三輪隊の小説(二次創作)
三輪隊の四畳半
「広いな」
広くはない。
︎ しかし、三輪秀次の独り言に奈良坂透は同意した。
「確かに広い」
「ま、広いな」
︎ 米屋陽介も同意する。
「いつもが狭いのよ」
︎ 控えめに月見蓮もうなずく。
︎ 全員意見は一致しているが、本来ならば広くはない。
︎ 三輪隊作戦室の奥まった場所にひっそりと存在する四畳半の部屋だ。
︎ この作戦室に入室して最初に目に入るオフィス然とした大部屋と対照的に、奥にある四畳半の小部屋はのんびりとした空間だ。畳の間に座卓を置いている。
︎ なぜそうなったかは、三輪隊以外の者は誰も知らない。壁際には渋い色の階段タンスが配置され、︎日本画の色紙も額縁に入って飾られ、その風景はノスタルジーさえ感じさせる。
「サザエさんかよ」
とは、A級太刀川隊隊員である出水公平のツッコミだった。
しかし、磯野家の居間も八畳である。カツオとワカメの子ども部屋だって六畳もある。
︎ 狭い四畳半が広く感じられるのは、三輪隊狙撃手である古寺章平の昨日からの不在によるものだった。
︎ 兄さんたちは寂しいのだ。
︎ 当の古寺は本日は遠征選抜試験初日で、寂しさなど感じている暇は微塵もないだろう。昨日は隊長面接のために休みをとっていた。
︎ 古寺は試験のために編成された臨時部隊の隊長を務める。それが意味する未来を考えると三輪は寂しい。
︎ 遠征よりもっと先の未来の話だ。上層部が最終的にどのような決定を下すかは分からないが、四人がバラバラで活動することになっても、遠征が終わればチームに戻る。
︎ しかし、古寺が本当に隊長になる未来は思っていたよりもきっと早く来るのだろう。
︎ とうとう、ちゃぶ台に頬っぺたを載せて、突っ伏してしまった奈良坂を眺めた。こたえている。日浦も行ってしまったあとだしな。米屋はニヤニヤと笑って頬杖をついた。
「動画残しとく?」 ︎
︎「やめてやれ」
「章平、喜ぶんじゃねえ」
「喜ばないだろう」
「章平のことわかってねえなあ。秀次じゃねえんだから」
それはその通りで、三輪なら困惑するだろう。
「話を混ぜっかえすな」
「米屋、りょーかい」
︎ 米屋は最後のバームクーヘンの切れ端を口に放り込んで、ちゃんと残してあった緑茶の冷めたのをごくごくと飲み干してご馳走様と言った。︎
「んじゃ、ま、個人戦行ってくるわ」
「遅番だからあまり時間がないぞ」
「ブースに行っても審査と試験で誰もいない」
︎ 三輪と奈良坂に同時に言われても、わかってるってと立ち上がる。
「太刀川さんは、いるっしょ」
「太刀川隊は早番だから、任務中よ」
︎ タブレットを見ながら、月見も声をかける。
「はーい」
︎ それでも、出かけようとする米屋に三輪はついに名前を呼んだ。
「陽介」
︎ その声の調子を汲んで、
「りょーかい」
︎ 米屋はストンと腰を下ろした。そのまま、三輪を見る。表情は読めない。これは文句を言いたいのだろうと三輪は見当をつけた。
︎ 米屋は未来を憂えて寂しがるなんてことに価値を見出さない。今、古寺がいなくて寂しいのは共有できても、それ以上の共有はお断りなのだ。
︎ しかし、米屋はそうでもこちらにも都合がある。だから、三輪は米屋を引き止めた。
「お前までいなくなったら寂しいだろう」
「なんだよ、そりゃ」
「そのままだ。部屋が広くなって、寂しいという意味だ」
︎ 米屋はそれ以上は突っ込まなかった。
︎ 奈良坂が不機嫌そうに顔をあげる。
「別に俺は寂しくない」
「奈良坂だって引き止めていただろう」
「忠告だ」
「はいはい、りょーかい、りょーかい」
︎ 米屋はもう一回立ち上がると、すぐ脇の冷蔵庫から紙パックの緑茶を取り出してきた。
「狭い部屋が好きだねえ」
狭い部屋だ。
︎ 四畳半の畳部屋ができたのには理由という程のものはない。
︎ A級にあがった時は皆とにかくテンションが高かった。
︎ 憧れの部隊章、トリガー改造、作戦室も引越しになる。
︎ 部隊章のデザインについては大いに盛り上がり、めちゃめちゃかっこいいのが出来たと全員自負している。
︎ トリガー改造は米屋が張り切った。前々から考えていた槍型のトリガーを実装して、学業そっちのけで訓練室にこもってしまうほどだった。これは三輪にとっても待望の実装だったので、相当付き合った。
︎ 一方で、さほど、盛り上がらなかったのは部屋のインテリアである。そこは高校生男子のチームだ。
︎ 大部屋もオペレーター室も広くなり、小さいながらもキッチンもついた。そして、その横に申し訳程度の小さな部屋がひとつ増えることとなった。
︎ B級時代、作戦室でも︎受験勉強が出来るようにと購入した古寺の机はそのまま大部屋に置くこととして、増えた一部屋を何に使おう。
︎ まず、面々は月見に相談した。三輪隊がB級ランク戦を勝ち抜き、晴れてA級部隊になったことについて、月見が最大の功労者であることは戦闘員全員の意見が一致していた。
「月見さんが好きに使えばいい」
︎ しかし、月見は辞退した。本部にあるオペレーターのスペースで身支度するから、自分用はいらないと言う。彼女の幼馴染である太刀川慶曰く『結構、すごいとこのお嬢様』だ。作戦室で身支度したり休憩するのはかえって落ち着かないものかもしれない。
︎ そこで、︎応接室にしたらどうですかと言ったのは古寺だ。
こみ入った話をする面談室のイメージだ。しかし、却下された。
「客こねーだろ」
「俺たちに客? ないな?」
「ラウンジで済む話しかないだろう」
︎ 米屋、三輪、奈良坂に順に言われて、古寺は先輩たち、自己評価低くないですか?と思ったが、実際、用事があってもA級新参部隊はこちらから出向くことが多いし、相談事も滅多になかった。あってもラウンジで済むことばかりだ。
︎ 次に、奈良坂がテスト前に作戦室で勉強したいと言い出した。古寺の受験勉強が捗ったのを見ていたからだ。しかし、目の前でダラダラされると集中できないからあのスペースを勉強部屋にしたらどうかという高校生らしい提案だ。それを聞いて、勉強のほうが大事だ、古寺の机も大部屋にある事だし、ダラダラするほうが狭い部屋でいいと三輪が言い切り、ダラダラするんだったら靴を脱ぎたいと米屋が希望し、そしたらフローリングか畳ですねと古寺が提案し、畳のほうが省スペースよと月見がまとめて、トントン拍子に狭い部屋の処遇は決まった。
︎ そこまで、決めてしまうと、みんなもう什器備品のことなどどうでも良くなって、
「今まで通り、タブレットあるし、モニターはまあ、なくてもいいな」
「タブレットの方が使いやすかった���しますしね」
「章平のパソコンもあるしな」
「必要になったら買えばいいんじゃね? 」
大部屋は作戦机、ロッカーからソファまでB級時代の作戦室から持ってきたものそのままざっくりと配置し、今に至る。モニターは未だに購入に至っていない。タブレットを持ち寄り、額を集めて相談する。
︎ 雑に決まった割には、四畳半はうまく機能し、それぞれダラダラもするし、全員でお茶もする。
長期遠征選抜試験が終わったら、まずはここで座卓を囲むことだろう。
終わり
︎ ︎ ︎ ︎ ︎
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【オーダーメイド/木版刷り暖簾(のれん)】 以前納めさせていただいた、アンドウッドさんのショールーム入口の暖簾・暖簾掛けです。 全国でもめずらしい床材を専門に取り扱うandwood(アンドウッド)さん。海外の工場とも提携し、オリジナルの床材を製造・販売されています。 ショールームにずらっとならんだ壁面のフローリングサンプルにいつもわくわくします! @and_wood_japan *************************** ◎暖簾のデザインは、フローリングの断面の型を木版刷りで構成しています。 暖簾という大きなキャンパスに、フローリング断面のバランスを見ながら、大胆に配置しました。 生地は、しっかりめの8号帆布素材で、左から4分の3、右から4分の1ほどの位置に切れ込み縫製をつけたアシンメトリー。 エントランス扉との動線形状に合わせた割り付けになっています。 size/1200×1100mm print/木版刷り(床材3種より) fabric/8号帆布(オリーブ) ◎脇役の部品、暖簾掛け。 木製の暖簾掛けは、外と内、2パターン製作しています。 内の暖簾掛けは、定休日の時に中に掛けておくためのものです。 暖簾掛け : 米松・真鍮カップワッシャー ──────────── →→→ デザイン・製作・刷りの全てをISANA中川なぎさがアウトプットしています。 @nagisa_nkgw @isana_shop_ @isana_coffee #アンドウッド #andwood #床材 #フローリング #床材ショールーム ↓ #毎日更新しています #486日目 #暖簾 #のれん #オーダー暖簾 #オーダーのれん #木版刷り #8号帆布 #帆布 #帆布のれん #のれんのある暮らし #木工 #店舗什器 #家具製作 #沼垂テラス商店街 (ISANA) https://www.instagram.com/p/CnrBCEcr3ZZ/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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おはようございます。
秋田県湯沢市川連は、快晴です。
昨日は朝から秋田市文化創造館にて開催中の、ORAe展示会2023春と、秋田県新作家具展の、最終日に伺いました。
最終日も普段中々話す機会が少ない工芸部門の作家さん方や、初めての木工家⁉︎さん方ともアレコレとお話をさせて頂き、知人やデザインの先生方とも久しぶりにお会いし、最終日は特に今後の物作りの良い機会を頂き本当に有難うございました。
展示会も無事に終了し、搬出作業でアチコチからお借りした什器返却のお手伝いをし川連に帰宅…
そして期間中、参加者の皆様のお陰で川連漆器も販売もして下さり、本当に有難うございました。
新しい一週間が始まりました。
今週ももアレヤコレヤと有りますが、一つ一つコツコツ頑張ります。
皆様にとって今週も、良い一週間と成ります様に。
https://jujiro.base.ec
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土曜日オープンしました 早々にお立ち寄りいただきありがとうございます‼︎ 午後のお出かけに、お出かけ帰りに寄ってくださいね😃 新入荷もの。白や無垢など、お部屋に合わせやすそうな色合いのもの、撮りました📸 入れ子の竹かご 模様が素敵、造りが良い竹かご3つセットです それぞれ何を入れましょう、飾りながら収納におススメ 無垢のこね鉢 サラリとした無垢の木が気持ち良いです◎ お家にも取り入れやすそうなサイズ感 にゃんこたちにも人気🐈 木のおかもち こちらも程よいサイズ お部屋なら身の回りの収納に、アウトドアや外への持ち運びにも◎またお店の什器にも良さそうです 白の琺瑯お玉 シールもついてる未使用品、とても状態が良いです シンプルなデザイン、なかなかない古道具のキッチンツール 毎日のお料理、気分も上がりそうです🍳♪ ※通販受付いたします。詳細お知らせできますので、お気軽にDMまたは メールでお問合せくださいね 【今後のスケジュール】 18(土)12:00-18:00 19(日) お休み 20(月) お休み 21(火) お休み 22(水)12:00-18:00 23(木)12:00-18:00 24(金)12:00-18:00 25(土)12:00-18:00 26(日)12:00-18:00 *日曜日営業します - - - - - - - - - - - - waco (6/1nakwachからwacoに名前が変わりました) open 12:00-18:00(日月火休) 千葉県鎌ヶ谷市馬込沢3-34 東武アーバンパークライン馬込沢駅西口徒歩3分 ※6月の日曜日は、12日・26日営業します #入れ子 #かご #琺瑯 #エナメル #ホーロー #おかもち #こね鉢 #古道具waco #看板 #昭和レトロ #昭和 #古道具店 #古道具屋 #古道具好き #古道具のある暮らし #暮らしの道具 #ていねいな暮らし #丁寧な暮らし #日々の暮らし #おうち時間 #暮らし #暮らしを楽しむ #インテリア雑貨 #インテリア #馬込沢 #千葉古道具 #千葉雑貨 (古道具waco(わこ)) https://www.instagram.com/p/Ce7vEm2vcqH/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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計画中の備前凸版工作所、
紙にまつわる商品を販売するSHOP部分のイメージです。
凸版印刷に関する施設ということで
いろいろな部分にあえて凸凹をつけながら、
壁面や什器のデザインをしています。
色や素材についても、
いつもより使用する数を増やしていて
楽しい雰囲気にしたいなと思っています。
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『丸紅アークログ マンスリートピックス』240131
「Arch-LOG」2023年の総括と2024年の展望
~建材メーカー登録社数、ユーザーアカウント登録社数とも順調に増加 引き続き新機能も実装予定~
<今月のハイライト>
■2023年の総括
~建材メーカー登録社数、ユーザーアカウント登録社数など堅調に推移~
昨年6月に設立5年目を迎えた当社は、昨年12月末時点で前年同時期と比べ、建材メーカー登録社数が515社から658社(約1.3倍)に、ユーザーアカウント登録社数は3,266社から5,908社(約1.8倍)と、順調に増加しました。また、「Arch-LOG」を利用した新規プロジェクト数も年間3,228件から4,228件(約1.3倍)と堅調に伸び、これに伴いBIMオブジェクトのリクエスト数も前年比約2.6倍と大幅に増加しました。
これら増加の一因としては、昨年8月に新機能として実装した「仕上表」の活用が考えられます。当社オリジナルの「仕上表」は、実製品と連携した内部仕上表を作成できるほか、材料リストやカラースキーム表まで自動生成でき、設計から施工段階までの業務フローを効率化する機能です。当社では「Arch-LOG」の活用促進を目指し、アライアンス企業を中心にハンズオンセミナーをおこなうなど努めてまいりました。また、BIMオブジェクトのリクエスト数増加は、国土交通省が2025年からBIMデータから出力された3Dデータと2Dデータで作成されたPDF図面によるBIM図面審査を開始することを受け、建築建設業界各社がBIMデータによる建築確認申請の本格運用を前に、社内のBIM化を促進させようという動きも背景にあると考えられます。
さらに新しい試みとして昨年12月、ユーザーへ「Arch-LOG」の建材メーカー約700社・登録建材約180万点の中から最適な製品を提案するマッチングサービス「Arch-CONNECT(アークコネクト)β版」の運用を開始しました。ユーザーのモノ決めにおける建材を選定する際の煩雑な業務を効率化するとともに、メーカーにとっても「Arch-LOG」のデータベースをもとにより良い製品の提案につながると考えています。
また、建設技術を取り扱う米国の専門誌『Construction Tech Review』で当社が “トップBIMサービス プロバイダーin APAC 2023”を受賞(https://m-arch-log.com/ctr-top-bim-sp-in-apec-2023/)しました。これは当社が、2023年にアジア太平洋地域の建設業界をイノベートする中心的な存在として選定されたBIMサービス プロバイダートップ10の中で最も高い評価を受け、授与されたものです。日本ではまだBIMの活用が遅れているにもかかわらず、BIMの先進国である米国のメディアに、当社がAPACを代表する“BIMサービス プロバイダー”のトップとして評価されたことに今後の大きな可能性と責任を感じております。
■2024年の展望 ~新機能も実装 さらなる飛躍の年に~
2024年も引き続き「ロックシステム」「メンテナンスアラート」「物件データベース」といった新機能の実装を予定しております。「ロックシステム」は、竣工時の建材の製品情報をロックすることで、竣工時のデータをそのまま残すことができる機能です。いつでも竣工時の状況を関係者間で確認することができます。「メンテナンスアラート」は「ロックシステム」によりロックされた建材製品の耐用年数に応じてメンテナンス時期をお知らせする機能です。リフォーム市場開発でタイムリーに顧客へ提案することができるようになります。「物件データベース」は、物件ごとの設計・申請・工事写真などの情報をデータベースとして管理できる機能です。物件ごとの建材、竣工情報、個々の建材のメンテナンスの周期までを管理してアラートまで出せる、これまでにはない全く新しい機能になります。
また、今年は更なるサービスの拡充に向けて開発部門を強化し、ユーザビリティの向上に努め進化してまいります。
<今月のトピックス>
■「Arch-LOG」に、「久保田セメント工業株式会社」「株式会社パシフィックアーバンシステムズ」「ミヅシマ工業株式会社」をはじめとする21社*、1,780点*の建材が新たに登録されました。*2023年12月19日~2024年1月29日の登録数
今回新たに、「CREATIVE&BRIGHT」をモットーに、美しいまちづくりに尽力するため、創造性のあるコンクリートブロックなど塀材・外構建材の製造・販売を手がける「久保田セメント工業株式会社」や、デザイン性豊かで上質な空間づくりに最適な建築用資材や家庭用家具・ホテル家具・オフィス什器の輸入販売などを手がける「株式会社パシフィックアーバンシステムズ」、お客様の使用目的、環境に合わせた床材用品、施設用品、清掃用品を取り扱うメーカー「ミヅシマ工業株式会社」など、さまざまな建材メーカーの製品が加わりました。
■「Arch-MATERIA」に、「東リ株式会社」の記事コンテンツを新たに掲載*しました。 *2023年12月19日~2024年1月29日の掲載社
・「東リ株式会社」 卵の殻が床タイルの一部として生まれ変わる。サステナブルの視点で床材の未来を切り拓く「バイオミックストーン」
https://www.arch-materia.com/products/24868/
プレスリリース【丸紅アークログ】240131「マンスリートピックス」
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