Nintendo Switch「even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女」クリアしました!
大好きなゲーム「ノルンノネット」のシナリオ・ディレクターを務めた潮さんの最新作ということで、発売前から楽しみにしてました。
DL専用ソフトなので発売日当日の夜にインストールし「プロローグだけやっとこ」と思ってるうちに朝までプレイ。わかっていたことだった…。
睡眠不足になりながら先日クリアし、興奮のままネタバレ感想言ってみよう。
ノルンの頃から発揮されていた、一見端正で落ち着いた文章なのに、的確に感情を貫く精密さ繊細さで「痛くてつらい境遇」をみっちり描かれたら、そりゃこっちの体力はもう0よ!
俗にいうドアマットヒロイン(元からいた環境や人間関係の中で虐げられている主人公)に属するんでしょうが、そういう物語分類以前にまず「虐待」の文字が浮かぶほど徹底した尊厳の奪取ぶりを端正な文章で描かれます。
誰がここまでやれといった……! いややっていいけど……!!
虐げられ続け、いわれなき罪で火刑に処し、一度は死んだ主人公が「魔女」の協力の元再び人生をやり直す……というところから始まる本作。「なぜ彼女はこんな運命をたどることになったのか?」というミステリーのような趣もあります。
また、本作のシステム的特徴でもある「魔女裁判」とは、作中エピソードで殺人を犯した人間を議論し民衆投票により見つけ出す、人狼ゲームのようなもの。
プレイヤーから見て犯人当てはさほど難しくないと思いますが、巧妙な選択肢やフラグ管理の妙、なにより「300人の投票権を持つ民衆に、犯人をあてるように誘導する」という構造上、うっかりすると顰蹙を買って結構あっさり失敗するので油断ならない…。
そんなスリリングな展開ばかりかとおもえば、プロローグを抜けると「騎士を目指す若き候補生の訓練生活」という非常にポップな展開も始まります。会話の軽妙さは楽しいし、なによりほんのちょっとした語尾や一言で、そのキャラクターにぐっと立体感が生じる腕前は、ノルンノネットからさらに洗練されているように感じました。
しかししかし、これもやはりノルンノネットからの引き続きと言いますか、「一見どれだけ穏やかで人がよさそうに見えても、ほんの少しの運命のかけ違いで誰しも凶行に走る」という人間観が、本作ではより手広く展開されているように感じました。その手前で散々楽しい生活を繰り広げているもんでショックもひとしお…。
そんな凶行を前に、突然の暴力に悲しんだり怒ったりするだけではなく、そこに至ってしまった人への慈しみと責任感、時に自らが手を染めて他者を死に至らしめる罪悪感……同じテーマなのにこんなにも様々な情動がわくものなのか、と毎回舌を巻いてしまいます。あと泣く。いろんな感情で泣く。
個人的に一番刺さったのは、主人公から見たエヴェリーナの理解しがたさ。エヴェリーナが他人に残酷になれる理由はいくつか示されていたけれど、知ったからって、本人に突き付けたからって何かの解決に至るわけではない……というどうしようもなさは、最初は恐怖、最後は「他者との相互理解の難しさ」を突き付けられているようで、ずっと重石のように残っています。
主人公の母親は、エヴェリーナという悪魔を主人公に仕向けたともいえるし、最大の理解者であるマヤも主人公に残してくれた……そう思うと、人のつながりとその影響の複雑さを思わずにはいられない。
その複雑さはイシュが語る「過去の人間たち」と同じものに思えます。彼が語るあの人物像は、決して他人を裏切るような人には思えないけれど、しかし凶行の事実はどうしようもなく立ちふさがっている。
そういった「他者のどうしようもない理解しがたさ」は、もしかするとイシュと主人公に共通した経験だったかもしれない。
ここにしかない輝きを持つ作品ですが、シナリオ面で難を上げるとすれば、いくつか作中で宙ぶらりんに感じる要素がありました。
特にエンダーの扱いはもう少し掘り下げてほしかった。エヴェリーナやコンラッドといった序盤では最悪最大の障害に思えた人物らが、主人公の成長によって恐ろしかった存在感がどんどん後退していくのは必然と思えますが、しかしエンダーが魔女たちや女神に近い存在なら、むしろあの最終決戦前後にこそ主人公との対決展開があっても良い存在なのでは…? とも。
意図した空白というよりは「ただぽかんと空いた穴」に思えて、隠し要素でもなにか説明があってもいいんじゃないかと思うくらい。でもたぶん? アルバム全部開けたけど?? ない? かな?? うーん。
あと、主人公たちが人々で何かとても根本的なすごいことをやらかしても、「メディア操作で封殺する」で処理するのは「あれだけやってそんなことできるう?」とちょっと強引に思えてしまったかも。
ゼンルートでみせた「その場に現れることができた理由」には、強引ながらにその強引さにこそ拍手喝采してしまったんだけども。
あとはクライオスとヒューゴの過去についても、もうちょい落とし前が欲しかったかなあ。
この辺はぜひ追加エピソードやファンディスク、他ノベライズコミカライズなどで補填してほしいところ。してほしいので出してください。
メインキャラクターとそのストーリーとしては、ルーシェンの章の序盤よかったな~。最初は自分も思わず「うわー思ってた以上になまっぽくヤバーい」と感心してしまいました。その時の彼も、彼の状況もよく考えたら決して「ほのぼの」なんかしてないはずなんですが、あそこの抜け感は何度読んでも好き。
それとルーシェンのバッドエンドで、頭では他人を傷つけることを考えながら迷わず身を投げるのも切なくて良かったですね。他キャラクターのバッド(悲恋)エンドでは、いうてそばには主人公がいるけど、彼だけは自分自身でその道を選ぶ。そういうところは「強く生きよう」と決めた時ときっと同じで。
ルーシェンは超常的なスペックや他とは違う生い立ちを理由に強くなったんじゃなくて、ただただ「決めて、努力する、実行する」という凡人の超人性によって強くなったというのが彼の良さだし、他にない魅力だと思いました。そういう彼だからこそ、悲惨な境遇でもどこか穏やかな日差しと、太陽のような頼りがいをふいに感じられるんじゃないでしょうか。
主人公がエヴェリーナの存在を克服したように、ルーシェンは兄たちの存在を最終的には大したことに思わなくなっていく(もしかしたら最初から思ってなかったのかもしれないが)というのも、興味深い鏡像関係でした。
あとマヤね! 主人公大好き同性キャラといえば乙女ゲームや少女マンガじゃよくあるポジションですけど、母のように姉のように導く姿だけでなく、時に主人公のために罪を犯し、時に理由も知らずにすべて引き受けて殺される姿には、「深い愛情」という言葉以上の何かがあったように思えて、言い尽くせない魅力があります。
主人公たちには恐ろしい境遇と苦難と理不尽が絶対降りかかっているし、脅かそうとする存在も不気味で理解し難い存在もいるけど、泣きたくなるくらい綺麗なものもあって、その美しさに支えられて人は生きている。
誰しも等しく狂暴で残虐な性質があるとして、自分のこの情動をどうやって管理するのか、そして他者と社会がもつ暗い情動とはどう付き合っていくのか、そんなこの世界でうまくやってくにはどうすれば? という問いかけとその答えが、儚く眩しく泣きたくなるくらい暖かい。
道中は主人公と一緒になって思い悩みもしたけれど、エンディングには「悪くない人生だったな」と一緒になって感慨にふける。本当に素晴らしいゲーム体験でした!
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7/21
本当にごめん、下記は読まないでくれ、失望を招き、人をネガティヴにさせる能力を持っている。
なのに何故公開するのか、そりゃ、読んで欲しいからに決まっている、感想は要らない、どうせ俺が、分かって貰えなかった!と泣き喚き叫び駄々こねるのみ、君にすら非難されたら俺は立ち直れない、勿論、死なない限り立ち直るんだけれど、前書きはここまで
さて、全ては巧妙な罠だ、そもそも、俺以外が存在しているかも分からないこの世界(超主観的)で、誰がどう、僕がこう、こうあるべき、こうありたい、全部がクソどうでも良い事だった、罠だった。
「折角君の為を思って…」というのは、儚くも全て嘘だ、全部が自分の為だ、貴方に救われて欲しいと思ったのも、自分がそう思う事で楽になれるからに過ぎない、俺は本当に主観でしか語らない、この世界の理は俺が決めている、少なくとも、僕の生きている宇宙では"誰かの為"なんて死んでも存在しない
勧善懲悪、予定調和、フィクションだ、アンパンマンだ、たまに、アンパンマンみたいな人がいる、俺の理解では到底及ばない奴、アンパンマンはそりゃ優しいさ、そして、アンパンマンの心の内は見えないんじゃなくて、存在しない、アンパンマンだから。
僕はアンパンマンになれると思っていた、いつかアンパンマンになると、そうでなくても、バイキンマンにはなりたいと、そう思っていた、なんなら、つい先日までは思っていたりもした
でも、成れないんだ、奇しくも、僕にとっての僕は、ノンフィクションなんだ、本当であろうとするとか、本物とかじゃなくて、俺は紛れもなく俺、お前で言うところの偽物だろうが、本物の俺だと俺が認識している以上もうそれは、本物なんだ。
僕はいつも、敢えて自らを偽物と騙るけれど、てめーらに言われる筋合いはねーんだ、バンドはなんだ、苦行か、修行か、僧にでもなるんか、もしかしたら、そうなのかもしれない、僧なのかもしれない、つってな、はは、ははははははは
俺は皆んなが人間じゃないと思っていた、バンドをやっている奴は人間じゃないと思っていた、もしかしたら、人間じゃないのかもしれない。
俺は人間だ、バンドをやっているのに人間だ、本当に困った事だと思う、人間の癖にバンドをやり、人間を歌う、人間で在ろうとする、俺達が観たいのは、会いたいのは、いつだって宇宙人や未確認生命体、悪魔幽霊その他諸々、人外(アンパンマン)って奴だったのに
観られたいといざステージに立つのは人間だ、人間は多いから、街を歩けば、家に帰れば、人間なんて簡単に見れてしまう、今更俺が、俺という人間がステージに立ったところで、人間に過ぎない。
俺はずっと勘違いしていた、バンドをすると人外になれるって、いや、バンドをするような思考を持った時点で人外になったって、でも、成れなかった、ステージに立っているアイツらは、人間じゃなかった、騙されたんだ俺は、罠だった
だから俺は考えた、人外になれないのなら、人間を打ち出そうと、そう考えた。
でも、人間は、何処まで行っても人間だ、結局、パンダの方が面白いらしい、それでこそ人間さ
流行りの漫画を読んでいる俺、エッチな画像にいいねをする俺、流行りのYouTuberの動画を見る俺、流行りのポップスを聴く俺、そんな俺を、少し馬鹿にする俺、俺は何処までも俺だ。
俺すらも俺を認めてやれない、俺の感性は、俺に合わない、俺の過程と行動は噛み合わない、本当に人間らしい、これを書く事で、それらを狂気として提示しようと試みている朝方の俺、普通だ
ふっっっっっっっっっっっつーーーーーに、普通だ、こんな俺を観察しても、人間だな、としか思えない、異常で有ることを認識しながら、異常をこなす、そんな自分は異常を見上げて見下している、腐っている、腐り切っている。
DMが来ると嬉しい、あーだのこーだの相談を持ちかけられる、興味は無いが、求められている感覚を求めている自分が居る、それを完全に認識しながら、数ラリー続けて、ハートマークで会話を終わらせる、なんて、なんて人間らしい、本当はもっと喋りたい、でも、一定の距離感を保った上でこそ満たされる何かがある、嗚呼、醜い、本当に醜い
どうか俺を正しく認識してくれ、僕はアンパンマンじゃないんだ、私は石川瞭斗に過ぎない、本当に単なる人間なんだ、長い物には巻かれるし、長い物を冷笑している、これが僕の本質だ、みっともない、みっともなさ過ぎる。
それっぽいことを言っときゃ良い、そんな夜も確かに有る、積み上げる気のサラサラ無い楽なポエム、なるたけ本当に近い様描くけれど、僕が僕である以上、何でも作品にしようとする節があって、結局、偽物の心を描いてしまっている気がするんだ、あーあ、嘘くせーポエムはその辺にしとけよ、馬鹿らしいったりゃありゃせんよ、とは言うものの
ほら、ここの改行もそうだ、句読点もそう、何にだって、五感的なセンスを正しく提示しようとする、部屋に至ってもそう、僕の本当が存在するのは引き出しか、いや、そこにも偽物は存在する。
一体誰が僕を僕とするんだ、自分探しなんて楽なもんじゃ無いさ、居ないんだから
以上が、今日の、「真っ暗な画面の端に小さく長文が書いてあるInstagramのストーリー」と同等価値のポエムだ、ブログだ、ウェブログだ。
正しく有ろうとする俺を、見下しているよ俺は、予定調和に支配されて死んでいけよお前は、俺は、フォロワーの多い有名人に縋れよ、意見なんか持つなよ、畏れよ、それがお前らしさだよ
早く悪態をつかせてくれ、取り返しのつかないくらい
P.S.ずっと前からあるこのブログ、重ねて、毎日毎日はてなブログにも書いてて思うが、俺は通して似た様なことをずっとほざき散らかしている、正解を正解と認めたく無いが故に、手を替え品を替え、一人称を変え、言葉を変え、文体を変え、結局同じ事を結果としている、この結果は恐らく、過程となる、10年後に生きていたとするなら、僕はどんな答えを出すのだろうか、「くだらんくだらん!結局金になれば良いし、ほら、数千人が今日も俺を待ってる!俺は神だから、俺は求められている!こんな事で悩んでたなんて、くだらんね!」とでも言えているだろうか、それはそれで、幸せな事だ、勘違いも極めると、本当になる、悪癖に悪癖を重ねると、気っ風良くなるってもんだって、坂口安吾先生も書いていた気がしたが、どうやら書いてなかったみたいだ、俺の妄想は、本当に都合が良くて関心する、頼むから、いつまでも、俺は俺のままで、ひん曲がった根性を、真っ直ぐ続けて下さいや、それを愛してくれている人も、少しだけれどいるんだからさ
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詩集『わたし専科』
詩集『わたし専科』目次
1.「忘れて(Prologue)」
2.「碧空が憎い」
3.「100回目のサヨナラ」
4.「永訣のキス」
5.「死にたくなった夜はわたしが抱きしめるから」
6.「片道切符のジャーニーマン」
7.「冷たい微笑」
8.「ふたりと煙草」
9.「いとしのキャフェ」
10.「サヨナラ世界」
11.「ねえ、わたしを見て?」
12.「人生でいちばん倖せな日(Encore)」
1.「忘れて(Prologue)」
この蒼き日に
紅く染まらないまま
消えていけることを倖せに感じる
思えば
取るに足らない人生だった
誰とでも代替できる
誰にだって当てはめられる
私の人生はそんなもの
好かれるよりも
嫌われるよりも
空気であることが最も悲しい
それを理解してくれたのは
もうこの世を去った貴女だけだった
貴女がいなくなって
私の存在を肯定する人が消滅し
何も出来なくなった
意志薄弱な私を
愛してくれてありがとう
そして
ごめんなさい
私のものはどう始末してくれたっていい
いっそのこと
存在自体を忘れてほしい
私がいない方が倖せになれるから
所詮私は諍いを生むだけのバグに過ぎないのだから
生まれてきたこと
生きていたこと
私自体を記憶から抹消してほしい
さよなら
貴女に逢いにいってきます
2.碧空が憎い
こんなにも空が晴れ渡っているのに
わたしはベッドに横たわり
明日も明後日もないのに
生きようとしなきゃいけないんだろう
心がどんどん壊れてく
音も映像もないけれど
身体が崩れてく気がして
何かを始めようと思い立った日は
わたしの記念日
碧空を憎ましく思った日
川で水切りをして遊ぶ子どもを見て
かつてはわたしもあんな日があったと
目を細めて思い出す
何度も断られているうちに
どうでも良くなっていく
誰にも必要とされない悔しさは
誰もわからなくていい
わたしが壊れた日
碧空を憎ましく思った日
旅をしたいなら
旅をすればいい
わたしにはそんな勇気もなく
小舟を河に浮かべ
微笑んでいる
社会が移ろう様を見て
生きる自信を失う
この古ぼけた幻には
明るい未来はない
わたしの記念日
碧空を憎ましく思った日
わたしの記念日
碧空に這いつくばろうと決めた日
3.100回目のサヨナラ
何をするにしたって
不器用すぎて
周りに迷惑をかけてきた
いつしか季節は流れ
大人になったけど
わたしは今も生きてるだけ
やりたいことはない
風に流されたまま
そんな声を夜空にぶつけても
誰も答えはしない
生まれてきて、ごめん。
何もできなくて、ごめん。
やさしくなれなくて、ごめん。
何もできなくて、ごめん。
自分さえも信じられず
あなたを傷つけ
愛すらも手放しそうだ
恋も夢も失い
大人になったけど
誰のためにこれから生きるのか
やりたいことはない
時に身を任せる
そんなわたしの声など
誰も聞きはしない
愛せなくて、ごめん。
何もできなくて、ごめん。
夢中になれなくて、ごめん。
何も出来なくて、ごめん。
死にたくても死にきれない
生きたくても生ききれない
中途半端なわたしに
誰かトドメを刺してほしい
生まれてきて、ごめん。
何もできなくて、ごめん。
やさしくなれなくて、ごめん。
何もできなくて、ごめん。
生きていて、ごめん。
ネガティヴで、ごめん。
強くなれなくて、ごめん。
夢叶えられなくて、ごめん。
蒼い空に問いかける
何故生きるのか
そして……
100回目のサヨナラ
4.永訣のキス
貴方が嫌いになったわけじゃない
むしろ好きなんだ
それでも別れを決めたのは
これ以上迷惑をかけたくないから
いつも切り出すのは私
付き合った時も別れる時も
それでも貴方は微笑みを浮かべて
私の答えを受け入れてくれた
貴方が愛しすぎるほどに好きでした
最後に身体を重ね合う
二人の心は震えていました
貴女と何かあったわけじゃない
むしろ平穏だった
突然別れを告げられて
僕は部屋に静かに佇んでいた
そして最後の夜が終わり
荷物を纏めて貴女は出ていく
突然のわりに心が落ち着きすぎて
僕は不思議な胸騒ぎを感じた
貴女が愛しすぎるほどに好きでした
最後に目を合わせた時
二人の心は濁っていました
大阪メトロにスーツケースを抱えて
ひとりの女が涙を隠しながら
佇んでいる光景は
側から見ると滑稽だっただろう
それでも���は消えるしかなかった
貴方を想って
立ち去ることしか頭になかった
ふたり分の歯ブラシに
ふたり分の食器
これから始まる暮らしを夢見て
揃えたモノたちを段ボールに片付けていく
最初は受け入れようとした運命も
時が経つほどに悲しみに染まり始めた
貴女を想って
受け入れることしかできなかった
あんなに愛し合った仲なのに
最後は呆気なく
別れ際に重ねた唇は
涙で微かに濡れていた
永訣を告げるキス
余韻が褪せないまま
携帯電話からの通知音
貴女からのさよならが聞こえる
愛しすぎるほどに好きだった人
一言でも言ってくれたら良かったのに
そんなに僕は頼りなかったですか?
5.死にたくなった夜は私が抱きしめるから
もう帰らないと決めた日
僕はフェンスを飛び越えた
遮蔽物のない摩天楼はあまりにも美しく
過去の僕がいかに濁っていたかを知る
この世界にやっとサヨナラが言えるんだ
不思議な高揚感が胸に宿る
叶えたかった夢も頑張りたかった未来も
今の僕にはどうだっていい
来世はほんの少しでも幸せになれと
後手で誰かにピースした
ふっと息を深く吸う
さあ、もう後悔はないぞ。
あなたの姿を見た時
これは「止めなきゃいけない」と感じた
あの儚さは今日という日を予言していたのか
屋上のドアを抉じ開けた
どうして何も言ってくれなかったんだ
怒りと哀しみが心を支配する
あんなに格好良くて優しかった人が
なぜ今自らの命を絶たなければならないのか
私は全力であなたを抱きしめた
嫌われたっていいの
まだ生きてほしい
たとえ、私のわがままだとしても。
その気配は君しかいない
君のぬくもりを感じた瞬間に悟った
僕は死ぬ勇気すらないのか
もはや摩天楼に身を投げようと思えなくなった
用意周到な計画のはずだったのに
過去の記憶が嵐のように脳裏に浮かぶ
いつだって僕は自分自身で決めてきたのに
こんな時に限って君に邪魔されなければいけないのか
それでも涙が止まらないのは何故だろう
まだ未練が残っているなんて信じたくはないんだ
強い力で抱きしめている君の腕を離す
はやく、僕を自由にさせてくれ。
あなたの腕が私の身体を離れていく
諦めという名の現世への未練を断ち切るように
私は生きる理由にすらなれなかったんだね
大地を離れた恋人の背中を追いかける
好きと伝えなかったのがいけなかったのかな
いまの私は後悔への処方箋を持ち合わせていない
いつかのあなたがこう言っていたことを思い出したんだ
「嫌われるよりも忘れられる方が怖い」って
私なんかが生まれるんじゃなかった
恋人すらも大切にできない人に生きる資格なんかないよ
遥か地上で鮮血に染まったアスファルト
あなたが死にたい夜は、私がどこへ行っても抱きしめるから。
6.片道切符のジャーニーマン
僕は旅に出ると決めた
もうこの家には戻らない
すべてを整理して旅を始めた
見慣れた街ともおさらばだ
しみったれた役人や腐った上司とも会わなくていい
こんなに楽な気持ちは久々である
普通電車に乗り込んだ
後先を考えずに行く旅は心地よく
周囲の景色が色づいて見えた
好きなひとに裏切られ
大切なひとは逃げていく
僕には何も残されていない
だから旅に出るんだ
風の調べに乗せて
明日を捜すための旅へ……
君を一生愛すると決めた
あの夜が未だに忘れられない
でも君はもうここにいない
親友だと思ってた奴に恋人を盗まれた
太陽すら投げ打ってでも守り抜くつもりだったのに
君は奴に容易く心を売り渡してしまった
次の分岐はサイコロで決めてしまおう
どこへ行ったって結末は同じ
僕に明るい未来などない
今日輝く太陽が君なら
昨日の月が僕だ
もう死んだも同然なのさ
だから旅に出るんだ
風の調べに乗せて
自由になるための旅へ……
好きに生きたかったよ
やりたいことをやりたかったよ
僕は僕を嫌いになり
君は君を好きになる
サヨナラを告げる前に
君を投げ捨ててしまえる勇気があったなら
好きなひとに裏切られ
大切なひとは逃げていく
僕には何も残されていない
だから旅に出るんだ
風の調べに乗せて
明日を捜すための旅へ……
死場所を捜すための旅は
生まれた頃から始まってた
優しさに塗り固められた嘘が
僕を静かに殺してく
掠れていく声に気も留めず
今日を決めつけて死んでいこう
7.冷たい微笑
心の中のマグマ
心に絡むドグマ
殺しながら
泣きじゃくる
ひとりが好きなのに
人肌が恋しくて
ふいに連絡したくなったのは
私から別れた元彼
電話に表示された名前
ボタンだけは押せず
真っ暗な部屋の真ん中で
静かに嗚咽する
SNSを開けば
私よりも悲惨な人がいる
そんな人を見るたびに
心が少し楽になった
そして嘲笑う
安酒を飲みながら
この哀しさは誰にもわからぬだろう
わかってほしいとも思わない
生きてるだけの私
死んでくだけの私
真っ赤なドレスは埃を被り
憂鬱に溺れる
病院には行けない
誰にも相談できない
頼れる人もいない
仕���もできない
何のために生きるのか
もはやわからない
朝日が登り
月が満ちて
微睡むうちに夜明けは来る
まだ立てるはずなのに
心が追いつかない
身体に巻きつく大蛇の幻想
眠ることさえも取り憑かれて
満足にできない
貴方にサヨナラさえ言えたなら
もう未練もなく逝けるのに
後悔に囚われたまま
動かなくなった時計のように固まる
誰のせいでもなく
私のせい
すべては私が決めたこと
いつか夢を見た残骸
何も残らない
誰かの声が聞こえるまで漂う
今日に怯えながら
この星に身を委ねて
8.ふたりと煙草
あんなに吸わないと決めていたのに
ゴロワーズを燻らせると
あの日に戻れる気がしてさ
つい止められなかったの
彼女が呟く
僕らには未来などなかった
少しずつ暖めてきたはずの関係
彼女が隣に連れていた男を見た時
すべてが壊れていく音がした
僕は“じゃない方”で
大学を卒業して
落ち着いた恋愛ができると信じていた
だけど……
そこにあったのは残酷な現実で
まさか彼女が浮気をしていたなんて
必死に否定すればするほど
僕の気持ちは離れていく
そんなことすらもわからずに訴える彼女
恋人とすら呼びたくなくて
あの夜を境に締め出してしまった
一年でいちばん雨が降った夜
僕は不安感を胸に眠っていた
最初は訴えるような叫び声が聞こえたけれど
次第に聞こえなくなったことに安堵した
彼女はどこかへ消えたんだと信じたかった
翌朝にゴミを捨てに行こうとした時
彼女は泥だらけで眠っていた
僕は他人のフリをしようとした
でも最後の最後でボロボロになった姿が哀しくて
つい家に上げてしまったんだ
あれから一年の月日が流れた
彼女は今も何も語らないまま
ベッドで一言を唱え続けている
あの日がすべてを変えてしまったんだと
後悔しても遅過ぎて
僕らには未来などなかった
少しずつ暖めてきたはずの関係
彼女が隣に連れていた男を見た時
すべてが壊れていく音がした
僕は“じゃない方”で
必死に否定すればするほど
僕の気持ちは離れていく
そんなことすらもわからずに訴える彼女
恋人とすら呼びたくなくて
あの夜を境に締め出してしまった
それでも彼女を愛していたんだ
あんな目に遭うべきじゃなかったんだ
夜の静寂に眠る彼女を見る度に
募り続ける罪悪感の波を
いつまでも背負い続けていく
抜け殻のようになった恋人
壊れてしまった関係
どこにも行き場を失った人生
カップラーメンとゴロワーズを肴に
僕たちは今日を生きている
裸足のままで
今日を死んでいこう
ふたりのままで
明日を死んでいこう
眠ったままで……
9.いとしのキャフェ
いとしのCaféで佇む男性は
かつて私の恋人でした
180cmを超える長身と細い体型は
Bespokeのスーツと靴が
あまりに馴染みすぎて
思わず恋に堕ちてしまったのです
遠くで見るとマカロンのよう
でも近づけばアイスキャンデー
そんな恋も今は良き思い出
いとしのCaféに通う女性は
かつて私の親友でした
結婚してから会わなくなったけれど
CHANELの鞄とワンピースが
あまりに似合いすぎて
今も勝手に憧れているのです
あなたは財閥育ちだという
本当は自由が欲しかったのよね
そんな日々も輝ける青春
いとしのCaféを営む紳士は
かつて私の父親でした
私には気付かないかもしれない
Comandanteのコーヒーミルを使う姿が
あまりに似合いすぎて
やっと幸せになれたのだと安堵しました
言葉を交わすわけでもないのに
繋がりあった気がする瞬間
そんな日々が穏やかな愛
わたしが生きる場所
金曜日午後三時
いつもの席で珈琲を飲む
10.ねえ、わたしを見て?
ねえ、わたしの目を見て?
お願いだから
最後くらい
わたしをちゃんと見てよ
出逢った頃からそう
心ここに在らずで
何処かをぼんやりと見つめてる
そんな貴方に惹かれてしまった
最初の夜から
最後の朝まで
聞いても言ってくれなかった
いつか友達から聞いた
忘れられない人がいること
恋人にすら話せないの?
ねえ、わたしの目を見て?
あなたに聞きたいの
本当に好きだったのか
わたしが恋人で良かったのか
もういなくなるよ?
二度と逢えないかもしれないよ?
それでも言わないの?
ドアを開けても彼は無言のまま
サヨナラすらも言わない
そっと彼の連絡先を削除した
ねえ、わたしの目を見て?
最後まで見てくれなかったよね
うつろな瞳で見つめるだけ
そんなに忘れられない人って誰なの
ねえ、わたしは悲しいよ?
碧空が皮肉だ
最期まで愛されなかった
何も本音で喋ってくれなかった
それなのに碧空は綺麗で
時々垣間見る本音を拾い集めたら
誰にも見えない流れ星のように美しい
そんな貴方に惹かれてしまった
いつかまた逢えるなら
ふたりで飲みに行こうよ
その時は本音で……
ねえ、一度くらいは目を見て?
11.サヨナラ世界
隣で眠る貴方を傍目に
麻縄を首に巻く
いつか来ると信じた日が
今日であることに慄き
そっと微笑む
素晴らしい日々だった
あなたと出逢って
愛おしい存在だった
あなたと暮らして
貴方にとって私は
どんな存在でしたか?
これから生まれ変わると伝えたら
きっと優しい言葉をかけてくれるし
抱きしめてくれるでしょう
でも私には不要です
私は幸せになっちゃいけないんです
幸せと感じちゃいけないんです
最高の日に逝かなきゃいけないんです
それが宿命だと信じて
今の幸せを閉じ込めると決めた日
すべてが完璧だと思っていたけれども
貴方の直感だけが誤算だった
そっと解かれる麻縄
肢体が吊り下げられていく
巻きつくのは全身に縄
身体にじっくりと染み込む感触
あの世へ歩いていけたらいいのに
何度も身体に焼きつく鞭の音
これこそが私の望んでいた世界なのだ
生きるとは切なさ
死ぬとは喜び
一度はそう信じた私にとって
麻縄由来の傷は勲章のようなもの
今日も私は舞台に立つ
12.人生でいちばん倖せな日(Encore)
今日は人生最高に倖せな日だ
明日のことをもう考えなくていい
すべて終わったのだから
かつて白鳥が空を飛んだ
人も空を飛ぶ夢を見た
もう当たり前になったけれども
最初は偉業として讃えられた
いつだって最初に孵化させた者が勝者���
二番目は歴史の裏紙に記された敗者に過ぎない
家族が困らないくらいの金は残した
妻も子供も健やかに生きられる
私は人生の目的を成し遂げた
もう朽ちるしかない
大人になること
老人に生まれ変わること
私はそれを受け入れたくはない
だから自らの手で終止符を打つと決めた
自分勝手と罵りたいなら罵ればいい
蔑みたければ蔑めばいい
もう私が知ることはないし
そんなことを言われる謂れもない
新しい世界には響きすらしないだろう
倖せとは
喜びとは
生きるとは
死ぬとは
考えることが仕事だった私も
今日くらいは考えることをやめようと思う
遺された君たちも
どうか考え過ぎないでほしい
明日が来ないことへの歓喜を
そっと噛み締めてから溶けゆく小石(私という存在)
詩集『わたし専科』クレジット
プロデューサー / 作:坂岡 優
コ・プロデューサー:Sakura Ogawa
原案:Sakura Ogawa(No.2,3,4,5,7,11)
共同執筆:星雲凛(No.1.8.12)
デザイン・編集:坂岡 優
制作スタジオ:Yuu Sakaoka Studio
Very very very thanks to my friend, my family, and all my fan!!
2023.8.31
坂岡 優
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