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#俺が見ていないとでも思ったかそんな甘い考えは捨てた方がいいぜ小次郎
totoshappylife · 1 year
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. 俺が見ていないとでも思ったか? そんな甘い考えは捨てた方がいいぜ。 #小次郎 #こじろう #見てる #甘い #高い所 #覗く #猫 #cat #ネコ ...
. 俺が見ていないとでも思ったか? そんな甘い考えは捨てた方がいいぜ。 #小次郎 #こじろう #見てる #甘い #高い所 #覗く #猫 #cat #ネコ …
. 俺が見ていないとでも思ったか? そんな甘い考えは捨てた方がいいぜ。 #小次郎 #こじろう #見てる #甘い #高い所 #覗く #猫 #cat #ネコ #動物 #かっこいい #かわいい #茶トラ #茶トラ部 #ねこすたぐらむ #ねこ好き#nekoclub #instacat #catstagram #cutepets #pet Source
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greater-snowdrop · 11 months
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毒を食らわば皿まで
うちよそ。フェドート←ノルバ(パパ従兄弟) ※モブの死/暴力・性暴力行為の示唆
 揺れる焚火を前にマグを両手で包み込む。時折枯れ木が弾ける音を拾いながら、岩場に座すノルバはじっと揺れる炎を見据えていた。泥水より幾分かましなコーヒーはすっかり湯気が消え去り、食事の準備をしていたはずの炊き出し班がいつの間にやら準備を終えて、星夜にけたたましく轟く空襲に負けぬ大声で飯だと叫んでいた。バニシュを応用した魔法結界と防音結界が張られているとはいえ、人の気配までは消すことが出来ないがゆえに常に奇襲が警戒されるこの前哨地において、食事は貴重な愉楽のひとつである。仲間たちが我先にと配膳の前に列を成していくその様子を、ノルバはついと視線だけを向けて捉えた。  サーシャ、ディアミド、キーラ、コノル、ディミトリ、マクシム、ラディスラフ、ヴィタリー。  炊き出しの列に並ぶ仲間の名を、かさついた口元だけを動かし声は出さずに祈るように唱える。土埃にまみれた彼らが疲弊しきった顔を綻ばせて皿を受け取っていく様に、ノルバは深く息を吐いた。
「おい、食わないと持たないぞ」 「っで」
 コン、と後頭部を何かで軽く叩かれ、前のめりになった姿勢に応じてマグの水面が揺れる。後ろを仰ぎ見れば、見慣れた顔が深皿を両手に立っていた。
「フェドート……」 「ほら、お前の分だ」 「ああ……悪ィな」
 ぬるくなったマグを腰かけている岩場に乗せ、フェドートから差し出された皿を受け取る。合金の皿に盛られたありあわせの材料を混ぜ込んだスープは、適温と言うものを知らないのか皿越しでも熱が伝わるほど酷く熱い。そういえば今日の炊事係にはシネイドがいたな、と彼女の顔を思い浮かべ苦笑いを零した。  皿を渡すと早々に隣を陣取ったフェドートは、厳つい顔に似合わず猫舌のために息を吹きかけて冷ましており、その姿に思わず小さく笑い声がもれる。すかさずノルバの腕を肘で突いてきたフェドートに「面白れェんだから仕方ねえだろ」と毎度の言い訳を口にすれば、彼は不服そうな顔を全面に出しながら「それで、」と話を切り上げた。
「さっきは何を考えていたんだ。お前がぼうっとしているなんて、珍しい」 「…………ま、ちょっとな」
 ようやく冷まし終えた一口目を口に含んだフェドートに、ノルバは煮え切らない声で返した。彼の態度にフェドートはただ咀嚼しながら無言でノルバを射抜く。それに弱いの分かってやっているだろ、とは言えず、ノルバは手の中でほこほこと煮えているスープに視線を落として一口分を匙で掬った。  豆を中心に大ぶりに切られたポポトやカロットを香辛料と共に煮込んだスープは、補給路断たれる可能性が常にあり、戦況の泥沼化で食糧不足に陥りやすい前線において比較的良い食事であった。フェドートが別途で袋に詰めて持ってきたブレッドや干し肉のことも考えれば、豪華と言えるほどである。まるで、最期の晩餐のようなものだ。  ───実際、そうなるのかもしれないが。  ため息を吐くように匙に息を吹きかけ、口内を火傷させる勢いのスープを口に放り込んだ。ブレッドと食べることを前提に作ったのだろう。濃い味付けのそれは鳴りを潜めていた空きっ腹を呼び覚ますのには十分だった。  フェドートとの間に置かれたブレッド入りの袋に手を伸ばす。だが彼はそれを予測していたらしく、袋をさっと取り上げた。話すまで渡さないという無言の圧を送られたノルバは観念して充分に噛んだ具材を飲み下す。表面上を冷ましただけではどうにもならなかった根菜の熱さが喉を通り抜けた。
「次の作戦を考えてた。今日までの作戦で死者が予想以上に出るわ、癒し手が不足してるわで頭が重いのはもちろんだが、副官が俺の部下九人を道連れにしたモンだからどうにもいい案が浮かばなくてな」
 言って、ノルバはフェドートの手から袋を奪取すると中から堅焼きのブレッドを取り出し、やるせなさをぶつけるように噛み千切った。何があったのか尋ねてきた彼に、ノルバはくい、と顎で前哨地に設営された天幕を指す。中にはヒューラン族の男が一人とロスガル族の男が二人。ノルバと同じく、部隊指揮官の者達だった。折り畳み式の簡易テーブルの上に置かれた詳細地図を取り囲み話をしているが、平行線をたどっているのか時折首を振る様子や頭を掻く様子が見える。  お前は参加しなくていいのか、とノルバに問おうとして、ふと人数が足りないことに気付いた。ここにはノルバ率いる第四遊撃隊と己が所属し副官を務める第二先鋒隊、その他に第八術士隊と第十五歩兵隊に第七索敵隊がいたはずだ。そう、もう一人部隊長が────確かヒューラン族の女がいたと思ったが。  フェドートが違和感を覚えたことを察したのか、ノルバはスープに浸したブレッドを飲み下すとぬるいコーヒーを手に取り、その味ゆえか、はたまたこの状況ゆえか、眉間に皺を寄せつつ少量啜った。
「セッカ……索敵隊の隊長な、昨日遅くに死んだんだわ。今回の作戦は早朝の索敵と妨害がねェ限り成り立たなかったろ? 俺はその代打で一時的に遊撃隊を離れて第七索敵隊の指揮を預かってた。…………そうしたら、このザマだ」 「……副隊長はどうしたんだ、彼女が死んだのならそいつが立つべきじゃあないのか?」 「普通はな。ただ、まあ、お前と同じだよ。副官としては優秀だが、全体を指揮する人間とは畑が違う。本人の自覚に加えて次の任務は少しの失敗もできないとあって、俺にお鉢が回ってきたってェわけだ」
 揺れる焚火の薪が音を立てて弾けた。フェドートはノルバの言葉に思い当たる節があるのか、「ああ……」と声を零すと干し肉を裂いてスープの中に落としていく。ノルバはその様子に僅かに口角を上げると、ブレッドをまたスープに浸して食みながら状況を語った。  曰く、昨日遅くに死んだセッカは直前まで普段と至って変わらない様子だったという。しかし、日付が変わる直前、天幕で早朝からの作戦に向けての確���作業中にセッカは突如嘔吐をして倒れ、そのままあっけなく死んだ。彼女のあまりにも急すぎる死に検死が行われた結果、前回の斥候で腕に負った傷から遅効性の毒が検出され、毒死という結論に至った。  本人に毒を受けた自覚がなかったこと、術士隊がその日は夜の任であり癒し手の人数が不足していたため軽症者は各自で応急処置をしていたこと、その後帰還した術士隊も多数の死傷者を抱えて帰ってきたこと等、様々な不幸が折り重なって生まれた取り返しのつかない出来事だった。  問題は死んだ時間である。早朝からの任務を控えていたセッカが夜分に死亡し、且つ翌朝の作戦は必要不可欠であったため代理の指揮官を早々に選出しなければならなかった。だが、セッカの副官である男は「己にその器たる資格なし」と固辞し、索敵隊の者も皆今回の作戦の重大さを理解しているからこそ望んで進み出るものはいなかった。  その最中、索敵隊のひとりが「ノルバ殿はどうか」と声を上げたのだと言う。基本的にノルバは作戦に応じて所属が変わる立場だ。レジスタンス発足後間もない頃、何もかもを少数でこなさなければならない時期からの者という事もあって手にしている技術は多岐にわたる。索敵隊が推した所以である諜報技術もその一つだった。結局、せめて今回作戦だけでもと頼まれたノルバは一日遊撃隊を離れ、索敵隊を率いたという。
「別に悪いとは言わねェよ。あの状況で、索敵隊の精神状況と動かせるヤツを考えれば俺がつくのが妥当だ。俺はセッカがドマから客将として入ってから忍術の手ほどきも受けていたから、死んだと聞いた時から予想はしてた」 「………………」 「ああ、遊撃隊は生還率が高く、指揮官が一時離脱しても一戦はどうにかなると言われたな。実際、俺もどうにかなる……どうにかさせると思ってたさ。そうなるよう事前に俺がいない間の指示も伝えてから行った。だけどよ、前線を甘く見る馬鹿が俺がいないからって浮足立って独断行動をしたら、どうにもなんねェんだわ、そんなの」
 ブレッドの最後の一口を呑む。焚火の煙を追って、ノルバは天を仰いだ。帝国軍からの空襲は相変わらず止む気配がない。威嚇を兼ねたそれごときで壊れる青龍壁ではないが、星の瞬く夜空を汚すには十分だった。
「技術はあって損はないけどよ、その技術で転々とする道を進んだ結果、一度酒飲んで笑った仲間が、命を預かった部下が、てめェの知らねえとこで、クソ野郎の所為でくたばっていく度に、なんで俺は獲物一つの野郎でいられなかったんだと思う」
 目を瞑る。第四遊撃隊は今朝まで十六人だった。その、馬鹿な副官を合わせて十人。全体の約三分の二を喪った。良かったことと言えば、生き残った者たちが皆比較的軽症だったことだ。戦場で果てた者たちが、彼らの退路を守ってくれたという。死んだ部下たちの遺体は回収できなかった。帝国が回収し四肢切断やら臓器の取り分けやらをされて実験道具としているか、はたまた荒野に打ち捨てられたままか、どちらかだろう。明日戦場に出た時に目につくだろうか。もう既に腐敗は始まっているだろう。その頃には虫や鳥が集っているかもしれない。  とん、とノルバの背に手が触れた。戦場において味方を鼓舞するそれを半分隠せるほど大きな手。その手は子供をあやす父親のようにゆっくりと数回ノルバの背を叩くと、くせの強い彼の髪に触れた。届かない空を見上げていたノルバの視線をぐっと地に向かせるように、荒っぽいが情愛のある手つきでがしがしとかき回す。「零れるからやめろ馬鹿!」と騒ぐノルバに手を止めると、最後に彼の頭を二度軽く叩いて手を離した。  無理をするな、とも、泣いていい、とも言わない。それらがノルバにはできないことであり、また見せてはならない顔であることを元々軍属であったフェドートは理解していた。ノルバは片手で椀を抱えたままもう片方で眉間を抑え、深く息を吸って、吐いた。
「……今回の大規模な作戦目標は、この東地区の中間地点までの制圧だ。目標達成まであと僅か、作戦期間は残り一日。全部隊の半数以上が戦死し、出来る作戦にも限りがある……が、ここでは引けない。分かっているよな」 「ああ。この前哨地の後ろは湿地帯だ。今は雲一つない空だが、一昨日から今日の昼間までにかけての雨で沼がぬかるみを増している。下手に後退すれば沼を渡っている最中に敵に囲まれるのがオチだ。運よく抜け出せたとしても、晴れだしてきた天気の中ではすぐに追跡される。補給路どころか後衛基地の居場所を教えてしまうだろうな。襲撃されたら単なる任務失敗では済まない」 「そうだなァ、他にはあるか?」 「……第七索敵隊の隊長はドマからの客将だったな。彼女が死んだとあれば、仲間の命を優先して中途半端に任務を終えて帰るべきではない────いや、帰れないな。"彼女は勇敢に戦い、不幸にも命を落としました。また、甚大な被害が出たため作戦目標も達成することが出来ず帰還しました。"ではドマへの示しがつかない。せめて、目標は達成しなければどうにもならん」 「わかってるじゃねェの」
 くつくつと喉を鳴らして笑うノルバを横目に、フェドートは適温になってきたなと思いながらスープを食む。豆と根菜に内包された熱さは随分とましになっていた。馴染み深い香草と塩っ気の濃い味で口内を満たしながら、フェドートはこちらに向けられている視線へと眼光を光らせた。  鋭い獣の瞳の先にあるのは、ノルバが指した天幕。射抜かれたロスガルの男は肩をわずかに揺らすと、すぐに視線を地図へと戻した。フェドートは男の態度にすっと目線を椀へと戻すと、匙いっぱいにスープを掬う。具に押しのけられて溢れたスープが、ぼとぼとと椀に戻っていった。  万が一にでもこのまま撤退という話になれば────もしくは目標を達成できず退却戦となれば、後方基地に帰った後、まず間違いなくノルバは責任を問われる者のひとりになるだろう。ともすれば、全体の責任を負いかねない。ノルバ自身は最良を尽くし、明らかに自身の行いではないことで部下を大量に失っている身だが、皮肉なことに彼はボズヤ人でないことや帝国軍に身内を殺された経験を特に持たないことから周囲の反感を買っている。責任の押し付け合いの的にするには格好の獲物だ。  貴重な戦力であり、十二年ひたすらに積み重ねてきた武勲もある。まず死ぬことはないだろうが相応の折檻はあるだろう。フェドートは息子同然の子の師であり、共にボズヤ解放を目指す戦友であるノルバにその扱いが待ち受けているのが分かっているからこそ、引けないとも思っていた。ノルバ本人にそのことを言っても「いつものことだ」と笑うから決して口にはしてやらないが。  汁がほとんど匙から零れ、具だけが残ったそれを口に運ぶ。いつの間にかノルバは顔から手を離していた。血糊の瞳と、濁った白銀の瞳はただ前を見つめている。ノルバは肩から力を抜くように大きく息を吐き出すと、フェドートに続くように匙いっぱいにスープを掬い大口を開けて食べ、袋から干し肉を取り出して頬張った。
「ま、何にしろ全体の損失を考えりゃここでは引けねェが、簡単に言えばあと一日持たせてもう目と鼻の先にある目的を達成さえすればどうとでもなるんだ。なら、大人しく仰々しいメシを食いながら全滅を待つこたァねえ。やっこさんを出し抜いて、一泡吹かせてやろうじゃねェの」 「本当に簡単に言うなぁ……」 「そんぐらいの気持ちでいかなきゃやってけねェんだよ、ここじゃあな。ダニラ達もあっちで相当頭捻ってるし、案外メシ食ってたら何か、し、ら…………」
 饒舌に動いていた口が止まる。急に黙り込んだノルバにフェドートは怪訝そうな顔でどうしたと彼を見やる。眼に映った顔は、笑っていた。  ノルバの手の中で、空の匙が一度踊る。そのしぐさに目を奪われていると、匙はこちらを指してきた。
「なあ、フェドート。アンタ、俺の副官になる気はないか?」
 悪戯を思いついたこどものような表情だった。しかし、彼の声色が、瞳が、冗談なのではないのだと語る。「は、」とフェドートは吐息のごとく短い声を上げた。ノルバは手を引いて袋の中からまたブレッドを手に取る。「ようはこういうことだ」ノルバは堅く焼いたそれを一口大に引きちぎり、ぼとり、と残り半分もないスープの中に落とした。
「遊撃隊と」
 ぼとり。
「先鋒隊と」
 ぼとり。
「索敵隊。この三部隊を統合して俺の指揮下に置き、一部隊にしたい」
 三つのかけらを入れたスープをノルバは匙でくるりと回す。突飛な発想だった。確かに遊撃隊はノルバを含め僅か六人の生存者しかいない。どこかの部隊に吸収されるか、歩兵隊あたりから誰かを引き抜いてくる必要はあるだろうが、わざわざ先鋒隊と索敵隊をまとめる必要があるかと言われれば否である。  帝国との兵力差は依然としてある状況でいかにして勝ち進めることができているのかと問われれば、それは部隊を細かく分けて配置し、ゲリラ戦で挑んでいるからに他ならない。それをノルバはよく知っているだろうに、何故。  答えあぐねているフェドートにノルバは真面目だなと笑うと、策があるのだと語った。
「承諾が得られるまで細けェことは話せねェが、成功率は高いはずだ。交戦時間が短く済むだろうからな。それが生存率に繋がるかと言われれば弱いが、生き残ってる奴らの肉体と精神両方の疲労を考えれば、戦えば戦うほど不利になるだろうし、どうせ負けりゃほとんどが死体だ。だったら勝率を優先した方がいい。ダニラのヤツは反対するかもしれねェが……俺が作戦の立案者で歩兵隊と変わらない規模の再編隊を率いるとなれば、失敗したら責任を負いたくない野郎共は頷くだろ」 「おいノルバ、」 「で、これの問題点と言やァ、デケェリスクと責任を全部しょい込んで無茶苦茶を通そうとする馬鹿の補佐につける奴なんて限られてるし、そもそも誰もつきたかねェってとこなんだが」
 ノルバ自身への扱いを聞きかねて小言を呈そうとした口を遮って続けられた言葉に、フェドートは息を詰まらせた。目の前の濁った白銀と血溜まりの瞳が炎を映して淡く輝く。
「その上で、だ。もう一度言うぞ、第二先鋒隊副隊長さんよ。生き残って勝つ以外は全部クソな俺の隣席だが、そこに全てを賭けて腰を据える気はないか?」
 吐き出された地獄へ導く言葉は弾んでいた。そのアンバランスさは他人が見れば奇怪に映るだろうが、フェドートにとってはパズルピースの最後の一枚がはめられ、平らになった絵画を目にした時のような思いだった。ああ、お前はこんなに暴力的で、強引で、けれども理性的な男だったのか。  「おっと、ギャンブルは嫌いだったっけか」とノルバが煽るように言う。彼の手の中でまた匙がくるりと弧を描いた。茨の海のど真ん中で踊ろうと誘っておきながら、退路をちらつかせるのは彼なりの優しさかそれとも意地の悪さか──おそらくは両方だろう。けれども、フェドートはここでその手を取らぬほど、野暮な男になったつもりはなかった。  フェドートが口角を上げて応える。ノルバは悪戯の成功したこどもの顔で「決まりだな」と言うと、浸したブレッドを頬張る。熱くもなく、かと言ってぬるくもない。シネイドが作ったであろう火だるまのようなスープはただ美味いだけのスープになっていた。  この機を逃すまいと食べ進めることに集中した彼に合わせてフェドートも小気味よく食事を進ませ、ノルバが最後の一口を口に入れるのに合わせてスープを飲み干す。は、と僅かに声を立てて息づくと、ノルバは空の皿を脇に置き腰のポーチを漁ると小箱を取り出した。フェドートはそれに嫌そうな顔を湛え腰を浮かせたが、「まあ待てよ」とノルバがにやにやと笑って彼の腕を掴んだ。その細い腕からは想像できないほどの力で腕をがっちりと掴んできた所為で逃げ道を塞がれる。もう片方の手でノルバは器用に小箱を開けた。中に鎮座していたのは煙草だった。
「俺が苦手なのは知っているだろう!」 「わーってるわーってる。そう逃げんなよ。願掛けぐらい付き合えって」
 スカテイ山脈の麓を生息地域とする特有の葉を使ったそれは、ボズヤでは広く市民に親しまれてきた銘柄だった。帝国の支配が根深くなり量産がしやすく比較的安価なシガレットが普及してからというもの、目にしなくなって久しかったが、レジスタンスのひとりが偶然クガネで発見し仲間内に再び流行らせたという。ノルバも同輩から教えられたらしく、好んで吸う側の一人だった。  ノルバは小箱から葉巻を取って口に咥えると、ポーチの中に小箱をしまい、代わりに無骨なライターを取り出して、フェドートに向かってひょいと投げた。フェドートが器用に受け取ったのを見るや否や彼は咥えた煙草を指差して、「ん」と喉の奥から言葉とも言えない声を上げた。フォエドートが嫌がる顔をものともせず、むしろそんなものは見ていないとばかりに長く白いまつげを伏せて火を待つノルバに、フェドートは観念してライターの蓋を開けると、押し付けるように彼の口元の上巻き葉を焦がした。
「今回だけだぞ。いいか、吐くときはこっちには、ぶっ、げほッ!」 「ダハハハハ!」
 フェドートが注意を言い終わるよりも先に、ノルバは彼に向かって盛大に煙を吐き出した。全身の毛を逆立ててむせる彼に、ノルバは腹を抱えてげらげらと笑う。
「お前なあ!」 「逃げねえのが悪ィんだよ、逃げねえのが」 「お前が離さなかったんだろうが!!」
 威嚇する猫のように叫ぶフェドートなどどこ吹く風で笑い続けるノルバに、「ったく……」と彼はがしがしと頭を掻く。ノルバの側に置かれた椀をしかめっ面のまま手に取り、もう片手で自身が使った皿と空になった麻袋を持ってフェドートは岩場から立ち上がった。
「こいつは片付けてくるから、吸い終わってから作戦会議に呼び出せよ、ノルバ」
 しかめっ面の合間から僅かに呆れた笑みを見せたフェドートは、ノルバに背を向けると配膳の天幕から手を振るシネイドの方へと足を進めた。その彼の後ろ祖型を目で追いながらノルバは膝に肘を立て頬杖をつくと、いまだくつくつと喉からもれだす笑い声は殺さないまま焚火の煙を追うように薄く狼煙を上げる葉巻を弄ぶ。
「他のヤツならこれでイッパツなのになァ。わっかんねェな、アイツ。おもしれえの」
 フェドートの背中にふうっと息を吐く。煙で歪んだ彼の背は掴みどころが見つからない。ノルバはもう一度吸ってその煙幕をさらに深くするように吐きだすと、すっかり冷めたコーヒーを飲み干して立ち上がった。
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retepom · 3 years
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【キラキラ輝くために】No.076【僕らはめぐり逢ったと思うから】
先程は失礼しました、全頁に満遍なく推しが存在していて感想が一生まとまらない私です。とりあえずヒロアカで膝をついて号泣し、脳内アンケート会議が平家の趣き。毎週悩みますよね…ロボコにアンケ入れます。前文から脱線芸を見せてしまいました、情緒不安定本誌ネタバレ感想のお時間となりますので、未読の方と推しへの言及が多い感想が苦手な方は回れ右で何卒。
「今回の作戦で最も危険な男…」
「それが不減のクリードだ」
  最 も 危 険 な 男
 冒頭から顔が良すぎる。最も危険な男の不敵な笑みにハートキャッチプリキュアされてるイカれたオタクなので主人公からその危険性がティーンズに示唆されるのヤバすぎてヤバい(初手から語彙をドブに捨てる音)
アンディにタンクトップの理が追加された瞬間左肩大胆キャストオフなの勘弁してほしいですね。不死は白タンクトップって決まりでもあるの?中年の肌着っぽさで加齢が加速しているけれど大丈夫で…あ、いや違うんだ決してビリー隊長をディスったわけでは うん あの
身体は再生すれど戻らぬ衣服にクロちゃんの不在を感じて寂しさを覚える。先週蜂の巣にされた分も再会するまではそのままなんだよな……風クロちゃん早く帰ってきてぇ!アンデラコンプライアンス委員会最後の砦!!
不死の俺でも再生が追い付かず成す術が…なんだけれど例えばヴィクトルの再生力でも難しいんだろうか。ていうかヴィクトルには是非一度UNDER全員と闘って欲しくて…戦勝の神、言葉は厳しいけれどコーチが上手だからさ……
「だが互いの力を信頼し能力を最大限出せば お前達は最強コンビだ!」
トップくんのバディ枠は一心だと思っていたんですが、最近はすっかり姿を見せませんね…同年代で正反対の能力コンビは勿論アツいのだけれど!
アンディ、この距離感で二人と接していてトップくんからはまだ名前で呼んではもらえないのか。しかしチカラくんがUNIONに加入する時に黙って頭に手を置いたのとか、シェンへの拳骨とか、今回のダブル頭撫でとか、アンディから他者への接触行動にどんどん“感情”が乗っかっていってるの、心の臓に沁みて仕方が無い。その時“必要かどうか”じゃなくて“自分がそうしたいから”やってる雰囲気。風子相手だけじゃないんだよなぁ…
「チカラ!目を閉じろ!!」
「閃光だ!!」
 うわやっぱり使ってきた!!!先週は腕に巻いてある装備の作画無かったから装備品曖昧な部分もあったけど持ってるよね…そうだよね…不死に最凶とまで言わせるだけあって、容赦なんて微塵も無い…目潰しアイテムの代表格ですよねスタングレネードは……そもそも身体がデカいから掌ひとつとっても死角なんていくらでも作れてしまうのも恐ろしい…いやマジでデカいな?2mは確実だと思っていたけど実は3mある??ヴィクトルの肩幅と同じでどんどん伸びるの???
 [無理にでも!! 距離を…]
 [詰め…]
 [天井のガレキと粉塵で俺と不動対策?]
 [あくまで俺を撃ったとみせかけて!?]
ヒェ…………ッ
 [能力だけじゃない… コイツは…]
「チカラ!!」
「このっ!!」
「チカ…」「ラ…」
……ハァ"………ッ……………
「これでもう」
「不動は使えねぇ」
……お"…………ッ………ァ………………………
これもう現行犯逮捕だよ………………………(???)
恐怖演出が過ぎない?アンデッドアンラック、いつからサイコホラーアクション漫画だった…??シェンの腹に穴が空いた時も生きた心地はしなかったけれど、何、この…事件性が高い………(??)深夜枠じゃないと放送できないよ…………
義手の脱着方法、円卓では手動で外していたのにいつの間にか転送式になってるし……またUNDERの謎テクノロジーが更新されてしまった…
いやしかし、ホントに…瓦礫と粉塵で遮られた空間で身体が自分の倍以上ある大男に胸ぐら掴まれてゴーグル叩き割る威力で顔面殴られる恐怖エグ過ぎん…??数ヶ月前まで高校生だった少年が耐えられる種類のソレじゃないだろ……大人でも気絶するわ普通に。
「大丈夫かチカラ!!」
 [ダメだ…勝てない…]
トップくんが口に出さないまでも“勝てない”って判断するの、そこそこ冷静な分析なのも含めて心が折れる。仮にも1度は成人男性の首を折った蹴りを「軽いな」って言われてるのがまずもって辛過ぎるんだよ…ビリー様の首が座ってなかった可能性も微レ存だけれど(ふざけないと心が死ぬ)どんな鍛え方してんのやっぱバケモノじゃん……すき…装備もだけど肉体が既に人間をやめている。延髄への強打も顎への強打も効かないってそれ人と呼べる…??不可触アタックの折にファンがクリードを助けた理由も何となく察せる。こりゃ能力で他人に殺されるには惜しい人材だよなジジイ…
「敗因はお前だ」「不停止」
「不動はよくやったよ 船で見た腰抜けとは別人だ」
「だがトドメを刺す役割の不停止に」
「攻撃力が無さすぎる」
で、でたァ〜〜〜ッ!!アンデラ名物、落として上げて落として冷静な分析で色濃い絶望を与える男達!!!
「不動の発動まではお前たちの優勢だった!」
「何故そんな意味のねェ組み合わせで挑んできやがった!」
ギィイ……ぐうの音もでん…こっから先はトップくんの戦意を削ぐ精神攻撃的な意味も含んでるだろうからあえて不動を上げて大声出してるんだろうし、追撃も一切緩めないの、マジで戦闘のプロは伊達じゃないんだよな…“能力だけじゃない”ことに絶望するのはファンの時にもあったが…
「半端なダチに頼るから仕留め損なった!!」
「能力を極めるなら自己で完結すべきなんだよ」
いよいよファンみたいなこと言い出したじゃん…こわい……推しがこわ、……ん………半端なダチ……?…能力を極めるなら自己で完結………??なんか、なんか含みが、含みがないかこれ……声がヤケにデカいような………これは贔屓目で見てるからそう思うだけですか助けて第三者委員会
「速く走れて何になる」
…ハンドガンのスライドを口で引くの最高すぎんか………?いや、面装備の段差に引っ掛けてるから正確には口では無いけれど…“左腕が無い”って事実の再確認含めて良…良……
そういえばビリーはリボルバーなんだけどクリードはオートマチックなんだよなぁ。クリードの手のサイズを考えたらデザートイーグルか?ベレッタM92Fっぽさも……??デザイン的にはSIG SAUER P320も近い……??でも後々チカラくんの足を撃ち抜けてる(吹っ飛んでない)あたり威力は低め……??何方か!!この中に拳銃特定班の方はいらっしゃいませんか!!?!?お願いします!!!!推しの愛銃で救われる命があるんです!!!!!!!
ガチでバイオシリーズのラスボス前か?となる程度には武装全積の推しだけれど本人のスペックがタイラントないしネメシスのそれだし一度や二度撃退した程度では許してもらえないアレ こわい 助けてスーパーコップ
 [やるっきゃねーのか…]
これは追い詰められた事による勝てなくても俺が戦わねばのやるっきゃねーなのか、それとも何かあんまり実戦したくない奥の手があってのやるっきゃねーなのか…
「お前ら2人はすぐには殺さない」
「ビリーの能力に」「必要なんでな」
ボスとか隊長じゃなくて呼び捨てだ!命令に笑顔()でアイアイサーするけど畏まるつもりは無さそう。任務だけ確実に遂行していく人間ほど怖いモンはない。この振る舞いで意外とビリー心酔派って可能性も捨て切れないけれど、国盗りは独立した野望だろうから、そのために今為すべきはビリーに協力してUNIONの殲滅と春退治をすることだと判断して行動しているのかなぁ。
この発言だとやっぱりビリーのコピー能力はコピーした否定者が生存していないとダメみたいですね。まぁそうでなきゃUNIONはも��と人数を削られているからな…リスク無し(痛いけどすぐ治る)不停止なんてめちゃくちゃ使い勝手良いし……
「あ"あ"」
「チカラ!!」
おい!!UNIONのスーツ!!!防弾は、防弾はどうしたんだ!!上半身だけか!!!!
「邪魔な手足はもいでも構わんだろ」
構うわ!!構えよ!!!アンタも腕1本持ってかれてんだろ!!!!
「これでテメェの能力は死んだ」
「次はてめぇだ」「不停止」
悪役テンプレ台詞の千本ノックがUNSTOPPABLEじゃん。本当に口が減らねえな!!!そういうとこも好きだけど!!!!
「トップくん」「ボクは大丈夫」
なんも大丈夫やないで……大丈夫やない………
「アンディさん言ってたでしょ」
「ボク達は」
「最強のコンビだって…」
重野力ァ……………………………………(頭抱え)
「クッ」「クク」
「自分だけ逃げるたぁいい判断じゃねぇか!!」
「感心だぜ!!テメーらはもっと甘っちょろい奴だと思ってたよ!!」
「いい相棒だなぁ!」「チカラくんよぉ!!」
『チカラくん』って呼び方、この場でトップくんは使ってないんだよな…これ完全に円卓で風子が使ったニュアンスで煽ってきてるじゃん……こわ…記憶力というか語彙の引き出しもエグい。
しかしまぁよく喋るんだよな。言葉も武器のうちというか…恐怖心を煽って実力差で戦意を喪失させていく様な圧…ファンの口上は主だってシェンやアンディに向けられていたからそういう威圧感は無かった(圧倒的過ぎる強さは不気味だったけれど)ところ、クリードはそれを発している相手が中高生男子の年齢層なのが問題なのよ……いやまぁファンもムイちゃんと風子絶対殺すマンになってたけどさ…ファンが「死ね小娘」って言うより生かしたまま目を潰して足を撃ち抜いてくるクリードの方がヤバく見えるの何で?いやどっちもヤバいとかいうレベル超えてるやろもしもしポリスメン??
「お前は誰かに命を預けるのが…」
「怖いんだ」
アッ…ち、チカラくん、待って、そのへんの分析は、まだ無理して喋らなくても、いいよ!!?クリード、今回は全頁面装備そのままだから目でしか表情が読めないんだけれど、公式の台詞でそこらへんに言及されたら私は供給過多で身体が破裂して死ぬ。助けてまだ死にたくない!!
「ボクは知ってる」
「誰かを信じて戦うのがどれだけ強いか」
風子の後ろ姿やアンディの声を思い出してるの本当に…もう……今はそんなアンディの背中を押して、風子を助けようとしてるんだもんな。やっと自分も、その立場にいる、っていう、そういう…そういうアレなのよ………(感情)
「トップくんは…」
「ボクを信じて走り出したんだ」
「そんな事も分からず トップくんをバカにした」
足、あ、撃たれてるのに、眼だって痛いとかいう次元じゃない筈なのに……もうやめてチカラくんが、チカラくんが………ッ……!!!
「それがお前の敗因だ」
「クリード!!」
もう、震え、ない……………………
  「動くな」
「ボクが信じる友達が 光の速さに届くまで!!」
ハァッ……ア……………!!!!!!
重野力ァアーーーーーッッッ!!!!!!!!!
ア"ア"ア"ア"ァ"ッ"(号泣)
お前の敗因を宣言できるのはもう実質空条承太郎の精神力なのよ……たったひとつのシンプルな答え…(3部承りとチカラくんはタメ)
ていうかトップくん何しに…死ぬ程助走つけて戻ってくる?ネクタイ外した理由は何だ??いやこれ、一心お手製の武装転送フラグ?風で変身ベルトを??あ〜か〜いあか〜い〜赤い仮面のV3???ていうかもうこの引きは来週主題歌と言う名の処刑用BGMがかかること間違い無しなのよ(ニチアサ脳)クリードの念入りなフラグ建築がガッツリ回収されてしまうな!!!!
 余談ですが、夏編におけるファンとの闘いの時はテーマのひとつに『家族』があったと思うんですよね。それでいうと今回の場合は『友達』かな。UNIONサイドの不動と不停止の友情ってだけじゃなくて、トップくんが“仲間”にこだわる言動が多い理由とか過去の掘り下げ、クリードが今の人格を形成するに至った切っ掛けの掘り下げなどが『友達』という関わりを軸に進行していく気がしている。ただVSファンよりは因縁が無くて尺も取らないだろうから来週か再来週には決着してしまう可能性もあるんだよなぁ。ファンには少しの救済(一縷の涙)があったけれどクリードは多分そういう形の救済がされないと思うのでいっそ完全な悪として華々しく…いや……もうあれだ…許されなくても…………みっともなくても……………生きてくれ…………………(情緒グズグズのオタク)
アンデラキャラ“目的の為の蹂躪”ランキング、堂々の第1位はやっぱりファンだと思うしそうなると2位がクリード?となりますが、アンディとてUNION入りの為にボイドとジーナを手にかけて風子を守るためにショーンを真っ二つにしてるので結構いい勝負してる気がして来た。リップはこの頃すっかりガラは悪いけど人の良いお兄さんだからな…この人かて他人の腹かっ割いて尋問してるんでなかなかですよね?ヴィクトルは風子へのアレをどうカウントするか悩むところ(?)
 最後も半分脱輪して終わりましたが今自分の持つ倫理観と推しへの愛が脳内会議で殴り合っていて決着が全くつかないので来週の本誌までに力尽きていたら骨は拾ってください。
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groyanderson · 3 years
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ひとみに映る影シーズン2 第六話「どこまでも白い海で」
☆プロトタイプ版☆ こちらは無料公開のプロトタイプ版となります。 最低限の確認作業しかしていないため、 誤字脱字誤植誤用等々あしからずご了承下さい。 尚、正式書籍版はシーズン2終了時にリリース予定です。
(シーズン2あらすじ) 私はファッションモデルの紅一美。 旅番組ロケで訪れた島は怪物だらけ!? 霊能者達の除霊コンペとバッティングしちゃった! 実は私も霊感あるけど、知られたくないなあ…… なんて言っている場合じゃない。 諸悪の根源は恩師の仇、金剛有明団だったんだ! 憤怒の化身ワヤン不動が、今度はリゾートで炸裂する!!
pixiv版 (※内容は一緒です。) ☆キャラソン企画第六弾 金城玲蘭「ニライカナイ」はこちら!☆
དང་པོ་
 アブが、飛んでいる。天井のペンダントライトに誘われたアブが、蛍光灯を囲う四角い木枠に囚われ足掻くように飛んでいる。一度電気を消してあげれば、外光に気がついて窓へ逃げていくだろう。そう思ったのに、動こうとすると手足が上がらない。なら蛍光灯を影で覆えば、と思うと、念力も込もらない。 「一美ちゃん」  呼ばれた方向を見ると、私の手を握って座っている佳奈さん。私はホテルの宴会場まで運ばれて、布団で眠っていたようだ。 「起きた?」  障子を隔てた男性側から万狸ちゃんの声。 「うん、起きたよ」 「佳奈ちゃん、一美ちゃん、ごめん。パパがまだ目を覚まさなくて……また後でね」 「うん」  佳奈さんは万狸ちゃんとしっかり会話出来ている。愛輪珠に霊感を植え付けられたためだ。 「……タナカDはまだ帰って来ないから、私が一美ちゃんのご両親に電話した。私達が千里が島に連れてきたせいでこんな事になったのに、全然怒られなかった。それどころか、『いつか娘が戦わなければいけない時が来るのは覚悟していた。それより貴女やカメラマンさんは無事なのか』だって……」  ああ。その冷静な受け答えは、きっとお母さんだ。お父さんやお爺ちゃんお婆ちゃんだったらきっと、『今すぐ千里が島に行って俺が敵を返り討ちにしてやる』とかなんとか言うに決まってるもん。 「お母さんから全部聞いたよ。一美ちゃんは赤ちゃんの時、金剛有明団っていう悪霊の集団に呪いをかけられた。呪われた子は死んじゃうか、乗り越えられれば強い霊能者に成長する。でも生き残っても、いつか死んだら金剛にさらわれて、結局悪い奴に霊力を利用されちゃう」  佳奈さんは正座していた足を崩した。 「だけど一美ちゃんに呪いをかけた奴の仲間に、金剛が悪い集団だって知らなくて騙されてたお坊さんがいた。その人は一美ちゃんの呪いを解くために、身代わりになって自殺した。その後も仏様になって、一美ちゃんや金城さんに修行をつけてあげた」  和尚様……。 「一美ちゃんはそうして特訓した力で、今まで金剛や悪霊と戦い続けてた。私達と普通にロケしてた時も、この千里が島でもずっと。霊感がない私やタナカDには何も言わないで……たった一人で……」  佳奈さんは私から手を離し、膝の上でぎゅっと握った。 「ねえ。そんなに私達って信用できない? そりゃさ。私達は所詮、友達じゃないただの同僚かもしれないよ。けど、それでも仲間じゃん。幽霊見えないし、いっぱい迷惑かけてたのかもしれないけど」  ……そんな風に思った事はない、と答えたいのに、体が動かなくて声も出せない。 「いいよ。それは本当の事だし。てかだぶか、迷惑しかかけてこなかったよね。いつもドッキリで騙して、企画も行先も告げずに連れ回して」  そこは否定しません。 「だって、また一美ちゃんと旅に出たいんだもん。行った事のない場所に三人で殴り込んで、無茶して、笑い合って、喧嘩して、それでも懲りずにまた旅に出るの。もう何度も勝手に電源が落ちるボロボロのワイヤレス付けて、そのへんの電器屋さんで買えそうなカメラ回してね。そうやって互いが互いにいっぱい迷惑かけながら、旅をしたいんだよ」  …… 「なのに……どうして一人で抱えこむの? 一美ちゃんだって私達に迷惑かければいいじゃん! そうすれば面白半分でこんな所には来なかったし、誰も傷つかずに済んだのに!」 「っ……」  どの口が言うんですか。私が危ないって言ったって、あなた達だぶか面白半分で首を突っ込もうとする癖に。 「私達だって本当にヤバい事とネタの分別ぐらいつくもん! それとも何? 『カラキシ』なんて足手まといでしかないからってワケ!?」 「っ……うっ……」  そんな事思ってないってば!! ああ、反論したいのに口が動かない! 「それともいざという時は一人でどうにかできると思ってたワケ? それで結局あの変態煙野郎に惨敗して、そんなボロボロになったんだ。この……ダメ人間!」 「くっ……ぅぅうううう……」  うるさい、うるさい! ダメ人間はどっちだ! 逃げろって言ったのにどうして戻ってきたんだ! そのせいで佳奈さんが……それに…… 「何その目!? 仲間が悪霊と取り残されてて、そこがもう遠目でわかるぐらいドッカンドッカンしてたら心配して当然でしょ!? あーそうですよ。私があの時余計な事しなければ、ラスタな狸さんが殺されて狸おじさんが危篤になる事もなかったよ! 何もかも私のせいですよーっ!!」 「ううう、あああああ! わああぁぁ!」  だからそんな事思ってないってば!! ていうか、中途半端に私の気持ち読み取らないでよ! 私の苦労なんて何も知らなかったクセに!! 「そーだよ! 私何もわかってなかったもん! 一美ちゃんがひた隠しにするから当たり前でしょぉ!?」 「うわあああぁぁぁ!! うっぢゃぁしいいいぃぃ、ごの極悪ロリーダァァァ!!」 「なん……なんだどおぉ、グスッ……この小心者のっ……ダメ人間!」 「ダメ人間!」 「ダメ人間!!」 「「ダメ人間ーーーっ!!!」」  いつの間にか手足も口も動くようになっていた。私と佳奈さんは互いの胸ぐらを掴み合い、今まで番組でもした事がない程本気で罵り合う。佳奈さんは涙で曇った伊達眼鏡を投げ捨て、私の腰を持ち上げて無理やり立たせた。 「わああぁぁーーっ!」  一旦一歩引き、寄り切りを仕掛けてくる。甘いわ! 懐に入ってきた佳奈さんの右肩を引き体勢を浮かせ、 「やああぁぁぁーーっ!!」 思いっきり仏壇返し! しかし宙を回転して倒れた佳奈さんは小柄な体型を活かし即時復帰、助走をつけて私の頬骨にドロップキックを叩きこんだ!! 「ぎゃふッ……あヤバいボキっていった! いっだあぁぁ!!」 「やば、ゴメン! 大丈夫?」 「だ……だいじょばないです……」  と弱った振りをしつつ天井で飛んでいるアブを捕獲! 「んにゃろぉアブ食らえアブ!」 「ぎゃああああぁぁ!!!」 <あんた達、何やってんの?> 「「あ」」  突然のテレパシー。我に返った私達が出入口を見ると、口に血まみれのタオルを当てて全身傷だらけの玲蘭ちゃんが立っていた。
གཉིས་པ་
 アブを外に逃がしてやり、私は玲蘭ちゃんを手当てした。無惨にも前歯がほぼ全部抜け落ちてしまっている。でも診療所は怪我人多数で混雑率二〇〇%越えだという。佳奈さんに色んな応急手当についてネットで調べてもらい、初心者ながらにできる処置は全て行った。 「その傷、やっぱり散減と戦ったの?」 <うん。口欠湿地で。本当に口が欠けるとかウケる> 「いや洒落になんないでしょ」 <てか私そもそも武闘派じゃないのに、あんなデカブツ相手だなんて聞いてないし> 「大体何メートル級だった?」 <五メートル弱? 足は八本あった>  なるほど。なら牛久大師と同じ、大散減の足から顕現したものだろう。つまり地中に潜む大散減は、残りあと六本足。 <てか一美、志多田さんいるのに普通に返事してていいの?> 「あ……私、もうソレ聞こえてます」 <は?>  私もこちらに何があったかを説明する。牛久大師が大散減に取り込まれた。後女津親子がそれを倒すと、御戌神が現れた。私は御戌神が本当は戦いたくない事に気付き、キョンジャクで気を正した。けど次の瞬間金剛愛輪珠如来が現れて、御戌神と私をケチョンケチョンに叩き潰した。奴は私を助けに来た佳奈さんにも呪いをかけようとして、それを防いだ斉二さんがやられた。以降斉一さんは目を覚まさず、タナカDと青木さんもまだ戻ってきていないみたいだ、と。そこまで説明すると、玲蘭ちゃんは頭を抱えて深々とため息をついた。 <最ッ悪……金剛マターとか、マジ聞いてないんだけど……。てか、一美もたいがい化け物だよね。金剛の如来級悪霊と戦って生きて帰れるとか> 「本当、なんで助かったんだろ……。あの時は全身砕かれて内臓ぜんぶ引きずり出されたはずなんだけど」 <ワヤン化してたからでしょ> 「あーそっか……」  砕けたのは影の体だけだったようだ。 「けど和尚様から貰ったプルパを愛輪珠に取られちゃって、今じゃ私何にもできない。だってあいつが、和尚様の事……実は邪尊教の信者だとか言い出すから……」 <は!? 観音和尚が!? いや、そんなのただの侮辱に決まってるし……> 「…………」 <……なに、一美? まさか心当たりあるの!?> 「あの」  佳奈さんが挙手する。 「あの。何なんですか? そのジャソン教とかいうのって」 <ああ、チベットのカルト宗教です。悪魔崇拝の仏教版と言いましょうか> 「じゃあ、河童の家みたいな物?」  とんでも��い。 「テロリストですよ。ドマル・イダムという邪尊の力を操ってチベットを支配していた、最悪の独裁宗派です」 「そ、そうなの!?」  ドマル・イダム。その昔、とある心優しい僧侶が瀕死の悪魔を助け、その情け深さに心打たれた悪魔から不滅の心臓を授かった。そうして彼は衆生の苦しみを安らぎに変える抜苦与楽(ばっくよらく)の仏、『ドマル・イダム(紅の守護尊)』となった。しかしドマルは強欲な霊能者や権力者達に囚われて、巨岩に磔にされてしまう。ドマルには権力者に虐げられた貧民の苦しみや怒りを日夜強制的に注ぎ込まれ、やがてチベットはごく少数の貴族と無抵抗で穏やかな奴隷の極端な格差社会になってしまった。 「この事態を重く見た当時のダライ・ラマはドマル信仰を固く禁じて、邪尊教と呼ぶようにしたんです」 「う、うわぁ……悪代官だしなんか罰当たりだし、邪尊教まじで最悪じゃん……」 <罰当たり、そうですね。チベットでは邪尊教を戒めるために、ドマルの仏画が痛々しい姿で描かれてます。まるで心臓と神経線維だけ燃えずに残ったような赤黒い体、絶望的な目つき、何百年も磔にされているせいで常人の倍近く伸びた長い両腕……みたいな> 「やだやだやだ、そんな可哀想な仏画とか怖くて絶対見れない!」  そう、普通の人はこういう反応だ。だからチベット出身の仏教徒にむやみに邪尊教徒だと言いがかりをつけるのは、最大の侮辱なんだ。だけど、和尚様は……いや、それ以上考えたくない。幼い頃、和尚様と修行した一年間。大人になって再会できた時のこと。そして、彼に授かった力……幸せだったはずの記憶を思い起こす度に、色んな伏線が頭を過ぎってしまう。 <……でも、一美さぁ>  玲蘭ちゃんは口に当てていた氷を下ろし、私を真正面から見据えた。 <和尚にどんな秘密があったのか知らないけど、落ちこむのは後にしてくれる? このまま大散減が完全復活したら、明日の便に乗る前に全員死ぬの。今まともな戦力になるの、五寸釘愚連隊とあんたしかいないんだけど> 「私……無理だよ。プルパを奪われて、影も動かせなくなって」 <それなら新しい武器と法力を探しに行くよ> 「!」 <志多田さんも、来て> 「え? ……ふええぇっ!?」  玲蘭ちゃんは首にかけていた長い数珠を静かに持ち上げる。するとどこからか潮騒に似た音が聞こえ、私達の視界が次第に白く薄れていく。これは、まさか……!
གསུམ་པ་
 気がつくと私達は、白一色の世界にいた。足元にはお風呂のように温かい乳白色の海が無限に広がり、空はどこまでも冷たげな霧で覆われている。その境界線は曖昧だ。大気に磯臭はなく、微かに酒粕や米ぬかのような香りがする。 「綺麗……」  佳奈さんが呆然と呟いた。なんとなく、この白い世界に私は来たことがある気がする。確か初めてワヤン不動に変身した直後だったような。すると霧の向こうから、白装束に身を包む天女が現れた。いや、あれは…… 「めんそーれ、ニライカナイへ」 「玲蘭ちゃん!?」「金城さん!?」  初めてちゃんと見たその天女の姿は、半人半魚に変身した玲蘭ちゃん。肌は黄色とパールホワイトのツートーンで、本来耳があった辺りにガラスのように透き通ったヒレが生えている。元々茶髪ボブだった頭も金髪……というより寧ろ、琉球紅型を彷彿とさせる鮮やかな黄色になっていた。燕尾のマーメイドドレス型白装束も裏地は黄色。首から下げたホタル玉の数珠と、裾に近づくにつれてグラデーションしている紅型模様が美しく映える。 「ニライカナイ、母なる乳海。全ての縁と繋がり『必要な物』だけを抜粋して見る事ができる仮想空間。で、この姿は、いわゆる神人(かみんちゅ)ってやつ。わかった?」 「さっぱりわかりません!」  私も佳奈さんに同じく。 「よーするにここは全ての魂と繋がる母乳の海で、どんな相手にもアクセスできるんです。私が何か招き入れないと、ひたすら真っ白なだけだけど」  母乳の海。これこそまさに、金剛が欲しがってやまない『縁の母乳』だ。足元に広がる海水は、散減が吐く穢れた物とはまるで違い、暖かくて淀みない。 「今からこの海で、『マブイグミ』って儀式をする。一美の前世を呼んでパワーを分けて貰うってわけ。でもまず、折角だし……志多田さんもやってみますか?」 「え、私の前世も探してくれるんですか!? えーどうしよ、緊張するー!」 「アー……多分、思ってる感じと違いますよ」  玲蘭ちゃんは尾ビレで海水を打ち上げ、飛沫から瞬く間にススキの葉を錬成した。そして佳奈さんの背中をその葉でペンペンと叩きながら、 「まぶやー、まぶやー、うーてぃくよー」  とユルい調子で呪文を唱えた。すると佳奈さんから幾つもの物体がシュッと飛び出す。それらは人や動物、虫、お守りに家具など様々で、佳奈さんと半透明の線で繋がったまま宙に浮いている。 「なにこれ! もしかして、これって全部私の前世!? ええっ私って昔は桐箪笥だったのぉ!?」 「正確には箪笥に付着していた魂の欠片、いわゆる付喪神です。人間は物心つくまでに周囲の霊的物質を吸収して、七歳ぐらいで魂が完成すると言われています。私が呼び戻したのは、あなたを構成する物質の記憶。強い記憶ほど鮮明に復元できているのがわかりますか?」  そう言われてみると、幾つかの前世は形が朽ちかけている。人間の霊は割と形がはっきりしているけど、箪笥や虫などは朽ちた物が多い。 「たしかに……このおじさん、実家のお仏壇部屋にある写真で見たことあるかも。写真ではもっとおじいさんだったけど」 「亡くなった方が必ずしも亡くなったご年齢で現れるとは限らないんですよ」  私が補足した。そう、有名なスターとか軍人さんとかは、自分にとって全盛期の姿で現れがちなんだ。佳奈さんが言うおじさんも軍服を着ているから、戦時中の御姿なんだろう。  すると玲蘭ちゃんは手ビレ振り、佳奈さんの前世達を等間隔に整列させた。 「志多田さん。この中で一番、あなたにとって『しっくりくる』者を選んで下さい。その者が一つだけ、あなたに力を授けてくれます」 「しっくりくるもの?」  佳奈さんは海中でザブザブと足を引きずり、きちんと並んだ前世達を一つずつ見回っていく。 「うーん……。やっぱり、見たことある人はこのおじさんだけかな。家に写真があったなら、私と血が繋がったご先祖様だと思うし……あれ?」  ふと佳奈さんが立ち止まる。そこにあったのは、殆ど朽ちかけた日本人形。 「この子……!」  どうやら、佳奈さんは『しっくりくる前世』を見つけたようだ。 「私覚えてる。この子は昔、おじいちゃん家の反物屋にいたお人形さんなの。けど隣の中華食堂が火事になった時、うちも半焼しちゃって、多分だからこんなにボロボロなんだと思う」  佳奈さんは屈んで日本人形を手に取る。そして今にも壊れそうなそれに、火傷で��照った肌を癒すように優しく海水をかけた。 「まだ幼稚園ぐらいの時だからうろ覚えだけど。家族で京都のおじいちゃん家に遊びに行ったら、お店にこの子が着てる着物と同じ生地が売ってて。それでおそろいのドレスを作ってほしいっておじいちゃんにお願いしたんだ。それで東京帰った直後だよね、火事。誰も死ななかったけど約束の生地は燃えちゃって、お人形さんが私達を守ってくれたんだろうって話になったんだよ」  佳奈さんが水をかける度に、他の魂達は満足そうな様子で佳奈さんと人形に集約していく。すると玲蘭ちゃんはまた手ビレを振る。二人を淡い光が包みこみ……次の瞬間、人形は紺色の京友禅に身を包む麗しい等身大舞妓に変身した! 「あなたは……!?」 「あら、思い出してくれはったんやないの? お久しぶりどすえ、佳奈ちゃん」  それは見事な『タルパ』だった。魂の素となるエクトプラズム粒子を集め、人工的に作られた霊魂だ。そういえば玲蘭ちゃんが和尚様から習っていたのはこのタルパを作る術だった。なるほど、こういう風に使うために修行していたんだね。  佳奈さんは顕現したての舞妓さんに問う。 「あ、あのね! 外でザトウムシの化け物が暴れてるの! できれば私もみんなと一緒に戦いたいんだけど、あなたの力を貸してくれないかな?」  ところが舞妓さんは困ったような顔で口元を隠した。 「あらあら、随分無茶を言いはりますなぁ。うちはただの人形やさかい、他の方法を考えはった方がええんと違います?」 「そっかぁ……。うーん、どうしよう」 「佳奈さん、だぶか霊能力とは別の事を聞いてみればいいんじゃないですか? せっかく再会できたんだから勿体ないですよ」 「そう? じゃあー……」  佳奈さんはわざとらしいポーズでしばらく考える。そして何かを閃くと、わざとらしく手のひらに拳をポンと乗せた。 「ねえ。童貞を殺す服を着た女を殺す服って、結局どんな服だと思う? 人生最大の謎なんだけど!」 「はいぃ???」  舞妓さんがわかっていないだろうからと、玲蘭ちゃんがタルパで『童貞を殺す服』を顕現してみせた。 「所謂、こーいうのです。女に耐性のない男はこれが好きらしいですよ」  玲蘭ちゃんが再現した童貞を殺す服は完璧だ。フリル付きの長袖ブラウスにリボンタイ、コルセット付きジャンパースカート、ニーハイソックス、童話の『赤い靴』みたいなラウンドトゥパンプス。一見露出が少なく清楚なようで、着ると実は物凄く体型が強調される。まんま佳奈さんの歌詞通りのコーデだ。 「って、だからってどうして私に着せるの!」 「ふっ、ウケる」  キツキツのコルセットに締め付けられた私を、舞妓さんが物珍しそうにシゲシゲと眺める。なんだか気恥ずかしくなってきた。舞妓さんはヒラヒラしたブラウスの襟を持ち上げて苦笑する。 「まあまあ……外国のお人形さんみたいやね。それにしても今時の初心な殿方は、機械で織った今時の生地がお好きなんやなあ。うちみたいな反物屋育ちの古い人形には、こんなはいからなお洋服着こなせんどす」  おお。これこそ噂の京都式皮肉、京ことば! 要するに生地がペラッペラで安っぽいと言っているようだ。 「でも佳奈ちゃんは、『おたさーの姫』はん程度にならもう勝っとるんやないの?」 「え?」  舞妓さんは摘んでいたブラウスを離す。すると彼女が触れていた部分の生地感が、心なしかぱりっとした気がする。 「ぶっちゃけた話ね。どんなに可愛らしい服でも、着る人に品がなければ『こすぷれ』と変わらへん。その点、佳奈ちゃんは立派な『あいどる』やないの。お歌も踊りもぎょうさん練習しはったんやろ? 昔はよちよち歩きやったけど、歩き方や立ち方がえろう綺麗になってはるさかい」  話しながらも舞妓さんは、童貞を殺す服を摘んだり撫でたりしている。その度に童貞を殺す服は少しずつ上等になっていく。形や色は変わらなくても、シワが消え縫製が丁寧になり、まるでオーダーメイドのように着心地が良くなった。そうか、生地だ。生地の素材が格段にグレードアップしているんだ! 「うちらは物の怪には勝てへんかもしれんけど、童貞を殺す服を着た女に負けるほど弱い女やありまへん。反物屋の娘の誇りを忘れたらあかんよ、佳奈ちゃん」  舞妓さんは童貞を殺す服タルパを私から剥がすと、佳奈さんに当てがった。すると佳奈さんが今着ているサマーワンピースは輝きながら消滅。代わりにアイドルステージ上で彼女のトレードマークである、紺色のメイド服姿へと変身した。けどただの衣装じゃない、その生地は仙姿玉質な京友禅だ! 「いつものメイド服が……あ、これってもしかして、おそろいのドレス!?」  舞妓さんはにっこりと微笑み、輝くオーラになって佳奈さんと一体化する。京友禅メイド服とオーラを纏った佳奈さんは、見違えるほど上品な風格を帯びた。童貞やオタサーの姫どころか、全老若男女に好感を持たれる国宝級生人形(スーパーアイドル)の誕生だ!
བཞི་པ་
「まぶやー、まぶやー、ゆくみそーれー」  またしても玲蘭ちゃんがゆるい呪文を唱えると、佳奈さんの周囲に残っていた僅かな前世残滓も全て佳奈さんに吸収された。これでマブイグミは終了だ。 「金城さんごめんなさい。やっぱり私、バトルには参加できなさそうです……」 「お気になさらないで下さい。その霊的衣装は強いので、多少の魔物(マジムン)を避けるお守り効果もあります。私達が戦っている間、ある程度護身してて頂けるだけでも十分助かります」 「りょーかいです! じゃあ、次は一美ちゃんの番だね!」  いよいよ、私の前世が明らかになる。家は代々影法師使いの家系だから、力を取り戻してくれる先代がいると信じたい。 「まぶやー、まぶやー、うーてぃくよー」  玲蘭ちゃんが私の背中を叩く。全身の毛穴が水を吹くような感覚の後、さっき見たものと同じ半透明の線が飛び出した。ところが…… 「あれ? 一美ちゃんの前世、それだけ??」  佳奈さんに言われて自分から生えた前世達を見渡す。……確かに、佳奈さんと比べて圧倒的に少ない。それに形も、指先ほど小さなシジミ蝶とか、書道で使ってた筆とか、小物ばっかり。玲蘭ちゃんも首を傾げる。 「有り得ないんだけど。こんな量でまともに生きていけるの、大きくてもフェレットぐらいだよ」 「うぅ……一美ちゃん、可哀想に。心だけじゃなくて魂も小さいんだ……」 「悪かったですね、小心者で」  一番考えられる可能性としては、ワヤン不動に変身するためのプルパを愛輪珠に奪われたからだろう。念力を使う時、魂の殆どが影に集中する影法師の性質が仇となったんだ。それでも今、こうして肉体を維持できているのはどういう事か。 「小さくても強いもの、魔除けとか石とか……も、うーん。ないし……」 「じゃあ、斉一さんのドッペルゲンガーみたいに別の場所にも魂があるってパターンは?」 「そういうタイプなら、一本だけ遠くまで伸びてる線があるからすぐわかる」 「そっか……」  すると、その会話を聞いていた佳奈さんが私の足元の海中を覗きこんだ。 「ねえこれ、下にもう一本生えてない?」 「え?」  まじまじと見ると、確かにうっすらと線が見えなくもない。すると玲蘭ちゃんが尾ビレを振って、私の周囲だけ海水を退けてくれた。 「あ、本当だ!」  それは水が掃け、足元に残った影溜まりの中。まるで風前の灯火のように薄目を開けた『ファティマの目』が、一筋の赤黒い線で私と繋がっている。そうか。行きの飛行機内で万狸ちゃんを遠隔視するのに使ったファティマの目は、本来邪悪な物から身を守る結界術だ。私の魂は無意識に、これで愛輪珠から身を守っていたらしい。 「そこにあったんだ。やっぱり影法師使いだね」  玲蘭ちゃんがファティマの目を屈んで掬い取ろうとする。ところが、それは意志を持っているように影の奥深くに沈んでしまった。 「ガード固っ……一美、これどうにかして取れない?」  参ったな。念力が使えれば影を動かせるんだけど……とりあえず、影法師の真言を唱えてみる。 (ナウマク・サマンダ・バザラダン・カン・オム・チャーヤー・ソワカ)  だめだ、ビクともしない。じゃあ次は、和尚様の観世音菩薩の真言。 (オム・マニ・パドメ・フム)  ……ん? 足の指先が若干ピリッときたような。なら和尚様タイプⅡ、プルパを発動する時にも使う馬頭観音真言ならどうか。 (オム・アムリトドバヴァ・フム・パット!)  ピクッ。 「あ、今ちょっと動いた? おーい、一美ちゃんの前世さーん!」  佳奈さんがちょんちょんと私の影をつつく。他の真言やお経も試してみるべきか? けど総当りしている時間はないし…… —シムジャナンコ、リンポチェ……— 「!」 —和尚様?— —あなたの中で眠る仏様へ、お休みなさい、と申したのです。私は彼の『ムナル』ですから……—  脳裏に突然蘇った、和尚様と幼い私の会話。シムジャナンコ(お休みなさい)……チベット語……? 「タシデレ、リンポチェ」  ヴァンッ! ビンゴだ。薄目だった瞳がギョロリと見開いて肥大化し、私の影から飛び出した! だけどそれは、私が知っているファティマの目とまるで違う。眼球ではなく、まるで視神経のように真っ赤なエネルギーの線維が球体型にドクドクと脈動している。上下左右に睫毛じみた線維が突き出し、瞳孔に当たる部分はダマになった神経線維の塊だ。その眼差しは邪悪な物から身を守るどころか、この世の全てを拒絶しているような絶望感を帯びている。玲蘭ちゃんと佳奈さんも堪らず視線を逸らした。 「ぜ、前世さん、怒ってる?」 「……ウケる」  チベット語に反応した謎のエネルギー眼。それが私の大部分を占める前世なら、間違いなく和尚様にまつわる者だろう。正直、今私は和尚様に対してどういう感情を抱いたらいいのかわからなくなっている。でも、たとえ邪尊教徒であろうとなかろうと、彼が私の恩師である事に変わりはない。 「玲蘭ちゃん、佳奈さん。すいません。五分だけ、ちょっと瞑想させて下さい」  どうやら私にも、自分の『縁』と向き合うべき時が来たようだ。
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 ……釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩……。座して目を閉じ、自分の影が十三仏を象る様を心に思い描く。本来影法師の修行で行う瞑想では、ティンシャやシンギング・ボウルといった密教法具を使う。けど千里が島には持ってきていないし、今の私にそれらを使いこなせる力もない。それでも、私は自らの影に佇むエネルギー眼と接続を試み続ける。繋がれ、動け。私は影。私はお前だ。前世よ、そこにいるのなら応えて下さい。目を覚まして下さい…… 「……ッ……!」  心が観世音菩薩のシルエットを想った瞬間、それは充血するように赤く滲んだ。するうち私の心臓がドクンと弾け、業火で煮えくり返ったような血が全身を巡る。私はその熱量と激痛に思わず座禅を崩してしまうが、次の瞬間には何事もなかったかのように体が楽になった。そしてそっと目を開けてみると、ニライカナイだったはずの世界は見覚えのある場所に変わっていた。 「石筵観音寺……!?」  玲蘭ちゃんが代わりに呟く。そう。ここは彼女も昔よく通っていた、私達の和尚様のお寺だ。けどよく見ると、記憶と色々違う箇所がある。 「玲蘭ちゃん、このお御堂、こんなに広かったっけ……?」 「そんなわけない。だってあの観音寺って、和尚が廃墟のガレージに張って作ったタルパ結界でしょ」 「そうだよ。それにあの外の山も、安達太良山じゃないよね? なんかかき氷みたいに細長いけど」 「あれ須弥山(しゅみせん)じゃん。仏教界の中心にある山。だぶか和尚はこの風景を基に石筵観音寺を作ったんじゃない? てーか、何よりさ……」 「うん。……いなくなってるよね、和尚様」  このお御堂には、重大な物が欠けている。御本尊である仏像だ。石筵観音寺では和尚様の宿る金剛観世音菩薩像がいらした須弥壇には、何も置かれていない。ここは、一体……。 「ねーえ! 一美ちゃんの和尚さんってチベットのお坊さんなんだよね? ここにいるよ!」 「「え?」」  振り返ると、佳奈さんがお御堂の奥にある扉を開けて中を指さしている。勿論観音寺にはなかった扉だ。私と玲蘭ちゃんが中を覗くと、部屋は赤い壁のシンプルな寝室だった。中心に火葬場の収骨で使うようなやたらと背の高いベッドが一つだけ設置されている。入室すると、そのベッドで誰かが眠っていた。枕元にはチベット密教徒特有の赤い袈裟が畳まれている。佳奈さんがいて顔がよく見えないけど、どうやら坊主頭……僧侶のようだ。不思議な事に、その僧侶の周りには殆ど影がない。 「もしもーし、和尚さん起きて下さい! 一美ちゃんが大ピンチなんですーっ!」  佳奈さんは大胆にも、僧侶をバシバシと叩き起こそうと試みる。ただ問題がある。彼は和尚様より明らかに背が低いんだ。 「ちょ、佳奈さんまずいですって! この人は和尚様じゃないです!」 「え、そうなの? ごめんごめん、てへっ!」 「てへっじゃないですよ………………!!?!?!??」  佳奈さんが退き僧侶の顔が見えた瞬間、私は全身から冷や汗を噴出した。この……この男は……!!! 「あれ? でも和尚さんじゃないなら、この人が一美ちゃんの前世なんじゃない? おーい、前世さムググム~??」  ヤバいヤバいヤバい!! 佳奈さんが再び僧侶をぶっ叩こうとするのを必死で制止した。 「一美?」  玲蘭ちゃんが訝しんだ。面識はない。初めて見る人だ。だけどこの男が起きたら絶対人類がなんかヤバくなると直感で理解してしまったんだ! ところが…… ༼ ……ン…… ༽  嘘でしょ。 「あ、一美ちゃん! 前世さん起きたよ! わーやば、このお坊さん三つ目じゃん! きっとなんか凄い悟り開いてる人だよ!」  あぁ、終わった……。したたび綺麗な地名の闇シリーズ第六弾、千里が島宝探し編終了。お疲れ様でした。 「ねー前世さん聞いて! 一美ちゃんが大ピンチなの! あ、一美ちゃんっていうのはこの子、あなたの生まれ変わりでー」 ༼ えっ、え?? ガレ……? ジャルペン……?? ༽  僧侶はキョトンとしている。そりゃそうだ、寝起きに京友禅ロリータが何やらまくし立てていれば、誰だって困惑する。 「じゃる……ん? ひょっとして、この人日本語通じない!?」 「一美、通訳できる?」 「むむ、無理無理無理! 習ってたわけじゃないし、和尚様からちょこちょこ聞いてただけだもん!」 「嘘だぁ。一美ちゃんさっきいっぱいなんかモゴモゴ言ってたじゃん。ツンデレとかなんとか」 「あ、あれは真言です! てか最後なんて『おはようございます猊下(げいか)』って言っただけだし」  私だけ腰を抜かしている一方で、佳奈さんと玲蘭ちゃんは変わらずマイペースに会話している。僧侶もまだキョトン顔だ。 「他に知らないの? チベット語」 「えぇー……。あ、挨拶は『タシデレ』で、お休みなさいが『シムジャナンコ』、あと印象に残ってるのは『鏡』が『レモン』って言うとか……後は何だろう。ああ、『眠り』が『ムナル』です」 ༼ ! ༽  私が『ムナル』と発音した瞬間、寝ぼけ眼だった僧侶が急に血相を変えて布団から飛び出した。 ༼ ムナルを知っているのか!? ༽ 「ふわあぁ!?」  僧侶は怖気づいている私の両腕をがっしと掴み、心臓を握り潰すような響きで問う。まるで視神経が溢れ出したような紅茶色の長い睫毛、所々ほつれたように神経線維が露出した肌、そして今までの人生で見てきた誰よりも深い悲壮感を湛える眼差し……やっぱり、間違いない。この僧侶こそが…… 「え? な、なーんだ! お坊さん、日本語喋れるんじゃん……」 「佳奈さん、ちょっと静かにしてて下さい」 「え?」  残酷にも、この僧侶はムナルという言葉に強い反応を示した。これで私の杞憂が事実だったと証明されてしまったんだ。だけど、どんな過去があったのかはともかく、私はやっぱり和尚様を信じたい。そして、自分の魂が内包していたこの男の事も。私は一度深呼吸して、彼の問いに答えた。 「最低限の経緯だけ説明します。私は一美。ムナル様の弟子で、恐らくあなたの来世……いえ、多分、ムナル様によって創られたあなたの神影(ワヤン)です。金剛の大散減という怪物と戦っていたんですが、ムナル様が私の肋骨で作られた法具プルパを金剛愛輪珠如来に奪われました。それでそこの神人にマブイグミして貰って、今ここにいる次第です」 ༼ …… ༽  僧侶は瞬き一つせず私の話を聞く。同時に彼の脳内で凄まじい速度で情報が整理されていくのが、表情でなんとなくわかる。 ༼ 概ね理解した。ムナルは、そこか ༽  僧侶は何故か佳奈さんを見る。すると京友禅ロリータドレスのスカートポケットに、僧侶と同じ目の形をしたエネルギー眼がバツッと音を立てて生じた。 「きゃあ!」  一方僧侶の掌は拭き掃除をしたティッシュのようにグズグズに綻び、真っ二つに砕けたキョンジャクが乗っていた。 「あ、それ……神社で見つけたんだけど、後で返そうと思って。でも壊れてて……あれ?」  キョンジャクは佳奈さんが話している間に元の形に戻っていた。というより、僧侶がエネルギー眼で金属を溶かし再鋳造したようだ。綻んでいた掌もじわじわと回復していく。 「ど、どういう事? 一美。ムナルって確か、観音和尚の俗名か何かだったよね……そのペンダント、なんなの?」  僧侶の異様な力に気圧されながら、玲蘭ちゃんが問う。 「キョンジャク(羂索)、法具だよ。和尚様の遺骨をメモリアルダイヤにして、友達から貰ったお守りのペンダントに埋め込んでおいたんだ」 ༼ この遺骨ダイヤ、更に形を変えても構わんか? ༽ 「え? はい」  僧侶は私にキョンジャクを返却し、お御堂へ向かった。見ると、和尚様のダイヤが埋まっていた箇所は跡一つなくなっている。私達も続いてお御堂に戻ると、彼はティグクという斧型の法具を持ち、装飾部分に和尚様のダイヤを埋め込んでいた。……ところが次の瞬間、それを露台から須弥山目掛けて思い切り投げた! 「何やってるんですか!?」  ティグクはヒュンヒュンと回転しながら須弥山へ到達する。すると、ヴァダダダダガァン!!! 須弥山の山肌が爆ぜ、さっきの何百倍もの強烈なエネルギー眼が炸裂! 地面が激しく揺れて、僧侶以外それぞれ付近の物や壁に掴まる。 ༼ 拙僧が介入するとなれば、悪戯に事が大きくなる…… ༽  爆風と閃光が鎮まった後の須弥山はグズグズに綻び、血のように赤い断面で神経線維が揺らめいた。そしてエネルギー眼を直撃したはずのティグクは、フリスビーのように回転しながら帰還。僧侶が器用にキャッチすると、次の瞬間それはダイヤの埋め込まれた小さなホイッスルのような形状に変化していた。 ༼ だからあなたは、あくまでムナルから力を授かった事にしなさい。これを吹けばティグクが顕現する ༽ 「この笛は……『カンリン』ですか!?」 ༼ 本来のカンリンは大腿骨でできたもっと大きな物だけどな。元がダイヤにされてたから、復元はこれが限界だ ༽  カンリン、人骨笛。古来よりチベットでは、悪い人の骨にはその人の使っていない良心が残留していて、死んだ悪人の遺骨でできた笛を吹くと霊を鎮められるという言い伝えがあるんだ。 ༼ 悪人の骨は癒しの音色を奏で、悪魔の心臓は煩悩を菩提に変換する。それなら逆に……あの心優しかった男の遺骨は、どんな恐ろしい業火を吹くのだろうな? ༽  顔を上げ、再び僧侶と目が合う。やっぱり彼は、和尚様の事を話している時は少し表情が穏やかになっているように見える。 ༼ ま、ムナルの弟子なら使いこなせるだろ。ところで、『鏡』はレモンじゃなくて『メロン』な? ༽ 「あっ、そうでしたね」  未だどこか悲しげな表情のままだけど、多少フランクになった気がする。恐らく、彼を見た最初は心臓バクバクだった私もまた同様だろう。 「じゃあ、一美……そろそろ、お帰ししてもいい……?」  だぶか打って変わって、玲蘭ちゃんはすっかり及び腰だ。まあそれは仕方ない。僧侶もこの気まずい状況を理解して、あえて彼女と目を合わさないように気遣っている。 「うん。……リンポチェ(猊下)、ありがとうございました」 「一美ちゃんの前世のお坊さん、ありがとー!」 ༼ 報恩謝徳、礼には及ばぬ。こちらこそ、良き未来を見せて貰った ༽ 「え?」 ༼ かつて拙僧を救った愛弟子が巣立ち、弟子を得て帰ってきた。そして今度は、拙僧があなたに報いる運びとなった ༽  玲蘭ちゃんが帰還呪文を唱えるより前に、僧侶は自らこの寺院空間を畳み始めた。神経線維状のエネルギーが竜巻のように這い回りながら、景色を急速に無へ還していく。中心で残像に巻かれて消えていく僧侶は、最後、僅かに笑っていた。 ༼ 衆生と斯様にもエモい縁を結んだのは久しぶりだ。また会おう、ムナルそっくりに育った来世よ ༽
ལྔ་པ་
 竜巻が明けた時、私達はニライカナイをすっ飛ばして宴会場に戻っていた。佳奈さんは泥だらけのサマードレスに戻っているけどオーラを帯びていて、玲蘭ちゃんの口の怪我は何故か完治している。そして私の手には新品のように状態の良くなったキョンジャクと、僅かな視神経の残滓をほつれ糸のように纏う小さなカンリンがあった。 「あー、楽しかった! 金城さん、お人形さんと再会させてくれてありがとうございました! 一美ちゃんも、あのお坊さんめっちゃ良い人で良かったね! 最後エモいとか言ってたし、実はパリピなのかな!? ……あれ、金城さん?」  佳奈さんが振り返ると同時に、玲蘭ちゃんは焦燥しきった様子で私の首根っこを掴んだ。今日は色んな人に掴みかかられる日だ。 「なんなの、あの前世は」  その問いに答える代わりに、私は和尚様の遺骨(カンリン)を吹いてみた。パゥーーーー……決して癒しの音色とは言い難い、小動物の断末魔みたいな音が鳴った。すると私の心臓に焼けるような激痛が走り、全身に煮えたぎった血が迸る! それが足元の影に到達点すると、カセットコンロが点火するように私の全身は業火に包まれた。この一連のプロセスは、実に〇.五秒にも満たなかった。 「そんなっ……その姿……!!」  変身した私を、玲蘭ちゃんは核ミサイルでも見るような驚愕の目で仰いだ。そうか。彼女がワヤン不動の全身をちゃんと見るのは初めてだったっけ。 「一美ちゃん! また変身できるようになったね! あ、前世さんの影響でまつ毛伸びた? いいなー!」  玲蘭ちゃんは慌ててスマホで何かを検索し、悠長に笑っている佳奈さんにそれを見せた。 「ん、ドマル・イダム? ああ、これがさっき話してた邪尊さん……え?」  二人はスマホ画面と私を交互に三度見し、ドッと冷や汗を吹き出した。憤怒相に、背中に背負った業火。私は最初、この姿は不動明王様を模したものだと思っていた。けど私の『衆生の苦しみを業火に変え成仏を促す』力、変身中の痛みや恐怖に対する異常なまでの耐久性、一睨みで他者を黙らせる眼圧、そしてさっき牛久大師に指摘されるまで意識していなかった、伸びた腕。これらは明らかに、抜苦与楽の化身ドマル・イダムと合致している! 「……恐らく、あの前世こそがドマルだ。和尚様は幼い頃の私を金剛から助けるために、文字通り彼を私の守護尊にしたんだと思う。でもドマルは和尚様に『救われた』と言っていた。邪尊教に囚われる前の人間の姿で、私達が来るまで安らかに眠っていたのが何よりの証拠だ。観世音菩薩が時として憤怒の馬頭観音になるように、眠れる抜苦与楽の化身に代わり邪道を討つ憤怒の化身。それが私……」 「ワヤン不動だったってわけ……ウケる」  ウケる、と言いつつも、玲蘭ちゃんはまるで笑っていなかった。私は変身を解き、キョンジャクのネックレスチェーンにカンリンを通した。結局ドマルと和尚様がどういう関係だったのか、未だにはっきりしていない。それでも、この不可思議な縁がなければ今の私は存在しないんだ。この新たな法具カンリンで皆を、そして御戌神や千里が島の人々も守るんだ。  私は紅一美。金剛観世音菩薩に寵愛を賜りし紅の守護尊、ワヤン不動だ。瞳に映る縁無き影を、業火で焼いて救済する!
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#076 ナビゲーター(袋小路でやぶから棒に)
 あの、すみません。まずは、あの、はい。お、お、落ち着いて。あ、すみますみすみすみません。とりあえずは、まずは、なにをおいても、こういう時は、ええ、絶対的、可及的、速やかに、落ち着くことが大前提かつ大事ですから。はい。とにかくまずは、深く、ふかく、ふか……げええっほんえふんげふんごめんなさいんんんっ。はい。深呼吸から……はあ、深呼吸から始めましょう。それから、すべてはそれからです。息をすう〜、はあ。すう〜、はあ、して。……そう、そーうですはいはい。はい。はい。よくできました〜。あっすみませんすみません。怒らないでください。馬鹿にしているわけではないんです。けっして、断じて、誓って、そんな失礼なこと、あなたにするわけないじゃありませんか。そう思いません? 思いますよね? よかったよかった。それでですね、まずはそのー。あっ、挨拶がまだでしたね。えと、おはようございます。あ違うか違いますね。はじめましてですねこういうときは。人と人がはじめて、こう、顔面を合わせると言いますか。初対面。そう、初対面、ですよね? 満員電車の中ですとか、信号待ちの間ですとか、もしかしたらもしかすると、偶然ばったり出会っていたのかもしれませんけど。あ、こういう場合――つまり、まだちゃんとした初対面の挨拶を交わすより以前に、あなたを見かけていた場合――も、ばったり、とか、偶然、って、使うんですかね? そこんところ、ちょっとよくわかんないんですけども。でも、そうですね、とりあえずは、はじめましてにしておきましょうか。しておいてください。どうか。どうか……。  えと、それでですね。あなたの頭には今、たくさんのハテナが浮かんでは消え浮かんでは消え――あ、消えてはいないですか。それは失礼しました――、していると思うんですよ。そりゃ思いますよ。思うことでしょう。誰だってこんな、非常時にはそういう思考回路が働くものです。誰だこいつら、と。なんでこんなに腰が低いんだ、と。そもそもなんで部屋にいるんだ、と。こんな早朝に、と。まだアラームが鳴る二時間も前なのに、と。得体の知れない輩に安眠を妨げられたぞ、と。今日は祝日なのに、と。小鳥のさえずりしか聴こえないくらい早朝じゃないか、と。チュンチュク鳴いてるあの小鳥はスズメだろうか、と。そうですおそらくスズメです。それにしても最近、スズメを見かけなくなりましたよね。なんでも年々スズメの数が減っているらしいですよ。ええ。ええ。本当ですとも。こんな所で嘘なんかついてなんになるんですか。こんな、高層ビルの裏の、袋小路の、ゴミ臭い、陽の当たらない場所で。……そうですとも、まだ寝ぼけてますね。大丈夫ですか? もう一度深呼吸しますか? コンコンコン、おーるーすーでーすーかー? いえいえ冗談ですってすみませんってばふふふ。ああ失礼。とにかく、今一度、辺りを見回してください。たっぷり、首を左右上下に、三往復くらい、動かしてみてください。首の運動には眠気をふきとばす効果もあります。そうしたら、けっして慌てずに、まずはこの文章に目線を戻しましょう。  これでようやくお分かりになりましたでしょうか。ああ、よかった。ホッとしました。とりあえず、ホッ、とさせてください。この仕事も、いろいろと気苦労が絶えないのです。ほら、その、あなたのように、イレギュラーな状況で浮空期に突入した場合、パニック障害を併発することもめずらしくないのです。ええ、ええ、ここだけの話。そうなんですよ。  まさか俺が。そう思ってますか? ついにきたか。そう思ってますか? なんでまたこんな時期に……。そう思ってますか? まあ、災難ですね、としか言いようがないですね。五年間、学生のころから付き合っている人と別れて、しかもその人には二年前から別の恋人がいて、つまりあなたは二年間浮気をされていて、しかも付き合っている人的にはあなたより浮気相手のほうが本命で要するにあなたは浮気されていたと言うよりあなたが付き合っている人にとっては浮気相手のようなもので、お荷物で、ただのヒモ野郎で、ノータリンで、……みたいなことを昨日の夜付き合っている人と付き合っている人の浮気相手に一方的にまくし立てられて、あなたは驚きすぎてなにも言い返せなくて、むしろ驚きを通り越してなにも感じなくて、なにも感じないのだから当然言うべき言葉も言いたい言葉もなにも浮かばずただあなたは「ふうん」という心持ちで冷蔵庫から缶チューハイ――夏みかん味の五〇〇ml――を取り出してグビグビ飲んで、飲んでいるうちにやっぱりなんだかムシャクシャするなあとぼんやり思い始めて、特に暴れもせず泣きわめきもせずに、無表情のまま付き合っている人の浮気相手の頭頂部に残りの缶チューハイをダバダバと注いで、付き合っている人も付き合っている人の浮気相手もなぜだかまったく動じずに「なにこいつ」といった眼をあなたに向けるだけで、缶チューハイを注ぎきったあなたは「ほいじゃ、俺はこれで」とでも言い出しかねないくらい気さくな身のこなしで玄関の百円ショップで買ったオレンジ色のサンダルを履いて、行きつけの、駅前のおでんの屋台にでも行こうかなと足を動かしはじめたはいいものの、途中でそっか今日日曜日だわおでん屋やってねーわってことに気づいてしばらく迷いながら歩いた結果駅前のカラオケ館に足が進んで、人生初の一人カラオケというものでもしてみようかという気持ちにだんだんなってきて、「一名で」なんて少しぶっきらぼうに、顔を横にぷいっとそむけそうなくらいそれはそれはぶっきらぼうな「一名で」を店員に向かって投げ捨てて、二〇一の札を笑顔の店員に渡されてあなたは仏頂面のまま二〇一号室までペチペチ――サンダル履いてますからね――歩いて、着いて、固いんだか柔らかいんだかはっきりしないソファーに体を沈めたあとに「別に俺、歌いたい曲ねえや」ってことに気づいてその言葉を実際に口に出して、何回か舌打ちしながらメニュー表をめくって少し迷った末にあなたは生ビールを頼んで、パリパリという音と共に今にも剥がれ落ちそうなくらい乾いた笑顔で店員がそれを運んできて、あなたは痙攣のような会釈だけして店員が去るのを待って、一息で飲んで、頼んで、飲んで、頼んで……、午前三時――つまり日付的には今日、ですね――の退出コールギリギリまでそれを繰り返して、千鳥足で、階段で二、三度転けそうになりながら、爪先立ちみたいな体勢で一階のレジまで歩いて、店員に番号札を渡してから「そういや俺財布持ってきてねーじゃん」ってことに気がついて、「やべ」と口から出かけて、千鳥足のまま操り人形みたいなぎこちない動きで右向け右をして、そのままダッシュで逃げて――お客様! おい! お客様! という声を後ろで聞きながら――この路地裏まで逃げて逃げて逃げて、倒れ込んで、眼を閉じて、そして眼を開けたら見知らぬタキシード姿のおっさんがいて、こんなあなたのプライベートな情報をペラペラと喋られているんですからね。ほんと、災難でした。いや、現在進行形で、残念ですね。ご愁傷さまです。あ、死んでないですね。しかしながらですね、もうちょっとクサい言い方をさせていただきますとあなた、あなたの心はもう死んでいるようなものです。あなたの半分、半身は、ご愁傷さまって感じですね。ほんと。ところでご愁傷さまってあなた、実生活で言われたことあります? 初めて言われたんじゃありませんか?  とりあえず、あなたは今、立ち上がっています。いますよね? まあ、地に足は着いていませんが――いえいえあなたの生き方がというわけではありません、ですからどうか、その握りこぶしを解いてください……そう、そう、ゆっくり、ゆっくりね――、とりえあず、〈立ち〉上がってはいます。ね。そうでしょう?  あなたみたいなケースはわりかしめずらしいのです。ですから、ええ、さきほどから再三、口をこれ以上ないというほどすっぱくして申し上げておりますが、どうか、落ち着いて、冷静に、行動なさることが肝要なのです。浮空期の初期段階に不慮の事故等で死亡してしまうケースはままあります。ですから、あなたのこれまでの人生の、常識の枠は一旦、外していただいて、どうか、説明委員会の言葉に耳を傾けていただきたい。いいですね? はい。いい返事です。そうしましたらまずは、説明委員会の名に恥じぬよう、簡単かつ簡潔に、ご説明のほう、させていただきます。  まずはそう、あなたの足元、ゆっくりと、再度確認してみましょう。はい、そうです。そうですね。浮いています。宙に浮かんでいますね。重力から解き放たれて。歩こうとしても足がスカスカッと空を切って歩けませんね。ええ。そうです。浮空期の間、通常の方法で――つまり、左右の足を交互に、前後に動かして体全体を前に押し進めるという方法のことですね――歩くことができません。ええ、ええ、仰りたいことはわかります。不便ですね。とーっても不便です。エスカレーターに乗ってもあなたの足の下で段差が動くだけです。エレベーターは……、ふふ……、ああ、いえ失敬。すべてを説明してしまっては興も冷めるというもの。わたくしども説明委員会は、過剰な説明は過剰な愛、を社訓――委員会の場合も社訓って言うんでしょうか――に掲げて日々浮空期の方々へのツボを押さえた適切かつ適度な説明――そう、それはほとんど愛――を心がけております。ああっ、そこそこ、その説明。あーちょうどいい、いやあいいわあ。きもちいい……。という声をいただくこともままあります。というわけで、あなたには、肝心要の部分のみ、ご説明させていただきます。あなたもこの宇宙の、この地球の、つまり、宇宙船地球号の乗組員である人間ならば、今、ご自分の体に起こっている現象、そしてその現象の名称、ある程度は理解しているはずです。なにしろ今は朝の七時。人間の脳みそが一番活発に動く時間帯です。もっとも、その三〇分前までに朝ごはんを食べていればの話ですが。あっ、そういえばタキシードの右ポケットに、あなたに会う前にコンビニで購入したおにぎり――焼きたらこ――が入っています。説明と、あなたの練習がてら、このタキシードの右ポケットから、自力で、おにぎりを取ってみてください。安心してください。取って食おうってんじゃないんですから――それに、取って食おうとしているのはあなたですよ――。さあ、指示通りに、体を動かしてみてください。まずはお尻の穴……肛門付近に力を入れてください。なかなか出てこないイケズな大便をひり出すように――もちろん、本当にひり出してはいけませんよ。そういう人、案外多いんです――。そして右人差し指の爪を甘咬みしてください。それが体を動かす方法です。車に例えると、肛門に力を入れることが、エンジンを吹かす行為、右人差し指の甘咬みが、エンジンとハンドルを操作する行為です。甘咬みしたまま手首を左右に動かすと、その動きに連動して……おお、そうそうそうです! その調子です! そのように、体が左右に回転します。そのまま手首を動かして、こちらに体を向けるようにして、はいはいその調子ですよ、そして、その状態で肛門に力を……そーうです! これで前進はわかりましたね。ちなみに後進――バック、ですね――したい場合は、おヘソの辺りに力を込めてください。腹筋を鍛えるような感じで……おおー、いいですね、いいですよ。はい、では、もう一度、前進して、近づいてみましょう。ちなみに力を入れれば入れるほど、スピードは速くなります。はい、これであなたとタキシードの距離は限りなくゼロになりました。ちょっと、その、気まずい距離感ですね。吐息がかかる距離、と、言いますか。恋人でないと許されない距離、と、言いますか。あっ、いえ、別にその気はありませんのでご安心を。では、右ポケットからおにぎりを取ってみてください。はい、よくできました〜! 何度も言うようですがバカにしているわけではありませんよ。なので、どうかその、怒髪天を衝くかのような肩の上下運動を辞めてくれませんか。ちなみにですね、浮空期の間は、自分の体重、身長以下の物なら、一度触れれば宙に浮かせる事ができます。ですから、その、おにぎりを口いっぱいに頬張るのを一旦中断していただいて――ええ、ええ、ほんと、すみません。お願いですからそんな怖い顔しないでください――その練習も、一応、やっておきましょう。万が一、ということがありますからね。その力が誰かの命を救う。なんてことが、無いとも限らないですから。例えばこの、二五階建てのビルが火事になって、逃げ遅れた人が外に面した窓ガラスに追いやられていたら、窓ガラスを割ってもらって、あなたはそこら辺にある――ああ、あそこにちょうどいいベニヤ板がありますね――ベニヤ板を触って、逃げ遅れた人がいる階まで浮かせて、エレベーターの要領でサラリーマンやOLの方々を救い出すことが出来ます。素晴らしいじゃありませんか。浮空期の特権です。もちろん多くの人から感謝されます。ありがとう。ありがとう。君がたまたまこんな路地裏で、酔いつぶれて寝ていたおかげで助かったよ。助かりました。握手。握手。さらに固い握手。そして感謝状の授与。嗅ぎつけたマスコミがあなたをネタに記事を書く。あなたは一躍有名人。街中でサインなんか求められたりして。ああ、はい。そうです。ええっ、サインですか。いやいやそんな。サインするほどの人間じゃあ……、ああ、そうですか……? じゃあ、まあ、はい。えっと、ここに? はい。はい。サラサラサラ、っと。あ、ちょっと、カメラはちょっと。恥ずかしいっていうかなんていうか。いやはは、まいったなこりゃ。そしていそいそと人混みをかき分けて目的の場所へ進むあなた。目的の場所――川沿いに最近オープンした小洒落たヴィーガンレストラン――には、ビル火災の中、果敢にも人々を救ったあなたのことが書かれている記事を読んだ元恋人。再会を喜ぶ二人。微笑みを交わす二人。まずはグラスワインで乾杯をしようではないか。注文をしようと手を上げたあなたを元恋人は優しく止める。ワインはちょっと。だって、私のお腹には、もう……。あなたの耳には聴こえないはずの、命の、微かだけれど確かな鼓動が聴こえてくる。そう、あなたと元恋人の――現、伴侶の――。……なんてことにもなるかもしれないのです。あ痛い。いたた。ごめんなさいごめんなさい。まだ一応、正式には、面と向かって、別れを告げられてはいなかったですね。元恋人ではありませんでしたすみません。すみませんってば。  えと、それで、なんでしたっけ。ああ、説明がまだ途中でしたね。触れた物を浮かせたい場合は、左人差し指の爪を甘咬みします。はい。そうです。甘咬みした瞬間から、物は浮きます。あとは、基本的な動作は先程の、体の操作と同じです。肛門に力を入れると前へ、おヘソに力を入れると後ろへ進みます。上へ上へと浮かせたい場合は、甘咬みしたまま腕を上げてください。上げている間、物は上昇し続けます。落下させたい場合は甘咬みをやめるか、腕を下げてください。その他、細かい動きはすべて、甘咬みしている間、左腕の動きと連動します。簡単でしょう? 最初のうちは微調整が難しいでしょうが、すぐに慣れるはずです。あなた、なかなか筋がいい。いや、本当ですよ。浮かせることすらままならない人も、最近は多いのです。……ああ、そうそう言い忘れていました。浮かせることができる物は、最後に触った物だけです。複数の物を同時に操作することは出来ません。気をつけてください。くれぐれも。  そうそう、これは最初に説明しておくべきでしたが――いやほんと、説明委員会失格ですね――。男性の生理と言われるくらいですから、女性同様、浮空期の前後、浮空期の間で心身に様々な変化が起こります。顕著に現れるのは性欲の減退ですね。浮空期の間、睾丸の機能は著しく低下します。常に射精直後のような状態になる、と言ったら、わかりやすいでしょうか。浮空期の間は女性を――ゲイセクシャルの場合ですと男性を――見るだけで苦痛に感じる人もいるそうです。いやはや、そこまでいくとちょっと理解し難いですね。とにかく、どんなにお盛んな人でも、浮空期の間は射精することが困難になります。ま、大体の人は射精をする気も起こらないので、大丈夫でしょう。  先程、常に射精直後のような状態になる、と説明しましたが、浮空期が近づいてくるにつれて、段々とそういった精神状態になっていきます。落ち着いて、冷静に、物事を判断できるようになる、ということですね。あなたは昨日、元――……失礼――恋人とその浮気相手に散々ひどいことを言われたにも関わらず、ある程度は平静を保てていました。今になって考えてみると、それは浮空期直前特有の症状だったのかもしれませんね。そして、安定した精神状態に移行してから大体三日後、夢精を合図に浮空期が始まります。……ええ。ええ。そうです。あ、気づいていませんでした? あなた、夢精したんですよ。この、高層ビルの裏の、袋小路の、ゴミ臭い、陽の当たらない場所で。あ、ちょっと、ごめんなさい、ごめんなさいってば。  ちなみに浮空期は、月一回ペースでやってきて、およそ一週間で終わります。終わる時は夢精も何も起こりません。目が覚めたとき、体が地面にピッタリくっついていれば、それが終了の合図です。性欲も、精神状態も、通常に戻ります。もう、ビンビンの、グングンです。その、あなたの、スカイツリーに負けじとそそり勃つイチモツを、存分に振り回していただきたい! まあでも、今はとりあえず、精子が乾いてカピカピにならないうちに、ティッシュ――あ、ポケットティッシュ、持ってたんでさしあげます――で綺麗に拭き取ってください。大丈夫です。後ろを向いておきますから。どうかお気になさらずに、あなたのペースで、慌てることなく、精子と、そのぬめり気のあるパンツを処理してください。ここにはあなた以外誰もいない、誰も来ない。袋小路なのですから。栗の花の匂いが染み付いたパンツの一つや二つ、ポイ捨てしてしまっても何ら問題ありません。ええ、ええ。本当ですとも。さあ、一刻も早く――されどあなたのペースは乱さずに――その青いチェック柄の、ゴムが伸びきっていて、歩くと少しづつずり落ちてしまう、三年前に――そう、恋人と付き合い始めたころ、ユニクロで――買ったトランクスを、どうぞ、地面に叩きつけてください。そして、彼がトランクスを力の限り地面に叩きつけたのとほとんど同時に、今までピーチクパーチクしゃべり続けていたタキシード姿の男の隣にただただ突っ立っていただけのもう一人の男――もう一人の男は、ジーパンに半袖シャツというラフな格好だった――が、やぶから棒に、口を開いた。川城さん、も、いっすかね僕しゃべっても。いっすかね。やっぱり〈あなた〉とか言われたってピンと来ないっすよ正直言って。えっと、矢野さんでしたっけ? わかんないっすよね。いやいや、誰だよ。みたいな。そう思いません? ……あ、ちなみに自分、宇城っす。ままま、川城さん、ちょっとここからは、もうちょいわかりやすく、僕が説明しますんで。だ〜いじょぶっすよ川城さ〜ん。これでも自分、説明の成績はトップなんで。川城さんは僕の隣で、ドシンと構えてくれてればいっすから。はい。はい。  矢野は自分の体の感覚を取り戻しつつあった。この袋小路で、怪しげな説明委員会の男二人組に揺り起こされて、ついに自分が浮空期になったということを知らされてから、ずっと、自分の体を見知らぬ誰かに操られているような気分だった。歩く動作をしているのに、前に進まない。体の向きを変えることもできない。これが浮空期か。タキシード姿の男、川城の説明を聞きながら、矢野は昨日の出来事や恋人の浮気相手のこと、サンダルで家を出たのに今は裸足だということ、雨が振りそうな雲行き、何枚も溜まっている公共料金の請求書のこと、などなど、とりあえず現時点でわかる限りの問題や不安、悩みを頭の中でリストアップしようとしてすぐにやめた。そんなこと考えてなんになるというのだろう。自分だって、恋人との生活に限界を感じていたはずだろ。職だってそろそろ本気で探さなくてはいけない。バイトでも内職でも、コンビニでも工事現場でもディーラーでも汚染処理でもなんでもいい、恋人とすっぱり縁を切るからには――やはり、そうするしかないのだろうか――、自分の時間を売ってお金に替える方法を、早いとこ見つけるしかない。それ以外のことを考えるのはやめよう。やめよう。  川城の説明通り、今の矢野には性欲がまったく無かった。まるで最初から存在していないみたいに、きれいさっぱり、消え去っていた。なるほどこれが生理か。矢野は、二八歳という、あまりにも遅咲き過ぎる自分の心身の変化を、戸惑いつつも楽しんでいた。浮空期は女性の生理と違い、始まる時期が人によって大きく異なる。五歳で浮空期が始まった宇城――今、川城の隣でしゃべり続け、言葉を書き連ね続けているジーパン姿の男――のような人もいれば、矢野のように成人してから浮空期が始まる人もいる。死ぬ間際、病院のベッドなどで始まるようなケースも極稀にだが、存在する。その点だけ見ると、生理というよりむしろ水疱瘡やおたふく風邪に近い。矢野は宙に浮かせっぱなしだったおにぎりを口に投げ入れ、というより口の中まで移動させ、ゆっくりと咀嚼した。  携帯を見ると不在通知が何件も届いていた。知らない番号だ。おそらく昨日行ったカラオケ館からだろう。なんでてきとうな番号をでっちあげなかったんだ。名前も、きっちり矢野とバカ正直に書いてしまった。いや、それよりも、なんであのとき逃げてしまったんだ。いやいや、そもそも、なんで恋人の部屋で自分はあんなに落ち着いているかのようにふるまってしまったんだ。なんで外に出たんだ。なんで財布を忘れたんだ。これもすべて浮空期の前兆がもたらした行動なのか。考えてもきりがない。どうせもう身元はわれているのだ。説明委員会の二人ですら知っている情報ばかりだ。自分があれこれ案じても何も変わらないのだ。矢野は携帯で一週間の天気を調べた。次に晴れるのは四日後か。ふん。  矢野は左人差し指を甘咬みし、携帯を宙に浮かせた。左腕を思い切り上げると携帯は物凄いスピードで上へ上へとグングン昇っていく。このまま昇り続けるとどうなるんですかね。甘咬みした状態で矢野が宇城に話しかける。まあ、大気圏は余裕で越えるっす。それでもさらに昇り続けたら、どうなりますかね。だんだん、空気が無くなっていくんじゃないっすか、詳しくは知らないっすけど。空気が無くなっても、さらにさらに、昇り続けたら、どうなりますか。宇宙まで行きますね。宇宙を進み続けたら、どうなりますかね。あーそれ、たしか、どっかで読んだか聞いたかしたんすけど、それで、どんどんどんどん進み続けて、何光年も先の宇宙まで進み続けて、そうやって浮空期の人たちが飛ばした物が星になって、星と星を人が繋げて星座にして、だから僕らがこうして星空を見て、おうし座だとかふたご座だとか言っているものは元々遠い昔の人々が宇宙に飛ばした貝殻とか、お椀とか、槍とか、弓とか、筆記具とか、パンケーキとか、ガラス瓶とか、綿棒とか、お相撲さんのマゲとか、レコードとか、煙草とか、パピルス紙とか、羊の毛とか、豆電球とか、画鋲とか、死んだ人の骨とか、貞操帯とか、トランペットとかで、だから、死んだ人がお星様になるっていうのはあながち間違いじゃないと思うんすよね。あれ、なんか、語っちゃいましたね。つまり、俺が今操作している携帯も、いずれは星になるんですね。あー、多分、そっすね、なると思います。矢野の左人差し指は唾液でふやけはじめていた。身元がわれているということは、きっと今頃、警察にも連絡がいっているだろう。早くも捜索が始まっているかもしれない。恋人の家に連絡が行っているかもしれない。いや、連絡では飽き足らず、実際に警察官が恋人の家に押し入っているのかもしれない。別れの瀬戸際でも迷惑をかけてばかりだ。昨日は恋人と恋人の浮気相手にひどい仕打ちをされたが、付き合い始めてから今までの五年間、ずいぶん恋人にひどい仕打ちをしてきた。喧嘩ではすぐに手をあげてしまうし、お金は勝手におろすし、酔って暴れて食器を割った数なんて数え切れない。もう恋人の部屋には戻れないし、戻りたくないし、警察から逃げ続けなければならない以上、職を見つけることすらままならない。財布も携帯も身分を証明するものもなにもない。あるのはポケットでくしゃくしゃになっている煙草とライターだけ。矢野はポケットから煙草を取り出し、火をつけた。吸って、吐いて、一呼吸置いてから甘咬みをやめてしまったことに気づいたが、遥か彼方まで昇っていった携帯は一向に落ちてこなかった。灰が落ちそうになっていることに気づいた宇城は矢野に素早く携帯灰皿を差し出す。ああ、悪いね。いいんすよ。心中、お察しするっす。煙草はまだ充分吸えるだけの長さで燃え続けていたが、矢野はそれを無理やり携帯灰皿に押し込んで、宇城に返した。宇城は渡された携帯灰皿を、また矢野の手のひらに戻す。いいっすよいいっすよ、その携帯灰皿はあげますんで。その灰皿見るたびに、なんとなくでいいんで、僕のこと、思い出してください。って、気持ち悪いっすね自分。よく言われるんすよ、お前は説明対象に情が移りやす過ぎる、って。ま、僕、携帯灰皿何個も持ってるんで、大丈夫っすから。矢野は口元を緩めて、ありがと、とぼそぼそ声でお礼を言った。携帯は落ちてこなかった。おそらく大気圏を越えて、地球の周回軌道にでも乗ったのだろう。それとも周回軌道すら超えて、いずれどこかの惑星にたどり着くであろう隕石やスペースデブリの一つとして宇宙空間を漂っているのだろうか。矢野にも、もちろん宇城にも川城にも、それは分からなかった。ぽつりぽつりと降り出してきた小雨に、傘をさすか否か、三人はそのことばかり考えていた。傘なんてないのに。  同時刻、矢野の恋人は住処である二階建ての軽量鉄骨アパートの部屋で、浮気相���と二人で、穏やかな寝息をたてていた。いや、眠っていたのは浮気相手だけで、恋人は一時間ほど前に目が覚めてから、どうにも寝付けずに、浮気相手の寝息を自分の前髪に当てたり、脇腹をくすぐったりして、再び眠気がやってくるのを待っていた。マヌケそうに口をぼんやりとあけて眠る浮気相手を見つめる恋人の表情は柔らかく、その表情からは、矢野と接するときの冷たさや無感情さをうかがい知ることは困難である。今夜はなにか好きなものを食べに行こう。朝目覚めた時にベッドの中で今日の夜のことを考えるのは恋人の幼少期からの癖みたいなもので、それが、二四時間のうちでもっとも愛おしい時間なのだと、以前、恋人は矢野に言ったことがあった。眠気は一向にやってこない。二度寝を諦めて、恋人は台所で細かく刻んだベーコンとタマネギを炒めた。昨日、矢野が部屋を出ていってから作り置いてあったなめこのみそ汁を温めている間、恋人は矢野が買い置きしていた煙草一カートンをまるまるゴミ袋に捨てて、灰で底が見えなくなった灰皿を捨てて、毛先が開いた矢野の歯ブラシを捨てて、LOFTで買ったペアのマグカップを捨てて、ここぞというときに食べようと思っていた矢野のエクレアを食べて袋を捨てて、捨てて捨てて捨てて、ゴミ袋を二重固結びできつく結んで、玄関の隅に置いた。ベッドでは、浮気相手がフワフワと宙に浮いていた。ああ、今月もきたか。いっつも症状重いみたいだし、大丈夫かな。みそ汁からは湯気がもうもうとたちこめている。恋人はコンロの火を消してお椀にみそ汁を入れ、ベーコンとタマネギの炒めものを小皿によそい、ラップにくるんで冷凍保存してあったご飯をレンジで解凍して、一人きりの朝ごはんを堪能した。今日の夜はなにを食べに行こう。脂っこいものが食べたいかも。チキン南蛮とかいいかもしれない。かつ吉のトンカツもいいかもしれない。いやいやそれより、脂とかいいから、少し足を伸ばして、川沿いに最近オープンした小洒落たヴィーガンチレストランに二人で行くのもいいかもしれない。考えながら箸を動かしているうちにお椀も小皿もお茶碗もキレイに空になり、満足そうに唇の周りを舌で舐めてから、恋人は洗い物を始めた。  どこかで誰かと誰かが話している声がする。向かいの公園から犬の鳴き声が聞こえる。通り沿いにある中学校から野球部の掛け声と吹奏楽部がホルンやユーフォニウムやサックスやフルートを吹く音が聞こえる。携帯がさっきからずっと震え続けているけど私はそれを無視し続けている。冷蔵庫の稼働音がわからないくらい微かに部屋を揺らしている。数分前についたばかりの脂を洗い流す水の音が規則的に聞こえてくる。油は泡と共に水で洗い流され、食器棚に置かれていたときより綺麗になったお椀と小皿とお茶碗の、キュイキュイっという、清潔さの証明のような音が部屋に響く。私はベッドで浮かぶ木下が起きたらまずなにを話そうか、考えている。ヴィーガンレストランなんて、かっこつけ過ぎだ。今日の夜は、近所のスーパーで豆乳でも買って、豆乳鍋にしようか。私も木下も湯葉が大好きなのだ。脂っこいものが食べたいのかも、という気持ちは不思議と消えていた。台所のまな板置き場のそばに、矢野の携帯灰皿が置いてあるのを見つけて、私はそれをからにしたばかりのゴミ箱にシュートした。  木下の寝息は聞こえてこない。  洗い物を終えた私は濡れた手を拭くのも億劫になって、ポタポタと指から水が滴っている状態のまま、ベッドにもう一度もぐった。手についた水は布団やまくらに吸収されて私の手は潤いを失っていく。叩いても突っついても木下は起きる気配すら見せない。私はすぐにまた起き上がり、ベッドの上で体育座りをして、自分の膝に顔をうずめながら、隣で、空中で、ゆりかごに揺られているように漂いながら眠っている木下の、静かな寝息に耳を傾ける。  五年後、矢野の携帯は地球の周回軌道を外れ、凄まじいスピードで大気圏に突入し、地表にたどり着く前に跡形もなく燃え尽きてしまう。
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【小説】JOKER 第一部
プロローグ
  〈1〉
  深夜零時。
ロレックスに目を落とした緒方進(おがたすすむ)はブリーフケースを手に、生ぬるい海風を受けながら水銀灯の明かりで照らされた新庄市郊外の公園に立っている。
海に面した絶好のデートスポットなのだが、残念な事に交通の便が悪い上に駐車場すらなく、昼間でも子供でさえロクに遊びに来る事が無い。
緒方の両隣りに二人、公園の入り口と四メートル道路に停めたベンツに運転手代わりが一人貼りついている。
全員原色のスーツに金ネックレスならプロ野球選手の夜遊びと言えない事も無いだろうが、広域指定暴力団矢沢組の組員は落ち着いたビジネススーツが常だ。
そしてブリーフケースには二百万円分のメタンフェタミン――覚醒剤が入っている。
取り引き相手は調子に乗っている街の半グレ。
昔で言うストリートギャングだ。
半グレと言っても若者ではない。若い頃にやんちゃをしたがいいが足抜けに失敗し、ヤクザになる器量も無いチンピラだ。
 麻薬が若者に蔓延している、というのは半分正解で半分間違いだ。
 昨今の若造は非正規労働などで麻薬に金を渋るどころか、タバコにさえ金を落とさない。
 麻薬を使っているのは女を薬で縛って風俗で働かせるか、末端の構成員を薬で縛り付けるかのどちらかだ。
 スポーツ選手や芸能人は大金を落とすが、それは表沙汰にしない為の口止め料としての意味合いが強く、普通に流通している薬はそこまで高くない。
 そんな価格設定をしたら麻薬依存症患者は年収五千万円以上に限られてしまうだろう。
 そしてスポーツ選手や芸能人などの成り上がりはともかく、そんな高所得者は基本的に麻薬など嗜む事は無い。
 麻薬というのは貧乏人を貧乏人に縛り付け、思うがままに操る道具なのだ。
 緒方がそれでも月収に相当する額のブリーフケースの重みを感じていると、年甲斐もなくスウェットを来た男が軽のワゴンで公園に乗りつけた。
 逆向きにかぶった野球帽はヤンキースなのに、スウェットはボストン大学という統一性の無い男の後ろに三人の若造が続く。
 間違いなくアメリカのストリートギャングを意識しているが、残念ながらエミネムにもJAY-Zにも見えない。
 オーバーサイズの服をだらしなく来た日本人だ。
「緒方さん、金持って来ました」
 ヤンキース帽がポケットから雑に札束を出して見せる。
 それでクールだと思っているのだからタチが悪い。
「ブツはある」
 緒方が顎をしゃくると若い衆がヤンキース帽の札束を確認する。
 帯どめしてある訳でもなく、おおよそでしか金額は分からない。
 しかし、金額が違っていれば差額を血肉で支払う事になる事はヤンキース帽も理解しているだろう。
 若い衆がざっと金を数えた所で、水銀灯の下にトレンチコートの男が忽然と姿を現した。
 紫色のどぎついトレンチコートに西洋風のピエロのマスク。
「ハッピー、ハロウィーン」
 おどけたような合成音声が響いた時、緒方は背筋から嫌な汗が滲むのを感じた。
 遭遇するのは初めてだが、ヤクザや半グレをターゲットにしたハッピートリガーの噂は緒方も聞いた事がある。
 トレンチコートに突っ込んだ手が引き抜かれた瞬間、銃声と共に足下と背後の遊具で火花が爆ぜる。
「緒方さん!」
 若い衆の一人が銃を抜いてピエロ――ジョーカーに応戦しようとする。
 ジョーカーのトレンチコートが開いて、内側から映画でしか見た事の無いショットガンより大振りな銃器――グレネードランチャーが姿を現す。
「ハロウィーン? 失敬、まだ五月だ」
 ジョーカーのグレネードが火を噴くと同時に地面が爆発して公園に身体が投げ出される。
 半グレがへっぴり腰で公園の外に出ようとした瞬間、ジョーカーのもう一方の手に自動小銃が握られていた。
「屋根よぉーり高い、鯉のーぼーりー」
 自動小銃が瞬き、公園の出口付近に無数の弾丸がばら撒かれる。
 隙を突いて緒方は裏手に停めたベンツに向かって走る。
 初対面とはいえ、こんな火器を狂ったように撃ちまくる狂人を相手になどしていられない。
 自動小銃が向きを変え、ベンツの防弾ガラスに傷が穿たれる。
 それでも緒方がベンツに戻る間に、半グレの連中は軽のワゴンに向けて疾走している。
 ジョーカーのグレネードがベンツに向けられる。
 助手席に転がり込んだ緒方は叫んだ。
「出せ!」
 猛スピードで走り出すベンツをジョーカーは追って来なかった。
 緒方はあの猛烈な砲火の中、生き延びた事を奇跡のように感じていた。
  〈2〉
   午後八時。
 没個性的なダークスーツに身を包んだ三浦清史郎(みうらきよしろう)は新庄市駅前にある新庄商店街の場末のバー『サイレントヴォイス』を訪れている。
 新庄市は首都圏のベッドタウンとして栄えている太平洋に面した、人口八十万の町だ。
 駅前の商店街では二百を超える店舗が活況を呈しており、湾岸という事もあり工場地帯も存在する。
 耳に心地よいJAZZが流れる中、清史郎がショットを二杯開けた所でパリッとしたスーツを粋に着こなした慶田盛弁護士事務所の慶田盛敦(けだもりあつし)が現れた。
 互いに若手と呼ばれる頃に知り合い、今では二十年の付き合いになる。
「待たせたようだな。今幾つか案件を抱えていてね」
 慶田盛弁護士事務所は警察の冤罪事件を扱う事で、その道では知られている弁護士事務所だ。
 日本では警察が立件した裁判では99%の確率で検察が勝利している。
その検察がでっち上げたものを、証拠を積み上げ無罪に、更には真犯人を警察に突き出して解決する。
 それが慶田盛弁護士事務所の仕事であり、清史郎の三浦探偵事務所は裁判の為の情報である事件の調査依頼を受けている。
 売れ筋である浮気調査などはしていない為、懐には常に隙間風が吹いている。
「最近はこっちも忙しくてね」
 清四郎はスコッチを注文した慶田盛とグラスを合わせる。
 『サイレントヴォイス』のマスターは、以前ヤクザに恐喝されていた所をジョーカーに扮して助けたという経緯がある。
 もっとも通い続けて十五年だから隠す事もありはしない。
 気のおけない古い友人のようなものだ。
「吉祥寺の死体遺棄事件の件は進展はあったのか?」
 吉祥寺の死体遺棄事件とは、富山純也二十五才宅で、川上千尋二十二才が自傷行為で死んでいたというものだ。
 死後二日後に近所の人間に通報された事から、警察は富山を死体遺棄事件の容疑者として逮捕。書類送検した。
 富山は無罪を主張し、慶田盛弁護士事務所に泣きつき、慶田盛が三浦探偵事務所に調査を依頼したのだ。
「川上は富山と同棲していた。富山の証言では自傷行為など考えられない」
 同棲していた富山が被害者の死亡時に出張で家を空けていた事はアリバイとして記録に残っている。
「それは本人から直接聞いている」
 慶田盛の言葉に清史郎は頷く。
「川上は都内の建築会社で事務をしていたが、実は裏で足つぼマッサージをしていた。これは歩合給で明細書も無い手渡しだ。小遣い稼ぎには丁度良かったんだろう」
 清史郎は店舗の写真を慶田盛に見せる。
 富山も都内の広告代理店に勤務していたが収入はお世辞にも良いとは言えず、川上としては将来を考えても副収入が欲しかったという所だろう。
 その辺りの事情はマッサージ店の同僚から聴取住みだ。
「富山は言っていなかった。どうやって調べたんだ」
 慶田盛が驚いた様子で写真を手に取る。
「足で稼いだんだよ。で、マッサージ店には川上に執着している、大野正則という客がいた。この男は二十歳でコンビニでアルバイトをしていたが、その給料のほとんどをマッサージ店の指名につぎ込んでいる」
 清史郎は大野と、彼がコンビニで働いている写真を見せる。
 大野という男が川上に執着し、横恋慕していた事は他の店員からも話が聞けている。
「じゃあ、そいつがストーカー化して川上を殺したのか?」
 やりきれないといった様子で慶田盛がスコッチに口をつける。
「このコンビニには別に野原椎名という二十五才のアルバイト店員がいる。この女は大野と交際していると公言しており、ストーカーの気質もあるようだ。大野は全面的に否定しているけどな」
 清史郎は野原と、野原が大野を尾行している写真をカウンターに乗せる。
 追っている者は追われている事は忘れがちなものだが、大野が川上を付け回し、その大野を野原が追い回していたという訳だ。
 そして道ならぬ恋に破れた野原は凶行に出た。
「じゃあ、野原が大野と川上の関係を勘違いして……」
 話を整理するようにして慶田盛が言う。
「川上の切創は手首と腕に集中している。これは自傷行為というより防御創だ。更に他に傷跡も無い事から自傷行為の常習という事も考えられない。仮に大野が殺したとするなら、体格差から刺殺になった事だろう。つまり傷跡から考えても同程度の体格の相手から切り付けられたと考えないと成立しないんだ」
 警察から入手した傷跡の写真には古い傷跡は一つも無い。自傷行為が常習性を持つという事を考えれば自殺の線は消えたと考えていい。
「川上は外に助けを求めに出ようとは思わなかったのか?」
「手のひらも切られていたんだ。普通の神経ではドアノブを握る事もためられただろうし、本人も富山が帰ってくれば助かると思ったんだろう」
 富山は残業や出張が多く、帰宅時間は一定していなかった。
 富山が出張を被害者に伝えていなかった事も証言から明らかになっている。
 清史郎は資料の束を慶田盛に渡す。
「毎度仕事が早くて助かるよ。これで検察の容疑を晴らして真犯人を起訴できる」 
 慶田盛が満足そうに言う。探偵業をしていて良かったと思える一瞬だ。
「で、娘の学費の件なんだが……」
 清史郎は慶田盛に話を切り出す。
 大学を卒業してすぐに結婚し、娘ができて半年と経たずに妻が離婚を申し出た。
 不倫である事は分かっていたが、彼女の名誉の為に黙って養育費を受け入れた。
 とはいえ、慶田盛弁護士事務所の依頼者の多くは金銭的に厳しい者が多く、その仕事を更に下請けする三浦探偵事務所の実入りはとても良いとは言えない。
 一年で五十件の冤罪事件を解決した年もあったが、その年の収入でさえ四百万を少し上回る程度だったのだ。
 テナント料と養育費を払ってしまえば食費もロクに残らない。
 半ば商店街の好意で事務所を置かせてもらっていると言っても過言ではない。
 そしてようやく養育費を払い終わったと思ったら、元嫁が娘の学費を請求して来たのだ。
 慶田盛いわく法的には支払いの義務は無いとの事だが、娘を大学に進学させてやりたいという思いはある。
「示談にするのが一番じゃないか? 向こうも本気で学費を巻き上げられるなんて思ってない」
「敏腕弁護士が中途半端な事を言うじゃないか」
「君の元奥さんは金が欲しいだけで最初から娘を大学に行かそうなんて思っていない」
 慶田盛の言葉に清史郎は石を飲んだような気分になる。
「私が支払うと言えば嫌でも大学に行かせなくてはならなくなるだろう」
 元嫁に対する愛情など欠片も無いが、娘に対する愛情は残っている。
「そんな金が君のどこにあるって言うんだ。夕食を場末のバーボンで済ませる男の食生活がこれ以上荒むのは見るに堪えない」
 慶田盛の言葉に清史郎はため息をつく。
 確かに慶田盛の言う事に間違いは無い。
 ――あの女のせいで自分も娘も……――
 ジョーカーとして稼いだ金を出せば解決可能だが、帳簿に乗らない金を出したなら国税局に乗り込まれる事になる。
 結局私生活は何一つ変わっていないのだ。
「しばらくしたら仕事の量を増やすさ」
 ジョーカーを演じ始めたのは与党と矢沢組が推し進める新庄市再開発計画を阻止する為だ。
 その行方を占う知事選挙が四か月後に控えている。
「もう歳なんだ。いい加減町を騒がすハッピートリガーなんてやってられないだろう」
「これはそこいらの冤罪なんてモンとは次元が違う。新庄市に生きる人々の生活がかかっているんだ」
 清史郎が言うと慶田盛が苦笑する。
「相変わらず正義感だけは人一倍だな」
「皮肉を言うならお前も大手の弁護士事務所に転職したらどうだ?」
 清史郎の言葉に慶田盛が笑みを浮かべる。
「それこそ真っ平だ」
 清史郎は笑みを交し合うとグラスの底に残ったバーボンを飲み干した。
 慶田盛も自分も世間で言う所の真っ当な大人にはなりきれていないのだ。
  〈3〉
   今年で二十七才になる円山健司はマンションの部屋のボタンを適当に押していた。
『はい、どちら様ですか』
「amazon様からの御届け物です」
 本物のamazonの箱を抱え、配達員の服装をしているのだから疑う者も無いだろう。
 ――注文客以外は――
 マンションのオートロックをパスしようと思ったら、住人について行くのが一番手っ取り早い。
 しかし、それ以上に手堅いのが郵便物の配達員になりすますという方法だ。
 amazonであればほとんどと言って良い人間が利用しており、世帯主では無くてもファミリー向けマンションなら家族が注文している可能性もある。
 そしてオートロックをパスしてしまえば、実際にその部屋にものを届ける必要など無いのだ。
 健司はオートロックをパスすると非常階段で配達員の服装を箱に収め、ビジネススーツに身を包んだ。
 どこに居ても違和感を感じさせないという点で、ビジネススーツはほぼ最強のアイテムと言える。
 健司は時刻が二十二時になるのを待って、十四階の廊下にクリスマス用のランプを天井から垂れ下がるように飾り付けた。
 全て両面テープで一瞬で剥がせるようにしてある。
 更に待つ事一時間、程よく酔ったスーツ姿の男がエレベーターから出て来る。
 健司は息を飲んで男の背後につけ、クリスマスの飾りつけを一斉に点灯させる。
 男の胡乱な目と意識が飾り付けに向いた瞬間、健司は男の両足を抱えるようにして廊下から外に向かって放り出していた。
 悲鳴を上げる間も無く、鈍い音が階下から響く。
 八階以下なら死亡の確認も行うが、十四階で生きている事はまず無い。
 飾り付けの一方を引っ張って仕掛けを回収し、箱に収めてエレベーターで悠々とマンションを後にする。
 明日には会社員自殺の報が流れるかも知れないし、流れないかも知れない。
 いずれにせよ、目的を果たした健司は『殺し屋』へと足を向けた。
 『殺し屋』は歌舞伎町の風俗ビルの一室にある。
 夜更かししてまで仕事をする気は無い為、殺し屋と書かれた看板の電源を入れ、のれんをかけるのは明日の朝九時になってからだ。
 ボックス席が二つにカウンターが六脚。
 お品書きには殺し方のメニューが書かれている。
 客はその中から死因や死体の放置の有無などを選択し、健司は見積もりを出してターゲットを殺す。
 ごくごくシンプルなビジネスだ。
 今日のターゲットはヤクザに貸し渋りをした銀行の支店長で、死因は自殺で死体は放置で良いという事なので仕事としては楽なものだった。
 とはいえ、調査に四日かけて二百万の報酬。
 ヤクザが稼ぐ額に比べれば雀の涙だが、踏み倒される事を考えれば前払いでささやかに仕事をする方が余程いい。
 殺し屋も楽な仕事ではないのだ。
  〈4〉
   渋谷のクラブ『クイーンメイブ』で、三浦清史郎は所在無げに立っていた。
 本日のDJはKENこと前田健だ。
 アップテンポのR&Bと若い男女の支配する空間で、中年の疲れたサラリーマンといった体の清史郎は明らかに浮いている。
 健がボックスのVIP席を用意してくれているが、一人でそんな所に座っていても落ち着かないだけだ。
 健のパフォーマンスが一段落した所で、清史郎は二十歳過ぎのTシャツにデニムのショートパンツといった服装の女性に声をかけられた。
「ジョーカー、何疲れてんの?」
「仕事とここの空気のダブルパンチだ」
 声をかけて来たのは長い髪を茶色に染めた飯島加奈というコンビニの店員だ。
 快活な女性で、見ている限り店長より仕事をテキパキとこなしているように見える。
 仕事さえ違えば有能なのかも知れないが、このご時世では仕事があるだけでも儲けものだ。
「ノれば楽しいって」
 加奈がしなやかな身体を動かしてダンスらしきものを踊って見せるが、清史郎には真似をする事もできそうにない。
「俺の頃、ダンスは学校の授業に無かったからな」
 清史郎はカウンターでアーリータイムズを注文する。
 酒屋ではボトルで買っても千円程度なのに、クラブではショットで四百円取られるのだから暴利もいい所だ。
「私の頃だって無かったってば」
 加奈がカシスオレンジを注文���ているとパフォーマンスを終えた健が近づいて来た。
「どォよ、俺のパフォーマンスはよ」
「毎度疲れるよ」
 清史郎は肩を竦めて答える。
「釣れねぇ態度、クイーンはどうだった?」
 健が加奈――クイーンに話題を振る。
「いいんじゃない? ここではナンバーワンなんでしょ?」
 楽しんではいたが加奈もDJの良し悪しは良く分かっていないようだ。
「だろ? 俺、最高にクールだったよな?」
 言って健がスクリュードライバーを注文する。
 健だけは店舗でDJをしている為にドリンクが無料だ。
「センスがいいのは認めるけど、ここのクラブで一番でも他所で一番って事にはならないから」
 ぴしゃりとした口調で加奈が言う。
「これだけで食っていけるとは思ってねぇよ」 
 悄然とした口調で健が肩を落とす。
 DJを優先している為、不規則な生活の彼は普段は日雇いのバイトをしている。
 全員が飲み物を手にした所でダンスフロアを横切ってボックス席に向かう。
「に、してもよジョーク、昨日のヤクザ連中のビビりっぷりは最高だったな」
 楽しそうな口調で健が合皮のソファーに腰を下ろす。
「エースは機械いじってただけでしょ? 仕込みをしたのはあたしとジョーカーなんだから」
 加奈が健――エースを叱責するような口調で言う。
「俺は俺で神経使ってんだって。第一お前らだけじゃWi-Fiのクラッキングもままならねぇだろ」
「その危険地帯にジョーカーが踏み込んで機材を仕掛けてるんじゃない」
 清史郎はITに関しては門外漢だが、昔ながらの盗聴や盗撮、ピッキングといった技術は職業柄身につけている。
 しかし、大手の情報企業と契約していない為、早いという利点は存在しない。
 現在一般的な興信所は大手情報企業と契約しており、端末の通信履歴からクレジットの支払い履歴まで二十万円から六十万円でパッケージで購入している。
 ETCの履歴まで買えるのだから、全て現金で賄い、更に携帯電話もスマートフォンも持たないので無ければ市民の生活は筒抜けだ。
 だが、情報企業に頼るという事は、利害が密接に絡んでいる対象を調査できなくなるという事も意味している。
 従って検察を敵に回している清史郎は情報企業���利用できないのだ。
 その清史郎がジョーカーという仕事をするに当たって健をスカウトしたのは、単にDJは複雑な機材を器用に使っているという思い込みだけだった。
 最初はヤクザに嫌がらせをするただの乱射魔演出という構想だったのだが、健のITスキルが想像以上に高く、健の元同級生で実務能力に長けた加奈が加わり、神出鬼没のハッピートリガー、ジョーカーが誕生する事になったのだ。
「そこはWINWINじゃね? 俺の真似は二人ともできないんだろ?」
 勝ち誇った様子で健が笑みを浮かべる。
「現金回収したの私なんだからね」
 封筒を手にした加奈が健に向かって言う。
昨夜のヤクザの取り引きでジョーカーが登場した時、どさくさに紛れて半グレの落とした金を拾ったのは加奈なのだ。
「で、幾らになったんだよ」
「がっつかないの。バラけてたので百十一万。ジョーカーが三十一万でいいって言ってるから四十万」
「あざーっす!」
 健が笑顔で加奈から封筒を受け取る。
「に、してもボれぇよな。俺なんて一日工事現場で働いても七千円だぜ」
「私だって八時間みっちりシフト入って八千円行かないんだから。あんたは税金の天引きが無いだろうけど、私はガッツリ取られるんだから」
 加奈が小さくため息をついて言う。
「私は確定申告で青息吐息だよ」
 清史郎は苦笑を浮かべる。
 本業の探偵は労力の割に儲かっているとは言い難い。
 その中で臨時でも帳簿に乗らない収入があるのはありがたい事だった。
「ジョーク、辛気臭ぇ話は無しにしようぜ! 今日は俺のおごりだ」
 健がバーテンにボトルを注文する。
 ――今日の所は好意に甘えておこう――
 清史郎は明日から始まる地道な仕事に思いを馳せた。
   第一章 殺し屋VSジョーカー 
  〈1〉
  「まさかお前まで手玉に取られるとはな」
 純和風の邸宅の四十畳ほどの上座から、矢沢組組長矢沢栄作の声が響く。
 矢沢は東大出身で大手の組の金庫番をしていた経済ヤクザだったが、手腕を見込まれて盃を受けて新庄市を任された男だ。
 大型カジノ施設と契約し、建設費用だけで二千億円を超える大規模開発事業に着手。
 地域活性を謳ってケツモチをしている与党の知事を、市民公園を作ると言って与党の市長を当選させ、財務局を握って人口八十万程度の町である新庄市の経済活性としてカジノ施設を呼び込む段階まで運び込んだ。
 しかし、新庄市には古くからの商店街があり、カジノ施設に一斉に反対。
 この動きを野党が連合して支援した事で、矢沢組の工作虚しく市会議員選挙でまさかの野党大勝与党過半数割れとなった。
 そこで組として商店街に圧力をかけ、一方で麻薬や売春で治安を悪化させて風紀を乱すという策に出た。
 そこに商店街からの刺客のように出現したのがジョーカーだ。
 従って、今回の取り引きでたかだか百万程度の損失を出した事は問題ではない。
 手足となる半グレが震えあがり、商店街が盛り返してしまう事の方が問題なのだ。
 ジョーカーは確実にドラッグか銃のある時にしか出現せず、空取り引きで警察を使って捕えようとしても決して出て来ない。
 支配下にある警察でも公安とマル暴がジョーカーを追っているがかすりもしない。
「完全に俺の失態です」
 緒方は畳に額をこすりつける。ジョーカーが来るかも知れないと備えていても、圧倒的な火力を見せられて対応できる組員など存在しなかった。
「お前で駄目なら誰が行っても同じだろう。幸いヤクは複数のルートでさばいている。一か所の取り引きが潰れたくらいでプランに変更は無い」
 矢沢の言葉に緒方は頭を下げ続ける。
 ジョーカーに遭遇すれば十中八九取引どころではなくなるし、組員の士気の低下につながるだろう。
 しかも、ジョーカーの正体はまるで分らない。
 ヤクザが取引の現場に発砲魔が現れたと被害届を出せば、警察と幾ら緊密な関係にあるとはいえジョーカー逮捕の前に麻薬取引や銃刀法で御用となる。
 警察が味方と言っても、捜査させる理屈が見つからないのだ。
 従って、科捜研を動かしてジョーカーを特定するという事もできない。
 かと言って、ジョーカーらしき人物は大手の情報企業のデータベースにも存在しない。
 そもそも個人が特定できていないのだから、企業から情報を購入しようが無い。
「カジノ施設反対派は金で分断しろ。一億二億なら建設の際に財務局の法で水増しできる」
 矢沢の言葉を緒方は脳裏で反芻する。
 これは緒方の裁量で動かして良いのが二億円程度という話だ。
 商店街含め、新庄市でカジノ施設に反対している事業者は七百に上る。
 二十万円づつ配ったところで効果は見込めないし、家業と住み慣れた町を捨てさせるには最低でも二千万は必要になり、十人買収したところで七百の事業者から見れば雀の涙だ。
 二億という金をどう効果的に使うか。
 麻薬の売買で風紀と治安を乱そうとしたところで、商店街が機能して失業者も少ないという環境にあっては大きな効果を見込めない。
 警察は見逃してくれても市民に監視されているようなものなのだ。
 ――いつまでもこの状況を引き延ばす訳には行かない――
 半年後の知事選で知事が敗れ、反対派の知事が誕生すればカジノ施設誘致契約が破談となり、二千億を超える金が利益ではなく損失として計上される事になるのだ。
 それは矢沢組の滅亡を意味していた。 
 
 〈2〉
   午前八時半。
 『殺し屋』に出勤した健司は店舗の掃除を始める。
 明るく綺麗な店舗は客商売の基本中の基本だ。
 『殺し屋』を訪れる客は決して多くはないが、だからと言って手を抜いて良い理由にはならない。
 風俗ビルの一室というどうにもならない立地上の限界はあるにせよ、一国一城の主として近隣の風俗店や飲食店と比較して店舗が清潔かつ快適であるという自負がある。
 カウンターとボックス席を磨き上げ、店の前に出した看板の電源を入れて暖簾をかける。
 健司はカウンターの中で客の訪れを待つ。
 健司が『殺し屋』を始めたのは大学卒業から四か月が過ぎてからだ。
 在籍中に内定を取る事ができず、無職のまま卒業を迎えて露頭に迷う事になった。
 住んでいたアパートも追い出され、頼ったのは風俗嬢になった同級生。
 働いているという店舗を訪れ、偶然奥のテナントが空いているのに気付いたのだ。
 幸運な事に鍵は開いたままで、住む所の無かった健司はそのままそのテナントを利用する事にした。
 しかし、いつまでも居座る訳にも行かず、就職する必要があったが卒業した後では求人がほとんど無かった。
 そこでテナントを利用して自営業を始めようと考えたのだ。
 偶然町で見かけた『冷やし中華はじめました』という張り紙をヒントに、テナントのドアに『殺し屋はじめました』というビラを貼ったのだ。
 それまで人間を殺した事は一度もなかったが、どんな仕事にも初めては存在すると割り切った。
 最初の客は風俗ビルで働く風俗嬢だった。
 ターゲットはストーカー化した客。
 苦労はしたものの、一か月で痕跡を残さずに殺す事に成功した。
 以後、口コミで話題となり、多くの人が『殺し屋』を訪れるようになった。
 依頼を二百もこなす頃にはだいぶ勝手が分かってきて効率的に殺す事ができるようになってきた。
 四年が過ぎた今ではオプションサービスも充実させ、店もリフォームした。
 今では年収一千万を超えている。
 ヤクザに比べればささやかなものだが、悪事を働いているわけではないから商店主としてはこの不景気にあって良い方ではないかとも思っている。
 健司がカウンターに立っていると、一人の客が暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ! ご注文がお決まりになりましたらお申しつけください」
 言って冷茶を注いだグラスをカウンターに座ったビジネスマン風の男の前に出す。
 男がお品書きを見て目を細める。
「殺しの注文というのは相手の氏名が分からないと無理なのか?」
「素行調査であれば興信所を使われるのが一番です。当店では速やかな仕事を心がけておりますので本業以外の仕事は見合わせております」
 健司は男の様子を観察する。一見するとビジネスマンに見えるが、作り笑いに慣れていない、否、笑わない職業である事が見て取れる。
 能面のような顔の裏に押し殺した暴力的な雰囲気は、警察か暴力団員かそれに近い者だろう。
「前金で二千万」
 男がにこりともせずに言う。
「当店は誠実がモットーでございます。確実に殺せないターゲットをお引き受けする事はできません」
「それなら総理大臣でも殺せるのか?」
「名前と住所どころか一日のスケジュールまで手に入りますから、さほど難しく無いターゲットだと考えております。ただし知られている通り警備も厳重ですから時間も必要となり費用も高くなります」
 健司が言うと男が低く唸る。
「総理大臣でも不可能ではないと?」
「もちろん、オーダーが首つり自殺などですと難しい案件にはなります」
「首つり自殺は難しいか……面白い事を言う」
 男の口元に小さな笑みが浮かぶ。
「二千万はターゲットの調査費用という事でどうだ? 成功報酬は四千万」
 健司は小さく息を飲む。
 金払いがいい相手である事は確かだが、それだけの力の持ち主でもあるという事だ。
 ――失敗すれば命は無い――
 しかし、ヤクザを敵に回せばテナントから追い出されるだけでは済まないだろう。
「繰り返しになりますが当店は殺し屋でして、興信所ではありません。ターゲットの補足は素人のようなものです。その二千万円でターゲットを補足されましたら確実に殺させていただきますが、二千万円を頂いてもターゲットを補足できるとは限りません」
「二千万を手に高跳びとは考えないのか?」
「飛んだ先で失業すれば同じ事です。地域の皆様に愛される店づくりが当店のモットーです」
 健司の言葉に男が破顔する。
「俺は矢沢組の緒方。二千万はここに置いていく。ターゲットはジョーカーと言われている銃の乱射魔だ。俺はお前が気に入った」
 言って冷茶を飲み干した緒方が席を立つ。
 ――これは大変な事になってしまった――
 健司はジョーカーという謎の相手を探るために、出したばかりの看板と暖簾を引っ込めた。
  〈3〉
   午前五時。
 健は薄汚れた作業服を着て、年季の入った肉体労働者の列に混じっている。
 ホームレスも珍しくないが、ホームレスでもとび職になると一日に二万円以上稼いでホテルに泊まっていたりするから、定住しないのは税金対策といった事情が大きいだろう。
 午前六時半、一台のワゴンが健の前に停車する。
「おい、若ぇの、乗れ」
「うぃっす」
 筋肉隆々といった古参の肉体労働者に囲まれていると既にやる気が萎えてくる。
 労働者ですし詰めのワゴンで移動する事小一時間、朝日が白々と空を照らす中健は自分には一生縁の無さそうな高級マンションの現場にいた。 
 現場監督のどうでもいいような話に続き、ラジオ体操をさせられる。
 眠いだけならまだいい、ラジオ体操が終わってからが地獄だ。
「コンパネ運んで来い! トラック入れねぇじゃねぇか!」
 自分に向けられた言葉と気付いた時には、組まされるらしい土工の目が険悪になっている。
 男がコンパネと呼ばれる90cm×180cmの板を十枚程抱えて通用口に出ていく。
 健の腕力では精一杯頑張った所で三枚だ。
 この板を敷いてその上をトラックが走れるようにするのだが並べるだけでも容易ではない。
 健はもともと運動神経が良い方ではない。
 高校では情報科学部でLinuxを使用してITの全国コンテストで優秀賞を手にした生粋のインドア派だったのだ。
 PCの扱いと音楽好きなのとでDJには一定の技術も知識もあったが、一般科目では赤点スレスレで奨学金がもらえるような成績でも無かった。
 そんな中、PCを触れて音楽もできるDJという職種を選んだ。
 しかし、一晩パフォーマンスをしても六千円程度にしかならないし、他にもDJはいるのだから毎日入る事などできはしない。
 従って一人暮らしのワンルームの家賃を払っていく為には、DJの仕事を妨げない、時間にゆとりのある職業に就くしかなかった。
「チンタラ運んでんじゃねぇ! 三枚しか運ばねぇってタマついてやがんのか」
 年配の作業員がヤニの混ざった唾を吐き捨てる。
 健が運んだコンパネをトラックの通路に並べていると、いら立った様子の作業員が近づいて来る。
「シャベル持って付いて来い」
「シャベルってどこにあるんスか?」
「ふざけてんのか! テメェで見つけろ! 遅れたら承知しねぇからな」
 健は屈辱にも似た気分に耐えながら、建設現場をうろついて乗ってきたワゴンでシャベルを見つける。
 今日拾われた工務店はどうやらマンションの裏手に穴を掘っているらしい。
「ここに管通すんだからな、掘れたら石詰めだ」
 幅は四十センチ程、深さは六十センチは掘らなくてはならない。
 総延長は二十メートルにはなるだろう。
 小型のユンボを使って欲しいが、既に他の管と入り組んでおり不可能らしい。
 配管の順序が逆になるという事は設計ミスの可能性も高いだろう。
 健はだるくなる腕を支えるようにして必至でシャベルで穴を掘る。
 要領の良し悪しなど分からない。分かるのは掘らなければ怒号と罵声が飛んでくるという事だけだ。
 昼過ぎに作業が終わったと思いきや、
「ネコでガラ片付けて来い」
「ネコって何っスか」
 反射的に首を竦めながら健は尋ねる。
「手押しの一輪車だ! この使えねぇボンボンが……」
 健は奥歯を噛みしめながらネコを探して歩きまわる。
 ネコを見つけてもガラ運びという重労働が待っている。
 健は暗澹とした気分で工事現場を歩き回る。
 ――俺だってジョーカーの一員だってのに―― 
  〈4〉
  「暑っつ~い! ったく、エースのヤツ今日は土建屋だなんて……」
 加奈がマイナスドライバーで水銀灯にへばり付いたガムを剥がしながら言う。
 ガムの中には火薬と小さな信管が仕込まれている。
「休みがお前だけだったんだから仕方ないだろう」
 清史郎はシャベルで地面に埋まった火薬を穿りながら言う。 
 乱射魔ジョーカーには秘密がある。
 それは実際にはモデルガンしか持っていないということだ。
 そこで、予め花火で集めた火薬をセットしておき、ヤクザが商売をしようという所で爆破して妨害する訳だ。
 モデルガンには赤外線カメラが搭載されており、Bluetoothで健の端末とつながっている。
 清史郎が引き金を引くと同時に健が火薬にセットされた信管を反応させ、銃撃のように見せかけているというだけなのだ。
 だからグレネードランチャーの爆発と言っても、実際には大きな花火が地面の下で爆発しているだけで殺傷能力など存在しない。
 とはいえ、撃たなかった方向にも埋め込んだ火薬はあり、子供などがうっかり触って怪我をしてしまう可能性もある。
 従ってジョーカーとしての仕事の後は必ず後始末が必要になるのだ。
「まぁ、ジョーカー一人に炎天下で作業させるわけにも行かないし。歳だし」
 加奈の言葉に清史郎は苦笑する。
 加奈と健は二十一歳だが、清史郎は四十五歳だ。
 肉体的に無理のきかない歳という事は重々承知の上だ。
 炎天下でひたすら火薬を撤去する事四時間。
 仕事を終え、加奈と一緒にたこ焼き屋の店先で麦茶を飲む。
 近年おおだこが当たり前になっているが、清史郎が行きつけにしている昔ながらのたこ焼きはピンポン玉より少し小さい程度で味も良く、言えば店のおばちゃんが麦茶を出してくれるというサービスがついてくる。
「おばちゃん、最近ヤクザはどうだい?」
 清史郎は店主兼店員の初老の女性に声をかける。
「あんたに相談したらそれっきりだよ。派手なドンパチがあったみたいだけどね」
 おばちゃんの言葉に清史郎は笑顔を返す。
 警察や興信所に相談してもヤクザ絡みの事件は解決しないが、しがらみの無い三浦探偵事務所とジョーカーなら不可能も可能になるのだ。 
 商店街や商工会の中でも事情は不明だが、清史郎に依頼をすればヤクザが引っ込むという都市伝説めいた話が広がっている。
 だが、あまりに知られ過ぎると清史郎がマークされ、ジョーカーを出現させられないという事になる。
 従って三浦探偵事務所は慶田盛弁護士事務所とは緊密な関係にあるが、地元の商店街とは付かず離れずの関係を続けているのだ。
 加奈と一緒にたこ焼きを食べているとスマートフォンが着信を告げる。
 健が清史郎が仕掛けた無線wifiのクラックシステムで、ヤクザの新たな取引を察知したのだ。
 ――健が稼ぎたがるのも分かるがな――
 火薬を調達し、設置し、身体を晒す身としては、ヤクザが本腰を入れない為にもジョーカーの出番は抑えておきたいところだった。
  〈5〉
   健司は朝のラッシュアワーで意図的に駆け込み乗車に失敗した。
 健司に乗車を妨害された形のスーツ姿の男性が、苛立った様子で最前列に立つ。
 山手線の次の列車が来るのは四分後だ。
 健司はポケットからsimフリーのスマートフォンを取り出す。
 simフリーではあるがsimも入れていなければ、個人情報にかかわる情報も一つとしてインストールしていない。
 健司はスマートフォンを操作するフリをして考える。
 ジョーカーは新庄市から出ていない。
 矢沢組から健司の得た情報は散文的なものだった。
 ヤクザが取引をしようとする、もしくは刀や銃で武装した状態で市民を脅そうとする。
 ヤクザが警察に通報できない時に、狙ったようにジョーカーが出現している。
 単純に考えて情報が筒抜けになっているという事だろう。
 乱射魔と支離滅裂な口調という仮面が狂人を作り上げているが、警察を巧みに避けている事からもジョーカーが充分過ぎる程に理性的な人物である事が分かる。
 相手は狂気の人間ではない。恐ろしい程の知能犯だ。
 健司は矢沢組から入手したドライブレコーダーの映像を繰り返し『殺し屋』のカウンター内のPCで再生した。
 ヤクザが出ていき、しばらくして銃火がひらめき、慌てふためいたヤクザが逃げてくる。
 どの映像も流れは同じだ。ヤクザがドライブレコーダーを使っているというのは不思議なものだが、ヤクザも交通事故では警察の世話になりたくないという事だろう。
 ジョーカーの紫のトレンチコートとピエロの仮面にはモデルが存在する。
 アメコミ最高の悪役とも言えるバットマンに出てくるジョーカーだ。
 相手の頭脳から推し量��てもそれくらいの事は分かってやっているのだろう。
 敵を混乱させるという意味ではジョーカーは最高の仕事をしていると言っていい。
 では、ジョーカーの行動にロジックは存在しないのだろうか。
 その最大の理由は新庄市に活動を絞り、矢沢組と戦っているという点に存在するだろう。
 ジョーカーの動機が判明すればその正体を絞り込めるはずだ。
 健司の後ろに列ができ、周囲が人垣と言っても良い程になる。
 ほとんどの人が急いでいるかスマートフォンを操作している。
 毎日このような息苦しい思いをするのが分かっていて、どこの会社も出社時刻を一緒にしているのか謎だが、このような状況が起きる事で仕事を円滑に進められるのも事実だ。
 駅のホームは渋谷のスクランブル交差点のように混雑しており、点在する監視カメラからも死角になっている。
 列車が見えた所で健司はsimフリーのスマートフォンを線路に放り投げた。
「落ちましたよ」
 健司の言葉に周囲の人間の視線が線路に落ちるスマートフォンにくぎ付けになる。
 健司が乗車を邪魔した男が慌てた様子で胸ポケットに手を当てる。
 健司はスマートフォンを拾おうとするかのように踏み出しながら、素早く男の背を押す。
 男が線路に転がり落ちるのと列車が到着するのは同時だった。
 ブレーキ音と悲鳴が駅のホームを支配する。
 ――これで今日もお客様を笑顔にできた――
 健司は動揺を装いながら駅員の誘導に従って満足感と共にホームを後にした。
  〈6〉
   潮風が香る深夜の埠頭の倉庫街。
 緒方は三十人の組員を伏せさせ、更に暴走族を張り込ませて取引に臨んだ。
 捌くドラッグの金額は一千万。
 ジョーカーが金を狙っているならこの好機を逃すはずが無い。
 半グレの三団体の代表がベンツで乗り付け、ヘッドライトの光を背に向かってくる。
 ――どうするジョーカー――
 傍から見ればこれ以上のカモは無いだろう。
 しかし周囲には銃で武装した構成員と、それに数倍する人数の暴走族がいるのだ。
 仮に強襲に成功したとしてもこの包囲網を抜け出る事は不可能だろう。
 金をアタッシュケースに入れた男たちが近づいて来る。
 ジョーカーは金を見せた時に最も多く出現する。
 緒方はドラッグの詰まったスーツケースを手にヘッドライトに身を晒す。
「緒方さん、ご苦労様です」
 半グレの代表のスーツ姿の男が言う。
 アタッシュケースが開かれ、帯どめされた札束が姿を現す。
 緒方もスーツケースを開いてロシア経由の最高級品を見せる。
 と、緒方は場違いな程騒々しいエンジン音を聞きつけた。
『奢れるヤクザもコンバンハ』
 拡声器の声と共に波を蹴ったボートが一直線に突っ込んでくる。
 船首に立ったジョーカーが銃を抜いて問答無用で撃ち始める。
 緒方の周囲で火花が散り、半グレが慌てた様子でアタッシュケースを取り落とす。
 伏せていた緒方の部下がジョーカーに向かって応射を開始する。
 ジョーカーがグレネードランチャーを構えて砲火を閃かせる。
 ベンツの車体が火を噴いて浮き上がる。
 倉庫街の至る所で爆発が起こり、火の手が上がる。
 ただの撃ち合いなら警察も黙っているが、火災が発生したのでは消防が動き追って警察も出動を余儀なくされる。
 ボートが埠頭の岸壁を掠め、ジョーカーが猛火の中を歩んでいく。
「今宵のコテツは鉛に飢えて、オイラの引き金も軽くなるゥ~」
 相変わらずの意味不明な言葉でジョーカーが戦場となった埠頭を蹂躙する。
 雄たけびを上げた半グレの一人が鉄パイプを振り上げてジョーカーに向かっていく。
 鉄パイプの一撃を受けたジョーカーの動きが鈍る。
「あの世の旅も道連れ世は情け、痛いの痛いの焼死体」
 ジョーカーが鉄パイプを奪い取って半グレを路上に蹴り飛ばす。
 ジョーカーが怒り狂ったようにグレネードを乱射する。
 緒方は炎で崩れ落ちる倉庫を避けて部下のベンツに向かって走る。
 この乱射の中では同士討ちが危ぶまれるどころではない。
 まずは消防がやって来る前に現場を離脱しなければならない。
 取り残される組員や半グレには悪いが、矢沢組としても幹部が尻を蹴飛ばされたままブタ箱に入る訳には行かないのだ。
  〈7〉 
 
 
「……ッ」
 清史郎は左腕を押さえたままボートの床に腰かけている。
 夜の海から見えるのは照明で浮かび上がる工場の幻想的とも言える光景。
 酔狂なカップルなら観光に来るのかも知れないが、現在の清史郎にその余裕は無い。
 ボートが揺れる度に左腕が痛み、肩から背中までもが痛むように感じられる。
 ――腕を折られたか――
 折れたと言っても粉砕骨折では無いだろう。
 粉砕骨折なら幾ら警察OBの探偵から護身術を習っているとはいえ、鉄パイプを奪って蹴り飛ばす事などできてはいない。
 問題なのは常識的に考えて鉄パイプを持った敵に対してなぜ発砲しなかったかという事だ。
 客観的に見ればこれほど奇妙な事は無いだろう。
 狂気の道化師、ジョーカーなのだからと見逃してくれる輩ばかりではないだろう。
「ジョーカー、大丈夫?」
 気遣う様子で加奈が声をかけてくる。
「今回の作戦はリスクは織り込み済みだったんだ。鉛弾を食らわなかっただけでもいいってモンだ」
 清史郎は虚勢を張って言う。
 健が入手した情報は矢沢組が最も警戒している取引、もしくはジョーカーをおびき出そうとしている作戦だった。
 当然もっと楽なターゲットを探す事も可能。
 しかし、健がこの難度の高い作戦にこだわり、清史郎もジョーカーの名を上げる為に乗ったのだ。
「ジョークには悪かったけど今日だけで六百万だぜ? 一人二百万ってすごくね?」
 ボートを運転しながら健が言う。
 百人以上が動員されている取引を強襲する為に海路を選んだのは正解だった。
 通常は予め現場に潜んでいるが、今回はヤクザが張り込む事が分かっていた。
 脱出の目途もたたないのに予め潜むという手段は使えない。
 と、なれば相手が考えてもいない方向から強襲して、対応されるより早く逃げるという方法だ。
「アタッシュケース拾って来るのも命がけだったんだから。あんたは安全な所でPCたたいてるだけだからいいかもしれないけど」
 加奈がボートでPCを操作していた健に向かって言う。
 清史郎が派手に暴れている隙に半グレが落としたアタッシュケースを回収したのは加奈だ。
 ヤクザが銃で応戦して来る中で拾ったのだから、生きた心地がしなかったのであろう事は想像に難くない。
「ジョークだって腕を切り落とされたとかじゃねぇんだし、保険証が使えねぇなら金あんだし海外で手術とかもアリじゃね?」
 楽観的な口調で健が言う。確かに健の案もいいが致命的な欠陥がある。
「ジョーカーは左腕を殴られている。保険の記録に残らなくても俺が左腕をギプスで吊っていたら正体を宣伝してまわるのと同じことだ」
「あ、そうか」
「あ、そうかじゃないでしょ! だいたいあんたが怪我してるわけじゃないんだから」
 加奈が虚を突かれた様子の健に向かって言う。
「腕は町の獣医に頼んで治してもらうよ。問題は探偵事務所の方だな」
 町の獣医であれば顔なじみだし、保険の記録に残る事も無い。
「事務所はほとんど客来ねぇからOKじゃね?」
 相変わらず楽観的な様子で健が言う。
「エースってば本当に失礼なんだから」
「本当の事だからいいんだけどな。でも選挙が近づいているからカジノ反対派の人たちが現職知事の裏情報を求めてくるかもしれない」
 情報が盗まれたものなら裁判では証拠にならないが、盗み出して内部告発の形をとって匿名でばらまくという事は可能だ。
「与党の現職知事って矢沢組がカジノ呼ぶ為に当選させたんだろ?」
 健の言葉に清史郎は頷く。
 元々災害避難地域指定だった公園の指定を解除し財務省に許可を発行させ、企業が進出できるよう実際に動いたのは与党だ。
 暴力団が本体か与党が本体かというのは、鶏と卵のパラドクスを解くに等しい。 
「でも物的証拠が無い。音声データやメールは改ざん可能だから決定打にはなり得ない」
「手書きのサインの入った書類が無いと証拠にならないって訳ね」
 加奈が話を要約して言う。
「それって探偵とかの仕事じゃねぇのか?」
 健の言葉に清史郎は痛みを感じながらもため息をつく。
「私はその探偵なんだよ。儲かっていないだけで」
「とりあえず一人二百万入ったし、ジョーカーはひとまずお休みするしかないわよね」
 加奈は状況を落ち着いて観察できているようだ。
「でもよ、選挙が終わって反対派が勝ったら出番も無いんじゃね?」
「そもそも反対派を勝たせる為に始めたんだよ。目的を忘れないでくれ」
 商店街と探偵事務所を守る為のジョーカーなのだから脅威が消えれば戦う必要は無い。
 もともと町を守る為の義賊として、健も同意して始めた事なのだ。
「あ~、キャデラックに乗りたかったぁ~」
 船の縁に寄りかかって健が空に目を向ける。
「外車ディーラーで試乗でもすればいいでしょ」
「そういう事じゃねぇんだよ。こう、リッチな気分でパーッとやりたかったって言うかさ」
「気持ちは分からなくも無いけどさ、私らもともと何千円で一喜一憂してたんだからね」
「へぇ~い」
 加奈に言われた健がため息をつく。
 二人のやり取りを聞きながら清史郎は考える。腕を折られたジョーカーが休養すれば、不死身の化け物のようなイメージが揺らぐ事になる。
 双方の総力戦の様相を呈した今回の戦いで、相手もジョーカーが手傷を負った事は分かっているはずだ。
 ――大人しく休養というわけには行かないか――
 清史郎は加奈に目を向ける。
 IT機器を素早く操作できない以上、空白期間にジョーカーを演じられるのは加奈だけだ。 
  〈8〉
   ジョーカーは手傷を負った。
 店内の観葉植物の葉を丁寧に拭いながら、健司は緒方からの情報の意味を考える。
 圧倒的な火力を持ちながら、鉄パイプを手に向かって来る敵に対してジョーカーは無策と言っても良い状態だったのだ。
 これはこれまで一人も死者を出していないというジョーカーの姿勢と符合する。
 その後の乱射により埠頭は混沌と化し有益な情報は集まっていないが、ジョーカーが現金の入ったアタッシュケースだけを手に海に逃れた事は間違いない。
 ――ジョーカーは人を殺さないという前提で考えたら――
 単純にヤクザを驚かせたいという、愉快犯の姿が浮かび上がる。
 だが、愉快犯ならリスクの高いヤクザを狙う理由は少ない。
 銃器を振り回さなくても、健司のような一般市民相手に全裸になって見せるだけで充分に他人を不快にする事ができる。
 ヤクザに警察に通報できないという弱みがあったとしても、それ以上にリスクは大きいはずだ。
 ヤクザに恨みがあるのだとしても、それならば落ちた金だけ拾うという点では実質的にダメージはほとんど与えられていない。
 収入として考えているなら猶更ジョーカーの行動は不可解過ぎる。
 愉快犯でありながらそれは副次的なものでしかなく、目的の為の手段に過ぎない。
 だが、愉快犯である事を手段とする目的とは一体何だろうか。
 ――僕のような常識人では手が届かないと言うのだろうか――
 健司は観葉植物の葉に霧吹きで水をかけながら考える。
 矢沢組は一体誰に何をし、その結果ジョーカーを生み出したのだろうか。
 健司は店内の照明を切り、暖簾と看板を店内にしまう。
 店を出て新宿のチェーン店の居酒屋に向かう。
 健司が一杯のビールと焼き鳥を二本腹に収めていると、三人の男が連れ立って店内に入ってきた。
 健司は三人組がボックス席に入るのを確認してアタッシュケースを手にトイレに向かう。
 三人組が毎回このチェーン店を使う事と、最初にビールを注文する事は分かっている。
 健司はスーツを脱ぎネクタイを外してケースに収め、代わりにエプロンを身に着ける。
 保冷剤で冷やしておいた缶に入ったビールを、同じく冷やしておいた100均で買ったグラスに注ぐ。
 そのうち一つにはシアナミドを混入してある。
 シアナミドは無色透明の抗酒剤で、副飲する事でアルコールアレルギー反応を引き起こす禁酒用の薬品。
 一言で言えば一口飲む事で急性アルコール中毒症状を引き起こすのだ。
 健司は三人の席におしぼりが置かれ、店員が去るのを待ってビールジョッキを手に席に向かう。
「お待たせしました」
 健司はターゲットにシアナミドを混入したビールを手渡し、両手にビニールの手袋を嵌めてトイレの傍に潜む。
 ややあって鍵をかけていないトイレに青ざめ、脂汗を流したターゲットの靴が覗いた。
 健司は入れ替わるようにしてすれ違いながら様子を確認する。
 シアナミドにより意識は朦朧としているようだ。
「介抱しますよ」
 健司は男を抱きかかえるようにしてトイレのドアを後ろ手に閉じる。
 男が便器に前のめりになって嘔吐する。
 健司は男の頭を掴んで便器に押し込むと首の頸動脈にシャープペンシルを突き刺す。
 男の首から血が噴き出すのに合わせてトイレの水を流す。
 音消し水とはよく言ったものだ。
 窒息と出血の双方で男が瞬く間に衰弱して行く。
 相手がプロレスラーだろうとこの状態で健司に抗する事はできはしない。
 健司は男の脈を取って死亡を確認するとエプロンとシャープペンシルを放置し、元通りスーツに身を包んで会計を済ませて店を出た。
 殺害方法は分かっても誰が殺したのかは目撃されていない限り分からないだろう。
 ――小さな仕事でも手を抜かない事が顧客満足度につながるんだ―― 
  第二章 二人目のジョーカー 
  〈1〉
  「矢沢組のヤツら慎重になってやがんな。もう大口取引はしねぇらしい」
 清史郎の耳には爆音と左程変わらない音が響いている、クイーンメイブのボックス席で健が言う。
 清史郎は獣医に頼んでギブスなしで左腕を固定している。
 診断は骨にヒビが入っているとの事で、二週間は安静にする必要があるらしい。
「そりゃ百人集めて失敗したなら、もう大口でジョーカーを誘おうなんて思わないでしょ」
 言って加奈がカクテルで唇を湿らせる。 
「一回の取引でせいぜい百万円。しかも街中でやってやがる」
 健がラップトップを開いて矢沢組の予定表を表示させる。 
「儲けが少ないからやらないって話にはしない約束でしょ?」
 加奈が健に睨みをきかせる。前回の襲撃は加奈は反対だったのだ。
「でもよ、ジョークは骨折してるし、街中でグレネードはさすがにヤベェだろ」
 カクテルをチビチビ飲みながら健が言う。
 確かに街中では自動小銃がせいぜいといったところだ。
 仮にグレネードを使ったとしても、見た目が派手なだけで破壊力が無い事が露呈する。
「自動小銃でも相手を驚かすような事はできるだろう。演出次第だ」
 清史郎は頭を巡らせながら言う。
 今となっては拳銃を抜いて撃つくらいではヤクザは驚かない。
 下手をすれば一人二人射殺されても驚かないかも知れない。
 と、なればどうやって驚かせるかが問題になってくる。
「演出って言うけど、ジョーカーは左手が使えないんでしょ?」
「そこだ。連中は俺が腕を怪我するのを見ている。ここで動きを止めればジョーカーというキャラクターの怪物性が損なわれてしまう。そこで今回は加奈にジョーカーを依頼したい」
 清史郎の言葉に加奈が驚いたような表情を浮かべる。
「町の人たちがカジノに反対できているのは、ヤクザがジョーカーを恐れているという漠然として安心感があるからだ。ジョーカーが怪我で動けないとなったらヤクザを恐れて寝返る住人が出てくるかもしれない」
 清史郎の言葉に加奈が思案顔になる。
「……そういう事なら……でも策はあるの? 私はジョーカーみたいに相手を脅せないよ?」
 加奈の言葉に清史郎は頷く。
「喋るのはマイクで私が担当する。元々ボイスチェンジャーを使ってるからスピーカーから音を出してもヤクザには分からないだろう」
 清史郎は矢沢組のリストの一つを指さす。
 雑居ビルの屋上での取引。
 金額は百万だが人が多く割かれている訳ではない。
 そしていざとなれば清史郎も右腕一本で戦うのだ。
  〈2〉
  「ありがとうございました」
 客の手に両手を添えるようにしてつり銭を渡す。 
 我ながら流れるような動作だと加奈は思っている。
 品物は働き出してから一週間で覚えたし、二か月で発注も任されるようになった。
 オーナーが発注していた頃に比べて売り上げは八%上昇している。
 業者のパレットに乗った商品が運び込まれ、そこに緩慢な動作で大塚という中年女性が向かっていく。
 大塚はこのコンビニに長く勤めているが、何をするにも動きが遅く、やる事が雑だ。
 加奈は母子家庭ではあったが高校時代は生徒会長を務めていた。
 生徒会の切り盛りでは過去最高の生徒会長だったという自負もある。
 奨学金を借りて大学に入学したいと何度思った事か分からない。
 しかし、その度に返済の目途が立たないという現実で踏みとどまった。
 加奈が借りる金額では返済する頃には五十代。
 キャリアウーマンとしてバリバリ働いて行けるならいいだろうが、男社会の中で目立っても左遷されるのがオチだ。
 奨学金を諦め、近所のファミレスとコンビニの双方を天秤にかけた時、ファミレスの厨房は嫌だったし、発注のような頭を使う仕事がしたかった事からコンビニで働く事にした。
 しかし、今現在、視線の先では大塚が商品を手前から、しかも違う棚に並べている。
 新しい品物を後ろに、古い品物を前にしなければ賞味期限切れで廃棄になる。
 それはコストとすら呼べるものではない。
 注意した事は一度や二度ではないが、返ってくるのは「今時の若い子は」という恨みがましい言葉だけだ。
 仕方なく業務の合間を縫って品物を並べなおす。
 そうすると今度はレジに長蛇の列ができる。
 大塚はバーコードの読み込みも遅ければ、テンキーの打ち込みもできない。
 公共料金などの支払いも一々店長にやらせている。
 店長は一体何の弱みがあってこの女を雇っているのか分からない。
 それでも、このリスクを織り込んだ発注で収益を上げたのは自分の手腕だ。
「飯島くん、これじゃ困るよ。お客さんを待たせているじゃないか」
 抜き打ちでやって来たマネージャーの言葉に加奈はため息をつきたくなる。
 自分がレジにいればこのような現象は起きないのだ。
 そして、レジにいれば大量の食品を廃棄しなくてはならなくなる。
「分かりました。棚の商品を並べなおしてもらえますか」
 チクリと言い返し、立ち仕事で痛む足を引きずって加奈はレジに向かう。
 こんな事をこの先何年続けて行けばいいと言うのか。
 少なくとも大塚がクビにならない限りは、ただでさえハードなコンビニの仕事すらまともにこなす事ができないのだ。 
 ――ジョーカーとしてならもう少し有能に働けるのに―― 
 
 〈3〉
   深夜、ビルの屋上��銃声が響き火花が散る。
 ビルの給水塔の上で清史郎が見ている下で、四人の男たちが手にしたバッグを胸に抱える。
「迷えるヤクザよコンバンハァ!」
 二階分高いビルの屋上から、ワイヤーを伝って自動小銃を乱射しながらジョーカーが降下して来る。
 ヤクザの一人が屋内に逃れようとした所でジョーカーの自動小銃が火を噴いてドアを蜂の巣にする。
 恐慌状態に陥ったヤクザの前に、床の上で一回転したジョーカーが立つ。
 この辺りの動きは加奈の方が本家よりいいと言える。
ジョーカーの自動小銃が火を噴き、ヤクザたちの動きが止まる。
清史郎はありあわせの材料で作った分銅でヤクザの手からケースを叩き落す。
「金は天下の猿回しぃ~、回る回るよ目が回るぅ~」
 床を滑ったケースがジョーカーの足元で止まる。
 ジョーカーがケースを手に屋上のフェンスを乗り越える。
「それでは諸君ごきげんようそろ、面舵一杯腹八分目ぇ~」
 ジョーカーがフェンスを乗り越えてビルの外に姿を消す姿をヤクザたちは茫然と眺めている。
 加奈はほぼ完ぺきに、運動神経という面では清史郎以上にジョーカーを演じて見せた。
 ヤクザたちがスマートフォンを取り出して連絡を取りながら屋内へと消えていく。
 加奈は当初隣のビルの屋上に潜んでおり、ヤクザの取引するビルとの間にはワイヤーが取り付けてあった。
 清史郎の合図で火薬を爆発させ、加奈は小型の滑車を使ってビルの屋上に降り立った。
 予定通り混乱に乗じて清史郎がヤクザの金のアタッシュケースを叩き落し、それを回収した加奈は予め用意されていた脱出用のワイヤーで一目散に逃げ去ったという訳だ。
 清史郎がヤクザの去っていった通用口を見ていると、二人のヤクザが姿を現した。
 痕跡を確認するか、ジョーカーを追跡しようという考えかもしれない。
「イナイイイナイバウアアァァァァッ!」
 万が一に備えてジョーカーに扮していた清史郎は、咄嗟の判断でショットガンを手にヤクザたちの前に飛び降りる。
 銃声と共にドアを吹き飛ばす。
 今度こそ恐慌状態に陥ったヤクザたちは階下へと消えていった。
  〈4〉
   健司は『殺し屋』のカウンターでグラスを磨きながら考える。
 ヤクザは取引を分散させるという戦術を取ったが、ジョーカーは確実に一か所一か所を狙い撃ちにしている。
 被害総額は大きくないのだろうが、心理的な影響は大きい。
 ――ここで敵の目的は明らかになったと言っていい――
 これは心理戦なのだ。
 矢沢組が恐れるに足りない存在だと思わせる為のデモンストレーションなのだ。
 実際矢沢組の構成員たちも明日は我が身と必要以上に警戒しており、結果として街中での暴行などで警察に捕縛されるケースも散見し始めている。
 警察もヤクザと事を構える事はしたくないだろうが、暴行は立派な犯罪だ。
 矢沢組を弱体化、もしくは弱体化して見せている目的。
 これは幾つかのケースが考えられる。
 例えば同格の田畑組がシマを狙っているケース。
 しかし、これでは全面戦争がしたいと言っているようなものであり、そうなれば別の第三の組が弱った二つの組を併合してしまうだろう。
 更に言えば『本物』の銃器を使っているのだとしたら、これまでに過失で殺してしまった人間が居てもおかしくはないはずだ。
 これまであれだけ派手に銃を乱射していて軽度のやけどくらいしか負傷者がいないというのは、空砲かモデルガンかのどちらかだろう。
 そして犯人がヤクザであるなら、モデルガンなどという恥ずかしいものは持ち歩かないだろう。
 第二の敵が政治結社だ。
 現在矢沢組の推す現職与党の代議士が知事を務めている。
 三か月後には知事選が予定されており、野党は連合して対立候補を立てている。
 現在新庄市には土地の価値だけで二千億を超える空き地が存在し、そこに巨大カジノカジノを誘致するか、市民公園にするかで市民の世論が割れている。
 カジノが実現すれば莫大な金額が動く事になり、矢沢組は軽く数百億は稼ぐ事になるだろう。
 一方、野党が勝利してしまえば議会も野党に握られた事から市民公園が確定。
 造園業者や、スタンド付きの運動公園を造る建築業者がいくらか儲かるにせよ、利権はほとんど存在しない事になる。
 本来矢沢組こそが野党を攻撃しそうなものだが、野党のカルト的な集団ないし、狂信的な人間が矢沢組を狙っている可能性は否定できない。
 しかし、カルトや狂信的な人間がここまで綿密な計画を練り、実行に移せるだろうか。
 そこが政治結社を敵に想定した場合のボトルネックとなってくる。
 第三の相手は想定が難しいがカジノに反対している市民だ。
 市民の大半は再開発計画に興味を持っていないが、商店街や商工会は地場産業が脅かされるとして強硬に反対している。
 矢沢組はこの商店街の切り崩しを行っていたのだが、その矢先にジョーカーが出現するようになり、商店街を攻略するどころではなくなってしまったのだ。
 そう考えると、人のいい商店街の人々こそが実は矢沢組の最大の敵という事になる。
 ――商店街がジョーカーの可能性――
 だが、それなら情報漏洩が少なからずあるはずだ。
 ――もし商店街の誰かがジョーカーで、他の人間は知らないのだとしたら――
 ジョーカーは一方的に守るだけで損をしているように見えるが、最終的には商店街が守られるのだから自分の仕事も守る事になる。
 ――商店街の何物かが、か――
 健司はPCで商店街の店舗の情報を検索する。ほとんどが個人事業主でHPもまともに作れているとは言い難い。
 そんな中、健司は気になる存在を発見した。
 ――人権派弁護士、慶田盛敦――
 直接の関与の有無は別にして、慶田盛が商店街や町を守ろうとするのはありそうな事だった。
  〈5〉
  「急な訪問で恐れ入ります。慶田盛先生の事務所は意外と質素なんですね」
 新庄市の雑居ビルの一室を訪れた健司は慶田盛敦に向かって言う。
「君は……殺し屋との事だが……」
 当惑した様子で慶田盛が応接用の合皮のソファーに腰かけて言う。
「屋号のようなものです。ただの飲食店ですよ。保健所で営業許可も取っています」
 健司は爽やかな笑みを浮かべる。
「で、歌舞伎町の飲食店がここに一体何の相談なんだい?」
 敏腕弁護士という割にはお人よしなのだろう、慶田盛が問うて来る。
「店が襲われたんです」
 健司の言葉に慶田盛の視線が険しくなる。
「それは警察に訴えるべき案件なんじゃないのかい?」
「歌舞伎町で店が襲われた程度で警察が動くと思いますか?」
 健司が言うと慶田盛が思案気な表情を浮かべる。
「相手に目星はついているのかい? 組関係だと厄介だぞ?」
 歌舞伎町という事を意識しているのか慶田盛が言う。
「ピエロのマスクに紫のトレンチコート、銃撃で店は蜂の巣です」
 慶田盛の表情が一瞬硬直する。
 ――慶田盛はジョーカーを知っている――
「最近はそういった愉快犯が流行っているようだね」
「慶田盛先生はご存知ないのですか? ジョーカーと呼ばれているようなのですが」
 慶田盛の顔がポーカーフェイスに変わるが遅すぎだ。
 今更表情を消した所で知っていると言っているようなものだ。
 健司はさり気なくソファーの隙間に盗聴器を滑り込ませる。
「噂で聞いている程度だね。でも、弁護士だからといって探偵の真似事ができる訳じゃない」
「慶田盛先生は懇意にしている探偵などはおられないのですか?」
「古い付き合いの探偵はいるけどね。彼を紹介するにはそれなりの理由が必要だよ」
 慶田盛が慎重に言葉を選ぶ。
「店が襲撃された以上の理由が、ですか?」
「僕はその破壊された店舗の写真すら見ていないんだよ? 被害実態が明らかではないのに探偵の手を煩わせると思うかい?」
「随分と庇われるんですね。逆に興味が湧いてきましたよ」
 健司は切り上げどころと判断してソファーから立ち上がる。
「貴重なお時間を頂きありがとうございました」
 健司は慶田盛と握手しながら唇の端が吊り上がりそうになるのを堪える。
 ――これで慶田盛が探偵に連絡を取ればその相手がジョーカーである可能性は高い―― 
 
 〈6〉
  「いやぁ~俺たちマジ凄くね? もうハリウッドレベルだって」
 クイーンメイブのボックス席で健がいつものように能天気な口調で言う。 
「たちじゃなくて身体張ってる私たちが凄いの」
「お前PCなんて触れないだろ」
 健が加奈に言い返す。
「PCコンビニの使えてるし!」
「ンなの使えてるうちに入らねーよ。な、ジョーク」
 健の言葉に清史郎は肩を竦める。加奈と比較すればPCを使える方だろうが、ITというレベルには程遠い。
 ヤクザの事務所に仕掛けた盗聴器をBluetoothで飛ばしたり、WIFIでデータを引き抜いたりといった芸当は清史郎には不可能だ。
 しかも従来の興信所の盗聴器探知は電波の周波数帯で探っている為、健のカスタムした機材を探知する事ができない。
 健は新庄市のヤクザの誰よりも彼らの動きに詳しいと言っても過言ではないのだ。
 その中から清史郎が獲物になりそうな案件を選び出し、加奈と下準備を行っているのだ。
「なぁ~んか納得行かない」
 加奈が口をとがらせるが、こればかりは健の能力を素直に認めるしかない。
「エースの情報収集能力がなければ火薬を仕掛けにも行けないだろ」
「土建屋の癖に何かムカつく」 
「土建屋じゃなくてDJだっつーの」
「DJで食ってる訳じゃないでしょ? なら土建屋じゃない」
「ンだとコラァ!」
 声を荒げる健を清史郎は慌てて宥める。
 手を挙げるような青年ではないが、つまらない事で耳目を引くのは得策ではない。
「俺は二人におんぶにだっこだ。二人がいなければジョーカーなんてやってられない。そうだろう?」
「私もジョーカーやったしね。やってないのはエースだけ」
「俺がいなかったら起爆できねぇじゃねぇか」
 むっつりとした口調で健が言う。
「裏方の仕事があっての晴れ舞台って事もあるんだ。もっとも、舞台役者が良くなかったらどんなに裏方の仕事が良くても芝居にはならない」
 清史郎の言葉に加奈がため息をつく。
「ジョーカー人間できてるわ」
「単に口の上手いオッサンってだけかもな」
 健が悪童のような笑みを浮かべる。
「多分エースの言う通りだろう。で、いよいよ選挙まで三か月を切った訳だ。矢沢組だけじゃない、カジノ関連の企業が再開発計画に群がってきている」
 清史郎は話を本来の筋道に戻す。
「それは分かるけどさ、ヤクザは脅せても民間企業はどうにもならないんじゃない?」
 加奈の言葉に清史郎は頷く。
「そこは商店街と市民の手に委ねる。俺たちが考えなきゃいけないのは、矢沢組をあと三か月どう騙し抜くかって事なんだ」
 最終的にカジノ施設を選ぶか、市民公園を選ぶかは市民の手に委ねられるべきだ。
 ジョーカーはそこに介入しようとする矢沢組をけん制しているに過ぎない。
「一年以上見破られてねぇんだし、今更どうって事も無いんじゃね?」
 健が楽観的な口調で言う。
「一年って言っても綱渡りだったじゃない。ジョーカーも怪我したんだし」
 常に現場を見て来た加奈が健に向かって言う。
「人生にはスリルがつきものだろ」
「必要ないのにスリルをつける必要ないでしょ?」
「人生にはロマンが必要だよ。なぁ、ジョーカー」
「私の人生にはロマンらしいロマンは無かったよ」
 明らかに会話を楽しんでいる健に清史郎は苦笑する。
「人生堅実が一番なの。あんたみたいのが一番ホームレスに近いんだから」
「お前だってコンビニ店員以外何ができるよ」
「ちょっとジョーカー、何とか言ってやってよ」
 怒った様子の加奈が話を振ってくる。
「景気が良くなったら事務所で求人でも出すよ。それより今は仕事をやり抜く時だ」
 清史郎の真剣な言葉に二人が頷く。
 ――後三か月――
 この凸凹コンビと一緒に駆け抜けなければならない。
 
 〈6〉 
  「ここの探偵事務所では人探しをしたりはしないんですか?」
 健司は三浦探偵事務所の安普請の椅子に腰かけて、所長兼調査員の三浦清史郎と向かい合っている。
 慶田盛は健司が面会した翌日に同じく新庄市に居を構えている三浦に連絡を取った。
 探られている事を多少は警戒しているだろうが、昨日の今日で会いに来るとは思っていないだろう。
「今の所請け負ってはいないね。知っているかどうか知らないが、日本の年間行方不明者は二十万人。警察が民事だと言ってサジを投げるレベルだ。うち毎年六千人前後が死体で発見される。これが日本の行方不明の実情だ」
 四十五歳、探偵というより疲れたサラリーマンを思わせる風貌だが、どこにでもなじめるという点ではこの風貌は役に立っている事だろう。
「携帯電話の通信記録を探ったりしないんですか?」
「そういう情報は大手の情報企業が握っているんだ。契約していなければ盗み出すしかないだろうし、それをすれば犯罪だ」
「企業が形はどうあれ本人の同意なしに情報を持っている事は犯罪ではないと」
「正当だと思えば契約している、と、答えたら君に私の考えは分かってもらえるかな」
 清史郎はかなり真っ当な昔気質の探偵であるらしい。
 三浦探偵事務所は商店街の噂では浮気調査などではパッとしないが、事件性のある案件だと警察を出し抜く腕前なのだと言う。
「独り言だと思って聞いてもらえればいいんですが、ジョーカーという男をご存知ではないですか?」
「知っているよ。少なくとも片手には余るほどね」
 掴みどころのない口調で清史郎が言う。
 ――だが、他の商店街の人間はジョーカーと聞けば逆に動揺したものだ――
「ヤクザ相手にモデルガンを振り回す愉快犯。前金で一千万。正体が分かれば更に一千万」
 健司はリュックサックから帯留めされた札束の入った紙袋を押し出す。
「これだけ流行らない事務所だ。一千万を受け取って私が雲隠れするとは考えないのかい?」
���見つけられなくても差し上げますよ」
 健司は内心で清史郎がジョーカーであるとの確信を強めながら言う。
「そういう事であれば遠慮なく預かろう。所でジョーカーについてもう少し詳しく話を聞けないかな? さすがに名前だけでは調査にならない」
「僕もまた聞きでしか知らないんですが、ヤクザが武装しているか麻薬を所持している時に出現し、モデルガンを利用してあたかも本物のように見せかけて驚かせ、ヤクザが金を落としていけばそれを拾っていく。そういう話です。被害に遭っているのは主に矢沢組で、矢沢組は現職与党知事のケツモチをしている」
「つまり、君の推理が正しければ現職知事と利害関係にある人物が選挙で優位に立つべく矢沢組を攻撃している、攻撃しているように見せかけているという事だね?」
「そう、その人物の特定が難しいんですよ。ヤクザの情報を自分の家のPCのように自在に覗き見て、常に有利な状況でモデルガンによる脅迫を行っている」
 そこが健司が最も解せない所だ。
 この三浦清史郎という男は探偵としては優れているように察せられるが、ITに強いようには見えない。
 情報を買っている訳でも無いのだとしたら、一体どのようにして情報を得ているのか。
 更に情報を得たとしてそれを整理し、取捨選択する事も必要になる。
 事務員の一人もいないこの事務所のどこに実務を取り仕切る人間がいるというのか。
 自分はこの男の何かを見落としているとでも言うのだろうか。
「つまり、ジョーカーという人物にはハッカーとしての側面もあるという事だね?」
「そう考えないと辻褄が合いません」
「では、ハッカーであり、モデルガンでヤクザを脅すジョーカーという愉快犯を特定してほしいという事だね」
「結論としてそういう事になるかと」
「プライバシーに踏み込むつもりはないが、そのジョーカーという人物の特定にどういった動機があるか聞かせてもらえるかな? 参考までにという事で構わないが」
「僕が矢沢組に依頼されたからですよ。でも僕の力だけでは見つけられそうに無い」
 健司はチェスを指すかのような心境で言葉を選ぶ。
 目の前の男がジョーカーである可能性は限りなく大きいのだ。
「君も探偵なのか?」
 清史郎の言葉に健司は肩を竦めて名刺を差し出す。
「歌舞伎町で殺し屋を営んでおります円山健司と言います」
 言った瞬間、清史郎の顔に何かグロテスクなものでも見たかのような表情が浮かぶ。
 健司はその表情をこれまで嫌という程見てきたのだった。
  第三章       殺し屋
  〈1〉
   清史郎は拙いとは知りつつ、円山健司を尾行していた。
 尾行を知られたとしても、探偵が依頼者の事を知ろうとする事に問題は無い。
 そもそもがジョーカーなどという得体の知れない人物を探せという無理難題なのだ。
 例え自分がジョーカーであったとしてもだ。
 電車を乗り継ぎSUICAのチャージマネーが尽きそうになった時、円山は新宿の歌舞伎町にある『殺し屋』という店舗に入っていった。
 信じられない事だが、冗談でないとするなら殺人を生業とする人間が看板を出して店を営業しているのだ。
 円山は自ら隠れるという事が無い。
 本当に殺人が生業なのだとしたら、その手段に余程自信を持っているという事なのだろう。
 清史郎は逡巡しながらも暖簾を潜る。
 相手にその気があればビルに入った瞬間から監視カメラで自分を監視していても不思議ではないからだ。
「いらっしゃいませ! ご注文がお決まりになりましたらお気軽にお申しつけ下さい」
 円山が人が違ったような口調で声をかけてくる。
「さっき会ったばかりだろう? それよりこのお品書きというのは本当なのか?」
 お品書きには殺人方法や死体を残すのか残さないのかなど様々なオプションサービスが書き込まれている。
「はい、迅速丁寧をモットーに確実にターゲットを殺させて頂いております」
「例えば、この絞殺で死体を残すというオプションにした場合、警察に犯人特定されやすいんじゃないのか?」
「企業秘密にはなりますが、TPOに応じて柔軟に対応させていただいております」
「ジョーカーはどうやって殺す事になっているんだ?」
「お客様の情報を開示する訳には行きませんが、強いて言うなら殺し方は問わないとの事です」
 円山の言葉が事実なら矢沢組はなりふり構っていないという事だろう。
 ジョーカーは確実に矢沢組に打撃を与えているのだ。
「じゃあ俺も注文したいんだが構わないか?」
「どのようなご注文でしょうか?」
 爽やかな笑顔で円山が言う。
「ジョーカーをオプションサービスで九月三十一日に殺してほしい」
 清史郎の言葉に円山の目が見開かれる。
「前金で一千万。不足なら五百万を追加する」
 清史郎は受け取ったばかりの一千万をカウンターに乗せる。
「ジョーカー殺害日時の指定は確かにオプションで追加可能ですが……」
「ジョーカーを殺す日時の指定は矢沢組からは無かったんだろう?」
 清史郎が言うと円山が顎に指を当てて思案気な表情を浮かべる。
「依頼が重複した事は初めてで、対応致しかねます」
「いや、重複していない。私が矢沢組の手先で、追加でオプションを申し込んでいるとしたならどうなんだ? 君は依頼主の事をどれだけ調査しているんだ?」
 清史郎の言葉に円山の表情が曇る。
「お客様のプライバシーを優先して営業しております。業務上必要な情報は収集致しますが……」
「九月三十一日、ジョーカーは新庄市商店街の外れ、たこ焼き屋千夏の前に現れる」
 清史郎の言葉に円山の表情が強張る。
「もしお客様がジョーカーだった場合……」
「自分を殺してくれという依頼はこれまでなかったのか?」
 円山が何かを試すような視線を向けてくる。
「もちろん、そういった依頼もございました」
「なら問題は無いだろう?」
「……つまり、あなたは探偵としての任務を全うし、殺し屋に仕事を依頼しに来た。そういう事ですね」
「そういう事になるな」
 清史郎が笑みを浮かべると円山の口元に笑みが浮かぶ。
「矢沢組がそれ以前の日時を指定して来たら?」
「それこそ二重契約は無効だと言��ばいいだろう?」
「矢沢組がジョーカーの正体を教えろと言ってきたら?」
「ここは興信所ではないのだろう? それに私は九月三十一日にジョーカーが現れるとは言ったが、私がジョーカーだとは一言も言っていないぞ」
 円山は殺しという商売にプライドを持っている。
 そのプライドに反する行為はできないはずだ。
「了解しました。九月三十一日に現れるジョーカーを殺します。しかし、他に機会がある場合もありますので悪しからず」
 円山が一千万の入った紙袋を掴んでカウンターの内側に置く。
 これで円山の精神には一つのストッパーがかかった事になる。
 後はいかに円山を寄せ付けないように立ち回れるかだ。
  〈2〉
  
 してやられた。
 健司は先制に成功したつもりが、乗り込まれて悪条件を飲まされた事を今更ながらに実感していた。
 三浦の期日を守れば選挙は終わってしまうだろう。
 矢沢組は選挙で勝利する為にジョーカーを殺したいのだから、仮に殺せたとしても契約違反と言いかねない。
 そもそも条件は問わないという話だったのだから構わないと言えば構わないのだが、ヤクザがそのような道理を飲むとは思えない。
――そもそも乗り気な仕事では無かったのだ――
 とはいえ、呑気に構えていてはヤクザに消される事になる。
 九月三十一日に殺せたとしても、それは報復の意味しか持たない。
 そして九月には三十日までしか存在しない。
 十月一日を無理やり九月三十一日と解釈できない事も無いが、完全に手玉に取られたとの感を禁じ得ない。
 緒方が猶予として見るのは何週間だろうか。
 幸い緒方は健司が三浦と接触した事を知らない。
 まだジョーカーを探していると言えば時間稼ぎはできるだろう。
 最悪二千万はドブに捨てたのだと言うくらいの器量は緒方にはあるだろう。
 しかし、それでは殺し屋の看板に傷がつく。
 創業四年、地道に仕事を続けて来た実績に泥がつくのだ。
――三浦清史郎を殺すか――
 それを考えて健司は三浦の余裕が気にかかる。
 三浦がジョーカー本人だというならそれで構わないだろう。
 しかし、ただの連絡役だったり複数犯だったりした場合はどうなるだろうか。
 ジョーカーは死んでも蘇る。
 その事の方が矢沢組にとって脅威だろう。
 ジョーカーのテンプレートが商店街で共有される事にでもなったら、矢沢組は人的物量的に無数のジョーカーに襲われて新庄市を撤退しなくてはならなくなるだろう。
 その時、ジョーカーを殺せと依頼されたなら、一体何人を殺せばよいのか分からず、それだけの数を連続で殺せば証拠を残す事になりかねない。 
 そうなれば警察に捕らえられて全てが水の泡だ。
――そう、殺すのは三浦清史郎ではなくジョーカーである必要がある――
 その為にはジョーカーの仕事の実態を掴まなくてはならない。
 これまでのジョーカーの襲撃箇所と状況を再確認する。
 ジョーカーは神出鬼没のように見えるが、確実な逃走経路のある場合以外は出現していない。
 ジョーカーは矢沢組の取引の全てを俯瞰し、最も有利な形を作り出している。
 と、なれば健司も事前に情報を収集しなくてはならない。
 以前緒方が入店した時、店内のシステムでスマートフォンはクラックしてある。
 緒方のスマートフォンを経由して矢沢組組長矢沢栄作の端末に潜入する。
 ホストを掌握して矢沢の端末から矢沢組の取引データを吸い上げる。
 半グレたちは無料WIFIに接続している者が多く、セキュリティも糞も無い。
 健司は新庄市の地図を広げ三浦の心理を読もうとする。
 正面切っての対決の後で、あの食わせ物が仕掛ける事は間違いないのだ。
  〈3〉
  始発電車で歌舞伎町を訪れた清史郎は街路を歩き回りながら、人通りの少ない場所や人目につかない場所にトランプのジョーカーのカードを置いていく。
『殺し屋』がテナントに入ったビルの前の壁にはスマートフォンと接続したラズベリーパイの監視カメラを設置した。 
 監視カメラの映像は近場の喫茶店でタブレット端末で見ようと思ったのだが、歌舞伎町には静かに端末を見る事のできるような喫茶店が見当たらなかった。
 仕方なく新宿駅前のコーヒーの不味いチェーン店に足を向けた。
 電波は良好、通勤前の客も訪れておりタブレット端末を見ていても不審には思われない。
 スマートフォンを操作して朝のニュースをチェックするが、特に気になるような情報は無い。
 八時二十四分、円山が風俗ビルにスーツ姿でやって来た。
 一見地味なスーツ姿に見えるがバーバリーにリーガルのシューズといったいで立ちだ。
 ���る人間が見れば逆に趣味が良いと答えるだろう。
 屋内の監視カメラを警戒して清史郎はビルには監視カメラを仕掛けていない。
 九時きっかりにスーツ姿にアタッシュケース姿の円山がビルから出てくる。
 清史郎は円山が新宿駅に向かったのを見て小走りに店を出る。
 円山を捕捉し、充分に金をチャージしたSUICAで改札を潜る。
 円山を尾行する事二十分、新庄駅で円山は列車を降りた。
 チャージマネーで改札が通れて良かったと思える一瞬だ。
 昔なら駅によっては乗り越し清算をしなくてはならないところだ。
 円山は商店街を突っ切り、三浦探偵事務所にほど近い喫茶店に入っていく。
 清史郎は更に離れた喫茶店で画像を喫茶店のものに切り替える。
 商店街の店にはセキュリティの名目で三浦探偵事務所の監視カメラが取り付けられているのだ。
 円山が注文するより早く、店員がコーヒーにトランプのジョーカーを添えて差し出している。
 円山の表情が一瞬硬直する。
 清史郎は商店街の店に予めジョーカーのカードを配り、前払いで商品を出すよう話をつけておいたのだ。
 これで円山は自らが監視対象である事を知る。
 コーヒーを飲み干した円山が喫茶店を出て周囲を見回す。
 ――追われる気分はどうだ、円山――
 円山は午後六時になると歌舞伎町のビルに戻り、吉祥寺の自宅であるらしいマンションに帰宅した。
 清史郎は吉祥寺界隈の店に金とトランプのジョーカーを配り、路地裏などにカードを仕掛けて帰路についた。
  〈4〉
  「って事は正体バレちまったのかよ」
 相変わらず騒々しいクイーンメイブのボックス席で健が声を上げる。
「殺し屋って名刺出してる殺し屋って狂ってるとしか思えないけど」
「腕に余程の自信があるんだろう。今の日本じゃ老衰や自殺や病死や事故死以外の異常死が毎年十七万件発生しているんだ。死体なんかあった所で警察の手が回る状態じゃない」
「ジョークと話してて思うんだけどさ、警察って何してんだ?」
「総資産一億円以上の人間の事は守ってるだろうさ。後は交通違反の取り締まりだな」
 清史郎は答える。実際警察が殺人や行方不明を事件化する基準は分からないのだ。
 確かなのは毎年日本では殺人事件は百件前後しか起こってはならず、検挙率は96%を下回ってはならないという暗黙の了解があるという事だ。
「どっちみち最初から警察は味方じゃないでしょ。矢沢組が商店街に嫌がらせをしても見て見ぬふりだったんだし」
「だよな。俺たちジョーカーが正義の味方なんだ。そうだろ」
「多少稼がせてもらってるけどね」
 健も加奈もジョーカーという仕事には少なからず誇りは持っている。
 士気が高いという点では矢沢組と戦っていく上で大きなアドバンテージになるだろう。
 殺し屋円山健司がジョーカーの核心に近づいたとは言っても、健と加奈まで特定している訳ではないのだ。
 そして健のITを見て警戒していた為、あの新宿の風俗ビルにはスマートフォンも時計も持ち込んでいない。
 顔は間違いなく撮影されているだろうが、顔認証は広範なエリアから自在に情報を引き抜けるようなものではない。
 いつ、どのカメラに映っているのか分からなければどのカメラをハッキングすれば良いのか分からない。
本当の所は分からないが、公には警察でも店舗など個人のカメラの映像は捜査協力や令状で記録を閲覧しているのだ。
健のIT技術にした所でカメラを特定し、通信可能な距離で『物理接触』しない事にはデータを閲覧する事などできないのだ。
「円山って野郎の鼻を明かしてやろうぜ。こっちは天下御免のジョーカーなんだ」
「でもさ、ジョーカーを探り当てたって事は相当の切れ者なんじゃない? 殺し方だって一つや二つじゃないからこれまで捕まってないんでしょ?」
 加奈が慎重論を述べる。この慎重さがチームの要になっていると言ってもいい。
「じゃあどうするってんだよ。まさか止めるとは言わねぇよな」
「多少趣向を変える必要はあるだろうな」
 清史郎はカバンからジョーカーマスクをのぞかせる。
「マスク……一体何枚あんだ? 量産して成功すんのは北朝鮮のモロコシくらいだろ」
「そっか……これをこれまで被害に遭った半グレに匿名で送り付ければ……」
 ITには弱くても頭の回転の早い加奈には分かったようだ。
「確実な取引情報を手にした本物の銃を持ったジョーカーが出現するんだ」 
 清史郎の言葉に健が唖然とした表情を浮かべる。
「さっすがジョーカー。でもよ、俺たちと鉢合わせにはならねぇのか?」
「一応発信機は取り付けてある。合成音声のスイッチを入れれば起動する仕組みだ」
「じゃあ信号がなかったら作戦決行って訳ね」
「それに送り付ける相手はこっちが選べるんだ。事前に動きを掴む事も難しくないだろう」
 清史郎はこれまでの取引の状況から矢沢組に逆らいそうな半グレをリストアップしている。
 表立って逆らう事はしないだろうが、ジョーカーとしてなら薬をガメるくらいの事はしかねない連中だ。
「でも、それって少ししたら矢沢組に露見するんじゃない?」
「ああ。でも矢沢組は確実に疑心暗鬼に陥るし、本物の銃弾が飛んでけが人でも出ればジョーカーに対して慎重にもなるだろう」
「最高にクールだぜジョーカー! ジョーカーが犯罪者だったら今頃大金持ちだぜ」
 健の笑みに清史郎も笑みで答える。
「じゃあ今日の仕事もクールに決めましょ」
 加奈の突き出した拳に三人の拳がぶつかる。
 本家ジョーカーは最高のチームなのだ。
  〈5〉
   自宅まで嗅ぎつけられたとは。
 午前七時、健司は朝食を食べようと吉祥寺の喫茶店に入った所で、ジョーカーのカードと対面する事となった。
 もっとも、ずっと尾行されていたなら自宅が特定されるのは不思議でも何でもない。
 一番の問題は探偵に四六時中張り込まれたらジョーカーどころではなく、他の仕事も一切できないという事だ。
 動揺を押し隠し、それでも周囲を警戒しながら歌舞伎町の店舗に向かう。
 ドアに挟んだ髪の毛が落ちた様子は無く、侵入者はいないようだ。
 店内に入り、一通り掃除を終えると鋭利に削ったシャープペンシルをカウンターから取り出す。
 殺しの方法はいくらでもある。
 相手が尾行しているなら、人通りの少ない所に誘い込んで始末するという方法も取れるのだ。
 健司は尾行のプロである三浦を警戒する事を止め、路地裏へと足を踏み入れる。
 一定歩いた所で振り向き、シャープペンシルを引き抜く。
 が、そこには三浦の影も形も無かった。
 四六時中張り込んでいるという訳ではないという事だろうか。
 健司が安堵しかけた瞬間、路上に落ちているトランプのカードに気付いた。
 ――ジョーカー!――
 三浦はこちらの考えを見抜いて行動に出ているのだ。
 と、言う事は人通りの少ない所は三浦本人に監視されない反面、ヤクザを監視しているような遠隔装置で監視している可能性が高いだろう。
 ――この僕が身動き一つ取れないと言うのか――
 健司は拾い上げたトランプのジョーカーを握りつぶした。
  
〈6〉
  
 深夜の路地裏、半沢芳樹はジョーカーマスクと紫色のどぎついトレンチコートに身を包んで、汗が出るほどにトカレフを握りしめている。
 部下二人が矢沢組とヤクの取引をする事になっており、そこをジョーカーのフリをして襲撃するのだ。
 成功すればタダでドラッグが手に入り、失敗してもジョーカーのせいだ。
 うだつの上がらない半グレの四十代、ヤクザに昇格できる見込みも無い。
 忠義を示せと言う方が無理というものだ。
 視線の先には金を手にした部下の姿、ヘッドライトで周囲を照らす矢沢組のベンツがある。
 部下が金を出し、組員がスーツケースを開いてドラッグを見せる。
 半沢はそのドラッグを見ているだけで身体にアドレナリンが駆け回ったような気分になる。
「動くんじゃねぇ! こっちにヤクを寄越せ」
 取引成立の寸前に半沢は銃を手に飛び出す。
 矢沢組の構成員がスーツの内側から銃を抜く。
「金もヤクも俺のモンだっつってんだ!」
 半沢は先制して引き金を引く。轟音が響き矢沢組の構成員が気圧されたように見える。
 立て続けに引き金を引いて距離を詰める。
 矢沢組の構成員が引き金を引き、半沢の頬を掠める。
 ジョーカーの姿で出ていけば怯むと思っていたのだが、反撃は想定外だ。
 それでもここが正念場と半沢は引き金を引く。
 一発の弾丸が矢沢組の構成員の鎖骨の辺りを貫く。
 凶悪な一瞥をくれて矢沢組の構成員たちが引き上げていく。
 半沢は両手でヤクを掴んで高笑いする。
 こんなにチョロい商売にこれまでどうして気付かなかったのだろう。
 ――ジョーカーを続ける限り俺は無敵だ――
  〈7〉
   事務所に次々に凶報が舞い込む中、矢沢組の緒方は状況の変化を理解していた。
 ジョーカーの模倣犯は自然発生的に生まれたものではない。
 本当に模倣する脳があるなら金や麻薬を要求する訳が無い。
 と、すれば中身は町の半グレや暴走族と察しがつく。
 とはいえ、数は厄介であり、ジョーカーの真似をすれば処刑だと言った所で本物のジョーカーもどこかにいるのだろうから半グレは高をくくって矢沢組の命令に従おうとはしないだろう。
 そして更に厄介なのはちゃんとジョーカーを模倣できている者もいるという事だ。
 ジョーカーを見たら撃てというのは簡単だが、半グレが連合して矢沢組に反旗を翻したら手足を失った矢沢組に抵抗する術は無い。
 矢沢組は権力と金と麻薬は持っているが、マンパワーが多いという訳ではないのだ。
 ジョーカーはその弱点を的確に突いて来たのだ。
「緒方、考えは無ぇか?」
 電話越しの矢沢の言葉に緒方は頭を巡らせる。
「ジョーカーマスクに百万の懸賞金をかけてはいかがでしょう?」
 マスクをつけている人間の罪を問わず、マスクを差し出せば百万やると言えばわざわざ危ない橋を渡ろうという連中は少なくなるだろう。
 その上でジョーカーの撃滅を図ればいいのだ。
「その手は使えそうだな。問題はマスクがどれだけ出回っているかだが」
「数は多くないと考えます。そもそも同時多発的にジョーカーが出現したという事は、誰かが創意工夫して模倣されたのではなく、何者かが意図的に行ったと考える方が自然です」
 言って緒方は組員たちに通達を出し、ついでに警察にも懸賞を知らせておく。
 公権力が銃刀法で取り締まりを開始すれば半グレは震えあがってジョーカーの真似などしていられなくなるだろう。
  〈8〉 
 
  健司は新庄市のホテルの床に落ちた髪の毛を拾いながら、事態の急変と自分の読みが正しかった事を知る。
 三浦は健司に捕捉された事で作戦変更を余儀なくされた。
 健司も身動きできなくなったが、それはお互い様なのだ。
 そこで今回のジョーカー量産化計画を演出したのだろう。
 しばらくの間町中にはジョーカーがあふれる事になる。
 矢沢組が引き締めを行っているものの、偽ジョーカーの模倣犯も出現し本来の偽ジョーカーより多くのジョーカーが出現しているのが現状だ。
 ――でもこの狂騒はすぐに終わる――
 健司は日が暮れるのを待ってアタッシュケースを手にホテルを出る。
 三浦が四六時中張り付いている訳ではない事も分かっている。
 いずれにせよ仕事を迅速に済ませれば証拠も残りはしないのだ。
 深夜の人気の消えたオフィス街を歩きながら手に手術用のビニール手袋をはめる。
 靴のサイズは自分の標準よりワンサイズ大きく、髪型は大きく変えていないが頭にはカツラをかぶっている。
 一般で売られているカツラには、インドの仏教徒やヒンズー教徒が出家する時の髪の毛が使われている。
 そして、インド人の髪の断面は日本人が楕円であるのに対し正円に近い。
 仮に髪が現場に落ち、科捜研が調査したところで出てくるのは謎のインド人という事になるのだ。
 健司は予定していた地点にたどり着くと、持ってきたボルトを電柱の穴に差して二・五メートル程の高さにまで登って電柱に寄り添うようにして立つ。
 予定通りスポーツバッグを手にしたジョーカーが走ってくる。
 中身は半沢という三下の半グレだ。
 正面だけに注意を向け、自分の身長より上には注意が向いていないらしい。
 健司はボルトに引っ掛けたテグスを引っ張る。
 ジョーカーの首にテグスが食い込み、仰向けに倒れかかる。
 アイスピックを手にした健司はジョーカーに圧し掛かるようにして飛び降りる。
 アイスピックがジョーカーのマスクと頭蓋骨を貫き、脳を攪拌する。
 健司はアイスピックをその場に放り捨てて、テグスもそのままに歩き去る。
 アイスピックもテグスも殺人犯を特定する決定的な証拠とはなり得ない。
 少し歩いた所で歩きやすい靴に履き替え、手袋を脱いでしまえば何一つ痕跡は残らない。
 意識していたが三浦に行動を監視されていた様子は無い。
 三浦はマスクをばらまいた事でジョーカー業を一定退いたのかも知れない。
 それならそれで……
 ――ジョーカーを名乗れば問答無用の死が訪れる――
 それでもジョーカーを続けられる者がいるだろうか。
 健司の受けた依頼はジョーカーの殺害であって三浦清史郎の暗殺ではないのだ。
  〈7〉
   緒方は苦い気分で事務所でTVを見ている。
 一週間で九人のジョーカーが殺され、四人のジョーカー、三人の組員が射殺された。
 ワイドショーは死体にピエロのマスクをかぶせる愉快犯として報道している。
 常識的に考えればそうなのだろう。
 だが、現実にはジョーカーの模倣犯が跋扈し、殺し屋円山がジョーカーを殺しまくっているのだ。
 この問題の裏が表ざたになれば矢沢組に捜査の手が伸びる。
 組長が事情徴収という事にでもなれば、知事選敗北は必至だ。
 この銃弾飛び交い殺し屋が闊歩する状況は、客観的に見れば矢沢組の内部抗争なのだ。
 ――やってくれたなジョーカー――
 日用品を用いて鮮やかに殺しを遂行する健司に対する恐怖は広がっており、それなりの数のジョーカーマスクが届いてもいるが、それでも自分だけは大丈夫と考えるのが人間の性であるらしい。
「兄貴、県警本部長が来ています」
 部下の言葉に緒方は舌打ちしたくなるのを堪える。
 何人か人身御供に出す必要はあるだろうが、それでジョーカー問題が片付く訳でも無い。
 今の新庄市はさながらギャングの蔓延る六十年代のニューヨークだ。
 このネガティブイメージの中ではカジノ施設の誘致も集客の為だなどという言葉で誤魔化せない。
 ――だが、商店街も打撃を受けているはずだ――
 緒方は次善の手を考えながら県警本部長を待たせてある応接室に向かう。
「緒方です��この度はお騒がせしております」
「いや、そうかしこまらんでくれたまえ。私がこうしておれるのも矢沢組あっての事だ」
 県警本部長の茨木義男が本革張りのソファーから腰を上げて言う。
 茨木は東大卒のキャリアで矢沢の後輩に当たり、同じゼミを受講していた間柄だ。
「殺人事件は起こせない。それが警察の不文律でしょう?」
「今回のカジノ施設建設は内閣肝いりでもあるんだよ。情報操作で反対派が工作しているように演出する事は可能だろうよ」
 転んでもタダで起きないのが政治家やエリートというものであるらしい。
「つまりはカジノ施設反対派が、賛成派の人間を殺してピエロのマスクをつけていると?」
「そういう報道になっているだろう?」
 茨木の言葉に緒方は唖然とする。
 当事者としての立場で見ていた為に気付かなかったが、一般視聴者の目線で見るとそういう風に見えるのだ。
「で、私の在任中にこれだけの死者を出しているんだ。票は囲い込めているんだろうね」
「固定票は押さえております」
 実際の所、矢沢組は内紛に近い状態で票を囲い込めるような状態ではない。
 大手のチェーン店などでは本部通達で票の取り込みができているが、個人事業主は依然として反対の姿勢を崩していない。
 ――やる事成す事裏目に出る―― 
「死人は出る、カジノ施設はできないでは私の本庁復帰が危うくなるんだよ。その意味は分かっているだろうな」
「はい」
 不満げな茨木に緒方は短く答える。
 ――県警本部長が殺害されれば流れが変わるかもな――
 緒方は脳裏にあのとらえ所のない殺し屋の姿を思い描いた。
  第四章       トリックスター
  〈1〉
  「最近俺たちが出てもヤクザもビビらねぇのな」
 クイーンメイブのボックス席で健がぼやく。
 本物の銃を撃つジョーカーもいれば、ジョーカーを狙い撃ちにする殺人鬼も存在する。
 実際に死人も出ているのだから今更驚かす程度ではヤクザも怯みはしないだろう。
「銃で撃たれるって不安。前より遠慮なく撃たれてる感じ」
 加奈が沈んだ様子でカクテルに口をつける。
「おいおい、私たちの本来の目的を忘れたんじゃないだろうな。私たちの目的はカジノ施設誘致の妨害だ。今の状況でカジノ施設がオープンしたとして誰がテナントに入るんだ? 暴力がこれだけ蔓延る状況を許した現職知事は窮地に立たされている。住民の安全と地域の活性に誠実に取り組む人物が取って代わらなければ市民が納得しない」
 ショットのバーボンを口に運んで清史郎は言う。
「いや、確かにジョーカーの言う事は分かるんだけどさ、昔は良かったっつーか、実入りが少ないのは我慢するとしてもよ」
「私たちの本当の目的に近づいているんだから喜んでいいはずなんだけどね」
「選挙の公示まで三日、世襲できそうな人間がいない以上与党は今更候補者を変更できないし、現職のまま選挙を戦う事になる。野党には追及の材料が掃いて捨てるほどある。これで負けるようなら本当に世の中が腐りきってるってだけだ」
 健と加奈の気持ちを察しながらも清史郎は言う。
「もう少しで全部終わっちまうんだよなぁ~。何か微妙だぜ」
「コンビニも忙しいって言えば忙しいんだけど、税金は取られるのに退職金も無いし年金のアテもないし」
 健が仕事にやりがいを感じられないのも、加奈がお先真っ暗だと言うのも理解できる。
「そうは言っても九月三十一日にはジョーカーは死ぬんだ」
「してやられましたよ。九月に三十一日なんて無いじゃないですか」
 ボックス席に当たり前のように現れた円山が言う。
「誰だテメェ!」
 健が身を乗り出す。
「歌舞伎町で殺し屋を経営している円山健司と言います。ここが三浦さんの本当の事務所だったんですね」
「まさか一週間で九人も殺したのって……」
「やだなぁ~僕はもっと殺してますよ。警察だって報道内容には気を遣うんです」
 涼しい表情でグラスを手にした円山がボックス席に座る。
「人殺しだってバラすぞ、テメェ」
 健が円山に向かって噛みつきそうな声と表情を向ける。
「ご自由にどうぞ。何か一つでも証拠が存在するならね」
「で、その殺し屋さんがここに何の用?」
「いや、本家のジョーカーはどうしているのかと思ってね。偽物でもこれだけ殺せば本家も仮面を捨てるんじゃないかって思って」
「おたくの言う通りだ。こんな凄腕の殺し屋がいるならジョーカーなんてやるだけ損だ」
「本当にそう思っていますか? 本家はまだ何か隠し玉を持っているんじゃないかって思うんですけど」
「随分と余裕かましてんじゃねぇか。ジョークを殺ったらテメェを殺す」
「殺しはしたくないけどジョーカーを殺させる事は絶対にしない」
「人望があるんですね。いっそ事務所でこの二人を雇ったらどうです? 今より金回りはよくなるんじゃないですか?」
「殺し屋より儲かるとは思えないね」
「それはリスクを負っていますから」
「テメェは嫌味を言いに来たのか。悪いが俺たちはテメェになんざ負けねぇ」 
 頭に血の上った健が言う。
「そうそう、一つプレゼントがあるんです」
「あんたがくれるものなんてロクなものじゃないと思うんだけど」
「野党連合の候補を殺すように県警本部長から依頼を受けたんです」
 笑顔で言った円山がグラスを空ける。
 突然の事に健と加奈が硬直する。
 選挙期間中に候補が殺されてしまったら票が分散して現職が有利となる。
 どれだけ黒い噂があったとしてもだ。
「それは俺たちに守って見せろと言っているのか?」
「さぁ、気まぐれですよ。僕はこれでもあなたの事が嫌いではないんですよ」
 言った円山が席を立って去っていく。
 加奈と健が茫然とその背を見送る。
「私たちと候補者をまとめて葬るつもりか……」
 清史郎は思案する。候補者を守る為に張り付けば二人まとめて殺される可能性がある。
 しかし、候補者を放置しておけば間違いなく殺されるだろう。
 具体的な殺人予告という訳ではなく、あったとしても警察はアテにはならない。 
 市民は自衛するしか無いのだ。
――どうする……―― 
「なぁ、ジョーク、どうすんだ?」
「あんたも少しは考えなさいよ」
「考えてるって。頭の中じゃあの野郎を三十回は殺してる」
 非生産的な事を考えている健が言う。 
「ジョーカー、私、どうしていいか……」
 加奈は追い詰められた様子だ。
「こうなったらお望み通りにしてやろう。ジョーカーの最期を見せてやるんだ」
 清史郎は一抹の寂しさを感じながら笑みを浮かべて見せた。
 円山を前にして取れる手は一つしか無いと言っていい。
 ――あの男はこの結果を望んでいたのだろうか――
  〈2〉
  『……皆さん、この町の惨状は突然起きたのでしょうか? その根幹には市の中央にある広大な県の土地があります。この土地は江戸時代に火災の延焼を避ける為に作られた防災の為の土地でした。しかし新庄市が栄えるに従い、土地の価格が上がり莫大な利益が生まれる事が分かってきました。ヤクザやギャング、財界の人間はその利権に群がっているんです。もし、彼らの思い通りにさせるなら彼らの存在を容認する事になります。二百年前の先人の知恵に従い、ここを防災を兼ねた市民公園にする事こそが行政の成すべき事です……』
 夕暮れの新庄市の駅前で野党候補の峰山春香が声を上げる。
 聴衆はさほど多くはないが商店街や青年団が集まって盛り上げようと四苦八苦している。
 清史郎はオープンカーのハンドルを握りながらタイミングを計っている。
『ジョーカー、スタンバイOKよ』
 イヤホンから加奈の声が聞こえてくる。
『警察は野党の候補に人は割いちゃいねぇ、殺るなら今だ』
 健の声を受けて清史郎は紫のどぎついトレンチコートを羽織り、ピエロのマスクをかぶる。
「そこのお前……」
 演説を警備していた警官が警棒を手に近づいて来る。
「制服ギャングも久しからず」
 清史郎は銃を引き抜く。
 警官の足元で火花が爆ぜる。
 聴衆だけでなく、夕暮れの帰宅ラッシュの人々の足が止まる。
「綺麗ごとでマニィをロンダリィ! 俺はハッピーにトリガー、堅実な人生が諸行無常!」
 清史郎は自動小銃を抜いて選挙カーに銃弾を浴びせかける。
 銃声が響き至る所で火花が散る。
 ガードマンに守られて逃れようとする峰山の背に向けて引き金を引く。
 血を噴出させた野党候補が倒れる。
「こんな時には正露丸! キャベジンがあれば国士無双ゥ! ユンケル飲んだら夜金棒!」
 峰山が選挙カーに運び込まれ、現場から離脱しようとする。
『ジョーク、サツが動いた。射殺してもいいって言ってやがる』
 健の言葉に清史郎は生唾を飲む。想定してはいたが、想像以上に警察もなりふり構っていないらしい。
 清史郎はオープンカーで選挙カーを追い、グレネードランチャーで後ろ半分を吹き飛ばす。
 煙を上げた選挙カーが路肩で停止する。
 清史郎は高笑いしながら選挙カーの脇をすり抜け、オープンカーで町を駆け抜ける。
 無数のパトカーが清史郎のオープンカーを追う。
『ジョーク、法定速度は無視してくれ、俺がナビゲートしてんだし、今更ネズミ捕りが怖いって訳でもねぇだろ』
 健のナビゲーションでパトカーを避けて清史郎は埠頭へと向かう。
 銃声が響き、音速より早く飛んだ弾丸がオープンカーに襲い掛かる。
 警察が矢沢組の懸賞を狙っている事は健のハッキングで知っている。
 制止する警官の声と銃撃を受けながら、フルスロットルのまま岸壁から海上へと車体を躍らせる。
 肩と背中に銃弾を受けた清史郎は冷たくなり始めた海の中へと沈んでいく。
 清史郎が意識を失いかけた時、淀んだ海の中にウェットスーツに身を包んだ加奈が姿を現した。
 
 
 〈3〉
   警察が捜査した結果、海で手に入れる事ができたのは一台の盗難車とピエロの仮面と紫色のトレンチコートだけだった。
 知事候補が襲撃された事もあり、今後清史郎がジョーカーの扮装をすれば正体が露見する可能性は極めて高くなるだろう。
 ――本家ジョーカーは死亡した――
 健司は病院の廊下を歩きながらポケットの中のビニール手袋の感触を確かめる。
 野党候補は銃創を負って病院に入院している。
 実際には銃創など負っていないのだろうが、ジョーカーと候補が一芝居打つのだとしても病院は避けて通れない。
 ――悪いけど僕は殺しの依頼は完遂する――
 健司は候補の部屋の前のボディガードの様子を観察する。
「すみません。新庄市後援会の青年団の円山と言います。先生はご無事でしょうか?」
「先生はご無事だ」
 鉄面皮のボディガードが返答する。
「それを聞いて安心しました。一言無事をお祝い申し上げたいのですが構いませんか?」
「十分だ」
 ボディガードの言葉に笑みを返して健司は一人部屋に足を踏み入れる。
 両手にビニール手袋をはめ、小銭袋を握りこむ。
「やぁ、先生、ご無事なようで何よりです」
「無事なものか。ポリの弾丸を四発も食らったんだ」
 そこで見た光景に健司は言葉を失った。
「お陰で選挙が終わるまで退院できそうにない」
 三浦が笑みを向けてくる。
「バカな……あなたは……」
 身を隠さなくてはならないはずだ。
 治療する為にも……。
 ――治療する為に候補に成りすましたと言うのか――
 入院している間は世間の目は避けられる。
 それでは候補はどこに消えたと言うのか。
「お前は野党候補を殺せというオーダーを受けたはずだ。今彼女は立候補しているが、生死不明で野党の統一候補ではない。今は慶田盛弁護士事務所で事務の手伝いはしているが選挙活動はしていない。それでもお前は殺すのか?」
 健司は清史郎の言葉に笑いがこみあげてくるのを感じた。
「詭弁にも程がありますよ。ほとんど屁理屈じゃないですか」
「屁理屈でも君は依頼に忠実なんだろう? あと面会は手短に頼むよ。これでも歳でね、銃創って言うのは堪えるんだ」 
 銃創が堪えているのは本当らしい。
「それでも最後には候補は復活しなきゃならない」
「死んでいなければね」
 カーテンの影から姿を現した女性がグレネードランチャーを構える。
「まさか……」
「ジョーカーは死んだ、ヒットマンは来た。これで充分だ。なぁ、ジョーク」
 ラップトップコンピューターを小脇に抱えた青年が言う。
「ゲームオーバーだ」
 清史郎が不敵な笑みを向けてくる。
 健司は小銭袋を窓に投げつける。
 砕けたガラスの破片を拾い上げて身構えながら退路を探る。
 ガラスの破片で候補の命を絶つつもりだったが今三浦を殺した所で意味が無い。
 今は割れた窓の外に逃れる隙さえあればいい。
 女性の指がグレネードランチャーの引き金にかかる。
 猛烈な爆音と閃光が室内に満ちる。
 健司は窓の外に身体を躍らせた。
 ――これで知事候補が殺された事になるのか――
 健司は地面を転がり、人目を避けながらバッグから出した白衣を羽織る。
 ――僕は最期までジョーカーに踊らされたって訳か――
 敗北感より、どこか清々しさを感じながら健司は病院を後にした。
  〈3〉
  「慶田盛弁護士事務所では峰山候補を歓迎しますよ」
 新庄市にある、冤罪に強いと噂の弁護士事務所で峰山春香は未だに自分の身に起きた事が信じられないでいる。
 峰山が候補に決まったのは公示二日前、そこから慌ただしく野党の党首などと会談を交わし、選挙戦の流れになったのだが、その直後に慶田盛敦という弁護士が現れたのだ。
 慶田盛の噂は峰山も聞いており、信頼できる人物であるとは感じていたが、話の内容は想像のはるか斜め上を行くものだった。
 新庄市の乱射魔ジョーカーの本家は、冤罪事件の解決を主に行っている三浦探偵事務所の所長三浦清史郎だったのだ。
 三浦は知事選を前に町に大量のジョーカーマスクをバラまいて一時的に身を引いた。
 しかし、ジョーカーと野党知事候補は確実にターゲットを仕留める円山という男に命を狙われているのだ。
 更には矢沢組がジョーカーに懸賞首をかけており、警察も生死を問わないという条件でジョーカーを狙っているという。
 そこで三浦が出して来た案がジョーカーに候補者が襲われて入院、ジョーカーは警察に追われて死亡、更に候補者の運び込まれた市民病院に現れる円山を三浦が撃退するというものだったのだ。
 三浦は警察に追われて手傷を負う事は間違いなく、それならば知事候補と入れ替わって入院してもゆっくりと治療ができる。
 一方春香は慶田盛弁護士事務所で投票日三日前まで、事務職として短期採用される。
 円山のターゲットは知事候補であり、事務員殺害ではなく、その一線を越えてこないのも円山という男なのだという事だった。
「何もかもが信じられないわ。生死不明で選挙戦を戦うなんて……」
「野党の党首が連日新庄入りするって話になったじゃないですか」
 春香は慶田盛弁護士事務所の安普請の椅子に腰かける。
「それはいいとしても、いいえ、大きな借りを作る事になりますし……」
「市民に対して不誠実だと?」
 春香の心中を察した慶田盛が言う。
「その通りよ。三日前に復活なんて話が良すぎるし」
「でも、実際問題あなたを救う手立ては他に無かった」
 事務所の電話が鳴り、慶田盛が受話器を手に取る。
 ボタンを押してスピーカーに切り替える。
「私だ。円山が知事候補殺害に現れたよ。こっちで見かけだけは派手な爆薬を爆発させて追い出した。これで知事はテロリストにまで襲われた事になるわけだ。しばらく身を隠さなきゃならない理由が増えたんじゃないか?」
「三浦さんですね? あなたが身体に銃創を負ったという話は聞いています。あなたはどうしてここまでやったんですか?」
「若い連中と付き合いがあると、柄にもない正義感なんてものも持つものなのさ」
 三浦の言葉に春香はため息をつく。
 実際の傷はどうあれ、体面上知事候補は集中治療室にかくまわれるだろう。
「市民病院が告発したらどうするつもり?」
「それは無いさ。与党の市長になってから予算を削減されて、市民病院では上から下まで味方しようなんてヤツはいないんだから」
 慶田盛が肩を竦めて見せる。
「あと、仕事柄マスコミの相手をするのは苦手じゃないんだ」
「ああ、こいつは口先だけは有能だからな」
 二人の言葉を聞いていた春香は苦笑する。
 悪だくらみのような作戦だが、この二人にとってはこれは健全な正義のスポーツのようなものなのだ。
 
 〈4〉
   野党候補の入院先で爆破テロが起こった事で、与党候補に対する疑惑は大きなものとなった。
 野党候補は生死の境を彷徨っていると報道されている。
 清史郎は病院で何不自由なく治療生活を送っている。
 のだが……。
「なぁ、ジョーク、ここで寝てるってのは何かの冗談だろ?」
「怪我してるのは事実なんだから無茶言わないの」
 健と加奈は連日競うようにして病室を訪れている。
「お前ら、もうジョーカーの出番は無いんだぞ? 知事選も候補が無事を表明すれば一発で決まる。もうやる事は無いんだ」
 清史郎が言うと健が叱られた犬のような表情を浮かべる。
「いやさジョーク、俺、土建屋辞めたんだ」
「私も……その、コンビニ辞めたんだ」
 清史郎は二人の言葉に唖然とする。
 このご時世に仕事を自ら捨ててどうしようと言うのか。
「ジョーク、儲からないっつってるけどよ、俺が手伝ったら何とかなんじゃね?」
「先に言わないでよ。採用するなら私の方が得なんだから。多分」
 清史郎は額に手を当ててこみ上げてくる笑い声を抑える。
 傷に響くが笑いたくなるのだから仕方がない。
「お前ら、馬鹿じゃないのか? こんなオッサンと組んだって心中するようなモンだろ」
「それでもいいくらい楽しかったんだよ」
「またスリル、くれるんでしょ?」
 清史郎は笑い声をあげて身体を起こす。
 傷が引きつるが痛みなど気にならない。
「資本金はお前らと合わせて裏金三千万円。社員は三人。一人はオッサン。ジョーカー探偵事務所とでもするか」
「何かダセェ。中年は変に英語にするから逆にカッコ悪いんだよ。三浦探偵事務所でいいだろ」
「中年のセンスが悪いのは今に始まった事じゃない」
 清史郎は憮然として健に言い返す。
「じゃあ新しい門出に」
 加奈がバッグからワインのボトルを取り出す。
 若い二人は自分に老ける暇を与えてくれないらしい。
 清史郎はコップに注がれたワインを掲げる。
「乾杯」
 紙コップが音もなく打ち合わされ、新しい何かが動き始めた。
  エピローグ
   清史郎は健と加奈を引き連れて病院の廊下を歩いている。
 向かいからスーツ姿の峰山春香が歩いてくる。
 握手しようと峰山が手を差し出してくるのを無視して清史郎は右手を軽く上げる。
 峰山が応じて右手を挙げてハイタッチすると、清史郎と峰山は入れ替わるように方向を変える。
 清史郎の背後でフラッシュが瞬き、峰山が光とシャッター音に包まれる。
 生死不明から無傷での生還。
 これほどの宣伝も無いだろう。
 ジョーカーはカジノ施設を阻止するというその使命を果たしたのだ。
   選挙戦は野党党首が連日交代で訪れるという形で、野党が攻勢を強めていた。
 そして投票日三日前に野党候補が無傷で出現。
 暗殺者に狙われていた事を告げ、改めて支持を訴えた。
 緒方は事務所で出来の悪すぎる茶番劇を見せられたような気分を味わっている。
 ジョーカーという乱射魔が出現、殺し屋に依頼をしたらジョーカーの模倣犯が大量に出現。野党候補を狙ったら本家ジョーカーに命を狙われ、生死不明から一転蘇った。
 市民の心理を考えるまでもなくこの選挙は完敗だ。
 何処で何を間違えたのかなど分からない。
 否、最初からこの町には矢沢組を受け入れない何かが存在していたのだ。
 近々上層の組から矢沢更迭が告げられるだろう。
 だが、緒方は矢沢にとって代わろうなどとは思わない。
 ――この町にはジョーカーという化け物が存在するのだから――
   十月一日、健司はいつものように殺し屋のカウンターの内側にアルコールを吹きかけている。
 もしも、九月に三十一日が存在しているならジョーカーが殺されてやると言っていた日。
 新庄市では市民の支持を得た新知事の誕生でお祭り騒ぎらしい。
 と、殺し屋の戸口に宅急便の配達員が現れた。
「殺し屋様ですか? Amazon様からのお届けものです」
 記憶には無いが健司は笑顔で箱を受け取り、伝票にサインする。
 ナイフで慎重に箱の封を開けるとそこにはピエロのマスクが収まっていた。
 健司は口元に笑みが浮かぶのを感じた。
 ――確かにジョーカーは死んだ――
 健司はその自然な笑みを機械的な笑みの後ろに隠し、カウンターを磨き始めた。
 今日も新たな客がやって来るに違いないのだ。 
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yoml · 7 years
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[翻訳] Pretend (You Do) by leekay #6
「うそぶく二人」
第6章 
街での一夜と、よくない考え 
原文 Chapter 6:  A Night On The Town and A Very Bad Idea
 ヴィクトルは煌めく街を眺めていた。深く息をつくと、目の前のビルをぼかす薄い霧の中に温かな自分の息が滞るのが見えた。バルコニーは寒く、春先とはいえ夜になるとまだ冬の寒さを引きずっている。深くもたれかかっているせいで、冷え切った手すりが腰に食い込む。寒い季節に旅をするといつも、ヴィクトルはこうした瞬間を愛し、同時に嫌いだと思った。氷のような空気が街を変容させ、霜で覆われた外界に抵抗するように家々に明かりが灯る様を見るのは好きだった。だけどそれと同じくらい、ヴィクトルは太陽の世界を欲していたのだ。
 緩んだ包帯を巻きなおすと、まだ完治していない骨の奥にまで冷気が染み込むように感じた。ヴィクトルがちゃんと怪我をいたわり、バカみたいなトレーニングに打ち込みさえしなければ、手はもう治っているはずだった。ヴィクトルのそんな様子を、コーチであるヤコフは呆れながらも最初は理解してくれた。しかし2回目ともなると、激しく叱責した。
 ヴィクトルは目を閉じ、また深く呼吸をしながらその日の午後を思い出した。彼は控室から、ステージ上の勇利が新コーチとの順調な関係を大げさに話すのを見ていた。勇利は筋肉のつき方が少し変わって、体はさらに絞られていた。二人が離れている数か月のあいだで、どうしてか勇利は前よりも少し背が高くなったように見えた。タイトなグレーのTシャツに黒いスウェードのボマージャケットを羽織り、髪はあのバンケットの夜のように後ろになでつけられていた。見た目の変化は、二人の身に平等に訪れていたのだ。
 だけどヴィクトルが見たそうすけは、かつて二人が氷上で競い合っていたころと変わっていなかった。当時と同じ、やけに気取った笑顔、緩くうねった髪、横柄そうな歩き方。
 ヴィクトルは午後にステージで自分が語った通りのことを考えていた。元コーチとしては――あの騒動から数か月が経ってそう思えるようになったわけだが――勇利の選手としてのキャリアを前に進めるにはこれがベストな選択だったと思っている。だけど元“人生で最愛の人”としては、勇利がそうすけといるのを見るのは拷問のようなものだった。そうすけの傲慢で狡猾な部分は、彼が引退する以前から有名だったのだ。二人は世界中のあらゆるスケート関連の、あるいは無関連のイベントで出くわしたが、常にできる限りの距離を置いていた。
  トレンチコートのポケットの中で電話が鳴った。ヴィクトルの頭から勇利とそうすけのことが離れる。画面にはクリスの名前と顔写真。
「ちゃんと服着てる?」。スイス訛りの声がする。
「服? えっと、着てるけど、何……」。部屋のほうでドアが3回ノックされる音がした。ヴィクトルはバルコニーの窓を開け、どんなに小さなホテルの部屋にもかろうじて備え付けられていようなバルコニーテーブルの上の灰皿で乱暴に煙草をもみ消すと、部屋に戻った。肩と耳の間に電話を挟み、急いで右手の包帯を取る。怪我のことを知られたくない相手だった場合に備えてだったが、実際は誰であろうと知られたくなかった。部屋のドアを開けると、それぞれの手にアルコールを抱えた大勢の笑顔が待ち受けていた。「Surprise!」と一斉に放たれた声が廊下に響き渡った。クリスはにやにやした顔でヴィクトルを見ながら、電話を切って部屋に入り、ベッドの上にスマートフォンを放り投げた。ヴィクトルにきつくハグをすると、残りの者たちが彼に続いた。最後に入ってきたのはユーリ・プリセツキーで、お決まりのふくれっ面は相変わらずである。
「みんな、何やってるの」と、ハグされたままヴィクトルが笑う。旧友のなつかしい匂い(香水と、少しの体臭の混じった)に、ヴィクトルの心はすぐに落ち着いた。部屋の中では、ピチットがテキーラを片手に90年代みたいなホテルのステレオをまるで子どものようにいじり始めた。JJは部屋を物色しながらヴィクトルの部屋が自分の部屋よりいかに狭いかをまくしたてているし、ユーリは不機嫌なままヴィクトルのベッドに腰を下ろし、その後ろでオタベックが静かに様子を窺っている。エミルとミケーレ、それにスンギルもいたが、ヴィクトルが泊まるにしては小さなその部屋の中で居心地悪そうにしていた。長い間、ヴィクトルは彼らスケート仲間との関わりを避けていた。練習に打ち込み、試合に出たら、家に帰る。その繰り返し。彼の前に勇利が現れ、その人生の最も暗い部分に明かりを灯してくれるまで、ずっとそうだったのだ。
「俺たち練習していなくていいのかな」。何が起こっているのか分からないまま、ヴィクトルは笑いながら言った。
「練習なんて必要なのかい、ヴィクトルは」。骸骨みたいなボトルからアルコールを注ぎながらJJがウィンクする。
 ヴィクトルがJJのほうをにらむと、彼は親切にも酒を注いだグラスを差し出した。ヴィクトルはそれを一気に飲み干すと、早口で続けた。「一体どうしたって言うんだ」
「どうもこうもね!」と答えたのはエミル。何を飲んだのか、ぎょっとするほど目が見開かれている。ヴィクトルは吐き捨てるように笑い返すと、袖口で口元をぬぐいお代わりを求めた。この状況に乗ろうとするなら、しらふではやっていられない。
 ピチットはようやくステレオから音楽を流すことに成功し、拳を上げた。片方の手はスナップチャットを開き、「勇利に送らなきゃ!」と早口で騒いでいる。「ていうか、勇利どこにいるの」
 勇利の名が鉛のようにヴィクトルにのしかかった。咄嗟にクリスを見ると、彼もまた少し気まずそうにヴィクトルを見返した。クリスがピチットをきつく睨みつけると、ピチットは頭に手を当てバツが悪そうなポーズをした。
「部屋に誘いに行ったらもういなかったんだ。たぶん練習にでも……」
「上原と出ていくところ見たぜ。練習って感じじゃなかったな」。ユーリが彫刻のようにベッドに座ったまま言った。腕を組み、短剣をさすような目でヴィクトルを見ている。前回の試合��来、二人はほとんど顔を合わせていなかった。ロシアに戻ってからも二人の練習スケジュールが合うことはなく、たまに会ったとしても、少年は話しかけようとしなかった。
 ヴィクトルがユーリを見返す。少年のその眉はまるでヴィクトルを問いただすかのようにひそめられていた。
「ねえ!ショットでもどう?」ピチットが甲高い声で場の緊張を破った。あまりに分かりやすいその行動にヴィクトルは笑いそうになった。ヴィクトルはユーリから目をそらしたが、ユーリはなおもヴィクトルに敵意に満ちた視線を送り続けていて、彼にはその理由が分からなかった。
「ライムはある? ヴィクトル」とピチットがはにかみながら聞いた。その目は明るく輝いていて、ヴィクトルは思わず見入ってしまった。彼の親友を傷つけたのだ。雨の中に置き去りにしたのだ。なのにピチットは、悪意のかけらも見せることなく、ヴィクトルに微笑みかけている。
 今夜は楽しめるかもしれない。自分がその気になりさえすれば。
「切らしているよ」。ヴィクトルは小柄なその男の髪をふんわりとなでて、いたずらっぽく笑い返した。ピチットの笑い方はまるで子どものようで、腹の底から声を出して全身を揺らしていた。明快で純粋なその声は、ヴィクトルが抱えていた重圧のようなものを幾分かかき消してくれたのだった。
 それぞれにショットが渡され、カウントダウンの後、全員で一気に飲み干した。ヴィクトルがクリスとピチットの肩に腕を回すと、二人の温かさが冷え切った体をほぐしていった。「さて、今夜は他に何をするの?」友人とアルコールのおかげで軽くなった頭で、ヴィクトルが尋ねた。
「オーケイ、これが今夜のプランさ」。クリスがヴィクトルにもたれかかりながら、トップシークレットを打ち明けるような低い声で話し始めた。「これはまだウォーミングアップさ。これからバーに行く。一件くらいははしごして、メインイベントは……カラオケ!」クリスとピチットが同時に腕を上げた。ヴィクトルを掴み、目の回るようなダンスを踊らせる。
「ミラノにカラオケなんてないでしょ」と彼は笑う。
「もちろんあるさ!」
 ------
「絶対その曲は入ってないね、勇利!」
 カラオケブースの壁にかかったタッチスクリーンを熱心に操作する彼を見て、ヴィクトルが笑いながら言う。
「いや、でも……ほらあった!」 ぱっと輝いた目でヴィクトルを見返す。重たいベース音が部屋に流れ始めると、勇利は腰を左右に振り始めた。
 勇利がマイクに向かってヴィクトルが聞いたこともない懐メロをやや大げさに歌い始めると、ヴィクトルは思わず笑ってしまった。勇利は髪をかき上げ、ヴィクトルの方にマイクを向ける。
「ほら、今度こそヴィクトルも歌ってよ」。くすくすと笑うその声がスピーカー越しに響く。頬は赤らみ、タイトなパンツを普段よりも少しルーズに腰で穿いている。練習のあとで、勇利はこのしみったれた、そしておそらく長谷津で唯一のカラオケボックスに、少し気を抜こうと誘うようにヴィクトルを連れてきたのだ。
 勇利は今ほとんどヴィクトルの上に乗りかかっていて、体をくねらせながら日本語と英語を半々に歌っている。それは酔っぱらった勇利の中でもとりわけ魅力的な――裸のときを除けば――姿だった。
“Don’t ever leave me.(絶対に僕を離さないで)” 
勇利の声が耳もと数インチのところで聞こえる。ヴィクトルの心はまるで鳥がケージのなかで羽をばたつかせるように高鳴った。 
「勇利?」
 勇利は体を引き、マイクに向かってむにゃむにゃと歌い続ける。
 “Don’t ever leave me babbbbyyyyyy, leave… donnnntttt… babyyyyyy”
 ヴィクトルはふっと声を出して笑うと、目の前にいる美しい青年の姿に目を滑らせた。自分の銀髪をあやふやな手つきでかき上げると、もう一方のマイクを手にした。
  ------
 「オーライ、第二幕の始まりだ」。クリスの声で、ヴィクトルはハッと我に返った。
  ***
   その夜の皮切りにクリスが選んだバーはやけに落ち着いた場所だった。いつもヴィクトルとクリスが行き慣れていたような、やかましいエレクトロミュージックやきらびやかなダンスフロアがある店ではない。代わりにキャンドルの明かりが静かに灯り、寒い夜の親密な一杯を楽しむカップルや少人数のグループばかりだった。
「君にしてはちょっと小洒落過ぎたんじゃない?」とJJが皮肉っぽく言う。「ほら、誰もショットなんてやらずにちゃんと座っているだろう」
「ジャン・ジャック・ルロア、俺は洒落た男なんだよ」。クリスはJJを黙らせんとする視線を向けながら低い声で返したが、すぐにその目は大き��見開かれ、続けようとしていた言葉はすべてのみ込まれてしまった。全員が、まるでシンクロの選手のように一斉にクリスの見つめる先に視線をやる。申し訳なさそうに店員の顔色を窺っていたヴィクトルも(こんな大人数の客は、こうした店には迷惑でしかないのだ。)、続いて振り返った。
 その日二度目の、さえない黒髪の、かつて婚約までしていた男。その姿が見えた瞬間、ヴィクトルは喉に息を詰まらせた。勇利とそうすけが窓際の席に座っていたのだ。キャンドルに照らされた二人の顔は、わずか数インチしか離れていない。二人のテーブルの上に視線を落とすと、そうすけの手は勇利の手の上に置かれている。怒りが肌を焼くように押し寄せて、目が離せなかった。目の前の光景から考え得ることを全部寄せ集める。勇利とそうすけはスケートをともにしている。練習をともにしている。そして、距離を縮めている――。最初に行動を起こすのはそうすけだ。繊細な触れ合い、よろこびのハグ。赤く染まる頬に、うるむ瞳。
 クリスが街での一夜をともに過ごす世界的スケーターたちの群れを両サイドに従えて遠慮なく二人のテーブルに割り行っていく様を、ヴィクトルはただ見ているしかできなかった。
「勇利……」と、やけに甘い声でクリスが声をかけた。「こんなところで会うなんてね」。勇利は驚いて体を起こすと、慌ててそうすけの手を離してそこにいるスケーターたちを驚きの目で見渡した。ヴィクトルは二人のどちらのことも、ちゃんと見ることができない。
「みんな……」勇利が口を開く。「ここで何してるの??」 勇利はまるで、クッキーの瓶から手が抜けなくなってしまった子どものようだった。あるいは、上原そうすけという人間の手中から。
「世界選手権前夜祭の一発目だよ!」 勇利の肩に手を回して引き寄せながらピチットが言った。「勇利の部屋にも誘いに行ったんだけど、もういなかったんだ。ねえ、一緒に来る?」 くったくのない笑顔だった。二人の雰囲気が醸す空気に気付いていないのか、あるいは気付かないふりをしているのか。
 男たちに囲まれて、勇利はぎこちなく苦笑した。そうすけはまるで落ち着いた様子でワインを口にしている。どこまでも嫌味なやつだ。
「僕はちょっと……」
「行こうよ、勇利。なんか、楽しそうだし」。そうすけが勇利を遮った。ヴィクトルはそうすけが勇利の名前を口にするのが気に食わなかった。そのアクセントは完全に“所有者”としての響きを帯びていた。そうすけも勇利も流暢な英語を話すけれど、その日の午後に控室で耳にした二人の会話は日本語で、数か月間勉強していたおかげでヴィクトルも少しの単語を聞き取ることはできた。それでも勇利との会話は常に英語だったし、ヴィクトルはいつだって、二人の間にある薄い言語の壁のようなものを感じていた。お互いの母国語を教え合ったりもしたが、二人とも十分には話せなかった。ヴィクトルは、そうすけが勇利との共通言語を持っていることが羨ましかったのだ。
 ヴィクトルだけじゃない。クリスもまた、そうすけの嫌味っぽい言い方が気に入らなかった。「クソ野郎」。ヴィクトルに聞こえるくらいの大きさで、クリスがロシア語で悪態をついた。思わず咎めるようにクリスの方を見たが、この悪魔が態度を改める気はさらさらない。
「それじゃ、一緒においでよ」。クリスがいつもの調子に戻ってそう言うと、勇利の肩をぎゅっと掴み、ふさふさの睫毛で見下ろした。
「わかったよ……」と、勇利は曖昧に返事をした。スケーターたちに囲まれた勇利は、まさに彼らの波に飲まれようとしていた。ヴィクトルが勇利のほうを見ていない振りをして目をそらす直前、二人の視線は、数ヶ月ぶりに交差した。まるで空虚のような勇利の目を見たその時、ヴィクトルの内には巨大な恐怖が膨らんだ。見せかけであってほしいと願った。だけどその視線は、彼が受けるべき当然の報いであることもわかっていた。
「そろそろ出ねえか」。オタベックの隣でユーリが苛立った声をあげた。「ここじゃ狭すぎる」
「本当に、これじゃまるですし詰め状態だ」とJJは誰にともなくウィンクしたが、このビッグマウスのカナダ人が言うことなら何一つ気に食わないユーリは、それに対してまた悪態をつく。
 クリスは小さなバーを見渡し、全員が座れるテーブルなんて無いことが分かるとため息をついた。「わかったよ。それじゃ、行こうか」
 一同は、動けないままでいるヴィクトルをかわして歩き出した。
 勇利がバースツールから降りようとしたとき、足が滑って思わず転びそうになった。ヴィクトルはその体を支えようと咄嗟に腕を伸ばした。が、勇利を支えたのはヴィクトルではなく、そうすけだった。そうすけの手は勇利の上腕をしっかりと掴み、ちゃんと立てるように支えていた。
「大丈夫?」と聞くその言葉は、日本語だった。
「……はい、そんなに飲んでいたと思わなくて」。そうすけの背後でヴィクトルは顔をしかめた。こいつ、勇利が飲みすぎるとどうなるか知らないのか?
 そうすけはそのまま勇利を入り口のドアまで連れていき、先に出るよう促した。勇利は夜の街に足を踏み入れる直前、気まずそうな目でちらりとヴィクトルの方を見た。そうすけはドアの手前で振り返ると、真面目くさった顔でヴィクトルの目を見て言った。「お先にどうぞ」
 そうすけの言い方は、ロシア訛りを真似ていた。ヴィクトルはその場にじっと立ち止まる。母語をからかうようなその言い方に、怒りがこみ上げた。ロシア語なんてどこで覚えたんだ。それにロシア語の何を知っていると言うんだ。歯をかみしめながら、ヴィクトルはそうすけの挑戦的な目を見返した。暗く、活気のまるでないその目に、背筋が少しぞくっとした。なんとか平静を装って、ヴィクトルはそうすけの前を進み、冷えた春の夜に飛び込む。そうすけの前でロシア語は使わないようにと、クリスに言わなくては。たぶん、フランス語なら。
  ***
   三件のバーをはしごしてイヤと言うほど飲んだ後、勇利はミラノのさえないカラオケバーでピチットの反対側にどさりと腰を下ろした。片手にはお菓子みたいな味がする蛍光ブルーの飲み物を持ち、もう片方の手はクリスが歌う90年代のバラード曲に合わせて揺れている。クリスとエミル、そしてJJの三人は、マイクに向かっていい加減な歌を披露しながら一緒になって踊っていた。
 そうすけは勇利の隣で、冷めた様子で脚を組んで座っていた。顔は少し赤らんでいるが、どれくらい飲んでいるのかさっぱりわからない。一晩中そうすけは静かなままで、満足げに傍観者を気取って勇利のとなりにぴったりくっついていたのだ。
 ヴィクトルは同じ部屋の反対側、そうすけと鏡写しになる場所に座っていた。ヴィクトルは何やらミケーレと話をしていて、ミケーレは右手を大げさに動かしながら、左腕はぐったりとヴィクトルの肩に掛けられていた。
 その夜の間、勇利は常にヴィクトルの反対側に位置取るようにして、かつてキスをしては一緒に朝食の準備をしていたときのようなアイコンタクトを取ってしまわないよう���ヴィクトルとの距離を保っていた。最初のバーでは向かい合ったテーブルの一番端に座ったし、次の店ではダンスフロアの逆サイドでピチットと踊り、三件目でもできる限りヴィクトルから離れて座った。そして今彼は、気が気でないながらも、この偉大な世界王者を視界に入れることを自分に許していた。ヴィクトルの姿を、彼の変わってしまった部分と変わっていない部分のすべてを、その目で凝視した。勇利は改めて彼の顔の輪郭を記憶に焼き付けながら、ほとんど顎に触れそうなほど伸びた髪に驚いた。優雅な手つきでその銀髪を耳に掛けては、すぐに落ちる髪に苦笑するヴィクトルの様子を見つめた。ああ、その笑い顔を、かつていかに愛したことか。
 ヴィクトルから視線を離すと、勇利はいつもこの銀髪の男のことを頭から拭い去りたいときにそうするように、頭を振った。ピチットのジャケットにくっつけた勇利の頬は酒で赤らんでいて、生地の温かさと柔らかさを感じると、彼は思わずそこに顔をうずめた。
「勇利、どうしたの?」ピチットがやさしく声をかけると、勇利の顔を彼の吐息がくすぐった。
「もうすこしマシなものが飲みたいよ」。勇利がそう答えると、ピチットは勇利が握るグラスに目をやった。
「ましなお酒、か」。ピチットがそう言って急に立ち上がったので、途端に勇利の顔はその胸から離れた。「テキーラ! テキーラが正解でしょ、クリス!」クリスは自分の名前が呼ばれたことに気付き、面倒くさそうに振り向いた。
「テキーラ!」とピチット。
「テキーラね!」とクリスが部屋中に聞こえるよう繰り返した。程なくして12杯のショットがライムや塩とともに運ばれ、一同はヴィクトルとミケーレが座っていた小さなテーブルの周りに集合した。
「みんな、準備はいい?」いたずらっぽい笑顔でみんなをぐるりと見渡しながらピチットが合図した。勇利はグラスを持つ指に力が入らず、頭はもっとふわふわしていた。ヴィクトルの真正面に立ち、二人の間にあるのは小さなそのテーブルだけだった。ドレスシャツは第二ボタンまで外され、裾も半分ほどはみ出た格好のヴィクトルは言うまでもなく魅力的で、勇利の立ち位置からは見つめずにいられなかった。
「3,2,1!」ピチットが弾けた声を上げた。ヴィクトルがアルコールの刺激に目をぎゅっとさせながら手の甲に乗せた塩をその舌で舐めとるのを、勇利は閉じかけたうつろな目で見ていた。その輪の中にいることが急に息苦しくなり、肌にピリピリとした痛みを感じて思わず目をそらした。
 掛け声に合わせてテキーラを飲み干すと、全員が勝ち誇ったようにグラスをテーブルに叩きつけた。勇利は喉に燃えるような熱さを感じ、全身を駆け巡るこの熱がヴィクトルへの複雑な想いを焼き消してくれたらいいのにと思った。
「オーケイ」。クリスが秘密を打ち明けるような低い声で言った。そしてピチットと目配せするのを勇利はその夜何度も見ていたし、そんな時の彼らの目は、決まって悪い考えに輝いていた。 
「もうちょっと楽しもうよ」とクリスが続けた。「ピチットと見ていたんだけど、恥ずかしがってまだ歌っていない人がいるよね。だからちょっとしたゲームをしよう。2本のマイクを回して、止まったところの人がペアで次の曲を歌う」。一同からブーイングの声が上がった。
「Areeee youuuu reaadddyyyyyy?」
 勇利は歌が得意ではないけれど、酔っぱらっていればそんなことは気にしなかった。もしマイクが彼の方を向けば、きっと恥ずかしげもなく歌うだろう。
 一本目のマイクが最初に指したのはユーリで、その若いロシアの青年は二本目がJJの前で止まるとなおさら不満の声を強めた。
「まじかよ、冗談じゃねえ」。JJが大きく広げた腕をユーリの肩に回すとユーリはひどく悪態をついた。
「一緒に歌おう、パートナー!」
 ユーリはJJの腕を乱暴に払いのけてオタベックのほうを見たが、彼は懸命に笑いをこらえているところだった。ユーリはしぶしぶステージの方へと向かうと、クリスの手からマイクをひったくった。
 ブリトニー・スピアーズの「Toxic」が流れ始め、途端に部屋中が撃沈した。開始二秒でピチットはスマートフォンを取り出したし、勇利はオタベックがあんなに笑うところを初めて見た。部屋の奥ではヴィクトルが、友人たちがセクシャルな歌をぎこちなく歌う様子を楽しそうに眺めていた。それを見ると勇利は、覚えのある嫉妬心がこみ上げてくるのを感じた。ヴィクトルをあんなふうに楽しませられるのは、もう勇利ではないのだ。
 最初の拒否反応にも関わらず、ユーリとJJの二人は最高のショーを披露した。歌こそ最悪だったものの、二人はまるで氷の上にいるときのように音楽のリズムに乗り、10回以上は練習したのではないかと思えるほどバッチリ息が合っていた。結局のところ、彼らはパフォーマーなのだ。
 曲が終わるや否や、ユーリはマイクを思いきり床に投げつけた。そして汗ばみながら肩を組もうとするJJと、笑いながらバチンと手を合わせた。勇利は手をたたき口々に歓声を上げる残りのギャングたちの中に立っていた。
  クリスが再びみんなをテーブルの周りに集め、第二ラウンドのマイクを回すと、回転は勇利の前で止まった。勇利はステージに上がり歌い切る覚悟ができていた――宇宙が止まるか、“あの人”とペアを組むようなことさえなければ。友人たちの輪を見回しながら、しかし勇利はなんだか嫌な予感がした。
 続いて回されたマイクが止まったとき、その指す相手を見て勇利は愕然とした。
 まさか。
 テーブル越しに二人の目が合い、一瞬で部屋中が沈黙した。かつて死ぬほど愛し、今それを忘れようとしている相手と目を合わせることは、何より危険なことだ。ヴィクトルはわずかに眉をひそめ、もの問いたげな目をした。一体何を考えているのか知りたいと、勇利は強く願った。
 ピチットとクリスはまずそうに目を見合わせ、やり直しを提案しようとした。が、ヴィクトルはその細い指でマイクを手に取った。何を思っているのか、彼の感情はまるで閉じられた本のように読み取れなかった。
 勇利はため息をつくと、これがいかによくないことであるか完全に理解しながらも、自分のマイクを手に取った。ちらっとそうすけの方を見たが、彼はいつも通りの冷静な表情。勇利がヴィクトルの方を振り返ると、彼はショットをもう一杯飲み干して、ジャケットを脱ぎ、腕で口元をぬぐっていた。勇利は不思議な興奮を感じた――朝にはきっと、全部アルコールのせいにしてしまうだろう。
  二人は並んでステージの方に立ち、クリスはプレイリストから次の曲を選んだ。曲が始まり、勇利にはそれが何の曲かすぐにはわからなかったけれど、幸いにも一番手はヴィクトルだ。みんなは黙ったままで、だけど勇利は、部屋中の空気にぶら下がる気まずさに気付いてはいなかった。
 ヴィクトルの歌声ははっきりと音程も合っていて、ときどき聞きほれてしまうほどだ。だけど最初の数フレーズを謳う彼は、緊張した様子だった。
   You were working as a waitress in a cocktail bar
   When I met you
   I picked you out, I shook you up and turned you around
   Turned you into someone new  
   (君はバーのウェイトレスをしていたね
   俺たちが初めて会ったとき
   俺は君を見出して、あれこれ気付かせてあげたっけ
   まるっきり新しい君に変えてあげたんだ)
  勇利にも何の曲か分かった。ヴィクトルが歌うにつれ、刺すような痛みが走る。歌詞があまりに二人のことを歌っていたのだ。
     Now five years later on you've got the world at your feet
   Success has been so easy for you
   But don't forget, it's me who put you where you are now
   And I can put you back down too   
   (あれから5年の月日が経ち、君は世界の頂点さ
   成功なんてたやすかっただろう
   でも 忘れないで、そこに連れてきたのは誰だったか
   俺は君をそこから引き戻すことだってできるんだ)
  ヴィクトルの目はスクリーンから離れることなく、注意深く歌詞を追っていた。さっき飲み干したテキーラのせいで少しふらつく体を、曲に合わせてかすかに揺らしている。
     Don't, don't you want me?
   You know I can't believe it when I hear that you won't see me
   Don't, don't you want me?
   You know I don't believe you when you say that you don't need me 
   (もう俺のことはどうでもいいの?
   会いたくないなんて信じられないよ
   もう俺のことはどうでもいいの?
   必要ないって言われても、そんなの信じられないんだ)
  最後の一行はヴィクトル自身の言葉であるかのように思えた。あまりに生々しく、現実的だったのだ。
     It's much too late to find
   You think you've changed your mind
   You'd better change it back or we will both be sorry
   (気付くのが遅すぎたんだ
   君が心変わりしたってことに
   でも考え直したほうがいい 俺たちはたぶんもっと後悔する)
  サビが来ると曲を知っている人たちがコーラスに参加した。ピチットとクリスも歌いながらステージに出てきて踊りはじめ、次に歌う番の勇利は全身から救われたと思った。スピーカーから流れる自分の声が聞こえた。酔っぱらってあやふやで、コーラスするヴィクトルの声に溶け込んでいる。
     Don't you want me, baby?
   Don't you want me, ohh?
   Don't you want me, baby?
   Don't you want me, ohh?
  二人の声が重なるのを聞くのは心地良かった。ヴィクトルの隣に立って、彼を避けるのではなく一緒に何かをするのも心地良かった。勇利の骨の奥にまで浸透していた緊張は歌声に乗って体の外に吐き出されるようで、勇利は気分が楽にさえなったのだ。
     The five years we have had have been such good times
   I still love you
   But now I think it's time I live my life on my own
   I guess it's just what I must do
   (この5年間は楽しい時間だった
   今でもあなたを愛してる
   でもそろそろ一人で歩かなくちゃいけないと思うの
   ただそうするべきなのよ)
  こんなの良くない��えだって頭ではわかっていたのに、勇利がソロパートを歌うころにはテキーラのせいでそんな考えもぼやけてしまっていた。二人の経験してきたことにぴったり重なるその歌詞に苦しさを感じながら、勇利はそれでもまるで解放されたかのように、ずっと聞きたくて仕方がなかった、それでも聞くことができなかったことを、酔いとばかげたビートを口実に吐き出することができたのだ。そこにあるのは友人同士の姿だった。酔っぱらってカラオケなんてしている友人。スケートの国際イベントという重圧から逃れようとしている友人。愛し合ったことを忘れようとしている友人。そして、互いに深く傷つけあった友人――。
 ヴィクトルもまた、同じように感じていたに違いない。次のサビを一緒に歌うとき、彼は勇利のほうを向いたのだ。目の周りには笑い皺を作り、部屋の防音ギリギリの大声で歌っていた。勇利もまた、元恋人の目を見ながらマイクに向かて笑い声をこぼした。ヴィクトルが笑うと、勇利はまるで午後の光が自分に降り注ぐように、つま先までじんわりとあたたかくなるのを感じた。二人の体が自然と近づいた。軌道をめぐる、惑星のように。
     Don't you want me, baby?
   (もう俺はいらないの?)
  欲しいよ。自分の隣で、ぼさぼさの髪で汗までかいて、それでも笑っているヴィクトルを見ながら、勇利はそう思った。欲しくて、欲しくてたまらない。二人の体は今さらに近づいて、勇利はヴィクトルの艶めいた肌から発せられる熱を感じることすらできた。汗ばんだ勇利はジャケットを脱いだが、その視線はヴィクトルから離れなかった。彼の深いブルーの瞳に閃光が走ると、勇利は熱で肌を震わせた。
 気分が大きくなった勇利はヴィクトルとの距離を詰めるようにさらに近づこうとしたが、急にヴィクトルが後ずさりしたので二人の間に空虚が生まれた。酔っぱらっていたヴィクトルは、勇利から身をかわした際にテーブルの脚につまずき、咄嗟に手を付いた弾みで何やら青い飲み物が入ったガラスのピッチャーを倒した。ヴィクトルは何とか転ばず体を支えたが、ピッチャーは床に落ちて粉々に砕けてしまった。ガラスが割れる音が幻想を打ち壊し、勇利はハッと部屋にいるほかのみんなに気が付いた。そうすけが、腕を握りながらそこに立っていた。
「大丈夫?!」勇利はそうすけのもとに駆け寄った。そうすけが手を離して腕の傷口から流れる真っ赤な血が見えると、それまでのぼんやりとした魔法から勇利は一気に目を冷さました。
「ガラスの破片が飛んで……ちょうどそこに座っていたから……」。腕を動かすと、そうすけは痛みに顔をしかめた。
 音楽は止み、全員が緊張した面持ちで立ちすくんでいた。勇利の後ろではヴィクトルが目を見開き、口をきつく結んで立っていた。静寂がそれまでのにぎやかな部屋をすっかり包み込んでいたが、勇利の耳からはまだ、ヴィクトルの歌声が離れていなかった。
「バルスームヘ行きましょう」。勇利はそう言って、そうすけの腕を取った。オタベックがナプキンの束を渡すと、そうすけはそれをありがたそうに受け取る。「大丈夫だよ、勇利。そんなにひどくない、自分でやれるから」。そうすけは心配そうに見ている勇利の方を見つめ返し、その平静を保った視線は勇利の動揺した心を落ち着かせた。
 勇利とそうすけが廊下に出ると、ヴィクトルもそれに続いてブースの外に出た。「……そうすけ、すまない」
「僕が付いていくから、ヴィクトル」と、勇利が噛みつくように答えた。ガラスが割れてそうすけが怪我をしたのはヴィクトルのせいじゃない。二人で一緒に歌い、彼らの関係に起こった最悪の出来事を忘れようなんてしたのもヴィクトルのせいじゃない。今でもなお、彼に執着し続けてしまうのだって、ヴィクトルのせいではないのだ。だけど勇利はどうしようもなく腹が立った。自分自身にも、この状況にも。そして辛辣な言葉を吐かずにはいられなかった――「来なくていい。僕たちなら大丈夫」と。
 ヴィクトルは下唇を開いて眉をしかめた。表情が少し揺らいだかと思うと、その顔から先ほどまでの明るさは消えていた。言いかけた言葉を飲み込みゆっくり頷くと、ブースに戻って扉を閉めた。勇利は気付いていた――心に鈍い痛みを感じながら――ヴィクトルが右手を胸のところで握りしめながら、その指の痛みをこらえていたことを。
   バスルームでは、そうすけが磁器製の洗面台によりかかって蛇口の下に腕を投げ出していた。勇利は反対側のベンチに腰掛け、そうすけの青白い手首に流れる水を見つめていた。
「すまなかったね」とそうすけが静寂を破った。「タイミングが悪かった」
 勇利は思わず笑って頭を振った。「いえ、そうすけさんが謝るようなことは何も。それに、まさかこんなことになるなんて」。本当に、こんなことになるはずじゃなかった。みんなは何を考えていたのだろう? それにヴィクトルも! こんな夜に包帯もせず、世界を前にして氷に上がる直前だと言うのにあんなに不注意でいるなんて、一体何を考えていたんだ。
 そうすけは鏡を見ると、反応を窺った。数分前に比べれば、二人とも多少はアルコールが抜けていた。
「まだ彼のことが好きなんだね」。突然そう聞かれて、勇利は思わず呼吸に詰まった。鏡越しに勇利を見つめるそうすけの顔は無表情だったが、目には確かな意図があるようだった。
「僕は……」
「過去に巻き戻るだけだよ、勇利。彼はきっと、君を昔に引き戻す。勇利はもっといい未来に向かっているところだろう」。そうすけの言葉が勇利の中でねじれを起こす。そうすけは正しい。ヴィクトルに想いこがれたところで、昔に戻るだけなのだ。だけど、二人で過ごしたあの頃よりも素晴らしい未来なんてものが本当にあるのか、勇利には分からなかった。
 終止符が必要だった。あるいは、終止符になるような何かが。そしてそれは、ヴィクトルと話をしない限り訪れない。そうすけはびっくりするほど無遠慮な言い方をしたけれど、でも勇利は、そうすけが勇利を信じ、そして今シーズンが最高のものになるとまだ信じてくれているとわかっていた。そして実際にそうなるはずなのだ。勇利がヴィクトルのことでこれ以上苦しまなければ。
 勇利は両手の拳をぎゅっと握りしめると、ある決心をした目で鏡越しにそうすけを見つめ返した。
 今夜、勇利はヴィクトルと話をする。
※作者の方の了承を得て翻訳・掲載しています。
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tabooome · 5 years
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パターソンについての考察ー Wednesday
 うっすらと目を開けると正面にスティーブの顔があった。バッキーは何度か瞬きをして目の前で眠る男に焦点を合わせる。唇をわずかに開き、穏やかな息の音を吐き出している。起きているときは何かと力を込めがちなその眉間も、今は皺の影もなく存分にリラックスできているようだった。
 バッキーはシーツを静かに浮かせて、少しだけスティーブに身を寄せた。向き合った顔と顔の間からシーツの中の空気が漏れ、バッキーの顔を温かくこもった空気が撫でていく。ぼんやりとした頭に、その温度が心地よい。眠っている人間の体温は高く、バッキーの顔を撫でてから霧散したそれからは、焼き立てのパンのような匂いがした。
 よくスティーブは起き抜けのバッキーに顔を寄せては「寝起きの匂いがする」なんて言って笑ってくる。恥ずかしいからやめろと言��ても一向に聞く気配がない。寝起きの体臭なんて好んで嗅ぐようなものじゃないだろうに、いつの間にそんな癖をつけたのだろう。詳しいことも言わずに、ただ毎回首筋に顔を埋めては少しだけ愉快そうに言うのだ。もう最近は怒る気もしなくなって、好きなようにさせている。
 バッキーは霧散した匂いにそんなことを思い出しながら、そっとスティーブに身を寄せる。足を動かしてスウェット生地を辿り、相手の足の甲に親指を触れさせた。案の定スティーブのそれはしっかりと温かく、バッキーを十分に満足させる感触だった。足先、土踏まず、次に踵とぺたぺたと自分の足を押し付けては、柔らかくしかしその中にある骨の感触を肌で確かめる。最後に足裏全体で撫でてやれば、とうとうスティーブの瞼がふるりと震えた。
「……バック」
「うん、おはよう」
 バッキーはスティーブに名前を呼ばれることが好きだった。特に、起き抜けでまだ舌ったらずなスティーブが紡ぐそれが。たった一言なのに、どんな言葉より自分を安心させてくれて、吹き出しそうになる程甘い。自然と吊り上がる口元を自覚しながら、額に垂れた前髪を梳いてやる。スティーブはまだ覚醒の途中なのか、むにゃむにゃと口を動かしている。そして目を閉じたまま、ぼやけた声でこう呟いた。
「……夢を見た」
「ん?」
「僕とお前で……ずっとどこかを旅してるんだ。ルート66みたいな、開けた場所を走ってて、でも僕らの乗り物は安っぽい自転車で」
「……へえ」
 随分と可愛らしく、夢らしい夢だ。バッキーは愉快さを含んだ声で応えた。
「何にもない一本道なのに、気付いたら周りが昔のブルックリンになってて……人混みがあるからってお前は僕に先に行けって言うんだ……僕はそれに真面目に頷いて、しばらく縦列走行して、でも次の瞬間にはまた荒野を並んで走ってる……」
 依然として目を開けないのはまだその風景を瞼の裏に見ているからだろうか。夢なんてシュールであってなんぼだが、きれいに縦列になった自分たちを想像すると少し笑える。空気が揺れたのに気付いたのか、スティーブは今度こそ瞼をあげ、自身も可笑しそうに目を細めた。薄暗い室内で目の青色が濃く見える。
「なあバッキー、」
「どうした?」
「……来年の春になったらバイクを買おう。2人でツーリングするんだ」
 スティーブはとっておきの計画を話すかのような声で囁く。起き抜けの無邪気さがバッキーの顔を更に綻ばせた。
「いいぜ、楽しみだな」
 バッキーも声を潜めて答える。スティーブが運転するバイクの後部座席も好きだが、風を切って走るこいつを横から見られるならそれも良い。バッキーの返答を聞き、スティーブは笑った。
 実際のところ、スーパーソルジャーが揃って数日間も休みを取れることなんて奇跡に等しい。だからきっとルート66を走れる日はずっと先までこないだろう。それでも2人は満足げに笑い合った。今ここで秘密の計画を共有できる楽しさを味わい、そしてそれを存分に満喫してから、日帰りで楽しめるルートを描くのだ。
 昼前に基地に出向いた2人はそのままロッカールームへと直行した。昨日までバッキーが取り組んでいた暗号解析は既に情報精査の段階に入っている。それにはバッキーよりも余程適した人材がいるため、バッキーは一度ここでお役御免になるのだ。よって本日は久しぶりにスティーブと手合わせをすることになっていた。
 昨日のサムとの演習とは違い、2人がいるのは屋内にあるトレーニングルームである。マシンの一つも置いていない殺風景な場所だが、派手な武器を使わない2人にとってはシンプルな方がありがたい。
「基地を壊すなって、トニーからの伝言だ」
「わかってるよ、サム。手加減はする」
 そういうサムは監督役らしく、だだっ広い部屋の隅で腕を組んでいる。
「……へえ、手加減するって、負けた時の言い訳か?」
 耳に入った言葉にバッキーは素早く反応した。挑発じみた言葉はからかいの意図が大きいが、気分が高揚しているのは確かだ。それはおそらくスティーブも同じだろう。なんたって純粋な身体能力でいえば、お互いの相手が務まるのは自分たちだけなのだ。全力までとはいかなくとも、マシンや他の相手と手合わせする時とは雲泥の差がある。だからスケジュールに組み込まれたこの日を楽しみにしていたのは、きっと自分だけじゃない。
「お前こそ」
 サムに言わせてみれば「いたずらを企んでるガキ」にしか見えない笑みを浮かべつつ、2人の手合わせは始まった。決着がつけば小休止、着かなければ30分で区切って小休止。盾もメタルアームも使用しないステゴロ仕様。お互いが遠慮せずにスピードを出せるのは、いっそ爽快に思えるほどだった。
 1時間が過ぎ、2時間が過ぎ、気づけば監督役でもなんでもないギャラリーが増えても、一向にお互いを負かすことができない。何度目かの休憩でバッキーは少し息を荒げながら告げた。
「なあ、ついでに今日の夕飯を賭けよう」
「いいぞ。どうせお前が負ける」
 軽口に乗ってくるあたり、スティーブもだいぶ熱が入っているらしい。バッキーは鼻で笑うと、色が変わった相手のウェアを指差して続けた。
「んなこと言って、お前の方が必死に見えるぞ。……じゃあ恥ずかしい秘密を一個。これも付け加えで」
「乗った。ただお前が負けても女の子に振られた話は無しだ。もう聞き飽きてるし見飽きてる」
「お前もデートの前に風邪ひいてぶっ倒れた話は無しだ。そんなの全部知ってる」
 サムに言わせてみれば「常人なら死ぬレベルで殴り合ってるのに口喧嘩はガキ」でしかない応酬を繰り広げながら、2人の手合わせはその後も続いた。
 正直に言って、楽しくないわけがないのだ。大戦中から数えても、スティーブとバッキーが同等の力で純粋に手合わせができたのは、この現状に落ち着いて初めてできたことの一つだった。敵意のないそれは一種のコミュニケーションでもある。次にどうくるのか、どう動くのかを考えることなんて無意識にだってできる。だからトリッキーに仕掛けた時に相手がうまく対応すると、悔しさより面白さの方が優ってしまう。そして頭も心もより一層高揚するのだ。こんなこと、楽しくないわけがなかった。ナターシャに言わせれば「本気の遣り合いにかこつけたデート」だったらしい2人の手合わせは、大勢のギャラリーを魅了しながらも空が赤く染まるまで終わらなかった。
◇◇◇◇
「恥ずかしい秘密なあ……」
 コーヒーの入ったマグカップを抱え、バッキーはいつものソファでリラックスした姿勢をとっていた。スティーブもその隣に腰掛ける。
 結局あの後も純粋な勝負では決着がつかず、業を煮やした外野からのたくさんの条件付けによって夕飯はスティーブに、そして秘密の暴露はバッキーに課せられることになった。バッキーは悔しがっていたが、2人の、しかも相当なな運動量をこなした後の超人2人の食事量となると金額的にも馬鹿にならない。そんな予想に違わず、2人は大量のデリとバーガーをテイクアウトし、無言で平らげた。ちゃっかり食後のコーヒーまで準備させて、ようやくバッキーの番というわけだ。
 とはいっても、スティーブからしてみれば、この幼なじみの恥ずかしい失敗なんて今更聞いたところで目新しいものがあるとは思えないのだが。
 バッキーはしばらくマグカップの中を覗き込んだ後、思い当たることがあったのか小さく笑い声をこぼした。
「……昔さ、お前に小説を借りたことがあったろ」
「本?」
「そう、面白かったからって言って勧めてくれた。主人公の絵がどんどん変わっていくやつ……覚えてるか?」
「ああ、あれか。『ドリアン・グレイの肖像』だろ」
 その小説のことは覚えていた。課題図書として読み始めたところ夢中になるほど面白く、その後バッキーにも貸したのだ。
「あれさ、あの後怖くてしばらく眠れなかったんだ」
「え……?」
 スティーブは予想外のところから飛んできたバッキーの告白に面食らう。あの頃、怖いものなんて知らないとばかりに堂々としていたバッキーが。女の子に振られてもまたやっちまったよなんて飄々としていたバッキーが。まさか自分が貸した小説を読んで眠れなくなってたなんて。そんな思いが顔に出ていたのか、バッキーはばつが悪そうに身動ぎする。
「俺昔からああいうの苦手なんだよ。ホラーっていうか、ぞわぞわする感じが」
「そうだったのか……」
 たしかにホラー小説の括りではなかったが、薄気味の悪さの漂う話ではあった。主人公が恋人を捨て、初めて自分の肖像画が醜く変化していることに気づいたときの衝撃は、描写も相まってスティーブも思わず背筋を震わせた。
「しかもお前、よく俺の絵を描いてただろ。夜になるとそういうのも思い出して」
「うん」
「お前に内緒で、スケッチブック全部盗み見たこともある」
「えっ」
「絵が変わってないか、怖かったんだよ」
 そこまで言うとバッキーは非難の色を含んだ目でスティーブを見た。
「それなのにお前は平気で面白かっただろって聞いてくるし。こいつは怖くないんだって思ったらなんかムカついた」
 思い出した、恥ずかしいっていうかムカつく話だった、とバッキーはぶつくさと呟く。視線はマグカップに戻り、スティーブからは彼の唇が僅かに突き出されているのが分かった。確か、ハイスクールに入る前の出来事だ。その頃のことを思い出して、当時のような幼い表情をして見せるバッキーに、スティーブは反対に面白さを隠せない。
「あ、笑ったな、クソ野郎」
「だってあの頃のお前の兄貴面を思い出したら。馬鹿だなあって」
「うるさい」
 スティーブはとうとう耐えきれなくなって笑い声をあげた。振動で手にしていたコーヒーの水面に波が立つ。しかめっ面をしていたバッキーも、次第にその表情を緩ませると、ついには呆れたように破顔する。大の大人がソファに並んで肩を震わせている。スティーブの頭の中に、恐る恐るスケッチブックをめくるバッキーと、何食わぬ顔で自分に説教をしていたバッキーが交互に浮かんでは消えた。
 しばらくそうして笑っていると、息を整えたバッキーが再び口を開いた。
「まあ、でも俺たちも言ってみりゃ、100歳越えでこの身体だもんな」
「どこかに僕らの絵があるのかも」
「やめろよ、ぞっとしねえ」
 そう言ってまた小さく笑う。たしかに生まれた年と肉体的な年齢には大きな差があり、加えて血清で強化された身体は彼らの老化を通常よりも緩やかなものにしていた。
 しかし、だからと言って完全に時間が止まっているわけではない。スティーブはそっと手を伸ばし、くつくつと笑うバッキーの目元を撫でた。その指の腹に伝わる感触に目を細める。
「大丈夫、僕らはちゃんと老いてる」
 バッキーが笑う度、目尻に皺がよるようになったのはいつからだろう。きっとワカンダで過ごしているあたりだろうが、気づいた時には元からそうだったと言わんばかりに、それが彼の笑顔の一部になっていた。ただ一つ確実に言えるのは、それからスティーブは彼の笑顔を更に好きになったということだ。ひなたのように温かくて優しい目。今も、スティーブの言わんとしていることに気付いてその皺を深くしている。
「お前も髭が生えるようになった」
 バッキーは穏やかに言い、同じように顎の骨をなぞった。じんわりと体温が伝わってくる。
「あれはもうしばらくいい」
「似合ってたのに」
 バッキーの手が動く。彼の頬を覆っていたスティーブの手に重ねられる。
「手も柔らかくなった」
「……普通は逆じゃないのか」
「そうだな、でも昔のお前は骨張ってて冷たかった。今は温かくて柔らかい。肉付きもいい」
「バッキーも早起きできるようになった」
「しかも湖を見るために」
 バッキーのこぼした息が掌をかすめる。
「俺ら、もうとっくに年寄りだな」 
 そう言って笑うバッキーの目元をスティーブはもう一度撫でた。
 胸に迫るたくさんの思いがある。辛かったり、優しかったりするそれらは、もうほどくことができないほど深く絡み合い、スティーブの胸を押しつぶす。それは、時折苦しくて息ができないほどに。ただこうしてソファに身を預け、バッキーと笑い合うことができるうちは、スティーブは自分の心に少しだけ優しくなろうと決めていた。なぜならスティーブは、その苦しさの意味を知っていたから。
「……誰かといて満たされてると思ったり」
 バッキーは一瞬瞠目し、すぐに目を伏せた。
「……ベッドのテクが上達したり?」
「こら」
「はは、悪い。老いっていうより成長だな、スティーヴィ」
 照れ隠しをしてくれるなら、それは彼に正しく伝わった証拠でもある。だからスティーブはそれ以上言葉を重ねることをやめ、バッキーの左手から冷たくなったマグカップをそっと取り除いた。
 時計の針は9時を回ったところだった。今すぐに寝ようとでもすれば、また一つ高齢者と言われる理由を作る羽目になる。スティーブは伺いの意味を込めてバッキーと目線を合わせた。バッキーはくすぐったそうに口元を動かすと、やがて囁くようにこう言った。
「……今は? 満たされきってる?」
「……足りない、かも」
 2人は顔を見合わせた後、やはり耐えきれなくなって小さく笑った。
 おそらく夜はまだ続き、知らない間に日付は変わっているだろう。
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azure358 · 5 years
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--深海人形--戦争軽蔑者
※…余りにも、前回から久し振り過ぎました(※…相変わらずです)。
※…Warspite、イングランドの素晴らしき老嬢(※オールド・レディ)。
※いつも通りです(※文字通り)、
※約束を 死んでも守るのが 漢だろう(※字余り
[[MORE]]
人の為他の為に金を使わない奴は馬鹿だよ
……ワイが、イナイレダン戦アニメシリーズで一番覚えているの、BGMの素晴しさとストーリーの全体的な稚拙さ杜撰さぐらい(※そんなに頭強い訳じゃないんで)。
…自分に合う衣装を考える。まるで、東欧ユダヤ系の格好。
ガレッガシリーズのプラモが作られるが、自分達のフィギュアは付属どころか別売りすら無かったので思わずあっけにとられるウェイン兄弟「」
…布教は戦闘的にやるべし(※卑怯も ※←駄目)。…私も、今まで散々、布教を戦闘的にして来たものだ(※その布教方法は歴史上でキリスト教が使って来た手法を真似ている)。
…私の嫁推しは、出来るだけ、非業に殺すと、大変素晴らしい祟り神か悪霊になる(※…ので、下衆共は、優先してそうやって、殺すか、死に追いやろう)。
生きてるって何 それは結局死で終わる
…世間とその中で生きる、実に救い難い馬鹿共を軽蔑して生きると言う事の出来ない人間こそは真に不幸だ
…『比類無き存在そのもの』が可愛いの��あり、『かつては比類無かった存在』を、引き続き、人は愛したりはしない(※結論:周りからは旧型機、型遅れ扱いって事だろう。 ※人の事は決して言えないが…)。
…それに、もういい加減、私のようなのは、即刻、廃棄処分でも、何等悪くないだろう。そっちの方が利益になる(※…大抵の人は、これと言った愛着の無い失敗作と旧型機、型遅れを愛するほど人間が成熟していない)。
社会に対して、払える、還元出来るお金は今すぐにでも払って下さい。 積善の家には必ず余慶あり。(※陰徳あらば必ず陽報ありとも ※同じく易経の言
…かのRより続く、人間否定思想。一人の人間を人間として決して扱わずに、人形の道具やら生体機械だとする。…もっとR的に言うと、幼体固定処理したりエンジェル・パックしたりどころか、そんなかつては人間だった生体パーツやら脳味噌だけやらを、嬉々として戦闘機に直結したりする(※人権なんぞ無い)。
…Rの事が好き過ぎて、『かつては生身の人間を改造していずれかの形で兵器に直結する』と言う性癖拗らせた人は結構多い(※ブレイジング・スターとかカラドリウスとか鉄血スタッフとか)。
これから大々的に流行るぞ、人間否定思想(※末法末の世)
エミヤくんがアーチャー対戦車自走砲に乗っている画像ください!!!!!!( ※割と本気 )
罦傑「何作ってるんだ(※迫真)」鴻元くん「スピットファイア(※実物)」
…女塾の、『男爆設定』が気に入らねぇ。…別に、闘争心と好戦的精神等と言う『破滅の種』が無くなる事は、大いに素晴らしい事だけどさぁ。それを何故か否定しだすのが嫌い。…そう言う、何が何でも戦争をさせようする姿勢、凄い虫唾が走る。…ガレッガのウェイン兄弟とヤン提督の態度を見習え(※穏健)、
…ウェイン兄弟は、子供みたいに遊びたいけど、闘争心は無いタイプ。可愛い(※北斗男塾の次元にはまず居ないカテゴリの)。
…ヤン提督は、ひたすら、寝て年金で暮らしたいタイプ。出世欲も闘争心も野心も無い。…故に、とんでもない最後と人生を送る(※否が応にも)
…一番普通に生きるのが幸せだって。そんなの当たり前じゃないか。…それすら、出来ないから、人生を本格的に苦しんでいる。…それに、一番普通にどころか、普通に生きる事自体が簡単に出来ると思っている時点で世間知らずか、人生を舐めているのか……まぁ幼稚なのね。言うは易く行うは難し。
…『人生を誰よりも普通に生きる』……、そんなテメェも全然出来やしねぇ事、…そう言うのは、一人の男の言う台詞じゃない。…もっと、軟弱な、取るにも足らぬ男の風上にも置けぬクズ野郎の言う事。男なら、魂燃やしなさい。そして、命も(※だれか他者のために)。
…人生上で、ゲームしかやらない、ゲームでしか時間潰せないおじさんだから、ここまでも、幼稚なのか?…いや、違うだろう。あの某同人出身格ゲークラスタ全体が、大変見苦しい。あまりにも見苦しい。…御前等は偉大な物を過小評価しないと生きていけないクズなんだよ。
…他人の神経を逆撫でしか出来ない奴が結婚なんて出来るわけねぇよなぁ…(※…決して、人の事は言えないけどさ )、
…何気ない一日を普通に過ごせばいい。そんな幻想に過ぎない事を、現実にやれと言われても。
突き抜ける最強(※R-9改)
突き抜けろ最高(※推しカスタム)
我々と言う名の悪霊は退散せぬ 殺す
男塾にも大分旨みがなくなって来た 潮時か
何でもかんでも攻撃扱いか それこそ自意識過剰なんじゃないのか
何でも人様の言を攻撃扱いすれば、それで回避出来ると思うなよ
パチンコしてるから貧乏なんだろ(※ソース:うちの父親 「貧乏人しかパチンコしない、金持ちはパチンコ絶対しない俺は貧乏だ」って言ってるから奴は貧乏です(※言うまでも無い)、
フェアドルに火薬仕込んで人形爆弾化してるオーナーさん(※既出ネタ?)
蛇と愛し合う罦傑vs野槌と愛し合う紅孩児くんvs雪鼠をこよなく愛する鴻元くん(※三つ巴?の戦い??)。
マッド・ラブ以前にプラトニック・ラブ(※プラトニックを貫いてね 貴方が(ry
…拙作では、罦傑の師匠女性だからね(※しかも同門生も女の子だらけ ※…これなんて、ギャルゲー? ※男塾じゃ無さすぎる)、
…鴻元くんが髪伸ばしてる理由、爺さん達が甘やかしてるから(※チャラい)。
某平等人形を製造機械に直結して働かす工場(※ディストピア)。
「…公式が自分好みのグッズ作ってくれない!だから買わない!(※←…だけど、割高の同人グッズは作る 」だからって、すぐ、自前(※セルフで同人グッズ作る腐を撲滅しない限り、ジャンルは素直に繁栄しない(※…だから、同人グッズ=海賊版って、真っ先に取り締まりの対象になるんだよ?分かるか?
…パチスロでの勝ち資金で、無職ながら、一年余りも食い繋いで来た、元風来坊のスロプロなワイのTwitterでのフォロワー氏が、北斗とか他パチ・スロ原作の漫画・アニメの話ぜんぜんしないの、只ならぬ闇を感じる(※…余談だけど、ウチの父親は、北斗の事を嫌いになりたくないから、北斗台をハナから打たないってさ
…ネオジオ後期〜末期はシューティングジャンルが本当に不遇だった(※ほぼ全部格ゲー)。
…ダイナソーマスク……一体何者なんだ……?(※御歳暮うめー)
…莫迦は莫迦でも、牙刀とほたるの父みたいな莫迦とユーモア、ジョークの分からんのにはなるなよ(※前者についてはKOF2003&XIと餓狼MOWを参照する事)、
…牙刀と其の父、其の二人が登場した各シリーズでの暴れっ振りを見てると、此の手の『武闘派』は他も亡ぼしてから、最終的に割りと惨めに自滅するのかもしれぬ(※結論:お兄ちゃんとお父さんどう見ても最低最悪)。
…実際、牙刀も(※厨の強キャラだし 其の父(※作中での行い も嫌われてたりする(※補足)。
…ボガード兄弟の表層しか見てないと、火傷するぞ(※忠告)。
…ボガード兄弟にもっと知性があったら、ギース様なんて軽く凌ぐ実力と権力を手に入れられた筈なのに、それでも本人達は満足そうにしてる。野心も無いのだろう。…それに、クラウザー達と『同じ穴の貉にはなりたくない』んだろうな(※考察)、
ーー負の感情におぼれると見失うぜ 自分ってやつをな ーー餓狼MOWテリー対牙刀用勝利台詞 …自分の過去を鑑みた末の台詞だったりする(※そこがMOWの傑作度を確実にUpさせている)。
…男塾は、海外での支持については、餓狼どころか、ネオジオバトルコロシアムの足下にも及ばない。そこを未だ時代が令和になろうが分からないのが、此処の公式と読者のそれこそ、『致命的な(※Fatal)』能天気さだろう(※極論)。
…同人誌は海外の人間に対して売れないから、これからの時代、作るだけ無駄だと感じる(※これからは無料でPDF配布及び、それを焼いたディスクを有料配布した方が良い)。
…零SPが、昔、『伝説の問題作格ゲー』扱いされてたのは、(※…残虐表現特に絶命奥義関係含めて単純に最高傑作レベルに良い出来だったのと、国内勢の一部と海外勢の間で熱狂的に持て囃されたから(※…さて、今は普通にDL買い出来ます紆余曲折有り過ぎましたが…)、
…先生、男塾が海外で人気を博すには →右翼及び一切の政治思想を捨てる 北南米、スペイン、英国人の新キャラ出す 萌え系女の子入れる 結論:こんなの男塾じゃない!(※☆矢の後追いすら無理!)。
…もし、また男塾ゲー作るなら、男塾内の政治要素を全部廃止して、新キャラでナコリムチャムミナいろはみたいな萌え娘出して、三面拳とか罦傑とか嶺厳とかも含めて、全員ナチュラルに斬殺出来たら、海外進出ワンチャンで欧米勢喜ぶと思うよ(※ヘイトじゃないよ ※…ってかこれ完全にサムスピだよ?!)。
…男塾自体が海外に対して冷淡過ぎて、あまり話題にもならないけど、桃獅子丸赤石先輩十蔵Jあたりは欧米・メイン英語圏で、罦傑鴻元蒼傑嶺厳はアジアでガチウケすると思う(※…カプコンとSNKを見習えば、明らかに違う未来が待っていた?)。
…北斗の海外輸出が、現状でも(※ある程度は 上手く行ってるのは、カプコン、それにSNKの馬鹿共がCPシステムネオジオを通じて、『海外で下地を作ってくれて居たから』、…かもしれないね?(※感謝すべきかも?)。
…そんなに紙媒体が良いなら、データを媒体問わず配布して、各自で紙に印刷すれば良い。ネーム下書きどころか、ペン入れもトーン貼りも全部デジタルなのに、いちいち紙媒体で本を作るのは骨を折るだけ。同人も、フリーゲーム配布、ゲームのDL販売みたいにしないとやって行けなくなる時が来る(※真面目)、
…(※カプコンもだが)、…旧SNKは、昔から露骨に海外市場を狙ってゲームをリリースして居たのもあるが、…それに加え、ネオジオとCPシステム自体のコピープロテクトが甘くて(※…と言うより当時は全体的に皆甘かった)、簡単に海賊版コピー(※当然ながら違法 ※SNK衰退の遠因とも)を作れた(※…海賊版の流通は海外では未だに日常茶飯事)のも一因と言われている(※…カプコンのアーケードゲーム・CPシステム、SNK・ネオジオが海外で大ウケした理由)。
…正直言えば、サムスピ月華シリーズの、海外でのウケが非常に良い理由は、サムライ!剣戟ゲーである上に、楓も覇王丸も幻十郎も(※…場合によってはナコリムミナおシャルですら 容赦無く斬殺が出来るゲームだから(※海外勢は何故か此の様な禅的なモチーフを熱狂的に愛する)。
…チャットはチャット、オフ会はオフ会でやれば良いし、同人誌即売会、オンリーは、どうせ全部、オタクの自己満足ではやって行けなくなる。時代遅れは老害だけで良い(※言葉の暴力で殴る)。
……コミケは、たださえ、金になるから例外ですね……(※オタクの自己満足で運営されてると国が嫌がるし?)、
…あと、余程金にならない限り、後援はやって来ない時代ですし(※そんなに金儲けやら資本主義がイヤでイヤで仕方無いならコミケでクーデターでも起こせば良いのにね?)、
…同人誌即売会・各種オンリーは、電子マネー及び仮想通貨制度を導入出来ないのなら、もう全て開催を取り止めるべき(※過激派 …500ウォン硬貨も怖くない状況すら作ってやれない、頭御花畑の莫迦が同人誌即売イベント・オンリーを企画開催するな(※此の戯けが!)、
…『Pixiv Pay』とか言う此の世の終末感漂うキャッシュレス決済制度(※公式が同人ゴロ)。
…金にならない、公式に何一つ歓迎&還元されない同人イベ、プチオンリーとかやるだけ無駄だと思う(※冷淡)。
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hara-8bnm-blog · 7 years
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もんみき♀本 あらすじ
前提 「では先輩のその恋が実るまで、あるいはケジメをつけるまで、それまでの間だけ私が仮の恋人でいさせてはもらえませんか?」 押して押して押しまくった末に潮江の仮の恋人の座を手に入れてから早5年、三木♀は25歳、潮江は27歳になっていた。大学の先輩後輩として出会った三木は潮江に惚れ込み何度も告白を繰り返したものの、潮江には高校時代から想いを寄せている人物・仙蔵♀がいた。仙蔵♀には当時から年下の恋人である綾部がおり、潮江は気持ちを伝えられないまま時間を重ねていた。振られてもめげない度重なる三木の告白に対し「好きな奴がいるから付き合うことは出来ない」と断り続けていた潮江だったが大学卒業を控えたある日、三木に「じゃあ先輩のその恋が実るまで、あるいはケジメをつけるまで、それまでの間だけ私が先輩の恋人でいさせてはもらえませんか?」と言われ、潮江は三木の一生懸命な気持ちに絆されそれを承諾する。そしてそのまま5年の月日が経ったのであった。
本編 1 土曜の朝、昼近くに三木が目覚めれば隣で潮江はまだ眠っている。ベッドの下へ手を伸ばし脱ぎ捨てられた下着とキャミソールを探りあてると潮江を起こさないようにベッドを抜けそれらを身につける。布団からは潮江の肩が露出している。冷房にあてられた潮江の肩は少し冷えているも、本人は寒がる様子もなくぐっすりと寝呆けている。かわいい寝顔だと三木は思い、簡単にシャワーを浴びると朝食とも昼食とも言えない時間の食事をてきぱきと作りだす。勝手知ったる潮江の部屋、特にキッチンに至っては家主よりも三木のほうがあれこれ熟知しているのであった。 はたから見れば二人はごく普通の恋人であり、半同棲中のありふれたカップル、そして結婚を考えてもおかしくはない年齢にさしかかろうとしていた。三木は外資系企業に、潮江は大手商社に勤務している。潮江の恋がどうにかなるまでの仮の恋人、とはいえもう5年も隣にいるのだ。キスもハグもセックスも、たまにはデートだってする。今だに三木は潮江の一挙手一投足にどきどきとさせられるが、潮江が自分に好意を寄せてくれているとは思っていない。潮江は���しい。優しくて紳士的である。むりやり座った準彼女の椅子ではあるが、だからと言って潮江は三木のことをぞんざいに扱うようなことをしたことはなかった。三木はそれが嬉しく、しかし逆に言えばいつでも身がひきしまった。潮江の人生なのだから、潮江の叶うかどうかもわからない、しかし一途で厳粛でストイックな片想いを邪魔する気も諦めさせる気も、ましてやこうして仮の交際を重ねてうやむやにしてしまおうという気などもこれっぽっちもなかった。三木はただただ潮江のことが好きである。27になった潮江はますますかっこいいと、三木は常々思っている。
2 心地がいいなと潮江は思う。 三木は気がきく。気がきく上に十分な容姿の持ち主で自立心も高く仕事もできる。申し分ない女だなと思う。なにがどうして自分を好いてくれているのかはわからないが、有難いことであると年を重ねるごとに思う。それでもどうしても仙蔵への気持ちを断ち切れない自分がいる。告げてしまえればよかったかもしれない、もっとそう、若かった頃に。十年前、いやせめて五年前であったならばよかった。いまさらもう言うことなどできない。言うどころか、これからプライベートで会うことなどないかもしれないと思う。いつまでも、もしかしたら一生このままなのだろうか。わからない。もしそうであるとしたら三木は一生このまま自分のそばにいるのであろうか。三木の言うところの「仮の彼女」のままで。わからない。白黒つけぬままこんな関係を続けるのは自分らしくないと潮江は思う。それでも潮江は三木の肌を手放せなかった。朝食とも昼食ともいえない時間の食事の香りが立ちこめるなか、無防備な三木の素肌に朝ですと起こされれば潮江はそれに手が伸びた。いつまでこのままでいるつもりなのだろう、自分は。そしていつまでこのままでいてくれるつもりなのだろう、三木は。三木の髪はすべすべと手触りがよい。髪が長くて、それが俺はとても好きだったんだ、とそういえばむかし酔っ払って仙蔵の話をしたことがあったなと思い出す。ベッドに手を引けば三木は素直に倒れこむ。
3 結婚式の招待状が潮江宅のテーブルの上に乗っているのを見て三木はどきりとする。それを知ってか知らずか潮江は会社の同期の奴が結婚するんだ、と三木に言う。よかった、と思う三木。高校の同級生では式で潮江の例の想い人に再会する確率も高い。三木は潮江の恋を邪魔したくないと思いつつも再会を果たされることを恐れていた。潮江は以前、相手には恋人がいたからと言っていた。ではもし今恋人がいなかったら?もう高校時代からは十年近い年月が経っているのだ。もし恋人がいなかったら潮江はどうするのだろう。いま使っている連絡先を交換して、このあと飲みなおさないかとか、二次会を抜け出したりだとか、なにかそういう、そういうことをするのだろうか、と三木は考える。それでうまくいったら、わたしはそこで終わりにしなくてはならないのだな、と思う。潮江はどんな顔をして自分にそれを告げるのだろう。憑き物が落ちたかのようにきっぱりと告げるのだろうか、いやそれとも申し訳なさそうに頭をさげるのだろうか、それともどこか嬉しそうに顛末を話すだろうか、あるいはいずれもだろうか。ここまでだと関係の清算を潮江に望まれれば三木はそれに従うほかなかった。
田村さんは彼氏いないの? というセリフを思えば中学生くらいから何千回問われてきただろう、と三木はふと考える。この答えの対処は男に訊かれるより女に訊かれるほうが何百倍も難しい、好奇心も嘘を見抜くのもあられぬ噂を立てるのも女のほうが遥かに手早く強いからである。これは三木の経験則だ。 飲み会と称して誘い出された場所はいわゆる合コンとさほど変わらない場所のようだった。どうやら隣の隣の部署の人物が三木と知り合いたいとのことでセッティングされた場所であるらしい。 田村さんは彼氏いないのという問いに、潮江のことを彼氏と称して答えていいのだろうかと三木はこの5年間選択を迷い続けている。はい、でもあるはずで、いいえでもあるはずである。結局いつも好きなひとがいて、とお茶を濁す。え、その人とは会ったりするの?と踏み込まれれば、はい、まあ、と答える。ええ、もったいないね、と言われれば好きなだけでわたしは十分なので、本当に、しあわせなんですそれだけで、と答える。その答えに嘘はないので相手はそう言ってほんの少し切なそうに微笑む三木を見てたいていの場合そこで話を終えてくれるのだが、さすがに三木へなんとか接点を仕掛けようとセッティングされたこの日はつぎつぎに踏み込んだ質問を繰り出される。どんな人なのか、どこまで進んでいるのか、脈はありそうなのか、どれくらいの期間想っているのか。三木が困るのは、事実だけをそのまま述べればたいていの場合潮江が悪役になってしまうことだった。社会人経験もまあそこそこになってきた年上の男の行動として潮江の三木に対する関係の繫ぎとめ方は褒められたものでは確かにないし、自分が「ただの都合のいい女じゃんそれじゃあさあ」と言われることもよくわかっていた。周囲がそう言ってくることに悪意はない、しごく真っ当な意見だと特に近頃三木は思う。かといって潮江は自分を都合のいい女扱いなどこれっぽっちもしていない。自分が勝手にしていること、それが全てと言えば全てだった。潮江の初めてのキスも初めてのセックスも自分がもらってしまった。本当にいいのですかわたしで、と三木が問えば潮江は少し困ったような顔をしてそれは本来俺のせりふだろう、と言った。そう、潮江はなんだかんだと頷いてくれる。 「じゃあもし田村さん他に好きな人ができたらどうするの?その関係って終わり?」 自分に好きな人ができたら?考えたことがなかったと三木ははたと思う。もし自分に好きな人ができて、あるいはじぶんが潮江をあきらめるきっかけができてこの関係を辞めたいと言った時、潮江はどうするのだろう。今までのように頷くのだろうか。わかったと、頷くのだろうか。それだけなのだろうか。引き止めてくれたりしないだろうか、ああそういえば嫉妬されたこともないなと三木は思う。この五年を短いとは決して思わない。でも終わりを迎えるときは一瞬なのだと、かんたんなのだと、三木は思う。なんだか無性に悲しくなって三木はいつもよりたくさんお酒を飲んでしまう。普段は酔い潰れることもなくきちんと自宅へ帰るのだが完全に酔い潰れた三木はタクシーへ乗せられ潮江宅を行き先に告げる。帰ってきた三木に驚く潮江。泥酔した三木は潮江を押し倒す。そのままセックスにもつれこむ三木。「せんぱい、私に好きな人ができたらどうしますか?」よくわからない切なさを胸に三木は潮江の避妊行為をかたくなに断り生でする。そしてこの一晩での行為で三木は妊娠する。
4 私に好きな人ができたらどうしますか、と自分に問いた三木の顔が潮江はこの数日頭から離れなかった。単純に嫌だと、困ると、そしてどんよりと鈍い不安が立ち込めるのを感じた。なぜ嫌なのか、困るのか。それは精神的にも日常生活においても三木がいてくれることによってもたらされる心地よさや快適さがなくなるからだろうか。仙蔵といたとき、あるいは仙蔵への気持ちを思うと潮江はこんな気持ちにはならなかった。もっと胸がしめつけられるような、苦しくて切なくて愛しくて少し憎くて、何ができるわけでもないくせに居てもたってもいられなかった。馬鹿馬鹿しい恋を引きずっていると潮江は思う。にも関わらず自分の中にどんよりと立ち込めた不安にもあきれる。三木は他に好きな男ができたのだろうか、あるいはできそうなのだろうか、揺れているのだろうか迷っているのだろうか。他に好きな男がいる、この関係をやめたい。そう三木に言われたとき、自分はなんと返すべきだろう。三木の二十代前半をまるまるもらったうえ正式に付き合おう、愛していると言ったこともない自分がそれを拒否する権利はない。悩む潮江。ちょうど双方繁忙期に入りあまり会えない日が続く。 「先輩、今日退社遅そうですか?終わったら花火見に行きませんか?ちょっとあの、話したいこともあって」 三木からのメッセージの文面にどきりとする潮江。話とはなんだろう。しばらく会えなかったし三木の揺れは決まってしまったのだろうか。どう反応し、返答すればいいのだろう。潮江は動揺しながらも二人はいつものように落ち合って会社帰りに花火を見に行く。久しぶりに見た三木にほっとした潮江は自分からするりと手をつなぐ。が、人混みの中で潮江は仙蔵を見つけてしまう。 「仙蔵!」 露店の前で浴衣を着てぼうっと佇んでいる仙蔵を見つけ呼びかける潮江。 「文次郎?文次郎じゃないか、どこのじじいかと思った」 仙蔵はかろやかに笑う。ほとんど変わらない雰囲気に潮江はときめき愛しくなるはず、が、じわりと自分の心に滲みでるのは懐かしく優しい気持ちだけなのだった。不思議だ。きりきりと突き刺されるようなあの感情、あの恋慕はなぜだか浮き上がらない。ああそうかと潮江は気付く。自分はとっくに仙蔵のことを思い出にしていたのだ、そしてもうとっくのむかしに三木のことを愛していたのだ。いつかの若かった自分に微笑むように目を細める潮江。 「なんだ、そちらは彼女か、ずいぶん美人だなお前にはもったいない」 「いえあの、私は大学の後輩なだけです」 一方で三木は今まで聞いたことのない潮江の声に表情にああこの人が潮江の思い人なのだと気付く。仙蔵の自分とは違う顔や佇まいにああ自分はこの人の好きなタイプとは全く違うのだなあと、まさか自分の前で二人が再会を果たすとは、と悟るような思いで少し呆然ともする。妊娠してしまったと告げようと思っていた三木はこれはきっと自分が潮江とは結ばれない運命にあるんだなあとぼんやり思い、やりとりをしている仙蔵と潮江を置いて電話がかかってきたふりをし、人混みへ流れこむ。 「すみません、ちょっと仕事上のトラブルが起こったので社に戻ります」 それだけメッセージを残した三木はそのまま人混みへ消えてしまう。三木がそこを離れてすぐに潮江と仙蔵の元には綾部がやってくる。二人は時期に結婚するとのことだった。潮江は変わらない二人を見て微笑み、三木への想いに腹をくくる。このあと正式に交際を、いや結婚を申し込もう。しかしスマホにはこのまま帰るとだけ文言が残され、三木はいない。 それ以降三木は多忙を理由に潮江と会ってくれなくなってしまう。こんなことは初めてで戸惑う潮江。やはり他に好きな男ができてしまったのだろうか。玉砕してしまってもいい、と思いながら三木にプロポーズするためダイヤのついたエンゲージリングを購入する潮江。 「話がある。少し時間を作ってはくれないだろうか」 「すみません、今予定が読めなくて。電話ではいけませんか」 「会って話したい」 「すみません、あと少し先になってしまいます」 一方三木は潮江からの「話がある」を完全に関係の清算を求められるとばかり思い込んでいた。あの夜、自分がいなくなってからうまくいったのかもしれない。潮江のことだから自分との関係を清算するまであの人との交際を始めるつもりはないのだろう、きっと自分待ちだ。もしかしたら結婚の約束くらいはしているかも。会って話されるのは辛い、いや電話でだって辛いけれど。妊娠していると告げれば潮江はきっと責任を取ると言うだろう。あの人とのことはあきらめて自分と結婚をし、お腹の子の父親としての役目を果たそうとするだろう。違うそうじゃない、自分は、自分は潮江に幸せになってもらいたい。だから好きな人を選んでほしい。言えない。言いたいのに、言えない、言えないです先輩、と思い詰める三木は体調を崩しながら辛い日々を送っていた。三木の異変に気付いた仲の良い同僚である浜に会社近くの公園で事情を話しぼろぼろ泣く三木。そんな三木を介抱する浜。そして自分を避ける三木になんとか会おうと三木の会社近くに来ていた潮江はそんな二人を見てしまう。やはりきちんとした恋人ができたのだ、と潮江は誤解を深めてしまう。真面目な三木のことだから苦しんでいるのだろうと潮江は誤解を抱いたまま察する。やはりきちんと話を、けじめをつけなければ。
5 潮江のこと、そして妊娠について思い悩む日々を送る三木。潮江と仙蔵が目の前で再会し、潮江避けはじめてから早くも二ヶ月が過ぎようとしていた。潮江からの「話がある」を交わし続けるもそろそろ限界だと思う三木。浜からはきちんと話したほうがいい三木なら話せる大丈夫だ、と言われているもなんと言っていいのか、潮江から別れを切り出された時どんな顔をして受け止めたらいいのかと迷う三木。 ある夜、仕事から帰ると三木のマンションの前に仕事帰りの潮江がいる。 「時間は取らない、話したいことがある」 「……私も話があります」 頷く潮江。三木はもう逃げられないと覚悟する。部屋につき、自分から話したいと切り出すもなかなか話すことができない三木。 「きちんとした恋人ができたんだろう?」 見たことがないくらい辛そうな三木見て潮江は思わず切り出す。ぱっと顔をあげる三木。 「実は一度お前の会社の近くまで行ったんだ。そのときにその、見かけた、男と一緒にいるところを。支えてもらっているのだな」 え、と少し困惑する三木。潮江の口調は三木を責めることなく、むしろ申し訳なさそうな声色である。 「すまなかった」 潮江は頭を下げる。 「お前のハタチからこっち…いや初めて好きだと言ってくれた時から考えれば七年近くも時間をもらってしまって、本当にすまなかった。不満もたくさんあっただろう、ついついお前の好意に…そうだなお前の好意に俺は甘えてしまっていた。情けない。本当にすまなかった。幸せになってほしい」 「そんな、甘えるだなんて…私が好きでさせてもらっていたことですし…とにかく頭を上げてください先輩…」 困惑する三木。誤解されている、と思うもこれでいいのかなという思いがふと頭をよぎる。 「悩ませてしまっただろう、本当にすまなかった」 「いえそんな…私こそすみません…」 自分こそ潮江に甘えていたと思う三木。自分がもっと早く身を引いていたら潮江はもっと早くあの人と付き合えていたのでないだろうか。 「そんな顔をするな、…せっかくの美人が台無しだ」 そう言ってくれる潮江の声や表情は穏やかで優しい。充足感にあふれている。 「先輩あの…、」 いま幸せでしょうか。そう言おうとして言葉につまる三木。いえなんでもありません、と続けると潮江は何も言わず優しい目のまま自分を見つめるばかりである。こんな目を見たことはない。きっと満たされているのだろうと思う三木。 「いきなり来て悪かった。帰ろう」 「あ、すみませんお茶も出さずに…!」 「いや気にするな」 玄関に向かう二人。言わない三木。潮江の視線がふと玄関にかかっている鍵に向かうのに気付く三木。 「これ、あの、お返ししますね」 潮江宅の合鍵を返す三木。ああすまない、と受け取る潮江。ああ鍵を返してしまう、あの人の手に渡るのだろうかと思う三木。 「うちにあるお前の荷物は持ってきたほうがいいか?あ、いや送ったほうがいいか」 「あ、いえ!私が取りに伺い…、あ、はい、あの、送ってくださると助かります、すみません」 玄関にぎこちない空気が流れる。 「すみません、今日はわざわざ来てくださって」 「いや、急に来て悪かった。思えばここにはあまり来たことがなかったな。いつも来てもらうばかりで」 「先輩、あの……、私と過ごした5年間は、少しでも楽しかったでしょうか?先輩にとっていい思い出になりますでしょう、か」 三木は泣きそうになるのを堪えながら潮江にそう問う。 「……かけがえのない時間だった、お前と過ごしたこの5年は。俺の人生のなかで何にもかえがたいものだよ」 少し黙ったあとで潮江はそう述べる。三木はその言葉に胸がいっぱいになり、もういいと、もうこれだけでいいのだと目をつぶる。 「それなら、それなら嬉しいです」 目を開け微笑む三木。うっすらと涙が張る。思わず好きです先輩本当に、本当に愛していますと言いそうになるのを堪える。 「…よかったらこれ、もらってくれ」 潮江は鞄から小さな紙袋を出し三木に差し出す。きれいな袋を三木は高級なチョコレート菓子かなにかかなと思いながらえ、あ、すみませんと受け取る。 「それじゃあ、元気でな」 「先輩もお元気で」 潮江は三木に背を向けドアノブに手をかける、開けようとする次の瞬間勢いよくふりむき三木を抱きしめる潮江。ぎゅうっとほんの一瞬抱きしめた潮江はそのまま勢いよく三木の家を出る。潮江が家を出てすぐにその場で泣き崩れる三木。色々な感情が錯綜する。少しの間泣いているとふともらった紙袋が目に入る。デパートで売ってそうなパッケージのお菓子に先輩こういうの苦手そうなのに選びに行ってくれたのかな、と思う三木。ふと中身を見ると小箱が入っている、いやきちんとパッケージを見るとお菓子の雰囲気ではない。箱を開けると小箱が出てくる。どう見ても指輪のケースだ。なんで?なんだろう?ケースを開ければ中にはダイヤの輝くどう見てもエンゲージリングが入っていた。混乱する三木。先輩が渡す袋を間違えたのかもしれない。三木は急いで家を出て潮江を追いかける。 「先輩っ、これっ、間違えてます…っ!」 走って追いつく三木。 袋を差し出すと潮江は「悪いが間違えてないんだ」と苦笑。 「どういうことですか…?だってこれ、どう見たってその……、」 「どう見ても婚約指輪だよなあ」 「私がもらう理由はないです」 「もらう理由か……、……そりゃそう思うよなあ。ずるかったな、謝る」 「え、いや謝るだなんてそんな、」 「好きだ田村、結婚して欲しい。……そう言おうと思って来たんだ、俺は」 え?ぽかんとする三木。潮江は仙蔵との再会で三木を好きだということを自覚したことやプロポーズしようと決意したこと、それなのに急に避け始められて以前から三木には別に好きな男ができたのかもしれないと思っていたところ浜と二人でいるところを目撃し、新しい恋人ができたのを確信したこと、それでも自分の気持ちを伝えようと話をしたかったこと、けれど動揺して辛そうな三木を前にしたら自分のプロポーズはさらに三木の負荷になってしまうかもしれない、今までさんざん待たせたくせに新しくスタートを切った三木に対して無責任な行為かもしれないと思ったことを述べる。 「まあでも結局そんなもん渡しちゃ迷惑も同じだな、情けない、意外と女々しいんだな俺は」 「妊娠していますっ……!」 潮江が三木から袋を受け取ろうとすると三木は三木は号泣しはじめる。はじかれるように顔をあげる潮江。 「間違いなく先輩の子です……っ」 驚く潮江。三木は妊娠してしまいすぐに告げられなかったこと、責任を取ろうとしてくれる潮江を見たくなかったこと、一緒にいて目撃された浜はただの同僚で自分を気遣ってくれていただけのことなどを泣きながら話す。 「好きなんです、先輩のことが…!だから先輩がどれだけあの人のことを好きなのか私が一番よく知っています…!だから、先輩のことが好きで好きでたまらないから、大好きだから、だから好きな人と結婚して欲しいんです…!そう思ったら私っ…、なんて言ったらいいのか、いやそもそも言わないほうがいいのかもしれないって……、おも……、」 潮江は三木を抱きしめる。ぎゅううっと力強く抱きしめるとはっとして腹は大丈夫かっと身体を離す潮江。妊娠は心から嬉しいことを伝え、結婚しようと言って指輪を三木の指にはめる。街灯のあかりに指輪をかざしきらきらと光るのを見て三木は再び涙する。潮江からキス。終わり
おまけ 二人が結婚して三木が出産してのその後
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pinoconoco · 7 years
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御指名はいりました 3
最近のルキアは何か変
「な、なんだ?何でそんなに見てくる?」 「ん~。ねぇルキア最近いいことあった?」 「……別に変わらぬが……あ!あった!」 「何!? 」 「この間のレースでソデノシラユキが勝ったのだ!」 「…………あんた、まだ馬買ってんの~?」
なぁんだ、そんな事かぁとふぃ~とため息をつけばルキアはプンプンと怒った。
「うるさい!私はソデノシラユキを誰より愛してるんだぞ、嬉しいに決まっておるだろ!」 「わかんなぁい~。馬なんてパチンコより当たらないじゃん……」 「馬には夢があるのだ!」
その夢のお馬さんにアンタいくら注ぎ込んでんだっちゅーの。 ルキアは遊ばないし無駄遣いもしないから あんな如何わしい仕事を朝から晩まで毎日やってて、本当ならお金だってすごい貯められてる筈なのに
ソデノシラユキとかいう馬にはかなりの大金を使っている。
あたしだって人様に威張れる生活してるわけじゃないし、だからルキアに言える義理じゃないけど
馬券さえ買わなきゃもっと金貯めれんのになぁとつい余計なことを思ってしまう。
「……ねぇ、競馬って、たのしい?」 「うむ、競馬場行って生で馬を見るともっとたのしいぞ」 「ふぅん」 「今度一緒行かぬか?」 「まじ?あたし楽しいかな」 「きっと、たのしいよ、馬が走るのはとても綺麗だから。ソデノシラユキを見たら惚れるぞ」 「惚れねぇわ、バカ」
なにー!?とポカポカ殴ろうとしてくるルキアは年上のクセに可愛くて、どうしてもこうやってからかってしまう。 あたしには兄弟も友達もいないから ルキアの存在はいつのまにかとても大きく大事なものになっていた。
「住むとこもないんだ、おまえんとこに少しの間おいてくれねぇか?」
半年前に別れた恋次があたしのとこに電話をしてきたのは、もう2年も前のこと。 その時恋次が連れてきたのがルキアだった。 当時はまだ恋次の商売も軌道に乗る前で 恋次は店と家を一緒にしていた。
「仕事もしたことねぇから、俺んとこで仕事は面倒みてやろうと思うんだ。でもそーなると従業員を店に俺と住ませるのはやべぇからよ、家みつかるまで頼めないか」
調子いい奴ー
最初はそう思ったしふざけんなと思っていた。別れた女に他の女の面倒みろとは何様だと思ったし。 それでも つきあってる時でさえ滅多に聞くことがなかった恋次の辛そうな声にあたしは、簡単に負けた。そんな自分が忌々しいったらない。 それから ルキアにも、簡単に心を許したあたしも やはり間抜けだ。
別にルキアは特に気が利く良い子というわけではなかった。 幼い見た目と違い、実際あたしより3つも年上だが威張ることはなく 押し付けがましくもお節介でもなかったから 最初からラクではあった。 だからと言ってすぐ仲良くなったわけでもないけど。 それでも、ルキアが毎朝作る朝御飯にあたしの胃袋がまず持ってかれた。 ルキアの作るふわふわのオムレツはすごく美味しいのだ。しょっぱくなくふんわり甘い。チーズ入りの日もあればハムがはいっていたりもしてバリエーションも豊富だった。 それから何故か紅茶やコーヒーをいれるのがとても上手だった。
「ねぇ、なんの紅茶なのこれ?」
と、ある日聞いてみると
「え?棚にあった茶葉ですけど」
と言われ驚いた。
つまり自分で淹れて何度も飲んでいた紅茶だったのだ。 淹れかたでこんなに味が変わるのかと愕然とした。
結局、あたしはまるで馬鹿な男のように ルキアにまんまと胃袋を掴まされたのだ。 そうなると不思議なことに ルキアがウチにいるのは全然嫌じゃなかった。意識しなくても、気がつけば姉妹のように友達のように仲良くなっていった。
「今日はまた添い寝の仕事だから、明日まで帰らぬからな」 「わかった~」
足の爪を切りながら適当に返事をしつつ、ふ、と顔をあげた。
「ねぇ」 「なんだー?」 「例のホモ野郎のとこだよね?」 「そうだぞ?」 「……あんたさぁ、最近そいつの添い寝しかしてなくね?」 「そうだなぁ。そういえば今添い寝は彼のとこしか行ってないな」 「…………嫌な奴じゃないんだ」 「嫌な奴?」 「だって、寝過ぎじゃない?同じ相手と」 「……そぉだなぁ」 「その男……ホントは両方イケるくち?」 「リルカ~、貴様までそんな事言うのか」
だって、そんなに同じ人間と寝るのとか何か、何て言うか変じゃない?嫌じゃないの? 貴様までってことは誰かにも言われてるんだ。恋次だろうか。
「黒崎さんと最近は話すようにもなったのだ」 「誰よ黒崎って」 「あぁ、0321号室」
いつのまにか名前で呼んでるし。
「黒崎さんはなぁ、大学の教授だそうだ」 「へぇ……教授が実は少年好きの変態ってなんかいいね」 「変態なのかなぁ?私にはとても素敵な人に思えるがなぁ」 「ちょっと」 「ん?」 「惚れたりしてないよね?あんた」 「惚れる?私が黒崎さんに?」
びっくりしたような顔をしたルキアに 何故かあたしのなかでは確信めいたものがあった。
「仕事は仕事と割りきらないとだめだよ」 「わかっているし、そんな風に黒崎さんを見てないよ」
はははと笑ったルキアの顔は 疚しさの欠片もなかったのに あたしは何となく間違ってない気がした。 だって ルキアは無意識だけど ルキアが朝からご機嫌なのは 添い寝の仕事の日なのだ
ウチに来た頃は全然笑わなかったルキアが こうやって楽しそうに笑うのは嬉しいのに ゲイだかホモの教授にルキアがとられるのはいやだなぁと
なんだかおかしなことを思いながら あたしは切った爪のチラシをぐしゃりと丸めてゴミ箱に捨てた。
◾ ◾ ◾
この間目が覚めた時 黒崎さんの胸に抱かれていた
覚醒したときは「ぅわぁぁぁあ!」と思わず突き飛ばしてしまったのに 黒崎さんは「起きたか?」と優しい声で聞いてきた。 え?なにが?と思ってから自分は泣いていたのだと気がついた。
「……怖い夢でもみたのか、魘されていた」 「……私、が」 「他に誰がいるんだ」 「あ……」 「大丈夫か、と揺すって起こそうとしたらしがみついてきたから……」 「あ、そ、そうなんですね、すみません、それなのに突き飛ばしてしまって……」 「いや、覚醒したならよかった。辛そうだったから」
その言葉にまた胸が鳴った気がした。 なぜ泣いているのかはもうわからなかった。 夢を忘れるほどには、黒崎さんの胸の中にいることのほうが衝撃だったようだ。
「…………大丈夫か?眠れるか?」 「はい、すみません大丈夫です。お客様に心配までかけさせてもうしわけございません……」 「いや、いいんだ、大丈夫なら」 「ありがとうございます」
それではおやすみなさい、と言いながら 真っ暗で顔が見えないのは救いだなと思った。自分の泣き顔も見られたくはないし、黒崎さんの困った顔なり不機嫌そうな顔をされているのを見るのもいやだな、と思った。
何の夢を、みていたのだろうか……
思い出せない
思い出せるのは黒崎さんの匂いと 思ってたより太い二の腕 だめだ、思い出したらドキドキしてきた
寝なければ 寝なければと思うほどに何故か眠れなくなる。 羊でも数えようか 明日の夜ご飯を考えようか 何か、何か考えていないとー
「眠れなくなった?」
背中はびくりとも動かないが、黒崎さんの声が聞こえた。
「いえ、大丈夫です、すみません」 「謝らなくていい」 「……すみません、本当に……添い寝屋失格ですね。お客様に心配されては」 「……」
クスっと笑う気配がして 少しだけほっとする。
「聞いてもいいかな」 「は、はい」 「お兄さんがいるのか?」 「…………はい。正確には、いました」 「……そうなんだ」 「……」
それ以上は聞かないのだな、とほっとするような残念なような変な気持ちになる。 というか何故そんな事を聞くのだろうか そう思っていると
「…………魘されながら、ずっと、兄様、と呼んでいたよ」 「…………そうでしたか」
兄の夢をみていたのか、私は。
それを、思い出せないのは辛い 夢でいいから兄様に会いたいのに 会えていたんだろうか
兄様は今の私を見たら何と言うだろうか 怒るだろうな 嫁入り前の娘が他の男の布団で寝るとはー そう言うに違いないだろう。
ごめんなさい、兄様 でもルキアはおかしなことはしていません ちゃんと働いてお金を手にして ちゃんと人生諦めないで生きています だから兄様 どうか怒らないでルキアを見守ってください
祈るようにそう思っていると黒崎さんが動く気配がした。 パチリと小さな灯りを灯していつもの眼鏡をかける。起きてしまったのだろうか。
振り向いてその動きを見ている私を振り返る。なにも言わずに右手を布団に置いたままの姿勢でじっと見つめられた。 なんとなく 黒崎さんは細いイメージだった。 でもオレンジの柔らかい灯りの中で目にする黒崎さんは、思っているより大きな肩幅に長い手をしていて、 またも胸がきゅうと鳴くような気がした。
「向こう、行こうか」 「……はぃ?」 「眠れない二人がここにいても、きっと眠れないから」 「…………すみません、」 「謝らなくていいって、ほら」
黒崎さんが手差し伸べた。 あまりの自然なその動きに、迷うことなく手を差し出せば、黒崎さんは手首を優しく掴んだ。 ベッドから降りれば黒崎さんは手をすっと離してしまった。何故かとても残念なようなような寂しい気持ちになる。 バカだな私は 手を繋いで、手を引いて貰えるのを期待してしまったのだろうか。
この間と同じように、黒崎さんの後ろについて歩いてリビングに行く。
「ベランダにしようか、風にあたるといいかもな」
とカーテンを明け窓の鍵を外した。 ちょっと待っててくれというとキッチンの方に向かって行ったので、水か何か持ってきてくれるのかもしれない。 そう思いながらベランダに先に降りた。 この家のベランダの柵はかなり高い。 30階という高さから安全性の為なのだろうが、もっと外の景色を見たい私には少し高すぎて邪魔だ。 椅子を柵の方に持ってきて、椅子の上に立てば景色が一望できた。 美しい夜景が一面に見渡せて「はぁ」と感嘆の声が漏れてしまう。
と、その時
「おい!」
と大きな声にビクッと震えれば椅子がぐらりと揺れた。
「わ、わわわ!!」 「危なっ!」
気がつけば犬猫のようにお腹で抱えられ 椅子はからんと音を立てて倒れていた。
「ばか野郎!アブねぇじゃないか!なにしてんだよ!」 「す、す、すすみません!」
抱えられたまま顔を向ければ怒ったような黒崎さんの顔が近くにあることに気がついて 瞬時に顔も体もものすごく熱くなってしまう。おまけに抱かれている!…………というよりは抱えられているのだが。 恥ずかしすぎて下ろしてくださいとも言えずしょげてしまう。気がついたのか慌てたように黒崎さんも私をベランダに下ろしてくれた。
「悪ぃ、ビビりなんだって言ってたもんな」 「あ、いえ、すみませんでした……」 「いや、俺も悪い。驚かせちまって……前も似たことあって、その時も心臓停まりそうになったんだ」 「そうなんですか……」
お子さんですか? とつい聞きそうになったが、聞いてはいけない気がして口をつぐんだ。 考えないようにしていたのだが この家はファミリータイプのマンションの部屋だ。男一人で住むとは思えない。 つまり黒崎さんには家族がいるのではないか、もしくはいたのではないか。
でも添い寝屋の自分はそれを聞いてはいけないとわかっていた。
でも今 黒崎さんは口を滑らした。 今の会話はどう考えても、子供がやって慌てたという話に続くような気がしたのだ。 それでも無言になってしまうというのは
話したく、ないのだろうな
「黒崎さんは」 「何?」 「本当はそういう話し方なのですか?」 「…………え?」
沈黙は嫌だったし、私も気にしてると思われたくない。 それに今、本当に少しだけ驚いたので聞いてみることにした。
「いえ、なんか、キャラ違すぎない?ってくらい喋り方が違いましたよね」 「…………あー、悪かった……です。焦ったせいでつい、」 「謝らないでください、言葉遣いは気にしません」
何度か自分が言われたように 同じ事を言ってあげれば、黒崎さんは少しだけ笑った。
「それが普通なら、普通に話してくださいよ」 「いや、さすがに……あんまり言葉遣いはよくないから」 「そんなことないですよ、普通でしたよ」 「…………それじゃあ、そうさせてもらおうかな」 「はい!」 「じゃあ、あんたも」 「……へ?」 「あんたもいつものように話してよ」 「わたしは、あの、普通ですよこれ」 「……じゃあ役者さんなの?」 「はぁ?」
思わずすっとんきょうな声を出せば黒崎さんは楽しそうに笑う。 なんだ役者さんて。どこからそんなー
「黙ってるつもりでいたんだけどさ」 「……はい」 「あんた、寝言が多いんだ」 「何!?」
クックッと喉で笑いながら話す黒崎さんが 普通に話してくれることは嬉しいが その話はとんでもない話のようで顔が熱くなる。
「なんていうか、昔の姫様みたいな?もしくは男みたいな喋り方だからさ。不思議だったんだ。こういう喋り方なのか、何か台詞なのかなって」 「…………わ、わたしは、そんなに寝言で喋るのか?」 「そう。スゲー喋る。誰かと会話してんのかよってぐらい」 「ぅわぁぁぁあ!」
恥ずかしすぎて両手を頬にあてて後ろに逃げた。なんだと?寝言だと? 今までそんなこと誰も言ってはくれなかったのに!!
「何とかと言っておるだろう、とか喧しいわ!とか?あと……何とかであろう?とか」 「や、やめて!やめてくれ!」 「あ、やっぱり地なのか」 「~~~!!!」
はははは、と楽しそうな笑い声に思わずしゃがみこむ。もう言い逃れできない、多分私は寝言を言うのだろう。こんな仕事をしているくせになんたる不覚だ!
「…………なぁんて、いじめてごめん」
しゃがみこんで下を向いていると 目の前に同じようにしゃがみこむ気配とやさしい声がした。
「……俺も、普通に話す。アンタにはもうバレちまったし普通に話すからさ。アンタもその姫様みたいな口調で話してよ」 「…………も、もう此処には、来ません」 「え?」 「だって、私はちゃんと仕事出来てない……お客様を寝かせる仕事なのに……寝言がうるさいなんて……」
そんなの仕事じゃない。 わたしはお金をもらってこの家でただ寝てるだけではないか。今までもそうだったのだろうか? だとしたら、わたしは添い寝屋はできないー。耳掻きとか膝枕を専門にするしかないー そう思って伝えたのだが
黒崎さんは、あひゃひゃひゃとキャラ崩壊かと言わんばかりに愉快そうにまた笑った。
「気にしなくていいよ。アンタのそのうるさい寝言で俺、笑いながら安心して眠れるんだ。だからもう来ないなんてそんなこと言わないで欲しいんだけど」 「…………え?」 「アンタが隣にいると、よく眠れるんだ。これは、本当だから」
な? と黒崎さんは優しく笑うと私の頭に手を置いて、ぽんぽんとしてからするりと撫でた。
今までで一番、胸が苦しいくらいにきゅぅぅっとなるのは何でかなんて。
それは考えてはいけないことだ そう思ったから
「じゃあ、これからも、よろしくお願いします……」
とすました振りをしてそう言えば
もう一度、頭をぽんぽんとしてくれた黒崎さんのメガネの奥の瞳が嬉しそうに感じたのはきっと
きっと、私の勘違いなのだと心に言い聞かせた。
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plasticdreams · 7 years
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コマンドーのガイドライン part232 [無断転載禁止]©2ch.net 1 : 転載ダメ©2ch.net2017/04/13(木) 17:40:34.22 !extend:checked:vvvvv:1000:512 金曜ロードショー「アーノルド・シュワルツェネッガー コマンドー」 (1985年アメリカ)▽史上最強戦士がHDリマスターで筋肉復活 アーノルド・シュワルツェネッガーコマンドー◇85年、米。 アーノルド・シュワルツェネッガー。元特殊部隊の男性が誘拐された娘を 取り戻すため、テロ集団に立ち向かっていく。マーク・L・レスター監督。 山荘で静かな生活を送っていた、元特殊部隊のリーダー、メイトリックス (シュワルツェネッガー)は、娘のジェニー(アリッサ・ミラノ)を南米の テロ集団に誘拐される。娘の命と引き換えに南米某国の大統領の暗殺を 強要され、飛行機に乗せられたメイトリックスだが、脱出に成功。 娘の命を救うため、敵の本拠地に乗り込んでいく。 前スレ コマンドーのガイドライン part231 http://egg.2ch.net/test/read.cgi/gline/1489583935/ VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured 2 : 水先案名無い人2017/04/13(木) 17:41:26.20 ●コマンドーの実況板でのスレタイ改変は普段実況している方が迷い込んでしまうことがあります。住民の混乱を防ぐため出来るだけ「コマンドー」にしましょう。 例:金曜ロードSHOW! 「コマンドー」 、日曜洋画劇場「コマンドー」 無事実況したければ俺達に協力しろ、OK? コマンドーのガイドライン【臨時】 http://ai.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1391321478/ まぁ落ち付け。規制されてはビビってレスもできやしねぇ その他 コマンドー暫定まとめwiki   ttp://www7.atwiki.jp/commando-matome/  元のセリフや改変などを見たいときは↑を見ろ。OK? 駒形堂「浅草寺発祥の地」 通称“こまんどう” ttp://www.asakusa-noren.ne.jp/event/4/2_5/ goo 映画・作品情報 ttp://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD3341/index.html?flash=1 海外のファンサイト  "Action Alliance"コマンドー関連項目有 ttp://www.commandofans.com/ 海外のファンサイト(移転先) ※不明 ttp://www.maniaccopfans.com/commandofans/ 3 : 水先案名無い人2017/04/13(木) 17:42:09.93 コマ語録① ・(ガバッ)ん?なっなんだ?!→清掃車が来たんじゃない? ・おーい待ってくれ!ちょっと!おーい!待ってくれ!・・・行ったかと思ったよ→とんでもねえ・・・待ってたんだ(バババババババ ・車はアメリカで生まれました。日本の発明品じゃありません。我が国のオリジナルです。しばし遅れを取りましたが、今や巻き返しの時です  →キャデラックは好きだ→キャディがお好き?結構。  ではますます好きになりますよ。さあさどうぞ(ガチャ キャディのニューモデルです(バタン  快適でしょう?んああ仰らないで。シートがビニール、でもレザーなんて見かけだけで夏は熱いし  よく滑るわすぐひび割れるわ、ろくな事はない。天井もたっぷりありますよ、どんな長身の方でも大丈夫。  どうぞ回してみて下さい、いい音でしょう。余裕の音だ、馬力が違いますよ  →一番気に入ってるのは・・・→何です?→値段だ  →ああ、何を!ああっここで動かしちゃ駄目ですよ!待て!止まれ!うぁあああ・・・ ・いよぅ、やってるな→おはようベネット、今朝は冷えるな、えぇ? ・あははっ、やだぁパパ下ろして ・『パパ大好き』→パパも大好きだ ・何でこの歌手がボーイ・ジョージなんだ?ガール・ジョージにすればすっきりするのに→もー、パパったら古いんだ ・パパが子供の頃に、西ドイツにロックが入ってきたけど、破壊的だって評判悪かったぞ ・中身はなんだこれ?→知らないほうがいいわ ・ジャクソン! ハリス! 辺りを調べろ。メイトリックス、中に居るんだろう。大佐出てこい!カービーだ→分かってます  →ハッ!・・・静かに素早くか、変わらんな→あなたに教わったんですよ→私も歳だな ・ジェニー、お父さんと大事な話があるんだ→そう、令状はあるの?→キツいジョークだ ・ローソン、フォレスタル、ベネット、皆殺られた ・それまであのジャクソンとハリスを警護に付けといてやる→優秀です���?→優秀だ、君には及ばないが ・どこへも行かない。お前を置いてはな→ならいいんだ ・いいか、こっちが風下だ。近づけば分か���→どうやってです?匂いを嗅げとでも?→ああそうだ! ・娘はどこだ?→まぁ落ち付け。銃を突き付けられてはビビって話もできやしねぇ。娘は無事だ大佐、少なくとも今の所はな  この先どうなるかはあんた次第だ。無事取り戻したければ・・・俺たちに協力しろ、OK?→OK!(ズドーン!. ・追ってくるぞあの馬鹿→まだ追いかけてきやがる・・・ぶつける気だ!危ねぇ! 4 : 水先案名無い人2017/04/13(木) 17:43:38.06 コマ語録② ・ベネット!殺されたんじゃ?→残念だったなぁ、トリックだよ ・てめぇに隊を追い出されてからずうっと復讐を想い続けてきた。ようやくその日がやってきた。長かったぜぇ。 ・麻酔弾だよ・・・本物の弾使いたかったぜぇ! ・私を覚えているかね大佐?→誰が忘れるものか、このゲス野郎!拷問でどれだけの人が殺されたか・・・ ・メイトリックス大佐・・・君にはバルベルデのような国の置かれた状況が全く理解できておらんのだ。 ・どうしてベネットにやらせない?奴なら喜んで引き受けるぞ→それはベラスケス大統領が君を信用しているからだ。君を革命の英雄と呼ぶぐらいにな。 ・一方、ベネット大尉は国外追放を受けた身だ→ああ、楽しんで人を殺したからな→殺しを教えたのはおめぇだぜ ・あとは君の承諾を取り付けるだけだ→くたばりやがれ・・・ ・もし裏切っておかしな真似をすれば、娘のバラバラ死体が届くぞ ・メイトリックスはまだ見つからんか?→イ゙エェェ!三人の死体だけです。まだ他にもあると?  →奴が生きていればまだ死体は増えるはずだ! ・アリアスにいくら貰った?→10万ドルポンとくれたぜ。だけどな大佐、お前をぶち殺せと言われたらタダでも喜んでやるぜ ・必ず戻ってくるぞ→メイトリックス、楽しみに待ってるぜ ・ベネットとはぁ、軍で一緒だったらしいなぁ。俺とエンリケスも軍にいたことがあらぁ。戦友ってのはぁ、いいもんだよなぁ。・・・じゃあな。気をつけて行きなよ。いい旅をな。 ・ビールでも飲んでリラックスしな。娘の面倒は俺がしっかり見ててやるよw→ぬふふふ・・・→面白い奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる ・手荷物はございますか?→いや、これだけだ→今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ ・オウフッ!→(ゴキッ ・失礼、どのくらいかかるかな?→飛行時間は11時間を予定しております→どうも。頼みがあるんだが・・・連れを起こさないでくれ。死ぬほど疲れてる。 ・鳥は飛び立ちました。荷物も一緒です ・見てらっしゃい、アンタなんてパパにひねりつぶされるから! ・私。シンディよ。バンクーバー行きがキャンセルになっちゃって。それで、食事でもどう?・・・えぇ、すぐにも行けるけど?んふふっ ・そう。じゃあまたにしましょう→駄目だったようだなぁ ・オッケー。えぇ、私も大好き。それじゃね。また近いうち。バァイ→仕事と恋愛の両立はきついよなぁ。俺なら空いてるぜ?→いいえ、結構 ・おたくみてえないい女はもっと遊ばなきゃだめだよぉ→やめて!あたしにかまわないで頂戴 ・結構。見たくもないわ ・構わないで、大声出すわよ!→ケッ、アバズレがぁ ・俺の言う通りにしろ→だめよ7時半に空手の稽古があるの。付き合えないわ→今日は休め! ・一口では言えん、とにかく俺を信じろ→無理よそんなの、知り合ってまだ5分と経ってないのよ 5 : 水先案名無い人2017/04/13(木) 17:44:10.47 コマ語録③ ・理由を話す。娘が誘拐された。あの男が唯一の手がかりなんだ。俺の姿を見られると、娘が殺される。ここは君に頼むしかないんだ・・・  奴を甘い言葉で誘って、ここまで連れてきてくれ。あとは俺がやる。それで君は自由だ。いいね?→嫌よ  →頼む助けてくれ、君だけが頼りなんだ。残された時間は10時間だけ。それが過ぎれば、娘は殺されるんだ→わかったわ。わかった、やってみる ・すいません、むこうにグリーンのTシャツを着た大男が居るんだけど、彼まともじゃないの。  誘拐されかけたわ、助けてください!→ビックスいるか。ビックス、頭のイカれた大男がいる。ひとりでは手に負えん。  →よぉしすぐ行く。カッコイイとこ見せましょ ・全警備員へ、三階で非常事態だ。容疑者は男性、190cm、髪は茶、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ ・女を引っ掛けるにはいい場所だなぁ。いかすのがゴロゴロして・・・もう一人見つけたぜ。じゃあな ・俺をお探し? ・小銭だ!小銭を出せ! ・あんた一体なんなのよ!・・・ああぁ!車は盗む!シートは引っぺがす!あたしはさらう!娘を探すのを手伝えなんて  突然メチャクチャは言い出す!かと思ったら人を撃ちあいに巻き込んで大勢死人はだす!挙句は電話ボックスを持ち上げる!  あんた人間なの!?お次はターザンときたわ!警官があんたを撃とうとしたんで助けたわ!  そしたらあたしまで追われる身よ!一体なにがあったのか教えて頂戴!→駄目だ→駄目ぇ?そんなぁ もうやだ!危ない! ・今日は厄日だわ! ・大丈夫か?→死んでんじゃない?→生きてるよ ・見上げた忠誠心だサリー、だがな!てめぇの命を張るほど値打ちのある相手か!さぁ頭を冷やしてよく考えてみろ!支えてんのは左手だ 利き腕じゃないんだぜ ・モーテルでか?この鍵がそうだろ ・お前は最後に殺すと約束したな。→そうだ大佐、た、助けてくれ→あれは嘘だ→ウワァァァァァァァァァ・・・ ・車がなくなっちゃったわ→これでできた→あいつはどうしたの?→放してやった ・君を巻き込んですまないと思ってる ・俺にとってジェニーは・・・全てなんだ ・君はもういい→私にも手伝わせて ・箪笥を調べろ ・君はサリーと楽しんでた ・お前は?→ルームサービス ・怖いか糞ったれ!当然だぜ、元グリーンベレーの俺に勝てるもんか!→試してみるか?俺だって元コマンドーだ ・くたばれクソッタレが!(カチッ)ハッ!→くたばんのはお前だ! ・2人ともやり過ぎだわ! ・この住所には大きな倉庫が多い。そのどこかに飛行機を隠してるんだ。行くぞ。この車を使おう。やつにはもう要らん ・パシフィック埠頭に行くの?→いや・・・買い物だ→買い物? 6 : 水先案名無い人2017/04/13(木) 17:44:45.90 コマ語録④ ・『軍放出品販売所』 ・開いてくれ・・・頼む→(ブッ! ウィーン→ワーオ ・それは何?→ロケットランチャーだ ・カービー将軍に連絡を取ってくれ。メイトリックスと言えば分かる→将軍だぁ?寝言言ってんじゃねーよ ・ヘイヘーイ・・・女だ、悪かねえぜ ・ん?何する気だ?→俺たちに何か見せてえんだろ→ストリップかな? ・ゴウェアア・・・ ・どこで使い方を習った?→説明書を読んだのよ! ・あなたは誰かに野蛮だって言われたことない?→行くぞ、急げ! ・こんなの飛行機じゃないわ!羽のついたカヌーよ!!→だったら漕げばいいだろ! ・動けこのポンコツが!動けってんだよ!(ドカッ)→この手に限る ・船に気をつけろ→あーぁダメーぶつかる!あーっ!→落ちつけ! ・メイトリックスですか?→通信隊に連絡して警察と沿岸警備隊の無線を残らず傍受させろ  →何が始まるんです?→第三次大戦だ ・緊急!繰り返す、緊急!ただちにカービー将軍に連絡されたし ・レーダーから消えました・・・ ・小娘の喉を切るのは温かいバターを切るようだぜ→ナイフはしまってろ。その口も閉じとけ  →口だけは達者なトーシロばかり、よく揃えたもんですなぁ。まったくお笑いだ。メイトリックスがいたら奴も笑うでしょう  →ベネット君、私の兵士は皆愛国者だ  →ただのカカシですな。俺達ならまばたきする間に皆殺しにできる、忘れないことだ  →ベネット、君は私を・・・脅しているのか?→事実を言っているだけです。仕事を終えたらメイトリックスは娘を取り返しに来ます。  娘が生きていようがいまいがそいつは・・・関係ない。奴はアンタを追いかける。あんたをメイトリックスから守ることができるのは・・・俺だけです  →怖がっているのは・・・私ではなく君じゃないのかベネット?君こそメイトリックスを恐れているんだ→もちろんです、プロですから・・・しかしこちらには、切り札があります ・メッセージは覚えたな?→コマンドー、カービー、コードレッド、座標ね。OKよ ・奴らが俺を見つけるまでは無線を使うな→どうしてそれが分かる?→島がドンパチ賑やかになったらだ ・はい・・・アリアス大統領だ→飛行機には乗っていなかった・・・娘を殺れ ・やっぱりやって来たか。さすがだメイトリックス ・小娘め!・・・くそぉ、逃げたかっ! ・・・うぉぉぉっ!! ・コマンドー!繰り返しますコマンドー!こちらはWXの448。  フランクリン・カービー将軍に緊急のメッセージがあります、どうぞ。繰り返す、カービー将軍です、どうぞ ・よし撃て!・・・撃ち方やめ!・・・見て来いカルロ 7 : 水先案名無い人2017/04/13(木) 17:45:26.76 コマ語録⑤ ・二手に分かれろ!油断するな! ・悪いな パパでなくてよ ・大佐ぁ!腕はどんなだ?→こっちへ来て確かめろ!→いや結構。遠慮させてもらうぜ ・大佐!顔出してみろぉ!一発で、眉間をブチ抜いてやる。古い付き合いだ。苦しませたかねぇ ・ベネット!その子は関係ない!放してやれ!目的は俺だろう!→フハハハハハ!→右手をやられた!お前でも勝てる! ・右腕をやられた、お前でも勝てる。来いよベネット、銃なんか捨ててかかってこい!・・・楽に殺しちゃつまらんだろう。  ナイフを突き立て、俺が苦しみもがいて死んでいく様を見るのが望みだったんだろう。  そうじゃないのかベネット?→テメェを殺してやる・・・→さぁ子供を放せ、一対一だ!楽しみをフイにしたくはないだろう? ・来いよベネット!怖いのか?→ブッ殺してやる!ガキなんて知らねぇ!イッヒッヒッヒ。ガキにはもう用はねぇ!  アハハハハ・・・ハジキも必要ねぇやぁハハハ・・・誰がテメェなんか!テメェなんかこわかネェェェ!野郎ぶっ殺してやああぁぁる! ・年を取ったな大佐、ハハッ、てめぇは老いぼれだぁ ・気分いいぜぇ!昔を思い出さぁアハハハ!これから死ぬ気分はどうだ大佐ぁ!?てめえはもう終りだぁ!→ふざけやがってぇぇ!! ・畜生ぉ!眉間なんか撃ってやるものかい!ボールをフッ飛ばしてやる! ・地獄に堕ちろ、ベネット! ・まだ誰か残っているか?→死体だけです ・もう一度コマンドー部隊を編成したい、君さえ戻ってくれれば→今日が最後です ・また会おうメイトリックス→もう会うことはないでしょう 8 : 水先案名無い人 (ワッチョイ 93e5-dtzd)2017/04/13(木) 18:23:25.27 ID:L5YPUskN0 とんでもねえ待ってたんだ>>1 9 : 水先案名無い人 (ワッチョイW fb24-zmNz)2017/04/13(木) 20:13:36.70 ID:PAMY/lPj0 「コマンドー」放送履歴 1987年10月6日「ザ・ロードショー」TBSテレビ(屋良有作) 1989年1月1日「日曜洋画劇場」テレビ朝日(玄田哲章) 1990年10月19日「金曜ロードショー」日本テレビ(玄田哲章) 1993年12月12日「日曜洋画劇場」テレビ朝日(玄田哲章) 1995年8月27日「日曜洋画劇場」テレビ朝日(玄田哲章) 1997年4月26日「ゴールデン洋画劇場」フジテレビ(玄田哲章) 19.6%  114分 1998年10月25日「日曜洋画劇場」テレビ朝日(玄田哲章)   15.3%  112分 1999年12月28日「深夜枠」TBSテレビ(屋良有作) 2001年6月22日「金曜ロードショー」日本テレビ(屋良有作)   14.9%  111分 2004年6月18日「金曜ロードショー」日本テレビ(玄田哲章)   17.9%  111分 2006年3月5日「日曜洋画劇場」テレビ朝日(玄田哲章)     14.0%  112 2007年7月20日「金曜ロードショー」日本テレビ          12,8% 2008年9月18日「木曜洋画劇場」テレビ東京          10,2% 2015年11月18日「午後のロードショー」テレビ東京(玄田哲章) 2016年2月13日「サタデーシアター」 BS朝日(玄田哲章) 2017年4月12日「午後のロードショー」テレビ東京(玄田哲章)  こいよベネット! ト \   死ぬほど    /厄 放   こいつだけだ  リ \  疲れてる  /日     し  今           ッ \∧∧∧∧/ だ      て      日 羽のついたカヌー ク<   コ >わ  説     や  は              < 予 マ >    明      っ  休め!!   ロケットランチャー <    ン >    書  ポンコツ  た  ──────────< 感 ド >──────────  第 軍放出品店  蒸  <    | >あ  口だけ達者な    三           気  <  !!! の>  れ       トーシロ 駄  次 この手に限る 抜 /∨∨∨∨\  は           目  世          き/ 筋肉モリモリ  \  嘘  教えて   だ  界大戦 ターザン /  マッチョマンの変態 \  だ   頂戴!
コマンドーのガイドライン part232 [無断転載禁止]©2ch.net
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to4bee · 7 years
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メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ 04月06日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新) 新着記事一覧へ  スクラップブックMYキーワード天気文字サイズ機能・サービス目次 Language総合ガイドお客様サポートログイン中 トップニューススポーツカルチャー特集・連載オピニオンライフ朝夕刊紙面・beMY朝デジ 新着社会政治経済・マネー国際テック&サイエンス環境・エネルギー地域朝デジスペシャル写真・動画 朝日新聞デジタル > 記事 カルチャー出版有料記事 黒木瞳さん「私は、谷川俊太郎先生に一方通行のエロス」 司会・構成 赤田康和 2017年4月5日16時40分 シェア49ツイートlistブックマーク6 スクラップメール印刷 続きから読む 対談を終えた谷川俊太郎さんと黒木瞳さん=東京都杉並区、飯塚悟撮影   詩人の谷川俊太郎さんと、小学生の頃から詩を書き、3冊の詩集を出している女優の黒木瞳さんが、東京都内の谷川さん宅で対談した。谷川さんに私淑してきた黒木さんが、谷川さんと対談するのは今回で3回目。黒木さんが詩のモチーフにしてきた「恋愛」、谷川さんのデビュー作以来の主題「宇宙的存在」など、幅広い話題で盛り上がった。  ――恋をモチーフにした詩を黒木さんはたく��ん書いてきました。  谷川 恋は何回くらいしているの?  黒木 片手よりは多くないです。  谷川 始まりはどんな感じ? 好きな相手のそばにいるとぼーっとなる?  黒木 ぼーっとはしない。シャキッとなります。自分の感性の全体、すべての皮膚が呼吸しているみたいな感じ。私は谷川さんの『二十億光年の孤独』にすごく影響を受けているので、ちっぽけな自分の命は宇宙の中にあって、その中で人を好きになっているという感覚があります。  谷川 たしかに人を好きになるのは宇宙的。ただ人間関係をどう作っていくかという意味では社会的な営みだから、そこが難しい。僕の場合、詩も発注を受けて書いてきたけど、恋愛も「発注」されて、してきた感じで、自分から「好きで好きで仕方ない」というふうになった記憶がない。  黒木 それはおモテになったからでは。  谷川 このごろは「死ぬ」ということも「発注」されていて、それに応えて一生懸命死なないといけないという感じを持っている。  黒木 ここに生まれてきたことも誰かに発注されているという感覚ですね。  ――エロスについては?  谷川 人生のすべてですよ。エロスしかない、大事なものといえば。ビートルズだってそう歌っている。  いろんなエロスがある。幼い頃、父親が中国の硯(すずり)をなでているのを見たことがある。それがすごくエロチックだった。  黒木 想像するだけで、すごくエロチック。  谷川 僕は小学生の頃は男の子のことが好きだった。第1ラバー、第2ラバー、第3ラバーって順位をつけていたが、全部男の子。ぱたっと中3くらいでなくなった。ただ社会人になって彼らと再会すると感じが変わっていて、どこが好きだったんだろうって戸惑います(笑い)。  黒木 私の場合は、谷川先生に一方通行のエロス。同じ空気を吸っているだけで天にも昇る気持ち。先生の詩を朗読することで、私の中に入れている感じ。  谷川 俳優になって何年?  黒木 初舞台から36年です。谷川先生もお変わりないですね。  谷川 小学校に講演に行くと、子どもたちに「あれ? 生きている!」って言われる。教科書に載るような人は死んでいると思っているみたい(笑い)。  注文を受けて書く「受注生産」で多忙を極めてきたけど、最近は少し余裕が出てきた。好きだった車も乗らないし食事も一日一食。どんどん捨てる方向。詩を書くのが生きがいで、他に楽しみがない。ぼくは最近、子どもになって子どもの言葉で詩を書くという試みをしている。読者に飽きられちゃうから、過去と違う詩を書かなきゃというのもある。そもそも自分で自分の詩に飽きちゃうので。  黒木 小学6年生で詩を書き始めた頃から、谷川さんを勝手に自分の先生だと思ってきました。谷川さんの詩集『愛について』を読んだ時の衝撃は忘れられない。禁断の世界、エロス、男と女、未知の世界で、これが大人の女性になっていく上での登竜門なんだと思った。  谷川 責任を感じますよね(笑い)。詩を書くことで食っていくのは難しいし、詩人の現実認識は小説家より甘く、思想的、抽象的に捉える。萩原朔太郎は素晴らしい詩を書いた人だけど、ごはん食べるときに全部ぽろぽろこぼしちゃったんだってね。詩人は現実生活がうまくいかない人。  黒木 何か欠けている。  谷川 そう、心ここにあらずというかね。詩の仕事と女優の仕事の関係は?  黒木 演じる役のキャラクターについて、どんなふうに話をし、どんなふうに笑うのだろうと考えているうちに、詩の言葉がふと出てくることがあります。  例えば「この人は『風のように話す』人なのでは」と。詩は私の中に息づいていると自負しています。詩は読むのも本当に好き。言葉の羅列なのに、宇宙まで連れて行かれてしまう。  谷川 詩には、言葉が持つ意味以外の力、エネルギーみたいなものがある。  黒木 過去の対談では、谷川先生に「二足のわらじ」なんてやめて、詩は書かず、女優に専念しろと言われました。でもめげずに書き続けていきたい。いつか褒めてもらえる詩を書けるようになるまで。「谷川教」の信者ですから。  谷川 おさい銭ください(笑い)。(司会・構成 赤田康和) 関連ニュース 谷川俊太郎さん・片岡義男さん 電子書籍化、決断のワケ手塚治虫「秘蔵」のエロス 仕事場に眠る遺稿を初公開女2人の濃密エロス ロマンポルノ「長すぎ」ラブシーン園監督流の反ロマンポルノ 「郷愁でしかない」ばっさりイバンカ氏、日本大使公邸桜祭りに登場 PPAPに笑顔 PR情報 あなたの家の今の価格は?約60秒の簡単入力で今すぐ無料査定/ソニー不動産35歳会社員、夫婦+小さな子2人、この時代にあった家の選びかた トップニュース 朝日新聞デジタルのトップページへ 【動画】バーの中にリング今村復興相、「自己責任」発言を陳謝 衆院復興特別委(12:35)「マンホールカード」が熱い ご当地限定、高値取引も(11:24)リベンジポルノ、相談1063件 20代の被害突出(13:13)東京五輪の野球「千葉マリンでも」 連盟会長が切望(14:59)乳がん、肝機能を下げる恐れ ATRなどが解明(14:21)117人の日記紛失、コンテスト応募装う 姫路の小学校(13:09)ギャンブル依存は不要なリスク取りがち 前頭葉活動低下(14:35)D・ジョンソン、階段から転落 ゴルフ世界ランク1位(10:32) 注目の有料ニュース 一覧 黒木瞳さん「私は、谷川俊太郎先生に一方通行のエロス」カワウソ、ロープくわえ高速回転 技磨かれた悲しい理由 「国の本音が出た」自主避難者ら、復興相発言に反発 新着ニュース 一覧 14:57御影公会堂の改修完了 「火垂るの墓」にも登場 神戸13:26将棋名人戦「午後は長考の応酬」 鈴木九段が解説13:21「共謀罪」法案、審議入り 衆院本会議で論戦始まる13:12日経平均、一時250円超値下がり 今年の最安値下回る12:53イチロー、今季初打席は空振り三振 大リーグ 注目キーワード 一覧 北朝鮮ミサイル弾道ミサイルを再び発射 フィギュアスケート世界選手権V羽生が帰国会見 那須の雪崩事故「典型的な危険地形」 森友学園問題自民、安倍昭恵氏の喚問拒否 注目の動画 一覧 注目の動画羽生「みんなで戦う」 フィギュア国別対抗、出場者決定 おすすめ 大阪桐蔭センバツ優勝 初の大阪勢対決を制すあのときの、ラジオ 秀吉も楽しんだ?名所で花見 少年が熱狂、あの自転車 手のひらサイズで高音質 賛否あるキャンプ車のトイレ 銀座・由美ママが語る「粋」 モデルハウスでボルダリング 中嶋一貴が語るF1の異次元 器選びの極意と「俺の銘器」 京の宝、守って次世代へ 北欧の皮革製品づくりを体験  地球を食べる清明節の食べる宝石「青団」 上海でも草花が芽吹いてきた。街中で花に負けないくらい目にするものがある。それは「団子」だ。  おあがりやす抹茶を広げるきっかけに 抹茶本来の味を生かせる商品ができないか。家族経営の森田製茶が試行錯誤しチョコ菓子を完成させた。  &w住まいのヒントは、西新宿OZONEで リフォームや部屋の模様替えを検討する人なら、“住まいの情報発信地”OZONEに出かけてみませんか?  &w五感で味わう、ハーブの楽しみ方 暮らしへのハーブの取り入れ方を、ハーブの専門家・フローレンスめぐみさんに聞きました。 山里「僕は何もやってない」ベッキー、ゲス極再開に…有村「ひよっこ」19・7%市村正親「ギャラは…」桜田淳子の復帰に反対声明マツコ&有吉、新番組でも… 朝日新聞のウェブマガジン 男性向けマガジン、アンドM女性向けマガジン、アンドwアンドバザールアンドトラベル あわせて読みたい   日本人はなぜ「居眠り」をするのか? 自民・伊吹氏「陛下のご譲位、ぺらぺらしゃべるな」 「この体が嫌なんよ」胸かきむしり嗚咽、命絶った我が子 (教えて!年金改革:2)将来いくら受け取れる? 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yo4zu3 · 5 years
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醒めるまで(山土)
※大学生パラレル
 その男は上から二つ目のボタンまできっちりと閉めたシャツを着て、憂鬱そうな表情を浮かべて一番端の席に座っていた。本人はいかにも目立ちたくないといった雰囲気を醸し出しているのに、そうさせないのは彼の容姿が目を見張るほど整っているからなのか。新歓という名目の所謂合コンが始まった瞬間から、その場にいた女子たちの熱い視線を集めていた。  入学早々学校一の美男子としてもてはやされている彼の事なら、山崎のような普通の学生でも土方十四郎の名前だけは知っている。まさかその有名人の土方が、偶然居合わせた飲みの席で退屈そうにしているその男だとは夢にも思わなかった。確かに顔の造りは良いということは、遠目で見ても容易に判る。それでも山崎の感じた第一印象は、とても冷たい瞳をした男だった。  山崎がこの場に呼ばれたのは、単なる人数合わせでしかないだろう。その程度にしか思っていなかったものだから、何科の美女が来るだとか、そういった話にはこれっぽっちも興味が湧かなかった。どうでもいいのだ。他の男たちのように、特に彼女が欲しいわけでもない。そりゃあ、できれば童貞なんてさっさと捨てたいところだったが、やはり彼女となると(しかもそれが初めての相手となれば尚更)こんなバカの掃き溜めのような場所で見つけるべきではないのだろうと薄々諦めてはいた。  そんなことを思いながら、向かいのテーブルに座る着飾った女たちを順番に眺める。明らかに品定めをしているような態度にならないように、薄っぺらな笑顔を貼り付けてわらう。人に自慢できる特技は持たないが、割と人間観察は好きな方だ。女たちは如何にも今時の大学生といった感じだが、思っていたよりも感じは悪くない。かと言って特に好きなタイプでもなかったので、適当な相槌を打ちながら薄いハイボールをちびちび飲み、この場を抜け出す術を頭の隅で考え始めていた。  それにしてもなぜ男が七人なのに対して、女子は六人だけなのだろうか。お陰で山崎は一人溢れた者の席(お誕生日席というやつだ)に座っている。その対角線上にある壁際の端に土方が座っているわけなのだが、ここからだと横に並ぶよりも表情がより明確に見える。土方は自分から話を滅多に振らないが、質問されればそれなりに答えているようだった。時折笑いが巻き起こると、俯きながら控えめに口角を上げる姿も見られる。あ、この人も笑うんだ。いくら愛想がないからと言って、土方もロボットではないのだ。そう思うのも変な話だが、笑った顔があまりにも綺麗なものだったので、山崎はハイボールを口に含んだままいつまでも遠くの席を見つめていた。
「そろそろ席替えしようぜ」  そう言いだしたのは男側の幹事だった。男女ともに賛成の声が上がり、女子たちが割り箸の袋でくじを作り始める。男女別れて一斉に引き、皆が席を移動してゆくのを座ったままぼんやりと眺める。また誕生日席だったのだ。 「おっザキまたそこかよ」  暫く見つめていた端の席には、今回の幹事である男が座った。ハハ……と困ったように笑ってみせると、「お前らしいな」と悪気のない笑みで返される。山崎よりも学年が一つ下の彼は、人懐っこい性格で誰に対しても分け隔てなく接してくるタイプだ。交友関係も広く、友人の多くない山崎をこのサークルに誘ったのも、何度となく行われる集まりもすべて彼が手配しているらしい。どういう訳だかあの土方を呼んだのも彼であり、時折「大丈夫か」と声をかけている姿も目にしている。それに対し土方のほうも、他の連中にするような冷ややかな態度は取らず、相変わらず素っ気はないがどこか親し気であった。  自分は何故こんなにも土方の事を気にしているのだろう。新しいジョッキに口を付けながら、アルコールの回り始めた頭で考える。確かに第一印象が良くないと、時間が経つうちにその人がいい人に見えることはよくある事だ。第一土方の印象は悪いわけではない。ただつまらなさそう、そう山崎が感じただけなのだ。 「あっ、土方くんここー?」 「みたいだな」 「良かったぁ。さっきは遠くてあんまり話せなかったから」  ぼんやりとしていると、目の前で茶髪の女子が嬉しそうな声を上げる。その声に意識が呼び戻され、辺りを見渡すとちょうど土方が山崎のいる席の隣に腰を下ろした。如何にも男らしく鞄はなく、泡のなくなったビールだけを握っている。まさか隣になるとは思ってもおらず、驚きでその顔をまじまじと見つめていると「顔、なんか付いてる?」と気だるそうな声がして慌てて首を振る。 「ならいいけど」  それだけ言うと、土方は目を伏せる。長い前髪がはらり、と落ち、細く長い睫毛の上に掛かっている。その儚げな美しさに、山崎は思わず息を飲む。酔いのせいか、バクバクと耳元で心臓が鳴る。土方は既に女子からの質問攻めに遭っていたが、山崎の頭にその内容は碌に入らず、ただ耳を通り抜ける音に過ぎなかった。
 それ以降特に言葉も発さないまま時間が流れ、ふいに靴先に何かがぶつかる感覚があった。一瞬何だろうと下を確認したくなったが、土方からの視線を感じて動きを止めた。向かいの女子に気付かれないほど、ごく自然に流された視線に何か意味があるのだと直感した。身構えていると、丁度ジョッキを空にした土方が徐に立ち上がる。 「わりぃ、ちょっとトイレ」  土方に、「いってらっしゃい」と甘い声がする。山崎もそれに続いて「あ、お俺も……」と足元に置いていた鞄を手に取り立ち上がるが、それ以上誰も何も言わなかった。 「土方……さん?」  個室を出ると、長い廊下の先に土方の後姿が見える。御手洗いと書かれた釣り看板を通り過ぎ、出口まで行くと立ち止まってこちらを振り返る。がやがやとした店内で「早くしろ」と小声で言われても聞こえないが、口の動きから恐らくそう言っているのだろう。ふわふわとした脳が揺れないように小走りで店を後にした。
*
「あの、どこ行くんですか」  そう尋ねても「どこか」としか答えがなかったので、山崎は早々に会話を諦めた。黙ってエレベーターに乗り込みビルを出ると、来た時にはまだ薄明るかった春先の空はすっかり陽も落ち暗くなっていた。そう遠くない場所に見える繁華街のネオンがきらきらと眩しい。飲食店の立ち並ぶ通りをまっすぐと進み、迷うことなく一軒を決めると土方は戸を開ける。「いらっしゃいませー」と明るいバイトの声がして、そこでようやくこちらを振り返る。 「吸う人?」 「あ、俺は吸わないけど……土方さんが吸うならいいですよ」  それを聞いた土方が「二���、喫煙で」と告げるとすぐにボックス型の半個室へと案内される。先程の居酒屋に似たこの店もよくあるチェーン店に過ぎないが、見たところ若い客があまりいないせいか少しばかり静かだった。 「お前、何飲む?まだ飲めるだろ」 「じゃあ、ジンジャーハイボールで」 「またか。好きなんだな、ハイボール」  さっきも飲んでただろ、そう言いながらポケットから煙草を取り出すと、一本とライターを引き抜いてテーブルの上に投げる。備え付けの呼び出し鈴を押しながら、煙草を咥えると奇妙な形をしたライターで火を付ける。嗅いだことのある匂いを少しだけ懐かしく感じた。 「生と、ジンジャーハイ。あー、飯どうする?」 「俺はもういいかな……さっきの店、結構量あったし」 「じゃあたこわさびとイカの一夜干し、別皿でマヨネーズ多め」  店員が注文を取り終えて去ってゆくと、土方は再び煙を含む。今は横ではなく向かいに座っているので、先程よりもより表情が鮮明に見ることができる。ゆっくりと煙を吐き出す土方はどこか肩の荷が下りたような様子だった。容姿だけでキャーキャーと騒ぐ女たちよりも、初対面だが無害そうな男といるほうが落ち着くのだろうか。とにかくその変わりように山崎は内心驚いた。 「お前、名前は?」 「や、山崎退です」  畏まった自分の声に、なんだか面接でも受けているような気分だった。「なんか面接みてぇだな」と笑う土方に、もはや乾いた笑いしか出てこない。自分の膝の上に握った拳がじっとりと汗ばんでいる。土方が一本目を灰皿に押し付けたタイミングで、「お待たせしましたー」とアルコールの入ったグラスが運ばれてくる。 「えーっと……改めまして?」 「なんで疑問形なんだよ。乾杯」  こつん、と控えめにぶつけられたグラスに、自分の中の何かが崩れる音を重ねて聞いた。
 もう何杯目だろうか。数えることも億劫となった頃、土方が呼び鈴を押すのが視界の端に入る。 「生追加。オラ山崎、次は何ハイボールだ」  テーブルに両肘をついた状態で暫く下を向いていた山崎は、「いやまだ残ってるんで……」と弱気な声を上げた。 「じゃあ普通のハイボール、氷少なめで」 「うぇぇ……俺飲まないですよ」  酒が飲めないわけではないが、この日は流石に堪えてしまった。あれから土方とはぽつり、ぽつりと話をした。何を勉強しているのだとか、出身はどこだとかいう当たり障りのない話から、どういう女がタイプで先程の女子メンバーの誰が可愛いだとか、幹事である男の話にまで及んだ。 「あー近藤さんはあれだ、幼馴染なんだ」  聞けば同じ道場に通い、近藤を追ってこの大学に入学したとの事だった。彼がいなければ今の自分はいなかっただろう、そんな言葉が土方の口から出るものだから、この男は思っているよりも熱い何かを持っているのだろう。酔いが回っても相変わらずその顔は綺麗なままだが、その細身に似合わず大食漢で、馬鹿みたいに煙草を吸い、よく喋り、よく笑う。イカの一夜干しに大量のマヨネーズをかけたことには白目を剥きそうになるほど驚いたが、お互いにほんのり顔が赤らむ程度に飲んだ頃にはすっかり最初の印象など頭の中から消え去っていた。 「あ、やべぇ。終電がない」  埼玉方面の実家から通っているという土方は、スマホの時計を表示して呟いた。完全に机に突っ伏している山崎の肩を揺さぶり、「おい、おきろ」と芯のない声を出している。 「おい山崎。終電、しゅうでん。何時だよ」  握られた肩が熱い。土方の手は思ったよりも温かかった。 「おれ、家近いんでなんとか……」 「いやならねーだろ……タクシー呼ぶぞ、いいか?」  伏せたままうんうん、と頭だけを縦に動かし、了解の意を伝える。再び呼び鈴を押した土方が会計を頼み、ついでに貰ったのであろう冷を首元に当てられて思わず飛び起きる。 「おわっつめたッ!ちょっと、何するんれすか」 「やっと起きたな。ほら、帰るぞ」  二人分の上着を抱えた土方は先に立ち上がり、伝票をもってどこかへ行ってしまう。あとで半分払わなければ、そう思いながら冷の入ったグラスを握り、舐めるように少しだけ飲んだ。随分長い間伏せていたお陰か、酷かった酔いは少しだけマシになったような気がした。  支払いを終えたらしい土方が戻ってくると、腰を支えられながら店を後にする。店から大通りは目と鼻の先で、深緑色のタクシーは既に脇に着けて酔っ払い二人を待っていた。やっとの思いで後部座席に乗り込むと、行き先を聞かれて住所を伝えると「本当にすぐそこじゃねぇか」と土方が呟く。 「ワンメーターでいくかもな」 「だから言ったじゃないですか。ていうかさっきの会計、半分出しますよ」  そう言って尻ポケットから財布を引き抜こうとすると、「あー今はいい、次で」とその手首を掴まれ止められてしまった。次って、次があるということだろうか。自分の中で聞き返して思わず口元が緩みそうになる。 「ではお言葉に甘えて……というか、土方さんはどうやって帰るんですか」  窓からは見慣れた景色が流れてゆく。道は思いの外混んでおらず、山崎の住む賃貸マンションまであと二ブロックで着いてしまう。ここからタクシーで帰るのだろうか。窓の外を眺めたまま、土方は「さあな」としか答えない。どのぐらいの料金がかかるのか知らないが、間違いなく今日の山崎との飲み代よりはかかるのだろう。よくある学生マンションなのでそこまで広いわけではないが、男一人ぐらいなら泊めれないこともない。それに互いの連絡先を知らないのに、本当にこの次があるのかだって怪しい。 「あの、もし土方さんが大丈夫であれば、うち来ます?」  たかが同性を家に招くのに、こんなに勇気が必要だったことがあっただろうか。財布からようやく離した手をシートに投げると、土方の温かい指先に僅かに触れる。驚いたように少しだけ見開かれた土方の瞳が、見つめていた窓ガラスに反射している。ああやはり、この人はどんな顔をしても綺麗なのだなと思うと、もっといろいろな表情を見たいという欲が顔を出す。 「あ、この辺でいいです」  山崎はマンションの手前でタクシーを停めて料金を支払い、車を降りると何も言わずに土方も続いて車を降りる。街灯が並ぶ道を早足で歩きながら、山崎は顔を見られないようにするのに必死だった。さてどうしようか。  部屋の鍵を取り出す頃には、もう酔ってなどいなかった。
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amn-koujiya · 6 years
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どろぶね
 戦国BASARA 左近と三成 アンソロ「海にゆく」寄稿
「海に出たいんすよ。船貸してもらえません?」
天気晴朗、波はきわめて穏やか。船を出さない理由は見当たらないが、しかし出す理由もない。漁の季節でもなければ、祭りの時期でもない。そもそもこの男はここの人間ではなく、海というものにおよそ縁があるとも思えなかった。対面に座って笑う男の顔をうつす一つきりの眼を、長曾我部元親はぎゅうと眇めた。色濃く滲む訝りの気配を隠そうとすらしなかった。
「やだなあ、勿論タダで貸してくれなんて言う訳ねーっしょ! 金もちゃんと用意してあるし、大事なお仲間のみなさん寄越せとかも言わねっすから。舟だけでいいんですって! ……ああ、でもそうだよな。俺一人ッきりだし、ただの小舟じゃ辛いかな? ちゃんと帆が張れてさ、風を受けて進めるほうがいいなー、なんて」
歌でも唄っているような、耳を上滑りする物言いだった。
音を立てる頭陀袋をじゃらじゃら振りながら口上を述べている。途中からはこちらと会話をしているというより、大きな独り言を聞かされているのに近いように思えた。
「あんたらの城があったのは大坂や近江だ、もっと近くにも港はあったろう。どこへ向かうか知らねえが、ただ船を出すなら堺や紀ノ川あたりで事は足るだろうよ。なんでわざわざここへ来た? サヤカの所にゃ行かなかったのかい」
「行ったには行ったんすけどね。話をしたら、こっちに行けって言うから」
「なんだってお前は海へ出る? 探しものかい、佐和山の犬よう」
振っていた袋を目の前の床に放り、問われた男は立ち上がった。
眠り人が床を這い出て歩くような、ひどくおぼつかない足取りをしている。
「傍に居るって、そう言ったんだ。だったら探さなきいと。でなきゃ、俺が俺じゃあなくなっちまう」
訪ねてきた男――島左近は、上座の元親を見下ろしながら言った。
「三成さまを探さなきゃ。きっと海にいる、俺を連れてってくれるって言ったんだ。これだけ地上を探して見つからないなら、海で待ってるに決まってる」
目ばかりがきらきらと輝いて、朝焼けに輝く海のようだった。
天下泰平、江戸の世の土佐での出来事である。
      ■         ■
「見渡す限りの昏い波だ。絶望というものに姿があるなら、あのような姿をしているに相違あるまい」
指先で茶碗の淵を弾く白い指先を見つめながら、左近はそれが一定の調子で軽快に行われるのに気が付いた。
城下の子供が口ずさむような、たわいのない童歌の節をなぞっている。
ここは彼の故郷からほど近い。きっと馴染みのものなのだろう――この人とそれが結びつくことを、少しの驚きと共に左近は見つめていた。
張った高台までべったり釉薬の塗られた茶碗は茶人好みだが、それが茶会の席に供されることはない。
たまにこうして引っ張り出されては、三成の酒器になるばかりだ。
この方が効率的だからと言って聞かないのだ。左近はいつも酌もできずに、話を聞いてばかりいる。
「踏んだ床板が心許なく揺れる、まるで泥土でできた船だ。鍛え上げられた筈の豊臣のの兵が、みな赤子か老人のように転がっていた。秀吉様の御志という心の支えがなければ、およそ私とて耐えられたものではない。起きたまま悪夢を見るようなものだ」
ゆらり、ゆらり、ゆらり。茶碗の中で水面が揺れている。
商い人の領民が献上した酒だという。この近江でつくられた新酒らしい。
小さな湖のような碗の中に、流れる川を見る。左近と海にゆかりはないが、川は海につながっているのだ。
甘い香りを放つ水面を眺めながら、三成の話に耳を傾けた。彼が主の命で赴いた船旅、訪れた海のこと。
「鎮西の荒地に城を築き、豊臣の将兵をそこへ集結させる。対馬を経由し海峡を渡る。日ノ本で入手できる外つ国の地図は地名も道も不正確だ、道中で土地の者に金を渡して案内をさせる。言葉は通じずとも、国の荒廃は明らかだ。疲弊した民を取り込むのはさほど労苦の要ることはない。そもそも兵の練度が比較にならない、実につまらん戦だ」
「海の向こうの国って聞くと、あったかい所なのかなって思ってたんすけど」
「まったく逆だ。一面の不毛の地、閉ざされた冬の国――海の果てには地獄があると、兵どもが口々にささやいたものだ」
三成が碗を手に、遠くを見るように目を細める。
「海かあ。俺は行ったことがないから」
燈火の影の落ちる白い顔に視線を向け、左近は口を開いた。
「ねえ三成さま、どんな気分なんすか。絶望みたいな色をした海を越えて、地獄みたいな所に行ってさ。辛かったり苦しかったり、三成さまでもそんな気がした?」
「まさか」
遠い記憶の果てから、三成がこちらへ視線を戻す。
酒気に浮く薄い色の瞳に行燈の炎が映りこんで、ゆらゆらと揺れていた。
「ひとつ剣を振るい、荒れ果てた地に血が落ちる。割れた大地をそれが潤す。不毛の土に咲く徒花だ。苦難の果てに辿り着いた地獄を、さらなる深淵に落としてゆく。地獄の釜が深くなるほど、秀吉様の御世が盤石となる。そこが戦地であるなら、振りまく苦しみこそが私の喜びだ。海を渡れど変わりはない。帰還せよとの命を拝した時には口惜しささえ覚えたほどだ。私が戦端を開いていれば、地図をまるごと豊臣の色に染め上げて秀吉様に献上したものを」
左近が彼に出会うよりも、まだ少し前の話だった。
「もう海に出る事ってないんすか、三成さま」
「暫しの間はあるまい。日ノ本の情勢が極めて不安定な今とあらば、まずは地場を固める事こそ先決だ。次に外つ国と事を構える事があるなら、秀吉様がこの国全土を掌握された後の事になる」
文机の引き出しを開き、三成が折りたたんだ紙を取り出した。折り目が毛羽立ち、墨を幾度も入れた形跡がある。この国の勢力図と、周囲の国々の名が記された地図だった。
「次に行くんなら、また前と同じ場所っすか?」
「いいや、違う」
書き込みの多い場所を指した左近の手を掴み、三成は列島を挟んだ逆側に動かした。
「おそらく次は南方だ。交易と政治の要衝がある、攻め落とす価値はそちらの方が高い。貴重な兵と金子を割いて、わざわざ実り少ない場所へ出向く道理もなかろう。伝え聞く限り、肥沃で美しく豊かな土地だという。今でこそ異人の手に落ちているが、豊臣の力があれば造作もあるまい。秀吉様に献上するのにふさわしい、海に浮かぶ宝玉だ」
酒精のためか、触れた三成の手に珍しく血が通っていた。手の暖かさが少しだけこそばゆい。
「ねえ、三成さま。次に海に行くときがあったら、俺も連れてってくれますよね」
問い掛けからややあって、三成の口元がわずかに綻んだ。他の者が見たのであれば、見落としてしまうかもしれない程だった。
「好きにしろ。遅れをとるなら捨ててゆく、せいぜい気を張って追って来ることだ」
戦の合間の小休止、穏やかな会話は美しい記憶として左近の脳裏に焼き付いた。
そしてそれきり、二度とそんな機会の訪れは来なかった。
赴いた戦場で傷を受けて倒れ、気付けば荒野に一人きり。
ようやく帰り着いた時、佐和山も大坂も、三成の居るべき城はもぬけの殻だった。
      ■         ■
ぎ――い、ぎい、ぎい。
沖合で艦船は錨を下ろした。軋むような鈍い音が響いている。
元親の命令に従って、小さな舟が降ろされた。甲板から渡し板が延ばされる。
長曾我部の兵が積み荷を乗せ、畳まれた帆を掛けた。
礼を述べながら、足取りも軽やかに左近が下りてゆく。小舟に乗るのは一人きりだった。
「ありがとっす、長曾我部さん。風もあるし、これなら自力で進めそうってね」
「……おい、最後に聞かせな。舫いを解くかどうかは、それ次第で俺が決めるぜ」
元親の言葉に、左近が目をまるくした。二度、三度と瞬きをして、いいっすよ、と声を上げた。
「石田を探してどうするつもりだい。いまさらあいつに会って、一体何をどうしようってんだ」
問いかけは、左近を困らせるには十分な内容だった。
「どうって……そんなこときかれても、」
三成さまに会いたい、会いたい、会いたい。そればかり考えてここへ来た。
会ってどうするのだと問われると、答えが見つからない。
姿を見る事が、あの人の名を呼ぶことが、あの人の傍に居るのが目的になっていたのだ。
「解んねっすけど、そうだなあ……三成さまなら、今のこの国を許さない。すっげー怒って、目とか吊り上げてさ、きっと江戸まで走ってくっすよ。海の向こうにいるんなら、三成さまは知らないんだ。だったら教えてあげなきゃ、戦場に三成さまを呼び戻さないと。そして俺は今度こそちゃんと付いて行くんだ、戦う三成さまの傍にいる。左腕に近しいところに居るから、俺は島左近でいられるんだ」
「……そうかい」
左近の言葉に、元親は多くを返さなかった。
背後の部下へ声を張り上げる。小舟を繋ぐ舫い綱が解かれた。
「なら俺は止めやしねえよ、好きにしな。西に阿弥陀がありゃ、南には補陀落がある。望む所に行けるかは知らねえが、悪くても浄土にゃ辿り着くだろうよ。てめえの石田によろしくな」
錨あげえ、と元親が声を張る。よく通る声だった。
踵を返し、ゆらゆらとした足取りで甲板を歩く。
ゆっくりと艦は逆行し、小舟の周りをぐるりと迂回する。
兵たちはちらちらとこちらを窺っていたが、元親は左近に一瞥もくれなかった。
そうして艦はゆっくりと、遠くの陸へと去っていった。
      ■         ■
南の海は静かで、透き通って青い。見渡す限り輝いている。
帆をいっぱいに張ると、風を受けて小舟は南に進んだ。みるみる陸地が遠ざかってゆく。
足元は頼りなく揺れて、目の前がぐらぐらする。頭の中を直につかんで揺さぶられているようだった。
小舟の床板に横になり、左近は目を閉じた、気分はよくないが、波の音は心地よい。
乾いた唇を舌でなぞると、びりびりした塩の味がした。揺れる舟の中、左近はゆっくりと眠りに落ちた。
目を覚ましたのは寒さのせいだった。月が煌々と頭上を照らしている。
いつのまにか夜になっていたのだ。吹きすさぶ風の冷たさに堪えかねて、積まれた荷をほどく。
中身は灯明と食糧と水、それから方角を図る器具と防寒具。
分厚い布で体を包み、左近は震えながら縮こまった。
三成が指した南の国は、かつて赴いたという北方よりも遥かに遠かった筈だ。まだまだ時間がかかるに違いない。
積み荷の水を少しだけ口にして、左近は再び目を閉じた。
そうして朝がきて、昼が過ぎ、夜が来た。
それを幾度も繰り返した。
陽の照りつける日もあれば、ひどい雨の降る日もある。
曇天の退屈な日が数日続き、太陽を見ないまま日が暮れる。
ひとたび眠りに落ちた後に目を覚ますと、どのくらい眠っていたのかを判別できなくなった。
数刻うとうととしていただけかもしれないし、数日の間眠りに落ちていたのかもしれない。
起きている間は水をちびちび飲んで、食糧を口にする。
空腹と咽喉の渇きのさなか、記憶の片隅にある三成の姿を脳裏で繰り返し繰り返し過ごす。
三成の声が頭の中で響いている時間が、今の左近には唯一の幸せだった。
波の揺れも寒さも、心地よくさえ感じる。月も星もない闇の中、左近は目を閉じた。
どれほどの時間が経っただろう。
次に目を覚ましたのは、瞼の向こうの明るさのためだった。
目を開き、舟の中に起き上がる。夜が明ける瞬間だ。紫色に染まる暁の空、名残の星と銀色の月が西に沈む。
朝靄にかすむ水平線の果てに、太陽がゆっくりと姿を現していた。
きらり、きらり、見渡す限りの波が光を受けて揺れる。穏やかな風が吹いていた。さあっという音と共に波が揺れる。
砂金を波間にちりばめたような光景に、左近は思わず立ち上がった。
太陽と月の真ん中で、波に揺られて立ちつくす。
美しい光景だった。この世のものとは思えないほどに。
不意に左近は元親の言葉を思い出した。
彼は言っていた、海の果てには浄土があるのだと。
「―――そうだ、そうだ、そうだ。ああ、俺は何をやってるんだよ、」
長い期間話すことを忘れていた左近の唇は、まともな声を紡ぐことが出来なかった。
声にならない呻き声を、ただ左近一人が聞いている。
脳裏に過る姿、刀を携えたあの人がそぞろ歩く。
記憶の中で彼は囁いた――振りまく苦しみこそが、自らの喜びなのだと。
「いるわけない、いるわけなかった。三成さまが浄土になんて居るわけがない」
東の空から太陽が昇り、月の姿を完全にかき消した。見渡す限りの光の波。
「三成さま。……三成さま、三成さま、みつなりさま、」
会いたい、会いたい、会いたい。そればかり考えてここへ来た。
左近にはもう残っていなかったのだ。それ以外には何も。
「遅くなってごめん。今いくよ、三成さま」
きらり、きらり、輝く波間に小舟が浮かぶ。
白い帆を張り、風の向くまま進む。帆を操る者は誰もいない。
波間に忘れ去られた無人の舟は、ゆらゆらと波に身を任せて流れていった。
      ■         ■
表がにわかに騒がしくなったのに気が付き、目を通していた書物から視線を上げる。
漏れ聞こえた声から、何となく様子を察する事はできた。この小さな島の主であるのは間違いないが、この地の領主が訪ねてくるのは珍しい。履物を取り出して、縁側から外へ出た。
歓迎して駆け寄る人々の群れからは距離を置きながら、見覚えのある姿にゆっくりと近づいて行く。
「またか、長曾我部。尋ねてくるなら事前に伝えろと、何度告げれば貴様は理解する」
「なに、もののついでさ。近くの海まで寄ったんでな、ちっと顔を見たくなってよ」
群がる出迎えに声を掛けながら、ゆっくりと元親は歩を進めた。
「不便はしてねえかい。こいつらに良く言っちゃいるつもりだが、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「別段不足はない、それに、貴様も言った筈だ。私はあの日に死んだのだ、死人に気遣いなど無用だ。私のことなど捨て置けばいい」
「おいおい、そういう意味で言ったんじゃねえんだがな」
笑ってそう言いながら、元親は背後を顧みる。
今しがた自分が上陸した南の海の方角を、ぎゅうと目を細めて見据えた。
「なあ、聞いてもいいか」
「私に拒む権利など、元よりない」
「つれねえなあ! なあ、もっと楽しそうな顔ってできねえのかい。野郎共が困ってたぜ、何を喜ぶか解らねえから、何をどうしていいかさっぱり解んねえとよ」
「楽しむ? 喜び? 貴様は何を言っている。それは貴様から私への命令か」
投げかけられた問いかけに、男は――領主の客人は首を横に振った。
「貴様は生きろと私に告げた。だから私がここに居る。それだけの事だろう。どうしてそれが必要になる。つまらぬ問い掛けはやめろ」
用が無いなら私は戻る。そう言い残し、男は元親に背を向けた。元来た道を進み、屋敷へと戻って行く。
「待ってくれ、もう一つだ。もう一つ聞かせちゃくれねえかい」
元親の心に、迷いがなかったと言えば嘘になる。
左近の探し人はずっとここにいたのだ。
昔馴染みが彼を寄越したのは、それを知っているからに他ならない。
それでも元親は左近を海に出した。
左近は再びの戦をこの国に呼ぶと口にした。光を浴びる友の姿���脳裏を過ぎる。
ようやく迎えた太平の世だ。元親の天秤は最初から、どちらを捨て去るかを決めていた。
選ぶまでもない事の筈だ。それなのに、心はひどくざわついた。心臓に嵐がやって来たかのようだった。
「……なあ石田。ここ最近のことだ。あんたを訪ねて、誰ぞ人は来なかったかい」
胸の裡を押し殺すように、つとめて常通りを装って元親は口にした。
「貴様以外の客人? 私に?」
元親の言葉に振り返った男――かつて凶王と呼ばれたその人は、静かに告げた。
「私を訪ねるものが、この世のどこかに居るというのか?」
その言葉に、元親はそっと目を閉じる。
安堵しているのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
胸の奥にわだかまるものの名に、元親は覚えがなかった。
「そうだな。もうどこにも居ねえんだったな」
再び元親は振り返った。陽の光を受けた水面が、きらりきらりと輝いている。
空は晴れ渡り、波は穏やか。
海の向こうには何もなく、ただ水鳥が舞うばかり。
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