ドクターヘリとマルチツール。災害と備え。|ビクトリノックス × 日本医科大学千葉北総病院
ビクトリノックス ジャパン株式会社は、2011年3月よりCSR活動として、重傷救急患者の救命活動に大きな役割を果たし、救命率向上に貢献している日本医科大学千葉北総病院 救命救急センターのドクターヘリ事業(救急医療用ヘリコプター)を支援しています。
今回、実際にドクターヘリに搭乗し救急医療の現場で活躍されている救命救急センター 助教 安松 比呂志 医師に、ドクターヘリの取り組みについて、そして、災害時におけるマルチツールの役割についてお話を伺いました。(2024.2.19インタビュー)
リンク:日常・防災・災害時に。 「もしも」に備えるマルチツール
年間1,800回出動!? ドクターヘリの取り組みとは?
まずは、ドクターヘリについて詳しく教えてください。
ドクターヘリは、救急現場へ医師をいち早く送り込み早期に患者の初期治療を行い、そして、患者を迅速に病院へ搬送するツールです。
現在、国内では46都道府県に56機が導入されており、千葉県は北部の北総ドクターヘリと南部の君津ドクターヘリがそれぞれ2機のヘリコプターを所有し、千葉県と茨城県南部を対象として日々医療活動を行っています。
救急現場において、ドクターヘリが要請されるタイミングは大きく2つあります。
現場から要請:119番通報を受けて現場へ到着した救急隊が、実際に患者の状況を確認し、重症、そして緊急度が高い場合にドクターヘリが要請されます。その場合、救急隊から北総病院へ直接連絡がきて現場へ急行します。
覚知要請:消防の指令センターで119番通報を受けた段階で、指令センターがドクターヘリを要請します。「胸痛」「麻痺」「意識障害」「交通事故」など、重症および緊急性が非常に高い状況である可能性を示唆するキーワードをピックアップし、ドクターヘリが必要か否かを判断します。
出動頻度はどの程度ありますか?
1年間で約1,800件程度の要請があり、そのうち実際に出動するのは1200件、1日平均3 ~ 4回出動しています。要請の半分以上は覚知要請です。
実際は現場に到着した救急隊が状況を確認し、3割程度が、軽傷や意識が回復したこと等の理由で要請がキャンセルとなっています。
キャンセルが多いような印象を受けます。
我々は、少しでも重症度、緊急性が高いと疑った段階でためらわずに要請をする(オーバートリアージを許容)ように消防と連携しています。
現場で、実際に状況を確認してからの要請だけの場合だと、本当に重症かつ緊急性の高い患者への治療(接触)が遅れてしまう可能性がでてきます。本当に必要な時には必ずドクターヘリで向かっている状況にするため、少しでも重症の可能性があれば、ドクターヘリを要請するような環境を整えています。
そのため、3割程度がキャンセルとなっているのです。もちろん、要請の精度を高めるために、キャンセルとなるキーワードを精細する等、日々改善を図っています。
救急現場におけるドクターヘリの重要性。
ドクターヘリの最大の特徴は何ですか?
ドクターヘリに対して、「患者を病院へ早く移送する」という印象をお持ちの方も多いかと思いますが、医療者を現場にいち早く運ぶこと(ドクターデリバリー)が、ドクターヘリの最大の目的です。
北総病院の医療圏は、最大で車で1時間程度かかる距離があります。患者の受け入れ要請を受けて、最大で1時間程度、患者の到着を待たなければいけないわけです。ドクターヘリがあることで、これまで医師が病院で患者の到着を待っていたところを、ドクターを現場に搬送することで、現場でいち早く処置を開始できるようになります。これがドクターヘリの最大の特徴です。
ドクターヘリだからこそ救えた命も多いですか?
はい。
まず、北総病院は、重症のケガを負った患者(外傷患者)の搬送が多い医療機関です。外傷患者は大量出血の場合が多く、その場合、「いかに早く手術を開始できるか」が非常に重要となります。
ドクターヘリがあることで、医師が現場で患者の状態を正確に判断することができ、細かな事前情報を把握することができます。そうすれば、病院では患者の到着後すぐに処置(手術)を開始できるよう、準備することが可能となります。事前情報の有無が、処置の開始スピードに大きな影響を与えるのです。 事前情報をいち早く共有できることもドクターヘリにとっての大きな意義です。
また、北総病院では救急外来でも手術ができる環境を整えており、実際に患者が到着してから、最短10分以内には手術を開始できる状況を整えています。もちろん、患者の状況によってその限りではありませんが、今すぐにでも手術をしないと間に合わない場合に、最速で手術ができる環境が整っているのは強みです。
私自身も、ドクターヘリで急行し、現場で緊急処置を施して病院へ搬送したこともあれば、病院で待ち構えていて、ドクターヘリ到着後すぐに手術を行ったこともあります。ドクターヘリがあったからこそ救えた命です。
リンク:日常・防災・災害時に。 「もしも」に備えるマルチツール
災害時におけるマルチツールの活用と、「もしも」の備え。
ビクトリノックスは、ドクターヘリのロゴをプリントしたマルチツール「ドクターヘリ支援モデル」を製造し販売しています。また、マルチツールをはじめ、救急現場での道具の運搬時に活用いただけるバッグを提供し、活動を支援しています。
マルチツール ドクターヘリ支援モデル ※左から
ハントマン 価格:6,050円(税込)
ミッドナイトマネージャー 価格:6,050円(税込)
現在、お使いいただいているマルチツールは、災害時や救急現場では必要だと思いますか?
マルチツールは必要だと思います。私は、2024年1月に発生した能登半島地震の災害支援に行き、石川県災害本部にてドクターヘリでの搬送調整業務を行いました。そこで聞いた現地活動隊の話は、お風呂がない、トイレも困難など、通常の生活とはかけ離���た、とても過酷な環境だったと聞きました。
実際に被災された方の状況を考えると、やはり逃げることが精いっぱいだったと思います。いかなるものですら持ち出すのは難しかったかもしれません。
そんな危機的な状況でも、マルチツールは簡単に持ち運ぶことができますし、“もしもマルチツールを持ちだすことができれば”、避難所でもやれることが各段に増えるのではないかと思います。
災害発生時に、パッとカバンひとつで持ち出すことができる準備を整えておく、さらにその中にマルチツールがひとつ入っているだけで「備え」として非常に安心できます。
最近は、ビニール袋で子供のおむつを作る等、災害時の様々なアイデアや対策が取り上げられていますが、それらを実際に実現するために必要な道具として、切ったり、穴を開けたり、ライトで照らす、缶を開ける等、色々なことをこのマルチツールひとつでできるのは、とてもすごいです。
自然災害の多い日本で、いつ起こるか分からない災害に対する備えはどうすればよいと思いますか?
私が上司から常に言われていることは、「想定外を想定する」ことです。地震など、いつ起こるか分からない災害、可能性が低いことでも想定し備えておくことが大切だと思います。
大人になると避難訓練などをする機会はなかなか無いですが、会社でも家庭でも、災害時を想定し、避難経路を確認しておく、災害グッズを備えておく等、緊急事態に備えておくことで、“その時”に正確な判断ができると思います。
災害現場でマルチツールを使うためには、当たり前ですが“持っていること”が前提となります。
マルチツール、防災アイテムを持ちだすためにも、日頃から事前に準備をしておき、災害・緊急時にちゃんと持ち出すことができれば、様々な場面で活用することができ、とても心強いと思います。
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ドクターヘリの更なる活躍のために。
ドクターヘリの課題はありますか?
まず、ヘリ設備の問題で夜間や悪天候では飛べないという、活動範囲が限られている現状があります。また、着陸現場の消防の安全確認等、着陸時の制約が厳しいところも、乗り越えなければいけない壁です。
現在は46都道府県で56機が配備されていますが、日本のすべての範囲をカバーできるわけではありません。さらにドクターヘリを増やす必要があるか検討も必要ですが、ドクターヘリを飛ばすパイロット不足の問題や、地域によっては救急医も足りない現状もありますので、ドクターヘリに従事する人材の確保も大きな課題だと思います。
安松先生は今後どのような形で医療に貢献していきたいですか?
ドクターヘリ業務では、現在は指導する立場となり、搭乗するのも月に数回程度です。これからは、ドクターヘリがもっと社会に貢献できるよう、若い医師や看護師をしっかりと育てていきたいと考えています。
また、私自身は外傷外科医としてさらなる研鑽を積みがなら後進を育てていきたいと考えます。
貴重なお話ありがとうございました。
日本医科大学千葉北総病院
救命救急センター 助教 安松 比呂志 医師
2005年3月金沢大学医学部を卒業。金沢市内の病院で初期研修を経て、外科の修練を積む。外科修練期間中に救急や集中治療の勉強の必要性を痛感し、救急の世界に飛び込む決断をする。
2011年4月より日本医科大学千葉北総病院救命救急センターに入職しドクターヘリと外傷外科医の修練を開始。現在は外傷外科医として研鑽を積みながらドクターヘリ、外傷手術ともに若手の指導も行っている。ドクターヘリ搭乗回数1200回。
日本医科大学千葉北総病院
日本医科大学千葉北総病院は、1994年に日本医科大学4病院の中で最も若い新進気鋭の大学病院として開設されました。
千葉県印旛医療圏の「地域中核大学病院機能」を基盤に、わが国随一の歴史と実績を誇るドクターヘリを最大活用した「救命救急」、「脳卒中救急」、「循環器救急」などの「高度急性期医療」を展開しております。2001年に全国に先駆けて「ドクターヘリ医療」を導入し、爾来年間1200例以上の患者を搬送・治療しております。
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