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#教会の石槌
wlbhh-bonk · 1 year
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Kirkhammer (Bloodborne)
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As someone who finished Bloodborne 5 times already, I have to say, this is one of the most satisfying and fun weapons I've used in gaming.
But what is the Kirkhammer?
It's name comes from the Scottish and former Northern English word "kirk", which means "church". It is often used specifically to refer to the Church of Scotland. Many place names and personal names are also derived from it.
From this information we can infer that the Kirkhammer is, in fact, a church hammer. According to it's in-game description...
"A trick weapon typically used by Healing Church hunters. On the one side, an easily handled silver sword. On the other, a giant obtuse stone weapon, characterized by a blunt strike and extreme force of impact. The Church takes a heavy-handed, merciless stance toward the plague of beasts, an irony not lost upon the wielders of this most symbolic weapon."
Yes, you've read that right, it's also a sword! As with every weapon in Bloodborne, it can transform between two forms, which have different, individual movesets.
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Here's a video showcasing the transformation animations
Here's a video showcasing all of it's attack animations
Lastly, there is a miniature version of the Kirkhammer made by the Gecco company, from their "Hunter's Arsenal" series. These 1/6 scale figures feature the hunter wielding famous weapons from the game:
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manganjiiji · 7 months
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桜くつ器
「くつ」というのは今自分で考えた動詞で、その場に固定するみたいな意味です。くくりつけるとか、打つとか、木槌で叩いてぴんと固定させる感じ。なにかいい漢字がないかなと思ったけど、思いつかなかった(と思ったが、「繰つ」というのがいいかもしれない、口が3つもあって硬そうなところがいい)。桜くつ器というのは、桜が固定されて飾られている器の意。
カウンセリングに行ってカウンセラーの先生に3ヶ月ぶりに話をしてもらい(ずっと予約の電話をかけることができず、3ヶ月ぶりとなってしまった)、さまざまなことが整理され、やっと、ここ数週間のうつ状態からすこし回復したように思われる。とくに一秒ごとに噴出していた希死念慮は無くなった。帰りに蔦屋書店に寄ってしまい、まさかここで本を買うとは思わなかったのだが、文庫本4冊をレジに持っていっていた。まだ前に買った本を読み終わっていないのになぜかこのようなことをしてしまう。これは23歳くらいからずっとそう。恐ろしい書籍購買依存症だ。「本を買う」という行為にのみ意味があり、読むことは全然しない。たまには読むが、1冊を頭から終わりまで読み切るということは殆どない。最近はその事に罪悪感も苦悩も呆れも何も覚えなくなってきた。この数ヶ月本を買うことをやめられていたのに、いきなりこのように浪費してしまい、衝撃もあるが、まあいつもの自分だなと思った。『京都SFアンソロジー』『貝に続く場所にて』『クララとお日さま』『実力も運のうち』の4冊。京都SFは暴力と破滅の運び手さんの「ピアニスト」が読みたくて買った(まだエチ小賞アンソロも読み終わっていないし、ブラームスの乳首も読み終わっていないのだが)。貝に〜は、書���で見て、芥川賞と群像新人賞の受賞作で、言語に関する物語とあったので、かなり気になって買ってしまった。講談社文庫はビニールが最初からかかっていて中が見えないのだが、帰宅してビニールを破って(この作業、省略したい。講談社は早く正気に戻って文庫本にまでビニールを掛けるのはやめてほしい)中を見たら、かなり余白の多い組版で、行間もひろく、見た目のうつくしさに拘りを感じた。いかにも芥川賞受賞作という感じで良い(組版への拘りというと黒田夏子の『abさんご』を思い出す。あれもかなり好きだった)。クララとお日さまは、ことこさんに内容を教えてもらった時に読みたいと思い、文庫化もしたことだし、と買っておいた。ひじょうによい子のAIの一人称で、カズオ・イシグロのいつものあれですよ、と言われたので(語り手の認識と世界との齟齬というかズレが特徴的なことが多い)、そして立ち読みしたところクララ(AI)にかなり好感を持ったので、読もうと思った。マイケル・サンデル(実力〜)は、かなり西洋哲学やキリスト教的価値観を引いて解説している(おそらくアメリカ人の状況を)と感じたので買った。『資本主義の〈その先〉へ』(大澤真幸)を読んでいるところなので、かなり内容に惹かれた。昔からだが、やはり「アメリカ」というものの面白さが私の冒険心を掻き立てる。同じくらい「日本」というものも面白いのだが、日本には一見してわかるような一貫性がない。だからこそ歴史の追いがいもあるのだが、やはりプロテスタントの「理想国家」として作られた人工物のアメリカのほうが理解しやすく、直截的なエキサイティングが得られる。昨日観劇したミュージカル「ラグタイム」では、二十世紀初頭のアメリカのフランス系アングロサクソン、ラトビア系ユダヤ、アフリカ系黒人の三つの民族の交わりがえがかれており、面白かった。私はスウィング・ジャズが好きなので、音楽としてのラグタイムにもっと言及があるのかしらんと思ったが、そこは特になかった。ミュージカルとしては、クラシック、ラグタイム、スウィング、ポップスと、割とオーソドックスなラインナップだったので、音楽的にはそこまでラグタイムに特化していたわけではなかった。そもそもこのラグタイムという語の、本来次の音が来るであろう箇所(次の拍)ではまだ音が来ず、ラグがあって少し拍より遅いところで次の音が来るシンコペーションのことを表している本来の意味とともに、さまざまな人種や民族がアメリカに絶えず流入し、立場がさまざまに変わりながら、「アメリカ人」になっていくまでのラグタイム(過渡期、猶予期間のようなイメージ)を描いているということなのかもしれない。私は音楽的なラグタイムは、クラシックとジャズを繋ぐ時期のもの(リズム、シンコペーション)という認識なので、まさにラトビア(欧州、クラシック)から移民としてアメリカ(新大陸、ジャズ)へ渡って、映画監督として「アメリカ人」として認められるまでのターテ(俳優は石丸幹二さん)の不遇の期間のことと考えると自然だ。音楽を、ジャズを主体としたミュージカルというのが見てみたいと思う(映画でも)。そういう作品はたくさんあるので、そのうち出会えるといいなと思う。そういえば前回日生劇場で見た「ジャージーボーイズ」はジャズを通り越してポップス…というかブルー・アイド・ソウル(白人がアレンジしたR&B)またはロックの話だったが、アメリカの商業音楽の世界を存分に楽しめた。ジャズのミュージカルとしては誰に焦点を当てるかだが、誰に当てても大物だらけの舞台(要素がもりだくさん)になってしまい、かつミュージカル・ナンバーもジャズにしないと成り立たなさそうだが、日本のミュージカル俳優はジャズ・シンガー(の歌い方)ではないので、なかなか難しいのではないかと感じる。「ラグタイム」ではサラ(黒人女性)役の遥海さんの歌唱が圧倒的で(彼女だけミュージカルの発声ではなく、全編通してソウルの歌い方だった)、歌だけでいえば主役の3人を凌駕していたのではないかと思う。完全に自分の声を縦横無尽に舞台全体で走り回らせ、かつコントロールも完���だった。ミュージカルの歌い方では、ああいう芸当はできないというか、そもそも方向性が違うのでなんとも言うべきではないが、ソウルやジャズの歌い方もできるミュージカル俳優というのがもしいたら最強だろうな、ということを夢想した。クラシックの基礎の上にジャズの歌い方もマスターしているとなると、日本では平原綾香やKOKIAが私などは浮かぶが(上の世代だと美空ひばりや森山良子だろうか)、芝居も歌も極める上に、歌は2種類も、というのはやはり難しいのだろうか。我らが東啓介氏(私が舞台刀剣乱舞のバックステージ映像で好きになり一時期ガチで応援していた俳優)に関しては、私は今回もあまり納得が行かなかった。同行した友人は「28歳だし、そんなにすぐに変わる(成長する)ものではなく、熟達を求めるのは10年後とかかなあ」というようなことを言っていて(記憶違いがあったら申し訳ない)、私は東啓介にあまりにも多くを求めすぎているのだろうか、と思う。応援していることは応援しているのだが、追っていた頃の急成長と比べて、本格的なミュージカル俳優となってから、舞台上で分かりやすい「成長」というのが感じられないため、刺激に飢えているのかもしれない。演技もいつも同じに見えるし、発声の仕方も特に試行錯誤するでもなくいつも変わらず、なんかこう、変化…バリエーションが無い。それがつまらなく感じる。育ちが良く上品な所作、という当て書きのような役柄を続けて見てしまっているせいもあると思う。5DAYSの時みたいな、もっとしょうもない若者とか、マタ・ハリの時の恋に狂った青年とかの、本人の育ちの良さを封印するような役の方が見てみたいなあと思う。もっとヘドロの中を生きてきたような役を与えられた時に、果たしてどこまで生来の「品の良さ」を封印できるのか。というのは、彼を起用する演出家やプロデューサーが、どこまで東啓介の演技に期待してくれるのか、という問題も関わってくると思う。舞台上の発声はもっと先輩俳優の声の響きを聞いて試行錯誤してみてほしい。声が小さくても響かせるための発声。歌い方も最初の子音の破裂音というか呼気が入りすぎているが、これも前回から変化なしで、歯がゆい気持ちになった。歌はロングトーン以外でも「聴かせ」なければならないが、今のところロングトーンがないと東啓介の歌声はあまり目立てないというか、ほかの歌声との差別化が為されない。これに関してはどうすればいいのか素人にはわからないが、とにかく今までの練習や方向性を踏襲するのではなく、さまざまなやり方、歌い方、技法、発声方法を試して、もっと声に色をつけてほしい。ファンレターに書けばいいことを長々と書いてしまった。ファンレターに書きます。
夜、じゅんえん先生と話していたら赤森さんが来訪し、最終的に2時過ぎまでウエルベックの小説や文化や価値観の違いについて話してしまった。私は『ある島の可能性』を見つけて買って持っているだけでまだ最初の3ページしか読んでいないのだが、今日あらすじを聞いて、中身を結構拾い読みして、どんどん読んでいきたいと思った。ウエルベックを紹介する時の赤森さんは「とにかく中年男性主人公がキツい(見ていてキツい、キショい)」ということを語るのに非常に活き活きとしていて面白い。赤森さんはもともと面白い方なのだが、ウエルベックを語る時の赤森さんは「主人公のここが無理」ということを鮮烈に話してくれるし、ストーリーの面白さもきちんと伝えてくれるので、凄いなあと思う。ちなみにファフナーをTwitter上で語っている時の赤森さんもかなりのエンターテイメント性がある。
じゅんえん先生は酒が飲めない、かつ所得の低い私のことを気遣って、飲みに誘わないでいてくれたのだが(とても優しくて感動した)、今後は数回に一回は混ぜてくれるらしい。私があまりにも拗ねすぎたなと思ったのでやや反省した。
2023.9.19
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rakuhoku-kyoto · 1 year
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装幀を担当したご本。『たまふりの人類学』石井美保[著]青土社[発行]
 小社刊行の本ではございませんが、装幀を担当したご本を、ここで紹介させていただきます。  青土社から刊行されます。
『たまふりの人類学』 石井美保 著
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カバー銅版画┃ イシイアツコ
仕 様┃ 四六判 並製 272頁
発 行┃ 青土社
刊行日┃ 2022年11月21日ころ
 装幀を担当させていただきました。
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「文化人類学者は、世界の隙間のさらに奥深くへ――。ガーナの村の精霊、インドのトラ保護区、京都の借り暮らし、東北の津波跡、感染症と禁忌、ウクライナの国境、日本兵の面影と記憶……。  ふるえながらめぐりながれ、この世に現れては過ぎ去っていくものたちにことばを与え、一回性と偶然性に満ちた人間の生の営みを書き記す22篇。」
詳細は 青土社 をご覧くださいませ。
著 者 石井美保(いしい・みほ) 1973年、大阪府生まれ。文化人類学者。北海道大学文学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。宗教実践や環境運動をテーマにタンザニア、ガーナ、インドで調査を行う。現在、京都大学人文科学研究所准教授。主な著書に『精霊たちのフロンティア』(世界思想社、2007年)、『環世界の人類学』(京都大学学術出版会、2017年)、『めぐりながれるものの人類学』(青土社、2019年)、『遠い声をさがして』(岩波書店、2022年)などがある。第14回日本学術振興会賞受賞(2017年)、第10回京都大学たちばな賞受賞(2018年)。
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目 次  まえがき  Ⅰ
花をたむける
アンフラマンス
世界する流儀
贈与と顔
 Ⅱ
石を積む
都市の縁側
あいづちと変身
うつつの向こう側
借り暮らし
 Ⅲ
数式と神話
センザンコウの警告
センサスの内と外
空の飛び方
 Ⅳ
少女たちの残像
声と現れ
地べたの民俗誌
風の祠
国境の森で
 Ⅴ
たまふりとふるえ
羽をもつもの
シャマンのうた
いしぶみと署名
 あとがき
   * * * また、同じ著者、石井美保氏の『めぐりながれるものの人類学』も、かつて(2019年に)装幀を担当させていただきました。
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『めぐりながれるものの人類学』  石井美保 著
カバー銅版画┃ イシイアツコ
仕 様┃ 四六判 並製 224頁
発 行┃ 青土社
刊行日┃ 2019年6月刊
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「フィールドで、文化人類学者が見たものとは? 学界の気鋭が���き下した27の文章は、タンザニア、ガーナ、インドから、60年安保の水俣、京都大学の「立て看」撤去問題まで、時間と空間を越えてめぐりながれる。  異なっていながら同じものに満ち、分かたれていながらつながっている私たちの生のありようを鮮やかに描き出すす27篇。」
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目 次  まえがき  I
「人」からの遊離
小人との邂逅
水をめぐるはなし
循環するモノ
道の誘惑
 Ⅱ
異形の者たち
鳥の眼と虫の眼
ふたつの問い
科学の詩学へ
 Ⅲ
敷居と金槌
公共空間の隙間
フェティッシュをめぐる寓話
隅っこの力
 Ⅳ
まなざしの交錯と誘惑
現実以前
流転の底で
Since it must be so
 Ⅴ
世話とセワー
ささやかで具体的なこと
台所の哲学
リベリア・キャンプ
追悼されえないもの
 Ⅵ
凧とエイジェンシー
島で
サブスタンスの分有
神話の樹
言霊たち
 あとがき    * * * また、こちらのご本は、装幀を担当していませんが、同じく石井美保氏の著作で、同じくイシイアツコ氏による装画の――、 『遠い声をさがして:学校事故をめぐる〈同行者〉たちの記録』
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発 行┃ 岩波書店
仕 様┃ 四六判 並製 338頁
刊行日┃ 2022年6月刊
「小学校のプールで失われた命。なぜ、どうして、事故は起きてしまったのか。  受容と忘却の圧力に抗い、「その時」に迫ろうとする両親と同行者たちの苦悩と行動。  そこから浮かびあがる学校や行政の姿。  同行者の一人として出来事にかかわった文化人類学者が、多声的な語りから亡き人とともに生きることの意味と可能性を考える。」
   * * *
 そして、11月11日の「朝日新聞」朝刊(2022年11月11日 金曜)の「折々のことば」に、『めぐりながれるものの人類学』(石井美保 著、青土社)から、引用がされています。
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※ 画像は、文章の一部分を隠しています。全文は「朝日新聞」「折々のうた」をご覧くださいませ。
以上、2022年11月17日 記
 .
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thanatochu · 24 days
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黒い森を抜けたあと
Schwarzwaldの続きの話。 綾子主+叔父さん出会い編。
あの子と初めて会ったのは、それほど昔でもないような気がする。 10歳余りも歳の離れた姉が遠くに嫁いで行ってからはあまり帰省する機会もなく、その子供である彼と会ったこともない。生まれたばかりの時送られてきたメールの画像と、親から伝え聞くことぐらいで。 なので自分自身もまだ中学生の子供だった俺と、その小さな甥っ子との関係はまるで遠い親戚のようにしか感じられず、冷たいのかもしれないが愛着もなくさほど可愛いとも思えなかった。 けれど写真を見れば顔立ちは整っている。濃い藍色掛かった黒髪に、大きな瞳。無邪気に笑う様は確かに愛らしいと言えるだろう。母親が俺の小さい頃にそっくりだとしきりに話すので、少々聞き飽きた。 それから数年して、多忙らしい姉夫婦の都合がつき泊まりがけで実家に来ることになった。もちろん甥っ子も一緒に。うちの両親はそれは大喜びだった。 初めて見るその子が玄関で俺を見上げると、隣にいた姉のスカートをぎゅっと握り、隠れるような仕種をした。けれど小さな声で「こんにちわ」と挨拶をする。視線はずっと俺に向けられたままなので、自分も「いらっしゃい」と返事をした。 皆で飯を食いながら雑談してる間、甥っ子は落ち着きなく歩きまわるかと思えば大人しいもので、やや内気ではあるが賢そうに見える。 早生まれで春には3歳だというその子が、俺のことを少し遠くからずっと興味ありげに見ているので、手招きをすると近寄ってきて横にぺたりと座った。 「…おじさん?」 「そうだけど…叔父さんっていう歳じゃない」 「いくつ?」 「17歳」 お互いぽつりぽつり、と呟くような会話を続けて、その子は「ふうん…」と納得したのかどうか分からない相槌を打った。 「…言ったら、おこる?」 「別に怒らないけど…名前で呼んでくれた方がいいかな」 藤堂樹、と名前を告げたその時に「たつ、きー」と復唱した笑顔が、なんとも可愛く見えた。 それから暫くして俺は例の事件に見舞われるんだけど、それはまた別の話。
甥っ子とそんな会話をしてからまた4、5年経った頃。 姉夫婦がムーンライトブリッジで大きな事故に巻き込まれて亡くなった、と知らせが来た。 家族一緒に乗車していた甥っ子は運良く生き残り、それでもまだ意識が戻らないらしい。 遠方に住む両親からも頼まれて、実家を出て独り暮らしの俺がその子の入院している病院へと赴いた。 小さい体には大きすぎる白いベッド。細い腕に繋がれた点滴のチューブが痛々しい。擦り傷程度で大きな怪我はしていないようだが、脳傷害などなければいいと様子を見ながら近くの椅子に座る。 姉夫婦の葬儀は何やら父方の家と勤め先が旧家だか大企業らしく、全て任せてくれと言われた。 少々強引なやり方で準備が進められ、一方的な言い草にこちらの両親も俺も唖然としたものだ。 いきなり家族が亡くなって気持ちも何も全く整理できていないが、ポツンと取り残されたような甥っ子の傍に居てやりたかった。 数日眠ったままでやっと目覚めた甥っ子に現実を伝えるのは憚られたが、聡明なこの子に大人の都合で黙っている方が可哀想だ。親はもういないんだと、独りになってしまったんだと告げた。 流石にすぐに理解できないらしく、惚けたように俺を見返したけれど。 「…だいじょうぶ、ひとりじゃない。おぼえてればデスが…来てくれる」 まだ夢の中にいるような顔で呟いた。
慌ただしく葬儀や事後処理が終わって、甥っ子のことも父方の家が面倒見ると頑なに言うので1年程会う事はなかった。 連絡先は伝えておいたので、たまに近況を聞くようにはしていたのだが、どうも違和感を感じて詳しく聞き出すと親戚中をたらい回しのような扱いを受けているらしい。 義兄はまともな人だったが、その親族は世間体ばかり気にして金は持っているくせに子供の面倒は見たくないというクズどもだな、と冷静にキレた俺はすぐさま甥っ子を引き取ることにする。 元々愛想がないだの馴れないだの文句ばかりで手に余る状態だった親戚連中は、猫の子を譲るよりも呆気なく、二つ返事で甥っ子を手放した。 ちゃんとした手続きを踏めば俺にだって血の繋がった甥っ子を養育する権利くらいある。問題なのは俺が南条系列の外資系商社に入ったばかりで、これから出張も転勤も増えて海外にも行くかもしれないということだ。 その時はこっちに連れてくればいいよと両親は言うが、毎回それでは結局たらい回しの環境と変わらないんじゃないか…今までが劣悪な環境だったので住む所くらいは落ち着けてやりたい。 信頼のおける人を雇って見てもらうしかないか、とそんなことを考えていた時。 おとなしく公園の砂場で遊ぶ多紀を見守りながら少し離れたベンチに座っていた俺に、いきなり声が掛けられた。 「茅野多紀くんの保護者の方ですか?」 その青年…まだ少年の名残が見られるかもしれない。けれど整った容貌と額を出した黒い髪と、不気味とも言える輝きをした青い眼を持つ独特の雰囲気の人物が俺に近づいてきた。 そして到底信じられないようなことを言う。俺は高校時代の経験から奇想天外なことにも多少慣れている気でいたが、それ以上に規格外のことに巻き込まれたのだと悟った。 「多紀を僕に育てさせてください。彼の傍にいたいんです」 未来から来た、甥っ子の縁者だと言うその人物は礼儀正しく頭を下げた。 望月綾時と名乗るその未来人、と呼ぶのが適切なのかまだよく分からないが、今現在の時間軸とは別のところからやってきたのだという。 多紀に会うためだけに。多紀の子供時代を救うために。 普通だったらこんな胡散臭いことを言う輩には警察に叩き出す一択だろう。 だが砂場から戻ってきた多紀が、彼を見つけた途端走り出してその長い脚に飛びついたのだ。 「……デス!デスだよね、ぼく覚えてるよ、思い出した。ちゃんと思い出したよ」 「…ふふ。覚えていてくれたの?ありがとう。でも今はデスじゃなくて綾時だよ」 「りょじ?」 「綾時」 「りょーじ」 「そうそう。やっと会えた。もっと早く会いたかったんだけど、思ったより手間取っちゃって。ごめんね。もう独りにしないからね」 「うん」 話しながらしゃがんで目線を合わせたその様子を見て、俺は細かいことは理解出来ないが分かってしまった。 甥っ子を見る望月の蕩けるような顔。慈しみを込めた視線と、大事そうに頭を撫でる手。 そして多紀の、初対面どころか全幅の信頼を勝ち取っている様子は叔父の俺以上なのではないか。 「…まだ胡散臭いのは抜けないが、多紀を一緒に育ててくれるなら有り難い。こいつも懐いているようだし」 「りょじとたつきといっしょに住めるの?みんなで?ほんと?」 多紀が興奮したように頬を上気させて喜んだ。甥っ子のこんな顔を見たのはいつぐらいぶりだろう。 「ああ。…でも不審な真似したらどうなるか覚えとけよ」 「…あ、誓って裏切ったりしないけどペルソナは出さないで。お手柔らかにお願いします」 立ち上がった望月は、にこやかに笑いながら顔の近くまで挙げた両手のひらを向けて見せた。ペルソナ能力のことまで分かっているようだ。やっぱり胡散臭い。 こうして俺と甥っ子と、保育士兼ハウスキーパー望月の共同生活が始まった。
俺と望月の手を左右で繋ぎながら、真ん中に挟まれた多紀が楽しげに歩く。公園から自宅まではそれほど離れていない。 「デスの時となんか違うね、りょーじ」 「うん?まあね、日常的にはこうだよ」 「またまほう使ったりするの?」 「使えるけど…叔父さん以外には内緒ね、じゃないと一緒にいられなくなっちゃう」 「えっそれはやだ!」 帰る道すがら内緒話のように仲良く話す2人を見て思い出した。 病院で目が覚めた甥っ子が言っていた言葉。覚えていればデスが来てくれる。 この子はそれをよすがに、これまで耐えてきたのだろう。 家に着いて2杯分のコーヒーを淹れ、多紀にはリンゴジュースを出してソファに座るとようやく落ち着いて話ができる。 自己紹介と連絡先を兼ねて名刺を渡すと、望月は両手で受け取ってまじまじと眺めた。 「藤堂…たつきさん、って読むんだ。多紀と似てるね?」 「うん。まぎ、らわしい?からたまにジュジュって呼んでる」 「こら。それはやめろって」 嗜めると多紀はきゃはは、と小さく笑った。 「じゅじゅ?」 「樹ってじゅ、って読むんでしょ?だからジュジュ」 「はは、それは良いね」 今まで必要以上に大人しく表情もあまり変わらないでいた甥っ子が、本来の明るさを覗かせてよく喋る。正直カウンセリングにも通わないといけないのではと思っていた俺はそっと胸を撫で下ろした。 「一度実家にも顔見せに行かないとなあ」 「じいじとばあばのとこ?行きたい!」 多紀を引き取るまでの経緯は電話で話してあったが、やはり孫の顔が見たいだろうし。 「多紀の御祖父母と…うわー緊張するなあ。手土産どうしよう」 「そんな身構えることないだろ。でも親に育児同居するって言うから��は、お前の能力は説明しておかないとな」 能力、と呟いて瞬きをした望月は、考え込むように泣き黒子の近くを指でなぞる。 「特に資格は持ってないけど一通り学んできたよ。多紀を育てるために必要なこと。家事育児、運転免許…はまたこっちでも取るとして、家庭教師も経験済み」 「ぼくもね、目玉やきできるよ。おせんたくものもたためるし、1人でお風呂にも入れる!」 甥っ子も張り合うように手を挙げた。実際この子は自分のことは出来てしまうので手が掛からない。 「おっ、すごいな〜。でもこれからお風呂は僕と入ろうね。洗ってあげる」 「ぼくもりょうじ洗ってあげる」 「ありがとう。お休みの日はどこか遊びに行こうね。楽しみだなあ」 夕飯時も入浴もそんな調子で終始はしゃぎっぱなしだった多紀は、流石に疲れて歯を磨く頃には半分夢の中だ。 「もう寝ちゃったね。ベッド連れて行くよ」 慣れた手つきで望月が力の抜けた幼子を腕に抱き抱え、子供部屋に向かう。 「ああ。それが済んだらお前の素性を詳しく聞かせてもらおうか」 「…あー、やっぱりそうだよね…」 彼は観念したように苦笑すると、ちょっと待ってて、と言い置いて廊下へ消えた。
明日の天気予報を見ながら茶を啜っていると望月が戻ってくる。 ソファではなく床に正座すると真顔で見上げてくるので、俺も居住いを正した。 「…薄々勘づいているかもしれないけど、僕は人間じゃない」 「……まあ、最初に話しかけられた時にそうだろうとは思ったよ」 「どこまで話せば良いのか、話して良いのかも不確かだけど…貴方は多紀の保護者でペルソナ使いだ。尤もそのペルソナも、僕たちの定義とは少し違う」 碧眼を伏せて僅かに躊躇したような彼は、眉を顰めて語り出す。 「僕は多紀の…今もあの子の中に封印されているものが育って人間の性質を得た、その成れの果てだ」 「…封印?」 「そう。あのムーンライトブリッジで」 望月は自分のことをシャドウというものが凝縮し、ある目的のために作られた死神だと言った。 それはやや自虐的で、生まれた経緯や誰が封印したのかなど詳しいことは語られなかったが、甥っ子に対して強い負い目が滲み出ている。 「…大体は分かったが、今ここにお前が居るということはデスが2体いることになるんじゃないか?」 「…まだこちらの僕は完全体ではないけどね…いずれそうなる。事象に歪みが出るのは避けられないから、僕はその前に多紀の記憶を少々弄ってから元の世界に戻るよ。育った彼があの地へ帰るまでに」 「帰る?って巌戸台にか。それは確定してるのか?」 「そうだね。2009年の春、何度繰り返しても同じだ。違うのは彼の…選び取った結末だけ」 まるでループする世界を幾度も見てきたような言い草だった。 「でも、僕がここで干渉する意味が少しでもあれば良い。宿主である彼の心身に与える悪影響を最小限に出来るかもしれないし、ペルソナは心の力だ。僕らが確かに愛情を持って育てることで、彼の選択や能力…この世界での未来まで変えられるかも」 「…多紀もペルソナを使うようになるってことか」 「ああ。それも稀有なワイルドの力だ。君たちは相性の良いペルソナを付け替えたり出来るけど、僕たちの理では基本1人に一体のペルソナしか扱えない。数百の仮面を使い分ける彼は…特別なんだよ」 特別、と口にする望月は痛みを感じたかのように顔を歪めた。誇らしげでもなんでもない、多紀が選ばれてしまったのは自分のせいだとでも言うように。 「…訊いてもいいか?お前はどうしてそこまで必死になって多紀を救おうとする?そもそも何でこっちの世界に来たり戻ったりできるんだ」 「えっ、ええと…それは大切な人だし迷惑も掛けたし。あっシャドウはね、時間を操れるからだよ」 それまでと打って変わって、しどろもどろに答えた望月はまだ何か隠しているらしい。まあ言いたくないなら構わないが。 選び取った結末とやらの果てに、甥っ子は一体どうなるのだろう。 その運命をどうにかして変えたくて、望月は此処にやってきた。それは間違いなさそうだ。 「2009年か…その頃にはあのチビもでかくなってるんだろうな」 「ふふ。もっと身長は欲しかったみたいだけど、すごく綺麗で格好いいよ。やっぱり血が繋がってるからかな、貴方に雰囲気が似てる」 「…俺?まあ小さい頃にもそっくりだとか母親に言われてたけどな」 「飄々としてるところとか話し方とか、リーダーらしく落ち着いた思慮深さも似てるよ」 他にも優しかったり土壇場の度胸があったり美味しそうにご飯を食べるところなど、枚挙に遑が無い。放っておくと朝になってしまう。 「…お前さあ、多紀に惚れてるだろ」 「っえ!?いや、惚れ…あの、もちろん好きだけどその、僕は小さい多紀にはただ可愛いなーってだけだよ」 「当たり前だろ。こっちの甥っ子に手出したら切り刻んでやるからな」 「何もしません!っていうかだからそんな趣味も性癖もないから!!」 「どうだかな。中学ぐらいになったら色気付いてくるだろうし誘惑がないとは言えないだろ」 気分は箱入り娘の父親のつもりで半眼になり睥睨すると、望月は面白いぐらいに狼狽えた。 「なっ…なんでそんな意地悪…!怖いこと言わないでよ僕は!育児に来たの!」 「ははっ、お前もそうやってると人間みたいだな。まあいい、お前はそっちの世界の多紀に惚れてるんだろ」 「…うん。僕がこうして存在するのは全て多紀のおかげだ。その彼に報いたい」 真面目な顔に戻って、望月が正座した膝の上で拳を握った。 「了解した。多紀のために協力してやる。お前も全力で守れよ…と言いたいが、これから何年もあるのに張り詰めてたら誰も楽しくないだろ。取り敢えず甥っ子の日常を幸せで満たしてやってくれ」 「それはもちろん。僕も家族ってものに憧れてたんだ、だから仲間に入れてもらえて嬉しいよ」 よろしくお願いします、と笑って差し出された手に笑い返し、握手をした。 こうして男ばかりの甥っ子家族計画が始動したわけだが、望月が人心掌握術かの如く同級生の父兄に評判が良いのも、キャラ弁まで作れる家事スキルが完璧なのも、人外が垣間見え薄らとした畏れを感じることも、俺が知るのはまだ先の話。
今まで萌えのままに綾子主を描いたり書いたりしてきたんですが どうして2人が一緒に生活しているのかをよく考えてみると中々にヘビーな理由と細かい設定がいるな…とは昔から思ってました。 うちは異聞録主が叔父さん設定なので今になってそこを深掘りしてみた感じです 異聞録主は藤堂姓にしたいお年頃。南条と桐条の関係もちょっと匂わせられるよねっていう魂胆ですが当時から異聞録であんまり創作したこともないので手探りです。 自力でタイムトラベル出来ちゃうチート綾時は便利だな(笑) これからは本当にほのぼの日常パートが書けそうなので、張り切ってそのうち。
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roesy · 1 year
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実話━━━ 釜石市北部の大槌湾を望む釜石東中学校にいた生徒たちを襲った、立っていられないほどの激しい横揺れ。校庭にいた生徒たちは教師の指示を待たず、高台に向かって走り出し、教室にいた生徒たちも、教師の「逃げろ!」の言葉を合図に一斉に非常階段を下り始めます……。 校門を抜け、敷地外へ走り出した生徒たちは、隣接した小学校の児童たちと一緒になって、防災訓練で教えられていた裏山の高台を目指しますが、「まだ危ない!」という誰かのひと言で、さらに高い場所へ。 その数分後、高台に集まった児童・生徒たちは、自分たちがさっきまでいた校舎が津波にのみ込まれ、足下近くまで押し寄せた津波を目の当たりにします━━━。 平均して週1時間を防災教育に充て、年3回防災・避難訓練を行ってきた岩手県釜石市。その訓練時に生徒たちに指導していたのは「大きな地震が起きたら、とにかく早く、自分の判断でできるだけ高いところへ逃げる」という「津波てんでんこ」「命てんでんこ」の教えでした。 この教えに従った児童・生徒562人全員は、無事自らの命を守ることになり、その俊敏かつ的確な判断と行動は、これまで多くのメディアでも取り上げられています。 ※産経新聞2014年3月10日 生存率99.8%「釜石の奇跡」「津波てんでんこ」の教えの正しさより
東日本大震災から4年。三陸地方に伝わる言葉「てんでんこ」が伝えること(季節・暮らしの話題 2015年03月10日) - 日本気象協会 tenki.jp
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herbiemikeadamski · 1 year
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. (^o^)/おはよー(^▽^)ゴザイマース(^_-)-☆. . . 1月16日(月) #赤口(甲戌) 旧暦 12/25 月齢 23.7 年始から16日目に当たり、年末まであと349日(閏年では350日)です。 . . 朝は希望に起き⤴️昼は努力に生き💪 夜を感謝に眠ろう😪💤夜が来ない 朝はありませんし、朝が来ない夜 はない💦睡眠は明日を迎える為の ☀️未来へのスタートです🏃‍♂💦 でお馴染みのRascalでございます😅. . 自家用車を購入したら自棄に雨が 多くなった気がする、それにこの 暖かさはなんですかね😅💦やっぱ 熊本県は南国だから暖かなんでし ょうかねぇ🤣😆🤣東京の方はどう でしょうか?このところ朝の最低 気温もこっちのが高くなってます。 先週後半から暖かくなり土日には まるで、GW㊗を迎える気候の様に なってました✋さて、3/53週目の 月曜スタート今週もお手柔らかにお願 い致します🙏🙏🙏字余り😅💦って . 今日一日どなた様も💁‍♂お体ご自愛 なさって❤️お過ごし下さいませ🙋‍ モウ!頑張るしか✋はない! ガンバリマショウ\(^O^)/ ワーイ! ✨本日もご安全に参りましょう✌️ . . ■今日は何の日■. #囲炉裏の日(イロリノヒ).  囲炉裏を囲んで暖かい会話を楽しもうと囲炉裏の愛好家らが制定。  「い(1)い(1)炉(6)」の語呂合せ。 . #赤口(シャッコウ・シャック). 「火の元や刃物に注意すべき日」と言われており、凶や死のイメージが付きまとうため、お祝いごと では次で紹介する「仏滅」より避けられることが多いです。  この日は午の刻(午前11時ごろから午後1時頃まで)のみ吉で、それ以外は1日大凶となります。 . #大犯土(オオツチ).  選日の一つ。  土、椎、槌。  庚午から丙子までの7日間を大犯土、戊寅から甲申までの7日間を小犯土という。  その間の丁丑を間日、犯土間日、中犯土といい、この日は犯土には含まれない。あるいは犯土には含まれても犯土の禁忌は存在しない。  犯土期間には土公神が本宮、あるいは土中にいるため土を犯してはならない。  土に休養を与えるべき日とされ、土に関することは慎むべきとされています。   . . #石原軍団解散. 2021(令和3年)年1月16日(日)に、 #石原プロモーション がこの日をもって解散し、58年の歴史に幕を閉じました。 . #氷すべり場の日. 1876年(明治9年)、横浜に日本初のアイススケート場(氷すべり場)がオープン。 . #ヒーローの日.(#HERO'S DAY) 広告業務などを手がける株式会社電通が制定。 . #初閻魔/#閻魔賽日/#十王詣.   日本仏教においては、1月16日と7月16日は、閻魔大王の「休日」。  「閻魔賽日」と「十王詣」は、そんな閻魔様の休みであるこの日と7月16日。  1月16日は1年で最初の閻魔の縁日。 . #禁酒の日.  1920(大正9)年、アメリカで禁酒法が実施された日です。 . #念仏の口開け.  年が明けて初めて、仏様を祀って念仏をする日。 . #晴れの特異日(東京).  晴れる確率の高い日。 . #籔入り(やぶいり).  むかしは商店に奉公している人や嫁入りした娘が、休みをもらって親元に帰ることができた日です。  ほかにも7月16日には、実家に帰ることが許されていました。 . . #いい色髪の日(毎月16日). . #トロの日(毎月16日). . #十六茶の日(毎月16日). . . #教師の日(#タイ). . . ■本日の成句■. #山椒は小粒でもぴりりと辛い(サンショウハコツブデモピリリトツライ). 【解説】 山椒の実は小さいが非常に辛いのを人に例えた成句。 身体は小さくても、気性や才能が非常に鋭くて優れている事の意。 . . 1963(昭和38)年1月16日(水)友引. #廣田高志 (#ひろたたかし) 【舞台俳優】 〔愛知県〕. . . (Saburou, Kumamoto-shi) https://www.instagram.com/p/CnctrWyBkf_QhMK7Wg9HthZkwzY7BUdjbdei3A0/?igshid=NGJjMDIxMWI=
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【ボーイミーツガール4】
頂点を超え帰路に着く太陽が長い廊下を照らしている。
「この後は何処に行くの?」
アリスはまたもや無垢な目をして聞いてきた。
「んー。そうだなあ。授業も中途半端にサボってしまったし今日は煙草でも吸って帰って来たる戦に備えて準備に勤しむ事にしようかな。」
「私も喫煙所に同行して宜しい?」
「嫌煙じゃあ無いなら良いけど。」
「犬と猿じゃあ、あるまいし大丈夫だよ。」
「雉がいた頃は共闘していたのにな。」
「前後の時系列によって解釈が変わってきちゃうね。」
“そうだな”と、この空気に返事をして2つ並んだ影帽子は歩み始めた。
喫煙所に向かう途中でアリスは知らない女生徒の集団に声をかけられていた。
有り余る人望を振り撒いて歩いていればこんな顛末になるのは大いに予想出来たもんだが今日の俺には不可能である。
ごめんねとウインクをして詫びた後小走りでその集団の輪に打ち解けていた。
あっけらかんと遠くなる集団を眺めていたが自分には未だ山積みのタスクが残っていた事を思い出し足早に憩いの場へと向かう。
この時間の喫煙所は授業中ということもあってか人は居なかった。
寧ろ心の整理をするにはうってつけの場であった。
胸ポケットに入れたソフトパッケージを振って一本だけ飛び出させて口元に迎え火で燻す。
ふうと一息つくと肺胞を覆う煙に大層な満足感を覚える。
上の方を向いて煙を宙に舞わせる。
脳内が澄んできた頃、視覚外から突然声をかけられた。
吃驚して声が上手く出せず反応が遅れてしまったが視覚神経を辿って脳内に届いた情報はもっと反応速度を鈍らせるには過不足無かった。
何を隠そうとも目の前にはキサさんが立っていたからだ。
色んな言葉や感情がびゅんびゅんと駆け巡る。
人はソレを困惑と呼ぶのだと理解した。
困り果てている俺をよそにキサさんは再度“ライター貸して頂けませんか?”と言った。
喫煙所というフィールドでは他のスモーカーには何かの仲間意識からか何かをお願いされるとどうも断り難い。
実際、草臥れたお爺さんが若者に煙草の一本をせがむ様子を見た事が何度もある。
この様に俺には断る義理が何一つ無い。
増してや意中のキサさんだ。
「あ、どうぞ。」
「有難う御座います。」
ジッと砥石を回し火を付け終え直ぐに返してくれた。
ふうと息を吐いたのを確認してから俺は、こう尋ねた。
「どうしてそんなに他人行儀なんですか。」
「あら、バレちゃってた?」
「バレるとかの問題じゃあ無いです。何の迷いも無くキサさんだと認識出来ました。」
「そっかあ。流石だね。」
「如何してここに居るんですか。」
「如何してだと思う?」
「鸚鵡返しじゃあないです��。そうだなあ。偶然同じタイミングで居合わせたとか?」
「そんなつまらない理由じゃあないわ。退屈しちゃうでしょう?」
「全く見当も付きません。脳が完全に思考を放棄しています。」
「じゃあ秘密ね。」
「悪戯っ子ですね。幼少期の渾名は悪童とかでしょう?」
「残念だなあ。私これでも生徒会長とかやってるタチだったんだよ。」
「はあ。生徒達じゃあ飽き足らず学校もろともを支配していた訳ですか。」
「私は君が切望する様な母性は持ち合わせて無いよ。」
「増してや僕はチェンソーを持っていないのでママにもならないですよ。」
「古い漫画なのに知っていたの。流石だね。」
「凄いのはあの作品でしょう?何年経っても民間伝承のように言い伝えられているんだから。」
「それもそっか。有り余る寓話も誰かの創作な訳だからね。」
「そんなことよりもどうしてここにいらっしゃるのですか。この謎を解き明かさないと今日ご飯に集中出来ないと思います。」
「んーじゃあ教えてあげよっか。先ず手始めに私から質問しても良い?」
「何とでも訊いてください。それが答えに繋がるのであれば。」
「君はどんな恋愛を望む?」
「そうですね。いざ答えを出すとなると難しいですけど強いて挙げるなら劇的な恋がしてみたいですね。」
「そう言うと思った。君は知らないと思うけど劇的な出来事は必ず双方どちらかの能動が無ければ成立しないの。受動的に待っているとなあんにも世界は変わらないんだよ。」
「ただ、それとこれとがどう繋がるのかさっぱりです。」
「だから私からわざわざ会いに来てあげたんだよ。言わせないでよ、こんなこと。」
赤らんだ頬を持つ顔は綺麗であったが直ぐに煙に隠されてしまった。
「それはそうとどうするの?これから。」
「任せてくださいよ。わざわざ会いにまで来て頂いている訳ですし。」
どう足掻こうとも見切り発車の嘘だ。
実際問題、教授やアリスに訊いても理想的な答えは得られなかったからだ。
「頼りになるね。今日の私はなーんにも考えないからね。」
「取り敢えずゴブルにでも向かいましょうか。」
“うん”と相槌を受け取り根元まで火元が迫った煙草を消して大学から出た。
この大学からゴブルまではモノレールが通っている。
始発駅から終着駅へと向かうので道中は快適そのものだ。
自分でもびっくりしたが気がつけばゴブルに着いていた。
普段活発的では無い人が突如活発的になるとどうも身体が追いついてこないらしい。
初デートに寝てしまうのは心底申し訳なかったけど満更でもなさそうな顔して起こしてくれた。
電車からホームに降り立つ。
「寝ていてしまってすみません。」
「ううん。滅多にお目にかかれない貴重な姿を見れたから良しとするよ。」
「優しすぎやしないですか。」
「君こそ優しさに耐性でも無いの?」 
「そんな事は無い��思うんですけど移動時間に寝ると大概、憤慨されるかなとお思いまして。」
「三大欲求は誰にも邪魔されたく無いじゃんかあ。」
「その思想、素敵過ぎますね。」
切符を投入口に投げ入れて駅構内から出た。
駅のホームからもそうだったがこの辺りは眠らない街と謳われるだけある。
人の数がうんと多くなる。
これだけの人に囲まれれば自分の存在がまるで思っていた程尊大なもので無いと気付かされる。
「ちなみに行く当てはあるの?」
「見栄ばかりで申し訳ないです。」
「君らしいなあ全く。」
「いや、今決めました。兎に角ついてきて下さい。迷子にならない様、手を繋いでて下さい。」
「繋いだその手は離さないでね。」
「任せて下さい。」
まるで花火大会の帰り道みたいなやり取りをして一心不乱に俺は人の波を縫って目的地へと向かう。
キサさんの手はほんのり冷たかった。
人盛りを抜けても言われた通りに繋いだ手を離す事は無かった。
この時間は永遠に続けと心底から願った。
その願望も虚しく直ぐに目的地が目下まで迫っていた。
店内の喧騒が外に漏れ出している。
勘の良いキサさんは“ここ?”と訊いてくれた。
「癪に触りましたか?」
「ううん。君が懸命に考えたデートなんだから私は満喫するよ。」
「ありがとうございます。楽しみましょう。」
そう言って赤い暖簾を潜った。
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crystallizedheaven · 1 year
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クトゥルフ小説「黄衣の伝承」の最新第二話「2 黄の印」を公開いたしました。
武闘派刑事、岩淵光紀の実家に着いた四人。
彼の父親が、床下から掘り出していたものとは一体……?
光紀くんの、身内向け砕けた口調が味わえるお話ですが、相変わらず極めて不穏ですw
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azure358 · 2 years
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—深海人形特別篇— はんたの話?
御前等「…あのアカウントは……?本物か偽物か?!(野次馬根性)」
ワイ「…あのアカウントの画像に映ってる原稿が汚いので本物(確信)。」
…って言うか、公式認証マーク付ける手続き手伝ってやれよ編集!!!!(認証マーク無かったら、偽物に騙される人が、此れからも、出て来るだろ!!!!)
※…基本、及び、後半軍事ネタ、残酷、クロスオーバー注意。
[[MORE]]
…はんた連載再開確定おめでとう。
…もっと、とがしとクロロ団長の苦しんでおる所が見たい。うーん。楽しみじゃのう!楽しみじゃのう!(某邪竜並)
※某わんぴのネガティブアレ食らった時
団長「…オレはもう、団長辞める。」
ヒソカス「…どうせ、ボクは、哀れな道化さ♦︎……。」
イル兄「…オレって一家の恥だよね。」
キル「…今から、家に帰るわ……。」
ビスケ「…此んなババアなのは、仕方無い…。」
フェイタン「…どうせワタシ達、流星街のゴミよ……。」
ズシ君「…もう、努力したくない……。」
ウィングさん「…すみません。弟子としても師匠としても失格です……。」
ミル「…パパ…ママ…此んな豚で御免……。」
��ノ爺「…静かに、暮らしたい……。」
カル「…もう、何もしたくない……。」
マチ「…全部莫迦みたい。何したって無駄よ。」
シズク「…つ、疲れた〜〜〜〜。」
ゴン「…オレ……辛い……。」
ナックル「…すまねぇ、すまねぇ、すまねぇ……。」
※とある莫迦の慈悲深い愚痴。
…はんたの話が、余計ややこしく、可笑しくなったのは、面倒臭い女さん層と旅団厨の所為だと適当に身勝手に思っているので、其の手の女さん(と其れ等とは無関係な莫迦野次馬共も)達が「…とがしが生きてた!!(野次馬根性)」だの「…連載再開やなww(右に同じ)」だのとギャンギャン騒いで居るのを見ると、複雑な気持ちになります。
…とがしは、最早、天命レベルで苛め易いのは分かるけどさ、もう、とがし苛めんな。此れからも、絶対苛めんな。本当に約束して。とがしを、もう、此れ以上、苛めるな。
…原稿が汚い?熟練のプロ程原稿は汚いんだよ。何も描いた事の無い奴等が騒ぐ事じゃない。プロの原稿が汚いのは、それだけ、熟練の描き手で真剣にやってる証だ。御前等良い加減にしろ。
…仕事しない?…漫画描くってさ、腰痛ってさ、本当に辛いんだよ。そして、持病と加齢による障害で更に苦しむ病人を、出版社の稼ぎの為に働かしてる方が、異常である事に気付けよ。
…後、出版社さんは、後々、とがし先生に訴訟されたらどうするんでしょうか。
そう言う対策取ってた方が、良いかもしれないよ?
…で、最後に、…なぁ、御前等、つい最近迄、大抵別垢でknnとかtwst関係でキャッキャッしてたろ?みたいに。もう出先に居着いちゃえよYOU。
…。
※幻影旅団の伏線回収考察
…旅団結成前後〜初期の過去回想話するのは妥当な線ですが、其れすると、「…浸り過ぎーー!!(鼻毛の人並)」「…長いわーー!!(ガ王並)」…になるので、少し短めにして頂けると……(…昔のわんぴがしていた深刻な過去回想責めに、トラウマがある者より なるとのは、別に其うでも無い)。
…以下、箇条書き。
・幻影旅団結成の理由
・旅団メンバー全員が念能力をマスターしている理由
・例のビデオ
・オモカゲとNo.8の人を含む、初期メンバーの詳細
・クルタ族の村襲撃の真相と第四王子君との関係
…。
#人間ちゃんネタ
上位存在がしょっちゅう不法投棄するゴミ捨て場にある集落に村の皆と仲間と住んでた人間ちゃんくろろ団長を上位存在が、安易に拾って飼育し始めたら、挙げ句の果てには飼い切れなくなって、最後には、団長、叩き出される様に、外に捨てられて、其の後、集落に戻ったみたいな話(※有り得そう)。
※団長ネタスペシャル
(※雄リョナ発言注意)
…『星羅から来た〜SoODL.』と『クロ新〜LotPNW.』では、慈悲と情けを掛けたけどね、本当は、くろろ団長を痛めつけたいんですよ。とがしが、本編で団員を殺処分するよりも早く、酷く(…もっと、鬼畜みたいな目に会わせたい)。
…。
くろろ団長って、念を研究する上で、最高峰の研究材料(或いは実験体)だと思う(※…次点で適して居るのは、多分、蟻勢か第四王子かじんさん)。
…。
…団長による、新たな『鎮魂歌(レクイエム)の儀(便宜的命名)』楽しみだなぁ〜〜〜〜(歪んだ楽しみ方)。
…某公式ネーム原稿二枚で、「…団長だ!!仲間が一挙に死んだから鎮魂歌(レクイエム)の儀してるんだ!!(大歓喜)」…としか見えない事で話題な奴、ワイから見たら、団長も死んでダイニングメッセージ遺してる風にしか見えなかったぞ(…相変わらず、団長の扱いが基本過酷)。
…もしも、たった数話の間に、団長「…あぁ〜〜^^仲間が死んでしまったんじゃ〜〜^^鎮魂歌(レクイエム)の儀やろ(…そして、此のオレから仲間へのレクイエムですへ……)。」みたいになってたら、辛いよね(旅団厨が 我々大爆笑)。
…ワイ等「…未だ未だ、王位継承戦続きそうやなww(…此れだから、…もう、とがしったらぁん☆)。」団長「…あれから、仲間全滅しました(震え声)。クラピカ「…他王子ほぼ全滅(ついでに旅団もほぼ壊滅しててラッキー)です(迫真)。」…かもよ??(※流石にネタです)
…団長は、例えどんな性格でも、何も変わらず、人気出てただろうな……(※…先ず、見た目と念能力が良過ぎる)。
…そして、『ぼくのかんがえたあんこく大りくへん』で素晴らしいのが、しをらしい団長(好き過ぎて咽せた)。…しをらしい男ワイ大好きだから(※例:拙作のウェイン兄弟)無茶苦茶ツボった(可愛い)。
…雄らしく戦いたいし、格闘・体術大好きだから、「…ウヴォーさん、…もっと格闘教えてよ(笑顔)。」…みたいに懐く団長が見たい(…因みに、拙作の団長は、バリバリの格闘系で、近接・ゼロレンジ重視)。
…まさかの、『レジライ=クロロ団長説(クロロ団長は実質レジライ)』来ましたね(来てない)。…あらゆる念能力者は、実質、団長(夏の猛暑で錯乱)。
…旅団で夏の夕暮れ展開、したいでーす(…団長団員皆殺しエンド)。——夏の夕暮れ オレを優しく迎えてくれるのは、海鳥達だけなのか? ——回収されたスマートフォンに残っていた録音より
…原作の時点で、『夏の夕暮れ(団長が団員と殺し合う)』だったら如何しよ(…旅団全滅の理由 …流石に、無いと思うけど)。
団長「…オレが此の手で、団員(皆)を殺したのか……(夏の夕暮れ展開)。」→…しばし、たたずむ(※RTACネタ)。
ヨークシン編で、マフィアの一人が団長の偽死体見た時、「…若造じゃねーか(一寸驚愕)。」とか言ってるの、団長の事をおっさん(30代後半〜50代前半)だと思ってたって事だよね笑う(…多分、其の人、本当のおっさんになれずに此の世を去ると思うよ……)。
…。
自分の能力で相手の能力を奪った上で、相手の物品を取り、徒党を組み、精神をもに侵食する団長及び旅団は(何せ人類だし)バイド(※雑認定)。
…。
麦わら船長「お前もう船降りろ」 クロロ団長「お前もう蜘蛛辞めろ」
…。
※雑多
…中大破風の奴、豚くんのも描くよ、…だって、可愛いじゃん。豚くん(…でも、見苦しいから、見ない方が良いよ)。
…。
本当は、第四王子ネタを擦って行きたい所だけど、何時も脳死で擦ってるのは、団長+旅団とあだるとりおネタ(※…ゆくゆく、ゆうはくネタもレベルEネタも擦って行きたい所存)。
…。
※自Twitterアカよりコピペ集
Q.旅団員達「…団長!!N1が鎖野郎にしか見えません!!(必死)」 A.団長「…其の絵描きが未熟過ぎて、N1と鎖野郎の描き分けが出来て居ないだけだ!!諦めろ!!(※クロ新的にはメタ発言)」
…ヨークシン編で、マフィアの一人が団長の偽死体見た時、「…若造じゃねーか(一寸驚愕)。」とか言ってるの、団長の事をおっさん(30代後半〜50代前半)だと思ってたって事だよね笑う(…多分、其の人、本当のおっさんになれずに此の世を去ると思うよ……)。
※…以下、軍事ネタ注意
※クロロと新世界紀行〜LoPNW. 関連
…大変不思議な感じだけど、H&K P8とHK 433と多薬室砲とトリープフリューゲルとゴリアテとアーチャー対戦車自走砲は実在してるからね(電磁銃もか?)。
…その戦闘車両は、——アーチャー対戦車自走砲。WW2期に置ける、イギリス陸軍の兵器である。…然も、二台ある。
(※中略)
…余りの、…その、兵器の珍妙さに、…愕然とするクロロ。
「…でもさ、何でさ、その戦車、後方に向かって、自走砲の砲台がついてんだよ?…普通は、砲台てモンは、前方についてるだろ?」
…ミルキが、クロロのその質問に、全力で答える。
「…知らねぇよ!!」
…その対戦車自走砲は、意気揚々とクロロに向かって砲撃する。
…。
↑…『クロロと新世界紀行〜Legacies of The New Perfect World.』の此の部分、自分で書いといて好き。アーチャーの自走砲が後方に付いてる理由だなんて私だって知らねぇよ。当時の紅茶紳士に訊いてくれ(…此れだから、英国紳士は……)。
…。
…『クロ新〜LotNPW.』、ヒソカスと団長が戦う展開欲しかったけど、没(…同じ様に、死に損ないの猿とN1とも戦う展開だった vsヒソカスみたいに 元ネタのMC,UCでの仮面騎士卿戦な感じでしたかった)。
…。
(※おまけ)
団長「…見せてやろう、此れが俺の愛車、『悪魔の鉄槌(ルシルフルズ ハンマー)』!!(※元ネタ:特拓)」イル兄「…ふーん(※興味無し)。」
(※クロスオーバー・マリギャラネタ注意)
もしも、団長がちこ達のパパだったら(…何気に女性向けな??配管工銀河ネタ)。…当然の様に、ちこ達と団員には優しいけど、ひそかとイル兄には冷たい(※御決まり設定)。…そして、亀さん大王とひそかの意地悪には、ガチの暴力を持って、報復するよ!!(※100%団長)。
補足:…テニスもするよ!!団長「…オレの念能力は108式あるぞ(←自信に満ち溢れ過ぎてる)。」ふぇいたん「…団長。…其れテニヌね(冷静)。」
ひそか「…ボクもちことして、『パパ(意味深)』に守られたいな〜〜〜〜!!(大興奮)」※…其の時、団長がひそかをプロレス技で投げる ちこ「…ねぇ、パパ、さっきの技何〜〜〜〜?!(純粋無垢)。」団長「…ジャーマンスープレックス(CV:ngnさん)。」
まち「…パパ大好き〜〜!!(※パパ活JK並)」 団長「…おい、頼むから、いつも通りに団長って呼んでくれ!!(悶絶)」ひそか(…う、羨ましい……!! ※凄まじい迄に嫉妬)
ちこ「…パパ〜〜!!(大好き〜〜!!)」団長「…ハハッ、御前等、そう焦るなよ……(完全パパ)。」ふぃんくす「…パパ〜〜!!(ふざけて呼ぶ)」しゃる「…パパ!!(屈託無く呼ぶ)」ふぇいたん「…パ、パパ……(ノリ気じゃない)。」団長「…あのさぁ(あきれ)。」(※団長ちこパパネタ)
(※クロスオーバー注意)
どろっちぇ「…其のお宝頂いた!!(例のBGM)」
団長「…あっ!!同業者!!(先制攻撃)。」
…其の後、
『我々は何者も拒まない。だから我々から何も奪うな』
↑とはんた文字で書いてある
まるく「…南無三なのサ……(同情)。」
(※クロスオーバー・残酷注意)
——「…此れが、君達の団長だよ。我々の手で彼から無駄な物を削ぎ落としたんだ。」と、研究員と思しき白衣の男は『ANGEL PAC』と文字が書かれた大きな鋼鉄製の筒をワタシに見せたね。下の方から幾つもケーブルが伸びてたね。
——某団員がある日見た悪夢の記録より
—(※クロスオーバー・残酷注意) 其の時、研究員と思しき白衣の女は、オレに何だかすっごく気持ち悪い生物を披露した。「…此れは、あのQ=WRLCCYWRLFのクローンになれなかった肉塊とバイドを掛け合わせて作った生物よ。」…キショ、普通に吐き気がする。——某暗殺一家の長男がある日見た夢の記録より
…此うして、オレが、其のキショキモ生物に、少しだけ、ドン引きしてると、其の研究員と思しき白衣の女は、更に、此う言った。「…実はね、量産にも成功してるの。見て下さる?」…実際、ケージの中に沢山其奴は居た。——某暗殺一家の長男がある日見た夢の記録(2)より
…其処でオレは
→一匹下さい
→念針を見せる
→一匹下さい オレ「…一匹下さい」研究員の女「…駄目です。此の子達は大事な実験動物なんです。」
→念針を見せる 針に興味を示す様は彼奴の遺伝子入ってるとか関係無く割と可愛い。
※…以上、自Twitterアカよりコピペ
…。
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tominohouzan · 2 years
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宮本佳林 2022/6/22発売 2ndCDシングル「なんてったって I Love You/ハウリング」発売記念 ミニライブ&お見送り会  :★★★★(4.0)
【日時】2022年6月24日(金) 第1部16:30~ (集合時間 16:00) /第2部19:00~ (集合時間 18:30) 【会場】CLUB CITTA' 【出演者】宮本佳林 【内容】ミニライブ&お見送り会
今日はとても忙しい。
まずは秋葉原のハロショに行って、まなかんの卒コンドレスを撮る。そして川崎へ移動して佳林ちゃんのリリイベ参加券をゲットした後、すぐに昼の部終了間近の川崎二郎へ飛び込んで小ラーメンを食らう。そしてチッタ近くまで戻りドトールで休憩後、リリイベ1部に入り、再度ドトールで休憩し、またリリイベ2部に入る。最後はいつもの居酒屋で反省会。
一部は整理番号50番代で5列目中央あたりのまずまずの席が確保できた。衣装は黒緑のなんLove衣装。腕の黒いアミアミにくノ一感があって良い。かなとものソロ曲「黄色い線の内側で並んでお待ちください」を歌うも、2小節目の歌詞が出てこず2回もやり直ししていた。緊張して頭が真っ白になってしまったと言いながら歌詞を思い出そうとするがなかなか歌詞が出てこない。見ているヲタも声を出して教えてあげる事もできず、不穏な空気が漂いそうになる直前で歌詞を思い出してくれた。佳林ちゃんの明らかな失敗はあまり見た記憶がなく、佳林ちゃんでもこんな事があるんだと思った。プロとしてステージ上では失敗をネタにちゃんと昇華していたが、楽屋に戻ったらおそらく相当反省してしまうんだろう。
氷点下のトラックで耳の上辺りで鳴るエグいシンベの音が聞こえた。「こんな音入っていてたなんて気づかなかった。流石チッタ。音響が良い」等と思っていたところ、これは2019年版のトラックだと佳林ちゃんからお話があった。今回のCDにはボーカルも当時の録音のものが収録されていて、佳林ちゃんは自分の声がとても若いといっていた。
懸念していた「お見送り会」だが、話したい人は粘れば10秒弱は話せそうだ。楽しかったですボットの私ではとても間が持たない。「楽しかったです」の次の言葉が必要だ。そこで私は「次の部も入るので楽しみにしてます」と付け足してみたが3秒も保たずに逃げ出した。佳林ちゃんは相槌と次も頑張るね~みたいな事を話してくれたような気がするがよく覚えていない。超絶メンブレ。やはりカントリーの高速握手会が至高!と癇癪を起こしそうになる。当方ガチのモブで陰キャでコミュ障なのだから、積極的なコミュニケーションは望んでいない。もっと言えばアーティストやアイドルは手の届かない距離にいて欲しい。いや、これは建前だ。本音を言えば卑小な心を見透かされて嫌われたくないだけなんだ。 佳林ちゃんに申し訳ない事をしてしまった罪悪感を抱えながらドトールでアイスコーヒーをすする。
2部はなんと整理番号3!抽選箱から整理券を引き抜くと係の方からおめでとうございますとお祝いの言葉を頂いた。当然座席は最前ドセン隣の席となる。ステージを見上げるような位置なので佳林ちゃんの迫力が5割増しだ。氷点下の背後からグリーンのライティングで照らされた佳林ちゃんは神々しく特に素晴らしかった。
MCの最中に「みんなでTikTokを撮るよ〜」と宣告される。映りたくない人は下向いたり伏せたりしてもいいよと気を使ってくれたが、ただでさえお見送り会弱者の私が最前で下を向き、我関せずオーラを最大出力で放出するなんて想像するだけで発狂しそうになる。振りコピなんて高等な事はできないが、キンブレを振ることぐらいなら私にだって出来る。TikTokの撮影中はカメラは見ずに佳林ちゃんの背中を見るようにした。その方が絵の収まりが良い気がしたからだ。目を少し細めて楽しそうな表情を心がける。キンブレは立ち上がりを意識してアタック強めで振った。
お見送り会はパスする事も頭を過ぎったが、今ここで逃げてその味を覚えてしまうと、今後のリリイベに参加する意欲が湧かなくなる危険性がある。意を決してお見送り会に立ち向かう。
▼お見送り会全文  私「楽しかったです。また来ます」  佳林ちゃん「また来て下さい!ありがとう!」
2.5秒で逃げ出した。
身の危険を感じながらゆっくり逃げる哺乳類は地球上に存在しない。小走り気味で飛び出すように会場を出る。鼻から抜けるような溜め息をつき、空を見上げる���薄っすらと明るい。そういえばついこないだ夏至だったことを思い出した。ゆっくりと川崎駅へ歩きながら気持ちを整理する。今日は佳林ちゃんにたくさん失礼なことをしてしまった。それでもなぜだか1回目のお見送り会の後に感じたような罪悪感はあまり感じていなかった。思い込みかもしれないが、佳林ちゃんはこんな私でも赦してくれそうな気がしたのだ。
〈今日のパンチライン〉  佳林ちゃん「私のファンの皆ってさ、手を挙げさせられるの怖がってたりする?」
<セットリスト> 1.なんてったってI Love You 2.ハウリング -MCー 3.氷点下(2019) 4.どうして僕らには~…(2019) 5.黄色い線の内側に並んでお待ちください(金澤朋子) ーMCー 6.自分ファースト
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usickyou · 2 years
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ゴオォォーーーン
 白雪千夜
 1
 私たちがかつて暮らしていたのはカリヤスカ県のほぼ最南端に位置するカラストという小さな農村だった。カラストには電気も水道もガスもあったし、夜八時には閉まるものの幹線道路沿いにはコンビニエンスストアもあって、もちろんワイファイだって届いた。とりたてて目立った産業はなく、観光地としても数十キロ離れたトリステの肥沃な低木湿地に見劣りするところばかりで、ひとびとのほとんどがおんぼろのピックアップトラックでトリステやヴェルニーへ働きに出るような村だった。  人口数百人ほどのカラストではだいたいの人が顔見知りで、特に私たちが暮らしていた集落ではその色合いが強かった。親や祖父母どころか家系のはじまりから互いに見知ったもの同士が、日がな昔話に花を咲かせながらティーカップをかたむける。そこに並ぶのは自家製のクッキーやパンケーキで、季節ごとのフルーツが手編みのテーブルマットの白いレースの上でつやつやとかがやく。イチゴやオレンジ……いつだったか、ビワがなったからと興奮ぎみの隣人の庭先で黄銅色の果実を切り分けたことがあった。はじめに食べたそれはよく熟れていなくて少しがっかりするくらいだったが、翌週には完璧な味わいをみせてくれて、噂が近所に広がりビワは数日で食べ尽くされてしまった。また来年ね、と満足げに、少し呆れたように言っていた彼女はなんという名前だったか。隣人だというのに。ああ。  はじめてカラストを訪れたとき、驚くほど温かく迎え入れられたことを覚えている。田舎の、小さな、地縁に基づく関係が強い農村に突如あらわれた異邦人の私たちに彼らが優しくふるまった理由は、いまだわからない。若い女性は希少だからでしょう、と私は言った。たましいがうつくしいからだよ、とお嬢さまは言った。彼らの与えてくれたカボチャのスープは甘く、やわらかだった。正しいのは私でなく、お嬢さまだったのだろう。  使われていなかった家の修繕も、家具の用意も、生活の糧を得ることについても、彼らはすべて私たちに施してくれた。村を去った若い母とふたりの子が住んでいたというロッジのような家は、私たちの暮らしにちょうど足りるものだった。ひとり暮らす老いた婦人の無事をたしかめては毎日くり返される息子の思い出話に耳を傾け、母親がおさない子どもを離れねばならないとなればほんのひとときを預かりおむつをかえて、対価として食事に招かれ、あるいは採れたてのまっかなトマトを受け取った。余すことなく、その日の恵みをいっぱいに使い切り、夜になれば差し込む月明かりに互いの姿をうつしながら寝床に入った。眠ることを恐れる必要はなく、朝が訪れるたびにこの生を憂うこともない、そういう日々を私たちはおくった。  しかし結局はすべてうしなわれてしまう。  カラストはいま、もうない。  すべて、灰と炎に飲み込まれた。  私たちの家はよく燃えただろう。老婦人は、あまり苦しまずにいけただろうか。あの、聖なる儀礼のために編まれたと思うほど美しいレースの白いマットがうしなわれたのは悲しむべきことだ。育つことのなかった二年目のビワは、人類にとって大いなる損失としか言いようがない。  また、ふたりきりだね。とお嬢さまは言った。  はい。と私はこたえた。  そうして私たちは逃げた。逃げて、逃げ尽くして、不幸せから遠ざかることと幸せそれ自体は等しいと、そう思っていたのだ。
 
 2
 ゴオォォーーーン…………。
 チャペルの鐘は頭上から降ってくる避け得ない厄災のような響きをもっていたが、それは堂内を反響し、はね返り、撮影現場にまったく純粋な幸せと呼んで差し支えないようなかんじを与えた。カメラマンは自らの仕事を放棄するようファインダーより目を外し、スタイリストは膨らみのまだ目立たない妊娠四ヶ月のおなかをそっとさすり、おばあちゃん、現在の私たちのマネージャーである彼女はのんびりした調子の拍手をおくりながら「ちとせちゃん、ほんとにかわいいねえ」と相貌をゆるませた。  ほんとうに。  ほんとうに……お嬢さまは完璧だったのだ。 「ありがと、おばあちゃん」とお嬢さまはこたえた。そっと、ウエディングドレスを着崩してしまわないよう手のひらを振ると、ヘッドドレスが南の海の朝のようにゆらめき、澄みわたる金色の光の波があたりを打った。 「ちよちゃん、どう?」とお嬢さまはたずねる。 「よく似合っておいでです」と私はこたえる。  するとおばあちゃんが私の腕をとり、「なんだか、じんときちゃったよ」と鼻をぐすぐすいわせはじめた。ハンカチを差し出すと「ごめんねえ」と目もとを拭い、「ティッシュはあるかい」と言ってちいんと鼻をかむ。その姿はみなの心をおおいに和ませ、あるいは静かな感動を与え、この瞬間の幸せがまるでほんものであるかのような錯覚をもたらした。  おばあちゃんは何者か。  おばあちゃんは、サイトウ、と名乗った。サイの漢字が苦手らしく、プロダクションから支給されたという名刺を私たちといっしょに眺めながら、面倒な字だねえと笑った。おばあちゃんでいいよ、と私とお嬢さまの手をそれぞれしっかりと握った。  おばあちゃんは何者なのか、ほんとうのところを私たちは知らない。かつて偉大なアイドルを育てた伝説のプロデューサだという。清掃会社の職員であったがある事件から慧眼を認められヘッドハントされたという。大規模な人員異動の折にまぎれどこかから迷い込んてきたという。実は東アジア圏に名を知られる魔女であり、もう二百歳をゆうに越えていて、世界で最初のアイドルであるらしい。  なにが本当で嘘なのか、私たちは知らない。  それは私たちにとって大切ではない。  おばあちゃんはよく笑う。よく泣きもする。そうやって、私たちに起きるできごとがどういうものなのか、私たちがそれをどういうふうに扱えばいいのかを教えてくれる。手のひらはくたびれて固く、頬はふっくらしていて笑うとぎゅっと皺が寄る。きちんと手入れのされた白髪はアルビノのような美しさを持っているが、衣服にはあまり頓着しないらしく襟首のよれたものをよく着ている。いつも甘いお菓子を持っていて、お嬢さまに食べさせては満たされたように笑う。熱いほうじ茶の水筒をいつも持っていて、私に飲ませては慈しむように笑う。  おばあちゃんはつまり、そういうひとだった。 「このまま、外いっちゃおっか」  お嬢さまが楽しげにそう言うと、夏のはじまりを知らせる風が吹いたようにベールがふっと揺れる。実際のところチャペル内の撮れ高はもうじゅうぶんであったらしく、屋内撮影の制限時間も迫っていたので、しぜんに誰もが同意するかたちになった。 「ちよちゃん、腕を組んでもいい?」 「お好きなように」 「ちよちゃんからしてもらってもいい?」 「望まれるのなら」  お嬢さまはそう、たわむれに言う。私が腕をからめると、「あは」と声にして強く力をこめる。おばあちゃんが笑っている。撮影クルーも機材移動の準備をしながらほほえんでいて、撮影用のカメラや私物のスマートフォンで私たちの姿をおさめたりする。  たわむれだ。すべてお嬢さまのたわむれでしかない。  チャペルの扉を開いたのは私だったが、先にそこを飛び出したのはお嬢さまだった。衣装くずれを気にする様子はあったが、お嬢さまはずいぶんと自由にふるまった。ドレスのすそを持ち上げ軽やかに宙へ躍り出すと、そのまま飛んでいってしまいそうだった。靴のつま先についた五色の宝石が光りかがやき、羽根のようなひらめきを放つと、お嬢さまはおとぎ話に描かれる精霊のたぐいでさえあるように見えた。  私はそのとき、立ち止まった。ほどかれた腕のからっぽな様子を感じ、お嬢さまを見つめた。  背中にぶつかったおばあちゃんが、「ああ、ごめんよ」と言う。  私は「こちらこそ」と言う。 「ちよちゃん」お嬢さまが言う。  十字架が、私とお嬢さまの間につき立てられる。  最初に悲鳴をあげたのはまだチャペル内にいたスタイリストだったが、彼女の切断音のような声は周囲に大きな混乱をもたらした。凄惨な事故を目にしたような恐慌が広がり、無事をたしかめるための、あるいはそうであると願うための呼び声が次々立ちあらわれた。  チャペルの屋根より墜落した十字架は、ひとのため作られたとは信じられないほどに巨大で、つかの間私たちを完全に隔絶した。 「お嬢さま」と私は呼ぶ。  十字架の腕をくぐると、果たしてお嬢さまはそこにいる。清らかなドレスのまま石畳の上に座り込み、なかば自失した様子で宙を見ている。私が呼べばかすかに応じ、肌のどこにも傷はない。手に触れればしっかりと握り返すが、静かなふるえが全身より感じられる。 「大丈夫かい、怪我は……」とおばあちゃんがたずねる。 「ありません。しかし……」と私はこたえる。 「カラスト」とお嬢さまはつぶやく。「カラスト……逃げられない……」とつぶやき、母親に虐げられた少女のように膝をまるめて泣きはじめる。 「どういうことだい?」と、おばあちゃんは私へたずねる。  私はこたえられない。  十字の影は、裁きを告げた官吏の槌のように私たちへ落ちる。
 
 3
 ほら、外から帰ったら手を洗って。ちゃんと爪の先まで洗うんだよ。うがいもしっかりね。  おばあちゃんはそうまくしたてる。私たちが並んでがらがらぺっとすると、とても満足したふうに笑う。おばあちゃんの、おばあちゃんからきつく言い聞かされて身についた習慣だという。おかげで風邪ひとつひかないと、おばあちゃんは言う。 「もう平気だよ、ありがと」  とお嬢さまは言う。実際、表情はすっかり明るく、庭園の草花を愛でた仕草や足取りにも変わった様子は見受けられなかった。 「うそおっしゃい」  とおばあちゃんは言う。撮影現場にてくたびれた軽自動車へ私たちを押し込んだのと同じ強引さで、お嬢さまを寝室のベッドにまで放り込んで、やっと安心したという表情を浮かべる。 「千夜ちゃん。キッチンは?」 「階段を降りて左手、扉のさらに左手奥です」 「ちょっと借りるよ」 「は?」 「おいしいおいしいお夕飯をつくったげるよ」  そう言って、おばあちゃんは立ち上がる。よっこいしょ、といかにも難儀であるように立ち上がり、「ちとせちゃん。苦手なものはあるかい?」とたずねる。 「辛いもの。鼻につんとくるもの」 「なら平気だね。千夜ちゃんは?」 「特にありません」 「そうかい。いいこだね」  そうして扉を閉めたおばあちゃんの足音は、のんびりと遠ざかってゆき、お嬢さまが「あはは」と笑う。私の、見とがめるような視線に気付いてするする毛布へもぐり込み鼻先を覗かせると、また声にして笑う。 「おかしいですか」 「うん。すごくおかしい」 「ペースが乱されます」 「そういうの、かわいいよ」 「お嬢さまは、楽しそうですね」 「わかる? 私、あんなおばあちゃんになりたいな。にこにこしていて……おせっかい焼きなのに、すごく自由な……」  そう続けながら、お嬢さまは窓のほうを見やる。私は立ち上がり、カーテンを開く。外はよく晴れており、いまだ明るく、庭園の色彩はいっそ目に刺さるほど鮮やかに感じられる。花が咲き、鳥がたわむれ、風のそよぎにざわめく緑は開いた窓から寝室へざあっとなだれ込む。歌うようだ。何もかもが歌うようで、細めた眼裏に炎がちらつく。  そうか。  あの季節がもう、目に映るほどに迫っているのか。 「わかってはくれません」と私は言う。背負った窓辺の光のつくる影がおそろしいほどの孤独を感じさせると、「出過ぎた発言、かとは思いますが」とつけ加える。 「ほんとうに?」とお嬢さまは言う。「おばあちゃんも、魔法使いも、誰もほんとうに私たちをわかってはくれないの?」と、瞳をゆらして続ける。  それでいいではないですか、と私はこたえない。 「カラスト」と私は言う。  お嬢さまは目を伏せる。 「お嬢さまは、何を見たのですか?」 「ちよちゃん」 「あの教会で、いったい何を」 「料理を手伝ってきて」 「まさか、魔女を」 「おばあちゃんが困らないように、お願いね」  わかりました、と私は言い窓を、カーテンをしっかり閉じきる。お嬢さまは白いテディベアのシルキーを抱きしめ、薄暗がりの室内には千数百年にわたる孤独が立ちあらわれる。 「行ってまいります」と私は言う。 「いいよ。行ってきて」とお嬢さまは言う。  小さなシルキーの手を振り、そのふくよかな腹に顔をうずめるお嬢さまは、泣きはじめようとする子どもに見えた。  扉を閉じると、私はすっかりひとりになる。この城は広く、堅固な造りをしており、階下はおろか扉ひとつ隔てた室内の物音さえ聞こえない。廊下にはもう開かれることのない数室の客間が並んでおり、その一つひとつの物言わず佇む向こうで、開かれたままでいた張り出し窓から暖かい風が吹き込んでいる。  そこを開いた記憶など、私にはなかったのだが。  窓を閉じると、あたりは快い静寂で満ちる。庇にかたどられた不鮮明な光芒が差し込み、いまだつぼみの窓辺の花を目覚めさせようとする。 「それで、いいではないですか」  と私は言う。  私たちは、結局はうしなうのだ。そういうふうに生まれてきて、どうして、なにも知らない幼子のように欲しがってよいだろう。  窓辺の花は、眠ったままでいられるのなら、それでいい。
 
 4
 私がリンゴの皮を剥く様子を見て、おばあちゃんは喜んだ。ウサギや花弁……ねだられるまま飾り剥きをしてみせるといっそ子どものような素直さで「うまいのねえ」と声をあげた。  そういう態度に、私は慣れることができない。 「お料理はいつ覚えたんだい?」 「お伝えできません」 「あら……お母さんが教えてくれた?」 「お伝えできません」 「なんだか嫌われちゃったのねえ」 「そうではありません。権限の問題なのです」 「難しいおはなし?」 「私は、私についてあなたにお伝えできません」 「なら、嫌われたわけじゃないんだね」 「好きも嫌いも、思うところはありません」  よかったねえ、と言うとおばあちゃんは、私のささいな驚きになど気付きもしないという様子で両手をぱちんと合わせる。平皿に並べたリンゴを満足そうに眺めると、グリルから二切れの鮭を取り出し、手招きをして私を呼ぶ。その温かい声に、私は慣れることができない。 「骨を取ってもらっていい?」とおばあちゃんは言う。おかゆとお味噌汁と、並べた鍋にかけた火を弱める丁寧な手つきには、愛情のそそぎ方を知るものだけが持つやわらかさが感じられる。「こまい作業がもう、難儀で……」 「承知しました」と私はこたえる。鮭はよく焼けており、小骨も少なく、それほど手間のかかる作業ではない。しかし隣から時おり寄せられる視線が、手のはたらきを鈍らせる。 「何か気にかかりますか」  と私はたずねる。 「からすと?」  とおばあちゃんは言う。包丁を、私がすっかり下ろしているときに言ったのは、やはり気遣いなのだろう。 「いったい、なんのこと?」 「お伝えできません」 「逃げられないのはちとせちゃん? 千夜ちゃんも?」 「それも、お伝えできません」 「なら、しょうがないねえ」  おばあちゃんが澱みなく話しながら溶き玉子を鍋に流し込むと、お味噌汁の渦まく中でそれは綿雲のように広がった。  なめらかな所作だ。迷いがなく、流れるようで、ごつごつした手のひらには機構の露出した柱時計が感じさせるような、実際的な美しさがあった。 「……話せないのです」と私は続ける。「好きも嫌いもありませんが、心苦しく思います」 「話せたらいいねえ」とおばあちゃんはこたえる。「わたしじゃなくても、誰か、信頼できるひとに」  できたみたいだね、とおばあちゃんは鮭の切り身を箸で気軽く取り上げてはおかゆに落としていく。鍋を数度、軽くかき混ぜると立ちのぼるかぐわしい香りは、私に穏やかな心地を与える。  いま、私たちはどんなふうに見えるだろうか。  そんなおもいが脳裏にちらつく。  馬鹿げたことだと、私は思う。  ほどなく料理ができあがると、私たちはそれぞれ両手いっぱいに鍋や皿を抱えて寝室へ戻った。お嬢さまは少し眠っていたらしく、ぼさっと癖のついた髪を整えながら私たちを迎え入れた。寝室のテーブルは小さく、食卓はずいぶん手狭なものとなったが、お嬢さまはそれを喜んだ。かたむきはじめた日の光が、清貧な初夏の晩餐であるかのようにそこを照らした。  いただきます、と私たちは声を揃える。  お嬢さまは鮭雑炊のやわらかさを���いそう気に入り、素朴な味つけについてやや不満な様子をみせた。しかし浅漬けを一切れかじると納得したようにうなずき、お味噌汁を一口飲むと、深く感動したというふうにほっと息をはいた。 「いい食べっぷりだねえ」とおばあちゃんはほほえむ。 「だっておいしいんだもん。ね、ちよちゃん」 「はい。見事なものです」 「お粗末さま。でもね、ぜんぶ千夜ちゃんのおかげだよ」 「ご謙遜です。私にはとても……」  私たちはのんびりと箸をはたらかせながら、よく話した。小さな食卓には日と土の温さがあり、収穫を終えた農夫の迎える夜によく似ていた。お嬢さまは恐れることを忘れたように笑う。影のない喜びに照らされた姿は、私に大いなる安寧をもたらす。 「ああ、幸せ」とお嬢さまはこぼした。  私はお味噌汁に手を伸ばし、お嬢さまの感じたような幸せを味わおうとする。椀をかき混ぜると、美しく火の通った玉子が風にまかれた雲のように泳ぐが、そこへ、不意に黒いすじのようなものが混じる。落とした髪のようだった。残念なことだが、せめて私の椀であって良かった。そのように思いながら箸で探ると、思いがけず固いものに触れる。玉子と分葱で、どうしてそのような感触があるだろう。暗く澱んだ、沼をかき分けるような心地でそれを取り上げる。「お嬢さま」と私は言う。  一度、二度、明かりが明滅する。 「じいい」とかすかな雑音が響く。 「……カラスト」とお嬢さまは言う。取り落とした椀より流れ出した数匹の黒い蝗がだらしなく広げた翅をふるわせ、棘のある脚を屈伸させ床を這いまわる。 「蝗、じゃないの」とおばあちゃんはどこか素朴な驚きをみせる。  私は立ち上がり、カーテンを開く。窓には無数の蝗の群れが、ひとすじの光すら差し込まないほどの密度で取りついており、それは悪魔の起こす嵐のように次々飛来しては衝突をくり返す。「じいい」「じいい」と蝗のたてる音は際限なく膨張し、またたく間に耳もとで鳴き叫ぶかのような轟音となる。 「お嬢さま」と私は呼ぶ。  振り返るとお嬢さまは青ざめた、亡霊の目で蝗の大群を見ている。おばあちゃんはお嬢さまを気遣うことに懸命であり、ふたりは卓上の異変に気付かない。私は手近な毛布をひるがえしそこを覆う。かつてリンゴやトマトのひとかけらであった蝗は、地獄より飛び立とうとする悪鬼のはばたきを毛布の内で響かせる。 「立てますか」と私は言う。お嬢さまはうなずく。目いっぱいにおそれをたくわえ、それでも自らの足で地を踏みしめる。 「失礼します」と私は言って、おばあちゃんを背負いあげる。おばあちゃんははじめ遠慮する様子をみせるが、すぐに私にしがみついた。体が熱を帯びはじめている。どうしようもない。このような、強靱な呪いにさらされているのだ。しかしそれは、いまこの瞬間に限っては都合がよい。  私たちは、この嵐を越えなければならないのだ。  砕かれた窓から蝗の群れの雪崩れ込む音を背に寝室をあとにする。廊下ではじりじりと電灯がゆらめき、待ち受けていたかのようにひとりでに開いた窓からは炎のような夕焼けとともに蝗が入り込む。いまや地響きのような翅音が、背後より追いすがり続ける。振り返ると、わずか一秒前に私たちのいた場所を蝗が埋め尽くしていた。バルコニーにて、天窓からの光を仰ぐ女神の彫像が蝗に喰らい尽くされていった。 「同じだ」とお嬢さまが言った。握り潰された黒い蝗は、絵画の顔料のようにさらさら手のひらからこぼれ落ちた。 「呪物」と私は言う。ならばやはり、そのときが来たのだろう。私たちは、ふたたびすべてをうしなうのだ。  階下では無数に起きる破壊の音が聞こえた。リビング、キッチン、客間……エントランスの窓より覗いた庭園では、色づく緑の草花がむごたらしく喰われていく光景がうかがえた。おばあちゃんの軽自動車はまだ形を保っているが、それも時間の問題だろう。  進むごと、私たちは追い詰められる。 「降りましょう」と開いた地下室からは、黴や煤の煙るような匂いが立ちのぼる。そこはいっそ死の床へつながる石段のようだが、窓はなく、少なくとも侵入を許すような構造ではない。お嬢さまが地下へ降りると、私はエントランスの様子をたしかめる。蝗は上階より豪雨のように降り落ちるが、それは憂慮すべき光景ではない。恐れるべきはキッチンへつながる扉だ。かたく閉じられていたそれは至るところに腐食させられたような黒ずみを帯び、ものの数秒でうがたれた穴より蝗が這い出した。かかかっと顎を噛み合わせ、大群は一個の獣が鳴くような狂喜的な声音を放った。 「化物め」と私は覚えず言う。 「ほんとうにね」と、お嬢さまがささやく。 「お嬢さま、私が対処します」 「ごめんね、ちよちゃん。私たちだけなら大丈夫だけど、おばあちゃんがいるから」 「問題はありません」 「確実でなければいけないの」 「ならばせめて、私の血をお使いください」 「だめよ」 「ですが」 「それは許可しない」  お嬢さまは支配者の態度を崩さず、「剣を」と手のひらを差し出す。私がこたえずにいると、「命令はしたくないの」と瞳の奥よりあかい光を覗かせながら続ける。 「お願い」と、お嬢さまは泣くように言う。  私は懐中より剣を、始祖より受け継がれたという短剣を取り出す。それは銀と鉛、鉄により鋳造された儀礼用の短剣であり、刃は丸く、通常の殺傷力はない。しかし六千人の高位なる聖人より儀礼を施されたそれは現代において人ならざる者を、お嬢さまを殺しうる限られた聖遺物だった。  それはお嬢さまに、いつでも死ねるようにと、与えられた。  お嬢さまが短剣の先端で腕をなでると、なめらかに切り裂かれた薄い肌から血が溢れ出す。腕を振り、扉に走った血痕はまたたく間に凝固し、呪物を遠ざける魔術の堰となった。石段を降りて天井へも何度か血を振り撒くとお嬢さまは、「壁は平気? さすがに土は掘ってこないよね?」と冗談でも言うみたいにほほえんだ。 「しばらくは、持ちこたえるでしょう」と私はこたえた。受け取った短剣より消散するお嬢さまの血は、呪われた大気を浄化していく。大丈夫だろう。ひとまずは、と古びたソファに寝かせたおばあちゃんの体は高熱をもっており、息も荒く、命を落としかけているかのように見える。しかしこのひとは、何歳であるのかは知らないが、高齢なのだ。お嬢さまの霊気が体内を巡るまでいくらか時間が必要であるようだった。  お嬢さまは吸血鬼であるが、日の光を恐れない。銀はもはや毒でなく、十字架によってその肉体が破壊されることもない。お嬢さまは、祈りの子だ。人間の世界に交じることを望んだ吸血鬼たちが生み出した、研鑽と奇蹟の子だった。人間と同じものを食べ、人間の血を吸うことも要さず、体はほとんど人間である。  それでも、お嬢さまはある種の神なのだ。  ふっと明かりが、地下室にただ一つの電球が消える。あたりは暗闇となるが、お嬢さまは苦もなく火種を探し当てロウソクをともす。火の照らす腕の傷はもう、あとかたもなく塞がっている。 「電気、もう使えないのかな?」とお嬢さまはたずねる。 「配線が食われたのでしょう」と私はこたえる。 「おばあちゃんは?」 「少し休めば目を覚ますかと」 「よかった……ちよちゃん、ありがとね」 「そのような言葉に、私は値しません」 「ううん。私を、おばあちゃんを助けてくれてありがとう。お願いを聞いてくれて、一緒にいてくれて……ちよちゃん、ほんとうに……」  話す途中で言葉をなくし、お嬢さまは地に伏せる。背中を激しくふるわせ、声をあげて泣きはじめる。「シルキー……死んじゃった。イーリエ、ノラ、バンシー……みんな、みんな」と一つひとつ、ぬいぐるみの友人たちの名前を、たまのように火をはじく涙ともにこぼしていく。 「……みんなで育てたイチゴ畑も千夜ちゃんと植えたひまわりのお花も……終わった……ぜんぶ、食べられた」  そんなふうに流れる、お嬢さまの涙は温かい。たましいを引き裂かれるような慟哭も、私の体を伝う声のふるえも、お嬢さまの心をあらわすものすべては私を焦がすほどに温かい。  お嬢さまが生きてさえいれば、それでいいのです。  と私はこたえない。 「少し、休みましょう」と私は言う。「ここを出たなら、弔いをしましょう。私たちのうしなったもの、すべてのために」  胸のうちで、お嬢さまは泣き続ける。  守らなければならない。このひとを、たとえなにに代えようと。
 
 黒埼ちとせ
 5
 ……さま。お嬢さま。  千夜ちゃんが、まだまだ寝ていたい朝みたいに優しく呼ぶので、私はうっかり気の抜けた調子で「……いやぁ」とこたえた。地下室は薄暗く、ロウソクの火で揺らめいていて、空気はほこりっぽく墓地みたいにこごえていた。 「眠っていたの?」と私はたずねる。 「ほんの少し、です」と千夜ちゃんはこたえる。 「ごめんね」 「私が、休んでいただいてよいと判断しました」 「おばあちゃんの様子はどう?」 「悪化の兆候はみられませんが、よい状態ではありません」 「……お年寄りだものね」  おばあちゃんは、触れるとひどい熱をもっていた。重い病気にかかったみたいに、背中はぐっしょり濡れていて、木枯らしのような息を懸命にくり返した。 「なにか見つかった?」 「見ていただきたいものが」  千夜ちゃんがそう言って導いたのは、壁の一面だった。煉瓦の一部が崩れていて、ほとんど天井ほど高さのある什器棚を倒してあらわれたそこからは、燈火のような光が差し込んだ。 「お嬢さまには、わかりますか」 「たぶん、だけど」と手をかざすと、煉瓦はさらさら崩れ落ちる。足もとに残った砂の山を見下ろして、せっかくなので「ほらね」と得意なかんじで笑ってみせた。  壁の向こうは坑道のようだった。わざわざ背中を丸めなくても通れるほど大きなそこは、一枚の巨大な岩をくり抜いたかのようになめらかで、絶えずしみ出してくる地下水のためにつやつやしていた。背すじを撫でるような冷ややかな風が吹いていて、ロウソクの火が消えてもそこがぼんやり明るいのは、天井から床に至るまでびっしりと刻み込まれた文字が淡く光っているからだった。 「抜け道だね」と私は言う。「私たちみたいなひとのための……使われたことはないみたいだけど」 「みな、平和に暮らすことができたのでしょう」と千夜ちゃんは言う。「崩れていなければ、よいのですが」 「たぶん平気」 「どうしてそう思われるのですか」 「とまれ、って書いてある」 「魔術ですか」 「うん。だから寒い。とまっているものは、冷たいから」 「では、進みましょう」 「その前に。ちよちゃん、タイツを脱いでもらえる?」 「は?」 「あぁん。だいじょうぶ、私も脱ぐから」 「冗談ですか」 「冗談ではないの」  千夜ちゃんは渋々という様子をあらわにしながら、タイツを脱いでくれた。私はその脚の白くまっすぐで美しいかたちにうっとりしながら、庇護のためのごく簡単な魔術をかけた。千夜ちゃんが、こごえてしまいませんように。 「タイツは置いていこうね」 「トーテムですか」 「そう。おばあちゃんを任せていい?」 「問題ありません」 「ありがと。それじゃあ行こっか」 「その前によろしいですか」 「どうしたの?」 「私の血を、使ってはいただけませんか」  千夜ちゃんは続ける。 「確実を期すのであれば、そうすべきではありませんか」  そのまっすぐ差し向けられた、美しい瞳に、私は口づけたくなる。千夜ちゃんは驚くだろうか。華奢な体をびくっとふるわせて、それから私を受け入れるだろうか。私は千夜ちゃんのまぶたに口づけて、���からおとがい、首すじや鎖骨窩をたどってやわい二の腕に至る。そこはふっくらしていて、ああ、ここに牙をたてられたらと思うだけで全身がびりびりと痺れる。  けれどまだ足りない。  唇は、腕をすべり降りて腰へ、肌の薄いところばかりをなぞりながら大腿にたどり着く。そこは細くて、ぎゅっと引き締まっていて、肌の奥にいくつも張りめぐらされた血管は指をからめたくなるほど鮮やかに、上質な糸で編み上げたレースの綾みたいに見える。千夜ちゃんは私を見下ろしている。おそれと陶酔に目を細め、口もとの恥じらいを手で隠し、その被虐者の喜びに私の眼前の闇がちかちか白くはじけていく。  私は言う。 「ちよちゃん」  私がどれほど、あなたを求めているかわかっているの。 「いいこね。でも、だめよ」 「ですが……」 「もう血はいらないよ」  そう言って、千夜ちゃんの返事を待たず私は坑道を踏み出す。なめらかな岩肌は足の裏に吸いつくようで、逃げているのだという事実を忘れさせるくらいに心地よい。こんなことなら、もっと先に来ていたら良かった。この場所で、千夜ちゃんと夏の暑さを避けるみたいな時間を過ごしていたら良かった。空想の淡い光みたいなものが散らばって、二度と戻れないここを一歩ごと大切な場所にかえていくようだった。 「……わかったことがあってね」  と私は言う。  千夜ちゃんは、「はい」とだけこたえる。 「ちょっと、昔の話を聞いてくれる? ちよちゃんも知っていることだけど、退屈はしないでね。カラストの、私がほろぼした村の話……」
 
 6
 ォォーーーン…………。
 カラストを見守る鐘楼の鐘は、世界の中心よりあまねくすべてのものへ祝福を与えるかのような偉大さで鳴り響いた。私はこのすばらしい朝のはじまりを告げる六点鐘を祈るような心地で聞いていたけれど、千夜ちゃんはいまだ穏やかな眠りの湖を、白いテディベアのシルキーを抱きながらたゆたっている。その健やかな寝息に耳をそばだてると、私はスープを作りたいと思った。この子のために、飢えた子どものたましいの器をいっぱいに満たしていくような、あたたかいカボチャのスープを。  そっと寝床を抜け出して、おもてへ出る。吹き抜ける風に木々はざわめき、それらは東から昇る日のきらめかんばかりの白い光を地に塗りたくる。カリー、アンネスト夫妻の作ってくれたクヌギ製のポストから取り出した二通の招待状は、まるでそれ自身がかがやきを放つかのように見える。 『親愛なる隣人、ちとせへ』  と書かれた手紙にかけられた祈りのようなおもいがなくなってしまわないようそっとロウを剥がすと、便せんには歓迎会の時と場所が記してある。十五時から。教会で。なんとなく、私は空を見たくなる。祝いごとのある朝はやく、日の昇るより前に招待客の家に手紙を直接贈るのはこの村のならわしだという。空はよく澄み渡り、まっさおで、どこまでも幸せが続いていくのだと信じたくなるような気持ちを与えてくれる。私は「ありがとう」と言う。「ちちち」、と木の上の鳥が小さな声で鳴く。  この村に来てより、一年が経つ日だった。  フローレンス。メロ。私たちの歓迎会をひらこうと言ったふたり、手紙の贈り主は、他の誰よりもこの村に授けられた恩寵のようなものを体現した。贅を好まず、汗を流すことを喜びとし、よく笑った。ふたりは幼いころからの付き合いだという。まだうまく話すこともできないころ、はじめて手のひらが触れた瞬間に、ふたりは運命というものを知ったのだという。ともに育ち、この村で、ともに生きていく。フローレンスとメロは運命のままに村を愛し、暮らしを愛し、そして誰からも愛された。私たちにカラストではじめての愛を、あたたかいカボチャのスープを与えてくれたのも、ふたりだった。  運命とふたりが呼んだものは、そのころの私によく理解できた。頭から外套をかぶり、一本のロウソクの明かりのみを頼りに生きていくということは、幸せなのだ。私は、心からそう思っていた。信じていた。信じようと、していた。  千夜ちゃんへの手紙には『私たちの大好きな、千夜ちゃんへ』と書かれていた。フローレンスらしい、子どもっぽくくずれた字だった。メロから私への手紙と並べてみせると、千夜ちゃんは「おふたりらしいですね」と言った。夢のほとりに足先をつけて、スープで体をあたためた。私は「支度をしなきゃね」とこたえながら、いつまでもそうしていたかった。千夜ちゃんが小さな匙で甘いスープをちびちび掬う様子を、絶え間なく降る予感の日射しのただ中で眺めていられるのは、他のどんなものにも代え難いほどの幸せだった。  この村ではよく鐘が鳴らされた。嬉しい日には六の倍数、悲しい日には七の倍数。理由は誰も知らない。たずねると村びとたちは、気にもしたことがなかった、というふうに笑った。なんらかの教えをもとにして独自に変化しただろう彼らの素朴な信仰は、どの家にもある大きな窓から降りそそぐ線状の光に向けられているように感じられた。  十二点鐘が聞こえると、にわかに村はにぎにぎしい雰囲気になる。私たちはお昼ごはんをしっかりと(私は……私にしては)食べて、ひと休みすると草刈りの仕事に取りかかる。とても短い雨の季節を終えると、村は炸裂した榴弾のような草木の彩りであふれかえって、とても人の手でどうにかなるありさまではなかった。けれど私たちは、村の友人たちと一緒に小さな鎌を持つとそれらを切り、ときに手で根ごと引き抜いた。祝福の日には、誰もが村にとどまり、村の中の小さな仕事をする。たくさん働いて、あおい草の蜜や服の繊維の奥までしみ込んだ土の汚れをそのままに教会へ向かう。それが彼らのマナーだというので、私たちはすなおに従った。青虫を、赤黄色のツノから熟しすぎたオレンジみたいな匂いを出す青虫を見て千夜ちゃんがひっくり返ったのは、楽しかった。あまりの暑さにくらくらして、ブナの木陰で休んでいたときは置いてきぼりにされたみたいに寂しかったけれど、ほんとうに、楽しかった。  なかなか日が傾かないので、ふたたび六点鐘が聞こえたときはみんなで慌てた。いっせいに走って、汗びっしょりで教会の扉を開けたとき、主催のフローレンスがおなかを抱えて笑った。メロもおんなじように、大きな声で笑うと、丁寧に並べられたテーブルのお誕生日席に私たちを導いた。そこは手織りの白いレースでかわいらしく仕立てられていて、とれたばかりのお花や果物の彩りはまぶしいくらいだった。私は千夜ちゃんの肩に寄りかかりながら、そのとき起きた聖なるかんじのあまりに巨大な様子にうちふるえた。けれど、ああ。驚くべきことに、それはこの一年ごしの歓迎会で起きた幸せのうち最もささやかなものだったのだ。  その一つひとつを、いまも鮮やかに浮かべることができる。  夜の訪れとともに、あたりがお酒の果物かごみたいな匂いでいっぱいになる前に、私たちは家へ帰った。ちっちゃなおふろに代わりばんこで入って、物足りなくてぎゅうぎゅうに身を寄せ合って、幸せの余熱みたいなものを味わった。寝床に入っても胸のうちはまだ温かくて、私はえんえん千夜ちゃんに話した。疲れていまにも眠ってしまいそうだったけれど、この日に終わってほしくなかった。そのうちに鐘の音が聞こえはじめると、もの悲しい心地がした。祝福の日の終わりを告げる十二点鐘。それはすっかり寝静まった夜の村に、稲妻がひらめくように、十二を過ぎてもなお激しく打ち鳴らされ続けた。「じいい」、「じいい」という声が壁から天井から地の底から響きはじめ、開いたカーテンの向こうをまっくろな蝗の腹が埋め尽くしていた。  魔女の目。魔女の呪い。お前をずうっと見ているよ。幼いころ、ささやきとともにかざされた手のひらは皺だらけで、ぼろ布のようにごわごわしていて、万感の呪いによってかたちづくられていた。 「村のみなが……」と言ったのは千夜ちゃんだった。そのころ、私たちはまだ勇気を持っていて、血の加護を施すと頭からシーツを被りおもてへ飛び出した。  村はもう、終わっていた。  通りを走って見える家々のすべては、蝗に蹂躙され尽くしていた。歌のうまいリースとお琴にはまっているアニヤ、一日中遊んでも疲れを知らなかったミナの住んでいた、村でいちばんきれいなボタンの咲く家はざらざら揺れる黒い波だった。優しいカリー、アンネストの家はもう、ほとんど崩れてかたちをなくしていた。もの静かで果実酒と詩を好んだウィリアン老人の住まう平屋から覗くか細いともしびが、ふっと消えていく様子を目にした。  蝗の嵐は私たちに触れる寸前、加護の力により炭化した。はらはら落ちる呪いの粒子は、美しいカラストの大地を汚していった。  けれど私はどこかで信じていた。  フローレンス。メロ。  あんなに美しいふたりがうしなわれるはずがない。この村の恩寵や、愛、ほんの数時間前に教会で感じた聖なるものが、ふたりを守ってくれると信じていたのだ。  私は、ふたりの名を叫んだ。家の扉を開くと、ひとのかたちをした黒いかたまりがうごめき「じいいい」と話した。そのとき、私はやっと悲鳴をあげた。
 
 7
 坑道のおわりは、釣鐘のようなかたちをした巨大な空洞だった。周囲を囲む煉瓦は経年のため腐食していて、したたる水のため繁殖した苔の鬱蒼とした樹林のようなにおいがそこを満たした。壁の呪文が途切れているのは、頭上のまる穴から降る月光が希望のように、あんまりまぶしく見えるからだろうと思った。 「きっとね、幸福が呪いを発現させるの」と私は言う。「私が幸せに思うこと……ほんとうに、幸せで仕方がないと感じること……」 「……フローレンス、メロ」 「それに今日のお仕事とかね」 「お嬢さま、私は……」  千夜ちゃんは、言うべきことを探しているみたいに見える。その声があんまり優しいので、私は少し笑う。まる穴へ続くはしごにかけた手のひらには、赤さびが付着した。壁に打ち込まれたそれは、歳月のため腐食していて体を預けるには心もとなく感じられた。 「わかっていたの。私は罪深い吸血鬼なのだから、裁かれなければならない」手で招くと、千夜ちゃんは従順な足取りで近付いてくれる。「わかっていたのだから、平気なんだよ」  千夜ちゃんは、奥歯をぎゅうっと噛みしめる。千夜ちゃんには、思ったことが言えない。ほんとうに言いたいことを、私にだけ絶対に言えない。  そういうふうに、私が育てた。 「吸血鬼は、滅びなければならない」  と私は続ける。  千夜ちゃんが何かこたえるより早く、私のおもいに呼応するかのように壁がふるえはじめる。それが数秒でおさまると、私の背中にぞっとする喪失の感覚が走る。トーテムが、破壊されたようだった。坑道の向こう、もと来た道より「じいい」と大瀑布のような音が轟きはじめた。  蝗がとうとう堰を破ったのだ。  思ったよりもたなかったのは、やはり吸血鬼の力が衰えているからなのだろう。 「おばあちゃんをこっちに」と私は言う。千夜ちゃんからもらい受けたおばあちゃんの体は小さく、けれどずっしり重たく、静かな息づかいは穏やかな眠りを感じさせる。その安寧が続くよう、私はおばあちゃんの体に呪文をかけた。ゆっくりと休んでいられますよう、目が覚めればまた私たちとなにげない日々を過ごしてくれますよう。  ここは寒いから、おばあちゃんが風邪なんかひきませんように。 「ちよちゃん、剣を」  千夜ちゃんは、さほど迷う様子もなく短剣を手渡してくれる。その目には決意があり、薄暗い悲しみがまたたいている。 「少し、時間をつくってね。私が魔術を練るぶんだけ」  そうして私は腕を切ると、溢れ出す血を千夜ちゃんに塗りたくる。それはまたたく間に蒸散して、呪いから守るための霊気の加護をもたらしてくれる。千夜ちゃんは目を開けたまま、じっと私を見ている。 「体が傷つくということは、あまり痛くないの」と私は言う。 「私は、そう思いません」と千夜ちゃんはこたえる。 「ほんとうなのに」 「私には、自らの肌が切り裂かれるより痛みます」 「それは、そうだね」 「控えていただければ幸いなのですが」 「善処しまぁす」  私は傷口が塞がる前に、流れた血を集めて一振りの長剣を錬成する。それは短剣と同様に通常の殺傷能力はほとんどないが、呪物の蝗をほろぼすための力を宿す。 「いやな思いをさせてごめんね」  と私は言う。 「必ず、お守りします」  と千夜ちゃんは、ふたつの剣を受け取ってこたえる。私はそのときの、私の千夜ちゃんの凜々しい声に胸がわああっとときめいて、思わず呪文を口ずさむ。またたく間に白いロングコート、騎士の勲章と青いバラの花飾りが千夜ちゃんを飾りたてる。おじょうさま、とたしなめるような声が何かを言うより早く、私は黒いドレスに十字架と悪魔の角をあしらえた衣装をまとって、「だって雰囲気って大事でしょ」と胸を張って言う。 「たわむれが過ぎます」 「ちよちゃん、すごく似合ってるよ」 「それは関係ありません」 「私だって似合ってるでしょ」 「その通りですが、しかし必要のないことです」 「そうかなあ。もう着れないかもしれないんだよ?」 「なおさらです。未練が生じます」 「ちゃんとお別れしないと引きずらない?」 「消え去るべきなのです。何事も、なかったように」  ふうん、と私は言う。なんとなく飲み込めないみたいな顔をして千夜ちゃんを見ながら、私たちの間にある巨大な断絶の谷を見つめる。それは暗く、互いの姿すら見えないほど広い岸と岸の間には、永遠の深さを持つ孤独が広がっている。 「でも、着ていてくれるよね」と私はたずねる。 「仰せのままに」と千夜ちゃんはこたえる。  そうして背を向けた千夜ちゃんを、私はじっと眺める。空洞を照らすまる穴からの月光が、揺れる黒い髪を神秘的にきらめかせる。吹き下ろす風や、蝗の軍隊が坑道を貫いて起きる乱流が、ロングコートの裾をはためかせる。千夜ちゃんは、すうっと息を吸うと、世界のあらゆる邪悪に立ち向かうと誓った勇敢な騎士のように背すじを伸ばして、「来い」と言った。  大好きよ、と私は千夜ちゃんに届かないよう心のうちでだけささやいた。  坑道よりあらわれた蝗は群れではなかった。それは互いを喰い合い、それぞれのかたちを形成する力を一個体に集積させた、巨大な呪物だった。呪物は蝗のかたちをしながら、その大きさゆえに飛ぶことも駆けることも叶わないようだった。坑道をほとんど埋め尽くした蝗は壁の文字の光を削り取り、あたりを黒く塗り込めて這い寄った。その凝集した闇のような体を引きずり、無数の棘の脚をうごめかせながら「じいい」「じいい」と私たちを呼ぶように叫んだ。  千夜ちゃんが聖なる祈りの短剣を振るうと、その軌跡の蝗が消散する。灰となり、あたりを漂うとまる���の光に導かれるよう空へ昇りやがて消失する。蝗は動きを止めるが、うしなわれた部位を群体にて再生させるとふたたび体を引きずりはじめる。  私は血を思う。全身をめぐる血液に残る吸血鬼の残り滓を思い、その微小な粒子の一つひとつに呼びかける。集え。集え。集え。吸血鬼の血は指先から、脳幹から移動をはじめ、やがて肺胞に集うと呼気に混じり気道を駆け昇り私の口腔から黒ずんだ煙として吐き出される。  長剣が振るわれると、施された血の加護は蝗の呪いとぶつかり合う。灰が激しく飛び散り、削岩機に放り込まれたかのように蝗の体が消散していく。千夜ちゃんは獣のように叫び、蝗の中枢部分をほとんど吹き飛ばすと息つく間もなく短剣を振るう。蝗は悲鳴か絶望のような鳴き声を絶やすことなく、群体を寄せ集めながら果てのない再生を続ける。  私はその姿に、残酷な胸の高鳴りを覚えた。私を滅ぼさんとする呪いの破滅に、あるいは千夜ちゃんの圧倒的な暴力や哮る声の荒々しさに、胸の内に溶ける鋼のような熱を感じた。  血が目を開く。次々と目を覚まし、吸血鬼のたましいを取り戻していく。肺より昇った血が口腔にて、気道にて、そして肺の内にて、蝙蝠と化す。それは目覚めの喜びとともに私の口より飛び立ち、まる穴の光へ舞い上がった。数百、数千……数万……蝙蝠は与えられた自由に歓喜のおたけびを上げながら空を舞った。私の感覚はその蝙蝠の一匹いっぴきすべてと共有され、数万の感覚が地上の世界をとらえた。まる穴は、城にほど近い山林の中腹の廃井戸であり、そこからは青ざめた満月の照らすあたりの様子がうかがえた。  城はもう、滅びている。  威厳をたたえた鉄の門扉も、あらゆる季節の彩りをみせてくれた庭園も、この日まで数百年のあいだ美しく光をはじき続けた噴水も、自然の猛威にさらされ続けても堅牢に主人たちを守った外壁も、数え切れないほどの客人たちに感嘆のため息をこぼれさせたエントランスも、キッチンもダイニングルームも客間も書斎もバスルームも寝室も遊技場もダンスホールも、すべて滅びた。そこにあるのは、ひとつのうねりだ。波のように、広大な樹林が風にそよぐように、城を食い尽くしても足りることのない蝗は一個の暗いかたまりとなり私たちの何もかもを奪い続けた。  じいい。  じいい。  じいい……。  蝗の声はほとんど地鳴りのようにとどろいた。最後に残った尖塔が崩れ落ちたとき、蝗のうごめく影に飲み込まれた青銅の鐘が鳴ることはなかった。  私は深く息を吸う。数万の蝙蝠が一斉に息を吸い込むと、刃物が擦れ合うときのような超高音があたりに響き、蝗はぴたりと動きを止める。私の蝙蝠がざあっと空に展開し月を覆い隠すと、つかの間あたりに本物の暗闇が満ちる。 「さようなら」と私は言う。  蝙蝠が砲弾の速度で降下をはじめると、蝗は矢のように地上を飛び立った。ふたつの巨大なかたまりがぶつかり合い、灰が空一面に広がった。私は蝙蝠の一匹として蝗を噛みちぎり、群れを成した蝗に食われ、雲のように広がった大群の切れ間より時おり注ぐ線状の月の光の美しさに目を細めた。  坑道の戦いは、もう終わっていた。千夜ちゃんの振るう剣は呪物のほとんどを滅ぼし、そこに灰の山を残した。後から迫った哀れな蝗は、坑道に満ちた加護の力によって私たちに近付くことさえできず灰と化した。千夜ちゃんは大きく息を吐き、衣装にまとわりついた蝗の粉を払い落として、「時間は足りますか」とたずねた。  私は少し笑って、「急ぐね」とこたえた。  蝙蝠と蝗。吸血鬼と魔女。もとより差は明らかだった。私は、私の蝙蝠が圧倒的な力をもって魔女の呪いを食い尽くす様子を眺め、やがてそのすべてが終わると魔術を解いた。  千夜ちゃんは私を支えようとした。けれど私は自分の足で立つことができたし、意識もはっきりとして、「平気だよ」と完璧な笑顔をつくることだってできた。 「無理をしてはいませんか?」 「もう、心配してくれてありがと。私、ふつうの人間にもけっこう慣れたみたい。平気だから、早く出よ」 「……承知しました」 「おばあちゃんをお願いしていい?」 「お任せください」 「先に登るけど、スカートの中は見ないでね」 「お嬢さま」 「あぁん、冗談」  そうして私は壁のはしごに手をかける。それはいまにも壊れそうなほど錆ついて、しかし私の体をしっかりと支えた。一つひとつ、腕と脚の筋肉をしっかり使って体を運ぶのは、いまの私にはひどく難しいことだった。  消耗している。吸血鬼の力をほとんどなくした私には、まる穴の光はずいぶん遠くにあるように感じられる。  廃井戸の外、地上にはまぶしいほどの月が注いだ。夜明��はまだ、遠いようだった。蝙蝠より鮮明に、私の知覚は滅びた城をうつした。そこは灰が降り積もり、月の光に砂塵がきらめき、さながら古の城跡を飲み込んだ砂漠のような姿だった。 「家、なくなっちゃったなあ……」  と私はつぶやいた。それがなんだか間の抜けた、ちっとも切実でないような響き方をするので、少し笑えた。実際、明日からどうしようか。黒埼の家に頼りたくはないし、千夜ちゃんのおじさまに迷惑はかけられない。……魔法使い。ああ、プロダクションに寮があったはず。いい考え。お願いして、寮に入れてもらって、アイドルのお仕事をがんばってお金を貯めたら家を、千夜ちゃんと暮らす家を……私が? こんな私が……こんなふうに呪われた、私が……。  魔女の手。  お前をずうっと見ているよ。  砂漠……。  ああ……。  私は、うしなった。  この、灰の砂漠が、私の幸せの末路なのだ。  悲しみが、胸のうちを荒れ狂う波濤のように打った。たちまち心はいっぱいになり、立っていることさえできなかった。とてつもない喪失の悲しみに押し潰され、息をするのもむずかしいようだった。 「お嬢さま」と千夜ちゃんが言った。  私は背中でその声を受け止め、振り向くことができなかった。見られてはならない。気取られてはならない。私の孤独に触れられてはならない。  ざざざ、と草を踏みしめる音がした。千夜ちゃんは廃井戸より、地上に足を下ろしたようだった。そうしておばあちゃんをそっと寝かせると、千夜ちゃんは私へ近付いた。  笑わなければならない。「どうなさったのですか」と、優しい声が聞こえる。私は笑わなければならない。これまでしてきたように、やがて千夜ちゃんが私のもとを巣立っていく日のように、しっかりと笑わなければならない。 「お嬢さま!」  千夜ちゃんが叫んだ。  私は振り返ることもできず、ぐうんと視界が転変し、満月が、その光が遠ざかっていく様子を眺めた。  落下している。  廃井戸の、まる穴を落ちていく私を、おばあちゃんが見ていた。おばあちゃんは私に取りつき、ともに墜落しながら真っ暗な眼球に私を写しほほえんだ。 「魔女」  私は言った。  魔女の手の内の聖なる短剣が、歓喜のようにまぶしく閃いた。
 
 白雪千夜
 8
「お嬢さま……」と私はふたたび呼んだ。しかしそれは叫びとならず、喉から漏れ出す吐息のようにかすれた声だった。  景色が歪んでいる。  後頭部が、熱を持っている。  手で触れてみるとべとっとした、ぬるい液体の感触があり、においを嗅ぐとそれが血であるということがわかる。私は殴られたのだ。お嬢さまは廃井戸へ、落ちて……。  月が空洞を照らした。お嬢さまはそこにいて、短剣の突き立てられた頚部から、楔の打ち込まれた両手足からおびただしい血を流した。磔にされた罪人のような姿で、自らを見下ろしたおばあちゃんを見つめ「……まじょ」と唇で言った。  私ははしごに体を預ける。しかし血のぬめりで片手が剥がれると、はしごは壁より脱落した。落下の途中、遠ざかるあの月には永遠に手が届かないような、そんなおもいが私を満たした。  さほど痛みは感じなかった。体の何かが狂っているのかもしれない。お嬢さまの庇護によるものなのかもしれない。すぐに立ち上がろうとして、私は転倒した。右脛の皮膚を、骨が破っているせいだった。反射で手をついて、地面が顔を打った。右肩の関節が、外れているようだった。右の目を開けていられないのは、頭部からの出血が絶えず眼窩に流れ込むからだった。 「あらあら、かわいそうにねえ……」と魔女が言った。魔女はおばあちゃんの姿かたちをしていて、おばあちゃんの声で話し、おばあちゃんと同じようにのんびり歩くと、真っ黒な眼球で私を見下ろした。「すぐに済むから、おとなしくしてるんだよ」  私はお嬢さまを見た。短剣は頸椎を貫くように突き刺され、首の周囲ではゆるやかに炭化が進行しはじめていた。両手に、両足に古びた木の楔を打ち込まれ動くこともできないようだったが、かろうじて瞳を揺らし「ちよちゃん」と、私を呼んだ。 「お嬢さま」と私は呼んだ。  左半身にて全身を引きずり、お嬢さまのそばへ寄ろうとすると、手のひらに楔が打ち込まれた。左手、左足……ついでのように右半身も地に縫い付け、「どうか、おとなしくしていてね」と魔女は言った。 「……殺してやる」と私は言う。  魔女はそうっと、小さな子どもにするようにほほえむ。その黒い眼球を、ぞっとするほど優しいかたちに細め「切ないことだねえ」と言う。  おばあちゃんは、サイトウ、と名乗った。 「殺してやる」と私は言う。  おばあちゃんは、実は東アジア圏に名を知られる魔女であり、二百歳を越えていて、世界で最初のアイドルだということだった。 「殺してやる」  おばあちゃんはよく笑い、よく泣き、私たちに起きるできごとの扱い方を教えてくれた。 「殺してやる」  おばあちゃんは、外から帰ったら手を洗って、うがいもしっかりね、と私たちへ言った。 「殺してやる」  おばあちゃんは、話せたらいいねえ、と言った。誰か、信頼できるひとに……。 「殺してやる、殺してやる」  魔女はつまり、そういうひとだったのだ。 「殺してやる! どうしても、お前を!」  私は叫んだ。しかし魔女は意に介す様子もなく、泣きじゃくる幼子に向ける目で私を見て、「悲しいことだね」と言った。深いため息とともにまる穴の光を見上げると、「千夜ちゃん。ちとせちゃんはね、死にたいんだよ」と続けた。  そうしてしずかに、泣きはじめた。  鼻をぐすぐすいわせ、目もとを濡らし、おばあちゃんのそれとまったく同じように澄んだ涙を黒い目から流した。 「かわいそうなちとせちゃん……話はずうっと聞かせてもらったよ。千夜ちゃんも、ほんとうはわかっているはずだよ。だからわたしが……でも、苦しまず死ねるようにがんばったのに、できなかった。失敗した。うまくできなかった……これは事故だったんだよ……千夜ちゃん、信じてくれるかい?」  私は、息を呑んでこたえた。 「お前は私たちを騙した」 「機会をうかがったんだよ。わたしは臆病で、まさか、こんなにかかるなんて……」 「お前は、私を背後から襲った」 「気絶してくれればよかったんだよ……千夜ちゃんはお利口で、いつもちとせちゃんのそばにいるんだから」 「お嬢さまを磔にした」 「こわかったんだよ。わたしは非力だから、どれだけ生命力が衰えていても吸血鬼が、おそろしくてしょうがない」 「杭を打った」 「ほんとうにごめんねえ。こわかったんだよ。わたしは弱くて、臆病で、魔術もろくに使えない……千夜ちゃん。わたしはね、死にたいんだよ。ちとせちゃんと同じで、いますぐに死んでしまえたらって思うよ……」  私は、ふたたび息を呑む。 「化物」と、私は言う。  魔女は、どうして、と言うように首をかしげた。その黒い瞳からは、わが子の幸福をおもう親の涙が流れた。その唇に、地を這う蟻の群れをいたずらに虐殺する子どもの笑みを浮かべた。両者は次々、一言ごとに入れ替わり、そのたび顎の、頬の、表情をかたち作る筋肉は破壊された機械仕掛けの粗雑さで機能した。  魔女は右目で笑い、左目で泣いた。口角を痙攣発作のように上下させ、「信じてくれるかい?」とたずねた。 「殺してやる」と私はこたえた。 「そうね」と、お嬢さまが続けた。  魔女はなにか聞き違えたという様子でゆっくりと振り返り、「どうして?」と言った。「ちとせちゃんは、死にたいんだろう?」と続ける声に、隠しようもなく恐れがのぞいた。  お嬢さまは幾度か咳き込み、「さようなら、おばあちゃん」と言った。そうして血性のつばを吐き出し、「あなたは許されない」と続けた。  そのとき私は見た。  流れる血の川が、魔女の足先に触れる一瞬を。  魔女は苦痛に顔を歪める。その足裏より伸びた芽は皮膚を破り骨を貫き、足背より鮮やかに花開く。魔女は悲鳴をあげ、痛みも問わず足を引き抜くがお嬢さまはそれを逃さない。血の網は、粘菌の這うように地中を広がり一面に花を咲かせた。それは魔女に絡みつき、伸ばした蔦よりふたたび花開き、無数の微小の針がその脚を貫き続けた。  魔女は倒れない。  もう倒れることができない。  花は針を実らせるとまたたく間に凝固をはじめ、赤黒いかたまりとなって魔女の体を釘付けにする。足から下腿、大腿……それが骨盤へたどり着くと、魔女は腐敗におかされた古木のような半身を眺め、「間に合うよ」と言った。 「ちと���ちゃん。あんたは呪われている。幸せになれない。何度だって死にたいと思う。そのたびあんたは後悔する……呪われている、あの日死んでいたらよかった……それでいいのかい?」  針はもう、首の根元まで迫っている。  魔女はたずねる。 「それでも、生きていたいと思えるかい?」  お嬢さまは、しずかにこたえる。 「あなたは、ちよちゃんを傷つけた」  血の花は咲き続けた。魔女を頭頂まで覆い尽くしてやっと成長を止め、やがて泥のかたまりが砕けるよう崩れ落ちた。そこにもう魔女のかたちはない。枯れ果てた花の積もるあとには、十センチほどの木彫りの人形が残される。 「呪物」と私は言う。  頭部に刻まれた三つの方陣が溶解すると、人形はまたたく間に溶け落ちた。粘性の液体は地に混じりあたりを汚したが、ふたたび何かを引き起こすだけの力は持っていないようだった。 「どうりで……手応えがないと思った」  お嬢さまは言った。  異様にか細いその声には、迫り来る滅びの響きがあった。  私は、お嬢さまを見る。お嬢さまは、私にほほえみかける。その笑みはあいまいだった。苦しくないと伝えるようにも見え、安心するよう呼びかけるようでもあり、許しを乞うようでも、悲しまないようにと懇願するようにも見えた。  いずれにしても、それは生きようと望むものの表情ではない。  首の短剣を契機とする炭化はおとがい、肩口まで広がっている。杭を突き立てられた四肢はほとんど形を残していない。血を流しすぎた。お嬢さまはもはや、体を保つことさえ難しいようだった。  ああ。  お嬢さまのほほえみは美しく、どうしたって死にゆくもののそれに見える。  いかないでください、と私は言った。吐息は宙で解け、まる穴の光に導かれ、お嬢さまのもとへたどり着くことなく、消えていった。 「いま、そちらへゆきます」  私は言う。 「いいの。無理はしないで。日が昇れば助けがくるのだから、命をつなげることだけを考えて」  お嬢さまはこたえる。 「私に、こうして黙ったままお嬢さまの死を見ていろと、いうのですか」 「……そうね。私は助からない。じっとしていなさい」 「そのような命令はきけません」 「ちよちゃん。消え去るべきなの。何事も、なかったように」 「そんなことは望んでおりません」 「炎のように、思うでしょう。けれどすべて、消えていくの。灰のように、風にまかれて……」  楔はたやすく外れた。魔女の力が消え失せたのだ。しかし、それは私も同じことだった。楔の抜けた穴からはとめどなく血が、命が流れ出した。体は奥のほうから、心臓の周辺から熱をうしなってゆき、次第に呼吸がうまくできなくなる様子を感じた。湿ったぼろ布で背中を撫でられるようなおぞ気が絶えず走り、胃の底からせり上がる嘔気をこらえなければならなかった。  ここは地獄だ。  私は汚れた地を這う獣だった。  血を吸った泥が肌にまとわりつき、進むごと体は重みを増した。蒸散していく呪物の腐敗臭が意識を奪おうとした。お嬢さまの加護の消えゆく体には感覚が取り戻されてゆき、骨の出た脚を引きずる痛みは一瞬ごと私を殺してしまうようだった。  しかし、それがどうしたというのだろう。  お嬢さまは私の神だ。  お嬢さまは、手を差し出してくれた。  煤だらけのシーツに身をまるめた私に手をさしのべ、冷えた水を施し、そのぬくい手で頬に触れてくれた。  思い出せ。  そのとき見えた白い光を。  ひとりでに、祈りのかたちを成した手のひらを。 「死なせません」  と私は言う。 「近寄らないで」  とお嬢さまは言う。 「私を、死なせて」  お嬢さまは続ける。 「生きていてもしようがないの。呪われ、憎まれ、幸せになれず、ちよちゃんを傷つけるの。またこんなことが起きたら、もしもアイドルのみんなを巻き込んだら、どうすればいいの? 嫌なのよ、ちよちゃん……もう、私を許して」  ほとんど炭化した唇は、声を放つたびくずれた。むき出しになった皮下組織はひび割れ、その裂け目はすべての光を飲み込むようだった。 「許せません」  と私はこたえた。 「死んではならない」  私は続けた。 「どれほど呪われようと、拒まれようと、私がいます。誰を巻き込み傷つけようと、私がいます。私だけが、永遠に、お嬢さまの隣にいます」  私は、お嬢さまの首もとに触れた。そこは冷たく、からからに乾いていて、掴めばもろく崩れ落ちた。 「あめ……」とお嬢さまは言った。頬の肉が、舌がたて続けに炭化したために言葉はあいまいだったが、こぼれる涙がその意味を理解させた。「あええ……」  私は、少し笑う。 「なんと言っているのか、わかりません」とこたえる。  そうして地を踏みしめ、どうにか体を起こし、お嬢さまに馬乗りになると、途方もなく巨大な欲望が全身を満たしていく様子を感じた。見下ろしたお嬢さまはふるえていて、おそれていて、不明瞭な声をくり返した。剥がれる皮膚の溶けた涙は黒く濁っており、しかし生命の熱があり、月の光に美しくかがやいた。  お嬢さま。  私はずっと、こうしたかった。 「私は、お嬢さまのしもべです」  腕をかざし、こぼれた私の血がお嬢さまの体にしみこんでいく様子を眺めた。炭化した首の組織はその内部より再生し、甦り、もとの白くつややかな肌が脈を打った。  まる穴よりそそぐ光が、お嬢さまを照らした。 「それでいいではないですか」  私は、溢れる血をお嬢さまの口腔に注ぎ込んだ。  私のすべてを、お嬢さまに差し出した。
 
 9
 オォォ…………ン…………。
 私にはなにもできなかった。  悲鳴とともにお嬢さまより放たれた無数の蝙蝠は天を覆い、地に満ちた。それは家や木々、村を食い尽くす蝗のすべてを灰に変えた。やがて蝗が消え、蝙蝠が消えるとあたりに満ちていた鳴き声はまったく消え去り、しんとした静寂やときに過ぎる夜風の孤独な響きが広がった。  まっさらな、灰の砂漠に月の光が降りそそぐ。  それは、唯一残された教会の鐘楼を照らしている。 「お嬢さま」  私は呼んだ。お嬢さまは目を開かなかった。その肌はいまだ温かいが、体温はわずかずつうしなわれていた。心臓の鼓動はたしかだったが、脈拍はしだいに弱まっていた。呼気からは黒ずんだ煙が立ちのぼり、それは蝙蝠のかたちを取ることもなく大気のうちに消えていった。  黒埼の娘は、ある種の神なのだ。  かつておじさまが、聞かせてくれたことがあった。  だからおまえは、そのようにあの子と接しなければならない。常に畏敬の念を持ち、感謝を捧げ、そのたましいが荒ぶることのないように祈り続けなければならない。  できるね。  私はすぐに頷くことができた。私は一度死に、甦ったのだ。炎にまかれ、すべてをうしなった私へ手を差しのべてくれたお嬢さまのために祈り続けることは私にとって生きることに等しかった。  おじさまはこう続けた。  もし、もしもあの子が……。 「お嬢さま……」  私はふたたび呼んだ。その体を引きずり、灰に侵されていない森の木々の合間に横たえると、懐中より短剣を取り出す。お嬢さまの一族、その始祖より賜られたというそれの刃先は丸く、ちりばめられた装飾で重たく、とても何かを切るに適したものではなかった。  傷つけるには、勇気が必要だった。  私は、お嬢さまをおもった。お嬢さまのほほえみをおもった。私を呼ぶ声をおもった。肌に浮かぶたまのような汗をおもった。収穫した果実を差し出す誇らしげな手つきをおもった。用意した食事を食べきれず、眠る前に夜食を欲しがるときのわがままな様子をおもい、四角い窓から降りそそぐ線状光に照らされた穏やかな寝顔をおもうと、短剣を自らの手のひらに突き刺した。炎に肌を抉り取られるような衝撃にうめきがもれ、あとからあとから涙が溢れた。しかし短剣はどうにか手を貫き、途端に血だまりが広がるほどの出血が起きた。  お嬢さまに与えるのは、簡単なことだった。  その唇はほとんど閉じていて、しかしほんの少し手に力を込めれば拒む様子もなく開いた。その口腔の内の、お嬢さまの舌はうす明かりのもとでもはっきりと赤く、私はそれを眺めると目の前がくらくらした。最も甘美な、この世の何より官能的なものを見つめるような心地にうっとりとして、しぜん口もとが緩んでいく様子を感じた。  飢えた殉教者に蜜をそそぐようだった。  赤ん坊に母乳を飲ませるようでもあった。  そのように私はお嬢さまの口腔に指を差し込み、血を差し出し、身も心も差し出し、命をまるごと差し出すこのしもべの喜びにうちふるえた。  そのうちに、お嬢さまの体が熱を放ちはじめる。口腔内から頚部、胸や腹より四肢の先端にいたるまで、まるで炎が体内をかけめぐるように、熱は広がっていく。  私が、お嬢さまに溶けていく。  ゆっくりと、空が白んでいく。  お嬢さまが目を開き、ぼんやりとした様子であたりを眺める。私が「大丈夫ですか」とたずねると、「指を抜いて」とこたえる。それに応じると、「傷を見せて」と私の手をそっとなでる。手のひらを貫通した刺創はそれであとかたもなく塞がり、驚いた私を見てそっとほほえむと「ありがとう」とお嬢さまは言う。 「こわかった」とお嬢さまは続ける。 「私は蝙蝠のすべての一羽だったの。蝗を食べて、食べられて……苦しくはなかった。だけど、おそろしかった。数万の死が、次々と……こわかった。ちよちゃん。私、こわかったの……」  そうしてお嬢さまは肩をふるわせる。声をあげることはないが、私の胸に身を寄せてしずかに泣き続ける。 『もし、もしもあの子が……』  かつて、おじさまは続けた。 『あの子が悲しむなら、おまえが笑わせてあげるんだ。できるね?』  私はテディベアのシルキーを取り出すと、そのまるっこい手の先でお嬢さまのまなじりを拭った。お嬢さまははじめ驚いたようだったが、すぐに顔を上げると「シルキー」と呼んだ。シルキーと私を交互に見やる瞳を、山嶺よりいまにも姿をあらわそうとする朝の光の予兆がぼんやりとかがやかせった。 「ちとせお嬢さま、泣かないで。あたしがそばにいるよ」と私は言った。うわずらせた声で、嘘のように、子どものように続けた。「あたしがちとせお嬢さまを守ってあげるから」 「ほんとうに?」 「ほんとだよ!」 「誓って?」 「約束する!」 「じゃあ、私もあなたを守ってあげる」 「それは……大丈夫です。私がお守りしますので」 「もう、ちよちゃんノリわるい」 「すみません……限界のようです」 「どうしてこの子を連れてきたの?」 「ベッドを立つとき転がったのです。手に取って、そのまま……」 「どこに隠していたの?」 「服の下に、このように……」  私たちは、そうやって話した。うしなったものから目をそらすように、まるで、同じ日々が続いていくのだと信じるように。  生きるため、私たちはそういう方法を選んだ。 「夜が明けるね」  と、お嬢さまが言った。その声とともに、朝日は予兆より現実へ姿を変え、山々の峰を越えて姿をあらわした太陽の最初の線状光が地にそそぐと、灰に炎がともった。太陽は、驚くべき速度で砂漠を照らしてゆき、燃え上がる炎は地の一切を、天の限りをことごとく焼き尽くしていった。  燃えていく。  カラストが、私たちの夢が、燃えていく。 「また、ふたりきりだね」とお嬢さまはささやいた。 「はい」とだけ、私はこたえた。  そうして、私たちは燃える炎を背負いながらカラストの村をあとにした。一度として振り返ることはなかったが、やがて鐘楼が焼け落ちて聞こえた青銅の鐘の音は細く長く伸びる影となり、どこまでも私たちを追うようだった。
 
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「目を開けて」  お嬢さまの優しい声は、もやの向こうから朝を告げる静かな光のように響いた。「ちよちゃん、起きて」とふたたび聞こえた言葉や髪をなでるあたたかな手のひらを、私は目を閉じたままいつまでも感じていたいような心地でいた。  お嬢さまの指が、私の頬をむにゅうと引っぱる。 「ちよちゃん、ちよちゃあん」と甘えた声が私をくすぐる。  目を開くと、お嬢さまはにっこりと笑った。私を見下ろすその目をうすく穏やかに細め、つやつやと夜明けの色に染められた頬をゆるめ、「おねぼうさん」と言った。  私は、「おはようございます」とこたえる。  お嬢さまは「うん。おはよう」とまた笑う。  その表情は、どこをとっても美しく、昇りはじめた太陽が見せるようなはっきりした生命で満ちていた。口もとや、首の傷はあとかたもなく消えており、それは私も同じだった。脚から突き出た骨や肩関節の脱臼、四肢を貫いた穴の数々、すべてがまるで悪い夢であったかのようだった。  きっと、いまのお嬢さまは死んだ私さえたやすく甦らせるだろう。 「どれほど眠っていたのですか」と私はたずねる。 「何時間か、くらい? 気持ちよさそうだったよ」 「夢を、見ました」 「どんな?」 「……明るい、光のある方へ、進んでいく夢です」 「うそつき」 「はい」 「そんな子に育てたおぼえはないよ」  お嬢さまはそっとほほえんで、私の唇に指で触れる。盲のように、そのありかをたしかめるように触れては離して、力を込めて、ゆるめて、口づける。そのできごとは小鳥のさえずりとともに終わり、お嬢さまはほとんどまつげの触れ合う距離で私を見る。 「だいすきよ」とお嬢さまは言う。  私は、こたえられない。  そうして、私たちのあいだになにか、光の交換のようなものが生まれる。  光は、この宇宙の進行にさえつながる莫大な力を持っている。信じられないほどの速度で朝日は昇り、その最初の一閃光が眼下の灰の城跡を照らす。 「ふたりで見よう、ね」とお嬢さまは言った。 「ご一緒します」と私はこたえた。  私たちは肩を寄せ、丘の上にそびえる大樹に背中をあずける。そこからは、城跡のなにもかもを見渡すことができる。  炎の、最初のひとかけは火花のように見えたが、それは幾度かきらめくとまたたく間に燃え上がり、城跡を舐めるよう広がった。  まず焼かれたのは、納屋のあった場所だ。そこにはちょっとした工具や何に使うのかわからない機械のたぐいがあって、そうだ、農機具や大量の園芸土、堆肥などもあったはずだ。それらが撒かれるはずだった後庭の畑には、すくすく育ちつつあったヒマワリや、今年の収穫を終えてゆっくりと休んでいるイチゴの畦があった。この灰は、きっとよい肥料にはならないだろう。庭園の花々も蔦をからませたアーチも、あおあおと際限のない広がりを続けていた樹木の緑も、もう見ることは叶わないだろう。それらに無限の命をそそいだ噴水すら炎にまかれ、二度と甦ることはない。  私たちは、うしなっていく。  はじめてこの城を訪れた日、お嬢さまはとても明るい様子だった。あちこちを探検し、すっかり疲れると食事もとらずに眠ってしまったことを覚えている。特に気に入ったようだったのが温室で、お嬢さまは城の内にあって最も日当たりのいいそこで好んで過ごした。日射しには弱いからと、ともに作った庇のできばえはすばらしかった。いまにしてみれば、私もあの空間をこころよく感じていたようだった。季節ごと、日ごとの飲み物を用意してふたり過ごす時間はかけがえのない、神聖といって差し支えないものだったように思う。  私たちは、うしなっていく。  シルキー。彼女にはじめての友人ができたのは、まだ肌寒い春の終わりのころだった。明るく自然な茶色をした二体のテディベア、名前はイーリエ、ノラといった。シルキーが寂しいと思って、とお嬢さまは言った。それから、ずいぶん背の高いテディベアのバンシー、白い毛なみのカマイルカのジェシー、子だくさんの雪ウサギのシーナ……あっという間にお嬢さまのベッドはぬいぐるみであふれるようになり、私たちは、ほんの少しずつさみしくなくなっていった。  私たちは、うしなっていく。  お嬢さまは、燃える地上の炎でまっかだった。いまにも消えゆく雪のような肌も、切り分けたグレープフルーツの黄金のような髪も、ただただしずかに流れる涙もすべて、まっかだった。  城のすべてが炎に覆い尽くされると、お嬢さまが私の手をにぎった。わたしはそれをにぎり返し、結ばれた手と手の間で交わされる祈りのようなおもいに心をそそいだ。  うしなった。  私たちは、うしなったのだ。  うしなったものたちが、昇っていった。  巨大な火柱に乗り、どこか高いところへ。 「死んでしまいたいの」お嬢さまは言う。「ちよちゃんが私のことを忘れて幸せに生きていけるのなら、いますぐにだって死んでもいい」 「生きていたい」私はこたえる。「お嬢さまとともに、です。お嬢さまが死んでしまうようなことがあれば、その一秒後に死ぬのが私の望みです」  お嬢さまは、こたえない。  私は、それ以上こたえない。  やがて遠くから、サイレンが響きはじめる。たくさんの強い光が、私たちのもとへ現実を連れてくる。 「いきましょう」 「うん」  私たちは立ち上がる。 「話さなければならないことが、多くあります」 「どこまで信じてくれるかな」  歩き出す。 「この衣装が、話をややこしくするように思えてならないのですが」 「あっ、ひどい。ちよちゃんだって、ほんとはすごく気に入ってるくせに……」  燃える炎の照らす先へ、向かっていく。
 
 黒埼ちとせ
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 しいっ。  そう言って指を唇にそえると、世界のすべてが音をたてるのをやめた。草花や木々、風と光……美しい自然のはたらき、それから、魔法使いでさえも。  だって、私は偉大なる吸血鬼なのだ。 「だめよ、魔法使いさん」私は続けた。「ちよちゃんが眠っているの。おはなしはあとで、ね」  魔法使いさんはうなずいて、そうっと病室の扉を閉めた。すると風が、木々が歌いはじめ、ゆらめく日の光がベッドへそそいだ。くうくう眠る千夜ちゃんはかわいらしく、どこをとっても完璧で、白くみずから光を放つように感じられた。  私は、もはや逃れ得ない愛情に駆られ、手のひらを重ねた。そこは温かく、握りかえす仕草の切なさに息がつまるようだった。 「私の、ちよちゃん」  と私は言う。  さようなら、と私は言えない。  ほんとうに言うべきことを、千夜ちゃんへ言えない。
 ゴオォォーーーン…………。
 どこかで鐘が鳴っている。  それは呪いの呼び声に聞こえる。  それは祝福の歓声に聞こえる。
 ゴオォォーーーン…………。
 それはいつまでも、私を見ている。
 ゴオォォーーーン…………。
 ゴオォォーーーン……………………。
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bedsemai · 2 years
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73nus · 3 years
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YRU 厚底スニーカー ¥1100+tax
神南の古着屋で買った。渋谷に勤めてるのに今まで存在を知らなかったがいい感じだった!
まじでご近所物語の足になる。厚底が7センチあるので天狗の靴感がすごい。
今更すぎるけどUnifとかYRUとか着たい。
感性が5年遅れている。
遅れてるの、感性のせいしてない?
同じタイミングでジャンプした波動風集合写真撮るとか高校の制服でディズニーに行くとかハロウィンの日にコスプレして授業出るとか、そういうのをばかにしている学生だった。正確に言うと、ばかにしていたのではなく僻んでいただけだったし、結局おとなになってから周回遅れで回収する羽目になった。羽目になったってのも嘘だ。全部自分がしようと思ってした。あーこういうあとから無理やり猿真似することこそあの時の自分がもっとも蔑んでいた人種のすることなんだよな、とへらへら笑いながら。
けど、青春っぽい青春を送っている人に対するひがみや劣等感は、あとあとになってすべて勘違いだったと知る。わたしはあの時、顔が可愛くてスカートが短くて声がデカい女の子は普通に高校生をやっているだけで青春っぽいことがいっぱいふりかかるんだと思っていた。でも彼女たちは単純に今を貪欲に楽しむぞ!と素直に自分の欲求をみとめて彼氏とお揃いでダッフィーちゃんを鞄につけたりシューズをデコったりお菓子をつなげて作ったリュックを誕生日の友達にプレゼントしたりしていたのだ。わたしに足りなかったのはアイプチの技術や教室の真ん中で冗談言うことやmixiアカウントではなく、工夫だった。
くだらない気づきだけど受け身でいたら楽しいことなんて起きないもんなと思う。
ところで。1年前の、コロナで全世界がぴりぴりしてみんながそこそこ自粛していた頃、インターネットで出会った同い年の女の子とさしでオンライン飲みしたことがある。その時に3月に塩竈で石津君とヌード撮影した話とか、もっと昔の、5年くらい前に制服着て入水した話とかして、彼女はきゃあきゃあと相槌を打って、最後にこう言った。“そう言う面白いこと思いついたら、わたしにも声かけてほしいな。やってみたいです”ーーその場ではにこやかにうなずいたけれど、心のなかでは言うわけないじゃん、と思った。ありていに言えばがっかりしたし、呆れた。そういうのずるくない?他人のおこぼれあずかろうとするのって。
って言うかまあそんなん話の流れでリップサービスしただけだとも思ったけれど、だとしてもちょっとダサいかなって思った。
口開けて待っているだけでは、あんなあざやかな記憶はあたえられない。
面白いと思えることを自分が。自分がやんなきゃ意味ないからね。
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takeya-tobanyoku · 2 years
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🍄 銀杏の木にキノコが!Σ(・ω・ノ)ノ! 🍂 ✨竹屋陶板浴16周年記念イベント開催🎊 11月23日(火・勤労感謝の日) [身体整え会]10:00- □■□ 頭蓋骨カイロ□■□ 嶺井静(カイロプラクティック Private Salon O'Keeffe オキーフ) どのコースも骨盤調整つき。 💀 頭蓋骨カイロ【頭~足】 60分6800円 (初診に限り問診検査プラス20分) 💀 骨格調整【首・足】 40分4000円 (初診に限り問診検査プラス20分) 💀 新メニューお急ぎ頭部調整【顔と頭】 50分5500円 (誰でも5分問診) 【ほね】から整えて【巡り】改善!! 骨の歪みは『姿勢の悪さ』だけでなく『内臓機能』『お肌』にも悪影響!! 新メニューもご用意しました。 是非お試しください♪♪♪ ※ 午後にまだ空きがあります。お早めにご予約下さい。 ・ □■□ トークセン □■□ 梅津孝子(とんとんトークセン) 約1000年以上前から使われてきた北タイの伝統医療トークセン 木槌で身体をトントン叩いて施し、コリをほどきます。 筋骨格(姿勢)と生体電位(氣の流れ/神経伝達)を整えるのが得意な物理療法。生体循環(血・水など)を深部から動かします。木槌の微細な振動によって、指圧などではなかなか届きにくい身体の深層部、骨膜、筋膜、細胞、血液、リンパ液、髄液、神経までも調整していきます。 こんな方にトークセンお勧めです 腰痛、首痛、肩こり、便秘、ダイエット、冷え性、むくみ、不眠・・・慢性疲労、体調維持、免疫力アップ、痛いマッサージが苦手な方、揉み返しが心配な方、呼吸が浅くお腹が硬い方 痛くない!コンコンと不思議なリズムと心地良い振動マッサージをぜひ体験してくださいませ。 15分1,000円~(30分以上がおススメです) ☆とんとんトークセン梅津孝子 09011160648☆ ※ まだ空きがあります。ゆっくりとご体験ください♡ ・ □■□ 靈氣 ト 音のくすり □■□ 諏訪泰心(靈氣 ト 音のくすり) 20分2.000円 40分4.000円 60分5.000円 宇宙エネルギーにより身体の周波数の調整と、チャクラやエーテル体、アストラル体を整えます。 生まれたときの細胞レベルへと元にもどし、活性化させることで、施術後に視える世界は変わります! 五感のパラレルワールドの変化体験!を体感してみよう。 ※ まだ空きがあります。ゆっくりとご体験ください♡ ・ ご予約はDM,コメントもOKですが、 お電話が確実です。 ℡ 0297-64-3726 #今こそ免疫力 #今こそ陶板浴 #竹屋陶板浴 #龍ケ崎市 #温活 #温熱 #感染予防は免疫力で #ワクチン接種は慎重に検討しましょう 竹屋陶板浴 茨城県龍ケ崎市栄町4356 ℡ 0297-64-3726 営業時間 6:00-20:00 利用料金 ¥1.200- 🍂 ≪竹屋陶板浴16周年記念イベント開催🎊≫ 11月23日(火・勤労感謝の日) <講演会>小峰一雄先生「削らない歯科医が教える虫歯からがんまで消えていく仕組み」 <深秋マルシェ🎪> <身体整え会> 16周年記念富くじ付き回数券販売中🎯 抗酸化りんご箱予約受付中🍎 #竹屋陶板浴16周年 #富くじ付き回数券 #抗酸化りんご🍎 #深秋マルシェ #小峰一雄 #削らない歯科医が教える虫歯からがんまで消えていく仕組み #身体整え会 #腱引き #メタトロン #カイロプラクティック #腸もみ #頭蓋骨カイロ #トークセン #霊氣 ≪11月のスケジュール≫ 15日(月)若石(足もみ) 15日(月)笑いヨガ 無料 16日(火)玄米お握り販売🍙 17日(水)ファスティングセミナー 無料 17日(水)氣功 18日(木)フラ&ストレッチ 無料 21日(日)ファスティングセミナー 無料 22日(月)若石(足もみ) 23日(火)16周年記念イベント🎊 24日(水)若石(足もみ) 25日(木)フラ&ストレッチ 無料 26日(金)大人手芸部 無料 29日(月)若石(足もみ) 30日(火)玄米お握り販売🍙 30日(火)血液検査と氣流し療法 ≪12月のスケジュール≫ 4日(土)「パパDr.に訊く!子どもを守るために今、家庭と社会でパパ&ママができること」ふわり 11日(土)細胞喜ぶ呼吸法WS 22日(水)「血液検査の見方」無料学習会 28日(火)年の瀬自然食品販売会 ≪🎍年末年始営業時間のご案内🐯≫ 12月29日 通常営業 6:00-20:00 12月30日 午前営業 6:00-12:00 12月31日 休業 1月1日 休業 1月2日 短縮営業 9:00-12:00 1月3日 短縮営業 9:00-12:00 1月4日 通常営業 6:00-20:00 (株式会社 竹屋陶板浴) https://www.instagram.com/p/CWRy8hsBPYm/?utm_medium=tumblr
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natsucrow820 · 2 years
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イデアの眼差し
「人の目を見て話す。昔から言われて来たものですが、近年、若者たちの中でそのマナーが急速に薄れつつあることが社会問題となっております」
 いかにも社会派、というような生真面目なスーツに身を固めた記者が、すらすらと言葉を連ねる。対するこちらが草臥れた白衣と言うのは本来褒められたものではないだろうが、まあ、演出と言う奴である。彼らはおしなべて「らしさ」を欲しがる。雑誌の小さなコラムにどれ程が求められるのかは定かではないが。
「背景にはインターネット依存があると一部研究者の間では言われています。常にインターネットに接続し情報を獲得しようとする為に常時検索フォームを視界端に用意、ネット検索を絶えず行うが故に視線はほぼフォームに釘付けになり当然目の前の人間にその眼差しは向かないと、そういう因果関係なのではと」
 もっともらしく頷く。まあ、全くの出鱈目ではない。
「この件について、情報脳科学の権威たるサリヴァン教授に今回はお話を伺いたいのです」
「成る程」
 相槌。どう話すべきか、記者はどんな意見を欲しがっているのか――考えを巡らそうとして、止める。どうせ、そう大きくない記事と聞いている。多少好きにしたところで文句は出まい。
「まあ、概ねその通りだとは思いますよ。人の目を見るという慣例が廃れた理由としては妥当でしょう。電脳核を埋め込めば我々は端末なしで常にネットワークに接続されていますからね。情報収集のハードルは今や無に等しい。その分、人々は常に情報を欲しがるようになってしまった。人と話している時でさえ、その言葉の端々に未知���あれば迷いなく視界端に設置した検索窓に入力し、その意味を詳らかにする。極めて高度な情報社会故の所作と言えるでしょう」
 ふんふんと真剣な顔で話を聞く記者。概ね想定通り、と言った反応だ。だが、それでは少々味気ない。
「ただ、それが何の問題なんでしょうね?」
「はい?」
「人の目を見て話しなさい。成る程、ずっと周知されてきたマナーです。ですがね、それを何時までも正しいと捉えることを、私は敢えて問題視したいと思うのですよ」
 意図的に目を覗き込む。
「貴方は先程、若者たちと言いましたね」
「え、ええ」
「それはつまり、アンケートなどを取った結果、そういう声が若者からは上がらず上の世代からは多く出てきたと、そういう認識でよろしかったですか?」
「そうですね、はい、うちの調べで」
「ありがとうございます。であれば、私の推論も全くの出鱈目と誹られることはなさそうだ。私はね、この習慣は若者の中には――電脳核を使いこなす者たちの間には最早何の意味もなくなっているのではないかと、そう推測しています」
 すい、と恐らくはアンケート結果を見ているのだろう横に逸れた記者の視線を眺めながら言う。
「電脳核が普遍的なものになりつつある昨今、我々はインターネットと密接な関わりを持つようになりました。常に接続されているものに依存呼ばわりするのは、そもそもがナンセンスではないかと思う訳です。同時に外界から与えられる情報を検索し意味を明らかにするという行為は、ともすれば今の人類には呼吸にも等しい行為であると考えてもいます」
 視界の隅に検索窓を展開する。インターネットに接続し、公使する為の本人にしか見えない仮想レイヤー。そこに旧来のデバイスを模した無機質なボックスが表示され、カーソルが点滅する。意味もなく記者の所属する出版社の名前を検索してみた。一瞬で検索結果が視界の外周を埋め尽くした。
「とは言え、我々の目はそこまで器用ではありません。現実世界の情報を得る為には、どうしたってネットの為の仮想レイヤーは主たる視界を妨げないように配置するしかない。まあ、人体の限界と言う奴ですね」
 これでもぎりぎりまで現実の視界を切り詰めている。狭くなった視界の中で、記者が頷く。
「となれば、我々は常にネットと現実世界の視界を並べて生きていかなくてはなりません。日常的にね。何しろ電脳核が普遍的なものになったことで、我々は急速に扱う情報量が増えてしまったのですから。そうなれば、間に合わないんですよね、常に二つの視界を見ていなければ現代の溢れるような情報は捌ききれない。これを当たり前にしてしまった若者なら尚更です」
 大学での講義を思い出す。誰も彼もがこちらを向かない風景。個人的には何も思うことはない。そう言えば、年配の教授などは嘆いていたなと、ふと思い出した。
「今の世の中では、そのマナーは足枷なのですよ、彼らには。そもそもそんなマナーを意識の片隅にさえ置いていない。かつての、情報のまだ疎らであった時代を生きた人間たちだけが、未だそんな慣例に囚われている。私個人としては、無駄な慣例などさっさと刷新するべきだと思いますよ」
 失礼、と胸元から煙草を取り出し火を点ける。きょとんと記者は完全に固まっている。
「まあ」
 流石にこんなものはまとめ難いだろう。少し可哀想になって言葉を継ぐ。
「要するに、技術の進化に伴ってそうした慣例も変わっていった方が良いのではないか、と、そういう話です。せっかく進化しているものに枷を付けるのは勿体ないですからね」
「成る程」
 ほっとしたように記者は頷く。内容が変わらずとも、棘を廃せばそれなりに扱い易いだろう。対外的な印象も含めて。こちらも、何も気難しく取っ付き難い人間を過度に演じる趣味はないのだ。
「ありがとうございます。実に参考になりました」
「いえ、こちらこそ面白いお話でしたよ」
 社交辞令。教授とは言え、こうした仕事も欠かすことは出来ない。真剣に話を聞く姿勢もあった。妙な記事に仕立て上げられることもあるまい。に��りと微笑んで、求められた握手に応じた。
「あ、最後に一つ、よろしいですか?」
「ええ。何でしょう」
「先程、人間の視界には限界があると仰られてましたが、人間がそれを克服することは出来るのでしょうか?」
 少し、考える。
「……現行の我々では、無理かと。どうしたって視界の変容に耐えられないと、今の所は考えています」
「成る程。中々難しいものなのですね。ありがとうございます」
 
 
   ・・・・・
 
  「嘘吐き、じゃあないんですか、これ」
「嘘は言ってない」
「えー」
 不満だ、と口を尖らせる少女に肩を竦める。ひょんなことで研究室に迎え入れた少女——標準的には中学生だろう——は以前のインタビューが載った雑誌をぺらぺらと無意味に捲りながらこれ見よがしに見せびらかして来る。
「今世代では無理と言ったが、お前ら次世代については言及してねえだろ」
「まあ、そう、でしょうけども」
「第一」
 尚も不服そうな彼女の顔を見る。雑誌に対する興味を失ったのだろう彼女の瞳は真っ直ぐこちらに向けられている。
「お前さんを基準に物を話すと色々と厄介なんだよ」
「良いじゃないですか。有望なサンプルですよ」
「そういうことを」
「『言っているんじゃなくて、下手な話をして無茶な——規定年齢に満たない電脳核処置を増やしたくないんだよ』ですよね」
 一言一句、脳内にあった言葉が彼女の口から放たれる。目を逸らさないまま、彼女の目が細められた。
「教授は結構倫理的な人ですよね。嫌いじゃないです。社会的でもあり、人格者。だからこんな小さな記事にだって鷹揚に応じてあげている。ここ、かなり小さな会社じゃないですか。バックナンバー見てますけど直近のインタビュー、いかにも予算内で頑張って集めましたって感じですよ」
「気が向いたんでな」
「それで良いですよ。私、そう言う所が好きで此処にいる節があるので。でもまあ、幾分、慎重に過ぎるのはいかがなものかと、ちょっぴり思うわけですよ」
 思わず眉を顰めてしまった。にこにことそれでも彼女は上機嫌そうだった。
「……分かってて言ってんだろ」
「分かっちゃいます?」
「そりゃな。お前さんの脳機能をお前さん以外で一等知っているのは俺だ」
「確かに。分かってますよ、教授の危惧も」
 研究室のテーブルに置かれていた紙パックのドリンクを手に取り彼女は笑う。
「一足跳びの進化なんて、碌なものじゃない」
「そう言うことだ」
 日常の一動作としてドリンクを飲む彼女の視界を想像しようとして、くらりと目眩。
 彼女にはお見通しなのだ。ごく幼少期から電脳核を身に付け、長くインターネットに触れてきた彼女は、ありとあらゆる情報をいとも容易く手に入れる。インターネットに繋がれた人間の思考も、同等に。
「こんなの、下手な人間は発狂もの、ですもんね」
 思考を読まれ、強引に共有された視界。
 現実世界も仮想世界もぐちゃぐちゃに重ねられた視界の中で、進化の極値たる彼女は悪戯っぽく笑った。
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kitsunehanachigusa · 3 years
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県内の習字教室を運営されている先生方と協力して今年で41回目を迎える書作展のご案内です。お時間許す方はご高覧頂ければ幸いです。
第74回岩手芸術祭は今週31日まで県民会館にて、上記日本習字書作展は11/1〜11/7まで花巻にて、釜石市民芸術文化祭は11/12〜11/14まで釜石TETTOにて、12月は12/23〜12/26銀座にて予定しております。今後とも生徒の皆さんと共に日々お稽古を重ねてまいりますのでよろしくお願い致します♡
そして、大槌教室から小5の可愛い生徒ちゃんがマイヤ書道展特別賞!をいただきました。おめでとう!【11/1〜11/21マイヤ マスト店さん展示と11/3マイヤチラシにて作品掲載】
鵜住居教室からは小4の可愛い生徒ちゃんが岩手芸術祭で入賞し、県内巡回展にて展示されるそうです。おめでとう!【12/3〜12/5県民会館展示】
高校からも一名可愛い生徒がマイヤ書作展特別賞おめでとう!
皆さま 大槌マストさんへ足をお運び下さい♪よろしくお願いします。
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