖と鉱害の調査を依頼した。4月7日、鈴木は警察官立ち会いのもと解剖を行い、「連続セル有害物ノ中毒ニアラサルヤノ疑ヲ深カラシムルモノナリ」との所見を示した。甲斐はこの牛の内臓を宮崎県警察部衛生課に持参し、鑑定を依頼したが、県側は解剖後に内蔵へ亜砒酸が混入した可能性を理由に鉱害を否定し、現地調査を行ったものの調査結果を隠蔽した。一方、池田は「岩戸村土呂久放牧場及土呂久亜砒酸鉱山ヲ見テ」と題する報告をまとめた。池田報告は当時の土呂久の実状を生々しく伝えている。
「二、三十年モ経過シタ植林ノ杉ガ萎縮シテ成長ガ止リ、或ハ枯死シテ赤葉味又竹林ハ殆ンド枯死シ」 「妙齢ノ婦女ノ声ハ塩枯声デ顔色如何ニモ蒼白デアル、久敷出稼デ居ル人ノ顔面ハ恰モ天刑病患者ノ様ニ浮腫」 「山川ノ水ハ清ク澄ミ渡ッテ居ルガ、川中ノ石ハ赤色ニ汚レテ、三年前迄居タ魚類ハ今ハ一尾モ見ヘヌ」 「今ハ椎茸ノ発生デ忙シカラネバナラヌノニ、何ノ果報カ、此地ノ重要物産デアル椎茸ノ原木ヲミレバ、椎茸一ツ見ヘヌ。土呂久名物ノ蜂蜜モ、今ハ穴巣ヲ止ムルノミ」 「小鳥類ガ畑ノ中ニ死ンデ落チテ居ル事ハ年中ノ事で、何時デモ死ンダ小鳥ヲ畑ノ中ヨリ拾ッテ見セル事ガ出来ル」
 この池田報告は1972年に高千穂町史編纂室で発見されるまで封殺された。
 鉱害が拡大・悪化するに従い、農業では生計を立てられなくなった人々は鉱山で働くようになった。しかし、亜砒酸による健康被害は鉱山労働者に最も顕著であり、皮膚の亜砒負け、色素沈着、黒皮症、角膜炎、結膜炎、喘息、気管支炎、肝硬変などの症状に見舞われた。健康悪化に耐えられずに鉱山を辞め帰農する人も少なくなかったが、農業被害は増大するばかりで生活できず、結局収入を得るために再び鉱山に戻らざるをえなかった。あるいは椎茸の生えなくなった木を木材として鉱山に売却したり、完全に農業ができなくなった土地を鉱山に売却するという例もあった。鉱害はむしろ鉱山の事業を拡大する動因になったのである。
 また被害と加害の重層性も深刻であった。鉱山の地主であった佐藤喜右衛門は鉱山から地代を得るのみならず、自ら採掘を請け負い、地元住民を労働者として勧誘し、鉱害に苦しむ農民からは加害者として忌避された。しかし、一方で彼は鉱山のすぐ近くに住んでいたために砒素中毒症に罹り、1930年から32年の2年間に彼の一家7人のうち自身を含む5人が病死した。部落で鉱山から収益を受ける者が増えるに従い、鉱害反対の足並みは崩れていった。
(2)土呂久鉱山の展開と終焉(1933-1962)  大戦景気によって始動した亜砒酸製造は、戦後不況によって急速に不振になった。1926年にはアメリカの綿花不況のあおりで生産量が激減し、土呂久鉱山も生産中止・事業縮小に追い込まれた。一方、1930年代になると、航空機の材料の国産化をねらう中島飛行機が錫を求めて土呂久に目をつけた。1931年、中島門吉(中島知久平の弟)が一部の鉱業権を獲得し、33年には中島商事鉱山部が土呂久鉱山のすべての経営権を取得した(後に岩戸鉱山株式会社設立)。
 中島は当初亜砒酸よりも錫を重視し、1936年に錫精錬の反射炉を建設したが、この反射炉は錫から分離された砒素分が煙とともに空気中に飛散するという杜撰な代物であった。翌年、和合会は反射炉の煙害防止を鉱山側に要求し、その結果遊煙タンクが作られたが、煙害対策とは名ばかりで、実際はこれを利用して亜砒酸の採取が行われたため、鉱害はむしろ悪化した。また、経営者が変わったことにより1923年の交付金契約は無効となり、中島が和合会に亜砒酸1箱精製につき12銭の補償金を支払う新契約が結ばれたが、旧契約に比べて被害者が受け取る金額は事実上半減し、しかも補償金の分配を巡り和合会内部で対立が発生した。さらに1937年の岩戸村会議員選挙で、中島側は鉱山の会計係長を出馬させ、鉱山労働者を買収した結果、中島系候補が当選し、和合会系の現職は落選した。明治以来、土呂久出身者が議席を失ったのは初めてであった。鉱山は地方自治をも破壊したのである。
 中島傘下となって土呂久鉱山は拡大し、最盛期には約400人の労働者が働いた。特に1930年代末頃から亜砒酸は毒ガスの原料として需要が急増した。「黄二号」ことルイサイト、「赤一号」ことジフェニール・シアン・アルシンが亜砒酸を元に作られ中国戦線に送られた。深まる亜砒酸鉱害に対し、ついに1941年和合会は鉱山との契約破棄を決定した。福岡鉱山監督局は和合会に説明を求め、代表6名が福岡へ行き亜砒酸製造の中止を申請したが、監督局の担当者は「非常時には、部落のひとつやふたつつぶれても鉱山が残ればよい」と言い放ったという。結局1941年11月選鉱場の火災により土呂久鉱山は休山し、所有権も中島から国策会社へ移行した。
 土呂久鉱山は戦後1948年、銅や鉛などの採掘を再開した。再び鉱業権を獲得した中島鉱山(旧岩戸鉱山)は亜砒酸製造の再開を計画した。和合会は再開反対を決議したが、宮崎県と岩戸村の斡旋により、1954年、鉱山から和合会への協力金支払を条件に改良焙焼炉建設に同意した。土呂久婦人会は岩戸村に抗議したが、村長伊木竹喜は「鉱山のおかげで、岩戸村には鉱産税がはいりよる」と取り合わなかったという。
 鉱山がその後、1958年7月の坑内出水事故により一時休山を余儀なくされ、翌年には住友金属鉱山が中島を事実上買収したが、往時の活性を取り戻すことができず、1962年経営不振により閉山した。その間も鉱害は続き、1959年には和合会が高千穂町(岩戸村吸収)に亜砒酸製造施設の廃止を陳情した。しかし、ついに閉山まで鉱害はやむことがなかった。
(3)土呂久鉱害の告発(1970-  )  1970年、宮崎県高城町の四家鉱山で集中豪雨により鉱滓堆積場のダムが決壊し、砒素を含む鉱毒が河川へ流出するという事故が起き、宮崎県は急遽県内の休廃止鉱山の調査を行った。調査の結果、土呂久川から飲料水基準の2倍の砒素が検出された。同年12月、土呂久在住の佐藤鶴江は、岐阜のカドミウム汚染の報道を聞いて不安を抱き、宮崎地方法務局高千穂支局の人権相談に鉱毒被害を訴えた。支局は土呂久鉱山跡を調査し、彼女に鉱毒被害の事実申立書を発行したが、法務局は専門医による因果関係の証明がないことを理由に申立書を留置した。またしても行政によって鉱害は隠蔽されたのである。
 一方、高千穂町立岩戸小学校教諭の斎藤正健は、妻が土呂久出身であったことから鉱害の事実を知り、同僚とともに土呂久全世帯を対象に鉱害調査を行った。斎藤らの調査は1971年11月、宮崎県教職員組合の教研集会で報告され、新聞報道により全国的に注目された。斎藤報告は、①1913-1971年に死亡した92名の平均寿命は39歳である、②土呂久全住民の34%が呼吸器をはじめ疾患に罹っている、③土呂久の児童の体位は劣っている上に眼病が目立つ、④スギの年輪は鉱山創業期に生長が阻害されている、という驚くべき内容であった。大正期以来の鉱害がこの時はじめて公表されたのである。
 土呂久住民に不安が高まる中、宮崎県は県医師会に委託して住民の一斉健康診断を実施したが、慢性砒素中毒症に認定されたのは7名だけで、県の土呂久地区社会医学的専門委員会も健康被害と亜砒酸製造との関係性を「現在の知見では十分に説明ができない」と肯定しなかった。宮崎県知事黒木博は住友金属鉱山と認定患者に補償斡旋を提案し、1972年12月、両者間に補償協定が結ばれたが、住友の法的責任には一切触れず、補償金額は平均240万円にとどまり、しかも将来の請求権放棄を定めていた。県側は患者との交渉を外部との接触を絶った密室で行い、十分な説明をしないまま患者に調印を強要した。その後、黒木は新たな認定患者に対しても同じ内容の補償斡旋を5次にわたって続けた。しかも県は斡旋受諾者に対して公害健康被害補償法による給付を含む公的給付を中止するという「いやがらせ」まで行った。知事斡旋は補償額を抑制し、被害者の口を封じることがねらいであった。
 1973年、環境庁は慢性砒素中毒症を第4の公害病に指定したが、認定要件を皮膚障害に限定し、内臓疾患を認めなかったため、多くの被害者が認定されなかった。一方でこの頃から県外の医師による自主検診が相次いだ。同年2月には名古屋大学医学部講師大橋邦和が、74年には太田武夫ら岡山大学医学部衛生学教室が、75年5月には熊本大学体質医学研究所の堀田宣之が住民への自主検診を行った。堀田は10月にも同僚の原田正純らとともに1週間にわたる大規模な自主検診を行った。これらの検診結果は環境庁の認定要件とは裏腹に、砒素中毒による障害が皮膚に限らず、呼吸器や循環器などの内臓にまで広がっていることを示していた。
 1975年12月、5人の患者と1遺族が住友金属に損害賠償を求め宮崎地裁延岡支部に提訴した(第1次訴訟)。続く76年11月には第2次、77年12月には第3次、78年3月には第4次の訴訟が起こった。土呂久訴訟最大の問題は、1次的に賠償責任を有する鉱山師も中島鉱山もすでに存在せず、被告の住友が正式に鉱業権を得たのが閉山後の1967年で、住友自体は亜砒酸製造を行っていないことにあった。住友側は全面的に争い、訴訟は長期化し、高齢の原告が相次いで死亡していった。1984年3月に下された第1次訴訟の1審判決は「土呂久地区という山間の狭隘な一地域社会が、そのただ中ともいえる場所での本件鉱山操業により、大気、水、土壌のすべてにわたって砒素汚染され、本件被害者らはその中で居住、生活することにより、長期間にわたって四六時中間断なく、且つ経気道、経口、経皮、複合的に砒素曝露を受けたもので」あると土呂久鉱害を正確に認め、鉱業不実施を以って鉱業権者の賠償責任は免責されず、鉱業法115条の時効規定も適用されないことを理由に住友へ損害賠償を命じる画期的な内容であった。
 しかし、この1審判決をピークに土呂久鉱害は急速に風化していった。既に1980年頃には被害者の支援組織「土呂久・松尾等鉱害の被害者を守る会」が財政難による活動停滞に陥っていた。また、支援運動の中心であった総評系労組が「反公害」から「反原発」へシフトしつつあり土呂久鉱害への関心は相対的に低下した。1979年、補償斡旋を続けた黒木が受託収賄容疑で逮捕され知事を辞職し、翌年、後継知事松形祐尭は公害認定を巡る行政不服審査で県が敗訴したのを機に被害者へ公式に謝罪したが、依然として知事斡旋受諾者��の公健法給付を認めなかった。一方、訴訟は住友の控訴により続き、1988年の控訴審判決は住友の賠償責任を認めたものの、補償額から公健法給付を差し引くよう命じる後退したものだった。住友はさらに上告したため、原告弁護団はついに水面下の和解交渉を行った。原告の高齢化と最高裁の状況を踏まえた苦渋の判断であった。1990年10月最高裁で原告と被告の一括和解が成立したが、住友の法的責任には触れず、賠償義務を否定し、公健法給付とは別に「見舞金」総額4億6475万円(1審判決の仮執行金と同額)を支払うという内容だった。1審判決も控訴審判決も被告の法的責任を認定したにもかかわらず、原告は訴訟の長期化に耐えることができずに訴訟自体には敗北したといえよう。
(4)総括  土呂久鉱山は、日本経済の工業化が急速に進展した第1次世界大戦期に始まり、戦間期の停滞を挟んで、15年戦争期には新興財閥の手で重化学工業の一端を担わされ、そして高度経済成長の開始により終焉した。その歴史は終始日本資本主義の発展過程に強く制約されたと言えよう。故に土呂久鉱害事件は局地的な鉱害ではあるものの、鉱山の杜撰な鉱害対策、鉱山への抵抗と依存の間で揺れる地域社会、一貫して公害の存在を隠蔽し民衆の声を潰した行政、公害反対運動の党派的分裂等々、近代日本の鉱害の一般的特筆を余すところなく有している。そしてついに根本的解決には至らず、現在も土呂久の自然が回復していないことは、鉱害が過去の問題ではなく、依然として現在的問題であることを示していよう。
《引用・参照文献》 斎藤正健「土呂久公害の告発とその後」Ⅰ-Ⅲ 『歴史地理教育』211、212、214号 1973年 川原一之『口伝 亜砒焼き谷』岩波書店 1980年 川原一之「土呂久鉱毒史」『田中正造と足尾鉱毒事件研究』5号 1982年 土呂久を記録する会編『記録・土呂久』本多企画 1993年
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handwork-stilla · 2 years
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\\ 個展のお知らせ4/29-5/8 // 愛媛県のwatagumo舎 @watagumosya さんにて個展をさせていただきます。 残念ながら在廊はございませんが、たくさんお届けしておりますので、GWのおでかけにお立ち寄りいただければ幸いです。 watagumo舎 愛媛県上浮穴郡久万高原町下畑野川甲680 営業日:金、土、日、火、水 11時~17時 会期終了後、一部オンラインでも販売していただきます。 #watagumo舎 #わたぐも舎 #愛媛県 #愛媛 #久万高原町 #久万高原 #個展 #個展開催中 #作家 #作家もの #handworkstilla #アクセサリー #ジュエリー #ブローチ #つぶつぶ #ブローチ部 #ブローチ好き (Watagumo舎) https://www.instagram.com/p/Cc3zgsovJM5/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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amiens2014 · 2 years
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大寶寺/愛媛県久万高原町【四国八十八箇所霊場第44番札所】標高560m5番目の高さの難所札所
大寶寺とは 菅生山大覚院大寶寺(すごうざん だいかくいん…
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hbcblog · 2 years
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【告知】500円~最大20,000円交通費補助制度スタート🚃
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2022年4月1日(金)~
オープンキャンパスにご参加いただいた方に
交通費を一部補助いたします♪
詳細はこちら↓↓
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
【期間】
2022年4月1日(金)~2023年3月31日(金)
※期間中のオープンキャンパスでご利用いただけます。
※交通費補助の申請は前日までとなります。
【対象】
参加者本人(高校等の現役生、大学生、短大生、専門学校生、高卒認定・大検取得者の方)のみです。
※保護者やご家族、付添いの方、出願済みの方は交通費補助対象外となります。
【申込方法】
行きたいオープンキャンパスに申し込むだけでOK◎
【持参物】
特になし(証明書や学生証不要)
【交通費補助金額】
⬛500円
広島市・廿日市市・大竹市・安芸郡
⬛1,000円
呉市・江田島市・東広島市・竹原市・岩国市・玖珂郡
⬛1,500円
三原市・尾道市(因島・瀬戸田除く)・三次市・安芸高田市・山県郡・豊田郡・世羅郡・柳井市・光市・下松市・周南市・大島郡・熊毛郡
⬛2,000円
福山市・尾道市因島・瀬戸田・府中市・庄原市・神石郡・防府市・井原市・笠岡市・浅口市・浅口郡・小田郡
⬛2,500円
山口市・新見市・高梁市・総社市・倉敷市・都窪郡・加賀郡・飯石郡・邑智郡・越智郡
⬛3,000円
宇部市・山陽小野田市・美祢市・岡山市・玉野市・備前市・赤盤市・瀬戸内市・和気郡・久米郡・浜田市・江津市
⬛3,500円
萩市・阿武郡・長門市・真庭市・津山市・美作市・真庭郡・苫田郡・勝田郡・英田郡・大田市・雲南市・益田市・仁多郡・鹿足郡・今治市・四国中央市・新居浜市・西条市
⬛4,000円
下関市・松江市・出雲市・安来市・米子市・境港市・西伯郡・日野郡・松山市・東温市・伊予市・大洲市・八幡浜市・上浮穴郡・伊予郡・喜多郡・観音寺市・三豊市・善通寺市・丸亀市・坂出市・高松市・さぬき市・東かがわ市・小豆郡・木田郡・香川郡・綾歌郡・仲多度郡
⬛4,500円
倉吉市・鳥取市・岩美郡・八頭郡・東伯郡・西予市・宇和島市・西宇和郡・北宇和郡・南宇和郡
⬛5,000円
隠岐郡・高知県全域・徳島県全域
⬛10,000円
九州地方・近畿地方・中部地方・関東地方・東北地方・北海道地方
⬛20,000円
沖縄県
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
【ホームページ】
https://www.biyo.ac.jp/
【オープンキャンパス申し込み】
https://www.biyo.ac.jp/opencampus/real/
【お問い合わせ】
入学事務局:082-240-1185
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masayokeizuka · 6 months
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本日もはじまります。
皆様にとって特別なひとときとなりますように
※また次週は10日(金)からはじまります。
2023年11月3日 (金)-19日
11:00~17:00
open: 金・土・日・祝
「わたしの街」展
経塚真代 【立体造形】
北原裕子 【陶オブジェ】
松村真依子 【絵画】
watagumo舎
愛媛県上浮穴郡久万高原町下畑野川甲680
09028263680(店舗用・営業時間のみ)
11時-17時
企画展期間中の金・土・日
※展示作品は最終日まで飾らせていただきます。
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fukudamakoto · 3 years
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去年撮影させていただいた「蔵王焼 萬風窯」さん。 穴窯で焼かれる作品は極めて不思議で多様で多元的。 同じものは二度と現れないのです。 この写真は 萬風窯の周りの空間にポンと置いて撮ったものです。 周りから浮き立ちすぎず、馴染みすぎもせず。 独特の存在感があってそれを写真で表現したいなと考えて撮りました。 #Repost @zao.manpugama with @make_repost ・・・ 【穴 窯 作 品】 最近、ご自分の目の前で炎🔥を見たことがありますか❓ キッチンもIH 外で火🔥を使って何かを焼くのも制限されていますね 今でも稼働している万風窯の自作の穴窯 赤松の薪を燃料とし、人力だけで窯を焚きます。 炎の力とともに作り上げていくのは大変ですが、とても大切な、残していかなければならない作品だと思っています。 注:2021年は地震が多いため、穴窯の窯焚きは中止となりました。 Special thanks Photographer @fukudamakoto_photo @fukuda_makoto @massa_de7 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ギャラリー匠にて、展示販売を行っております。 自然の素材を使った、陶器、ガラス、染物。 同建物内に温泉施設、レストランがありゆったりとお過ごしいただけます。 作家 滋賀英二さん ガラス工房キルロ 栗原市 正藍令染 万風窯 会期:2021.9.1~11.30 時間:11:00~19:30 場所:ウインデイズ・ヴィラ蔵王 Windays Villa Zao ギャラリー匠 宮城県刈田郡蔵王町遠刈田温泉字西集団95−1 0224ー26-6256 仙台から1時間、万風窯から約5分 駐車場:有 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー https://www.instagram.com/p/CTTLruRv-qp/?utm_medium=tumblr
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