Vol.169 世界待望のダイエット薬が日本にも登場。保険診療の是非は?
寒いのか暖かいのか、よくわからない感じの年の瀬ですが、いかがお過ごしでしょうか。
私は、例年よりは仕事が落ち着いていたこともあり、古い書類をだいぶ整理・廃棄しました。
会社関連のほとんどの書類はオンライン化しているのですが、それでも15年近く事業をやっていると、経理や契約関連の書類は溜まってきています。
最近は契約はほぼオンライン化されてきたので、あとは経理/税務書類関連さえ何とかなれば、書類からおさらばできるのですが…
2023年も、本メルマガのご愛読をありがとうございました。お陰様でメルマガ会員数は8万人近くまで増えてきましたし、開封率も40%近くを保っております。
来る2024年も、引き続きのご愛読をよろしくお願いいたします。
それでは、皆さま、どうぞ佳き新年をお迎えくださいませ。
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【記事1】 世界待望のダイエット薬が日本にも登場。保険診療の是非は?
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がん医療と直接の関係はありませんが、年末の大きな話題として、ダイエット薬(肥満症治療薬)がいよいよ日本でも発売のニュースを取り上げます。
■「ノボノルディスク、肥満症薬『ウゴービ』を日本発売 来年2月」(REUTERS)
昔から「ダイエット薬」は”夢の薬”でした。実用に耐え得る有効な薬がなかったからこそ、世の中に「ダイエットビジネス」がこれだけ溢れているわけです。
その状況が一気に変わってくるかも、というのが今回の話です。
GLP-1受容体作動薬と呼ばれる種類の糖尿病治療薬に、”副作用”として体重減少があることは昔から知られており、これを活用して肥満症治療薬としての開発が世界的に進んでいます。
その内の一つ、セマグルチド(ウゴービ)は、日本では今年の3月に承認取得済でしたが、恐らく生産体制が整わずに発売が延びていた中、上述の通り来年2月から販売ということになりました。
添付文書を見ると、保険適応の条件として、以下が定められています。
>>
高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。
・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
・BMIが35kg/m2以上
>>
まあでも、どう考えてもニーズの強さから、上記に当てはまらない人も含めて年間百万人単位の患者(?)さんが医療機関に殺到することが容易に想定されます。
セマグルチド(ウゴービ)の年間の薬価は30-40万円程度と想定されます。
メーカーは日本でのピーク時(5年目)の投与患者数は10万人、売上高予想は328億円としているようですが、競合薬が出てきたとしても売上高の桁数は余裕で一桁上回るでしょう。
では、セマグルチド(ウゴービ)以外のGLP-1受容体作動薬も後に続くと想定される中、肥満症治療薬に千億円単位の保険財政を割くことの是非はどうでしょうか。
私は実はかなり肯定的です。
一つは、薬価がそこまで高くないことです。
これも話題になった早期アルツハイマー治療薬のレカネマブ(レケンビ)の年間薬価が300万円ほどですから、それと比べれば一桁安い。
更に、体重がうまくコントロールできれば、糖尿病・高血圧・高脂血症等の他の疾病の治療にかかる費用を将来的に削減できる可能性も高いです。
実際にどれくらい医療費の削減効果があるかや、長期的な投与に伴うリスクは、フォローアップ期間を取って検証すべきでしょうが、良質な”予防医療”になる可能性を十分秘めていると思います。
今後の動きを注視して行きましょう。
※本項執筆時点(2023年12月29日)で、筆者はセマグルチド(ウゴービ)、レカネマブ(レケンビ)に関し、特筆すべき利益相反はありません。
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【記事2】「がん研究10か年戦略(第5次)」に決定的に欠けている視点
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クリスマスの日に、「がん研究10か年戦略(第5次)」というものが発表されました。
■「がん研究10か年戦略(第5次)を4大臣合意 DCT、RWD、PRO活用した研究手法確立で革新的新薬創出」(ミクスOnline)
「10か年戦略」と言うからには、長期的な視点で日本のがん研究にとって何が重要なのか、という時代感を伴った視点が必要です。
本戦略の緒言には、次のような記載があります。
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一方で、いわゆるドラッグラグ・ドラッグロスが顕在化しているほか、難治性がんの生存率には大きな改善が見られていない。小児・AYA世代のがんや希少がんに対する治療法の開発等を含め、多くの課題を残している。
こうした課題への対応に加え、個々人に最適化された予防・医療の実現に資する研究の展開や、医療AI等を含む新たな医療技術開発等の強化が求められているほか、がんの本態解明、シーズ探索等の分野横断的な研究の推進、国際共同臨床試験の環境整備を含めた国際連携等の取組強化も重要である。
>>
「今現在ここにある課題」はうまく整理されているように見えますが、私にとっては以下の時代感が反映されているようには見えませんでした。
・今後10年の日本の国家財政は、社会保障支出の増加で厳しい状況が続く
・従って、がん研究にかけられる投資もそれほど増やすことはできず、全体で見ると新薬開発で米国・欧州・中国には水を開けられる状況にならざるを得ない
・特にがん領域の新薬は高額な薬剤が増え続けており、上記の状況の中でドラッグラグ・ドラッグロスの改善を進めることは、医療費の更なる増大を意味する
・ジェネリック医薬品やバイオシミラーの浸透による医療費削減は、この10年でほぼ閾値に達している
以上全ての「不都合な真実」に向き合った上で、第4期がん対策推進基本計画で掲げている「誰一人取り残さないがん対策」を実現するために何が必要か、ということが問われているわけです。
これらを考えると、「質を落とさない形での、がん医療の効率化」が欠かせない視点になります。
その意味で、「”De-escalation(デ・エスカレーション)”的な治療法の開発推進」と、「特許期間の切れた古い薬剤での新たな効用の発見」は、是非付け加えたいところです。
”De-escalation(デ・エスカレーション)試験”は、本メルマガでも何度か取り上げてきていますが、服薬に伴う患者の負担を減らすことを目的に、抗がん剤の投与量や投与日数を減らしても既存の治療法に効果が劣らないことを立証する試験です。
特許期間が切れた古い薬剤の可能性としては、春先に出したメルマガの中で紹介したような、オランザピンやリドカインのような��例があります。
これらのテーマは、新薬の売上拡大を指向する製薬会社が投資したがらない分野であり、だからこそ国家のお金を投じて研究を進める意義があるのではないでしょうか。
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